特許第6197095号(P6197095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6197095
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】被処理水中のリンの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20170904BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20170904BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20170904BHJP
   C05B 7/00 20060101ALI20170904BHJP
   C05F 7/00 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C02F1/58 R
   B01D21/01 102
   C02F1/52 K
   C05B7/00
   C05F7/00
【請求項の数】15
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-242688(P2016-242688)
(22)【出願日】2016年12月14日
【審査請求日】2017年3月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515160091
【氏名又は名称】大竹 久夫
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】金田 文香
(72)【発明者】
【氏名】内藤 朗
(72)【発明者】
【氏名】小原 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】大竹 久夫
【審査官】 小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−020296(JP,A)
【文献】 特開2013−081896(JP,A)
【文献】 特許第6060320(JP,B2)
【文献】 特開2017−075065(JP,A)
【文献】 特開昭61−271087(JP,A)
【文献】 特開2015−091566(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02586525(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/
C02F 1/
B01J 20/
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグと水とからなるスラグスラリーに、前記製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の前記塩酸を撹拌混合して前記製鋼スラグ中のカルシウムを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階と、
リンを含む被処理水に前記リン回収用スラグスラリーを撹拌混合してから静置することにより、リンとカルシウムを含む化合物を形成させ、前記化合物を前記製鋼スラグの残渣とともに固形物として凝集沈降させる段階と、
沈降させた前記固形物を回収する段階と、を備え、
前記リン回収用スラグスラリーを得る段階において、前記塩酸添加中の前記スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら前記塩酸を添加することを特徴とする被処理水中のリンの回収方法。
【請求項2】
製鋼スラグと水とからなるスラグスラリーに、前記製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の前記塩酸を撹拌混合して前記製鋼スラグ中のカルシウムを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階と、
リンを含む被処理水に前記リン回収用スラグスラリーを撹拌混合してから静置することにより、リンとカルシウムを含む化合物を形成させ、前記化合物を前記製鋼スラグの残渣とともに固形物として凝集沈降させる段階と、
沈降させた前記固形物を回収する段階と、を備え、
前記リン回収用スラグスラリーを得る段階において、前記塩酸の全量のうち、前記製鋼スラグ中のCaOと前記塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00未満となる量の前記塩酸を前記スラグスラリーに添加した後、前記スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら前記塩酸の残量を添加することを特徴とする被処理水中のリンの回収方法。
【請求項3】
沈降させた前記固形物を乾燥させる請求項1または請求項2に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項4】
前記製鋼スラグの塩基度が1〜7の範囲である請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項5】
前記製鋼スラグのカルシウム含有率が15〜55質量%の範囲である請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項6】
前記製鋼スラグの平均粒径が0.3mm以下である請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項7】
前記被処理水と前記リン回収用スラグスラリーとを混合する際に、混合液のpHを7.2〜8.5に調整する請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項8】
前記被処理水と前記リン回収用スラグスラリーとを混合する際に、前記製鋼スラグ中のカルシウム量と前記被処理水中のリン量のモル比率(Ca/P)が2以上4以下になるように調整する請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項9】
前記製鋼スラグと前記水及び前記塩酸との固液比が1:5以上である請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項10】
前記スラグスラリーに前記塩酸の全量を添加した後の撹拌時間を15分以上とする請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項11】
前記被処理水と前記リン回収用スラグスラリーとの撹拌時間を5分以上とする請求項1乃至請求項10の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項12】
前記リンを含む被処理水が生活排水または産業排水のうちの何れか一方または両方を含む請求項1乃至請求項11の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項13】
前記固形物を肥料とすることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項14】
前記固形物を肥料原料とすることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項15】
前記固形物を黄リン原料とすることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水中のリンの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所から排出される製鋼スラグには、Ca、Fe、SiやAl等の元素が含まれており、その有効活用が望まれている。製鋼スラグを再利用する方法として、特許文献1及び特許文献2にはそれぞれ、pH=2〜3、pH=0〜1の塩酸溶液を用いて、製鋼スラグに含まれるCa分とFe分とを分離し、製鉄所で再利用する方法が提案されている。
【0003】
一方、リンは生物にとって欠かすことのできない元素であり、近年では、リン資源の枯渇が懸念されている。そのため、リン資源の様々な回収方法が検討されている。例えば、特許文献3では、多孔質のケイ酸カルシウム水和物を用いて、リンを含む被処理水中からリンを回収する方法が提案されている。
【0004】
そこで、本発明者らは、製鋼スラグの有効活用とリン資源の回収とを実現する方法として、製鉄所から排出される製鋼スラグを用いて、リンを含む被処理水中からリンを回収する技術を発明した。この方法は、まず、製鋼スラグと塩酸とを撹拌混合して、製鋼スラグ中のCaを溶出させたスラリーを得る。その後、製鋼スラグ中のCaを溶出させたスラリーとリンを含む排水とを撹拌混合する。これにより、製鋼スラグから溶出したCaと排水中のリンとが反応して化合物となり、この化合物が製鋼スラグの残渣と共に凝集沈降する。凝集沈降した化合物を脱水、乾燥させることによって、リンを含む固形物が得られる。これにより、リンを含む被処理水中からリンを回収することができる。回収した固形物中には、リンが高濃度で含まれているため、肥料または肥料原料として有効に利用することができる。しかし、この方法では、製鋼スラグと塩酸とを撹拌混合して、製鋼スラグ中のCaを溶出させたスラリーを得る際に、肥料成分であるCa以外の成分が溶出してしまう問題があり、特に、製鋼スラグ中のSiO溶出量が多くなるとスラグスラリーの粘性が大きくなるため、スラグスラリーの供給が困難になる問題がある。また、Caを溶出させるために使用する塩酸の量が多くなり、薬液コストが増大する問題等があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5790388号公報
【特許文献2】特開2016−20296号公報
【特許文献3】特開2015−91566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、製鋼スラグを用いて被処理水中のリンを回収するリンの回収方法において、塩酸を添加して製鋼スラグ中のCaを溶出させたスラリーを得る際に、製鋼スラグからCaを十分に溶出させる一方で、Ca以外の成分の溶出を抑制し、使用する塩酸量を低減させることができる被処理水中のリンの回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 製鋼スラグと水とからなるスラグスラリーに、前記製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の前記塩酸を撹拌混合して前記製鋼スラグ中のカルシウムを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階と、
リンを含む被処理水に前記リン回収用スラグスラリーを撹拌混合してから静置することにより、リンとカルシウムを含む化合物を形成させ、前記化合物を前記製鋼スラグの残渣とともに固形物として凝集沈降させる段階と、
沈降させた前記固形物を回収する段階と、を備え、
前記リン回収用スラグスラリーを得る段階において、前記塩酸添加中の前記スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら前記塩酸を添加することを特徴とする被処理水中のリンの回収方法。
(2) 製鋼スラグと水とからなるスラグスラリーに、前記製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の前記塩酸を撹拌混合して前記製鋼スラグ中のカルシウムを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階と、
リンを含む被処理水に前記リン回収用スラグスラリーを撹拌混合してから静置することにより、リンとカルシウムを含む化合物を形成させ、前記化合物を前記製鋼スラグの残渣とともに固形物として凝集沈降させる段階と、
沈降させた前記固形物を回収する段階と、を備え、
前記リン回収用スラグスラリーを得る段階において、前記塩酸の全量のうち、前記製鋼スラグ中のCaOと前記塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00未満となる量の前記塩酸を前記スラグスラリーに添加した後、前記スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら前記塩酸の残量を添加することを特徴とする被処理水中のリンの回収方法。
(3) 沈降させた前記固形物を乾燥させる(1)または(2)に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(4) 前記製鋼スラグの塩基度が1〜7の範囲である(1)乃至(3)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(5) 前記製鋼スラグのカルシウム含有率が15〜55質量%の範囲である(1)乃至(4)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(6) 前記製鋼スラグの平均粒径が0.3mm以下である(1)乃至(5)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(7) 前記被処理水と前記リン回収用スラグスラリーとを混合する際に、混合液のpHを7.2〜8.5に調整する(1)乃至(6)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(8) 前記被処理水と前記リン回収用スラグスラリーとを混合する際に、前記製鋼スラグ中のカルシウム量と前記被処理水中のリン量のモル比率(Ca/P)が2以上4以下になるように調整する(1)乃至(7)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(9) 前記製鋼スラグと前記水及び前記塩酸との固液比が1:5以上である(1)乃至(8)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(10) 前記スラグスラリーに前記塩酸の全量を添加した後の撹拌時間を15分以上とする(1)乃至(9)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(11) 前記被処理水と前記リン回収用スラグスラリーとの撹拌時間を5分以上とする(1)乃至(10)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(12) 前記リンを含む被処理水が生活排水または産業排水のうちの何れか一方または両方を含む(1)乃至(11)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(13) 前記固形物を肥料とすることを特徴とする(1)乃至(12)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(14) 前記固形物を肥料原料とすることを特徴とする(1)乃至(12)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
(15) 前記固形物を黄リン原料とすることを特徴とする(1)乃至(12)の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製鋼スラグを用いて被処理水中のリンを回収するリンの回収方法において、製鋼スラグ中のCaを溶出させたスラリーを得る際に、製鋼スラグからCaを十分に溶出させる一方で、Ca以外の成分の溶出を抑制し、使用する塩酸量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の被処理水中のリン回収方法に用いるリン回収システムの一例を示す模式図。
図2】各pHにおける、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)と製鋼スラグから溶出した元素の溶出量との関係を示す図。
図3】各pHにおける、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)と、残渣回収率との関係を示す図。
図4】経過時間とスラリーのpHとの関係を示す図。
図5】実施例No.1における、経過時間とスラリーのpH、温度との関係を示す図。
図6】実施例No.3における、経過時間とスラリーのpH、温度との関係を示す図。
図7】実施例No.10における、経過時間とスラリーのpH、温度との関係を示す図。
図8】実施例No.15における、経過時間とスラリーのpH、温度との関係を示す図。
図9】実施例No.16における、経過時間とスラリーのpH、温度との関係を示す図。
図10】実施例No.18〜No.20における、経過時間とスラリーのpH、温度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施形態]
本実施形態のリンの回収方法は、製鋼スラグと水とからなるスラグスラリーに、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸を撹拌混合して製鋼スラグ中のCaを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階と、リンを含む被処理水にリン回収用スラグスラリーを撹拌混合してから静置することにより、リンとCaとを含む化合物を形成させ、化合物を製鋼スラグの残渣とともに固形物として凝集沈降させる段階と、沈降させた固形物を回収する段階と、を備え、リン回収用スラグスラリーを得る段階において、スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら塩酸を添加することを特徴とする。以下に、本実施形態について、図1に示すリン回収システムを参照しつつ、詳細に説明する。
【0011】
まず、図1に示すリン回収システム1について説明する。図1に示すリン回収システム1は、リン回収反応槽2と、リン回収反応槽2にリン回収用スラグスラリーS2を供給するリン回収用スラグスラリー供給部3と、リン回収用スラグスラリー供給部3のCa溶出反応槽3aに塩酸A1を供給する塩酸供給部4と、リン回収反応槽2にリンを含む被処理水W2を供給する被処理水供給部5と、リン回収反応槽2に水酸化カルシウムA2を供給するpH調整装置9と、リン回収反応槽2内に沈降した固形物S3を脱水する脱水装置6と、リン回収反応槽2内の上澄み水W3を外部に放流する放流部7と、が備えられている。また、図1に示すリン回収システム1には、脱水後の脱水物S4を乾燥させる乾燥装置8が備えられている。
【0012】
リン回収反応槽2には、図示略の撹拌装置が備えられている。また、リン回収反応槽2は、苛性ソーダ供給ラインL14を介してpH調整装置9と接続されている。リン回収反応槽2には、被処理水W2にリン回収用スラグスラリーS2と被処理水W2とが順次投入され、これらを撹拌した後に静置させることで、被処理水W2中のリンを、リン及びCaを含む化合物として沈降させる。
【0013】
pH調整装置9は、苛性ソーダ供給ラインL14と、水酸化ナトリウム貯留槽9aとから構成されている。水酸化ナトリウム貯留槽9aには、外部から水酸化ナトリウムA2が供給できるようになっている。水酸化ナトリウム貯留槽9aは、苛性ソーダ供給ラインL14を介して、水酸化ナトリウムA2をリン回収反応槽2に供給できるようになっている。
【0014】
リン回収用スラグスラリー供給部3は、Ca溶出反応槽3aと、Ca溶出反応槽3aとリン回収反応槽2とを接続するスラグスラリー供給ラインL1と、Ca溶出反応槽3aに塩酸A1を供給する塩酸供給部4と、とから構成されている。Ca溶出反応槽3aには、図示略の撹拌装置が備えられている。また、Ca溶出反応槽3aには、外部から製鋼スラグS1を供給するための製鋼スラグ供給ラインL2と、外部から水W1を供給するための水供給ラインL3と、外部から塩酸A1を供給するための塩酸供給ラインL6と、が接続されている。Ca溶出反応槽3aには、水W1と製鋼スラグS1と塩酸A1とが順次投入され、これらを撹拌してリン回収用スラグスラリーS2を得る。Ca溶出反応槽3aは、スラグスラリー供給ラインL1を介してリン回収用スラグスラリーS2をリン回収反応槽2に供給できるようになっている。
【0015】
塩酸供給部4は、Ca溶出反応槽3aに塩酸A1を供給する塩酸供給ラインL6から構成されている。塩酸供給ラインL6の上流側には、図示略の塩酸貯留タンクが接続されていてもよい。塩酸供給部4は、酸供給ラインL6を介して塩酸A1をCa溶出反応槽3aに供給できるようになっている。
【0016】
被処理水供給部5は、原水貯留槽5aと、原水貯留槽5aとリン回収反応槽2とを接続する原水供給ラインL4とから構成されている。原水貯留槽5aには、外部から被処理水W2を供給するための供給ラインL5が接続されている。被処理水供給部5は、原水貯留槽5aに貯留された被処理水W2をリン回収反応槽2に供給できるようになっている。
【0017】
放流部7は、固形物S3が沈降した後の上澄み水W3を排出する排水ラインL7と、排水ラインL7の先に接続された排水貯留タンク7aと、排水貯留タンク7aに接続された放流ラインL13とから構成されている。
【0018】
また、リン回収反応槽2には、沈降後の固形物S3を外部に排出する排出ラインL8が接続されている。排出ラインL8の先には脱水装置6が接続されている。脱水装置6では、リン回収反応槽2内に沈降した固形物S3を受け入れて、脱水が行なわれる。また、脱水装置6には、固形物S3から脱水された脱水水W4を、上澄み水W3の排水ラインL7に送るための別の排水ラインL9が接続されている。更に、脱水装置6には、脱水後の脱水物S4を外部に排出する搬送ラインL10が接続されている。
【0019】
搬送ラインL10は、その途中から別の搬送ラインL11が分岐している。分岐した搬送ラインL11の先には乾燥装置8が接続されている。乾燥装置8には、乾燥後の乾燥物S5を排出する排出ラインL12が接続されている。
【0020】
次に、図1に示すリン回収システム1を用いた被処理水中のリンの回収方法を説明する。
本実施形態で使用する製鋼スラグS1は、製鉄所から排出される製鋼スラグS1を使用する。
【0021】
製鋼スラグS1の平均粒径は、0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましく、0.15mm以下が更に好ましい。ただし、製鋼スラグS1の平均粒径を、粉砕により小さくするにしたがってコストが上昇するので、コストとの兼ね合いで最適な値を決めるとよい。また、粉砕しすぎると微細な残渣が多量に生成して、固液分離時に時間を要することになるので、製鋼スラグS1の粒径は固液分離が円滑に行える程度の平均粒径に留めるとよい。例えば0.01mm以上がよい。
【0022】
また、製鋼スラグS1のCa含有率は、15〜55質量%の範囲であることが好ましく、25〜55質量%の範囲がより好ましい。製鋼スラグS1中のCa含有率が低すぎるとリンの回収率が低下するので好ましくない。一方、製鋼スラグS1中のCa含有率が高すぎると、Ca溶出後の製鋼スラグS1の残渣の量が少なくなる。製鋼スラグS1の残渣の量が少なくなると、リンの回収率も低下するので好ましくない。
【0023】
表1に、製鋼スラグS1に含まれる成分の一例を示す。表1に示すように、製鋼スラグS1にはCaや、肥料成分であるFe、Al、Si等が含まれている。ここで、本実施形態では、塩基度(CaO/SiO(重量比))が1〜7の範囲である製鋼スラグS1を用いることが好ましい。
【0024】
【表1】
【0025】
本実施形態で利用可能な水W1としては、水道水や工業用水等が例示される。
【0026】
本実施形態で利用可能な塩酸A1としては、塩酸や濃塩酸が例示される。塩酸や濃塩酸の濃度は、0.5〜12.0N程度であるが、いずれの濃度のものを用いても構わない。なお、塩酸以外の酸として硫酸や硝酸が挙げられるが、硫酸は製鋼スラグS1から溶出したCaと反応して石膏(CaSO)を形成してしまうので好ましくない。また、硝酸は窒素を含むため、リン回収後の処理水W5を公共水域に放流した際に富栄養化の原因になるので好ましくない。
【0027】
本実施形態で使用する被処理水W2は、リンを含むものであればよく、リンの濃度に特に制限はない。本実施形態の被処理水W2として、例えば、公共下水道から終末処理場に流入する下水が挙げられる。このような下水としては、主に市街地などから排出される都市排水が挙げられる。都市排水には、一般家庭から排出される生活排水や、店舗、その他の施設から排出される排水が含まれる。また、このような下水には、製鉄所等の金属精錬工場やその他の工場などから排出される産業排水が含まれる場合もある。特に、生活排水や産業排水には、リンが比較的多く含まれる場合がある。したがって、公共下水道の終末処理場で処理される下水は、本実施形態のリンの回収方法における被処理水W2として好適に用いることができる、また、本実施形態のリンの回収方法は、終末処理場においてリンを回収する際に適用してもよい。更に、本実施形態の被処理水W2は生活排水や産業排水に限られず、リンを含むものであれば適用可能である。
【0028】
本実施形態のリンの回収方法は、製鋼スラグS1と水W1とからなるリン回収用スラグスラリーS2に、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸A1を撹拌混合して、製鋼スラグS1中のCaを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階と、リン回収用スラグスラリーにリンを含む被処理水W2を撹拌混合してから静置することにより、リンとCaとを含む化合物を形成させ、化合物を製鋼スラグS1の残渣とともに固形物S3として凝集沈降させる段階と、沈降させた固形物S3を回収する段階と、を備え、リン回収用スラグスラリーを得る段階において、リン回収用スラグスラリーS2のpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら塩酸A1を添加することを特徴とする。以下、各段階について説明する。
【0029】
まず、水W1に製鋼スラグS1を添加してスラグスラリーを得る。図1のリン回収システム1においては、Ca溶出反応槽3aに水W1及び製鋼スラグS1を供給し、これらを撹拌混合してスラグスラリーとする。スラグスラリーのpHを安定させるためには、1分以上撹拌することが好ましく、5分以上撹拌することがより好ましく、10分以上撹拌することが更に好ましい。このとき、撹拌混合中に、製鋼スラグS1中のf−CaO(フリーライム)が溶出して、スラグスラリーのpHが上昇してアルカリ性を示す場合がある。
【0030】
次に、塩酸供給部4からCa溶出反応槽3aに塩酸A1を供給し、Ca溶出反応槽3aにおいてスラグスラリーと塩酸A1とを撹拌混合してリン回収用スラグスラリーS2とする。このとき、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸A1をCa溶出反応槽3aに供給する。さらに、Ca溶出反応槽3a内のスラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら、塩酸A1を供給する。なお、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸A1を供給した後の撹拌時間は、15分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。
【0031】
リン回収反応槽において、塩酸A1供給中のスラグスラリーS2のpHが4.5〜7.0の範囲であると、製鋼スラグS1からCaが優先的に溶出し、Ca以外の成分の溶出が抑制される。これは、pHが4.5〜7.0の範囲では主に、製鋼スラグS1に供給された水素イオンと、製鋼スラグS1から放出される水酸化物イオンとのイオン交換による溶出が起こり、製鋼スラグS1に含まれる成分の中でイオン化傾向の大きいCaが優先的に溶出するためだと考えられる。
【0032】
一方、塩酸A1供給中のスラグスラリーS2のpHが4.5未満であると、製鋼スラグS1からCa以外の成分の溶出量が増加してしまう。これは、製鋼スラグS1に多量の水素イオンが供給されることにより、製鋼スラグS1表面の金属酸化物(SiO、Al、FeO、Fe等)が水素イオンと反応して製鋼スラグS1表面から崩壊し、溶出するためだと考えられる。これにより、製鋼スラグS1からCa以外の元素が溶出し、Ca溶出のために供給した塩酸A1がCa溶出以外にも使用されるため、Ca溶出のために使用する塩酸A1の量が多くなる。
【0033】
また、塩酸A1供給中のスラグスラリーS2のpHが7.0超となると、製鋼スラグS1からCaが十分に溶出しない。
【0034】
Ca溶出反応槽3aに供給する塩酸A1の量は、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量である。製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00未満であると、製鋼スラグS1中のCaを十分に溶出させることができず、被処理水中のリンを効率的に回収するために必要なCa溶出量を確保することができない。一方、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.50超であると、後の工程でpH調整のために使用する水酸化ナトリウムA2の量が多くなり、薬液コストの増大を招く。なお、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)を調整するために、製鋼スラグS1中のCaO濃度は事前に計測しておくことが好ましい。また、リン回収用スラグスラリーS2のCaイオン濃度を、イオン電極等を用いて常時モニタリングすることも好ましい。
【0035】
また、製鋼スラグS1と反応に使用する液量(水W1及び塩酸A1の量)との固液比は、1:5(kg:kg)以上となるように調整する。製鋼スラグS1中のCaO濃度が決まると、塩酸A1の使用量が製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)から求めることができるので、残りの液量を水W1の量とすればよい。
【0036】
以下に、一例として、Ca溶出反応槽3aのスラグスラリーのpHを5.0に維持しながら塩酸A1を供給して、リン回収用スラグスラリーS2を得る場合について詳細に説明する。
【0037】
まず、Ca溶出反応槽3aにおいて、水W1と製鋼スラグS1とからなるスラグスラリーを撹拌混合しつつ、スラグスラリーのpHが5.0に低下するまで塩酸供給部4から塩酸A1を供給する。スラグスラリーのpHが5.0まで低下したら、一旦、塩酸A1の供給を中断する。塩酸A1の供給を中断した後もスラグスラリーの撹拌混合を続けると、製鋼スラグS1中のCaが溶出してスラグスラリーのpHが上昇する。すると、スラグスラリーのpHが5.0超となるため、再度、塩酸A1を供給しつつ撹拌混合して、スラグスラリーのpHを5.0まで低下させる。スラグスラリーのpHが5.0となったら、塩酸A1の供給を中断して、撹拌混合する。するとまた、製鋼スラグS1中のCaが溶出し、スラグスラリーのpHが上昇して5.0超となるため、塩酸A1を供給しつつ撹拌混合して、スラグスラリーのpHを5.0まで低下させる。この操作を、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸A1を供給するまで繰り返す。塩酸A1の全量を供給し終えたら、15分以上撹拌混合する。以上説明したように、スラグスラリーのpHを一定に維持しながら塩酸A1を供給することで、リン回収用スラグスラリーS2を得る。
【0038】
次に、原水貯留槽5aから被処理水W2を、原水供給ラインL4を介してリン回収反応槽2に供給するとともに、リン回収用スラグスラリーS2を、リン回収用スラグスラリー供給ラインL2を介してリン回収反応槽2に供給し、リン回収用スラグスラリーS2と被処理水W2とを撹拌混合した後、静置する。製鋼スラグS1中のCa量と被処理水W2中のリン量との混合割合は、Ca/P比率が2〜4の範囲になるように調整すればよい。Ca/P比率の調整は、リン回収用スラグスラリーS2と被処理水W2の混合割合等によって制御すればよい。また、Ca/P比率を調整するために、リン回収用スラグスラリーS2中のCa濃度と被処理水W2中のリン濃度は事前に計測しておくことが好ましい。
【0039】
被処理水中W2のリンと、リン回収用スラグスラリーS2中のCaとを十分に反応させるためには、被処理水W2とリン回収用スラグスラリーS2との撹拌時間は、5分以上とするとよい。撹拌時間が短すぎると、Caとリンとの反応が十分に進まない可能性がある。また、撹拌時間が長すぎると、装置が大きくなり、設備コストが高くなる。
【0040】
被処理水W2とリン回収用スラグスラリーS2とを撹拌混合することで、被処理水W2中に含まれるリンと、製鋼スラグS1から溶出されたリン回収用スラグスラリーS2中のCaとが反応して、リンとCaとを含む化合物が形成する。形成する化合物としては次のようなものが考えられる。被処理水W2中に含まれるリンの一部はリン酸水素イオン(HPO2−)として存在しており、リン酸水素イオンとCaイオンが反応してリン酸水素カルシウム(CaHPO)が形成されると推測する。また、このとき、リン酸水素カルシウムにCaが更に結合してCaHPO2+(トリプレット)も形成すると思われる。
【0041】
撹拌混合時に形成されるリン酸水素イオンを安定して存在させるためには、リン回収用スラグスラリーS2と被処理水W2とからなる混合液のpHを7.2〜8.5の範囲に調整することが好ましい。混合液のpHが7.2未満になると、リン酸水素イオンよりもリン酸二水素イオンが多く存在することになる。リン酸二水素イオンとCaイオンとの溶解度積は、リン酸水素イオンとCaイオンとの溶解度積よりも大きいため、混合液のpHが7.2未満ではリン酸水素カルシウムの析出量が少なくなってリンの回収率が低下する可能性がある。また、pHが8.5を超えると、被処理水W2中に炭酸イオンが生成し、Caが炭酸イオンと結合して炭酸カルシウムを析出させ、リンが析出しにくくなり、リンの回収率が低下してしまう。被処理水W2中のpHは、苛性ソーダ供給ラインL14を介して、pH調整装置9から水酸化ナトリウムA2を供給して調整すればよい。
【0042】
また、リン及びCaを含む化合物の形成と同時または形成後に、製鋼スラグS1の残渣を利用してこれら化合物を凝集沈降させる。製鋼スラグS1の残渣は、Caが陽イオンとして溶出したものであるので、全体として負に帯電している。一方、リン酸水素カルシウム及びCaHPO2+は、見かけ比重が小さい状態であるため、被処理水W2中に浮遊し、かつCaHPO2+は正に帯電している。このように負に帯電した製鋼スラグS1の残渣と浮遊するリン酸水素カルシウム及びCaHPO2+が共存することで、両者の間に静電的な相互作用が発生し、製鋼スラグS1の残渣に対してリン酸水素カルシウム並びにCaHPO2+等の化合物が凝集し、ついには固形物S3として沈降する。以上のメカニズムにより凝集沈降が進むと考えられるため、固形物S3を沈降させる際に、凝集剤を添加する必要はない。
【0043】
沈降時間は、リン回収反応槽2の大きさにもよるが、7分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましい。上限は、60分以下が好ましく、50分以下がより好ましく、40分以下が更に好ましい。
【0044】
次に、リン回収反応槽2において、固形物S3沈降後の上澄みである上澄み水W3を、排水ラインL7を介して排水貯留タンク7aに送る。その後、上澄み水W3は脱水装置6からの脱水水W4とともに、排水貯留タンク7aから処理水W5として公共水域に放流されるか、あるいは、別の水処理設備に送られる。
【0045】
一方、リン回収反応槽2の底に凝集沈降した固形物S3は、排出ラインL8を介して脱水装置6に送られる。脱水装置6において固形物S3は脱水され、その際に分離された脱水水W4は排水ラインL9を介して排水貯留タンク7aへ送られる。なお、沈降させた固形物S3の脱水は、濾過、遠心分離、加圧脱水(ローラーブレス、フィルタープレス、スクリュープレス)、多重円板回転脱水、多重振動フィルターなどを用いても良い。
【0046】
脱水後の脱水物S4は、搬送ラインL10によって系外に排出されるか、搬送ラインL11を経由して乾燥装置8に送られる。肥料または肥料原料として搬出される。または、乾燥装置8に送られて乾燥される。脱水物S4の乾燥処理は、室温環境下において放置することによる自然乾燥でもよい。室温環境下であれば、例えば、12時間程度放置しておけば、十分に乾燥される。乾燥装置8に送られた脱水物S4は、乾燥させられた後に乾燥物S5として系外に排出される。
【0047】
脱水装置6から搬出される脱水物S4は、回収物をそのまま肥料用途に向けるための、ク溶性リン含有率の規格値である15質量%以上のク溶性リンを含んでおり、そのまま肥料として用いられる。また、肥料有効成分であるFe、Si、Mn、Mg等の元素を多く含んでいる。なお、ク溶性とは2%のクエン酸水溶液に溶解する性質をいう。また、ク溶性リンとは2%のクエン酸水溶液に溶解するリンをいう。
【0048】
また、乾燥装置8から搬出される乾燥物S5は、回収物をそのまま肥料用途に向けるための、ク溶性リン含有率の規格値である15質量%以上のク溶性リンを含んでおり、そのまま肥料として用いられるか、肥料原料として肥料の製造に利用されるか、あるいは黄リン原料として利用される。また、肥料有効成分であるCa、Fe、Mg、Mn、Si等の成分を多く含んでいる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の被処理水中のリンの回収方法によれば、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸を撹拌混合して製鋼スラグ中のCaを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階において、スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら塩酸を添加することによって、製鋼スラグ中のCaを十分に溶出させることができ、また、Ca以外の成分の溶出を抑制することができ、回収した固形物中に肥料成分を多く残存させることができる。また、使用する塩酸量を低減させることができ、薬液コストを低減させることができる。さらに、使用する塩酸量が低減されることにより、被処理水とリン回収用スラグスラリーとを撹拌混合する際に、pH調整のために使用する水酸化ナトリウムの量を少なくすることができるため、薬液コストを更に低減させることができる。
【0050】
また、製鋼スラグからCaを溶出させてこれを被処理水中のリン酸水素イオンと反応させてリン酸水素カルシウムとし、更に製鋼スラグからカルシウムを溶出した後の残渣を利用して、リン酸水素カルシウムを凝集沈降させるので、被処理水中のリンを高い収率で効率よく回収できる。
特に、Ca溶出後の製鋼スラグの残渣を利用することで、短時間でリン酸水素カルシウムを凝集沈降させることができ、リンの回収効率を高めることができる。また、リン酸水素カルシウムを凝集させるための凝集剤を別途添加する必要がなく、凝集剤を添加するための設備も必要ない。更には、リン酸水素カルシウムの生成と凝集を同時に行うことができ、短時間でリンを回収できるとともに、リンを回収させる際に必要な反応槽が1つで済み、リン回収反応槽2を小型化できる。
【0051】
また、製鋼スラグ中のCa以外の成分の溶出を抑制できるため、リン回収用スラグスラリー中の製鋼スラグ残渣の微粒化を防ぐことができる。さらに、リン回収用スラグスラリー中の製鋼スラグの残渣量を多くすることができ、下記式(1)で表される残渣回収率が80%以上となる。そのため、被処理水中のリンをさらに効率よく回収することができる。
【0052】
製鋼スラグ残渣回収率=(製鋼スラグ残渣重量(g)/投入製鋼スラグ重量(g))×100 … (1)
【0053】
また、本実施形態のリン回収方法では、下記式(2)で表される塩酸消費率が85%以上となり、本発明者らが発明した従来法に比べ、塩酸消費率を10〜30%上昇させることができる。そのため、製鋼スラグからCaを溶出させる際に使用する塩酸量を大幅に低減することができる。なお、下記式(2)中のCa溶出に使用された塩酸量(mol)は下記式(3)で表され、添加したCl量(mol)は下記式(4)で表される。
【0054】
塩酸消費率(%)=(Ca溶出に使用された塩酸量(mol)/添加したCl量(mol))×100 … (2)
【0055】
Ca溶出に使用された塩酸量(mol)=濾液中のCa量(g/L)×(水量+塩酸量)(L)/40.0784×2 … (3)
添加したCl量(mol)=添加した塩酸量(L)×塩酸濃度(mol/L) … (4)
【0056】
また、製鋼スラグには、製鉄所から排出されるリンが多く含まれているものがある。本実施形態によれば、この製鋼スラグ中のリンと被処理水中のリンとが一装置で同時に回収されるとともに、凝集沈降物中のリンの含有率を高めることができ、凝集沈降物を有用なリン資源として再活用できる。さらに、被処理水として終末処理場(下水処理場)で処理される下水を用いる場合、海や湖などの富栄養化の原因である下水中のリンを回収できる。したがって、本実施形態を下水中のリンの回収に適用することにより、リンの2大排出源である鉄鋼産業からのリン(日本で約8万t−P/Yの排出)と下水処理場からのリン(日本で約5万t−P/Yの排出)の両方のリンを同時に回収リサイクルすることが可能になる。
【0057】
また、凝集沈降した固形物を脱水後に乾燥させることで、固形物の容積を減少できるとともに、凝集沈降した固形物の取り扱いが容易になる。
【0058】
更に、回収された固形物は、製鋼スラグ中の肥料成分である元素とリンとを高濃度で含むため、肥料、肥料原料または黄リン原料等として好適に用いることができる。
また、本実施形態によれば、リンの回収に用いた製鋼スラグの全量を肥料または肥料原料として利用できるので、製鋼スラグを有効活用することができる。
【0059】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について、図1に示すリン回収システムを参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0060】
本実施形態のリンの回収方法は、水W1と製鋼スラグS1とからなるスラグスラリーに、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸A1を撹拌混合して、製鋼スラグS1中のCaを溶出させたリン回収用スラグスラリーS2を得る段階と、リン回収用スラグスラリーS2にリンを含む被処理水W2を撹拌混合してから静置することにより、リンとCaとを含む化合物を形成させ、化合物を製鋼スラグS1の残渣とともに固形物S3として凝集沈降させる段階と、沈降させた固形物S3を回収する段階と、を備え、リン回収用スラグスラリーを得る段階において、塩酸A1の全量のうち、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00未満となる量の塩酸A1をスラグスラリーに添加した後、スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら塩酸A1の残量を添加することを特徴とする。以下に、各段階について詳細に説明する。
【0061】
まず、Ca溶出反応槽3aに水W1及び製鋼スラグS1を供給し、これらを撹拌混合してスラグスラリーとする。
【0062】
次に、塩酸供給部4からCa溶出反応槽3aに塩酸A1を供給し、Ca溶出反応槽3aにおいてスラグスラリーと塩酸A1を撹拌混合してリン回収用スラグスラリーS2とする。このとき、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸A1のうち、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00未満となる量の塩酸A1を、pHの調整を行わずに、リン回収反応槽2に供給する。なお、このときの塩酸添加量は、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が0.75となる量であることが好ましく、0.70となる量であることがより好ましい。なお、塩酸A1を供給する際のpHは特に制御しないが、pHが4.5未満になるとCa以外の成分の溶出量が増大するので、pHが4.5未満とならない程度の塩酸A1を添加することが好ましい。その後、Ca溶出反応槽3a内のスラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら、塩酸A1の残量を供給する。塩酸A1の全量を添加した後は、15分間以上撹拌混合してリン回収用スラグスラリーS2を得る。
【0063】
以下に、一例として、スラグスラリーに、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸A1のうち、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が0.70となる量の塩酸A1を添加した後、スラグスラリーのpHを5.0に維持しながら塩酸A1の残量を添加して、リン回収用スラグスラリーS2を得る場合について詳細に説明する。
【0064】
まず、Ca溶出反応槽3aにおいて、水W1と製鋼スラグS1とからなるスラグスラリーを撹拌混合しつつ、HCl/CaO比率が1.00〜1.50となる量の塩酸のうち、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が0.70となる量の塩酸A1を、塩酸供給部4から供給する。このとき、スラグスラリーのpHの調整を行わずに塩酸A1を供給する。すると、スラグスラリーのpHが低下して5.0未満となるが、撹拌混合を続けると、製鋼スラグS1中のCaが溶出してスラグスラリーのpHが上昇する。スラグスラリーのpHが5.0超となったら、塩酸A1を供給しつつ撹拌混合して、スラグスラリーのpHを5.0まで低下させる。スラグスラリーのpHが5.0となったら、塩酸A1の供給を中断して、撹拌混合する。するとまた、製鋼スラグS1中のCaが溶出し、スラグスラリーのpHが上昇して5.0超となるため、再度、塩酸A1を供給しつつ撹拌混合して、スラグスラリーのpHを5.0まで低下させる。このような操作を、塩酸A1の残量を供給し終えるまで繰り返す。塩酸A1の全量を供給し終えたら、15分以上撹拌混合する。以上説明したように、HCl/CaO比率が1.00〜1.50となる量の塩酸のうち、製鋼スラグS1中のCaOと塩酸A1とのモル比率(HCl/CaO)が0.70となる量の塩酸A1を、pHの調整を行わずに供給した後、スラグスラリーのpHを一定に維持しながら塩酸A1の残量を供給することで、リン回収用スラグスラリーS2を得る。
【0065】
次に、原水貯留槽5aから被処理水W2を、原水供給ラインL4を介してリン回収反応槽2に供給するとともに、リン回収用スラグスラリーS2を、リン回収用スラグスラリー供給ラインL2を介してリン回収反応槽2に供給し、リン回収用スラグスラリーS2と被処理水W2とを撹拌混合した後、静置する。リン回収反応槽2の底に凝集沈降した固形物S3は、脱水装置6に送られる。脱水装置6において固形物S3は脱水され、その際に分離された脱水水W4は排水貯留タンク7aへ送られる。また、脱水後の脱水物S4は、肥料または肥料原料として搬出される。または、乾燥装置8に送られて乾燥された後、肥料または肥料原料として搬出される。一方、固形物S3の沈降後の上澄みである上澄み水W3は、排出ラインL7を介して排水貯留タンク7aに送られる。その後、上澄み水W3は脱水装置6からの脱水水W4とともに脱リン水として、排水貯留タンク7aから処理水W5として公共水域に放流されるか、あるいは、別の水処理設備に送られる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態の被処理水中のリンの回収方法によれば、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50となる量の塩酸を撹拌混合して製鋼スラグ中のカルシウムを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階において、塩酸の全量のうち、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00未満となる量の塩酸をスラグスラリーに添加した後、スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら塩酸の残量を添加することによって、製鋼スラグ中のCa以外の成分の溶出を抑制することができ、また、Caの溶出を十分に行うことができ、回収した固形物中に肥料成分を多く残存させることができる。また、使用する塩酸量を低減させることができ、薬液コストを少なくすることができる。さらに、使用する塩酸量が低減されることにより、被処理水とリン回収用スラグスラリーとを撹拌混合する際に、pH調整のために使用する水酸化ナトリウムの量を少なくすることができるため、薬液コストを更に少なくすることができる。
【0067】
また、リン回収用スラグスラリーを得る段階において、HCl/CaO比率が1.00〜1.50となる量の塩酸のうち、HCl/CaO比率が1.00未満となる量の塩酸を、pH調整を行わずに添加するため、第1の実施形態に比べて、塩酸添加に要する時間を短縮することができる。
【実施例】
【0068】
本発明の実施形態における、様々な因子の関係を調べるため行った実験例1〜5について以下に説明する。
【0069】
[実験例1]
粒径が0.125mm未満の製鋼スラグ20gと水とを10分間撹拌混合し、スラグスラリーを得た。その後、スラグスラリーのpHをそれぞれ、1.5、3.0、4.0、5.0、5.5に維持しながら、2mol/Lの塩酸を添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70〜1.90となる量の塩酸を添加した後、30分間撹拌混合して、リン回収用スラグスラリーを得た。なお、製鋼スラグと、水量及び塩酸量との固液比が1:10となるように、水量を調整した。
また、製鋼スラグ20gと、1mol/Lの塩酸200mLとを撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。
【0070】
以上の工程によって得られたリン回収用スラグスラリーを濾過し、製鋼スラグの残渣と液分とに分離した。そして、製鋼スラグの残渣に含まれるCa、Si、Al量をICP発光分光分析装置により測定した。測定して得られたCa、Si、Al量をそれぞれ、図2(a)〜(c)に示す。
【0071】
図2(a)を見ると、スラグスラリーのpHを4.5以上に維持した場合では、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50の範囲において、Ca溶出量が多くなっている。
また、図2(b)及び図2(c)を見ると、スラグスラリーのpHを4.5以上に維持した場合では、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00〜1.50の範囲において、Si及びAlがほとんど溶出していない。一方、スラグスラリーのpHを4.5未満に維持した場合と、製鋼スラグと塩酸とを直接混合した場合とにおいては、Si及びAlの溶出量が多くなっている。
【0072】
以上より、塩酸添加中のpHを4.5以上に維持することによって、製鋼スラグから溶出するCa量が多くなり、また、Ca以外の元素の溶出量を低減させることができることが分かる。そのため、Ca溶出のために使用する塩酸量を低減させることができる。
【0073】
[実験例2]
粒径が0.125mm未満の製鋼スラグ20gと水とを10分間撹拌混合し、スラグスラリーを得た。その後、スラグスラリーのpHを1.5、2.0、3.0、4.0、4.5、5.0、5.5に維持しながら、2mol/Lの塩酸を添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70〜1.96になるまで塩酸を添加した後、30分間撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。なお、水量及び塩酸量と、製鋼スラグとの固液比が1:10となるように水量を調整した。
また、製鋼スラグ20gと、1mol/Lの塩酸200mLとを撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。
【0074】
以上の方法により得たリン回収用スラグスラリーをろ過し、製鋼スラグの残渣と液分とに分離した。製鋼スラグの残渣量を測定し、下記式(1)により残渣回収率を求めた。その結果を図3に示す。なお、図3において、「反応方法A」と記載された試験例では、塩酸と製鋼スラグとを撹拌混合することによりリン回収用スラグスラリーを得た。また、図3において、「反応方法B」と記載された試験例では、水と製鋼スラグとを撹拌混合して得たスラグスラリーに、一定のpHに維持しながら塩酸を添加してリン回収用スラグスラリーを得た。
【0075】
残渣回収率(%)=(製鋼スラグの残渣量(g)/水と撹拌混合したスラグ量(g))×100 … (1)
【0076】
図3を見ると、スラグスラリーのpHを4.5以上に維持した場合では、残渣回収率が80%以上となっている。一方、スラグスラリーのpHを4.5未満に維持した場合と、製鋼スラグと塩酸とを直接混合した場合とにおいては残渣回収率が低くなっている。
【0077】
以上より、塩酸添加中のpHを4.5以上に維持することによって、製鋼スラグの残渣回収率を多くすることができることが分かる。そのため、被処理水中のリンを効率よく回収することが可能になる。
【0078】
[実験例3]
粒径が0.125mm未満の製鋼スラグ20gと水100mLとを10分間撹拌混合し、スラグスラリーを得た。その後、スラグスラリーのpHを4.5に調整しながら、2mol/Lの塩酸85mLを添加した。塩酸の全量を添加した後、撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。
【0079】
スラグスラリーを得る段階及びリン回収用スラグスラリーを得る段階における経過時間と、スラグスラリーのpHとの関係を図4に示す。図4によると、塩酸の全量を添加してから15分程度でpHの上昇が緩やかになっているのが分かる。これより、塩酸の全量を添加してから15分程度撹拌混合すると、添加した塩酸の全量が製鋼スラグとの反応に消費されることが分かる。そのため、塩酸の全量を添加した後の撹拌時間は、15分以上とすることが好ましいことが分かる。
【0080】
[実験例4]
表2に示す条件によりリン回収用スラグスラリーを得た。表2において「反応方法A」と記載された試験例では、塩酸と製鋼スラグとを撹拌混合することによりリン回収用スラグスラリーを得た。表2において「反応方法B」と記載された試験例では、水と製鋼スラグとを撹拌混合して得たスラグスラリーに、一定のpHに維持しながら塩酸を添加してリン回収用スラグスラリーを得た。表2において「反応方法C」と記載された試験例では、水と製鋼スラグとを撹拌混合して得たスラグスラリーに、pH調整を行わずに製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00未満となる量の塩酸を添加した後、スラリーのpHを一定に維持しながら塩酸の残量を添加してリン回収用スラグスラリーを得た。なお、No.1〜No.13、No.15〜No.17で使用した塩酸は希塩酸であり、No.14で使用した塩酸は濃塩酸である。
【0081】
また、表2に示す条件により得たリン回収用スラグスラリーを濾過して、製鋼スラグの残渣と液分とに固液分離した。そして、液分に含まれるCa量をICP発光分光分析装置により測定した。測定した液分中のCa量と、下記式(2)とを用いて塩酸消費率を求めた。ただし、下記式(2)において、Ca溶出に使用された塩酸量(mol)は下記式(3)で表され、添加したCl量(mol)は下記式(4)で表される。得られた結果を表2に示す。
【0082】
塩酸消費率(%)=(Ca溶出に使用された塩酸量(mol)/添加したCl量(mol))×100 …(2)
【0083】
Ca溶出に使用された塩酸量(mol)=濾液中のCa量(g/L)×(水量+塩酸量)(L)/40.0784×2 … (3)
添加したCl量(mol)=添加した塩酸量(L)×塩酸濃度(mol/L) … (4)
【0084】
【表2】
【0085】
ここで、例として、表2に示すNo.1、No.3、No.10、No.15、No.16の各条件について、図5図9を参照して詳細に説明する。図5図9は、スラグスラリーを得る段階及びリン回収用スラグスラリーを得る段階における経過時間と、スラグスラリーのpHとの関係を示す図である。なお、図5図6図7図8図9はそれぞれ、表2のNo.1、No.3、No.10、No.15、No.16と対応している。
【0086】
図5と対応するNo.1では、製鋼スラグ20gに1mol/Lの塩酸200mLを添加して、30分間撹拌混合することによりリン回収用スラグスラリーを得た。図5を見ると、塩酸添加時にpHが低下して0程度となり、その後、時間の経過とともにpHが上昇していることが分かる。その結果、表2を見ると、塩酸消費率が76%となっている。このように、図5と対応するNo.1では、塩酸の全量を一度に投入し、塩酸添加中のスラグスラリーのpHが4.5〜7.0の範囲に維持されていないため、塩酸消費率が低くなっている。
【0087】
図6と対応するNo.3では、水100mLと製鋼スラグ20gとを10分間撹拌混合してスラグスラリーを得た後、2mol/Lの塩酸100mLを、pHが3.0になるように調整しながら添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.40となるまで塩酸を添加した後、30分間撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。図6を見ると、水と製鋼スラグとを撹拌混合した際に、pHが上昇してアルカリ性となり、その後、塩酸を添加した際には、pHが低下しているのが分かる。また、スラグスラリーのpHが3.0に調整されつつ、塩酸が添加されていることが分かる。その結果、表2を見ると、塩酸消費率が78%となっている。このように、図6と対応するNo.3では、塩酸添加中のスラグスラリーのpHが4.5〜7.0の範囲に維持されていないため、塩酸消費率が低くなっている。
【0088】
図7と対応するNo.10では、水130mLと製鋼スラグ20gとを10分間撹拌混合してスラグスラリーを得た後、2mol/Lの塩酸70mLをpHが5.0になるように調整しながら添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00となるまで塩酸を添加した後、30分間撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。図7を見ると、水と製鋼スラグとを撹拌混合した際に、pHが上昇してアルカリ性となり、その後、塩酸を添加した際には、pHが低下しているのが分かる。また、スラグスラリーのpHが5.0に調整されつつ、塩酸が添加されていることが分かる。その結果、表2を見ると、塩酸消費率が97%となっている。このように、図7と対応するNo.10では、塩酸添加中のスラグスラリーのpHが4.5〜7.0の範囲に維持されているため、塩酸消費率が高くなっている。
【0089】
図8と対応するNo.15では、水130mLと製鋼スラグ20gとを10分間撹拌混合してスラグスラリーを得た後、2mol/Lの塩酸70mLをpHが5.5になるように調整しながら添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00となるまで塩酸を添加した後、30分間撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。図8を見ると、水と製鋼スラグとを撹拌混合した際に、pHが上昇してアルカリ性となり、その後、塩酸を添加した際には、pHが低下しているのが分かる。また、スラグスラリーのpHが5.5に調整されつつ、塩酸が添加されていることが分かる。その結果、表2を見ると、塩酸消費率が97%となっている。このように、図8と対応するNo.15では、塩酸添加中のスラグスラリーのpHが4.5〜7.0の範囲に維持されているため、塩酸消費率が高くなっている。
【0090】
図9と対応するNo.16では、水128mLと製鋼スラグ20gとを10分間撹拌混合して、スラグスラリーのpHを調整せずに2mol/Lの塩酸を50mL添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70となる2mol/Lの塩酸を50mL添加した後、一旦、塩酸添加を中止し、スラグスラリーのpHが5.1〜7まで上昇するまで撹拌混合した。スラグスラリーのpHが5.1〜7まで上昇したことを確認した後、2mol/Lの塩酸22mLをスラグスラリーのpHがpH=5になるように調整しながら添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)がトータルで1.00となるまで塩酸を添加した後、30分間撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。図9を見ると、水と製鋼スラグとを撹拌混合した際に、pHが上昇してアルカリ性となり、その後、塩酸を添加した際には、pHが低下しているのが分かる。また、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70になる量の塩酸を添加した直後は、スラグスラリーのpHが4.5になっていることが分かる。さらに、塩酸の残量を添加する際には、スラグスラリーのpHが5.0に調整されつつ、塩酸が添加されていることが分かる。その結果、表2を見ると、塩酸消費率が90%となっている。このように、図9と対応するNo.16では、スラグスラリーのpH調整を行わずにモル比率(HCl/CaO)が0.70の量の塩酸を添加した際にはpHが5.0未満となっているが、残量の塩酸を添加する際には、塩酸添加中のスラグスラリーのpHが4.5〜7.0の範囲に維持されているため、塩酸消費率が高くなっている。さらに、図7と対応するNo.10と比較すると、塩酸添加に要する時間が短縮できることが分かる。
【0091】
また、表2によると、本発明例であるNo.5、No.9、No.10、No.14、No.15、No.16では塩酸消費率が85%以上を示している。
一方、比較例であるNo.1は、製鋼スラグに塩酸を直接添加してスラグスラリーを得ており、塩酸の添加方法が本発明の方法ではないため、塩酸消費率が低くなっている。
No.2〜No.4、No.8は、スラグスラリーに塩酸を添加する際のpHが低かったため、Ca溶出以外の溶出にも塩酸が使用され、塩酸消費率が低くなっている。
No.11〜No.13は、塩酸消費率が85%以上となっているが、表3に示すように、濾液中のCa量(g/L)が本発明例に比べて少なく、11000mg/L以下となり、被処理水中のリンを回収するには不十分な溶出量であった。これは、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が低かったため、Caが十分に溶出しなかったことに起因する。
【0092】
また、表2のNo.7、No.8、No.10、No.13、No.14、No.15、No.16に示す条件で得たリン回収用スラグスラリーを濾過して、製鋼スラグの残渣と液分とに固液分離した。そして、液分中に含まれるCa、Si、Al量をICP発光分光分析装置により測定した。測定した結果を表3に示す。
なお、No.16については、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70となる量の塩酸を添加した直後の、スラグスラリーの一部を採取して、測定した結果(No.16−1)と、その後、塩酸の残量をpH調整しながら添加して撹拌混合して得たリン回収用スラグスラリーを採取して測定した結果(No.16−2)とを示している。
また、表3のNo.17は、以下に示す条件でリン回収用スラグスラリーを得た。水130mLと製鋼スラグ20gとを10分間撹拌混合してスラグスラリーを得た後、2mol/Lの塩酸70mLをpHが3.5になるように調整しながら添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.00となるまで塩酸を添加した後、30分間撹拌混合し、リン回収用スラグスラリーを得た。この時のリン回収用スラグスラリーを採取して測定した結果が、表3のNo.17である。
【0093】
【表3】
【0094】
表3によると、本発明例(No.10及びNo.14、No.15及びNo.16)は、Ca溶出量が比較例(No.7、No.8、No.11〜No.13、No.17)に比べて多いことが分かる。また、本発明例は、Si及びAlの溶出量が比較例に比べて少ないことが分かる。また、リン回収用スラグスラリーを得る段階で使用する塩酸が、希塩酸でも濃塩酸であっても、Ca溶出に使用する塩酸量が低減すること及びCa以外の元素の溶出を抑制することができていることが分かる。さらに、スラグスラリーのpHをpH5.5に制御してもCa溶出に使用する塩酸量が低減すること及びCa以外の元素の溶出を抑制することができていることが分かる。
【0095】
No.7、No.8及びNo.17は、塩酸添加中のpHが低かったため、Si及びAlの溶出量が多くなっているのが分かる。
【0096】
No.11〜No.13は、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70であったため、Si及びAlの溶出量が少なくなっているが、Ca溶出量が11000mg/L以下であり、被処理水中のリンを回収するには不十分な溶出量であることが分かる。これより、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が1.0未満であると、Caを十分に溶出させることができないことが分かる。
【0097】
No.16−1は、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70となる量の塩酸を添加した直後の、スラグスラリーの一部を採取して得た測定結果であるが、Si及びAlの溶出量が少なくなっているのが分かる。しかし、この段階では、Caが十分に溶出していないことが分かる。
その後、pHを5.0に維持しながら、塩酸の残量を添加して得たリン回収用スラグスラリーについての測定結果であるNo.16−2を見ると、Si及びAlの溶出量を抑制したまま、Caの溶出量が多くなっているのが分かる。
なお、No.16−2の残渣回収率は85%であり、図3に示した本発明例と同様の高い数値を示した。
【0098】
[実験例5]
塩酸の添加方法を2段階にしてスラグスラリーを製造するときの、スラグスラリーのpHの経時変化を確認するために以下に示す実験を行った。この実験について、表4に示すNo.18〜No.20及び図10を用いて説明する。
図10は、水に製鋼スラグを投入し10分間撹拌混合した後に、塩酸を投入しながらリン回収用スラグスラリーを得る段階における経過時間と、スラグスラリーのpHとの関係を示す図である。
【0099】
図10と対応する表4のNo.18〜No.20では、水26mLと製鋼スラグ4gとを5分間撹拌混合して製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70となる、2mol/Lの塩酸を15mL添加した。塩酸を添加して5分間撹拌した後、2mol/Lの塩酸4mLを15分かけて1分間ごとに添加した。製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)がトータルで1.00となるまで塩酸を添加して、その後15分間撹拌混合してリン回収用スラグスラリーを得た。なお、No.21では、製鋼スラグに必要量の塩酸を一度に添加して撹拌混合することにより、リン回収用スラグスラリーを得た。
図10を見ると、製鋼スラグ中のCaOと塩酸とのモル比率(HCl/CaO)が0.70となる量の塩酸を添加した際には、図9と同様に、pHが4.5〜6程度になるのが分かる。
さらに、残りの塩酸を添加する際はスラグスラリーのpHが4.5以上に調整されつつ、塩酸が添加されていることが分かる。
【0100】
使用するNaOH量、回収リン中のク溶性リン含有率、ク溶性リン含有量との関係を調べるため、以下に示す実験例を行った。
上記で製造したリン回収用スラグスラリーとリン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、表4に示すpHとなるように調整し、20分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。凝集沈降した固形物を回収し、回収した固形物の量、沈降後の含水固形物中のク溶製リン含有率及びク溶性リン量を測定した沈降後の含水固形物中のリン量はモリブデンブルー法により測定した。ク溶性リン量は、2%クエン酸水溶液によって固形物から抽出した抽出物の質量を測定し、この抽出物中に含まれるク溶性リン量を算出した。なお、ク溶性リン量の測定にあたっては「肥料等試験法(2013)独立行政法人農林水産消費安全技術センター(http://www.famic.go.jp/ffis/fert/bunseki/sub9_shiken2013.html)」に準じて行った。
また、NaOH削減率(wt%)、ク溶性リン含有率(wt%)、ク溶性リン含有量(gC−P/kgスラグ)はそれぞれ、下記式(5)〜(7)により求めた。
【0101】
NaOH削減率(wt%)=(比較例No.21のNaOH使用量(mL)−発明例No.18〜20のNaOH使用量(mL))
÷比較例23のNaOH使用量(mL) … (5)
【0102】
ク溶性リン含有率(wt%)=ク溶性リン量(g)÷回収した固形物の量(g)×100 … (6)
【0103】
ク溶性リン含有量(gC−P/kgスラグ)=ク溶性リン量(g)÷スラグ使用量(kg) … (7)
【0104】
【表4】
【0105】
表4によると、いずれの試験例においても、回収物はそのまま肥料用途に向けるための、ク溶性リン含有率の規格値である15質量%以上を示しており、そのまま肥料として用いることができる。回収物中のク溶性リン含有量は、比較例No.21に比べて本発明例(No.18〜No.20)はク溶性リン含有量が多くなっていることがわかる。
また、本発明例(No.18〜No.20)は比較例No.21に比べて、被処理水のpH調整に用いるNaOH水溶液の使用量は、大幅に削減できることがわかる。
実用化する場合は、回収したリンの価値、製鋼スラグや塩酸、NaOH(苛性ソーダ)の調達費等を総合的に勘案して最適な値を決めることになる。
【要約】
【課題】塩酸を添加して製鋼スラグ中のCaを溶出させたスラリーを得る際に、製鋼スラグからCa以外の元素の溶出を抑制し、使用する塩酸量を低減させることができる被処理水中のリンの回収方法を提供する。
【解決手段】製鋼スラグと水とからなるスラグスラリーに、所定量の前記塩酸を撹拌混合して前記製鋼スラグ中のCaを溶出させたリン回収用スラグスラリーを得る段階と、前記リン回収用スラグスラリーにリンを含む被処理水を撹拌混合してから静置することにより、リンとCaとを含む化合物を形成させ、前記化合物を前記製鋼スラグの残渣とともに固形物として凝集沈降させる段階と、沈降させた前記固形物を回収する段階と、を備え、リン回収用スラグスラリーを得る段階において、塩酸添加中の前記スラグスラリーのpHを4.5〜7.0の範囲に維持しながら塩酸を添加する被処理水中のリンの回収方法を採用する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10