特許第6197144号(P6197144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197144
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】処置具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/32 20060101AFI20170904BHJP
   A61B 17/3211 20060101ALI20170904BHJP
   A61B 18/08 20060101ALI20170904BHJP
   A61B 18/14 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   A61B17/32 510
   A61B17/3211
   A61B18/08
   A61B18/14
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-510917(P2017-510917)
(86)(22)【出願日】2016年5月6日
(86)【国際出願番号】JP2016063670
(87)【国際公開番号】WO2017022287
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2017年2月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-154770(P2015-154770)
(32)【優先日】2015年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】加賀 智之
(72)【発明者】
【氏名】増田 信弥
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0165429(US,A1)
【文献】 特開2011−200586(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/089769(WO,A1)
【文献】 特開2009−160404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/08 − A61B 18/16
A61B 17/3211 − A61B 17/3217
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手軸に沿って延伸するシースと、
前記長手軸に沿って前記シースの先端部から突出する第1の把持部材と、
前記第1の把持部材に対して前記長手軸が存在する仮想平面上で回動可能に前記シースに設けられ、前記第1の把持部材と成す角である第1の角が所定の第1の範囲内で変化するように構成された第2の把持部材と、
前記仮想平面上で揺動可能となるように中央部で前記第2の把持部材に接続され、前記第2の把持部材と成す角である第2の角が所定の第2の範囲内で変化するように構成された揺動部材と、
前記シースに沿って配置され、前記第2の把持部材に接続されて、前記長手軸に沿って移動することで前記第1の角を変化させるように前記第2の把持部材を変位させる作動部材と、
を備え、
前記揺動部材の基端側が前記第1の把持部材の方向に変位して前記第2の角が前記第2の範囲内で最大となるときに、前記第1の把持部材と前記揺動部材の基端側とが接触しない前記第1の角が前記第1の範囲内に存在し、
処置対象である生体組織を前記第1の把持部材と前記揺動部材との間に挟み始める際であって、前記第2の角が前記第2の範囲内で最大となる際であっても、前記第1の把持部材と前記揺動部材の基端側とが接触しない前記第1の角が前記第1の範囲内に存在する、
処置具。
【請求項2】
前記第2の角が前記第2の範囲内で最大となるときに、前記第1の角が前記第1の範囲内で最大とならないときにも前記第1の把持部材と前記揺動部材の基端側とが接触しない、請求項1に記載の処置具。
【請求項3】
前記第2の角が前記第2の範囲内で最大となるときに、前記第1の角が零であるときにも前記第1の把持部材と前記揺動部材の基端側とが接触しない、請求項1に記載の処置具。
【請求項4】
前記第1の把持部材と前記揺動部材との間に挿入された処置対象である生体組織が、前記第1の把持部材と前記揺動部材とが対向する領域よりも基端側に位置しないように設けられたストッパをさらに備える、請求項1に記載の処置具。
【請求項5】
前記ストッパは、前記シースに設けられている、請求項4に記載の処置具。
【請求項6】
前記ストッパは、前記第2の把持部材に設けられている、請求項4に記載の処置具。
【請求項7】
前記第1の把持部材は、超音波振動子が直接に又は間接に接続されるように構成されており、
前記第1の把持部材と前記揺動部材との間に挟んだ生体組織を、前記第1の把持部材の超音波振動によって処置するように構成されている、
請求項1に記載の処置具。
【請求項8】
前記第1の把持部材と前記揺動部材とは、高周波電力を出力する電源に電気的に接続されるように構成されており、
前記第1の把持部材と前記揺動部材との間に挟んだ生体組織に、前記第1の把持部材と前記揺動部材とから高周波電力を供給することで、前記生体組織を処置するように構成されている、
請求項1に記載の処置具。
【請求項9】
前記第1の把持部材は、超音波振動子が直接に又は間接に接続されるように構成されており、
前記第1の把持部材と前記揺動部材とは、高周波電力を出力する電源に電気的に接続されるように構成されており、
前記第1の把持部材と前記揺動部材との間に挟んだ生体組織を、前記第1の把持部材の超音波振動によって処置するように構成されており、
前記第1の把持部材と前記揺動部材との間に挟んだ生体組織に、前記第1の把持部材と前記揺動部材とから高周波電力を供給することで、前記生体組織を処置するように構成されている、
請求項1に記載の処置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材で生体組織を挟んで処置を行うための処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、処置対象である生体組織を2つの部材で挟持し、当該生体組織を処置する処置具が知られている。例えば日本国特開2009−160404号公報には、このような処置具に係る技術が開示されている。この処置具は、超音波振動するプローブとジョーとによって生体組織を把持する。この処置具は、プローブが超音波振動することと、プローブとジョーとをバイポーラ電極として高周波電力を当該生体組織に供給することとによって、当該生体組織を処置する。また、日本国特開2009−160404号公報には、ジョーの生体組織と接する部分が揺動し、プローブと対向する面の角度が変化する機構について開示されている。
【発明の概要】
【0003】
日本国特開2009−160404号公報に開示されているような、一対の把持部材で生体組織を把持して処置を行う処置具であって、把持部材の一部が揺動する機構を備える処置具において、把持部材の揺動する部分が、この揺動に起因して不必要に他方の把持部材に接触することは好ましくない。
【0004】
本発明は、2つの把持部材を有する処置具であって、把持部材の揺動機構の最適化がされた処置具を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の一態様によれば、処置具は、長手軸に沿って延伸するシースと、前記長手軸に沿って前記シースの先端部から突出する第1の把持部材と、前記第1の把持部材に対して前記長手軸が存在する仮想平面上で回動可能に前記シースに設けられ、前記第1の把持部材と成す角である第1の角が所定の第1の範囲内で変化するように構成された第2の把持部材と、前記仮想平面上で揺動可能となるように中央部で前記第2の把持部材に接続され、前記第2の把持部材と成す角である第2の角が所定の第2の範囲内で変化するように構成された揺動部材と、前記シースに沿って配置され、前記第2の把持部材に接続されて、前記長手軸に沿って移動することで前記第1の角を変化させるように前記第2の把持部材を変位させる作動部材と、を備え、前記揺動部材の基端側が前記第1の把持部材の方向に変位して前記第2の角が前記第2の範囲内で最大となるときに、前記第1の把持部材と前記揺動部材の基端側とが接触しない前記第1の角が前記第1の範囲内に存在し、処置対象である生体組織を前記第1の把持部材と前記揺動部材との間に挟み始める際であって、前記第2の角が前記第2の範囲内で最大となる際であっても、前記第1の把持部材と前記揺動部材の基端側とが接触しない前記第1の角が前記第1の範囲内に存在する
【0006】
本発明によれば、2つの把持部材を有する処置具であって、把持部材の揺動機構の最適化がされた処置具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係る手術システムの構成例の概略を示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る処置部の構成例の概略を示す側面図である。
図3図3は、一実施形態に係る処置部の構成例の概略を示す斜視図である。
図4図4は、一実施形態に係る処置部の構成例の概略を示す模式図である。
図5図5は、一実施形態に係る処置部の構成例の概略を示す模式図である。
図6図6は、一実施形態に係る処置部の構成例の概略を示す模式図である。
図7図7は、比較例に係る処置部の構成例の概略を示す模式図である。
図8図8は、第1の変形例に係る処置部の構成例の概略を示す斜視図である。
図9図9は、第2の変形例に係る処置部の構成例の概略を示す模式図である。
図10図10は、第3の変形例に係る処置部の構成例の概略を示す斜視図である。
図11図11は、一実施形態に係る処置部の構成例の概略を示す模式図である。
図12図12は、第3の変形例に係る処置部の構成例の概略を示す模式図である。
図13図13は、第4の変形例に係る処置部の構成例の概略を示す斜視図である。
図14図14は、第4の変形例に係る処置部の構成例の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係る手術システム10の概略図を図1に示す。この図に示すように、手術システム10は、処置具100と電源ユニット190とを備える。
【0009】
処置具100は、処置部110と、シャフト160と、操作部170とを有する。以降説明のため、処置部110側を先端側、操作部170側を基端側と称することにする。手術システム10は、処置部110で処置対象である、例えば膜状組織、臓器、骨、又は血管といった生体組織を把持するように構成されている。また、手術システム10は、超音波振動を用いて、処置部110で把持した生体組織を封止等しながら切断する。また、手術システム10は、把持した生体組織に高周波電圧を印加して、この生体組織を封止したり凝固させたりする。
【0010】
シャフト160は、中空のシース162を含む。このシース162内には、超音波を伝達して長手方向に振動するプローブ112が配置されている。プローブ112の基端は、操作部170に位置している。プローブ112の先端側は、シース162から突出して処置部110に位置している。プローブ112の先端側は、第1の把持部材120を構成する。
【0011】
処置部110には、ジョー114が設けられている。ジョー114は、プローブ112の先端部である第1の把持部材120に対して開閉動作する。この開閉動作によって、第1の把持部材120及びジョー114は、処置対象である生体組織は把持する。なお、第1の把持部材120の一部とジョー114の一部とは、把持された生体組織に高周波電圧を印加するバイポーラ電極として機能する。第1の把持部材120の一部又はジョー114の一部が、モノポーラ電極として機能してもよい。
【0012】
操作部170には、操作部本体172と、固定ハンドル174と、可動ハンドル176と、回転ノブ178と、出力スイッチ180とが設けられている。操作部本体172には、超音波振動子ユニットが設けられている。この超音波振動子ユニットには、プローブ112の基端側が接続されている。超音波振動子ユニットには、超音波振動子が設けられており、超音波振動子が発生した超音波振動は、プローブ112によって伝達される。その結果、第1の把持部材120は、その長手方向に振動し、処置部110で把持された生体組織は切断される。このように、第1の把持部材120は、超音波振動子が直接に又は間接に接続されるように構成されている。
【0013】
固定ハンドル174は、操作部本体172に対して固定されており、可動ハンドル176は、操作部本体172に対して変位する。可動ハンドル176は、シャフト160内を挿通しているワイヤ又はロッドに接続されている。このワイヤ又はロッドは、ジョー114に接続されている後述する作動部材に接続されている。このワイヤ又はロッド、及び作動部材を介して、可動ハンドル176の動作はジョー114に伝達される。ジョー114は、可動ハンドル176の動作に応じて、第1の把持部材120に対して変位する。回転ノブ178は、回転ノブ178より先端側を回転させるためのノブである。回転ノブ178の回転に応じて処置部110及びシャフト160は回転し、処置部110の角度が調整される。
【0014】
出力スイッチ180は、例えば2つのボタンを含む。一方のボタンは、処置部110によって処置対象である生体組織に高周波電力と超音波振動とを作用させる際に押圧されるボタンである。このボタンが押圧されたことを検知した電源ユニット190は、第1の把持部材120とジョー114との間に高周波電圧を印加し、また、超音波振動子を駆動させる。その結果、処置部110で把持された生体組織は、凝固し又は封止され、切断される。また、他方のボタンは、処置部110によって処置対象である生体組織に高周波電力のみを作用させる際に押圧されるボタンである。このボタンが押圧されたことを検知した電源ユニット190は、第1の把持部材120とジョー114との間に高周波電圧を印加し、超音波振動子は駆動させない。その結果、処置部110で把持された生体組織は、切断されずに、凝固し又は封止される。
【0015】
操作部170の基端側には、ケーブル186の一端が接続されている。ケーブル186の他端は、電源ユニット190に接続されている。電源ユニット190は、制御部192と、超音波駆動部194と、高周波駆動部196とを含む。
【0016】
制御部192は、手術システム10の各部の動作の制御を行う。制御部192は、例えばCentral Processing Unit(CPU)、Application Specific Integrated Circuit(ASIC)、Field Programmable Gate Array(FPGA)等を含む。制御部192の動作は、例えば記録部や制御部内の記録領域に記録されたプログラムに従って行われる。例えば制御部192は、出力スイッチ180からの入力に応じて、超音波駆動部194や高周波駆動部196の動作を制御する。超音波駆動部194は、制御部192の制御下で、超音波振動子を駆動させる。高周波駆動部196は、制御部192の制御下で、処置部110に高周波電流を供給する。
【0017】
本実施形態に係る手術システム10の動作について説明する。術者は、電源ユニット190の入力部を操作して、処置装置の出力条件、例えば、高周波エネルギの出力の設定電力、超音波エネルギの出力の設定電力等を設定しておく。手術システム10は、それぞれの値が個別に設定されるようになっていてもよいし、術式に応じた設定値のセットが選択されるようになっていてもよい。
【0018】
処置部110及びシャフト160は、例えば、腹壁を通して腹腔内に挿入される。術者は、可動ハンドル176を操作して処置部110を開閉させ、第1の把持部材120とジョー114とによって処置対象である生体組織を把持する。術者は、処置部110で生体組織を把持したら、出力スイッチ180を操作する。例えば、2つある出力スイッチ180のうち、一方のボタンが押圧されたことを検出した電源ユニット190の制御部192は、超音波駆動部194及び高周波駆動部196に、駆動に係る指示を出力する。
【0019】
高周波駆動部196は、制御部192の制御下で、処置部110の第1の把持部材120及びジョー114に高周波電圧を印加し、処置対象である生体組織に高周波電流を流す。高周波電流が流れると、生体組織が電気的な抵抗となるため、生体組織で熱が発生し、生体組織の温度が上昇する。このときの生体組織の温度は、例えば100℃程度になる。その結果、タンパク質が変成し、生体組織が凝固し封止される。
【0020】
また、超音波駆動部194は、制御部192の制御下で、超音波振動子を駆動する。その結果、第1の把持部材120は、その長手方向に超音波周波数で振動する。生体組織と第1の把持部材120との摩擦熱により、生体組織の温度が上昇する。その結果、タンパク質が変成し、生体組織が凝固し封止される。なお、この超音波振動による生体組織の封止効果は、高周波電圧の印加による封止効果よりも弱い。また、生体組織の温度は、例えば200℃程度になる。その結果、生体組織は崩壊し、生体組織は切断される。このように、処置部110で把持された生体組織は、凝固し及び封止されながら切断される。以上によって生体組織の処置は完了する。
【0021】
処置部110の構成についてさらに詳述する。処置部110の側面図を図2に示す。また処置部110の斜視図を図3に示す。シャフト160を構成するシース162の先端からは、プローブ112の先端部である第1の把持部材120が突出している。ジョー114は、第2の把持部材130と、揺動部材140とを有する。
【0022】
シース162の先端部には、第1の回転軸131が設けられている。第2の把持部材130の基端部分は、第1の回転軸131でシース162に回動可能に接続されている。このように、シース162と第2の把持部材130とは、第1の把持部材120と第2の把持部材130との成す角が変化するように接続されている。
【0023】
第2の把持部材130の基端部分であって第1の回転軸131よりもやや先端側には、第2の回転軸132が設けられている。第2の把持部材130の第2の回転軸132には、作動部材150が接続されている。作動部材150は、シース162の内側に配置されている棒状の部材である。シース162の中心軸と作動部材150の中心軸とは平行である。作動部材150は、上述の可動ハンドル176に接続されたワイヤ又はロッドに接続されている。作動部材150は、可動ハンドル176の動きに伴って、シース162内を先端側及び基端側に移動する。この移動に伴って、第2の把持部材130は、回転方向に変位する。ここで、第1の回転軸131と第2の回転軸132とを結ぶ線は、第2の把持部材130の長手方向に対して傾いている。このため、第2の把持部材130は、第1の把持部材120に対して開閉するように変位する。
【0024】
なお、ここでは、作動部材150がシース162内を通る例を示したが、これに限らない。作動部材150は、シース162に沿って配置され、シース162の長手軸に沿って移動することで第2の把持部材130を動作させれば、どのようなものでもよい。例えば、作動部材150は、シース162の外側に設けられていてもよい。
【0025】
第2の把持部材130の先端部には、第3の回転軸133が設けられている。揺動部材140の中央部分は、第3の回転軸133で、第2の把持部材130の第1の把持部材120側に揺動可能に接続されている。すなわち、第2の把持部材130と揺動部材140とは、第2の把持部材130と揺動部材140との成す角が変化するように接続されている。ここで、揺動部材140は、第2の把持部材130が第1の回転軸周りに回転する面と同一の面内で揺動するように構成されている。このようにして、揺動部材140は、第1の把持部材120と対向するように設けられている。使用時には、第1の把持部材120と第2の把持部材130との間に処置対象である生体組織が把持される。
【0026】
揺動部材140が揺動する結果、処置部110は、生体組織の厚みに係わらず、先端側と基端側とで同じ圧力で生体組織を把持することができる。また、先端側と基端側とで生体組織の厚みが異なっても、処置部110は、生体組織を先端側と基端側とで同じ圧力で把持することができる。処置対象である生体組織に均一な圧力を加えることは、生体組織の安定した封止及び凝固、並びに切除に効果を奏する。
【0027】
処置部110の模式図を図4に示す。第1の把持部材120は、シース162の先端部から突出している。シース162の中心軸と第1の把持部材120の中心軸とが平行となるように、シース162と第1の把持部材120とは設けられている。第2の把持部材130は、第1の回転軸131を中心軸として、回動可能にシース162に取り付けられている。揺動部材140は、第3の回転軸133を中心軸として、揺動するように第2の把持部材130に取り付けられている。
【0028】
図4について、紙面を仮想平面としたときに、シース162及び第1の把持部材120の長手軸は、この仮想平面上にあるものとする。同様に、第2の把持部材130及び揺動部材140の長手軸も、この仮想平面上にあるものとする。第2の把持部材130は、第1の回転軸131を中心としてこの仮想平面上で回転する。揺動部材140は、第3の回転軸133を中心としてこの仮想平面上で回転する。
【0029】
第1の把持部材120の長手軸と第2の把持部材130の長手軸とが成す角を第1の角θ1とする。第1の角θ1は、第1の把持部材120と第2の把持部材130とが閉じている状態を基準(0°)として、開く方向に正の値をとるものとする。第1の把持部材120に対して第2の把持部材130が取り得る角度、すなわち、第1の角θ1の取り得る範囲は、処置部110の設計に応じて適宜に決まる。第1の角θ1の取り得る範囲を第1の範囲とし、この範囲を最小値θ1minから最大値θ1maxまでとする。なお、最小値θ1minはマイナスの値でもよい。
【0030】
第2の把持部材130の長手軸と揺動部材140の長手軸とが成す角を第2の角θ2とする。第2の角θ2は、第2の把持部材130と揺動部材140とが並行になっている状態を基準(0°)として、揺動部材140の基端側が第1の把持部材120側に開く方向に正の値をとるものとする。第2の把持部材130に対して揺動部材140が取り得る角度、すなわち、第2の角θ2の取り得る範囲も、処置部110の設計に応じて決まる。第2の角θ2の取り得る範囲を第2の範囲として、この範囲を最小値θ2minから最大値θ2maxまでとする。なお、最小値θ2minはマイナスの値をとる。
【0031】
例えば、生体組織を把持するときのように、閉じた状態の処置部110の様子の模式図を図5に示す。図5に示すように、生体組織を把持するとき、生体組織の厚さに応じて第1の角θ1は、小さな値をとる。処置部110で生体組織を把持するときには、生体組織を均一な厚さとし、処置部110の先端側と基端側とで生体組織に掛かる圧力を等しくすることが好ましいことがある。すなわち、生体組織を挟む第1の把持部材120と揺動部材140とは、平行に近い角度となっていることが好ましいことがある。この場合、第2の角θ2は、マイナスの値をとり、第1の角θ1の絶対値と第2の角θ2の絶対値とは、近い値をとる。
【0032】
生体組織を把持する前の開いた状態の処置部110の様子の模式図を図6に示す。図6に示すように、生体組織を把持する前には、第1の把持部材120と揺動部材140との間に生体組織を位置させやすいように、第2の把持部材130は大きく開く。すなわち、第1の角θ1は大きな値をとる。第1の角θ1は、例えば最大値θ1maxとなる。また、このとき、第1の把持部材120と揺動部材140との間に生体組織を位置させやすいように、揺動部材140は大きく傾く。すなわち、第2の角θ2は大きな値をとる。第2の角θ2は、例えば最大値θ2maxとなる。
【0033】
本実施形態では、第2の角θ2が最大値θ2maxである場合、少なくとも第1の角θ1が最大値θ1maxとなるとき、揺動部材140の基端側が第1の把持部材120と接触しない。好ましくは、第1の角θ1が最大値θ1maxよりも小さいときでも、第2の角θ2が最大値θmaxであるにも関わらず、揺動部材140の基端側が第1の把持部材120と接触しない。また、第2の角θ2の最大値θ2maxがそれほど大きくなければ、第1の角θ1が0のとき、すなわち、第1の把持部材120と第2の把持部材130とが平行になって閉じているときにも、揺動部材140の基端側が第1の把持部材120と接触しないように構成され得る。このように、第2の角θ2が最大値θmaxをとるときに、第1の角θ1が零でも揺動部材140の基端側が第1の把持部材120と接触しないように処置部110が構成されてもよい。
【0034】
比較例に係る模式図を図7に示す。図7に示す比較例では、シース262、第1の把持部材220及び揺動部材240は、上述の実施形態に係るシース162、第1の把持部材120及び揺動部材140とそれぞれ違いがない。一方、図7に示す比較例では、第2の把持部材230の長さが、上述の実施形態に係る第2の把持部材130よりも短い。上述の実施形態と同様に、第2の把持部材230は、その基端側でシース262に設けられた第1の回転軸231で回動可能に支持されている。揺動部材240は、その中心付近で第2の把持部材230の先端側に設けられた第3の回転軸233で回動可能に支持されている。比較例では、第2の把持部材230が短いので、第1の回転軸231を、上述の実施形態の場合に比べて先端側に位置させ、さらに第1の角θ1の最大値θ1maxを大きくすることで、第1の把持部材220と揺動部材240との開き角を大きくする。しかしながら、図7に示すように、揺動部材240の基端部が、第1の把持部材220と接触することがある。
【0035】
揺動部材240の基端部が第1の把持部材220と接触すると、揺動部材240及び第1の把持部材220が破損する恐れがある。特に、より大きな荷重を支えることになる第1の把持部材220の基端側に傷がつくことで、第1の把持部材220が破損する恐れがある。第1の把持部材220の基端に傷がつくことは、第1の把持部材220が超音波振動しているとさらに生じやすくなる。
【0036】
そこで、本実施形態では、揺動部材140の基端側が第1の把持部材120に最も近づくことになる第2の角θ2が最大値θ2maxとなっている状態において、少なくとも第1の角θ1が最大のときには、揺動部材140と第1の把持部材120とが接触しないように設計されている。これにより、揺動部材140の基端側が第1の把持部材120に接触することに起因する第1の把持部材120及び揺動部材140の破損が防止される。
【0037】
特に、本実施形態のように、シース162に取り付けられた第2の把持部材130を、シース162に沿って配置されておりシース162の中心軸と平行に移動する作動部材150の動きで開閉させる構造の場合、設計によって揺動部材140が第1の把持部材120に接触しやすくなる。本実施形態では、このような作動部材150を有する構造においても、揺動部材140が第1の把持部材120に接触しないように設計されている。
【0038】
以下、上述の実施形態のいくつかの変形例を示す。ここでは、上述の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
[第1の変形例]
上述の実施形態には、処置具20が超音波振動と高周波電力によって生体組織を処置する例を示した。しかしながら、生体組織を処置するエネルギ源はどのようなものでもよい。例えば、超音波振動のみによって生体組織を処置するものでもよいし、図8のように高周波電力のみによって生体組織を処置するものでもよい。
【0040】
図8では、エンドエフェクタに相当する処置部110として、ジョー114と顎部材200を備える。揺動部材140は高周波電流を出力する電極として機能し、顎部材200は揺動部材140に対向して設けられ、さらに、揺動部材140に対向して電極202が設けられる。この電極202は揺動部材140とは異なる電位を備える電極として機能する。図8に記載の実施例の場合、上記実施例の構成を採ることによって、揺動部材140が第2の把持部材130に対して傾斜しても、電極202に対して短絡しない。そのため、短絡して電極202や揺動部材140が破壊されることがない。
【0041】
また、プローブにヒータが設けられてこのヒータを熱源とする熱によって生体組織を処置するものでもよいし、その他のエネルギを用いて生体組織を処置するものでもよい。また、超音波振動と、高周波電力と、ヒータによる熱と、その他のエネルギとのうち2つ以上の組み合わせを用いて生体組織を処置するものでもよい。また、処置具20は、ステープラーを含むもの、刃を有するカッターを含むもの等、物理的に生体組織を処置するものであってもよいし、これらの組み合わせでもよい。
【0042】
[第2の変形例]
第2の変形例に係る処置部110の構成の模式図を図9に示す。本変形例では、揺動部材140の基端側が第1の把持部材120に接触しにくいように、図9に示すように、揺動部材140の基端側の第1の把持部材120と対向する部分Rが面取りされている。このような面取りによって、第1の把持部材120と揺動部材140とがさらに接触しにくくなる。
【0043】
[第3の変形例]
第1の把持部材120と揺動部材140とが開いており、生体組織がその間に挿入されるときを考える。図7に示す比較例のように、第1の把持部材220と揺動部材240とが接触するように構成されているとき、処置対象である生体組織は、揺動部材240にあたるために、揺動部材240よりも基端側に押し込まれにくい。これに対して、上述の実施形態の場合、第1の把持部材120と揺動部材140との間に間隙が存在する。このため、この間隙を通り、生体組織が揺動部材140よりも基端側に押し込まれることがある。生体組織が揺動部材140よりも基端側に位置すると、その部分において処置が行われなくなる。
【0044】
そこで、図10に示すように、本変形例では、生体組織が揺動部材140よりも基端側に位置しないように、シース162の先端側にストッパ166が設けられている。
【0045】
ストッパ166について、図11及び図12を参照してさらに説明する。図11は、上述の実施形態に係る処置部110の構成の概略を示す模式図であり、先端側から処置部110を見た模式図である。第1の把持部材120と揺動部材140との間に間隙90がある。この間隙90を通り生体組織が揺動部材140よりも基端側に位置することがある。そこで、図12の模式図に示すように、本変形例では、間隙を塞ぐように、シース162を揺動部材140の方に伸ばしたストッパ166が設けられている。生体組織は、このストッパ166よりも基端側に挿入されない。その結果、生体組織は、第1の把持部材120と揺動部材140とによって確実に把持され処置されることとなる。
【0046】
ここでは、ストッパ166は、シース162と一体に形成されている例を示した。しかしながらこれに限らない。ストッパ166は、シース162とは別体として形成され、シース162に取り付けられてもよい。
【0047】
[第4の変形例]
本変形例でも第3の変形例と同様に、生体組織が揺動部材140よりも基端側に位置しないようにストッパが設けられている。本変形例に係る処置部110の概略を図13に示す。図13に示すように、本変形例では、第1の把持部材120と揺動部材140との間の間隙を塞ぐように、第2の把持部材130にストッパ136が設けられている。
【0048】
ストッパ136について、図14を参照してさらに説明する。図14は、本変形例に係る処置部110の構成の概略を示す模式図である。図14に示すように、本変形例では、間隙を塞ぐように、第2の把持部材130を第1の把持部材120の方に伸ばしたストッパ136が設けられている。生体組織は、このストッパ136よりも基端側に挿入されない。その結果、生体組織は、第1の把持部材120と揺動部材140とによって確実に把持され処置されることとなる。
【0049】
ここでは、ストッパ136は、第2の把持部材130と一体に形成されている例を示した。しかしながらこれに限らない。ストッパ136は、第2の把持部材130とは別体として形成され、第2の把持部材130に取り付けられてもよい。
【0050】
なお、上述の実施形態と各変形例の構成とは、適宜に組み合わせて用いられ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14