【実施例1】
【0019】
図1は、本実施例に係る顕微鏡システム100の構成を示す図である。
図1に示される顕微鏡システム100は、2光子励起顕微鏡と、2光子励起顕微鏡を制御する制御装置であるパーソナルコンピュータ(PC)20と、PC20に接続された図示しないモニタ及び入力装置と、を備えている。
【0020】
2光子励起顕微鏡は、
図1に示すように、レーザ1と、波面変調器2と、ビームエクスパンダ3と、ガルバノスキャナ4と、瞳リレー光学系5と、ミラー6と、ダイクロイックミラー7と、レボルバ8と、補正環10を備えた対物レンズ9と、試料Sが配置されたステージ11と、検出光学系12と、検出器13とを備えている。
【0021】
レーザ1は、波長の異なる複数のレーザ光を切り替えて出射するレーザ光源であり、いわゆる波長可変レーザである。レーザ1は、例えば、チタンサファイアレーザである。
【0022】
波面変調器2は、レーザ1からのレーザ光の波面を変調する波面変調手段であり、対物レンズ9の瞳位置と光学的に共役な位置(以降、瞳共役位置と記す)に配置されている。波面変調器2は、例えば、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)などの液晶デバイスである。
【0023】
ビームエクスパンダ3は、波面変調器2で波面が変調されたレーザ光のビーム径を変更する光学系である。ビームエクスパンダ3は、ガルバノスキャナ4の像を波面変調器2に投影するように構成されている。
【0024】
ガルバノスキャナ4は、レーザ光が偏向する方向を変化させることで、対物レンズ9から出射されたレーザ光の集光位置を対物レンズ9の光軸と直交するXY方向に移動させるミラーである。即ち、ガルバノスキャナ4は、レーザ光で試料Sを対物レンズ9の光軸と直交するXY方向に走査するXY走査手段である。ガルバノスキャナ4は、瞳共役位置であって、波面変調器2の位置と光学的に共役な位置に配置されている。
瞳リレー光学系5は、ガルバノスキャナ4の像を対物レンズ9の瞳位置に投影するための光学系である。
ミラー6は、レーザ光を対物レンズ9に向けて反射させる反射ミラーである。
【0025】
ダイクロイックミラー7は、レーザ1からのレーザ光を透過させ、試料Sからの蛍光を反射する光学特性を有するミラーであり、レーザ光と蛍光を分離することで照明光路と検出光路を分岐させる光路分岐手段である。
【0026】
レボルバ8は、対物レンズ9を対物レンズ9の光軸方向(Z方向)に移動可能に保持する装置である。即ち、レボルバ8は、試料Sに対して対物レンズ9を光軸方向に相対的に移動させて、対物レンズ9から出射されたレーザ光の集光位置を変更するZ走査手段である。なお、レボルバ8及び対物レンズ9の代わりに、ステージ11が光軸方向に移動してもよい。その場合、ステージ11が対物レンズ9から出射されたレーザ光の集光位置を変更するZ走査手段である。
【0027】
対物レンズ9は、波面変調器2で波面が変調されたレーザ光を試料Sに照射する、補正環10を備えた対物レンズである。この例では、対物レンズ9は、対物レンズ9と試料Sの間を浸液で満たした状態で用いられる液浸対物レンズであるが、顕微鏡システム100は、液浸対物レンズの代わりに乾燥系対物レンズを備えても良い。
【0028】
補正環10は、対物レンズ9を構成するレンズの一部を光軸方向に移動させる機構である。補正環10は、対物レンズ9と試料Sとの間の媒質(この例では、浸液)の屈折率と試料Sの屈折率との差に起因する球面収差(いわゆるインデックスミスマッチに起因する球面収差)を補正する球面収差補正手段である。
検出光学系12は、対物レンズ9の瞳の像を検出器13の受光面に投影する光学系である。
検出器13は、試料Sからの蛍光を検出する光検出器である。検出器13は、例えば、光電子増倍管(PMT)である。
【0029】
PC20は、2光子励起顕微鏡の構成要素のうちの少なくとも、レーザ1、波面変調器2、ガルバノスキャナ4、レボルバ8、及び検出器13に接続されている。PC20は、予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、
図2に示すように、2光子励起顕微鏡の構成要素を制御する制御手段21、対物レンズ9と対物レンズ9から出射される光の集光位置との間の媒質の平均屈折率を算出する屈折率算出手段22、及び、波長間で生じる色収差を算出する色収差算出手段23として機能する。
【0030】
以上のように構成された顕微鏡システム100では、レーザ1から出射されたレーザ光は、波面変調器2でその波面が変調され、ビームエクスパンダ3でそのビーム径が変更され、その後、ガルバノスキャナ4に入射する。ガルバノスキャナ4で偏向されたレーザ光は、瞳リレー光学系5、ミラー6、ダイクロイックミラー7を介して対物レンズ9に入射する。対物レンズ9に入射したレーザ光は、対物レンズ9によって集光されて、試料Sに照射される。
【0031】
レーザ光が照射された試料Sから生じた蛍光は、対物レンズ9を介してダイクロイックミラー7に入射する。蛍光はダイクロイックミラー7で反射し、検出光学系12を介して検出器13で検出される。検出器13は、蛍光を電気信号に変換してPC20へ出力する。そして、PC20は、検出器13からの電気信号とガルバノスキャナ4の走査位置情報とから試料Sの画像を生成し、図示しないモニタに表示させる。
【0032】
図3は、本実施例に係る顕微鏡システム100で行われる観察前処理のフローチャートである。
図4は、
図3に示す試料の表面における観察前処理のフローチャートであり、
図5は、
図3に示す移動後のZ位置における観察前処理のフローチャートである。
図6は、本実施例に係る顕微鏡システム100で観察前処理後に行われる観察処理のフローチャートである。以下、
図3から
図6に示すフローチャートを参照しながら、異なる2波長で試料S内部の同じ位置を観察する方法について説明する。
【0033】
観察前処理が開始されると、PC20は、利用者によって入力された初期条件を取得して設定する(
図3のステップS10)。ここでは、初期条件として、観察に使用する2つの励起波長(第1の波長λ1、第2の波長λ2)、浸液の屈折率n2、使用する対物レンズの情報(作動距離WD、レンズデータなど)、光軸方向にZ位置を移動する際のピッチΔz、試料の厚さdなどが設定される。なお、浸液の屈折率n2は励起波長毎に設定される。以降では、第1の波長における浸液の屈折率をn21、第2の波長における浸液の屈折率をn22と記す。
次に、PC20は、試料Sの表面における観察前処理を行う(
図3のステップS20)。具体的には、
図4に示す6つの処理が行われる。
【0034】
まず、PC20は、第1の波長λ1の光L1の集光位置を試料Sの表面に合わせる(
図4のステップS21)。ここでは、PC20は、レーザ1を制御して、レーザ1に第1の波長λ1の光L1を出射させる。さらに、PC20は、レボルバ8を制御して試料Sに対して対物レンズ9を光軸方向に相対的に移動させて、対物レンズ9から出射される第1の波長λ1の光L1の集光位置を試料Sの表面に一致させる。なお、レボルバ8の制御は、利用者がモニタに表示される試料Sの画像を見ながらPC20を介して手動で行ってもよく、また、PC20がオートフォーカス技術を用いて自動的に行ってもよい。
【0035】
図7Aは、ステップS21の処理が完了した状態を示している。ここで、光L1(実線)は第1の波長λ1の光、光L2(破線)は第2の波長λ2の光である。また、n1(=1)は空気の屈折率、n2は浸液の屈折率、n3は試料Sの屈折率であり、通常はn1<n2<n3の関係を有している。ステップS21では、波面変調器2でレーザ光の変調は行われない。このため、
図7Aに示すように、対物レンズ9の瞳Pに直線状の波面を有するレーザ光が入射する。
【0036】
PC20は、第1の波長λ1の光L1に生じる球面収差を補正する(
図4のステップS22)。ここでは、レーザ1が引き続き第1の波長λ1の光L1を出射している状態で、利用者がモニタに表示される試料Sの画像を見ながら補正環10を回転させて球面収差を補正する。そして、球面収差が補正された状態での補正環10の回転角度θ1を、入力装置を用いてPC20に入力する。なお、PC20が補正環10を制御可能な構成であれば、PC20は、補正環10を制御して自動的に球面収差を補正し、その際の補正環10の回転角度θ1を取得してもよい。この場合、PC20は、補正環10の回転角度毎の試料Sの画像のコントラストを比較して、最もコントラストの高い画像が得られた状態を球面収差が補正された状態と判断してもよい。この点は、以降の球面収差を補正する処理でも同様である。
【0037】
PC20は、第1の波長λ1と第2の波長λ2の2波長間の色収差Δca1を算出する(
図4のステップS23)。2波長間の色収差とは、第1の波長λ1の光L1と第2の波長λ2の光L2の間で生じる色収差のことであり、光L1の集光位置と光L2の集光位置との間のZ方向の距離を表わしている。ここでは、PC20は、ステップS10で設定された、初期条件(第1の波長λ1、第2の波長λ2、屈折率n21、屈折率n22など)から2波長間の色収差Δca1を算出する。なお、光の集光位置までの屈折率が既知である状態での色収差の算出方法は公知であるので、色収差の算出方法についての詳細な説明は省略する。
【0038】
PC20は、第2の波長λ2の光L2に対して色収差を補正する(
図4のステップS24)。ここでは、PC20は、レーザ1を制御して、レーザ1に第2の波長λ2の光L2を出射させる。さらに、PC20は、波面変調器2を制御して、光L2の集光位置を光軸方向に移動させる。より具体的には、ステップS23で算出された色収差Δca1が表わす距離だけ光L2の集光位置が光軸に沿って光L1の集光位置に近づく方向に移動するように、波面変調器2は光L2の波面を変調する。これにより、
図7Bに示すように、光L1の集光位置と光L2の集光位置がともに試料Sの表面に一致し、2波長間の色収差が補正される。
【0039】
PC20は、第2の波長λ2の光L2に生じる球面収差を補正する(
図4のステップS25)。ここでは、レーザ1が引き続き第2の波長λ2の光L2を出射している状態で、利用者がモニタに表示される試料Sの画像を見ながら補正環10を回転させて球面収差を補正する。そして、球面収差が補正された状態での補正環10の回転角度θ2を、入力装置を用いてPC20に入力する。
【0040】
最後に、PC20は、試料Sの表面における顕微鏡システム100の設定情報を記録し(
図4のステップ26)、試料Sの表面における観察前処理を終了する。ここでは、PC20は、ステップS22で得られた光L1に対する補正環10の回転角度θ1、ステップS25で得られた光L2に対する補正環10の回転角度θ2、及び、ステップS23で算出された色収差Δca1を、試料Sに対する対物レンズ9の光軸方向の相対的位置(Z位置)に関連付けて、PC20に設けられた記録部に記録する。
【0041】
試料Sの表面における観察前処理が終了すると、PC20は、Z位置を移動する(
図3のステップS30)。ここでは、PC20は、レボルバ8を制御して、試料Sに対して対物レンズ9を光軸方向に相対的に移動させる。より具体的には、PC20は、ステップS10で設定されたピッチΔzだけ対物レンズ9が試料Sに近づくように、レボルバ8を制御する。これにより、
図7Cに示すように、光L1と光L2の集光位置が試料Sの内部に移動する。
その後、PC20は、移動後のZ位置における観察前処理を行う(
図3のステップS40)。具体的には、
図5に示す7つの処理が行われる。
【0042】
PC20は、第1の波長λ1の光L1に生じる球面収差を補正する(
図5のステップS41)。ここでは、PC20は、レーザ1を制御して、レーザ1に第1の波長λ1の光L1を出射させる。そして、レーザ1が第1の波長λ1の光L1を出射している状態で、利用者がモニタに表示される試料Sの画像を見ながら補正環10を回転させて球面収差を補正する。そして、球面収差が補正された状態での補正環10の回転角度θ1を、入力装置を用いてPC20に入力する。
【0043】
PC20は、第2の波長λ2の光L2に生じる球面収差を補正する(
図5のステップS42)。ここでは、PC20は、レーザ1を制御して、レーザ1に第2の波長λ2の光L2を出射させる。そして、レーザ1が第2の波長λ2の光L2を出射している状態で、利用者がモニタに表示される試料Sの画像を見ながら補正環10を回転させて球面収差を補正する。そして、球面収差が補正された状態での補正環10の回転角度θ2aを、入力装置を用いてPC20に入力する。
【0044】
PC20は、レーザ光の波長毎に、対物レンズ9と対物レンズ9から出射された光の集光位置の間の媒質の平均屈折率を算出する(
図5のステップS43)。
ここでは、PC20は、まず、ステップS41で取得した補正環10の回転角度θ1から補正環10による光L1に対する球面収差の補正量を算出する。球面収差の補正量は、補正環10の回転角度と球面収差の補正量との間には
図8Aに示すような比例関係が存在し、その傾きがステップS10で初期条件として設定された対物レンズ9の情報から既知であることから、回転角度に対して一意に算出される。次に、PC20は、算出された球面収差の補正量から対物レンズ9と光L1の集光位置の間の媒質の平均屈折率を算出する。媒質の平均屈折率は、球面収差の補正量と媒質の平均屈折率の逆数との間には、
図8Bに示すような比例関係が存在し、その傾きがステップS10で初期条件として設定された対物レンズ9の情報から既知であることから、球面収差の補正量に対して一意に算出される。同様の手順で、ステップS42で取得した補正環10の回転角度θ2aから補正環10による光L2に対する球面収差の補正量を算出し、算出された球面収差の補正量から対物レンズ9と光L2の集光位置の間の媒質の平均屈折率を算出する。
【0045】
これにより、波長毎に、補正環10による球面収差の補正量に基づいて対物レンズ9と対物レンズ9から出射された光の集光位置との間の媒質の各波長における平均屈折率が算出される。
【0046】
なお、このステップ43では、対物レンズ9と集光位置の間の媒質の平均屈折率を算出したが、さらに、試料Sの表面から集光位置までの間の試料Sの平均屈折率を算出してもよい。対物レンズ9と集光位置の間に占める浸液と試料Sの比率は、ステップS10で設定した作動距離WDとピッチΔzから算出される。このため、PC20は、試料Sの表面から集光位置までの間の試料Sの平均屈折率を、対物レンズ9と集光位置の間の媒質の平均屈折率、浸液の屈折率(屈折率n21、屈折率n22)、作動距離WD、ピッチΔz、及び、光の波長(波長λ1、波長λ2)に基づいて、波長毎に算出してもよい。
【0047】
PC20は、第1の波長λ1と第2の波長λ2の2波長間の色収差Δca2を算出する(
図5のステップS44)。ここでは、PC20は、ステップS43で算出された波長λ1の光L1に対する媒質の平均屈折率とステップS43で算出された波長λ2の光L2に対する媒質の平均屈折率に基づいて波長λ1と波長λ2の間の色収差Δca2を算出する。より詳細には、PC20は、ステップS10で設定された初期条件(第1の波長λ1、第2の波長λ2、作動距離WD、レンズデータなど)とステップS43で算出した波長毎の平均屈折率とから、波長λ1と波長λ2間で生じる色収差を算出する。なお、ステップS44では、ステップS43で光の集光位置までの屈折率を算出済みであるため、ステップS23と同様の方法について色収差を算出することができる。
【0048】
PC20は、第2の波長λ2の光L2に対して色収差を補正する(
図5のステップS45)。ここでは、PC20は、レーザ1を制御して、レーザ1に第2の波長λ2の光L2を出射させる。さらに、PC20は、波面変調器2を制御して、光L2の集光位置を光軸方向に移動させる。より具体的には、ステップS44で算出された色収差Δca2が表わす距離だけ光L2の集光位置が光軸に沿って光L1の集光位置に近づく方向に移動するように、波面変調器2は光L2の波面を変調する。これにより、
図7Dに示すように、光L1の集光位置と光L2の集光位置が試料Sの内部で一致し、2波長間の色収差が補正される。
【0049】
PC20は、第2の波長λ2の光L2に生じる球面収差を補正する(
図5のステップS46)。ここでは、レーザ1が引き続き第2の波長λ2の光L2を出射している状態で、利用者がモニタに表示される試料Sの画像を見ながら補正環10を回転させて球面収差を補正する。そして、球面収差が補正された状態での補正環10の回転角度θ2bを、入力装置を用いてPC20に入力する。
【0050】
最後に、PC20は、現在のZ位置(試料Sの内部)における顕微鏡システム100の設定情報を記録し(
図5のステップ47)、移動後のZ位置における観察前処理を終了する。ここでは、PC20は、ステップS41で得られた光L1に対する補正環10の回転角度θ1、ステップS46で得られた光L2に対する補正環10の回転角度θ2b、及び、ステップS44で算出された色収差Δca2を、試料Sに対する対物レンズ9の光軸方向の相対的位置(Z位置)に関連付けて、PC20に設けられた記録部に記録する。
【0051】
移動後のZ位置における観察前処理が終了すると、PC20は、予定されているすべてのZ位置に移動済みかどうかを判定する(
図5のステップS50)。ここでは、PC20は、例えば、現在のZ位置とステップS10で設定された試料の厚さd及びピッチΔzなどに基づいて判定する。すべてのZ位置に移動済みではないと判定すると、PC20は、ステップS30からステップS50までの処理を繰り返す。一方、すべてのZ位置に移動済みではあると判定すると、PC20は、
図3に示す観察前処理を終了する。
【0052】
以上のように、顕微鏡システム100では、PC20が
図3に示す観察前処理を実行することで、試料Sの表面及び試料Sの内部の各位置における、第1の波長λ1と第2の波長λ2の間で生じる色収を補正するための設定が得られる。
【0053】
図3に示す観察前処理を終了すると、PC20は、
図6に示す観察処理を開始する。まず、PC20は、利用者によって入力された初期条件を取得して設定する(
図6のステップS60)。ここでは、初期条件として、観察すべき試料Sの面(Z位置)などが設定される。なお、Z位置は複数設定されて良い。
【0054】
PC20は、ステップS60で設定されたZ位置を移動する(
図6のステップS70)。ここでは、PC20は、レボルバ8を制御して、試料Sに対して対物レンズ9を光軸方向に相対的に移動させることにより、Z位置を移動する。
【0055】
PC20は、Z位置の移動後、そのZ位置に応じて設定情報を設定する(
図6のステップS80)。ここでは、PC20は、記録部からZ位置に応じた設定情報(光L1、L2に対する補正環10の回転角度、光L1と光L2の間で生じる色収差)を読み出して、その情報を設定する。
【0056】
PC20は、第1の波長と第2の波長で画像を取得する(
図6のステップS90)。ここでは、まず、PC20は、ステップS80で設定された光L1に対する補正環10の回転角度になるように補正環10を回転させて、その後、レーザ1に第1の波長λ1の光L1を出射させて、試料Sの画像を取得する。さらに、取得した画像を記録部に記録する。次に、PC20は、ステップS80で設定された光L2に対する補正環10の回転角度になるように補正環10を回転させて、ステップS80で設定された色収差を補正するように波面変調器2の変調パターンを設定する。その後、レーザ1に第2の波長λ2の光L2を出射させて、試料Sの画像を取得する。さらに、取得した画像を記録部に記録する。なお、PC20が補正環10の回転を制御する例を示したが、補正環10は手動で回転させてもよい。
【0057】
画像の取得が完了すると、PC20は、ステップS60で設定したすべてのZ位置に移動済みか否かを判定する(
図6のステップS100)。すべてのZ位置に移動済みではないと判定すると、PC20は、ステップS70からステップS100までの処理を繰り返す。一方、すべてのZ位置に移動済みではあると判定すると、PC20は、
図6に示す観察処理を終了する。
【0058】
本実施例に係る顕微鏡システム100によれば、試料Sの屈折率が未知である場合であっても、各Z位置での波長間に生じる色収差を補正することができる。このため、任意の試料Sの内部で異なる2波長の光の集光位置を維持することが可能であり、異なる波長の光で任意の試料Sの内部の同じ位置を観察することができる。また、本実施例に係る顕微鏡システム100によれば、試料Sの表面から集光位置までの間の試料Sの平均屈折率も得ることができる。
【0059】
なお、
図3から
図6では、試料Sの観察を開始する前に各Z位置での色収差を一括して算出する方法を示したが、試料Sの観察を開始後、Z位置を変更する毎に色収差を算出してその都度色収差を補正しても良い。
【0060】
また、
図3から
図6では、第2の波長λ2の光の集光位置を調整することで第1の波長と第2の波長の間で生じる色収差を補正する例を示したが、顕微鏡システム100は、第1の波長λ1の光の集光位置を調整して色収差を補正しても良い。また、2波長のいずれか一方の波長の光の集光位置を調整する代わりに、両方の波長の光の集光位置を調整して、色収差を補正しても良い。
【0061】
また、
図3から
図6では、2波長間で生じる色収差を補正する例を示したが、顕微鏡システム100は、3波長以上の間で生じる色収差を補正しても良い。この場合、例えば、基準波長に対する色収差を波長毎に算出して、基準波長の光の集光位置に各波長の光の集光位置を一致させてもよい。
【0062】
また、
図3から
図6では、Z位置毎に色収差を補正する例を示したが、顕微鏡システム100は、Z位置毎で、且つ、ガルバノスキャナ4によって制御されるXY位置毎に、色収差を算出して補正してもよい。
【0063】
図9は、本実施例に係る顕微鏡システム100で行われる試料Sの屈折率測定処理のフローチャートである。以下、
図9を参照しながら、試料Sの屈折率測定方法について説明する。
【0064】
屈折率測定処理が開始されると、PC20は、利用者によって入力された初期条件を取得して設定する(
図9のステップS110)。ここでは、初期条件として、試料Sに照射する光の波長λ、浸液の波長λにおける屈折率n2、使用する対物レンズの情報(作動距離WD、レンズデータなど)、光軸方向にZ位置を移動する際のピッチΔz、試料の厚さdなどが設定される。
【0065】
次に、PC20は、波長λの光の集光位置を試料Sの表面に合わせる(
図9のステップS120、第1の集光位置移動工程)。ここでは、PC20は、
図4のステップS21と同様の方法により、集光位置を試料Sの表面に合わせる。その後、PC20は、ステップS130からステップS160までの処理を繰り返す。
【0066】
まず、PC20は、Z位置を移動する(
図9のステップS130、第2の集光位置移動工程)。ここでは、PC20は、
図4のステップS21と同様の方法により、Z位置を移動する。より具体的には、PC20は、ステップS110で設定されたピッチΔzだけ対物レンズ9が試料Sに近づくように、レボルバ8を制御する。
【0067】
続いて、PC20は、波長λの光に生じる試料S内部での球面収差を補正する(
図9のステップS140、球面収差補正工程)。ここでは、PC20は、レーザ1を制御して、レーザ1に波長λの光を出射させる。そして、レーザ1が波長λの光を出射している状態で、利用者がモニタに表示される試料Sの画像を見ながら補正環10を回転させて球面収差を補正する。そして、球面収差が補正された状態での補正環10の回転角度θを、入力装置を用いてPC20に入力する。
【0068】
続いて、PC20は、試料Sの表面から対物レンズ9から出射された光の集光位置までの間の試料Sの平均屈折率を算出する(
図9のステップS150、屈折率算出工程)。ここでは、PC20は、まず、
図5のステップS43と同様の方法により、ステップS140での補正環10による球面収差の補正量に基づいて、対物レンズ9と集光位置との間の媒質の平均屈折率を算出する(第1の屈折率算出工程)。さらに、PC20は、試料Sの表面から集光位置までの間の試料Sの平均屈折率を、作動距離WD及びピッチΔzから算出される対物レンズ9と集光位置の間に占める浸液と試料Sの比率、対物レンズ9と集光位置の間の媒質の平均屈折率に基づいて算出する(第2の屈折率算出工程)。
【0069】
PC20は、Z位置移動前後の2つの集光位置の間の試料Sの平均屈折率を算出する(
図9のステップS160)。ここでは、ステップS130でのZ位置の移動前後にステップS150で算出された2つの平均屈折率(つまり、試料Sの表面からZ位置移動前の集光位置までの間の試料Sの平均屈折率と、試料Sの表面からZ位置移動後の現在の集光位置までの間の試料Sの平均屈折率)とピッチΔzに基づいて、Z位置移動前後の集光位置の間の試料Sの平均屈折率を算出する。
【0070】
PC20は、すべてのZ位置に移動済みか否かを判定する(
図6のステップS170)。ここでは、PC20は、例えば、現在のZ位置とステップS110で設定された試料の厚さd及びピッチΔzなどに基づいて判定する。すべてのZ位置に移動済みではないと判定すると、PC20は、ステップS130からステップS170までの処理を繰り返す。一方、すべてのZ位置に移動済みではあると判定すると、PC20は、
図9に示す屈折率測定処理を終了する。
【0071】
以上の屈折率測定処理により、本実施例に係る顕微鏡システム100によれば、屈折率が未知である試料Sの屈折率の分布を得ることができる。また、ピッチΔzを小さく取るほど、試料Sの屈折率のより詳細な分布を得ることができる。
【0072】
なお、
図9では、試料Sのある特定の波長に対する屈折率を測定する例を示したが、顕微鏡システム100は、波長毎に
図9の処理を繰り返して、複数の波長に対する屈折率を測定してもよい。
【0073】
また、
図9では、Z方向の屈折率の分布を算出する例を示したが、顕微鏡システム100は、Z方向の屈折率の分布に加えて、ガルバノスキャナ4によって制御されるXY方向の屈折率の分布も併せて算出してもよい。