(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196980
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】太陽光制御板ガラスユニット
(51)【国際特許分類】
C03C 17/36 20060101AFI20170904BHJP
C03C 17/245 20060101ALI20170904BHJP
C03C 27/06 20060101ALI20170904BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20170904BHJP
B32B 7/02 20060101ALI20170904BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20170904BHJP
B62D 29/00 20060101ALI20170904BHJP
B62D 25/00 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
C03C17/36
C03C17/245 A
C03C27/06 101H
C03C27/12 L
C03C27/12 R
C03C27/12 K
B32B7/02 103
B62D25/06 Z
B62D29/00
B62D25/00
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-543845(P2014-543845)
(86)(22)【出願日】2012年11月23日
(65)【公表番号】特表2015-508372(P2015-508372A)
(43)【公表日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】EP2012073447
(87)【国際公開番号】WO2013079400
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年10月16日
(31)【優先権主張番号】BE2011/0696
(32)【優先日】2011年11月29日
(33)【優先権主張国】BE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ヘヴェシ, カドサ
【審査官】
山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−106668(JP,A)
【文献】
特開平07−149545(JP,A)
【文献】
特表平03−503755(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/103224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各機能膜が誘電体被覆の間に挟まれるように、赤外線を反射する材料に基づく三つの機能膜、及び四つの誘電体被覆を含む太陽光制御多層スタックを担持する透明基板において、基板から数えて第二の機能膜の幾何学的厚さが第一の機能膜の幾何学的厚さより大きく、第三の機能膜の幾何学的厚さが第一の機能膜の幾何学的厚さより大きいこと、基板から数えて第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が2.0〜3.2であること、第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が0.6〜0.9または1.15〜1.7のいずれかであること、各機能膜が、銀ベースのものであること、基板から数えて第一の機能膜の幾何学的厚さが10〜13nmであること、基板から数えて第二の機能膜の幾何学的厚さが13〜15nmであること、基板から数えて最後の機能膜の幾何学的厚さが13〜16nmであること、基板上に付着された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さは、基板から数えて第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さの基板と第一の機能膜の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が2.0〜3.0であるようなものであること、第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さが148〜160nmであること、第二と第三の機能膜の間に配置された第三の透明誘電体被覆の光学的厚さが117〜147nmであること、及び最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さが50〜70nmであることを特徴とする透明基板。
【請求項2】
基板から数えて第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が2.1〜3.0であることを特徴とする請求項1に記載の透明基板。
【請求項3】
第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が0.65〜0.9であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明基板。
【請求項4】
基板から数えて第一の機能膜と基板の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が0.5〜1.7であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明基板。
【請求項5】
基板から数えて第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さの基板と第一の機能膜の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が1.6〜3.8であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明基板。
【請求項6】
各機能膜が誘電体被覆の間に挟まれるように、赤外線を反射する材料に基づく三つの機能膜、及び四つの誘電体被覆を含む太陽光制御多層スタックを担持する透明基板において、基板から数えて第二の機能膜の幾何学的厚さが第一の機能膜の幾何学的厚さより大きく、第三の機能膜の幾何学的厚さが第一の機能膜の幾何学的厚さより大きいこと、基板から数えて第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が2.0〜3.2であること、第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が0.6〜0.9または1.15〜1.7のいずれかであること、各機能膜が、銀ベースのものであること、基板から数えて第一の機能膜の幾何学的厚さが10〜11nmであること、基板から数えて第二の機能膜の幾何学的厚さは、基板から数えて第三の機能膜の幾何学的厚さの第二の機能膜の幾何学的厚さに対する比率が1.1〜1.2であるようなものであること、基板から数えて最後の機能膜の幾何学的厚さが18〜19nmであること、基板と第一の機能膜の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さは、基板から数えて第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さの基板と第一の機能膜の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が1.7〜2.4であるようなものであること、第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さが119〜132nmであること、第二と第三の機能膜の間に配置された第三の透明誘電体被覆の光学的厚さが156〜175nmであること、及び最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さが67〜80nmであることを特徴とする透明基板。
【請求項7】
第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が1.2〜1.5であることを特徴とする請求項6に記載の透明基板。
【請求項8】
基板から数えて第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が2.2以上であることを特徴とする請求項7に記載の透明基板。
【請求項9】
第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が1.3以上であることを特徴とする請求項8に記載の透明基板。
【請求項10】
基板から数えて第一の機能膜と基板の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が0.5〜1.2であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の透明基板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の透明基板を少なくとも一枚含むことを特徴とする多層板ガラスユニット。
【請求項12】
ガス充填空洞部によって通常の透明ソーダ石灰フロートガラスの4mm厚板と組み合わされた通常の透明ソーダ石灰フロートガラスの6mm厚板の上に太陽光制御多層スタックが付着されるとき、光透過率TLが51%より大きいことを特徴とする請求項11に記載の多層板ガラスユニット。
【請求項13】
日射透過率が34%以下であることを特徴とする請求項11または12に記載の多層板ガラスユニット。
【請求項14】
選択性が1.95より大きいことを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の多層板ガラスユニット。
【請求項15】
接着性プラスチックによってガラス材料の一枚の板と組み合わされた請求項1〜10のいずれかに記載の透明基板を少なくとも一枚含むことを特徴とする多層板ガラスユニット。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれかに記載のような太陽光遮蔽スタックを担持する焼き戻しされた板ガラスユニットの製造方法であって、前記太陽光遮蔽スタックを560℃以上の温度で焼き戻し及び/又は曲げ熱処理に供することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光制御多層スタックを担持する透明基板、及びかかる太陽光制御多層スタックを担持する透明基板を少なくとも一枚含む多層板ガラスユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明が関係する太陽光遮蔽スタックとも称される太陽光制御スタックは、反射防止誘電体被覆と組み合わされる、赤外線を反射する銀ベース膜のような機能膜を含み、反射防止誘電体被覆は、反射される光を低減し、かつ色のような多層の他の特性を制御するために作用するが、拘束膜としても作用し、かつ機能膜を保護する。太陽光制御スタックは、一般的に誘電体膜の間に挟まれた二つの機能膜を含む。より最近では、三つの機能膜を含むスタックは、最も高い可能な光透過率を保持しながら与えられた太陽光保護をさらに改良するために提案されている。各機能膜は、各機能膜が二つの誘電体被覆の間に挟まれるように少なくとも一つの誘電体被覆によって分離される。スタックの様々な膜は、例えばマグネトロンスパッタリングによって付着される。しかしながら、本発明は、この特定の膜付着方法に限定されない。
【0003】
太陽光制御スタックは、例えば大きな板ガラス領域で閉鎖された空間の太陽光による過剰な加熱の危険を減少し、従って夏期におけるエアコン負担を低減するための太陽光保護板ガラスユニット又は太陽光遮蔽板ガラスユニットを製造するために使用される。透明基板は、そのときガラス板からなることが多いが、それは、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)のようなプラスチック板から形成されてもよく、それは、次いで積層板ガラスユニットを形成するためにPVB(ポリビニルブチラール)又はEVA(エチレン/酢酸ビニル)のような接着性ポリマーの膜によって二つのガラス板の間に封入されるか、又は多層板ガラスユニットの内側に封入される。
【0004】
従って、板ガラスユニットは、透過される太陽エネルギーの量を制限しなければならない。即ち、それは、比較的低い日射透過率(SFまたはg)を持たなければならない。しかしながら、それは、建造物の内側が満足に照射されることを確実にするために最も高い可能な光透過率(T
L)を保証しなければならない。幾分矛盾するこれらの条件は、高い選択性(S)を持つ板ガラスユニットを要求する。選択性は、光透過率の日射透過率に対する比率として規定される。これらの太陽光制御スタックはまた、低放射率を持ち、それは、低波長赤外線による熱損失を減少することを可能にする。従って、それらは、大きな板ガラス領域の断熱性を高め、寒候期のエネルギー損失及び加熱コストを低下する。
【0005】
光透過率(T
L)は、可視範囲において板ガラスを透過する光源D65の下での入射光束の百分率割合である。日射透過率(SFまたはg)は、一方で板ガラスユニットを直接透過し、他方で板ガラスユニットによって吸収され、次いで板ガラスユニットに対してエネルギー源とは反対の方向で再放射される入射放射エネルギーの百分率割合である。
【0006】
これらの太陽光遮蔽板ガラスユニットは、一般的に二重又は三重板ガラスユニットのような多層板ガラスユニットであり、そこではスタックを担持するガラス板は一つ以上の他のガラス板(それはまた、所望により被覆される)と組み合わされ、太陽光制御多層スタックはガラス板間の内部空洞部と密着される。
【0007】
ある場合において、機械的応力に耐える板ガラスユニットの能力を高めるように、板ガラスユニットを機械的に強化するための操作、例えば一枚以上のガラス板の熱的な焼き戻しを実施することが必要である。所望により、特定の用途のために、高温曲げ操作によってガラス板に比較的複雑な曲線を与えることも可能である。板ガラスユニットを製造しかつ造形するために使用される方法では、予め処理された基板を被覆する代わりに、基板が被覆された後にこれらの熱処理操作を実施することが有利である。これらの操作は比較的高い温度で実施され、その温度で赤外線を反射する材料(例えば銀)に基づく機能膜は、その光学的特性及び赤外線に対するその特性を低下及び損失する傾向を持つ。これらの熱処理は、特に処理のタイプ及びガラス板の厚さに依存して、560℃以上の温度、例えば560℃〜700℃の温度、特に640℃〜670℃の温度で空気中で約6,8,10,12又はさらに15分間、ガラス板を加熱することにある。曲げ処理の場合、ガラス板は、そのとき所望の形状に曲げられることができる。対照的に、焼き戻し処理は、そのときガラス板を機械的に強化するために空気の噴射又はクーラントを使用してガラス板の平坦な又は湾曲した表面を突然冷却することにある。
【0008】
被覆されたガラス板が熱処理を受けることが必要である場合において、スタック構造を製造するときに極めて特定の予防措置をとることが必要である。なぜならばそれは焼き戻し及び/又は曲げ熱処理に耐えることができなければならないからである。この特性は、以下において、その光学的特性及び/又はエネルギー特性を失わずに用語「焼き戻し可能な」によって言及される。それらの特性が、それがまず第一に存在する理由である。特に、誘電体被覆の形で誘電体材料を使用することが必要であり、それは、いかなる望ましくない構造変化も受けずに高温の熱処理に耐えることができる。この役割に特に適した材料の例は、亜鉛とスズの混合酸化物、特にスズ酸亜鉛、窒化ケイ素及び窒化アルミニウムである。また、例えば銀ベースである機能膜が、例えばスタックが処理されるとき、犠牲層が適所にあること(犠牲層が銀の代わりに酸化し、従って自由酸素を除去すること)を確実にすることによって処理時に酸化されないことに注意することもまた必要である。
【0009】
また、板ガラスユニットが光反射率(R
L)(即ち、可視範囲において板ガラスユニットによって反射される光源D65の下の入射光束の百分率割合)、及び反射及び透過における色に関して一定の審美的基準に合致することが望ましい。市場の要求は、板ガラスユニットが比較的低い光反射率を有するが、建造物が特定の薄暗い照明条件下で観察されるときに「ブラックホール」効果を避けるためにあまり低すぎない光反射率を有することである。さらに、高い選択性と比較的低い光反射率を組み合わせると、反射において紫色に導くことがあり、それは審美的にあまり心地良くない。
【0010】
太陽光遮蔽ユニットはまた、自動車の板ガラス分野において、例えばフロントガラスとして使用されるが、車両の他の板ガラスユニットにおいて、例えばサイドウインドウ、リアウインドウとして、又は車両の屋根においても使用される。この分野では、板ガラスユニットはしばしば積層される。即ち、スタックを担持する基板は、一般的にPVBから作られる接着性プラスチック膜によって別の透明基板(所望によりスタックも担持する)と組み合わされ、太陽光遮蔽スタックはPVBと密着して積層ユニットの内側に置かれる。車両の窓は、一般的に車両の形状に合うように湾曲されなければならない。基板がガラス板であるとき、曲げ操作は高温で実施され、スタックを備えた基板は、それが急冷されるかどうかにかかわらず上記の焼き戻し処理と同様の熱処理を受け、さらに基板がまだ高温である間に造形操作を受ける。
【0011】
板ガラスユニットを通って建物又は車両に入る熱の量を減少するために、板ガラスユニットを通過する目に見えない熱生成赤外線の量は、この赤外線を反射することによって減少される。これは、赤外線を反射する材料に基づく機能膜の役割である。それらは太陽光制御スタックの本質的要素である。
【0012】
最大の光透過性を保持しながら太陽光保護を改良するために多数の解決策が提案されているが、最適な光学的特性及び熱的特性を製造時の安定性と組み合わせる完全に満足のいく板ガラスユニットを与える解決策は全く与えられていない。
【0013】
PPG Industriesの名前の特許出願WO2009/029466A1は、自動車のための積層板ガラスユニットを記載し、そこではガラス板は、三つの機能銀ベース膜を含むスタックを担持する。それらを担持するガラス板から出発して、各銀膜は先行するものより薄い。この文献は、高い光透過率を有するスタックを記載し、それは自動車のフロントガラスを形成するために使用されることができる。しかしながら、このスタックの選択性は比較的低い。
【0014】
Saint−Gobtain Glassによって出願された特許出願EP645352A1は、太陽光遮蔽板ガラスユニットを記載し、そのスタックは、ガラスから出発して増大する厚さの三つの銀膜を含む。しかしながら、この文献の実施例1及び2によれば、選択性が比較的低いか、又は反射における色が比較的不安定であり、製造時の厚さの変動もしくは横方向の均一性不足に対して極めて敏感であるかのいずれかである。特に、工業上許容できるスタックを得るために、機能膜の厚さが固定されなければならないだけでなく、誘電体被覆の厚さも調整されなければならない。これを行なうためには極めて多くの方法があり、文献EP645352A1は最良の可能な結果を得る方法を全く教示しない。
【0015】
Saint−Gobtain Glassによって出願された特許出願WO2010/037698A1は、製造時の安定性の問題を解決することを試みている。この目的のため、それは、幾何学的厚さが中心対称を持つ少なくとも三つの銀膜を含むスタックを持つ太陽光遮蔽板ガラスユニットを記載する。この配置は、誘電体被覆の平行移動に対して製造安定性を独自に改良することを意図される(この場合において、全ての誘電体被覆の厚さは同じ量だけ増加又は減少する)。しかしながら、厚さ変動は、色相のいかなる変動に対しても累積的又は非累積的な影響を持ちうる。工業的な実施では、様々な誘電体被覆を付着するために使用される付着方法は互いに独立しており、従って機能膜の厚さの変動も考慮しながら各厚さ変動に対して良好な色相安定性を個々に確保することが必要である。さらに、このスタックは低い選択性を持つ。従って、問題の核心は、選択性を最大にしながら良好な安定性をどのように維持するかである。さらに、実施例は、四つの機能膜を含むスタックに関する。
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的の一つは、従来技術の欠点を完全に克服しながら高い選択性を有する効果的な太陽光保護を与える太陽光制御多層スタックを担持する透明基板を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、透過及び基板側反射の両方において心地良い外観を有し、例えば特に比較的中性の色相を持つ商業的要求を満たす被覆基板を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、色相を実質的に変更せずに、反射における良好な角度安定性を持つ(即ち、色相の変化の大きさが小さいか又は許容できる)被覆基板を得ることを容易にすることである。
【0019】
本発明の別の目的は、膜厚さが被覆基板のバッチの製造時に変動するとき、又は陰極に沿って変動しうる付着速度によって生じる横方法の均一性の不足があるとき、基板側上で観察するとあまり変動しない反射における色相を被覆基板に与えることである。
【0020】
本発明の別の目的は、有利なコスト価格で工業的規模で容易に大量生産されることができる被覆基板を提供することである。
【0021】
本発明は、各機能膜が誘電体被覆の間に挟まれるように、赤外線を反射する材料に基づく三つの機能膜、及び四つの誘電体被覆を含む太陽光制御多層スタックを担持する透明基板において、基板から数えて第二の機能膜の幾何学的厚さが第一の機能膜の幾何学的厚さより大きく、第三の機能膜の幾何学的厚さが第一の機能膜の幾何学的厚さより大きいこと、基板から数えて第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が2.0〜3.2であること、及び第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が0.6〜0.9または1.15〜1.7のいずれかであることを特徴とする透明基板に関する。
【0022】
驚くべきことに、請求項1に記載された特徴の組み合わせを実施することにより、工業的大量生産時に極めて安定した光学的特性を有する被覆基板を達成することが容易になる。干渉効果は複合的であり、本発明によるスタックが多くの膜を含むことが複合性を高める。製造時の膜厚さの変動は、実質的に変更される被覆基板の光学的特性に導きうる。本発明は、これらの工業的大量生産品の品質のこの不都合な変化を容易に最小にすることができる。
【0023】
本明細書では、与えられた値の範囲が二つの限界値間に含まれるとき、限界値は与えられた範囲に暗黙的に含まれる。光学的厚さは、考慮されている膜の幾何学的(物理的)厚さにその屈折率を掛けたものとして規定される。波長の関数として様々な材料の屈折の変動はかなり異なりうる。本発明の文脈では、透明誘電体の光学的厚さは、以下の式を使用して計算される:
光学的厚さ=d×n
ν
式中、dは、考慮されている膜の幾何学的(物理的)厚さであり、n
νは、以下の式を使用して得られる仮の屈折率である:
式中、n(550)は、550nmの波長における材料の屈折率である。
【0024】
透明誘電体被覆が複数の膜からなるなら、考慮されている透明誘電体被覆の全光学的厚さは、上で示されたように計算された様々な膜の光学的厚さの合計である。
【0025】
本明細書では、特記しない限り、簡単のため、2.03の屈折率が常に使用され、その屈折率はZnO,SnO
2又はスズ酸亜鉛ZnSnO
4のような誘電体材料に対応する。しかしながら、他の誘電体材料を使用してもよいことはもちろん理解されるだろう。例えば、ここでは最も一般的に使用される誘電体材料の幾つかの550nmの波長における屈折率n(550)は以下の通りである:
【0026】
本明細書では、特記しない限り、全ての光学的及び熱的特性の値及び値の範囲は、膜スタックを担持する通常の6mm厚のソーダ石灰ガラス板;90%Ar及び10%空気を充填した15mm厚の中間空洞部;及び別の4mm厚の未被覆ソーダ石灰ガラス板によって形成された二重板ガラスユニットに対して与えられる。6mm厚ガラス板の被覆面は、二重板ガラスユニットの内側に位置される。6mm厚ガラス板と同じ側上で観察される反射率は「R
G」(即ち、被覆ガラスの「ガラス側」からの反射率)で示され、一方、4mm厚ガラス板と同じ側上で観察される反射率は「R
F」(即ち、被覆ガラスの「膜側」からの反射率)で示される。色相は、10°の観察者に対して光源D65の下でのCIELAB L
*a
*b
*座標として表わされる。スタックのない通常のソーダライムガラスの光透過率(T
L)は、6mm厚板に対して89%であり、4mm厚板に対して90%である。
【0027】
透明誘電体被覆はスパッタ付着膜の分野で良く知られている。多くの好適な材料があり、ここでそれらの全てを挙げて指摘しない。それらは一般的に酸化物、酸窒化物又は金属窒化物である。最も一般的なものとしては、例えば、SiO
2,TiO
2,SnO
2,ZnO,ZnAlO
X,Si
3N
4,AlN,Al
2O
3,ZrO
2,Nb
2O
5,YO
X,TiZrYO
X,TiNbO
X,HfO
X,MgO
X,TaO
X,CrO
X及びBi
2O
3、並びにそれらの混合物を挙げることができる。また、AZO,ZTO,GZO,NiCrO
X,TXO,ZSO,TZO,TNO,TZSO,TZAOおよびTZAYOも挙げることができる。用語「AZO」は、好ましくは酸化物から作られたセラミック陰極を使用して不活性又はわずかに酸化性の雰囲気のいずれかで付着して得られる、アルミニウムをドープされた酸化亜鉛又はアルミニウムと亜鉛の混合酸化物に関する。同様に、用語「ZTO」又は「GZO」は、セラミック陰極を使用して不活性又はわずかに酸化性の雰囲気のいずれかで付着してそれぞれ得られた、亜鉛とチタンの混合酸化物及びガリウムと亜鉛の混合酸化物に関する。用語「TXO」は、酸化チタンから作られたセラミック陰極を使用して得られた酸化チタンに関する。用語「ZSO」は、酸化性雰囲気の下で付着された合金から作られた金属陰極から、又は不活性もしくはわずかに酸化性の雰囲気のいずれかで付着された対応する酸化物から作られたセラミック陰極から得られた亜鉛とスズの混合酸化物に関する。用語「TZO」、「TNO」、「TZSO」、「TZAO」又は「TZAYO」は、セラミック陰極を使用して不活性又はわずかに酸化性の雰囲気のいずれかでそれぞれ得られた、チタンとジルコニウムの混合酸化物、チタンとニオブの混合酸化物、チタンとジルコニウムとスズの混合酸化物、チタンとジルコニウムとアルミニウムの混合酸化物、及びチタンとジルコニウムとアルミニウムとイットリウムの混合酸化物に関する。上記の全ての材料は、本発明に使用される透明誘電体被覆を形成するために使用されることができる。
【0028】
好ましくは、基板から数えて第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率は、2.1以上であり、この比は、好ましくは2.1〜3.0、有利には2.1〜2.7、例えば2.15〜2.7、さらに好ましくは2.15〜2.55である。
【0029】
好ましくは、基板から数えて第二の機能膜は12〜16nmの厚さ、有利には13〜15nmの厚さであり、基板上に付着された第一の誘電体被覆の光学的厚さは44〜86nm、有利には46〜80nmである。これらの特徴は、基板側上で見ると特に心地良い反射における色相、特に−1.5〜−4のa
*値、及び−3〜−9のb
*値を有するスタックを得ることを可能にする。
【0030】
好ましくは、三つの機能膜の各々は、基板から出発して先行するものより厚い。即ち、基板から出発して第三の機能膜の厚さはまた、第二の機能膜の厚さより大きい。有利には、第二及び第三の機能膜の各々は先行するものより少なくとも5%厚い。
【0031】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率は0.9以下であり、この比は好ましくは0.65〜0.9であり、有利には0.7〜0.85である。
【0032】
本発明の第一実施形態に従って得られたスタックは、スタック側上の反射において観察された色相に関して安定している。従って、スタック側上で観察される「Deltacol」値(その式は以下に与えられる)によって表わされる製造時の色相の安定性は、1.95〜2.02の選択性に対して1.8〜2.5である。さらに、これらのスタックは、優れた外観を良好な角度安定性と組み合わせ、また、基板側上で反射において観察される色相が製造時に安定しているという利点を有し、Deltacol値によって表わされるこの安定性は、例えば2.1より低く、さらに1.9より低く、さらに1.8より小さい。
【0033】
大量生産製造における色相の安定性は、もし一貫した高品質製品の製造が保証されることになるなら重要な要素である。比較のため、フィルム厚さにおける変動後の反射における色相の変化は、数学式を使用して定量化される。製造時の色相変動指数は、「Deltacol」と称され、以下の関係式によって規定される:
式中、Δa
*及びΔb
*は、スタックの各誘電体被覆及び各機能膜の厚さが個々に±2.5%で変動するとき、a
*及びb
*のそれぞれの最高値と最低値の間の差である。a
*及びb
*の値は、光源D65/10°観察者の下で測定されたCIELAB(1976)L
*a
*b
*座標である。
【0034】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、基板から数えて第一の機能膜の幾何学的厚さは9〜14nm、好ましくは10〜13nm、有利には11〜13nmである。
【0035】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、基板から数えて最後の機能膜の幾何学的厚さは11.5〜17nm、好ましくは13〜16nmである。
【0036】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さは138〜170nm、好ましくは140〜165nm、有利には148〜160nmである。
【0037】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、第二と第三の機能膜の間に配置された第三の透明誘電体被覆の光学的厚さは101〜155nm、好ましくは107〜147nm、有利には117〜147nmである。
【0038】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さは40〜76nm、好ましくは44〜71nm、有利には50〜70nmである。
【0039】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、基板から数えて第一の機能膜と基板の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率は0.5〜1.7、好ましくは0.6〜1.6、有利には0.9〜1.5である。
【0040】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、基板から数えて第三の機能膜の幾何学的厚さの第二の機能膜の幾何学的厚さに対する比率は0.9〜1.35、好ましくは1.0〜1.2、有利には1.1〜1.2である。
【0041】
好ましくは、本発明の第一実施形態によれば、基板から数えて第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さの基板と第一の機能膜の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率は1.6〜3.8、好ましくは1.8〜3.5、有利には2.0〜3.0である。
【0042】
有利には、第一実施形態による全てのこれらの特徴は、最良の可能な結果を得るために組み合わされる。
【0043】
本発明の第一実施形態によるこれらの特徴を実施することにより、さらに<3、好ましくは<2、さらには<1のb
*値を持つ、透過における特に中性の色相を持つスタックを得ることを容易にする。
【0044】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率は1.2以上であり、この比は1.2〜1.5、有利には1.2〜1.4、さらに好ましくは1.2〜1.3である。
【0045】
好ましくは、本発明のこの第二実施形態によれば、基板から数えて第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率は2.2以上、好ましくは2.3以上、有利には2.4以上である。焼き戻し可能な膜の場合には、この比が有利には2.4以上であり、好ましくは2.4〜2.7であり、さらにこの場合において、後者の特徴と組み合わせて、第二と第三の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さの第一と第二の機能膜の間に配置された透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率が1.3以上であることが有利である。
【0046】
本発明の第二実施形態に従って得られるスタックは良好な選択性を持つ。選択性はおそらく2.02より高く、又はさらには2.05より高いだろう。さらに、これらのスタックは、良好な角度安定性と優れた外観を組み合わせ、また、ガラス側上で反射において観察される色相が製造時に安定しているという利点を有する。この安定性は、Deltacol値によって表わされ、例えば2.1より低く、さらには1.9より低く、さらには1.8より低い。
【0047】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、基板から数えて第一の機能膜の幾何学的厚さは8〜12nm、有利には9〜11nm、好ましくは10〜11nmである。
【0048】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、基板から数えて最後の機能膜の幾何学的厚さは16〜20nm、有利には17〜19nm、好ましくは18〜19nmである。
【0049】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さは105〜150nm、有利には115〜136nm、好ましくは119〜132nmである。
【0050】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、第二と第三の機能膜の間に配置された第三の透明誘電体被覆の光学的厚さは152〜175nm、有利には156〜175nmである。
【0051】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さは58〜82nm、有利には67〜80nmである。
【0052】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、基板から数えて第一の機能膜と基板の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さの最後の機能膜上に配置された最後の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率は0.5〜1.2、有利には0.6〜1.1である。
【0053】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、基板から数えて第三の機能膜の幾何学的厚さの第二の機能膜の幾何学的厚さに対する比率は1.1〜1.8、有利には1.2〜1.6である。
【0054】
好ましくは、本発明の第二実施形態によれば、基板から数えて第一と第二の機能膜の間に配置された第二の透明誘電体被覆の光学的厚さの基板と第一の機能膜の間に配置された第一の透明誘電体被覆の光学的厚さに対する比率は1.5〜2.6、有利には1.7〜2.4である。
【0055】
好ましくは、基板は、通常の透明又はバルク着色のソーダ石灰ガラス板である。これは、太陽光制御板ガラスに基づく最も好ましい基板であり、それは、焼き戻し又は曲げ熱処理のような高温熱処理を受けてもよい。有利には、基板は、90%より高い、さらには91%に等しいか又はそれより高い、さらには92%に等しいか又はそれより高い光透過率を有する超透明ガラス板である。特に好ましい基板は、AGC Glass Europeによって商品名Clearvision(登録商標)の下で販売されるガラスである。
【0056】
本発明の一実施形態は、極めて低い日射透過率を持つ多層スタックを担持する透明基板を含む。かなりの量の熱生成放射線が可視領域において透過される。熱生成放射線のこの部分の透過率を低下し、赤外線によって供給されるエネルギーを除去すること以上のことをするためには、光透過率のレベルを低下することが必要である。この場合において、スタックは、光透過率を低減するために意図的に光を吸収する。この吸収は、スタック内のどこかに吸収性材料の膜を挿入することによって得られ、この材料は、おそらく、例えば吸収性の金属、金属酸化物、もしくは酸素が化学量論以下の金属酸化物から、又は吸収性の金属窒化物、窒素が化学量論以下の金属窒化物もしくは金属酸窒化物から形成される。また、一つ以上の機能膜を保護する金属膜の厚さを単に増加することも可能である。上記のような二重板ガラスユニットの光透過率は、そのとき有利には57%以下である。
【0057】
しかしながら、本発明のこの実施形態から、スタック中に可視領域において吸収する少なくとも二つの金属の膜(特にチタンベースの膜)がある特定の場合を除外することが必要であり、これらの膜の各々は、機能膜上に配置されて密着され、その金属膜は、いかなる任意の熱処理後であっても得られた二重板ガラスユニットの光透過率を50%未満にする。この場合において、機能膜上に配置されたこれらの吸収性(可視領域において)の金属膜の吸収性金属の全厚さは、いかなる任意の熱処理後であっても最終製品で測定すると1.3nmより大きい。この特定の場合は、出願人の名前でPCT/EP2011/058540の下で2011年5月25日に出願された国際特許出願の対象であり、それは本発明の範囲に含まれない。本発明によるスタックは、吸収性金属膜をそれらの完成した使用準備状態で(いかなる任意の熱処理後に)存在させなくても上記の全ての希望の特性を得ることを可能にする。
【0058】
好ましくは、本発明によるスタックの光透過率T
Lは、それが上で示した二重板ガラスユニットに適合されるときで、かついかなる任意の熱処理後であっても、51%より高く、有利には54%より高く、好ましくは57%に等しいか又はそれより高い。本発明によるスタックを含む二重板ガラスユニットの光透過率は、例えば58%,59%又は60%より高い。焼き戻し可能/曲げ可能なスタックに対して、熱処理後に64%より高い、さらには66%より高い光透過率が得られている。
【0059】
本発明は、上記のような太陽光制御多層スタックを担持する基板を少なくとも一枚含む多層板ガラスユニットに関する。
【0060】
好ましくは、上で規定したような二重板ガラスユニットの光透過率T
Lは51%より高く、有利には55%より高く、好ましくは60%に等しいか又はそれより高い。
【0061】
好ましくは、二重板ガラスユニットの日射透過率は34%以下、好ましくは32%以下、有利には30.5%以下である。
【0062】
好ましくは、二重板ガラスの選択性は1.95より高く、有利には2に等しいか又はそれより高く、好ましくは2.05に等しいか又はそれより高い。
【0063】
本発明はまた、接着性プラスチックによって本発明によるガラス材料と組み合わされた上記のような少なくとも一枚の透明基板を含む積層板ガラスユニットに関する。かかる板ガラスユニットは、例えばフロントガラスとして、自動車における板ガラスユニットとして有利に使用される。
【0064】
本発明はまた、上記のように太陽光遮蔽スタックを担持し、かつ560℃以上の温度で焼き戻し及び/又は曲げ熱処理を受けた、焼き戻しされた板ガラスユニットに関する。
【0065】
本発明は、以下により詳細に記載されるが、好ましい実施形態を使用して限定しない方法で記載されるだろう。
【実施例】
【0066】
実施例1〜13
実施例1〜13は同様の方法で製造され、得られた構造は同様であり、かつさらに同一(実施例1〜10)であったが、厚さは表1に示すように変化された。
【0067】
6mm厚の通常の透明ソーダ石灰フロートガラスの3.2m×1mの板は、低圧(約0.3Pa)のマグネトロンスパッタリングコーターに置かれた。太陽光制御多層スタックはこのガラス板上に付着され、多層は以下のものをその順序で含んでいた。
【0068】
第一誘電体被覆はガラス板上に付着された。この第一被覆は、金属陰極を使用して、アルゴンと酸素の混合物からなる反応性雰囲気において付着された二つの金属酸化物膜によって形成された。第一金属酸化物は、スピネルスズ酸亜鉛Zn
2SnO
4を形成するために52重量%の亜鉛及び48重量%のスズからなる亜鉛/スズ合金から作られた陰極を使用して形成された亜鉛とスズの混合酸化物であった。第二金属酸化物は、亜鉛ターゲットを使用して付着された、約9.2nmの幾何学的厚さを有する酸化亜鉛ZnOの層であった。第一の亜鉛とスズの混合酸化物膜の厚さは、以下の表1に示される第一誘電体被覆D1に対する幾何学的厚さを達成するように第二ZnO膜の厚さの補足であった。
【0069】
銀から作られた赤外線反射機能膜IR1は、次いで不活性雰囲気(例えばアルゴン)においてほとんど純粋な銀ターゲットを使用して、第一誘電体被覆D1上に付着された。この膜IR1の幾何学的厚さは表1に与えられる。
【0070】
犠牲Ti金属から作られた1.4nm厚の保護膜は、不活性雰囲気においてチタンターゲットを使用して銀膜上に直接付着された。犠牲Ti膜は銀膜と共通の界面を有する。以下に記載された以下の膜を付着するときに使用されるプラズマの酸化性雰囲気はこの犠牲チタン膜を酸化する。焼き戻し、曲げ及び/又は強化熱処理(後者は、冷却があまり迅速でない焼き戻し処理である)を受けることを意図されるスタックでは、2.4〜3.2nmのチタンは同じ条件下で付着されるだろう。酸化物への変換後の保護膜の厚さ(それは2.5nmより大きい(焼き戻し可能でないスタックのために付着された保護膜におけるチタンの1.4nm(幾何学的厚さ)に相当する酸化物における値))は、本発明による比率を計算するときに以下の誘電体被覆の厚さに加えられるべきである。
【0071】
同じようにして、以下の膜が次いで保護膜上に付着された:
第二誘電体被覆D2、第二機能膜IR2、1.4nm厚の犠牲Ti膜、第三誘電体被覆D3、第三機能膜IR3、及び別の1.4nm厚の犠牲Ti膜、続いて第四及び最後の誘電体被覆D4。
【0072】
第二及び第三の赤外反射機能膜IR2及びIR3は、膜IR1と同様にして不活性アルゴン雰囲気においてスパッタされたほとんど純粋な銀のターゲットを使用して銀から形成された。
【0073】
第二及び第三の誘電体被覆(それぞれD2及びD3)は各々三つの金属酸化物膜によって形成された。第一金属酸化物は、20nm厚のZnAlO
Xの層を得るために2重量%アルミニウムをドープされた亜鉛酸化物から作られたセラミック陰極を使用して得られかつわずかに酸化性の雰囲気において付着された酸化亜鉛であった。第二金属酸化物は、スピネルスズ酸亜鉛Zn
2SnO
4を生成するようにアルゴンと酸素の混合物からなる反応性雰囲気において付着された52重量%の亜鉛及び48重量%のスズからなる亜鉛/スズ合金から作られた陰極を使用して形成された亜鉛とスズの混合酸化物であった。二つの被覆D2及びD3の各々の第三の金属酸化物膜は、上記の第一誘電体被覆のZnO膜と同じ方法で得られた20nm厚のZnO膜であった。これらの二つの被覆D2及びD3の各々の亜鉛とスズの混合酸化物膜の厚さは、以下の表1に示される第二及び第三の誘電体被覆D2及びD3のための幾何学的厚さを達成するようにこれらの二つの被覆の各々の第一及び第三の金属酸化物膜の厚さの補足であった。
【0074】
第四誘電体被覆D4は二つの金属酸化物膜によって形成された。第一金属酸化物は、13nm厚のZnAlO
X層を得るために2重量%アルミニウムをドープされた亜鉛酸化物から作られたセラミック陰極を使用して得られかつわずかに酸化性雰囲気において付着された酸化亜鉛であった。第二金属酸化物は、スピネルスズ酸亜鉛Zn
2SnO
4を生成するように52重量%の亜鉛及び48重量%のスズからなる亜鉛/スズ合金から作られた陰極を使用して、アルゴンと酸素の混合物からなる反応性雰囲気において付着された亜鉛とスズの混合酸化物であった。この第二の亜鉛とスズの混合酸化物膜の厚さは、以下の表1に示される第四誘電体被覆D4の幾何学的厚さを達成するように第一ZnAlO
X膜の厚さの補足であった。所望により、2nm厚の最後の保護TiO
2膜はこの第四誘電体被覆上に付着されてもよく、最後の保護TiO
2膜は、アルゴンと酸素の混合物からなる酸化性雰囲気においてチタン陰極を使用して得られる。この場合において、この薄い膜の光学的厚さは、第四誘電体被覆の全光学的厚さを計算するときに考慮されなければならない。
【0075】
表1において、示された厚さは全て幾何学的(物理的)厚さである。光学的厚さを得るために、必要とされる全てのことは、示された厚さを使用された材料の屈折率で掛けることである。上で述べた誘電体被覆及び機能膜に対する様々な厚さ比率の値もまた与えられる。これらの比率は、犠牲保護金属膜(これらの膜の各々は1.4nmのTiである)の厚さを考慮せずに計算される。
【0076】
被覆されたガラス板は、次いで4mm厚の別の透明ガラス板と組み合わされて二重板ガラスユニットになった。被覆は、二重板ガラスユニットの内部空洞部と同じ側上に配置された。二つのガラス板を分離する空洞部は15mm幅であり、そこに含まれる空気の90%がアルゴンで置換された。表2に示された光学的特性及び熱的特性は、被覆された基板のガラス側から二重板ガラスユニットを観察することによって得られ、スタックは位置2に配置される。即ち、スタックを被覆されたガラス板のガラス側は観察者に最も近い。そのときは透明な膜なしのガラス板である。本発明では、以下の慣例が測定又は計算値に対して使用された。光透過率(T
L)及び光反射率(R
L)は、光源D65/2°観察者の下で測定された。反射における色相、及び透過における色相に関して、CIELAB1976(L
*a
*b
*)値は、光源D65/10°観察者の下で測定された。日射放射率(SF又はg)は、標準規格EN410に従って計算された。
【0077】
表2では、選択性(S)及びDeltacol(DC)値もまた示され、そして「Shift a
*」及び「Shift b
*」とそれぞれ称される、観察角が0から55°まで変化するとき、基板側上の反射におけるa
*及びb
*の変動に対する値もまた示される。「DC(R
G)」は、変動指数(Deltacol)が基板側上の反射で得られたことを示し、「DC(R
F)」は、変動指数(Deltacol)がスタック側上で得られたことを示す。色相値について、「T
L」は、値が透過で測定されたことを示し、「R
F」は、値がスタック(膜)側上で反射で測定されたことを示し、「R
G」は、値が基板(ガラス)側上で反射で測定されたことを示す。誘電体材料、スズ酸亜鉛、ZnO及びZnAlO
Xについての550nmの波長における屈折率n(550)は、2.03であった。
【0078】
反射で得られた色相が心地良いものであり、市場の要求に対応することに気づくだろう。基板側からの反射の量はあまり低くなく、それによって「ブラックホール」又は「ミラー効果」を避ける。色相における角度変動は小さく、完全に許容可能であり、製造安定性は特に良好である。
【0079】
実施例11〜13は焼き戻し可能なスタックである。銀膜を保護する犠牲金属から作られた三つの膜の厚さは2.6nmに増加された。この場合において、任意の4nm厚の最後の保護TiN膜が付着されてもよく、その保護膜は熱処理後にTiO
2に変換される。もしこの任意の膜が使用されるなら、この最後の保護膜の光学的役割は、上で示されたように計算される、その光学的厚さを最後の誘電体被覆の全厚さ中に含めることによって最終製品において考慮される。表2に与えられた特性は、得られた二重板ガラスユニットの特性であり、スタックは焼き戻されている(650℃で8分間加熱された後に低温ブローエアーでの突然の冷却)。
【0080】
変形例として、以下の順序の膜の一つがD1,D2及び/又はD3のために使用されてもよい:TiO
2/ZnO:Al又はTZO/TiO
2/ZnO又はSnO
2/ZnO/SnO
2/ZnO又はZnO:Al/ZnSnO
4/ZnO。D1のために、以下の順序の膜の一つが使用されてもよい:Si
3N
4/ZnO又はAlN/ZnO。D4のために、以下の順序の膜の一つが使用されてもよい:ZnO/SnO
2又はZnO/TZO又はZnO:Al/ZnSnO
4又はZnO/SnO
2/Si
3N
4又はZnO/SnO
2/AlN、所望により外部保護膜を持つ。各場合において、様々な成分の幾何学的な厚さが、それらの屈折率に依存して、屈折率2.03を掛けた表1に示された幾何学的厚さに対応する誘電体被覆の光学的厚さを得るために好適に選択される。使用された誘電体材料の550nmの波長における屈折率n(550)は以下の通りである:TiO
2について、n(550)=2.5;Si
3N
4について、n(550)=2.04;Al
2O
3について、n(550)=1.8;AlNについて、n(550)=1.9;TZOについて、n(550)=2.26。光学的厚さは、上で与えられた式を使用して計算された仮の屈折率を使用して計算されなければならない。同じ特性が得られた。
【0081】
変形例として、銀膜上に直接付着された保護膜IR1,IR2及び/又はIR3は、薄くてもよく(2nm厚)、任意選択的にドープされたチタン又は酸化亜鉛からそれぞれ作られたセラミック陰極を使用して、CO
2のような酸素を発生しうるガス又は酸化性ガスを含有する雰囲気において、任意選択的にアルミニウムドープされてもよく、TiO
X又はZnO
X膜を付着されてもよい。三つの保護膜がセラミック陰極を使用して付着されたTiO
Xからこのようにして形成されるとき、光透過率T
Lにおける増加は、続く誘電体被覆を付着するために使用される方法(その方法は酸化性雰囲気で実施される)によって酸化される犠牲Ti金属によって形成される保護膜に対してモノリシック板では6〜8%であることができる。三つの保護膜がセラミック陰極を使用して付着されたZnO:Al(2重量%アルミニウム)からこのようにして形成されるとき、光透過率T
Lの増加は、続く誘電体被覆を付着するために使用される方法(その方法は酸化性雰囲気で実施される)によって酸化される犠牲Ti金属によって形成される保護膜に対してモノリシック板では3%である。
【0082】
さらに他の変形例によれば、透明誘電体被覆D4では、上記金属酸化物の順序を、ZnO:Al/TiO
2又はTZOの順序によって、ZnO:Al/SnO
2/TiO
2又はTZOの順序によって、又はさらにZnO:Al/ZnSnO
4/TZOの順序によって置き換えることが可能である。
【0083】
比較例1及び2
表1及び2に示された比較例1(C1)及び比較例2(C2)は、本発明によって要求される誘電体被覆厚さの比率の組み合わせが満たされていないので、本発明によってカバーされないスタックに関する。しかしながら、それらの構造に関して、それらは、本発明による実施例と同様の方法で製造され、比較例1(C1)は焼き戻し可能でないスタックと同じ構造を有し、比較例2(C2)は焼き戻し可能なスタックと同じ構造を有する。様々な厚さが、本発明による実施例に対してと同じ方法で表1に与えられる。
【0084】
比較例1(C1)について、選択性が本発明による実施例に対してより明らかに低いことに特に気づくだろう。本発明は、心地良い外観と極めて良好な色相安定性を保持しながら選択性を最適化することを可能にする。
【0085】
比較例2(C2)は、上述の文献EP645352の教示によって与えられるものである。高い選択性が得られ、心地良い外観であるが、大量生産時の色相の安定性を犠牲にしている:値DC(R
G)は、本発明に従って得られた値より20%以上大きい。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】