(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
空間に固定配置されγ線が入射するとそのエネルギーに依存したパルス高さの検出信号を出力する検出部と、地表面側から入射しようとする前記γ線に起因する前記検出信号の出力を阻止する阻止手段と、を備える機器から前記検出信号を受信するステップと、
前記エネルギーに基づき設定された複数のチャンネル毎に前記検出信号をカウントするステップと、
単位周期で区切って前記カウントした計数値を、少なくとも直近の連続するs周期分の第1積算期間につき、データ保持するステップと、
前記第1積算期間において保持されている前記計数値を前記チャンネル毎に積算した積算値の第1スペクトルを、前記単位周期が区切られる毎に演算するステップと、
直近の連続するr周期分(r<s)の第2積算期間において保持されている前記計数値を前記チャンネル毎に積算した積算値の第2スペクトルを、前記単位周期が区切られる毎に演算するステップと、
前記第1スペクトル及び前記第2スペクトルの各々における、放射性核種に由来する前記γ線の固有エネルギー値に対応する前記チャンネルにおいて、前記積算値がバックグランドノイズに対して有意に検出されていることを表す有意水準を満たすか否かについて二値判定するステップと、
前記第1スペクトル及び前記第2スペクトルにおける前記二値判定の結果に基づいて警告情報を発信するステップと、を含むことを特徴とする放射線測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように実施形態に係る放射線測定装置10は、空間に固定配置されγ線が入射するとそのエネルギーに依存したパルス高さの検出信号S(
図3参照)を出力する検出部11と、地表面側から入射しようとするγ線に起因する検出信号Sの出力を阻止する阻止手段12と、前記エネルギーに基づき設定された複数のチャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)毎に検出信号Sをカウントするカウンタ15と、単位周期T(T
1,T
2,…T
r,…T
s)(
図3参照)で区切ってカウントした計数値Xを少なくとも直近の連続するs周期分の第1積算期間U
1(=s×T)につき保持するデータ保持部16と、この第1積算期間U
1において保持されている計数値XをチャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)毎に積算した積算値Y
1の第1スペクトル(
図4(A)参照)を単位周期Tが区切られる毎(
図8参照)に演算する第1演算部17aと、直近の連続するr周期分(r<s)の第2積算期間U
2(=r×T)において保持されている計数値XをチャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)毎に積算した積算値Y
2の第2スペクトル(
図4(B)参照)を単位周期Tが区切られる毎に演算する第2演算部17bと、第1スペクトル及び第2スペクトルの各々における放射性核種(例えば、Cs−137)に由来するγ線の固有エネルギー値(662keV)(
図7参照)に対応するチャンネルC
nにおいて積算値Y(C
n)が有意水準20(20a,20b)を満たすか否かについて二値判定する判定部18(18a,18b)と、第1スペクトル及び第2スペクトルにおける二値判定の結果に基づいて警告情報を発信する情報発信部19と、を備える。
【0018】
このように放射線測定装置10が構成されることにより、第1積算期間U
1で求められる第1スペクトル(
図4(A)参照)と、第2積算期間U
2で求められる第2スペクトル(
図4(B)参照)とが、共に単位周期Tの同じ時間間隔で生成される。
【0019】
事故プラントから放射性核種が外部に放出された場合、極めて小さい固体または液体の粒子に付着して大気中に拡散し、気象条件等により移動する。この粒子を吸引する事による内部被ばくを抑制する観点から、放射性核種の空気中濃度の変化を、法令に基づく許容範囲内であっても、できる限り低いレベルから継続的に監視することは重要である。
【0020】
一方で、地上に降り積もって沈着した人工放射性核種及び天然放射性核種(K−40等)は、内部被ばくの観点からは監視対象外となる。
このために、監視対象となる区域において、地表等に固定化されている放射性核種に由来するγ線の影響を排除しつつ、空気中に拡散している放射性核種に由来するγ線の存在について高感度でリアルタイムに測定・検出することが要求される。
【0021】
検出部11は、
図2(A)(B)に示すように、シンチレータ31と光電子増倍管32を組み合わせたものを採用することができる。
シンチレータ31にγ線が入射すると、その原子や分子が励起され基底状態に戻るときに、入射したγ線のエネルギーに比例した光強度の蛍光パルスが放出される。観測される蛍光パルスの数は、γ線の入射数に比例する。従って、シンチレータ31からの蛍光パルスの光強度とその観測数を測定する事で、γ線のエネルギーと入射数を得る事ができる。
【0022】
シンチレータ31から放出された蛍光は、光電子増倍管32に入射して、この蛍光の強度に比例した電流信号に変換された後、必要な電子回路により、蛍光の光強度、即ち入射γ線エネルギーに依存した電圧値を持つパルスである検出信号Sに変換される(
図3参照)。この検出信号Sは、波高識別部13に送信される。
【0023】
阻止手段12は、γ線の遮蔽効果の高い鉛や鉄といった密度の大きい材質で構成された遮蔽ブロック12aである。この遮蔽ブロック12aは、検出部11をその中心軸に沿って内部収容するためのスペースが設けられ、天空側に開口を有している。
検出部11は、この遮蔽ブロック12の開口から、シンチレータ31の上部が露出するように固定される。これにより、検出部11は、その地表面側及び外周面側の大部分が遮蔽ブロック12aで覆われ、地表面側から入射しようとするγ線が遮蔽され、そのようなγ線に起因する検出信号Sの出力が結果として阻止される。
【0024】
シンチレータ31は、遮蔽ブロック12aの開口スペースに完全に埋没させるのではなく、その一部を開口から露出させることにより、天空側に対する実効的な指向性を2π近くまで拡張することができる。なおシンチレータ31の露出量は、大きくし過ぎると地表面側の視野も広がるために、その最適量は内部収容スペースの容積や遮蔽ブロック12aの厚さ等も含めた全体最適化を考慮して決定される。
【0025】
検出部11と遮蔽ブロック12は、一体化させたのち全体が筐体33の内部に収容される。なお実施形態において、検出部11は地上にある高さを以って設置されているが、必ずしも地上面に直接設置する必要はなく、例えば建屋の屋上等を介して空間に固定配置される場合もある。
【0026】
大気中から地表面に降り積もって沈着したCs−137,134等の人工放射性核種やK−40等の天然放射性核種からのγ線は、空気中に浮遊するCs−137,134を測定しようとする場合、バックグラウンド(ノイズ)成分となる。
実施形態の検出部11では、阻止手段12の作用により、地表面側から入射しようとするγ線が遮蔽されるとともに、2πの大気空間が測定対象範囲となる。
環境放射能の監視のため一般的に用いられる空間γ線モニタは、空気、地面の両方から入射するγ線を、総合的に検出するものであるが、本実施形態においては空気中からのγ線のみが監視対象となる。
【0027】
図3は、検出部11から波高識別部13に送信される検出信号Sを示すグラフである。このように、検出部11にγ線が入射すると、そのエネルギーに依存したパルス高さの検出信号Sが波高識別部13に出力される。
ここで、離散的に検出される検出信号Sは、大気中に浮遊する放射性核種が放出するγ線に由来するもののみではなく、宇宙線やその他外乱に由来するノイズ成分も多く含まれている。
【0028】
また、各々の検出信号Sのパルス高さは、対応するγ線のエネルギー、すなわちγ線の発生源の種別(核種)に対応する。
ところでγ線は、検出部11に直接入射する場合と、途中で散乱した後に入射する場合との両方がある。さらには、γ線が直接入射した場合であっても、この検出部11の内部で、その全エネルギーが寄与するか又は散乱するかによっても、検出信号Sのパルスの波高は異なる。
したがって、検出信号Sのパルス高さが、γ線の発生源の種別(核種)に厳密に一致付けされるわけではなく、上述した検出部11に対する入射前後のγ線の散乱現象が、バックグラウンド生成の要因になっている。
【0029】
図1に戻って説明を続ける。
波高識別部13は、逐次的に入力する検出信号Sのパルス高さを識別し、予めこのパルス高さに対応付けした複数のチャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)のいずれか一つに分類する。なおこれら複数のチャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)は、測定開始前に既知のエネルギーのγ線を検出部11に入射させて行う校正に基づいて、検出信号Sのパルス高さとの対応付けが設定されている。
【0030】
カウンタ15は、複数のチャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)の各々に分類された検出信号Sを、単位周期Tで区切ってカウントする。なお、この単位周期Tは、予め任意の値に設定されている。
カウンタ15は、カウントを開始してから単位周期Tが経過したところでカウントを終了し、チャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)の各々における計数値X(X
1,X
2,…X
n,…)をデータ保持部16に保持させる。そして、カウンタ15は、このカウント終了と同時に次の単位周期Tにおけるカウントを開始する。
【0031】
データ保持部16は、単位周期Tの周期で連続的に生成する計数値X(X
1,X
2,…X
n,…)を、直近のs周期分の第1積算期間U
1(=s×T)につき保持する。つまり、データ保持部16は、最新で取得した単位周期当たりの計数値Xを、s期間前の計数値Xに上書きするという動作を繰り返すことにより、直近のs周期分の計数値Xを保持する。
なお、上述の単位周期T毎にカウントされた計数値Xのデータ保持方式は一例であって、限定されない。
【0032】
第1演算部17aは、s個の連続する単位周期T(T
1,T
2,…T
s)の各々に対応付けてデータ保持部16で保持されている計数値X(X
1,X
2,…X
n,…)を、チャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)毎に積算した積算値Y
1(Y
1(C
1),Y
1(C
2),…Y
1(C
n),…)を演算する。
図4(A)は、チャンネル毎の積算値Y
1(=ΣX)を第1積算期間U
1(=s×T)で除算して規格化した計数率の第1スペクトルを示すグラフである。
なお、
図4(A)(B)のグラフは、積算期間がそれぞれ異なるエネルギースペクトルの状態を比較説明するために、便宜的に縦軸を計数率で表している。しかし演算部17において、そのような規格化処理を実施する必要性は特にない。
【0033】
第2演算部17bは、sよりも少ないr個の連続する単位周期T(T
1,T
2,…T
r)の各々に対応付けてデータ保持部16で保持されている計数値X(X
1,X
2,…X
n,…)を、チャンネルC(C
1,C
2,…C
n,…)毎に積算した積算値Y
2(Y
2(C
1),Y
2(C
2),…Y
2(C
n),…)を演算する。
図4(B)は、チャンネル毎の積算値Y
2(=ΣX)を第2積算期間U
2(=r×T)で除算して規格化した計数率の第2スペクトルを示すグラフである。
これら第1スペクトル及び第2スペクトルは、単位周期T(T
1,T
2,…T
r,…T
s)が区切られてデータ保持部16に最新の計数値X(X
1,X
2,…X
n,…)が保持されるタイミングで演算されることになる。
なおr=1のときは、積算期間U
2は、単位周期Tに一致する。
【0034】
この
図4(A)(B)から、積算期間が長いほど計数率の統計精度が向上し、バックグランドに対する放射性核種に固有のγ線の検出感度が向上するといえる。これは、積算期間が長いほど、検出信号Sのうち偶然に検出されたバックグランド成分の積算値が、隣接するもの同士で互いに平坦化していくためである。
【0035】
このように第1スペクトル及び第2スペクトルは、互いに積算期間U
1,U
2は異なるが、単位周期Tが経過する毎に、共に新しい情報に更新されていく。
ところで、積算期間U
1を長くして得られる第1スペクトルは、放射性核種の空気中濃度が低くても上述のように放射性核種の検出感度に優れるが、その空気中濃度の変化に対する応答性が劣る性質がある。
【0036】
これと反対に、積算期間U
2を短くして得られる第2スペクトルは、放射性核種の空気中濃度変化に対する応答性に優れるが、その空気中濃度が低いときは放射性核種の検出感度が劣る性質がある。
すなわち、一種類の積算期間の長さを調整するだけでは、放射性核種検出の感度と応答性とがトレードオフの関係にある。
【0037】
判定部18(18a,18b)は、監視対象となる放射性核種(例えば、Cs−137)に固有のγ線のエネルギー値(662keV)に対応するチャンネル(ここではC
nとする)が予め設定されている。そして、積算期間を長く設定した第1スペクトル(
図4A)及び積算期間を短く設定した第2スペクトル(
図4B)の各々において、チャンネルC
nで観測される積算値Y
nの有意性の有無に基づいて二値判定が行われる。
【0038】
すなわち、第1スペクトル及び第2スペクトルには、全チャンネルにわたり連続的なバックグランドノイズが重畳されており、このバックグランドノイズに対してチャンネルC
nにおいて積算値が有意に検出されているか否かについて二値判定が行われる。
【0039】
有意水準20(20a,20b)は、チャンネルC
nを指定するとともに、そこで観測される積算値Y
nについて、両側に連続するチャンネルの積算値を考慮して、二値判定を行うための、アルゴリズムが規定されている。
なお二値判定を行うためのアルゴリズムは、波形からビークを判別するのに一般的に用いられているものを適宜採用することができる。
【0040】
判定部18(18a,18b)は、第1スペクトル及び第2スペクトルの各々において、有意水準20(20a,20b)を満たすか否かについて二値判定を実行し、その結果を肯定「1」,否定「0」のそれぞれに対応させて二値出力する。
具体的に判定部18は、有意水準20に基づいて、注目するチャンネルC
nにおけるピーク検出有無、あるいは正味計数の有意性について二値判定を行う。
【0041】
情報発信部19は、判定部18(18a,18b)から受信した第1スペクトル及び第2スペクトルの二値判定の結果「0」,「1」に基づいて、予め設定した警告情報を発信する。この警告情報は、区域内に野外配置されたモニタ、拡声器、さらには区域の放射線の監視を所轄する部門等に、公知の情報伝達手段を用いて伝達される。
【0042】
ここで、二値判定の結果が(0,0)の場合は、高感度性に優れる第1スペクトル及び高応答性に優れる第2スペクトルがともに、大気中に放射性核種(Cs−137)がほとんど検出されないことを示唆している。
二値判定の結果が(0,1)の場合は、高応答性に優れるが感度の劣る第2スペクトルのみが大気中に放射性核種(Cs−137)を検出したことを示している。これは、少し前までほとんど検出されなかった放射性核種(Cs−137)の空気中濃度が上昇基調にあることを示唆している。
【0043】
二値判定の結果が(1,0)の場合は、高感度性に優れるが応答の鈍い第1スペクトルのみが大気中に放射性核種(Cs−137)を検出したことを示している。これは、濃度は高くないものの放射性核種(Cs−137)が一定期間にわたり大気中に滞留していることを示唆している。
二値判定の結果が(1,1)の場合は、高感度性に優れる第1スペクトル及び高応答性に優れる第2スペクトルがともに、大気中に放射性核種(Cs−137)を検出したことを示している。これは、許容水準を超える高濃度の放射性核種(Cs−137)が一定期間にわたり大気中に滞留していることを示唆している。
【0044】
また情報発信部19は、上述した複数のスペクトルにおける二値判定の組み合わせに基づいて、人間が認識可能な「平常」「注意」「緊急」のように段階的な警告情報を発信してもよい。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る放射線測定装置では、異なる4種類の積算期間でエネルギースペクトルを演算する場合について説明する。
図5は、第2実施形態に係る放射線測定装置の演算部17、判定部18及び情報発信部19を示している。なお
図5で示す構成を除く他の構成は
図1と同じであるため、重複する説明を省略する。
図8は、演算部17(17a〜17d)が、4種類の積算期間U(U
1,U
2,U
3,U
4)の各々で、計数値Xの積算を実行するシーケンスを示している。このシーケンスにおいて時間t
0は、検出信号Sのカウントを開始した時点であり、時間経過とともに単位周期T毎に区切ったタイミングを縦線で示し、t
m(m:自然数)は最新の演算の実行時点を示している。
【0046】
第2実施形態の演算部17は、現時点t
mからs周期分さかのぼった第1積算期間U
1における積算値Y
1の第1スペクトルを演算する第1演算部17aと、現時点t
mからr周期分(r<s)さかのぼった第2積算期間U
2における積算値Y
2の第2スペクトルを演算する第2演算部17bと、現時点t
mからq周期分(q<r)さかのぼった第3積算期間U
3における積算値Y
3の第3スペクトルを演算する第3演算部17cと、現時点t
mからp周期分(p<q)さかのぼった第4積算期間U
4における積算値Y
4の第4スペクトルを演算する第4演算部17dと、を有している。
【0047】
図8においては、p=2,q=4,r=8,s=16の場合を例示しているが、p,q,r,sの値は、大きさの順番が変化しない限りにおいて任意の自然数で設定される。
なお最短の積算期間は、p=1で設定することができ、この場合の積算期間は単位周期Tに一致する。
【0048】
第2実施形態の判定部18は、第1〜第4スペクトルの各々における放射性核種(例えば、Cs−137)に由来するγ線の固有エネルギー値(662keV)に対応するチャンネルC
nにおいて積算値が有意水準20を満たすか否かについて二値判定するものである。さらに情報発信部19は、第1〜第4スペクトルにおける二値判定の結果に基づいて警告情報を発信するものである。
【0049】
なお、積算期間の種類数Nは、実施形態においてN=2,4の場合を示したが、積算期間の種類数Nに限定はなく、複数であればよい。この場合、情報発信部19は、2
N通りの二値判断の組み合わせにより、警告情報を発信することになる。
積算期間を長くとることは、注目するエネルギーを有するγ線の検出限界をより引き下げ、検出感度をより高める事に相当する。
【0050】
さらに、積算期間の種類数Nを増やすことにより、対象とする放射性核種の空気中濃度やその分布状態が異なるレベルを識別すると共に、長い積算期間が必要な低レベルの放射能濃度状態の中で、突然大きな濃度増大事象が生じる様な過渡変化を把握することができる。そして、高感度測定、迅速な変化の検出、全体の常態の把握に対応でき、より信頼性の高い警告情報を発信することができる。
【0051】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る放射線測定装置では、
図6に示すように、判定部18における二値判定で有意水準を満たした(「1」判定の)積算値Yが、積算期間の共通する過去履歴に照らし、増加傾向及び減少傾向のいずれに該当するか評価する評価部21を備えている。なお、
図6において
図1及び
図5と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0052】
図6においては、4種類の積算期間U(U
1,U
2,U
3,U
4)(
図8参照)の各々に対応して評価部21(21a,21b,21c,21d)が設けられている。
そして、各々の評価部21(21a,21b,21c,21d)には、注目するチャンネルC
nに関し、対応する積算期間Uで演算された積算値Y(Y
1(C
n),Y
2(C
n),Y
3(C
n),Y
4(C
n))が、単位周期T毎に更新されて入力される。
【0053】
さらに、各々の評価部21は、積算値Yの入力に同期して、判定部18(18a,18b,18c,18d)の各々から、対応する積算値Y(Y
1(C
n),Y
2(C
n),Y
3(C
n),Y
4(C
n))の有意性を示す二値判定「1」「0」の信号を受信する。
評価部21(21a,21b,21c,21d)の各々は、有意性が連続して肯定「1」と判定された積算値Yの履歴に基づいて、「増加傾向」及び「減少傾向」の評価を行う。各々の評価部21(21a,21b,21c,21d)から発信される「増加傾向」及び「減少傾向」の評価結果は、情報発信部19に送られて人間が認識可能な警告情報に変換されて発信される。
【0054】
ここで、有意性が肯定「1」された積算値Yは、その値精度が保証されている。よって有意性が連続する肯定「1」の積算値Yの履歴に基づいて、「増加傾向」及び「減少傾向」の評価を行えるのみならず、それら傾向の度合いや「増加」にも「減少」にも属さない「不変」という評価を下すこともできる。
このような評価部21(21a,21b,21c,21d)を設けることにより、互いにトレードオフの関係にある感度及び応答性の「重き」の比率が各々において異なる複数の積算値Yを用い、放射性核種の空気中濃度の変化を多角的に監視することができる。
なお、第3実施形態の情報発信部19は、評価部21から出力される積算値Yの「増加傾向」及び「減少傾向」の評価結果だけでなく、第1実施形態で説明した判定部18から出力される二値判定の結果も受信する。
【0055】
図7は、セシウム−137(662keV)及びセシウム−134(606keV)について、現実に観測されたエネルギースペクトルを示している。
これまでの説明は、注目するγ線の固有エネルギーにおいて、対応する検出信号Sのパルス高さにばらつきが無い理想状態を前提に行っていた。しかし、現実に観測されるスペクトルは、固有エネルギーの値を中心に正規分布に近い形で拡がりをもって分布している。
そこで、注目するγ線の固有エネルギー値に対応するチャンネルは、正規分布が含まれるように所定範囲で互いに隣接する複数のものが設定される。そしてこの場合、積算値は、所定範囲に設定された複数のチャンネルにおけるそれぞれの値を加算したものが採用される。
【0056】
さらに、セシウム−137とセシウム−134のように互いに近接するものは、γ線検出部11の分解能によっては、
図7に示すように、互いにピーク分離することが困難な場合がある。このような場合、セシウム−137及びセシウム−134の両方のピークを含む所定範囲を加算した積算値を採用してもよい。
【0057】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る放射線測定装置では、判定部18における二値判定の精度を向上させることを目的として、演算部17がさらに、互いに隣接するチャンネルにおける積算値の分解能が向上するようにエネルギースペクトルを補正処理することを説明する。
なお第4実施形態に係る放射線測定装置10の構成は、
図1と同じである。
【0058】
一般に、観測されるγ線のエネルギースペクトルは真のエネルギースペクトルが検出部応答関数を通して見えているものとして、畳み込み積分の形で表わされる。観測波形をh(t)、真のエネルギースペクトルをf(τ)、エネルギー応答関数をg(t)とすると、観測されるエネルギースペクトルh(t)は次の式(1)で表される。
h(t)=∫[-∞,∞] f(τ)・g(t-τ)dτ (1)
【0059】
検出部固有の応答関数を求め或いは仮定して、式(1)に示す関数に成分分解し、最終的にf(t)を求めることがエネルギースペクトルの先鋭化に相当する。これを行うためには、離散フーリエ変換、離散逆フーリエ変換などの数学的手法を用いる事ができる。
この様にエネルギースペクトルを先鋭化することにより、観測される積算値ピークの隣接するもの同士の分解能を向上させることができる。これにより判定部18における二値判定の精度を向上させることができる。
一般的には、エネルギーにより検出部の応答関数が変わるために、この方法は普遍的に適用できない。一方において本実施形態のように、着目範囲を特定のエネルギー区間のみに狭める場合には、検出部の応答関数をほぼ一定とみなすことができるため、この方法を適用する事ができる。
【0060】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る放射線測定装置では、第1実施形態とは異なる方式の検出部11及び阻止手段12について説明する。なお第5実施形態に係る放射線測定装置の全体構成は、
図1であらわされる。
図9に示すように、第5実施形態では、検出部11として対向配置される一対のコンプトンカメラ11(11a,11b)を採用している。そして、阻止手段12として入射方向識別器12bを採用している。
【0061】
上部のコンプトンカメラ11a及び下部のコンプトンカメラ11bは、ともにγ線検出素子をアレイ状に二次元配置して構成されている。
一対のコンプトンカメラ11(11a,11b)をγ線が通過すると、通過点に位置する各々の検出素子から検出信号が同じタイミングで出力される。
【0062】
入射方向識別器12bは、コンプトン散乱角のエネルギー依存性を表すKlein-Nishina's formulaより、γ線の到来方向が含まれる円錐状の入射視野、即ちγ線の到来方向を示す円錐状の空間を推定する事ができる。
これにより入射方向識別器12bは、この検出信号を出力した上部及び下部の検出素子の二次元位置及び観測エネルギーの関係から、γ線の入射方向を判別する。そして、地表面側から入射したγ線に起因する検出信号Sの波高識別部13への出力を阻止する。
このようにして、第4実施形態に係る放射線測定装置10では、天空側2π方向から入射するγ線のみに由来する検出信号Sを選択的に測定する。
【0063】
なお、阻止手段12の具体的な実施形態には特に限定はなく、上述したもの以外でも、地表面側から入射しようとするγ線に起因する検出信号の出力を阻止する機能を有するものであれば、適宜採用される。
【0064】
(第6実施形態)
第6実施形態に係る放射線測定装置では、検出部11及び阻止手段12を内部に収容する筐体33(
図2参照)に特徴を有する。なお第6実施形態に係る放射線測定装置の全体構成は、
図1であらわされる。
大気中に浮遊する放射性核種は、時間経過によりやがて地表面に降下する。降下する放射性核種は、筐体33の上面にも沈着する。従って、長期間にわたり放射線測定装置10による監視を行う場合には、そのような筐体33の上面に沈着した放射性核種は、大気中における放射性核種の有無に関する正確な判断の妨げになるために除去する必要がある。
【0065】
そこで筐体33の表面は、降下物が蓄積しやすい表面の凹凸をなくすために、ガラスコーティング等により表面を円滑化する加工が施されている。さらにガラスコーティングされた層のさらに上側に、ナノ粒子を塗布、コーティング等する事も、汚れ・塵埃付着を防止する観点において有効である。
【0066】
さらには
図10(A)に示すように、剥離型付着膜部34を筐体33の上部に設けることも有効である。この剥離型付着膜部34は、剥離可能な薄膜が積層した構造をなしている。そして、剥離型付着膜部34の上面の薄膜を一枚剥離するという動作により、筐体33の上面に沈着した放射性核種を除去することができる。
この剥離型付着膜部34を構成する薄膜は、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)フィルムや、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムなど、薄くかつ多層に密着させて装着できるものが採用される。
さらには
図10(B)に示すように、犠牲付着部35を、筐体33の表面から隔離してその外周面を覆うように設けることも有効である。
【0067】
(検出部の校正)
波高識別部13及びカウンタ15の機能によりエネルギースペクトルを求める場合、規定される複数のチャネルの各々と測定されるγ線のエネルギーとの間に一定の関係式(一次式、或いは二次の項が極めて小さい二次式)が、予め校正により求められている。さらに、この関係式からチャンネルとエネルギーとを換算する換算係数が求められている。
空間γ線モニタの様に、野外で用いる一般的な放射線計測システムでは、バックグラウンドγ線の一部である、カリウム−40に固有のγ線のエネルギー(1461keV)を用いて上述の換算係数からのずれを求める校正を行う事が多い。しかし、地表面側から入射するγ線の検出を阻止している本発明の実施形態においては、そのようなカリウム−40のγ線の十分な入射を期待する事ができないため、これを検出部校正に利用することができない。
【0068】
そこで、各実施形態においては、
図11に示すように、放射線源36を検出部11の近傍に配置するようにしている。
図11(A)は、シンチレータ31と光検出部32が光学窓37を介して接続された検出部11を示している。シンチレータ31は、周囲を光学反射体(図示せず)で覆われた上で、密閉容器38に収められている。この密閉容器38に密着した形で、放射線源36が設けられている。
【0069】
各実施形態では、セシウムを検出対象核種としており、主たる着目エネルギーは662keV近傍である。このため、このエネルギーよりも高いエネルギーのγ線を放出する放射線源36を使った場合、コンプトン散乱成分が、着目するγ線エネルギー領域に被さるため、セシウムに対する検出能力を劣化させるおそれがある。
そこで、放射線源36としては、着目する核種のγ線のエネルギーよりも低いエネルギーのγ線を放出する核種を選定することが望まれる。
【0070】
また各実施形態における検出部構成を目的として、
図11(B)に示すように、光パルスを発生する光基準信号発生装置40を検出部11の近傍に配置することも考えられる。
図11(B)に拡大して示すように光基準信号発生装置40の内部には、シンチレータ41と放射線源36とが、検出部11側のシンチレータ31とは別の密閉容器42に収容されている。
【0071】
光基準信号発生装置40の装着位置は、光検出部32の光検出可能な部位(受感面)としている。なお、この光基準信号発生装置40全体が、検出部11側のシンチレータ31と共に密閉容器38の内部に組み込まれた形態をとる場合もありうる。
また、光基準信号発生装置40のシンチレータ41は、光検出部32の受光感度の波長依存性を併せる事も考慮して、検出部11側のシンチレータ31と同種の物質を用いる事が好ましい。
【0072】
図11(B)の放射線源36としては、検出部11に直接放射線が到達しない事を考慮し、かつ飛程が短くシンチレータ41には十分な発光量を与えることのできるα線源を採用する。この結果、光基準信号発生装置40から放出される光パルスは相対的に光量が大きくなる。
このため、光基準信号発生装置40の光学窓43の外側に、光強度を波長依存性少なく調整可能なND(ND:Neutral Density)フィルタ44を装着する。このNDフィルタ44は、光透過量の波長依存性が小さく、光の波長エネルギースペクトルを歪ませること無く、光強度を弱める事ができる。
【0073】
各実施形態に係る放射線測定装置10は、従前から用いられている空間γ線モニタやダスト放射線モニタと併用し、これらの情報を補間することにより、放射性核種の空気中濃度の増大傾向を早期に検知することができる。
また、各実施形態において、検出対象として放射性核種のセシウム137であることを中心に述べたが、特に限定はなくγ線を放出する放射性核種を広く検出対象とすることができる。また、検出対象を特に規定せず、有意検出したチャンネル情報に基づいて、大気中に浮遊する放射性核種を弁別することもできる。
【0074】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の放射線測定装置10によれば、検出したγ線の計数値の積算期間を少なくとも二種類採用することにより、放射性核種の空気中濃度が低レベルであっても、その増加傾向をいち早く察知することが可能となる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0076】
以上説明した放射線測定装置10は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0077】
また放射線測定装置10で実行されるプログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、CD−R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0078】
また、本実施形態に係る放射線測定装置10で実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。
また、放射線測定装置10は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【解決手段】放射線測定装置10は、γ線が入射すると検出信号Sを出力する検出部11と、地表面側からのγ線に起因する検出信号Sの出力を阻止する阻止手段12と、検出信号Sをカウントするカウンタ15と、計数値Xを第1積算期間U