(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜15は本発明を実施するためのより具体的な第1の形態を示す図で、特に
図1は本発明の車両の制御装置が適用される後輪駆動のハイブリッド車両の全体システム図を示している。最初に上記ハイブリッド車両の駆動系の構成を説明する。
図1のハイブリッド車両は、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。また、自動変速機ATは、オイルポンプOPと、第2クラッチCL2と、バリエータVと、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0014】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジンEはモータジェネレータMGとともに車両の走行駆動力を発生する回転駆動源として機能する。また、エンジンEの出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0015】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含む締結及び解放のそれぞれの動作が制御される。
【0016】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御・駆動される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0017】
第2クラッチCL2は、自動変速機AT内において、オイルポンプOPとバリエータVとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含む締結及び解放のそれぞれの動作が制御される。
【0018】
自動変速機ATは、第2クラッチCL2のほか公知のいわゆるベルト式無段変速機を主要素とするものであって、入力側のプライマリプーリと出力側のセカンダリプーリおよび双方のプーリ間に巻き掛けられたベルトとからなるバリエータVと、図示外の前後進切換機構と、変速機入力軸に連結するオイルポンプOPからなり、特にバリエータVはATコントローラ7からの制御指令に基づいて、バリエータ油圧ユニット31により作り出された制御油圧により、車速やアクセル開度等に応じて変速比をコントロールするものである。また、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの前進時に締結するクラッチ、後進時に締結するブレーキを流用している。尚、詳細については後述する。
【0019】
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルギヤDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRにそれぞれ連結されている。尚、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0020】
ブレーキユニット900は、液圧ポンプと、複数の電磁弁を備え、要求制動トルクに相当する液圧をポンプ増圧により確保し、各輪の電磁弁の開閉制御によりホイルシリンダ圧を制御するいわゆるブレーキバイワイヤ制御を可能に構成されている。各輪FR,FL,RR,RLには、ブレーキロータ901とキャリパ902が備えられ、ブレーキユニット900から供給されるブレーキ液圧により摩擦制動トルクを発生させる。尚、液圧源としてアキュムレータ等を備えたタイプでもよいし、液圧ブレーキに代えて電動キャリパを備えた構成でもよい。
【0021】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・解放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の解放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。「このWSC走行モード」は、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、「EV走行モード」から「HEV走行モード」に以降するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジンEの始動を行う。
【0022】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
【0023】
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0024】
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギーを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる「発電モード」を有する。
【0025】
次に、上記ハイブリッド車両の制御系を説明する。
図1におけるハイブリッド車両の制御系は、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、バリエータ油圧ユニット31と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。また、それぞれのコントローラは、周知のようにマイクロコンピュータ等にて構成されている。
【0026】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。更に詳細なエンジン制御内容については後述する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0027】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0028】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・解放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0029】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、バリエータVの変速比を目標変速比にコントロールする指令、及び第2クラッチCL2の締結・解放を制御する指令を、AT油圧コントロールバルブ内のバリエータ油圧ユニット31、第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。また、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0030】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められるドライバ要求制動トルクに対し回生制動トルクだけでは不足する場合、その不足分を機械制動トルク(摩擦ブレーキによる制動トルク)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。尚、ドライバ要求制動トルクに応じたブレーキ液圧に限らず、他の制御要求により任意にブレーキ液圧を発生可能なのは言うまでもない。
【0031】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0032】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・解放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・解放制御およびバリエータVの変速制御と、を行う。
【0033】
さらに、統合コントローラ10は、後述する推定された路面勾配に基づいて車輪に作用する勾配負荷トルク相当値を演算する勾配負荷トルク相当値演算部600と、所定の条件が成立したときにドライバのブレーキペダル操作量に係わらずブレーキ液圧を発生させる第2クラッチ保護制御部700を有する。
【0034】
勾配負荷トルク相当値とは、路面勾配によって車両に作用する重力が車両を後退させようとする際、車輪に働く負荷トルクに相当する値である。車輪に機械的制動トルクを発生させるブレーキは、ブレーキロータ901に対しキャリパ902によってブレーキパッドを押圧することで制動トルクを発生させる。よって、車両が重力により後退しようとしているときには、制動トルクの方向は車両前進方向となる。この車両前進方向と一致する制動トルクを勾配負荷トルクと定義する。この勾配負荷トルクは、路面勾配と車両のイナーシャによって決定できるため、統合コントローラ10内に予め設定された車両重量等に基づいて勾配負荷トルク相当値を演算する。尚、勾配負荷トルクをそのまま相当値としてもよいし、所定値等を加減算して相当値としてもよい。
【0035】
第2クラッチ保護制御部700では、勾配路において車両が停止した際、この車両が後退するいわゆるロールバックを回避可能な制動トルク最小値(前述の勾配負荷トルク以上の制動トルク)を演算し、所定の条件(路面勾配が所定値以上で車両停止時)が成立したときは、ブレーキコントローラ9に対し、制動トルク最小値を制御下限値として出力する。
【0036】
なお、ここでは、駆動輪である後輪にのみブレーキ液圧を作用させるものとする。ただし、前後輪配分等を加味して4輪にブレーキ液圧を供給する構成としてもよいし、前輪にのみブレーキ液圧を供給する構成としてもよい。
【0037】
一方、上記所定の条件が不成立となったときは、徐々に制動トルクが小さくなる指令を出力する。また、第2クラッチ保護制御部700は、所定の条件が成立したときは、ATコントローラ7に対し、第2クラッチCL2への伝達トルク容量制御出力を禁止する要求を出力する。
【0038】
次に、
図2に示すブロック図を用いて統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。統合コントローラ10での演算は、例えば制御周期10msec毎に演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0039】
目標駆動力演算部100では、
図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)を演算する。
【0040】
モード選択部200は、Gセンサ10bの検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201を有する。路面勾配推定演算部201は、車輪速センサ19の車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果とGセンサ検出値との偏差から路面勾配を推定する。
【0041】
更に、モード選択部200は、推定された路面勾配に基づいて、後述する二つのモードマップのうち、いずれかを選択するモードマップ選択部202を有する。
図4はモードマップ選択部202の選択ロジックを表す概略図である。モードマップ選択部202は、通常モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、勾配路対応モードマップに切り換える。一方、勾配路対応モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り換える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切り換え時の制御ハンチングを防止する。
【0042】
次に、モードマップについて説明する。モードマップとしては、推定勾配が所定値未満のときに選択される通常モードマップと、推定勾配が所定値以上のときに選択される勾配路対応モードマップとを有する。
図5は通常モードマップ、
図6は勾配路対応モードマップを表す。
【0043】
通常モードマップ内には、「EV走行モード」と、「WSC走行モード」と、「HEV走行モード」とを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、「EV走行モード」が選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0044】
図5の通常モードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが低速側の変速比のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1’領域まで「WSC走行モード」が設定されている。尚、バッテリSOCが低く、「EV走行モード」を達成できないときには、発進時等であっても「WSC走行モード」を選択するように構成されている。
【0045】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速まで「WSC走行モード」を実行しても、短時間で「WSC走行モード」から「HEV走行モード」に移行させることができる。この場合が
図5に示す下限車速VSP1’まで広げられたWSC領域である。
【0046】
勾配路対応モードマップ内には、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域として、アクセルペダル開度APOに応じて領域を変更せず、下限車速VSP1のみで領域が規定されている点で通常モードマップとは異なる。
【0047】
目標充放電演算部300では、
図7に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、「EV走行モード」を許可もしくは禁止するためのEVON線(MWSCON線)がSOC=50%に設定され、EVOFF線(MWSCOFF線)がSOC=35%に設定されている。
【0048】
SOC≧50%のときは、
図5の通常モードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。
【0049】
SOC<35%のときは、
図5の通常モードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0050】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoO(ドライバ要求トルク)と、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と自動変速機ATの目標変速比と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、「EV走行モード」から「HEV走行モード」に移行するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。
【0051】
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量TCL2*と目標変速比を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速比が設定されたものである。なお、第2クラッチCL2の制御を司る第2クラッチ油圧ユニット8の詳細を
図11に示す。
【0052】
本実施の形態では、
図11に示すように、
図1の第2クラッチ油圧ユニット8内に、プレッシャーレギュレータ弁8a、減圧弁8b、クラッチ調圧弁8cが構成されていて、オイルポンプO/Pで生成された油圧を第2クラッチCL2に供給している。また、
図1のATコントローラ7により第2クラッチ油圧ユニット8の主要素であるクラッチ調圧弁(リニアソレノイドバルブ)8cが制御される。クラッチ調圧弁8cはATコントローラ7からの指令によりデューティ制御され、これにより第2クラッチCL2に作動油圧として供給される油圧が制御される。なお、通常はクラッチ調圧弁8cにはスロットル開度に対応した駆動指令が入力される。
【0053】
〈WSC走行モードについて〉
次に、「WSC走行モード」の詳細について説明する。「WSC走行モード」とは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、ドライバ要求トルク変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2をドライバ要求トルクに応じた伝達トルク容量TCL2としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動力を用いて走行する。
【0054】
図1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を完全締結すると、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、更に下限値が高くなる。また、ドライバ要求トルクが高い状態では素早く「HEV走行モード」に移行できない場合がある。
【0055】
一方、「EV走行モード」では、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によって「EV走行モード」による走行が困難な場合や、モータジェネレータMGのみでドライバ要求トルクを達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
【0056】
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、「EV走行モード」による走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみではドライバ要求トルクを達成できない領域では、エンジン回転数を所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行する「WSC走行モード」を選択する。
【0057】
図8は「WSC走行モード」におけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、
図9は「WSC走行モード」におけるエンジン目標回転数を表すマップである。「WSC走行モード」において、運転者がアクセルペダルを操作すると、
図9に基づいてアクセルペダル開度に応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速に応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、
図8に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
【0058】
ここで、エンジンEの動作点をエンジン回転数とエンジントルクにより規定される点と定義する。
図8に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線と記載する。)上で運転することが望まれる。
【0059】
しかし、上述のようにエンジン回転数を設定した場合、運転者のアクセルペダル操作量(ドライバ要求トルク)によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
【0060】
一方、モータジェネレータMGは、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御(以下、回転数制御と記載する。)が実行される。今、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGが目標回転数を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる(以下、「モータISC制御」と記載する)。
【0061】
このとき、モータジェネレータMGが出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクとドライバ要求トルクとの偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータMGでは、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、更に、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
【0062】
あるエンジン回転数において、ドライバ要求トルクがα線上の駆動力よりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギーをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体はドライバ要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。ただし、バッテリSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
【0063】
図8(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
【0064】
図8(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
【0065】
図8(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。ドライバ要求トルクに応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつドライバ要求トルクを達成することができる。
【0066】
次に、「WSC走行モード」領域を、推定勾配に応じて変更している点について説明する。
図10は車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数マップである。平坦路において、アクセルペダル開度がAPO1よりも大きな値の場合、WSC走行モード領域は下限車速VSP1よりも高い車速領域まで実行される。このとき、車速の上昇に伴って
図9に示すマップのように徐々に目標エンジン回転数は上昇する。そして、VSP1’に相当する車速に到達すると、第2クラッチCL2のスリップ状態は解消され、「HEV走行モード」に移行する。
【0067】
推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きい勾配路において、上記と同じ車速上昇状態を維持しようとすると、それだけ大きなアクセルペダル開度となる。このとき、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2は平坦路に比べて大きくなる。この状態で、仮に
図9に示すマップのようにWSC走行モード領域を拡大してしまうと、第2クラッチCL2は強い締結力でのスリップ状態を継続することとなり、発熱量が過剰となるおそれがある。そこで、推定勾配が大きい勾配路のときに選択される
図6の勾配路対応モードマップでは、WSC走行モード領域を不要に広げることなく、車速VSP1に相当する領域までとする。これにより、「WSC走行モード」における過剰な発熱を回避する。
【0068】
尚、モータジェネレータMGによって回転数制御が困難な場合、例えばバッテリSOCによる制限がかかっている場合や、極低温でモータジェネレータMGの制御性が確保できない場合等には、エンジンEによって回転数制御するエンジンISC制御を実施する。
【0069】
〈MWSC走行モードについて〉
次に、MWSC走行モード領域を設定した理由について説明する。推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きいときに、例えば、ブレーキペダル操作を行うことなく車両を停止状態もしくは微速発進状態に維持しようとすると、平坦路に比べて大きな駆動力が要求される。自車両の荷重負荷に対抗する必要があるからである。
【0070】
第2クラッチCL2のスリップによる発熱を回避する観点から、バッテリSOCに余裕があるときは「EV走行モード」を選択することも考えられる。このとき、EV走行モード領域からWSC走行モード領域に移行したときにはエンジン始動を行う必要があり、モータジェネレータMGはエンジン始動用トルクを確保した状態で駆動トルクを出力するため、駆動トルク上限値が不要に狭められる。
【0071】
また、「EV走行モード」においてモータジェネレータMGにトルクだけを出力し、モータジェネレータMGの回転を停止もしくは極低速回転すると、インバータのスイッチング素子にロック電流が流れ(電流が1つの素子に流れ続ける現象)、耐久性の低下を招くおそれがある。
【0072】
また、低速側の変速比でエンジンEのアイドル回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い領域(VSP2以下の領域)において、エンジンE自体は、アイドル回転数より低下させることができない。このとき、「WSC走行モード」を選択すると、第2クラッチCL2のスリップ量が大きくなり、第2クラッチCL2の耐久性に影響を与えるおそれがある。
【0073】
特に、勾配路では、平坦路に比べて大きな駆動力が要求されていることから、第2クラッチCL2に要求される伝達トルク容量は高くなり、高トルクで高スリップ量の状態が継続されることは、第2クラッチCL2の耐久性の低下を招きやすい。また、車速の上昇もゆっくりとなることから、「HEV走行モード」への移行までに時間がかかり、更に発熱するおそれがある。
【0074】
そこで、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を運転者の要求駆動力に制御しつつ、モータジェネレータMGの回転数が第2クラッチCL2の出力回転数よりも所定回転数高い目標回転数にフィードバック制御する「MWSC走行モード」を設定した。
【0075】
言い換えると、モータジェネレータMGの回転状態をエンジンのアイドル回転数よりも低い回転数としつつ第2クラッチCL2をスリップ制御するものである。同時に、エンジンEはアイドル回転数を目標回転数とするフィードバック制御に切り換える。「WSC走行モード」では、モータジェネレータMGの回転数フィードバック制御によりエンジン回転数が維持されていた。これに対し、第1クラッチCL1が解放されると、モータジェネレータMGによってエンジン回転数をアイドル回転数に制御できなくなる。よって、エンジンE自体によりエンジン自立回転制御を行う。
【0076】
MWSC走行モード領域の設定により、以下に列挙する効果を得ることができる。
【0077】
(1)エンジンEが作動状態であることからモータジェネレータMGにエンジン始動分の駆動トルクを残しておく必要が無く、モータジェネレータMGの駆動トルク上限値を大きくすることができる。具体的には、要求駆動力軸で見たときに、「EV走行モード」の領域よりも高い要求駆動力に対応できる。
【0078】
(2)モータジェネレータMGの回転状態を確保することでスイッチング素子等の耐久性を向上できる。
【0079】
(3)アイドル回転数よりも低い回転数でモータジェネレータMGを回転することから、第2クラッチCL2のスリップ量を小さくすることが可能となり、第2クラッチCL2の耐久性の向上を図ることができる。
【0080】
〈WSC走行モードにおける車両停止状態の課題〉
上述のように、「WSC走行モード」が選択された状態で、運転者がブレーキペダルを踏み込み、車両停止状態となった場合、第2クラッチCL2にはクリープトルク相当の伝達トルク容量が設定され、エンジンEに直結されたモータジェネレータMGがアイドル回転数を維持するように回転数制御が実行される。駆動輪は車両停止によって回転数がゼロであるから、第2クラッチCL2にはアイドル回転数相当のスリップ量が発生する。この状態が長く継続すると、第2クラッチCL2の耐久性が低下するおそれがあることから、運転者によってブレーキペダルが踏まれ、車両停止状態が維持されている場合には、第2クラッチCL2を解放することが望ましい。
【0081】
ここで、第2クラッチCL2を解放する制御が問題となる。すなわち、第2クラッチCL2は、湿式の多板クラッチであり、複数のクラッチプレートがピストンによって押圧されることで伝達トルク容量を発生する。このピストンには引き摺りトルク軽減の観点からリターンスプリングが設けられており、第2クラッチCL2への供給油圧を低下しすぎると、リターンスプリングによってピストンが戻される。これにより、ピストンとクラッチプレートとが離れてしまうと、再度油圧供給を開始したとしても、ピストンがストロークしてクラッチプレートに当接するまでは、第2クラッチCL2に伝達トルク容量が発生しないため、発進までのタイムラグ(これによるロールバック等も含む)や、締結ショック等を招くおそれがあった。また、予め最適な伝達トルク容量となるように供給油圧を制御したとしても、油温の影響や製造ばらつき等によって最適な伝達トルク容量を設定できないおそれもある。
【0082】
そこで、本実施の形態では、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を、タイムラグや締結ショック等を回避可能な伝達トルク容量に設定する車両停止時伝達トルク容量補正制御処理の一環として第2クラッチCL2の指令油圧に関するいわゆるスタンバイ圧学習制御処理を導入し、車両停止時における最適な伝達トルク容量を設定することとした。
【0083】
〈車両停止時伝達トルク容量補正制限処理〉
図12は上記車両停止時伝達トルク容量補正制御処理として実行される第2クラッチCL2の指令油圧に関するスタンバイ圧学習制御処理のフローチャートであり、
図13は上記第2クラッチCL2の指令油圧とモータジェネレータMGの駆動トルクである実MGトルクとの関係を示すタイムチャートである。
【0084】
図12では、ステップS1において上記第2クラッチCL2の指令油圧に関する学習制御開始条件の成立判定を行い、その学習制御開始条件の成立を条件に以降の処理を実行し、不成立の場合には最初に戻る。ここでの学習制御開始条件の成立は以下の各条件が成立し且つ所定時間経過後に学習制御開始とする。なお、当然のことながらモータジェネレータMGは回転数制御が実行されていることは先に述べたとおりである。
【0085】
・シフトレバー操作によりDまたはRの走行レンジが選択されていること。
【0086】
・停車中であること(車速が所定値以下)。
【0087】
・ATF(自動変速機の作動油)の温度が所定範囲内にあること。
【0088】
・第2クラッチCL2がクリープカット状態にあること(目標伝達トルクが所定値以下)。
【0089】
・平坦路であること(推定勾配値が所定値以下であること)。
【0091】
・学習制御禁止フラグがOFFであること。
【0092】
ステップS2では上記第2クラッチCL2の指令油圧に関する学習制御を実行する。詳しくは
図13に示すように、時刻t1において、比較的高い初期油圧指示値を出力する。この初期油圧指示値は、上記第2クラッチCL2の指令油圧に関するN回目の学習値(伝達トルク容量がほぼ零、すなわち伝達トルク容量が限りなく零に近い大きさ)にクリープカットトルク分を加算した指示値に対しさらに所定量を加算した指示値である。
図13のように初期油圧指示値を付与することはモータジェネレータMGの負荷が増大することにほかならず、同図に示すように初期油圧指示値に追従してモータジェネレータMGの駆動実トルクである実MGトルクも上昇することになる。なお、実MGトルクはモータコントローラ2から受信したモータ駆動電流等に基づいて算出される値である(トルク検出手段に相当)。
【0093】
そして、時刻t2以降において、油圧指示値をステップ状に且つ複数段階に分けて所定量ずつ低下させて、油圧指示値の変化に実MGトルクの変化が追従しているかどうかその都度追従判定を行い、油圧指示値の変化に実MGトルクの変化が追従している場合にはさらに油圧指示値を低下させる(
図13の時刻t2〜t7)。この後、例えば時刻t8において油圧指示値の変化に実MGトルクの変化が追従しなくなった場合には(非追従判定)には、その追従しなくなった時刻t8の直前の油圧指示値、すなわち時刻t7での油圧指示値を終了指示値とする。
【0094】
ここで、上記の非追従判定は、
図13に示すように、例えば時刻t7から時刻t8に至る過程において油圧指示値の変化量に応じて追従すべき実MGトルクの値が所定幅の判定領域mに入らなかった場合に、これをもって油圧指示値の変化に実MGトルクの変化が追従しなくなったとものと判定する。
【0095】
その上で、上記の終了指示値とN回目の学習値との偏差に所定の係数を乗じて補正量を算出し、この算出補正量をもって先のN回目の学習値を補正したものをN+1回目の学習値とする。これにより、第2クラッチCL2の指令油圧に関する学習制御が終了する。尚、上記の終了指示値そのものをN+1回目の学習値としても良い。
【0096】
続いて、
図12のステップS3では上記学習制御が正常に終了したか否かの判定を行う。この学習制御が正常に終了しているか否かの判定は、ステップS1での学習制御開始条件の成立判定と同じ条件をもって行い、正常終了と判定されたならば次のステップS4において先の第2クラッチCL2の指令油圧に関する学習値を新たな学習値として更新・記憶する。その一方、学習制御正常終了のためのいくつかの条件のうちいずれか一つでも条件を満たしていなければ先の学習制御は異常終了と判定し、ステップS9において第2クラッチCL2の指令油圧に関する学習値を更新することなく最初のステップS1に戻る。
【0097】
図12のステップS5では、上記のような学習制御正常終了を条件に、その都度、学習制御を実行した回数(学習回数)を計数しているカウンタのカウント値を一回分だけカウントアップする。ここでの学習回数のカウントは二種類に分けて個別に行うものとし、一つは学習制御を実行した回数(総学習回数)であり、もう一つは一回の走行中での学習回数とする。総学習回数はキースイッチをOFFにしてもカウント値をリセットせずに記憶しておく学習回数であり、一回の走行中での学習回数はキースイッチをONにしてからOFFまでの学習回数であり、キースイッチがOFFにされるとゼロリセットされることになる。したがって、上記のような学習制御正常終了を条件に総学習回数及び一回の走行中での学習回数共にそれぞれカウンタのカウント値が一回分だけカウントアップされることになる。
【0098】
図12のステップS6,S7では、先に実行された学習の収束判定を行う。ここで、上記学習の収束判定に際しては、第2クラッチCL2の個々の構成要素の製造誤差やばらつきを吸収するためのいわゆる初期ばらつき学習の収束判定と、第2クラッチCL2の個々の構成要素の経時的な劣化によるばらつきを吸収するためのいわゆる劣化ばらつき学習の収束判定とに分けて行うものとする。ステップS6での初期ばらつき学習の収束判定は、上記の総学習回数が予め設定してある所定回数(例えば5回)以上となった場合には、第2クラッチCL2の構成要素の個々の製造誤差やばらつき等のいわゆる初期ばらつきに起因する学習値が収束したものと判断し、次のステップS7の劣化ばらつき学習収束判定に移行する。その一方、上記の総学習回数が予め設定してある所定回数(例えば5回)未満の場合には、上記のようないわゆる初期ばらつきに起因する学習値が収束していないものと判断し、最初のステップS1に戻って収束するまで学習制御を繰り返す。
【0099】
図12のステップS7では、第2クラッチCL2の構成要素の使用による経時的ないわゆる劣化ばらつきに起因する学習値が収束しているか否かの判定として劣化ばらつき学習収束判定を行う。ここでの判定は、キースイッチがONした以降の一回の走行中での学習回数が予め設定した所定回数(例えば1回)以上となった場合には、いわゆる劣化ばらつき学習が収束したと判定し、次のステップS8に移行する。次のステップS8では、学習制御禁止フラグをONにして処理を終了する。なお、ここでの学習制御禁止フラグはキースイッチをOFFにすることでOFFとなる。
【0100】
その一方、キースイッチがONした以降の一回の走行中での学習回数が予め設定した所定回数(例えば1回)未満の場合には、いわゆる劣化ばらつき学習が収束していないと判定し、最初のステップS1に戻り、ステップS1以降でいわゆる初期ばらつき学習制御として実行した処理と同じ学習制御処理をいわゆる劣化ばらつき学習として繰り返し実行する。
【0101】
以上のような第2クラッチCL2の指令油圧に関する学習制御により、
図13の時刻t8において第2クラッチCL2の指令油圧が最新の学習値、すなわち第2クラッチCL2が伝達トルク容量を持ち始めるぎりぎりの限りなく零に近い値となるように当該第2クラッチCL2の指令油圧が設定され、且つその状態が維持されることになる。
【0102】
図12から明らかなように、第2クラッチCL2の指令油圧に関する学習制御処理は、初期ばらつき学習が収束するまで、すなわち初期ばらつき学習回数が5回以上となるまでは、学習制御条件が成立さえすればその都度初期ばらつき学習を実行することになるものの、初期ばらつき学習が収束したならば、すなわち初期ばらつき学習回数が5回以上となった場合には、それ以降はキースイッチがONしてからOFFするまでの1トリップにつき1回だけ初期ばらつき学習制御と同等の劣化ばらつき学習制御を行うことになる。これにより、初期ばらつき学習制御が収束した以降の学習回数が実質的に制限されて、その学習制御を実行する頻度を低下させることができることになる。
【0103】
〈バリエータの縦滑り変速制御〉
次に、
図1に示した自動変速機ATの主要素であるバリエータVの縦滑り変速制御について説明する。
図14はバリエータVの縦滑り変速制御のフローチャートであり、
図15は
図1に示したバリエータVの概略構造を示している。
【0104】
バリエータVの縦滑り変速制御の定義は先に述べたとおりであって、以下の各条件が成立していて初めて
図14の縦滑り変速制御処理が開始される。
【0105】
・停車中であること(車速が所定値以下)。
【0106】
・バリエータの変速比が最ロー位置(最LOW位置)よりもハイ側(HIGH側)にあること。
【0107】
・第2クラッチCL2の目標伝達トルクが所定値以下であること。
【0108】
・第2クラッチCL2の指令油圧に関するいわゆる初期ばらつき学習が収束していること。
【0109】
図14のステップS11では、停車中であるか否か、すなわち現在の車速が所定値以下であるか否かが判定され、現在の車速が所定値以下でない場合には本処理を終了する。続くステップS12では、バリエータVの現在の変速比が所定値以下であるか否か、すなわち現在の変速比が最ロー変速比位置よりもハイ側にあるか否かが判定され、現在の変速比が最ロー変速比位置よりもハイ側にない場合には本処理を終了する。ステップS13では、第2クラッチCL2の目標伝達トルクが所定値以下であるか否かが判定され、第2クラッチCL2の目標伝達トルクが所定値以下でない場合には本処理を終了する。
【0110】
さらに、
図14のステップS14では、
図12のステップS6の処理であるところの第2クラッチCL2の指令油圧に関するいわゆる初期ばらつき学習の収束判定結果がそのまま条件に加えられている。このステップS14では、
図12のステップS6と同様に、第2クラッチCL2の指令油圧に関するいわゆる初期ばらつき学習が収束しているか否かの判定がなされ、いわゆる初期ばらつき学習が収束していなければ本処理を終了する。こうして、
図14のステップS11からステップS14までの判定結果が全て「YES」であることを条件に、ステップS15においてバリエータVの縦滑り変速制御が実行される。
【0111】
図15は
図1に示したバリエータVの概略構造を示している。バリエータVは、プライマリプーリ32と、セカンダリプーリ42と、それら双方のプーリ32,42間に巻き掛けられた金属製のベルト50とから構成される。
【0112】
プライマリプーリ32は、固定シーブ33と、この固定シーブ33に対して軸方向に変位可能な可動シーブ34とからなり、可動シーブ34を軸方向に変位させるための油圧が供給される油室35が付帯している。固定シーブ33と可動シーブ34との間にはV字状の溝が形成され、溝幅は可動シーブ34を軸方向に変位させることによって変更することができる。プライマリプーリ32には入力軸36が接続されており、
図1に示したエンジンEやモータジェネレータGMからの回転駆動力が入力軸36および第2クラッチCL2を介して入力される。
【0113】
セカンダリプーリ42は、固定シーブ43と、この固定シーブ43に対して軸方向に変位可能な可動シーブ44とからなり、可動シーブ44を軸方向に変位させるための油圧が供給される油室45が付帯している。固定シーブ43と可動シーブ44との間にはV字状の溝が形成され、溝幅は可動シーブ44を軸方向に変位させることによって変更することができる。セカンダリプーリ42には出力軸46が接続されており、セカンダリプーリ42の回転力は出力軸46を介して
図1のプロペラシャフトPSへと伝達される。
【0114】
ベルト50は先に述べたようにプライマリプーリ32とセカンダリプーリ42との間に巻き掛けられていて、プライマリプーリ32からセカンダリプーリ42に回転を伝達する。
【0115】
縦滑り変速制御の実行開始にあたっては、
図14のステップS11からステップS14までの判定結果が全て「YES」であることが条件とされ、これらの条件が成立したならば、ATコントローラ7からの指令により、
図15のプライマリプーリ32側の油室35に供給される油圧であることろのプライマリ圧を下げる一方で、セカンダリプーリ42側の油室45に供給される油圧であるところのセカンダリ圧を上げて、ベルト50を双方のプーリ32,42に対して滑らせながらそれらのプーリ32,42の半径方向に変位させて最ロー変速比位置に強制的に戻す。そして、所定時間が経過するのを待って縦滑り変速制御を終了する。ここでの所定時間は、ベルト50が最ロー変速比位置に確実に戻るのに要する時間を考慮して設定される。
【0116】
この後、
図13の時刻t9において、運転者がブレーキペダルを離し、アクセルペダルが踏み込まれると、目標駆動トルクが上昇することから、それに応じて指令油圧が上昇する。このとき、第2クラッチCL2は先に述べたように伝達トルク容量を持ち始めるぎりぎりの値に制御されていて、しかもバリエータVは縦滑り変速制御が実行されて最ロー変速比に設定されているため、車両は即座に且つ滑らかに発進することができる。
【0117】
このように本実施の形態によれば、車両の停車中における第2クラッチCL2の指令油圧(いわゆるスタンバイ圧)の学習制御に際し、第2クラッチCL2の個々の構成要素の製造誤差やばらつきに起因する初期ばらつき吸収のための初期ばらつき学習が収束するまでは、学習条件が成立したならばその都度学習を行うものの、学習が収束した場合(本実施の形態では、総学習回数が5回以上となった場合)には、以降はキースイッチのONを条件に第2クラッチCL2の構成要素の劣化ばらつき吸収を目的とした劣化ばらつき学習制御を実質的に一回だけ行うようにしている。言い換えるならば、初期ばらつき学習が一旦収束した以降は、キースイッチをONにしてからOFFにするまでの1トリップにつき劣化ばらつき学習制御を一回だけ行うようにしている。
【0118】
これは、上記のようないわゆるスタンバイ圧学習制御には本来的は第2クラッチCL2の個々の構成要素の初期の製造誤差やばらつきを吸収するために行われているものであることから、初期ばらつき吸収のための学習が一旦収束した場合には、それ以降は短時間のうちに学習値が大きく変化することがないとの知見に基づいている。
【0119】
そのため、先の特許文献1に記載されたものと同様に、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を小さくすることができ、クラッチプレートの発熱や劣化等を抑制することができるとともに、発進時に伝達トルク容量の発生までのラグが生じることが無く、締結ショック等を回避することができることはもちろんのこと、第2クラッチCL2の油圧指令値に関する学習制御が一旦収束してしまえば、以降は学習回数を制限して学習制御を実行する頻度を低下させるようにしているので、エネルギーの消費を抑制できて、燃費の向上に寄与できることになる。
【0120】
また、最ロー変速比への戻し制御である縦滑り変速制御は、第2クラッチCL2の指令油圧に関するいわゆる初期ばらつき学習制御が収束したことを条件に実行されるため、想定しているよりも過大な入力トルクが作用した状態で縦滑り変速制御が行われることがない。そのため、ロー側への変速中にベルトがプーリに対し周方向に滑ることでベルトやプーリの耐久性が低下したり、あるいはクラッチが解放されすぎてしまうことに起因してその後のアクセル操作の応答性が悪化してしまうといった不具合の発生を未然に防止できることになる。
【0121】
ここで、本実施の形態では、初期ばらつき学習制御の収束判定条件として総学習回数を5回とし、劣化ばらつき学習制御の収束判定条件としてキースイッチON後の学習実行回数を1回としているが、これらの回数値はあくまで一例にすぎず、学習制御収束判定条件としての学習実行回数は任意に設定できることは言うまでもない。また、初期ばらつき学習制御の収束判定条件としての総学習実行回数に代えて、走行距離を用いることができるほか、学習値の偏差(前回の学習値と今回の学習値との差等)を用いることもできる。上記走行距離を用いる場合には、累積走行距離が予め設定した所定距離となったならば、初期ばらつき学習制御が収束したものと判定する。
【0122】
さらに、本実施の形態では、
図1に示したハイブリッド車両に適用した場合を例にとって説明したが、発進クラッチを備えた車両であれば、他のタイプの車両であっても同様に適用可能である。また、
図1ではFR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。さらに、本実施の形態では、「WSC走行モード」のときに車両停止時伝達トルク容量補正制御処理を行ったが、他のスリップ制御時、すなわちモータジェネレータが回転数制御されているときであれば同様に適用できる。