(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地緯糸が、鞘成分樹脂が215℃以下の融点または軟化点を有するポリエステルである芯鞘型の熱融着性繊維からなるマルチフィラメントであり、ループ状係合素子が該熱融着性繊維の融着により基布に固定されており、基布の裏面には樹脂コート層が実質的に存在していない請求項1〜3のいずれか1項に記載の布製ループ面ファスナーと雄型面ファスナーの組み合わせ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンや手縫い等の縫製により布地に取り付けることが可能である押出し成形雄型面ファスナーの係合相手材として適した、優れた係合強力を発揮する布製のループ面ファスナーに関するものである。
【0002】
従来から、ミシンや手縫い等の縫製で布地に取り付けることが可能な雄型面ファスナーとして、織物や編物からなる基布の表面に、モノフィラメントからなるフック状係合素子を立設した、いわゆる雄型織面ファスナーや雄型編面ファスナーが公知である。これらの面ファスナーの場合には、雄型面ファスナーの該フック状係合素子が雌型面ファスナーのループ状係合素子と係合することにより雄型面ファスナーと雌型面ファスナーが係合することとなる。
【0003】
しかしながら、これらの雄型織面ファスナーや雄型編面ファスナーの場合には、フック状係合素子として太いフィラメントが用いられており、このフィラメントは面ファスナーの基布内に織り込まれたり編み込まれたりしているために、基布には太いモノフィラメントが存在していることとなり、さらに、該モノフィラメントが基布から引き抜かれないように面ファスナー基布の裏面には固定用の樹脂が塗布されており、これらが原因で基布は極めて固く、肌触りが固く、さらに肌に触れた場合には、太いモノフィラメントの端部がチクチクと肌を刺激するという問題点を有している。
【0004】
一方、このような織面ファスナーや編面ファスナーに対して、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなる基板の表面に、同樹脂からなる雄型素子を立設した、いわゆる成形雄型面ファスナーも公知であるが、これらの成形面ファスナーは、樹脂からなる基板が固く、ミシン針や手縫い針は容易に基板を貫通することができず、したがって布地に縫製により成形面ファスナーを取り付けることは困難である。
【0005】
基板が固く縫製に適さないという問題を解消する成形雄型面ファスナーとして、基板を薄くした成形雄型面ファスナーも上市されているが、このものは、針を貫通させることが可能であるが、針穴が面ファスナーとして使用している間に広がり、縫目から裂けが生じ易く、十分な縫製強力が得られていない。
【0006】
この課題に対し、特許文献1には特定のエラストマー樹脂を用い、かつ特定の製法により製造された押出し成形雄型面ファスナーならば、縫製により布地に取り付けることが可能であり、かつ縫製により生じた縫目から面ファスナーが裂け易いということもないことが記載されている。
より詳細に説明すると、同文献1には、特定のポリエステルエラストマーを用いて押出し成形により得られる雄型成形面ファスナーが肌触りに優れており、さらに縫製により布地に取り付けることが可能であり、取り付けた後において、面ファスナーの係合・離脱を繰り返しても縫目から面ファスナーが裂けることが少ないことが記載されている。
【0007】
同文献には、上記熱可塑性エラストマーから得られた押出し成形雄型面ファスナーの係合相手として、クラレファスニング株式会社製のループ織面ファスナーE−5000Cが使用されている。このループ織面ファスナーは、柔軟性を出すために織物生地裏面に塗布する樹脂の量を減らし、そして織物生地の表面にパイルを存在させたものであるが、係合強力にばらつきが大きいという問題を有している。
【0008】
一方、市販されている一般的な布製ループ面ファスナーを実際に用いて、該押出し成形雄型面ファスナーとの係合強力を測定した場合には、係合強力が十分でないという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の布製ループ面ファスナーは、
図1に示すように、主として、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸(3)、地経糸(1)および地緯糸(2)から構成される。これらがともにポリエステルから形成されていることにより、通常、衣類等に最も多く用いられているポリエステル繊維との同時染色性に優れ、さらに、吸水や吸湿による形態変化が少なく、製造工程上安定に製造できる。さらに実際に衣類として使用された場合にも、面ファスナーの波打ち等の不都合も生じにくく、さらに熱融着性にも特に優れていることから、係合素子の耐引抜性の点でも優れている。
【0023】
本発明において、ループ状係合素子として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系が用いられ、特に好ましくはポリブチレンテレフタレート系のポリエステルから構成されたマルチフィラメント糸が用いられる。
ポリブチレンテレフタレート系のマルチフィラメント糸からなるループ状係合素子は、フィラメント繊維がバラケ易く、その結果、ポリエチレンテレフタレート系のループ状係合素子などと比べて、雄型係合素子と係合し易く、高い係合力が得られる。
【0024】
ポリブチレンテレフタレート系のポリエステルとは、ブチレンテレフタレート単位を主とした繰り返し単位とするポリエステルであり、主としてテレフタル酸と1,4―ブタンジオールから縮重合反応により得られるポリエステルである。若干ならばテレフタル酸や1,4―ブタンジオール以外の重合単位が存在していてもよい。このような重合単位の代表例としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール類、安息香酸、乳酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。更に、上記ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルには、それ以外のポリマーが少量添加されていてもよい。
【0025】
このようなポリエステルからなるループ状係合素子用マルチフィラメント糸としては、10〜30本のフィラメントからなりトータルデシテックスが100〜400デシテックスのマルチフィラメント糸が好ましい。
【0026】
熱融着によりループ状係合素子を基布に強固に固定するためには、ループ状係合素子を構成するフィラメントの本数を少なくして熱融着性樹脂がフィラメント間に浸透する方が好ましい。一方、トータルデシテックスが少なくなりすぎると該フィラメントがループ状係合素子となった場合に、係合素子倒れの要因となるため、該フィラメントのトータルデシテックスは多いほうが好ましい。したがってこれらを加味して、より好ましくは15〜25本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜300のマルチフィラメントである。
【0027】
なお、本発明において、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメント糸は、好ましくはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルのマルチフィラメントであるが、このマルチフィラメントに、少数の他のフィラメント糸が引き揃えられているのも好ましい。
【0028】
このような布製ループ面ファスナーにおいて、本発明が最も特徴とするところは、ループ状係合素子が形成されている箇所でループ状係合素子が地経糸2〜6本および地緯糸1〜4本跨いでいることである。
このように該ループ状係合素子の形成において、跨ぎをもたせた構成とすることで、該押出し成形雄型面ファスナーのキノコ型係合素子との係合において、十分な係合強力をもたせることができる。好ましくは、地経糸3〜4本および地緯糸2〜3本を跨いでいる場合であり、かつ地経糸の跨ぎ本数の方が地緯糸の跨ぎ本数よりも多い場合である。もっとも好ましくは、地経糸3本および地緯糸2本を跨いでいる場合である。
図1に示すループ面ファスナーでは、ループ状係合素子用マルチフィラメントは地経糸3本および地緯糸2本を跨ぐ箇所でループ状係合素子を形成している。
【0029】
該ループ状係合素子が特定本数の地経糸を跨ぐことの効果として、該ループ状係合素子の足元間隔が広くなり、ループ部の開口も広くなることが挙げられる。地経糸を跨ぐ本数を増加させる程、地緯糸方向にループ開口も大きくなり、該押出し成形雄型面ファスナーのキノコ型素子が該ループ内に入りやすくなっていく。
一方で地経糸を跨ぐ本数を増加させ過ぎると地経糸方向にループが倒れやすくなり係合できなくなる。したがって、地経糸を跨ぐ本数としては2〜6本が採用され、好ましくは3〜4本であり、より好ましくは3本である。
【0030】
次に、該ループ状係合素子が特定本数の地緯糸を跨ぐことの効果として、跨ぐ本数が増加するにしたがって、該ループ状係合素子のループの開口方向が地経糸方向に対して垂直方向に近い角度を保つようになることがあげられる(すなわち、係合素子の両脚を結ぶ直線に直角な方向、つまりループ状係合素子のループの開口方向が地経糸方向に対して垂直に近くなる)。地緯糸を跨ぐ本数を増加させることにより、地経糸方向に対しより垂直に近い開口角度をもったループ状係合素子の割合が増加していき、該押出し成形雄型面ファスナーのキノコ型係合素子が該ループ状係合素子と係合しやすくなる。
なお、ループ面ファスナーと押出し成形雄型免ファスナーは、地経糸方向と雄型係合素子の素子列方向が同一方向となるように縫製により布地に取り付けられる。
【0031】
一方、地緯糸を跨ぐ本数を増加させすぎるとループが倒れ易くなっていくことから地緯糸を跨ぐ本数は1〜4本が採用され、好ましくは2〜3本であり、さらに好ましくは2本である。そして、地経糸を跨ぐ本数の方が地緯糸を跨ぐ本数よりも多い場合、ループが倒れにくく好ましい。
【0032】
また該ループ状係合素子は、そのループの開口方向が地経糸方向に対してなす角度(ループ状係合素子の両脚元を結ぶ直線に対して直角方向と地経糸方向がなす角度)が垂直に近い角度、具体的には70°〜110°であるループ状係合素子が全ループ状係合素子の50%以上を占めているのが好ましく、より好ましくは70〜100%を占めている場合である。該ループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対してなす角度が70〜110°であると、該押出し成形雄型面ファスナーのキノコ型係合素子と係合しやすく、その割合が全ループ状係合素子の50%以上であると高い係合力が得られ、70%以上であると特に高い係合力が得られる。
【0033】
さらにループ状係合素子の係合素子密度が30〜70箇/cm
2であるのが好ましい。70箇/cm
2を超える場合には、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントの各フィラメントがバラケて係合する空間を埋めてしまうため、お互いが邪魔し合って高い係合力が得られず、また30箇/cm
2未満の場合には、係合が少ないことが原因で、高い係合強力が得られない。より好ましくは40〜60箇/cm
2である。
【0034】
本発明の布製ループ面ファスナーにおいては、ループ状係合素子のループ形状を固定するために加えられる熱が、基布を構成する地緯糸であるポリエステル系の樹脂からなる熱融着性繊維を融着させ、ループ状係合素子を基布に固定することとなる。したがって、加えられる熱の温度としては、熱融着性繊維が溶融する温度で、かつループ状係合素子用マルチフィラメント糸が熱固定される温度である180〜215℃が好ましく、より好ましくは190〜210℃の範囲である。
【0035】
またこのような熱融着性繊維の熱融着によってループ状係合素子を基布に固定することができるため、従来のループ面ファスナーのように、基布の裏面にループ状係合素子を固定する樹脂コート層(バックコート層)を塗布する必要がなく、したがって基布が固くならず、また係合強力のばらつきも低く抑えられた布製ループ面ファスナーとなる。
【0036】
なお、地緯糸には、芯鞘型の熱融着性繊維が用いられるが、芯鞘型の熱融着性繊維の鞘成分樹脂は、ループ状係合素子用のマルチフィラメント、さらには地経糸、該芯鞘型熱融着性繊維の芯成分樹脂のいずれよりも低い融点または軟化点を有していることが必要であり、例えば、芯成分は熱処理条件で溶融しないが鞘成分は溶融する芯鞘型の断面を有するポリエステル系繊維が好適例として挙げられる。
【0037】
具体的には、ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、イソフタル酸やアジピン酸等で代表される共重合成分を多量に共重合、例えば15〜30モル%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートや共重合ポリブチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型ポリエステル繊維が代表例として挙げられる。
【0038】
そして、地緯糸を構成する繊維中に占める熱融着性繊維の割合は25〜100質量%が好ましく、特に地緯糸の全てが実質的に芯鞘型の熱融着性繊維で形成されている場合が、ループ状係合素子が強固に基布に固定されることとなるため好ましい。なお、熱融着性繊維が芯鞘等の複合繊維でなく、繊維の全てが熱融着性のポリマーで形成されている単独樹脂からなる繊維の場合は、溶けて再度固まった熱融着性ポリマーは脆く割れ易くなり、縫製した場合等は縫糸部分から基布が裂け易くなる。したがって、熱融着性繊維は、熱融着されない樹脂を含んでいることが必要となり、芯鞘の断面形状を有しているものが用いられる。
【0039】
そして、芯成分と鞘成分の質量比率は60:40〜80:20の範囲が好ましい。なお、芯鞘の断面形状は完全な同心芯鞘形状である必要はなく、バイメタル形状に近い偏心芯鞘形状であってもよい。
【0040】
さらに、ループ状係合素子を強固に基布に固定するためには、地緯糸として用いられた熱融着性繊維が熱融着すると共に、熱融着時に繊維自身が熱収縮してループ状係合素子の根元を締め付けるのが好ましく、そのためには、地緯糸として用いられる熱融着繊維は熱処理条件下で大きく熱収縮を生じる繊維が好ましい。具体的には、200℃で1分間加熱した場合の乾熱収縮率が12%以上である高収縮性繊維が好適に用いられ、より好ましくは200℃での乾熱収縮率が12.5〜20%の繊維である。
【0041】
なお、地緯糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、12〜72本のフィラメントからなるトータルデシテックスが80〜300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に15〜48本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜250デシテックスであるマルチフィラメントが好ましい。そして、このようなマルチフィラメント糸を熱処理後の織密度として15〜25本/cmとなるように基布に打ち込むのが好ましい。そして、地緯糸の質量割合としては、面ファスナーを構成するループ状係合素子用マルチフィラメント糸と地経糸および地緯糸の合計質量に対して15〜40%が好ましい。
【0042】
次に、本発明の布製ループ面ファスナーにおいて、基布を構成する地経糸としては、ポリエステル系のマルチフィラメント糸を用いるのが好ましい。特に、耐熱性に優れたポリエチレンテレフタレート系のマルチフィラメント糸が好ましい。もちろん、若干の共重合成分や他のポリマーや他のフィラメントを含んでいてもよいが、地経糸は、面ファスナーの長さ方向に連続して存在することにより、面ファスナーを製造する上で工程安定性をもたらす糸であることから、熱処理条件において、収縮等の変化が少ない糸であることが好ましく、したがってポリエチレンテレフタレートのホモポリマーから形成されているのがより好ましい。
【0043】
地経糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、12〜96本のフィラメントからなり、トータルデシテックスが75〜250デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に24〜48本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜200デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。そして、このようなマルチフィラメント糸を熱処理した後の地経糸織密度が30〜90本/cmとなるように基布を構成する。
【0044】
なお、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメント糸は、前述したように地経糸に平行に基布に打ち込まれる。ループ状係合素子用マルチフィラメント糸の打ち込み本数は、前述する熱処理後で地経糸本数20本(ループ状係合素子用マルチフィラメント糸を含む)に対して3〜8本程度、特に4本程度が好ましい。
【0045】
基布の織組織としては、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸を地経糸の一部とした平織が好ましく、地経糸と平行に存在しつつ、組織の途中で基布面から浮き上がり、ループを形成しつつ地経糸を2〜6本、地緯糸を1〜4本飛び越えて地経糸間に沈み込むような織組織である。
【0046】
またループ状係合素子用マルチフィラメントの右隣と左隣に存在している2本の地経糸は地緯糸に対する浮沈関係が逆であるのが好ましく、ループ状係合素子用マルチフィラメントは、その外側で隣接する地経糸と地緯糸に対する浮沈関係が逆であるのが係合素子の耐引抜性の点で好ましい。そして、ループ状係合素子用マルチフィラメントはループ状係合素子を形成するために地経糸を2〜6本跨いでいるが、跨がれている2〜6本地経糸は、そのうちの隣り合う2本程度が地緯糸に対する浮沈関係が同一であってもよい。
【0047】
次に本発明の布製ループ面ファスナーの係合相手材となる押出し成形雄型面ファスナーについて説明する。
同押出し成形雄型面ファスナーは、ポリエステル系エラストマーからなる基板の表面に同エラストマーからなる多数の独立したキノコ型係合素子を有し、かつ該キノコ型係合素子が平行に複数列存在している押出し成形雄型面ファスナーである。
【0048】
より好ましくは、
図2に示すように、基板の表面にキノコ型係合素子が列をなして並んでおり、各キノコ型係合素子はステム部(S)とその上部に広がる傘部(M)からなり、かつ係合素子列方向に交差する方向に傘部はステム部からはみ出して拡がっているが、係合素子列方向には傘部は拡がりを有しておらずにステム部から傘部先端部までほぼ同一の幅を有している成形雄型面ファスナーである。
【0049】
そして、基板とキノコ型係合素子を構成する樹脂が、共にポリエステルエラストマーである。このような成形雄型面ファスナーを構成するポリエステルエラストマーとしては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸またはその誘導体を用い、ジオール成分として1,4−ブタンジオールとポリ(オキシテトラメチレン)グリコールまたはそれらの誘導体を用いて得られるものであり、かつポリエステルエラストマー中における[ポリ(オキシテトラメチレン)]テレフタレート基の割合が40〜70質量%であるポリエステルエラストマーが好適例として挙げられる。
【0050】
そして、このような成形雄型面ファスナーは、横に一直線に伸びるスリットの片面にキノコ型スリットを有するノズルから上記ポリエステルエラストマーの溶融物を押し出し、冷却させて、基板上に長さ方向に連続するキノコ型係合素子用列条を有するテープ状物を得て、このテープ状物のキノコ型係合素子列条に、その長さ方向を横切る方向に、キノコ型係合素子列条の先端部から根元部分に至る切れ目を入れ、そして該テープを1.7〜2.3倍の延伸となるように延伸・熱処理することにより製造される。
【0051】
本発明に好適な成形雄型面ファスナーとしては、係合素子密度が70〜140個/cm
2のものが挙げられる。そして、係合素子の高さ(H)として0.5〜1.1mmが、また各キノコ型係合素子の傘部の広がり部の長さ(X)として0.4〜0.9mmが、またキノコ型係合素子のステム列方向の幅(W)として0.25〜0.35mmが、隣り合う係合素子列との間隔(Y)として0.5〜1.5mmが、係合素子列方向に隣り合うキノコ型係合素子の間隔(L)として上記Wの0.7〜1.3倍がそれぞれ、係合強力や肌触り感等の点で好ましい。さらに、隣り合う係合素子列間の傘部での間隔(Z)として、0.2〜1.2mmが、またキノコ型係合素子の高さ(H)の10〜40%が傘部であるのが、さらに基板幅1cmにキノコ型係合素子列が5〜15列存在しているのが同様の理由でそれぞれ好ましい。また基板の厚さとしては、0.1〜0.4mmが柔軟性や縫製性、さらに裂け難さ等の点で好ましい。
なお、
図2において、Pの方向が係合素子列方向であり、Qが係合素子列方向に直交する方向である。
【0052】
さらに、このような本発明の布製ループ面ファスナーと成形雄型面ファスナーの好適な組み合わせとして、ループ面ファスナーのループ状係合素子の開口部の広さが成形雄型面ファスナーのキノコ型係合素子の幅(W)の0.5〜2.0倍であり、該ループ状係合素子の高さがキノコ型係合素子の高さ(H)の1.0倍以上である場合であり、このような条件を満足する場合には高い係合強力が発現する。特に開口部の広さは、キノコ型素子の幅の0.7〜1.7倍であることが好ましい。なお、ここでいう開口部の広さとは、開口部のもっとも横に広がった場所での幅を意味する。
【0053】
本発明のループ面ファスナーの係合相手となる成形雄型面ファスナーは、縫製により布地へ取り付けることが可能であり、さらに該成形雄型面ファスナーが柔らかいエラストマーから構成されており、極めて柔軟で、肌触りが優しく、係合部も含めて非常に薄く製造できることから、本発明のループ面ファスナーと成形雄型面ファスナーの組み合わせは、衣類、特に外套やスポーツ衣料、肌着類、手袋、靴、かばん等に好適に縫製により取り付けられる。
【0054】
なお、本発明の布製ループ面ファスナーは、その裏面に、例えば接着剤や粘着剤を付与し、それにより布地やプラッスチック製品、皮等に取り付ける場合にも、該押出し成形雄型面ファスナーの係合相手材として、その高い係合力を失わない。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、係合強力に関しては、係合する相手として、クラレファスニング株式会社製の押出し成形雄型面ファスナーであり、可縫製を有するL8972S−63Dを用いて、JIS L3416に従って測定した。
【0056】
このL8972S−63Dは、
図2に示すような、東レ・デュポン株式会社製のハイトレル5577[テレフタル酸、1,4−ブタンジオールおよびポリ(オキシテトラメチレン)グリコールから得られるポリエステル系エラストマーであり、ポリ(オキシテトラメチレン)テレフタレートの割合が50質量%]からなる基板の表面に同エラストマーからなる多数の独立したキノコ型係合素子が存在しており、かつ該キノコ型係合素子が平行に複数列存在している押出し成形雄型面ファスナーであり、その係合素子密度は108個/cm
2で、基板の厚さは0.26mm、係合素子高さ(H)は0.71mm、係合素子列方向に隣り合う係合素子の間隔(L)は0.33mm、係合素子列方向のステムの幅(W)が0.32mm、係合素子列方向と直交する方向のステム幅(T)が0.37mm、隣り合う係合素子列のステム部間の間隔(Y)が1.1mm、係合素子の傘部の広がり部の長さ(X)が0.60mm、ステム部の係合素子列方向幅(W)と素子列方向に隣り合う係合素子同士の間隔(L)との比(W:L)は1.0:1.0である。
【0057】
なお、後述する参考例1では押出し成形雄型面ファスナーL8972S−63Dの係合相手として、クラレファスニング株式会社製の布製ループ面ファスナーES5000Cを用いた。また参考例2では押出し成形雄型面ファスナーL8972S−63Dの係合する相手として、クラレファスニング株式会社製の布製ループ面ファスナーB2790Yを用いた。
【0058】
それぞれ測定するサンプル数は10個であり、10個の平均値を以って、成形雄型面ファスナーL8972S−63Dとループ織面ファスナーE5000Cのせん断方向、剥離方向、それぞれの結果を100として、その相対値で示す。
【0059】
実施例1
面ファスナーの基布を構成する地経糸、地緯糸、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸として次の糸を用意した。
[地経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:167dtexで30本
[地緯糸(熱融着性芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(質量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:116dtexで24本
・200℃での乾熱収縮率:13%
【0060】
[ループ状係合素子用マルチフィラメント糸]
・ポリブチレンテレフタレート繊維(融点:220℃)
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:252dtexで20本
【0061】
上記3種の糸を用いて、以下の条件で布製のループ面ファスナーを製造した。
すなわち、上記地経糸、地緯糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用いて、織組織として
図1に示す織組織を用い、織密度(熱収縮処理後)が地経糸55本/cm、緯糸20本/cmとなるように織った。そして、地経糸4本(ループ状係合素子用マルチフィラメント糸を1本と数えると5本)に1本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメント糸を地経糸に平行に打ち込み、地緯糸5本を浮沈したのちに地経糸3本を跨ぎ、かつ地緯糸2本を跨ぐようにし、跨いだ箇所でループを形成するように基布上にループを形成した(
図1参照)。
【0062】
上記条件にて織製された布製ループ面ファスナー用テープを緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、なおかつ地経糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸、さらには地緯糸の芯成分が熱溶融しない温度域、すなわち200℃で熱処理を施した。地緯糸は大きく収縮するとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。その結果、基布は地緯糸方向に9%収縮した。
【0063】
そして得られた布製ループ面ファスナーのループ状係合素子密度は45個/cm
2であった。またループ状係合素子の基布面からの高さは1.5mmであり、成形雄型面ファスナー:L8972S−63Dのキノコ型素子の高さを比較すると1.5倍であった。
【0064】
このようにして得られた布製ループ面ファスナーを、ポリエチレンテレフタレート繊維が染色可能な高圧条件で紺色に染色したところ、染色斑がなく、高級感ある濃紺色に染色できた。また染色して得られた該布製ループ面ファスナーを水中に10分間浸漬したのち、水中から取り出したが、形態および係合力に何ら変化がなく、基布は平坦な状態を有していた。
【0065】
次に、得られた布製ループ面ファスナーのせん断方向と剥離方向の係合強力を求めた。その結果を表1および表2に示す。なお、ループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対して70〜110°の角度を有しているループ状係合素子が全ループ状係合素子の90%存在していた。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表1、2から明らかなように、本実施例の布製ループ面ファスナーのせん断方向の係合強力は後述するE5000Cと比較して高く、また剥離方向の係合強力はE5000Cと比較して同等の係合強力を有していた。
【0069】
参考例1および2
上記実施例1において、押出し成形雄型面ファスナーの係合相手材として、前記特許文献1に記載されているループ面ファスナーE5000Cを用いて係合強力を測定した。(参考例1)
上記実施例1において、押出し成形雄型面ファスナーの係合相手材として、一般的なループ面ファスナーであるループ面ファスナーB2790Yを用いて係合強力を測定した。(参考例2)
【0070】
表1および表2に記載されているように、参考例1の剥離強力はほぼ同等であるが、せん断強力に関しては実施例1のものより劣るものであった。但し、参考例1のものは、なかには測定値の平均値を大きく下回るものも散見され、ばらつきが大きいという問題が確認できた。
また参考例2については、せん断強力はやや劣り、さらに剥離強力は大きく劣るという結果であった。
【0071】
参考例1においてばらつきが大きくなった原因として、やはりパイルの高さにばらつきがあること、またパイルを基布に固定するバックコート樹脂の塗布状態が安定していないことが挙げられる。
また参考例2においては、ループ状係合素子のループの間口が実施例1のものより狭く、押出し成形雄型面ファスナーのキノコ型素子がループ状係合素子に係合する機会が減少し、結果としてループ状係合素子に引っ掛かっているキノコ状係合素子の数が減少し、係合強力が低くなったと推測される。
【0072】
比較例1〜4
上記実施例1において、ループ状係合素子のループの地経糸の跨ぎ本数を1本、地緯糸の跨ぎ本数を1本に変更する以外は実施例1と同様にして布製ループ面ファスナーを作製した(比較例1)。その結果、得られた布製ループ面ファスナーのループ状係合素子密度は55個/cm
2であった。またループ状係合素子の高さと成形雄型面ファスナー:L8972S−63Dのキノコ型素子の高さを比較すると2.0倍であった。そして、ループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対して70〜110°の角度を有するループ状係合素子の割合は40%であった。
また上記実施例1において、ループ状係合素子のループの地経糸の跨ぎ本数を0本、地緯糸の跨ぎ本数を2本に変更する以外は実施例1と同様にして布製ループ面ファスナーを作製した(比較例2)。その結果、得られた布製ループ面ファスナーのループ状係合素子密度は55個/cm
2であった。またループ状係合素子の高さと成形雄型面ファスナー:L8972S−63Dのキノコ型素子の高さを比較すると2.0倍であった。そして、ループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対して70〜110°の角度を有するループ状係合素子の割合は10%であった。
【0073】
また上記実施例1において、ループ状係合素子のループの地経糸の跨ぎ本数を3本、地緯糸の跨ぎ本数を0本に変更する以外は実施例1と同様にして布製ループ面ファスナーを作製した(比較例3)。しかし、この条件では工業的に安定して布製面ファスナーを製造することが困難であった。
また上記実施例1において、ループ状係合素子のループの地経糸の跨ぎ本数を3本、地緯糸の跨ぎ本数を6本に変更する以外は実施例1と同様にして布製ループ面ファスナーを作製した(比較例4)。その結果、得られた布製ループ面ファスナーのループ状係合素子密度は30個/cm
2であった。またループ状係合素子の高さと成形雄型面ファスナー:L8972S−63Dのキノコ型素子の高さを比較すると1.0倍であった。ループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対して70〜110°の角度を有するループ状係合素子の割合は10%であった。
【0074】
表1および表2に記載されているように、比較例の面ファスナーはいずれもせん断強力および剥離強力が実施例のものと比べて大きく劣った。
【0075】
比較例2や比較例4のものにおいては、ループ状係合素子のループの間口の経糸となす角度が20〜40°となっているループが多く、押出し成形雄型面ファスナーのキノコ型素子がループ状係合素子と係合する機会が減少し、結果としてループ状係合素子に引っ掛かっているキノコ状係合素子の全体数が減少して係合強力が低くなったと推測される。さらに比較例2のものでは、ループ状係合素子が倒れているのも多く見られ、これが係合強力の劣る原因になったものと推測される。
【0076】
比較例1のものにおいては、ループ状係合素子のループの間口の大きさが小さくなっていたため、押出し成形雄型面ファスナーのキノコ型素子がループ状係合素子と係合する機会が大きく減少したため、係合強力が低くなったと推測される。
【0077】
実施例2、3
上記実施例1において、ループ状係合素子のループの地経糸の跨ぎ本数を5本、地緯糸の跨ぎ本数を4本に変更する以外は実施例1と同様にして布製ループ面ファスナーを作製した(実施例2)。その結果、得られた布製ループ面ファスナーのループ状係合素子密度は35個/cm
2であった。またループ状係合素子の高さと成形雄型面ファスナー:L8972S−63Dのキノコ型素子の高さを比較すると0.8倍であった。そして、ループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対して70〜110°の角度を有するループ状係合素子の割合は55%であった。
また上記実施例1において、ループ状係合素子のループの地経糸の跨ぎ本数を2本、地緯糸の跨ぎ本数を1本に変更する以外は実施例1と同様にして布製ループ面ファスナーを作製した(実施例3)。その結果、得られた布製ループ面ファスナーのループ状係合素子密度は50個/cm
2であった。またループ状係合素子の高さと成形雄型面ファスナー:L8972S−63Dのキノコ型素子の高さを比較すると1.8倍であった。そしてループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対して70〜110°の角度を有するループ状係合素子の割合は70%であった。
【0078】
表2に記載されているように実施例2,3の面ファスナーはいずれもせん断強力、および剥離強力がやや実施例1に比べて劣るという結果であった。これはループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対して70〜110°の角度を有するループ状係合素子の割合が実施例1と比べると少なかったことに起因すると推測する。
【0079】
比較例5
上記実施例1において、地緯糸として熱融着性繊維に代えて24本のフィラメントからなる120dtexのポリエチレンテレフタレートからなる熱融着性でない通常のマルチフィラメント糸を用い、そしてループ状係合素子の基布の裏面側にポリウレタンエマルジョン液を固形分で45g/m
2スプレー塗布する以外は実施例1と同一の方法により布製ループ面ファスナーを製造した。
【0080】
この比較例5のものは、実施例1のものと比較すると係合強力は劣り、また測定結果にややバラつきが大きく、比較例5の布製ループ面ファスナーそのものが上記実施例1のものと比べてやや硬く、柔軟性の点で劣るものであった。これはポリウレタンエマルジョン液をスプレーで塗布したことにより、場所により塗布量にムラが発生してしまったこと、また塗布したポリウレタンエマルジョン液が基布を浸透してループまで達し、ループ自体も硬くなったことにより、ループが成形雄型面ファスナーのキノコ型素子と係合する係合が減ったために係合強力が低下したと推測する。
【0081】
実施例4
上記実施例1において、ルーフ状係合素子のマルチフィラメントをPETからなるマルチフィラメント(融点260℃、トータルデシテックス:265dtex、フィラメント本数:7本)に変更する以外は実施例1と同様にして布製ループ面ファスナーを作製した。ループ状係合素子の開口方向が地経糸方向に対して70〜110°の角度を有するループ状係合素子の割合は90%であった。
【0082】
表1および表2の結果から明らかなように、この実施例のものは、せん断強力、剥離強力ともに実施例1のものより若干低くなった。これはループ状係合素子を構成するマルチフィラメント糸が個々のフィラメントにばらけることなく、集束状態を保っていることが観察されたことから、それが係合力を低い値としているものと推測される。但し、外観品位に関しては、上記実施例1のものと変わりなく優れており、高級感を有するものであり、湿潤下においてもこの評価は変らなかった。