特許第6196773号(P6196773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196773
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20170904BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   B24B37/24 Z
   H01L21/304 622F
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-286761(P2012-286761)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-128839(P2014-128839A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・ハース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一則
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−202668(JP,A)
【文献】 特開2002−001648(JP,A)
【文献】 特開2006−100556(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/082156(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00−37/34
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物に圧接される発泡樹脂層を備える研磨パッドであって、
前記発泡樹脂層中には、有機フィラーが含まれており、
前記発泡樹脂層の表面において、全ての気泡の個数を積算した総個数に対して、気泡径が50μmを超えて100μm以下である気泡の個数の占める割合が、38%以上である、
ことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記有機フィラーが、有機繊維である、
請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記有機繊維の長さが、1μm〜10mmである、
請求項に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記有機フィラーが、前記発泡樹脂層を形成する樹脂組成物に対して、0.1〜5.0重量%添加される、
請求項1ないし3のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記発泡樹脂層が、発泡ウレタン樹脂層である、
請求項1ないし4のいずれかに記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハやガラス基板などの被研磨物の表面を平坦化処理するのに使用される研磨パッドに関し、更に詳しくは、発泡樹脂層を有する研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造分野では、半導体デバイスの高集積化の要請により、配線部の微細化や多層配線化が進んでいる。これに伴って、半導体ウェハ表面の凹凸を平坦化する技術が必要不可欠となっている。かかる半導体ウエハなどの被研磨物の表面の凹凸を平坦化する技術として、一般に、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)法が用いられている。
【0003】
かかるCMP法による研磨装置では、ウェハが保持された上定盤と研磨パッドを装着した下定盤とによって、ウェハと研磨パッドとを加圧した状態で、その間に砥粒を含むスラリーを供給しながら、ウェハと研磨パッドとを相対的に摺動させることによって研磨を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記研磨装置に用いられる従来の研磨パッドとして、耐摩耗性等に優れた発泡ポリウレタンを使用したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
かかる研磨パッドの一般的な製造方法として、イソシアネート基含有化合物を含む主剤と、芳香族アミンなどの活性水素基含有化合物を含む硬化剤とを混合、攪拌して硬化させる、いわゆる2液硬化型ポリウレタンを用いた製造方法がある。
【0006】
この製造方法では、例えば、主剤に発泡剤として水を混入してイソシアネート基と水との反応による炭酸ガスの発生と、機械的な混合によって発生する巻き込みエアの両方によって、研磨パッド中に大小様々な気泡(空孔)が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−49448号公報
【特許文献2】特開2005−236200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、半導体ウェハやガラス基板などの被研磨物の表面研磨では、研磨パッドの表面性状が、被研磨物の平坦度や研磨レートなどの研磨性能に大きく影響を及ぼしており、研磨性能の向上を図る上で、研磨パッドの気泡のサイズや分布を制御することは重要である。
【0009】
上記発泡ウレタン製の研磨パッドの製造方法では、界面活性剤の投入や粘度の低いウレタン樹脂を使用することなどによって、ある程度、気泡サイズやその分布を制御することは出来るものの、例えば、100μm程度の緻密で微細な気泡を安定して分布させることは非常に困難である。
【0010】
本発明は、上述のような点に鑑みてなされたものであって、緻密で微細な気泡を有する研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の研磨パッドは、被研磨物に圧接される発泡樹脂層を備える研磨パッドであって、前記発泡樹脂層中には、有機フィラーが含まれており、前記発泡樹脂層の表面において、全ての気泡の個数を積算した総個数に対して、気泡径が50μmを超えて100μm以下である気泡の個数の占める割合が、38%以上である。
【0012】
有機フィラーとしては、有機繊維が好ましい。
【0013】
有機繊維は、その長さが、1μm〜10mmであるのが好ましく、1μm〜200μmであるのがより好ましい。
【0014】
有機フィラーは、前記発泡樹脂層を形成する樹脂組成物に対して、0.1〜5.0重量%添加されるのが好ましく、1.0〜5.0重量%添加されるのがより好ましい。
【0015】
発泡樹脂層としては、発泡ウレタン樹脂層であるのが好ましい。
【0016】
本発明の研磨パッドは、発泡樹脂層の単層構造であってもよいし、クッション層等を備える積層構造であってもよい。
【0017】
本発明によると、発泡樹脂層中に、有機繊維等の有機フィラーが含まれているので、有機フィラーによって樹脂が発泡する際のエネルギーが低減され、有機フィラーと樹脂との界面で微細な泡が発生し易くなり、緻密で微細な気泡の発泡樹脂層を有する研磨パッドを得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発泡樹脂層中に有機フィラーが含まれているので、緻密で微細な気泡の発泡樹脂層を備える研磨パッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】CMP研磨装置の概略構成を示す図である。
図2】比較例(a)及び実施例(b)の研磨パッド表面の倍率50倍のSEM写真である。
図3】比較例(a)及び実施例(b)の研磨パッド表面の倍率100倍のSEM写真である。
図4】比較例(a)及び実施例(b)の研磨パッド表面の倍率300倍のSEM写真である。
図5】比較例(a)及び実施例(b)の研磨パッド断面の倍率50倍のSEM写真である。
図6】有機繊維を添加した無発泡のウレタン樹脂である参考例の表面の倍率50倍(a)及び倍率100倍(b)のSEM写真である。
図7】実施例及び比較例の各研磨パッドの気泡サイズの分布を示す図である。
図8】泡の球状モデルを示す図である。
図9】泡の持つエネルギーを説明するための図である。
図10】平らな壁面に生じた泡のモデルを示す図である。
図11】実施例及び比較例の各研磨パッドの研磨レートを示す図である。
図12】研磨後の比較例(a)及び実施例(b)の各研磨パッド表面の倍率50倍のSEM写真である。
図13】研磨後の比較例(a)及び実施例(b)の各研磨パッドの周縁部分の倍率50倍のSEM写真である。
図14】研磨後の比較例(a)及び実施例(b)の各研磨パッド表面の樹脂面積率を示す倍率50倍のSEM写真である。
図15】研磨後の比較例(a)及び実施例(b)の各研磨パッドのコンタクトエリアを模式的に示す図である。
図16】比較例(a)及び実施例1(b)〜実施例5(f)の各研磨パッド表面の倍率50倍のSEM写真である。
図17】比較例(a)及び実施例1(b)〜実施例5(f)の各研磨パッド表面の倍率100倍のSEM写真である。
図18】比較例(a)及び実施例1(b)〜実施例5(f)の各研磨パッド断面の倍率50倍のSEM写真である。
図19】比較例(a)及び実施例1(b)〜実施例5(f)の各研磨パッド表面の樹脂面積率を示す倍率50倍のSEM写真である。
図20】比較例及び実施例1〜5の各研磨パッドの気泡サイズの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面によって本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る研磨パッドが使用されるCMP研磨装置の概略構成図である。
【0022】
このCMP研磨装置では、定盤1の表面に、本発明の一実施形態に係る研磨パッド2が取付けられ、被研磨物としての半導体ウェハ5は、研磨ヘッド6に、バッキングフィルム7を介して保持される。研磨パッド2上には、研磨用のスラリー3がスラリー供給装置4から供給され、研磨パッド2上を広がって半導体ウェハ5に到達する。
【0023】
研磨ヘッド6に荷重が加えられることによって、半導体ウェハ5は、研磨パッド2に押し付けられ、定盤1と研磨ヘッド6とが、矢符Aで示すように同方向に回転して相対的に移動し、研磨パッド2と半導体ウェハ5との間にスラリー3が浸入して研磨が行われる。なお、8は研磨パッド2の表面を目立てするためのドレッサーである。
【0024】
この実施形態の研磨パッド2は、発泡樹脂層の単層構造からなり、発泡樹脂層中には、有機フィラーとしての有機繊維が含まれている。
【0025】
発泡樹脂としては、従来からこの種の研磨パッドの発泡層として使用されている樹脂、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等の一種または2種以上を用いることができる。
【0026】
この発泡樹脂層の気泡は、水発泡等の化学的発泡や機械的な攪拌による発泡であってもよく、それらを組合せてもよい。
【0027】
有機繊維としては、ポリイミド繊維、テフロン(登録商標)繊維、またはポリエステル繊維等を使用することができ、その繊維の長さは、1μm〜10mmであるのが好ましく、より好ましくは1μm〜200μmである。
【0028】
また、有機フィラーである有機繊維は、樹脂組成物全体に対して、0.1〜5.0重量%添加されるのが好ましく、1.0〜5.0重量%添加されるのがより好ましい。有機繊維の添加量が少な過ぎると、緻密で微細な気泡を十分に生成することができず、多過ぎると有機繊維が分散しにくく、成形性が低下する。
【0029】
この実施形態の研磨パッドでは、発泡樹脂として、発泡ウレタン樹脂を用いており、この研磨パッドは、例えば、次のようにして製造することができる。すなわち、イソシアネート基含有化合物であるイソシアネート末端プレポリマーと、活性水素含有化合物である芳香族アミンと、有機繊維とを、発泡剤である水と共に混合攪拌し、所定の型に注型し、反応硬化させて有機繊維が分散された発泡ウレタン樹脂の成型体を得、この発泡ウレタン樹脂の成型体を、所定の厚さのシート状に裁断し、打ち抜いて得ることができる。
【0030】
有機繊維は、イソシアネート末端プレポリマーと、活性水素含有化合物である芳香族アミンとを混合する際に、上記所定量を添加すればよい。
【0031】
イソシアネート末端プレポリマーは、ポリイソシアネートとポリオールとを、通常用いられる条件で反応させて得られるものである。このイソシアネート末端プレポリマーは、市販されているものを用いてもよいし、ポリオールとポリイソシアネートとから合成して用いてもよい。
【0032】
ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
ポリオールとしては、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールやポリ(オキシプロピレン)グリコール等のポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエステル系ポリオール等が挙げられる。
【0034】
研磨用としては、加水分解を起こさないエーテル系のポリオールが好ましく、エーテル系のポリオールとして、PPG(ポリプロピレングリコール)、PTMG(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)、PEG(ポリエチレングリコール)等の−O−結合を有するものが好ましく、その中でも一般的には、物性(引張り特性)の良好なPTMG系が好ましい。特に、分子量MW=500〜5000のPTMGが好ましい。
【0035】
活性水素含有化合物である芳香族アミンとしては、例えば、ジアミン系化合物として、3,3´−ジクロロ−4,4´−ジアミノジフェニルメタン(MOCA )、クロロアニリン変性ジクロロジアミノジフェニルメタン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を、実施例及び比較例に基づいて、更に詳細に説明する。
【0037】
本願出願人が製造販売する発泡ウレタン樹脂からなる研磨パッドである、MH−S15A(商品名)を比較例とし、この比較例の発泡ウレタン樹脂を形成する樹脂組成物に対して、有機繊維を2重量%添加した研磨パッドを製作して実施例とした。また、参考例として、発泡剤を添加することなく、ウレタン樹脂中に有機繊維を2重量%添加した無発泡ウレタンの研磨パッドを製作した。
【0038】
有機繊維としては、ポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート繊維を使用し、その繊維の長さは、平均100μmであった。
【0039】
この有機繊維を、イソシアネート末端プレポリマーと芳香族アミンとを含むウレタン樹脂組成物に対して、その配合割合が、2重量%となるように添加した。
【0040】
比較例の研磨パッドの密度は0.48g/cm3であり、製作した実施例の研磨パッドの密度は0.47g/cm3であった。
【0041】
比較例及び実施例の各研磨パッドを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0042】
図2図4に、比較例及び実施例の各研磨パッド表面の倍率を異ならせたSEM写真を、また、図5に、各研磨パッド断面のSEM写真をそれぞれ示す。図2及び図5は倍率が50倍、図3は倍率が100倍、図4は倍率が300倍であり、各図において、(a)は比較例を、(b)は実施例をそれぞれ示す。また、図6(a),(b)には、有機繊維を添加した無発泡のウレタン樹脂である参考例の研磨パッド表面の倍率50倍及び倍率100倍のSEM写真を示す。
【0043】
図2図5に示されるように、各図(a)の比較例に比べて、各図(b)の実施例では、緻密で微細な気泡が多数発現していることが分る。
【0044】
また、実施例及び比較例の各研磨パッドの気泡サイズの分布を、次のようして測定した。
【0045】
すなわち、各研磨パッドの表面を撮像した画像を、画像解析ソフトウェアであるWinRoof Ver5.6.2(三谷商事製)を用いて、円形近似した気泡の部分と樹脂部分とに2値化して計測し、気泡径の分布を算出した。
【0046】
図7に、実施例及び比較例の各研磨パッドの気泡サイズの分布の測定結果を示す。この図7において、横軸は気泡サイズ、すなわち、気泡径(μm)を、縦軸はその個数を示しており、実線が実施例を、破線が比較例を示している。なお、この図7では、50μm、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μmの各気泡サイズにおける個数は、それぞれ「−50μm」を超えて「+0μm」までの気泡サイズの範囲に属する気泡の個数を計測して積算した値であり、これら各積算値を直線で結んで示したものである。
【0047】
したがって、例えば、気泡サイズ100μmの個数は、50μmを超えて100μmまでの気泡サイズの範囲に属する気泡の個数であり、また、気泡サイズ150μmの個数は、100μmを超えて150μmまでの気泡サイズの範囲に属する気泡の個数である。
【0048】
図7に示すように、実線で示される実施例は、破線で示される比較例に比べて、気泡サイズが約100μmを中心とする緻密で微細な気泡が、約2.5倍多く分布していることが分る。また、気泡サイズも、50μm、100μm、150μm、200μmといったように比較的広く分布しており、0μm〜350μm程度に亘って大小様々な気泡が生成されている。
図7における各気泡サイズの気泡の個数を、図7から読み取ると、実施例では、0μmを超えて50μmまでが160個、50μを超えて100μmまでが250個、100μmを超えて150μmまでが140個、150μを超えて200μmまでが45個、200μmを超えて250μmまでが10個、250μmを超えて300μmまでは0個、300μmを超えても0個であり、前記の各気泡サイズの気泡の個数を積算した全ての気泡の総個数は、605個であった。
同様に、比較例における各気泡サイズの気泡の個数を、図7から読み取ると、0μmを超えて50μmまでが40個、50μを超えて100μmまでが95個、100μmを超えて150μmまでが90個、150μを超えて200μmまでが50個、200μmを超えて250μmまでが20個、250μmを超えて300μmまでは10個、300μmを超えて350μmまでは10個、350μmを超えて400μmまでは0個、400μmを超えても0個であり、前記の各気泡サイズの気泡の個数を積算した全ての気泡の総個数は、315個であった。
したがって、全ての気泡の個数を積算した総個数に対する、緻密で微細な気泡である、気泡サイズ、すなわち、気泡径が50μmを超えて100μm以下である気泡の個数の占める割合は、実施例では、41%[=(250/605)×100]であり、比較例では、30%[=(95/315)×100]である。
【0049】
ここで、有機繊維等の有機フィラーを添加することによって、緻密で微細な気泡が多く発現する理由は、次のように考えることができる。
【0050】
物体はエネルギーをより小さくする(安定する)方向に動こうとする。本発明はこの原理を利用している。泡の挙動に関してエネルギーの視点に立ってモデルを立てると、図8のような球状のモデルが考えられる。炭酸ガスは気化している状態の方が安定なため、半径rの泡が持つ体積エネルギーU1(r)は下記の式で表される。
【0051】
1(r)=−aV=−(4πa/3)r3
a:正の比例定数
また、界面エネルギーの観点から、界面の面積が小さいほどエネルギーは安定するので界面エネルギーU2(r)は下記の式で表される。
【0052】
2(r)=bS=4πbr2
b:正の比例定数
上記より、泡の持つエネルギーU(r)は下記の式で表される。
【0053】
U(r)=U1(r)+U2(r)
=−(4πa/3)r3+4πbr2
この式をグラフにすると図9のように表せる。
【0054】
泡の半径は負になることはないのでr>0である。 r<2b/aの時は界面エネルギーの影響が大きく、泡が萎もうとするため泡が生成されない。 r>2b/aの時はrが増加するにつれエネルギーは小さくなっていく。これは、炭酸ガスは気化した方が安定なためである。2b/aを臨界半径と呼ぶ。また臨界半径での泡のエネルギーをエネルギー障壁と呼ぶ。
【0055】
半径rの泡が生成するためには外からエネルギーがU(r)だけ必要である。本発明の場合、化学発泡による反応熱と機械的な攪拌によるエネルギーがそれにあたる。
【0056】
ここで、図10に示される平らな壁面に生じた泡のモデルを考える。この泡を半径rの半球として近似し、気体と壁の界面のエネルギーは無視出来るとすると、エネルギーU(r)は下記のように表せる。
【0057】
U(r)=−(2πa/3)r3+2πbr2
この式から臨界半径を計算すると、泡が球だった時と同じr=2b/aとなるが、エネルギー障壁の大きさU(2b/a)は泡が球だった時の半分になる。これは壁からエネルギーが発生した方が必要なエネルギーが半分で済むので、より泡が発生し易くなることを意味している。
【0058】
この理由によって、反応中のウレタンに有機フィラーを混ぜることで、図10の状態(壁=有機フィラー)が生まれ、その界面から微細な泡を発生させることが可能となる。
【0059】
このようにウレタンが水と反応し炭酸ガスを発生する際に、有機フィラーが存在することによって泡発生時のエネルギーが低減され、有機フィラーとウレタンの界面で微細な泡が発生し易くなる。
【0060】
有機フィラーとして有機繊維を使用した際は、上述の図4(b)にも示されるように、研磨パッドを製造した際に、有機繊維がその形のまま研磨パッド表面上に現れる。これは研磨パッド表面上の凹凸の一部を担うが、これが研磨中に微細なコンタクト部分の一部として機能する。微細コンタクトエリアの増加にも寄与することとなる。
【0061】
次に、実施例及び比較例の研磨パッドを用いて、下記の研磨条件及びダイヤドレス条件でガラスディスクの研磨を行い、研磨レートを計測した。なおダイヤモンドドレッサーによるドレッシングを挟んで各研磨パッドを用いて研磨を3回(3Run)行った。
【0062】
研磨条件
研磨機:MA−200D (ムサシノ電子(株)製)
スラリー:セリアスラリー、8重量%
スラリー流量:50ml/min
加工圧力:160gf/cm2
キャリヤ回転数:110rpm
プラテン回転数:130rpm
時間:10min/Run
ドレッシング条件
番手:100番手
加工圧力:120gf/cm2
環境:ドライ
ドレッサー回転数:110rpm
プラテン回転数:130rpm
時間:10分
図11に、各研磨パッドの3回(3Run)の研磨の研磨レート(RR:Removal Rate)の計測結果を示す。この図11では、実線が実施例の研磨パッドの研磨レートを、破線が比較例の研磨パッドの研磨レートをそれぞれ示している。
【0063】
破線で示される比較例に比べて、実線で示される実施例の研磨パッドでは、研磨レートが、20%程度向上していることが分る。これは、緻密で微細な気泡が多いので、被研磨物に接触する研磨パッドのコンタクトエリアの増加による影響と考えられる。
【0064】
次に、研磨後の比較例及び実施例の各研磨パッドの表面及び周縁部分を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、また、各研磨パッド表面の樹脂面積率及びコンタクトエリアを測定した。
【0065】
図12に、研磨後の各研磨パッド表面の倍率50倍のSEM写真を、図13に、研磨後の各研磨パッドの、上面及び側面の一部を含む周縁部分の倍率50倍のSEM写真を示す。各図において、(a)は比較例を、(b)は実施例を示す。
【0066】
また、図14は、研磨後の各研磨パッド表面の樹脂面積率を示す倍率50倍のSEM写真であり、(a)は比較例を、(b)は実施例を示す。
【0067】
更に、図15は、研磨後の各研磨パッドのコンタクトエリアを模式的に示す図であり、(a)は比較例を、(b)は実施例を示す。
【0068】
図14の表面の樹脂面積率は、次にようにして測定した。
【0069】
すなわち、各研磨パッドの表面を撮像した画像を、画像解析ソフトウェアであるWinRoof Ver5.6.2(三谷商事製)を用いて、円形近似した気泡の部分と樹脂部分とに2値化して計測し、気泡面積を算出した。次に当該画像の解析部面積を算出し、前記気泡面積を差し引き、樹脂面積を算出した。そして、前記樹脂面積を前記解析部面積で除することにより、樹脂面積率を求めた。
【0070】
また、図15のコンタクトエリアは、次のようにして測定した。すなわち、研磨パッドの表面にガラス板を設置し当該ガラスパッド裏面側から圧力を印加する。前記研磨パッド表面側ガラス板上方からレーザー照射装置により、レーザー光を照射する。係る操作により、当該研磨パッド表面が当該ガラス板に接触した部分、すなわちコンタクトエリア部分の屈折率が変化するので、当該圧力印加部分を前記研磨パッド表面側ガラス板上方に設置したCCDカメラにより撮像する。ついで、係る写真を画像解析ソフトウェアであるWinRoof Ver5.6.2(三谷商事製)を用いて解析することにより、コンタクトエリアを測定した。
【0071】
図14(a)の比較例の研磨パッドの樹脂面積率は33.0%であり、図14(b)の実施例の樹脂面積率は33.3%であり、殆ど差は認められなかった。
【0072】
図15(a)の比較例の研磨パッドでは、コンタクトエリアは0.39%であったのに対して、図15(b)の実施例の研磨パッドでは、コンタクトエリアは1.64%であり、4倍以上の値を示した。
【0073】
このように樹脂面積率は、殆ど差がないのに対して、コンタクトエリアは、4倍以上となっており、上述の研磨レートの向上に寄与していると考えられる。
【0074】
以上のように実施例の研磨パッドによれば、従来例である比較例の研磨パッドに比べて、緻密で微細な気泡が多数存在しているので、コンタクトエリアが増加し、研磨レートが向上すると共に、被研磨物の平坦度が向上する。
【0075】
上記実施例では、有機繊維を2重量%添加したが、この有機繊維の添加量を変化させた場合について検討した結果を説明する。
【0076】
有機繊維を含まない上記比較例の発泡ウレタン樹脂を形成する樹脂組成物に対して、有機繊維を、0.10重量%、0.50重量%、1.00重量%、2.00重量%、5.00重量%それぞれ添加した実施例1〜5の研磨パッドを製作した。なお、有機繊維の添加量が2.00重量%の実施例4は、上述の実施例と同じである。
【0077】
また、有機繊維を、6.00重量%を添加した研磨パッドを製作しようとしたが、粘度が高過ぎて有機繊維を分散させることができず、製作することができなかった。
【0078】
比較例及び製作した実施例1〜5の研磨パッドの密度はそれぞれ、0.48g/cm3、0.50g/cm3、0.48g/cm3、0.46g/cm3、0.47g/cm3、0.43g/cm3であった。
【0079】
比較例及び実施例1〜5の各研磨パッドを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0080】
その結果を、図16図19にそれぞれ示す。図16は、比較例及び実施例1〜5の各研磨パッド表面の倍率50倍のSEM写真であり、図17は、比較例及び実施例1〜5の各研磨パッド表面の倍率100倍のSEM写真であり、図18は、比較例及び実施例1〜5の各研磨パッド断面の倍率50倍のSEM写真である。
【0081】
また、図19は、比較例及び実施例1〜5の各研磨パッド表面の樹脂面積率を示す倍率50倍のSEM写真である。
【0082】
これらの図16図19において、(a)有機繊維を含まない比較例、(b)は有機繊維を0.10重量%添加した実施例1、(c)は有機繊維を0.50重量%添加した実施例2、(d)は有機繊維を1.00重量%添加した実施例3、(e)は有機繊維を2.00重量%添加した実施例4、(f)は有機繊維を5.00重量%添加した実施例5である。
【0083】
図19の樹脂面積率は、(a)の比較例が33.0%、(b)の実施例1が32.4%、(c)の実施例2が29.8%、(d)の実施例3が34.0%、(e)の実施例4が33.3%、(f)の実施例5が29.8%であった。
【0084】
比較例及び実施例1〜5の各研磨パッドの気泡サイズを、上述の図7と同様に測定した。測定結果を、図20に示す。
【0085】
この図20に示すように、破線で示される比較例に比べて、各実施例1〜5の各研磨パッドは、気泡サイズが約100μmを中心とする緻密で微細な気泡が、多く分布していることが分る。
上記図7と同様に、この図20から各気泡サイズの気泡の個数を読み取って、全ての気泡の個数を積算した総個数に対する、緻密で微細な気泡である、気泡径が50μmを超えて100μm以下である気泡の個数の占める割合を算出すると、次のようになる。
すなわち、有機繊維を0.10重量%添加した実施例1は前記割合が40%、有機繊維を0.50重量%添加した実施例2は前記割合が38%、有機繊維を1.00重量%添加した実施例3は前記割合が43%、有機繊維を2.00重量%添加した実施例4、すなわち、上記実施例は図7で説明したように、前記割合が41%、有機繊維を5.00重量%添加した実施例5は前記割合が41%である。
有機繊維を含まない上記比較例は、上記図7で説明したように、前記割合が、30%である
このように本発明の各実施例1−5は、全ての気泡の個数を積算した総個数に対して、気泡径が50μmを超えて100μm以下である、緻密で微細な気泡の個数の占める割合が、38%以上であるのに対して、比較例は、この割合が30%である。
【0086】
有機繊維の添加量が0.10重量%の実施例1、及び、0.50重量%の実施例2は、比較例に比べて、気泡サイズが100μm程度である緻密で微細な気泡が、約1.5倍多く分布しており、有機繊維の添加量が1.00重量%以上である実施例3〜実施例5は、比較例に比べて、気泡サイズが100μm程度である緻密で微細な気泡が、約2倍以上多く分布していることが分る。
【0087】
このように、有機繊維を、0.10重量%〜5.00重量%添加することによって、従来例である比較例に比べて、気泡サイズが100μm程度である緻密で微細な気泡を多数生成することができる。
【0088】
上述の実施例では、有機フィラーとして有機繊維を用いたけれども、有機繊維に限らず、例えば、多孔質の球状の有機粒子などを用いてもよい。
【0089】
上述の実施形態では、単層構造の研磨パッドに適用して説明したけれども、クッション層等を有する積層構造の研磨パッドとしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
2 研磨パッド
3 スラリー
5 半導体ウェハ
6 研磨ヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20