【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。
(実施形態例)
図1は、本発明の測温プローブを金属の溶湯(溶鋼)の温度を測定するために用いる連続鋳造機100の概略図である。
図2は、測温プローブ22の概略図(側面図)である。
図3は、測温プローブ22の分解図である。
図4は、
図2中のA−A断面における要部概略図である。なお、
図1に示す連続鋳造機100は、スラブ鋳造、ブルーム鋳造、ビレット鋳造の何れかを対象とするものである。
【0046】
(連続鋳造機)
連続鋳造機100は、
図1に示したように、所定量の溶鋼が溜められるタンディッシュ21と、タンディッシュ21内に溜められた溶鋼を保温するためのタンディッシュ蓋26と、タンディッシュ21の下方に設けられ、注湯された溶鋼を冷却して所定形状の凝固シェルを形成するための鋳型23と、タンディッシュ21内の溶鋼を上記鋳型23へ所定の流量で滑らかに注湯するための浸漬ノズル24と、鋳型23の直下から鋳造経路に沿って複数で並設されるロール対25と、を備えて構成される。
【0047】
連続鋳造機100により鋳造を開始するには、先ず、浸漬ノズル24内の流路を閉塞させた状態で、取鍋20によって転炉設備から搬送してきた溶鋼をタンディッシュ21内へ注湯し、タンディッシュ21内に溶鋼を溜める。そして、タンディッシュ21内の溶鋼が所定量を上回ったら、浸漬ノズル24内の流路の閉塞状態を解除(溶鋼が流れるように制御)して、タンディッシュ21内の溶鋼を鋳型23へ注湯し始める。上記の鋳造経路には鋳造開始前に予めダミーバー(図示せず)が装入された状態としておき、このダミーバーを鋳造経路の下流側へ引き抜くことによって、鋳型23内で形成された凝固シェルを鋳造経路の下流側へと引き抜く。このとき、ダミーバーの引き抜き速度は漸増させる。やがて、ダミーバーが鋳造経路の所定位置に至ると、このダミーバーは回収手段(図示せず)によって回収されると共に、凝固シェルの引き抜き速度、即ち、鋳造速度が所望の鋳造速度へ至る。
【0048】
本実施形態では、タンディッシュ21に溶鋼を溜め、この溶鋼をタンディッシュ21から鋳型23へ注湯することで連続鋳造を行うときに、特殊な構造の本発明の測温プローブ22を用いて、タンディッシュ21内の溶鋼に先端を浸漬させて、溶鋼の温度を測定する。測温プローブ22は、鋳型23へ注湯される溶鋼の温度を極力感度良く測定することを目的として、浸漬ノズル24の真上(上方)に配置される。
詳しくは、測温プローブ22の測温部11がタンディッシュ21の底に穿設し、上記の浸漬ノズル24が接続される溶鋼排出孔21aの真上に配置される。
【0049】
測温プローブ22によって測定された溶鋼温度データは、鋳型23内の溶鋼のメニスカスの意図しない凝固(所謂皮張り)を防止したり、凝固シェルの再溶解を抑制していわゆる凝固遅れを抑制したり、するのに有効活用される。
【0050】
本実施形態において測温プローブ22は、タンディッシュ蓋26から先端が下方にのびて垂下するように配され、この測温プローブ22の測温部11は、鋳造開始時点で初めてタンディッシュ21内の溶鋼に浸漬されるようになっている。すなわち、タンディッシュ21内に溜められる溶鋼の「所定量」とは、タンディッシュ蓋26から垂下した測温プローブ22の下端に位置する測温部11に、タンディッシュ21内の溶鋼が届くときの溶鋼の量を意味する。
【0051】
(測温プローブ)
図1の測温プローブ22の先端(下端)は、各図においては、紙面の左端に相当する。
図3に示したように、本実施形態に係る測温プローブ22は、先端部1aに測温部11を有する白金ロジウム型の熱電対1と、熱電対1を収容するために先端部2a(先端側)が閉塞された筒形状のアルミナよりなる内部保護管2と、内部保護管2を内部に通過させる窒化ケイ素よりなる中間保護管3と、内部保護管2を通過させた状態で中間保護管3を収容するために先端部4a(先端側)が閉塞された筒形状のスピネルカーボンよりなる外部保護管4と、外部保護管4と中間保護管3との位置を固定するステンレスよりなる固定金具5と、を備えている。
【0052】
熱電対1は、白金ロジウム型の熱電対であり、その測温部11が内部保護管2の先端部2aの内面に当接して組み付けられている。熱電対1の基端部1bは、メタルコネクタ12を介して指示計(図示せず)に接続されている。
【0053】
内部保護管2は、厚さが1ミリ以上の先端が閉じた円筒状であり、先端部2aが滑らかな湾曲形状をなしている断面円形の筒状の部材である。内部保護管2は、内部に熱電対1を収容したときに、内面に熱電対1が先端部1a以外が当接しない状態でもうけられている。
【0054】
中間保護管3は、厚さが3ミリ以上の窒化ケイ素よりなる筒状の部材である。また、中間保護管3は、中空の軸心に内部保護管2を挿通する。中空の軸心に内部保護管2を挿通した状態では、中間保護管3の内面と内部保護管2の外面とは、接触しない状態で組み付けられる。
【0055】
中間保護管3は、先端部3aが、固定金具5の先端部5aよりも、測温プローブ22の先端側に位置している。中間保護管3の先端部3aは、測温プローブ22を用いて溶鋼の温度を測定するときに、溶鋼の液面よりも下方に位置するように形成されている。
【0056】
外部保護管4は、厚さが22ミリ以下の先端が閉じた円筒状であり、先端部4aが滑らかな湾曲形状をなしている断面円形の筒状の部材である。外部保護管4は、内部に中間保護管3を収容したときに、その内面が中間保護管3の外周面と当接(外周面の全面が当接)するように設けられている。
【0057】
ここで、中間保護管3の外周面と外部保護管4の内周面とは、アルミナ系の無機系接着剤を介して接着されている。本実施形態では、中間保護管3の外周面の全面に無機系接着剤が配されている。
外部保護管4は、基端部4bが、外径が縮径して形成されている。
【0058】
固定金具5は、外部保護管4の基端部4bに外装される先端部5aと、中間保護管3の基端部3bに外装される基端部5bと、先端部5aと基端部5bとを接続する接続部5cと、を一体に備えている。
【0059】
固定金具5の先端部5aは、外部保護管4の基端部4bに外装される部材であり、外部保護管4の基端部4bの外周形状と略一致する内周形状を有している。本実施形態では、外部保護管4の基端部4bの外周形状と略一致する断面円形の円管状に形成されている。固定金具5の先端部5aは、外部保護管4の基端部4bに(略密着した状態で)外装された状態で、固定される。固定方法は限定されるものではないが、本実施形態では、ビス留めにより固定される。
【0060】
固定金具5の基端部5bは、中間保護管3の基端部3bに外装される部材であり、中間保護管3の基端部3bの外周形状と略一致する内周形状を有している。本実施形態では、中間保護管3の基端部3bの外周形状と略一致する断面円形の円管状に形成されている。固定金具5の基端部5bは、中間保護管3の基端部3bに(略密着した状態で)外装された状態で、固定される。固定方法は限定されるものではないが、本実施形態では、ビス留めにより固定される。
【0061】
固定金具5の接続部5cは、先端部5aと基端部5bとを接続する部材であり、測温プローブ22ののびる方向に垂直に配されるドーナツ状の板状の円盤である。接続部5cは、一方の表面(先端側の表面)の外周部に先端部5aが接続され、他方の表面(基端側の表面)の軸心の開口部に基端部5bが接続された状態で形成されている。
固定金具5を外部保護管4に組み付けた状態では、外部保護管4の基端部4bの端面4cに、固定金具5の接続部5cが当接した状態で組み付けられる。
【0062】
測温プローブ22は、ネジ穴60が設けられ熱電対1を外部に導出させるターミナル金具6と、中央に孔70が設けられるフランジ7と、円筒状に形成される部材であって、その一端にネジ部80が設けられた固定金具8とを備える。そして、固定金具8の一端に設けられたネジ部80をフランジ7の孔70に挿通し、ネジ部80とターミナル金具6のネジ穴60が螺合され、固定金具8の他端と外部保護管4が着脱可能に連結されている。
【0063】
測温プローブ22をタンディッシュ蓋26に垂下させて固定するには、タンディッシュ蓋26に穿設された取り付け孔(図示せず)に測温プローブ22を上方から挿入し、上記のターミナル金具6と、フランジ7と、固定金具8と、の協動によって測温プローブ22をタンディッシュ蓋26に対して固定する。
【0064】
外部保護管4及び固定金具5の外周には、外部保護管4及び固定金具8を溶鋼の熱から保護するための厚肉筒形状をなす成形断熱材90が設けられている。尚、成形断熱材90の下端部は、外部保護管4の先端側に到達していないので、外部保護管4の先端4a側は露出している。また、フランジ7をタンディッシュ蓋26から熱的に絶縁するために、固定金具8とフランジ7の間には成形断熱材91が設けられている。
【0065】
(比較形態例)
本形態例は、中間保護管3を用いていないこと以外は、実施形態例と同様な測温プローブ(及び連続鋳造機)である。
【0066】
本形態例の構成を
図5に示した。なお、この
図5は、実施形態例の
図4に対応した図であり、特に限定しない構成以外は、上記の実施形態例と同様な構成を備えている。
【0067】
本形態例では、
図5に示したように、中間保護管3を有していないため、内部保護管2が外部保護管4の内面から間隔を隔てた状態(すき間を有する状態)で配置されている。
【0068】
(評価)
実施形態例及び比較形態例の連続鋳造機を用いて、連続鋳造を行った。
実施形態例の測温プローブは、30時間の連続鋳造を行っても、外部保護管4に損傷は生じなかった。
対して、比較形態例の測温プローブでは、1時間で外部保護管4に折損が生じたことが確認できた。
【0069】
実施形態例の測温プローブ22においては、熱電対1を収容した内部保護管2と外部保護管4との間に、中間保護管3を備えている。この中間保護管3は、外部保護管4との位置が、外部保護管4の内面に密着した状態で固定されている。このため、測温プローブ22の先端を金属溶湯に浸漬しても、金属溶湯の流れにより測温プローブ22(外部保護管4)が湾曲しようとしても、その内部に収容された中間保護管3が測温プローブ22(外部保護管4)の湾曲を規制する。この結果、実施形態例の測温プローブ22(外部保護管4)では、湾曲量が過剰に大きくならなくなり、測温プローブ22(外部保護管4)が破損(折損)することが抑えられた。
【0070】
対して、比較形態例では、中間保護管3を備えておらず、金属溶湯の流れにより測温プローブ22(外部保護管4)に湾曲しようとする力が加わると、その力が測温プローブ22(外部保護管4)に加わり、湾曲が過剰に進行して、破損(折損)が生じる。
【0071】
このように、実施形態例の連続鋳造機の測温プローブは、中間保護管3を有することで、外部保護管4の損傷(折損)を抑えることが出来ることが確認できた。すなわち、実施形態例の連続鋳造機の測温プローブ22は、外部保護管4の損傷が生じないことから、外部保護管4の設計寿命どおりに使用することができた。
【0072】
(実施形態例の変形形態)
本形態は、上記の実施形態例の測温プローブ22の中間保護管3の厚さ,外部保護管4の材質及び厚さを変更した構成(変形形態例)である。
【0073】
具体的には、中間保護管3の厚さを2,3,5,11ミリで変更し、外部保護管4の材質をスピネルカーボン,アルミナカーボン,ジルコニアカーボンで変更し、外部保護管4の厚さを5,22,30ミリとしたそれぞれの形態例である。なお、中間保護管3は、外径が28ミリとした。
【0074】
表1にそれぞれの形態例の耐折損性を示した。表1においては、中間保護管3の厚さが2ミリの場合を基準とし(表中では○で示した)、それよりも耐折損性に優れた場合を◎で示した。なお、比較の基準とした2ミリの場合でも、中間保護管3が測温プローブ22(外部保護管4)の湾曲を十分に規制することができる。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示したように、中間保護管3の厚さが3,5,11ミリのいずれの場合においても、外部保護管4の形態によることなく、より高い耐折損性を有している。
そして、中間保護管3の厚さが3ミリ以上となることで、外部保護管4の損傷(折損)をより抑えることが出来ることがわかる。
【0077】
(曲げ歪み)
実施形態例及び比較形態例の測温プローブ22で溶鋼の測温を行うときに生じる、測温プローブ22の曲げ歪みを求めた(算出した)。
【0078】
具体的には、
図1に示した連続鋳造機100を用いて溶鋼の測温を行うと、測温プローブ22には、溶鋼の熱及び溶鋼の流れに起因する力が加わり、変形(曲げ歪み)が生じる。この変形の変形量及び曲げ歪み(ε)を算出した。
【0079】
より具体的には、測温プローブ22を用いて溶鋼の温度を測定するときには、
図6に示したように、部分的な伸縮により先端部が弓状の略二次曲線形状をなすように湾曲する。この湾曲した測温プローブ22の先端部の変位量(Ymax)及び曲げ歪み(ε)を算出した。
なお、
図6においては、曲げ歪み(ε)を生じさせる部分的な伸縮の方向を矢印で示したが、この矢印は、伸縮の絶対値であっても、伸縮の相対値であってもよい。つまり、
図6は、部分的な収縮を生じている場合だけでなく、熱膨張により全体が膨脹している(伸びている)状態の中で、所定の膨脹量(伸びた長さ)以上,以下で矢印(ベクトル量)を示した場合も含む。
【0080】
値の算出は、次のように行われた。まず、溶鋼の流速に起因する単位長当りの抗力と浸漬管が傾斜した場合に働く単位長あたりの(浮力−重力)が等分布に荷重されるとして、長さの片持梁の自由端における変位量、すなわち先端部の変位量(Ymax)を算出する。そして、自由端における変位量から、梁の変位を2次曲線で近似し、固定端での曲率半径を算出し、曲げ歪み(ε)を算出する。
【0081】
算出された先端部の変位量(Ymax)及び曲げ歪み(ε)を、表2に示した。なお、算出に用いられた測温プローブ22は、中間保護管3が窒化ケイ素よりなり、外部保護管4が15ミリの厚さのスピネルカーボンよりなる。そして、中間保護管3の厚さが3,5,7ミリのそれぞれの場合で算出した。
なお、表2は、外部保護管4の材質としてスピネルカーボンを使用した場合の先端部の変位量(Ymax)及び曲げ歪み(ε)を示したが、スピネルカーボン以外の従来公知の材質の場合も同等の評価結果となる。外部保護管4に適用可能な従来公知の他の材質としては、アルミナカーボンやジルコニアカーボンを例示できる。そして、これら三つの材質は、中間保護管3と比較して強度が大幅に低い(いずれもごく僅かな強度であり)。この結果、外部保護管4の材質が変化しても評価結果に影響が及ばなくなる。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示したように、中間保護管3を備えていない比較形態例では、先端部の変位量(Ymax)及び曲げ歪み(ε)のいずれの値も大きな値となっていた。
【0084】
これに対し、中間保護管3を有する各実施形態例では、先端部の変位量(Ymax)及び曲げ歪み(ε)のいずれの値も小さな値となっている。このことからも、中間保護管3の厚さが3ミリ以上となることで、外部保護管4の損傷(折損)をより抑えることが出来ることがわかる。
【0085】
そして、実施形態例の測温プローブ22において、内部保護管3の厚さが厚くなるほど、先端部の変位量(Ymax)及び曲げ歪み(ε)のいずれの値も小さな値となることが確認できる。このことから、中間保護管3の厚さが3ミリ以上で厚くなるほど、外部保護管4の損傷(折損)をより抑えることが出来ることがわかる。
【0086】
上記から、本形態例の連続鋳造機は、測温プローブ22の外部保護管4の損傷が生じないことから、外部保護管4の設計寿命どおりに使用することができる。
【0087】
(実施形態例のその他の形態)
上記の実施形態例では、金属溶湯として鋼(溶鋼)を使用した場合を示しているが、測温プローブ22を使用できる金属溶湯は、この溶鋼に限定されるものではない。
たとえば、「溶鋼(金属溶湯)の流速が遅い場合」や「溶湯の比重が軽い場合」等の場合は、上記の実施形態例と比較してより緩い条件であることが明らかであり、上記と同様の効果を発揮できることも明らかである。
また、「溶鋼(金属溶湯)の流速が速い場合」や「溶湯の比重が重い場合」等の場合であっても、同様に長寿命となる効果を発揮できる。このような厳しい使用条件の場合には、内部保護管3の厚さを厚くすることで、さらに優れた効果を発揮できる。