特許第6197065号(P6197065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197065
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】腎細胞癌の改良された治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/444 20060101AFI20170904BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20170904BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170904BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20170904BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20170904BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20170904BHJP
   A61K 33/24 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   A61K31/444
   A61P13/12
   A61P35/00
   A61K47/60
   A61K47/61
   A61K47/42
   A61K33/24
【請求項の数】14
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-95800(P2016-95800)
(22)【出願日】2016年5月12日
(62)【分割の表示】特願2013-502528(P2013-502528)の分割
【原出願日】2011年3月28日
(65)【公開番号】特開2016-138151(P2016-138151A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】61/341,577
(32)【優先日】2010年4月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512252386
【氏名又は名称】オンコレナ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハラルドソン、ベルイェ
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン、ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ブヴァル、リサ
(72)【発明者】
【氏名】ニストレム、ジェニー
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/040750(WO,A1)
【文献】 NILSSON,THE FUNGAL NEPHROTOXIN ORELLANINE SIMULTANEOUSLY INCREASES OXIDATIVE STRESS 以下備考,FREE RADICAL BIOLOGY AND MEDICINE,米国,ELSEVIER SCIENCE,2008年 1月31日,V44 N8,P1562-1569,AND DOWN-REGULATES CELLULAR DEFENSES
【文献】 Journal of Controlled Release,2001年,Vol.74,p.159-171
【文献】 Curr Radiopharm.,2008年,Vol.1, No.3,177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/444
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎細胞癌の治療において医薬として使用するための、
a)式Iによるビピリジン環と巨大分子部分の間のコンジュゲートが腎臓の糸球体濾過を通過し原尿に入るのを実質的に又は完全に妨げるのに十分な分子量及び分子径を有する少なくとも1つの巨大分子部分であって、前記巨大分子部分は式Iのビピリジン環と共有結合しており、前記少なくとも1つの巨大分子部分が、5kDa〜100kDaの平均分子量のポリエチレングリコール、デキストラン及び多糖類からなる群から選択される、巨大分子部分
及び/又は
b)少なくとも1つのアルファ線放射性核種
からなる群から選択される部分又は核種に位置R1〜R4のいずれかでコンジュゲートされていることを特徴とする式Iによるコンジュゲートされた化合物
【化1】

[式I中のR1、R2、R3及び/又はR4は、水素、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン、並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシからなる群から選択され、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシはそれぞれ、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン、並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロからなる群から選択される部分でさらに置換されていてもよい]
又は等モル量の薬学的に許容されるその塩。
【請求項2】
前記放射性核種が、アスタチン−211、ビスマス−212、ビスマス−213、アクチニウム−225、鉛−212及びテルビウム−149からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記放射性核種がアスタチン−211である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記コンジュゲートされた化合物が、0.1mg/kg〜100mg/kgの式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物(すなわち、R1=R2=R3=R4=水素)に相当する単回用量、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩として投与される、又は前記化合物が2回以上の用量で投与され、各用量が0.05mg/kg〜10mg/kgの式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物(すなわち、R1=R2=R3=R4=水素)、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩に相当する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が2回以上の用量で投与され、及び連続用量が2日から7日の間隔を空けて投与される、又は前記化合物が毎日投与される、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が、非経口的、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内(intraabdominal)、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、子宮頚内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内(intraperitoneal)、胸腔内(intrapleural)、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、関節滑液嚢内、胸腔内(intrathoracic)、子宮内、膀胱内、病巣内、ボーラス、膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮から選択される少なくとも1つの様式により投与される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1に記載のコンジュゲートされた化合物を含む腎細胞癌用医薬組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体と、式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物(すなわち、R1=R2=R3=R4=水素)25〜5000mgに相当する有効量の請求項1に記載のコンジュゲートされた化合物又は等モル量の薬学的に許容されるその塩とを含む腎細胞癌用医薬組成物。
【請求項9】
前記化合物が薬学的に許容される塩である、及び/又は患者への非経口的、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内(intraabdominal)、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、子宮頚内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内(intraperitoneal)、胸腔内(intrapleural)、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、関節滑液嚢内、胸腔内(intrathoracic)、子宮内、膀胱内、病巣内、ボーラス、膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮投与のために製剤化されている、請求項7又は請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
腎細胞癌に罹っている患者を治療するためのキットであって、
少なくとも1つの薬学的に許容される担体と、
式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物(すなわち、R1=R2=R3=R4=水素)50〜3,500mgの量に相当する量を有する、式Iによるコンジュゲートされた化合物又は等モル量の薬学的に許容されるその塩と
を含む上記キットであって、
式Iのビピリジン環は少なくとも1つの巨大分子部分に結合し、
前記巨大分子部分は、式Iによるビピリジン環と巨大分子部分の間のコンジュゲートが腎臓の糸球体濾過を通過し原尿に入るのを実質的に又は完全に妨げるのに十分な分子量及び分子径を有しており
前記巨大分子部分は式Iのビピリジン環と位置R1〜R4のいずれかで共有結合しており、
前記少なくとも1つの巨大分子部分が、5kDa〜100kDaの平均分子量のポリエチレングリコール、デキストラン及び多糖類からなる群から選択され、
式Iは請求項1に定義される、
キット。
【請求項11】
式Iによるコンジュゲートされた化合物の量が、式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物の量100〜1,500mgに相当する、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記コンジュゲートされた化合物又は薬学的に許容されるその塩と薬学的に許容される担体が、投与に関連して、式Iによる化合物、又は薬学的に許容されるその塩が前記担体中に完全に又は実質的に溶解しているように、組み合わされる、請求項10又は請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記キットが、少なくとも1つのアルファ線放射性核種が前記コンジュゲートされた化合物に結合するために必要な少なくとも1つの化学試薬をさらに含む、請求項10又は請求項11に記載のキット。
【請求項14】
前記アルファ線放射性核種がアスタチン−211である、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にはがん治療に関する。さらに具体的には、本発明は、腎がん、特に腎臓近位尿細管細胞に由来する腎細胞癌の治療のための、α線放射性核種(たとえば、アスタチン−211)又は巨大分子(たとえば、PEG、デキストラン又はフィコール(登録商標))とコンジュゲートされた3,3’,4,4’−テトラヒドロキシ−2,2’−ビピリジン−N,N’−ジオキシド、特に3,3’,4,4’−テトラヒドロキシ−2,2’−ビピリジン−N,N’−ジオキシド(オレラニン)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、身体のほとんどあらゆる部分を冒す100種を超える異なる形態で出現する。一生の間、身体中の健康な細胞は、制御された形で分裂し、増殖し、入れ替わる。この細胞分裂を指示する遺伝子が正常に働かなくなり、細胞が制御が外れて増殖し成長し始めるとがんが生じる。これら異常細胞の集団又は塊は腫瘍と呼ばれている。腫瘍はすべてががん性というわけではない。黒子などの良性腫瘍は成長を止め、身体の他の部分に広がることはない。しかし、がん性又は悪性腫瘍は増殖し続けて健康な細胞を覆い、身体機能を妨げ、身体組織から栄養分を引き抜く。悪性腫瘍は、転移と呼ばれる過程を通じて身体の他の部分へ広がることができる。「母腫瘍」由来の細胞は、腫瘍に応じて、脱離し血管若しくはリンパ管を介して又は胸部、腹部若しくは骨盤内部で遊走し、最終的に身体の他のところに新たな腫瘍を形成する。
【0003】
腎臓におけるがんは全固形腫瘍の約3%を構成する。腎腫瘍の約85%は腎細胞癌(RCC)として分類されている。診断されたRCCのほぼ80%は、腎臓の尿形成管、すなわち細管の近位部を裏打ちする上皮細胞に由来する。このがん型は、顕微鏡下でのその外見のせいで、腎明細胞癌(RCCC、65%)又は腎臓乳頭細胞癌(RPCC、15%)のいずれかとして知られている。RCCC及びRPCCは診断されたRCCの80%を構成するが、腎細胞癌による死亡の100%前後の原因となっている。
【0004】
予後を予測するのに最も重要な要因は、病期である。病期は、がんの大きさ及びがんが腎臓を越えてどれくらい深く広がっているかを記載する。米国対がん合同委員会(American Joint Committee on Cancer、AJCC)の病期分類法はTNM法として知られている。文字Tとそれに続く1から3までの数字は、腫瘍の大きさと隣接組織への広がりを記載する。T数字が高いほどそれだけ大きな腫瘍及び/又は腎臓の隣接組織へのそれだけ広範な広がりを示している。文字Nとそれに続く0から2までの数字は、がんが腎臓に隣接するリンパ節まで広がったかどうか、及び、その場合には、何個のリンパ節が冒されているかを示している。文字Mとそれに続く0から1までの数字は、がんが遠隔臓器にまで広がったのかどうかを示している。
【0005】
病期I:腫瘍は7cm(約2と3/4インチ)又はそれよりも小さく、腎臓に限られている。リンパ節又は遠隔臓器への広がりはない。
【0006】
病期II:腫瘍は7.0cmよりも大きいが、まだ腎臓に限られている。リンパ節又は遠隔臓器への広がりはない。
【0007】
病期III:いかなる大きさの腫瘍も含み、腎臓周辺の脂肪組織への広がり有り又はなし、腎臓から心臓へ通じる大静脈への広がり有り又はなし、1つの隣接リンパ節への広がり有り、しかし遠隔リンパ節又は遠隔臓器への広がりはない。病期IIIは、腎臓周辺の脂肪組織への広がり及び/又は腎臓から心臓へ通じる大静脈への広がり有りで、どんなリンパ節又は他の臓器へも広がっていない腫瘍も含む。
【0008】
病期IV:この病期は、腎臓を取り囲む脂肪組織及び帯状靭帯様組織に直接広がっているいかなるがんも含む。病期IVは、腎臓に隣接する1個よりも多いリンパ節へ、腎臓に隣接していない任意のリンパ節へ、又は肺、骨若しくは脳などの他の任意の臓器へ広がっているどんながんも含む。
【0009】
腎細胞がん、T、N、M分類、及び病期分類の詳細な定義:
原発腫瘍(T):
TX:評価できない原発腫瘍
T0:原発腫瘍の証拠なし
T1:腫瘍7cm又はそれより小さく、腎臓に限られている
T2:7cmよりも大きい腫瘍、腎臓に限られている
T3:腫瘍は主幹静脈/副腎/腎周囲組織へ広がっている;ゲロタ筋膜を超えていない
T3a:腫瘍は副腎/腎周囲脂肪に浸潤している
T3b:腫瘍は腎静脈(単数又は複数)又は横隔膜の下の大静脈に広がっている
T3c:腫瘍は横隔膜の上の大静脈に広がっている
T4:腫瘍はゲロタ筋膜を越えて浸潤している
N−所属リンパ節
NX:所属リンパ節は評価できない
N0:所属リンパ節転移なし
N1:1個の所属リンパ節における転移
N2:1個を超える所属リンパ節における転移
M−遠隔転移
MX:遠隔転移は評価できない
M0:遠隔転移なし
M1:遠隔転移
【0010】
経験則として、病期I又はIIにおけるがんは罹患腎臓の外科切除により治療され、回復の予測は良好である。全RCCのほぼ95%は片側性であり、全RCC患者の大多数は、治療後1つの残っている健康な腎臓を残されることを意味する。一般に、1つの機能する腎臓だけで、適切な糸球体濾過及び一般的腎機能には十分すぎると見なされており、病期I又はIIの片側性RCCに罹った患者は治療後には完全に正常な生活を送れそうであることを意味する。前記患者の残りの5%では、両側性RCCに罹っており、治療は両腎臓を除去することが多い。このせいで、患者は一生又は腎臓移植を予定することができるようになるまで、腎透析(血液透析又は腹膜透析)に頼ることになる。腫瘍が小さく輪郭がはっきりしている場合は、腎臓の1つ又は両方の部分除去を含む腎臓保存外科的手法は、両側性RCC患者に、正常な又は部分的腎機能を支持するのに十分な残りの組織を残す可能性がある。これらの手法の利点(すなわち、残っている腎機能)は、腫瘍の微細部分までも切除を免れる場合には、RCCの潜在的再発と比較検討しなければならない。
【0011】
上記とは対照的に、病期III又はIVの腎がんは非常に低い生存率が付随しており、国立がん研究所(National Cancer Institute)は、そのウェブサイト上で、「病期IVの腎細胞がんに罹った患者で治癒させることが可能な患者はほぼゼロである」と述べている。
【0012】
国立がん研究所は、2009年、米国では49,096件の腎がんの新たな症例が診断されており(16/10市民)、その後11,033が死亡する(3.6/10市民)と推定している。欧州連合の対応する数字(2006年)は、65,051診断(7.8/10市民)及び27,326死亡(3.3/10市民)である(European Cancer Observatory:推定発生率及び死亡率2006年)。全世界推定値(2006年)は、209,000診断された症例(3.2/10市民)及び102,000死亡(1.6/10市民)である(Gupta et al.Cancer Treat.Rev.34、193〜205;2008)。米国における一見高い発生率は、NCIが腎盂がん(治療が比較的簡単)を腎細胞癌と一緒に報告しているという事実のせいである。これより低い全世界発生率及び死亡率は、おそらく、少なくとも一部は、第三世界の広大な地域における診断が不十分であるせいである。
【0013】
従来の技術の主問題は、上記のように、腎がんに罹っていると診断された患者の誰の転帰でも主に診断のタイミングによって決定付けられることである。前記疾患が、腫瘍が腎臓の外に広がってしまう前に診断される場合、生存の可能性は良好であるが、そうでない場合、大半の患者は前記疾患で死亡する。この主な理由は、腎細胞癌が、シスプラチン、カルボプラチン、ドセタキセル、パクリタキセル、フルロウラシル、カペシタビン、ゲムシタビン、イリノテカン、トポテカン、エトポシド、マイトマイシン、ゲフィチニブ、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、セレコキシブ、ロフェコキシブ、及び/又はバルデコキシブなどの細胞分裂阻害薬物及び/又は細胞傷害性薬物を用いたあらゆる従来の療法に抵抗性だからである。
【0014】
先行技術には様々な解決策が記載されている。腎細胞癌に対する従来の化学療法は、一般に、不十分な有効性及び広範な副作用のせいで禁忌となる。したがって、代わりの治療様式が探求され、いくつかの範疇に分けることができる。
1)血管新生抑制。この戦略では、腫瘍組織に供給するのに必要な血管の形成を抑制することを通じて、腫瘍には栄養分及び酸素が与えられない。これはいくつかの方法:すなわち、1a)VEGF、PDGF、及びPIGFなどの循環している増殖因子を、これらの増殖因子に対する抗体を用いた治療によって抑制する;1b)標的細胞上の血管増殖因子に対する受容体を前記受容体に対する抗体を用いてブロックする;並びに1c)血管増殖因子のその受容体への結合が生理的血管形成誘導効果を誘発することができないように受容体機能を妨げる比較的小さな分子を用いて治療する、で実現することができる。
2)免疫調節治療。この戦略は、腫瘍細胞を異質だと認識して腫瘍細胞と戦い始めるように内在性免疫系を刺激しようと企てる。腎がんに対する治療としての免疫刺激は、2つの主経路:すなわち2a)インターロイキン2(IL−2)を用いた治療;及びインターフェロンアルファ(IFN−α)療法をとる。
【0015】
上記の代わりの治療戦略のすべてが、進行期の腎がんを抱える一部の患者の寿命を著しく改善する。しかし、その効果はわずか数カ月の桁であり、治療には多数の重篤な副作用が付随する。腫瘍が治療に適応し、その後、治療を中止しなければならなくなることが非常に多い。この後には腫瘍の増殖速度が加速される。
【0016】
腎がんの治療のための最近の戦略は、Garcia et al.(「進行腎細胞癌の管理の最近の進歩(Recent progress in the management of advanced renal cell carcinoma)」CA Cancer.J.Clin.57(2):112〜25(2007))により、及びAtkins et al.(「腎細胞癌における技術革新及び挑戦(Innovations and challenges in renal cell carcinoma):summary statement from the Second Cambridge Conference」Clin.Cancer.Res.13(2Pt2):667s〜670s(2007))により概説されている。前記文献の概説は、治療方法の多くが多少なりとも特異的ながんマーカーの同定及びこれらマーカーの使用から始まって、浸潤している腫瘍組織に対して向けられた宿主免疫応答を誘発することを示していた。たとえば、診断目的で、腎がん及び尿路上皮がんのいくつかの分子マーカー、すなわち、IGFBP−3(インスリン様増殖因子結合タンパク質3)、ANGPTL4(アンジオポエチン様4)及びセルロプラスミン、並びに前記マーカーに対するモノクローナル抗体を開示しているUS2006134708を参照されたい。
【0017】
腎がん細胞により発現される異なる遺伝子を教唆しているUS6440663及び大多数の腎がん上で発現される抗原(炭酸脱水酵素IX)に対するモノクローナル抗体(G250)とサイトカインインターロイキン−2又はインターフェロンαの同時投与を教唆しているUS2005261178は、そのような方法の他の例である。
【0018】
他の戦略は、新しい治療レジメンにおける既知の治療物質の使用に基づいている。たとえば、US20090131536は、腎がんを治療するための新しい投与プロトコールに従った、以前から知られているジメタンスルホン酸化合物、特にNSC−281612の使用を開示している。ヌードマウスにおいて異種移植片上で試験されると、NSC−281612の投与により、場合によっては、腫瘍塊が一見完全に根絶された。
【0019】
最後に、2、3の例では、提案されている療法は新しい原物質に基づいている。したがって、US20060025484は、腎がんを含む多くのがん型の治療のための1−(2−クロロエチル)−1−ニトロソ−3−(2−ヒドロキシエチル)尿素(HECNU)の使用を開示している。HECNUの主な特長は、以前から知られている対応する化合物であるビス−(2−クロールエチル)−1−ニトロソ−尿素(BCNU)と比べて水溶性が改良されていることである。
【0020】
EP1712234は、特に転移増殖の抑制のための、腎がんの治療におけるVEGF受容体阻害剤としての4−ピリジルメチル−フタラジン誘導体の使用を開示している。腫瘍細胞は化学療法単独には抵抗性であるが、4−ピリジルメチル−フタラジン誘導と複数の従来の化学療法薬のうちのどちらかの同時投与には相乗効果があることが見出された。さらに、組合せ療法に付随する副作用は著しく小さくなった。
【0021】
本明細書の発明はオレラニン(式I)に基づいており、オレラニンはコルチナリウス(Cortinarius)科のいくつかの真菌種に比較的大量に存在する選択的腎毒素である。コルチナリウス真菌と食用キノコ類との混同後のオレラニンによる中毒が、欧州、ロシア及び北米全体で定期的に起きている。オレラニン含有真菌の摂取後、数日から3週間までの期間は何の症状も出ないか又は穏やかなインフルエンザ様の症状が出るだけである。医学援助が一般に求められる次の段階は、急性腎不全のための尿毒症に特徴付けられる。科学文献にはオレラニン中毒について多くの記述があるが、言及したばかりの腎毒性は別としてオレラニンの他の効果はまだ報告されていない(Danel VC、Saviuc PF、Garon D:コルチナリウス種中毒の主な特長(Main features of Cortinarius spp.poisoning):a literature review.Toxicon 39、1053〜1060(2001))。この選択性は九分通り、オレラニンが1つの細胞型、すなわち、尿細管上皮細胞、特に近位尿細管上皮細胞により特異的に取り込まれるという事実にある(Prast H、Pfaller W:キノココルチナリウス・オレラナス(Cortinarius orellanus)(フリーズ)IIの毒質(Toxic properties of the mushroom Cortinarius orellanus(Fries)II).ラットにおける腎機能の機能障害(Impairment of renal function in rats).Arch Toxicol 62、89〜96(1988))。オレラニンの毒素機序は解明されておらず、腎臓が回復するかどうかを見守りながらの維持透析以外、利用可能な治療はない。最終転帰は、摂取された毒素の量に決定的に依存しており、経験則として、1種の真菌の摂取は一時的な問題を与え、2種の真菌は腎機能の一部を永久に失うことになり、3種以上の真菌は、腎機能を全面的に失い、透析又は腎臓移植の形態での腎置換療法が生涯にわたり必要になることになる。
【0022】
出願者らは最近、健康なラットにおけるオレラニンの作用機序についての最初の研究を発表した(Nilsson UA et al.真菌の腎毒素オレラニンは同時に酸化ストレスを増加させ細胞防御を下方調節する(The fungal nephrotoxin orellanine simultaneously increases oxidative stress and down−regulates cellular defenses).Free Rad.Biol.Med.44:1562〜9(2008))。この研究は、いくつかのキーとなる抗酸化遺伝子の発現が劇的に減少するとともに皮質腎組織において酸化ストレスが増加することを明らかにしている。この研究中、腎尿細管上皮細胞に対するオレラニンの特異性は、先行技術では一般に絶対的であると考えられているが、前記細胞のがん細胞への転換後もこれらの細胞を包含すると理論的に拡張することができることが認められた。正しいことが証明された場合、そのような仮説は、オレラニンが上皮起源の腎がんに対する強力な武器になり、進行段階でさえ及び他の組織での転移に関して治癒的潜在能力があることを意味すると考えらえる。
【0023】
この仮説を探求していて、驚くべきことに、オレラニンが実際にヒト腎がん細胞においても取り込まれ、前記細胞を、原発腫瘍由来であれ転移腫瘍組織由来であれ、極めて効率よく死滅させることが発見された。オレラニンへの一時的な曝露後何日もの間細胞死が進行し、前記毒素が活発に取り込まれ細胞に保持されていることを示している(同時係属出願US2010−0152243参照)。
【0024】
オレラニンが腎がん細胞を標的にして死滅させることができることが発見されたために、進行段階のRCCを治癒する我々の能力は途方もなく改善されたが、前記治療の2つの重大な欠点は明白である。
【0025】
オレラニンの標的プロフィールのせいで、治療により転移腫瘍(単数又は複数)の根絶とともに健康な腎組織が必然的に破壊されることになる。このために、全面的腎不全が起こり、生涯にわたる血液透析/腹膜透析又は移植による腎置換の必要性が生じる。
【0026】
正常な(及び転換された)腎尿細管上皮細胞に対してオレラニンには高度な特異性があるという考えは、主に中毒データに起因する。これらの場合、単回用量の毒素はキノコの形態で摂取され、摂取された物質中の大部分のオレラニンは、心拍出量の20%を受けるこれらの臓器の極端な灌流のせいだけで腎臓に押しやられる。これは、オレラニンは腎臓を通じて急速に濾過され、尿細管細胞により取り込まれ保持されないものは尿中に失われたことを意味する。したがって、身体の他の部分はかなりの濃度のオレラニンに曝されることはなかった。オレラニンの観察された特異性の少なくとも一部は多分この事実に起因する。実際、前記毒素は中毒に罹った者の身体に取り込まれたという事実そのものが、前記特異性は絶対的なものではないことを明確に実証しており、オレラニンは腸を裏打ちする上皮細胞により取り込まれ血液中に排出されたに違いない。RCCの治療中の背景は全く異なっており、初回量の圧倒的多数が腎臓により除去され、尿細管細胞を破壊し残りの腎機能を停止してしまう。しかし、それに続く用量により、オレラニンの血漿中濃度が劇的に高くなる。これにより尿細管を起源とする腫瘍細胞への活発な取込みが可能になり、これらの細胞は、ある程度、オレラニンへの他の組織の曝露を妨げる下水だめとして機能する。にもかかわらず、十分な高用量が使用された場合(腫瘍(単数又は複数)の全面的根絶を達成するのに必要である場合のように)、他の細胞型へ溢流する可能性がある。このように、オレラニンの表面的特異性にもかかわらず、RCCの治療のためにオレラニンを使用した場合、他の組織へのコラテラルダメージが生じることがある。このせいで、望ましい効果と望ましくない効果の均衡を保つための慎重な用量設定とレジメンが必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
したがって、健康な腎尿細管上皮細胞(及び結果として腎機能)、並びに非特異的オレラニン毒性により損傷を受けることがある他の細胞を残すために、オレラニンの望まれない毒性効果を減らすことを目的とする産物及び方法の必要性が存在する。本発明は、この必要性を満たし、利点もさらに提供する。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の主目的は、上皮細胞に由来する腎がんを治療するための方法であって、位置R1〜R4のうちのいずれかで結合している少なくとも1つのα線放射性核種(たとえば、アスタチン−211又はアクチニウム−225)を含む式Iによる少なくとも1つの化合物を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含む上記方法を提供することである。
【化1】
【0029】
本発明の別の目的は、上皮細胞に由来する腎がんを治療するための方法であって、位置R1〜R4のうちのいずれかで結合している少なくとも1つのα線放射性核種(たとえば、アスタチン−211又はアクチニウム−225)を含む式Iによる少なくとも1つの化合物を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含み、前記化合物は、位置R1〜R4のうちのいずれかに結合している少なくとも1つの巨大分子(たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン又はフィコール(登録商標)などのオリゴマー/ポリマー)にコンジュゲートされており、前記巨大分子は、前記コンジュゲートの糸球体濾過を実質的に減少する又は妨げるのに十分な分子量又は径を有しており、前記アルファ線放射性核種及び前記巨大分子は好ましくはオレラニン分子中の異なるピリジル部分にコンジュゲートされている、上記方法を提供することである。
【0030】
本発明の別の目的は、上皮細胞に由来する腎がんを治療するための方法であって、位置R1〜R4のうちのいずれかに結合している少なくとも1つの巨大分子(たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン又はフィコール(登録商標)などのオリゴマー/ポリマー)にコンジュゲートされている式Iによる少なくとも1つの化合物を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含み、前記巨大分子は、前記コンジュゲートの糸球体濾過を実質的に減少する又は妨げるのに十分な分子量又は径を有している、上記方法を提供することである。
【0031】
本発明の他の目的は、医薬として使用するための、α線放射性核種又は巨大分子とコンジュゲートされている式Iによる化合物を提供することであり、腎細胞癌の治療において使用するための、コンジュゲートされた式Iを有する化合物を提供することである。
【0032】
本発明の他の目的は、医薬として使用するための、α線放射性核種と巨大分子の両方とコンジュゲートされている、式Iによる化合物を提供することであり、腎細胞癌の治療において使用するための、コンジュゲートされた式Iを有する化合物を提供することである。
【0033】
本発明の別の目的は、式Iの上記のコンジュゲートされた形態のいずれかによる少なくとも1つの化合物を含み、任意選択で、抗がん活性のある他の作用物質、並びに組成物の有効性を最適化するのに必要な担体及び他の任意の賦形剤を含む医薬組成物を提供することである。
【0034】
さらに別の目的は、組成物が、処置している医師若しくは看護師及び/又は放射性核種を伴う治療の分野の熟練した技術者が使用するのに簡単に準備することができるように、上記組成物を1つ又は複数の別々の区画に、希釈剤及び/又は溶媒及び/又は必要に応じてオレラニン分子にアルファ線放射体をその場でカップリングするための試薬と共に含有するキットを提供することである。
【0035】
本記載及び本実施例を読むと、本発明の他の目的及び利点がこの分野の当業者には明らかになるが、これらの目的及び利点は本発明の範囲内にあるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、α線放射性核種(たとえば、アスタチン211)及び/又は巨大分子(たとえば、PEG)とコンジュゲートされたピリジン−N−オキシド及びビピリジン−N,N−ジオキシド化合物を含む医薬組成物、並びに腎がんに罹っている又は罹りやすい患者に前記医薬組成物を投与することにより腎がんを治療する方法を提供する。本発明は、腎がんに罹っている又は罹りやすい患者を治療するためのキットも含む。
本発明は、オレラニンの望まれない毒性効果を減少させるための、及び健康な腎尿細管上皮細胞、並びに非特異的オレラニン毒性に損傷を受けることがある他の細胞を残すための、式Iによるオレラニン及び関連化合物の修飾物である。したがって、本発明者らは以下の実施形態による生成物及び方法を提供する。
【0037】
A:本発明の第一の実施形態は、式Iの化合物と、コンジュゲートの腎臓濾過を実質的に減少させる又は妨げるのに十分高い分子量を有する巨大分子との間のコンジュゲーションに基づいている。したがって、原尿から細胞中に活発に取り込まれる毒素への近位尿細管細胞の曝露は著しく減少する。基本的に、組合せは製剤の薬物動態特性を変化させる。巨大分子は、たとえば、PEGなどのオリゴマー/ポリマー、フィコール(登録商標)又はデキストランなどの多糖類でよい。
【0038】
PEGはエチレンオキシドのオリゴマー又はポリマーである。非常に広い範囲の分子量(300g/molから10,000,000g/molまで)にわたる、異なる幾何学的形状(たとえば、分枝状、線状及びその異なる組合せ)のPEGが市販されている。PEGは、さらに有利な薬物動態プロフィールを得るために様々なタンパク質及びペプチドにコンジュゲートされてきた。たとえば、WO08054585A、P2001288110及びUS7683030Bなどの特許は、循環半減期を増やし、最小の治療的に有効な用量を減らし、改変された薬物分子の腎臓クリアランスを減らすための、異なる薬物へのPEGのコンジュゲーションを開示している。先行技術においては比較的一般的ではないけれども、小分子もPEGと一緒にコンジュゲートすることが可能である(Bersani et al.(2005)Farmaco.60(9):783〜8)。
【0039】
デキストラン、複合体、様々な長さ(一般に、10から150kD)の鎖で構成されている分枝グルカン及びフィコール(登録商標)、すなわち、中性の、高度に分枝し、高質量の親水性多糖類は、医薬品の効果を延長するのにも一般的に使用されている他の物質の例である。
【0040】
我々は、血液中により長くとどまり同時に健康な腎細胞に対して示す毒性が驚くほど低いコンジュゲートされた分子を作製するために、異なる巨大分子(PEG、デキストラン及びフィコール(登録商標)を含むが、これらに限定されない)の特性を、正常な及び転換された腎尿細管上皮細胞におけるオレラニンに対する高度な特異性と組み合わせて利用してきた。我々の知る限りでは、罹患していない腎組織における健康な尿細管細胞を残しつつ、腎尿細管上皮細胞に由来する転移がん細胞を選択的に標的にする薬物を作製するために、この種のコンジュゲーションが以前使用されたことはない。
【0041】
上で説明されたように、コンジュゲートする巨大分子は、コンジュゲートのオレラニン部分の毒性、特異性及び腎がん細胞への取込みを実質的に妨げないような性質である。式Iの化合物を十分な大きさの巨大分子にコンジュゲートすると、前記コンジュゲートは糸球体濾過が低下することにより循環系に保持され、したがって、腎臓曝露は顕著に減少する。したがって、健康な腎尿細管上皮細胞を残すことができる(たとえば、片側性腎がんの健康な腎臓において)。本発明のこの実施形態は、毒性化合物への健康な腎尿細管上皮細胞の曝露を、治療に成功した後で患者に十分な腎機能を残すのに十分に低くして、尿細管表皮起源の転移腎がんを選択的に治療することを可能にする。このようにすれば、透析療法は回避され、治療を受けた個人に大いに改善された生活の質がもたらされ、医療制度への重圧は実質的に減少する。なぜならば、典型的な透析患者の看護には平均的な患者の看護の10倍の費用がかかるからである。
【0042】
式Iによる標的化合物への巨大分子のカップリングは、必要に応じて感受性の置換基を保護して、有機合成の分野の当業者には公知の標準法に従って、実施することが可能である。これらの標準法には、オリゴマー/ポリマー(たとえば、PEG、ポリリシン、デキストランなど)、分枝鎖ポリマー;脂質;コレステロール類(たとえば、ステロイド);又は炭水化物、すなわち、オリゴ糖若しくは多糖類(たとえば、フィコール(登録商標))などの巨大分子との本発明の式Iによる化合物の共有又は非共有結合が含まれる。他の考えられる担体には、たとえば、米国特許第4640835号、米国特許第4496689号、米国特許第4301144号、米国特許第4670417号、米国特許第4791192号及び米国特許第4179337号に記載されているポリオキシエチレングリコール又はポリプロピレングリコールなどの1つ又は複数の水溶性ポリマー付着物が含まれる。当技術分野において公知のさらに他の有用なポリマーには、モノメトキシ−PEG、セルロース、又は他の炭水化物ベースのポリマー、すなわち、ポリ−(N−ビニルピロリドン)−ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(たとえば、グリセロール)及びポリビニルアルコールの他にこうした種類の巨大分子の混合物が含まれる。
【0043】
本発明の一つの好ましい実施形態では、担体はPEGである。PEG基はどんな都合のよい分子量でもよく、直鎖でも分枝鎖でもよい。PEGの平均分子量は約2kDaから約100kDa、又は約5kDaから約50kDa、又は約5kDaから約10kDaまでの範囲になる。
【0044】
PEG基は、一般に、アシル化、還元的アルキル化、マイケル付加、チオールアルキル化又はPEG部分上の反応基(たとえば、アルデヒド、アミノ、アミドエステル、チオール、アルファ−ハロアセチル、マレイミド又はヒドラジノ基)を通して標的化合物上の反応基(たとえば、アルデヒド、アミノ、アミド、エステル、チオール、アルファ−ハロアセチル、マレイミド又はヒドラジノ基)への他の官能基選択的コンジュゲーション/ライゲーション法により本発明の化合物へ付着していることになる。
【0045】
B:本発明の第二の実施形態は、オレラニンに類似する標的プロフィール及び特異性を有するが毒性が非常に増加した化学種を作製することにより製剤の治効を増加させるための式Iの化合物とα線放射性核種(たとえば、アスタチン211)間のコンジュゲーションに基づいている。したがって、効率的腫瘍根絶に必要な211Atコンジュゲートされたオレラニンの用量は、他の組織への非特異的な取込みが起こらないくらい低く、コラテラル毒性は実質的に又は完全に回避されることを意味する。
【0046】
長年、ベータ線放射性核種はがん治療のための放射性医薬品中の細胞傷害性薬剤として使用されてきた。しかし、最近、抗腫瘍薬にアルファ線放射体を利用する努力も重ねられてきた。アルファ線放射体の例には、α粒子を放出することにより崩壊する、アスタチン211、ビスマス−212、ビスマス−213、アクチニウム−225、鉛−212及びテルビウム−149などの一部の不安定な同位体の核が含まれる。アルファ線放射体には、アルファ線放射体をベータ線放射体とは区別し、潜在的に治療においてより優れた有効性を提供するいくつかの特長がある。この特長には、より高いエネルギー及び組織中でのより短い飛程が含まれる。生理的環境における典型的なアルファ線放射体の照射領域は、一般に、100マイクロメータ未満であり、わずか数細胞の径に相当する距離である。このために、これらの供給源は微小転移を含む腫瘍の治療に適している。なぜならば、標的細胞を超える放射エネルギーはほとんどなく、周囲の健康な組織への損傷を最小限に抑えるからである。これとは対照的に、ベータ粒子は水中で1mm又はそれよりも長い飛程を有する。アルファ粒子放射のエネルギーも、ベータ粒子、ガンマ粒子及びX線と比べて高く、典型的には5〜8MeVである、又はベータ粒子のエネルギーの5から10倍、ガンマ線のエネルギーの20倍若しくはそれよりも大きい。したがって、非常に短い距離での大量のエネルギーのこのような滞積は、ガンマ線又はベータ線と比べて、アルファ線に並はずれて高い線エネルギー付与(LET)を与える。有利な条件下では、1個のアルファ粒子だけで1つのがん細胞を破壊するのに十分である。これは、アルファ線放射性核種の並はずれた細胞傷害性を説明し、受け入れがたい副作用を回避するために必要な放射性核種分布の制御及び研究レベルに厳しい要求も課す。
【0047】
がん治療におけるアルファ線放射性核種の使用に関してはいくつかの例がある。しかし、がん放射線療法におけるアルファ線放射体に関する公開されている論文及び特許の大多数が、唯一又は主にがん細胞上に提示される抗原に対して産生される抗体にアルファ線放射体をコンジュゲートすることにより抗原−抗体相互作用の特異性を利用する、放射免疫療法(RIT)に関する。この方法では、抗原発現ががん細胞にとりどれほど特有であるかに依拠する程度にコラテラルダメージを回避しつつ、致死線量の細胞傷害性放射線を放射する放射性核種を腫瘍細胞に送達することが可能である。他の使用は、副作用を最小限に抑えるための方法に関する。
【0048】
アスタチン−211は、治療において使用される他の大半のアルファ線放射性核種よりも1つの明確な利点、すなわち、その化学的特質を有する。アスタチンは、オレラニンを含む他の分子に共有結合させる化学的性質のあるハロゲンであり、他の利用できる核種は金属特性であり、一般にコンジュゲーションにはキレート剤が必要である。さらに、アスタチン−211は、サイクロトロンにおいて天然のビスマスにアルファ粒子を当てることにより比較的容易に生成される。核反応に続いてビスマス標的を乾留し、クロロホルム中に211Atを収集する(Zalutsky MR et.al.:Nucl.Med.(2001)42:1508〜15)。担体分子への211Atのカップリングは、必要に応じて感受性の置換基を保護して、有機合成の分野内の普通に熟練した専門職には公知である、有機分子のハロゲン化、たとえば、ヨウ素化のための標準法に従って実施することが可能である。
【0049】
本発明では、毒性の2つの異なる機序、すなわち、たとえば、アスタチン−211又はアクチニウム−225の一般的細胞傷害性と式Iの化合物の標的された毒性を、腎尿細管上皮細胞及び尿細管起源のがん細胞上で組み合わせることにより、我々は、腎細胞癌に対して驚くほど強力で特異的な効果のあるコンジュゲートされた化合物を生み出した。付着させた放射性核種は、特異性又は腎がん細胞への取込みを実質的に妨げずに、式Iの非コンジュゲート化合物と比べて、コンジュゲートの毒性を実質的に増加させるような性質のものである。これにより、我々は、著しく低い濃度、すなわち式Iの非コンジュゲート化合物の最も好ましい用量のほぼ10%、のオレラニンを用いて、それによってオレラニンの非特異的毒性を減弱して又は除去して、満足のいく治療効果に到達することができる。
【0050】
C:本発明の第三の実施形態は、残っている健康な腎組織への特異的損傷及び他の組織への非特異的損傷を減弱するために、第一の実施形態(A)と第二の実施形態(B)を組み合わせて、式Iによる化合物をα線放射性核種(たとえば、アスタチン−211又はアクチニウム−225)と巨大分子(たとえば、PEG、デキストラン又はフィコール(登録商標))の両方とコンジュゲートさせる。
【0051】
この実施形態では、オレラニンは先ず、本発明の第一の実施形態の上記説明において述べられた方法のうちのいずれかにより巨大分子にコンジュゲートされる。次に、オレラニンそれ自体というよりむしろこのコンジュゲートは、本発明の第二の実施形態の上記説明中のアスタチンコンジュゲート反応における出発物質として使用される。好ましくは、巨大分子はオレラニン分子の5位にコンジュゲートされ、アスタチンは5’位にコンジュゲートされる。
【0052】
明細書における式Iによる(又は類似する)化合物/形態のコンジュゲーションは、本発明の記載された3つの実施形態のうちの1つ又はいくつかに則した式Iによる化合物のコンジュゲーションとして定義される。
【0053】
本発明は、腎細胞癌に罹っている又は罹りやすい患者を治療するための方法であって、式Iのコンジュゲート型、薬学的に許容されるその塩又は前記化合物を含む医薬組成物を患者に投与するステップを含む上記方法を提供する。
【0054】
患者に投与されるコンジュゲートされた分子は、R1、R2、R3及び/又はR4が非コンジュゲートオレラニン(R1=R2=R3=R4=水素)と比べて、実質的に異なった細胞傷害性、特異性又は腎がん細胞への取込みを引き起こさない式Iの化合物を含む。したがって、R1、R2、R3及び/又はR4には、水素、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシが含まれるが、これらに限定されることはなく、前記物質のそれぞれを、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロを含むが、これらの限定されない基を用いてさらに置換してもよい。本発明の好ましい実施形態では、式Iの非コンジュゲート化合物は、オレラニンすなわち、R1=R2=R3=R4=水素である。1つ若しくはいくつかの巨大分子及び/又は1つ若しくはいくつかのアルファ線放射性核種のコンジュゲーションは、任意の考えられる組合せで、位置R1、R2、R3及びR4のいずれにおいても、その他に式Iの化合物の他のいかなる置換基においても実施することが可能である。したがって、本発明の範囲から逸脱することなく、式Iにおけるヒドロキシル基のいずれかへの巨大分子及び/又は放射性核種のコンジュゲーションは可能である。式Iによる対応する好ましいコンジュゲートされた化合物では、R1は、デキストラン、ポリエチレングリコール及びフィコールを含む群から選択される巨大分子であり、R3は、アスタチン−211、ビスマス−212、ビスマス−213、アクチニウム−225、鉛−212及びテルビウム−149を含む群から選択されるアルファ線放射性核種である。
【0055】
腎がんに罹っている又は罹りやすい患者を治療する本発明による方法の追加の実施形態では、患者に投与される式Iのコンジュゲートされた化合物は、薬学的に許容される塩、水和物、又は溶媒和化合物である。本明細書で使用されるように、薬学的に許容される塩は、一般的には、当技術分野では、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、又は他の問題若しくは合併症なしでヒト又は動物の組織に接触させて使用するのに適していると見なされる酸性塩又は塩基性塩である。そのような塩には、ミネラル及びアミンなどの塩基性残基の有機酸塩が含まれる。特定の製薬塩には、塩酸、リン酸、臭化水素酸、リンゴ酸、グリコール酸、フマル酸、硫酸、スルファミン酸、スルファニル酸、ギ酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、エタン二スルホン酸、2−ヒドロキシエチルスルホン酸、硝酸、安息香酸、2−アセトキシ安息香酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ステアリン酸、サリチル酸、グルタミン酸、アスコルビン酸、パモ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、プロピオン酸、ヒドロキシマレイン酸、ヨウ化水素酸、フェニル酢酸、酢酸などのアルカン酸、nが0〜4であるHOOC−(CH)n−COOH等などの酸の塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
本明細書において提供される腎がんを治療する方法では、式Iのコンジュゲートされた化合物は、単回用量で、一連の日用量で、又は断続的投与フォーマット(たとえば、1日から約30日の間隔を空けて、1日から約14日の間隔を空けて、又は1日から約7日の間隔を空けて投与される複数回の用量又は用量シークエンス)で投与することが可能である。ある種の方法では、投与プロトコール及び式Iのコンジュゲートされた化合物は、腫瘍の大きさの少なくとも50%減少、又はさらに好ましくは投与プロトコール完了後、腫瘍の大きさの少なくとも75%、90%若しくは95%減少を提供するように選択され、ある種の他の方法では、投与プロトコール及び式Iのコンジュゲートされた化合物の選択は、腫瘍の大きさの95%減少、腫瘍の大きさの99%減少、又は腫瘍のほぼ完全な除去をもたらす。
【0057】
単回用量投与プロトコールを含む、本発明の第一の実施形態による治療方法では、約1mg/kgから約100mg/kgの非コンジュゲートオレラニンの量に相当する単回用量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩が患者に投与され、患者への投与のための好ましい単回用量は、約2mg/kgから約25mg/kgの非コンジュゲートオレラニン、最も好ましくは、約5mg/kgから約15mg/kgの非コンジュゲートオレラニン、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩に相当する。
【0058】
単回用量投与プロトコールを含む、本発明の第二及び第三の実施形態による治療方法では、約0.1mg/kgから約20mg/kgの非コンジュゲートオレラニンの量に相当する単回用量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩が患者に投与され、患者への投与のための好ましい単回用量は、約0.2mg/kgから約5mg/kgの非コンジュゲートオレラニン、最も好ましくは、約0.5mg/kgから約2mg/kgの非コンジュゲートオレラニン、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩に相当する。
【0059】
本発明の第一の実施形態による腎がんを治療するある種の他の治療法では、式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩が、腎がんに罹っている又は罹りやすい患者に、2回以上の用量で投与される。典型的には、前記用量は毎日又は断続的(たとえば、連続用量の間に少なくとも1日の非投与日がある)に投与される。式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩が複数回の用量で投与されるある種の方法では、各用量は約0.5mg/kgから約10mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物を含み、又はさらに好ましくは、各用量は約1mg/kgから約5mg/kgの、又は最も好ましくは、約2mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物を含む。
【0060】
本発明の第二及び第三の実施形態に従って腎がんを治療するある種の他の治療方法では、式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩が、腎がんに罹っている又は罹りやすい患者に、2回以上の用量で投与される。典型的には、前記用量は毎日又は断続的(たとえば、連続用量の間に少なくとも1日の非投与日がある)に投与される。式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩が複数回の用量で投与されるある種の方法では、各用量は約0.05mg/kgから約2mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物を含み、又はさらに好ましくは、各用量は約0.01mg/kgから約1mg/kgの、又は最も好ましくは、約0.2mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量のIによるコンジュゲートされた化合物を含む。
【0061】
連続用量が断続的に投与される本発明の第一の実施形態によるある種の方法では、前記連続用量は2日から7日の間隔を空けて投与され、式Iの化合物又は塩の断続的投与を含むさらに他の方法では、前記化合物は、3、4、5又は6回以上の用量で患者に投与され、各用量は3日から5日の間隔を空けて投与され、さらに他の方法では、患者は3日から4日の間隔を空けて投与される4、5、又は6回以上の用量で投与され、各用量は約1mg/kgから約20mg/kgの非コンジュゲートオレラニン、好ましくは、2〜10mg/kg、最も好ましくは、約5mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩を含む。腎がんを治療するある種の他の治療法では、患者には、日用量の式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩が、少なくとも2日間投与される。患者に投与される典型的な日用量は、0.1から10mg/kgの非コンジュゲートオレラニン、好ましくは、1から5mg/kg、最も好ましくは、約2mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式(I)によるコンジュゲートされた化合物を含む。治療プロトコールは、典型的には、5から約30日間、又は好ましくは、10日から20日間、又は最も好ましくは、約14日間、式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩の毎日投与を含む。
【0062】
連続用量が断続的に投与される本発明の第二及び第三の実施形態によるある種の方法では、前記連続用量は2日から7日の間隔を空けて投与され、式Iの化合物又は塩の断続的投与を含むさらに他の方法では、前記化合物は、3、4、5又は6回以上の用量で患者に投与され、各用量は3日から5日の間隔を空けて投与され、さらに他の方法では、患者は3日から4日の間隔を空けて投与される4、5、又は6回以上の用量で投与され、各用量は約0.1mg/kgから約4mg/kgの非コンジュゲートオレラニン、好ましくは、0.2〜2mg/kg、最も好ましくは、約0.5mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩を含む。腎がんを治療するある種の他の治療法では、患者には、日用量の式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩が、少なくとも2日間投与される。患者に投与される典型的な日用量は、0.01から2mg/kgの非コンジュゲートオレラニン、好ましくは、0.01から1mg/kg、最も好ましくは、約0.25mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式(I)によるコンジュゲートされた化合物を含む。治療プロトコールは、典型的には、5から約30日間の、又は好ましくは、10日から20日間の、又は最も好ましくは、約14日間の、式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩の毎日投与を含む。
【0063】
ある種の例では、上記の複数の断続的投与プロトコール、毎日投与プロトコール、又はその組合せを、休養及び/若しくは回復期間と組み合わせて行うのが望ましい場合がある。したがって、ある種の例では、本明細書に提供される毎日又は断続的投与法に従って、式Iのコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩を投与し、前記療法に対する腫瘍応答を測定し、その後必要に応じて続いて毎日又は断続的投与治療を行い、腎がん腫瘍を除去する又はその大きさをさらに減少させるのが望ましい場合もある。そのような投与戦略は、腫瘍学の分野の普通の熟練者には周知である。
【0064】
本発明の第一の実施形態の1つの特に好ましい態様では、腎細胞癌に罹っている患者は、約7〜21日間連続して、最も好ましくは約14日間連続して、約0.5〜5mgの非コンジュゲートオレラニン/kg b.w.、最も好ましくは約2mgの非コンジュゲートオレラニン/kg b.w.に相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物を毎日注射することにより、本発明の式Iによるコンジュゲートされた化合物を用いて治療される。式1によるコンジュゲートされた化合物の各毎日注射の1から5時間後、最も好ましくは、そのような注射の約2時間後、腫瘍組織に取り込まれなかった式Iによるどんな化合物も除去し、それによって細胞外間隙で起こる可能性のあるいかなる望ましくない副作用も最小限に抑えるために、患者は1〜5時間、最も好ましくは約2時間血液透析を受ける。
【0065】
本発明の第二及び第三の実施形態の1つの特に好ましい態様では、腎細胞癌に罹っている患者は、約7〜21日間連続して、最も好ましくは約14日間連続して、約0.05〜1mgの非コンジュゲートオレラニン/kg体重(b.w.)、最も好ましくは、約0.3mgの非コンジュゲートオレラニン/kg b.w.に相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物の量を毎日注射することにより、本発明の式Iによるコンジュゲートされた化合物を用いて治療される。式Iによるコンジュゲートされた化合物の各毎日注射の1から5時間後、最も好ましくは、そのような注射の約2時間後、腫瘍組織に取り込まれなかった式Iによるどんな化合物も除去し、それによって細胞外間隙で起こる可能性のあるいかなる望ましくない副作用も最小限に抑えるために、患者は1〜5時間、最も好ましくは約2時間血液透析を受ける。
【0066】
上記の好ましい用量及び投与レジメンは、体重70kgで腎細胞癌に罹っており腫瘍量約1kgのヒトに基づいている。しかし、がん医療の分野の普通の熟練者には全く公知であるように、そのような好ましい用量及び投与レジメンは、年齢、性別、体重、全体状態並びに、とりわけ、個々の患者の腫瘍量及び治療に対する応答などの患者の特徴により大いに左右される。いつもの通り、適量及び治療戦略を選ぶ最終責任は患者を担当している医師にある。
【0067】
本発明は、腎細胞癌に罹っている又は罹りやすい患者を治療する方法を提供する。本発明の方法は、3つの主な実施形態のうちのどれかに分類される。第一の実施形態は、患者に外科的治療後、残っている腎機能があり(すなわち、片側性疾患又は腎臓温存手術を用いた両側性疾患)、ある理由で放射性核種を用いた治療に耐えられない場合には最も好ましい。本発明の第二の実施形態は、患者に外科的治療後、腎機能が残っていない(すなわち、両側性疾患及び根治的腎摘出術)場合には最も好ましい。これは患者集団の最大5%で起こる。本発明の第三の実施形態は、患者にオレラニン毒性に対して保護する必要がある残っている腎機能がある(すなわち、片側性疾患又は腎臓温存手術を用いた両側性疾患)場合には最も好ましい。
【0068】
ある種の場合には、腎細胞癌はすでに転移しており、たとえば、少なくとも1つの腎細胞癌腫瘍が少なくとも1つの非腎組織に存在している。典型的には、本明細書で提供される方法は、腎臓に、非腎組織に、又はその組合せに存在する腎細胞癌腫瘍に罹っている又は罹りやすい患者の治療において使用するのに適している。好ましい実施形態では、腫瘍は非腎組織に又は腎臓と非腎組織の組合せに存在する。本発明により提供される治療方法は、治療的に有効な用量の式Iのコンジュゲートされた化合物を腫瘍の近くまで送達することができるどんな投与経路でも企図している。本明細書で提供されるある種の好ましい治療方法では、式Iのコンジュゲートされた化合物、又は同一物を含む医薬組成物は、静脈内に、皮下に、又は腹腔内に投与される。典型的には、式Iのコンジュゲートされた化合物、又は同一物を含む医薬組成物は、静脈内に投与される。
【0069】
別の態様では、本発明は、医薬として使用するための、R1、R2、R3及び/又はR4が非コンジュゲートオレラニン(R1=R2=R3=R4=水素)と比べて、実質的に異なる細胞傷害性、特異性又は腎がん細胞への取込みを引き起こさない式Iのコンジュゲートされた化合物を提供する。本発明は、R1、R2、R3及び/又はR4が非コンジュゲートオレラニン(R1=R2=R3=R4=水素)と比べて、実質的に異なる細胞傷害性、特異性又は腎がん細胞への取込みを引き起こさない式Iのコンジュゲートされた化合物の医薬としての使用も提供する。R1、R2、R3及び/又はR4には、水素、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシが含まれるが、これらに限定されることはなく、前記物質のそれぞれを、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロを含むが、これらの限定されない基を用いてさらに置換してもよい。本発明の好ましい実施形態では、式Iの非コンジュゲート化合物は、オレラニンすなわち、R1=R2=R3=R4=水素である。式Iによる対応する好ましいコンジュゲートされた化合物では、R1は、デキストラン、ポリエチレングリコール及びフィコールを含む群から選択される巨大分子であり、R3は、アスタチン−211、ビスマス−212、ビスマス−213、アクチニウム−225、鉛−212及びテルビウム−149を含む群から選択されるアルファ線放射性核種である。本発明のこの態様の他の好ましい実施形態は詳細な説明から明白である。
【0070】
さらに別の態様では、本発明は、腎細胞癌の治療において使用するための、R1、R2、R3及び/又はR4が非コンジュゲートオレラニン(R1=R2=R3=R4=水素)と比べて、実質的に異なる細胞傷害性、特異性又は腎がん細胞への取込みを引き起こさない式Iのコンジュゲートされた化合物を提供する。本発明は、腎細胞癌の治療のための医薬の製造のための、R1、R2、R3及び/又はR4が非コンジュゲートオレラニン(R1=R2=R3=R4=水素)と比べて、実質的に異なる細胞傷害性、特異性又は腎がん細胞への取込みを引き起こさない式Iのコンジュゲートされた化合物の使用も提供する。R1、R2、R3及び/又はR4には、水素、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシが含まれるが、これらに限定されることはなく、前記物質のそれぞれを、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロを含むが、これらの限定されない基を用いてさらに置換してもよい。本発明の好ましい実施形態では、式Iの非コンジュゲート化合物は、オレラニンすなわち、R1=R2=R3=R4=水素である。式Iによる対応する好ましいコンジュゲートされた化合物では、R1は、デキストラン、ポリエチレングリコール及びフィコールを含む群から選択される巨大分子であり、R3は、アスタチン−211、ビスマス−212、ビスマス−213、アクチニウム−225、鉛−212及びテルビウム−149を含む群から選択されるアルファ線放射性核種である。本発明のこの態様の他の好ましい実施形態は詳細な説明から明白である。
【0071】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体及びR1、R2、R3及び/又はR4が非コンジュゲートオレラニン(R1=R2=R3=R4=水素)と比べて、実質的に異なる細胞傷害性、特異性又は腎がん細胞への取込みを引き起こさない式Iによるコンジュゲートされた化合物を含む医薬組成物を提供する。したがって、R1、R2、R3及び/又はR4は、水素、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシにより例示されるが、これらに限定されることはなく、前記物質のそれぞれを、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロを含むが、これらの限定されない基を用いてさらに置換してもよい。本発明の好ましい実施形態では、式Iの非コンジュゲート化合物は、オレラニンすなわち、R1=R2=R3=R4=水素である。式Iによる対応する好ましいコンジュゲートされた化合物では、R1は、デキストラン、ポリエチレングリコール及びフィコールを含む群から選択される巨大分子であり、R3は、アスタチン−211、ビスマス−212、ビスマス−213、アクチニウム−225、鉛−212及びテルビウム−149を含む群から選択されるアルファ線放射性核種である。
【0072】
ある種の他の医薬組成物では、式Iのコンジュゲートされた化合物は、薬学的に許容される塩、水和物、又は溶媒和化合物として前記組成物に組み込まれる。本明細書で使用されるように、薬学的に許容される塩は、一般的には、当技術分野では、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、又は他の問題若しくは合併症なしでヒト又は動物の組織に接触させて使用するのに適していると見なされる酸性塩又は塩基性塩である。そのような塩には、ミネラル及びアミンなどの塩基性残基の有機酸塩が含まれる。特定の製薬塩には、塩酸、リン酸、臭化水素酸、リンゴ酸、グリコール酸、フマル酸、硫酸、スルファミン酸、スルファニル酸、ギ酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、エタン二スルホン酸、2−ヒドロキシエチルスルホン酸、硝酸、安息香酸、2−アセトキシ安息香酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ステアリン酸、サリチル酸、グルタミン酸、アスコルビン酸、パモ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、プロピオン酸、ヒドロキシマレイン酸、ヨウ化水素酸、フェニル酢酸、酢酸などのアルカン酸、nが0〜4であるHOOC−(CH)n−COOH等などの酸の塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0073】
本発明により提供される医薬組成物は、前記組成物が使用されることになる治療方法により企図されているいかなる投与経路においても使用するのに適している。本発明の方法では、式Iによる本発明のコンジュゲートされた化合物及びその医薬組成物は、非経口(静脈内、皮下、筋肉内及び皮内を含む)、局所的(頬側、舌下を含む)、経口、経鼻等を含む種々の経路により対象に投与し得る。本明細書で提供されるある種の好ましい医薬組成物では、医薬組成物は、静脈内、皮下、又は腹腔内注射による投与のために製剤化される。典型的には、前記医薬組成物は、静脈内注射による投与のために製剤化される。
【0074】
ある種の非経口投与経路では、前記医薬組成物は、本発明の第一の実施形態による約0.1mg/mLから約25mg/mLの非コンジュゲートオレラニン並びに本発明の第二及び第三の実施形態による約0.01mg/mLから約5mg/mLの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は薬学的に許容されるその塩を含む無菌生理食塩水である。非経口投与のためのある種の好ましい医薬組成物は、任意選択で1つ又は複数の薬学的に許容される添加剤を含む生理食塩水中に、本発明の第一の実施形態による約0.5mg/mLから約10mg/mLの非コンジュゲートオレラニン並びに本発明の第二及び第三の実施形態による約0.05mg/mLから約2mg/mLの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩を含む。
【0075】
ある種の好ましい医薬組成物では、前記組成物は、本発明の第一の実施形態による約25mgから約5000mg若しくは約5mgから約2500mgの非コンジュゲートオレラニン、並びに本発明の第二及び第三の実施形態による約2.5mgから約1000mg若しくは約0.5mgから約500mgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩を含む。本発明のある種の他の医薬組成物では、前記組成物は、本発明の第一の実施形態による約1mgから約1500mgの非コンジュゲートオレラニン、並びに本発明の第二及び第三の実施形態による約0.1mgから約300mgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩を含む。さらに他の医薬組成物は、本発明の第一の実施形態による約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、若しくは約100mgの非コンジュゲートオレラニン、並びに本発明の第二及び第三の実施形態による約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、若しくは約10mgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩を含むように製剤化される。
【0076】
がんに罹っている又は罹りやすい患者を治療するある種の方法では、がんに罹っている又は罹りやすい患者への式Iによる前記コンジュゲートされた化合物の投与により、腫瘍の大きさは少なくとも50%又はさらに好ましくは少なくとも約60%、70%、80%、90%若しくは約95%減少する。がんに罹っている患者を治療するある種の他の方法では、がんに罹っている患者への式Iによる前記コンジュゲートされた化合物の投与により、腫瘍の大きさは少なくとも99%減少する又は検出可能な腫瘍が残らなくなるまで腫瘍の大きさは減少する。
【0077】
がんに罹っている患者を治療するある種の好ましい方法には、家畜、伴侶動物(イヌ、ネコ、ウマ等)、霊長類及びヒトを含む哺乳動物患者におけるがん又は他の腫瘍障害の治療又は予防が含まれる。
【0078】
本発明の治療方法には、一般に、患者への治療的有効量の1つ又は複数の式Iのコンジュゲートされた化合物の投与が含まれる。本治療方法では、治療的有効量は、患者に存在する腎細胞癌腫瘍の大きさを減少させる又は患者から腫瘍を取り除くのに十分である。適切な患者には、本明細書で同定された障害又は疾患に罹っている対象が含まれる。本発明による治療のための典型的な患者には、哺乳動物、特に霊長類、とりわけヒトが含まれる。他の適切な対象には、イヌ、ネコ、ウマ等などの飼い慣らされた伴侶動物、又はウシ、ブタ、ヒツジ等などの家畜動物が含まれる。
【0079】
本発明の好ましい方法には、本明細書で開示された状態に罹っている対象(たとえば、哺乳動物、特にヒト)、特に1つ又は複数のがんに罹っている対象を同定する及び/又は選択することが含まれる。本発明の医薬組成物も、本明細書で開示されたがんの治療のための使用説明書(すなわち、書面シートなどの書面になった)、たとえば、がんに罹っている対象を治療するための使用説明書と一緒に包装され得る。
【0080】
本発明の化合物は、水溶性の形態で、たとえば、適切な化学変化の後に得られる、有機酸又は無機酸、たとえば、塩酸、硫酸、へミ硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、メシル酸等の薬学的に許容される塩として対象に適切に投与される。その上、化合物上に酸性基が存在する場合には、アンモニウム塩、又は有機アミンの塩、又はカリウム、カルシウム若しくはナトリウム塩などのアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の塩などの、有機又は無機塩基の薬学的に許容される塩を用いることが可能である。特に適した薬学的に許容される塩には、非毒性陽イオン、好ましくは、K若しくはNaなどのアルカリ金属陽イオン、Mg若しくはCaなどのアルカリ土類金属陽イオン、Al若しくはZnなどの別の非毒性金属陽イオン又はNH、ピペラジニウム若しくは2−ヒドロキシエチルアンモニウムなどの非毒性メタロイド陽イオンを用いて形成された塩が含まれる。本発明の方法において使用するのに適したある種の好ましい化合物は、薬学的に許容される塩の前生成なしで前記化合物を送達し得るように、中性形で十分に水溶性である。
【0081】
本発明の方法において使用するのに適した化合物には、ありとあらゆる異なる単一の純粋な異性体及び2つ以上の異性体の混合物が含まれる。用語異性体は、ジアステレオ異性体、鏡像異性体、位置異性体、構造異性体、回転異性体、互変異性体等を含むように意図されている。1つ又は複数の不斉中心を含有する化合物、たとえば、キラル化合物では、本発明の方法は、鏡像異性的に濃縮された化合物、ラセミ化合物、又はジアステレオマーの混合物を用いて実施してもよい。好ましい鏡像異性的に濃縮された化合物は、50%以上の鏡像体過剰率を有し、さらに好ましくは、前記化合物は60%、70%、80%、90%、95%、98%、又は99%以上の鏡像体過剰率を有する。本発明の方法において使用するための式Iによる本発明のコンジュゲートされた化合物は、単独で又は、従来の賦形剤、すなわち、前記活性化合物と有害な反応をせずそのレシピエントに有害ではない、望ましい投与経路に適した薬学的に許容される有機若しくは無機担体物質と混合した医薬組成物として、1つ又は複数の他の治療薬と組み合わせて、用いることが可能である。適切な薬学的に許容される担体には、水、塩溶液、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ケイ酸、粘稠性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド及びジグリセリド、ペトロエトラル脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が含まれるが、これらに限定されない。前記医薬製剤は、無菌化し、必要に応じて、補助剤、たとえば、前記活性化合物と有害な反応をしない潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤、着色料、香料及び/又は芳香族物質と混合することが可能である。
【0082】
非経口適用では、溶液、好ましくは、油性又は水性溶液、並びに懸濁液、乳濁液、又は坐薬を含むインプラントは特に適している。アンプルは便利な単位投与量である。
【0083】
上で明白に言及されている成分に加えて、本発明の製剤には、問題になっている類の製剤に関して当技術分野では従来からある他の作用物質が含まれることがあることを理解すべきである。
【0084】
ある種の実施形態によれば、式Iのコンジュゲートされた化合物は、化学療法薬、抗炎症薬、解熱薬、放射線感作薬、放射線防護薬、泌尿器作用薬、制吐薬、及び/又は止痢薬、たとえば、シスプラチン、カルボプラチン、ドセタキセル、パクリタキセル、フルオロウラシル、カペシタビン、ゲムシタビン、イリノテカン、トポテカン、エトポシド、マイトマイシン、ゲフィチニブ、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、セレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、イブプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、デキサメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、アセトアミノフェン、ミソニダゾール、アミフォスチン、タムスロシン、フェナゾピリジン、オンダンセトロン、グラニセトロン、アロセトロン、パロノセトロン、プロメタジン、プロクロルペラジン、トリメトベンズアミド、アプレピタン、アトロピンを有するジフェノキシレート、及び/又はロペラミドを含む、他の化合物と組み合わせて投与してもよい。一好ましい実施形態では、式Iによるコンジュゲートされた化合物は、たとえば、血管内皮増殖因子(VEGF)及び胎盤増殖因子(PIGF)に対するモノクローナル抗体を含む、抗血管新生薬、並びに、たとえば、ベバシズマブ、ソラフェニブ、PTK78、SU11248、AG13736、AEE788、及びZD6474を含む、VEGF及びPIGF受容体の阻害薬と組み合わせて投与される。別の実施形態では、式Iによるコンジュゲートされた化合物は、たとえば、インターロイキン2(IL−2)及びインターフェロンアルファ(IFN−α)を含む、免疫調節薬と組み合わせて投与される。さらに別の実施形態では、式Iによるコンジュゲートされた化合物は、たとえば、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)の阻害薬を含む、細胞増殖シグナル伝達を妨げる薬物と組み合わせて投与される。
【0085】
本発明のさらに他の実施形態では、式Iによるコンジュゲートされた化合物は、式Iの化合物の標的を特にがん細胞に向けることにより標的選択性をはるかに増強する分子に化学的に結合している。そのような分子の例には、(A)標的細胞上に特異的に存在する、又は正常な腎組織と比べて多数存在するマーカーに対するポリクローナル及びモノクローナル抗体、並びに(B)標的細胞上に特異的に存在する、又は正常な腎組織と比べて多数存在する受容体に対するリガンドが含まれる。そのようなガイダンス分子、及び本発明における化合物に前記分子をコンジュゲートするための技法は当技術分野では公知であり、カップリング反応は、過度の実験なしで普通に熟練した技術者が実施することが可能である。
【0086】
本明細書の本発明のキットは、上記の、少なくとも1つの薬学的に許容される担体と、50から3,500mg(本発明の第一の実施形態)若しくは5から500mg(本発明の第二及び第三の実施形態)の非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩とを含む。前記キットでは、式Iによるコンジュゲートされた化合物又は許容されるその塩及び薬学的に許容される担体は、好ましくは、別々の区画に位置している。一態様では、前記キットは、本発明の化合物の投与に直接関連して、式Iによる非放射性化合物にアルファ線放射性核種を付着させるために必要な少なくとも1つの試薬をさらに含む。式Iによる化合物は、好ましくは、キット中で固体として存在する。投与のためには、式Iによる化合物又は薬学的に許容されるその塩は、好ましくは、アルファ線放射性核種が担体中に完全に又は実質的に溶解するようにアルファ線放射性核種の付着を成し遂げるのに必要な担体及び/又は試薬と組み合わされる。前記キットは、本発明の第一の実施形態における約100mgから約1,500mg、最も好ましくは、約200mgから約500mgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は本発明の第二及び第三の実施形態における約10mgから約200mg、最も好ましくは、約20mgから約70mgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量の式Iによるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩を含んでいてよい。
【0087】
本発明の上述の説明はその実例であるにすぎず、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、変化及び改変を成し遂げることが可能であることは理解されている。本明細書で参照される文書はそれぞれ、参照により本出願の開示中に組み込まれている。
【実施例】
【0088】
(例1)
オレラニンの合成
オレラニンは、基本的に他者により記載されている通りに市販の3−ヒドロキシピリジンから合成された(Tiecco M、Tingoli M、Testaferri L、Chianelli D and Wenkert E:コルチナリウス・オレラナス フリーズキノコの致死毒素であるオレラニンの完全合成(Total synthesis of Orellanine,the lethal toxin of Cortinarius orellanus Fries Mushroom).Tetrahedron 42、1475〜1485(1986))。
【0089】
(例2)
オレラニンをポリエチレングリコール(PEG)にコンジュゲートする
A.炭素上のコンジュゲーション
リチウムジイソプロピルアミド(LDA)の溶液は、10mlのテトラヒドロフラン(THF)中、ジイソプロピルアミン(0.77ml、5.50mmol)及び1.55M n−ブチルリチウム(3.55ml、5.50mmol)から−23℃で調製される。15分後、3,3’,4,4’−テトラメトキシ−2,2’−ビピリジン−ジ−N−オキシド(1.54g、5.00mmol)が添加され、得られた混合液は−23℃で30分間攪拌される。1−ブロモ−2−(2−メトキシエトキシ)エタン(1.19g、6.50mmol)が添加され反応混合液は−23℃で15分間、室温で1時間攪拌される。水(10ml)及びジエチルエーテル(10ml)が添加され、層は分離される。水相はジエチルエーテル(3×25ml)を用いて抽出される。混合した有機抽出物は25ml部の水と塩水を用いて洗浄される。無水NaSO上で乾燥させた後、溶媒を減圧中で除去し粗生成物を得る。フラッシュクロマトグラフィー(SiO、ヘキサン中25%EtOAc)による精製で1.23g(60%)のモノアルキル化オレラニン誘導体が白い結晶として得られる。
【0090】
B.酸素上のコンジュゲーション
252mg、1mmolのオレラニン及び636mgの炭酸ナトリウム6mmolを、25mlの水52.3mg中に溶解させる。25mlのジクロロメタン中5%アリコート336の溶液を添加し、混合液は激しく攪拌される。275mgの1−ブロモ−2−(2−メトキシエトキシ)エタン1.5mmolを液滴で添加し、混合液は2時間攪拌される。相は分離され、有機相はアルカリ水で洗浄される。混合した水相は中和され、モノアルキル化オレラニンは調製用HPLCにより単離される。
【0091】
すべての化学薬品は、例1に従って合成されるオレラニンを除いて地元の販売業者から購入される。
【0092】
同様に、臭素化MPEG5000(モノメトキシポリエチレングリコール)を用いて誘導体化されたオレラニンが調製される。
【0093】
同様に、臭素化エトキシ化フィコールを用いて誘導体化されたオレラニンが調製される。
【0094】
同様に、臭素化エトキシ化デキストランを用いて誘導体化されたオレラニンが調製される。
【0095】
(例3)
オレラニンをアスタチン211(At−211)で標識する
13mg、0.051mmolのオレラニン及び32.8mgの炭酸ナトリウム0.3mmolを、1.2mlの水中に溶解させる。IodoGenビーズ(Thermo Fisher Scientific、Rockford、IL)が添加され、次に0.20mmolの放射性ヨウ素がNaIの形態で添加される。混合液は室温で90分間攪拌される。その後、混合液は濾過されてIodoGenビーズを除去し、濾液は42mgのNaHSOを用いて酸性化される。標識されたオレラニンは調製用HPLCにより単離される。
【0096】
同様に、28MeVのアルファ粒子を天然Biに照射することにより作製される211Atで放射性ハロゲン化されたオレラニン誘導体が調製され、蒸留により精製され、テフロン(登録商標)チューブに収集される。すべての標準化学薬品は、例1に従って合成されるオレラニンを除いて地元の販売業者から購入される。
【0097】
(例4)
PEGコンジュゲートされたオレラニンをアスタチン211(At−211)で標識する
オレラニンは、例1に記載される通りに合成されて、例2に記載される通りに5位でPEGにコンジュゲートされ、続いて例3に従って、5’位に211Atで放射性ハロゲン化される。
【0098】
(例5)
PEGコンジュゲートされたオレラニンの投与後の腎機能
背景及び方法論
体重約150gの6匹のスプラーグドーリーラットに、5mgオレラニン/kgに相当するPEGコンジュゲートされたオレラニンを静脈内注射する。4日後、前記動物は安楽死させ、すでに記載されている手順(Andersson M.et al.:Am J Physiol Renal Physiol.(2007)、292:F1802〜9)に従って腎機能(糸球体濾過率、GFR)を測定するために外科的に準備される。
【0099】
結果と所見
6匹のラットすべてがその腎機能のほとんどの部分を保存しており、つまり、正常なGFR(1ml/分×g腎組織)の少なくとも50%が残っている。これとは対照的に、スプラーグドーリーラットに投与された相当量の非コンジュゲートオレラニンにより、4日以内にGFRのほとんどすべてが失われることが知られている(Nilsson UA et al.:Free Radic Biol Med.(2008)44:1562〜9)。
【0100】
(例6)
培養された腎細胞癌に対するPEGコンジュゲートされたオレラニンの効果
背景及び方法論
母腫瘍と転移増殖物の両方を表す2つの異なるヒト腎細胞癌(SKRC−7、786〜0)から収穫された細胞は、標準条件下で培養される。ほぼ70%のコンフルエントで急速増殖しているとき、前記細胞は異なる濃度のオレラニン又は対応する濃度のPEGコンジュゲートされたオレラニンのどちらかを含有する培地に24時間曝される。次に、前記培地は交換されて通常の完全培地に戻され、前記細胞はさらに6日間観察される。
【0101】
結果及び所見
非コンジュゲートオレラニンでもPEGコンジュゲートされたオレラニンでも、曝露濃度と死滅する細胞の割合の間にははっきりと相関関係が見られる。オレラニンの単回24時間曝露の用量応答間隔は、非コンジュゲートオレラニンでほぼ5μg/mlから200μg/lの間であり、PEGコンジュゲートされたオレラニンでは有意差はない。
【0102】
これは、PEGコンジュゲートされたオレラニンが、がん細胞を効率的に死滅させる程度にがん細胞内に取り込まれることを実証している。
【0103】
(例7)
培養された腎細胞癌に対するアスタチン211標識されたオレラニンの効果
背景及び方法論
母腫瘍と転移増殖物の両方を表す2つの異なるヒト腎細胞癌(SKRC−7、786〜0)から収穫された細胞は、標準条件下で培養される。ほぼ70%のコンフルエントで急速増殖しているとき、前記細胞は異なる濃度の非標識オレラニン又はAt−211標識されたオレラニンのどちらかを含有する培地に24時間曝される。次に、前記培地は交換されて通常の完全培地に戻され、前記細胞はさらに6日間観察される。
【0104】
結果及び所見
非標識オレラニンでもAt−211標識されたオレラニンでも、曝露濃度と死滅する細胞の割合の間にははっきりと相関関係が見られる。オレラニンの単回24時間曝露の用量応答間隔は、非標識オレラニンでほぼ5μg/mlから200μg/lの間である。しかし、At−211を標識されたオレラニンでは、前記間隔は一桁低い方の濃度に移動している。さらに、At−211(半減期、7.5時間)の急速α線放射崩壊のせいで、オレラニンの投与と細胞死の始まりの間の遅延は、非標識オレラニンの48時間からAt−211標識されたオレラニンのわずか数時間に減少している。
【0105】
(例8)
培養された腎細胞癌に対するPEGコンジュゲートされアスタチン211標識されたオレラニンの効果
背景及び方法論
母腫瘍と転移増殖物の両方を表す2つの異なるヒト腎細胞癌(SKRC−7、786〜0)から収穫された細胞は、標準条件下で培養される。ほぼ70%のコンフルエントで急速増殖しているとき、前記細胞は異なる濃度の211At−オレラニン又は対応する濃度のPEGコンジュゲートされた211At−オレラニンのどちらかを含有する培地に24時間曝される。次に、前記培地は交換されて通常の完全培地に戻され、前記細胞はさらに6日間観察される。
【0106】
結果及び所見
非コンジュゲートオレラニンでもPEGコンジュゲートされた211At−オレラニンでも、曝露濃度と死滅する細胞の割合の間にははっきりと相関関係が見られる。オレラニンの単回24時間曝露の用量応答間隔は、非コンジュゲートオレラニンでほぼ5μg/mlから200μg/lの間であり、PEGコンジュゲートされたオレラニンでは有意差はない。
【0107】
(例9)
腎細胞癌のラットモデルにおけるインビボでのPEGコンジュゲートされたオレラニンの効果
背景及び方法論
無胸腺症のT細胞欠損ラット(RNU、Charles River Laboratories、FRG)は、ヒト腎細胞癌のインビボ増殖のための系として使用される。これらの動物にはT細胞ベースの免疫防御がないために、異種移植片に対して寛容性になる。飼養施設への到着の1週間後、12匹の動物はそのB細胞性応答も抑制するために5GyのX線照射線量を受ける。
【0108】
3日後、前記動物は、ほぼ10×10ヒト腎がん細胞(SKRC−52)を肩部の皮下に播種される。数日後、限局性腫瘍が動物の皮膚下で触知できるようになると、6匹の動物は腹膜透析(PD)のために留置カテーテルを外科的に装備される(PD処置は、オレラニンの投与に対する副作用として失われる腎機能に取って代わることになる)。外科的処置後、これら6匹の動物はそれぞれ、5mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する量のPEGコンジュゲートされたオレラニンを静脈内に受ける。次の日、PDカテーテルを介した透析が開始される。カテーテルを介して動物に入る透析液は、最初の48時間、10mgオレラニン/L透析液に相当するPEGコンジュゲートされたオレラニンを補充される。動物は2日間連続してPEGコンジュゲートされたオレラニンを用いたPDを受け、毎日が、15mLのPD液を60分間腹腔に留まらせ、30分の排出段階が続く4透析サイクルからなる。同一措置がさらに12日間続けられるが、PD液中にはいかなるオレラニンもない。
【0109】
処置が完了する5日後、皮下腫瘍は皮膚を通じて視覚的に検査される。1週間後実験は終了され、腫瘍は切除され、同じ機会に、例5に記載される通りに腎機能の測定がすべての動物で実施される。
【0110】
結果及び所見
オレラニン処置が完了した5日後、処置された動物の腫瘍はすべて増殖を停止して青みがかっており、対照腫瘍は増殖し続けている。2週間後、対照動物の腫瘍は大きさがほぼ2倍になり、PEGコンジュゲートされたオレラニンを用いて処置された動物の腫瘍は、注射時と比べて大きさが実質的に減少している。残っている腫瘍組織は、依然生存可能である対照腫瘍とは対照的に、壊死している。
【0111】
同時に、例5に類似して、PEGコンジュゲートされたオレラニンを用いて処置された動物は、非処置対照と比べて、その糸球体濾過率(GFR)の50〜100%を保存している。
【0112】
このことは、PEGコンジュゲートされたオレラニンはインビボ系においてその腫瘍死滅活性を保持しており、同時に、透析治療の必要性をなくすのに十分な残留GFRを患者に残すと考えられる程度に腎機能を保存していることを明らかに実証している。
【0113】
(例10)
腎細胞癌のラットモデルにおけるインビボでのアスタチン211標識されたオレラニンの効果
背景及び方法論
無胸腺症のT細胞欠損ラット(RNU、Charles River Laboratories、FRG)は、ヒト腎細胞癌のインビボ増殖のための系として使用される。これらの動物にはT細胞ベースの免疫防御がないために、異種移植片に対して寛容性になる。飼養施設への到着の1週間後、12匹の動物はそのB細胞性応答も抑制するために5GyのX線照射線量を受ける。
【0114】
3日後、前記動物は、ほぼ10×10ヒト腎がん細胞(SKRC−52)を肩部の皮下に播種される。数日後、限局性腫瘍が動物の皮膚下で触知できるようになると、6匹の動物は腹膜透析(PD)のために留置カテーテルを外科的に装備される(PD処置は、オレラニンの投与に対する副作用として失われる腎機能に取って代わることになる)。外科的処置後、これら6匹の動物はそれぞれ、主に腎臓を活動停止させて、続いて投与される標識されたオレラニンの過剰な尿中への損失を防ぐために、5mg/kgの非標識オレラニンを受ける。次の日、PDカテーテルを介した透析が開始され、手術の2日後、動物は、その日の最後のPDサイクルの後即座に静脈内注射される、0.5mg/kgの211At−標識されたオレラニンを受ける。この手順は手術後3日目及び4日目に繰返される。
【0115】
結果及び所見
すでに処置の終了時、手術の4日後、腫瘍は壊死しつつあり(皮膚を通した青みがかった外見)、その後の数日間腫瘍は大幅に縮むことは目視検査により明白である。処置完了の10日後(手術の14日後)に実験を終了させると、腫瘍は処置前の腫瘤のほぼ10%まで縮まっており、残りの組織は壊死している。
【0116】
これらの結果は、はるかに低い用量のオレラニンで達成されたが、非標識物質と比べて、211At−標識されたオレラニンの格別な効力を明らかに実証している。
【0117】
(例11)
腎細胞癌のラットモデルにおけるインビボでのPEGコンジュゲートされアスタチン211標識されたオレラニンの効果
背景及び方法論
無胸腺症のT細胞欠損ラット(RNU、Charles River Laboratories、FRG)は、ヒト腎細胞癌のインビボ増殖のための系として使用される。これらの動物にはT細胞ベースの免疫防御がないために、異種移植片に対して寛容性になる。飼養施設への到着の1週間後、12匹の動物はそのB細胞性応答も抑制するために5GyのX線照射線量を受ける。
【0118】
3日後、前記動物は、ほぼ10×10ヒト腎がん細胞(SKRC−52)を肩部の皮下に播種される。数日後、限局性腫瘍が動物の皮膚下で触知できるようになると、6匹の動物は腹膜透析(PD)のために留置カテーテルを外科的に装備される(PD処置は、オレラニンの投与に対する副作用として失われる腎機能に取って代わることになる)。外科的処置後、これら6匹の動物はそれぞれ、0.5mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する静脈内投与される用量のPEGコンジュゲートされ211At−標識されたオレラニンを受ける。次の日、PDカテーテルを介した透析が開始され、0.5mg/kgの非コンジュゲートオレラニンに相当する別の用量のPEGコンジュゲートされ211At−標識されたオレラニンがその日の最後のPDサイクルの後即座に静脈内注射される。この手順は、次の日3回目に繰返される。
【0119】
皮下腫瘍は、毎日皮膚を通して視覚的に検査される。手術の2週間後、実験は終了され、腫瘍は切除される。同一機会に、例5に記載される通りに腎機能の測定がすべての動物において実施される。
【0120】
結果及び所見
すでに処置の2日目中に、腫瘍は壊死性になり始めている(皮膚を通した青みがかった外見)ことは目視検査により明白である。腫瘍は増殖を停止しており、その後の数日の間に腫瘍は大幅に縮む。手術後の14日後に実験を終了させると、腫瘍は処置前の腫瘤のほぼ10%まで縮まっており、残りの組織は壊死している。例5に従ったGFR測定値は、PEGコンジュゲートされ211At−標識されたオレラニンを用いて処置された動物は、その対照と比べて、その糸球体濾過率(GFR)の50〜100%を保存していることを示している。
【0121】
これらの結果は、はるかに低い用量のオレラニンで達成されたが、非標識物質と比べて、PEGコンジュゲートされ211At−標識されたオレラニンの格別な効力を明らかに実証している。同時に、透析治療の必要性をなくすのに十分な残留GFRをヒト患者に残すと考えられる程度に腎機能は保存されている。
【0122】
(例12)
遠隔転移を伴う進行腎細胞癌に罹っているヒト患者におけるPEGコンジュゲートされたオレラニンの効果
遠隔転移を伴う片側性腎がんの治療を必要とする患者は、20日間で隔日1回注射の投与レジメンにおいて、PEGコンジュゲートされたオレラニンの一連の10回静脈内注射を与えられる。患者の最初の腫瘍量はほぼ1kgと決定される。この値に基づいて、適切な1日用量は、140mgの非コンジュゲートオレラニンに相当する(すなわち、b.w.70kgで2mg/kg)と決定される。この手順は、より少ない量のオレラニンの繰返し投与を用いるが、前記物質を活発に取り込んでいる腫瘍組織において致死レベルまでのオレラニンの段階的増加を成し遂げ、毒素の細胞外濃度は副作用を引き起こす可能性のあるレベルより低く保たれる利点がある。前記疾患の進行は1ヶ月間モニターされ、その後、腫瘍塊をさらに減少させるために必要に応じてPEGコンジュゲートされたオレラニンの追加の連続投与が与えられる。
【0123】
治療の間、患者の腫瘍組織の塊は減少していき、治療の終了時には腎がんは完全に根絶され、腎明細胞がんに対するPEGコンジュゲートされたオレラニンの有効性を実証している。PEGへのオレラニンのコンジュゲーションは、前記物質の腎臓フィルタリングを減少させており、それによって正常な近位尿細管細胞への接触及び取込みを大いに防いでいた。これは、患者が、自分のがんの治療に成功した後、血液透析/腹腔透析療法に依存しないままでいるほど腎機能を保存することができていることを意味する。
【0124】
(例13)
遠隔転移を伴う進行腎細胞癌に罹っているヒト患者におけるアスタチン211標識されたオレラニンの効果
遠隔転移を伴う腎癌、腎癌の治療を必要とする患者は、オレラニンの一連の10日間の毎日静脈内注射を与えられる。患者の最初の腫瘍量はほぼ1kgと決定される。この値に基づいて、適切な1日用量は、14mg(b.w.70kgで0.2mg/kg)と決定される。初回の注射前、オレラニン治療はがん細胞の死滅と共に健康な腎上皮組織を破壊し、したがって患者に損なわれた腎機能を残す可能性があるために、患者には血液透析又は腹腔透析の準備をさせる。各注射の5時間後、血液透析が開始され2時間維持される。この手順は、より少ない量のオレラニンの繰返し投与を用いるが、前記物質を活発に取り込んでいる腫瘍組織において致死レベルまでのオレラニンの段階的増加を成し遂げ、毒素の細胞外濃度は副作用を引き起こす可能性のあるレベルより低く保たれる利点がある。任意選択で、前記疾患が片側性の場合には、非罹患腎臓は外科的に取り除かれ、治療中は冷保存され、治療の終了後、再移植が企てられてもよい。患者の進行は治療の間中及び治療後もモニターされ、腎がんをさらに抑制するために必要に応じてオレラニンの追加の連続投与が与えられる。
【0125】
治療中、患者の腫瘍組織の塊は急速に減少していき、治療の終了時には腎がんは完全に根絶され、腎明細胞がんに対する、非標識物質と比べてはるかに少ない用量の211At−標識されたオレラニンの有効性を実証している。患者は、腎臓移植を待っている間、安定して寛解しており、透析治療(血液透析/PD)にとどまっている。
【0126】
(例14)
遠隔転移を伴う進行腎細胞癌に罹っているヒト患者におけるPEGコンジュゲートされアスタチン211標識されたオレラニンの効果
遠隔転移を伴う片側性腎癌の治療を必要とする患者は、20日間で隔日1回注射の投与レジメンにおいて、PEGコンジュゲートされ211At−標識されたオレラニンの一連の10回静脈内注射を与えられる。患者の最初の腫瘍量はほぼ1kgと決定される。この値に基づいて、適切な1日用量は、14mgの非コンジュゲートオレラニンに相当する(b.w.70kgで0.2mg/kg)と決定される。この手順は、より少ない量のオレラニンの繰返し投与を用いるが、前記物質を活発に取り込んでいる腫瘍組織において致死レベルまでのオレラニンの段階的増加を成し遂げ、毒素の細胞外濃度は副作用を引き起こす可能性のあるレベルより低く保たれる利点がある。前記疾患の進行は1ヶ月間モニターされ、その後、腫瘍塊をさらに減少させるために必要に応じてPEGコンジュゲートされ211At−標識されたオレラニンの追加の連続投与が与えられる。
【0127】
治療の間、患者の腫瘍組織の塊は急速に減少していき、治療の終了時には腎がんは完全に根絶され、腎明細胞癌に対する、非標識物質と比べてはるかに少ない用量の211At−標識されたオレラニンの有効性を実証している。PEGへの211At−標識されたオレラニンのコンジュゲーションは、前記物質の腎臓フィルタリングを減少させており、それによって正常な近位尿細管細胞への接触及び取込みを大いに防いでいた。これは、患者が、自分のがんの治療に成功した後、血液透析/腹腔透析療法に依存しないままでいるほど腎機能を保存することができていることを意味する。
本願発明の一態様を示す。
[請求項1]
それを必要とする患者の腎細胞癌を治療するための方法であって、
式Iによる化合物であって、

a)式Iによる前記化合物と巨大分子の間のコンジュゲートが腎臓の糸球体濾過を通過し原尿に入るのを実質的に又は完全に妨げるのに十分な分子量及び分子径を有する少なくとも1つの巨大分子、
及び/又は
b)少なくとも1つの細胞傷害性薬剤
からなる群から選択される化合物にコンジュゲートされていることを特徴とする式Iの上記化合物
[式中、
R1、R2、R3及び/又はR4は、水素、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン、並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシからなる群から選択され、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシはそれぞれ、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン、並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロからなる群から選択される部分でさらに置換されていてもよい]
又は薬学的に許容されるその塩を前記患者に投与することを含む上記方法。
[請求項2]
巨大分子及び/又は細胞傷害性薬剤に結合している式Iの化合物を含むコンジュゲートが薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
[請求項3]
前記少なくとも1つの巨大分子が、ポリペプチド、ポリエチレングリコール、デキストラン及びフィコールからなる群から選択される、請求項1又は2のうちのいずれか一項に記載の方法。
[請求項4]
前記少なくとも1つの細胞傷害性薬剤が、毒素及び放射性核種からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[請求項5]
前記毒素が、細菌毒素、植物毒素、真菌毒素、藻類毒素又は毒液からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
[請求項6]
前記放射性核種がアルファ線放射性核種である、請求項4に記載の方法。
[請求項7]
前記放射性核種が、アスタチン−211、ビスマス−212、ビスマス−213、アクチニウム−225、鉛−212及びテルビウム−149からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
[請求項8]
前記放射性核種がアスタチン−211である、請求項6に記載の方法。
[請求項9]
前記コンジュゲートされた化合物が、0.1mg/kg〜100mg/kgの式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物(すなわち、R1=R2=R3=R4=水素)に相当する単回用量、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩として投与される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
[請求項10]
前記化合物が2回以上の用量で投与され、各用量が0.05mg/kg〜10mg/kgの式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物(すなわち、R1=R2=R3=R4=水素)、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩に相当する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
[請求項11]
連続用量が2日から7日の間隔を空けて投与される、請求項10に記載の方法。
[請求項12]
前記化合物が毎日投与される、請求項10に記載の方法。
[請求項13]
前記化合物が、非経口的、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内(intraabdominal)、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、子宮頚内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内(intraperitoneal)、胸腔内(intrapleural)、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、関節滑液嚢内、胸腔内(intrathoracic)、子宮内、膀胱内、病巣内、ボーラス、膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮から選択される少なくとも1つの様式により投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
[請求項14]
腎細胞癌の治療において医薬として使用するための、
a)式Iによる化合物と巨大分子の間のコンジュゲートが腎臓の糸球体濾過を通過し原尿に入るのを実質的に又は完全に妨げるのに十分な分子量及び分子径を有する少なくとも1つの巨大分子、
及び/又は
b)少なくとも1つの細胞傷害性薬剤
からなる群から選択される化合物にコンジュゲートされていることを特徴とする式Iによる化合物
[式I中のR1、R2、R3及び/又はR4は、水素、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン、並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシからなる群から選択され、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルカノール、C〜Cアルケノール、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケノキシはそれぞれ、アミノ、メルカプト、カルボキシ、リン、並びにフルオロ、クロロ及びブロモを含むハロからなる群から選択される部分でさらに置換されていてもよい]
又は等モル量の薬学的に許容されるその塩。
[請求項15]
請求項14に記載の化合物を含む医薬組成物であって、少なくとも1つの巨大分子が、ポリペプチド、ポリエチレングリコール、デキストラン及びフィコールからなる群から選択される、上記医薬組成物。
[請求項16]
請求項14に記載の化合物を含む医薬組成物であって、少なくとも1つの細胞傷害性薬剤が毒素及び放射性核種からなる群から選択される、上記医薬組成物。
[請求項17]
前記放射性核種がアルファ線放射性核種である、請求項16に記載の医薬組成物。
[請求項18]
少なくとも1つの薬学的に許容される担体と、式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物(すなわち、R1=R2=R3=R4=水素)50〜3,500mgに相当する有効量の請求項14に記載の化合物又は等モル量の薬学的に許容されるその塩とを含む医薬組成物。
[請求項19]
前記化合物が薬学的に許容される塩である、請求項15〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[請求項20]
患者への非経口的、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内(intraabdominal)、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、子宮頚内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内(intraperitoneal)、胸腔内(intrapleural)、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、関節滑液嚢内、胸腔内(intrathoracic)、子宮内、膀胱内、病巣内、ボーラス、膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮投与のために製剤化されている、請求項15〜19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[請求項21]
腎細胞癌に罹っている患者を治療するためのキットであって、少なくとも1つの薬学的に許容される担体と、式Iによる化合物と巨大分子の間のコンジュゲートが腎臓の糸球体濾過を通過し原尿に入るのを実質的に又は完全に妨げるのに十分な分子量及び分子径を有する少なくとも1つの巨大分子に結合している、50〜3,500mgの量の式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物(すなわち、R1=R2=R3=R4=水素)からなるコンジュゲートされた化合物、又は等モル量の薬学的に許容されるその塩とを含む上記キット。
[請求項22]
式Iによる非コンジュゲート及び非置換化合物の量が100〜1,500mgである、請求項21に記載のキット。
[請求項23]
前記コンジュゲートされた化合物又は薬学的に許容されるその塩と薬学的に許容される担体が、投与に関連して、式Iによる化合物、又は薬学的に許容されるその塩が前記担体中に完全に又は実質的に溶解しているように、組み合わされる、請求項21又は22のいずれか一項に記載のキット。
[請求項24]
前記キットが、少なくとも1つのアルファ線放射性核種が前記コンジュゲートされた化合物に結合するために必要な少なくとも1つの化学試薬をさらに含む、請求項21又は22のいずれか一項に記載のキット。
[請求項25]
式Iによる前記コンジュゲートされた化合物若しくは薬学的に許容されるその塩及び/又は前記薬学的に許容される担体及び/又は前記少なくとも1つの化学試薬が、投与に関連して、適切な量の新たに作製されたアルファ線放射性核種、及び任意選択で追加の化学試薬を続いて添加することにより、式Iの前記化合物に前記放射性核種がカップリングするような化学的条件が生み出されるように組み合わされる、請求項24に記載のキット。
[請求項26]
前記アルファ線放射性核種がアスタチン−211である、請求項25に記載のキット。