特許第6196877号(P6196877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6196877活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物及び当該組成物を用いた印刷の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196877
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物及び当該組成物を用いた印刷の方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20170904BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20170904BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20170904BHJP
【FI】
   C09D11/101
   C09D11/106
   C09D11/037
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-218451(P2013-218451)
(22)【出願日】2013年10月21日
(65)【公開番号】特開2015-81264(P2015-81264A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 圭之郎
(72)【発明者】
【氏名】臣 直毅
(72)【発明者】
【氏名】山本 周
(72)【発明者】
【氏名】下山 浩平
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−275174(JP,A)
【文献】 特開2002−363446(JP,A)
【文献】 特開昭50−052020(JP,A)
【文献】 特開2011−225754(JP,A)
【文献】 特開2012−211230(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/094863(WO,A1)
【文献】 特開2004−277688(JP,A)
【文献】 特開2012−201881(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0208914(US,A1)
【文献】 特開平05−271594(JP,A)
【文献】 特開2012−102217(JP,A)
【文献】 特開2005−154748(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/141117(WO,A1)
【文献】 特開平10−293398(JP,A)
【文献】 特開2005−179433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00−13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和結合を備えた化合物、光重合開始剤及び着色剤を含み、
前記エチレン性不飽和結合を備えた化合物の一部として、オキシプロピレン基を持たず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマーを含有し、
前記3官能モノマーの含有量が組成物全体に対して1質量%〜10質量%であり、前記着色剤として、電子顕微鏡により観察される一次粒子の平均粒径が40nm〜60nmである酸性のカーボンブラックを少なくとも含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物。
【請求項2】
前記3官能基モノマーが、トリメチロールプロパントリアクリレートである請求項記載の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物。
【請求項3】
エチレン性不飽和結合を備えた化合物、光重合開始剤及び着色剤を含む活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物を用いた印刷において、
前記エチレン性不飽和結合を備えた化合物の一部として、オキシプロピレン基を持たず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマーを前記組成物中に1質量%〜10質量%添加し、前記着色剤として、電子顕微鏡により観察される一次粒子の平均粒径が40nm〜60nmである酸性のカーボンブラックを少なくとも用いることを特徴とする、印刷物における水跡や濃度低下を抑制する方法。
【請求項4】
前記3官能モノマーが、トリメチロールプロパントリアクリレートである請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ組成物及び当該組成物を用いた印刷の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、油性であるオフセット印刷用インキ組成物(以下、「インキ組成物」又は「インキ」と適宜省略する。)が水に反発する性質を利用した印刷方式であり、凹凸を備えた印刷版を用いる凸版印刷方式とは異なり、親油性の画像部と親水性の非画像部とを備えた、凹凸のない印刷版を用いることを特徴とする。この印刷版を用いて印刷を行う場合、まず、湿し水を印刷版に接触させて非画像部の表面に水膜を形成させた後に、インキ組成物を印刷版に供給する。すると、供給されたインキ組成物は、水膜の形成された非画像部には反発して付着せず、親油性の画像部のみに付着する。こうして、印刷版の表面にインキ組成物による画像が形成され、次いでそれがブランケット及び紙に順次転移することにより印刷が行われる。
【0003】
オフセット印刷により得られた印刷物は、その表面に付着しているインキ組成物が十分に乾燥した状態とならなければ、印刷物を重ねた際に裏移りを生じたり、指で印刷物に触れた際にインキが付着したりするので、後工程に回したり、商品として流通させたりすることができない。したがって、オフセット印刷を行った後に、印刷物の表面に付着したインキ組成物を乾燥させる工程が必要となる。ここで、オフセット印刷方式におけるインキ組成物の乾燥方式としては、用いるインキ組成物の種類に応じて、酸化重合、蒸発、浸透及び光重合といった4種を挙げることができる。
【0004】
これらの方式のうち、浸透によりインキ組成物を乾燥させる方式は、印刷物の表面に付着したインキ組成物に含まれる油成分を印刷物の内部に浸透させて表面乾燥を得る方式であり、比較的高速に乾燥状態を得ることができる。しかしながら、この乾燥方式では、印刷物の表面においてインキ組成物が広がって網点が太る傾向があるのに加え、光沢紙のような油成分の浸透の遅い用紙への印刷に向かないため、製品パッケージやカタログ等のように高い美粧性が要求される分野への適用に向かない。また、蒸発によりインキ組成物を乾燥させる方式は、大気中へVOC(揮発性有機化合物)を放出させて環境汚染を生じる一因にもつながるため、あまり採用されない。
【0005】
このような観点から、高い美粧性を要求される印刷物を得るに際しては、酸化重合によりインキ組成物を乾燥させる方式が採用される傾向にある。この乾燥方式にて用いられるインキ組成物では、桐油や亜麻仁油等といったヨウ素価の高い不飽和油が油成分として用いられており、空気中に含まれる酸素によってこれらの不飽和油を酸化重合させてべとつきのない(すなわち乾燥した)皮膜を形成させる。酸化重合によりインキ組成物を乾燥させる方式によれば、印刷物の内部に油成分を浸透させたり大気中へVOCを放出させたりする過程が存在しないので、高い美粧性を備えた印刷物を低い環境負荷で得ることができる。しかしながら、不飽和油を酸化重合させる化学反応には比較的多くの時間を要するので、印刷物の乾燥不良による問題を生じる可能性も存在する。
【0006】
以上の背景から、印刷後の印刷物に紫外線を照射して乾燥を得る光重合乾燥方式による印刷が近年盛んに行われつつある。この乾燥方式にて用いられる活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ組成物には、エチレン性不飽和結合を備えたモノマーやオリゴマーと、紫外線や電子線等といった活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生させる光重合開始剤とが含まれ、印刷後に活性エネルギー線を照射することによって、これらが瞬時に重合してべとつきのない(すなわち乾燥した)皮膜を形成させる。このような乾燥方式を採用するインキ組成物は、近年、様々な組成を有するものが提案されている(例えば、特許文献1、2等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−102217号公報
【特許文献2】特許第4649952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光重合乾燥方式で乾燥させる活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物は、その他の乾燥方式で乾燥させるインキ組成物よりも歴史が浅く、それを構成する素材は未だに発展段階にあるといえる。特に、インキ組成物に乳化性能等といった各種の印刷適性を与える樹脂成分については、上記モノマーやオリゴマーとの相溶性を得るとの観点から、インキ組成物用として長年用いられてきたフェノール樹脂等のように適度の乳化性を備えた高分子量のものを用いることができず、これまでのインキ組成物で用いてきたものとは異なる種類で、かつ比較的低分子量のものを採用せざるを得なく、乳化特性等といった各種の印刷適性を得るための設計見直しを余儀なくされているのが現状である。
【0009】
このような問題の一つとして、例えば乳化特性に注目すれば、光重合乾燥方式とは異なる従来のインキ組成物における印刷時の水幅と、光重合乾燥方式であるインキ組成物における印刷時の水幅とが大きく異なることが挙げられる。樹脂成分が比較的低分子量であり、かつ疎水性が高めな材料を多く含む光重合乾燥方式のインキ組成物では、供給された湿し水がインキ組成物中に乳化しづらい傾向となり、従来のインキ組成物と同様の条件で印刷すると印刷ローラーや印刷版上に存在するインキ組成物の皮膜の表面に湿し水が浮いた状態となりがちである。このような状態で印刷を行うと、インキ組成物の転移不良を生じたり印刷紙面への水跡を生じたりして、製品である印刷物の不良につながることになる。
【0010】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、改善された乳化特性を示し、良好な印刷適性を備えた活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ組成物、及びその組成物を用いた、印刷物における水跡や濃度低下を抑制する印刷の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物に含有させるエチレン性不飽和結合を備えた化合物の一部として、オキシプロピレン基を持たず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた(すなわち3官能である)特定のモノマーを用いることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
本発明は、エチレン性不飽和結合を備えた化合物、光重合開始剤及び着色剤を含み、上記エチレン性不飽和結合を備えた化合物の一部として、オキシプロピレン基を持たず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマーを含有し、上記3官能モノマーの含有量が組成物全体に対して1質量%〜10質量%であり、上記着色剤として、電子顕微鏡により観察される一次粒子の平均粒径が40nm〜60nmである酸性のカーボンブラックを少なくとも含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物である。
【0014】
上記3官能モノマーは、トリメチロールプロパントリアクリレートであることが好ましい。
【0015】
本発明は、エチレン性不飽和結合を備えた化合物、光重合開始剤及び着色剤を含む活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物を用いた印刷において、上記エチレン性不飽和結合を備えた化合物の一部として、オキシプロピレン基を持たず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマーを上記組成物中に1質量%〜10質量%添加し、上記着色剤として、電子顕微鏡により観察される一次粒子の平均粒径が40nm〜60nmである酸性のカーボンブラックを少なくとも用いることを特徴とする、印刷物における水跡や濃度低下を抑制する方法でもある。
【0017】
上記3官能モノマーが、トリメチロールプロパントリアクリレートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、改善された乳化特性を示し、良好な印刷適性を備えた活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ組成物、及びその組成物を用いた、印刷物における水跡や濃度低下を抑制する印刷の方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物の一実施形態、及び上記組成物を用いた、印刷物における水跡や濃度低下を抑制する方法の一実施態様について説明する。
【0020】
<活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物>
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物は、オフセット印刷に適用されるインキ組成物であり、紫外線や電子線等の活性エネルギー線の照射を受けて硬化する能力を備える。より具体的には後述するように、本発明の印刷インキ組成物は、エチレン性不飽和結合を備えた化合物(モノマー、オリゴマー等)と光重合開始剤とを含有し、活性エネルギー線の照射を受けた際に光重合開始剤から生じたラジカルがモノマー、オリゴマー等を高分子量化させることで、硬化する。そのため、印刷直後に印刷物の表面でべたついているインキ組成物に活性エネルギー線が照射されると、瞬時にこのインキ組成物が硬化してフィルム状となり、乾燥(タックフリー)状態となる。
【0021】
本発明のインキ組成物を硬化させるために用いる活性エネルギー線は、後述する光重合開始剤における化学結合を開裂させてラジカルを生じさせるものであればよい。このような活性エネルギー線としては、紫外線、電子線等が例示される。これらの中でも、装置のコストや扱いやすさという観点からは、紫外線が活性エネルギー線として好ましく例示される。活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、その波長は、後述する光重合開始剤の吸収波長に合わせて適宜決定されればよいが、380nm以下を挙げることができる。このような紫外線を発生させる紫外線照射装置としては、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、希ガスを封入したエキシマランプ、紫外線発光ダイオード(LED)等を挙げることができる。
【0022】
本発明のインキ組成物は、エチレン性不飽和結合を備えた化合物、光重合開始剤及び着色剤を含む。以下、各成分について説明する。
【0023】
[エチレン性不飽和結合を備えた化合物]
エチレン性不飽和結合を備えた化合物は、後述する光重合開始剤より生じたラジカルによって重合して高分子量化する成分であり、モノマーやオリゴマー等と呼ばれる成分である。また、オリゴマーよりもさらに高分子量であるポリマーについてもエチレン性不飽和結合を備えたものが各種市販されている。このようなポリマーも上記モノマーやオリゴマーによって、又は当該ポリマー同士によって架橋されて高分子量化することができる。そこで、こうしたポリマーを、上記モノマーやオリゴマーとともにエチレン性不飽和結合を備えた化合物として用いてもよい。
【0024】
モノマーは、エチレン性不飽和結合を有し、上記のように重合して高分子量化する成分であるが、重合する前の状態では比較的低分子量の液体成分であることが多く、樹脂成分を溶解させてワニスとする際の溶媒とされたり、印刷インキ組成物の粘度を調節したりする目的にも用いられる。モノマーとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を1つ備える単官能モノマーや、分子内にエチレン性不飽和結合を2つ以上備える2官能以上のモノマーが挙げられるが、本発明では、特に、オキシプロピレン基をもたず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマー(以下、このモノマーを「特定モノマー」とも呼ぶ。)を所定の濃度でインキ組成物に含有させる点に特徴がある。
【0025】
特定モノマーは、インキ組成物中に1質量%〜10質量%の範囲で用いられる。特定モノマーは、エチレン性不飽和結合を備える点で通常のモノマーと同様であるので、光重合開始剤の存在下で重合成分としての役割を果たすものではある。しかしながら、通常、重合成分として用いられるモノマーは、活性エネルギー線の照射を受けた際の主要な硬化成分となるので、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物には相当の量が添加されるのが一般的である。この点で、本発明における特定モノマーの添加量はモノマーの添加量としてはかなり少ないものであり、本発明では、こうした少ない添加量で添加された特定モノマーを重合成分として用いるのと同時に、添加剤のように用いる点に特徴がある。
【0026】
このような方法で特定モノマーを用いる理由は、上記特定モノマーが、意外にも、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物における乳化特性を著しく改善させる能力を備えることを本発明者らが見出したためである。既に述べたように、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物を用いて印刷を行う場合、供給された湿し水がインキ組成物の中へ乳化しづらいために印刷ローラーや印刷版上に存在するインキ組成物の皮膜の表面に浮いた状態となりがちであり、そのような状態で印刷を行うと、インキ組成物の転移不良や印刷紙面への水跡の発生につながる場合がある。本発明者らは、この現象を改善すべく鋭意検討を進めた結果、この現象が、インキ組成物と湿し水との乳化混合物である乳化インキが印刷機上のローラーで練られて乳化破壊を生じ、次いでこの乳化インキから湿し水が分離されることによって引き起こされることを突き止め、インキ組成物に用いる成分をより親水性の高いものにすればよいことを知見した。
【0027】
しかしながら、用いる材料の親水性を向上させるために、例えば水酸基や酸性基といった親水性の置換基を備えた化合物をインキ組成物の材料として単に採用するのでは、今度はインキ組成物の乳化が過剰に進んでしまうために、印刷版上の非画線部への湿し水の供給が不足することに伴う汚れの発生につながりかねない。そこで、本発明者らは、インキ組成物が過剰な親水性を示さずに適度な乳化特性を示すようになるための成分として、オキシプロピレン基を持たず1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマー(すなわち特定モノマー)が有効であることを見出し、これをインキ組成物全体に対して1質量%〜10質量%の範囲という、モノマーというよりも添加剤的な範囲の使用量で用いることで上記の問題を解決した。
【0028】
上記特定モノマーがインキ組成物の乳化特性を改善させる理由は必ずしも明らかでない。ただ、本発明者らの検討によれば、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物の調製によく用いられる、グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA;下記化学式(1))やトリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA;下記化学式(2))等のようなプロピレンオキシドが付加されたモノマー(すなわちオキシプロピレン基を有するモノマー)は、インキ組成物の乳化安定性を低下させる傾向があり、これを持たない上記特定モノマーを採用するとインキ組成物の乳化安定性が向上する結果となった。なお、下記化学式1及び2において、理解を助けるためにオキシプロピレン基に対応する部分を破線の四角形で囲んでいる。特定モノマーのインキ組成物中への添加量は、インキ組成物の全体に対して、2質量%〜8質量%が好ましく、2質量%〜6質量%がより好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
上記特定モノマーとしては、特に、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO(エチレンオキシド)変性グリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート等を好ましく例示することができる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリアクリレートがより好ましい。上記特定モノマーは、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記特定モノマーに加えて、特定モノマーでないモノマーやオリゴマー、あるいはポリマーといったエチレン性不飽和結合を備えた化合物をインキ組成物に加えてもよい。この場合であっても、特定モノマーが乳化特性を向上させる添加剤的な役割を果たすので、本発明所定の効果を得ることができる。
【0032】
特定モノマーでないモノマーとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を1つ備える単官能モノマーや、分子内にエチレン性不飽和結合を2つ以上備える2官能以上のモノマーが挙げられる。2官能以上のモノマーは、印刷インキ組成物が硬化するのに際して分子と分子とを架橋することができるので、硬化速度を速めたり、強固な皮膜を形成させたりするのに寄与する。単官能のモノマーは、上記のような架橋能力を持たない反面、架橋に伴う硬化収縮を低減させるのに寄与する。これらのモノマーは、必要に応じて各種のものを組み合わせて用いることができる。
【0033】
単官能モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等のアルキルアクリレート、(メタ)アクリル酸、エチレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンモノメチロール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、アクリオロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレート、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等を挙げることができる。これらの単官能モノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味する。
【0034】
2官能以上のモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオ−ルジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールオクタンジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2,4−ペンタンジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオ−ルジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールオクタンジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレートトリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールFテトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノーAジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチレンオキサイド付加体ジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFテトラエチレンオキサイド付加体ジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート等の2官能モノマー;グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリカプロラクトネートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールヘキサントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート等の3官能モノマー;トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールブタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールオクタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールポリアルキレンオキサイドヘプタ(メタ)アクリレート等の4官能以上のモノマー;等を挙げることができる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA;3官能)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DITMPTA;4官能)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA;6官能)、グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA;3官能)、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA;2官能)等を好ましく挙げることができる。これらの2官能以上のモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
オリゴマーは、上記のように重合して高分子量化する成分であるが、比較的高分子量の成分であるので、インキ組成物に適度な粘性や弾性を付与する目的にも用いられる。オリゴマーとしては、エポキシ樹脂等といったエポキシ化合物に含まれるエポキシ基を酸や塩基で開環させた後に生じる水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステルに例示されるエポキシ変性(メタ)アクリレート、ロジン変性エポキシアクリレート、二塩基酸とジオールとの縮重合物の末端水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステルに例示されるポリエステル変性(メタ)アクリレート、ポリエーテル化合物の末端水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステルに例示されるポリエーテル変性(メタ)アクリレート、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との縮合物における末端水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステルに例示されるウレタン変性(メタ)アクリレート等を挙げることができる。このようなオリゴマーは市販されており、例えば、ダイセル・サイテック株式会社製のエベクリルシリーズ、サートマー社製のCN、SRシリーズ、東亜合成株式会社からアロニックスM−6000シリーズ、7000シリーズ、8000シリーズ、アロニックスM−1100、アロニックスM−1200、アロニックスM−1600、新中村化学工業株式会社からNKオリゴ等の商品名で入手することができる。これらのオリゴマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
エチレン性不飽和結合を備えたポリマーは、上述のモノマーやオリゴマーとともに高分子量化する成分であり、インキ組成物の粘弾性の向上に役立つ成分である。このようなポリマーは、例えば、低粘度の液体であるモノマー中に溶解又は分散された状態で用いられる。エチレン性不飽和結合を備えたポリマーとしては、ポリジアリルフタレート、未反応の不飽和基を備えたアクリル樹脂、アクリル変性フェノール樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、ポリジアリルフタレートは、上記モノマーやオリゴマーとの相溶性が特に優れているので好ましく用いることができる。
【0037】
印刷インキ組成物中における、エチレン性不飽和結合を備えた化合物の含有量は、30〜80質量%が好ましく、40〜75質量%がより好ましく、50〜70質量%がさらに好ましい。エチレン性不飽和結合を備えた化合物の含有量が上記の範囲であることにより、良好な硬化性と良好な印刷適性とを両立できる。また、上記モノマーとオリゴマーとの比率は、質量比で、モノマー:オリゴマー=4:1〜1:1が好ましく、モノマー:オリゴマー=3:1〜1:1がより好ましく、モノマー:オリゴマー=2:1〜1:1がさらに好ましい。モノマーとオリゴマーとの比率が上記の範囲であることにより、良好な硬化性と印刷適性とを両立できる。また、エチレン性不飽和結合を備えたポリマーの含有量としては、5〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。ポリマーの含有量が上記の範囲であることにより、インキ組成物に適度な粘弾性を付与してミスチング等の発生を抑制できるとともに、インキ組成物の良好な硬化性を確保することができるので好ましい。
【0038】
[光重合開始剤]
光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射を受けてラジカルを発生させる成分であり、生じたラジカルが上記エチレン性不飽和結合を備えた化合物を重合させ、印刷インキ組成物を硬化させる。光重合開始剤としては、活性エネルギー線が照射された際にラジカルを生じさせるものであれば特に限定されない。
【0039】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4,4−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジエチルチオキサントン、2−メチル−1−(4−メチルチオ)フェニル−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス−2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンジル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルホリノフェニル)−ブタン−1−オンが挙げられる。このような光重合開始剤は市販されており、例えばBASF社からイルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア184、イルガキュア379、イルガキュア819、TPO等、Lamberti社からDETX等の商品名で入手することができる。これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
印刷インキ組成物中における光重合開始剤の含有量としては、1〜20質量%が好ましく挙げられ、3〜15質量%がより好ましく挙げられ、5〜13質量%がさらに好ましく挙げられる。印刷インキ組成物中における光重合開始剤の含有量が上記の範囲であることにより、印刷インキ組成物の十分な硬化性と、良好な内部硬化性やコストとを両立できるので好ましい。
【0041】
なお、上記の光重合開始剤に加えて、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N−ジメチルベンジルアミン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のアミン化合物を増感剤として添加してもよい。増感剤を添加する場合、光重合開始剤と増感剤との比率として、光重合開始剤:増感剤=1:0.1〜1:1程度を挙げることができる。
【0042】
[着色剤]
着色剤は、インキ組成物に着色力を付与するために添加される成分であり、主として着色顔料である。着色顔料としては、従来から印刷インキ組成物に使用されている有機及び/又は無機顔料を特に制限無く挙げることができる。
【0043】
このような着色顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー14、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料等が例示される。
【0044】
ところで本発明者らの検討によれば、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物における印刷適性は、着色顔料としてカーボンブラックを含有するブラックインキ組成物にて顕著に不足する傾向にある。そして、これを改善するには、電子顕微鏡により観察される一次粒子の平均粒径が40nm〜60nmである酸性のカーボンブラックを着色顔料として用いることが好ましいことが判明した。このような粒径範囲となるカーボンブラックは、通常用いられるカーボンブラックの粒径よりもやや大きいものとなる。そのようなカーボンブラックが好ましく用いられる理由は次のようなものであると考えられる。すなわち、通常用いられる粒径の小さなカーボンブラックは、その粒径の細かさゆえにインキ組成物中にて凝集力が強く、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物で用いられるような分散能の低いビヒクル中では分散状態を維持しがたい状況にあると考えられる。そのような状況においてインキ組成物中に湿し水が取り込まれると、カーボンブラックが一気に凝集してインキ組成物の転移性が損なわれてしまい、印刷版に供給されるインキ組成物の量が低下して大幅な濃度低下が生じるというものである。
【0045】
酸性カーボンブラックの電子顕微鏡で観察される一次粒子径は、40nm以上であることにより良好な分散性を確保できるので好ましく、60nm以下であることにより十分な着色力を得ることができるので好ましい。なお、酸性カーボンブラックは、酸化処理を施す等の手段によってカーボンブラックの粒子表面にカルボキシル基やフェノール性水酸基等の酸性置換基が導入されたものであり、各社から市販されているものを用いることができる。
【0046】
着色顔料の含有量としては、印刷インキ組成物の全体に対して8〜30質量%程度が例示されるが、特に限定されない。なお、イエロー顔料を使用してイエローインキ組成物を、マゼンタ顔料を使用してマゼンタインキ組成物を、シアン顔料を使用してシアンインキ組成物を、黒色顔料を使用してブラックインキ組成物をそれぞれ調製する場合には、補色として、他の色の顔料を併用したり、他の色のインキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0047】
[その他の成分]
本発明のインキ組成物には、上記の各成分に加えて、他の成分を必要に応じて添加することができる。このような成分としては、体質顔料、樹脂成分、重合禁止剤、分散剤、リン酸塩等の塩類、ポリエチレン系ワックス・オレフィン系ワックス・フィッシャートロプシュワックス等のワックス類、アルコール類、植物油や鉱物油等の油成分等が挙げられる。
【0048】
体質顔料は、インキ組成物に適度な印刷適性や粘弾性等の特性を付与するための成分であり、通常のオフセット印刷用インキ組成物で用いられる各種のものを用いることができる。このような体質顔料としては、クレー、カオリナイト(カオリン)、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素(シリカ)、ベントナイト、タルク、マイカ、酸化チタン等が例示される。こうした体質顔料の添加量としては、インキ組成物全体に対して0〜33質量%程度が例示されるが、特に限定されない。
【0049】
樹脂成分は、インキ組成物に適度な印刷適性や粘弾性等の特性を付与するのに寄与する成分である。このような樹脂成分としては、従来から印刷用のインキ組成物用途に用いられてきた各種の樹脂を挙げることができるが、上記モノマーやオリゴマーとの相溶性を有するものであることが好ましく、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性石油樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、植物油変性アルキド樹脂、石油樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、スチレン−アクリル樹脂は、上記モノマーやオリゴマーとの相溶性が特に優れているので好ましく用いることができる。
【0050】
スチレン−アクリル樹脂は、スチレンとアクリル酸エステルとの共重合体であり、市販のものを各種用いることができる。スチレン−アクリル樹脂を用いる場合、固形であるスチレン−アクリル樹脂を上記モノマーに溶解させてワニスとし、それをインキ組成物の調製の際に添加して用いるのが簡便である。この場合、ワニス中におけるスチレン−アクリル樹脂の含有量としては、ハンドリング性等を考慮して適宜決定されればよいが、一例として5〜50質量%程度を挙げることができる。
【0051】
インキ組成物中の樹脂成分の含有量は、5〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、5〜10質量%がさらに好ましい。樹脂成分の含有量が上記の範囲であることにより、インキ組成物に適度な粘弾性を付与してミスチング等の発生を抑制できるとともに、インキ組成物の良好な硬化性を確保することができるので好ましい。
【0052】
重合禁止剤としては、ブチルヒドロキシトルエン等のフェノール化合物や、酢酸トコフェロール、ニトロソアミン、ベンゾトリアゾール、ヒンダードアミン等を好ましく例示することができ、中でもブチルヒドロキシトルエンをより好ましく例示することができる。インキ組成物にこのような重合禁止剤が添加されることにより、保存時に重合反応が進行してインキ組成物が増粘するのを抑制できる。インキ組成物中の重合禁止剤の含有量としては、0.1〜1質量%程度を例示することができる。
【0053】
分散剤は、インキ組成物中に含まれる着色剤や体質顔料を良好な状態に分散させるために用いられる。このような分散剤は、各種のものが市販されており、例えばビックケミー・ジャパン株式会社製のDISPERBYK(商品名)シリーズ等を挙げることができる。
【0054】
上記の各成分を用いて本発明のインキ組成物を製造するには、従来公知の方法を適用できる。このような方法としては、上記の各成分を混合した後にビーズミルや三本ロールミル等で練肉して顔料(すなわち着色剤及び体質顔料)を分散させた後、必要に応じて添加剤(重合禁止剤、アルコール類、ワックス類等)を加え、さらに上記モノマー成分や油成分の添加により粘度調整することが例示される。インキ組成物における粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が10〜60Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【0055】
<印刷物における水跡や濃度低下を抑制する方法>
本発明は、印刷物における水跡や濃度低下を抑制する方法(以下、「本発明の方法」とも呼ぶ。)でもある。本発明の方法は、上記本発明の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物を用いた印刷方法であり、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物を用いた印刷にてしばしば観察される、印刷物における水跡や濃度低下を抑制するものである。既に述べたように、上記本発明のインキ組成物は、印刷の際に用いられる湿し水に対する乳化安定性に優れるので、印刷ローラーや印刷版上に存在するインキ組成物の皮膜の表面に湿し水が分離して浮いた状態となるのが抑制される。そのため、本発明の方法によれば、従来の活性エネルギー線硬化型のインキ組成物を用いて印刷を行った場合と比較して、インキ組成物の表面に湿し水が分離して浮いた状態となることに起因して生じるインキ組成物の転移不良に伴う濃度低下や印刷紙面への水跡の発生が抑制される。
【0056】
本発明の方法は、エチレン性不飽和結合を備えた化合物、光重合開始剤及び着色剤を含む活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物を用いた印刷において、上記エチレン性不飽和結合を備えた化合物の一部として、オキシプロピレン基を持たず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマーを上記組成物中に1質量%〜10質量%添加することを特徴とする、印刷物における水跡や濃度低下を抑制する方法である。ここで、本発明の方法で用いられる活性エネルギー線硬化型オフセット印刷用インキ組成物は、既に説明した本発明のインキ組成物と同じものである。既に述べたように、オキシオプロピレン基を持たず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマー(上述の特定モノマー)は、インキ組成物が過剰な親水性を示さずに適度な乳化特性を示すようになるための成分として有効であり、これをインキ組成物全体に対して1質量%〜10質量%の範囲で用いるところが本発明のポイントである。このことについての詳細は既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【0057】
また、既に述べたように、活性エネルギー線硬化型のインキ組成物における印刷適性は、着色顔料(すなわち着色剤)としてカーボンブラックを含有するブラックインキ組成物にて顕著に不足する傾向がある。このようなブラックインキ組成物における弊害を抑制するために、本発明では、上記着色顔料(すなわち着色剤)として、電子顕微鏡により観察される一次粒子の平均粒径が40nm〜60nmである酸性のカーボンブラックを少なくとも用いることが好ましい。このことについての詳細も既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【0058】
また、上記3官能モノマー(すなわち特定モノマー)としては、トリメチロールプロパントリアクリレートがより好ましく用いられる。このことについての詳細も既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明のインキ組成物をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0060】
[ワニス]
市販のポリジアリルフタレート(ダイソー株式会社製、商品名:ダイソーダップ DAP−A)40質量部と、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DITMPTA)60質量部とを混合しながら100℃に加熱して樹脂を溶解させ、ワニスを得た。
【0061】
[インキ組成物の調製]
上記ワニス、炭酸カルシウム(白石カルシウム株式会社製、商品名:白艶華DD)、カーボンブラックA(酸性、電子顕微鏡で観察される平均一次粒子径48nm、キャボット社製、商品名:MOGUL E)、カーボンブラックB(中性、電子顕微鏡で観察される平均一次粒子径48nm、キャボット社製、商品名:REGAL 350R)、カーボンブラックC(酸性、電子顕微鏡で観察される平均一次粒子径26nm)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA)、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名:イルガキュア907)、光増感剤(4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン)及びポリエチレンワックス(Lubrizol社製、商品名:Pinnacle1555)を表1及び表2に示す配合にて混合した後、三本ロールミルにて練肉し、実施例1〜6、及び比較例1のインキ組成物を調製した。なお、表1に示した配合量は質量部である。
【0062】
[印刷評価]
三菱ダイヤ菊半裁枚葉印刷機1−E(三菱重工業株式会社製)により実印刷を行って、湿し水を増量したときの濃度の低下状態について評価を行った。印刷条件は、印刷速度を11,000枚/時とし、最初の500枚を通常の湿し水量(水ダイヤル:600)、その後の500枚を通常よりも多い湿し水量(水増;水ダイヤル:800)として印刷した。通常の湿し水量における最後の10部と、水増における最後の10部を採取し、それぞれについてベタ部の濃度平均を算出し、通常の湿し水量から水増としたときの濃度の低下割合(%)を算出した。評価基準を下記の4段階とし、表1及び表2に評価結果を記載した。
◎:濃度の低下割合が3%未満である
○:濃度の低下割合が3%以上8%未満である
△:濃度の低下割合が8%以上13%未満である
×:濃度の低下割合が13%以上である
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1及び表2より明らかなように、オキシプロピレン基を持たず、1分子中に3個のエチレン性不飽和結合を備えた3官能モノマーであるTMPTAを1〜10質量%の範囲で含む実施例1〜6では、オキシプロピレン基を有し3官能モノマーであるGPTAのみを含む比較例1よりも湿し水を増加させたときの濃度変化が小さいことがわかる。また、着色剤として用いたカーボンブラックについては、実施例1、5及び6の対比結果から、一次粒子の平均粒径が40nm〜60nmである酸性カーボンブラックを用いることにより、より良好な結果となることがわかる。