(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196744
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】発動エネルギーが最適化された振動プレートを備える腕時計又は演奏箱用打撃機構
(51)【国際特許分類】
G10F 1/06 20060101AFI20170904BHJP
G04B 21/08 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
G10F1/06 P
G10F1/06 K
G04B21/08 B
【請求項の数】19
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-554919(P2016-554919)
(86)(22)【出願日】2014年11月26日
(65)【公表番号】特表2017-502359(P2017-502359A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】EP2014075613
(87)【国際公開番号】WO2015086317
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2016年5月24日
(31)【優先権主張番号】13196157.5
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】カラパティス,ポリクロニス・ナキス
(72)【発明者】
【氏名】カドミリ,ユネス
(72)【発明者】
【氏名】サルチ・ダヴィデ
【審査官】
鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第2482275(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0162530(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10F 1/06
G04B 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片側が固定されている複数の細長材(2)を有する発動パワーが最適化されている少なくとも1つの振動プレート(1)を有する腕時計(100)又は演奏箱(200)用の打撃機構(50)であって、
前記細長材(2)はそれぞれ、不等式
【数1】
を満たすヤング率E及び密度ρを有する材料で形成されており、
前記細長材(2)のすべてはそれぞれ、関係
【数2】
を満たし、ここで、bは、前記細長材(2)の幅、Lは、前記細長材(2)の長さであり、δは、前記細長材の移動距離であり、fは、前記細長材(2)の周波数であり、Uは、前記細長材(2)の発動パワーであって20マイクロワット以上であり、
前記細長材(2)は、800Hz〜4000Hzにて振動するように構成しており、
前記振動プレート(1)の全体寸法は、前記振動プレート(1)の有効長が12mm以下、前記振動プレート(1)の幅が7mm以下、そして、前記振動プレート(1)の垂直方向の高さが1.5mm以下である
ことを特徴とする打撃機構(50)。
【請求項2】
前記細長材(2)はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPa又は密度が14〜22である材料によって形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項3】
前記細長材(2)はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPaかつ密度が14〜22である材料によって形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項4】
前記振動プレート(1)はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPaかつ密度が14〜22である材料によって形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の打撃機構(50)。
【請求項5】
前記振動プレート(1)はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPa又は密度が14〜22である材料によって形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の打撃機構(50)。
【請求項6】
前記細長材(2)の少なくとも1つは、金を含有する合金で作られている
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項7】
前記振動プレート(1)の前記細長材(2)はそれぞれ、金を含有する合金で作られている
ことを特徴とする請求項6に記載の打撃機構(50)。
【請求項8】
前記振動プレート(1)は、白金を、単独で又は少なくとも金とともに、含有する材料で作られている
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項9】
前記振動プレート(1)は、パラジウムを、単独で又は少なくとも金とともに、含有する材料で作られている
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項10】
前記細長材(2)は、高さ0.25mmを有し、これは、0.2mmの移動距離で発動する
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項11】
前記細長材(2)は、高さ0.35mmを有し、これは、0.15mmの移動距離で発動する
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項12】
前記細長材(2)は、対の間の0.07mmのギャップによって分離される
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項13】
前記細長材(2)の幅は、0.4mmである
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項14】
前記細長材(2)の少なくとも1つは、表面被覆を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項15】
前記細長材(2)の少なくとも1つは、そのコア材料と比べて硬化した表面を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項16】
前記細長材(2)の少なくとも1つは、中空である
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項17】
前記振動プレート(1)を形成する前記細長材(2)のすべては、前記振動プレート(1)の土台部分(3)と一体的なアセンブリーを形成している
ことを特徴とする請求項1に記載の打撃機構(50)。
【請求項18】
請求項1に記載の打撃機構(50)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする腕時計(100)。
【請求項19】
請求項1に記載の打撃機構(50)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする演奏箱(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片側が固定されている複数の細長材を有する発動エネルギーが最適化されている振動プレートを少なくとも1つ有する腕時計又は演奏箱用の打撃機構に関する。
【0002】
本発明は、さらに、このような機構を少なくとも1つ有する腕時計又は演奏箱によって形成されている計時器に関する。
【0003】
本発明は、打撃機構を有する計時器の分野に関し、特に、腕時計及び演奏箱の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
演奏機能付き腕時計又は演奏箱の打撃機構は、一般的に、振動プレートと、及び振動プレートの細長材を発動させる発動システムによって形成されている。この発動システムは、回転シリンダ、回転円板などであることができる。
【0005】
従来、振動プレートの材料は、主として、製造性と耐摩耗性・耐疲労性に基づいて選択されている。なぜなら、振動プレートの細長材は、繰り返し曲げ力を受け、細長材の表面と発動ピンとの間の摩擦が表面の摩耗やコーキングを引き起こすことがあるからである。同時に、従来、打撃機構付きの腕時計又は演奏箱の製造業者は、細長材の発動パワーをできるだけ大きくすることを常に試みてきた。これには、特に、最高のピッチ音に対応する最短の細長材に対して、非常に大きい曲げ力を必要とする。
【0006】
MONTRES BREGUET SA名義の欧州特許出願EP2482275A1は、腕時計の形の演奏箱用の振動プレートについて記載している。これは、平行な細長材の対の組によって構成しており、この細長材は、その一端がヒールに接続しており、細長材の対のそれぞれは、音叉を形成しており、対の細長材の一方を、演奏機能付きムーブメントのピンによって振動させることができ、対の細長材の他方に振動が縦波を介して伝搬する。特定の変種において、振動プレートは、貴金属、金又は金属性ガラスで作られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特定の弾性特性を有する材料で形成された最適化された振動プレートを打撃機構に対して導入することを提案するものである。これは、特に、外側部品を通して最適な音放射がなされることを確実にし、最小の全体寸法にて最大量のエネルギーを格納するために特定の幾何学的構成を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この放射を最適化する課題を克服するために、打撃機構用の振動プレートに関する精力的な研究を行った。これは、腕時計の外側部品にわずかに依存して発動パワーが所定のしきい値(約20マイクロワット)を超えなければならないということに焦点を当てるものである。これによって、効率的な放射が可能になり、音レベルが大きく改善する(このしきい値周辺で10dBよりも大きい改善)。しかし、このしきい値を超えると発動パワーを大きくすることに関して大きな利点はない。実際に、このしきい値を超えると、改善が線形的になる。これは、わずか3dBによって発生する音のレベルを大きくするために、利用可能なパワーを2倍にしなければならないことを意味する。
【0009】
同時に、近年、材料を被覆し硬化する技術によって計時器の部品の摩耗や疲労のリスクを減らし、打撃機構の振動プレート機能のために比較的可撓性を有する材料を用いることができるようになってきた。
【0010】
このことは、エネルギー及び部品の全体寸法の基準に基づいて(細長材はすべて20マイクロワットよりも大きい発動エネルギーがなければならない)、振動プレートの材料を選択することができることを意味する。
【0011】
したがって、本発明は、伝統的に用いられている鋼製の振動プレートよりも弾性係数が低く、かつ、密度が大きいような最適化された打撃機構振動プレートを定めることによって、業界の慣行に大きく反して通常では思い描かない手法を提案するものである。この本発明に係る最適化された振動プレートのファミリーの主な例は、金又は金合金で作られた振動プレートである。
【0012】
この材料又は同じ物理的条件を満たす他の材料を使用するおかげで、全体寸法が小さいまま、演奏される様々な音階の音レベルを標準化することができる。これによって、この最適なシステムを得るためには、以下の説明において詳細に説明する十分に定められており適応されている幾何学的構成を用いる必要がある。
【0013】
このために、本発明は、請求項1によれば、片側が固定されている複数の細長材を有する発動パワーが最適化されている少なくとも1つの振動プレートを有する腕時計又は演奏箱用の打撃機構に関する。
【0014】
本発明の別の特定の特徴によると、細長材はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPa又は密度が14〜22であるの材料で形成されている。
【0015】
本発明の別の特定の特徴によると、細長材はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPa、密度が14〜22である材料で形成されている。
【0016】
より詳細には、振動プレートは、ヤング率が70GPa〜120GPa、密度が14〜22である材料で形成されている。
【0017】
本発明の特定の特徴によると、細長材の少なくとも1つは、金を含有する合金で作られている。
【0018】
本発明は、さらに、このような機構を少なくとも1つ有する腕時計又は演奏箱によって形成される計時器に関する。
【0019】
添付図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る750金の振動プレート(E=110GPa、ρ=15100kg/m
3)を用いる場合に、X軸上の細長材の長さの関数として、800Hzにおいて基本曲げモードを有する細長材の発動パワー(単位はマイクロワット)の分布及び細長材の幅が0.4mmである場合のy軸上の細長材の持ち上げ量を示す概略図である。
【
図2】従来技術の鋼製の振動プレートを用いる場合の概略図であって、X軸は、細長材の長さ、Y軸は、細長材の垂直方向の合計寸法、すなわち、細長材の高さの合計であって、その移動距離の2倍である。これは、20マイクロワットの発動エネルギーを得るために評価される。この
図2は、特定の周波数における振動プレートの応答を示している(4000Hzの細長材は左側、800Hzの細長材は右側)。各実線曲線は、垂直方向の合計寸法との応答に対応しており、各点線曲線は、単一の移動距離に対応しており、細長材最大の全長及び動作限界を特徴づける垂直方向の合計寸法は、斜線領域によって表される。
【
図3】
図2と同様な形態の図であり、ヤング率が110GPa、密度が15.1の第1の750金の合金で作られた本発明に係る振動プレートに対応する図である。
【
図4】
図2と同様な形態の図であり、ヤング率が120GPa、密度が14.0の第2の金合金で作られた本発明に係る振動プレートに対応する図である。
【
図5】本発明に係る振動プレートの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、打撃機構を有する計時器の分野に関し、特に、打撃機構を有する腕時計や演奏箱の分野に関する。
【0022】
より詳細には、本発明は、発動エネルギーが最適化されている片側が固定されている複数の細長材2を有する腕時計100又は演奏箱200の打撃機構用の振動プレート1に関する。
【0023】
各細長材2は、所定の周波数で振動するような寸法構成を有する。振動プレート1全体は、特定範囲の可聴周波数を放射する振動を確実に発生するように構成している。より詳細には(これに制限されない)、この範囲は、800Hz〜4000Hzの周波数である。下で記載する概念的思考は、この周波数範囲の他のすべての制限値にも適用される。
【0024】
好ましいことに、本発明によると、振動プレート1の細長材2はそれぞれ、
【数1】
であるような材料で形成される。
【0025】
本発明の変種の1つにおいて、これらの細長材2はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPaである材料Mで作られる。
【0026】
別の変種の1つにおいて、少なくとも1つの細長材2は、白金又は白金合金で作られ、ヤング率が120GPaよりも大きい。
【0027】
本発明の変種の1つにおいて、これらの細長材2はそれぞれ、密度が14より大きく、特に、14〜22である。
【0028】
より詳細には、これらの細長材2はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPa又は密度が14〜22である材料で形成されている。
【0029】
より詳細には、これらの細長材2はそれぞれ、ヤング率が70GPa〜120GPa、かつ、密度が14〜22である材料で形成されている。
【0030】
より詳細には、振動プレートは、ヤング率が70GPa〜120GPa又は密度が14〜22である材料で形成されている。
【0031】
より詳細には、振動プレートは、ヤング率が70GPa〜120GPa、かつ、密度が14〜22である材料で形成されている。
【0032】
なお、ここでは、「密度」は、水に対する比重を意味する。したがって、値「λ」の密度は、λ・10
3kg/m
3の質量密度に対応する。通常の金又は金合金の異なるシェード、特に、18カラットの「750」金が、この基準を満たしている。
【0033】
本発明の変種の1つにおいて、少なくとも1つの細長材2は、金を含有する合金で作られている。
【0034】
本発明の変種の1つにおいて、少なくとも1つの細長材2は、少なくとも75%の金を含有する「750」金で作られている。
【0035】
他の材料も必要条件を満たしており、本発明に係る振動プレートの製造に用いるように思い描くことができ、単独でも、金と組み合わせても、少なくとも金と組み合わせても、このような材料の少なくとも2つを互いに又は他と組み合わせることができる。
【0036】
したがって、変種の1つでは、振動プレート1は、タングステン、イリジウム、白金、パラジウム、銀、銅、青銅、特定の鋳鉄、ガラス、水晶、ベリリウム、クロム、マンガン、モリブデン、「Invar(登録商標)」、「Inconels(登録商標)」、「Hastalloys(登録商標)」及び同様の要素、様々な炭化物、酸化ジルコニウム、及びサファイアからなる群から選択される少なくとも1つの要素を含有し、この少なくとも1つの要素は、単独で、金と組み合わせて、少なくとも金と組み合わせて、当該群の別の要素と組み合わせて、又は当該群の少なくとも2つの要素どうしを組み合わせて用いられる。
【0037】
より詳細には、タングステン、イリジウム、白金、パラジウム及び銀を単独で使用することができる。
【0038】
本発明のために定められる様々な基準に対して、毎回、Eとρの値を確かめるべきである。
【0039】
特定の実施形態において、
図5に示すように、振動プレート1を形成する細長材2はすべて、土台部分3と一体的なアセンブリーを形成し、この土台部分3を介して振動プレート1が固定される。この土台部分3は、各細長材2のアンカーヒールを形成する。これは、一端がアンカリングされ片持ちレバー構成でマウントされる振動ビームと同様である。図示していない他のいくつかの変種では、振動プレート1は、本発明に係るヤング率と密度値の範囲にすべてが適合する細長材2によって形成することができ、細長材2はそれぞれ、土台部分3にアンカリングされ、この土台部分3も同じ値の範囲に適合することが好ましい。
【0040】
本説明において、単純化のため、細長材2はそれぞれ、中実の平行六面体柱である。実際上、形状と断面が異なる中実又は中空の細長材2にも同じ論法を適用可能である。
【0041】
この特定の例において、ヤング率Eと密度ρの特定の材料Mのそれぞれに対して、細長材2の適切な幾何学的構成(細長材の最小長さ、最大長さ、高さh及び幅bによって定められる)が、以下の2つの数式を用いて数学的に得られる。これらの数式それぞれは、振動プレートの細長材の周波数と曲げエネルギー(一端がアンカリングされた薄いビームとしてモデル化される)を定める。
【数2】
【0042】
所与の材料及び周波数に対して、細長材2の高さhがその長さLによって決まる。
【数3】
【0043】
関係(3)を(2)に導入することによって、各細長材2の発動エネルギー(基本曲げモードSを有する)をその長さL及びその(固定幅bに対しての)移動距離δの関数として得ることができる。
【0044】
図1は、細長材の幅b=0.4mmである場合に、750金の振動プレート(E=110GPa、ρ=15100kg/m
3)に対しての基本曲げモードが800Hzである細長材の発動パワー(マイクロワットで)を、細長材の長さLと移動距離δの関数として示している。
【0045】
所与の材料、周波数、細長材幅及び発動エネルギーに対して、発動パワーU=20マイクロワットを得るのに必要なスイープが、以下のように細長材の長さLによって決められる(KO単位で)。
【数4】
【0046】
z方向の最大の寸法が2δ+h<H
maxによって決められ、それらの主軸によって定められる方向における細長材の最大の寸法が、L<L
maxによって決められる場合、式(4)は明確に最適な構成を決めることができる。
【0047】
デジタルの実装に対しては、細長材幅b=0.4mmが用いられ、打撃機構の振動プレートの典型的な制限周波数は、以下のように考えられる。f
min=800Hz、かつ、f
max=4000Hz
【0048】
E=185GPaかつ密度8000kg/m3の鋼で作られた振動プレートに対しては、式(4)によって、
図2に示す曲線が得られる。これは、細長材の長さの関数として、800Hzの細長材及び4000Hzの細長材に対して、発動エネルギーU=20マイクロワットを得るのに必要な移動距離δ、そして、垂直方向の合計寸法(細長材の高さと移動距離の2倍との和h+2δによって定められる)を示している。細長材の長さと垂直方向の合計寸法の最大の寸法は、斜線領域によって表されている。グラフC1及びC2は、4000Hzの周波数をそれぞれ垂直方向の合計寸法h+2δ又は単に移動距離δとともに表している。グラフC3及びC4は、800Hzの周波数に対応するものである。
【0049】
図2は、20マイクロワットの発動エネルギーを得るように移動距離が計算された図であり、特定の周波数における振動プレートの応答を示しており(4000Hzの細長材は左側、800Hzの細長材は右側)、実線の各曲線は、垂直方向の合計寸法との応答に対応しており、点線の各曲線は、単に移動距離に対応している。細長材の長さと垂直方向の合計における最大の寸法は、動作限界の特徴が反映されたものであり、斜線領域によって表されている。この領域の外では、伝統的な腕時計に振動プレートを組み入れることができない。
【0050】
したがって、
図2は、最大の許容可能な全体寸法(ここでは、Lは12mm以下であり、合計の最大の全体寸法は1.5mm以下である)の範囲内にて、必要な(又はそれよりも大きな)力で4000Hzの細長材を発動させることができることを示している。いくつかの幾何学的構成がこの結果を可能にする。例えば、移動距離δ=0.2mmで発動される長さL=7.5mm及び高さh=0.25mmの細長材である。これは、周波数4000Hzの実線グラフC2上の点Aに対応する。しかし、この振動プレートの材料が、許容可能な全体寸法の範囲内で、必要な最小パワーを備えた800Hzの細長材を発動させることができない。なぜなら、最大の全体寸法の800Hzの周波数に対応する曲線C3(連続曲線)が、振動プレートの最大の全体寸法に特有な領域を通り抜けないからである。800Hzで振動し垂直方向の合計寸法が同じであるような細長材、すなわち、グラフC3の上の点Bにおけるものは、17.4mmの長さLを必要とする。
【0051】
結論として、腕時計の伝統的な全体寸法の範囲内で、鋼製の振動プレートは、すべての周波数で最適な音響放射を得られるほど十分なエネルギーで細長材を発動させることができない。
【0052】
本発明に係る振動プレート、特に、750金(E=110GPa及びρ=15100kg/m
3)で作られたものに対して、式(4)によって、
図3に示す曲線を得る。これは、
図2のグラフと類似しており、750金で作られた本発明に係る振動プレート1に関連するものである。この場合、所望の全体寸法範囲内に留まりつつ、十分なパワーで800Hzの細長材を発動させることもできる。したがって、細長材をすべて同じエネルギーで発動させることができる。すなわち、グラフC3の点Cに対応する可能な構成のうちの1つにおいて、800Hzの細長材は、長さL=12mm及び高さh=0.3mmを有し、これは、移動距離δ=0.5mmで発動される。すなわち、1.3mmの最大の合計全体寸法を有する。これに対し、4000Hzの周波数に対応するグラフC1の点Dにおいて、対応する細長材2は、移動距離δ=0.15mmで発動される長さL=6mm、高さh=0.35を有する。すなわち、0.65mmの最大の合計全体寸法を有する。
【0053】
対どうしが約0.07mmのギャップによって分離される15の細長材2を備え、本発明によって定められる物性(Eが70GPa〜120GPa、密度が14000kg/m
3〜20000kg/m
3)を有する振動プレート1であっても、(12mm×7mm×1.5mm)に制限される全体寸法(振動プレートの有効長×振動プレートの幅×垂直方向の高さ)の範囲内で20マイクロワットよりも大きいエネルギーで、すべての細長材2を発動させることができる。
【0054】
図4は、機械的なパラメーター(E=120GPa、ρ=14000kg/m
3)の制限値(したがって、最も臨界的な値)に対して移動距離及び垂直方向の全体寸法を定める曲線を示している。この場合でも、振動プレートの最適な寸法取りが可能である。グラフC3は、斜線領域を通り抜け、グラフC3の点Eにて、長さがL=11.5mm、最大の全体高さ寸法が1.45mmの細長材が、800Hzの周波数に適しており、一方で、4000Hzの周波数の音の放射を確実にすることは困難ではない。
【0055】
要するに、パラメーターに依存して、本発明に係る細長材2の周波数及び発動パワーがパラメーターに依存して異なる機能的な依存性を有することによって、鋼製の振動プレートと比べて改善することができる。特に、同じ発動エネルギーの場合に、
【数5】
であることによってである。ここで、c=c(b、f)は、細長材の幅及び周波数のみに依存し、細長材2の長さにも移動距離にも依存しないような関数である。
【0056】
具体的には、δ
2L
3は、(E/ρ
3)
1/2に比例している。
【0057】
したがって、鋼よりも密度が高い及び/又は弾性係数が低い場合、必要な移動距離又は細長材2の長さL、又はこれら両方の寸法を同時に小さくすることが可能である。
【0058】
本発明の変種の1つにおいて、少なくとも1つの細長材2は、表面被覆を有する。
【0059】
本発明の変種の1つにおいて、少なくとも1つの細長材2は、そのコア材料と比べて硬化した表面を有する。
【0060】
本発明によって与えられる利点は、以下のように重大である。
− 腕時計又は演奏箱によって放射される音の音響レベルが1kHz〜4kHzの周波数帯にて大きくなる。
− メロディー演奏時に知覚される音響レベルの均一性が増す。音発生部品(振動プレートとディスク)の全体寸法が小さくなる。
【0061】
本発明は、さらに、このような振動プレート1を少なくとも1つ有する腕時計100又は演奏箱200用の打撃機構50に関する。
【0062】
本発明は、さらに、このような機構50を少なくとも1つ及び/又はこのような振動プレート1を少なくとも1つ有する腕時計100又は演奏箱200によって形成される計時器500に関する。