(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196843
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】車両用暖房装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20170904BHJP
【FI】
B60H1/22 611C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-176211(P2013-176211)
(22)【出願日】2013年8月28日
(65)【公開番号】特開2015-44466(P2015-44466A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151209
【氏名又は名称】株式会社マーレ フィルターシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴久
【審査官】
石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−286231(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0155840(US,A1)
【文献】
特開2001−284026(JP,A)
【文献】
特開2010−003487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロアによって送られる空気が車室内に吹き出す吹き出し口に、個々に電気ヒータを配置した車両用暖房装置であって、
上記電気ヒータは、通電により発熱する細長い帯状に形成した発熱シートを、表面が吹き出し口の流れ方向に沿うようにしつつ複数回折り返してケースに収容してなる車両用暖房装置において、
上記ケースは、吹き出し口に装填される外筒およびその内側に同心状に配置された内筒と、軸方向の一端において外筒と内筒とを連結する連結バーと、上記外筒と上記内筒との間に複数配置され、かつ上記軸方向の一端で支持された円柱状のピンと、を備え、これらが合成樹脂により一体に成形されているとともに、上記外筒の周方向の一箇所に一対のスリットが設けられており、
上記発熱シートは、上記ピンが折り返し部となるように上記外筒と上記内筒との間に放射状ないし星型に配置されており、
帯状をなす発熱シートの両端が上記スリットを通して上記外筒の外周側へ引き出され、かつそれぞれターミナルを備えている、
車両用暖房装置。
【請求項2】
上記ピンとして、上記ケースの外周部に配置された複数のピンと内周部に配置された複数のピンとを有し、これらのピンに沿って上記発熱シートが放射状に折り返されている、請求項1に記載の車両用暖房装置。
【請求項3】
上記外筒と上記内筒との間で、外周側に放射状ないし星型に発熱シートが配置されているとともに、内周側に星型に発熱シートが配置されていて、1本の連続した帯状の発熱シートが内外2重に配置されている、請求項1に記載の車両用暖房装置。
【請求項4】
上記発熱シートは、導電性繊維を抄紙した導電性繊維シートからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の車両用暖房装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、個々の吹き出し口に電気ヒータを配置した車両用暖房装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を動力源とする自動車の暖房装置としては、ブロアによって圧送される空気を、内燃機関の冷却水(温水)を熱源とするヒータコアによって加熱し、車室へ向かって設けられた複数の吹き出し口から吹き出すようにした構成が一般的である。
【0003】
しかし、近年の内燃機関の冷却損失の低減ならびにハイブリッド車や電動自動車の出現に伴い、特許文献1や特許文献2に見られるように、熱源として電気ヒータを用いた車両用暖房装置が注目されるに至っている。特許文献1の装置では、足下に温風を導くフットダクト内にPTCヒータが配置されており、特許文献2の装置では、運転者の膝元へ温風を導くインストルメントパネル内の通路にPTCヒータが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−18011号公報
【特許文献2】特開2002−316561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気ヒータを用いた車両用暖房装置では、限られた電力でもっていかに効率よく暖房を行うかが重要である。
【0006】
特許文献1の装置では、平板状のPTCセラミックを金属板からなるフィンで挟んだ構造を多数積層したPTCヒータが用いられており、発熱体であるPTCセラミックがフィンを加熱し、このフィンが空気を暖める構成であるので、フィンの加熱に無駄に電力が消費されてしまう。しかも、このような構造では、吹き出し口の直前位置にヒータを配置することが困難であり、ダクトや周囲の構造物に熱が奪われやすい。
【0007】
また特許文献2の装置では、インストルメントパネル内の空間全体をPTCヒータで暖める構成であるため、インストルメントパネルや周囲の構造物の温度上昇に熱が使われてしまい、空気流のみを効率良く加熱することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、ブロアによって送られる空気が車室内に吹き出す吹き出し口に、個々に電気ヒータを配置した車両用暖房装置であって、上記電気ヒータは、通電により発熱する細長い帯状に形成した発熱シートを、表面が吹き出し口の流れ方向に沿うようにしつつ複数回折り返してケースに収容した構成となっている。
【0009】
このような構成では、ブロアによって送られる空気が吹き出し口から吹き出す直前に、発熱シートの表面に沿って流れる間に加熱される。複数回折り返してケース内に配置した発熱シート自体が発熱し、表面に触れる空気を直接に加熱するので、周囲の構造物等を不必要に加熱することなく均等な温度分布の温風が効率よく生成される。
【0010】
詳しくは、上記ケースは、吹き出し口に装填される外筒およびその内側に同心状に配置された内筒と、軸方向の一端において外筒と内筒とを連結する連結バーと、上記外筒と上記内筒との間に複数配置され、かつ上記軸方向の一端で支持された円柱状のピンと、を備え、これらが合成樹脂により一体に成形されているとともに、上記外筒の周方向の一箇所に一対のスリットが設けられている。
そして、上記発熱シートは、上記ピンが折り返し部となるように上記外筒と上記内筒との間に放射状ないし星型に配置されており、帯状をなす発熱シートの両端が上記スリットを通して上記外筒の外周側へ引き出され、かつそれぞれターミナルを備えている。
【0011】
例えば、上記ケースの外周部に配置された複数のピンと内周部に配置された複数のピンとを有し、これらのピンに沿って上記発熱シートが放射状に折り返されている。
【0012】
このようにケースに設けたピンに沿って帯状の発熱シートを折り返すようにした構成では、可撓性を有する発熱シートを、所定のレイアウトに確実に配置することができるとともに、折り返された隣接する発熱シート同士がピンによって確実に離れるので、両者間での短絡が防止される。
【0013】
本発明の好ましい一つの態様では、上記発熱シートは、導電性繊維を抄紙した導電性繊維シートから構成される。このような発熱シートは、導電性を有し、通電することによって発熱する。このような導電性繊維シートを用いた構成では、通電開始時にPTCヒータのような過大な突入電力が流れることがなく、車両の限られた電力でもって複数の吹き出し口で同時に温風の生成を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、吹き出し口から車室内に供給される空気流を、限られた電力でもって効率よく加熱することができ、温水式暖房装置に補助的に追加される暖房装置として、あるいは電気自動車等でのメインの暖房装置として、利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明に係る暖房装置の一実施例を示す構成説明図。
【
図2】側部の吹き出し口に電気ヒータを備えたインストルメントパネル要部の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、この発明を、内燃機関を動力源とする自動車の暖房装置に適用した一実施例の構成説明図である。この暖房装置は、ハウジング1の空気取り入れ口2から取り込まれる空気を、ハウジング1の一部となるダクト3へ送る電動式のブロア4と、このブロア4の下流側に配置されたヒータコア5と、ダクト3先端の吹き出し口6の開口直前位置に設けられた電気ヒータ7と、を備えている。上記ヒータコア5は、内燃機関の冷却水と空気との間の熱交換を行うものであり、ブロア4により送られてヒータコア5を通過した空気流は、複数の吹き出し口6へ分配される。図示した吹き出し口6は、車室に対し設けられる複数の吹き出し口6の中の一つを代表的に示しており、例えば、
図2に示すように、運転席前のインストルメントパネル11の側部(ステアリングホイール12の側方)に位置する円形の吹き出し口6である。この吹き出し口6には、吹き出し方向を調整するルーバー8が配置されており、このルーバー8の裏側に隣接して円筒形の電気ヒータ7が配置されている。
【0018】
なお、
図1は、暖房装置として必要な構成要素のみを概略的に示したものであり、空気取り入れ口2の上流には、外気と内気循環とを切り換える内外気切換ドアが設けられ、ヒータコア5の下流側には、複数のダクト3への空気導入の切換を行う吹き出し口切換ドアが設けられているが、これらは図示していない。また、実際には、多くの場合、暖房機能とともに冷房機能を有する空調装置として、特許文献1に開示されているようなエバポレータおよびエアミックスドアを含むいわゆるリヒートエアミックス形式の空調装置に構成されるが、本発明は、このような空調装置としても同様に適用が可能である。
【0019】
図3は、吹き出し口6に配置される円筒形の電気ヒータ7の一実施例を示している。この電気ヒータ7は、吹き出し口6に装填される円筒形をなすケース15と、このケース15の中に配置される発熱シート16と、から構成されている。
【0020】
ケース15は、例えば合成樹脂により一体に成形されたものであって、円筒状をなす外筒17と同じく円筒状をなす小径の内筒18とが同心状に配置され、かつ軸方向の一端において、略十字形をなすように放射状に設けられた連結バー19によって互いに連結されている。上記外筒17の一端には、外周フランジ部20が外筒17から内周側へ張り出しており、内筒18の一端には、内周フランジ部21が内筒18から外周側へ張り出している。上記連結バー19は、上記の外周フランジ部20と内周フランジ部21との間に設けられている。そして、これらの外周フランジ部20および内周フランジ部21には、外筒17および内筒18の軸方向と平行に突出する複数のピン22が一体に形成されている。これらのピン22は、細い円柱状をなしており、円筒状ケース15の周方向に等間隔(例えば15°毎)に並んで配置されている。詳しくは、周方向に見て、外周側の隣接する2本のピン22の間に、内周側の1本のピン22が位置するように、各ピン22が配置されている。外筒17の周方向の一箇所には、後述するターミナルの位置となる一対のスリット24が設けられている。
【0021】
上記ケース15の中に配置される発熱シート16は、炭素繊維の短繊維を抄紙した導電性繊維シートからなる。なお、抵抗値の調整などのために炭素繊維以外の他の繊維を含んでいてもよい。この導電性繊維シートは、導電性を有し、通電することにより発熱する特性を有している。この実施例では、導電性繊維シートは、細長い1本の連続した帯状に構成されており、外筒17と内筒18との間の半径方向の距離にほぼ相当する間隔でもって、交互に反対方向に折り返されている。つまり、いわゆるプリーツ折りとなっている。そして、個々の折り返し部の内側にピン22が位置するようにして、外筒17と内筒18との間の円環状の空間に発熱シート16が収容されている。換言すれば、ピン22が折り返し部の内側となるように帯状の発熱シート16が折り返され、外筒17と内筒18との間で、全体として放射状をなすように、発熱シート16が配置されている。従って、発熱シート16の表面は、空気の流れの方向に沿ったものとなる。
【0022】
帯状の発熱シート16の両端には、それぞれ外部との接続を行うための導電性金属からなるターミナル25が設けられている。このターミナル25を備えた発熱シート16の両端部は、スリット24を通して外周側へ引き出されており、外筒17の外周面にターミナル25が配置されている。なお、この電気ヒータ7が装着される吹き出し口6側に上記ターミナル25と接触する端子片を設けておき、電気ヒータ7を吹き出し口6に装填するだけで電気的接続が行えるように構成することも可能である。
【0023】
上記のように構成された電気ヒータ7は、図示せぬコントローラを介して、例えば、温水での暖房が不十分である冷間時の始動直後などに通電され、運転者に対し局部的ではあるが素早い暖房を提供することができる。例えば、図示例では、ステアリングホイール12を操作する運転者の手を素早く温めることができる。
【0024】
ブロア4によって送られる空気流は、吹き出し口6から吹き出す直前に電気ヒータ7を通過し、放射状に配置された発熱シート16により狭い通路に仕切られたケース15内の各区画を空気が流れる間に、効果的に空気が加熱される。導電性繊維シートからなる発熱シート16は、通電によりそれ自体が発熱し、しかも、ケース15の通路断面積に比較して発熱シート16の面積を十分に大きく確保することができるので、発熱シート16の温度を過度に高くせずに空気流の加熱が可能である。従って、周囲の構造物等に熱を奪われることなく、少ない電力で効率よく局所的な暖房を行うことができる。
【0025】
ここで、上記の導電性繊維シートからなる発熱シート16は、初期にPTCヒータのような過大な突入電流が流れることがないので、限られたバッテリ容量ないし発電容量の下で、複数箇所の吹き出し口6で同時に電気ヒータ7を使用することが可能である。
【0026】
また、上記実施例の構成では、合成樹脂製ケース15の一部をなす外周側および内周側の複数のピン22に沿って帯状の発熱シート16が折り返されているので、可撓性を有する発熱シート16を、所定のレイアウトに確実に配置することができる。そして、折り返された隣接する発熱シート16同士がピン22によって確実に離れ、両者間での短絡が防止される。しかも、折り返し部にピン22が存在することで、ピン22に近い外周部および内周部においても、発熱シート16表面に空気が確実に接触するようになり、発熱シート16の全面を空気の加熱に有効に利用することができる。
【0027】
なお、上記実施例の電気ヒータ7においては、ピン22を介した発熱シート16の折り曲げ回数(換言すれば、帯状の発熱シート16の全長)および発熱シート16の幅(ケース15の軸方向に沿った寸法)を変更することにより、発熱シート16の発熱量ならびに表面積を可変的に設定することが可能である。例えば、同じ径の吹き出し口6に対し、加熱容量が大小異なる電気ヒータ7を容易に設定することができる。
【0028】
次に、
図5および
図6は、発熱シート16のレイアウトを変更した電気ヒータ7の第2の実施例を示している。この実施例では、合成樹脂製ケース15は、やはり同心状に配置された外筒17と内筒18とを有しているが、外筒17の一端と内筒18の一端とが、複数の放射状の連結バー19によって互いに連結されている。図示例では、15°毎に比較的細い連結バー19が設けられており、これら連結バー19は、円環状のリム19aによって周方向に互いに連結されている。発熱シート16の折り返し部の内側に配置される多数のピン22は、この連結バー19の上に支持されており、特に、この実施例では、4つの同心円に沿ってピン22が配置されている。
【0029】
具体的には、最外周の円に沿って配置されたピン22は、複数の連結バー19の1つおきに設けられており、これらに挟まれた中間の連結バー19には、リム19aよりも僅かに大径な円に沿って位置するピン22が配置されている。また、リム19aよりも僅かに小径な円に沿って6個のピン22が配置され、隣接する2つのピン22の間に、最も小径な円に沿って6個のピン22が配置されている。
【0030】
そして、
図5に示すように、これらのピン22を利用して、リム19aよりも外周側で放射状ないし星型に発熱シート16が配置されているとともに、リム19aよりも内周側で星型に発熱シート16が配置されている。つまり、1本の連続した帯状の発熱シート16がプリーツ折りされ、かつ内外2重に配置されている。
【0031】
このように、本発明においては、帯状の発熱シート16をどのようにレイアウトするかは任意であり、ケース15の断面積(つまり吹き出し口6の断面積)の中で必要な表面積が得られるように、適当にレイアウトすればよい。
【0032】
以上、この発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は上記実施例のような円筒形の吹き出し口に限定されず、種々の形状および種々の位置の吹き出し口に適用することが可能である。さらに、上記実施例のように補助的な暖房装置ではなく、電気ヒータのみで車室内の暖房を行う場合にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
4…ブロア
6…吹き出し口
7…電気ヒータ
15…ケース
16…発熱シート
17…外筒
18…内筒
22…ピン
25…ターミナル