(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変速機(15)と、補助ブレーキ(13)と、操作スイッチ(26)が入れられている状態で前記補助ブレーキ(13)が作動すると前記変速機(15)をシフトダウンさせるシフトダウン制御手段(21)とを備えた車両の変速制御装置において、
前記シフトダウン制御手段(21)は、
前記操作スイッチ(26)が入れられている状態で前記補助ブレーキ(13)が作動した場合であってもシフトダウンした場合のエンジン(12)の回転速度が第1適正回転速度を超えるようなシフトダウンを実行させないように前記変速機(15)を制御し、
前記操作スイッチ(26)が入れられた後の本制御によるシフトダウンの回数がゼロである場合であってかつシフトダウンした場合の前記エンジン(12)の回転速度が前記第1適正回転速度より高い回転速度の第2適正回転速度を超えなければ前記補助ブレーキ(13)の作動とともにシフトダウンを実行させるように前記変速機(15)を制御する
ことを特徴とする車両の変速制御装置。
【背景技術】
【0002】
従来、トラックなど商用車において、自動変速装置を搭載するものが多く見られる。このような自動変速装置として、機械的なクラッチと歯車式の変速機を用い、これらの作動状態を検出する各種センサとこれらを駆動するアクチュエータを設けたものが知られている。このような車両の変速装置では、運転者の操作力で手動変速するのでなく、各種センサの検出信号に基づいてコントロールユニットによりアクチュエータを制御し、所定の変速マップに従って変速機をシフトアップ又はシフトダウンさせて、アクセルペダルの踏込量又はドライバ要求トルクから求められる目標変速段に変速機を変速制御している。
【0003】
また、トラックなどの比較的大型の車両では、主ブレーキ装置の補助として、アクセルオフ時や主ブレーキオン時に作動する排気ブレーキなどの補助ブレーキを備えている。この排気ブレーキなどの補助ブレーキは、運転者のスイッチ操作により補助ブレーキが有効な状態に設定されているときに、運転者がアクセルペダルを解放してその踏み込み量をゼロにすると作動し、逆に、運転者がアクセルペダルを踏み込むと、その補助ブレーキ状態を解除し、車両を加速することができるように構成される。
【0004】
一方、排気ブレーキなどの補助ブレーキは、高速道路などを走行中で変速機が高い段数にシフトアップされていると、ギヤ比の関係から、あまり減速作用を得られないことがある。そこで、近年普及してきた上記機械式自動変速機を備えた車両では、補助ブレーキの作動にあたって、変速機を高い段数から低い段数に自動的に変速するシフトダウンを行い、補助ブレーキによる制動力を高める変速制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ここで、変速機を高い段数から低い段数に変速するシフトダウンを行うと、エンジンの回転速度が上昇することになる。一方、エンジンには、いわゆるレッドゾーンと呼ばれる危険高回転速度があって、それを超えることを回避するように制御される。従って、補助ブレーキの作動にあたって、変速機を高い段数から低い段数に自動的に変速するシフトダウンを行うような従来の変速制御装置では、シフトダウンした場合に、エンジンの回転速度がその危険高回転速度を超えるような場合には、シフトダウンを実行させないようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、危険高回転速度に達しない場合の全てにおいて、シフトダウンを許容すると、シフトダウン後のエンジンの回転速度が危険高回転速度近傍にまで上昇し、高回転に起因する騒音を発生させるとともに、回転速度が急激に上昇することにより運転者に不安を生じさせることになる。
【0008】
この点を解消するために、危険高回転速度より低い回転速度であって、騒音を発生させることなく運転者に不安を生じさせ無いような適正回転速度を設定し、シフトダウンした場合に、エンジンの回転速度がその適正回転速度を超えるような場合には、シフトダウンを実行させないようにすることが考えられる。
【0009】
けれども、危険高回転速度より低い回転速度である適正回転速度を超えるような場合にシフトダウンを実行させないようにすることは、補助ブレーキの作動にあたって、シフトダウンが成される頻度を減少させることになる。
【0010】
一方、補助ブレーキの作動にあたってシフトダウンを行うか否かは、運転者のスイッチ操作により決められており、運転者がそのスイッチ操作を行ったのにも係わらず、その次のシフトダウンが実行されないようであれば、運転者に違和感を与えることに成り、好ましくない。
【0011】
本発明の目的は、スイッチ操作が行われた次のシフトダウンが行われる頻度を著しく低下させることなく、シフトダウン時に著しい騒音や不安を運転者に生じさせない車両の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、変速機と、補助ブレーキと、操作スイッチが入れられている状態で補助ブレーキが作動すると変速機をシフトダウンさせるシフトダウン制御手段とを備えた車両の変速制御装置の改良である。
【0013】
その特徴ある構成は、シフトダウン制御手段は、操作スイッチが入れられている状態で補助ブレーキが作動した場合であってもシフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度を超えるようなシフトダウンを実行させないように変速機を制御し、操作スイッチが入れられた後の本制御によるシフトダウンの回数がゼロである場合であってかつシフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度より高い回転速度の第2適正回転速度を超えなければ補助ブレーキの作動とともにシフトダウンを実行させるように変速機を制御するところにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両の変速制御装置では、操作スイッチが入れられている状態で補助ブレーキが作動した場合であっても、シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度を超えるようなシフトダウンを実行させないようにシフトダウン制御手段が変速機を制御するので、その第1適正回転速度をエンジンの危険高回転速度より低く設定することにより、シフトダウン後のエンジンの回転速度が危険高回転速度近傍にまで上昇することを回避することができる。これにより、高回転に起因する騒音の発生を防止し、運転者に不安を生じさせることはない。
【0015】
一方、本発明の車両の変速制御装置では、操作スイッチが入れられた後の本制御によるシフトダウンの回数がゼロである場合であってかつシフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度より高い回転速度の第2適正回転速度を超えなければ補助ブレーキの作動とともにシフトダウンを実行させるように変速機を制御する。即ち、運転者が操作スイッチを入れて、補助ブレーキが作動した場合のシフトダウンの要求があったとき、初回のシフトダウンだけは、シフトダウンした場合の回転速度を高めの第2適正回転速度を基準にその可否を判断する。これにより、その初回のシフトダウンは、第1適正回転速度を基準に判断する場合に比較して、成される頻度が増加する。よって、本発明の車両の変速制御装置では、スイッチ操作が行われた次のシフトダウンが行われる頻度を著しく低下させることなく、シフトダウン時に著しい騒音や不安を運転者に生じさせないものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図2に、本発明の変速制御装置を適用した車両10の要部構成を示す。この車両10はトラック等の大型車両であって、この車両10には、前輪17a及び後輪17bの回転を直接的に制動可能な図示しない主ブレーキ装置と、その主ブレーキ装置を運転者の踏み込みにより作動させるブレーキペダルが設けられる。そして、この車両10には、主ブレーキ装置の補助として、アクセルペダル11が踏み込まれていないアクセルオフ時や、その主ブレーキ装置が作動したときに作動する、補助ブレーキとしての排気ブレーキ13が設けられる。この補助ブレーキとしての排気ブレーキ13は、エンジン12の排気通路に配設され、その排気ブレーキ13の制御装置である補助ブレーキECU(電子制御ユニット)14が備えられる。
【0019】
エンジン12には変速機15が連結され、ドライブシャフト16を介して後輪17bが更に連結される。エンジン12の出力を後輪17bに伝達する変速機15は、自動変速ECU18により制御される機械式の自動変速機15であって、この自動変速ECU18にはメモリ18aが設けられ、そのメモリ18aには、ドライバ要求トルク等の条件に応じた目標変速段が記載された変速マップが記憶される。ここで、ドライバ要求トルクとは、アクセルペダル11の踏み込みにより開閉するスロットルの開度と車速等から求められるものである。そして、この自動変速ECU18は、車両10が走行状態において、変速マップに従って変速機15をシフトアップ又はシフトダウンする通常変速演算回路18bが設けられる。
【0020】
また、この車両10には、エンジン12の制御装置であるエンジンECU19と、補助ブレーキ13が作動すると、その変速機15をシフトダウンさせるシフトダウン制御手段が設けられる。この実施の形態におけるシフトダウン制御手段は、自動変速ECU18に設けられたシフトダウン制御演算回路21である。そして、このエンジンECU19からはエンジン12における燃料噴射装置12aにその制御出力が接続される。また、シフトダウン制御演算回路21を備える自動変速ECU18は、排気ブレーキ13の作動に伴うシフトダウンを実行させるように構成される。
【0021】
また、車両10には、アクセルペダル11の踏み込み量を検出するアクセルセンサ24と、車両の走行速度を検出する車速センサ22が設けられる。また、車両10には、補助ブレーキである排気ブレーキ13や、その排気ブレーキが作動したときにシフトダウンを可能にする操作スイッチ26が設けられる。そして、上述した補助ブレーキECU14,自動変速ECU18,エンジンECU19,車速センサ22,アクセルセンサ24及び操作スイッチ26等は、図示しない他の機器と共にCAN(Controller Area Network)23を介して連結され、互いに交信可能に構成される。
【0022】
エンジンECU19は、運転者がアクセルペダル11を踏み込んで車両10を走行させる時に、エンジン12に供給される燃料流量をアクセルペダル11の踏み込み量に応じて増減させ、エンジン12の回転をその所望の回転に維持させるように構成される。そして、そのアクセルペダル11の踏み込み量や、車速センサ22が検出する車両10の走行速度が変化すると、自動変速ECU18は、通常変速演算回路18bによりドライバ要求トルクから求められる目標変速段に変速機15を変速制御するように構成される。即ち、通常変速演算回路18bが設けられた自動変速ECU18は、変速機15をシフトアップ又はシフトダウンさせることにより、メモリ18aに記憶された変速マップに従って、ドライバ要求トルクから求められる目標変速段に変速機15を変速制御するように構成される。
【0023】
一方、運転者がアクセルペダル11の踏み込みを解除して、そのアクセルペダル11が解放された事実をアクセルセンサ24が検出して出力すると、エンジンECU19は、エンジン12に供給される燃料流量を、エンジン12の回転がアイドリング速度で維持するために必要な最小量にするように構成される。このため、変速機15において走行ギヤが選択され、相応の速度で車両10が走行中に、アクセルペダル11が解放された事実をアクセルセンサ24が検出して出力すると、アイドリング速度で維持されようとするエンジン12が後輪17bの回転を制動する、いわゆるエンジンブレーキの状態になる。
【0024】
この実施の形態における排気ブレーキ13は、エンジン12の排気通路に開閉弁を設ける構造のものであり、このエンジンブレーキの状態のときに、運転者が操作スイッチ26を操作することにより、補助ブレーキECU14はエンジン12の排気通路に設けられた開閉弁を閉じるように構成される。そして、開閉弁が閉じられると、エンジン12は回転速度をさらに減速させ、これにより排気ブレーキ13は、車両10に対して実質的にブレーキとして作用することになる。
【0025】
この実施の形態における操作スイッチ26は、その操作レバー26aを運転者が傾倒させるように構成され、
図2の点線で示す基本状態がオフ状態を示し、このオフ状態ではエンジンブレーキ状態であっても、補助ブレーキECU14は、排気ブレーキ13の排気通路に設けられた図示しない開閉弁を閉じないように構成される。そして、その操作レバー26aをオフ状態から一段階傾倒させて、破線で示す第一傾倒状態にすると、エンジンブレーキ状態において排気通路に設けられた開閉弁を閉じて、エンジン12の回転速度をさらに減速させるように構成される。
【0026】
そして、この実施の形態における操作スイッチ26は、その操作レバー26aを破線で示す第一傾倒状態から更に一段階傾倒させて実線で示す第二傾倒状態にすると、アクセルペダル11の踏み込みが解除されたエンジンブレーキ状態において排気ブレーキ13が作動すると、更に変速機15におけるシフトダウンを行うように構成される。変速機15におけるシフトダウンは、シフトダウン制御演算回路21を有する自動変速ECU18により実現される。即ち、操作スイッチ26の操作レバー26aが実線で示す第二傾倒状態になるように傾倒操作されている状態において、エンジンブレーキ状態になると、原則的にシフトダウン制御演算回路21を有する自動変速ECU18は、変速機15におけるシフトダウンを行うように構成される。
【0027】
しかし、自動変速ECU18は、例外として、操作スイッチ26が入れられている状態、即ち、その操作レバー26aが実線で示す第二傾倒状態にされている状態において、補助ブレーキ3が作動した場合であっても、シフトダウンを行わない場合も設定される。
【0028】
具体的には、シフトダウンした場合に、エンジン12の回転速度が第1適正回転速度を超えるような場合には、シフトダウンを実行させないように制御される。ここで第1適正回転速度とは、いわゆるレッドゾーンと呼ばれるエンジン12の危険高回転速度より低く設定された回転速度であって、その速度でエンジン12が回転しても、著しい騒音を発生させることもなく、運転者に不安を与えるようなこともない回転速度である。そして、この第1適正回転速度は自動変速ECU18のメモリ18aに記憶されるものとし、このシフトダウン制御演算回路2には、シフトダウンを実行した場合のエンジン12の回転速度を推定可能に構成される。
【0029】
また、自動変速ECU18のメモリ18aには、その第1適正回転速度とともに、その第1適正回転速度より高い回転速度の第2適正回転速度も記憶されるものとする。この第2適正回転速度にあっても、エンジン12の危険高回転速度より低く設定された回転速度であって、多少の騒音を発させても、運転者に不安を与えるようなこともない回転速度である。
【0030】
そして、シフトダウン制御手段であるシフトダウン制御演算回路21を有する自動変速ECU18は、操作スイッチ26が入れられた後の本制御によるシフトダウンの回数がゼロである場合、即ち、操作スイッチ26が入れられた後の、最初に補助ブレーキ13を作動させようとする場合にあっては、1段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度より高い回転速度の第2適正回転速度を超えるようなシフトダウンを実行させないように変速機15を制御するように構成される。
【0031】
次に、このように構成された車両の変速制御装置の動作を説明する。
【0032】
先ず、シフトダウン制御手段であるシフトダウン制御演算回路21における制御を
図1に示す。この
図1に示すように、変速機15において走行ギヤが選択され、相応の速度で車両10が走行中に、運転者がアクセルペダル11の踏み込みを解除してエンジンブレーキの状態にすると、そのアクセルペダル11が解放された事実はアクセルセンサ24により検出されて出力される。この検出出力によりエンジンブレーキ状態である(S21)ことを検知した自動変速ECU18は、次に、運転席にある操作スイッチ26が操作されて、その操作レバー26aが
図2の点線で示すオフ状態以外の状態になっているか否か確認する(S22)。即ち、補助ブレーキである排気ブレーキ13は、運転者により使用するかどうかを選択できるようになっている。その結果、操作スイッチ26の操作レバー26aが
図2の点線で示すオフ状態であった場合は、排気ブレーキ13を作動させない。このとき、既に補助ブレーキである排気ブレーキ13が作動している場合には、その排気ブレーキ13を解除(S24)、即ち排気ブレーキ13の図示しない開閉弁を開制御して、リターンする。
【0033】
一方、操作スイッチ26の操作レバー26aが
図2の点線で示すオフ状態以外の位置である場合は、運転者により排気ブレーキ13を使用する意思が表されたものであり、この場合、自動変速ECU18は、次に、運転席にある操作スイッチ26の操作レバー26aが
図2の実線で示す第二傾倒状態になっているか否か確認する(S23)。即ち、補助ブレーキ作動時のシフトダウンを行う意思表示がなされているか否か確認する。その結果、操作スイッチ26の操作レバー26aが
図2の実線で示す第二傾倒状態になっていない場合には、シフトダウンすることなく、補助ブレーキECU14に指令を出して、操作レバー26aの操作位置に基づいて、補助ブレーキである排気ブレーキ13を作動させ(S25)、リターンする。即ち、操作スイッチ26の操作レバー26aが
図2の破線で示す第一傾倒状態であると、排気通路に設けられた開閉弁を閉じて排気ブレーキ13を作動させる。よって、運転者が排気ブレーキ13の作動に伴うシフトダウンを好まない場合には、シフトダウンが実行されないように選択することができる。
【0034】
逆に、操作スイッチ26の操作レバー26aが
図2の実線で示す第二傾倒状態になっているときには、補助ブレーキECU14に指令を出して、排気ブレーキ13を作動させるとともに、自動変速ECU18は、原則的に変速機15をシフトダウンさせ、リターンする。これにより、補助ブレーキによる制動力を高めることが可能になる。
【0035】
ただし、ドライバが良好なフィーリングを得るために以下の手順に従って、シフトダウンさせる。
【0036】
即ち、操作スイッチ26の操作レバー26aが
図2の実線で示す第二傾倒状態になっているときにエンジンブレーキ状態になると、シフトダウン制御演算回路21では、1段及び2段シフトダウンした場合のエンジン回転速度を演算して推定する。
【0037】
そして、このシフトダウン制御演算回路21は、先ず2段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が、エンジン12の第1適正回転速度に達するか否かを判断する(S26)。そして、2段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度に達しない場合に、自動変速ECU18は変速機15を2段シフトダウンさせ、それとともに補助ブレーキECU14に指令を出して、排気ブレーキ13を作動させ(S30)、リターンする。これにより、エンジン12に著しい負荷を加えること無く補助ブレーキによる制動力を高めることが可能になる。
【0038】
一方、2段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度に達すると判断された場合には、シフトダウン制御演算回路21は、次に1段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が、第1適正回転速度に達するか否かを判断する(S27)。そして、1段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度に達しない場合に、自動変速ECU18は変速機15を1段シフトダウンさせ、それとともに補助ブレーキECU14に指令を出して、排気ブレーキ13を作動させ(S31)、リターンする。これにより、エンジン12に著しい負荷を加えること無く補助ブレーキによる制動力を高めることが可能になる。
【0039】
一方、1段シフトダウンした場合であっても、エンジンの回転速度が第1適正回転速度に達すると判断された場合には、シフトダウン制御演算回路21は、次に操作スイッチ26が入れられた後、具体的には、操作スイッチ26の操作レバー26aを運転者が
図2の実線で示す第二傾倒状態に操作した後の本制御によるシフトダウンの回数がゼロであるか否かを判断する(S28)。ここで、本制御によるシフトダウンとは、シフトダウン制御演算回路21の演算結果により成されたシフトダウンを意味し、変速マップに従って変速機15をシフトアップ又はシフトダウンする通常変速演算回路18bに基づくシフトダウンを除くものである。これにより、操作スイッチ26が入れられた後に最初に補助ブレーキ13を作動させる場合であるか否かが判断される。
【0040】
そして、操作スイッチ26が入れられた後の本制御によるシフトダウンの回数がゼロである場合、即ち、操作スイッチ26が入れられた後に最初に補助ブレーキ13を作動させる場合であると判断された場合には、次に1段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が、第2適正回転速度に達するか否かを更に判断する(S29)。そして、1段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第1適正回転速度を超えていても第2適正回転速度に達しない場合には、自動変速ECU18は変速機15を1段シフトダウンさせ、それとともに補助ブレーキECU14に指令を出して、排気ブレーキ13を作動させ(S31)、リターンする。これにより、シフトダウンを欲した運転者の意思に従ってシフトダウンが行われ、運転者に違和感を与えない。また、本実施の形態において本制御によるシフトダウンの回数がゼロである場合に1段のシフトダウンのみ可能としたのは、仮に2段以上のシフトダウンが行われると、2段以上の変速になることと、エンジン回転数が第1適正回転速度を超える高速回転になることにより、運転者を不安にさせる可能性が生じるためである。
【0041】
一方、操作スイッチ26が入れられた後の本制御によるシフトダウンの回数がゼロではなく、操作スイッチ26が入れられた後に最初に補助ブレーキ13を作動させる場合でないと判断された場合(S28)、又は操作スイッチ26が入れられた後に最初に補助ブレーキ13を作動させる場合であると判断されても、1段シフトダウンした場合のエンジンの回転速度が第2適正回転速度に達すると判断された(S29)場合には、シフトダウンさせること無く、排気ブレーキ13のみを作動させる(S25)。これにより、シフトダウンに起因してエンジンの回転速度が第2適正回転速度を超えて、エンジン12の危険高回転速度近傍に達することに起因する騒音の発生を回避するとともに、運転者に安心感を与えることができる。
【0042】
このように、本発明の車両の変速制御装置では、操作スイッチ26が入れられた後の本制御によるシフトダウンの回数がゼロである場合であって、かつ1段シフトダウンした場合のエンジン12の回転速度が第1適正回転速度より高い回転速度の第2適正回転速度を超えなければ補助ブレーキ13の作動とともにシフトダウンを実行させるように変速機15を制御する。即ち、運転者が操作スイッチ26を入れて、補助ブレーキ13が作動した場合のシフトダウンの要求があったとき、初回のシフトダウンだけは、1段シフトダウンした場合の回転速度を高めの第2適正回転速度を基準にその可否を判断する。これにより、その初回のシフトダウンは、第1適正回転速度を基準に判断する場合に比較して、成される頻度が増加する。よって、本発明の車両の変速制御装置では、スイッチ操作が行われた次のシフトダウンが行われる頻度を著しく低下させることなく、シフトダウン時に著しい騒音や不安を運転者に生じさせないものとなるのである。
【0043】
なお、上述した実施の形態では、単一の操作スイッチ26を用いて、補助ブレーキである排気ブレーキ13と変速機15におけるシフトダウンの双方のスイッチとしたけれども、排気ブレーキ13の操作スイッチと変速機15におけるシフトダウンの操作スイッチを別々に設けるようにしても良い。
【0044】
また、上述した実施の形態では、補助ブレーキが排気ブレーキ13である場合を説明したけれども、補助ブレーキは主ブレーキ装置を補助し得る限り、排気ブレーキ13に限られない。例えば、補助ブレーキはリターダであっても良く、圧縮開放ブレーキであっても良い。
【0045】
図示しないが、リターダは大型車両などに利用されている電気制動装置である。広く知られた形態では、車軸を駆動するためのプロペラ軸に連結されて回転する発電機を設け、この発電機の電気出力に抵抗器を接続する構造のものである。運転席に設けたスイッチ操作によりリターダを制動状態に操作すると、この発電機の出力電流は抵抗器に流れ、プロペラ軸の機械的な負荷が大きくなり車両は制動状態となって、主ブレーキ装置を補助し得るものである。
【0046】
また、圧縮開放ブレーキは、ディーゼルエンジンにおける圧縮行程において、ピストンが上死点付近に達した段階で、燃料を噴射せずに排気バルブを開いてシリンダ内の空気の圧縮を開放する機構である。そして、ピストンが上死点を通過した後に排気バルブを閉じることにより、ピストンの下降に伴ってシリンダ内の圧力を下げ、これによりクランクシャフト回転の抵抗とする。これにより、車両は制動状態となって、主ブレーキ装置を補助し得るものである。
【0047】
また、上述した実施の形態では、シフトダウン制御手段であるシフトダウン制御演算回路21を自動変速ECU18に設ける場合を説明したけれども、シフトダウン制御手段は自動変速ECU18と別に独立して形成し、これをCAN23に接続し、補助ブレーキECU14,自動変速ECU18,エンジンECU19,車速センサ22,アクセルセンサ24及び操作スイッチ26等と互いに交信可能にしても良い。
【0048】
更に、上述した実施の形態では、シフトダウン制御手段であるシフトダウン制御演算回路21は、操作レバー26aが操作されているときにエンジンブレーキ状態になると、1段及び2段シフトダウンした場合のエンジン回転速度を推定し、2段シフトダウンした場合から順次判断を行う場合を説明した。けれども、その判断を2段シフトダウンした場合から順次行う場合に限られない。最終的に、1段シフトダウンした場合のエンジン回転速度を推定し、その回転速度が第1適正回転速度、又はそれより高い回転速度の第2適正回転速度を超えるか否かを判断する限り、シフトダウンする段数は2段からに限らず、3段、4段、5段、6段、7段、又は8段シフトダウンした場合から、シフトダウンした後の回転速度が第1適正回転速度を超えるか否かの判断を順次行うようにしても良い。