特許第6196829号(P6196829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196829
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】澱粉質含有食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20170904BHJP
   A21D 13/04 20170101ALI20170904BHJP
【FI】
   A23L7/10 Z
   A23L7/10 A
   A21D13/04
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-151156(P2013-151156)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-19629(P2015-19629A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年5月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】714004734
【氏名又は名称】テーブルマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186864
【弁理士】
【氏名又は名称】尾関 眞里子
(72)【発明者】
【氏名】村上 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】島田 浩基
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−112067(JP,A)
【文献】 特開昭54−098351(JP,A)
【文献】 特開平06−070671(JP,A)
【文献】 特開平06−113740(JP,A)
【文献】 特開2012−050378(JP,A)
【文献】 特開平04−063555(JP,A)
【文献】 特開2006−025788(JP,A)
【文献】 特開2004−321097(JP,A)
【文献】 特開平06−141754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00
A21D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精米を、水に浸漬し、精米の含水量は、含水前の精米重量の1.2倍以上2.0倍未満の重量の水を含水させるように行い、ローラークリアランスが0.50〜2.00mmに設定したローラーを用いて粗粉砕した粒度が0.25mmより大きい粗粉砕米を、水分存在下で一次蒸し後、加水し、さらに二次蒸しし、これを澱粉質含有食品に配合することを特徴とする澱粉質含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精米を加工して配合したパン、パン粉、麺等の澱粉質含有食品およびその製造方法、詳細には、工業的に有用な澱粉質含有食品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
穀類としての米を配合したパン、麺等の澱粉質含有食品は、小麦粉のみで作られたパン、麺等とは異なり、しっとり感やもっちりとした独特の好ましい食感があり、パサパサ感を排除した美味しさを感じさせるものである。
【0003】
非特許文献1によれば、日本における米の消費は減少しており、その減退を防止することを目的に伝統的に利用されている米粉の技術開発が昭和53年より行われ、そのプロジェクトではパンに使用される小麦粉のうち3から4割程度まで小麦粉で代替することが試みられた。その後も引き続き米の製粉技術および米を使った製パン法の開発がなされている。
【0004】
澱粉質含有食品への米の配合方法については以下のようなものがある。
【0005】
特許文献1は、糊化物を含有する米配合のパン生地およびその製造方法であり、特許文献2は、アミラーゼ剤処理後酵素失活処理を行う製パン用米練り込み剤及びこの練り込み剤の製造方法であり、特許文献3は、微粒米ペーストの配合を内容とする米を原料とする食材並びにこれを用いた加工食品並びにそれらの製造法であり、特許文献4は、パン原材料中に米飯を発酵させて米含有パンを製造することを内容とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−95578号公報
【特許文献2】特開2012−245011号公報
【特許文献3】特開2010−187663号公報
【特許文献4】特開昭54−80446号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】與座宏一ら、米粉利用の現状と課題―米粉パンについて、日本食品科学工学会誌第55巻第10号、2008年10月、P.444−454
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1が示すように、米の需要が減退している中、消費を増加させるためには主食である米飯のみならず、パンや麺等、澱粉質含有食品に新たな米の食べ方である米を加工したものが工業的にかつ大量に使用されることが望まれる。
【0009】
特許文献1から特許文献4のいずれも、米を原料とするパン・麺等を製造する際に、米粉、米糊化物、米をアミラーゼ処理し酵素失活させた米フィリング、米飯を発酵して得たものを配合するという、大規模な設備や特別な工程を必要としていた。一方、米粉の鮮度を保つ生産・流通システムが整備されていなかった。
【0010】
米粉をパン等に配合する場合は米粉臭を惹起し易く、一方、米そのものをパンに配合する場合には、米粉臭はないが製パン後の食感を悪くする米の硬い粒が残る。特許文献1のように米糊化物を配合する場合、米を炊いて粥状にする等、米に対して2倍重量以上という多量の加水と加熱処理が必要であるため、米を少量しか配合できない。
【0011】
米を配合した麺は、従来、米粉から作られている。米粉の配合比率が高い場合、「押出し式」や「乾燥式」が採用されるが、製麺性が悪く大量生産に不向きであり、米粉から作られる米麺の食感は団子っぽいものであり、麺らしさに欠けるという問題がある。
【0012】
特許文献1から特許文献4のいずれもこれらの問題の解決に役立つものではなかった。
【0013】
米を加熱することによっても同様の澱粉質含有食品を製造することができるが、そのためには蒸す、炊飯等の加熱後にすりつぶす必要があるために、米の約2倍重量相当の加水が必要であった。そのため、米飯としては食されても、麺やパンに使用するには、加熱後の米の水分量が多く、また、粘りが強いために使いにくいものであった。
【0014】
一方、米粉を製造せず、米を粗粉砕したもの(以下、「粗粉砕米」と記載する)をパン等の製造に使用できれば、ローラー等の一般の機械を使用して粗粉砕米を簡便に製造することができる。しかし、この粗粉砕米を直接配合してパン等製造すると、米の硬い粒が残るため食感が悪い。
【0015】
また、粗粉砕米を通常の方法で炊飯したものを配合した場合は、炊いた米の硬い粒が残り、同様に食感が悪い。
【0016】
さらに、粗粉砕米に水を加えて加熱すると、米の場合と比較して粒の間が少ないために蒸気が十分に循環しないという問題が起こる。そのため、一定の部分にのみ水分が供給され、ある部分は水分過剰になるがある部分には水分が供給されないという水分の不均一の問題が起こり、粗粉砕米が必要以上に糊化した部分と糊化していない部分が生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意努力した結果、ローラー等の一般の機械を使用して、大規模な設備投資を必要とせずかつ穀物粉臭がしない最適な粗粉砕具合を見出し、その粗粉砕した精米を使用して澱粉質含有食品製造後に、配合した精米粒を感じさせない水の添加量を最小限に抑えた加熱工程を見出した。そしてその加工した精米を配合した、澱粉質含有食品である最善の製パン方法により製造されたパンとそのパンを用いたパン粉、および最善の製麺方法により製造された麺を提供することができることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
本発明は、精米の粒を残さず、製造原料に対する精米の配合率を高くして、その精米の食味と独特の食感を有し、かつパンや麺として適正な物性を有する精米を配合したパン、麺等の澱粉質含有食品を簡便な方法で製造できる技術であり、工業生産上望ましいものである。
【0019】
澱粉質含有食品の製造方法としては、
精米を、水に浸漬し、精米の含水量は、含水前の精米重量の1.2倍以上2.0倍未満の重量の水を含水させるように行い、ローラークリアランスが0.50〜2.00mmに設定したローラーを用いて粗粉砕した粒度が0.25mmより大きい粗粉砕米を、水分存在下で一次蒸し後、加水し、さらに二次蒸しし、これを澱粉質含有食品に配合することを特徴とする澱粉質含有食品に配合すること、
を要旨とするものである。
【0020】
本発明において、粗粉砕とは精米粒を数分の1から、さらに細かい粒にまで細かくすることをいう。
【0021】
粗粉砕は、本発明においてはローラーなどの一般の機械で行っているがそれに限定されるものではない。また、本発明においては、精米を、ローラークリアランスが0.50〜2.00mmに設定したローラーを用いて粗粉砕した粒度が0.25mmより大きい粗粉砕米が適しているが、それに限定されるものでもない。
【0022】
請求項1の本発明によれば、例えば従来の米・米粉・発酵処理米をパン、麺等の澱粉質含有食品に配合する場合米の加工処理に大型の施設を必要としたのを、ローラーのような一般の機械でできる粗粉砕ですむため、精米自体へのストレスも少なく米粉等の穀類粉特有の異味、異臭も生じない。
【0023】
また、米について言えば、米粉の異味、異臭がしない米入りパン、麺の製造方法として、炊飯や粥状態に加熱、糊化した後にパン、麺に配合する方法もある。しかし、その場合には、米粒全体を糊化させるため生米に対して2倍重量以上の水を加え加熱するという長時間の加工工程が必要になる。
【0024】
また、粗粉砕米に水分を加えて加熱することが、澱粉質を糊化するために必要である。水分がない状態で加熱すると、適当に糊化することができず、パンや麺に使用できないため適当ではない。また、加水の方法は、下記に示す浸漬や蒸し工程によるものなどを挙げることができるが、それに限定されるものではない。
【0025】
ここで、粗粉砕したものに水分を加えて加熱した場合には、粗粉砕米の粒度に幅があるため、米粉のように水分を均一に吸収できず、粒の部位によって水分吸収量に差を生じてしまい、その後の加熱により粉砕粒内の糊化の状態にばらつきが生じる。また、単に加水量を増やしても、いわゆるだまが発生し、各精米粒内の水分の吸収のばらつきを防ぐことができなかった。本発明によれば、粗粉砕した後、少量の水分を加え加熱処理し、その後さらに水分を加えて均一化した後に、加熱処理することとした結果、米に単に水分を加えて加熱した場合に比べ水分量を少なくしても糊化することができるようになった。澱粉質含有食品は加水量によって物性が変わるため、従来の炊飯米を使用した方法では製造できず米粉を使った場合にしか製造できなかったハード系のパンや腰の強い麺を穀物の粉砕臭無しに製造することが可能になった。
【0026】
精米が糊化するのに適した粒度としては、本発明において精米を、ローラークリアランスが0.50〜2.00mmに設定したローラーを用いて粗粉砕した粒度が0.25mmより大きい粗粉砕米であることは、上記のような理由により、澱粉の糊化と水分の移行のバランスを計り、精米の配合率の高いしかも精米の粒残りしない澱粉質含有食品を提供するために好ましい。
【0027】
また、澱粉は水分が無い状態で少量の水とともに加熱されることにより水分を速やかに吸収し通常よりも低い温度で糊化するため、粗粉砕する精米はその前に水に浸漬し、その後加熱することで水分を速やかに吸収して全体的に糊化した状態が作られ、その後加水しさらに加熱することで、その水分が精米に吸収され澱粉がさらに糊化されることにより柔らかくなる。そのため、この方法で製造された精米を配合した場合、精米の粒残りしない澱粉質含有食品を提供することができる。
【0028】
さらに、加熱処理は蒸気加熱処理とすることにより、水分の供給量を調整して加熱することができ、少量の加水で水分を均一化して精米の澱粉を糊化することができる。
【0029】
あわせて、添加水分量を押さえて低水分量ですむものとすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、精米の粒を残さず、製造原料に対する精米の配合率を高くして、その精米の食味と独特の食感を有し、かつパンや麺として適正な物性を有する精米を配合したパン、麺等の澱粉質含有食品を得ることができるものであり、ローラーのような一般の機械の使用ですみ、また水を均一に吸収させやすいものとなるため、粗粉砕し加熱処理した精米を配合した澱粉質含有食品中でも、その精米粒を感じさせずにすむものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下本発明を実施するための形態について説明する。本発明において適用できる穀類は、米、あわ、ハトムギ、その他の穀物である。また、澱粉質含有食品のうち、パン、パン粉、麺について説明するが、それ以外の澱粉質含有食品およびその製造方法にも本発明は適用できる。なお、本発明はこの実施の形態に限定されたものでないことは、言うまでもない。
【0032】
まず、穀類として米について説明すると、本発明の澱粉質含有食品および澱粉質含有食品の製造方法は、従来の米粉や、米とは異なり、粗粉砕の精米を用いることを特徴とする。
【0033】
また、その粗粉砕の米を米の粒を残さず、製造原料に対する米の配合率を高くするために、2度蒸気加熱する。
【0034】
本発明の製造工程は、次の通りである。
<1.米粗粉砕工程>洗米→浸漬→粗粉砕

<2.米加熱処理工程>粗粉砕米→一次蒸し→加水→二次蒸し

<3.澱粉質含有食品製造工程>
【0035】
1.米粗粉砕工程
本発明で「米粗粉砕工程」というときは、洗米後、水に浸漬した米を粗粉砕することをいう。
【0036】
[洗米]
本発明で「洗米」というときは、特に記載した場合を除き、通常の意味で用いている。工業的には効率を考え洗米機を使用しても良い。
【0037】
[浸漬]
本発明で「浸漬」というときは、特に記載した場合を除き、洗米後の米を水の中に浸すことをいう。浸漬し米に水を充分含ませ膨潤させた後粉砕することにより、下記のような簡易な設備で米を容易に粉砕することができる。
【0038】
[粗粉砕]
本発明で「粗粉砕」というときは、特に記載した場合を除き、洗米し浸漬した後、簡易な設備で米を粉砕することをいう。
【0039】
粗粉砕は、パンや麺を一定の厚みにのばすための機械であるローラーや、アーモンドクラッシャー(ローラー内蔵)で行うが、粒に荷重を掛けて粉砕することができればよく、装置を限定するものではない。
【0040】
本発明では、米加熱処理工程の前段階に粗粉砕工程を行うことで、その後の加熱および加水の加工工程により米粒を残さない米入り澱粉質含有食品が得られる。
【0041】
また、米の状態で澱粉質含有食品を製造できるため、精米の状態で仕入れ必要に応じて粗粉砕加工することが可能であり、米粉の状態で仕入れて保存することによる品質劣化も生じない。
【0042】
本発明での粗粉砕は、ローラーのような簡易な機械で加工が可能であるため、米粉製造に必要な大規模な設備が不要である。ローラーとして、製麺用麺帯機を使用できる。
【0043】
ローラーはそのローラーの間隔を調節することができるため、可能な範囲で任意に米を粉砕することができる。この発明において「ローラークリアランス」「クリアランス」というときは、米の粉砕または、パンや麺を一定の厚みにのばすための機械のローラーの間隔をいう。
【0044】
本発明における粗粉砕した米は、加熱処理した後、米粒の中にまで水分が行き渡り、澱粉質含有食品に米の粒が残らない大きさとすることが好ましい。
【0045】
2.米加熱処理工程
本発明では、前記粗粉砕した米を蒸した後加水し、再度蒸す。この場合、「再度の蒸し」は複数回蒸しても良い。
【0046】
本発明で「粗粉砕加熱米」というときは、特に記載した場合を除き、洗米後水に浸漬し、粗粉砕して一次蒸し後、加水した後二次蒸しした米をいう。
【0047】
[一次蒸し]
粗粉砕米に水を加え一度のみ蒸した場合は、容器内に水蒸気の対流が起きずに、一部のみが蒸され、一部の米粒が残る。そのため、本発明の粗粉砕米の加熱方法は、粗粉砕米を蒸して水分を行き渡らせた後に、加水後再度蒸すことにより全体に水分を行き渡らせることができる。この方法により、より少ない水分で米粒残りしない米の配合率の高い澱粉質含有食品、例えばパン、麺を製造できる。
【0048】
粗粉砕米に水を加えて加熱すると、米の場合と比較して密度が高く空隙が少ないために蒸気が十分に循環しないという問題が起きる。そのため、一定の部分にのみ水分が供給され一部は水分過剰になるが、一部は水分が供給されないという水分不均一の状態となり、粗粉砕米が糊化した部分と糊化していない部分が生じ、全体を糊化させることはできない。本発明によれば、粗粉砕した後加熱処理し、その後加水し撹拌することにより水分を均一化した後にさらに加熱処理することとしたため、米に水分を加えて加熱した場合よりも水分量を少なくしても全体を糊化することができるようになった。
【0049】
加熱条件は、蒸し庫内温度100℃で10分であることが好ましい。また、蒸し庫内温度はより低い温度、例えば70℃でも粗粉砕米に水分が行き渡り簡単な対流が起きて、水分を粗粉砕米全体に行き渡らせることができる。加熱温度を調整することにより、澱粉の糊化温度と水分吸収量のバランスをとることができ、物性を調整することができる。
【0050】
[加水]
米加熱時の加水量を減らし米の配合率を高くするためには、一次蒸しの後二次蒸し前に加水する。加熱しない状態で水を加えても米は吸収せずひたひたに水が米を被っているのに対し、加熱後の加水により水をすぐにすべて吸収させることができるため、水分の不均一の問題が起こらない。加水した水分を使って蒸しあげることにより、澱粉質含有食品製造後に配合した米の粒を感じさせない加工上最適な状態にすることができる。
【0051】
[二次蒸し]
一次蒸しの段階では低水分で加熱することにより澱粉の水分要求度が上がり、二次蒸し前に加水することで米全体に加えた水を均質に急速に吸収させることができる。そのため、水分の不均一の問題が起こらずこの粗粉砕加熱米で製パンした場合は、そのパンの中に米の粒残りはない。
【0052】
3.澱粉質含有食品製造工程
澱粉質含有食品とは、その食品中に澱粉質が含まれている食品をいい、制限はないが、パン、パン粉、麺、皮、菓子、ソース、パスタ、ピザ生地等が挙げられる。
【0053】
3−1.粗粉砕加熱米を配合したパンの製造
粗粉砕加熱米を配合することにより、米の硬い粒が残らず、現有設備で米の配合率の高いパン製造ができる。
【0054】
[製パン法]
製パン法について特に制限はない。ストレート法、中種法等採用できる。
【0055】
本発明において「ストレート法」というときは、パン生地の製造を1回のミキシングで行う方法をいう。ミキシングは、米の澱粉により生地がべたついてくる前の最適な状態で止めることとした。
【0056】
また、本発明で「中種法」というときは、特に記載した場合を除き、粗粉砕加熱米を小麦粉の一部に水・イーストなどを混ぜ合わせて「中種」と呼ばれる混合物を作り、発酵させた後に残りの原料を加え混ぜ合わせて生地を作ることをいう。2回に分けて混ぜることにより、生地の調整がしやすくグルテンの伸展性が良くなり安定したパンを作ることができる。
【0057】
3−2.粗粉砕加熱米を配合したパン粉の製造
粗粉砕加熱米を配合することにより、米の硬い粒が残らず、現有設備でのパン製造およびパン粉ラインで低吸油の米の配合率の高いパン粉の製造ができる。
【0058】
3−3.粗粉砕加熱米を配合した麺の製造
粗粉砕加熱米を配合することにより、米の硬い粒が残らず、しかも現有の製麺機で米の配合率を高めた食味の良い麺を製造できる。
【0059】
麺を製造する場合は、パンとは違い、粗粉砕加熱米をその他の麺の材料と混合し生地とした後、麺に成形する前に発酵等の工程がないため、麺の生地にした段階で米の粒が無い状態になるように加工しなければならない。そのためにパンの製造よりも粒度の小さいものが適しているが、特に限定されるものではなく、加熱条件等を調整することによりその他の粒度の粗粉砕米でも製造することは可能である。
【実施例】
【0060】
[粗粉砕]
粗粉砕の効果を検証するため、粒のままの米と、粗粉砕した米の各加熱方法による比較を、生米100gに対して、浸漬米130g、その後の加水160g、粗粉砕米の場合は浸漬米をローラークリアランス1.58mmのアーモンドクラッシャー(ラインテ ビーマー 3本ローラーBL6)で粗粉砕した。
【0061】
[製パン法]
本実施例におけるパンの配合は、加熱処理した米145.00g、小麦粉100.00g、食塩2.00g、ショートニング15.00g、砂糖14.00g、イースト3.00g、改良剤0.30gである。
【0062】
[実施例1:パン製造に適した粗粉砕加熱米加工条件の検討]
実施例1として、澱粉質含有食品であるパンに配合し製造した場合、より少ない水分で米の粒が残らない粗粉砕加熱米の最適の条件を検討し、次の工程でその製パン性を検討した。
【0063】
米粒のままの粉砕していない浸漬米と水をバットに入れ、庫内温度100℃の蒸し庫で25分加熱した場合は、柔らかめのご飯となり均一に蒸気加熱できるが、製パン後に硬い粒が残った。一方、粗粉砕米を炊飯した場合、水の対流が悪いため米がパンの中で粒として残った。また、鍋に粗粉砕米と水を加え攪拌しながらガス火で加熱する場合、および、粗粉砕米と水を鍋に入れ、撹拌しながら湯せんで加熱する場合は、いずれも加熱中に団子状に固くまとまり吸水が不均一となり硬い粒が残るため、製パン後も米の硬い粒が残った。さらに、粗粉砕米と水をバットに入れ庫内温度100℃の蒸し庫で25分加熱する場合は、対流が悪いため上面は水が多く下部は水が少なく粒が残り、製パン後も米の硬い粒が残る。しかし、粗粉砕米をバットに入れ庫内温度100℃の蒸し庫で10分加熱した後水を加え撹拌し庫内温度100℃の蒸し庫で15分加熱する場合は、加水時に米が吸水し全体に水を吸収した米を二次蒸しすることで均一に加熱され、水分の不均一の問題が起こらず、パンにしたときに粒残りしないことがわかった。(下記表1)。
【表1】
【0064】
[実施例2:加水量の検討]
2度蒸し法で加える水の量について粗粉砕米をバットに入れ庫内温度100℃の蒸し庫で10分加熱した後、水を加え撹拌し庫内温度100℃の蒸し庫で15分加熱する条件で検討した。水が多いほど均一に炊飯でき粒が崩れやすくパン中に粒残りしにくいが、その後の製パン時の加水量を減らす必要があるため、結果として米配合率が少なくなる。そのため、「粗粉砕米→蒸し→加水→蒸し」工程の加水量のみ変え、どこまで水を減らして蒸気加熱できるかを検討した。これにより、米の重量の1.2倍以上が好ましく、1.0倍では製パン後に米の硬い粒が残ることが明らかとなった(下記表2)。
【表2】
【0065】
[実施例3:粗粉砕粒度の検討]
製パンに適した粗粉砕について、ローラークリアランスを変えて米を粗粉砕しそれぞれの粗粉砕米をバットに入れ庫内温度100℃の蒸し庫で10分加熱した後、水を加え撹拌し庫内温度100℃の蒸し庫で15分加熱した粗粉砕加熱米を上記表2の生米の1.2倍の含水量で検討した。ローラークリアランスが0.20mm以下の粒度が小さい粗粉砕米の場合は、表面積が大きいため加水時の吸水が早く、表面の水をかけた部分がすぐに吸水し、下部に吸水していない部分ができてしまう。一方、ローラークリアランス0.50mm、1.00mmおよび1.58mmの粒度が大きい粗粉砕米の場合は均一に水を吸収しており、水量が少ない条件でもより均質な加水状態となる(下記表3)。
【表3】
【0066】
[実施例4:粉砕米粒度分布と加熱条件の関係]
ローラーで米を粗粉砕すると、ローラークリアランスの設定値以下の大きさの粉砕米が混在するため、所定の異なるサイズのメッシュのふるいを通して粒度で分級し、各クリアランスにおける粒度割合分布を調べた(表4)。
【表4】
【0067】
ローラークリアランスが2.00mmの場合は、粒度1.70mm以上が59.34%、1.40mm以上1.70mm未満が19.96%、0.84mm以上1.40mm未満が10.81%、0.25mm以上0.84mm未満が9.89%、0.25mm未満が0%であった。ローラークリアランスが1.80mmの場合は、粒度1.70mm以上が59.28%、1.40mm以上1.70mm未満が14.40%、0.84mm以上1.40mm未満が11.08%、0.25mm以上0.84mm未満が15.24%、0.25mm未満が0%であった。ローラークリアランスが0.10mmの場合は、粒度1.70mm以上が25.44%、1.40mm以上1.70mm未満が13.02%、0.84mm以上1.40mm未満が24.85%、0.25mm以上0.84mm未満が31.95%、0.25mm未満が4.74%であった。ローラークリアランスが0.05mmの場合は、粒度1.70mm以上が0%、1.40mm以上1.70mm未満が11.73%、0.84mm以上1.40mm未満が36.87%、0.25mm以上0.84mm未満が45.81%、0.25mm未満が5.59%であった。アーモンドクラッシャーの場合は、粒度1.70mm以上が58.03%、1.40mm以上1.70mm未満が23.28%、0.84mm以上1.40mm未満が13.12%、0.25mm以上0.84mm未満が5.57%、0.25mm未満が0%であった。ここで、1.70mmのふるいに通らなかったものは、米を2から3分割した程度の大きさであった。また、いずれの条件下でも粉砕していない米そのものは残っていなかった。
【0068】
0.25mmよりも大きく、精米粒を少なくとも1/2以上に粉砕したものより小さい粒度の粗粉砕米は、ローラークリアランスが2.00mmの場合、1.80mmの場合は100%、0.10mmの場合は、95.26%、0.05mmの場合は94.41%であり、アーモンドクラッシャーの場合も、100%であった。以上のように、それぞれのローラークリアランスで粗粉砕米の粒度に幅があるが、本発明においては、すべての粗粉砕米を使用することが可能であり、後述するように加熱条件によって調整することも可能である。
【0069】
分級した粗粉砕米を使用して、それぞれに合った加熱条件を検討した。分級0.25mm以下の粗粉砕米と、分級1.70mm以上の粗粉砕米について、生米238g、洗米・浸漬後300g、添加水247g(対生米添加水1.30倍)、一次蒸し15分加水温度55.0℃に二次蒸し15分として、一次蒸しの庫内温度を70℃・二次蒸しの庫内温度を90℃にしたものと、一次蒸し・二次蒸しの庫内温度共100℃にしたもので実験をした。特に最適とされる粗粉砕の条件より小さいものと、大きいものの加工条件を比較することにより、粗粉砕した精米粒全体の加熱条件を検証することを目的として実験を行った。分級0.25mm以下で一次蒸しの庫内温度を70℃・二次蒸しの庫内温度を90℃のものと、分級1.70mm以上で一次蒸し・二次蒸しの庫内温度共100℃にしたものについては、水分が十分にいきわたり均一に糊化できる状態となった。この実験により、粗粉砕粒が細かいものは表面積が大きいため、加熱温度を下げないと水要求度が高まり加水次第吸水されてしまうため水が行きわたらず、ムラになることがわかった。粗粉砕粒が粗いものについては、加熱温度が低いと粒の芯まで加温されず粒残りにつながる。粗粉砕米は上記表4のような粒度のばらつきを有するが、その上限、下限の粒度であっても加熱条件を検討し、それに合わせた加熱条件を見出すことにより、澱粉質含有食品への配合が可能になることが明らかになった(下記表5)。
【表5】
【0070】
[実施例5:粗粉砕加熱米を配合したパンの製造]
実施例5として、粗粉砕加熱米を配合したパンを次の工程で製造した。
<米前処理>洗米→浸漬→粗粉砕

<米加熱工程>粗粉砕米→一次蒸し→加水→二次蒸し

<パン工程>ミキシング→フロア→分割→丸目→ベンチ→モルダー→成形→ホイロ→オーブン→冷却
【0071】
[製パン法]
ストレート法および中種法で製造した。
【0072】
各実施例におけるパンの製造においてミキシングは、米の澱粉により生地がべたついてくる前の最適な状態で止めることとした。米の澱粉により、ミキシングが長いほどベタついてくるため、ベタつく前に止めた方が扱いやすいと確認された。
【0073】
本実施例におけるストレート法によるパンの配合は、粗粉砕加熱米697.67g、小麦粉500.00g、食塩10.00g、ショートニング50.00g、砂糖50.00g、イースト15.00g、改良剤2.50gである。また、中種法においては、粗粉砕加熱米697.67g、小麦粉350.00g、イースト10.00gで中種をつくり、その後、小麦粉150.00g、食塩10.00g、ショートニング50.00g、砂糖50.00g、イースト5.00g、改良剤2.50gを配合した。
【0074】
本実施例のストレート法によるパンの製造方法は、まずショートニング以外の材料をすべて混合してミキシングを低速2分中速2分、ショートニングを加えて低速30秒高速30秒後さらに低速1分中速2分、室温30分放置後、成形はシーター(3×3×3、G5mm、70×60mm)、2次発酵は38℃湿度85%60分、焼成は200℃15分とした。また、中種法によるパンの製造方法は、まず中種の材料をすべて混合してミキシングを低速2分中速2分、発酵は27℃湿度70%60分、冷蔵して中種を作り、その後、本捏は中種とショートニング以外のその他の材料を混合してミキシングを低速2分中速2分、ショートニングを加えて低速1分中速1分、室温30分放置後、成形はシーター(3×3×3、G5mm、70×60mm)、2次発酵は38℃湿度85%で60分、焼成は200℃14分とした。
【0075】
中種法では、多少粒のある粗粉砕加熱米でも、発酵中に水和するため崩れやすくなることが確認された。
【0076】
[食感・風味]
ストレート法では、もっちりとした食感で、米の甘みがあり、米らしさがよく出ていた。中種法ではもっちり感もあるが、パンに近いふんわりとした食感があり、米の甘みを感じ、発酵風味も感じた。
【0077】
実施例5により、米の配合率の高いかつ配合した米の粒を感じさせない加工上最適な米の粗粉砕具合で加工し、米入りパンの提供を実現できる。
【0078】
[実施例6:粗粉砕加熱米を配合したパン粉の製造]
実施例6として、粗粉砕加熱米を配合したパン粉を次の工程で製造した。
<米前処理>洗米→浸漬→粗粉砕

<米加熱工程>粗粉砕米→一次蒸し→加水→二次蒸し

<パン工程>ミキシング→フロア→分割→丸目→ベンチ→モルダー→成形→ホイロ→オーブン→冷却

<パン粉工程>米配合パン→粉砕
【0079】
[米パン粉用粗粉砕米]
本実施例の米パン粉用粗粉砕米は、使用米は北海道産ななつぼし、洗米条件は3.00kg/バッチ、0.15MPa 1分、浸漬条件は1時間、粉砕はアーモンドローラーのクリアランス1.58mmで製造した。
【0080】
原料米50.50kgを水に浸漬後63.96kgとなったため、本実施例の原料米に対する粗粉砕前の浸漬時の吸水率は、1.27倍である。
【0081】
[加水量]
粗粉砕米9.50kg(生米7.50kg相当)をバット5枚に分けて、一次蒸し工程を庫内温度100℃、10分行い、蒸し直後温度96℃、重量10.25kgとなった。その後、加水7.75kg(対米水量1.3倍、米温度平均80℃、水温度平均46℃)を行い、攪拌後(米温度平均63℃)、二次蒸し工程を庫内温度100℃で10分、行った。二次蒸し工程直後の品温90℃、重量18.08kgであり、吸水率241%となった。その後真空冷却を行い、芯温25℃まで冷却した。最終的な重量16.59kg歩留り221%となった。
【0082】
[製パン工程]
本実施例におけるストレート法によるパンの配合は、粗粉砕加熱米16.59kg(生米7.50kg)、小麦粉25.00kg、食塩0.25kg、ショートニング0.70kg、砂糖0.56kg、生イースト0.75kg、改良剤0.03kg、アナト―色素0.13kg、調整水8.00kgである。
【0083】
本実施例のストレート法によるパンの製造方法は、まずショートニング以外の材料をすべて混合してミキシングを超低速1分低速3分、ショートニングを加えて低速2分高速1分、1次発酵は30℃湿度82%25分、分割機から丸目機にかけ、ベンチタイム室温15分、モルダーの後成形・型入れ、2次発酵は37℃湿度75%50分、焼成は上164℃、下215℃50分とした。
【0084】
[コロッケ製造時の米入りパン粉の評価]
上記方法で製造した米入りパンを冷凍・解凍後に10mmメッシュで粉砕して、コロッケ製造用のパン粉を製造した。
【0085】
コロッケ製造時のパン粉水分量変化については、前記パン粉5gを110℃60分加熱し、加熱前後の重量変化を赤外線水分計で2回測定した。
【0086】
コロッケ製造時のパン粉吸油量については前記パン粉30gを170℃の油で2分揚げ、10分油切り後、重量変化を赤外線水分計で3回測定した。
【0087】
コロッケ用バッターは、粉(KNB320)100gと水235gとサラダ油35gを、24.5℃、2435cpで混ぜ合わせた。
【0088】
コロッケ1個につき、バッター13g、パン粉15gを使用し、定法によりコロッケを作成した。
【0089】
[吸油量]
本実施例の米パン粉の実際の吸油量は、パン粉100gに対して、49.4gであった。普通のパン粉の実際の吸油量は、パン粉100gに対して、68.1gであるため、米パン粉の吸油量はパン粉100gあたり約20g、27.5%少ないことが明らかとなった(下記表6)。
【表6】
【0090】
[評価]
通常のパン粉用の小麦粉で製造したパン粉は、硬い食感であったのに対し、粗粉砕することによって米を加えたパン粉は、固すぎず、良好の食感を得られた。また、上記のように、低吸油のパン粉が製造でき、油っぽさが従来のパン粉用の小麦粉を使ったものより、感じられなかった。
【0091】
実施例6より、米の配合率の高い、かつ配合した米の粒を感じさせない加工上最適な米の粗粉砕具合で加工した粗粉砕加熱米を配合した、最善のパン製造方法および現有のパン粉ラインにより米入りパン粉の提供を実現できる。
【0092】
[実施例7:粗粉砕加熱米を配合した麺の製造]
実施例7として、米の配合率を高めた食味の良い、しかも製麺機で製造可能な麺の製造を検証した。
【0093】
麺を製造する場合は、パンとは違い、粉砕加熱米をその他の麺の材料と混合し生地とした後、麺に成形する前に発酵等の工程が無く、粗粉砕加熱米の粒が残りやすいため、製麺時のミキシング後の生地にした段階で米の粒が無い状態になるように加工しなければならない。そのため、通常より粒度が小さいローラークリアランス0.20mmから0.50mmのものが適している。
【0094】
粗粉砕のローラークリアランスは、0.20mmとし、生米238g、洗米・浸漬後300g、添加食塩水216g(対生米添加食塩水1.2倍、うち塩0.1倍)、一次蒸し庫内温度75℃、15分、とし、二次蒸し庫内温度90℃、15分とした。対生米加水量は、1.1倍となった。二次蒸し後の重量は521gとなった。
【0095】
その粗粉砕加熱米521gに、小麦粉238g(加水率54.5%、米比率50%)、ミキシングは低速2分中速2分その後高速3分低速7分(−80kPa)、圧延常法、切り出し#9 2.80mm、ボイル6分とし、茹で歩留り145、対粉歩留225.3となった。これにより、良好な食感のうどん用の麺を製造することができた。蒸気加熱に必ず水が必要となるため、製麺ミキシング時に水を加えないとしても、米比率50%が現時点では最適量であることが明らかとなった。
【0096】
実施例7により米の配合率の高いかつ配合した米の粒を感じさせない加工上最適な米の粗粉砕具合で加工した粗粉砕加熱米を配合した、最善の麺製造方法により米入り麺の提供を実現できる。
【0097】
次に米以外の穀類について説明する。
[実施例8:米以外の穀物から製造した粗粉砕加熱物を配合した麺の製造]
実施例8として、米以外の穀物のうち、あわ、ハトムギを使用して麺の製造の検証をした。本発明において、米に変えて製造できる穀物について制限はない。
【0098】
各穀物は洗わず、水に浸漬して60分後、製麺用麺帯機を使用して粗粉砕した。あわ、ハトムギは非常にベタつくため、小麦粉を追加してミキシングした。糊化開始温度が米より低いため米と同じ条件ではベタつくので加水量を減らす必要があったため、粒感が少し残った。
【0099】
粗粉砕加熱雑穀を配合した麺は、粗粉砕加熱米のもっちりとした食感と異なり、全体的にねっちりと歯に張り付く独特の食感を持つことが明らかとなった。
【0100】
実施例8により、加水と加熱温度を調整することによって、あわやハトムギなどの他の穀類においても同様の加熱方法をとることが可能であることが示唆された。