特許第6197019号(P6197019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197019
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】有機粘土及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/44 20060101AFI20170904BHJP
【FI】
   C01B33/44
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-242294(P2015-242294)
(22)【出願日】2015年12月11日
(65)【公開番号】特開2017-105684(P2017-105684A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2016年2月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月26日にEUROCLAY2015予稿集にて発表 平成27年7月6日にユーロクレイ2015 粘土科学、テクノロジーに関する国際会議にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】301044565
【氏名又は名称】株式会社ホージュン
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 崇之
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健一
(72)【発明者】
【氏名】皆瀬 慎
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−001946(JP,A)
【文献】 特開平05−163014(JP,A)
【文献】 特表2008−512339(JP,A)
【文献】 特開2004−155644(JP,A)
【文献】 特開2005−089261(JP,A)
【文献】 特開2010−095440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶層間にHが吸着されているスメクタイトと有機アミンを混合してる、有機粘土の結晶層間に有機アンモニウムイオンを有し、塩化物を含有しない有機粘土。
【請求項2】
前記結晶層間にHが吸着されているスメクタイトが、酸性白土である、請求項に記載の有機粘土。
【請求項3】
前記有機アミンが、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンから選ばれる少なくとも1の有機アミンであり、
前記第1級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1有する第1級アミンであり、
前記第2級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1又は2有する第2級アミンであり、
前記第3級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1〜3有する第3級アミンである、請求項又はに記載の有機粘土。
【請求項4】
前記有機アミンが、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ジオクタデシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジデシルメチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミン、ジオレイルメチルアミン、トリオクチルアミンからなる群より選ばれる1のアミンである、請求項のいずれか1項に記載の有機粘土。
【請求項5】
結晶層間にHが吸着されているスメクタイトに有機アミンを添加し、前記スメクタイトと前記有機アミンを混合し、前記結晶層間で前記Hと前記有機アミンが酸・塩基反応し有機アンモニウムイオンを生成する、塩化物を含有しない有機粘土の製造方法。
【請求項6】
前記結晶層間にHが吸着されているスメクタイトが、酸性白土である、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機アミンが、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンから選ばれる少なくとも1の有機アミンであり、
前記第1級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1有する第1級アミンであり、
前記第2級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1又は2有する第2級アミンであり、
前記第3級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1〜3有する第3級アミンである、請求項又はに記載の製造方法。
【請求項8】
前記有機アミンが、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ジオクタデシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジデシルメチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミン、ジオレイルメチルアミン、トリオクチルアミンからなる群より選ばれる1のアミンである、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記有機アミンの添加量が、前記結晶層間にHが吸着されているスメクタイトに対し、10重量%〜50重量%である、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記結晶層間にHが吸着されているスメクタイトと有機アミンとを無溶媒で反応させる、請求項5〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の有機粘土及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘土は天然に大量に産出され比較的安価な無機材料であり、古くから農耕、土木、建築、陶磁器材料等として広く利用されてきた。粘土、特にスメクタイトの代表的な膨潤性粘土鉱物であるモンモリロナイトは、1nmの薄いアルミノシリケートからなる板状結晶が積み重なった層状構造を形成しており、水中でその層状結晶構造の層間に水が挿入(インターカレート)して膨潤し、また各種化学物質を吸着、イオン交換する等、無機物質としては特異な多機能を有している。
【0003】
このため、今日、種々な工業分野で、例えば、鋳物における石英砂の粘結剤、土木におけるレオロジー性、泥壁形成性および潤滑性付与剤、農薬におけるキャリアー剤、塗料、印刷インキにおけるチキソトロピック剤および増粘剤、化粧品における乳化剤、油吸着剤、廃棄物処分における遮水材、食品における清澄剤等として汎用されており、また最近ではプラスチックにおける機能性フィラー材等、化学工業に利用される分野は多岐に渡っている。
【0004】
モンモリロナイトの結晶層面はマイナスの永久層電荷を帯びているため、その電荷を補償するために、結晶層間には交換性のNa、Kのようなアルカリ金属や、Ca2+、Mg2+のようなアルカリ土類金属の交換性陽イオンが、水分子を水和した状態で存在している。無水状態でのモンモリロナイトの結晶同士の間隔は9.8Åであるが、水と接触すると層間の交換性陽イオンに水分子が次々に水和するため、その間隔は40Å以上に増加しオスモチック膨潤を示す。更に水中で分散させた後、静置すると、マイナスの電荷を有する結晶層表面とプラスに帯電する結晶端面がお互いに引き合い、立体的な会合構造(カードハウス構造)を形成することによって増粘し、構造粘性(チキソトロピー性)を発現するため、水系の増粘剤、垂れ防止剤、顔料の沈降防止剤等に利用されている。
【0005】
水以外の、例えばホルムアミド、N−メチルホルムアミド等の有機溶剤を使用して粘土をオスモチック膨潤させるには、粘土を有機化した有機粘土を使用する。有機粘土は、工業的に増粘剤として用いられることに加え、先端材料への展開が模索されている有望な材料として注目されている。有機粘土としては、これまで、モンモリロナイトを有機カチオン、例えば通常は脂肪ニトリルから生成されるジメチルジアルキルアンモニウム塩のような第4級アンモニウムイオンと反応させた有機粘土等が知られている。有機粘土は有機溶剤中で、結晶層表面に吸着している第4級アンモニウムイオンの持つ長鎖アルキル基やベンゼン環に有機溶剤が溶剤和することによって層間に有機溶剤がインターカレートし、層間が広がりオスモチック膨潤する。
【0006】
特許文献1には、スメクタイト型粘土の層間に第4級アンモニウムイオンであるトリオクチル・メチル・アンモニウムイオンを導入した高極性有機溶媒に親和性を有する粘土有機複合体が開示されており、それはスメクタイト型粘土懸濁液にトリオクチル・メチル・アンモニウム塩溶液を添加することにより製造されている。
特許文献2には、無機塩溶液により凝集したスメクタイト粘土の水性懸濁液と、4個のアルキル基の中最低1個は10〜24の炭素原子を含む第4級アンモニウム化合物を混合して、有機液体媒質に容易に分散するオルガノクレー(有機粘土)を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−163014号公報
【特許文献2】特開昭62−39205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のように、第4級アンモニウム塩等の有機カチオンを添加して有機粘土を合成する場合、有機粘土中に塩化物が残留してしまい、塩痕が生じてしまうという問題があった。
【0009】
スメクタイト等の粘土に第4級アンモニウム塩等の有機カチオンをスメクタイト粘土等に添加して有機粘土を合成する方法としては、例えば、水等の溶媒中で反応を行う方法と、粉砕した粘土と第4級アンモニウム塩等の有機カチオンを無溶媒で反応させる方法等がある。
水等の溶媒中で反応を行う反応の場合には、反応は水等の溶媒中で行われるため、反応後に生成した有機粘土を脱水→乾燥→粉砕し、製品とする。この工程中の脱水で塩化物が水と一緒に流されるため、生成した有機粘土中の塩化物の量はある程度減少するが、塩化物を完全に洗い流すことは不可能であり、塩化物を完全に除去することは困難であった。
一方、無溶媒で反応させる方法では、脱水等の工程がないため、塩化物が残存し、合成された有機粘土に多くの塩痕が生じてしまうという問題があった。
【0010】
有機粘土中に塩痕が生じてしまうと、例えば、グリース類の増粘剤として有機粘土を使用する場合、グリースと鉄系金属が接触した際の塩化物による腐食が発生してしまう。また、電子機器の回路等を保護するレジストインキとして使用した場合、その中に塩化物が存在すると絶縁不良の原因となる。また、塩化物等のハロゲンは環境に悪影響を与えるため、世界的に脱ハロゲン化が進んでいる。
このように、有機粘土中に塩痕が生じることで種々の問題が生じてしまっていた。
【0011】
そこで本発明は、上記塩痕の原因となる塩化物を含有しない、新規な有機粘土を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、有機粘土を製造する原料として、酸性または中性を呈する粘土、および有機アミンを使用することによって、結晶層間に有機アンモニウムイオンを有し、かつ塩化物を含有しない、新規な有機粘土を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
したがって、本発明は次のとおりである。
(1)有機粘土の結晶層間に有機アンモニウムイオンを有し、塩化物を含有しない有機粘土。
(2)前記有機アンモニウムイオンが、第1級アンモニウムイオン、第2級アンモニウムイオン、及び第3級アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1の有機アンモニウムイオンであり、
前記第1級アンモニウムイオンは、炭素数4〜30のアルキル基を1有する第1級アンモニウムイオンであり、
前記第2級アンモニウムイオンは、炭素数4〜30のアルキル基を1又は2有する第2級アンモニウムイオンであり、
前記第3級アンモニウムイオンは、炭素数4〜30のアルキル基を1〜3有する第3級アンモニウムイオンである、前記(1)に記載の有機粘土。
(3)前記有機アンモニウムイオンが、オクタデシルアンモニウムイオン、オレイルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、デシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルアンモニウムイオン、ジメチルオクチルアンモニウムイオン、ジメチルデシルアンモニウムイオン、ジメチルドデシルアンモニウムイオン、ジメチルヘキサデシルアンモニウムイオン、ジメチルオクタデシルアンモニウムイオン、ジメチルオレイルアンモニウムイオン、ジメチルベヘニルアンモニウムイオン、ジデシルメチルアンモニウムイオン、ジドデシルメチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルメチルアンモニウムイオン、ジオレイルメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1のイオンである、前記(1)又は(2)に記載の有機粘土。
(4)酸性または中性を呈する粘土と有機アミンを混合して生成される、塩化物を含有しない有機粘土。
(5)前記酸性または中性を呈する粘土が、酸性白土である、前記(4)に記載の有機粘土。
(6)前記有機アミンが、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンから選ばれる少なくとも1の有機アミンであり、
前記第1級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1有する第1級アミンであり、
前記第2級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1又は2有する第2級アミンであり、
前記第3級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1〜3有する第3級アミンである、前記(4)又は(5)に記載の有機粘土。
(7)前記有機アミンが、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ジオクタデシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジデシルメチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミン、ジオレイルメチルアミン、トリオクチルアミンからなる群より選ばれる1のアミンである、前記(4)〜(6)のいずれか1に記載の有機粘土。
(8)前記有機アミンの添加量が、前記酸性または中性を呈する粘土に対し、10重量%〜50重量%である、前記(4)〜(7)のいずれか1に記載の有機粘土。
(9)酸性または中性を呈する粘土に有機アミンを添加し、前記粘土と前記有機アミンを混合する、塩化物を含有しない有機粘土の製造方法。
(10)前記酸性または中性を呈する粘土が、酸性白土である、前記(9)に記載の製造方法。
(11)前記有機アミンが、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンから選ばれる少なくとも1の有機アミンであり、
前記第1級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1有する第1級アミンであり、
前記第2級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1又は2有する第2級アミンであり、
前記第3級アミンは、炭素数4〜30のアルキル基を1〜3有する第3級アミンである、前記(9)又は(10)に記載の製造方法。
(12)前記有機アミンが、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ジオクタデシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジデシルメチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミン、ジオレイルメチルアミン、トリオクチルアミンからなる群より選ばれる1のアミンである、前記(9)〜(11)のいずれか1に記載の製造方法。
(13)前記有機アミンの添加量が、前記酸性または中性を呈する粘土に対し、10重量%〜50重量%である、(9)〜(12)のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塩化物を含有しない、すなわち塩痕の生じない新規の有機粘土を提供できる。有機粘土に塩痕が生じないので、塩痕の存在により生じる種々の問題を防止できる。例えば、本発明の有機粘土をグリース類の増粘剤として使用した場合、グリースと鉄系金属が接触した際の塩化物による腐食を防止できる。また、本発明の有機粘土を電子機器の回路等を保護するレジストインキとして使用した場合、その中に塩化物が存在することにより生じる絶縁不良を防ぐことができる。また、ハロゲン類を含まないため、環境負荷が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)は、従来の、Naベントナイトに第4級アンモニウム塩を添加した場合に製造される有機粘土に関する模式図である。図1(b)は、酸性白土に有機アミンを添加した場合に製造される本発明の有機粘土に関する模式図である。
図2図2は、実施例1〜3で作製した有機粘土のXRD測定結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例4〜6で作製した有機粘土のXRD測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の有機粘土は、その原料として酸性または中性を呈する粘土を使用し、粘土の有機化のために有機アミンを添加することにより製造できる。
従来使用されていた層状結晶構造を持つスメクタイト粘土等は、その層間に、Na、Ca2+等の無機陽イオンが多く吸着されている(例えば、Naベントナイトの場合は、Naが多く吸着している)。粘土の有機化のために第4級アンモニウム塩のような有機カチオンを添加すると、イオン交換反応により上記無機陽イオンと有機カチオンが交換されるが、同時に有機カチオンの塩化物イオンと無機陽イオンが反応し、NaCl、CaCl等の塩が生成してしまい、製造された有機粘土には塩痕が生じていた(図1(a))。
【0017】
しかしながら、本発明の有機粘土においては、その原料に酸性または中性を呈する粘土、例えば酸性白土を使用する。酸性または中性を呈する粘土の結晶層間にはHが吸着されているため、上記粘土に有機アミンを添加することにより、酸・塩基反応によって、層間のHと有機アミンが反応し有機アンモニウムイオンが生成する。有機アンモニウムイオンが生成する際には塩化物は実質的に存在しえず、すなわち、製造された有機粘土には塩痕が生じることはない(図1(b))。
【0018】
本発明の有機粘土に使用できる、原料としての粘土は、酸性または中性を呈する粘土であれば特に制限されない。好ましくは、酸性または中性を呈するスメクタイトであり、より好ましくは、酸・塩基反応の観点から、酸性白土である。酸性白土とはベントナイトが風化し、層間陽イオンとしてHが多くなり懸濁液が酸性を示すものをいう(粘土ハンドブック第二版参照)。
【0019】
上記酸性または中性を呈する粘土のpHは、3〜7であることが好ましく、4〜6であることがより好ましい。
【0020】
本発明の有機粘土に使用する有機アミンとは、アンモニアの水素原子をアルキル基(炭化水素残基)で置換した化合物を意味し、アルキル基の数により、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンとなる。有機アミンにアンモニウム塩は含まれない。
本発明の有機粘土に使用できる有機アミンは、第1級アミンの場合、好ましくは炭素数4〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数8〜22のアルキル基、さらに好ましくは炭素数14〜18のアルキル基を1有する第1級アミンである。有機アミンが第2級アミンの場合、好ましくは炭素数4〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数8〜22のアルキル基、さらに好ましくは炭素数14〜18のアルキル基を1又は2有する第2級アミンである。有機アミンが第3級アミンの場合、好ましくは炭素数4〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数8〜22のアルキル基、さらに好ましくは炭素数14〜18のアルキル基を1〜3有する第3級アミンである。有機アミンが上記アルキル基を2又は3有する場合は、各々のアルキル基は、同一であっても異なっていてもよい。また、本発明の有機粘土に使用できる有機アミンがもつアルキル基は、二重結合を少なくとも1有することが好ましい。これら有機アミンは1種を単独で使用しても、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、使用する有機アミンは固体であっても、液体であってもよい。
【0021】
本発明の有機粘土に使用できる有機アミンとしては、具体的には、例えば、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ジオクタデシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジデシルメチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミン、ジオレイルメチルアミン、トリオクチルアミン等の有機アミンが挙げられる。好ましくは、アルキル基が二重結合を少なくとも1有する、オレイルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジオレイルメチルアミンであり、さらに好ましくはオレイルアミンである。
【0022】
本発明において、使用する有機アミンのアルキル基が二重結合を有することが好ましいのは、二重結合をもつことにより、有機アミンは規則正しい構造を作りにくく、有機アミンがもつアルキル鎖とアルキル鎖の間に空間が生じやすくなることにより、有機溶媒が侵入しやすくなるからだと推測できる。
【0023】
上記有機アミン添加量は、原料の粘土に対し、1重量%〜100重量%であることが好ましく、5重量%〜70重量%であることが好ましい。さらに好ましくは10重量%〜50重量%である。
【0024】
原料の粘土と有機アミンを反応させる方法は、水等の溶媒中で反応を行う方法や、粉砕した原料の粘土と有機アミンを無溶媒で反応させる方法等が挙げられ、それぞれ公知の種々の方法を採用できる。好ましくは、原料の粘土と有機アミンを無溶媒で反応させる方法である。原料の粘土と有機アミンを無溶媒で反応させる方法であれば、粘土の有機修飾後の乾燥工程を省くことができ、または短時間で完了できるため、製造時の効率化、コストダウンにつながる。
原料の粘土と有機アミンを水等の溶媒中で反応させる方法としては、例えば、原料の粘土を水、アルコール、水とアルコールの混合溶液等の溶媒中で十分に剥離、分散する工程と、この粘土分散液に有機アミンを添加、混合し、結晶表面に有機アンモニウムイオンを吸着させることにより結晶表面を疎水化させて有機粘土を生成する工程と、有機粘土の残存した有機アンモニウムイオンや水分等を除去するための洗浄、脱水工程、残存水分等を蒸発する乾燥工程及び塊状の有機粘土を粉体状にする粉砕工程を経て、有機粘土を得る方法を挙げることができる。
【0025】
原料の粘土と有機アミンを無溶媒で反応させる方法としては、原料の粘土と有機アミンを例えば乳鉢上で混合して反応させる方法を挙げることができる。原料の粘土は、事前に上記粘土を粉砕機にかけ、粒子径を小さくしておくことが好ましい。例えば、メノウ乳鉢、擂潰機、コーヒーミル、ヘンシェルミキサー等を使用して、両者を反応させる場合は、事前に粘土をプラスチックミル等の粉砕機を使用して粉砕し、場合によっては篩にかけることによって、有機アミンと反応を行うことができる。
【0026】
また、上記粘土と有機アミンを押し出し機等で反応させる場合は、上記粘土はより粗い状態でも十分反応を行うことが可能であり、ニーダーを使用する場合は、上記粘土は原鉱のままでも十分反応を行うことができる。
【0027】
粉砕した上記粘土と、粉末状の有機アミンを混合する方法としては、例えば、両者をメノウ乳鉢に入れ混合する方法、擂潰機、コーヒーミル、ヘンシェルミキサーを使用する方法、押し出し機を使用する方法、ニーダーを使用する方法等が挙げられる。なお、上記のように、ニーダーを使用する方法であれば、粘土は原鉱のままでも使用できる。
【0028】
上記のように製造された有機粘土は、有機粘土の結晶層間に有機アンモニウムイオンを有し、塩化物を含有しない有機粘土となる。
本発明において、「有機粘土の結晶層間に有機アンモニウムイオンを有する」とは、有機アミンが、結晶層間に存在する水素イオンと酸塩基反応により結合し、結晶層間に吸着している状態をいう。
【0029】
有機粘土が有する有機アンモニウムイオンは、第1級アンモニウムイオンの場合、好ましくは炭素数4〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数8〜22のアルキル基、さらに好ましくは炭素数14〜18のアルキル基を1有する第1級アンモニウムイオンである。有機アンモニウムイオンが第2級アンモニウムイオンの場合、好ましくは炭素数4〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数8〜22のアルキル基、さらに好ましくは炭素数14〜18のアルキル基を1又は2有する第2級アンモニウムイオンである。有機アンモニウムイオンが第3級アンモニウムイオンの場合、好ましくは炭素数4〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数8〜22のアルキル基、さらに好ましくは炭素数14〜18のアルキル基を1〜3有する第3級アンモニウムイオンである。有機アンモニウムイオンが上記アルキル基を2又は3有する場合は、各々のアルキル基は、同一であっても異なっていてもよい。また、本発明の有機粘土に使用できる有機アンモニウムイオンの有するアルキル基は、二重結合を少なくとも1有することが好ましい。これら有機アンモニウムイオンは1種を単独で有していても、2種以上を有していてもよい。
【0030】
具体的な有機アンモニウムイオンとしては、例えば、オクタデシルアンモニウムイオン、オレイルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、デシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルアンモニウムイオン、ジメチルオクチルアンモニウムイオン、ジメチルデシルアンモニウムイオン、ジメチルドデシルアンモニウムイオン、ジメチルヘキサデシルアンモニウムイオン、ジメチルオクタデシルアンモニウムイオン、ジメチルオレイルアンモニウムイオン、ジメチルベヘニルアンモニウムイオン、ジデシルメチルアンモニウムイオン、ジドデシルメチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルメチルアンモニウムイオン、ジオレイルメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン等が挙げられる。好ましくは、アルキル基に二重結合を少なくとも1有する、オレイルアンモニウムイオン、ジメチルオレイルアンモニウムイオン、ジオレイルメチルアンモニウムイオンであり、さらに好ましくはオレイルアンモニウムイオンである。
【0031】
上記のように製造された有機粘土が塩化物を含有しないのは、原料となる酸性白土等の粘土、及び有機アミン共に塩素を有しない物質であるため、有機粘土製造時に、有機粘土内に塩化物が残存するような反応は起こりえないからである。
【0032】
また、本発明において「塩化物を含有しない」とは、「塩化物」を実質的に含有しないことを意味する。「塩化物を実質的に含有しない」とは、具体的には、例えば製造過程で使用する溶媒等に起因して塩化物が残存してしまうといった場合や、製造時に使用する装置の洗浄で工業用水や水道水を使用した場合、塩素が残留し、有機粘土に付着する場合のように、有機粘土の製造において不可避的に混入したり発生したりする塩化物を含んでいても構わない。
「塩化物」は、塩化物イオンの状態のものや、NaCl、CaCl、KCl、MgCl等の構成元素に塩化物イオンを含む化合物を指す。
有機粘土中の塩化物の含有量は、従来公知の種々の方法により測定できるが、例えば、イオンクロマトグラフ法により測定できる。
【0033】
本発明の有機粘土の用途は、例えば、グリース、塗料、ワックス、塗型材の増粘剤、電子機器の回路等を保護するレジストインキ、石油ボーリング、樹脂とのナノコンポジット、接着剤等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
<実施例1>
[酸性白土]
酸性白土(三川綱木鉱山、深度1m付近より採取、pH5.0)の原鉱20kgをプラスチック粉砕機(吉田製作所製)にかけ、さらにヤリヤ粉砕機(ヤリヤ製作所製)にかけ、酸性白土をサイズ1mm以下に粉砕した。粉砕した酸性白土片をさらに125μmの篩に通過させ、酸性白土の篩通過試料を得た。なお、使用した酸性白土の組成、物性を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
[有機アミン]
有機アミンとしては、オレイルアミン(花王株式会社製)を使用した。
【0037】
[有機粘土の作製]
上記で得た酸性白土の篩通過試料10g(固形分)に対し、オレイルアミンを、酸性白土の陽イオン交換容量(100meq/100g)の1倍量を添加し、擂潰機(株式会社石川工場製)を用いて15分間混合し、有機粘土を作製した。
【0038】
<実施例2>
実施例2は、実施例1において、オレイルアミンを、酸性白土の陽イオン交換容量(100meq/100g)の1.5倍量を添加したことを除いて、実施例1と同様に有機粘土を作製した。
【0039】
<実施例3>
実施例3は、実施例1において、オレイルアミンを、酸性白土の陽イオン交換容量(100meq/100g)の2.0倍量を添加したことを除いて、実施例1と同様に有機粘土を作製した。
【0040】
[測定]
上記作製した有機粘土(実施例1〜3)についてXRD測定(製品名:Ultima IV株式会社リガク社製を使用)を行い、有機粘土の層間にオレイルアミンが挿入され、オレイルアンモニウムイオンが吸着しているか確認した。その結果を図2に示す。
図2に示すように、酸性白土の底面間隔は1.55nmであり、酸性白土とオレイルアミンを反応させると底面間隔は広がっていき、添加量がCEC×2.0の際には3.55nmまで広がった。これは、酸性白土の層間にオレイルアミンが挿入し、オレイルアンモニウムイオンとなって層間に吸着し、層と層が押し広げられたためである。したがって、作製した有機粘土の層間にオレイルアンモニウムイオンが吸着していることが確認できた。
【0041】
<実施例4>
実施例4は実施例1において、オレイルアミンをステアリルアミン(花王株式会社製)に変更したことを除いて、実施例1と同様に有機粘土を作製した。
【0042】
<実施例5>
実施例5は実施例4において、ステアリルアミンを、酸性白土の陽イオン交換容量(100meq/100g)の3.0倍量を添加したことを除いて、実施例4と同様に有機粘土を作製した。
【0043】
<実施例6>
実施例6は実施例4において、ステアリルアミンを、酸性白土の陽イオン交換容量(100meq/100g)の5.0倍量を添加したことを除いて、実施例3と同様に有機粘土を作製した。
【0044】
[測定]
上記作製した有機粘土(実施例4〜6)についてXRD測定(製品名:Ultima IV株式会社リガク社製を使用)を行い、有機粘土の層間にステアリルアミンが挿入され、ステアリルアンモニウムイオンが吸着しているか確認した。その結果を図3に示す。
図3に示すように、酸性白土の底面間隔は1.55nmであり、酸性白土とステアリルアミンを反応させると底面間隔は広がっていき、添加量がCEC×3.0の際には2.03nmまで広がった。これは、酸性白土の層間にステアリルアミンが挿入し、ステアリルアンモニウムイオンとなって層間に吸着し、層と層が押し広げられたためである。したがって、作製した有機粘土の層間にステアリルアンモニウムイオンが吸着していることが確認できた。
【0045】
[膨潤、粘性試験]
実施例1〜6の有機粘土をそれぞれ試料とし、下記の試験を行った。
膨潤力:トルエン10mlに試料0.2gを投入、一晩後膨潤体積を測定した。
粘性試験:トルエン60mlに試料3.0g(5%)投入し、ホモジナイザーにて10,000rpm×10min撹拌。25℃恒温槽に30分間静置させた後、BL形回転粘度計(株式会社東京計器社製)で粘性を測定した。
以上の結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
実施例1〜6において作製した有機粘土はいずれも膨潤、粘性を示した。特に、有機アミンとしてオレイルアミンを使用した実施例1〜3の有機粘土では、その粘性が高く、良好であった。
【0048】
以上により、酸性白土と、有機アミンであるオレイルアミンやステアリルアミンを使用して、有機粘土を製造することができた。ホストである酸性白土、ゲストである有機アミン共に塩素を含まない物質であるため、塩化物を有さない、すなわち塩痕のない有機粘土が製造できた。また、製造された有機粘土は膨潤、粘性を示すことが分かった。
図1
図2
図3