(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両に搭載されたケーシングと、前記ケーシング内に設けられ原動機の回転を変速する変速機と、前記ケーシング内に設けられ前記原動機の回転を流体を介して前記変速機に伝達するトルクコンバータと、前記トルクコンバータに設けられ前記原動機の回転を前記変速機に直接伝達するロックアップ装置とを備え、
前記トルクコンバータは、前記ケーシングに回転可能に支持され前記原動機によって回転する回転体と、前記ケーシングに回転可能に支持され前記回転体の回転を流体を介してまたは前記ロックアップ装置を介して前記変速機に伝達する中空筒状の伝達軸とを含んで構成され、
前記ロックアップ装置は、油圧ポンプから供給される圧油によって前記回転体と前記伝達軸との間を接続するロックアップクラッチと、前記ロックアップクラッチへの圧油の給排を制御するロックアップ制御弁と、前記ロックアップ制御弁からの圧油を前記ロックアップクラッチに導くロックアップ油通路とを含んで構成してなる車両用動力伝達装置において、
前記ロックアップ制御弁は前記ケーシングの外側面に位置して、かつ前記伝達軸の径方向において当該伝達軸と重なり合う位置に配置され、
前記ロックアップ油通路は、前記ケーシングに設けられ前記ロックアップ制御弁に接続されたケーシング側油通路と、前記伝達軸内に設けられ流入側が前記ケーシング側油通路に接続された伝達軸側油通路と、前記回転体に設けられ前記伝達軸側油通路の流出側と前記ロックアップクラッチとの間を接続する回転体側油通路とにより構成され、
前記ケーシング側油通路は、前記ロックアップ制御弁と前記伝達軸側油通路との間を前記伝達軸の径方向に直線状に延びる直線状油通路として形成され、
前記ケーシングの外側面のうち前記ロックアップ制御弁が取付けられる面は、前記ケーシングの外側面を前記伝達軸に向けて凹陥させた凹陥状弁取付面として形成され、
前記凹陥状弁取付面には、前記ケーシング側油通路と、前記ケーシングに形成され前記油圧ポンプの吐出側に接続されたポンプ接続油通路とが開口され、
前記凹陥状弁取付面と前記ロックアップ制御弁との間には平板状の取付プレートが設けられ、
該取付プレートには、前記ポンプ接続油通路と前記ロックアップ制御弁の流入ポートとの間を連通させる流入側連通路と、前記ロックアップ制御弁の吐出ポートと前記ケーシング側油通路との間を連通させる吐出側連通路が設けられていることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る車両用動力伝達装置の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0023】
図1ないし
図9は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1はホイール式の作業車両の代表例としてのホイールローダを示している。このホイールローダ1は、左,右の前車輪2が設けられた前部車体3と左,右の後車輪4が設けられた後部車体5とが、連結機構6を介して左,右方向に屈曲可能に連結されたアーティキュレート式の作業車両として構成されている。前部車体3と後部車体5との間にはステアリングシリンダ7が設けられ、このステアリングシリンダ7を伸縮させることにより、前部車体3と後部車体5とが左,右方向に屈曲し、ホイールローダ1の走行時の操舵を行うことができる。
【0024】
ここで、ホイールローダ1の前部車体3には、ローダバケット8Aを備えた作業装置8が俯仰動可能に設けられている。一方、ホイールローダ1の後部車体5には、運転室を画成するキャブ9、原動機としてのエンジン10、後述の車両用動力伝達装置15等が設けられている。
【0025】
さらに、前部車体3の下側には、左,右方向に延びるフロントアクスル(前車軸)11が設けられ、該フロントアクスル11の両端側には左,右の前車輪2が取付けられている。一方、後部車体5の下側には、左,右方向に延びるリヤアクスル(後車軸)12が設けられ、該リヤアクスル12の両端側には左,右の後車輪4が取付けられている。フロントアクスル11は、プロペラシャフト13を介して後述する車両用動力伝達装置15の出力軸38に接続され、リヤアクスル12は、プロペラシャフト14を介して車両用動力伝達装置15の出力軸38に接続されている。
【0026】
次に、本実施の形態に用いられる車両用動力伝達装置について説明する。
【0027】
車両用動力伝達装置15は、ホイールローダ1の後部車体5に搭載されている。この車両用動力伝達装置15は、エンジン10の回転出力を減速してフロントアクスル11及びリヤアクスル12に伝達するものである。ここで、車両用動力伝達装置15は、後述のケーシング16、変速機23、トルクコンバータ41、ロックアップ装置63等により構成されている。
【0028】
ケーシング16は、車両用動力伝達装置15の外殻を構成している。このケーシング16は、
図6等に示すように、前,後方向の前側に位置するフロントケーシング17と、中間部に位置する中間ケーシング18と、前,後方向の後側(エンジン10側)に位置するリヤケーシング19と、リヤケーシング19の後端部を施蓋する蓋体20とを含んで構成されている。蓋体20の中央部には、段付き円筒状のボス部材21が取付けられ、ボス部材21の内周側は貫通孔21Aとなっている。
【0029】
図6ないし
図8に示すように、軸支持部22は、中間ケーシング18の上端側の内周面に下向きに突設されている。この軸支持部22はブロック状をなし、後述する伝達軸55および軸体61の前端側を支持するものである。軸支持部22には、後述の軸受57が取付けられる大径な軸受取付孔22Aと、伝達軸55が挿通される軸挿通孔22Bと、後述の軸受62が取付けられる小径な軸受取付孔22Cとが形成されている。さらに、軸支持部22には、後述する油圧ポンプ69の吐出側に接続され、油圧ポンプ69からの圧油が流入するポンプ接続油通路22Dと、後述するケーシング側油通路76が形成されている。
【0030】
リヤケーシング19の軸挿通孔19Aは、リヤケーシング19の前面部19Bのうち軸支持部22と対面する部位に形成されている。この軸挿通孔19Aは、後述の伝達軸55が挿通されるもので、軸支持部22の軸挿通孔22Bと同軸上に形成されている。また、リヤケーシング19の上側には、後述するポンプ駆動歯車54を収容する歯車収容部19Cが形成されると共に、後述の油圧ポンプ69が取付けられるポンプ取付孔19Dが形成されている。
【0031】
変速機23は、後述のトルクコンバータ41と共にケーシング16内に設けられている。変速機23は、トルクコンバータ41によって伝達されるエンジン10の回転を変速し、プロペラシャフト13,14に出力するものである。ここで、変速機23は、後述する前進軸24、前進クラッチ機構27、後進軸28、回転軸29、第1,第2の変速軸32,33、1速用クラッチ機構37A、2速用クラッチ機構37B、出力軸38等により構成されている。
【0032】
前進軸24は、後述する伝達軸55の下側に配置され、ホイールローダ1を前進走行させるときに伝達軸55に接続されるものである。前進軸24は、軸方向の一端側が軸受24Aを介して中間ケーシング18に支持されると共に、軸方向の他端側が軸受24Bを介してリヤケーシング19の前面部19Bに支持されている。
【0033】
入力歯車25は、前進軸24の軸方向の中間部位に設けられ、後述する伝達歯車60に常時噛合している。ここで、入力歯車25と前進軸24との間にはニードル軸受25Aが設けられ、入力歯車25は前進軸24に対して回転可能となっている。一方、前進軸24の軸方向の他端側には、出力歯車26がスプライン結合され、該出力歯車26は前進軸24と常に一体に回転する。
【0034】
油圧式の前進クラッチ機構27は、前進軸24と入力歯車25との間に設けられている。ホイールローダ1を前進走行させるときには、前進クラッチ機構27を接続することにより、前進軸24と入力歯車25とが接続状態となって一体化する。これにより、伝達歯車60の回転が、入力歯車25、前進軸24、出力歯車26を介して後述の回転軸29に伝達される。一方、ホイールローダ1を後進走行させるときには、前進クラッチ機構27を遮断することにより、前進軸24と入力歯車25とが切離されて前進軸24への動力伝達が断たれる。
【0035】
ここで、
図4に示すように、後進軸28は、伝達軸55を挟んで前進軸24と反対側に配置されている。後進軸28は、ホイールローダ1を後進走行させるときに伝達軸55に接続されるものである。この後進軸28にも、前進軸24と同様な入力歯車、出力歯車、後進クラッチ機構(いずれも図示せず)が設けられている。従って、前進クラッチ機構27を遮断した状態で、後進クラッチ機構を接続することにより、伝達歯車60の回転が、後進軸28等を介して後述の回転軸29に伝達される。
【0036】
回転軸29は、前進軸24及び後進軸28の下側に配置されている。回転軸29は、軸方向の一端側が軸受29Aを介して中間ケーシング18に支持され、軸方向の他端側が軸受29Bを介してリヤケーシング19の前面部19Bに支持されている。回転軸29の軸方向の一端側には出力歯車30が一体に形成され、回転軸29の軸方向の他端側には、出力歯車30よりも大径な入出力歯車31がスプライン結合されている。
【0037】
第1の変速軸32と第2の変速軸33とは、回転軸29の下側に並列に並んで配置されている(
図4参照)。第1の変速軸32は、回転軸29の回転を、回転数域が小さい1速回転、または1速回転よりも回転数域が大きな2速回転のいずれかに変速して後述の出力軸38に伝達する。一方、第2の変速軸33は、回転軸29の回転を、上述の2速回転よりも回転数域が大きな3速回転、または3速回転よりも回転数域が大きな4速回転のいずれかに変速して出力軸38に伝達する。
【0038】
第1の変速軸32は、軸方向の一端側が軸受32Aを介して中間ケーシング18に支持され、軸方向の他端側が軸受32Bを介してリヤケーシング19の前面部19Bに支持されている。第1の変速軸32の軸方向の一端部は、軸受32Aを通じてフロントケーシング17内に突出している。第1の変速軸32の軸方向の中間部位には、1速用入力歯車34が設けられ、該1速用入力歯車34は、回転軸29の出力歯車30に常時噛合している。1速用入力歯車34と第1の変速軸32との間にはニードル軸受33Aが設けられ、1速用入力歯車34は、第1の変速軸32に対して回転可能となっている。
【0039】
2速用入力歯車35は、第1の変速軸32の軸方向の中間部位に、1速用入力歯車34に隣接して設けられている。2速用入力歯車35は、1速用入力歯車34よりも小径な歯車からなり、回転軸29に取付けられた入出力歯車31に常時噛合している。2速用入力歯車35と第1の変速軸32との間にはニードル軸受35Aが設けられ、2速用入力歯車35は第1の変速軸32に対して回転可能となっている。
【0040】
出力歯車36は、第1の変速軸32の軸方向の一端部にスプライン結合されている。出力歯車36は、フロントケーシング17内に配置され、後述する出力軸38の低速側入力歯車39Aに常時噛合している。出力歯車36には、第1の変速軸32と同心状の円筒部36Aが突設され、該円筒部36Aは軸受36Bを介してフロントケーシング17に支持されている。
【0041】
油圧式の1速用クラッチ機構37Aは、第1の変速軸32と1速用入力歯車34との間に設けられている。1速用クラッチ機構37Aは、出力軸38を1速回転で回転させるときに操作されるものである。即ち、1速用クラッチ機構37Aを接続したときには、第1の変速軸32と1速用入力歯車34とが接続状態となって一体化し、1速用クラッチ機構37Aを遮断したときには、第1の変速軸32と1速用入力歯車34との接続が断たれる構成となっている。
【0042】
油圧式の2速用クラッチ機構37Bは、第1の変速軸32と2速用入力歯車35との間に設けられている。2速用クラッチ機構37Bは、出力軸38を2速回転で回転させるときに操作されるものである。即ち、2速用クラッチ機構37Bを接続したときには、第1の変速軸32と2速用入力歯車35とが接続状態となって一体化し、2速用クラッチ機構37Bを遮断したときには、第1の変速軸32と2速用入力歯車35との接続が断たれる構成となっている。
【0043】
従って、ホイールローダ1を1速回転で走行させるときには、1速用クラッチ機構37Aを接続することにより、第1の変速軸32と1速用入力歯車34とを接続状態とする。これにより、回転軸29の回転が、出力歯車30、1速用入力歯車34、第1の変速軸32、出力歯車36を介して出力軸38に伝達される。一方、ホイールローダ1を2速回転で走行させるときには、2速用クラッチ機構37Bを接続することにより、第1の変速軸32と2速用入力歯車35とを接続状態とする。これにより、回転軸29の回転が、入出力歯車31、2速用入力歯車35、第1の変速軸32、出力歯車36を介して後述の出力軸38に伝達される構成となっている。
【0044】
一方、第2の変速軸33には、第1の変速軸32と同様に、3速用入力歯車と4速用入力歯車(いずれも図示せず)とが、それぞれ回転可能に設けられている。また、第2の変速軸33と3速用入力歯車との間には3速用クラッチ機構(図示せず)が設けられ、第2の変速軸33と4速用入力歯車との間には4速用クラッチ機構(図示せず)が設けられている。
【0045】
従って、ホイールローダ1を3速回転で走行させるときには、第2の変速軸33と3速用入力歯車(図示せず)とを接続状態とすることにより、回転軸29の回転が、出力歯車30、3速用入力歯車(図示せず)、第2の変速軸33、出力歯車(図示せず)を介して出力軸38に伝達される。一方、ホイールローダ1を4速回転で走行させるときには、第2の変速軸33と4速用入力歯車(図示せず)とを接続状態とすることにより、回転軸29の回転が、入出力歯車31、4速用入力歯車(図示せず)、第2の変速軸33、出力歯車(図示せず)を介して出力軸38に伝達される構成となっている。
【0046】
出力軸38は、第1の変速軸32及び第2の変速軸33の下側に配置されている。出力軸38は、軸方向の一端側が軸受38Aを介してフロントケーシング17に支持され、軸方向の他端側が軸受38Bを介して中間ケーシング18に支持されている。出力軸38の一端側は軸受38Aを通じてフロントケーシング17の外部に突出し、その突出端部には前側フランジ38Cが取付けられている。出力軸38の他端側は軸受38Bを通じて中間ケーシング18の外部に突出し、その突出端部には後側フランジ38Dが取付けられている。
【0047】
プロペラシャフト13は、出力軸38の前側フランジ38Cに接続され、プロペラシャフト14は、出力軸38の後側フランジ38Dに接続される。これにより、出力軸38の回転出力は、プロペラシャフト13を介してホイールローダ1のフロントアクスル11に伝達されると共に、プロペラシャフト14を介してホイールローダ1のリヤアクスル12に伝達される。
【0048】
低速側入力歯車39Aと高速側入力歯車39Bとは、出力軸38の軸方向の中間部位にスプライン結合されている。低速側入力歯車39Aは、第1の変速軸32に取付けられた出力歯車36に常時噛合し、高速側入力歯車39Bは、第2の変速軸33に取付けられた出力歯車(図示せず)に常時噛合している。
【0049】
従って、回転軸29の回転が、1速用クラッチ機構37Aまたは2速用クラッチ機構37Bを介して第1の変速軸32に伝達されたときには、この第1の変速軸32の回転(1速回転または2速回転)が、出力歯車36、低速側入力歯車39Aを介して出力軸38に伝達される。一方、回転軸29の回転が、3速用クラッチ機構または4速用クラッチ機構(いずれも図示せず)を介して第2の変速軸33に伝達されたときには、この第2の変速軸33の回転(3速回転または4速回転)が、出力歯車(図示せず)、高速側入力歯車39Bを介して出力軸38に伝達される。
【0050】
一方、出力歯車36を構成する円筒部36Aは、軸受36Bを通じてフロントケーシング17の外部に突出している。円筒部36Aの突出端部とフロントケーシング17との間にはブレーキ装置40が設けられ、このブレーキ装置40は、ホイールローダ1の停止時に、第1の変速軸32に対して制動力を付与するものである。
【0051】
次に、変速機23と共にケーシング16内に設けられたトルクコンバータについて説明する。
【0052】
トルクコンバータ41は、エンジン10の回転を流体を介して変速機23に伝達するものである。トルクコンバータ41は、
図7等に示すように、後述の取付ベース42、回転体44、伝達軸55等を含んで構成されている。
【0053】
取付ベース42は、トルクコンバータ41をケーシング16内に取付けるもので、取付ベース42は、円板状の鍔部42Aと、鍔部42Aの中心部から後側(蓋体20側)に突出した円筒部42Bとを有している。取付ベース42の鍔部42Aは、リヤケーシング19の軸挿通孔19Aを取囲んだ状態で、ボルト43を用いてリヤケーシング19の前面部19Bに取付けられている。
【0054】
回転体44は、トルクコンバータ41の主要部を構成するもので、エンジン10によって回転するものである。回転体44は、全体として中空な環状(ドーナツ状)に形成され後側(蓋体20側)が開口端となったコンバータハウジング45と、該コンバータハウジング45の開口端を施蓋するハウジングカバー46と、ハウジングカバー46の中心部に取付けられた支持筒体47とにより構成されている。
【0055】
コンバータハウジング45内には、多数の羽根からなるポンプインペラ45A、タービンランナ45B、ステータ45Cが設けられると共に、オイル等からなる動力伝達用の流体が充填されている。コンバータハウジング45の後側の内周面には、環状のフランジ板45Dが設けられ、このフランジ板45Dはハウジングカバー46と前,後方向に間隔をもって対面している。
【0056】
ハウジングカバー46は、全体として円板状に形成され、その中心部には貫通孔46Aが形成されている。ハウジングカバー46のうちコンバータハウジング45側に位置する内側面には、後述するピストン65が挿嵌される環状のピストン挿嵌溝46Bが形成されている。ハウジングカバー46は、ボルト46Cを用いてコンバータハウジング45に取付けられている。ハウジングカバー46の後端面には、貫通孔46Aを取囲んで環状のシールリング(Oリング)46Dが設けられ、シールリング46Dは、後述する支持筒体47の鍔部47Aとハウジングカバー46との間をシールしている。また、ハウジングカバー46には、後述する第2の回転体側油通路80が形成されている。
【0057】
支持筒体47は、円板状の鍔部47Aと、鍔部47Aの中心部から前側(取付ベース42側)に突出した円筒状の嵌合筒部47Bと、鍔部47Aの中心部から後側に突出した円筒部47Cとにより構成されている。嵌合筒部47Bの先端側外周面には、環状のシールリング47Dが嵌着され、シールリング47Dは、嵌合筒部47Bとハウジングカバー46との間をシールしている。嵌合筒部47Bの先端側内周面には、環状のシールリング47Eが嵌着され、シールリング47Eは、後述の伝達軸55と嵌合筒部47Bの内周面との間をシールしている。また、嵌合筒部47Bには、後述する第1の回転体側油通路79が形成されている。
【0058】
一方、円筒部47Cの後端側は、封止栓47Fによって液密に封止されている。支持筒体47の嵌合筒部47Bは、ハウジングカバー46の貫通孔46A内に嵌合され、支持筒体47の鍔部47Aは、ハウジングカバー46にボルト47Gを用いて取付けられている。
【0059】
コンバータハウジング45は、軸受48を介して取付ベース42の円筒部42Bに回転可能に支持されている。支持筒体47の円筒部47Cは、ケーシング16のボス部材21に軸受49を介して回転可能に支持されている。従って、回転体44は、ケーシング16に対し、軸受48,49を介して回転可能に支持されている。
【0060】
支持筒体47の円筒部47Cは、ボス部材21の貫通孔21Aを通じてケーシング16の外部に突出している。円筒部47Cの突出端側には、継手50がスプライン結合されている。継手50は、例えばエンジン10のフライホイール等(図示せず)に接続され、エンジン10の回転は、継手50を介して回転体44に伝達される。
【0061】
ポンプ用出力歯車51は、回転体44を構成するコンバータハウジング45の前側(取付ベース42の鍔部42A側)に、ボルト51Aを用いて固定されている。ポンプ用出力歯車51は、リヤケーシング19に軸受52,53を介して回転可能に支持されたポンプ駆動歯車54に常時噛合している。
【0062】
トルクコンバータ41の伝達軸55は、中空な円筒体として形成され、回転体44の回転を変速機23に伝達するものである。伝達軸55は、軸方向の中間部が取付ベース42の円筒部42Bの内周側に挿通され、軸方向の前端部が軸支持部22の軸挿通孔22Bに挿通されると共に、軸方向の後端部が支持筒体47の嵌合筒部47Bの内周側に挿通されている。伝達軸55の軸方向の中間部は、リヤケーシング19の軸挿通孔19Aに取付けられた軸受56を介してリヤケーシング19に回転可能に支持され、伝達軸55の軸方向の前端側は、軸支持部22の軸受取付孔22Aに取付けられた軸受57を介して中間ケーシング18に回転可能に支持されている。
【0063】
伝達軸55の前端側は、軸受57を通じて軸支持部22の軸挿通孔22B内に突出している。ここで、
図8に示すように、伝達軸55の前端側には、その外周面に全周に亘って環状溝55Aが形成されると共に、この環状溝55Aを伝達軸55の内周側に連通させる複数本の連通路55Bが形成されている。伝達軸55の外周面のうち環状溝55Aを軸方向で挟む2箇所には、2個のシールリング55Cが嵌着されている。一方、伝達軸55の後端側には、径方向に貫通する径方向油孔55Dが形成され、この径方向油孔55Dは、支持筒体47に形成された後述する第1の回転体側油通路79に連通している。
【0064】
円板状の接続フランジ58は、伝達軸55の軸方向の後端側に設けられている。接続フランジ58の中心部には円筒状のボス部58Aが設けられ、該ボス部58Aは、伝達軸55にスプライン結合されている。また、ボス部58Aは、ハウジングカバー46の貫通孔46Aに取付けられた軸受59を介して回転体44に回転可能に支持されている。従って、伝達軸55は、回転体44に対して相対回転が可能な状態で、ケーシング16に回転可能に支持されている。
【0065】
接続フランジ58の径方向の中間部位は、コンバータハウジング45内のタービンランナ45Bに固定されている。従って、タービンランナ45Bの回転は、接続フランジ58を介して伝達軸55に伝達される。また、接続フランジ58の外周縁部には、後述するロックアップ装置63のディスク67が係合するディスク係合部58Bが形成されている。
【0066】
伝達歯車60は、伝達軸55の軸方向の前端側にスプライン結合されている。伝達歯車60は、軸支持部22に隣接して配置され、変速機23の入力歯車25に常時噛合している。
【0067】
軸体61は、伝達軸55の内周側に、当該伝達軸55と同軸に配置されている。軸体61の前端側は、軸支持部22の軸受取付孔22Cに取付けられた軸受62を介して中間ケーシング18に回転可能に支持されている。軸体61の後端部は、回転体44を構成する支持筒体47の内周側にスプライン結合されている。軸体61の軸方向の中間部位は、軸方向の両端側よりも小径に形成されている。これにより、伝達軸55と軸体61との間には環状の隙間が軸方向に延びて形成され、この隙間が後述の伝達軸側油通路77となっている。
【0068】
軸体61の前端部は、軸受62から突出し、中間ケーシング18に取付けられた外部機器に接続される構成となっている。また、
図8に示すように、軸体61の先端側外周面には、環状のシールリング61Aが設けられている。シールリング61Aは、伝達軸55の内周面と軸体61の外周面との間をシールしている。
【0069】
トルクコンバータ41の回転体44は、エンジン10の回転が継手50を介して伝達されることにより回転する。回転体44のコンバータハウジング45は、ポンプインペラ45Aと共に回転し、このときにコンバータハウジング45内に発生した流体の流れによってタービンランナ45Bが回転する。タービンランナ45Bの回転は、接続フランジ58を介して伝達軸55に伝達される。これにより、伝達軸55にスプライン結合された伝達歯車60の回転が、変速機23の入力歯車25に伝達される構成となっている。
【0070】
次に、トルクコンバータ41に設けられたロックアップ装置について説明する。
【0071】
ロックアップ装置63は、トルクコンバータ41の流体を介することなく、エンジン10の回転を変速機23に直接伝達するものである。ここで、ロックアップ装置63は、後述するロックアップクラッチ64と、油圧ポンプ69と、ロックアップ制御弁70と、ロックアップ油通路75とにより構成されている。
【0072】
ロックアップクラッチ64は、伝達軸55にスプライン結合された接続フランジ58と回転体44との間に設けられている。ロックアップクラッチ64は、ピストン65と、プレート66と、ディスク67とにより構成されている。ピストン65は、環状の板体により形成され、ハウジングカバー46のピストン挿嵌溝46B内に軸方向に摺動可能に挿嵌されている。ハウジングカバー46の内側面とピストン65との間には、環状の油室68が形成され、該油室68には、ハウジングカバー46に形成された後述の第2の回転体側油通路80が開口している。
【0073】
プレート66は、環状の板体により形成されている。プレート66は、ピストン65との間に間隔を形成した状態で、コンバータハウジング45の内周側に配置されている。この場合、プレート66は、コンバータハウジング45のフランジ板45Dに当接することにより、軸方向への移動が規制されている。
【0074】
ディスク67は、プレート66よりも薄肉な環状の板体により形成されている。ディスク67は、ピストン65とプレート66との間に挟まれる状態で、接続フランジ58に取付けられている。この場合、ディスク67の内周縁部は、接続フランジ58の外周縁部に形成されたディスク係合部58Bに係合している。これにより、ディスク67は、接続フランジ58に対し、周方向への移動(回転)が禁止され、軸方向にのみ移動可能となっている。
【0075】
従って、後述する油圧ポンプ69からの圧油が油室68内に供給されたときには、ピストン65とプレート66との間でディスク67が挟持され、回転体44と伝達軸55とは、ディスク67および接続フランジ58を介して一体化する。これにより、伝達軸55に対し、回転体44の回転が直接伝達される構成となっている。
【0076】
ロックアップ用の油圧ポンプ69は、リヤケーシング19のポンプ取付孔19Dに取付けられている。油圧ポンプ69のポンプ軸69Aは、リヤケーシング19の歯車収容部19C内に突出し、ポンプ駆動歯車54の内周側にスプライン結合されている。従って、回転体44が回転し、コンバータハウジング45に取付けたポンプ用出力歯車51がポンプ駆動歯車54を回転させることにより、油圧ポンプ69が駆動される。油圧ポンプ69は、例えばケーシング16内に充填された潤滑油を、後述するロックアップ制御弁70を介してロックアップクラッチ64に向けて吐出する。
【0077】
ロックアップ制御弁70は、油圧ポンプ69から吐出した圧油のロックアップクラッチ64に対する供給を制御するものである。ここで、ロックアップ制御弁70は、例えば
図9に示すように、3ポート2位置の電磁パイロット式方向制御弁によって構成されている。ロックアップ制御弁70は、例えばホイールローダ1の走行速度が予め定めた所定の速度未満であり、電磁パイロット部に信号が供給されていないときには、弁位置(A)を保持する。一方、ホイールローダ1の速度が予め定めた所定の速度以上となり、電磁パイロット部に信号が供給されたときには、弁位置(B)に切換わる。ロックアップ制御弁70が弁位置(B)に切換わることにより、油圧ポンプ69からの圧油がロックアップクラッチ64の油室68に供給される。なお、油圧ポンプ69とロックアップ制御弁70との間を接続する油路の途中には、フィルタ71とオーバロードリリーフ弁72が設けられている。
【0078】
ここで、ロックアップ制御弁70は、中間ケーシング18の外側面18Bのうち、伝達軸55の径方向において当該伝達軸55と重なり合う位置に配置されている。具体的には、ロックアップ制御弁70は、伝達軸55の軸心の上方(伝達軸55の真上)となる位置に配置されている。中間ケーシング18の外側面18Bには、凹陥状弁取付面73が形成されており、ロックアップ制御弁70は、後述の取付プレート74を介して凹陥状弁取付面73に固定されている。
【0079】
凹陥状弁取付面73は、中間ケーシング18の外側面18Bのうち伝達軸55の軸心の上方となる位置に設けられている。凹陥状弁取付面73は、中間ケーシング18の外側面18Bを伝達軸55に向けて凹陥させることにより、四角形状をなす平坦面として形成されている。従って、凹陥状弁取付面73は、中間ケーシング18の外側面18Bよりも高さ寸法Hだけ窪んでいる(
図8参照)。従って、凹陥状弁取付面73にロックアップ制御弁70を取付けることにより、中間ケーシング18の外側面18Bからのロックアップ制御弁70の突出量を低減することができる構成となっている。また、凹陥状弁取付面73には、中間ケーシング18の軸支持部22に形成されたポンプ接続油通路22D、後述のケーシング側油通路76が開口している。
【0080】
取付プレート74は、凹陥状弁取付面73とロックアップ制御弁70との間に配置されている。取付プレート74は、凹陥状弁取付面73よりも一回り小さい四角形の平板状に形成されている。取付プレート74には複数個のボルト挿通孔74Aが設けられている。各ボルト挿通孔74Aに挿通したボルト74Bは、中間ケーシング18の凹陥状弁取付面73に螺着される。これにより、取付プレート74は、ボルト74Bを用いて凹陥状弁取付面73に固定される。また、取付プレート74には、複数個のボルト孔(雌ねじ孔)74Cが形成されている。ロックアップ制御弁70のボルト挿通部70Aには、ボルト70Bが挿通され、このボルト70Bをボルト孔74Cに螺着することにより、取付プレート74上にロックアップ制御弁70が取付けられている(
図3参照)。
【0081】
さらに、取付プレート74には、流入側連通路74Dと吐出側連通路74Eとが設けられている(
図8参照)。流入側連通路74Dは、中間ケーシング18の軸支持部22に設けられたポンプ接続油通路22Dとロックアップ制御弁70の流入ポートとの間を連通させる。吐出側連通路74Eは、ロックアップ制御弁70の吐出ポートと後述するケーシング側油通路76との間を連通させる。この場合、流入側連通路74Dは、L型に屈曲した状態でポンプ接続油通路22Dとロックアップ制御弁70の流入ポートとの間を連通している。一方、吐出側連通路74Eは、取付プレート74の板厚方向(上,下方向)に直線状に延びた状態で、ロックアップ制御弁70の吐出ポートとケーシング側油通路76との間を連通している。
【0082】
次に、ロックアップクラッチ64、ロックアップ制御弁70と共にロックアップ装置63を構成するロックアップ油通路について説明する。
【0083】
ロックアップ油通路75は、油圧ポンプ69から吐出した圧油をロックアップ制御弁70を通じてロックアップクラッチ64に導くものである。このロックアップ油通路75は、
図7に示すように、ケーシング側油通路76と、伝達軸側油通路77と、回転体側油通路78とにより構成されている。
【0084】
ケーシング側油通路76は、中間ケーシング18の軸支持部22に形成され、ロックアップ制御弁70と伝達軸側油通路77との間を接続する。
図8に示すように、ケーシング側油通路76の一端側76Aは、凹陥状弁取付面73に開口し、この凹陥状弁取付面73に取付けられた取付プレート74の吐出側連通路74Eを介してロックアップ制御弁70の吐出ポートに接続されている。ケーシング側油通路76の他端側76Bは、伝達軸55の環状溝55Aに対応する位置で、軸支持部22に設けられた軸挿通孔22Bに開口している。
【0085】
ここで、ケーシング側油通路76は、伝達軸55の径方向に直線状に延びる直線状油通路として形成されている。即ち、ケーシング側油通路76は、ロックアップ制御弁70の吐出ポートと後述する伝達軸側油通路77の流入口77Aとの間を上,下方向に延び、途中に屈曲した部位がない1本の直線状油通路として形成されている。これにより、油圧ポンプ69から吐出した圧油が、ケーシング側油通路76を流れるときの圧力損失を低減することができる構成となっている。
【0086】
伝達軸側油通路77は、伝達軸55の内周側に形成され、ケーシング側油通路76と回転体側油通路78との間を接続するものである。ここで、伝達軸側油通路77は、伝達軸55の内周側に配置された軸体61の外周面と伝達軸55の内周面との間に環状(円筒状)に形成され、伝達軸55の軸方向に延びている。この場合、
図8に示すように、伝達軸55の環状溝55Aは、連通路55Bを介して
伝達軸側油通路
77に連通している。従って、この環状溝55Aの位置が伝達軸側油通路77の流入口77Aとなり、ケーシング側油通路76を流下した圧油は、流入口77Aを通じて伝達軸側油通路77内に導入される。この場合、伝達軸側油通路77内に導入された圧油は、伝達軸55に設けられたシールリング55C、軸体61に設けられたシールリング61A、支持筒体47に設けられたシールリング47E、封止栓47F等により、伝達軸55の内周側に封止される。
【0087】
回転体側油通路78は、支持筒体47に形成された第1の回転体側油通路79と、ハウジングカバー46に形成された第2の回転体側油通路80とにより構成されている。回転体側油通路78は、伝達軸側油通路77とロックアップクラッチ64の油室68との間を接続するものである。ここで、第1の回転体側油通路79は、支持筒体47の嵌合筒部47Bの外周面に全周に亘って形成された環状溝79Aと、環状溝79Aを伝達軸側油通路77に連通させる1本または複数本の直線状の連通路79Bとにより構成されている。
【0088】
第2の回転体側油通路80は、ハウジングカバー46に設けられた1本または複数本の油通路により構成されている。第2の回転体側油通路80は、ハウジングカバー46のピストン挿嵌溝46Bとピストン65との間に形成された油室68と、第1の回転体側油通路79(環状溝79A)との間を接続している。
【0089】
ロックアップ油通路75は、上述の如きケーシング側油通路76と、伝達軸側油通路77と、第1,第2の回転体側油通路79,80からなる回転体側油通路78とにより構成されている。従って、ロックアップ装置63の作動時には、油圧ポンプ69から吐出した圧油は、ロックアップ制御弁70からケーシング側油通路76、伝達軸側油通路77、伝達軸55の径方向油孔55D、第1,第2の回転体側油通路79,80を通じてロックアップクラッチ64の油室68内に導入される。これにより、ピストン65とプレート66との間でディスク67が挟持され、回転体44と伝達軸55とが、ディスク67および接続フランジ58を介して一体化することにより、伝達軸55に対し、回転体44の回転を直接伝達することができる。
【0090】
本実施の形態による車両用動力伝達装置15は上述の如き構成を有するもので、以下、車両用動力伝達装置15の作動について説明する。
【0091】
ホイールローダ1を走行させるためにエンジン10を作動させると、このエンジン10の回転出力は、継手50を介してトルクコンバータ41の回転体44に伝達され、コンバータハウジング45が回転する。これにより、コンバータハウジング45内に発生した流体の流れによってタービンランナ45Bが回転し、このタービンランナ45Bの回転が、接続フランジ58を介して伝達軸55に伝達される。一方、回転体44が回転すると、コンバータハウジング45に取付けたポンプ用出力歯車51が、ポンプ駆動歯車54を回転させることにより、油圧ポンプ69が駆動される。
【0092】
伝達軸55にスプライン結合された伝達歯車60の回転は、変速機23の入力歯車25、前進軸
24等を介して回転軸29に伝達される。ここで、例えばホイールローダ1を1速回転で走行させる場合には、1速用クラッチ機構37Aを接続することにより、第1の変速軸32と1速用入力歯車34とを接続状態とする。従って、回転軸29の回転が、出力歯車30、1速用入力歯車34を介して第1の変速軸32に伝達される。
【0093】
第1の変速軸32の回転は、出力歯車36から出力軸38の低速側入力歯車39Aに伝達され、出力軸38は1速回転で回転する。出力軸38の回転は、プロペラシャフト13を介してフロントアクスル11に伝達されると共に、プロペラシャフト14を介してリヤアクスル12に伝達される。従って、フロントアクスル11に取付けられた左,右の前車輪2と、リヤアクスル12に取付けられた左,右の後車輪4とが回転することにより、ホイールローダ1を1速回転で走行させることができる。
【0094】
ここで、例えばホイールローダ1の走行速度が予め定めた所定の速度以上となると、ロックアップ装置63が作動する。即ち、ホイールローダ1の走行速度が予め定めた所定の速度に達し、ロックアップ制御弁70の電磁パイロット部に信号が供給されると、ロックアップ制御弁70が弁位置(B)に切換わる。
【0095】
これにより、油圧ポンプ69から吐出した圧油は、中間ケーシング18の軸支持部22に設けられたポンプ接続油通路22D、取付プレート74の流入側連通路74D、ロックアップ制御弁70に導かれる。そして、圧油は、ロックアップ制御弁70から取付プレート74の吐出側連通路74E、ロックアップ油通路75を通じて、ロックアップ装置63の油室68に供給される。即ち、ロックアップ制御弁70からの圧油は、取付プレート74の吐出側連通路74E、中間ケーシング18(軸支持部22)に形成されたケーシング側油通路76、伝達軸55に形成された伝達軸側油通路77および径方向油孔55D、回転体44の支持筒体47に形成された第1の回転体側油通路79、回転体44のハウジングカバー46に形成された第2の回転体側油通路80を介して、ハウジングカバー46のピストン挿嵌溝46Bとピストン65との間に形成された油室68内に供給される。
【0096】
これにより、伝達軸55にスプライン結合された接続フランジ58(ディスク係合部58B)に係合するディスク67が、ピストン65とプレート66とによって挟持される。従って、回転体44と伝達軸55とが、ディスク67および接続フランジ58を介して一体化し、回転体44の回転は伝達軸55に直接的に伝達される。この結果、ロックアップ装置63の作動時には、エンジン10の回転出力を、トルクコンバータ41の流体を介することなく、変速機23に直接伝達することができる。
【0097】
この場合、本実施の形態による車両用動力伝達装置15によれば、ロックアップ装置63を構成するロックアップ制御弁70を、伝達軸55の径方向において当該伝達軸55と重なり合う位置で、中間ケーシング18の外側面18Bに配置している。さらに、ロックアップ油通路75を構成するケーシング側油通路76を、ロックアップ制御弁70と伝達軸側油通路77との間を伝達軸55の径方向に直線状に延びる直線状油通路として形成している。これにより、油圧ポンプ69から吐出した圧油が、ロックアップ制御弁70からケーシング側油通路76を通って伝達軸側油通路77に流れる間の圧力損失を低減することができる。この結果、油圧ポンプ69からの圧油は、ロックアップ油通路75を通じてロックアップクラッチ64の油室68へと円滑に流れることができるので、ロックアップクラッチ64の応答性(クラッチ効率)を高めることができ、ロックアップ装置63の信頼性を高めることができる。
【0098】
しかも、中間ケーシング18の外側面18Bのうち伝達軸55の軸心の上方となる位置には、外側面18Bを伝達軸55側に凹陥させた凹陥状弁取付面73を形成し、この凹陥状弁取付面73に、取付プレート74を介してロックアップ制御弁70を取付ける構成としている。この場合、凹陥状弁取付面73は、中間ケーシング18の外側面18Bよりも高さ寸法Hだけ窪んでいるので、凹陥状弁取付面73にロックアップ制御弁70を取付けることにより、中間ケーシング18の外側面18Bからのロックアップ制御弁70の突出量を低減することができる。この結果、車両用動力伝達装置15全体の小型化を図ることができ、ホイールローダ1の後部車体5の機器設置スペースに制限がある場合でも、車両用動力伝達装置15を余裕をもって配置することができる。
【0099】
しかも、凹陥状弁取付面73を中間ケーシング18の外側面18Bよりも凹陥させることにより、ケーシング側油通路76を短縮することができ、圧力損失を一層低減することができる。さらに、中間ケーシング18の外側面18Bに沿って油圧配管、油圧ホース等を配策した場合に、これら油圧配管等がロックアップ制御弁70と干渉するのを抑えることができ、その配策の自由度を高めることができる。
【0100】
次に、
図10は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、伝達軸の内周側に配置された軸体内に伝達軸側油通路を形成したことにある。なお、第2の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0101】
第2の実施の形態に適用される軸体81は、第1の実施の形態による軸体61と同様な棒状体からなり、伝達軸55の内周側に当該伝達軸55と同軸に配置されている。軸体81の前端側は、軸受62を介して中間ケーシング18に回転可能に支持され、軸体81の後端部は、支持筒体47の内周側にスプライン結合されている。しかし、軸体81は、その中心部に後述の伝達軸側油通路82が形成される点で、第1の実施の形態による軸体61とは異なるものである。
【0102】
伝達軸側油通路82は、軸体81の中心部に形成されている。伝達軸側油通路82は、軸体81の中心を軸方向に延びる軸方向通路82Aと、軸方向通路82Aの前端から径方向に延びた1本または複数本の前径方向通路82Bと、軸体81の前端側の外周面に全周に亘って形成され前径方向通路82Bとケーシング側油通路76との間を連通させる前全周溝82Cと、軸方向通路82Aの後端から径方向に延びた後径方向通路82Dと、軸体81の後端側の外周面に全周に亘って形成され、伝達軸55の径方向油孔55Dを介して後径方向通路82Dと第1の回転体側油通路79との間を連通させる後全周溝82Eとにより構成されている。
【0103】
軸体81の外周面のうち前全周溝82Cを軸方向で挟む2箇所には、2個のシールリング83が嵌着され、これら各シールリング83によって、伝達軸55と軸体81との間がシールされている。一方、軸体81の外周面のうち後全周溝82Eを軸方向で挟む2箇所には、2個のシールリング84が嵌着され、これら各シールリング84によって、伝達軸55と軸体81との間がシールされている。
【0104】
このように、伝達軸側油通路82は、軸体81の軸中心を軸方向に延びて形成されている。伝達軸側油通路82の流入側は、伝達軸55の環状溝55Aおよび連通路55Bを介してケーシング側油通路76に接続され、伝達軸側油通路82の流出側は、伝達軸55の径方向油孔55Dを介して回転体側油通路78に接続されている。
【0105】
ロックアップ装置63の作動時には、油圧ポンプ69から吐出した圧油は、ロックアップ制御弁70からケーシング側油通路76、伝達軸側油通路82、伝達軸55の径方向油孔55D、第1,第2の回転体側油通路79,80を通じてロックアップクラッチ64の油室68内に導入される。これにより、ピストン65とプレート66との間でディスク67が挟持され、回転体44と伝達軸55とが、ディスク67および接続フランジ58を介して一体化することにより、伝達軸55に対し、回転体44の回転を直接伝達することができる。
【0106】
なお、上述した実施の形態では、ホイールローダ1の後部車体5に車両用動力伝達装置15を搭載した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば前部車体3に車両用動力伝達装置15を搭載する構成としてもよい。
【0107】
さらに、上述した実施の形態では、車両用動力伝達装置15を搭載する作業車両としてホイールローダ1を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えばホイール式ショベル等の建設車両、リフトトラック等の運搬車両、トラクタ等の農業車両といった他の作業車両に広く適用することができる。