【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・刊行物名「平成25年度修士論文等要旨集」 発行日 平成26年2月14日 発行所 国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学 ・刊行物名「平成25年度修士論文等要旨集」 発行日 平成26年2月14日 発行所 国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学 ・刊行物名「日本化学会第94春季年会(2014)講演予稿集」 発行日 平成26年3月12日 発行所 公益社団法人日本化学会 ・研究集会名 日本化学会第94春季年会(2014) 開催場所 名古屋大学 東山キャンパス 開催日 平成26年3月28日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記ナノ材料は、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノシートからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載のナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法。
上記接触工程では、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液を、上記ナノ材料に含浸させることによって、または、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液中に上記ナノ材料をせん断分散させることによって、上記ナノ材料と上記ドーパント組成物とを接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ナノ材料のゼーベック係数を変化させる方法は未だ体系化されていない。つまり、いくつかのp型導電性ナノ材料をn型導電性ナノ材料へと変換するドーパント(n型ドーパント)が報告されているものの、これら公知のドーパントの性質的または構造的な類似物質が必ずしも同様にn型ドーパントになり得るわけではない。このため、新規ドーパントの開発には試行錯誤的な方法を採用せざるを得ない。このような試行錯誤的な方法は、新規ドーパントを開発するまでに多大な費用、時間および労力を必要とし、極めて非効率的である。
【0011】
また、従来のn型導電性カーボンナノチューブの製造方法では、例えば、加熱(例えば、特許文献3)等を行う必要があり操作が簡便ではないため、n型導電性カーボンナノチューブを大量に生産することは容易ではない。また、非特許文献7に記載の技術は、ある程度高価なドーパントを利用するものであり、さらに有機溶媒を使用し、単層カーボンナノチューブに適用した場合に限定されている。よって、より簡便かつ効率のよいn型導電性ナノ材料の製造方法が求められている。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便かつ効率よく、ナノ材料のゼーベック係数の値を変化させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アニオンを広くドーパントとして使用可能であること、および、アニオンの対イオンであるカチオンとしてオニウムイオンを用いることによって、アニオンを効率的にドープできることを独自に見出した。そして、本発明者らは、当該アニオンをドーパントとして使用することにより、簡便かつ効率よくナノ材料のゼーベック係数を変化させることができることを明らかにした。
【0014】
すなわち、本発明に係るナノ材料−ドーパント複合体の製造方法は、ナノ材料に対して、当該ナノ材料のゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物を、溶媒中にて接触させる接触工程と、上記溶媒を除去する乾燥工程と、を包含しており、上記ドーパント組成物は、アニオンとカチオンとを含有しており、上記アニオンは、ヒドロキシイオン、アルコキシイオン、チオイオン、アルキルチオイオン、シアヌルイオン、およびカルボキシイオンからなる群より選択される少なくとも1つであり、上記カチオンは、オニウムイオンであり、上記乾燥工程によって得られたナノ材料−ドーパント組成物複合体において、アニオンおよびカチオンは互いに解離した状態で存在することを特徴としている。
【0015】
上記特定の組み合わせのアニオンおよびカチオンは、解離性が良い。そのため、アニオンおよびカチオンを互いに解離させ、アニオンをナノ材料に対して効率的にドープできる。上記アニオンは、当該ナノ材料のキャリアを正孔から電子へと変化させる。よって、上記ドーパント組成物は、ナノ材料のゼーベック係数を変化させる。
【0016】
上記アニオンは、様々な化合物に含有されているため、簡便に入手することができる。さらにアニオンは、イオンの形態であるため、水系溶媒および有機溶媒の両方において使用可能である。また、加熱等の操作を行う必要もない。さらに、上記ドーパント組成物は様々なナノ材料に対してドーピングすることができる。
【0017】
よって、上記構成によれば、簡便かつ効率よく、ナノ材料のゼーベック係数の値を変化させることができる。
【0018】
本発明に係るナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記アニオンは、OH
−、CH
3O
−、CH
3CH
2O
−、i−PrO
−、t−BuO
−、SH
−、CH
3S
−、C
2H
5S
−、CN
−およびCH
3COO
−からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0019】
本発明に係るナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記ナノ材料は、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノシートからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0020】
本発明に係るナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記接触工程では、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液を、上記ナノ材料に含浸させることによって、または、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液中に上記ナノ材料をせん断分散させることによって、上記ナノ材料と上記ドーパント組成物とを接触させてもよい。
【0021】
本発明に係るナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記アニオンはn型ドーパントであってもよい。
【0022】
本発明に係るナノ材料−ドーパント組成物複合体は、本発明に係るナノ材料−ドーパント複合体の製造方法によって製造されたことを特徴としている。
【0023】
本発明に係るドーパント組成物は、ナノ材料のゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物であって、上記ドーパント組成物は、アニオンとカチオンとを含有しており、上記アニオンは、ヒドロキシイオン、アルコキシイオン、チオイオン、アルキルチオイオン、シアヌルイオン、およびカルボキシイオンからなる群より選択される少なくとも1つであり、上記カチオンは、オニウムイオンであることを特徴としている。
【0024】
本発明に係るドーパント組成物では、上記アニオンは、OH
−、CH
3O
−、CH
3CH
3O
−、i−PrO
−、t−BuO
−、SH
−、CH
3S
−、C
2H
5S
−、CN
−およびCH
3COO
−からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0025】
本発明に係るドーパント組成物では、上記アニオンはn型ドーパントであってもよい。
【0026】
本発明に係るナノ材料−ドーパント組成物複合体は、ナノ材料と、本発明に係るドーパント組成物とを含有しており、上記ドーパント組成物が含有しているアニオンおよびカチオンは互いに解離した状態で存在していてもよい。
【0027】
イオンを用いてナノ材料のゼーベック係数を変化させることができることは、これまで知られておらず、本発明者らが初めて見出したものである。なお、非特許文献6に記載のベンジルビオロゲンはイオン性の物質であるが、非特許文献6に記載の技術では、還元されたベンジルビオロゲン(すなわち、イオンの形態ではないベンジルビオロゲン)を用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、本発明に係るナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法は、ナノ材料に対して、当該ナノ材料のゼーベック係数を変化させるためのドーパントを、溶媒中にて接触させる接触工程と、上記溶媒を除去する乾燥工程と、を包含しており、上記ドーパント組成物は、アニオンとカチオンとを含有しており、上記アニオンは、ヒドロキシイオン、アルコキシイオン、チオイオン、アルキルチオイオン、シアヌルイオン、およびカルボキシイオンからなる群より選択される少なくとも1つであり、上記カチオンは、オニウムイオンであり、上記乾燥工程によって得られたナノ材料−ドーパント組成物複合体において、アニオンおよびカチオンは互いに解離した状態で存在する。
【0029】
それゆえ、簡便かつ効率よく、ナノ材料のゼーベック係数の値を変化させることができる、ナノ材料−ドーパント複合体組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0032】
〔ナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法〕
本発明に係るナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法(以下では、「本発明の製造方法」ともいう)は、ナノ材料に対して、当該ナノ材料のゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物を、溶媒中にて接触させる接触工程を包含している。
【0033】
<ナノ材料>
本明細書において、「ナノ材料」とは、少なくとも1つの方向の寸法がナノスケール(例えば100nm以下)の物質であり、例えば電子材料等として用いられる材料である。
【0034】
上記ナノ材料は、低次元ナノ材料であってもよい。本明細書において、「低次元」とは、3次元より小さい次元を意図する。すなわち、本明細書において、「低次元」とは、0次元、1次元、2次元を意図する。
【0035】
0次元のナノ材料としては、例えば、ナノ粒子(量子ドット)が挙げられる。1次元のナノ材料としては、例えば、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドが挙げられる。2次元のナノ材料としては、例えばナノシートが挙げられる。
【0036】
上記ナノ材料は、炭素、半導体、半金属および金属からなる群より選択される少なくとも1つ以上を含んでいるナノ材料であってもよい。例えば、炭素からなるナノ材料としては、カーボンナノチューブおよびグラフェン(すなわち、炭素からなるナノシート)等が挙げられる。本明細書においては、カーボンナノチューブを「CNT」と称する場合もある。
【0037】
半導体としては、ケイ素化鉄、コバルト酸ナトリウム、テルル化アンチモン等が挙げられる。半金属としては、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、セレン、グラファイト等が挙げられる。金属としては、金、銀、銅、白金、ニッケル等が挙げられる。
【0038】
上記ナノチューブおよび上記ナノシートは、単層、または多層(二層、三層、四層、またはそれよりも多層)の構造を有していてもよい。上記ナノチューブは炭素から構成されていてもよい。本明細書においては、単層カーボンナノチューブをSWNT(single-wall carbon nanotube)、多層カーボンナノチューブをMWNT(multi-wall carbon nanotube)と称する場合もある。
【0039】
<ドーパント組成物>
本明細書において、ドーパント組成物とは、ドーパントを含有する組成物を意図している。また、本明細書において、ドーパントとは、ドープされる対象となる材料のゼーベック係数を変化させる物質を意図している。そして、本発明の製造方法において、ドープされる対象となる材料とは、上述のナノ材料である。本発明の製造方法は、上記ドーパントが塩基性を有するアニオンであることを特徴としている。
【0040】
ゼーベック係数とは、ゼーベック効果を示す回路の、高温接合点と低温接合点の間の温度差に対する、開放回路電圧の比をいう(「マグローヒル科学技術用語大辞典 第3版」より)。ゼーベック係数は、ナノ材料等の電子材料の極性を判別するための指標となり得る。具体的には、例えば、ゼーベック係数が正の値を示すナノ材料は、p型導電性を有しているといえる。これに対して、ゼーベック係数が負の値を示すナノ材料は、n型導電性を有しているといえる。ゼーベック係数は、例えば、後述する実施例で用いたゼーベック効果測定装置(MMR社製)等を用いて測定することができる。
【0041】
本明細書において、「ゼーベック係数を変化させる」とは、ゼーベック係数の値を減少させること、または、ゼーベック係数を正の値から負の値に変化させることを意図する。よって、「ナノ材料のゼーベック係数を変化させるドーパント(またはドーパント組成物)」とは、かかるドーパント(またはドーパント組成物)を用いてドープされたナノ材料におけるゼーベック係数の値を、ドーピング前と比較して減少させ得るドーパント(またはドーパント組成物)、または、かかるドーパント(またはドーパント組成物)を用いてドープされたナノ材料におけるゼーベック係数を正の値から負の値に変化させ得るドーパント(またはドーパント組成物)が意図される。
【0042】
本明細書では、ナノ材料におけるゼーベック係数を正の値から負の値に変化させ得るドーパントを特にn型ドーパントと称する場合がある。ドーパントがn型ドーパントであれば、本発明の製造方法によって得られたナノ材料−ドーパント組成物複合体をn型導電性とすることができる。ナノ材料−ドーパント組成物複合体がn型導電性を有していれば、双極型素子において、当該ナノ材料−ドーパント組成物複合体をn型材料として使用することができるため、好ましい。
【0043】
本発明の製造方法は、上記ドーパント組成物が、ドーパントとして特定のアニオンを含有していることを特徴としている。上記アニオンは、ナノ材料のキャリアを正孔から電子へと変化させる。従って、上記ドーパント組成物は、ナノ材料のゼーベック係数を変化させる。
【0044】
本発明の製造方法に使用されるアニオンは、ヒドロキシイオン、アルコキシイオン、チオイオン、アルキルチオイオン、シアヌルイオン、およびカルボキシイオンからなる群より選択される少なくとも1つである。ヒドロキシイオンは、OH
−とも表せる。アルコキシイオンとしては、例えばCH
3O
−、CH
3CH
2O
−、i−PrO
−、t−BuO
−等が挙げられる。チオイオンは、SH
−とも表せる。アルキルチオイオンとしては、例えばCH
3S
−、C
2H
5S
−等が挙げられる。シアヌルイオンは、CN
−とも表せる。カルボキシイオンとしては、例えばCH
3COO
−等が挙げられる。なかでも、アニオンは、OH
−およびCH
3O
−のうち少なくとも一方であることがより好ましい。上記アニオンによれば、効率よくナノ材料のゼーベック係数を変化させることができる。
【0045】
アニオンがドーパントとして作用する理由の一つとしては、アニオンが非共有電子対を有していることが考えられる。アニオンは、その非共有電子対に基づいて、ドーピングの対象となるナノ材料と相互作用するか、または化学反応を誘起すると推測される。また、後述の実施例から、ドーピングの効率においては、ドーパントのルイス塩基性、分子間力および解離性の重要性が示唆されている。本明細書において、「ルイス塩基性」とは、電子対を供与する性質を意図している。ルイス塩基性の強いドーパントは、ゼーベック係数の変化に対して、より大きな影響を与えると考えられる。また、ドーパントの分子間力も、ナノ材料に対するドーパントの吸着性に関連していると考えられる。ドーパントの分子間力としては、水素結合、CH−π相互作用、π−π相互作用等が挙げられる。ドーパントの解離性については後述する。
【0046】
以上のことから、上記アニオンのなかでも、弱い水素結合を与えるアニオンが好ましい。弱い水素結合を与えるアニオンとしては、例えば、OH
−、CH
3O
−、CH
3CH
2O
−、i−PrO
−、t−BuO
−が挙げられる。また、アニオンは、π−π相互作用を与えるアニオンであることが好ましい。π−π相互作用を与えるアニオンとしては、例えば、CH
3COO
−が挙げられる。
【0047】
本発明の製造方法は、ドーパント組成物は、アニオンとカチオンとを含有しており、当該カチオンはオニウムイオンである。当該オニウムイオンは上述の特定のアニオンとの解離性が良く、アニオンを効率的に解離することができる。そして、溶媒中にて、当該アニオンをドーパントとして、ナノ材料に効率的にドープすることができる。
【0048】
本発明の製造方法において、上記オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウム、ホスホニウム、オキソニウム、スルホニウム、フルオニウム、クロロニウム、カルボカチオン、イミニウム、ジアゼニウム、ニトロニウム、ニトリリウム、ジアゾニウム、ニトロソニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム等を母骨格とするオニウムイオンが挙げられるが、これに限定されない。溶媒中において解離性がよいという観点からは、アンモニウム、ホスホニウム、イミダゾリウム、ピリジニウムを母骨格とするオニウムイオンが好ましい。
【0049】
アンモニウムまたはホスホニウムを母骨格とするオニウムイオンとしては、例えば下記一般式(I)で表されるオニウムイオンが挙げられる。
【0051】
式(I)中、Yは、窒素原子またはリン原子である。R
1〜R
4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のアリール基、または−S−Rである。ここで、Sはスペーサー基であって炭素数1〜16のアルキレン基であり、Rは(メタ)アクリロイル基またはエポキシ基である。
【0052】
イミダゾリウムを母骨格とするオニウムイオンとしては、例えば下記一般式(II)で表されるオニウムイオンが挙げられる。
【0054】
式(II)中、R
1〜R
5はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜16のアルキル基、または−S−Rである。ここで、Sはスペーサー基であって炭素数1〜16のアルキレン基であり、Rは(メタ)アクリロイル基またはエポキシ基である。
【0055】
ピリジニウムを母骨格とするオニウムイオンとしては、例えば下記一般式(III)で表されるオニウムイオンが挙げられる。
【0057】
式(III)中、R
1〜R
6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜16のアルキル基、または−S−Rである。ここで、Sはスペーサー基であって炭素数1〜16のアルキレン基であり、Rは(メタ)アクリロイル基またはエポキシ基である。
【0058】
また、オニウムイオンは、例えば、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位を有するオニウムイオンであってもよい。
【0060】
ここで、Yは、窒素原子またはリン原子である。nは、1以上の整数である。
【0061】
ドーパント組成物は、上記アニオンおよびオニウムイオンを含有する化合物を含んでいてもよい。アニオンおよびオニウムイオンを含有する化合物としては、例えば下記式(a)〜(g)で表される化合物が挙げられる。
【0063】
上記式(a)は、水酸化テトラメチルアンモニウムである。上記式(b)は、水酸化テトラエチルアンモニウムである。上記式(c)は、水酸化トリメチルフェニルアンモニウムである。上記式(d)は、水酸化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムである。上記式(e)は、水酸化テトラブチルアンモニウムである。上記式(f)は、水酸化テトラブチルホスホニウムである。上記式(g)は、テトラブチルアンモニウムメトキシドである。
【0064】
上記式(a)〜(g)で表される化合物は、アニオンの解離性が良く、ナノ材料のゼーベック係数を効率よく変化させることができ、ナノ材料のゼーベック係数を正の値から負の値へと変化させることができるため、好ましい。
【0065】
上述のように、本発明の製造方法においては、ドーパントのルイス塩基性および分子間力に加えて、解離性が重要である。アニオンは、より多く解離することが好ましい。従って、アニオンおよびカチオンを含有する化合物の解離定数が重要である。例えば、当該化合物の解離定数pKaが7以上であることが好ましく、14以上であることがより好ましい。
【0066】
本発明のドーパント組成物には、必要に応じて、上述したアニオン、カチオン以外の物質が含まれていてもよい。このような物質としては、ドーパントの働きを阻害しないものであれば特に限定されない。
【0067】
また、本発明のドーパント組成物には、複数の種類のドーパントが含有されていてもよい。
【0068】
<接触工程>
接触工程は、ナノ材料に対して、当該ナノ材料のゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物を、溶媒中にて接触させることによってナノ材料とドーパント組成物との複合体(ナノ材料−ドーパント組成物複合体)を形成する工程である。
【0069】
接触工程では、ナノ材料とドーパント組成物とを接触させることができればよく、その方法は特に限定されないが、例えば、ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液にナノ材料を添加し、懸濁することによって両者を接触させることができる。ドーパント組成物とナノ材料とを十分に接触させる観点から、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液を、上記ナノ材料に含浸させることによって、または、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液中に上記ナノ材料をせん断分散させることによって、上記ナノ材料と上記ドーパント組成物とを接触させることが好ましい。
【0070】
さらには、均質化装置を用いてナノ材料を液中に分散させながら、ナノ材料とドーパント組成物とを接触させることが好ましい。均質化装置を用いてナノ材料を液中に分散させることによってドーパント組成物がナノ材料に接触し易くなり、その結果、ドーパント組成物とナノ材料とを十分に接触させることができる。
【0071】
上記均質化装置としては、ナノ材料を溶媒中で均質に分散させることができる装置であれば特に限定されないが、例えば、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等の公知の手段を用いることができる。なお、本明細書中において、単に「ホモジナイザー」と表記した場合は、「撹拌ホモジナイザー」が意図される。
【0072】
均質化装置の運転条件としては、ナノ材料を溶媒中に分散させることができる条件であれば特に限定されないが、均質化装置として、例えば、ホモジナイザーを用いる場合は、ナノ材料およびドーパント組成物を加えた溶媒を、ホモジナイザーの撹拌速度(回転数)20000rpmにて、室温(23℃)にて10分間懸濁することによって、ナノ材料を溶媒中に分散させることができる。
【0073】
ドーパント組成物を溶解させる溶媒としては、例えば、水であってもよく有機溶媒であってもよい。従って、本発明の製造方法は、様々なナノ材料へ適用することができる。有機溶媒としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の高極性溶媒を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0074】
ドーパント組成物を溶解させる濃度としては、任意の濃度であってよい。例えば、メタノール中の水酸化テトラメチルアンモニウムの濃度は0.001mol/L以上であってもよい。
【0075】
<乾燥工程>
乾燥工程は、溶媒を除去する工程である。溶媒を除去する方法は特に限定されず、例えば、真空オーブンを用いた方法等が挙げられる。なお、溶媒は完全に除去されなくてもよい。すなわち、本発明の効果を妨げない程度に溶媒が残存していてもよい。本発明の製造方法によれば、アニオンおよびカチオンの解離性が良いため、乾燥工程によって得られたナノ材料−ドーパント組成物複合体において、アニオンおよびカチオンは互いに解離した状態で存在する。よって、ナノ材料−ドーパント組成物複合体においては、ナノ材料に対してアニオンが効率的にドープされている。
【0076】
また、本発明の製造方法におけるドーパントはアニオンであり、従来のドーパントと比べて、手に入れやすく、安価なものである。また、溶媒としては水系溶媒および有機溶媒の両方を使用することができ、様々なナノ材料に適用可能である。さらに、本発明の製造方法は、加熱等の複雑な工程が不要である。従って、簡便に且つ効率よくナノ材料−ドーパント組成物複合体を製造することができる。よって、本発明の製造方法によれば、簡便に且つ効率よくナノ材料のゼーベック係数を変化させることができる。
【0077】
<成型工程>
本発明の製造方法は、ナノ材料またはナノ材料−ドーパント組成物複合体を所望の形状に成型する成型工程を包含していてもよい。例えば成型工程において、上記ナノ材料またはナノ材料−ドーパント組成物複合体を、フィルム状に成型してもよい。
【0078】
ここで、上記「フィルム状」は、シート状または膜状とも言い換えられる。「フィルム状に成型する」とは、ナノ材料またはナノ材料−ドーパント組成物複合体を1μm〜1000μmの厚みの膜に成型することが意図される。
【0079】
ナノ材料またはナノ材料−ドーパント組成物複合体をフィルム状に成型する方法としては、特に限定されないが、例えば、メンブレンフィルターを用いる方法が挙げられる。具体的には、ナノ材料またはナノ材料−ドーパント組成物複合体の懸濁液を、0.1〜2μm孔のメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過を行い、得られた膜を真空下、50〜150℃にて、1〜24時間乾燥させることにより、フィルム状に成型することができる。
【0080】
本発明の製造方法では、接触工程の前にナノ材料を成型してもよいし、接触工程を経たナノ材料−ドーパント組成物複合体を成型してもよい。接触工程の後で成型工程を行う場合、溶媒中に分散させた1つ1つのナノ材料にドーパント組成物を十分に吸着させることができる。その結果、フィルム内部のナノ材料がより均一にドープされたフィルム状材料を得ることができる。このため、接触工程の後で成型工程を行う場合は、例えば、フィルム内にドープされたn型導電性のナノ材料と未ドープのp型導電性のナノ材料が存在することによってゼーベック効果の相殺が起こる虞がない。
【0081】
〔ナノ材料−ドーパント組成物複合体〕
本発明にかかるナノ材料−ドーパント複合体(以下、「本発明のナノ材料−ドーパント組成物複合体」ともいう。)は、上述したナノ材料とドーパントとを含んでおり、本発明の製造方法によって製造されたことを特徴としている。換言すれば、本発明のナノ材料−ドーパント複合体は、ナノ材料と、当該ナノ材料のゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物とを含有しており、上記ドーパント組成物はアニオンとカチオンとを含有しており、上記アニオンは、ヒドロキシイオン、アルコキシイオン、チオイオン、アルキルチオイオン、シアヌルイオン、およびカルボキシイオンからなる群より選択される少なくとも1つであり、上記カチオンは、オニウムイオンである。また、上述のように、アニオンおよびカチオンの解離性が良いため、上記ドーパント組成物が含有しているアニオンおよびカチオンは互いに解離した状態で存在する。なお、上記〔ナノ材料−ドーパント組成物複合体の製造方法〕の項で既に説明した事項については、説明を省略する。
【0082】
本発明のナノ材料−ドーパント組成物複合体はn型導電性を示すことが好ましい。ナノ材料−ドーパント組成物複合体がn型導電性を有していれば、双極型素子において、当該ナノ材料−ドーパント組成物複合体をn型材料として使用することができる。
【0083】
本発明のナノ材料−ドーパント組成物複合体は、上記ナノ材料および上記ドーパント組成物以外の物質が含まれていてもよく、上記以外の物質の種類は限定されない。
【0084】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0085】
本発明の一実施例について
図2〜
図7に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0086】
〔オニウム塩を用いたドーピング〕
アニオンとオニウムイオンとを含有する化合物(オニウム塩)を用いて、ドーピングの効果を確認した。
【0087】
<実施例1>
オニウム塩として水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いた。カーボンナノチューブの束5mgを、0.1MのTMAHを溶解させた20mLのメタノールに加えた。得られた混合物を高速ホモジナイザ(ウルトラタラックス社製)によって、20000rpm、10分の条件でせん断分散させた。
【0088】
得られたカーボンナノチューブの分散液を0.2μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターを用いて吸引濾過した。さらに当該フィルターを12時間減圧乾燥させた後、メンブレンフィルターからカーボンナノチューブのフィルムを剥離した。
【0089】
得られたフィルムのゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置SB−200(MMR technologies社製)を用いて測定した。評価は、310K(ゼーベック効果測定装置の表示温度)にて行った。なお、カーボンナノチューブとしては独立行政法人産業技術総合研究所製の単層カーボンナノチューブ(以下、SGCNTとも称する)を用いた場合とKH Chemicals社製の単層カーボンナノチューブ(以下、KHCNTとも称する)を用いた場合とについて、それぞれフィルムを作製した。なお、以下では、得られたフィルムをCNTフィルムとも称する。
【0090】
<実施例2>
TMAHの代わりに、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0091】
<実施例3>
TMAHの代わりに、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0092】
<実施例4>
TMAHの代わりに、水酸化トリメチルフェニルアンモニウム(TPAH)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0093】
<実施例5>
TMAHの代わりに、水酸化テトラブチルホスホニウム(TBPH)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0094】
<実施例6>
TMAHの代わりに、水酸化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(ImH)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0095】
<実施例7>
TMAHの代わりに、テトラブチルアンモニウムメトキシド(TBAM)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0096】
<比較例1>
ドーパントを加えなかったこと(すなわち、TMAHを加えなかったこと)以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0097】
<比較例2>
TMAHの代わりに、ヨウ化テトラエチルアンモニウム(TEAI)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0098】
<比較例3>
TMAHの代わりに、塩化テトラメチルアンモニウム(TMACl)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0099】
<比較例4>
TMAHの代わりに、臭化テトラメチルアンモニウム(TMABr)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0100】
<比較例5>
TMAHの代わりに、硝酸テトラメチルアンモニウム(TMANO
3)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0101】
<比較例6>
TMAHの代わりに、テトラフルオロホウ酸テトラメチルアンモニウム(TMABF
4)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0102】
<比較例7>
TMAHの代わりに、過塩素酸テトラエチルアンモニウム(TEAClO
4)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0103】
<比較例8>
TMAHの代わりに、トリフルオロメタンスルホン酸テトラエチルアンモニウム(TEATfO)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0104】
<比較例9>
TMAHの代わりに、p−トルエンスルホン酸テトラエチルアンモニウム(TEATos)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0105】
<実験結果>
実施例1〜7、比較例1〜9の結果を
図2に示す。比較例1からドーピングしていないCNTフィルムはp型導電性を示すことがわかる。実施例1〜7においては、CNTフィルムはn型導電性を示した。比較例2〜9は、比較例1と同様にp型導電性を示した。
【0106】
これらの結果から、本発明の製造方法においてオニウム塩を用いた場合、ドーピングしていない未処理のCNTフィルムと比較してゼーベック係数の値を変化させ得ることが確認できた。これは、溶媒中におけるオニウム塩の解離性がよいためである。また、本発明の製造方法によって、オニウム塩としてTMAH、TEAH、TBAH、TPAH、TBPH、ImHまたはTBAMを用いた場合、CNTフィルムのゼーベック係数の値をより大きく変化させることができ、ゼーベック係数の値を正から負に変化させ得ることが確認できた。
【0107】
〔電界効果トランジスタにおけるドーピング〕
<実施例8>
カーボンナノチューブへのドーピングの効果を確認するために、
図3に示すような電界効果トランジスタ1を作製した。電界効果トランジスタ1では、ドーピングされたSiからなるゲート2(G)上にSiO
2からなる絶縁層3(厚さ300nm)が形成されている。さらに絶縁層3上にカーボンナノチューブ薄膜(厚さ<50nm)からなる活性層4が形成されている。そして、活性層4上に金(厚さ45nm)とクロム(厚さ5nm)とからなるソース電極5(S)が形成されている。ドレイン電極6(D)もソース電極と同様に金(厚さ45nm)とクロム(厚さ5nm)とからなり、活性層4上に形成されている。
【0108】
<実験結果>
得られた電界効果トランジスタを、日立微小デバイス特性評価装置nanoEBAC(登録商標)NE4000を用いて評価した。
図4は、
図3に示す電界効果トランジスタ1をソース電極5およびドレイン電極6が形成されている方向から観察した図である。V
SD=1Vとしてドレイン電流I
Dを測定した結果を
図5(a)に示す。
図5(a)から、活性層として未ドープのカーボンナノチューブを用いた場合はp型導電性を示すことがわかる。
【0109】
次に、カーボンナノチューブ薄膜に対して、0.01MのTMAHを溶解させた溶媒(メタノール)を添加し、再度ドレイン電流を測定した結果を
図5(b)に示す。
図5(b)から、TMAHを使用した場合、n型導電性を示すことがわかる。よって、CNTフィルムだけではなく、電界効果トランジスタを用いて評価した場合にも、本発明の製造方法による効果が確認できた。
【0110】
〔多層カーボンナノチューブへのドーピング〕
単層カーボンナノチューブの代わりに多層カーボンナノチューブを使用した場合のドーピングの効果を確認した。
【0111】
<実施例9>
多層カーボンナノチューブとしてはNT−7(保土谷化学製、平均繊維径65nm)を用い、アニオンを含有する化合物としてTMAHを用いた。多層カーボンナノチューブ5mgを、0.1MのTMAHを溶解させた20mLのメタノールに加えた。得られた混合物を高速ホモジナイザ(ウルトラタラックス社製)によって、20000rpm、10分の条件でせん断分散させた。
【0112】
得られたカーボンナノチューブの分散液を0.2μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターを用いて吸引濾過した。さらに当該フィルターを12時間減圧乾燥させた後、メンブレンフィルターからカーボンナノチューブのフィルムを剥離した。
【0113】
得られたフィルムのゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置SB−200(MMR technologies社製)を用いて測定した。評価は、310K(ゼーベック効果測定装置の表示温度)にて行った。
【0114】
<実施例10>
多層カーボンナノチューブとしてCT−12(保土谷化学製、平均繊維径110nm)を用いたこと以外は実施例9と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0115】
<実施例11>
多層カーボンナノチューブとしてCT−15(保土谷化学製、平均繊維径150nm)を用いたこと以外は実施例9と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0116】
<比較例10>
TMAHを加えなかったこと以外は実施例9と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0117】
<比較例11>
TMAHを加えなかったこと以外は実施例10と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0118】
<比較例12>
TMAHを加えなかったこと以外は実施例11と同様にしてCNTフィルムを作製し、ゼーベック係数を測定した。
【0119】
<実験結果>
実施例9〜11および比較例10〜12の結果を
図6に示す。ドーパントを使用しない場合にはCNTフィルムがp型導電性を示したのに対し、実施例9〜11に示すようにドーパントを使用した場合はゼーベック係数を大きく変化させることができ、CNTフィルムがn型導電性を示した。
【0120】
これらの結果から、本発明の製造方法によって、ナノ材料として多層カーボンナノチューブを用いた場合であっても、ドーピングしていない未処理のCNTフィルムと比較して、ゼーベック係数の値を大きく変化させることができ、ゼーベック係数の値を正から負に変化させ得ることが確認できた。また、本発明の製造方法は、平均繊維径の異なる様々な多層カーボンナノチューブに対して効果を奏することが確認できた。
【0121】
〔グラフェンへのドーピング〕
カーボンナノチューブの代わりにグラフェンを使用した場合のドーピングの効果を確認した。
【0122】
<実施例12>
ナノ材料として酸化グラフェン還元体(単層)を用い、アニオンを含有する化合物としてTMAHを用いた。酸化グラフェン還元体5mgを、0.1MのTMAHを溶解させた20mLのメタノールに加えた。得られた混合物を高速ホモジナイザ(ウルトラタラックス社製)によって、20000rpm、10分の条件でせん断分散させた。
【0123】
得られた酸化グラフェン還元体の分散液を0.2μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターを用いて吸引濾過した。さらに当該フィルターを12時間減圧乾燥させた後、メンブレンフィルターから酸化グラフェン還元体のフィルムを剥離した。
【0124】
得られたフィルムのゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置SB−200(MMR technologies社製)を用いて測定した。評価は、310K(ゼーベック効果測定装置の表示温度)にて行った。
【0125】
また、TMAHを用いずに調製した酸化グラフェン還元体のフィルムについても同様にゼーベック係数を測定した。
【0126】
<実験結果>
ドーパントを使用しない場合にはグラフェンのフィルムがp型導電性を示した(ゼーベック係数:11μV/K)のに対し、ドーパントを使用した場合はグラフェンのフィルムがn型導電性(ゼーベック係数:−6.2μV/K)を示した。
【0127】
この結果から、本発明の製造方法によって、ナノ材料としてグラフェンを用いた場合であっても、ドーピングしていない未処理のフィルムと比較して、ゼーベック係数の値を大きく変化させることができ、ゼーベック係数の値を正から負に変化させ得ることが確認できた。
【0128】
〔Teナノワイヤへのドーピング〕
カーボンナノチューブの代わりにテルルからなるナノワイヤ(Teナノワイヤ)を使用した場合のドーピングの効果を確認した。
【0129】
<実施例13>
ナノ材料としてTeナノワイヤを用い、アニオンを含有する化合物としてTMAHを用いた。まず、500mLの三口フラスコに、4.99mg(22.5mmol)のNa
2TeO
3、7.5gのポリビニルピロリドン、4.5gのNaOH、150mLのエチレングリコールを加えた。三口フラスコが有する一口を真空/窒素ラインへと接続し、他の二口をセプタムで封かんした。この系の中を室温で15分間脱気し、N
2置換した。その後、三口フラスコを加熱し、当該系を160℃まで昇温した(昇温速度15℃/min)。このとき、温度上昇とともに無色透明であった溶液が徐々に紫色に変化した。160℃まで昇温した状態で、7.5mLのヒドラジン一水和物を加え、10分間加熱還元した。その後、加熱を止めて室温に戻るまで窒素雰囲気下にて撹拌した。以上の方法により、Teナノワイヤが得られた。得られたTeナノワイヤをSEMにて観察した結果を
図7に示す。
【0130】
得られたTeナノワイヤ5mgを、0.1MのTMAHを溶解させた20mLのメタノールに加えた。得られた混合物を高速ホモジナイザ(ウルトラタラックス社製)によって、20000rpm、10分の条件でせん断分散させた。
【0131】
得られたTeナノワイヤの分散液を0.2μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターを用いて吸引濾過した。さらに当該フィルターを12時間減圧乾燥させた後、メンブレンフィルターからTeナノワイヤのフィルムを剥離した。
【0132】
得られたフィルムのゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置SB−200(MMR technologies社製)を用いて測定した。評価は、310K(ゼーベック効果測定装置の表示温度)にて行った。
【0133】
また、TMAHを用いずに調製したTeナノワイヤのフィルムについても同様にゼーベック係数を測定した。
【0134】
<実験結果>
ドーパントを使用しない場合にはTeナノワイヤのフィルムがp型導電性を示した(ゼーベック係数:523μV/K)のに対し、ドーパントを使用した場合はTeナノワイヤのフィルムがn型導電性(ゼーベック係数:−445μV/K)を示した。
【0135】
この結果から、本発明の製造方法によって、半導体、半金属等のナノワイヤ(炭素材料以外のナノ材料)を用いた場合であっても、ドーピングしていない未処理のフィルムと比較して、フィルムのゼーベック係数の値を大きく変化させることができ、ゼーベック係数の値を正から負に変化させ得ることが確認できた。