特許第6197120号(P6197120)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エンジニアリング テクノロジーズ アンド マニファクチュアリング リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000002
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000003
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000004
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000005
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000006
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000007
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000008
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000009
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000010
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000011
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000012
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000013
  • 特許6197120-銃身の製造方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197120
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】銃身の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F41A 21/16 20060101AFI20170904BHJP
   B23B 35/00 20060101ALI20170904BHJP
   B24B 5/06 20060101ALI20170904BHJP
   B24B 33/05 20060101ALI20170904BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20170904BHJP
   C22C 38/22 20060101ALN20170904BHJP
【FI】
   F41A21/16
   B23B35/00
   B24B5/06
   B24B33/05
   !C22C38/00 301Z
   !C22C38/22
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-537380(P2016-537380)
(86)(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公表番号】特表2016-539309(P2016-539309A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】GB2014052594
(87)【国際公開番号】WO2015028791
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2016年8月4日
(31)【優先権主張番号】1315394.5
(32)【優先日】2013年8月29日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516058285
【氏名又は名称】エンジニアリング テクノロジーズ アンド マニファクチュアリング リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ENGINEERING TECHNOLOGIES & MANUFACTURING LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ アンソニー スチュワート
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0175078(US,A1)
【文献】 米国特許第03159903(US,A)
【文献】 米国特許第01316509(US,A)
【文献】 実開昭55−175800(JP,U)
【文献】 特開2000−198060(JP,A)
【文献】 特開昭52−091598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41A 21/00−21/48
B23B 35/00
B24B 5/00− 5/50
B24B 33/00−33/10
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本以上の銃身を製造する方法であり、
単一の金属ブロックを機械加工して、少なくとも第1の銃身及び第2の銃身の外側形状を有する銃身プリフォームを形成するステップ(103)と、
前記銃身プリフォームに第1の穴をドリル加工して第1の銃身内腔を形成するステップ(105)と、
前記銃身プリフォームに第2の穴をドリル加工して第2の銃身内腔を形成するステップ(107)とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であり、前記第1の穴をドリル加工するステップ(105)は、
前記第1の銃身の第1の端部から前記第1の銃身の長さの略半分まで掘削するステップと、
前記第1の銃身の第2の端部から前記第1の銃身の長さの略半分まで掘削するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であり、前記第2の穴をドリル加工するステップ(105)は、
前記第2の銃身の第1の端部から前記第2の銃身の長さの略半分まで掘削するステップと、
前記第2の銃身の第2の端部から前記第2の銃身の長さの略半分まで掘削するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法であり、前記金属ブロックを機械加工するステップ(103)は、クリープフィード研削するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法であり、前記第1の穴及び/又は前記第2の穴をドリル加工するステップ(105)は、前記銃身プリフォームとドリルとを反対方向に回転させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法であり、前記第1の穴及び/又は前記第2の穴をホーニング加工するステップ(107)を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であり、前記ホーニング加工するステップ(107)は、銃身の一端にホーニング工具を挿入し、該ホーニング工具を該銃身の長さ方向に沿って往復移動させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であり、前記第1の銃身及び前記第2の銃身を互いに略平行に形成するステップを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法であり、熱間黒化プロセスを実行するステップ(109)を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法であり、前記金属ブロックは、規格規定品質鋼合金を含み、前記鋼合金の硬度は、少なくとも245HBであり、好ましくは285HB〜340HBであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法であり、前記金属ブロックの硬度は均一であり、且つ前記各製造ステップを経ても実質的に変化しないことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法であり、前記銃身プリフォームは、中央リブによって離隔された第1の円形銃身セクション及び第2の円形銃身セクションを有する中実断面を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であり、前記第1の穴は前記第1の円形銃身セクションの中心を通るように形成され、前記第2の穴は前記第2の円形銃身セクションの中心を通るように形成されることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銃身の製造方法に関する。本発明の諸実施形態によれば、既知の技術によって製造される銃身に比べて真直度、平滑度、及び銃身間の近接度が高い銃身の製造が可能になる。これにより銃身の精度及び使用性が改善される。
【背景技術】
【0002】
銃には多くのスポーツ用途がある。例えば、散弾銃射撃競技は、現在人気が高まっている多種目オリンピック競技の1つである。また、ライフル射撃競技もスポーツ活動として定着している。
【0003】
射撃競技で使用される最も威力の低い銃は空気銃である。空気銃は圧縮空気の力を利用してペレットを発射する。発射弾の射程は典型的には30m以下であり、したがって空気銃は近距離射撃にしか適さない。
【0004】
より射程の長い銃は火薬の力を利用して弾薬を発射する。散弾銃は、複数のペレットが放射状に発せられる実包を発射する。散弾銃は、典型的には射程約50mの空中の標的を射撃するのに使用される。ライフル銃は1発の弾丸を発射するものであり、射程は散弾銃よりずっと長い。例えば、308ウィンチェスターライフルは1000m先のターゲットを撃ち抜くことができる。
【0005】
散弾銃は典型的には2本の銃身を備える。上下二連式構成では、使用時に一方の銃身が他方の真上に位置する。水平二連式構成では、使用時に各銃身が互いに水平方向に隣接する。複数の銃身を有するライフル銃と同様に、3本以上の銃身を有する散弾銃も知られている。
【0006】
銃の精度、特に比較的長い射程での操作が必要とされる散弾銃及びライフル銃の精度は、非常に重要な性能指標である。
【0007】
どのような銃であれ、銃の精度に影響を与える要因は銃身の真直度及び平滑度である。射撃の精度及び着弾点の一貫性は、いずれも銃身の真直度及び平滑度が高くなるほど改善される。
【0008】
銃の使用性も銃の精度を大きく左右する。特に散弾銃では、体感反動の大きい銃の使用者が反動の影響を自身の射撃技術で補償する必要がある。体感反動が大きいと、使用者は不快感を覚える。また、使用者は反動から元の姿勢に戻らなければ再び発砲することはできない。
【0009】
2本以上の銃身を有する銃の既知の製造技術によると、各銃身は個別に形成される。各銃身は、例えば旋盤上で銃身を回転させることにより、金属ブロックに単一の穴を掘削してから銃身の外側を形成することによって製造される。次いで、形成された2本の銃身は中央リブを隔てて互いにはんだ付けされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかる既知の製造技術には、はんだ付け処理によって金属銃身が熱処理されることで真直度が低下するという問題がある。これにより各銃身の精度が低下する。
【0011】
さらに、リブがある故に銃身間にどうしても隙間が生じてしまう問題もある。銃身間の隙間による精度の低下を補償するために、各銃身は互いに近付くように傾けられる。これは、銃の特定の目的を達成する上で、各銃身から発せられた発射体が銃から所定距離の同じ位置に到達することを保証するために必要な措置である。しかしながら、このように銃身同士を傾けると、銃の発砲後は、銃身の傾きによって銃の台尻に横運動量が伝えられるため、銃の体感反動が増大することになる。
【0012】
したがって、既知の技術に従って製造された多銃身銃用の銃身にはいくつかの問題が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、2本以上の銃身を製造する方法であり、 単一の金属ブロックを機械加工して、少なくとも第1の銃身及び第2の銃身の外側形状を有する銃身プリフォームを形成するステップと、前記銃身プリフォームに第1の穴を掘削して第1の銃身内腔を形成するステップと、前記銃身プリフォームに第2の穴を掘削して第2の銃身内腔を形成するステップとを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0014】
機械加工後の前記銃身プリフォームは、実質的に仕上げ処理後の銃身セットの形状を有することが好ましい。このことは、銃身の仕上げ処理に必要となる最終的な機械加工ステップが最小限に抑えられることを意味する。
【0015】
前記第1の穴を掘削するステップは、 前記第1の銃身の第1の端部から前記第1の銃身の長さの略半分まで掘削するステップと、前記第1の銃身の第2の端部から前記第1の銃身の長さの略半分まで掘削するステップとを含むことが好ましい。
【0016】
前記第2の穴を掘削するステップは、 前記第2の銃身の第1の端部から前記第2の銃身の長さの略半分まで掘削するステップと、前記第2の銃身の第2の端部から前記第2の銃身の長さの略半分まで掘削するステップとを含むことが好ましい。
【0017】
前記金属ブロックを機械加工するステップは、研削加工するステップを含むことが好ましい。より好ましくは、前記金属ブロックを研削加工するステップは、クリープフィード研削するステップを含む。
【0018】
前記第1の穴及び/又は前記第2の穴を掘削するステップは、前記銃身プリフォームとドリルとを反対方向に回転させるステップを含むことが好ましい。
【0019】
前記方法は、前記第1の穴及び/又は前記第2の穴をホーニング加工するステップを更に含むことが好ましい。
【0020】
前記ホーニング加工するステップは、銃身の一端にホーニング工具を挿入し、該ホーニング工具を該銃身の長さ方向に沿って往復移動させるステップを含むことが好ましい。
【0021】
前記方法は、前記第1の銃身及び前記第2の銃身を互いに略平行に形成するステップを更に含むことが好ましい。
【0022】
前記方法は、前記第1の銃身及び前記第2の銃身に挿入される弾薬の末端部間の離隔距離が1.5mm以下となるように前記各銃身を形成するステップを更に含むことが好ましい。
【0023】
前記方法は、前記第1の銃身及び前記第2の銃身に挿入される弾薬の末端部間の離隔距離が0.5mm〜1.5mmとなるように前記各銃身を形成するステップを更に含むことが好ましい。
【0024】
前記方法は、前床ループ(fore end loop)、バイファケイテッドランプ(bifurcated lump)、ウェッジ(wedge)、照準具取付台(sight mount)等の一体装備品を機械加工によって設けるステップを更に含むことが好ましい。
【0025】
前記方法は、熱間黒化(hot blacking)プロセスを実行するステップを更に含むことが好ましい。
【0026】
前記金属ブロックは、規格規定品質鋼合金(ordinance quality steel alloy)又は他の好適な銃等級金属を含むことが好ましい。規格規定品質鋼は、炭素約0.4重量%、マンガン1重量%、モリブデン0.25重量%、クロム1重量%、並びにリン及び硫黄を微量含む高合金鋼である。炭素をより多く含む、典型的には0.5重量%の炭素を含むより等級の高い規格規定品質鋼も好適である。
【0027】
前記鋼合金は、焼入れ焼戻し状態で供給されるCr−Mo合金鋼であることが好ましい。かかる鋼は良好な機械加工性及び均一な硬度をもたらす。
【0028】
前記金属ブロックの硬度は、好ましくは少なくとも245HB、より好ましくは285HB〜340HBである。
【0029】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様の方法に従って製造される銃身を提供する。
【0030】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様による銃身を有する銃が提供される。
【0031】
以下では添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明するが、これらの実施形態は単なる例示にすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態による方法のステップを示す図である。
図2】銃身のホーニング加工前後の状態を示す側面図である。
図3】ホーニング工具の図である。
図4】本発明の一実施形態による仕上げ処理した銃身と、銃身の一端に設けることが可能な装備品のいくつかを示す図である。
図5】本発明の一実施形態による仕上げ処理した銃身と、特に銃身の他端における照準具を示す図である。
図6】本発明の一実施形態による銃身の断面図である。
図7A】本発明の一実施形態による銃身の上面図である。
図7B】本発明の一実施形態による銃身の側面図である。
図7C】本発明の一実施形態による銃身の下面図である。
図8A】本発明の一実施形態による銃身の端面図である。
図8B】本発明の一実施形態による銃身の端面図である。
図9】本発明の一実施形態による銃身の端面図である。
図10】諸実施形態による銃身を有する銃を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
添付図面を参照しながら以下で説明する本発明の諸実施形態は、上述の課題の少なくとも一部を解決する、多銃身銃用の銃身を製造する新規な方法を提供する。
【0034】
諸実施形態による方法では、単一の同じ金属ブロックから2本以上の銃身が機械加工される。まず各銃身の外側形状が形成され、次にその外側形状に対して掘削が行われる。複数の銃身及び銃身の相互取り付けは全て、金属ブロックの成形から直接形成される。
【0035】
諸実施形態は、穴の掘削前に銃身の外側を形成する点、及び各銃身を個別に形成してから互いにはんだ付けする構成をとらない点で、既知の製造技術と異なる。
【0036】
諸実施形態の利点の1つは、銃身の相互取り付けにはんだ付け処理を必要としないため、そのような付加的な熱処理によって銃身の真直度が低下しない点である。他の利点としては、銃身同士が近接して平行に形成されることにより銃身の精度及び使用性が高まることが挙げられる。
【0037】
図1は、好ましい諸実施形態に従って適切な出発材料から銃身を製造するステップを示す。
【0038】
本方法はステップ101から開始される。
【0039】
ステップ103で、金属ブロックを機械加工することにより少なくとも第1の銃身及び第2の銃身の外側形状となるプリフォームが生成される。
【0040】
ステップ105で、プリフォームに穴が掘削される。
【0041】
ステップ107で、掘削された穴がホーニング加工される。
【0042】
ステップ109で、仕上げ処理が実行される。
【0043】
本方法はステップ111で終了する。
【0044】
以下、これらのステップの好ましい諸実施形態について詳述する。
【0045】
<出発材料>
本製造方法の出発材料は中実の金属ブロックである。金属ブロックの質量は、銃身の番径に応じて10kg〜30kgとすることができるが、典型的には20kg〜27kgであってよい。金属ブロックの寸法は、少なくとも、それ自体から銃身を機械加工するのに十分な大きさでなければならない。金属ブロックは、該当する場合はリブ、前床ループ、又は他の任意の銃身付属部品を含めた銃身セット全体が同一の金属ブロックから機械加工可能となる十分な大きさを有することが好ましい。
【0046】
好ましい一実施形態において、金属ブロックは規格規定品質Cr−Mo鋼合金である。このタイプの規格規定品質鋼は、炭素約0.4重量%、マンガン1重量%、モリブデン0.25重量%、クロム1重量%、並びにリン及び硫黄を微量含む高合金鋼である。この鋼は付加的な熱処理が必要とならないように焼入れ焼戻し状態で供給される。かかる鋼は良好な機械加工性及び均一な硬度を備える。この金属ブロックの硬度は、好ましくは少なくとも245HB、より好ましくは285HB〜340HBである。
【0047】
上述の要件を満足する好適な金属ブロックは市販されている。また、このような規格(ordinance)で要求される特性を有する金属ブロックの生成方法は当業者なら分かるであろう。
【0048】
<銃身外面の形成>
中実の金属ブロックが少なくとも2本の銃身の外面形状を有するプリフォームに機械加工される。この機械加工は、金属の機械的特性を大きく変化させないことからクリープフィード研削プロセスを使用して実行されることが好ましい。より具体的には、クリープフィード研削プロセスは、幾何公差を維持しながら良好な表面仕上げを実現する。このプロセスは、被機械加工金属との一定の接触力を維持することが可能な低応力プロセスである。このプロセスによって被機械加工金属に大きな歪みや大きな内部応力が生じることはない。銃身は、クリープフィード研削プロセス中に真っ直ぐ安定に保たれるように磁石で保持することが好ましい。クリープフィード研削は好ましいプロセスであるが、他の任意のタイプの研削プロセス、粉砕プロセス、又は他の技術を使用することもできる。図示のとおり、好ましい一実施形態において、機械加工後の銃身プリフォームは、実質的に仕上げ処理後の銃身セットの形状を有する。このことは、銃身の仕上げ処理に必要となる最終的な機械加工ステップが最小限に抑えられることを意味する。
【0049】
プリフォームは、所定距離だけ互いに離隔した少なくとも2本の銃身のプリフォームである。予備成形される銃身の長さは、個々の使用者の要求、即ち使用者の身体サイズに応じて決定されることが好ましい。予備成形される銃身の幅及び高さは、使用される弾薬のゲージ、即ち弾径に依存する。上下二連式12番散弾銃の典型的な寸法は、長さ762mm×幅39mm×高さ53mmである。
【0050】
特に好ましい構造は、2本の銃身が互いに略平行に形成される二連銃身構成である。しかしながら、本方法は収束型銃身のプリフォームの機械加工にも使用可能である。
【0051】
平行銃身の場合、各銃身は、それぞれに挿入される実包、即ち弾丸のリム間の距離が典型的には1.5mm以内となるように離隔される。銃身同士をどの程度近付けることができるかは弾薬の寸法によって規定され、各銃身はそれぞれの弾薬のリム同士が当接するほど近接させることもできる。リムレス弾薬が使用される場合は、銃身間の間隔を更に狭くすることが可能である。製造公差を許容するとともに将来の潜在的な弾薬設計にも対応できるようにするため、弾薬のリム間の間隔は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0052】
<内腔の掘削>
銃身の外面形状が機械加工された後、銃身の穴が掘削される。
【0053】
銃身に対する掘削を行うために、プリフォームはクランプ装置によって保持される。クランプ装置は、直線状に離隔した構成で配置される複数のクランプであることが好ましい。クランプ数は例えば6であってよい。クランプ装置の各クランプは、ばね荷重クランプ、空気荷重クランプ、又は油圧荷重クランプの場合と同様に、監視対象のクランプ圧を均一に維持する手法を含むことが好ましい。これにより、形成された銃身外面を所定位置に保持するために加えられるクランプ力を、銃身を所定位置に確実に保持するのに十分な大きさとしながらも、銃身の形状を大きく変形させたり材料特性を変化させたりするほど大きくならないようにすることが可能となる。
【0054】
第1の銃身の第1の端部に対して第1の掘削処理が実行される。ドリルは事前に形成された銃身外面に対して銃身の中心に進入するように構成され、進入点は典型的には5μmの範囲内とされる。銃身はそれ自体の長さの半分又は半分を少し超えたところまで掘削される。
【0055】
次いで、第1の銃身の第2の端部に対して第2の掘削処理が実行される。この場合も、ドリルは事前に形成された銃身外面に対して銃身の中心に進入するように構成される。銃身はそれ自体の長さの半分又は半分を少し超えたところまで掘削される。
【0056】
次いで、第1の銃身に対する上述の掘削処理を繰り返すことによって第2の銃身が形成される。
【0057】
別法として、掘削処理の順序を変更することもできる。例えば、第1及び第2の銃身の同じ側の端部を掘削してから各銃身の反対側の端部を掘削するようにしてもよい。
【0058】
各内腔を掘削する好ましい技術は、ドリルビットと銃身プリフォームを反対方向に回転させることである。これにより内腔が真っ直ぐに掘削される。
【0059】
<内腔のホーニング加工>
掘削処理後に遭遇する問題としては、掘削した各内腔が真っ直ぐ平滑にならないことや、銃身の各端部から掘削された内腔同士が銃身中央の内腔接続位置において正確に整列しないことが挙げられる。これらの問題は図2に示すとおりである。図2は、二連銃身の2つの内腔の長さ方向断面図である。上側の内腔は新たに掘削された内腔であって、真っ直ぐ平滑にならず位置ずれした内腔の例示である。
【0060】
上記の問題を解決するためにホーニングプロセスが実行される。ホーニングプロセスは、図3に示すようなホーニング工具を使用して内腔を真っ直ぐ平滑にするとともに内腔の位置ずれを矯正するプロセスである。
【0061】
ホーニングプロセスでは、ホーニング工具が銃身の一端に挿入され、長手方向に往復移動され、内腔の長手方向軸線に沿って回転される。ホーニング工具の研磨要素は、ホーニング工具のヘッド部のポケット内に配置され、それ自体の下方に先細ウェッジを有する。先細ウェッジはCNC(コンピュータ数値制御)軸によって制御され、ホーニング工具から突出し内腔に進入する研磨要素の動作を制御するようにホーニング工具の軸に沿って移動可能である。したがって、ホーニング工具は、内腔から材料を除去することにより内腔を真っ直ぐ平滑にし、位置合わせするように拡張される。ホーニング工具の長さは280mm以上が好ましい。ホーニング工具の長さを増加させると、ホーニング工具が入口穴によって銃身の端部により密接に保持され、したがって、形成された穴の長手方向軸線と、事前に形成された銃身プリフォーム外面とが略平行になることが保証される。
【0062】
図2の下側の穴はホーニングプロセス後の穴を示す。ホーニング加工の結果、内腔が真っ直ぐ平滑になり、反対方向から掘削された内腔同士が整列している。
【0063】
<仕上げ処理>
上述の処理によって全ての銃身が形成されると、各銃身がそれぞれ散弾銃の他の部品に確実に適合するように、必要に応じて更なる機械加工が施される。銃身の機械加工材料と同じ単一の鋼片に機械加工を更に施すことにより、前床ループ、アクションドロー部(action draw)に嵌合するバイファケイテッドランプ、ウェッジ、照準具取付台等の必要な装備品を設けることが好ましい。これらの装備品を銃身と一体化させれば取り付けが強固になるので有利である。ただし、この構成は決して必須のものではなく、代わりに銃身とは別個に製造した装備品を銃身に取り付けることもできる。
【0064】
熱間黒化プロセスを実行することが好ましい。熱間黒化プロセスは冷間黒化(cold blacking)プロセスよりも柔軟性が高い。既知の技術では、典型的には冷間黒化処理が実行され、熱間黒化は、はんだ付けしたリブに化学物質が滲出することで発錆の原因となるため敬遠されている。諸実施形態による銃身は、はんだ付けリブによって取り付けられないので、熱間黒化プロセスを行っても上記のような問題は生じない。熱間黒化プロセスは、金属の機械的特性に銃身の真直度が損なわれるほどの影響を与えるものではない。
【0065】
当業者には知られるように、仕上げ処理には銃身の研磨や他の任意の処理も含まれる。仕上げ処理後の銃身の質量は、典型的には約1.3kgである。
【0066】
図4図10は、諸実施形態に従って仕上げ処理した銃身を示す。図示の銃身は、上下二連式散弾銃の例示的な用途のために製造されたものである。
【0067】
図4は、仕上げ処理した銃身と、銃身の一端に設けることが可能な装備品のいくつかを示す。
【0068】
図5は、仕上げ処理した銃身と、特に銃身の他端の照準具を示す。
【0069】
図6は、銃身の断面図である。図面から、銃身間の間隔が狭く銃身が平行に構成されていることが分かる。
【0070】
図7aは、銃身の上面図である。銃身の長さ方向に沿って照準具が設けられている。
【0071】
図7bは、銃身のビューの側面図である。
【0072】
図7cは、銃身の下面図である。
【0073】
図8a及び図8bは、銃身間の間隔が狭いことを示す銃身の端面図である。
【0074】
図9は、銃身の端面図である。寸法wは、各銃身に挿入される実包のリム間の離隔距離である。上述したように、wは0.5mm〜1.5mmであることが好ましい。
【0075】
図10は、諸実施形態による銃身を有する銃を示す。
【0076】
<利点>
次に、諸実施形態に従って製造した上下二連式散弾銃用の2本の銃身を例として、諸実施形態の利点のいくつかについて説明する。
【0077】
既知の製造技術では、二連銃身散弾銃の各銃身が個別に形成され、その後2本の銃身同士が中央リブと共にはんだ付けされる。はんだ付けプロセスは複雑であり、また、到達温度を考えると金属が付加的な熱処理を受けることは避けられない。したがって、はんだ付け処理は銃身の機械的特性及び物理的特性を変化させる。特に、はんだ付けプロセスは金属に歪みを与えるため、はんだ付けプロセスを経ると銃身の真直度が低下する。
【0078】
はんだ付けの更なる問題は、はんだ付けプロセスの性質上、銃身同士の近接性に実質的な制約が課されることである。はんだ付けは、所望される銃身間の間隔が狭くなるほど困難になる。
【0079】
本明細書に記載の技術に従って銃身を製造する利点の1つは、複数の銃身及びそれらの相互取り付けが全て同一の単一金属ブロックから形成されることである。したがって、銃身の相互取り付けのためのはんだ付けプロセスが不要となり、金属の付加的な熱処理は生じなくなる。
【0080】
諸実施形態に係る銃身は中央リブと共に作成する必要がなく、諸実施形態によれば銃身間の間隔が極めて狭い銃身形成が可能となる。中央リブを使用しないこと、又は、中央リブを使用するのであれば銃身同士をはんだ付けする場合に比べて薄い中央リブを使用することにより、有利には、銃の発砲時に生じる熱を均等且つ迅速に分散させることが可能となる。はんだ付け接続部に熱気が留まり熱が蓄積することもないので、通気リブも不要である。
【0081】
既知の二連銃身散弾銃が抱える問題の1つは、銃身の離隔に起因する精度の低下を補償する必要があることである。したがって、これらの散弾銃は、各銃身の長手方向軸線を互いに近付くように傾けて構築される。軸線をこのように傾けることにより、各銃身から発せられる発射体は、銃からある距離だけ離れた同じ位置に収束することになる。製造業者には、実際の収束が銃の前方約5〜6mの位置にくるように過補償すること、及び、適用される収束度が高くなるほどユーザによる補償の必要性も高まることが知られている。
【0082】
諸実施形態によれば、既知の製造技術術に比べて銃身同士の近接性を高め、各銃身の軸線の真直度を高めることが可能となる。特に好ましい一実施形態では、2本の銃身が互いに略平行に形成される。銃身間の間隔が狭いため、各銃身から発せられる発射体の拡散が実質的に重なることになり、したがって、銃身が収束していない場合も精度が大きく損なわれないことが保証される。
【0083】
比較のため、既知の技術に従って製造される二連銃身散弾銃の各銃身に挿入される実包のリム間の典型的な離隔距離は4〜6.5mmであるのに対して、好ましい一実施形態による離隔距離は、典型的には0.5〜1.5mmである
【0084】
諸実施形態による、真っ直ぐな円筒状の平滑な形態の銃身は、銃身同士の近接配置だけでなく銃身精度の改善も実現する。諸実施形態による銃身の、真っ直ぐな円筒状の平滑で略平行な性質は、体感反動を軽減する利点ももたらす。真っ直ぐな円筒状の平滑で略平行な銃身である故に、各銃身を互いに近付くように傾けた場合に導入される成分が存在しないので、反動は銃の長さ方向軸線のみに沿って直線状に伝わることになる。したがって、この直線状の反動は、各銃身を互いに近付くように傾けた場合に比べると、使用者が体感する反動は小さくなる。また、発砲時の銃口の跳ね上がりも抑制される。
【0085】
単一の金属ブロックから銃身を製造する他の利点は、銃身同士をはんだ付けする場合に比べて本質的に強度が高くなることである。はんだ付け接続は、別個の部品から構造体を形成するものなので、元々構造上の弱点がある。
【0086】
諸実施形態では、はんだ量の多い中央リブが不要であることから、既知の技術に従って製造される銃身に比べて銃身の重量を軽くすることもできる。
【0087】
好ましい一実施形態では、作成する銃身の肉厚を厚くする。銃身の重量はその分増加するが、中央リブが存在しないため、銃身の重量は依然として既知の技術に従って製造される銃身と同程度となる。有利なことに、厚肉化によって銃身の強度が向上し、銃身のバランスが良くなる。
【0088】
上述のとおり、好ましい一実施形態では平行な銃身が製造される。この構成は、上下二連式散弾銃用の2本の銃身を構築する上で特に好ましい構成である。別の好ましい実施形態において、上記の構成は、特に、銃身を互いにやや収束させる水平二連式散弾銃にとって好ましい構成である。本実施形態において、各銃身に挿入される実包のリム間の離隔距離は好ましくは0.5〜0.7mm程度であり、したがって、適用される収束度は既知の散弾銃に比べてずっと低くなる。
【0089】
上記の利点は二連銃身散弾銃の製造に関して説明したが、諸実施形態による技術は2本の銃身を有する銃の製造に限定されるものではなく、任意の数の銃身を有する銃の製造に使用することができる。また、諸実施形態による技術は、ライフル銃を含めた任意の銃種の銃身製造に使用することができる。
【0090】
上述の実施形態では、各銃身の両端から各銃身の長さの半分又は半分を少し超えたところまで掘削することによって掘削処理が実行されるものとして説明した。有利なことに、この構成によれば、掘削される各穴は、事前に形成された銃身の外側と緊密に整列するようになる。代替的な一実施形態では、単回の掘削処理により、各穴が銃身の全長に沿って形成される。この構成は、両端から掘削する場合に比べて迅速且つ単純であるという利点を有する。この場合も、銃身の真直度及び平滑度を向上させるためにホーニングプロセスを実行することが好ましい。
【0091】
以上、本発明の特定の例示的な実施形態について説明したが、本明細書に開示した実施形態には、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨及び範囲から逸脱しない限り様々な変更、置換、及び改変を施すことが可能であることが当業者には理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10