【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために成された本発明の請求項1に係る発明は、既設構造物の構造部材に生じた亀裂を溶接により溶融させて消去する補修用レーザ溶接装置であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を集光して前記亀裂が生じている補修箇所に照射するレーザヘッドと、前記レーザヘッドを前記補修箇所に沿って移動させる駆動部と、溶接速度,レーザ出力及びスポット径をコントロールする制御部と、溶接施工後の好ましい断面形状における溶け込み深さを前記構造部材の厚みで除して表される形状指標を有するデータベースを備え、前記データベースには、前記形状指標に基づいて良好と判定される場合の補修条件である下向き姿勢や横向き姿勢等の溶接の姿勢,前記構造部材の厚み及び前記構造部材の材質と、この補修条件に対応する溶接施工条件としての溶接速度,レーザ出力,スポット径及びシールドガスの影響がデータとして蓄積され、前記データベースは、前記構造部材に生じている亀裂を補修するにあたって前記補修条件が入力されることで、該データベースに蓄積した前記溶接施工条件の中から、入力された前記補修条件に対応する最適な溶接施工条件としての溶接速度,レーザ出力及びスポット径を前記シールドガスの影響を加味したうえで選定して前記制御部に出力する構成としたことを特徴としており、この構成の補修用レーザ溶接装置を前述の課題を解決するための手段としている。
【0008】
ここで、溶接施工後の好ましい断面形状における溶け込み深さH
WLを構造部材の厚みtで除して表される形状指標H
WL/tは、1.0となることが最も望ましいが、
図2(a)に示すような亀裂残りの要因となる溶け込み不足を回避するためには、
図2(b)に示すように、形状指標H
WL/tを1.0以上に設定することが望ましく、溶け落ちのことを考慮して、形状指標H
WL/tを1.1程度とすることが望ましい。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る補修用レーザ溶接装置において、前記データベースは、前記補修箇所への入熱量をQ、レーザスポット面積をA、スポット径をφ、構造部材の厚みをtとした場合、適正な溶接施工条件としての溶接速度,レーザ出力及びスポット径を推定する回帰式Q/A=f(φ/t)を有している構成としている。この際、スポット径φは、亀裂の幅よりも大きく設定することが望ましい。
【0010】
さらに、溶接施工条件によっては、補修箇所の吸収エネルギ(シャルピー衝撃試験における試験片の破壊に要するエネルギ)が低下して、すなわち、補修箇所のじん性が低下して、要求値を満たせない場合がある。
【0011】
そこで、補修箇所への入熱量が低下すると吸収エネルギが上昇する関係に基づいて、補修箇所の冷却速度が適正となるように溶接施工条件を決定する。具体的には、補修箇所に入熱制限を与えるべく、溶接速度,レーザ出力及びスポット径を決定することが望ましく、本発明の請求項3に係る補修用レーザ溶接装置において、前記データベースは、前記構造部材に生じている亀裂を補修するにあたって前記補修条件である溶接の姿勢,前記構造部材の厚み及び前記構造部材の材質に加えて施工後のじん性が入力されることで、該データベースに蓄積した前記溶接施工条件の中から、入力された前記補修条件の施工後のじん性改善に対応する最適な溶接施工条件として、前記補修箇所に入熱制限を与えるべく、溶接速度,レーザ出力及びスポット径を前記シールドガス及び冷却条件(自然冷却(大気に晒す冷却)や強制冷却(風や水等の流体を当てる冷却))の各影響を加味したうえで選定して前記制御部に出力する構成としている。
【0012】
さらにまた、本発明の請求項4に係る補修用レーザ溶接装置において、前記データベースには、溶接施工後の施工結果がフィードバックされてデータとして蓄積される構成としている。
【0013】
さらにまた、本発明の請求項5に係る補修用レーザ溶接装置は、前記補修箇所に減肉による凹み部がある場合において、前記凹み部に肉盛を行う肉盛手段を備えている構成としており、肉盛手段としては、ホットワイヤ溶接やアーク溶接を採用することができる。
【0014】
本発明に係る補修用レーザ溶接装置において、レーザ発振器には、YAGレーザや半導体レーザの各発振器を用いるのが一般的であるが、これらのものに限定されない。
【0015】
本発明に係る補修用レーザ溶接装置では、構造部材に生じている亀裂を補修するに際して、制御部に対して補修条件である溶接の姿勢(下向き溶接姿勢),構造部材の厚み及び構造部材の材質を入力すると、この入力した補修条件に対応する最適な溶接施工条件が、データベースに蓄積されている溶接施工条件の中から選りすぐられて、シールドガスの影響も加味されて制御部に出力される。
【0016】
そして、最適な溶接施工条件の溶接速度,レーザ出力及びスポット径を満たすべく、駆動部,レーザ発振器及びレーザヘッドが制御部によりコントロールされてそれぞれ作動するので、亀裂残りや溶け落ちのない溶接補修が簡単に成されることとなる。
【0017】
また、本発明の請求項2に係る補修用レーザ溶接装置では、補修箇所への入熱量をQ、レーザスポット面積をA、スポット径をφ、構造部材の厚みをtとした場合において、溶接施工条件としての溶接速度,レーザ出力及びスポット径を推定(補間)する回帰式Q/A=f(φ/t)をデータベースが有しているので、より一層適正な溶接施工条件が提供されることとなる。
【0018】
具体的には、
図4に示すように、補修箇所への入熱量Q(J/mm)は、レーザ出力P(J/s)を溶接速度V(mm/s)で除して表すことができるので、
図3に示す回帰式(回帰曲線)Q/A=f(φ/t)に基づいて、レーザ出力P及びスポット径φが決まれば、適正な溶接速度Vが求められることとなる。
【0019】
さらに、本発明の請求項3に係る補修用レーザ溶接装置では、構造部材に生じている亀裂を補修するに際して、制御部に対して補修条件である溶接の姿勢(下向き溶接姿勢),構造部材の厚み及び構造部材の材質に加えて施工後のじん性を入力すると、この入力した補修条件の施工後のじん性改善に対応する最適な溶接施工条件が、データベースに蓄積されている溶接施工条件の中から選りすぐられて、シールドガスの影響及び自然冷却や強制冷却等の冷却条件の影響も加味されて制御部に出力される。
【0020】
そして、施工後のじん性改善にも対応する最適な溶接施工条件として、補修箇所に入熱制限を与え得る溶接速度,レーザ出力及びスポット径を満たすように駆動部,レーザ発振器及びレーザヘッドが制御部によりコントロールされてそれぞれ作動するので、施工後の金属組織はじん性が良好な金属組織に改善されることとなる。
【0021】
さらにまた、本発明の請求項4に係る補修用レーザ溶接装置では、溶接施工後の施工結果をデータベースにフィードバックしてデータとして蓄積するようにしているので、より精度の向上した溶接施工条件を提供し得ることとなる。
【0022】
上記溶接施工後の施工の良否判定には、上記したように、溶接施工後の好ましい断面形状における溶け込み深さH
WLを構造部材の厚みtで除して表される形状指標が用いられるが、溶接施工後の補修箇所に必要な疲労強度から決定される補修箇所の裏側における溶接ビードの形状や幅等に基づいて形状指標を管理することができる。
【0023】
ここで、施工後のじん性改善に係る上記溶接施工の妥当性は、吸収エネルギと硬さとの間に相関関係があることを用いて、補修箇所のビッカース硬さを計測することで評価することができる、すなわち、硬さを指標とした施工管理を行い得ることとなる。
【0024】
さらにまた、本発明の請求項5に係る補修用レーザ溶接装置では、肉盛を行う肉盛手段を備えているので、補修箇所に凹み部が存在する場合の亀裂補修にも対応し得ることとなる。