特許第6197158号(P6197158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197158
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】鏡視下縫合器
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/062 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   A61B17/062 100
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-53328(P2012-53328)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-183993(P2013-183993A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】512061995
【氏名又は名称】大熊 敦子
(74)【代理人】
【識別番号】100102912
【弁理士】
【氏名又は名称】野上 敦
(72)【発明者】
【氏名】大熊 敦子
(72)【発明者】
【氏名】大熊 一成
【審査官】 小川 恭司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−308847(JP,A)
【文献】 特開2002−159499(JP,A)
【文献】 特表2008−536623(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/069816(WO,A1)
【文献】 米国特許第6074404(US,A)
【文献】 特表2001−515750(JP,A)
【文献】 特開2010−179115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B13/00−18/18
A61F2/01
A61N7/00−7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端に管口部を有する略直管状の導管と、
前記管口部から前記導管に挿抜自在に嵌挿された略直管状のニードルと、
を備え、
前記導管は、先端近傍側面に開口部と、前記ニードルの針先から送出された縫合糸を体外に誘導する誘導路と、前記開口部以外の前記先端近傍に形成された線形又は非線形の順テーパ形状からなるテーパ部と、を有し
前記ニードルは、前記針先が前記テーパ部の敷設領域に位置するように支持されており、且つ先端近傍に屈曲部を有し、前記ニードルを中心軸回りに回転させると、前記ニードルの前記針先が前記開口部を介して前記導管内から前記導管外に突出するように構成されたことを特徴とする、
鏡視下縫合器。
【請求項2】
前記導管内に前記ニードルを前記中心軸回りに回動自在に軸支するアタッチメントを更に備えたことを特徴とする、
請求項1に記載の鏡視下縫合器。
【請求項3】
前記針先が前記テーパ部の敷設領域に位置するように前記ニードルの位置決めをする位置決め手段を有することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の鏡視下縫合器。
【請求項4】
前記ニードルの回転角を制御する回転制御手段を有することを特徴とする、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【請求項5】
前記回転制御手段は、前記ニードルの前記屈曲部及び前記針先が前記導管内に収まっている状態から前記開口部から前記導管外に突出した状態となり、更に前記ニードルの前記屈曲部は前記導管外に突出したまま前記針先のみが前記開口部から前記導管内に僅かに突入した状態となるまでの範囲で前記ニードルが回動するように回転角を制御することを特徴とする、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【請求項6】
前記導管は、前記ニードルの前記針先から送出された縫合糸を体外に誘導する誘導路を有することを特徴とする、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【請求項7】
前記導管は、先端に第2の開口部を有することを特徴とする、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【請求項8】
前記ニードルの前記屈曲部は、略半螺旋状の形状を有することを特徴とする、
請求項1乃至7の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【請求項9】
前記導管は、略半円形の断面形状を有することを特徴とする、
請求項1乃至8の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【請求項10】
縫合糸を前記ニードルの管内に送り込む縫合糸送込手段を有することを特徴とする、
請求項1乃至9の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【請求項11】
前記導管は、後端部に把持部を有することを特徴とする、
請求項1乃至10の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【請求項12】
鏡視下での半月板縫合、肩腱板縫合、股関節関節唇縫合、各種臓器縫合又は胸膜縫合に用いられる、
請求項1乃至11の何れか1項に記載の鏡視下縫合器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下で切開部位や損傷部位を縫合する鏡視下縫合器に関するものである。詳しくは、損傷部位等を、その方向や位置に左右されることなく、低侵襲で安全かつ簡便に縫合することができる鏡視下縫合器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半月板は、膝関節の大腿骨と脛骨の間に存在する線維軟骨組織であり、大腿部から受ける荷重を分散させるクッションとしての働きと、関節の動きを安定させるスタビライザーとしての働きとを有する。半月板は、2つの三日月状の円環体が結合した形状をしており、スポーツや交通事故等の外傷により断裂したり、先天性の形態異常により変性を起こしたりして損傷を受けることがある。
【0003】
かかる半月板断裂等の損傷は、部位的に通常の結節縫合による縫合が困難であり、従来はInside‐Out法やOutside‐In法に基づく縫合手術が行われていた。かかる方法は、それぞれ半月板の内側部から外側部又は外側部から内側部へ向けて損傷部位を貫通するようにニードルを穿通して、縫合糸を損傷部位に掛けて、損傷部位を縫合するものである。
【0004】
更に近年、より簡便で侵襲の低い方法として、Inside‐In(All inside)法に基づくFasT−Fixシステムを用いて損傷部位を縫合する方法が徐々に主流となりつつある。当該方法は、縫合糸を結び付けた2個のアンカーを装填したデリバリーニードル(中空の針)をInside‐Out法と同様に半月板の内側部から外側部へ向けて穿刺することにより1個目のアンカーを半月板の外側部側に留置し、再度デリバリーニードルを半月板の内側部から外側部へ向けて穿刺して2個目のアンカーを1個目のアンカーから所定の間隔離れた位置に留置し、その後デリバリーニードルを引き抜き、最後に予め結糸してある縫合糸の結び目をノットプッシャーにより損傷部位まで押し込んで損傷部位の縫合をするものである。
【0005】
かかるAll inside法では、損傷部位が、半月板の後方側(膝の裏側)にある縦断裂(半月板の円周方向に垂直に入る傷)の場合には、膝の正面側からニードルを刺入してニードルを損傷部位の内側部まで到達させることができるが、半月板の前方側(膝の正面側)にある縦断裂の場合には、膝の裏側や斜め後ろ側からニードルを刺入しなければならず、膝の裏側には筋肉等の組織が存在するため、ニードルの刺入が非常に困難であるという問題があった。また、損傷部位の形態が、縦断裂ではなく、横断裂(半月板の中心方向に垂直に入る傷)や水平断裂(半月板の水平方向に入る傷)の場合は、その位置にかかわらず縫合が極めて困難であるという問題があった。
【0006】
一方、特殊な先端形状を有するニードルを用いて損傷部位を通常の結節縫合により縫合する方法が提案されている(非特許文献1参照)。即ち、図10(a)〜(b)に示すような、略直管状で、先端近傍が略半螺旋状に屈曲したニードル71を用いて、まず、半月板の上部からニードルを半月板の損傷部位の直上まで到達させ、ニードルを中心軸周りに回転させてニードルの針先を損傷部位に穿通し、次に、縫合糸をニードル管内に送り込み、ニードルの針先から放出された縫合糸の先端を鉗子等で掴んで体外まで引き出し、最後に、ニードルを抜出し、体外で縫合糸を結糸して結び目をノットプッシャーで縫合部位まで押し込んで縫合糸を締める。この作業を必要に応じて数回繰り返すことにより損傷部位全体の縫合を行うものである。当該方法は、上述のAll inside法等と比較して、損傷部位の上部から刺入したニードルを接近させて縫合するものであるので、損傷部位が半月板のどの位置又は方向にあっても至的な部位の皮膚を小切開し、ニードルを刺入して損傷部位を縫合できるという利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jin Hwan Ahn, M. D. et al., The Journal of Arthroscopic and Related Surgery, Vol 22, No5 (May), 2006: pp572.e1-572.e4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術では、ニードルの先端屈曲部が上述のように特殊な形状を有し、かつニードルの先端屈曲部がむき出しの状態になっているため、半月板の損傷部位に対してニードルを刺入する際に、執刀者がニードルの操作を誤ると、他の組織や神経、血管等を損傷して障害を残してしまったり、余分な出血を引き起こしたりする問題があった。
【0009】
そのため、手技の難易度が高くその習熟には相当の時間が必要であり、このことも当該方法の普及の妨げとなっていた。
【0010】
また、ニードルの針先を半月板に穿刺する際に力が掛かり、ニードルが折れ曲がったり撓んだりし易いという欠点があった。
【0011】
更に、膝関節鏡やニードルの他に、ニードルから挿通した縫合糸を体外まで引っ張り出すための鉗子等を挿入する必要があるため、挿入孔を大きくしたり、別に挿入孔を設けたりしなければならない場合があり、患者の身体に対する侵襲の度合いが大きくなるという問題もあった。
【0012】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、損傷部位等を、その位置や方向に左右されることなく、低侵襲で安全かつ簡便に縫合することができる鏡視下縫合器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0014】
(1)即ち、本発明は、後端に管口部を有する略直管状の導管と、前記管口部から前記導管に挿抜自在に嵌挿された略直管状のニードルと、を備え、前記導管は、先端近傍側面に開口部と、前記ニードルの針先から送出された縫合糸を体外に誘導する誘導路と、前記開口部以外の前記先端近傍に形成された線形又は非線形の順テーパ形状からなるテーパ部と、を有し、前記ニードルは、前記針先が前記テーパ部の敷設領域に位置するように支持されており、且つ先端近傍に屈曲部を有し、前記ニードルを中心軸回りに回転させると、前記ニードルの前記針先が前記開口部を介して前記導管内から前記導管外に突出するように構成されたことを特徴とする、鏡視下縫合器である。
【0015】
(2)本発明はまた、前記導管内に前記ニードルを前記中心軸回りに回動自在に軸支するアタッチメントを更に備えたことを特徴とする、(1)に記載の鏡視下縫合器である。
【0016】
(3)本発明はまた、前記針先が前記テーパ部の敷設領域に位置するように前記ニードルの位置決めをする位置決め手段を有することを特徴とする、(1)又は(3)に記載の鏡視下縫合器である。
【0017】
(4)本発明はまた、前記ニードルの回転角を制御する回転制御手段を有することを特徴とする、(1)乃至(3)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【0018】
(5)本発明はまた、前記回転制御手段は、前記ニードルの前記屈曲部及び前記針先が前記導管内に収まっている状態から前記開口部から前記導管外に突出した状態となり、更に前記ニードルの前記屈曲部は前記導管外に突出したまま前記針先のみが前記開口部から前記導管内に僅かに突入した状態となるまでの範囲で前記ニードルが回動するように回転角を制御することを特徴とする、(1)乃至(4)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【0019】
(6)本発明はまた、前記導管は、前記ニードルの前記針先から送出された縫合糸を体外に誘導する誘導路を有することを特徴とする、(1)乃至(5)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【0020】
(7)本発明はまた、前記導管は、先端に第2の開口部を有することを特徴とする、(1)乃至(6)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【0021】
(8)本発明はまた、前記ニードルの前記屈曲部は、略半螺旋状の形状を有することを特徴とする、(1)乃至(7)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【0022】
(9)本発明はまた、前記導管は、略半円形の断面形状を有することを特徴とする、(1)乃至(8)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【0023】
(10)本発明はまた、縫合糸を前記ニードルの管内に送り込む縫合糸送込手段を有することを特徴とする、(1)乃至(9)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【0024】
(11)本発明はまた、前記導管は、後端部に把持部を有することを特徴とする、(1)乃至(10)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【0025】
(12)本発明はまた、半月板、縫合、肩腱板縫合、股関節関節唇縫合、各種臓器縫合又は胸膜縫合に用いられる、(1)乃至(11)の何れか1つに記載の鏡視下縫合器である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の鏡視下縫合器によれば、半螺旋状の先端屈曲部を有するニードルを用いることにより、損傷部位の上部から結節縫合ができるので縦断裂や横断裂、水平断裂等の損傷の種類やその位置に左右されずに縫合できるばかりでなく、ニードルの先端屈曲部が導管内に完全に収納される構造としたので、挿入孔から鏡視下縫合器を体内に挿入する際や体内から抜出する際に他の組織や血管、神経等を損傷することがなく、安全に操作することができる。
【0027】
また、本発明の鏡視下縫合器によれば、ニードルの先端屈曲部が導管の管壁に囲繞された状態で針先のみが導管の先端近傍側面に突出して損傷部位を穿刺する構造としたので、ニードルを回転させて縫合する際も針先が余計な部分を穿刺することがない。
【0028】
更に、本発明の鏡視下縫合器によれば、ニードルが、アタッチメントで導管に支持される構成としたので、縫合の際にニードルに力を加えても、ニードルが撓んだり、折れ曲がったりすることがない。
【0029】
更にまた、本発明の鏡視下縫合器によれば、導管の先端近傍にテーパ部を設けたので、ニードル管内に縫合糸を送り込むと、ニードルの針先から送出した縫合糸がテーパ部に当接して方向を転換し、導管の内壁に沿って糸先が体外まで誘導されるので、極めて簡便に縫合糸を結糸することができるとともに、縫合糸を体外へ引き出すために鉗子等を挿入する必要がないので身体への侵襲を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態にかかる鏡視下縫合器1の全体構成を示す概略側面図である。
図2】(a)は鏡視下縫合器1の導管部2、(b)はニードル部3のそれぞれ概略側面図である。
図3】(a)は導管21の構造を示す概略部分側面図であり、(b)〜(d)はそれぞれその底面図、正面図及び背面図である。
図4】(a)はニードル31の構造を示す概略部分側面図であり、(b)はその正面図である。
図5】(a)はアタッチメント33の構造を示す概略側面図であり、(b)はその正面図である。
図6】(a)はノブ35の構造を示す概略側面図であり、(b)はその上面図、(c)はその正面図である。
図7】ニードル部3におけるアタッチメント33に対するノブ35及びニードル31の回転動作を説明するための概念図であり、ニードル部3の概略正面図である。
図8】ニードル31の針先313と導管21のテーパ部213の位置関係を説明するための概念図であり、鏡視下縫合器1の先端近傍部の概略部分底面図である。
図9】鏡視下縫合糸1を用いた半月板の鏡視下縫合術を説明するための概念図であり、鏡視下縫合糸1の先端近傍部と半月板5の損傷部位6の概略断面図である。
図10】(a)は従来技術で用いられるニードル71の構造を示す概略部分側面図であり、(b)はその正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の実施形態にかかる鏡視下縫合器1の全体構成を示す概略側面図であり、図2はその部品構成を示す概略側面図である。図1並びに図2(a)及び(b)に示すように、本実施形態にかかる鏡視下縫合器1は、導管部2とニードル部3とを備えてなる。
【0033】
導管部2は、ニードル部3を挿入又は抜脱するための導管21と、導管21の後端近傍部に固設された、導管部2を把持するためのグリップ23とから構成されている。
【0034】
図3(a)は、導管21の構造を示す概略部分側面図であり、(b)〜(d)は、それぞれその底面図、正面図及び背面図である。図3(a)〜(d)に示すように、導管21は、略半円形の断面形状を有する略直管状の部材であり、先端は閉塞しており、後端は開口して管口部217を形成している。導管21の先端近傍側面には、管内に収納したニードルの針先を管外(図の下方向)に突出させるための開口部211が形成されている。また、導管21の開口部211以外の先端近傍には、テーパ部213が形成されている。テーパ部213は、先端に向かって放物線状又は四分円状に先細となるテーパとなっており、これにより、後述するようにニードルの針先から送り出された縫合糸の方向を転換して導管21に沿って糸先を体外に誘導することができるようになっている。更に、導管21の左右内側面には、ニードル部3を導管21に嵌挿するためのガイドレール215が設けられている。
【0035】
一方、ニードル部3は、縫合部位に縫合糸を穿通させるためのニードル31と、ニードル31を導管21の管内に支持するためのアタッチメント33と、ニードル部3を導管21に挿抜したりニードル31を中心軸周りに回転させたりするためのノブ35とから構成されている。
【0036】
図4(a)は、ニードル31の構造を示す概略部分側面図であり、(b)はその正面図である。図4(a)及び(b)に示すように、ニードル31は両端が開口した略直管状の形状を有しており、先端近傍には所定のピッチを有する略半螺旋状(螺旋が1巻きに満たないもの)の屈曲部311が形成されており、ニードル31の後端部から送り込んだ縫合糸が針先313から送出されるようになっている。
【0037】
図5(a)は、アタッチメント33の構造を示す概略側面図であり、(b)はその正面図である。図5(a)及び(b)に示すように、アタッチメント33は、略六角形の断面形状を有する棒状の部材であり、その中心部やや底面寄りには、長手方向にニードル31を挿通するための軸孔331が設けられている。また、アタッチメント33の左右両側面には、導管21のガイドレール215と嵌合する溝333が形成されており、後端近傍底面には、ニードル部3を導管部2に嵌挿する際にニードル31の位置決めをするためのストッパ335が設けられている。
【0038】
図6(a)は、ノブ35の構造を示す概略側面図であり、(b)はその上面図、及び(c)はその正面図である。図6(a)〜(c)に示すように、ノブ35は、側面が略L字状となるように円柱の一部を切欠いた形状をしており、その略中心軸部分には、ニードル31を挿通するための軸孔351を、側部には、軸孔351に挿通したニードル31にノブ35を軸支するためのネジ353及びネジ孔(図示せず)を、それぞれ有している。
【0039】
ニードル部3において、ニードル31は、アタッチメント33の軸孔331に挿通され、アタッチメント33により回動自在に軸支されているとともに、ノブ35の軸孔351に挿通され、ノブ35にネジ353で軸止されている(図2(b)参照)。従って、アタッチメント33に対して、ノブ35を中心軸周りに回転させると、それに連動してニードル31(及び屈曲部331)が回転するようになっている。
【0040】
図7(a)〜(c)は、ニードル部3におけるアタッチメント33に対するノブ35及びニードル31の回転動作を説明するための概念図であり、ニードル部3の概略正面図である(図7(c)は図2(b)の概略正面図に相当する)。図7(a)において、ニードル31(中心軸)はアタッチメント33の中心部やや底面よりに挿通されており、かつアタッチメント33の右側面がノブ35の切欠面355に当接しているので、図7(a)の状態では、ノブ35は、アタッチメント33に対して時計回りの方向(図中の矢印の方向)にしか回転させることができない。また、図7(b)では、アタッチメント33の何れの側面もノブ35の切欠面355に接していないので、ノブ35は、アタッチメント33に対して図上の時計回り及び反時計回りの何れの方向(図中の矢印の方向)にも回転させることができる。そして、図7(c)では、アタッチメント33の左側面がノブ35の切欠面355に当接しているので、ノブ35は、アタッチメント33に対して図上の反時計回りの方向(図中の矢印の方向)にしか回転させることができない。従って、ノブ35に連動して、ニードル31(及び屈曲部331)も、図7(a)の状態から、図7(b)の状態を経て、図7(c)の状態までの間の略180°の範囲でのみ回動するように回転が制御される。
【0041】
鏡視下縫合器1において、導管部2とニードル部3とは、導管21のガイドレール215とアタッチメント33の溝333とを嵌合させて、導管21の後端の管口部217からニードル部3を差し込み、ガイドレール215に沿ってアタッチメント33を摺動させることにより、ニードル部3を導管部2に挿抜自在に嵌挿させることができる(図1参照)。
【0042】
また、導管部2にニードル部3を挿入した際に、ニードル31の針先313がちょうど導管21のテーパ部213の敷設領域、即ち、導管21のテーパ部213で囲繞された領域に到達したところで、アタッチメント33のストッパ335が導管21の管口部217に当接してアタッチメント33が係止され、ニードル31の位置決めがされるようになっている。
【0043】
更に、導管部2にニードル部3を嵌挿した状態では、導管21の内壁とアタッチメント33との間に間隙219が形成されるようになっており、これによりニードル31の針先313から送出された縫合糸を導管21の間隙219を介して体外まで誘導することができる(図1参照)。
【0044】
図8は、ニードル31の針先313と導管21のテーパ部213の位置関係を説明するための概念図であり、鏡視下縫合器1の先端近傍の概略部分底面図である(図1の開口部211の拡大図に相当する)。導管部2にニードル部3を嵌挿すると、ニードル31の針先313は、上述の位置決め機構により導管21のテーパ部213の敷設領域(テーパ部213で囲繞された領域)にセットされる。更に、ノブ35を図7(c)の位置まで回転させると、ニードル31の針先313は、図8に示すように、上述の回転制御機構により導管21のテーパ部213の左端(図中の斜線部の下端)近傍に、テーパ部213に正対して固定される。従って、かかる状態で針先313から送り出された縫合糸4は、テーパ部213の左端に導管21の円周の接線方向から(図中の手前から奥に向かって)接触し、テーパ部213の左端から右端(図中の斜線部の下端から上端)までを有効に使ってその曲面に沿って導管21の後端(図中の右方向)に向かって無理なく方向を転換するので、縫合糸4の糸先が確実に導管21を介して体外に誘導され、縫合糸の反転ミス(例えば、縫合糸4の糸先が開口部211から導管外にはみ出してしまう等)が極端に少なくなるものである。
【0045】
図9(a)〜(f)は、本実施形態における鏡視下縫合器1を用いた半月板の鏡視下縫合術を説明するための概念図であり、鏡視下縫合器1の先端近傍部と半月板5の損傷部位6の概略断面図である(図1の鏡視下縫合糸1のA−A'断面図に相当する)。まず、膝の正面側から半月板の損傷部位の直上まで膝関節鏡及び鏡視下縫合器1の挿入孔を設け、膝関節鏡を膝関節内に挿入して半月板の損傷部位の位置を確認しながら鏡視下縫合器1を挿入し、図9(a)に示すように、ニードル31の針先313が半月板5の損傷部位6の縫合予定部位の略真上に位置するように鏡視下縫合器1を位置決めする。次いで、図9(b)に示すように、ノブ35を回転させて針先313を半月板5に穿刺し、図9(c)に示すように、更にノブ35を回転させ、ニードル31を損傷部位6に穿通させて半月板5から針先313を突出させる。次に、ニードル31を半月板5に穿通させたまま、ニードル31の後端部からニードル管内に縫合糸4を送り込み、図9(d)に示すように、針先313から縫合糸4を送出させる。ニードル31の針先313から送出された縫合糸4は、導管21のテーパ部213に当接して反転し、導管21の管壁に沿って間隙219を通って糸先が体外に誘導される(図1参照)。次いで、図9(e)に示すように、ノブ35を反対方向に回転させて、縫合糸4を留置したままニードル31の針先313を半月板5から抜去し、図9(f)において、ニードル部3を導管部2から抜出する。そして、留置した縫合糸4を体外で結糸して、その結び目をノットプッシャーにより縫合部位まで押し込み、縫合糸4を締め込んで余った縫合糸4を切断する。この操作を、損傷部位5の大きさ等を勘案して必要な回数繰り返して、損傷部位5の縫合を完了する。
【0046】
本実施形態にかかる鏡視下縫合器1によれば、図9(a)に示すように、鏡視下縫合器1を挿入孔から半月板5の損傷部位6まで挿入したり抜出したりする際に、ニードル31の半螺旋状の屈曲部311が導管21内に完全に収納されているので、他の組織や血管、神経等を損傷することがなく、極めて安全に操作することができる。
【0047】
また、縫合の際には、図9(b)〜(c)に示すように、ニードル31の屈曲部311が導管21の管壁に囲繞された状態で、針先313のみが開口部211から導管21の下部に突出して半月板5を穿刺するので、ニードル31を回転させる際も針先が余計な部分を穿刺することがない。
【0048】
更に、ニードル31がアタッチメント33を介して導管21に支持された構造となっているので、導管21とアタッチメント33とがニードル31の補強部材としての役割を果たし、針先313を半月板5に穿刺する際にニードル31に力を加えても折れ曲がったり撓んだりすることがない。
【0049】
更にまた、上述のとおり、ニードル31の後端部からニードル管内に縫合糸4を送り込むと、図9(d)〜(e)に示すように、ニードル31の針先313から送出された縫合糸4が導管21のテーパ部213に当接して方向を転換し、導管21の管壁に沿って間隙219を通って糸先が体外に誘導されるので、縫合糸4を体外へ引き出すために鉗子等を挿入する必要がなく、そのために挿入孔を広げたり余計な挿入孔を設ける必要がなくなるので身体への侵襲を低くすることができる。またこれにより、皮膚切開にともなう感染症の危険を低減することができ、治療期間も短期化できる上に、皮膚に残す切開創を最小限に止めることができる。
【0050】
また、体外で結糸した結び目を縫合部位に押し込む際も、結び目が導管21内を進むので、皮膚、皮下脂肪など周囲の組織を巻き込むことなく結び目を送り込むことができる。
【0051】
本発明の鏡視下縫合器は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0052】
例えば、本発明の鏡視下縫合器を構成する各部材の形状、構造、大きさ、数等は、各部材の機能を満たすものであれば上記実施形態の例に限定されるものではなく、各種形状等とすることができる。また、本発明の鏡視下縫合器は、上記実施形態に示した構成部材の一部を有していなくてもよいし、別の構成部材を備えていても構わない。
【0053】
具体的には、本発明の鏡視下縫合器における導管のテーパ部の形状は、上記実施形態に示した四分円状又は放物線状以外の他の非線形のテーパであってもよいし、線形の順テーパであってもよい。
【0054】
また、ニードルの屈曲部の形状は、上記実施形態に示した半螺旋(1巻き未満)以外にも1巻き以上の螺旋であってもよいし、螺旋のピッチが一定ではなく変化するものや、ピッチが0のもの(即ち円環状)であってもよい。
【0055】
また、アタッチメントの断面形状は、上記実施形態の略六角形以外にも、制御するニードルの回転角に合わせて、略三角形、略四角形、略五角形、略七角形等の多角形やその一部の辺を曲線とした形状とすることができる。なお、アタッチメントの断面形状によりニードルの回転角を制御しない場合は、アタッチメントの断面が種々の形状を採り得ることはいうまでもない。
【0056】
上記実施形態では、導管の先端は閉塞していたが、導管の先端に、側面の開口部と連結して又は側面の開口部とは独立して、第2の開口部を設けてもよい。これにより、損傷部位等に対するニードルの針先の位置や角度、穿刺の具合、縫合糸の挿通状態等を導管の先端に設けた第2の開口部から内視鏡で確認することができ、より確実に損傷部位等の縫合を行うことができる。
【0057】
上記実施形態では、アタッチメントの後端部に設けたストッパ(凸部)が導管の管口部に当接してアタッチメントが係止されることによりニードルの位置決めをするものであったが、本発明の鏡視下縫合器におけるニードルの位置決め手段は、ニードルの針先が導管のテーパ部の敷設領域に位置するようにニードルの位置決めをするものであればその機構は特に限定されるものではなく、上記以外にも、例えば、導管内に設けたストッパ(凸部)にアタッチメントの先端部が当接してアタッチメントが係止されるものであってもよいし、エアシリンダ、油圧シリンダ等の動力シリンダやリニアアクチュエータ等により導管へのニードル部の挿入距離を機械的に制御するものであってもよい。
【0058】
上記実施形態では、アタッチメントの側面とノブの切欠面との当接によりニードルの回転角を制御するものであったが、本発明の鏡視下縫合器におけるニードルの回転制御手段はこれに限定されるものではなく、例えば、アタッチメントの軸孔の側壁に円周方向に所定長さ(例えば180°分)の溝を設け、ニードルの対応する位置に当該溝に嵌合する突起を設けてニードルの回転を制御するものであってもよいし、ニードルの軸に必要により変速機等を介してモータやアクチュエータ等を連結してニードルの回転を機械的に制御するものであってもよい。なお、本発明において、回転制御手段により制御するニードルの回転角は上記実施例に示す180°に限定されるものでなく、導管のテーパ部の長さや形状、縫合糸の太さや素材等によって縫合糸の糸先が適正に反転し得る範囲で任意の角度に設計し得ることはいうまでもない。
【0059】
上記実施形態では、導管のテーパ部で反転させた縫合糸を導管とアタッチメントとの間隙(誘導路)を通して体外に誘導するものであったが、これ以外にも導管内又は導管外に専用の誘導路を設けて反転した縫合糸をこれに通して体外に誘導するようにしてもよい。
【0060】
本発明の鏡視下縫合器では、更に、縫合糸をニードルの管内に送り込む縫合糸送込手段をニードルの後端部に連結してもよい。この場合の縫合糸送込手段としては、上下2つのローラで縫合糸を狭持し当該ローラを手動で(指先で)又はモータ等により回転させて縫合糸をニードル管内に送り込むもの等が挙げられる。
【0061】
上記実施形態では、本発明の鏡視下縫合器を半月板の損傷部位の縫合手術に用いる場合について説明したが、本発明の鏡視下縫合器の用途はこれに限定されるものではなく、例えば、鏡視下で行われる肩腱板縫合、股関節関節唇縫合、各種臓器縫合、胸膜縫合等の縫合手術はもちろんのこと、通常は切開手術が行われる部位の縫合においても、切開創をなるべく小さくしたい場合等に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上述したように、本発明の鏡視下縫合器によれば、縦断裂や横断裂、水平断裂等の損傷の種類やその位置に左右されずに縫合できるばかりでなく、鏡視下縫合器を体内に挿入等する際に他の組織や血管、神経等を損傷することがなく、縫合の際も針先が余計な部分を穿刺することがないので、極めて安全に操作することができる。また、ニードルの針先から送出した縫合糸が反転して導管の内壁に沿って糸先が体外まで誘導されるので、縫合糸を体外へ引き出すために鉗子等を挿入する必要がなく身体への侵襲が低い。従って、本発明の鏡視下縫合器は、半月板等の損傷部位等の縫合用器具として利用した場合極めて有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 鏡視下縫合器
2 導管部
21 導管
211 開口部
213 テーパ部
215 ガイドレール
217 管口部
219 間隙
23 グリップ
3 ニードル部
31、71 ニードル
311、711 屈曲部
313 針先
33 アタッチメント
331、351 軸孔
333 溝
335 ストッパ
35 ノブ
353 ネジ
355 切欠面
4 縫合糸
5 半月板
6 損傷部位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10