(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁気回路(1)と、少なくとも1つの一次導電性巻線(2)と、二次導電性巻線(3)とを備え、前記磁気回路および前記各導電性巻線が容器(4)によって囲まれる、変圧器であって、
前記変圧器は、前記磁気回路に接触して、および/または、前記容器(4)の外表面に接触してもしくは前記容器(4)の外表面の近傍に、請求項8に記載のシステムに属する磁界センサ(10a、10b、10c)を少なくとも1つ備えることを特徴とする、変圧器。
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、磁気回路と少なくとも1つの導電性巻線とを含むデバイスのスイッチングタイムを制御する方法およびシステムに関する。
【0002】
[発明の背景]
電気的伝送または配電ネットワークにおける電力変圧器が再電圧印加(re-energize)されるとき、磁気回路の各部における残留磁束値と、各巻線の端子に印加される電圧によって生成される磁束との差に起因して、過渡的過電流が発生し得ることが知られている。
【0003】
高調波(harmonics)に富むこのような過電流は、ネットワークの構成によっては、変圧器の許容レベルよりはるかに高い値を示す場合がある。
【0004】
さらに、このような過電流は、巻線に大きな電流力を発生させ、変圧器の劣化(変形、巻線位置変動)を早める可能性がある。
【0005】
過電流および過電圧に関するこれらの問題は、磁気回路および電気的巻線を含む他の電気的デバイスでも発生する可能性がある(電気的機器の始動)。
【0006】
例として、以下では単相変圧器のケースに注目する。
【0007】
電圧を印加(energize)する前に、磁気回路を形成する強磁性材料中の磁束Φが、値Φ
r(残留磁束と呼ばれる)を有している。
【0008】
この残留磁束は、変圧器の電圧遮断条件(de-energizing conditions)(通常は制御されない)と、磁気回路の種類(すなわち幾何学的配置)と、構成材料の固有パラメータとに依存する。
【0009】
この残留磁束は、とくに電圧が遮断(de-energize)された変圧器に対して作用する外側からの応力のために(たとえば、変圧器の近傍の電気的デバイスの影響下で)、時間とともに成長することが多い。
【0010】
t=0において電圧が印加されるときに、印加される電圧は交流電圧であるため、インダクタ巻線(inductor winding)の端子電圧は
【0011】
【数1】
【0012】
と表せる。ただし、Vは印加電圧の二乗平均平方根(root mean square)であり、αは電圧印加の時点における位相を表す角度である。
【0013】
したがって、V
0はαのみに依存する値を有する。
【0014】
この値に対応する、磁気回路内に印加されるある磁束Φ
0が存在する。したがって、動作方程式は以下のようになる:
【0015】
【数2】
【0016】
ただし、
ωは電圧パルスであり、
Rはインダクタ巻線の抵抗を含む電気回路の総抵抗であり、
nはインダクタ巻線の巻数であり、
Φは磁気回路内の平均磁束である。
【0017】
磁束の式は、いくつかの近似を用いて以下のようになることが知られている。
【0018】
【数3】
【0019】
ただし、τ=L/Rであり、Lは誘導性巻線(inductive winding)のインダクタンスである。
【0020】
この場合、電流i(t)を、回路の磁性材料の曲線B(H)の関数として決定することが可能である。
【0021】
変圧器を保護するためには、変圧器の最適な電圧印加は、過渡磁束(したがって過渡電流)すなわち電圧印加後に到達する最大電流が、できる限り小さくなるような、所与の角度αにおいて発生する。
【0022】
たとえば、Φ
r=0かつα=0の場合(すなわち、最大電圧において電圧印加され、残留磁束がない場合)には、
【0023】
【数4】
【0024】
となり、これは突入電流がないことを意味する。したがって電圧印加は最適となる。
【0025】
一方、Φ
r=Φ
r maxかつα=3π/2の場合(すなわち電圧0で電圧印加され、残留磁束が最大である場合)には、
【0026】
【数5】
【0027】
となる。
【0028】
この場合、磁束は非常に高い値に達し、高い突入電圧につながるか、またはネットワーク上に大きな一時的高調波過電圧を発生させる。
【0029】
これら2つの例は、残留磁束の値について知識を持つことの利点を示す。
【0030】
残留磁束を評価するための1つの既知の解決策は、電圧が磁束の導関数と等質であるということに基づいており、したがって、変圧器の電圧が遮断される前に端子電圧を積分することにより残留磁束を評価することから成る。
【0031】
上述の方法は、たとえば、米国特許出願公開第2010/0013470号明細書に記載される。
【0032】
文献DE19641116およびDE3614057もまた、最適な電圧印加時刻を推定するために、デバイスの電圧が遮断される前の状態に関するデータを用いる方法を開示する。
【0033】
しかしながら、残留磁束を求めるための上記の間接的な方法は、変圧器に給電する電気的ネットワークの構成によっては、到底正確でもロバストでもないものとなる可能性がある。その理由は、磁気回路の磁気的状態を変化させる現象が発生するかもしれず、また、電圧(すなわち磁束を計算するための入力)の測定における不正確さが計算を到底正確ではないもの(オフセット、ドリフト、低電圧、ノイズの多い信号)にするからである。
【0034】
さらに、変圧器の電圧の遮断と印加との間に長時間が経過する場合があるので、データを長時間保存する必要があり、変化を検証するために磁束の測定を定期的に行う必要がある。
【0035】
したがって、本発明の目的のひとつは、変圧器(または磁気回路および1つ以上の導電性巻線を備える任意のデバイスであって動作中に電流が通過するもの、たとえば回転機)のスイッチングタイムの、より正確、単純かつ信頼できる制御を可能にすることである。
【0036】
本発明のさらなる目的は、最適な条件のもとで変圧器に電圧を印加する単純かつ信頼できる方法を提供することである。
【0037】
本発明のさらなる目的は、磁気回路中の残留磁束を求めるシステム(より良い性能を提供し、現在のシステムより正確であり、実装が簡単なもの)を設計することである。
【0038】
[発明の簡単な説明]
本発明によれば、磁気回路と1つ以上の導電性巻線とを備えるデバイスのスイッチングタイムを制御する方法が提案される。本方法は、
‐前記磁気回路の近傍に配置された少なくとも1つの磁界センサによって、前記磁気回路内の残留磁束によって生成される磁界の測定値を少なくとも1つ取得するステップと、
‐取得した前記磁界測定値を処理して、前記磁気回路内の残留磁束を推測するステップと、
‐前記残留磁束から、最適なスイッチングタイムを決定するステップと
を備えることを特徴とする。
【0039】
これらのステップは、すべて、デバイスの電圧を遮断した後に実行され、デバイスが電圧遮断される時点のいかなる知識も状態の記憶も必要としない。
【0040】
上記の方法は、有利には、センサを較正する事前ステップを備える。この事前ステップにおいて、センサによって測定された磁界の値と、磁気回路内の残留磁束の値との間の伝達関数が決定される。
【0041】
この目的のために、第1の実施形態によれば、少なくとも1対のセンサが磁気回路に対して対称に、磁気回路に接触して配置され、これによって、センサが取得した測定値からの擾乱界成分の減算による除去が可能となり、1対のセンサによって測定される磁界の値に関連して、および、磁気回路の構成材料の比透磁率に関連して、伝達関数が決定される。
【0042】
較正の実施形態の一変形によれば、少なくとも1対のセンサが磁気回路に対して対称に、磁気回路の近傍に配置され、これによって、センサが取得した測定値からの擾乱界成分の減算による除去が可能となる。この場合、センサの較正は、電流がゼロと交差するときの、巻線の端子電圧の、1電流周期にわたる積分を求めるステップと、電圧を遮断する前に巻線内を循環する電流の強度の関数として磁気回路内の磁束密度のヒステリシス曲線を用いて電流がゼロと交差するときの磁束密度を決定するステップと、これらのステップから伝達関数を決定することとを備える。
【0043】
本発明の特定の一実施形態によれば、前記デバイスは、磁気回路および巻線を囲む容器を備え、少なくとも1つの磁界センサが前記容器の外表面に配置される。
【0044】
本発明は、各電力入力相について前記方法により決定された最適時刻において変圧器に電圧を印加する変圧器の電圧印加への、上述の方法の適用にも関する。
【0045】
前記デバイスがいくつかの入力相を備える、本発明の特定の一実施形態によれば、上述の方法が、電圧を遮断されたデバイスの各相に対して、磁気回路内の残留磁束の値を決定するために実施され、最も高い残留磁束を有する相について最適な電圧印加時刻が計算される。
【0046】
本発明は、上記方法の、三相変圧器の電圧印加への適用にも関する。最も高い残留磁束を有する入力相が、その入力相について前記方法によって決定された最適時刻において電圧を印加され、その後、それ以外の入力相が、前記第1相に電圧を印加することによって誘導される電圧がゼロ値と交差するときに、同時に電圧を印加される。
【0047】
本発明のさらなる目的は、磁気回路と少なくとも1つの導電性巻線とを含むデバイスのスイッチングタイムを制御するシステムに関する。
【0048】
このシステムは、以下のものを含む点において注目すべきである。
‐少なくとも1つの磁界センサ
‐前記センサによって作成された磁界測定値を取得するシステム
‐前記取得システムによって取得されたデータを処理して、磁気回路内の残留磁束を計算し、残留磁束からデバイスの最適なスイッチングタイムを決定するシステム
【0049】
最後に、本発明は、磁気回路と、少なくとも1つの一次導電性巻線と、1つの二次導電性巻線とを備える変圧器にも関する。前記磁気回路および各前記導電性巻線は、容器によって囲まれ、前記変圧器は、上述のようなシステムに属する少なくとも1つの磁界センサを備え、この磁界センサは、磁気回路に接触して、および/または、容器の外表面に接触してもしくは容器の外表面の近傍に、配置される。
【0050】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面への参照を含む、以下の詳細な説明から明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
[発明の詳細な説明]
本方法が適用されるデバイスは、概して、強磁性材料および1つ以上の導電性巻線から形成される磁気回路に関する。この導電性巻線は、磁気回路の一部を囲んでもよいし、囲まなくともよいが、電流が通過可能なものである。
【0053】
さらに、磁気回路および導電性巻線(複数可)は、容器(通常は鋼板の容器)に収容されてもよい。
【0054】
この容器は、とくに変圧器を冷却するのに必要なオイルを入れることを意図するものである。
【0055】
容器の外表面上で磁束を測定することが可能となるように、容器の材料は、磁気回路からの漏れ磁界に対する障壁を形成しないものである。
【0056】
変圧器に適用される場合、巻線の1つが交流電源に接続され、1つ以上の追加の巻線が、供給を受けるべき電気回路に接続される。
【0057】
この限定でない例では、単相変圧器の記載が与えられる。しかしながら本方法は、原理的に任意の他のデバイス(三相変圧器、回転機、等)に同様の態様で適用される。
【0058】
<残留磁束を求める方法>
本方法は、概して、磁気回路の近傍において残留磁束によって生成された磁界の、1つ以上の測定値を取得することにより、デバイスの電圧を遮断した後の磁気回路内の残留磁束を求めることに基づく。
【0059】
残留磁束の知識により、最適なスイッチングタイムの決定が可能となる。
【0061】
この変圧器は、磁気回路1と、交流電源に接続された一次導電性巻線2と、供給を受けるべき電気回路に接続された二次導電性巻線3とを備える。
【0062】
磁気回路は、強磁性材料中にコアを備える。これは
図1では均質に示される。
【0063】
しかしながら、磁気回路は、慣用されているように、互いに絶縁された複数の平行なシートによって形成される積層構造を有してもよい。
【0064】
特定の一実施形態によれば、磁気回路1、一次巻線2および二次巻線3は、部分的に図示される鋼板ジャケットの形態の容器4に囲まれる。
【0065】
変圧器の電圧が遮断されるとき、磁気回路内を循環する磁束は、過渡状態の後に静止する。その結果は、磁気回路1内の残留磁束Φ
rである。
【0066】
この残留磁束の値を求めるために、磁気回路1の近傍に1つ以上の磁界センサが配置される。
【0067】
本明細書において、「近傍」とは、センサが磁気回路自体に接触して(on)配置されるか、または十分に近い距離に配置され、その結果、磁界の測定により磁気回路内の磁束が正確に決定できるということを意味する。
【0068】
例として、ここでは、センサが磁気回路に対して、磁気回路の最も長い辺よりも短い距離に配置されている場合、センサが磁気回路の近傍にあると考える。
【0069】
電圧が遮断された変圧器内には、2つの主な磁界源が存在する。第1は残留磁束であり、第2は擾乱界(disturbing field)(主に地球の磁界によるもの)である。
【0070】
地球の磁界以外の磁界が擾乱界を形成する場合、そのような摂動を排除するために、あるシステムを用いてもよい。様々な磁界源を分離するための信号処理方法が既知である。
【0071】
磁気回路の近傍で磁界が測定されるとき、測定値はこれら2つの源の結果である。
【0072】
容器が磁気回路を囲んでいる場合、センサ(複数可)を容器の外表面または内表面あるいはそれらの近傍に配置することが可能である。この容器は漏れ磁界をキャンセルしないものである。
【0073】
残留磁束によって生成された磁界の、信頼できる測定を可能にするためには、容器の外側で測定された磁束密度で十分であるということが、予期しない態様で示される。
【0074】
図2A(FIG. 2A)、
図2B(FIG. 2B)および
図3は、回路の一部と、その一部を囲む容器とのモデルに対して実行されたシミュレーションを示す。
【0075】
図2Aは、磁気回路1の一部と、回路を囲む容器4とのデジタルモデルを示す。
【0076】
ここではFlux 2Dソフトウェアを用いて回路の4分の1のみがモデル化されているが、デジタルシミュレーションはデバイス全体に関する。
【0077】
磁気回路は、それぞれが特定の磁化方向を持つ磁石の集合の形態でモデル化されている。
【0078】
これらの磁石は、比透磁率μ
r1=5000および残留磁束密度(residual induction)B
r=1Tを有する。
【0079】
磁気回路の不完全性は、磁気回路の各コーナーに配置された0.5mmの隙間1eによってモデル化される。
【0080】
矢印は、磁気回路内の磁力線の向きを表す。
【0081】
金属製の容器4は、比透磁率μ
r4=100および厚さ1cmを有する。
【0082】
図2Bは、容器4の外側で、このようにモデル化された磁気回路1内の残留磁束によって生成される磁束密度の様々な値を示す。
【0083】
aからpまでの尺度は、0.5μTおよび50μTとの間の値を有する等磁束密度領域に対応する。
【0084】
図示のように、容器の近傍における磁束密度は、この領域に配置された磁界センサによって有用な測定ができるような、十分に高い値を有する。
【0085】
これは
図3でも示される。
図3は、容器なしの場合(破線の曲線)および容器ありの場合(実線の曲線)の、磁気回路1の一面(one side)に垂直な経路C1上で測定される磁束密度B(
図2Bに概略化されるもの)を、磁気回路からの距離dの関数として示す。
【0086】
このように、容器が存在している場合に容器のすぐ外側で測定された磁束密度は20μTであり、一方、容器がない場合に同じ点で測定された磁束密度は34μTである。
【0087】
結果として、残留磁束によって生成された磁界の値を容器が変化させるとしても、容器の外側にはこの磁界を表す形跡(trace)が存在し、この形跡は測定可能であり、適切な較正によって実際の値に関連付けることができる。
【0088】
このことは、本発明に関するデバイスによって生成される磁界が、測定可能な形跡を容器の外側に生成するのに十分に高いという事実によって、説明される。
【0089】
本明細書に記載するシミュレーションの場合では、磁気回路の1Tの残留磁束密度が、容器の外側で測定される20μTの磁束密度によって表される。
【0090】
したがって、1mTのオーダーの残留磁束密度は、容器の外側では数nT(a few nT)のオーダーの磁束密度によって表されることになる。これは現在市場にあるセンサの精度よりも大きく、したがって測定可能である。よって、容器の外側に配置されたセンサを用いた測定は、外部の干渉が無視できるとした場合の残留磁束密度を表すものとしてよい。
【0091】
図1を参照すると、3つの磁界センサ10a、10bおよび10cが、容器4の3つの外側面(outer sides)に配置されている。
【0092】
これらのセンサの好ましい位置および向き条件は、以下に記述する。
【0093】
好ましくは、センサ(複数可)は、磁気回路の周囲の磁力線に対して可能な最高の感度を有するように、磁気回路の正中面(median plane)に配置される。
【0094】
これらの配置には、磁気回路および/または容器に、および/または磁気回路や容器から隔たった支持手段に、固定するための、任意の適切な固定態様(接着剤等)が使用可能である。
【0095】
センサ(複数可)により、磁気回路の近傍において1つ以上の磁界値が取得される。
【0096】
その後、磁気回路内の残留磁束の値を推測するために、この値(複数可)が処理される。
【0097】
以下でわかるように、各センサを事前に較正しておくことにより、センサが測定した磁界の値と残留磁束の値との間の伝達関数を決定することができる。
【0098】
<スイッチングタイムの制御>
残留磁束の知識により、最適なスイッチングタイムを決定することができる。
【0099】
単相変圧器の例に戻る。Φ
rの値が既知であれば、突入電流を最小化する最適な電圧印加角αは、上述の各方程式に基づき、次の式を用いて推測される。
【0101】
この方法の利点は、デバイスの電圧が遮断された際の条件の知識を要しないことであり、デバイスの動作状況をアーカイブする必要がなくなる。
【0102】
さらに、この方法は、従来技術の積分法よりも直接的である。したがって、磁気回路の磁気状態の変動につながる、発生するかもしれない現象を克服するとともに、従来技術において磁束を計算するための入力データとして用いる電圧測定値の不正確さを回避するので、より正確である。
【0103】
デバイスが3つのカラムを持つ三相変圧器である場合には、各カラムの磁気回路に少なくとも1つの磁界センサを配置することによって、残留磁束が各カラムにおいて測定される。
【0104】
変圧器に電圧を印加するために、まず、残留磁束が最も高い相に電圧が印加され、これによって、突入電流を最小化するようにスイッチングタイムが決定される。
【0105】
第1相に電圧を印加することにより、他の2相内に誘導される電圧(第1相に対して180°だけ位相シフトしたもの)が生成される。
【0106】
誘導電圧の半周期のいくつか分(a few half-periods)に対応する時間の後(電圧印加されるべきこれら2相内の磁束の非対称性を低減することを意図するものである)、これらの2相は、誘導電圧のゼロ交差時刻に対応する時刻において、同時に電圧を印加される。
【0107】
この電圧印加方法は、A. Mercier他著の記事「Transformer Controlled Switching taking into account the Core Residual Flux - A real case study」(CIGRE 13‐201、2002)に記載されており、この記事が参照され得る。
【0108】
本発明の範囲から逸脱することなく、任意の他のトリガ戦略を選択できることは明らかである。
【0109】
<センサの較正>
センサによって行われる測定により、残留磁束の質的評価(すなわち存在および向き)が可能となる。
【0110】
量的評価(すなわち、測定された磁界値から磁気回路内の残留磁束の値を推測すること)を行うには、測定された磁界と、これに対応する残留磁束との間の伝達関数を決定するために、事前にセンサを較正しておく必要がある。
【0111】
例を示すために、以下では、容器を持たない単相変圧器の近くに配置された2つのセンサの使用が記載される。
【0112】
以下でわかるように、対称に配置された2つのセンサを用いることの利点は、これらのセンサが取得した測定値から、減算によって擾乱界成分を取り除くことが可能であるということである。
【0113】
各センサが磁気回路に接触して(on)直接配置されるケースと、各センサが磁気回路から距離をおいて配置されるケースとが区別される。
【0114】
ケース1:磁気回路に接触したセンサ
このケースでは、磁気回路の磁束密度の主方向において、磁界の接線成分が測定される。
【0115】
したがって、センサは、磁気回路に対して、この成分を測定できる向きでなければならない。
【0116】
このケースは、回路/空間界面(circuit/air interface)において磁界の接線成分を測定できるように、センサが磁気回路の十分近くに配置されるときにも正当である。
【0117】
センサによって測定される磁束密度は、次式によって定義される。
B
sensor=A
1・B
0+A
2・B
a
ただし、A
1は、センサの位置と磁気回路内の磁束密度との双方に依存する大きさであり、
B
0は、接線磁束密度の方向における擾乱界(主に地球の磁界)の成分であり、
B
aは、空間と磁気回路との界面に接する、磁気回路内の磁束密度の主成分であり、
回路/空間境界における接線磁界を維持することによりA
2=1/μ
aであり(アンペールの定理)、
μ
aは、磁気回路を構成する材料の比透磁率である。
【0118】
2つのセンサが磁気回路に接触して対称に配置される場合、擾乱界の成分は、磁気回路の存在によって同様に変更される。
【0119】
したがって、2つのセンサにより取得される磁束密度の測定値は、次のように表せる。
B
sensor1=A
1・B
0+A
2・B
a
B
sensor2=A
1・B
0−A
2・B
a
【0120】
2つのセンサによって得られた測定値で減算を行うことにより、擾乱界成分を取り除くことができ、次の式が与えられる。
B
sensor1−B
sensor2=2A
2・B
a
【0121】
このように、2つのセンサを用いて得られた測定値と、磁気回路の材料の比透磁率(既知)とから、B
aの値を推測することができる。
【0122】
したがって、磁気回路内を循環する磁束の値(次式で与えられる)を求めることができる。
φ
a=n・B
a・S
a
ただし、nは誘導性巻線の巻数であり、S
aは磁気回路の断面積である。
【0123】
ケース2:磁気回路から距離を置いたセンサ
センサが磁気回路に接触していないとき、そのセンサによって測定される磁束密度は次のように表される。
B
sensor=A
1・B
0+A
2・B
a
ただし、A
1、B
0およびB
aの大きさは先のケースと同じ定義を有する。
【0124】
一方、係数A
2は、以下の各ステップによって求めなければならない。
【0125】
1)一次電圧または二次電圧(Vと表す)と、センサによって測定される磁束密度(Bと表す)と、変圧器(無負荷)が交流電圧を供給されるときの一次電流(Iと表す)とを測定する。
【0126】
2)曲線φ(I)をプロットする。ただしφは、時間の関数としての電圧Vの、1電流周期(すなわち50Hzでは20ms)にわたる積分として定義される。この曲線は
図4に例示される。これは、まず時間の関数としての電圧の、1電流周期にわたる積分φ(これは電圧Vに対して90°だけ位相シフトした正弦波に見える)を計算し、次に、同じ周期にわたる電流Iの変動(variation)を測定し、これらの2系列のデータからヒステリシスφ(I)曲線をプロットすることによって取得される。この曲線と、電圧、磁束および電流の波形とは、たとえば、The'odore Wildi著の研究「Electrotechnique - 3
e'me e'dition」(De Boeck Supe'rieur、2003)(ただしe'はeにアクサン・テギュを付した文字)の455ページに例示される。
【0127】
ここで、積分は、センサの伝達関数を決定するために1電流周期にわたって実行されるということに留意すべきである。したがって、上述の従来技術(残留磁束を推測するために長時間にわたる電圧の積分を用いるもの)とは異なり、この積分は、ドリフトによって影響されない。
【0128】
代替的に、ヒステリシス曲線φ(I)は、変圧器の製造者によって供給される変圧器の飽和曲線から構築することができる。この飽和曲線は、無負荷条件のもとで一連のテストを用いてプロットされたものであり、電流の関数としての、一次巻線の端子における電圧の非線形曲線である。対応するヒステリシス曲線φ(I)は、適応したシミュレーションソフトウェア(EMTPソフトウェア等)を用いてプロット可能である。
【0129】
3)曲線φ(I)上で、電流がゼロと交差するとき(すなわちI=0)のφの最小値と最大値との差に対応する大きさΔφを測定する。
【0130】
4)様々な時刻においてセンサが取得した磁束密度の測定値と、変圧器(無負荷)に交流が供給されるときの、これらと同じ各時刻における一次電流の測定値とから、
図5に示す曲線B(I)をプロットする。
【0131】
5)曲線B(I)上で、電流がゼロと交差するときのBの最小値と最大値との差に対応する大きさΔBを測定する。
【0134】
ただし、nは誘導性巻線の巻数であり、S
aは磁気回路の断面積である。
【0135】
2つのセンサが、磁気回路および擾乱界に対して対称に配置されているときには、磁気回路の存在によって、擾乱界の成分が同じ態様で変更される。
【0136】
したがって、2つのセンサにより取得される磁束密度の測定値は、次のように表せる。
B
sensor1=A
1・B
0+A
2・B
a
B
sensor2=A
1・B
0−A
2・B
a
【0137】
A
2が既知であると、ここから、2つのセンサが取得した測定値を用い、擾乱界成分を除去可能にする減算によって、以下のようにB
aを推測することが可能である。
B
sensor1−B
sensor2=2A
2・B
a
【0138】
したがって、磁気回路内を循環する磁束の値(次式で与えられる)を求めることができる。
φ
a=n・B
a・S
a
【0139】
<磁界センサ>
測定システムは、少なくとも1つの磁界センサを備える。
【0140】
この種類のセンサは市販されており、当業者は適切なセンサモデルを選択可能である。
【0141】
有利には、センサは、フラックスゲート(fluxgate)タイプの、1軸または3軸のベクトル磁力計であり、考慮中の軸(1つまたは複数)に沿った磁界成分を測定するよう構成される。
【0142】
この種類の磁力計は、たとえばBartington InstrumentsからMag-03というリファレンスのもとで入手可能である。
【0143】
センサが単軸の磁力計であり、かつ磁気回路に直接接触させて配置することが望まれる場合には、磁束の接線成分を測定するために、磁気回路内の磁束密度の主方向と平行にセンサの軸が存在するようにされる。
【0144】
センサは磁界モジュール(magnetic field module)を測定するスカラー磁力計であってもよい。この場合、これらのセンサを磁気回路内の磁束の方向と平行な方向に向けることが必要となる。
【0145】
磁気回路の幾何学的配置によっては、残留磁束を求めることを容易にするために、または残留磁束を求める際の精度を向上させるために、少なくとも2つのセンサを用いると好都合である。
【0146】
たとえば、単相変圧器または3つのカラムを有する三相変圧器の磁気回路の各部(この例では各脚)に、2つのセンサを対称に配置することが可能である。
【0147】
上述のように、センサを対称に配置することにより、地球の磁界の影響を克服できる。
【0148】
後者では、磁気回路内で頂部から下に向かう向きの磁束が誘導されるので、残留磁束について互いに逆の符号の成分を取得するための各センサの配置により、擾乱界の影響を取り除くことができる。
【0149】
さらに、とくに複雑なデバイスにおいて、センサが磁気回路に直接接触して配置されているという事実により、寄生現象を無視することが可能となる。
【0150】
残留磁束の計算に用いる方法によって、センサの数も変化し得る。
【0151】
原理的には、少数のセンサで十分である。たとえば、変圧器の磁気回路の部分(portion)ごとに1つである。
【0152】
しかしながら、国際公開第02/101405号に記載される方法によって、磁界の複数の点測定から残留磁束を求めることも可能である。
【0153】
この場合には、磁気回路の周囲に複数の磁界センサを配置する必要がある。
【0154】
また、磁界センサ(単数または複数)は、磁気回路に直接接触して配置可能である。
【0155】
しかしながら、上述の構成は、場合によっては実装が困難である。磁気回路の即時の環境(immediate environment)が、センサの設置および機能に対して不都合な可能性があるからである(たとえば、流体の存在、高温、等)。
【0156】
この場合、センサ(複数可)は、磁気回路を囲む容器に接触して、または容器の近傍に配置することも可能である。
【0157】
回路の周囲における磁界の分布が既知である場合(たとえば、理論的または実験的マッピングによって)、センサ(複数可)は磁界が最も強い位置に配置される。
【0158】
磁界の分布が未知であり、かつ/または、センサを配置する点が限られている状況では、擾乱界に対して対称となるようにセンサの対を配置するよう努力しなければならない。
【0159】
磁気回路から距離を置くこの解決策は、侵入的でなく、既存のデバイスに変更を要することなく実装可能であるという利点を有する。
【0160】
この場合、センサ(単数または複数)は、磁気回路から、回路の寸法よりも小さい距離をおいて置かれる。これによって磁界の十分に正確な測定が可能になる。
【0161】
センサは、容器上に恒久的に設置されてもよい。
【0162】
これが可能であるときには、診断目的で、デバイスに電圧が印加されたときの磁気回路の磁気状態のリアルタイムの測定値を取得することが可能になる。
【0163】
本発明の、さらなる可能な適用は、外部の源によって、磁気回路内の残留磁束をキャンセルまたは変更するために変圧器の扱いを制御することである。その扱いが、磁気回路内で望ましい磁束が得られることを効果的に許容しているか否かを、センサが行うこの測定を用いて検証することが可能である。
【0164】
本発明は、回転機の始動を制御するために実装されてもよい。これによって、電源を供給されない機器(non-powered machine)内の残留磁束の測定が可能になる。
【0165】
<取得システム>
取得システムは、様々なセンサからデータを収集するよう構成され、また、このデータを記録し、処理システムに伝送するよう構成される。
【0166】
<処理システム>
処理システムは、典型的には、磁気回路内の残留磁束の値を計算するために取得システムによって取得された信号を用いる手段を備えるプロセッサである。
【0167】
とくに、プロセッサは、各センサに関連付けられた信号から、センサの伝達関数から残留磁束を計算できるように構成可能である。
【0168】
取得システムおよび処理システムは、制御されるべきデバイスに一体化されてもよい(たとえば、容器の外側に固定された箱内の上述の変圧器、またはリモートサイトに設置された上述の変圧器)。
【0169】
センサと取得システムおよび処理システムとの間の接続は、任意の適切な電気的接続によって得られる。
【0170】
最後に、上記で与えられる例は、明らかに特定の例示のみであり、いかなる意味でも本発明の適用の分野を限定するものではない。