特許第6196774号(P6196774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6196774放射線検出器用低干渉センサヘッド及び低干渉センサヘッドを有する放射線検出器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196774
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】放射線検出器用低干渉センサヘッド及び低干渉センサヘッドを有する放射線検出器
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/24 20060101AFI20170904BHJP
   G01N 23/225 20060101ALI20170904BHJP
   H01J 37/252 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   G01T1/24
   G01N23/225
   H01J37/252 A
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-515459(P2012-515459)
(86)(22)【出願日】2010年6月15日
(65)【公表番号】特表2012-530252(P2012-530252A)
(43)【公表日】2012年11月29日
(86)【国際出願番号】EP2010058361
(87)【国際公開番号】WO2010146044
(87)【国際公開日】20101223
【審査請求日】2013年6月13日
【審判番号】不服2016-7279(P2016-7279/J1)
【審判請求日】2016年5月18日
(31)【優先権主張番号】102009026946.0
(32)【優先日】2009年6月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511305531
【氏名又は名称】ブルーカー ナノ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】ファルケ マイケン
(72)【発明者】
【氏名】クレーマー ロベルト
【合議体】
【審判長】 伊藤 昌哉
【審判官】 小松 徹三
【審判官】 松川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−501562(JP,A)
【文献】 特開平8−83588(JP,A)
【文献】 特開2000−238046(JP,A)
【文献】 特開平8−212963(JP,A)
【文献】 特開平3−48189(JP,A)
【文献】 特開2009−105037(JP,A)
【文献】 特開2007−48686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 - 7/12
H01J 37/244
H01J 37/252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EDXのための放射線検出器(74)用の低干渉センサヘッド(30)であって、コンポーネントとして、少なくとも、
‐前面(12)を有するプリント回路基板(10)と、
‐前記プリント回路基板(10)の前記前面(12)上に配置され、放射線(72)に感応するセンサチップ(32)と、
‐コンタクトピン(42)を有する、前記センサチップ(32)を動作させるための複数の信号及び制御接続部と、を含み、前記コンタクトピン(42)は、ボンディングワイヤ(46)を介して前記プリント回路基板(10)に接続され、
‐前記コンタクトピン(42)を保持するベースプレート(50)と、
‐前記前面(12)から遠ざかる方向に向いた前記プリント回路基板(10)の面に配置された冷却及び/又は熱除去手段(36)と、を更に含み、
前記ベースプレート(50)、及び前記コンタクトピン(42)の少なくとも1つは、少なくとも1種類の材料から成り、該材料の比透磁率(μr)は、1.5未満であり、1.5未満の比透磁率を有する材料は、材料番号が1.4429,1.4406,1.4404,1.4301,1.3964,1.3960又は1.3952の焼きなましオーステナイト系ステンレス鋼から成る、低干渉センサヘッド(30)。
【請求項2】
前記低干渉センサヘッド(30)は、ハウジング(56)によって包囲され、前記ハウジング(56)は、前記センサチップ(32)の領域に入力窓(58)を有し、前記ハウジング(56)は、1種類の材料又は数種類の材料から成り、該材料の比透磁率(μr)は、1.5未満である、請求項1記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項3】
前記低干渉センサヘッド(30)は、側部領域がハウジング(56)によって包囲され、前記ハウジング(56)は、前記センサチップ(32)と面一をなして終端し、前記ハウジング(56)は、少なくとも1種類の材料から成り、該材料の比透磁率(μr)は、1.5未満である、請求項1又は2記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項4】
前記コンポーネント相互間の接着剤層及び/又バリヤ層は、薄さが3μm未満であると共に/或いは少なくとも1種類の材料から成り、該材料の比透磁率(μr)は、1.5未満である、請求項1〜3の何れか一項に記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項5】
前記少なくとも1種類の材料の比透磁率(μr)は、1.35未満である、請求項1〜4の何れか一項に記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項6】
前記ハウジング(56)は、オーステナイト系ステンレス鋼、焼なましニッケル合金、タンタル、ジルコニウム、タングステン、白金、パラジウム、チタン又はこれらの混合物から成る群から選択された材料から成る、請求項2又は3記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項7】
前記コンポーネント相互間の接続部は、ハンダ不要のものであり或いはハンダから成り、ハンダの比透磁率(μr)は、1.5未満である、請求項1〜6の何れか一項に記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項8】
前記ハンダは、50%未満のニッケルを含む、請求項7記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項9】
前記ハンダは、銀、金、銅、パラジウム又はこれらの混合物を含む、請求項7又は8記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項10】
前記冷却及び/又は熱除去手段(36)は、熱電冷却素子(34)と、ベース(52)とを含む、請求項1〜9の何れか一項に記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項11】
前記ベース(52)は、銅、銀、金又はこれらの混合物から成る、請求項10記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項12】
前記センサチップ(32)は、Si(Li)検出器、HPGe検出器、PINダイオード、コネクタ半導体から成る検出器、外部トランジスタを備えたシリコンドリフト検出器(SDD)、又は一体形FETを備えたシリコンドリフト検出器(I−FET SDD)である、請求項1〜11の何れか一項に記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項13】
前記プリント回路基板(10)は、多層コンパウンドセラミックである、請求項1〜12の何れか一項に記載の低干渉センサヘッド(30)。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載の低干渉センサヘッド(30)を備えた放射線検出器(74)。
【請求項15】
荷電粒子のための光学系を備えた顕微鏡において、
求項1〜13の何れか一項に記載の低干渉センサヘッド(30)又は請求項14記載の放射線検出器(74)を備えたことを特徴とする顕微鏡
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器用の低干渉センサヘッド及び低干渉センサヘッドを有する放射線検出器に関する。好ましくは、本発明の放射線検出器は、X線検出器である。本発明はまた、低干渉センサヘッドの使用又は荷電粒子のための光学系を用いた顕微鏡検査法における放射線分析、特に(エネルギー分散)X線分析のための放射線検出器、特にX線検出器の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的に、電子顕微鏡による分析は、「電子線微小部分析(electron ray microanalysis)」、即ち、広く利用されている要素分析法として発展した。この場合、電子顕微鏡、例えば、走査電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)、透過電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)又は走査/透過電子顕微鏡(scanning/transmission electron microscope:STEM)において電子ビームによる試料の走査の際にX線が生じ、かかるX線が検出されて評価される。この目的のために特別に設計された装置、例えば電子ビームマイクロセンサと関連して専門家用としてのみ当初計画されたX線分析が、今や一般に、ほぼ全てのSEM/TEM実験室で日常的に用いられる方法の一つになっている。この場合、種々の特定の分析技術、例えば波長分散X線解析(wavelength dispersive X-ray analysis:WDX)及びエネルギー分散X線解析(energy dispersive X-ray analysis:EDX(これらは、WDS及びEDSとも呼ばれる)が用いられている。
【0003】
この方面における決定的なステップは、エネルギー分散方式X線検出器(energy dispersive X-ray detectors:EDX検出器)の導入であり、かかるEDX検出器は、それらの簡単且つ頑丈な構造、少ない整備要目、動作の安定モード、そして特に、それらのカバーする比較的広い立体角という点で卓越している。
【0004】
EDX検出器は、「クーリングフィンガ(cooling finger)」上に検出器の観察軸線における軸線方向に配置された入力窓、即ち半導体結晶と、典型的には電界効果トランジスタ(field effect transistor:FET)及びプリアンプを有する増幅器ユニットとを有する。EDX検出器は、ほとんど全ての方向からのX線を捕捉することができる比較的大きな均質の体積部を有する。特に、EDX検出器によって捕捉されたX線の広い立体角が、即ち、全体として生じた放射線に対する使用された放射線の大きな割合が、従来の画像電子顕微鏡の微小部分析を行うことを可能にする。
【0005】
電子光学分解能の絶え間ない向上に向けたSEM及びTEMの開発、或る特定の電子源及びエネルギー分散電子フィルタの使用、電子検出器の技術改良、並びに有機サンプル又は他の感度を有する試料への関心の増大により、標準のビーム流が非常に大幅に減少したので、多くの場合、EDX検出器にも明確な制限が課される。これは、ナノ分析分野において、即ち、1マイクロメートル未満の試料領域がこれらの元素及び相組成物又は汚染物について十分且つ定量的に分析される場合に、特に重要である。さらに、狭い(ナノメートル範囲)又は狭くて薄い試料領域が相互作用放射線、特にX線のための低励起体積部を有し、かくして、検出器に対して低レベルの放射線が生じる。記録される放射線レベルを増加させるために、測定時間が日常的に延長される。この場合の欠点は、特に、長い測定時間がサンプルドリフトに起因する干渉を極めて受けやすいことである。
【0006】
別法として、大表面検出器を用いることができるが、かかる検出器は、取り扱いが困難であり、分解能が低く、しかもX線検出結果が劣悪であり、しかも高い冷却度を必要とする。
【0007】
これらの問題は、“SDD”検出器(silicon drift detector:シリコンドリフト検出器)で特に顕著になっており、SDD検出器は、物理的有効性及び構造に基づき、標準型の何倍も多くの放射線レベルを捕捉することができる。試料又は器具の性能に起因して、得られる放射線レベルに限界がある場合、捕捉される放射線レベルを増大させ、かくして測定時間を短縮する唯一の方法は、検出器により捕捉される放射線の立体角を増大させることである。この目的のため、1つ又は2つ以上の小型検出器と試料との間の距離が可能な限り最も短いことが望ましい。
【0008】
しかしながら、検出器と試料との間の距離は、検出器のサイズ及び電子顕微鏡の構造的特性によって制限される。磁極片と試料との間の最適作業距離は、SEMでは約4mmであり、この場合、この作業距離の拡大は、像の品質を著しく低下させる。TEM及びSTEMシステムにEDXを用いる場合、利用可能な検出サイズもまた、TEM中の特定の設計特性によって制限を受ける、というのは、試料は、電子レンズの磁極片内に配置されるからである。
【0009】
EDX検出器を試料にできるだけ密接させるため、即ち、電子顕微鏡の磁極片と試料との間で最適に位置決めするためには、検出器のサイズを減少させなければならない。これに対応して小型化された検出器が、例えば独国特許出願公開第102008014578.5号明細書に記載されている。
【0010】
しかしながら、本発明者は、検出器の空間近接性に起因して、電子ビーム集束又は偏向の場(フィールド)が乱される場合があることを観測した。これは、特に試料が電子レンズの磁極片内に配置されるTEM/STEMシステムでは大きな問題である。生じる電子レンズのフィールドプログレッション(field progression)が検出器によって乱された場合、像の品質は著しく低下し、或いは像を全く生じさせることができない。これに加えて、当座の間は球面収差が、将来的には色収差も修正された電子顕微鏡が市場に出されるであろう。これら機器に関し、光学系のレンズフィールド(lens field)の干渉は特に有害である、というのは、収差補正装置の機能も、かくして妨害され、或いは全く実行不能になるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許出願公開第102008014578.5号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
かくして、本発明の目的は、先行技術の問題を解決すると共にEDX用の低干渉検出器を提供することにある。検出器を数ミリメートルの範囲内まで電子顕微鏡の光学系に近づけ、この場合、顕微鏡の像品質に悪影響を及ぼさず又は収差修正装置を妨害せず又は完全に実行不能にすることがないようにすることが可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本目的は、本発明の第1の観点によれば、請求項1に記載された特徴を有する低干渉センサヘッドによって達成される。本発明の別の実施形態は、従属形式の請求項の特徴に記載されている。
【0014】
本発明は、放射線検出器用の低干渉センサヘッドであって、コンポーネント(構成要素)として、少なくとも、前面を有する1つのプリント回路基板と、プリント回路基板の前面に配置され、放射線に感応する1つのセンサチップと、コンタクトピンを有する複数の信号及び制御接続部と、前面から遠ざかる方向に向いたプリント回路基板の面に配置された冷却及び/又は熱除去手段とを含み、コンタクトピンの大部分は、1種類又は数種類の材料から成り、この材料の比透磁率(μr)は、1.5未満であることを特徴とする低干渉センサヘッドに関する。
【0015】
驚くべきことに、標準型センサヘッドにより、電子光学系に対する著しい干渉が生じることが発見された。かくして、本発明によれば、センサヘッドは、それが荷電粒子用の光学系に対して低レベルの干渉しか生じさせないように構成される。ここで、驚くべきこととして、信号及び制御接続部のコンタクトピンは、センサヘッドによって生じた干渉に最も大きな寄与をなす。本発明の一実施形態では、コンタクトピンは、好ましくは金メッキされたピンの形態をした導電性材料である。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態では、コンタクトピンは、直径が0.1〜1.5mm、好ましくは0.4〜0.8mmの中実円柱体である。コンタクトピンの好ましい長さは、0.1〜3cm、好ましくは0.5〜2cm、より好ましくは1〜1.5cmである。本発明によれば、所与の寸法範囲の正方形又は多角形ロッドも可能であるが、円柱体としての設計は、製造の観点で有利である。丸形又は多角形コンタクトピンは、本質的に、真っ直ぐであってもよいし、湾曲していてもよい。湾曲したコンタクトピンは、好ましくは、検出器の幾何学的形態により必要とされる場合に用いられる。
【0017】
荷電粒子用の光学系に対する影響を最小限に抑えるために、本発明によれば、コンタクトピンの大部分は、1種類の材料又は数種類の材料で作られ、かかる材料の比透磁率(μr)(これは、相対透磁率又は磁気的相対透磁率とも呼ばれている)は、1.5未満である。本発明の好ましい一実施形態では、コンタクトピンの2/3、更に好ましくは全てのコンタクトピンは、比透磁率μrが1.5未満の1種類の材料で作られる。
【0018】
本発明の特に好ましい実施形態では、コンタクトピンは、1種類の材料又は数種類の材料で作られ、かかる材料の比透磁率(μr)は、1.35未満、好ましくは1.2未満、より好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満である。さらに、材料特性、特に本発明により用いられる材料の透磁率は、機械的加工後においては可逆性でなければならず、特に、加工によって生じる透磁率の永続的な増大が生じないようにするのが良い。さらに、本発明により用いられる材料の熱膨張率を互いに整合させる必要がある。本発明のコンタクトピンの適当な構成材料は、オーステナイト系ステンレス鋼、焼なましニッケル合金、タンタル、ジルコニウム、タングステン、白金、パラジウム、チタン又はこれらの混合物を含む。本発明のコンタクトピンの特に好ましい構成材料は、焼なましオーステナイト系ステンレス鋼又はタングステン・チタン合金である。本発明によれば、微量の他の金属を含むタングステン・チタン合金もまた、採用可能である。
【0019】
先行技術で知られている全ての材料は、プリント回路基板のベース材料として可能である。例えば、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂飽和紙、エポキシ樹脂飽和ガラス繊維組織、テフロン(登録商標)、ポリエステルフィルム又はセラミックもまた使用できる。導体経路は、当業者に知られている導電性材料、好ましくは銅から成る。本発明の特に好ましい実施形態では、プリント回路基板は、多層コンパウンドセラミックである。対応するコンパウンドセラミックの製品は、当業者に知られている。
【0020】
当業者に知られている、粒子放射線に感応する全てのセンサチップをセンサチップとして使用することができる。本発明によれば、粒子放射線は、特にX線放射線のような光子放射線をも含むが、好ましくは、イオン又は電子のような荷電粒子を含む放射線にあてはまる。好ましくは、X線に感応するセンサチップが用いられる。適当なセンサチップは、例えば、Si(Li)検出器、高純度ゲルマニウム検出器(high purity germanium detector:HPGe検出器)、PIN(positive intrinsic negative)ダイオード、コネクタ半導体(connector semiconductors)から成る検出器、外部トランジスタを備えたシリコンドリフト検出器(SDD)又は一体形FETを備えたシリコンドリフト検出器(silicon drift detector with integrated FET:I−FET SDD)である。好ましくは、本発明により用いられるセンサチップは、シリコンドリフト検出器(SDD)である。
【0021】
熱的条件を安定化するため、該当する場合には、更に、室温未満の作業温度を発生させるため、センサヘッドは、プリント回路基板の裏面に冷却及び/又は熱除去手段を有する。適当な冷却及び/又は熱除去手段は、当業者に知られている。好ましくは、冷却及び/又は熱除去手段は、熱電冷却素子を含む。
【0022】
本発明の別の実施形態では、本発明のセンサヘッドは、コンタクトピンを保持するベースプレートを更に有し、ベースプレートは、1種類の材料又は数種類の材料から成り、この材料の比透磁率(μr)は、1.5未満である。好ましくは、ベースプレートは、本発明のコンタクトピンを保持し、これらを機械的に取り付けるボアホールを有する。好ましい一実施形態では、ベースプレートは、リングとして設計される。冷却及び/又は熱除去手段は、ベースプレートの中央開口部を通って案内され、或いは、ベースプレートの中央開口部は、冷却及び/又は熱除去手段で満たされる。本発明のベースプレートの適当な構成材料は、比透磁率(μr)が1.5未満であるほかに、検出器の動作中、ベースプレートが歪められず、コンタクトピンが確実にこれらの定位置に保持されるよう十分な機械的安定性を更に備えなければならない。この場合、ベースプレートの厚さは、0.1〜5mm、好ましくは0.5〜3mm、更により好ましくは1.5〜2.5mmである。加うるに、材料は、ボアホールを挿入することができ、しかも、可能ならば、機械的加工に起因してベースプレートの透磁率の変更が生じないようにするよう選択されなければならない。
【0023】
ベースプレートの構成材料の比透磁率(μr)は、1.35未満、好ましくは1.2未満、より好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満であることが特に好ましい。本発明のベースプレートを構成する適当な材料は、オーステナイト系ステンレス鋼、焼なましニッケル合金、タンタル、ジルコニウム、タングステン、白金、パラジウム、チタン又はこれらの混合物を含む。好ましい一実施形態では、本発明のベースプレートは、焼なましオーステナイト系ステンレス鋼から成り、好ましくは、材料番号が1.4429,1.4406,1.4404,1.4301,1.3964,1.3960又は1.3952、特に材料番号が1.4301の焼なましオーステナイト系ステンレス鋼から成る。
【0024】
本発明の別の好ましい実施形態では、センサヘッドは、ハウジングによって包囲され、ハウジングは、センサチップの領域に入力窓を有し、ハウジングは、1種類の材料又は数種類の材料から成り、この材料の比透磁率(μr)は、1.5未満である。ここで、入力窓は、センサチップにより検出される放射線に対して透過性である。ハウジングは、機械的な衝撃に対してセンサヘッドの感応コンポーネントの保護を提供すると同時に掴み面として働く。
【0025】
本発明の別の好ましい実施形態では、センサヘッドは、側部領域がハウジングによって包囲され、ハウジングは、センサチップと面一をなして終端する。
【0026】
両方の変形実施形態では、即ち、入力窓付きの実施形態と入力窓なしの実施形態では、ハウジングを、一設計例では、真空封止することができ、別の設計例では、開放することができる。
【0027】
好ましくは、本発明のハウジングの構成材料の比透磁率(μr)は、1.35未満、好ましくは1.2未満、より好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満である。本発明のハウジングの適当な構成材料は、オーステナイト系ステンレス鋼、焼なましニッケル合金、タンタル、ジルコニウム、タングステン、白金、パラジウム、チタン又はこれらの混合物から成る。好ましい一実施形態では、本発明のハウジングは、焼なましオーステナイト系ステンレス鋼から成り、特に好ましくは、材料番号が1.4429,1.4406,1.4404,1.4301,1.3964,1.3960又は1.3952、特に材料番号が1.4301の焼なましオーステナイト系ステンレス鋼から成る。
【0028】
本発明の別の実施形態では、コンポーネント相互間の接着剤層及び/又バリヤ層は、薄さが3μm未満であり、好ましくは2μm未満であり、より好ましくは1.5μm未満である。接着剤層は、金プレートを安定的に貼り付けることができるようにするために、例えばコンタクトピン上に用いられる。バリヤ層は、個々のコンポーネント間の拡散を防止するために用いられる。
【0029】
別の好ましい実施形態では、1種類の材料又は数種類の材料の比透磁率(μr)は、1.5未満、好ましくは1.35未満、より好ましくは1.2未満、更により好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満である。
【0030】
別の実施形態では、個々のコンポーネントは、ハンダ付けなしで互いに連結され又はハンダを用いて互いに連結され、ハンダの比透磁率(μr)は、1.5未満、好ましくは1.35未満、より好ましくは1.2未満、さらにより好ましくは1.1未満、更に好ましくは1.05未満、更により好ましくは1.01未満である。本発明のセンサヘッドのための別の適当なハンダ材料は、50%未満のニッケルを含み、好ましくは20%未満のニッケルを含み、更により好ましくは10%未満のニッケルを含み、更に好ましくは5%未満のニッケルを含み、最も好ましくは、ニッケルの含有量が0%である。有利には、本発明において用いられるハンダの溶融温度Tmは、600℃以上であり、好ましくは900℃以上である。ここで、注目されるべきこととして、用いられる材料の熱膨張率を互いに整合させなければならない。適当なハンダは、銀、金、銅、パラジウム又はこれらの混合物を含む。好ましくは、ハンダは、銀と銅の混合物から成る。本発明によれば、微量の他の材料を含む銀と銅の混合物もまた、使用可能である。
【0031】
本発明の別の実施形態では、コンタクトピンは、好ましくは、管状ガラス本体によって包囲され、この管状ガラス本体は、両端部が開口し、かくして、コンタクトピンは自由に接触可能な状態になっており、その目的は、絶縁を提供すると共に望ましくない導電性を回避することにある。ここで、ガラス包囲に用いられるガラスは、その溶融温度がステンレス鋼の焼なまし温度以上であるように選択される。有利には、その結果、ステンレス鋼は、ガラス包囲プロセス中に同時に焼なましされる。これは、コンタクトピンの加工及び成形に起因して、ステンレス鋼の透磁率の変更が生じる場合に特に有利である。ここで、用いる材料の熱膨張率を互いに整合させなければならないことは注目されるべきである。
【0032】
別の実施形態では、ハンダ付け、焼なまし及びガラス包囲を単一の処理工程で完了させる。
【0033】
本発明の別の実施形態では、冷却及び/又は熱除去手段は、熱電冷却素子とベースとを含む。熱電冷却素子は、好ましくは、2つのセラミックプレート間に配列された数個のペルチエ素子から成る。セラミックプレートは、熱電冷却素子の低温側と高温側を示し、低温側は、プリント回路基板に向いた側又は面である。一実施形態では、低温側は、冷却手段又は熱伝導性材料を介してプリント回路基板に連結されている。別の実施形態では、熱電冷却素子の低温側は、同時に、プリント回路基板である。熱電冷却素子の適当な構成材料は、酸化アルミニウムセラミックス、窒化アルミニウムセラミックス、テルル化ビスマス及びゲルマニウム化珪素である。
【0034】
ベースは、センサヘッドのコンポーネントを機械的に取り付けるのに役立つと同時に、熱除去手段として働く。好ましくは、ベースは、良好な熱伝導性を有する材料から成る。本発明のベースの適当な構成材料は、銅、銀、金又はこれらの混合物である。好ましくは、ベースを作るために銅が用いられる。本発明のベースプレートがリングとして設計される場合、ベースは、ベースプレートの中央開口部を満たす又は塞ぐ。
【0035】
本発明の材料の選択及び組み合わせに起因して、感度、安定性及び幾何学的要件に関する現行のEDX規格に適合し、更に低干渉性であり、しかも荷電粒子のための光学系に僅かに影響を与えるに過ぎないセンサヘッドを提供することが可能である。かくして、SEM又はTEMの画像品質及び分解能を保持すると同時に、放射線分析、特にEDXによるナノ分析の機会を拓くセンサヘッドが提供される。
【0036】
本発明の別の目的は、本発明の低干渉センサヘッドを備えた放射線検出器を提供することにある。本発明によれば、本発明の低干渉センサヘッドは、粒子放射線を検出するために使用できるあらゆる形式の検出器に組み込むことができる。本発明によれば、粒子放射線は、好ましくは、X線放射線のような光子放射線をも含むが、イオン又は電子のような荷電粒子を含む放射線にあてはまる。
【0037】
本発明の特に好ましい実施形態では、本発明の放射線検出器は、本発明の低干渉センサヘッドを有するX線検出器、特にEDX検出器である。
【0038】
本発明は更に、荷電粒子のための光学系を備えた顕微鏡、特に電子顕微鏡又はイオン顕微鏡において、粒子放射線、好ましくはX線を検出するための本発明による低干渉センサヘッド又は本発明による放射線検出器の使用に関する。好ましくは、低干渉センサヘッド又は本発明の低干渉センサヘッドを備えた検出器は、走査電子顕微鏡(SEM)及び全ての形式の透過電子顕微鏡(TEM)、特に走査/透過電子顕微鏡(STEM)、TEM磁極片を備えたSEM、電子光学系とイオン光学系が組み合わされたFIB(focused ion beam:集束イオンビーム)機器、及びイオン顕微鏡に組み込まれる。
【0039】
次に、例示の実施形態及び関連の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】放射線検出器74がSEM(図1A)に取り付けられると共に放射線検出器74がTEM(図1B)に取り付けられたEDXの概略モデルを示す図である。
図2】本発明の低干渉センサヘッド30の側面図である。
図3】本発明の低干渉センサヘッド30の平面図である。
図4】本発明の低干渉センサヘッド30を備えた放射線検出器内でスイングした後のTEMに関する像品質を示す図(A,B)である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1Aは、EDXの実験モデルを概略的な形態で示し、この実験モデルでは、全体が参照符号60で示されたSEMが磁極片62を有し、電子ビーム64がこの磁極片から出ている。電子ビーム64は、試料ホルダ68によって保持された試料66に位置合わせされ、試料ホルダは試料ベンチ70上に配置されている。電子顕微鏡60の磁極片62から出た電子ビーム64は、試料ホルダ68で保持された試料66に突入する。その結果、放射線72が試料66により放出され、続いて、放射線検出器74により検出される。図示の実施形態では、放射線はX線72であり、したがって、検出器もまたX線検出器74である。
【0042】
EDX検出器74は、ここでは「クーリングフィンガ」だけが示されているが、センサチップ32として半導体結晶を備えたセンサヘッド30を有する。センサチップ32のX線に感応する前面が、入射するX線72によって照射される。X線検出器74は、センサヘッド30の後側に、冷却及び/又は熱除去手段36を備え、かかる冷却及び/又は熱除去手段は、特に、熱電冷却素子を含む。センサヘッド30及び熱電冷却素子は、ハウジング56によって包囲されている。ハウジング56は、センサチップ32の付近に、オプションとしてX線72に対して透過性である入力窓58を有する。検出器軸線38(破線)と試料標準とのなす角度は、検出器及び試料を傾けることにより変更可能である。検出器高さもまた可変である。
【0043】
図1Bは、EDXを備えたTEM80を概略的な形態で示す。ここで、試料66は、磁極片内に、即ち、上側磁極片部分82aと下側磁極片部分82bとの間に配置されている。電子ビーム64は、上側磁極片部分82aから出て、試料66中を照射する。照射の結果、X線72が試料66から放出され、かかるX線は、続いて、X線検出器74において検出される。X線検出器74は、図1Aに示したEDXX線検出器74に対応している。
【0044】
図2は、X線検出器74のための本発明によるセンサヘッド30の概略側面図である。センサチップ32が、プリント回路基板10の前面12上の中央に取り付けられている。センサチップ32はシリコンチップであり、プリント回路基板10は多層コンパウンドセラミックスである。前面12から遠ざかる方向に向いた側に、冷却要素34が設けられている。冷却要素34は、特にテルル化ビスマスペルチェ素子を備えた熱電冷却素子である。
【0045】
センサチップ32、プリント回路基板10及び熱電冷却素子34は、機械的取付けのためにベース52上に取り付けられており、ベース52は、焼なましオーステナイト系ステンレス鋼1.4301で作られたリング形ベースプレート50の中心部を形成している。ベース52及びベースプレート50は、取付けのためにハンダ付けされている。ハンダ48として、銅と銀の1:1混合物が用いられている。ベースプレート50の直径は、プリント回路基板10の前面12の対角線長さよりも大きい。ベースプレート50の縁部領域に、ボアホール54が設けられており、これらボアホールは、これらがプリント回路基板10の前面12によって覆われないような仕方でベースプレート50に配置されている。ボアホール54は、管状ガラス本体44をボアホール54の中に配置されたコンタクトピン42と一緒に保持する。コンタクトピン42は、センサチップ32を動作させるのに必要な信号及び制御連結部をなし、タングステン・チタン合金で作られている。選択された略図において、コンタクトピン42は、センサチップ32に近づく方向に向いた側で、プリント回路基板10の前面12と面一をなした状態で終端している。ループの形態をしたボンドワイヤ46が、コンタクトピン42の端から、プリント回路基板10に取り付けられたボンディングアイランドに接続されている。センサヘッド30は、オーステナイト系ステンレス鋼1.4301で作られたハウジング56によって包囲されている。ハウジング56は、センサチップ32の付近に、X線ビーム72に対して透過性である入力窓58を有している。
【0046】
図3は、X線検出器74のための本発明によるセンサヘッド30の概略平面図を示す。センサヘッド30のコンポーネントの説明を全部にわたって行なう。センサチップ32及びその下に配置されたプリント回路基板10は、正方形のベース表面を有し、プリント回路基板10の前面12は、センサチップ32の表面よりも広い。ボンディングアイランド16が、センサチップ32の側面に沿ってプリント回路基板10の前面12上に設けられており、ボンドワイヤ46がボンディングアイランド16からコンタクトピン42に接続されている。コンタクトピン42は、ベースプレート50のボアホール内においてガラス本体44と整列し、ベースプレート50の直径は、プリント回路基板10の前面12の対角線長さよりも大きく、そのため、コンタクトピン42は、プリント回路基板10の前面12の外側に配列される。センサヘッド30は、ハウジング56によって包囲されている。ハウジング56の直径は、ベースプレート50の直径よりも大きい。
【0047】
図4は、200KeV加速電圧でJeol220FSによりとられた2つの例示の像を示す。検出器をTEM磁極片内で試料から15.7mmの距離のところまで前進させた。本発明の検出器がこのように試料に向かって前進する場合、像変位量は、依然として、159nmである(図4A)。像品質は、それ以上損なわれることはない。標準型検出器が用いられる場合、像は、検出器の前進に続いて、鏡像力場(image field)の外側に位置することになる。
【0048】
図4Bは、高環状暗視野モードにおける[110]ゾーン中のシリコンの高分解能走査像を示す。この場合もまた、検出器は、試料に向かって15.7mmの距離のところまで前進する。電子レンズの像機能は、検出器により最小限しか損なわれず、走査構造を容易に検出することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 プリント回路基板
12 前面
16 ボンディングアイランド
30 センサヘッド
32 センサチップ
34 熱電冷却素子
36 冷却及び/又は熱除去手段
38 検出器軸線
42 コンタクトピン
44 ガラス本体
46 ボンドワイヤ
48 ハンダ
50 ベースプレート
52 ベース
54 ボアホール
56 ハウジング
58 入力窓
60 SEM
62 磁極片
64 電子ビーム
66 試料
68 試料ホルダ
70 試料ベンチ
72 放射線(X線)
74 放射線(X線)検出器
80 TEM
82a 上側磁極片部分
82b 下側磁極片部分
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B