特許第6196779号(P6196779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196779
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】絶縁性放熱フィラー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/02 20060101AFI20170904BHJP
【FI】
   C01G9/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-16620(P2013-16620)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-148427(P2014-148427A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 満
(72)【発明者】
【氏名】飯田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳也
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/147886(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/147887(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/004814(WO,A1)
【文献】 特開2004−059421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G9/00−9/08
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C09D1/00−10/00
C09D101/00−201/10
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛粒子上に、少なくともケイ素を含む酸化物の被覆を有し、酸化亜鉛量(ZnO量)に対するケイ素酸化物量(SiO量)の比(SiO量/ZnO量)が1〜50質量%であり、その被覆の平均厚みが2〜100nmであり、
窒素吸着による吸脱着等温線に基づきBJH法により算出した全細孔容積が0.07cm/g以下である絶縁性放熱フィラー。
【請求項2】
前記少なくともケイ素を含む酸化物被覆が緻密な被覆である請求項1に記載の絶縁性放熱フィラー。
【請求項3】
原子吸光分析法で測定したSiOに対するアルカリ金属の含有量が1.5質量%以下である請求項1又は2に記載の絶縁性放熱フィラー。
【請求項4】
形状が六角柱状形状であり、六角形の面の平均わたり径(L)が0.2〜40μmであり、六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)が0.05〜50μmである請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁性放熱フィラー。
【請求項5】
酸化亜鉛粒子表面に少なくともケイ素を含む酸化物被覆を有する請求項1に記載の絶縁性放熱フィラーを製造する方法であって、
酸化亜鉛粒子と有機ケイ素化合物と触媒化合物と媒液とを混合し、有機ケイ素化合物を加水分解反応させる工程を有し、前記媒液の50質量%以上が水であり、
前記触媒化合物量が前記有機ケイ素化合物量に対してモル比で10倍以上である、絶縁性放熱フィラーの製造方法。
【請求項6】
前記工程の後、反応生成物を含む固形分を150〜1000℃で焼成する請求項5に記載の絶縁性放熱フィラーの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の絶縁性放熱フィラーを含む放熱性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性放熱フィラー及びその製造方法並びに該フィラーを配合した放熱性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器などの分野において、近年、小型化に伴う熱源の集中や電流容量の増加による発熱量の増大が生じている。これに対処するため、熱伝導性に優れた放熱フィラーを充填した組成物を電子機器などに取り付け、発生した熱を外部に放出している。
【0003】
放熱フィラーは、グリースや樹脂シートの中に充填され、電子機器などの放熱特性を高める役割を持つものであり、そのひとつとして酸化亜鉛の使用が提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
酸化亜鉛は、放熱フィラーとして一般的なアルミナや窒化アルミニウムのほぼ中間の値の熱伝導率をもち、線膨張係数、硬度等の粉体物性、価格の面で比較的バランスのとれた材料であることから、放熱フィラーとしての適用可能性をもち、種々検討がなされている。
【0005】
ところで、放熱フィラーには半導体集積回路やパワーデバイス、多層基板など静電破壊やショートが問題となる用途では、熱伝導率と同時に絶縁性が求められる場合も多い。しかしながら、酸化亜鉛は体積固有抵抗が低く半導性を示すため、酸化亜鉛を放熱フィラーとして使用すると、放熱性グリースや放熱性シートの絶縁性が低下することにつながる。
【0006】
低導電性酸化亜鉛粒子としては、酸化亜鉛粒子を、Mg、Co、Ca及びNiからなる群より選択される少なくとも一つの金属化合物により表面処理して得られ、メジアン径(D50)が1〜10000μmである酸化亜鉛粒子が開示されている(特許文献2)。しかしながらこの技術では、均一表面処理がされにくく非被覆部が露出し易いため導電性の低減が十分でなく、粒子全体を被覆すると多量の表面処理が必要となり十分な熱伝導性が得られにくい。さらに、表面処理金属化合物の化学的安定性が低いという問題がある。
【0007】
また、酸化亜鉛粒子にシリカを被覆する技術が知られている。特許文献3では酸化亜鉛粒子の表面にケイ素酸化物からなる高密度の被覆層を有し、純水や硫酸水溶液へのZn溶解度が一定値以下である酸化亜鉛粒子組成物が開示されている。しかしながらこの技術は、日焼け止め化粧料に用いるための酸化亜鉛ナノ粒子におけるZnの溶解や光触媒活性の低減を図るためになされたものであり、絶縁性放熱フィラーへの適用及びその効果について何らの記載も示唆もない。
【0008】
特許文献4には、誘電率が10以上の材料からなるコア粒子の表面に金属酸化物からなるシェルが形成されたコア−シェル粒子であり、前記シェルの厚さが1〜500nmであり、窒素吸着法により得られる細孔容積ヒストグラムにおいて、前記シェルの細孔径3nm以下の細孔容積の最大値が、0.01cc/gであり、かつ分散媒中での平均粒子径が、1〜1000nmであるコア−シェル粒子が、金属酸化物として酸化亜鉛が開示されている。しかしながらこの技術は、樹脂や化粧料への紫外線遮蔽性付与に用いる酸化亜鉛ナノ粒子の光触媒活性とフッ素樹脂との反応低減を目的になされたものであり、絶縁性放熱フィラーとしての適用及びその効果について何らの記載も示唆もない。
【0009】
本発明者らは、酸化亜鉛ナノ粒子を放熱フィラーとして配合した樹脂組成物について検討を行ったが、充分な熱伝導性、絶縁破壊電圧が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−246885号公報
【特許文献2】特開2011−230947号公報
【特許文献3】特開平11−302015号公報
【特許文献4】再公表特許WO2010/4814号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、粉末抵抗が高く、樹脂組成物に配合した時に高い熱伝導率と高い絶縁破壊電圧を示す酸化亜鉛絶縁性放熱フィラー及びその工業的な製造方法、並びに当該絶縁性放熱フィラーを含む放熱性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、酸化亜鉛絶縁性放熱フィラーについて鋭意検討した。ここで、酸化亜鉛の熱伝導率は54W/m・Kであるのに対し、結晶シリカの熱伝導率は6.2W/m・Kである。従って、酸化亜鉛に結晶シリカを被覆した場合、熱伝導率は低下するものと予想された。ところが、酸化亜鉛粒子表面に少なくともケイ素を含む酸化物の被覆を形成したフィラーとすること、特に窒素吸着による吸脱着等温線に基づきBJH法により算出した全細孔容積が特定値以下のフィラーとすることにより、意外にも、酸化亜鉛粒子単体に対し粉末抵抗を高めた絶縁性放熱フィラーを見出した。加えて、樹脂組成物に配合した時に、同等の熱伝導率を示し、絶縁破壊電圧が著しく高まることも見出し、本発明を完成した。更に、ケイ素酸化物源として有機ケイ素化合物を用いた場合であっても、水を主体とした媒液中で特定量の触媒化合物を併用することにより、安価かつ短時間で前記絶縁性放熱フィラーを製造する方法を見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)酸化亜鉛粒子上に、少なくともケイ素を含む酸化物の被覆を有する絶縁性放熱フィラーであり、
(2)前記少なくともケイ素を含む酸化物被覆が緻密な被覆である(1)の絶縁性放熱フィラーであり、
(3)窒素吸着による吸脱着等温線に基づきBJH法により算出した全細孔容積が0.07cm3/g以下である(1)又は(2)の絶縁性放熱フィラーであり、
(4)前記被覆の平均厚みが、2〜100nmである(1)〜(3)の絶縁性放熱フィラーであり、
(5)原子吸光分析法で測定したSiOに対するアルカリ金属の含有量が1.5質量%以下である(1)〜(4)の絶縁性放熱フィラーであり、
(6)形状が六角柱状形状であり、六角形の面の平均わたり径(L)が0.2〜40μmであり、六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)が0.05〜50μmである(1)〜(5)の絶縁性放熱フィラーであり、
(7)酸化亜鉛粒子表面に少なくともケイ素を含む酸化物被覆を有する絶縁性放熱フィラーを製造する方法であって、
酸化亜鉛粒子と有機ケイ素化合物と触媒化合物と媒液とを混合し、有機ケイ素化合物を加水分解反応させる工程を有する、
絶縁性放熱フィラーの製造方法であり、
(8)前記工程において、前記媒液の50質量%以上が水であり、前記触媒化合物量が前記有機ケイ素化合物量に対してモル比で10倍以上である、(7)の絶縁性放熱フィラーの製造方法であり、
(9)前記工程の後、反応生成物を含む固形分を150〜1000℃で焼成する(7)又は(8)の絶縁性放熱フィラーの製造方法であり、
(10)(1)〜(6)の絶縁性放熱フィラーを含む放熱性組成物、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の絶縁性放熱フィラーは、粉末抵抗が高く、樹脂組成物に配合した時に高い熱伝導率と絶縁破壊電圧を示すものであることから、放熱性及び絶縁性に優れた放熱性樹脂組成物等が得られる。このため、本発明の放熱性組成物を絶縁性の必要な電子機器などに取り付けて効率よく放熱する材料として用いることができる。更に、本発明の絶縁性放熱フィラーの製造方法は、安価かつ短時間でケイ素を含む酸化物による緻密な被覆が可能であることから、工業的製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1の絶縁性放熱フィラー試料Bの走査電子顕微鏡写真
図2】本発明の実施例2の絶縁性放熱フィラー試料Dの走査電子顕微鏡写真
図3】本発明の実施例3の絶縁性放熱フィラー試料Fの走査電子顕微鏡写真
図4】比較例1の放熱フィラー試料Gの走査電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の技術的構成及びその作用効果は、以下の通りである。ただし、作用機構については推定を含んでおり、その正否は本発明を制限するものではない。
【0017】
本発明は、酸化亜鉛粒子上に、少なくともケイ素を含む酸化物の被覆を有する絶縁性放熱フィラーである。「被覆」とは、酸化亜鉛粒子全体を層状に被覆している状態、すなわち連続した被膜のみを意味するものではなく、連続していない被膜、例えば連続被膜の一部が欠落したような状態も含む。その被膜は、微小な酸化物粒子が堆積した状態でもよく、結晶質及び/又は非晶質の酸化物が一体に連結した状態でもよい。中でも、少なくともケイ素を含む酸化物が酸化亜鉛粒子表面の95%以上を一体に連結した状態で層状に被覆している状態であると、絶縁性放熱フィラーの粉末抵抗を充分に上昇させることができるため好ましい。ここで、「表面の95%以上」とは、「走査電子顕微鏡画像の平面上での欠落部面積/フィラー全面積の比率が95%以上」であることをいう。なお、少なくともケイ素を含む酸化物被覆は複数層存在してもよい。また、酸化亜鉛粒子と少なくともケイ素を含む酸化物被覆の間には、他の物質が存在してもよい。そのような物質として、例えばケイ素と亜鉛の複合酸化物が挙げられる。このような、少なくともケイ素を含む酸化物は、結晶性を有することが好ましい。
【0018】
本発明の絶縁性放熱フィラーを構成する前記酸化亜鉛粒子とは、六方晶、立方晶、立方晶面心構造いずれかのX線回折パターンを示すZnOを少なくとも50重量%含むものであり、水酸化亜鉛や製造の際に使用する硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛化合物が含まれていても良い。また、製造の際に使用する亜鉛化合物を構成していた硫酸根、硝酸根、塩素、酢酸等が含まれていても良く、また、カルボン酸、その塩、アミン化合物等の材料が含まれていても良い。酸化亜鉛粒子は熱伝導性の観点から結晶性の良いものが好ましく、その指標として粉末X線回折スペクトルのメインピークである2θ=36.5度の半価幅が0.20度以下であるのが好ましい。半価幅が0.20度よりも大きいと結晶性が低く熱伝導性が低下しやすいため好ましくない。
【0019】
前記少なくともケイ素を含む酸化物とは、不純物としてケイ素を含む酸化物ではなく、ケイ素がその構造を構成する成分となっている酸化物であり、例えば、酸化ケイ素が挙げられ、その例としてはシリカが挙げられる。
【0020】
本発明の絶縁性放熱フィラーは、下記の方法で測定した粉体抵抗値が、1×10Ω・cm以上であり、好ましくは1×1010Ω・cm以上であり、より好ましくは1×1012Ω・cm以上である。このように粉末抵抗が高いため、樹脂組成物等に用いたときに、その絶縁破壊電圧を高めることができる。
[粉体抵抗値測定方法]
フィラー0.3gを10MPaの圧力で円柱状(18mmφ)に成形し、直流電圧印加方式の絶縁抵抗試験機(Model 3154 HIOKI社製)を用いて抵抗を測定し、下式により粉体抵抗値を算出した。
粉体抵抗値=測定値×円柱の断面積/円柱の厚み
【0021】
本発明の絶縁性放熱フィラーにあっては、前記の少なくともケイ素を含む酸化物は、緻密な被覆層を形成していることが好ましい。被覆が緻密であると、酸化亜鉛粒子単体よりも粉末抵抗を高めることができる。さらに、樹脂組成物に配合した時に、酸化亜鉛粒子単体と同等の熱伝導率を示しながら、絶縁破壊電圧を著しく高めることができる。
【0022】
本発明の絶縁性放熱フィラーは、窒素吸着による吸脱着等温線に基づきBJH法により算出した全細孔容積が0.07cm/g以下であることが好ましい。全細孔容積は、0.04cm/g以下がより好ましく、0.02cm/g以下がさらに好ましい。絶縁性放熱フィラーの全細孔容積を小さくすることにより、さらに粉末抵抗を高めることができる。また、樹脂組成物に配合した時に、酸化亜鉛粒子単体と同等の熱伝導率を示しながら、絶縁破壊電圧を著しく高めることができる。このような全細孔容積の小さい絶縁性放熱フィラーは、少なくともケイ素を含む酸化物の被覆の緻密性を高めることで実現できる。
【0023】
全細孔容積は、例えば、自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP−miniII 日本ベル社製)を用いて測定することができる。具体的には、試料を150℃で3時間真空脱気処理したのち、液体窒素温度(77K)の条件で窒素吸脱着等温線を測定する。そして、得られた窒素吸脱着等温線からBJH法により解析して細孔容量および細孔分布曲線を得る。ここで得られる細孔径分布曲線は、細孔容積Vを細孔直径rで微分した値(dV/dr)を細孔直径(r)に対してプロットしたものである。測定では相対圧力0.30〜0.99の範囲において行い、平衡時間は6分とする。
【0024】
本発明の絶縁性放熱フィラーにおいて、少なくともケイ素を含む酸化物被覆の厚みに特に制限は無く、本発明の効果が得られる範囲で適宜調整できる。また、前記被覆は均一の厚みである必要はなく、場所により厚みが異なってもよい。好ましい平均厚みは2〜100nmである。厚みが小さすぎると、粉末抵抗や絶縁破壊電圧を充分高めることができず、厚みが大きすぎると、熱伝導率が低下しやすくなる。この好適範囲は、前記被覆の緻密性にも影響を受けるが、10〜40nmとするとより好ましい。前記被覆の平均厚みは、走査電子顕微鏡により被覆断面の寸法を10か所測定し、その平均値により求める。
【0025】
本発明の絶縁性放熱フィラーにおいては、酸化亜鉛量(ZnO量)に対するケイ素酸化物量(SiO量)の比(SiO量/ZnO量)に特に制限は無く、本発明の効果が得られる範囲で適宜調整できる。好適範囲は、前記被覆の緻密性にも影響を受けるが、1〜50質量%とすると好ましく、5〜20質量%とするとより好ましい。この比が小さすぎると、粉末抵抗や絶縁破壊電圧を充分高めることができず、大きすぎると、熱伝導率が低下しやすくなる。SiO量/ZnO量は、蛍光X線分析によりSi量、Zn量を測定し、酸化物に換算することで求めることができる。
【0026】
本発明の絶縁性放熱フィラーにおいては、SiO量に対するアルカリ金属量の比に特に制限は無く、本発明の効果が得られる範囲で適宜調整できる。ただし、アルカリ金属量が多すぎると、粉末抵抗や絶縁破壊電圧を充分高めることができなくなるため、1.5質量%以下とするのが好ましく、300ppm未満とするとより好ましい。アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられ、特にNa量を低減することが好ましい。SiO量に対するアルカリ金属量の測定は、原子吸光分析法で行う。Naを例に具体的に測定方法を説明すると、フッ酸を含む酸で絶縁性放熱フィラーを溶解し、純水で希釈して作製した試料溶液を、原子吸光分析装置(AA−6800 島津製作所製)を用いて測定波長589nmで分析を行う。Na量の低減は、例えば、製造に用いる原料にNaを含まないものを用いるとよい。
【0027】
本発明の絶縁性放熱フィラーの大きさには特に制限は無く、用途や要求性能に応じて適宜選択してよい。一般的に、絶縁性放熱フィラーは粒子径が大きい方が熱伝導は生じやすく、良好に放熱することができるため、メジアン径(D50)が0.1〜1000μmのものであることが好ましく、1〜100μmがより好ましい。上記メジアン径(D50)は、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径をいう。上記複合粒子の粒子径の分布は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製 LA−910)によって求める。
【0028】
本発明の絶縁性放熱フィラーの粒子形状は特に限定されず、針状、棒状、板状、球状等を挙げることができる。板状としては例えば六角板状を、棒状としては例えば六角柱状を挙げることができる。その他、特殊形状として、針状結晶が異なる10軸以上の軸方向に向かって放射状に集積した形状を有する(以降、「いがぐり状」と記載することもある)酸化亜鉛粒子も挙げられる。なお、粒子の形状は走査型電子顕微鏡によって観察することができる。
【0029】
本発明の絶縁性放熱フィラーは、六角柱状粒子であると好ましい。特に、六角形の面を有し、その面に垂直方向に伸びた六角柱の形状を有し、六角形の面の平均わたり径(L)が0.2〜40μmであり、六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)が0.05〜50μmである六角柱状粒子であると好ましい。「わたり径」とは、「対向する頂点を結ぶ線の長さ」のことを言う。このような特定の粒子を配合させると熱伝導パスを形成しやすく、優れた熱伝導性を有する絶縁性放熱フィラーとすることができるため好ましい。一方、六角形の面の平均わたり径(L)が、0.2μmより小さい粒子であると熱伝導性が低下するため好ましくなく、40μmより大きい粒子であると熱伝導性はよいものの組成物中に配合しにくいため好ましくない。このようなことから、酸化亜鉛粒子の六角形の面の平均わたり径(L)は、3〜15μmがより好ましい。六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)は、1〜50μmがより好ましい。本発明の絶縁性放熱フィラーの粒子形状が六角柱状の場合、その寸法は電子顕微鏡法で求めることもできる。具体的には、絶縁性放熱フィラー粒子の平均わたり径(L)、平均高さ(H)は、少なくとも20個の粒子の六角面のわたり径、高さを電子顕微鏡写真から計測して、それらの粒子を角柱相当体と仮定し、下記式によって算出した重量平均わたり径、重量平均高さを基準とする。

重量平均わたり径=Σ(Ln・Ln・Dn)/Σ(Ln・Dn
重量平均高さ=Σ(Dn・Ln・Dn)/Σ(Ln・Dn

上記式中、nは計測した個々の粒子の番号を表し、Lnは第n番目の粒子のわたり径、Dnは第n番目の粒子の高さをそれぞれ表す。酸化亜鉛粒子の六角形の面の平均わたり径(L)と、六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)の比L/Hで表すと、0.004〜800の範囲が好ましく、0.02〜60の範囲がより好ましい。なお、六角柱状としては、六角板状といわれるような形状を含み、特に前記の比L/Hが1以下の粒子を特に六角柱状といい、L/Hが1以上の粒子を六角板状という場合がある。
【0030】
また、電子顕微鏡写真を詳細に観察すると、六角柱状の中央部にくびれがあり、その部分の径は両端部に比べ小さい複合粒子がある。このような六角柱の柱の両端部と中央部の径が、両端部に比し中央部の径が小さい形状を本発明では鼓に類似した形状(鼓形状)という。(中央部の径)/(両端部の径)は、0.5〜0.99程度が好ましく、0.7〜0.99程度がより好ましい。このような鼓形状は、中央部のくびれ部分に存在する六角板状核晶を対称面とした成長双晶が起こったような形状を有する。このような鼓形状では、両端部で熱伝導パスを形成することかでき、しかも中央部が小さいとその分だけ重量減少となるため好ましい。また、このような鼓形状をとると、樹脂等に練り込んで成形する際に絶縁性放熱フィラー粒子が配向し易くなり、熱伝導パスが高密度で形成されるため好ましい。
【0031】
本発明の複合粒子は、その粒子表面に必要に応じてケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ等の酸化物あるいはそれらのリン酸塩等の無機化合物の被覆層を設けることもできる。また、溶媒、塗料やプラスチックス等への分散性を付与するなどの目的で、有機化合物を被覆しても良く、前記の無機化合物と有機化合物の両者を被覆しても良い。有機化合物としては、例えば、(1)有機ケイ素化合物((a)オルガノポリシロキサン類(ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、メチルメトキシポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンジオール、ジメチルポリシロキサンジハイドロジェン等又はそれらの共重合体)、(b)オルガノシラン類(アミノシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、ビニルシラン、メルカプトシラン、クロロアルキルシラン、アルキルシラン、フルオロアルキルシラン等又はそれらの加水分解生成物)、(c)オルガノシラザン類(ヘキサメチルシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等)、(2)有機金属化合物((a)有機チタニウム化合物(アミノアルコキシチタニウム、リン酸エステルチタニウム、カルボン酸エステルチタニウム、スルホン酸エステルチタニウム、チタニウムキレート、亜リン酸エステルチタニウム錯体等)、(b)有機アルミニウム化合物(アルミニウムキレート等)、(c)有機ジルコニウム化合物(カルボン酸エステルジルコニウム、ジルコニウムキレート等)等)、(3)ポリオール類(トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等)、(4)アルカノールアミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等)又はその誘導体(酢酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩等)、(5)高級脂肪酸類(ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等)又はその金属塩(アルミニウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等)、(6)高級炭化水素類(パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等)又はその誘導体(パーフルオロ化物等)が挙げられる。これらの有機化合物は1種を用いても、2種以上を積層又は混合して用いても良い。無機化合物、有機化合物の被覆量は、少なくともケイ素を含む被覆を表面に有する酸化亜鉛粒子に対し、0.1〜50重量%の範囲が好ましく、0.1〜30重量%の範囲が更に好ましい。少なくともケイ素を含む被覆を表面に有する酸化亜鉛粒子の表面に前記の無機化合物や有機化合物を被覆させるには、粒子の水性スラリー中で、無機化合物あるいは有機化合物を添加し中和するなどして被覆することができる。また、有機化合物を被覆するには別の方法として、乾式粉砕の際に有機化合物を添加し混合することもできる。
【0032】
続いて、本発明の絶縁性放熱フィラーの製造方法について説明する。本発明で用いる酸化亜鉛粒子は、公知の方法で製造することができる。また、六角柱状やいがぐり状などの特殊形状の酸化亜鉛粒子は、それぞれ特開2008−254992号公報、特開2008−254989号公報に沿って製造することができる。
【0033】
酸化亜鉛粒子表面への少なくともケイ素を含む酸化物被覆(以降「少なくともケイ素を含む酸化物被覆」を「シリカ被覆」と記載することもある)の形成方法は、特に制限は無く、公知の表面処理方法を用いることができる。例えば、分散媒と、酸化亜鉛粒子と、ケイ素化合物とを混合し、ケイ素化合物をケイ素酸化物へと反応させて酸化亜鉛粒子表面に付着させることができる。
【0034】
上記のシリカ被覆形成方法の一例として、酸化亜鉛の水性スラリーに無機ケイ素化合物を添加しpHが8.0〜10.0の範囲で中和してシリカ被覆を形成する方法について説明する。シリカ被覆工程で用いるケイ素化合物には、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、シリカゾル等を用いることができ、ケイ酸ナトリウム等の水溶性化合物が好適に用いられる。中和剤には、用いるケイ素化合物に応じて、前記の酸性化合物または塩基性化合物を適宜選択して用いる。ケイ酸ナトリウムとしては、オルソケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムなどを用いることができ、ケイ酸ナトリウムの水溶液であるケイ酸ソーダ1号(SiO/NaOのモル比が2)、2号(SiO/NaOのモル比が2.5)、3号(SiO/NaOのモル比が3)、4号(SiO/NaOのモル比が4)やN特殊ケイ酸ソーダ(SiO/NaOのモル比が3.80〜4.10)、C特殊ケイ酸ソーダ(SiO/NaOのモル比が3.30〜3.50)、APケイ酸ソーダ(SiO/NaOのモル比が4.25〜4.45)(いずれも日本化学工業社製)などを好適に用いることができ、SiO/NaOのモル比が3以上のケイ酸ソーダを用いると残存するナトリウム分がより少なくなるため好ましい。ケイ素化合物と中和剤とは、別々に添加しても良いが、ケイ素化合物として酸性のものを用いる場合、亜鉛が溶出しないように、ケイ素化合物と中和剤の塩基性化合物とを、水性スラリーのpHを前記範囲に維持しながら、同時に並行的に添加するのが好ましい。ケイ素化合物を中和した後、一定の時間、望ましくは10分間〜1時間程度保持して熟成させるのが好ましい。緻密シリカを被覆する場合は中和時の温度を60℃以上とし、中和時間を60分以上かけて行う。中和剤には、用いるケイ素化合物に応じて、酸性化合物または塩基性化合物を適宜選択して用いる。酸性化合物としては、硫酸、塩酸等の無機酸や、酢酸、ギ酸等の有機酸等が、塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニア、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム化合物等が挙げられる。
【0035】
上記のシリカ被覆形成方法の別の一例として、酸化亜鉛粒子と有機ケイ素化合物と触媒化合物と媒液とを混合し、有機ケイ素化合物を加水分解反応させて、シリカ被覆を形成する方法について説明する。この方法によれば、緻密なシリカ被覆が形成されやすくなるため好ましい。
【0036】
前記有機ケイ素化合物としては、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物であればよく、例えばケイ素アルコキシド等が挙げられ、緻密な被覆を形成する点から、アルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましい。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等が挙げられ、反応速度が適正な点から、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましく、テトラエトキシシランがより好ましい。
【0037】
前記有機ケイ素化合物の混合量は、該化合物中のケイ素量をケイ素酸化物量(SiO量)に換算した酸化亜鉛量(ZnO量)に対する比(SiO量/ZnO量)が、1〜50質量%とすると好ましく、5〜20質量%とするとより好ましい。
【0038】
前記触媒化合物としては、アルカリを用いることができる。アルカリとしては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ類;炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機アルカリ塩類;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、アニリン、コリン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、グアニジン等の有機アルカリ類;蟻酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、蟻酸モノメチルアミン、酢酸ジメチルアミン、乳酸ピリジン、グアニジノ酢酸、酢酸アニリン等の有機酸アルカリ塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
これらの中でも、反応速度制御の観点から、アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、蟻酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が特に好ましい。アルカリは上記群から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、アルカリ金属を主成分として含まないアルカリを用いることにより、アルカリ金属含有量を低減できる。中でも、成膜速度、残留物除去のしやすさ等から、アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムが特に好ましく、アンモニアが更に好ましい。
【0040】
触媒化合物の添加量は、有機ケイ素化合物に対し、モル比で1倍の微量添加としてもシリカ被覆の形成は可能であるが、モル比で5倍以上の添加が好ましい。ただし、固体の触媒化合物の場合、溶解度を超える量添加すると、フィラー中に不純物として混入するため好ましくない。
【0041】
前記媒液としては、組成物が均一溶液を形成するものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル・アセタール類;アセトアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール誘導体等、水を用いることができる。これらの中でも反応速度制御の観点からアルコール類を用いることが好ましく、中でもエタノール、メタノールおよびプロパノールが好ましく、特にエタノールが好ましい。媒液には、上記群から選択された1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
有機ケイ素化合物の加水分解には水が必要であるため、前記媒液には水を含むことが好ましい。有機ケイ素化合物の有効利用のため、水の量は有機ケイ素化合物の加水分解必要量以上を含むことが好ましい。
【0043】
混合液中における酸化亜鉛粒子の濃度は、混合液100質量%中、1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。酸化亜鉛粒子の濃度が1質量%以上であれば、フィラー粒子の製造効率が良好となる。酸化亜鉛粒子の濃度が30質量%以下であれば、均一なシリカ被覆を形成した本発明のフィラーを安定して製造することができる。
【0044】
酸化亜鉛粒子、有機ケイ素化合物、触媒化合物、媒液の混合順序には特に制限は無く、任意の順序で混合することができる。例えば、(a)酸化亜鉛粒子と媒液を含む分散液を調製し、そこに触媒化合物を混合した後、有機ケイ素化合物を混合する方法、(b)酸化亜鉛粒子と媒液を含む分散液を調製し、そこに有機ケイ素化合物を混合した後、触媒化合物を混合する方法、が挙げられる。
【0045】
前記原料の混合により加水分解反応させる工程において、その反応温度には特に制限は無く、反応温度0〜70℃で行うことができる。温度が高いほどシリカ被覆形成速度が増加するが、高過ぎると成分の揮発により、組成を一定に保つことが困難になり、また温度が低すぎると、シリカ被覆形成速度が遅くなり実用的でない。本反応は、常温(10〜30℃)で実施することができる。その反応時間にも特に制限は無く、有機ケイ素化合物の加水分解速度に応じて適宜設定してよい。反応時間を60分以上とすると、緻密なシリカ被覆が形成されやすくなるため好ましい。反応時間は、原料の混合速度、例えば前記(a)であれば有機ケイ素化合物の混合速度を、前記(b)であれば触媒化合物の混合速度を調整することにより制御することができる。混合速度の調整は例えばチューブポンプを用いて行うことができる。また、反応時間は、全材料混合後の熟成時間によって調整してもよい。
【0046】
シリカの被覆を形成した後、必要に応じて濾過・洗浄して固液分離し、乾燥、乾式粉砕を行うと、フィラー粉末が得られる。固液分離には、フィルタープレス、ロールプレス等の通常工業的に用いられる濾過器を用いることができる。乾燥にはバンド式ヒーター、バッチ式ヒーター、噴霧乾燥機等を用いることができる。乾燥温度及び時間には特に制限は無く、適宜設定できるが、例えば、150℃以下とすることができ、120℃以下にすることもできる。乾式粉砕にはハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パルペライザー、解砕機等の摩砕粉砕機、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の圧縮粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を用いることができる。
【0047】
また、上記有機ケイ素化合物を用いたシリカ被覆形成方法において、前記媒液の50質量%以上を水とし、前記触媒化合物量が前記有機ケイ素化合物量に対してモル比で10倍以上とすると、意外にも、著しく生産性が高まるため好ましい。具体的には、原料の添加混合時間を著しく短縮することができるため、安価かつ生産性が高まり、工業的に有用である。具体的には、前記(a)であれば有機ケイ素化合物を、前記(b)であれば触媒化合物を、60分より短い時間で混合して有機ケイ素化合物を加水分解反応させても緻密なシリカ被覆が可能となる。前記混合は30分より短い時間でもよく、一括して一度に混合してもよい。
【0048】
媒液中の水の量は50質量%以上であればよく、80質量%以上としてもよく、水100質量%としてもよい。また、前記触媒化合物量が前記有機ケイ素化合物量に対してモル比で10倍以上であればよく、15倍以上であってもよい。
【0049】
更に、有機ケイ素化合物を前記加水分解反応させる工程の後、シリカ被覆酸化亜鉛粒子を150〜1000℃程度の温度で焼成するのが好ましい。酸化亜鉛粒子の結晶性を更に高めることができること、シリカ被覆をより一層緻密化できること、シリカの結晶性が高まること、酸化亜鉛粒子表面とシリカ被覆との密着性が高まることが相俟って、粉末抵抗や絶縁破壊電圧を高めることができる。焼成温度は、好ましくは500〜1000℃であり、より好ましくは700〜1000℃である。焼成は通常、空気、酸素、窒素等の雰囲気下で行うことができ、焼成時間は10分〜10時間程度が適当である。加熱焼成には、ロータリーキルン、トンネルキルン、電気炉等の公知の焼成装置を用いることができる。
【0050】
本発明の絶縁性放熱フィラーは、そのまま放熱基板として使用することができ、また、放熱性組成物としても使用することができる。本発明の放熱性組成物とは、本発明の絶縁性放熱フィラーを含有する組成物であり、通常、樹脂組成物と混合されて放熱性樹脂組成物として使用される。放熱性樹脂組成物には、放熱シート、放熱エラストマー、放熱性多層基板、放熱性グリースや放熱性塗料等を包含する。前記の各種放熱性樹脂組成物も本発明に包含される。
【0051】
本発明の放熱性組成物は、本発明の絶縁性放熱フィラー以外の他の放熱フィラーを含有してもよい。他の放熱フィラーとしては特に限定されず、公知の任意のものを使用することができる。例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、金属シリコン、金属粒子、炭素化合物(ダイヤモンド、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等)等を挙げることができる。本発明の絶縁性放熱フィラーと組み合わせる場合は、他の放熱フィラーは一種類に限定されることはなく、粒子サイズの異なる同一の物質であっても、粒子サイズの異なる他物質の二種類以上の組み合わせであってもよい。その形状にも特に限定はなく、真球状、粒状、立方体状、棒状、六角板状、鱗片状等を上げることができる。
【0052】
本発明の放熱性組成物は、樹脂と混合して放熱性樹脂組成物として使用することができる。この場合、使用する樹脂は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよく、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、液晶樹脂(LCP)、シリコーン樹脂等の樹脂を挙げることができる。
【0053】
本発明の放熱性樹脂組成物は、(1)熱可塑性樹脂と前記放熱性組成物とを溶融状態で混練することによって得られた熱成型用の樹脂組成物(2)熱硬化性樹脂と前記放熱性組成物とを混練後、加熱硬化させることによって得られた樹脂組成物、等のいずれの形態であってもよい。
【0054】
本発明の放熱性樹脂組成物中の前記放熱性組成物の配合量は、目的とする熱伝導率や樹脂組成物の硬度等、樹脂組成物の性能に合わせて任意に決定することができる。前記放熱性組成物の放熱性能を充分に発現させるためには、放熱性樹脂組成物中の固形分全量に対して1体積%以上含有する事が好ましい。上記配合量は必要とされる放熱性能に応じて配合量を調整して使用することができ、より高い放熱性が要求される用途においては、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上が更に好ましい。このようにして、放熱性樹脂組成物の熱伝導率を好ましくは0.5W/m・K以上とすることができ、より好ましくは1.0W/m・K以上とすることができる。具体的には、絶縁性放熱フィラー20体積%:エポキシ樹脂80体積%で配合した樹脂組成物において、樹脂組成物の熱伝導率を1.0W/m・K以上、絶縁破壊電圧を4kV/mm以上とすることができる。
【0055】
本発明の放熱性樹脂組成物は、用途によって樹脂成分を自由に選択することができる。例えば、熱源と放熱板の間に装着し密着させる場合には、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂、アクリル樹脂のような接着性が高く硬度の低い、かつ、耐熱性の高い樹脂を選択すればよい。
【0056】
本発明の放熱性樹脂組成物が熱成型用の樹脂組成物である場合、熱可塑性樹脂と前記放熱性組成物を、例えば、スクリュー型二軸押出機を用いた溶融混練によって、樹脂組成物をペレット化し、その後射出成型等の任意の成形方法によって所望の形状に成型する方法等によって製造することができる。
【0057】
本発明の放熱性樹脂組成物が熱硬化性樹脂と前記放熱性組成物とを混練後、加熱硬化させることによって得られた樹脂組成物である場合、例えば、加圧成形等によって成形するものであることが好ましい。このような樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物をトランスファー成型により成型し、製造することができる。
【0058】
本発明の放熱性樹脂組成物の用途は、電子部品の放熱部材、熱伝導性充填剤、温度測定用等の絶縁性充填剤等がある。例えば、本発明の放熱性樹脂組成物は、MPU、パワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を放熱フィンや放熱ファン等の放熱部品に伝熱させるために使用することができ、発熱性電子部品と放熱部品の間に挟み込まれて使用することができる。これによって、発熱性電子部品と放熱部品間の伝熱が良好となり、長期的に発熱性電子部品の誤作動を軽減させることができる。ヒートパイプとヒートシンクの接続や、種々の発熱体の組込まれたモジュールとヒートシンクとの接続に好適に用いることもできる。
【0059】
本発明の放熱性組成物には、鉱油又は合成油を含有する基油と前記放熱性組成物が混合された放熱性樹脂組成物である放熱性グリースが包含される。
【0060】
本発明の放熱性グリース中の前記放熱性組成物の配合量は、目的とする熱伝導率に合わせて任意に決定する事ができる。前記放熱性組成物の放熱性能を充分に発現させるためには、放熱性グリース中の全量に対して1体積%以上含有する事が好ましい。上記配合量は必要とされる放熱性能に応じて配合量を調整して使用することができ、より高い放熱性が要求される用途においては、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上が更に好ましい。
【0061】
上記基油は、鉱油、合成油、シリコーンオイル、フッ素系炭化水素油等の各種油性材料を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。合成油としては特に炭化水素油がよい。合成油としてα−オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、トリメリット酸エステル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテルなどが使用できる。
【0062】
本発明の放熱性グリースには、必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。上記界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤が好ましい。非イオン系界面活性剤の配合により、高熱伝導率化を図ることができる。
【0063】
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエチレンジアミン、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリ脂肪酸エステル、エチレングリコールモノ脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタエリトリットモノ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ソルビタンセスキ脂肪酸エステル、ソルビタントリ脂肪酸エステルが挙げられる。
【0064】
非イオン系界面活性剤の添加の効果は、絶縁性放熱フィラーの種類、配合量、及び親水性と親油性のバランスを示すHLB(親水親油バランス)によって異なる。また、高放熱性グリース等の電気絶縁性や電気抵抗の低下を重視しない用途では、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤を使用することができる。
【0065】
本発明の放熱性グリースは、前述した成分をドウミキサー(ニーダー)、ゲートミキサー、プラネタリーミキサーなどの混合機器を用いて混合することによって調製することができる。
【0066】
本発明の放熱性グリースは、発熱体や放熱体に塗布することによって使用される。発熱体としては、例えば、一般の電源;電源用パワートランジスタ、パワーモジュール、サーミスタ、熱電対、温度センサなどの電子機器;LSI、CPU等の集積回路素子などの発熱性電子部品などが挙げられる。放熱体としては、例えば、ヒートスプレッダ、ヒートシンク等の放熱部品;ヒートパイプ、放熱板などが挙げられる。塗布は、例えば、スクリーンプリントによって行うことができる。スクリーンプリントは、例えば、メタルマスクもしくはスクリーンメッシュを用いて行うことができる。前記放熱性組成物を発熱体及び放熱体の間に介在させて塗布することにより、上記発熱体から上記放熱体へ効率よく熱を伝導させることができるので、上記発熱体から効果的に熱を取り除くことができる。
【0067】
本発明の放熱性組成物には、前記放熱性組成物が樹脂溶液又は分散液中に分散させた放熱性樹脂組成物である放熱性塗料組成物が包含される。この場合、使用する樹脂は硬化性を有するものであっても、硬化性を有さないものであってもよい。上記樹脂として具体的には、上述した樹脂組成物において使用することができる樹脂として例示した樹脂を挙げることができる。塗料は、有機溶剤を含有する溶剤系のものであっても、水中に樹脂が溶解又は分散した水系のものであってもよい。
【0068】
上記塗料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ディスパーやビーズミル等を使用し、必要とする原料及び溶剤を混合・分散することによって製造することができる。
【0069】
本発明の放熱性塗料組成物中の前記放熱性組成物の配合量は、目的とする熱伝導率に合わせて任意に決定する事ができる。前記放熱性組成物の放熱性能を充分に発現させるためには、塗料組成物全量に対して1体積%以上含有する事が好ましい。上記配合量は必要とされる放熱性能に応じて配合量を調整して使用することができ、より高い放熱性が要求される用途においては、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上が更に好ましい。
【0070】
本発明の放熱性塗料組成物は、前述の放熱性樹脂組成物の項に記載した用途に用いることができる。その他、建築物の外壁、建材や、ボイラー等の熱を発する産業設備、家電製品等にも用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0072】
絶縁性放熱フィラーの評価は、下記の方法により行った。
酸化亜鉛粒子及び絶縁性放熱フィラーの外観及び形状は、走査電子顕微鏡(s−4800 日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて観察した。
【0073】
酸化亜鉛粒子及び絶縁性放熱フィラーの寸法は、上記走査電子顕微鏡を用いて、少なくとも20個の粒子の六角面のわたり径及び高さを電子顕微鏡写真から計測して、それらの粒子を角柱相当体と仮定し、重量平均わたり径、重量平均高さを算出した。
【0074】
絶縁性放熱フィラーのケイ素を含む酸化物被覆の厚みは、上記走査電子顕微鏡を用いて、被覆断面の寸法を10か所測定し、その平均値により求めた。
【0075】
絶縁性放熱フィラーのケイ素量は、蛍光X線分析装置(リガク製 RIX2100)によりZn及びSi濃度を測定し、ZnO量に対するSiO量の比(SiO/ZnO)として求めた。
【0076】
酸化亜鉛粒子及び絶縁性放熱フィラーの粉体抵抗は、試料0.3gを10MPaの圧力で円柱状(18mmφ)に成形し、直流電圧印加方式の絶縁抵抗試験機(Model 3154 HIOKI社製)を用いて測定し、下式により粉体抵抗値を算出した。

粉体抵抗値=測定値×円柱の断面積/円柱の厚み
【0077】
絶縁性放熱フィラーのケイ素を含む酸化物被覆中のNa量は、原子吸光分析装置(AA−6800 島津製作所製)を用いて測定波長589nmで分析を行い、SiOに対するNa量として算出した。試料溶液の準備は、フッ酸を含む酸で絶縁性放熱フィラーを溶解し、純水で希釈して作製した。なお、酸化亜鉛中のNa量が多い場合は、別途酸化亜鉛中のNaを測定したあと、フィラー全体のNa量を測定してその差からSiO2に対するNa量を求めてもよい。
【0078】
酸化亜鉛粒子及び絶縁性放熱フィラーの全細孔容積は、自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP−miniII 日本ベル社製)を用いて前述の記載の通り行った。
【0079】
(酸化亜鉛粒子の作製−1)
硫酸亜鉛0.3モルとクエン酸0.003モルを150ccの純水に溶解した。次に2Lの四つ口フラスコに純水500ccを入れ、その中に前記の硫酸亜鉛水溶液を添加し、翼径12cmの2枚羽根の撹拌機を用いて回転数200rpmで撹拌下、室温で0.7モルのモノエタノールアミンを含む350ccの水溶液を添加し、水溶液のpHを10.0に調整し、30分間保持して沈殿物を析出させた。その後、100℃に昇温し1時間熟成した後、冷却し、濾過・水洗・乾燥して、酸化亜鉛粉末を得た。この酸化亜鉛粉末は、平均わたり径2.9μm、平均高さ1.3μmの六角板状であった。また、2θ=36.5度の半価幅は0.18度であった。
【0080】
(酸化亜鉛粒子の作製−2)
硫酸亜鉛0.3モルとクエン酸0.001モルを150ccの純水に溶解した。次に2Lの四つ口フラスコに純水500ccを入れ、その中に前記の硫酸亜鉛水溶液を添加し、翼径12cmの2枚羽根の撹拌機を用いて回転数200rpmで撹拌下、室温で0.9モルのモノエタノールアミンを含む350ccの水溶液を添加し、水溶液のpHを10.0に調整し、30分間保持して沈殿物を析出させた。その後、100℃に昇温し1時間熟成した後、冷却し、濾過・水洗・乾燥して、酸化亜鉛粉末を得た。この酸化亜鉛粉末は、平均わたり径1.7μm、平均高さ3.0μmの六角柱状であった。また、2θ=36.5度の半価幅は0.18度であった。
【0081】
(実験1)
(実施例1)
酸化亜鉛粒子の作製−1で作製した六角板状酸化亜鉛粒子10gにエタノール(ナカライテスク社 特級)を56ml、純水を3.7ml、および28%アンモニア水溶液(関東化学社製 特級)を5.1g加えてスラリーを作製した。続いて、このスラリーをマグネティックスターラーで撹拌しつつ、テトラエトキシシラン(ナカライテスク社製 特級)3.5gを、チューブポンプを用いて30分かけて添加した。その後、ろ過、洗浄、乾燥、乳鉢粉砕を行い、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料A)を得た。試料Aの全細孔容積を測定したところ、0.0040cm/gであった。なお、媒液中の水は12質量%であり、アンモニアはテトラエトキシシランに対し、モル比で5倍量である。また、試料Aを電気炉にて700℃で1時間焼成し、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料B)を得た。
【0082】
(実施例2)
六角板状酸化亜鉛粒子10gに純水を90ml加えてスラリーを作製した。このスラリーをマグネティックスターラーで撹拌しつつ、テトラエトキシシラン3.5gを一括添加した。その後、28%アンモニア水溶液15.3gを一括添加した後、1時間常温で撹拌した。その後、ろ過、洗浄、乾燥、乳鉢粉砕を行い、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料C)を得た。なお、媒液中の水は100質量%であり、アンモニアはテトラエトキシシランに対し、モル比で15倍量である。また、試料Cを電気炉にて700℃で1時間焼成し、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料D)を得た。
【0083】
(実施例3)
六角板状酸化亜鉛粒子10gに純水を90ml加えてスラリーを作製した。このスラリーをマグネティックスターラーで撹拌しつつ90℃まで昇温し、4号ケイ酸ソーダ(日本化学工業社製)11.7gを、チューブポンプを用いて30分で添加した。その後、5%硫酸水溶液をスラリーのpHが9.0になるまで、チューブポンプを用いて60分で添加し、pH=9.0で1時間保持した。その後、ろ過、洗浄、乾燥、乳鉢粉砕を行い、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料E)を得た。また、試料Eを電気炉にて700℃で1時間焼成し、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料F)を得た。
【0084】
(比較例1)
酸化亜鉛粒子の作成−1で作製した六角板状酸化亜鉛粒子を比較の放熱フィラー試料Gとした。
【0085】
試料A〜Fのいずれも六角板状酸化亜鉛粒子の形状を維持し、その表面にケイ素酸化物の緻密な被覆を有することが確認でき、特に試料A〜Dでケイ素酸化物被覆の緻密性が高いことがわかった。代表として試料B,D,F及びGの走査電子顕微鏡写真を図1〜4に示す。
【0086】
試料B,C,D,F及びGの粉体物性の測定値を表1に示す。本発明の、酸化亜鉛粒子表面にケイ素を含む酸化物被覆を有する絶縁性放熱フィラー試料B,C,D,Fは、同被覆を有さない酸化亜鉛粒子試料Gと比較して、高い粉体抵抗を示すことがわかる。
【0087】
また、ケイ素を含む酸化物被覆を有する絶縁性放熱フィラーの場合、全細孔容積が大きいと粉体抵抗は低下する傾向がみられるが、全細孔容積が0.07cm/g以下であればケイ素酸化物被覆の無い酸化亜鉛より高い粉体抵抗を示し、0.02cm/g以下であれば、粉体抵抗は著しく上昇することがわかる。
【0088】
【表1】
【0089】
また、試料Fでは、Na量/SiO量は1.02%であった。一方、試料B〜DではNaは検出下限以下であり、Na量/SiOは300ppm以下と推定される。ケイ素を含む酸化物被覆中のNa量/SiOが多いと粉体抵抗は低下する傾向がみられるが、Na量/SiOが1.5質量%以下であればケイ素酸化物被覆の無い酸化亜鉛以上の粉体抵抗を示すことがわかる。
【0090】
(実験2)
(実施例4)
純水を1.9ml、アンモニアの28%水溶液を2.6g、テトラエトキシシランを1.8gとし、試料を電気炉にて700℃で1時間焼成した以外は実施例1と同様の方法で、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料H)を得た。
【0091】
(実施例5)
純水を7.4ml、アンモニアの28%水溶液を10.2g、テトラエトキシシランを7.1gとし、試料を電気炉にて700℃で1時間焼成した以外は実施例1と同様の方法で、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料I)を得た。
【0092】
試料H,Iの粉体物性の測定値を、試料B,Gの値とともに表2に示す。本発明の酸化亜鉛粒子表面にケイ素を含む酸化物被覆を有する絶縁性放熱フィラーは、同被覆を有さない酸化亜鉛粒子と比較して粉体抵抗を高くでき、特に被覆厚みが10〜40nmの場合、粉体抵抗を著しく高くできることがわかる。
【0093】
【表2】
【0094】
また、本発明の酸化亜鉛粒子表面にケイ素を含む酸化物被覆を有する絶縁性放熱フィラーは、同被覆を有さない酸化亜鉛粒子と比較して粉体抵抗を高くでき、特に、SiO/ZnO比が5〜20%の場合、粉体抵抗を著しく高くできることがわかる。
【0095】
(実験3)
(実施例6)
酸化亜鉛粒子の作製−2の六角柱状酸化亜鉛粒子を用い、試料を電気炉にて700℃で1時間焼成した以外は実施例1と同様の方法で、本発明の絶縁性放熱フィラー(試料J)を得た。
【0096】
試料Jの粉体物性の測定値を、試料Gの値とともに表4に示す。本発明の酸化亜鉛粒子表面にケイ素を含む酸化物被覆を有する絶縁性放熱フィラーは、基材となる酸化亜鉛粒子の形状が変わった場合でも、同被覆を有さない酸化亜鉛粒子と比較して粉体抵抗を高くできることがわかる。
【0097】
【表3】
【0098】
(実験4)
(実施例7)
絶縁性放熱フィラーとして試料Bと、熱硬化性エポキシ樹脂(jER社製 jER−807)を、撹拌脱泡装置(THINKY社製 ARE−250)を用いて、体積比20%:80%で混合した。その後、10φ×5t(mm)の成形器に注型し常温硬化させた後、100℃で2時間乾燥させて、放熱性樹脂組成物(試料K)を得た。
【0099】
(実施例8)
絶縁性放熱フィラーとして、試料Bのかわりに試料Dを用いた以外は実施例7と同様にして、放熱性樹脂組成物(試料L)を得た。
【0100】
(比較例2)
放熱フィラーとして、試料Bのかわりに比較例1の試料Gを電気炉にて700℃で1時間焼成した放熱フィラーを用いた以外は実施例7と同様にして、放熱性樹脂組成物(試料M)を得た。
【0101】
試料K〜Mを、形状が10φ×1t(mm)のペレットになるように研磨し、次の計算式により熱伝導率を求めた。
熱伝導率=熱拡散率×比熱×比重
・熱拡散率:JIS R 1611に準拠し、雰囲気温度25℃中、レーザーフラッシュ法(熱定数測定装置TC−7000 アルバック理工製)により測定した。
・比熱:JIS K 7123に準拠し、DSC(示差走査熱量測定法 DSC6200 SII製)により測定。
・比重:JIS K 7112に準拠し、水中置換法により測定した。
【0102】
試料K〜Mを用いて、形状が50mm×50mm、厚さ1〜2mmの試験片を準備し、JIS C2110−1(商用周波数交流電圧印加による試験)に準拠して、絶縁耐力総合試験装置・高圧耐圧試験装置(YHA/D‐30K‐2KDR 山菱電気社製)を用いて絶縁破壊電圧を測定した。試験方法は短時間法で、昇圧速度は、10〜20秒で破壊する速度、電極形状は25mmφ円柱/ 75mmφ円柱とした。また、試験雰囲気は絶縁油中とし、絶縁油には谷口石油製 高圧絶縁油RAを用いた。絶縁破壊電圧は、測定値を各試験片の厚みで除して算出した。
【0103】
結果を表4に示す。本発明の絶縁性放熱フィラーを用いると、熱伝導率の低いケイ素を含む酸化物で被覆されているにもかかわらず、同被覆を有さない酸化亜鉛粒子と同等の熱伝導率で、絶縁破壊電圧を大幅に向上させた放熱性組成物が得られることがわかる。
【0104】
【表4】
【0105】
ところで、試料A,Bの製造においては、ケイ素を含む酸化物を酸化亜鉛粒子の表面に被覆するに際し、徐々に原料を混合して絶縁性放熱フィラーを製造している。一方、試料C,Dの製造方法では、徐々に原料を混合する必要はなく、各材料を一括して混合しても緻密なケイ素酸化物被覆を形成できる。また、媒液を水100%としても製造可能である。絶縁性放熱フィラーの性能については、これまで述べてきたように、いずれも比較例と比べて著しい向上がみられる。以上より、ケイ素酸化物源として有機ケイ素化合物を用いた場合であっても、水を主体とした媒液中で特定量の触媒化合物を併用することにより、安価かつ短時間で前記絶縁性放熱フィラーを製造する方法として優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の絶縁性放熱フィラーは粉末抵抗が高く、これを樹脂組成物等に用いることにより、優れた熱伝導性と高い絶縁破壊電圧を有する放熱性組成物が得られる。このため、本発明の放熱性組成物を高絶縁性の必要な電子機器などに取り付けて効率よく放熱する材料として用いることができるため、利用価値が高い。
図1
図2
図3
図4