【課題を解決するための手段】
【0013】
本目的は、本発明の第1の観点によれば、請求項1に記載された特徴を有する低干渉センサヘッドによって達成される。本発明の別の実施形態は、従属形式の請求項の特徴に記載されている。
【0014】
本発明は、放射線検出器用の低干渉センサヘッドであって、コンポーネント(構成要素)として、少なくとも、前面を有する1つのプリント回路基板と、プリント回路基板の前面に配置され、放射線に感応する1つのセンサチップと、コンタクトピンを有する複数の信号及び制御接続部と、前面から遠ざかる方向に向いたプリント回路基板の面に配置された冷却及び/又は熱除去手段とを含み、コンタクトピンの大部分は、1種類又は数種類の材料から成り、この材料の比透磁率(μ
r)は、1.5未満であることを特徴とする低干渉センサヘッドに関する。
【0015】
驚くべきことに、標準型センサヘッドにより、電子光学系に対する著しい干渉が生じることが発見された。かくして、本発明によれば、センサヘッドは、それが荷電粒子用の光学系に対して低レベルの干渉しか生じさせないように構成される。ここで、驚くべきこととして、信号及び制御接続部のコンタクトピンは、センサヘッドによって生じた干渉に最も大きな寄与をなす。本発明の一実施形態では、コンタクトピンは、好ましくは金メッキされたピンの形態をした導電性材料である。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態では、コンタクトピンは、直径が0.1〜1.5mm、好ましくは0.4〜0.8mmの中実円柱体である。コンタクトピンの好ましい長さは、0.1〜3cm、好ましくは0.5〜2cm、より好ましくは1〜1.5cmである。本発明によれば、所与の寸法範囲の正方形又は多角形ロッドも可能であるが、円柱体としての設計は、製造の観点で有利である。丸形又は多角形コンタクトピンは、本質的に、真っ直ぐであってもよいし、湾曲していてもよい。湾曲したコンタクトピンは、好ましくは、検出器の幾何学的形態により必要とされる場合に用いられる。
【0017】
荷電粒子用の光学系に対する影響を最小限に抑えるために、本発明によれば、コンタクトピンの大部分は、1種類の材料又は数種類の材料で作られ、かかる材料の比透磁率(μ
r)(これは、相対透磁率又は磁気的相対透磁率とも呼ばれている)は、1.5未満である。本発明の好ましい一実施形態では、コンタクトピンの2/3、更に好ましくは全てのコンタクトピンは、比透磁率μ
rが1.5未満の1種類の材料で作られる。
【0018】
本発明の特に好ましい実施形態では、コンタクトピンは、1種類の材料又は数種類の材料で作られ、かかる材料の比透磁率(μ
r)は、1.35未満、好ましくは1.2未満、より好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満である。さらに、材料特性、特に本発明により用いられる材料の透磁率は、機械的加工後においては可逆性でなければならず、特に、加工によって生じる透磁率の永続的な増大が生じないようにするのが良い。さらに、本発明により用いられる材料の熱膨張率を互いに整合させる必要がある。本発明のコンタクトピンの適当な構成材料は、オーステナイト系ステンレス鋼、焼なましニッケル合金、タンタル、ジルコニウム、タングステン、白金、パラジウム、チタン又はこれらの混合物を含む。本発明のコンタクトピンの特に好ましい構成材料は、焼なましオーステナイト系ステンレス鋼又はタングステン・チタン合金である。本発明によれば、微量の他の金属を含むタングステン・チタン合金もまた、採用可能である。
【0019】
先行技術で知られている全ての材料は、プリント回路基板のベース材料として可能である。例えば、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂飽和紙、エポキシ樹脂飽和ガラス繊維組織、テフロン(登録商標)、ポリエステルフィルム又はセラミックもまた使用できる。導体経路は、当業者に知られている導電性材料、好ましくは銅から成る。本発明の特に好ましい実施形態では、プリント回路基板は、多層コンパウンドセラミックである。対応するコンパウンドセラミックの製品は、当業者に知られている。
【0020】
当業者に知られている、粒子放射線に感応する全てのセンサチップをセンサチップとして使用することができる。本発明によれば、粒子放射線は、特にX線放射線のような光子放射線をも含むが、好ましくは、イオン又は電子のような荷電粒子を含む放射線にあてはまる。好ましくは、X線に感応するセンサチップが用いられる。適当なセンサチップは、例えば、Si(Li)検出器、高純度ゲルマニウム検出器(high purity germanium detector:HPGe検出器)、PIN(positive intrinsic negative)ダイオード、コネクタ半導体(connector semiconductors)から成る検出器、外部トランジスタを備えたシリコンドリフト検出器(SDD)又は一体形FETを備えたシリコンドリフト検出器(silicon drift detector with integrated FET:I−FET SDD)である。好ましくは、本発明により用いられるセンサチップは、シリコンドリフト検出器(SDD)である。
【0021】
熱的条件を安定化するため、該当する場合には、更に、室温未満の作業温度を発生させるため、センサヘッドは、プリント回路基板の裏面に冷却及び/又は熱除去手段を有する。適当な冷却及び/又は熱除去手段は、当業者に知られている。好ましくは、冷却及び/又は熱除去手段は、熱電冷却素子を含む。
【0022】
本発明の別の実施形態では、本発明のセンサヘッドは、コンタクトピンを保持するベースプレートを更に有し、ベースプレートは、1種類の材料又は数種類の材料から成り、この材料の比透磁率(μ
r)は、1.5未満である。好ましくは、ベースプレートは、本発明のコンタクトピンを保持し、これらを機械的に取り付けるボアホールを有する。好ましい一実施形態では、ベースプレートは、リングとして設計される。冷却及び/又は熱除去手段は、ベースプレートの中央開口部を通って案内され、或いは、ベースプレートの中央開口部は、冷却及び/又は熱除去手段で満たされる。本発明のベースプレートの適当な構成材料は、比透磁率(μ
r)が1.5未満であるほかに、検出器の動作中、ベースプレートが歪められず、コンタクトピンが確実にこれらの定位置に保持されるよう十分な機械的安定性を更に備えなければならない。この場合、ベースプレートの厚さは、0.1〜5mm、好ましくは0.5〜3mm、更により好ましくは1.5〜2.5mmである。加うるに、材料は、ボアホールを挿入することができ、しかも、可能ならば、機械的加工に起因してベースプレートの透磁率の変更が生じないようにするよう選択されなければならない。
【0023】
ベースプレートの構成材料の比透磁率(μ
r)は、1.35未満、好ましくは1.2未満、より好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満であることが特に好ましい。本発明のベースプレートを構成する適当な材料は、オーステナイト系ステンレス鋼、焼なましニッケル合金、タンタル、ジルコニウム、タングステン、白金、パラジウム、チタン又はこれらの混合物を含む。好ましい一実施形態では、本発明のベースプレートは、焼なましオーステナイト系ステンレス鋼から成り、好ましくは、材料番号が1.4429,1.4406,1.4404,1.4301,1.3964,1.3960又は1.3952、特に材料番号が1.4301の焼なましオーステナイト系ステンレス鋼から成る。
【0024】
本発明の別の好ましい実施形態では、センサヘッドは、ハウジングによって包囲され、ハウジングは、センサチップの領域に入力窓を有し、ハウジングは、1種類の材料又は数種類の材料から成り、この材料の
比透磁率(μ
r)は、1.5未満である。ここで、入力窓は、センサチップにより検出される放射線に対して透過性である。ハウジングは、機械的な衝撃に対してセンサヘッドの感応コンポーネントの保護を提供すると同時に掴み面として働く。
【0025】
本発明の別の好ましい実施形態では、センサヘッドは、側部領域がハウジングによって包囲され、ハウジングは、センサチップと面一をなして終端する。
【0026】
両方の変形実施形態では、即ち、入力窓付きの実施形態と入力窓なしの実施形態では、ハウジングを、一設計例では、真空封止することができ、別の設計例では、開放することができる。
【0027】
好ましくは、本発明のハウジングの構成材料の比透磁率(μ
r)は、1.35未満、好ましくは1.2未満、より好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満である。本発明のハウジングの適当な構成材料は、オーステナイト系ステンレス鋼、焼なましニッケル合金、タンタル、ジルコニウム、タングステン、白金、パラジウム、チタン又はこれらの混合物から成る。好ましい一実施形態では、本発明のハウジングは、焼なましオーステナイト系ステンレス鋼から成り、特に好ましくは、材料番号が1.4429,1.4406,1.4404,1.4301,1.3964,1.3960又は1.3952、特に材料番号が1.4301の焼なましオーステナイト系ステンレス鋼から成る。
【0028】
本発明の別の実施形態では、コンポーネント相互間の接着剤層及び/又バリヤ層は、薄さが3μm未満であり、好ましくは2μm未満であり、より好ましくは1.5μm未満である。接着剤層は、金プレートを安定的に貼り付けることができるようにするために、例えばコンタクトピン上に用いられる。バリヤ層は、個々のコンポーネント間の拡散を防止するために用いられる。
【0029】
別の好ましい実施形態では、1種類の材料又は数種類の材料の比透磁率(μ
r)は、1.5未満、好ましくは1.35未満、より好ましくは1.2未満、更により好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満である。
【0030】
別の実施形態では、個々のコンポーネントは、ハンダ付けなしで互いに連結され又はハンダを用いて互いに連結され、ハンダの比透磁率(μ
r)は、1.5未満、好ましくは1.35未満、より好ましくは1.2未満、さらにより好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満である。本発明のセンサヘッドのための別の適当なハンダ材料は、50%未満のニッケルを含み、好ましくは20%未満のニッケルを含み、更により好ましくは10%未満のニッケルを含み、更に好ましくは5%未満のニッケルを含み、最も好ましくは、ニッケルの含有量が0%である。有利には、本発明において用いられるハンダの溶融温度T
mは、600℃以上であり、好ましくは900℃以上である。ここで、注目されるべきこととして、用いられる材料の熱膨張率を互いに整合させなければならない。適当なハンダは、銀、金、銅、パラジウム又はこれらの混合物を含む。好ましくは、ハンダは、銀と銅の混合物から成る。本発明によれば、微量の他の材料を含む銀と銅の混合物もまた、使用可能である。
【0031】
本発明の別の実施形態では、コンタクトピンは、好ましくは、管状ガラス本体によって包囲され、この管状ガラス本体は、両端部が開口し、かくして、コンタクトピンは自由に接触可能な状態になっており、その目的は、絶縁を提供すると共に望ましくない導電性を回避することにある。ここで、ガラス包囲に用いられるガラスは、その溶融温度がステンレス鋼の焼なまし温度以上であるように選択される。有利には、その結果、ステンレス鋼は、ガラス包囲プロセス中に同時に焼なましされる。これは、コンタクトピンの加工及び成形に起因して、ステンレス鋼の透磁率の変更が生じる場合に特に有利である。ここで、用いる材料の熱膨張率を互いに整合させなければならないことは注目されるべきである。
【0032】
別の実施形態では、ハンダ付け、焼なまし及びガラス包囲を単一の処理工程で完了させる。
【0033】
本発明の別の実施形態では、冷却及び/又は熱除去手段は、熱電冷却素子とベースとを含む。熱電冷却素子は、好ましくは、2つのセラミックプレート間に配列された数個のペルチエ素子から成る。セラミックプレートは、熱電冷却素子の低温側と高温側を示し、低温側は、プリント回路基板に向いた側又は面である。一実施形態では、低温側は、冷却手段又は熱伝導性材料を介してプリント回路基板に連結されている。別の実施形態では、熱電冷却素子の低温側は、同時に、プリント回路基板である。熱電冷却素子の適当な構成材料は、酸化アルミニウムセラミックス、窒化アルミニウムセラミックス、テルル化ビスマス及びゲルマニウム化珪素である。
【0034】
ベースは、センサヘッドのコンポーネントを機械的に取り付けるのに役立つと同時に、熱除去手段として働く。好ましくは、ベースは、良好な熱伝導性を有する材料から成る。本発明のベースの適当な構成材料は、銅、銀、金又はこれらの混合物である。好ましくは、ベースを作るために銅が用いられる。本発明のベースプレートがリングとして設計される場合、ベースは、ベースプレートの中央開口部を満たす又は塞ぐ。
【0035】
本発明の材料の選択及び組み合わせに起因して、感度、安定性及び幾何学的要件に関する現行のEDX規格に適合し、更に低干渉性であり、しかも荷電粒子のための光学系に僅かに影響を与えるに過ぎないセンサヘッドを提供することが可能である。かくして、SEM又はTEMの画像品質及び分解能を保持すると同時に、放射線分析、特にEDXによるナノ分析の機会を拓くセンサヘッドが提供される。
【0036】
本発明の別の目的は、本発明の低干渉センサヘッドを備えた放射線検出器を提供することにある。本発明によれば、本発明の低干渉センサヘッドは、粒子放射線を検出するために使用できるあらゆる形式の検出器に組み込むことができる。本発明によれば、粒子放射線は、好ましくは、X線放射線のような光子放射線をも含むが、イオン又は電子のような荷電粒子を含む放射線にあてはまる。
【0037】
本発明の特に好ましい実施形態では、本発明の放射線検出器は、本発明の低干渉センサヘッドを有するX線検出器、特にEDX検出器である。
【0038】
本発明は更に、荷電粒子のための光学系を備えた顕微鏡、特に電子顕微鏡又はイオン顕微鏡において、粒子放射線、好ましくはX線を検出するための本発明による低干渉センサヘッド又は本発明による放射線検出器の使用に関する。好ましくは、低干渉センサヘッド又は本発明の低干渉センサヘッドを備えた検出器は、走査電子顕微鏡(SEM)及び全ての形式の透過電子顕微鏡(TEM)、特に走査/透過電子顕微鏡(STEM)、TEM磁極片を備えたSEM、電子光学系とイオン光学系が組み合わされたFIB(focused ion beam:集束イオンビーム)機器、及びイオン顕微鏡に組み込まれる。
【0039】
次に、例示の実施形態及び関連の図面を参照して本発明について詳細に説明する。