【実施例】
【0036】
以下、本発明を、実施例及び比較例に基づいて、更に詳細に説明する。
【0037】
本願出願人が製造販売する発泡ウレタン樹脂からなる研磨パッドである、MH−S15A(商品名)を比較例とし、この比較例の発泡ウレタン樹脂を形成する樹脂組成物に対して、有機繊維を2重量%添加した研磨パッドを製作して実施例とした。また、参考例として、発泡剤を添加することなく、ウレタン樹脂中に有機繊維を2重量%添加した無発泡ウレタンの研磨パッドを製作した。
【0038】
有機繊維としては、ポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート繊維を使用し、その繊維の長さは、平均100μmであった。
【0039】
この有機繊維を、イソシアネート末端プレポリマーと芳香族アミンとを含むウレタン樹脂組成物に対して、その配合割合が、2重量%となるように添加した。
【0040】
比較例の研磨パッドの密度は0.48g/cm
3であり、製作した実施例の研磨パッドの密度は0.47g/cm
3であった。
【0041】
比較例及び実施例の各研磨パッドを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0042】
図2〜
図4に、比較例及び実施例の各研磨パッド表面の倍率を異ならせたSEM写真を、また、
図5に、各研磨パッド断面のSEM写真をそれぞれ示す。
図2及び
図5は倍率が50倍、
図3は倍率が100倍、
図4は倍率が300倍であり、各図において、(a)は比較例を、(b)は実施例をそれぞれ示す。また、
図6(a),(b)には、有機繊維を添加した無発泡のウレタン樹脂である参考例の研磨パッド表面の倍率50倍及び倍率100倍のSEM写真を示す。
【0043】
図2〜
図5に示されるように、各図(a)の比較例に比べて、各図(b)の実施例では、緻密で微細な気泡が多数発現していることが分る。
【0044】
また、実施例及び比較例の各研磨パッドの気泡サイズの分布を、次のようして測定した。
【0045】
すなわち、各研磨パッドの表面を撮像した画像を、画像解析ソフトウェアであるWinRoof Ver5.6.2(三谷商事製)を用いて、円形近似した気泡の部分と樹脂部分とに2値化して計測し、気泡径の分布を算出した。
【0046】
図7に、実施例及び比較例の各研磨パッドの気泡サイズの分布の測定結果を示す。この
図7において、横軸は気泡サイズ、すなわち、気泡径(μm)を、縦軸はその個数を示しており、実線が実施例を、破線が比較例を示している。なお、この
図7では、50μm、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μmの各気泡サイズにおける個数は、それぞれ「−50μm」を超えて「+0μm」までの気泡サイズの範囲に属する気泡の個数を計測して積算した値であり、これら各積算値を直線で結んで示したものである。
【0047】
したがって、例えば、気泡サイズ100μmの個数は、50μmを超えて100μmまでの気泡サイズの範囲に属する気泡の個数であり、また、気泡サイズ150μmの個数は、100μmを超えて150μmまでの気泡サイズの範囲に属する気泡の個数である。
【0048】
図7に示すように、実線で示される実施例は、破線で示される比較例に比べて、気泡サイズが約100μmを中心とする緻密で微細な気泡が、約2.5倍多く分布していることが分る。また、気泡サイズも、50μm、100μm、150μm、200μmといったように比較的広く分布しており、0μm〜350μm程度に亘って大小様々な気泡が生成されている。
図7における各気泡サイズの気泡の個数を、図7から読み取ると、実施例では、0μmを超えて50μmまでが160個、50μを超えて100μmまでが250個、100μmを超えて150μmまでが140個、150μを超えて200μmまでが45個、200μmを超えて250μmまでが10個、250μmを超えて300μmまでは0個、300μmを超えても0個であり、前記の各気泡サイズの気泡の個数を積算した全ての気泡の総個数は、605個であった。
同様に、比較例における各気泡サイズの気泡の個数を、図7から読み取ると、0μmを超えて50μmまでが40個、50μを超えて100μmまでが95個、100μmを超えて150μmまでが90個、150μを超えて200μmまでが50個、200μmを超えて250μmまでが20個、250μmを超えて300μmまでは10個、300μmを超えて350μmまでは10個、350μmを超えて400μmまでは0個、400μmを超えても0個であり、前記の各気泡サイズの気泡の個数を積算した全ての気泡の総個数は、315個であった。
したがって、全ての気泡の個数を積算した総個数に対する、緻密で微細な気泡である、気泡サイズ、すなわち、気泡径が50μmを超えて100μm以下である気泡の個数の占める割合は、実施例では、41%[=(250/605)×100]であり、比較例では、30%[=(95/315)×100]である。
【0049】
ここで、有機繊維等の有機フィラーを添加することによって、緻密で微細な気泡が多く発現する理由は、次のように考えることができる。
【0050】
物体はエネルギーをより小さくする(安定する)方向に動こうとする。本発明はこの原理を利用している。泡の挙動に関してエネルギーの視点に立ってモデルを立てると、
図8のような球状のモデルが考えられる。炭酸ガスは気化している状態の方が安定なため、半径rの泡が持つ体積エネルギーU
1(r)は下記の式で表される。
【0051】
U
1(r)=−aV=−(4πa/3)r
3
a:正の比例定数
また、界面エネルギーの観点から、界面の面積が小さいほどエネルギーは安定するので界面エネルギーU
2(r)は下記の式で表される。
【0052】
U
2(r)=bS=4πbr
2
b:正の比例定数
上記より、泡の持つエネルギーU(r)は下記の式で表される。
【0053】
U(r)=U
1(r)+U
2(r)
=−(4πa/3)r
3+4πbr
2
この式をグラフにすると
図9のように表せる。
【0054】
泡の半径は負になることはないのでr>0である。 r<2b/aの時は界面エネルギーの影響が大きく、泡が萎もうとするため泡が生成されない。 r>2b/aの時はrが増加するにつれエネルギーは小さくなっていく。これは、炭酸ガスは気化した方が安定なためである。2b/aを臨界半径と呼ぶ。また臨界半径での泡のエネルギーをエネルギー障壁と呼ぶ。
【0055】
半径rの泡が生成するためには外からエネルギーがU(r)だけ必要である。本発明の場合、化学発泡による反応熱と機械的な攪拌によるエネルギーがそれにあたる。
【0056】
ここで、
図10に示される平らな壁面に生じた泡のモデルを考える。この泡を半径rの半球として近似し、気体と壁の界面のエネルギーは無視出来るとすると、エネルギーU(r)は下記のように表せる。
【0057】
U(r)=−(2πa/3)r
3+2πbr
2
この式から臨界半径を計算すると、泡が球だった時と同じr=2b/aとなるが、エネルギー障壁の大きさU(2b/a)は泡が球だった時の半分になる。これは壁からエネルギーが発生した方が必要なエネルギーが半分で済むので、より泡が発生し易くなることを意味している。
【0058】
この理由によって、反応中のウレタンに有機フィラーを混ぜることで、
図10の状態(壁=有機フィラー)が生まれ、その界面から微細な泡を発生させることが可能となる。
【0059】
このようにウレタンが水と反応し炭酸ガスを発生する際に、有機フィラーが存在することによって泡発生時のエネルギーが低減され、有機フィラーとウレタンの界面で微細な泡が発生し易くなる。
【0060】
有機フィラーとして有機繊維を使用した際は、上述の
図4(b)にも示されるように、研磨パッドを製造した際に、有機繊維がその形のまま研磨パッド表面上に現れる。これは研磨パッド表面上の凹凸の一部を担うが、これが研磨中に微細なコンタクト部分の一部として機能する。微細コンタクトエリアの増加にも寄与することとなる。
【0061】
次に、実施例及び比較例の研磨パッドを用いて、下記の研磨条件及びダイヤドレス条件でガラスディスクの研磨を行い、研磨レートを計測した。なおダイヤモンドドレッサーによるドレッシングを挟んで各研磨パッドを用いて研磨を3回(3Run)行った。
【0062】
研磨条件
研磨機:MA−200D (ムサシノ電子(株)製)
スラリー:セリアスラリー、8重量%
スラリー流量:50ml/min
加工圧力:160gf/cm
2
キャリヤ回転数:110rpm
プラテン回転数:130rpm
時間:10min/Run
ドレッシング条件
番手:100番手
加工圧力:120gf/cm
2
環境:ドライ
ドレッサー回転数:110rpm
プラテン回転数:130rpm
時間:10分
図11に、各研磨パッドの3回(3Run)の研磨の研磨レート(RR:Removal Rate)の計測結果を示す。この
図11では、実線が実施例の研磨パッドの研磨レートを、破線が比較例の研磨パッドの研磨レートをそれぞれ示している。
【0063】
破線で示される比較例に比べて、実線で示される実施例の研磨パッドでは、研磨レートが、20%程度向上していることが分る。これは、緻密で微細な気泡が多いので、被研磨物に接触する研磨パッドのコンタクトエリアの増加による影響と考えられる。
【0064】
次に、研磨後の比較例及び実施例の各研磨パッドの表面及び周縁部分を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、また、各研磨パッド表面の樹脂面積率及びコンタクトエリアを測定した。
【0065】
図12に、研磨後の各研磨パッド表面の倍率50倍のSEM写真を、
図13に、研磨後の各研磨パッドの、上面及び側面の一部を含む周縁部分の倍率50倍のSEM写真を示す。各図において、(a)は比較例を、(b)は実施例を示す。
【0066】
また、
図14は、研磨後の各研磨パッド表面の樹脂面積率を示す倍率50倍のSEM写真であり、(a)は比較例を、(b)は実施例を示す。
【0067】
更に、
図15は、研磨後の各研磨パッドのコンタクトエリアを模式的に示す図であり、(a)は比較例を、(b)は実施例を示す。
【0068】
図14の表面の樹脂面積率は、次にようにして測定した。
【0069】
すなわち、各研磨パッドの表面を撮像した画像を、画像解析ソフトウェアであるWinRoof Ver5.6.2(三谷商事製)を用いて、円形近似した気泡の部分と樹脂部分とに2値化して計測し、気泡面積を算出した。次に当該画像の解析部面積を算出し、前記気泡面積を差し引き、樹脂面積を算出した。そして、前記樹脂面積を前記解析部面積で除することにより、樹脂面積率を求めた。
【0070】
また、
図15のコンタクトエリアは、次のようにして測定した。すなわち、研磨パッドの表面にガラス板を設置し当該ガラスパッド裏面側から圧力を印加する。前記研磨パッド表面側ガラス板上方からレーザー照射装置により、レーザー光を照射する。係る操作により、当該研磨パッド表面が当該ガラス板に接触した部分、すなわちコンタクトエリア部分の屈折率が変化するので、当該圧力印加部分を前記研磨パッド表面側ガラス板上方に設置したCCDカメラにより撮像する。ついで、係る写真を画像解析ソフトウェアであるWinRoof Ver5.6.2(三谷商事製)を用いて解析することにより、コンタクトエリアを測定した。
【0071】
図14(a)の比較例の研磨パッドの樹脂面積率は33.0%であり、
図14(b)の実施例の樹脂面積率は33.3%であり、殆ど差は認められなかった。
【0072】
図15(a)の比較例の研磨パッドでは、コンタクトエリアは0.39%であったのに対して、
図15(b)の実施例の研磨パッドでは、コンタクトエリアは1.64%であり、4倍以上の値を示した。
【0073】
このように樹脂面積率は、殆ど差がないのに対して、コンタクトエリアは、4倍以上となっており、上述の研磨レートの向上に寄与していると考えられる。
【0074】
以上のように実施例の研磨パッドによれば、従来例である比較例の研磨パッドに比べて、緻密で微細な気泡が多数存在しているので、コンタクトエリアが増加し、研磨レートが向上すると共に、被研磨物の平坦度が向上する。
【0075】
上記実施例では、有機繊維を2重量%添加したが、この有機繊維の添加量を変化させた場合について検討した結果を説明する。
【0076】
有機繊維を含まない上記比較例の発泡ウレタン樹脂を形成する樹脂組成物に対して、有機繊維を、0.10重量%、0.50重量%、1.00重量%、2.00重量%、5.00重量%それぞれ添加した実施例1〜5の研磨パッドを製作した。なお、有機繊維の添加量が2.00重量%の実施例4は、上述の実施例と同じである。
【0077】
また、有機繊維を、6.00重量%を添加した研磨パッドを製作しようとしたが、粘度が高過ぎて有機繊維を分散させることができず、製作することができなかった。
【0078】
比較例及び製作した実施例1〜5の研磨パッドの密度はそれぞれ、0.48g/cm
3、0.50g/cm
3、0.48g/cm
3、0.46g/cm
3、0.47g/cm
3、0.43g/cm
3であった。
【0079】
比較例及び実施例1〜5の各研磨パッドを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0080】
その結果を、
図16〜
図19にそれぞれ示す。
図16は、比較例及び実施例1〜5の各研磨パッド表面の倍率50倍のSEM写真であり、
図17は、比較例及び実施例1〜5の各研磨パッド表面の倍率100倍のSEM写真であり、
図18は、比較例及び実施例1〜5の各研磨パッド断面の倍率50倍のSEM写真である。
【0081】
また、
図19は、比較例及び実施例1〜5の各研磨パッド表面の樹脂面積率を示す倍率50倍のSEM写真である。
【0082】
これらの
図16〜
図19において、(a)有機繊維を含まない比較例、(b)は有機繊維を0.10重量%添加した実施例1、(c)は有機繊維を0.50重量%添加した実施例2、(d)は有機繊維を1.00重量%添加した実施例3、(e)は有機繊維を2.00重量%添加した実施例4、(f)は有機繊維を5.00重量%添加した実施例5である。
【0083】
図19の樹脂面積率は、(a)の比較例が33.0%、(b)の実施例1が32.4%、(c)の実施例2が29.8%、(d)の実施例3が34.0%、(e)の実施例4が33.3%、(f)の実施例5が29.8%であった。
【0084】
比較例及び実施例1〜5の各研磨パッドの気泡サイズを、上述の
図7と同様に測定した。測定結果を、
図20に示す。
【0085】
この
図20に示すように、破線で示される比較例に比べて、各実施例1〜5の各研磨パッドは、気泡サイズが約100μmを中心とする緻密で微細な気泡が、多く分布していることが分る。
上記図7と同様に、この図20から各気泡サイズの気泡の個数を読み取って、全ての気泡の個数を積算した総個数に対する、緻密で微細な気泡である、気泡径が50μmを超えて100μm以下である気泡の個数の占める割合を算出すると、次のようになる。
すなわち、有機繊維を0.10重量%添加した実施例1は前記割合が40%、有機繊維を0.50重量%添加した実施例2は前記割合が38%、有機繊維を1.00重量%添加した実施例3は前記割合が43%、有機繊維を2.00重量%添加した実施例4、すなわち、上記実施例は図7で説明したように、前記割合が41%、有機繊維を5.00重量%添加した実施例5は前記割合が41%である。
有機繊維を含まない上記比較例は、上記図7で説明したように、前記割合が、30%である。
このように本発明の各実施例1−5は、全ての気泡の個数を積算した総個数に対して、気泡径が50μmを超えて100μm以下である、緻密で微細な気泡の個数の占める割合が、38%以上であるのに対して、比較例は、この割合が30%である。
【0086】
有機繊維の添加量が0.10重量%の実施例1、及び、0.50重量%の実施例2は、比較例に比べて、気泡サイズが100μm程度である緻密で微細な気泡が、約1.5倍多く分布しており、有機繊維の添加量が1.00重量%以上である実施例3〜実施例5は、比較例に比べて、気泡サイズが100μm程度である緻密で微細な気泡が、約2倍以上多く分布していることが分る。
【0087】
このように、有機繊維を、0.10重量%〜5.00重量%添加することによって、従来例である比較例に比べて、気泡サイズが100μm程度である緻密で微細な気泡を多数生成することができる。
【0088】
上述の実施例では、有機フィラーとして有機繊維を用いたけれども、有機繊維に限らず、例えば、多孔質の球状の有機粒子などを用いてもよい。
【0089】
上述の実施形態では、単層構造の研磨パッドに適用して説明したけれども、クッション層等を有する積層構造の研磨パッドとしてもよい。