【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果最適展開支援事業 産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理部は、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過した前記収束光に基づく前記回折光を撮像した撮像データから、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過せずに直接前記レンズに到達した前記収束光に基づく前記回折光を撮像した画像データを差し引いて前記被検査物の波面のデータを演算している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透過波面計測装置。
前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過した前記収束光に基づく前記回折光を撮像した撮像データから、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過せずに直接前記レンズに到達した前記収束光に基づく前記回折光を撮像した画像データを差し引いて前記被検査物の波面のデータを演算する工程を備えている、請求項6に記載の透過波面計測方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、サイズが大きな基板の屈折率のむらの検査は、適切な検査装置が存在しないため、現状では生産された基板からサンプリングを行い、サンプリングされた基板を目視で検査することが行われている。サンプリングされた基板を目視して行う検査は、生産された基板のすべてを検査しないので、検査漏れが生じる。また、目視による正確な検査を行うためには、検査を正確に行うことができる人材を育成することが必要である。こうした人材を育成するには多大な費用と時間がかかる。
【0008】
一方、特許文献1に提案されている技術は、被検査物を浸漬させる媒質と2つの光源とを用いるため、装置が複雑な構成になる。また、撮像手段は、被検査物に対して光源とは逆側の位置に配置されている。そのため、検査をする場合、広いスペースが必要になる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、(1)限られたスペースに設置することができ、(2)サイズの大きな被検査物の透過波面を計測することによって被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を正確に検査することができる透過波面計測装置及び透過波面計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る透過波面計測装置は、被検査物に発散光を照射する光源と、前記被検査物の背面側に配置された凹面鏡と、前記凹面鏡によって反射された収束光を平行光に変換するレンズと、前記レンズによって変換された前記平行光を透過させ、回折光を形成する回折格子と、前記回折光により形成される干渉縞を撮像する撮像手段と、前記干渉縞の撮像データをフーリエ変換法によって空間周波数スペクトルを演算し、該空間周波数スペクトルのデータに基づいて前記被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を演算する処理部と、を備え、前記レンズは、前記凹面鏡を反射して前記被検査物を透過した前記収束光に基づいて前記撮像手段上に前記被検査物の像を共役結像させ、前記撮像手段は、前記回折光がトールボット像を形成する位置に配置されていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、透過波面計測装置が被検査物の背面側に配置された凹面鏡を備えているので、被検査物の片側に光源、レンズ、回折格子及び撮像手段を配置することができるように透過波面計測装置を構成することができる。そのため、透過波面計測装置をコンパクトにすることができる。また、光源から被検査物に発散光を照射し、凹面鏡で収束光をレンズに照射するように構成しているので、サイズが大きな被検査物を検査することができる。また、レンズによって変換された平行光を透過させ、回折光を形成する回折格子と、回折光により形成される干渉縞を撮像する撮像手段とを備え、レンズが撮像手段上に被検査物の像を共役結像させ、撮像手段は、回折光がトールボット像を形成する位置に配置されているので、レンズが形成する共役結像とトールボット像の位置とを一致させることができる。そのため、共役結像して得られた被検査物の像と計測された位相分布とを正確に位置合わせすることができる。その結果、トールボット像である干渉縞の撮像データをフーリエ変換法によって得られたデータに基づいて被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を正確に演算することができる。
【0012】
本発明に係る透過波面計測装置において、前記回折格子は、複数のスリットが相互に交差して構成された2次元回折格子であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、回折格子が2次元回折格子なので、トールボット像である干渉縞を2方向に形成させることができる。そのため、本発明の透過波面計測装置は、形成された2方向の干渉縞を解析することにより、被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を2方向について求めることができる。その結果、被検査物に存在するうねり等の欠陥を詳細に検査することができる。
【0014】
本発明に係る透過波面計測装置において、前記光源は、前記レンズの光軸から該レンズの半径方向外側にずれた位置に配置されていることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、光源がレンズの光軸からレンズの半径方向外側にずれた位置に配置されているので、凹面鏡が反射した収束光をレンズに透過させる際に、光源が障害物になることを防止することができる。なお、光源がレンズの光軸からレンズの半径方向外側にずれた位置に配置されていても、光源から発せられた光の光路長さは誤差が無視できる程度に小さいので、被検査物の計測に悪影響を与えることがない。
【0016】
本発明に係る透過波面計測装置において、前記処理部は、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過した前記収束光に基づく前記回折光を撮像した撮像データから、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過せずに直接前記レンズに到達した前記収束光に基づく前記回折光を撮像した画像データを差し引いて前記被検査物の波面のデータを演算していることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、凹面鏡を反射し、被検査物を透過した収束光に基づく回折光を撮像した撮像データから、凹面鏡を反射し、被検査物を透過せずに直接レンズに到達した収束光に基づく回折光を撮像した画像データを差し引く校正を行っているので、凹面鏡自体の屈折を計測結果から排除することができ、被検査物の屈折率の分布のみを正確に測定することができる。
【0018】
本発明に係る透過波面計測装置において、前記処理部は、前記被検査物の屈折率の分布を演算しており、前記処理部は、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過した前記収束光の光路を補正する補正手段を備え、該補正手段は、前記被検査物を斜めに横切って進行した前記収束光の光路を、前記被検査物をその厚さ方向に直進する平行光の光路に変換していることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、補正手段が被検査物を斜めに横切って進行した収束光の光路を、被検査物をその厚さ方向に直進する平行光の光路に変換する補正を行っているので、屈折率の分布を定量化する演算を行う際に、光路長さの誤差を演算結果から排除することができる。
【0020】
上記課題を解決するための本発明に係る透過波面計測方法は、凹面鏡の正面に配置された被検査物に光源から発散光を照射する工程と、前記凹面鏡が前記被検査物から所定の距離だけ離れ且つ、前記光源から光軸がずれた位置に配置されたレンズに向けて収束光を反射する工程と、前記レンズが前記収束光を平行光に変換する工程と、前記レンズと所定の間隔を空けて配置された2次元回折格子に前記平行光を透過させ、該回折格子によって回折光を形成する工程と、前記回折光がトールボット像を形成する位置に配置された撮像手段で前記回折光を撮像する工程と、前記撮像手段が撮像した前記トールボット像の画像データをフーリエ変換法によって空間周波数スペクトルを演算し、該空間周波数スペクトルのデータに基づいて前記被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を演算する工程とを備え、前記レンズは、前記凹面鏡を反射して前記被検査物を透過した前記収束光に基づいて前記撮像手段上に前記被検査物の像を共役結像させていることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、凹面鏡の正面に配置された被検査物に光源から発散光を照射する工程と、凹面鏡が被検査物から所定の距離だけ離れ且つ、光源から光軸がずれた位置に配置されたレンズに向けて収束光を反射する工程とを備えているので、被検査物の片側に光源、レンズ、回折格子及び撮像手段を配置できるように透過波面計測装置を構成することができる。そのため、コンパクトな透過波面計測装置で透過波面計測方法を実施することができ且つ、サイズが大きな被検査物を検査することができる。また、レンズが収束光を平行光に変換する工程と、レンズと所定の間隔を空けて配置された2次元回折格子に平行光を透過させ、回折格子によって回折光を形成する工程と、回折光がトールボット像を形成する位置に配置された撮像手段で回折光を撮像する工程とを備え、レンズが凹面鏡を反射して被検査物を透過した収束光に基づいて撮像手段上に被検査物の像を共役結像させているので、レンズが形成する共役結像とトールボット像の位置とを一致させることができる。そして、撮像手段が撮像したトールボット像の画像データをフーリエ変換法によって被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を演算する工程とを備えているので、トールボット像である干渉縞の撮像データをフーリエ変換法によって被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を正確に演算することができる。その際、回折格子として2次元回折格子を用いるので、トールボット像を2方向に形成させ、2方向の解析することにより、被検査物に存在するうねり等の欠陥を詳細に検査することができる。
【0022】
本発明に係る透過波面計測方法において、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過した前記収束光に基づく前記回折光を撮像した撮像データから、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過せずに直接前記レンズに到達した前記収束光に基づく前記回折光を撮像した画像データを差し引いて前記被検査物の波面のデータを演算する工程を備えていることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、凹面鏡を反射し、被検査物を透過した収束光に基づく回折光を撮像した撮像データから、凹面鏡を反射し、被検査物を透過せずに直接レンズに到達した収束光に基づく回折光を撮像した画像データを差し引く校正を行う工程を有しているので、凹面鏡自体の屈折を計測結果から排除することができ、被検査物の屈折率の分布のみを正確に測定することができる。
【0024】
本発明に係る透過波面計測方法において、前記被検査物の屈折率の分布を演算する屈折率分布演算工程を備え、該屈折率分布演算工程は、前記凹面鏡を反射し、前記被検査物を透過した前記収束光の光路を補正して演算する補正工程を有し、該補正工程は、前記被検査物を斜めに横切って進行した前記収束光の光路を、前記被検査物をその厚さ方向に直進する平行光の光路に変換していることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、補正工程で被検査物を斜めに横切って進行した収束光の光路を、被検査物をその厚さ方向に直進する平行光の光路に変換する補正を行っているので、屈折率の分布を定量化する演算を行う際に、光路長さの誤差を演算結果から排除することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、透過波面計測装置を限られたスペースに設置することができる。また、サイズの大きな被検査物の透過波面を計測することによって被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を正確に検査することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の記載や図面にのみ限定されるものではない。
【0029】
[基本構成]
本発明の透過波面計測装置1は、被検査物100に発散光20を照射する光源2と、被検査物100の背面側に配置された凹面鏡3と、凹面鏡3によって反射された収束光30を平行光40に変換するレンズ4と、レンズ4によって変換された平行光40を透過させ、回折光を形成する回折格子5と、回折光により形成される干渉縞を撮像する撮像手段6と、干渉縞の撮像データをフーリエ変換法によって空間周波数スペクトルを演算し、該空間周波数スペクトルのデータに基づいて被検査物100の屈折率と厚みとの積算値の分布を演算する処理部7とを備えている。また、撮像手段6は、回折光がトールボット像を形成する位置に配置されている。
【0030】
こうした構成を有する透過波面計測装置1は、凹面鏡3の正面に配置された被検査物100に光源2から発散光20を照射する工程と、凹面鏡3が前記被検査物100から所定の距離だけ離れ且つ、光源2から光軸がずれた位置に配置されたレンズ4に向けて収束光30を反射する工程と、レンズ4が収束光30を平行光40に変換する工程と、レンズ4と所定の間隔を空けて配置された2次元回折格子5に平行光40を透過させ、回折格子5によって回折光を形成する工程と、回折光がトールボット像を形成する位置に配置された撮像手段6でトールボット像を撮像する工程と、撮像手段6が撮像したトールボット像の画像データをフーリエ変換法によって空間周波数スペクトルを演算し、該空間周波数スペクトルのデータに基づいて前記被検査物100の屈折率と厚みとの積算値の分布を演算する工程とを実施する。
【0031】
本発明の透過波面計測装置1及び透過波面計測方法によれば、透過波面計測装置1を限られたスペースに設置することができるという特有の効果を奏することができる。また、サイズの大きな基板等の被検査物100の透過波面を計測することによって、被検査物100の屈折率と厚みとの積算値の分布を正確に検査することができるという特有の効果を奏することができる。
【0032】
[基本原理]
本発明の透過波面計測装置1は、トールボット干渉計を利用した装置である。はじめに、トールボット効果及びトールボット干渉計について簡単に説明する。
【0033】
位相が揃った平行光40を回折格子5に照射した場合、平行光40は回折格子5によって回折される。回折された回折光は互いに重ね合わされて干渉縞を形成する。この干渉縞の光強度、|u(x,y;Z
T)|
2は、次の(式1)により表すことができる。
【0035】
(式1)のuは干渉光の複素振幅、n、mは回折格子5からの回折光の次数、Anはn次の回折光の振幅、Amはm次の回折光の振幅、*は複素共役、Z
Tは回折格子からの距離、Z
0は回折格子5と凹面鏡3が反射した収束光の収束点の共役点との間の距離をそれぞれ表している。また、λは光源2が発する光の波長、dは回折格子5の回折ピッチ(周期)、Wは被検査物100の収差をそれぞれ表している。
【0036】
(式1)の位相項において、Z
T又はZ
0により周期的に変化する成分である。次の(式2)で表されるNが整数となるようにZ
T及びZ
0を選ぶことによって、回折格子5の直後の光強度分布が復元された干渉縞が形成される。そのため、(式2)に示されたNが整数になる位置では、自己像が明確に形成される。この現象はトールボット効果といわれ、回折格子5とトールボット像との間の距離はトールボット距離といわれている。
【0038】
回折格子5の前に物体を置いた場合、波面の伝播速度が物体の内部で変わるので、物体通過後の波面は歪み、回折格子5の自己像もこの歪みを反映して歪む。歪んだ自己像の投影画像には物体を反映した周期の乱れが発生する。この周期の乱れを検出することによって、この物体の屈折率の局所変化を定量的に画像化した微分位相画像を再構成することができる。こうした干渉計がトールボット干渉計である。以下、本発明の透過波面計測装置1の各構成について図面を適宜参照しながら説明する。
【0039】
〈光源〉
図1に示す透過波面計測装置1は、波長が635nmである単色光を発光するレーザーダイオードを光源2として用いている。この光源2によって照射される光は、光源2から広がるようにして進行する発散光20であり、光源2が照射した光は凹面鏡3の正面に配置された被検査物100の全体に照射される。
【0040】
この光源2は、レンズ4の光軸の位置からレンズ4の半径方向外側にずれた位置に設置されている。より具体的には、光源2は、凹面鏡3によって反射され、レンズ4に向かって進行する収束光30の光路よりもレンズ4の半径方向外側に配置されている。そのため、光源2は、レンズ4が収束光30を集光する際の妨げになることがない。なお、光源2から照射された光が凹面鏡3によって反射され、レンズ4に到達するまでに光が進行する距離は、光源2はレンズ4の光軸から外れた位置に配置されているので、光軸上に光源2を設置した場合と比較すると長くなる。しかし、こうした光が進行する距離の誤差は無視することができる程小さいので、光源2の配置する位置は被検査物100の波面測定に全く影響を与えない。
【0041】
なお、
図1に示す透過波面計測装置1に使用されている光源2は、波長が635nmである単色光を発光するレーザーダイオードに限定されない。透過波面計測装置1に使用する光源2は、計測の対象、測定の精度、当該透過波面計測装置1で得たデータの処理の内容等その他の事情に応じて種々の波長の単色光を用いることができる。
【0042】
〈凹面鏡〉
凹面鏡3は、光源2から照射された発散光20を反射し、収束光30をレンズ4に向けて照射させている。
図1に示す透過波面計測装置1の凹面鏡3は、レンズ4との距離が1150mmの位置に設置されておいる。凹面鏡の直径は100mmに形成され、その曲面の半径は1000mmに形成されている。凹面鏡3とレンズ4との距離は、レンズ4の光軸上の距離である。なお、凹面鏡3は、反射した収束光30を被検査物100の全体に透過することができる直径に形成されたものを用いればよい。また、凹面鏡3は、レンズ4に収束光30を確実に照射することができるように凹面鏡3とレンズ4との距離に応じ、その曲面の半径が適切な寸法に形成されたものを用いればよい。なお、被検査物100は、凹面鏡3の表面から1000mm以下の距離だけ離れた位置に配置される。ただし、被検査物100が光源2に相対的に近い位置に配置された場合、屈折率と厚みとの積算値の分布の計測結果は誤差が大きくなり且つ、正確に計測することができる被検査物100のサイズは小さくなる。そのため、被検査物100は、凹面鏡3に相対的に近い位置に配置することが好ましい。この場合の凹面鏡3の表面と被検査物100との距離は光軸上の距離である。
【0043】
〈レンズ〉
レンズ4は、両面が凸面に形成された凸レンズが用いられており、凹面鏡3によって反射された収束光30を平行光40に変換している。また、レンズ4は、凹面鏡3が反射し、被検査物100を透過した収束光30に基づいて、後述する撮像手段5上に被検査物100の像を共役結像している。
図1に示したレンズ4は、その焦点距離が150mmである。ただし、レンズ4は、必要に応じて適切な焦点距離のものを選定すればよい。
【0044】
〈回折格子〉
回折格子5は、レンズ4によって変換された平行光を透過させ、回折光を形成している。この回折格子5は2次元回折格子であり、
図2に示すように、X方向に延びる複数のスリット51とY方向に延びる複数のスリット52とが相互に直交して構成されている。この回折格子5は、
図3に示すように、レンズ4から(式3)のZ
Gで表された距離だけ離れた位置に配置されている。なお、(式3)において、fはレンズの焦点距離、Rは、凹面鏡とレンズの焦点距離との間の距離、dは回折格子5の回折ピッチ(周期)、λは波長をそれぞれ表している。
【0046】
この回折格子5は、その一面側から照射された光を透過させ、透過した光を他面側から複数の回折光に分割させている。具体的には、回折格子5は、直交する2つの方向に格子周期を有する直交回折格子であり、当該回折格子5を透過した光を、X方向とY方向とに分割し、回折光を形成する。回折格子5により形成される複数の回折光は、干渉することによって回折格子5から一定の距離だけ離れた位置に干渉縞を形成する。回折格子5からトールボット距離L1だけ離れた位置に形成される干渉縞がトールボット像である。
図4は、次に説明する撮像手段6が撮像したトールボット像55を示している。トールボット像55は、
図2に示した回折格子5を構成している複数のスリット51,52の形状が明確に現れている。そのため、この透過波面計測装置1は、直交する2方向の波面の歪みを同時に計測することを可能にしている。
【0047】
回折格子5の回折光が形成する干渉縞は、次のような性質がある。上記のように、回折格子5によって形成される干渉縞は、
図4に示すように、トールボット距離L1の位置では回折格子5の自己像が明確に現れる。これに対し、トールボット距離L1の半分の距離の位置では、トールボット距離L1の位置での感度の1/2で、位相が反転した干渉縞が形成される。また、トールボット距離L1の位置では、形成される干渉縞は、
図5(A)に示すように矩形波200として現れる。これに対し、
図5(B)に示すように、トールボット距離L1の位置及びトールボット距離L1の半分の距離の位置以外(
図5(B)に距離L2として示している位置)では、形成される干渉縞は、正弦波201を描いている。なお、トールボット距離L1の位置以外では、干渉縞のコントラストが不鮮明になる。
【0048】
本明細書では、次に説明する撮像手段6がトールボット距離L1の位置に配置されている場合を透過波面計測装置1の実施形態の代表例として説明している。しかし、撮像手段6は、処理部7でデータ処理を行うときに必要なデータの種類に応じ、トールボット距離L1の半分の距離の位置に配置してもよい。また、撮像手段6は、処理部7で低い感度の干渉縞のデータが必要な場合には、トールボット距離L1の位置及びトールボット距離L1の半分の距離の位置以外の位置に配置してもよい。その場合、上述したように、トールボット距離L1の位置以外では、干渉縞のコントラストが不鮮明になる。しかし、2次のトールボット像及び3次のトールボット像を利用することによって、高感度の計測をすることができる。
【0049】
〈撮像手段〉
撮像手段6は、回折格子5により形成される複数の回折光が干渉することによって現れる干渉縞を撮像している。撮像手段6は、撮像した干渉縞をデジタル信号に変換することができるセンサ、例えば、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等の2次元撮像素子が用いられている。この撮像手段6は、回折格子5に形成されているスリット間のピッチの2倍以上の画素数を有するものが用いられている。
【0050】
撮像手段6は、回折格子5から発せられた回折光がトールボット像を形成する位置に配置されている。具体的には、撮像装置は、次の(式2−1)で表されるZ
Tの位置に配置されている。
【0051】
Z
T=2d
2/λ・・・・(式2−1)
【0052】
この(式2−1)は、(式2)のNに1を代入して表された式である。
【0053】
また、上述したように、撮像手段6が配置される位置は、レンズ4が被検査物100の像を共役結像する位置でもある。このように、撮像手段6は、レンズ4が共役結像を形成すると共に、回折格子5がトールボット像を形成する位置に配置されている。そのため、レンズが形成する共役結像と、回折格子5により形成されるトールボット像の位置とは一致され、共役結像して得られた被検査物の面と計測された位相分布とが正確に位置合わせされる。その結果、次に説明する処理部7は、トールボット像である干渉縞の撮像データをフーリエ変換法によって得られたデータに基づいて被検査物の屈折率と厚みとの積算値の分布を正確に演算することができる。
【0054】
〈処理部〉
(位相分布の演算)
処理部7は、回折光により形成された干渉縞の撮像データをフーリエ変換法によって空間周波数スペクトルを演算し、この空間周波数スペクトルのデータに基づいて被検査物10の屈折率と厚みとの積算値の分布を演算している。換言すると、被検査物100の屈折率と厚みの積の値を演算することによって、被検査物100に存在する「うねり」あるいは「むら」を求めている。この処理部7は、コンピュータ等が利用されていて、撮像手段6にケーブルによって接続されている。この処理部7は、特に図示していないが、データ取得部、記憶部、演算部及び表示部を備えている。データ取得部は、撮像手段6が撮像した干渉縞画像のデータを取得している。記憶部は、撮像手段6により撮像された干渉縞画像のデータを記憶している。演算部は、記憶部に格納された干渉縞画像のデータをフーリエ変換法によって微分位相像を演算している。具体的には、演算部は干渉縞画像データをフーリエ変換して空間周波数スペクトルを得る。次いで、空間周波数スペクトル中から1次スペクトルを切り取り、これを原点に戻して逆フーリエ変換する。その後、逆フーリエ変換して得られたデータに基づいて微分値を演算して位相分布を得ている。また、演算部は演算された微分位相像のデータに基づいて種々の解析を行っている。表示部は、撮像した画像や演算した結果に基づいてデータを処理して得られたグラフ等を表示する。
【0055】
なお、演算部で行うフーリエ変換、逆フーリエ変換及び波面の微分値の演算は、次の(式4)、(式5)及び(式6)によってそれぞれ行っている。
【0057】
なお、(式4)のVは、(1式)で定義したνという関数をフーリエ変換して得られた関数である。
【0060】
演算部は、まず、
図4に示したトールボット像の画像データを(式4)によりフーリエ変換し、空間周波数スペクトル60を演算する。
図6は、得られた空間周波数スペクトル60を図示したものである。
図6に示すように、干渉パターンの周期に対応したピークは、
図6の横方向及び縦方向のいずれにも中心から一定の間隔を空けて形成されている。
【0061】
演算部は、次に、フーリエ変換して空間周波数スペクトルのうち1次スペクトル61,62,63,64、例えば、
図7に示すように、1次スペクトル61を切り取って原点に戻し、(式5)により逆フーリエ変換してトールボット像に位相分布(波面の微分値のデータ)を求める。その後、逆フーリエ変換して得られたトールボット像に位相分布(波面の微分値のデータ)に基づいて(式6)により演算して波面の位相分布を求めている。
【0062】
(位相分布の校正)
この位相分布を求める際に、処理部7は、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過した収束光30に基づく回折光を撮像した撮像データから、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過せずに直接レンズ4に到達した収束光30に基づく回折光を撮像した画像データを差し引く校正を行っている。
【0063】
図8は、この校正を模式的に表した図である。
図8の左辺の第1項は、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過した収束光30に基づく回折光を撮像した撮像データから得られる画像である。この画像データは、凹面鏡のみの反射光に基づくデータと被検査物を透過した収束光に基づくデータが含まれている。左辺の第2項は、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過せずに直接レンズ4に到達した収束光30に基づく回折光を撮像した画像データから得られる画像である。
図8の右辺は、被検査物100を透過した光だけから得られる画像データに基づく画像である。
【0064】
凹面鏡3の表面は、製造時の不可避的に生じるうねり等が存在し、理想的な曲面には形成されていないおそれがある。そのため、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過した収束光30に基づく回折光を撮像した撮像データは、凹面鏡3の表面のうねりが含まれ、被検査物100それ自体の表面のうねり及び/又は厚さのばらつきだけを反映していないおそれがある。本発明の透過波面計測装置1は、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過せずに直接レンズ4に到達した収束光30に基づく回折光を撮像した画像データあらかじめ計測し、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過した収束光30に基づく回折光を撮像した撮像データから差し引くことによって、こうした凹面鏡3の表面のうねりが測定結果に反映されることを防止している。
【0065】
(波面の演算)
演算部は、こうした校正を行った後の位相分布に基づいて、波面を求めている。波面を求める演算は、次の(式7)と(式8)を用いて行っている。
【0068】
まず、(式7)によって、校正された位相分布のデータから微分波面を求める。次いで、(式8)により微分波面を1方向に積分を行って、波面を求める。(式8)は、台形公式法により積分をX方向に行う式である。Y方向の波面を求める場合は、X方向と同様に、(式8)を用いてY方向について積分を行う。
【0069】
(波面曲率の演算)
また、演算部は、こうした校正を行った後のデータに基づいて得られた位相分布のデータから波面の曲率を演算する。次の(式9)は、波面の曲率を演算する際の式である。なお、この(式9)は、上記した(式6)を置き換えた式であり、(式6)と(8)とは等号「=」で結ぶことができる。
【0071】
(式9)において、dは回折ピッチ(周期)、λは波長、1/rは曲率をそれぞれ表している。
【0072】
(屈折率分布の定量化)
処理部7は、演算部が以上に求めた各データに基づいて、(式10)を用い、屈折率の変位の分布(屈折率の変化量)を求め、屈折率分布の定量化を行っている。その際、演算部は、収束光30が被検査物100を透過する光路を平行光40が被検査物100を透過する光路に置換する補正を行っている。
【0074】
(式10)のWは波面、Δnは屈折率の変化、Dは被検査物100の厚さ、θは被検査物100を横切る収束光30が光軸となす角度を表している。
【0075】
凹面鏡3から反射された収束光30は、
図9に示すように、光軸以外の位置では被検査物100を斜めに横切るようにして透過する。また、透過する収束光30の光軸に対する角度は、光軸から離れるにつれて大きくなる。そのため、演算された波面は、現実に平行光40が被検査物100を透過した場合の画像データに基づいて演算した波面に比べ誤差を含むことになる。本発明の透過波面計測装置1は、平行光40が被検査物100を透過した場合の光路に置換する補正を行って、演算された波面にこうした誤差が含まれることを防止している。
【実施例】
【0076】
図1に示す透過波面計測装置1を用い、テンパックス系ガラスを被検査物100のサンプルとして、その屈折率の変位の計測を行った。計測に用いた透過波面計測装置1を構成している光源2、凹面鏡3、レンズ4、回折格子5及び撮像手段6の各々のスペックは、それぞれ次のとおりである。
【0077】
光源2は波長635nmの単色光を発するレーザーダイオードであり、凹面鏡3は直径が100mmで、曲面の半径が1000mmであり、レンズ4は焦点距離が150mmであり、回折格子5はスリットの間隔が0.1mmである。画像の撮像に用いた撮像手段6は、1024×1024画素、画素間のピッチが12μmのCCDイメージセンサである。
【0078】
サンプルの計測に先立って、凹面鏡3のみの反射光に基づいて、以下の計測を行った。
【0079】
(トールボット像の撮像)
まず、CCDイメージセンサで回折格子5を透過した光が形成するトールボット像を撮影した。具体的には、凹面鏡3の正面に配置されたサンプルに光源2から発散光20を照射し、この凹面鏡3によって、サンプルから所定の距離だけ離れ且つ、光源2から光軸がずれた位置に配置されたレンズ4に向けて収束光30を反射させた。次いで、レンズ4で収束光30を平行光40に変換させ、レンズ4と所定の間隔を空けて配置された2次元回折格子である回折格子5に平行光40を透過させ、回折格子5によって回折光を形成させた。撮影手段6は、回折光がトールボット像を形成する位置に配置し、撮像手段状に形成されたトールボット像を当該撮像手段6であるCCDイメージセンサで撮像した。
【0080】
図10は、撮像したトールボット像である。
図10に示すように、撮像されたトールボット像は、凹面鏡の輪郭が円形に現れている。円形に現れた輪郭の内側には、暗部として示されている複数の横縞と、同様に暗部として示されている複数の縦縞とが直交していることが示されている。こうした横縞と縦縞との間の領域は、複数の明部が現れている。なお、
図10(B)は、
図10(A)の正方形で囲った枠の内部を拡大して示した画像である。
【0081】
(位相分布の演算)
次に、撮像したトールボット像の画像データに基づいて空間周波数スペクトルを演算した。空間周波数スペクトルの演算は、(式4)によって得られた
図10に示したトールボット像の画像データをフーリエ変換して求めた。
図11は、演算された空間周波数スペクトルを図示したものである。
図11に示すように、1次スペクトル61,62,63,64は中央に位置する原点を囲むようにして等間隔をなして現れている。次いで、演算された空間周波数スペクトルのデータを(式5)により逆フーリエ変換してトールボット像の位相分布すなわち波面の微分値のデータを求めた。その後、(式6)により波面の位相分布を求めた。
【0082】
(波面曲率の演算)
次に、位相分布のデータから理論式によって波面の曲率を演算した。波面の曲率を演算する際に用いた理論式は、(式6)である。また、(式6)により演算した波面の曲率が正確な値であるかどうかを確認するために、球面波の計測を行った。球面波の測定は、
図1に示した装置を用い、光源2を凹面鏡3に近づけたり遠ざけたりして球面波を形成し、形成された球面波を計測して行った。
【0083】
図12は、(式6)によって得られた理論式と球面波を計測して得られた実測値とを同じグラフに表したものである。横軸は凹面鏡3の位置を表し、0の位置が光軸の位置である。この
図12に示したグラフは、光軸の位置を中心にX方向及びY方向について、+方向と−方向の両方向について4mmずつの範囲を図示している。グラフの縦軸は湾曲の程度、すなわち曲率を表している。グラフの実線で示した斜線は(式6)を用いて得られた理論値であり、グラフにプロットした「+」はX方向の実測値であり、「○」はY方向の実測値である。この
図12に示すように、実測値は(式6)の理論式上にX方向の実測値及びY方向の実測値の双方が乗っており、X方向及びY方向のいずれも、理論値にほぼ一致している。例えば、曲率の実測値は、X方向及びY方向のいずれにおいても、−4mmの位置では約0.2/m、0mmの位置(光軸上)では0/m、4mmの位置では約−0.2/m、であり、いずれも理論式上に存在する。
【0084】
(波面の演算)
次に、(式6)により演算した位相分布のデータに基づいて(式7)及び式(式8)によってX方向の波面を演算した。
図13は、位相分布の画像を波面の画像に変換したものを示している。
図13の左側は位相分布の画像であり、
図13の右側は波面の画像である。
図13の右側の画像に示すように、波面の画像は、左右両側に比べ中央が明るく表示されている。すなわち、X方向は、左右両側に比べ中央が凸上になっている。Y方向についても同様に、(式6)により演算した位相分布のデータに基づいて(式7)及び式(式8)によってY方向の波面を演算することができる。
【0085】
図14は、上記ようにしてX方向及びY方向演算された理論値に基づいて形成した波面を3次元的にグラフ化した図であり、X方向及びY方向の各位置の波面を示している。この
図14は、曲率が−4.49/mの凹面鏡3の波面をグラフ化したものである。
図14に示すように、波面の形状は、X方向及びY方向のいずれについても、上側に向けて凸になっており、Xの値及びYの値が0の位置(光軸の位置)が頂部になっている。こうした曲率が−4.49/mの凹面鏡3の波面の理論値と実測値との差異は、最小2乗誤差がわずかに0.027λであり、高い精度で波面を求めることができた。
【0086】
(サンプルの計測)
以上に説明した透過波面計測装置1によって、テンパックス系ガラス基板をサンプルとし、その屈折率の変位の計測を行った。計測は、
図1に示すように、凹面鏡3の表面側にサンプルを配置して行った。
【0087】
図15は、サンプルのトールボット像を撮像した画像を示している。なお、
図15の左側に撮像された暗い部分は、サンプルを保持するホルダである。
図15に示すように、サンプルの輪郭が矩形状に撮像されており、干渉縞の濃淡が輪郭の内側に存在する。
【0088】
このようにして撮像されたトールボット像の画像データに基づいて、位相分布(微分値)の画像及び演算した曲率半径とサンプルの測定位置の関係をX方向及びY方向の双方について求めた。その際、凹面鏡3の表面に存在するうねり等の影響が計測したデータに現れることを防止するために、
図8を参照して説明したように、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過した収束光30に基づく回折光を撮像した撮像データから、凹面鏡3を反射し、被検査物100を透過せずに直接レンズ4に到達した収束光30に基づく回折光を撮像した画像データを差し引く校正を行っている。
【0089】
図16(A)は、X方向の位相分布(微分値)の画像を示したものであり、
図17(B)は、Y方向の位相分布(微分値)の画像を示したものである。
【0090】
図16(A)の画像に示すように、X方向の位相分布の画像は明暗が交互に現れていることが分かる。また、画像の左側は相対的に明るく、中央が相対的に暗い。画像の右側に向かうにつれて中央よりも相対的に明るくなっている。
【0091】
これに対し、
図16(B)の画像に示すように、Y方向の位相分布の画像は上側が相対的に明るく、下側に向かうにつれて徐々に暗くなっていることが分かる。
【0092】
この
図16から、サンプルは次のように形成されていることが分かる。サンプルのX方向は、光軸の近傍が凹状に形成され、光軸よりも左側の領域が凸状に隆起し、光軸よりも見川の領域が、光軸の近傍よりも高かく且つ、光軸よりも左側の領域より低い位置に存在し、表面が全体的に波状に形成されていることが分かる。これに対し、サンプルのY方向は、ほとんどうねりが存在せず、光軸の上側から下側に向けて緩やかに傾斜をしていることが分かる。
【0093】
図17は、光軸よりもX方向の右側の領域且つ光軸よりもY方向の上側の領域について、波面を3次元的にグラフ化したものである。
図18に示すように、サンプルのX方向は、光軸より右側の領域では、端部側から光軸に向かうにつれ下側に傾斜している。また、サンプルのX方向は、上下に波状をなしていることが分かる。これに対し、Y方向は、大きなうねりが存在せず、緩やかに傾斜していることが分かる。
【0094】
(屈折率変位の分布の定量化)
最後に、屈折率変位の分布の定量化を行った。サンプルのX方向及びY方向の波面を3次元的グラフ化した。なお、定量化を行う際、(式10)によって補正を行った。
図18は、定量化した画像を示している。
図18において、画像の最も暗く表された領域は、屈折率が−1.67×10
−3であり、画像のもっとも明るく表された領域は、屈折率が5.43×10
−2である。屈折率変位の分布の定量化を行った結果、
図18に示すように、サンプルの屈折率は、−1.67×10
−3〜5.43×10
−2であることが判明した。