特許第6196901号(P6196901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196901
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】既設構造物を補強する工法および構造物
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20170904BHJP
【FI】
   E02B3/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-263566(P2013-263566)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-117563(P2015-117563A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武末 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】原 基久
【審査官】 小池 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−236657(JP,A)
【文献】 実開昭62−055640(JP,U)
【文献】 特開平06−220856(JP,A)
【文献】 特開2004−244983(JP,A)
【文献】 米国特許第04728225(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04−3/14
E02D 5/00−5/20
E02D 17/00−17/20,29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体と、前記壁体の背面と対向するように設けられた控え版と、前記壁体と前記控え版とをつなぐタイ材とを備えた既設構造物を補強する工法であって、
前記控え版を前面側に引っ張る方向に作用する前記タイ材に発生する張力に抗するように、前記壁体の背面と、前記控え版の前記壁体の背面と対向する前面との間に杭を設けるステップと、
杭を設けるステップにおいて設けられた杭と前記控え版の前記前面との間の地盤に改良体を形成するステップと
を備えた工法。
【請求項2】
壁体と、前記壁体の背面と対向するように設けられた控え版と、前記壁体と前記控え版とをつなぐタイ材とを備えた既設構造物を補強する工法であって、
前記壁体の背面と、前記控え版の前記壁体の背面と対向する前面との間の地盤に改良体を形成するステップと、
前記控え版を前面側に引っ張る方向に作用する前記タイ材に発生する張力に抗するように、前記壁体の背面と、前記改良体を形成するステップにおいて形成された改良体との間に杭を設けるステップと
を備えた工法。
【請求項3】
壁体と、
前記壁体の背面と対向するように設けられた控え版と、
前記壁体と前記控え版とをつなぐタイ材と、
前記控え版を前面側に引っ張る方向に作用する前記タイ材に発生する張力に抗するように、前記壁体の背面と、前記控え版の前記壁体の背面と対向する前面との間に設けられた杭と、
前記杭と前記控え版の前記前面との間の地盤に形成された改良体と
を備えた構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸および岸壁の補強技術に関する。
【背景技術】
【0002】
護岸や岸壁の安定を高める構造物である控え工として控え版を用いたものが知られている。この構造物は、壁体と、壁体の背面(本願において、壁体からみて岸側の地盤に向かう方向を後方とし、壁体等の有する2つの面のうち後方側の面を「背面」、前方側の面を「前面」とする)と対向するように設けられた控え版と、壁体と控え版とをつなぐタイ材とを備える。壁体はその背面に土圧を受け、タイ材の張力が土圧に抵抗することによって壁体が支持される。基準類の改定による要求性能の変更、構造物の老朽化、岸壁水深の増深等の使用状況の変化などに伴い、既設の控え工では耐力が不足する場合がある。また、控え版は根入れが無いため、控え版の設置された範囲全体が液状化すると控え版の耐力がほとんど無くなってしまうこともある。そのため、上記のような既設の控え工を伴う護岸や岸壁を補強する工法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された工法では、既設控え工に沿わせてその近傍に適宜間隔を空けて複数の鋼管を所定深度まで立て込み、立て込んだ鋼管内部の所定高さ位置に削孔機を設置して、鋼管内部から既設矢板壁に向けて削孔を形成するとともに、削孔内に鋼管側から新設のタイ材を挿通設置してタイ材の両端をそれぞれ鋼管と既設矢板壁とに止着し、新設のタイ材の止着後に鋼管内にコンクリートを充填する。
【0004】
特許文献2に記載された工法では、護岸矢板と控え矢板との間の軟弱地盤の施工位置に、タイロッドより下方へ機械式撹拌機の撹拌翼軸を挿入できる深さの溝または孔を形成し、撹拌翼をタイロッドと接触しない向きに調整した撹拌翼軸を溝底または孔底へ着底させ、軟弱地盤を改良処理して地盤改良杭を形成した後、撹拌翼軸を引き揚げ、次なる施工位置で撹拌翼軸を溝底または孔底へ降ろし、地盤改良杭をラップ型として造成する。この改良処理を、タイロッド群の配置を横断する方向と平行な方向に繰り返して、平面視が格子状の地盤改良壁構造を構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−107276号公報
【特許文献2】特開2007−332713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既設または新設の控え版にタイ材を新設する工法では、工程が複雑になるとともに、新設のタイ材に導入する張力の大きさによっては既設控え版の耐力が有効利用されない。護岸や岸壁の背面側を地盤改良する工法では、改良部が非改良部の土圧によって滑動しないように改良範囲を広くする必要があるため、コストが嵩む。
そこで、本発明は、既設控え版を伴う護岸および岸壁を、既設控え版の耐力を有効利用するとともに低コストで補強する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、壁体と、前記壁体の背面と対向するように設けられた控え版と、前記壁体と前記控え版とをつなぐタイ材とを備えた既設構造物を補強する工法であって、前記控え版を前面側に引っ張る方向に作用する前記タイ材に発生する張力に抗するように、前記壁体の背面と、前記控え版の前記壁体の背面と対向する前面との間に杭を設けるステップと、杭を設けるステップにおいて設けられた杭と前記控え版の前記前面との間の地盤に改良体を形成するステップとを備えた工法を提供する。
また、本発明は、壁体と、前記壁体の背面と対向するように設けられた控え版と、前記壁体と前記控え版とをつなぐタイ材とを備えた既設構造物を補強する工法であって、前記壁体の背面と、前記控え版の前記壁体の背面と対向する前面との間の地盤に改良体を形成するステップと、前記控え版を前面側に引っ張る方向に作用する前記タイ材に発生する張力に抗するように、前記壁体の背面と、前記改良体を形成するステップにおいて形成された改良体との間に杭を設けるステップとを備えた工法を提供する。
また、本発明は、壁体と、前記壁体の背面と対向するように設けられた控え版と、前記壁体と前記控え版とをつなぐタイ材と、前記控え版を前面側に引っ張る方向に作用する前記タイ材に発生する張力に抗するように、前記壁体の背面と、前記控え版の前記壁体の背面と対向する前面との間に設けられた杭と、前記杭と前記控え版の前記前面との間の地盤に形成された改良体とを備えた構造物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、既設控え版を伴う護岸および岸壁を、既設控え版の耐力を有効利用するとともに低コストで補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】既設構造物の水平方向の断面図。
図2図1におけるI―I断面図。
図3】補強後構造物の水平方向の断面図。
図4図3におけるII―II断面図。
図5】地盤改良の範囲を示す図。
図6】地盤改良の範囲を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態の一例について説明する。
最初に、補強の対象となる既設構造物について説明する。図1は、既設構造物を、当該既設構造物が備える複数のタイ材3(後述)のいずれか1本の軸を含む面で鉛直方向に切った断面図である。図2は、図1におけるI―I断面図である。この既設構造物は、既設の控え工を伴う護岸または岸壁であり、護岸または岸壁の本体を構成する壁体1と、壁体1の背面と対向するように設けられた控え版2と、壁体1と控え版2とをつなぐ複数のタイ材3とを備えている。
【0011】
壁体1は、例えば、複数の鋼矢板を連結して構成された土留である。壁体1の背面は、岸側の地盤に接し、壁体1の下端は、水底よりも深く根入れされている。壁体1の前面は、少なくともその下方の一部が海洋、湖沼、河川などに面している。壁体1の上端には、鉄筋コンクリートなどで形成された上部工4が設けられている。なお、壁体1は、鋼管矢板や鉄筋コンクリート版などで構成されていてもよい。岸側の地盤は、埋立土または自然の地盤である。
【0012】
控え版2は、例えば、場所打ちの鉄筋コンクリート構造の版であり、その下端は底版5で支持されている。控え版2は、壁体1の背面と控え版2の前面とが地盤を挟んで互いに対向するように設けられている。複数のタイ材3の各々は、タイロッドやタイワイヤなどであり、その一端が壁体1に、他端が控え版2に、それぞれ結合されている。複数のタイ材3は、水平方向に決められた間隔(例えば、1600mm)で配置されている。壁体1の背面は、岸側の地盤から土圧を受け、壁体1は、タイ材3に発生する張力と、根入れ部分の支持力とによって支持される。
【0013】
岸側の地盤の上面は舗装されていてもよい。この舗装は、例えば、路床6の上面に砂利や砕石などを敷き詰めて形成された路盤7と、路盤7の上面にアスファルトやコンクリートなどを打設して形成された表層8とで構成される。
【0014】
次に、本実施形態に係る工法により、上述した既設構造物(控え版を用いた控え工を伴う護岸または岸壁)を補強して得られる構造物(以下、「補強後構造物」という)について説明する。補強後構造物(本実施形態に係る構造物)は、既設構造物を、新設の杭と地盤改良によって補強したものである。図3は、補強後構造物を図1と同様に鉛直方向に切った断面図である。図4は、図3におけるII―II断面図である。
【0015】
図3および図4に示すように、補強後構造物は複数の杭10を備える。複数の杭10の各々は、例えば、H型鋼杭である。複数の杭10は、控え版2の前面に沿って、タイ材3に干渉しない位置に配置されている。杭10の長さは、十分な根入れを確保できる長さとする。杭10の上端は、控え版2の上端と同じかそれ以上の高さに位置することが望ましい。なお、杭10の水平方向(図4における紙面の上下方向)の配置位置は、杭10がタイ材3と干渉しない位置であればいかなる位置でもよく、杭10の間隔は、いかなる距離でもよい。また、杭10の間隔は等間隔でもよいし、等間隔でなくてもよい。ここでは、一例として、各タイ材3から水平方向(図4における紙面の上下方向)に、タイ材3の間隔の半分の距離(例えば、800mm)だけずらした位置に1本ずつ杭10を配置した例を示している。また、杭10の背面と控え版2の底版5の前面側の端部との距離は、100乃至200mm程度とする。杭10と控え版2との間にこのような距離を確保する理由は、以下のとおりである。
【0016】
タイ材3に発生する張力は、控え版2を前面側に引っ張る方向に作用する。本実施形態に係る杭10は、この張力に抗するように控え版2を支持するための構成要素である。しかし、控え版2を損傷することなく杭10が控え版2の前面に接するように杭10を打ち込むことは困難である。なぜならば、杭10の打ち込み位置や打ち込み方向の精度を常に高く保ちながら杭10の打ち込みを行うことは容易ではない上に、控え版2の実際の位置と寸法が、控え版2の設置時の設計資料などから把握される位置や寸法と異なる場合もあるためである。これらの理由から、杭10と控え版2との間に上記のような距離を確保することが必要となる。ところが、杭10と控え版2との間にこのような距離を確保すると、杭10は控え版2の前面側の地盤を介して控え版2を支持することになるから、杭10と控え版2の間の地盤が圧縮されると、杭10が有効に機能しなくなるおそれがある。そこで、本実施形態に係る工法においては、杭10と控え版2との間の地盤を改良することによりその剛性を高める処理が行われる。その結果、当該地盤の圧縮変形が抑制され、控え版2から杭10への荷重の伝達効率が向上され、控え版2が杭10によって確実に支持される。
【0017】
本実施形態では、杭10と控え版2との間の地盤に、公知の地盤改良工法により改良体11を形成する。本実施形態で用いる地盤改良工法は、特定の工法に限定されないが、例えば、JSG工法(Jumbo Jet Special Grout;超高圧硬化材と空気を二重管ロッドの先端に装着されたモニターから噴射させ、二重管ロッドを回転させながら引き上げることにより地盤に直径1000mm〜2000mm程度の円柱状の改良体を造成する工法)や、CJG工法(Column Jet Grout;超高圧水と空気と硬化材を使用し、三重管ロッドの先端に装着されたモニターから超高圧水に空気を沿わせて地盤を切削し、下方から硬化材を充填させ、三重管ロッドを回転させながら引き上げることにより地盤に直径1000m〜2000m程度の円柱状の改良体を造成する工法)などの高圧噴射撹拌工法が好適である。
【0018】
図5は、高圧噴射撹拌工法による地盤改良の範囲を示す図である。本実施形態では、杭10の背面と控え版2の底版5の前面側の端部との間の位置にロッド12(二重管ロッド、三重管ロッドなど)が挿入され、ロッド12の先端のモニターから硬化材が噴射されることによって改良体11が形成される。控え版2と杭10との間の破線で示した台形の範囲が改良範囲に含まれるように、硬化材の噴射を制御することが望ましい。また、鉛直方向の改良範囲は、図3に示すように、控え版2の上端から下端までの全域にわたるようにすることが望ましい。
【0019】
次に、本実施形態に係る工法の施工手順について説明する。施工に先立って、控え版2の位置と寸法に基づいて、杭10の長さ、杭10を設置する位置、杭10の間隔、地盤改良の範囲などを決定する。控え版2の位置と寸法は、控え版2の設置時の設計資料などから把握されるが、設計資料どおりの寸法の控え版2が設計資料どおりの位置に設置されているとは限らないので、探査によって控え版2の位置や寸法を確認することが望ましい。
【0020】
<第1ステップ:舗装の除去>
地表面が舗装されている場合には、杭10と地盤改良の施工予定位置の舗装を除去する。
<第2ステップ:杭の設置>
杭打機などを用いて杭10を打ち込む。
<第3ステップ:地盤改良>
杭10と控え版2との間の地盤に地盤改良により改良体11を形成する。
<第4ステップ:再舗装>
地表面が舗装されていた場合には、第1ステップにおいて舗装を除去した部分に再舗装を施す。
【0021】
以上が、本実施形態の構成である。本実施形態は、控え版の前面側に杭を新設するため、控え版の前面側への変位を抑制することができる。さらに、本実施形態は、地盤改良で杭と控え版との間の地盤の剛性を高めるから、当該地盤の圧縮変形が抑制され、控え版から杭への水平方向の荷重の伝達効率を向上させることができる。その結果、壁体の前面側への変位を効率的に抑制することができる。
【0022】
また、既設または新設の控え版にタイ材を新設する工法では、新設のタイ材に導入する張力の大きさによっては既設の控え版の耐力が有効に活用されなくなるおそれがある。本実施形態では、タイ材の新設は行わず、杭を新設することにより既設の控え版の耐力を向上させる。従って、既設の控え版の耐力が有効に利用される。
【0023】
また、既設または新設の控え版にタイ材を新設する工法では、タイ材の埋設に掘削を要する場合があるが、本実施形態では、掘削を行わずに施工が可能であるため、岸壁供用中でも施工がしやすい。また、本実施形態では、地盤改良の範囲は、控え版と控え版に沿って配置された杭との間の地盤だけで済む。従って、本実施形態に係る工法によれば、既設または新設の控え版にタイ材を新設する工法や、壁体と控え版との間の全域にわたって地盤改良する工法などと比べて、低コスト且つ短工期で、既設構造物に対する必要な補強を実現することができる。
【0024】
<変形例>
上記の実施形態を次のように変形してもよい。
<変形例1>
上記の実施形態では、地盤改良の工法として、高圧噴射撹拌工法が採用される場合を例示したが、ソレタンシュ工法などの薬液注入工法などの他の工法が採用されてもよい。薬液注入工法の注入材料は、例えば、スラグ系の注入材料であるシラクソルが強度と耐久性の面から好適である。図6は、薬液注入工法による地盤改良の範囲を示す図である。
上記の実施形態では、新設の杭として、H型鋼杭を例示したが、鋼管杭やコンクリート杭などの他の種別の杭が採用されてもよい。
【0025】
<変形例2>
上記の実施形態では、施工手順として、控え版の前面側に杭を打ち込んだ後、杭と控え版との間の地盤を地盤改良する手順を例示したが、杭の打ち込み予定位置と控え版との間の地盤を地盤改良した後、打ち込み予定位置に杭を打ち込む手順でもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 壁体、2 控え版、3 タイ材、4 上部工、5 底版、6 路床、7 路盤、8 表層、10 杭、11 改良体、12 ロッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6