(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196704
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】神経因性疾病の治療のための医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/195 20060101AFI20170904BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20170904BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20170904BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20170904BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
A61K31/195
A61K31/197
A61P25/02
A61P17/04
A61K9/08
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-84901(P2016-84901)
(22)【出願日】2016年4月21日
(62)【分割の表示】特願2014-557316(P2014-557316)の分割
【原出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-166231(P2016-166231A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2016年9月5日
(31)【優先権主張番号】61/754,149
(32)【優先日】2013年1月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504094279
【氏名又は名称】有限会社ケムフィズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】首藤 紘一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 清
【審査官】
中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/036937(WO,A1)
【文献】
特表2006−511604(JP,A)
【文献】
中原保裕,"新薬の光と影 第42回 1)レグナイト錠300mg[レストレッグス症候群治療薬] 2)コルベット錠25mg[関節リウマチ治療薬]",Nurs. Today,日本,2012年11月15日,Vol.27,No.6,p.59-63,ISSN 0921-2974
【文献】
SOMMER, M et al.,"Pregabalin in restress legs syndrome with and without neuropathic pain",Acta Neurol. Scand.,2007年 5月,Vol.115,No.5,p.347-350,ISSN 1600-0404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/195
A61K 9/08
A61K 31/197
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経因性疾患の局所症状を治療するために外用剤として適用する医薬であって、上記治療のための有効成分としてガバペンチン又はプレガバリンのみと増粘剤とを水溶液の形態で含み、ガバペンチン又はプレガバリンの経皮吸収を促進するための成分を含有しない医薬。
【請求項2】
局所症状が疼痛又は掻痒感である請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
神経因性疾患が神経因性疼痛である請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
局所症状がむずむず病である請求項1に記載の医薬。
【請求項5】
虫刺されによる急性局所アレルギー症状の掻痒感を治療するために外用剤として適用する医薬であって、上記治療のための有効成分としてガバペンチン又はプレガバリンのみと増粘剤とを水溶液の形態で含み、ガバペンチン又はプレガバリンの経皮吸収を促進するための成分を含有しない医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は神経因性疼痛などの神経因性疾患の治療のための外用剤として皮膚に適用する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
神経因性疼痛は末梢性と中枢性の痛覚からなる(米国特許第 6211171号)。種々の末梢神経や、神経根、脊髄や脳の一部の障害や、ヘルペス(herpes zoster)のようなウイルスの感染、制癌剤の使用など様々な要因によって、異痛症(allodynia)、神経過敏性疼痛(hyperalgesia)や慢性の疼痛(prolonged response duration)のような種々の神経因性疼痛が引き起こされる。リウマチや痛風のような炎症も強い痛みを伴うことが多い。糖尿病性疼痛、帯状疱疹後疼痛、線維筋痛症、むずむず病(restless legs syndromes)も神経因性疾患と考えられる。また、痒みも痛みと非常に類似しているところがある。これらの神経因性の疾患は治療に困難をきたすことが多い。
【0003】
ガンマーアミノ酪酸(GABA)の誘導体とみなすことができるガバペンチンやプレガバリンは中枢に作用する抗癲癇薬として用いられるが、上記の神経因性疾患における疼痛や不快感の治療にも用いられる(WO 98/03167)。これらの薬物の作用機序は十分に解明されていないが、voltage-dependent-calcium channelのα2δサブユニットに結合することによって薬効が発現するとされる(ただし、脳内のgaba受容体には作用しないとされている)。
【0004】
通常、これらの薬剤は経口剤として使用されているが、いずれも疼痛の治療に用いるときには経口投与により一日量として200 mgから2,400 mg(ガバペンチン)、150mgから600mg〈プレガバリン〉投与されており、さらに高い用量が投与されることもある。これらの薬剤は、上記のような高用量の場合はもとより、常用量においても中枢性の副作用、例えば傾眠やめまいを高い頻度で引き起こすことから、このような副作用が疼痛の治療に際して最大の欠点となる。
【0005】
これらの疾患に伴う痛みの治療には、経口投与などの全身投与による治療のほかに、局所への投与によって痛みの伝達を抑制する方法も考えられる。疼痛は全身が均等に痛みを起こすわけでなく、局所に強い痛みを伴うことも多い。従って、局所への投与によって鎮痛効果が発揮できる場合には、投与量を低減するなどにより副作用を軽減した治療が可能になる。例えば、三環性の抗鬱薬による疼痛の治療に局所投与が有効であり(米国特許第 6211171号)、リドカインに代表される局所麻酔剤が局所の疼痛に有効である。また、非ステロイド系抗炎症剤の局所投与は炎症を抑えて痛みを和らげる。これらの局所麻酔剤などの局所投与についてはHind Harry(EP 0388306)、Gammaitoni et al.(J. Clin. Pharmaco., 2003, 43(2), pp.111-117)などの報告がある。
【0006】
プレガバリンやガバペンチンを疼痛部位に外用剤として局所投与して鎮痛作用を発揮させることができるかもしれない。しかしながら、プレガバリンやガバペンチンに有効に鎮痛作用を発揮させるためには、少なくとも一定量の吸収が必要となるはずである。この目的で種々の工夫がなされた経皮吸収システムを利用しても一日の投与には限度がある。一方、高い血中濃度まで吸収を高めると、経口投与の場合と同じような副作用が発現する。なお、ガバペンチンやプレガバリンは高い水溶性を有するが、一般的には水溶性の薬剤は経皮吸収が低く、外用の適用に向かないとされている。
【0007】
ガバペンチンの神経因性疼痛の治療への応用に関して、Carltonらは動物モデルにおいてガバペンチンの皮下投与が痛みの抑制に有効であり、末梢において効果を有すると報告している(Pain, 1998, 76, pp.201-207)。これらの薬剤を他の薬剤と組み合わせて鎮痛目的で外用により適用する方法が提案されている(EP1940352)。この投与形態ではヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有することを特徴とする水性の製剤として多岐にわたる医薬化合物が列挙されており、数多くの医薬化合物の中にガバペンチンやプレガバリンが単なる例として挙げられている。
【0008】
セチル化(cetyl)脂肪酸エステルを経皮吸収促進剤に用いた例がある(US2011/0065627)。製剤的に工夫された例として、プレガバリン(およびプレガバリンとジクロフェナックとの組み合わせ)の製剤(International Journal of Pharmaceutical Compounding, 2003, 7, pp.180-183)によりラットの神経因性顔面神経痛(neuropathic orofacial pain)の痛みを抑制したとの報告があるが、血中濃度を高めるために投与場所を髭付け根(infraoebital nerve territory in the vibrissae area)としている(Oral Medicine, 2012, 114, pp.449-456)。米国特許第6572880号(Murdock)には、プロピレングリコールと大豆レシチンの存在下で製造した製剤の投与をLuer Locシリンジにより投与して外傷による痙攣性の四肢麻痺を一週間にわたり軽快させたことが開示されている。国際公開WO 2008/067991には、アミン化合物がアクリル酸ポリマーとコンプレックスをつくり、一般的にその薬物の吸収性が高まることが開示されており、ガバペンチンが例として記載されている。Cundyらは経皮吸収システムを工夫して、ガバペンチンやプレガバリンのプロドラッグの外用剤を開発している(国際公開WO 2005/089872)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第 6211171号
【特許文献2】国際公開WO 98/03167
【特許文献3】欧州特許第0388306号
【特許文献4】米国特許公開2011/0065627号
【特許文献5】米国特許第6572880号
【特許文献6】国際公開WO2008/067991
【特許文献7】国際公開WO2005/089872
【特許文献8】欧州特許第1940352号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Clin. Pharmaco., 2003, 43(2), pp.111-117
【非特許文献2】Pain, 1998, 76, pp.201-207
【非特許文献3】International Journal of Pharmaceutical Compounding, 2003, 7, pp.180-183
【非特許文献4】Oral Medicine. 2012, 114, pp.449-456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、神経因性疼痛などの神経因性疾患による疼痛や掻痒感などの不快感を投与経路を外用として治療ないし低減させる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ガバペンチン又はプレガバリンを水溶液の形態とし、特に経皮吸収性を高めるための手段を一切採用することなく、外用剤として適用することにより、驚くべきことに、神経因性疼痛などの神経因性疾患による局所の痛みや掻痒感などの不快感を劇的に軽減することができることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明により、神経因性疾患の局所症状を治療するために外用剤として適用する医薬であって、ガバペンチン又はプレガバリンを水溶液の形態で含む医薬が提供される。本発明の医薬は、ガバペンチン又はプレガバリンの経皮吸収を促進するための成分を含有しない水溶液の形態の医薬である。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、局所症状が疼痛又は掻痒感である上記の医薬、神経因性疾患が神経因性疼痛である上記の医薬が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、水と混和可能な有機溶媒、例えばエタノールなどを含んでもよい。
【0015】
別の観点からは、本発明により、神経因性疾患の局所症状を治療するために外用剤として適用する水溶液の形態の医薬の製造のためのガバペンチン又はプレガバリンの使用が提供される。
【0016】
さらに別の観点からは、本発明により、神経因性疾患の局所症状を治療する方法であって、水溶液の形態のガバペンチン又はプレガバリンを外用剤として局所に適用する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、驚くべきことに、最も単純な形態であるガバペンチン又はプレガバリンの水溶液により、神経因性疼痛などの神経因性疾患による局所の痛みや掻痒感などの不快感を劇的に軽減することができる。本発明によれば、ガバペンチン又はプレガバリンの経皮吸収を促進するための成分を一切利用することなく、単にガバペンチン又はプレガバリンの水溶液を局所に塗布することにより、極めて高い局所作用を達成することができる。また、経口投与の場合に比べて投与量を約1/10程度に減少させることができるので、副作用の発現を回避し、経済的な面からも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】神経障害性疼痛マウスにプレガバリン(2.5 mg/ml)の水溶液を塗布して鎮痛効果を測定した結果を示した図である。*は蒸留水塗布群に対して有意差があることを示す。
【
図2】神経障害性疼痛マウスにプレガバリン(7.5 mg/ml)の水溶液を塗布して鎮痛効果を測定した結果を示した図である。*は蒸留水塗布群に対して有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の医薬はガバペンチン又はプレガバリンを有効成分として含む外用として皮膚に適用するための水溶液の形態の医薬であって、ガバペンチン又はプレガバリンの経皮吸収を促進するための成分を含有しないことを特徴としている。
【0020】
ガバペンチン又はプレガバリンの水溶液の濃度としては、例えば1 mg/ml〜50 mg/ml程度の濃度を例示することができる。水としては、純水、精製水、イオン交換水、水道水、蒸留水などを用いることができ、水道水などを用いる場合には少量の塩素や金属イオン(カルシムイオンやマグネシウムイオンなど)などが含まれていてもよい。
【0021】
ガバペンチン又はプレガバリンの水溶液のpHは特に限定されないが、例えばpHは 5.5〜8.5程度、好ましくは5.5〜7.3程度とすることができる。水溶液のpHは必要に応じて薬理学的に許容される緩衝液やα-アミノ酸又はその塩などを用いて調節することができるが、pHを調節する手段はこれらに限定されることはない。
【0022】
ガバペンチン又はプレガバリンの水溶液には、必要に応じて、例えば、ソルビン酸ナトリウムやエチルパラベンなどの抗菌・抗かび剤、香料、着色剤、抗酸化剤などの安定剤などの添加物のほか、水溶液の取り扱いを容易にするために天然あるいは合成の粘性増強剤、例えば、少量のヒアルロン酸ナトリウムやカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン−コポリマー、あるいは水溶性アクリル酸系ポリマー又は水溶性メタアクリル酸−マレイン酸のコポリマーのナトリウム塩などを添加することができる。増粘剤は粘度を高くするために使用されるが、増粘剤を含む場合は本発明の水溶液の好ましい形態の一つである。また、水溶液や適度な粘着強度を有する水溶液を不織布などの支持体上に塗布して、ポリエチレンフィルムなどのライナーで表面を被う形態などで提供されてもよい。これらの場合にも吸収促進剤は不必要である。本発明の水溶液を用いた具体的な剤形としては、水溶液、スプレー、ミスト、泡、湿布、乳液、ローション、パッチ、シロップ、又はうがい薬などの形態がある。
【0023】
ガバペンチン又はプレガバリンの水溶液には、必要に応じてエタノールやイソプロパノール、エチレングリコールなどの水と混和可能な有機溶媒を添加することができる。水と混和可能な有機溶媒としてはエタノールが好ましい。該有機溶媒の含有量は特に限定されないが、例えば溶液の全容量に対して50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0024】
ガバペンチン又はプレガバリンの水溶液をあらかじめ調製し、無菌的に容器に充填して保存及び流通を経て臨床使用することができるが、固体状のガバペンチン又はプレガバリンを用時に、好ましくは皮膚への提供の直前に水に溶解して使用することもできる。後者の態様によれば細菌などの汚染を避けることができるので、一般的には抗菌・効かび剤などを水溶液に配合する必要もないので好ましい。水溶液中ではガバペンチン又はプレガバリンが完全に溶解していることが好ましいが、一部が不溶のまま残存して懸濁状態となっていても差しつかえない。このような態様も本明細書における「水溶液」に包含される。また、ガバペンチン又はプレガバリンと、水溶液を調製するための溶解用水媒体とをキットとして組み合わせた医薬として提供することも可能である。
【0025】
本発明の医薬の適用対象である神経因性疾患としては、例えば神経因性疼痛を例示することができるが、糖尿病性疼痛、帯状疱疹後疼痛、線維筋痛症などに適用することもできる。適用対象は疼痛に限定されることはなく、種々の末梢性あるいは中枢性の神経障害性疼痛として有痛性糖尿病ニューロパチー、複合性局所疼痛症候群、化学療法による神経障害、癌性疼痛、HIV感覚神経障害、HIV脊髄症、幻肢痛、三叉神経痛、坐骨神経痛、口腔顔面痛、急性または慢性炎症性の脱髄性多発神経根症、アルコール性神経障害、手根管症候群、指関節痛、ばね指、医原性神経障害、腫瘍による神経圧迫または浸潤による神経障害、放射線照射後神経障害、中毒性末梢神経障害、外傷性末梢神経損傷後疼痛、舌咽神経痛、自己免疫性神経障害、急性又は慢性又は難治性の筋・筋膜疼痛、脳卒中後疼痛、外傷性脊髄損傷後疼痛、多発性硬化症やパーキンソン病に伴う痛み、脊柱管狭窄やヘルニア痛やいわゆる腰痛、頚椎症や靭帯骨化症に起因する痛み、口内炎、肩周囲関節炎、関節リウマチや変形性関節症の痛み、侵害受容器性の疼痛、切り傷、擦り傷、骨折痛、打撲、透析の際の透析針の挿入による痛みや透析に起因する痒み、老人性あるいは神経性掻痒症、頭皮の痒み、アトピー性皮膚炎、むずむず病(restless legs syndromes)、手足のしびれ、抜歯後の疼痛、術後の疼痛、あるいは術前投与による疼痛予防などに用いることができる。さらに、虫刺されなどによる急性局所アレルギー症状の掻痒感を軽減するためにも使用することができる。
【0026】
本発明の医薬の使用態様は特に限定されないが、通常はガバペンチン又はプレガバリンの水溶液を神経因性疾患の患部皮膚に直接塗布し、その後に自然乾燥させればよい。塗布後、水分はまもなく蒸発し、有効成分であるガバペンチン又はプレガバリンが皮膚の表面に残存する。水分が蒸発した後には、ミクロな結晶又は非晶質状態の固体又はフィルム状物として、あるいは蒸発せずに残存した水分を含む湿状態の固体などの形態で、皮膚表面にプレガバリン又はガバペンチンが接触して保持される。水溶液の塗布量は特に限定されないが、例えば0.1〜3 ml/100 cm
2程度とすることができ、平方センチメートルあたりの有効成分量を1μg〜1,000μgとすることができる。水溶液を塗布して乾燥させた後に、塗布を再度繰り返すことにより、特定の部位への投与量を増加させることもでき、例えば線維筋痛症の特定痛点などの特定部位への高濃度の適用も可能になる。増粘剤が添加されているときには湿潤性が保たれる。また、増粘剤の量を増した薬物含量を高くした場合には効果も持続する場合がある。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されることはない。
例1
75 mgのプレガバリンを蒸留水3 mlに溶解した。この水溶液を頸椎症に起因すると診断される右腕(特に上腕部)の神経因性疼痛の患部である右腕上腕部を中心に塗布して乾燥させた。3 mlの水溶液で片腕全体(約500 cm
2)に適用することができた。痛みの程度はグレード7(10点スケール)(睡眠の大きな障害)であった。痛みは30分程度で大きく軽快し(グレード3〜4)、鎮痛作用は6時間以上継続し、十分な睡眠が可能になった。
【0028】
例2
両肢ふくらはぎとした下肢に圧痛を感じ歩行に大きな支障のある痛みを訴える患者(73歳男性)の、より痛みの強い片足に例1の水溶液を1 mlを塗布した。およそ30分後に軽快感があり、12時間後には明らかに痛みは抑えられていた。3日間継続すると痛みは大幅に減衰し、投与していない下肢に比べて著しい効果が明確であった。4日目には未投与の肢に同じように投与を開始した。3日目で先に投与した肢と同じように痛みは軽快した。投与後のリバウンドはなかった。
【0029】
例3
第5腰椎の椎間板ヘルニアと診断された腰痛患者(64歳女性)での試験例:
腰の激痛で歩けなくなり、同時に肢の指先から付け根辺りまでしびれる患者にプレガバリンを投与した。
1月8日:神経ブロックしたが痛みはかわらない。
1月15日:プレガバリン(リリカ)、セレコックス、ガスターを処方される。リリカ(経口)は激しい眩暈と吐き気のため、自己判断で2日間で服用を停止。激痛としびれは2月上旬までつづく。
2月28日:プレガバリンの外用(例1の水溶液にヒアルロン酸0.1%を加えたものを一日2回痛みの部位〈腰、太もも、及び足のうしろ〉に2 mlずつ塗布した。3日目を過ぎて塗布後30分〜1時間ぐらいから全く痛みがなくなった。ただ、朝に塗布すると昼過ぎには痛みを感じる状態が約1ヶ月続いた。
4月22日:痛みが気にならなくなる時間が長くなり、通常の生活を送っている場合には、夕方頃から痛み出すが、激痛にはならなかった。痺れは続いた。
5月27日:外用を終了した。この間、ふらふらすることや皮膚が赤くなることはなかった。
【0030】
例4
例1において用いた蒸留水の代わりに食塩の等張液を用いて水溶液を調製した。
例5
例1において用いた蒸留水の代わりに蒸留水とエタノールの混合物(容量比9:1)を用いて水溶液を調製した。
例6
例1において用いたプレガバリンに代えてガバペンチン75 mgを用いて同様に水溶液を調製した。
【0031】
例7
プレガバリン75 mgを蒸留水(温水)2 mlに溶解し、この水溶液に0.25%のヒアルロン酸ナトリウム水溶液(1 ml)を加えて約3 mlの水溶液を調製した。
例8
例1で調製した水溶液に酢酸緩衝液を加えてpHを約5.5に調節した水溶液を調製した。
例9
例1で調整した水溶液に酢酸ナトリウム溶液を加えて、pH 8.7に調節した水溶液を調整した。
例10
例1で調製した水溶液に0.1%のエチルパラベンを添加して溶解させた水溶液を調製した。
【0032】
例11
ポリアクリル酸ナトリウム(日本触媒製、ポリアクリル酸ナトリウム HAS、(1.0%、10 ml)に例1と同様にして製したプレガバリン水溶液10 mlを加えた。本剤はこのまま患部に適用することができる。また、ポリアクリル酸ナトリウムの濃度を10%とした溶液に例1で製造した水溶液20 mlを加えてよく攪拌した後、コンディショニングミキサー(株式会社シンキー製、商品名:あわとり錬太郎)を用いて脱泡した。本剤をポリエステル製の不織布(日本バイリーン株式会社製、商品名:貼付薬用基布)の片面に2 mm厚で延伸塗布し、適度に水分を蒸発の後、塗布面をナイロンフィルムで覆い100 mm×50 mmに裁断した。
【0033】
例12
成人〈男性73歳〉の背中にプレガバリン150mgを含む水溶液を塗布した。塗布の後、血液を採取し、血漿を除蛋白の後ジニトロベンゼンスルフォニルクロリドと反応させ誘導体となし、LC/MSによりプレガバリンを定量した。投与後30分で9 ng/mlに達し、その後3時間以上その濃度を保っていた。
【0034】
例13:マウス神経結索モデルのアロディニア疼痛の抑制
マウス(n=6)の神経L5、L6を絹糸で結索して疼痛モデルを作成した。対象にSham群を用意した(n=6)。4週間の後、測定の5分前にプレガバリン2.5 mg/mlあるいは7.5 mg/mlの水溶液(プレガバリン75 mgを蒸留水10 ml又は30 mlに溶解したもの)に右後脚全体の毛が湿るまで浸漬し、塗布30分後に自然乾燥した状態でvon Fryの標準針をもちいて疼痛閾値を測定し、その後、60分、90分、及び180分に同様に疼痛閾値を測定した。プレガバリンの低用量及び高用量ともに神経結索群の疼痛閾値に媒体溶媒群との間に統計的に有意な改善が認められ(
図1及び2)、3時間後にもなお有効であった。
【0035】
例13
ラットの疼痛試験はSeltzer の方法に準じてモデルで実施した(Seltzer, Pain 1990,43, pp.205-218)。すなわち、イソフルランの2%吸入麻酔下でラットの左大腿部の皮膚を切開して坐骨神経を露出させ、その神経の1/2〜1/3を絹糸(8−0)結紮し、筋層を1〜2箇所縫合した。モデル作成後14日に左右足蹠の疼痛閾値を測定した。測定にはvon Freyのフィラメントを使用しアップダウン法により疼痛閾値を求めた。0.1%Tween80を含む水にプレガバリン10.0 mg/mLを溶解し、上記モデル作成後17日目に溶液0.10 mLを両肢の足蹠に塗布した。1、3、及び5時間後に左右の疼痛閾値(g)を測定した。疼痛モデル肢に1時間後に十分な閾値の上昇が見られた。表1にはモデル肢(左)、表2には正常肢(右)の結果を示す。正常肢にも閾値上昇が認められた。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、最も単純な形態であるガバペンチン又はプレガバリンの水溶液により、神経因性疼痛などの神経因性疾患による局所の痛みや掻痒感などの不快感を劇的に軽減することができる。