特許第6196731号(P6196731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6196731新規酸二無水物、この製造方法、及びこれから製造されたポリイミド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196731
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】新規酸二無水物、この製造方法、及びこれから製造されたポリイミド
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/66 20060101AFI20170904BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C07D307/66CSP
   C08G73/10
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-513878(P2016-513878)
(86)(22)【出願日】2014年5月16日
(65)【公表番号】特表2016-520078(P2016-520078A)
(43)【公表日】2016年7月11日
(86)【国際出願番号】KR2014004394
(87)【国際公開番号】WO2014185739
(87)【国際公開日】20141120
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0055392
(32)【優先日】2013年5月16日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】314003797
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヒョ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ハク ギ
(72)【発明者】
【氏名】ハ,チャン シク
(72)【発明者】
【氏名】タパスウィ,プラディプ クマール
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヨン シク
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04290960(US,A)
【文献】 特表2002−537412(JP,A)
【文献】 特開平04−011630(JP,A)
【文献】 特開平02−000639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される酸二無水物。
<化学式1>

【請求項2】
(a)塩基触媒の存在下で、下記化学式2で表される化合物をN−アルキル化反応させ、下記化学式3で表される化合物を得る段階と、
(b)前記得られた化学式3で表される化合物を無水酢酸の存在下で脱水閉環反応させ、下記化学式1で表される酸二無水物を製造する段階とを含んでなる、酸二無水物の製造方法。
<化学式1>

<化学式2>

<化学式3>
【請求項3】
前記(a)段階の塩基触媒は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムよりなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の酸二無水物の製造方法。
【請求項4】
前記(b)段階の脱水閉環反応は40〜100℃で4〜28時間行うことを特徴とする、請求項2に記載の酸二無水物の製造方法。
【請求項5】
前記(b)段階の無水酢酸は、化学式3で表される化合物1モルに対して、2〜10モルで投入することを特徴とする、請求項2に記載の酸二無水物の製造方法。
【請求項6】
前記(b)段階の脱水閉環反応ピリジン、イソキノリン、および第3級アミンよりなる群から選ばれる1種以上の存在下で行われることを特徴とする、請求項2に記載の酸二無水物の製造方法。
【請求項7】
下記化学式1で表される酸二無水物とジアミンとを反応して得られるポリアミック酸。
<化学式1>

【請求項8】
請求項7のポリアミック酸を脱水閉環させて得られることを特徴とするポリイミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規酸二無水物、この製造方法、及びこれから製造されたポリイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミドは、高い機械的強度、耐熱性、絶縁性、耐溶剤性などを有しているため、液晶表示素子や半導体における保護材料、絶縁材料、カラーフィルターなどの電子材料として広く用いられている。また、最近では光導波路用材料などの光通信用材料や携帯電話の基板としての用途も期待されている。
【0003】
近年、この分野の発展は目覚しく、それに対応して、用いられる材料に対しても、益々高度の特性が要求されている。すなわち、単に耐熱性、耐溶剤性に優れるだけでなく、透明性など用途に応じた性能を多数併せ持つポリイミドが望まれている。
【0004】
従来汎用されている、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合反応により得られる全芳香族ポリイミドは、濃い琥珀色を呈して着色するため、高い透明性が要求される用途においては問題が生じる。また、全芳香族ポリイミドは、有機溶剤に不溶であるため、実際にはその前駆体であるポリアミック酸を熱による脱水閉環して製膜する必要がある。
【0005】
透明性を実現する一つの方法として、脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合反応によりポリイミド前駆体を得て、当該前駆体をイミド化することで、比較的着色が少なく、高透明性のポリイミドが得られることが知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
しかし、無置換脂環式テトラカルボン酸二無水物を原料としたポリアミック酸およびポリイミドは、一般的な有機溶媒に対する溶解性が低く、沸点の高い極性有機溶媒にのみ溶解する。この溶媒除去のため、製膜焼成時に高温を要し、有機EL素子を構成するその他の有機物に好ましくない影響を与える。
【0007】
また、最近、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CPDA)をモノマーとしたポリイミドを有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)素子のガスバリア膜として利用することが検討されている(特許文献3)。
【0008】
しかしながら、前記ポリイミドは、重合度が低く耐熱性という点で改良の余地があるのみならず、有機溶媒に対する溶解性についても必ずしも十分であるとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平2−24294号公報
【特許文献2】特開昭58−208322号公報
【特許文献3】特開2006−232960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主な目的は、ポリイミドの優れた物性をそのまま維持しながら、優れた熱的安定性および低い誘電率を示すと同時に、有機溶媒に対する溶解性および光透過性に優れたポリイミドの原料モノマーとして使用される新規酸二無水物及びこの製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、前記新規酸二無水物を含有することを特徴とするポリアミック酸、および該ポリアミック酸を脱水閉環させて得られることを特徴とするポリイミドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一具現例は、下記化学式1で表される酸二無水物を提供する。
<化学式1>
【0013】
本発明の他の具現例は、(a)塩基触媒の存在下で、化学式2で表される化合物をN−アルキル化反応させ、化学式3で表される化合物を得る段階と、(b)前記得られた化学式3で表される化合物を脱水剤の存在下で脱水閉環反応させ、下記化学式1で表される酸二無水物を製造する段階とを含んでなる、酸二無水物の製造方法を提供する。
<化学式1>
【0014】
<化学式2>
【0015】
<化学式3>
【0016】
本発明の好適な他の具現例において、前記(a)段階の塩基触媒は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムよりなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明の好適な他の具現例において、前記(b)段階の脱水閉環反応は40〜100℃で4〜28時間行うことを特徴とする。
【0018】
本発明の好適な他の具現例において、前記(b)段階の脱水剤は、化学式3で表される化合物1モルに対して、2〜10モルで投入することを特徴とする。
【0019】
本発明の好適な他の具現例において、前記(b)段階の脱水剤は、無水酢酸、ピリジン、イソキノリンおよび第3級アミンよりなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明の別の具現例は、下記化学式1で表される酸二無水物とジアミンとを反応して得られるポリアミック酸を提供する。
<化学式1>
【0021】
本発明の別の具現例は、前記ポリアミック酸を脱水閉環させて得られることを特徴とするポリイミドを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ポリイミドの優れた物性をそのまま維持しながら、優れた熱的安定性および低い誘電率を示す無色透明なポリイミドを提供することができる新規酸二無水物及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【0023】
また、本発明のポリイミドは、無色透明でありながら熱的安定性に優れるうえ、誘電率が低いため、液晶表示素子や半導体における保護材料、絶縁材料などの電子材料、光導波路などの光通信用材料としての用途が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
特に他の定義がなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野における当業者に通常的に理解されるものと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用される命名法は、当該技術分野でよく知られており、通常使われるものである。
【0025】
本明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とすると、これは他の構成要素を排除するのではなく、特別な言及がなければ他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0026】
本発明は、ある観点から、下記化学式1で表される酸二無水物に関するものである。
<化学式1>

【0027】
本発明は、他の観点から、(a)塩基触媒の存在下で、化学式2で表される化合物をN−アルキル化反応させ、化学式3で表される化合物を得る段階と、(b)前記得られた化学式3で表される化合物を脱水剤の存在下で脱水閉環反応させ、下記化学式1で表される酸二無水物を製造する段階とを含む、酸二無水物の製造方法に関するものである。
<化学式1>
【0028】
<化学式2>
【0029】
<化学式3>
【0030】
一般に、脂肪族ポリイミドは、芳香族ポリイミドに比べて分子内における低い密度および双極性と、分子間または分子内における低い電荷移動特性を呈するため、高い透明性と低い誘電率を持っており、これにより光電子工学および層間絶縁膜物質として多くの注目を受けている。
【0031】
それ故に、本発明では、高い透明性と低い誘電率特性を持っている脂肪族ポリイミドを製造するために、窒素を含有するN−アセチル化−1,2−エチレンジアミン−二コハク酸無水物(N−acetylated−1,2−ethylenediamine−disuccinic anhydride:化学式1で表される酸二無水物)を合成する。
【0032】
本発明に係る化学式1で表される酸二無水物は、分子内に1つ以上の窒素原子を含有することで、窒素原子の孤立電子対により分子内または分子間の鎖の相互作用が生じることになり、これを用いてポリイミドの固有の優れた特性を維持しながらポリイミドの可溶性および機械的強度を大幅に改善させることができる。
【0033】
本発明に係る酸二無水物は、アルキル化反応と脱水閉環反応の2段階によって簡単かつ容易に製造することができる。
【0034】
具体的に、本発明に係る酸二無水物の製造方法は、塩基触媒の存在下で、化学式2で表される化合物をN−アルキル化反応させ、化学式3で表される化合物を生成した後、前記生成された化学式3で表される化合物を脱水剤の存在下で脱水閉環反応させ、下記化学式1で表される酸二無水物を製造する。
【0035】
前述した本発明に係る酸二無水物の製造方法を要約すると、反応式1のとおりである。
[反応式1]
【0036】
まず、反応式1に示すように、化学式3で表される化合物は、化学式2で表される化合物(L−aspartic acid)を塩基触媒の存在下でN−アルキル化して得られる。
【0037】
このとき、前記N−アルカリ化反応における塩基触媒としては、価格および取り扱い容易性の面で、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムよりなる群から選ばれる1種以上を使用することができるが、物質によるイオン転化および交換率に応じて自由に選択して使用することができる。
【0038】
一方、本発明においては、反応態様として、反応基質自体を溶媒とすることが好ましいが、他の反応溶媒を使用することも可能である。このとき、反応溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限されず、たとえば、1,4−ジオキサン、トルエン、NMP(N−Methyl−2−pyrrolidone)、DMAc(dimethylacetamide)、1,2−ジブロモエタンなどが挙げられる。
【0039】
このように生成された化学式3で表される化合物は、脱水剤(dehydrating agent)が投入されることにより、脱水閉環反応によって、化学式1で表される脂肪族酸二無水物が製造される。このとき、前記脱水閉環反応は40〜100℃で4〜28時間行う。前記脱水閉環反応を100℃または28時間超過で行う場合には、触媒および溶媒の蒸発により収率が低下し、前記脱水閉環反応を40℃未満で行う場合には、反応時間が増加したり、十分な反応が行われないため収率が低下したりする。
【0040】
前記脱水剤としては、無水酢酸、ピリジン、イソキノリンおよびトリエチルアミンなどの第3級アミンよりなる群から選ばれる1種以上を使用することができ、効率の面で無水酢酸および/またはピリジンを使用することが好ましい。
【0041】
また、前記脱水剤の含有量は、化学式3で表される化合物1モルに対して、2モル以上、好ましくは2〜10モルである。脱水剤を化学式3で表される化合物1モルに対して2モル未満で使用する場合には、十分に反応が起こらないため収率が低下し、10モル超過で使用する場合には、必要以上の量が含有されるので、費用問題が発生するおそれがある。
【0042】
前述した反応の後、生成された化合物を通常の方法で濾過した後、乾燥させて、化学式1で表される酸二無水物を製造する。
【0043】
また、本発明は、別の観点から、下記化学式1で表される酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸に関するものである。
<化学式1>
【0044】
また、本発明は、別の観点から、前記ポリアミック酸を脱水閉環させて得られることを特徴とするポリイミドに関するものである。
【0045】
以上説明した本発明の化学式1で表される酸二無水物は、ジアミンとの重縮合反応によってポリアミック酸を製造した後、熱または触媒を用いた脱水閉環反応によってポリイミドに製造することができる。
【0046】
前記ジアミンは、特に限定されるものではなく、従来のポリイミドの合成に用いられている各種ジアミンを使用することができる。その具体的な例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、1,3−ビス(4,4’−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノ−1,5−フェノキシペンタン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(3,5−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノナフタレン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−トリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニルなどの芳香族ジアミン;1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンなどの脂環式ジアミン;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンなどを挙げることができる。また、これらのジアミンは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0047】
本発明のポリアミック酸を得る方法は、特に限定されるものではなく、前記化学式1で表される酸二無水物とジアミンを公知の製造方法により反応、重合させればよいが、有機溶媒中で、化学式1で表される脂肪族ジアンヒドリド化合物とジアミンとを混合し、反応させる方法が簡便である。
【0048】
このとき、使用される有機溶媒の具体例としては、m−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができる。これらの溶媒は単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、ポリアミック酸を溶解しない溶媒であっても、均一な溶液が得られる範囲内で前記溶媒に加えて使用してもよい。
【0049】
溶液重合の反応温度は−20〜150℃、好ましくは−5〜100℃の任意の温度を選択することができる。また、ポリアミック酸の分子量は、反応に使用する化学式1で表される酸二無水物とジアミンとのモル比を変えることにより制御することができ、通常の重縮合反応と同様に、このモル比が1に近いほど、生成するポリアミック酸の分子量は大きくなる。
【0050】
本発明のポリイミドは上述のようにして得られたポリアミック酸を脱水閉環させて得る。ここで、ポリアミック酸からポリイミドへの変化率(脱水閉環率)をイミド化率と定義するが、本発明のポリイミドのイミド化率は、100%に限定されるのではなく、必要に応じて1〜100%の任意の値を選択することができる。
【0051】
本発明において、ポリアミック酸を脱水閉環させる方法は、特に限定されないが、通常のポリアミック酸と同様に、加熱による閉環または公知の脱水閉環触媒を用いて化学的に閉環させる方法を採用することができる。前記加熱による方法は、100〜300℃、好ましくは120〜250℃の任意の温度で行うことができる。
【0052】
化学的に閉環する方法は、例えば、ピリジンやトリエチルアミンなどの有機塩基と、無水酢酸などの存在下で行うことができる。このときの温度としては−20〜200℃の任意の温度を選択することができる。この反応では、ポリアミック酸の重合溶液をそのまま、または希釈して使用することができる。また、後述する方法により、ポリアミック酸の重合溶液からポリアミック酸を回収し、これを適当な有機溶媒に溶解させた状態で行ってもよい。このときの有機溶媒としては、上述したポリアミック酸の重合溶媒を挙げることができる。
【0053】
こうして得られたポリイミド(を含む)の溶液は、そのまま使用することもでき、また、メタノール、エタノールなどの溶媒を加えてポリマーを沈殿させ、これを単離して粉末として、またはその粉末を適当な溶媒に再溶解させて使用することもできる。再溶解用溶媒は、得られたポリマーを溶解させるものであれば特に限定されず、例えば、m−クレゾール、2−ピロリドン、NMP、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、DMAc、DMF、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ところが、下記実施例は、本発明の範囲を制限するものではなく、本発明の理解を助けるためのものと解釈されるべきである。
<実施例1>
1−1:化学式3で表される化合物の合成
化学式2で表される化合物(L−アスパラギン酸)50.73g(0.38mol)に水酸化カリウム30ml(50%水溶液)、水酸化カリウム13.94g(0.19mol)および蒸留水70mlを混合して1リットルの三つ口フラスコに投入し、前記フラスコに凝縮器、50mlの等圧滴下ロート、還流凝縮器および磁石攪拌器を取り付けた。1,2−ジブロモエタン28ml(50%水溶液)を注意深く前記フラスコの三つ目の口に添加した後、60℃で加熱して還流させ、ここに水酸化カリウム(24ml、50%水溶液)を、6時間ドロップワイズ(dropwise)を行いながら継続還流させた。前記還流が完了したら、水をフラスコに加えた後、溶液をさらに1時間還流させた。前記還流物を1時間冷却させながら撹拌した後、前記得られた還流物を濃い塩酸でpH3まで酸性化して白色沈殿物を形成させた。前記白色沈殿物を濾過させ、ここに蒸留水(225ml)を添加した後、水酸化ナトリウム(50%水溶液)でpH11に調整した。前記pH11に調整された混合物を塩酸でpH3.5に再調整して沈殿物を形成させ、水で塩酸を洗浄した後、65℃で真空乾燥させた(17.9g、収率30%)。前記化学式2で表される化合物の製造方法はNeal JA.,などによって報告されたことがある(Neal J.A.,Rose N.J.,Inorg Chem,1968,7,2408)。
【0055】
前記得られた化学式3で表される化合物について、融点(Buchi、M−560)、NMR(Hと13C)(JEOL、JNM−LA400)およびIR(AVATAR、360FT−IR)をそれぞれ測定した。
【0056】
融点:215〜217℃(HO+MeOH)
1H NMR (400 MHz, D2O/KOH) δ 2.38-2.50 (m, 2H, CH2CO2), 2.62-2.67 (m, 2H, CH2CO2), 2.91-3.01 (m, 4H, CH2CH2), 3.55-3.58 (m, 2H, CH), (NH and CO2H not observed at this pH); Anal. Calcd. for C10H16N2O8; C: 41.10, H: 5.52, N: 9.59%. Found: C: 40.97, H: 5.60, N: 9.64%; IR (KBr, cm-1): 3530 (νO-H), 3422 (νN-H), 3044, 2807, 1723 (νC=O)

1−2:化学式1で表される酸二無水物の合成
実施例1−1で得られた化学式3で表される化合物4.96g(17mmol)、ピリジン3.18g(35.7mmol)および無水酢酸3.6g(35.7mmol)を、凝縮器と磁石攪拌器が取り付けられた50mlのフラスコに投入し、60℃で24時間反応を行った。反応完了の後、反応物を冷却し、濾過した。前記濾過された濾過物を無水酢酸200mlと精製されたジエチルエーテル200mlで洗浄し、真空状態のオーブンにて40℃で乾燥させた後、無水酢酸100mlで再結晶を行い、化学式1で表される化合物2.48gを得た(収率50%)。
【0057】
前記得られた化学式1で表される化合物について、融点(Buchi、M−560)を測定し、NMR(Hと13C)(JEOL、JNM−LA400)とIR(AVATAR、360FT−IR)をそれぞれ測定した。
【0058】
融点:248〜250℃(AcO)
1H NMR (400 MHz, d6-DMSO) δ 2.01 (s, 3H, -NCOCH3), 2.12 (s, 3H, -NCOCH3), 2.83-2.91 (m, 2H, CH2CO2), 3.30 (dd, 2H, overlapped signals, CH2CO2), 3.65 (bd, 4H, CH2CH2), 4.66-4.60 (m, 2H, CH); 13C NMR (100 MHz, d6-DMSO): δ 173.8 (-NCOCH3), 173.4 (COOCO), 172.9 (COOCO), 59.7 (α-CH), 51.2 (N-CH2CH2), 51.0 (N-CH2CH2), 37.1 (β-CH2), 23.3 (-NCOCH3); Anal. Calcd. for C14H16N2O8; C: 49.41, H: 4.74, N: 8.23%. Found: C: 49.32, H: 4.80, N: 8.26%; IR (KBr, cm-1): 2955, 1869, 1790 (νC=O), 1222, 1196, 1075 (C-O-C)
本発明の単純な変形または変更はいずれも、当該分野における通常の知識を有する者によって容易に実施でき、それらの変形または変更もすべて本発明の領域に含まれるものと理解すべきである。