【実施例】
【0009】
次に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
GAD抗体に対するICT−EIA法
(1)
試薬類
a)
一般試薬:
牛血清アルブミン(BSA)は、ナカライテスク(京都)より、ストレプトアビジンは和光純薬工業(大阪)より購入した。この他の一般試薬はナカライテスクおよび和光純薬工業より購入した。
b)
抗体:
ウサギ抗2,4−ジニトロフェニル基(DNP)−ウシ血清アルブミン(BSA)血清は、シバヤギ社(群馬)より購入した。
b)
抗原:
リコビナント・ヒト・GAD65は、RSR Limited (Cardiff, UK)より購入した。
c)緩衝液:
0.1M NaCl, 0.1% BSA, 1mM MgCl
2および0.1% NaN3を含む0.01M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)を緩衝液A、0.4M NaCl, 0.1% BSA, 1mM MgCl
2および0.1% NaN3を含む0.01M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)を緩衝液B、0.1M NaCl, 0.01% BSA, 1mM MgCl
2および0.1% NaN3を含む0.01M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)を緩衝液C、0.1M NaClを含む0.01M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)を緩衝液D、5mM EDTAを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)を緩衝液Eとした。
d)
ELISAキット:
GAD抗体のELISAキットは、RSR Limited (Cardiff, UK)より購入した。
(2)
標識化抗原等
a)
DNP化標識GAD,β−D−ガラクトシダーゼ標識GAD:
1)
チオール基導入GADの調製:
0.1M Tris−HCl, pH8.5 に溶解されているGAD溶液0.4mg / 0.48mlにDMFで溶解した13mM SATA 10μlを加え、30℃、30分間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液に4M hydroxylamine 10μlを加え、30℃、5分間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液は、緩衝液Eにより平衡化したSephadex G−50 (5ml) カラムによる遠心脱塩法を用い(文献)、過剰の試薬を取り除き、得られたチオール基導入GADは、以下の標識に供した。GAD1分子当たり4.0分子のチオール基が導入された。
2)
マレイミド基導入DNPの調製:
DNP−Lys 1.8mgをDMF 0.18mlに溶解後、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)0.72mlを加え、DMFに溶解した 4mM EMCS 0.1mlを加え、30℃、30分間インキュベーションし、マレイミド基導入DNP−Lysを調整した。
3)
マレイミド基導入β−D−ガラクトシダーゼの調製:
β−D−ガラクトシダーゼ 3mgを緩衝液E 0.52mlに溶解し、DMFに溶解した50mM N,N’−(o−phenylene) dimaleimide(OPDM)(Sigma−Aldrich)26.3μlを加え、30℃、30分間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液は、緩衝液Eにより平衡化したSephadex G−50(5ml)カラムによる遠心脱塩法を用い(文献)、過剰の試薬を取り除き、得られたマレイミド基導入β−D−ガラクトシダーゼは、以下の標識に供した。β−D−ガラクトシダーゼ1分子当たり15.6分子のマレイミド基が導入された。
4)
DNP化標識GADの調整:
マレイミド基を導入したDNPとチオール基を導入したGADをそれぞれ、160μMと17μMになるように混合し、4℃、17時間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液に緩衝液Eに溶解した100mM ME 10μlを加え、30℃、5分間インキュベーション後、100mM NEM 20μlを加え、30℃、5分間インキュベーションし、未反応のチオール基およびマレイミド基をブロックした。反応液は0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)により平衡化したSephadex G−50 (5ml) カラムによる遠心脱塩法を用い(文献)、過剰の試薬を取り除き、DNP化標識抗原コンジュゲート(捕捉用)を得た。
5)
β−D−ガラクトシダーゼ標識GADの調整:
マレイミド基を導入したβ−D−ガラクトシダーゼとチオール基を導入したGADをそれぞれ、3.4μMと8.5μMになるように混合し、4℃、17時間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液に緩衝液Eに溶解した100mM ME 10μlを加え、30℃、5分間インキュベーション後、100mM NEM 20μlを加え、30℃、5分間インキュベーションし、未反応のチオール基およびマレイミド基をブロックした。次いで、反応液を緩衝液Cにより平衡化したUltrogel AcA22(1.5×45cm)に添加し、β−D−ガラクトシダーゼ標識抗原コンジュゲート(検出用)を得た。
b)
DNP化ビオチン化標識GAD:
1)
チオール基導入GADの調製:
0.1M Tris−HCl, pH8.5 に溶解されているGAD溶液0.4mg / 0.48mlにDMFで溶解した13mM SATA 10μlを加え、30℃、30分間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液に4M hydroxylamine 10μlを加え、30℃、5分間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液は、緩衝液Eにより平衡化したSephadex G−50 (5ml) カラムによる遠心脱塩法を用い(文献)、過剰の試薬を取り除き、得られたチオール基導入GADは、以下の標識に供した。GAD1分子当たり4.2分子のチオール基が導入された。
2)
マレイミド基導入DNPの調製:
DNP−Lys 1.0mgをDMF 0.1mlに溶解後、0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)0.8mlを加え、DMFに溶解した0.6mM EMCS 0.1mlを加え、30℃、30分間インキュベーションし、マレイミド基導入DNP−Lysを調整した。
3)
マレイミド基導入ビオチンの調製:
ビオチン−Lys 1.0mgに0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)0.9mlを加え、DMFに溶解した0.2mM EMCS 0.1mlを加え、30℃、30分間インキュベーションし、マレイミド基導入ビオチン−Lysを調整した。
4)
DNP化ビオチン化標識GADの調整:
マレイミド基を導入したDNPとマレイミド基を導入したビオチンを同量の割合で合せ、マレイミド基導入DNPとマレイミド基導入ビオチンの混合液を作成した。混合液およびチオール基を導入したGADをそれぞれ、78μMと19μMになるように混合し、4℃、17時間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液に緩衝液Eに溶解した100mM ME 10μlを加え、30℃、5分間インキュベーション後、100mM NEM 20μlを加え、30℃、5分間インキュベーションし、未反応のチオール基およびマレイミド基をブロックした。反応液は透析用セルロースチューブ(三光純薬株式会社 東京)を用い、緩衝液(0.1M リン酸ナトリウム緩衝液 pH 7.0)に対して透析を行い、過剰の試薬を取り除き、DNP化ビオチン化標識抗原コンジュゲート(捕捉用)を得た。GAD1分子当たり1.3分子のDNPおよび2.9分子のビオチンが導入された。
(3)
実験材料等
a)
固相の調製:
アフィニティー精製した抗DNP−IgGおよび抗human IgG−IgGは、直径6.4mmのポリスチレンビーズ(イムノケミカル、岡山)と一夜室温で浸漬後、緩衝液Aで洗浄し、4℃で保存した。ビオチン化BSAは、直径6.4mmのポリスチレンビーズと一夜室温で浸漬後、0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.5)で洗浄し、さらにストレプトアビジン溶液に一夜室温で浸漬後、緩衝液Aで洗浄し、4℃で保存した。
b)
血液サンプル:
血清サンプルは、12時間絶食後の早朝空腹時に採血し(NIPRO, 22G ホルダー付, 大阪)、室温30分静置後、遠心分離機(テーブルトップ 冷却遠心機 2800 KUBOTA, 株式会社久保田製作所, 東京)で3000rpm、10分遠心し、血清を得た。血清はマイナス20℃で保存した。
c)
デキストラン−チャーコールの調整:
チャーコール(ナカライテスク)1.2gを蒸留水で数回洗浄後、蒸留水で10mlにした。これにデキストラン(Sigma)0.3gを加えて撹拌した。次に、メチルセルロース(Sigma−Aldric)30mgを緩衝液A 10mlの上に載せ、撹拌せずに4℃で16時間かけて溶解させた。調製したデキストラン−チャーコール液にメチルセルロース液を同じ割合で混合し、15分間撹拌してデキストラン−チャーコール(以降DCとする)液とし、4℃で保存した。
d)
DC液による血清処理:
血清50μlに緩衝液A 150μlを加えて希釈後、さらに0.4M HClを13.6μl加えて酸性化した。1分後、上記のDC液を72.8μl加え、6分間振盪した後、0.4M NaOHを13.6μl加えて中和した。中和後1500×g, 15分間遠心し、上清を取り出して、この上清をさらにもう1回同様に遠心し、完全にDCを除いた後、4℃で保存した。
(4)
方法
a)
GAD抗体に対するICT−EIA−1法:
20倍希釈した血清(100μl)とDNP化標識GADおよびβ−D−ガラクトシダーゼ標識GAD、1.0μM 不活性β−D−ガラクトシダーゼを緩衝液Aに溶解した混合液(100μl)を混合し、4℃、16時間インキュベーションして、酵素標識抗原・GAD抗体・補足用標識抗原の3者からなる免疫複合体を形成された。次いで、この反応液にアフィニティー精製抗DNP−IgG不溶化固相ポリスチレンビーズ1個を加え、0.5時間反応させてビーズ上に免疫複合体を補足した。このビーズを緩衝液C(2ml)で2回洗浄後、緩衝液Aに溶解した2mM DNP−Lys(150μl)と0.5時間反応させビーズから免疫複合体を溶出させた。抗DNP−IgG不溶化固相ポリスチレンビーズを除去した後、溶出液にアフィニティー精製抗human IgG−IgG不溶化固相ポリスチレンビーズ1個を加え、さらに0.5時間反応させ、第2のビーズ上に免疫複合体を転移させた。ビーズとの反応はすべて25℃で210回/分の振盪下に行った。再びビーズを緩衝液C(2ml)で3回洗浄後、ビーズ上に転移させたβ−D−ガラクトシダーゼ活性を0.2mM 4−Methylumbelliferyl β−D−galactopyranoside(蛍光基質; 4MUG)(200μl)を用いて30℃でインキュベーションし、0.1M グリシンナトリウム緩衝液(pH 10.5)(2ml)を加え反応を停止後、蛍光分光光度計(F−2500、日立)を用いて測定した。なお、励起波長360nm、蛍光波長450nmを用い、蛍光強度は10
−8M 4MUを100として換算した。
b)
GAD抗体に対するICT−EIA−2法:
20倍希釈した希釈血清(100μl)にDNP標識GADとビオチン標識GAD、1.0μM 不活性β−D−ガラクトシダーゼを緩衝液Bに溶解した混合液(100μl)を加えて混合し、4℃、16時間インキュベーションして、DNP標識抗原・自己抗体・Biocytin標識抗原の3者からなる免疫複合体を形成した。次いで、この反応液にアフィニティー精製抗DNP−IgG不溶化ポリスチレンビーズ1個を加え、0.5時間反応させてビーズ上に免疫複合体を補足した。その後、溶液のみを吸い出し、そこにストレプトアビジン標識酵素を100μl添加し、さらに0.5時間反応させてビオチン標識GADとストレプトアビジン標識酵素を結合させた。このビーズを緩衝液C(2ml)で2回洗浄後、緩衝液Aに溶解した2mM DNP−Lys(150μl)と0.5時間反応させビーズから免疫複合体を溶出させた。抗DNP−IgG不溶化固相ポリスチレンビーズを除去した後、溶出液にアフィニティー精製抗human IgG−IgG不溶化固相ポリスチレンビーズ1個を加え、さらに0.5時間反応させ、第2のビーズ上に免疫複合体を転移させた。ビーズとの反応は、すべて25℃で210回/分の振盪下に行った。再びビーズを緩衝液C(2ml)で3回洗浄後、ビーズ上に転移させたβ−D−ガラクトシダーゼ活性を0.2mM 4−Methylumbelliferyl β−D−galactopyranoside(蛍光基質; 4MUG)(200μl)を用いて30℃でインキュベーションし、0.1M グリシンナトリウム緩衝液(pH 10.5)(2ml)を加え反応を停止後、蛍光分光光度計(F−2500、日立)を用いて測定した。なお、励起波長360nm、蛍光波長450nmを用い、蛍光強度は10
−8M 4MUを100として換算した。
(実施例2)
ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法、ELISA法の検出感度の比較
(1)
対象者等
a)対象者:
非糖尿病対象者(73名)、高インスリン血症患者(9名)、抗甲状腺剤(メチマゾール)投与中のバセドウ病患者(30名)、橋本病(20名)、2型糖尿病患者(30名; インスリン未治療: 7名、インスリン治療中: 15名、インスリン治療不明: 8名)、1型糖尿病患者(24名; インスリン治療中: 21名、インスリン治療不明: 3名)から試料を採取した。
b)インフォームドコンセント:
本研究で行った試験については、徳島文理大学倫理委員会(承認番号 第4号)の承認を得て行った。対象者にはインフォームドコンセントを行い、同意を得た上で試験を実施した。
c)統計処理
カットオフ値の設定は、非糖尿病対象者の蛍光強度の平均値+2SDとした。また、2変量間の相関関係については、Speamanの順位相関係数を算出した。統計解析には、SPSS20.0.0を用い、統計学的有意水準を5%に設定した。
(2)
血清使用量の検討
ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法の血清使用量を1型糖尿病患者血清を用いて検討を行った。1型糖尿病患者血清の希釈には、健常者の血清を用いた。
ICT−EIA−1法は健常者血清100μl中に1型糖尿病患者血清をそれぞれ10μl、20μl、30μl、50μl含まれているように調製した。その結果、ICT−EIA−1法は20μlまでは比例的に蛍光強度の増加がみられたが、20μl以降で蛍光強度の大きな増加が見られなかった。また、20μlまで蛍光強度の上昇は確認できたが、10μlの蛍光強度と比べて1.3倍しか差は見られなかった。このことから、ICT−EIA−1法による血清の最大使用量を10μlとした。ただし、本試験では各対象者の血清の残量が少ないことから、各対象者のGAD抗体の測定には使用血清量を5μlとすることにした。
ICT−EIA−2法は健常者血清100μl中に1型糖尿病患者血清をそれぞれ1μl、2μl、5μl、10μl、20μl、30μl、40μl、50μl含まれているように調製した。その結果、ICT−EIA−2法は5μlまでは蛍光強度の増加がみられたが、5μl以降で蛍光強度の減少傾向が見られた。このことから、ICT−EIA−2法による血清の最大使用量を5μlとした。
(3)
本願発明方法とELISA法との検出感度比較
ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法、第1世代ELISA法、第2世代ELISA法、第3世代ELISA法、第3世代改良型ELISA法、ELISA kitの他にICT−EIA−3法(DNP−ビオチン標識GADおよびGAD抗体、酵素標識GADの3者から免疫複合体を形成させる)によるGAD抗体の検出感度についてGAD抗体陽性糖尿病血清を用いて比較した。なお、GAD抗体陽性糖尿病血清の希釈には、健常者の血清を用いた。
なお、第1世代ELISA法、第2世代ELISA法、第3世代ELISA法とは、以下のことを言う。第1世代のELISA法とは、固相に不溶化させた抗原により血清中の測定すべき特異抗体を捕捉し、次いでこの特異抗体に酵素標識した抗イムノグロブリン抗体(第2抗体)を反応させて標識し、最後に酵素活性を測定する方法である。しかし、血清中の多量に存在する非特異抗体が固相に非特異的に吸着し、この非特異抗体と酵素標識第2抗体が結合し、この酵素の酵素活性も一緒に測定してしまうことから、バックグラウンドが高くなり、微量の特異抗体を測定することが困難となる。そこで、この第1世代の欠点を補うべく第2世代のELISA法が開発されている。
第2世代のELISA法とは、固相に不溶化させた第2抗体により、まず血清中の測定すべき特異抗体も含めた総イムノグロブリンを捕捉する。次いでこの捕捉された総抗体中の特異抗体に酵素標識抗原を反応させ、最後に、酵素活性を測定する方法である。しかし、この方法でも、酵素標識抗原が固相に吸着することから、バックグラウンドが高いままであった。また、固相に不溶化させた第2抗体は、測定すべき特異抗体以外の非特異抗体をも捕捉してしまうことから、固相上の第2抗体量に限界があり、血清試料を少量しか使用することができない。そこで、さらに第3世代のELISA法が開発されている。
第3世代のELISA法とは、固相に不溶化させた抗原により、まず血清中の測定すべき特異抗体を捕捉し、次いでこの捕捉された特異抗体に酵素標識抗原を反応させ、最後に、酵素活性を測定する方法である。しかし、この方法においても第2世代より検出感度は向上されたが、まだバックグランドが高い状態であった。また、この方法では全てのサブクラスの抗体や抗体以外の抗原結合物質も検出してしまうため、自己抗体であるかの判断が困難である。
今回、第1世代ELISA法および第2世代ELISA法を用いた場合では、GAD抗体を検出することはできなかった。第3世代ELISA法および第3世代改良型ELISA法による検出感度は、10U/mlおよび100U/mlであり、第3世代改良型ELISA法の方が第3世代ELISA法より10倍高感度であった。
第3世代改良型ELISA法およびELISA kitの検出感度では、ともに10U/mlであったが、第3世代改良型ELISA法のNonspecificの蛍光強度が高いものであった。
一方、ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法による検出感度は、ともに0.3U/mlであり、ELISA kitに比べ、30倍高感度であった(
図2参照)。また、ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法を比較したところ、検出感度は同じではあったが、蛍光強度のSpecific / Nonspecific比(S/N比)では、ICT−EIA−1法が高く、蛍光強度値においてもGAD抗体の高濃度領域ではICT−EIA−1法が高い値を示した。
(実施例3)
ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法の特異性検討
(1)
十分な阻害効果を得る為のGAD添加量の検討
ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法の特異性を検討するため、高濃度のGAD溶液の添加を行うが、GADは非常に高価で貴重なため、GAD溶液の添加量の検討を行った。
ICT−EIA−1法を用いてGADの添加量をそれぞれ0.1、0.3、1.0、3.0pmol/tubeになるように添加した。その結果、3.0pmol/tubeで80%以上の阻害が確認された。このことから、以降の特異性試験において、GAD溶液の添加量は3.0pmol/tubeになるように添加することとした。
(2)
ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法の特異性検討
ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法の特異性を1型糖尿病患者血清と同じく自己免疫疾患であるバセドウ病ならびに橋本病患者血清を用いて検討した。その結果を以下の表1に示す。
【表1】
上記表1に示されるように、1型糖尿病患者血清は、過剰のGAD添加により、ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法共に蛍光強度が99%以上の低下が見られた。一方、バセドウ病患者血清では、ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法共に蛍光強度の低下がほとんど見られなかった。このことから、ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法は本法によりGAD抗体が特異的に測定されていることが示された。
(実施例4)
ICT−EIA−1法およびICT−EIA−2法の再現性
50、100倍に希釈した1型糖尿病患者血清を用いてICT−EIA−1法の同時再現性を検討した。その結果を以下の表2に示す。
【表2】
上記表2に示すように、同時再現性は4.8〜5.4%(n=10)と良好であった。
また、同じく50、100倍に希釈した1型糖尿病患者血清を用いてICT−EIA−2法の同時再現性を検討した。その結果も上記表2に示されるごとく、同時再現性は4.8〜5.2%(n=10)と良好であった。
(実施例5)
ICT−EIA法によるGAD抗体の検出評価
(1)
ICT−EIA−1法によるGAD抗体の検出
非糖尿病対象者(32名)、2型糖尿病患者(30名)、1型糖尿病患者(23名)の血清をICT−EIA−1法を用い測定した(
図3を参照)。カットオフ値を蛍光強度1.8とした。
その結果、カットオフ値を越える蛍光強度を示したのは、非糖尿病対象者では1/33名であった。2型糖尿病患者では3/29名であった。一方、1型糖尿病患者では11/22名であった。
カットオフ値を越えた対象者に対して上記実施例2(1)と同様の手法により、陽性の確認を行った。なお、血清に過剰量のGADを添加し、蛍光強度が50%以上阻害されたものを陽性と判断した。ただし、阻害率が50%以上でなくとも、蛍光強度がカットオフ値の3倍以上で、阻害率が50%に近ければ、それも陽性と判断することにした。その結果、2型糖尿病患者の4名中3名は48〜100%、1型糖尿病患者の13名中13名は40〜100%阻害された。また、非糖尿病対象者の1名は阻害されなかった。その結果、カットオフ値を越えた対象者の中で非糖尿病対象者および2型糖尿病患者の1部を除くほとんどの対象者が陽性であることが示された。その結果を表3に示す。
【表3】
また、対象者血清に高濃度GADを添加していないときの蛍光強度から高濃度GADを添加したときの蛍光強度を減じ、特異GAD抗体値(以降、特異シグナルとする)として表すこととした。この際のカットオフ値を0.7とした。
その結果、カットオフ値を越える蛍光強度を示したのは、非糖尿病対象者では0/32名、2型糖尿病患者では9/30名であった。一方、1型糖尿病患者では17/23名であった。
(2)
ICT−EIA−2法によるGAD抗体の検出
非糖尿病対象者(34名)、2型糖尿病患者(29名)、1型糖尿病患者(22名)の血清をICT−EIA−2法を用い測定した(
図4参照)。カットオフ値を蛍光強度8.1とした。
その結果、カットオフ値を越える蛍光強度を示したのは、非糖尿病対象者では3/34名であった。2型糖尿病患者では1/29名であった。一方、1型糖尿病患者では10/22名であった。
カットオフ値を越えた対象者に対して実施例2(1)と同様の手法により、陽性の確認を行った。なお、判定はICT−EIA−1法と同様の基準で行った。その結果、2型糖尿病患者の1名は94%、1型糖尿病患者の10名は88〜100%阻害された。また、非糖尿病対象者の3名はほとんど阻害されなかった。その結果、カットオフ値を越えた対象者の中で非糖尿病対象者を除くほとんどの対象者が陽性であることが示された(表3参照)。
また、上記(1)と同じく特異シグナルを求めた。カットオフ値を蛍光強度0.4とした。
その結果、カットオフ値を越える蛍光強度を示したのは、非糖尿病対象者では0/34名であった。2型糖尿病患者では23/29名であった。一方、1型糖尿病患者では17/22名であった。
(実施例5)
ELISA法およびICT−EIA−1法またはICT−EIA−2法の相関関係
1型糖尿病患者および2型糖尿病患者の結果からELISA法およびICT−EIA−1法またはICT−EIA−2法との間で相関関係を検討した。ICT−EIA法では特異シグナルを用い、特異シグナルが未検出であったものは、ICT−EIA法およびELISA法ともに除外して相関関係の検討を行った。その結果、ELISA法およびICT−EIA−1法との間で有意な相関関係(r=0.555、p<0.000)がみられた(
図5参照)。また、ICT−EIA−1法およびELISA法ともに陽性であった患者のみで相関関係を検討した結果、さらに有意な相関関係(r=0.794、p<0.000)がみられた。
ELISA法およびICT−EIA−2法との間でも有意な相関関係(r=0.494、p<0.001)がみられた(
図6参照)。また、ICT−EIA−2法およびELISA法ともに陽性であった患者のみで相関関係を検討した結果、さらに有意な相関関係(r=0.786、p<0.000)がみられた。
ELISA法では1型糖尿病患者(22名)と2型糖尿病患者(29名)の中から計31名の陽性者を検出したが、EICT−EIA−1法では、ELISA法で陰性とされていた中から8名の陽性者を検出し、ICT−EIA−2法では、16名の陽性者を検出することができた。その結果を以下の表4に示す。
【表4】
(参考例1)
ELISA法によるGAD抗体の検出
非糖尿病対象者(34名)、2型糖尿病患者(29名)、1型糖尿病患者(22名)の血清をELISAキットで測定した。カットオフ値を吸光度0.10とした。その結果、カットオフ値を越える吸光度を示したのは、非糖尿病対象者では1/34名であった。2型糖尿病患者では14/29名であった。一方、1型糖尿病患者では17/22名であった(表3参照)。
(実施例6)
ICT−EIA−2法によるインスリン自己抗体の検出感度
(1)検討サンプル:
インスリン自己抗体陽性者の血清を用いて比較した。
(2)検出方法:
公知文献(Cli Biochem.2012,45(13−14):1086−91)に記載の方法に準じて、上記のインスリン自己抗体を測定した。
上記文献方法は、ICT−EIA−1法の問題点であったインスリン標識体と抗体との立体障害を減じるために、インスリンを低分子DNPやビオチンで標識し、次にこれらの標識体と抗体を反応させて免疫複合体を形成させておくことに特徴がある。
健常者のインスリン除去血清で希釈したインスリン自己抗体陽性者(1型糖尿病患者)の血清を上記文献方法とELISAキットを用いて測定し、検出感度を比較した。
(3)検出感度:
図9に示されるように、ELISAキットに対してICT−EIA−2法は、インスリン自己応対を1,000倍高感度に検出することができた。また、ICT−EIA−1法と比較すると10倍高感度であった。
(実施例7)
インスリン自己抗体およびGAD抗体に対するICT−EIA−2法の同時検出方法
本同時検出法では、
図8に示されるように、インスリン自己抗体およびGAD抗体用の各標識体を1つに合わせた検出系を使用する。本検出方法で使用されるICT−EIA−2法は、その特徴の1つでもあるが、標識抗原を換えれば、同じ固相および同じ操作で種々の抗体が検出できる。そこで、インスリン自己抗体およびGAD抗体用の2種の各標識抗原等の使用試剤を一つにして使用することにより、1回の測定で各自己抗体の合計のシグナルを検出することができる。
また、2種の各自己抗体の蛍光強度が合わさることで、各自己抗体の有無により、陽性者と陰性者の間で蛍光強度の差が大きく開くので、これらの自己抗体陽性患者の早期の検出が容易になる。
以上のことから、より一層1型糖尿病およびSPIDDMを正確に発症予知または診断ができるようになる。