(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記決定するステップは、前記第1の操作量が一定値に保持されている期間に生じる、前記観測量の時間的変化量に基づいて、前記時定数を決定するステップを含む、請求項2または3に記載のシミュレーション方法。
前記決定するステップは、前記非線形点において、前記設定温度とは異なる観測量についての第2の冷却特性と連続するように、前記設定温度とは異なる観測量についての第1の冷却特性を決定するステップを含む、請求項13に記載のシミュレーション方法。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0040】
[A.シミュレーションモデルの対象]
まず、本実施の形態に係るシミュレーションモデルの対象となる実機構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係るシミュレーションモデルの対象となる実機構成を含むフィードバック制御系1を示す模式図である。
図2は、本実施の形態に係るシミュレーションモデルの対象となる別の実機構成を含むフィードバック制御系1Aを示す模式図である。
【0041】
図1に示すフィードバック制御系1は、調節器100と、制御対象プロセス200とを含む。
図2に示すフィードバック制御系1Aは、調節器100と、制御対象プロセス200Aとを含む。制御対象プロセス200,200Aは、シミュレーションモデルの対象となる実機構成に相当する。本実施の形態においては、制御対象プロセス200,200Aに関する情報に基づいて、制御対象プロセス200,200Aの特性を示すシミュレーションモデル(以下、「制御対象モデル」とも称す。)を決定する。このような制御対象モデルを用いることで、調節器100を含むフィードバック制御系の特性や制御対象プロセス自体の特性などを机上でシミュレーションすることができる。
【0042】
制御対象プロセス200,200Aは、少なくとも、加熱装置210と、実制御対象230とを含む。制御対象プロセス200は、さらに、冷却装置220を含む。但し、対象のプロセスによっては、加熱装置210を含まず、冷却装置220のみを含む制御対象プロセスも存在し、本発明は、このような制御対象プロセスにも適用可能である。
【0043】
加熱装置210および冷却装置220はアクチュエータであり、これらの装置が実制御対象230に対してそれぞれ加熱および冷却を行う。なお、後述するように、実制御対象230には自然放熱があり、加熱装置210から供給された熱の一部は、この自然放熱によって実制御対象230から外部へ放出される。また、冷却装置220は、所定の冷却機構により実制御対象230から熱を奪い取る。
【0044】
フィードバック制御系1,1Aにおいては、実制御対象230から取得される観測量(温度)が目標値と一致するように、予め設定されたパラメータに従って、調節器100が、制御量に第1の変化(加熱)を生じさせるための第1の操作量(加熱側の操作量)、または、実制御対象230の制御量に第1の変化とは反対の第2の変化(冷却)を生じさせるための第2の操作量(冷却側の操作量)を決定する。このように、実制御対象230は、第2の操作量に従って冷却量を変化させる冷却装置220をさらに含む。
【0045】
なお、フィードバック制御系1においては、基本的には、加熱と冷却とが同時になされることはなく、実制御対象230の温度が予め設定された目標値と一致するように、加熱装置210による実制御対象230に対する加熱、および、冷却装置220による実制御対象230に対する冷却の一方が選択的に実行される。
【0046】
調節器100は、フィードバックされる実制御対象230の温度と予め設定される目標値とを比較して、加熱信号または冷却信号を選択的に、加熱装置210または冷却装置220へそれぞれ出力する。つまり、調節器100は、加熱装置210および冷却装置220を制御することで、実制御対象230の温度を一定に保つ。
【0047】
以下の説明においては、実制御対象230に属する量のうちで制御目的を代表するものを「制御量」と称し、実制御対象230に設けられた温度センサなどの検出部によって取得された量を「観測量」と称する。厳密に言えば、「観測量」は「制御量」に何らかの誤差を含む値として定義されるが、この誤差を無視すれば、「観測量」は実制御対象230の「制御量」とみなすことができる。そのため、以下の説明において、「観測量」と「制御量」とを同義で用いることもある。
【0048】
図1に示す制御対象プロセス200、または、
図2に示す制御対象プロセス200Aとしては、任意の制御対象プロセスを含めることができる。例えば、押出成形機における原料の温度制御や恒温槽内の温度制御などが挙げられる。本実施の形態においては、押出成形機における原料の温度制御を一例として例示する。但し、本発明の適用範囲はこの制御対象プロセスに限られるものではない。
【0049】
以下、本実施の形態として、第1の操作量(加熱側の操作量)に従って発熱量を変化させる加熱装置210を含む実制御対象230の特性をシミュレーションするコンピュータが実行するシミュレーション方法、シミュレーションプログラム、およびシミュレーション装置について説明する。
【0050】
[B.制御対象プロセス]
次に、本実施の形態に係るシミュレーションモデルの対象となる制御対象プロセスの一例について説明する。
図3は、本実施の形態に係るフィードバック制御系1を実現するシステム構成を示す模式図である。
図4は、
図3に示す押出成形機の断面構成を示す模式図である。
【0051】
図3に示す制御対象プロセス200は、実制御対象230(
図1)の一例である押出成形機232を含む。
【0052】
図3および
図4を参照して、押出成形機232は、ホッパ244からその内部に原料(例えば、プラスチックなど)を投入し、シリンダ236内で高温・高圧で混練した素材をシートやチューブなどに形成する。
【0053】
押出成形機232では、新たな原料の挿入によって吸熱する一方で、スクリュー234の回転による原料の移動によって発熱する。そのため、この吸熱反応と発熱反応とによる温度変動を抑制するために、加熱装置210および冷却装置220が設けられる。
【0054】
本実施の形態においては、シリンダ236を5〜10ゾーン(以下、「混練ゾーン」とも称す。)に分けて、調節器100を用いて各ゾーンを温度制御している。押出成形機232では、中心部から、原料を混練するためのスクリュー234、シリンダ236、冷却配管222、電熱ヒータ214の順に配置されている。
【0055】
軸中心に設けられたスクリュー234は、シャフト242を介して接続されるモータ238によって回転駆動される。このスクリュー234の回転によって、その内部に挿入された原料(例えば、プラスチック)を押し出す。原料の温度を検出するための温度センサ240が押出成形機232の内部に設けられている。温度センサ240は、一例として、熱電対や抵抗測温体(白金抵抗温度計)からなる。つまり、シリンダ236の内壁付近(温度計測点)に設置されている温度センサ240から取得された温度(観測量)が一定となるように、電熱ヒータ214および冷却配管222に流れる冷却媒体を用いて、温度制御が実行される。
【0056】
加熱装置210の一例として、押出成形機232の内部に発熱体を設けた構成を採用する。より具体的には、加熱装置210は、ソリッドステートリレー(Solid State Relay:SSR)212と、抵抗体である電熱ヒータ214とを含む。ソリッドステートリレー212は、AC電源と電熱ヒータ214との電気的な接続/遮断を制御する。より具体的には、調節器100は、加熱信号として、操作量に応じたデューティー比を有するPWM信号を出力する。ソリッドステートリレー212は、調節器100からのPWM信号に従って、回路をON/OFFする。この回路のON/OFFの比率に応じた電力が電熱ヒータ214へ供給される。電熱ヒータ214へ供給された電力は熱になって原料へ与えられる。
【0057】
冷却装置220は、押出成形機232の周囲に配置された冷却配管222と、冷却配管222へ供給される冷却媒体(典型的には、水や油)の流量を制御する電磁弁224と、冷却配管222を通過した後の冷却媒体を冷却するための水温調整設備226とを含む。電磁弁224が冷却配管222を流れる冷却媒体の流量を調整することで、冷却能力を制御する。より具体的には、調節器100は、冷却信号として、操作量に応じた大きさの電圧値または電流値を有する信号を電磁弁224へ出力する。電磁弁224は、調節器100からの冷却信号に従って、弁の開度を調整する。この開度調整によって、押出成形機232か取り除かれる熱量が制御される。なお、2位置動作(開または閉)のみが可能な電磁弁を採用した場合には、上述の加熱信号と同様に、冷却信号として操作量に応じたデューティー比を有するPWM信号を出力し、電磁弁224の開時間と閉時間とを調整することで、冷却媒体の流量を制御する。
【0058】
[C.シミュレーションモデルの概要]
次に、制御対象プロセス200のシミュレーションモデル(制御対象モデル)について説明する。
【0059】
図3に示すように、制御対象プロセス200に含まれる押出成形機232で生じる熱伝搬としては、典型的には、電熱ヒータ214からの熱伝搬(ヒータ熱)2140と、冷却配管222への熱伝搬(冷却媒体による吸熱)2220と、押出成形機232からの熱伝搬(放熱)2300とが存在する。
【0060】
図5は、
図3および
図4に示す制御対象プロセス200のシミュレーションモデルを示す模式図である。
図5には、ラプラス変数sを用いた伝達関数の形で表現する。
図5を参照して、制御対象プロセス200のシミュレーションモデルである制御対象モデル400においては、
図3に示すそれぞれの熱伝搬およびシリンダの熱応答を、加熱ブロック410と、冷却ブロック420と、自然放熱ブロック430と、シリンダブロック440として定義する。
【0061】
図5に示す制御対象モデル400は、
図4に示す混練ゾーンのうち任意の1ゾーンを対象としてモデル化を行ったものである。制御対象プロセス200の全体をシミュレーションする場合には、
図5に示す制御対象モデル400を混練ゾーンの数だけ構成して、シミュレーションを行えばよい。
【0062】
制御対象モデル400の加熱ブロック410は、加熱装置210に対応し、第1の操作量(加熱側の操作量)の大きさに応じて観測量を上昇させるように作用する加熱要素に相当する。より具体的には、加熱ブロック410は、電熱ヒータ214による加熱機能に相当し、加熱定常ゲイン(Kh)と(純粋)むだ時間(Lh)とを用いて表現する。加熱定常ゲインは、自然放熱が発生しないときの加熱定常ゲインを意味する。
【0063】
制御対象モデル400の冷却ブロック420は、冷却装置220に対応し、第2の操作量(冷却側の操作量)の大きさに応じて観測量を低下させるように作用する冷却要素に相当する。より具体的には、冷却ブロック420は、冷却ゲイン(Kc(PV))と(純粋)むだ時間(Lc)とを用いて表現する。
図3に示すようなフィードバック制御系1において、冷却媒体として水を用いた場合には、気化熱の影響により冷却特性が非線形になる。そのため、冷却ゲインKc(PV)は、制御対象プロセス200から測定された温度(PV)に依存して変化する値とする。冷却ゲインKc(PV)の決定方法については、後述する。
【0064】
制御対象モデル400の自然放熱ブロック430は、実制御対象230に生じる自然放熱に対応し、観測量の大きさに応じて観測量を低下させるように作用する放熱要素に相当する。より具体的には、自然放熱ブロック430は、シリンダ236の温度に応じて自然放熱量を算出し、その熱量をシリンダ236の温度に反映する。より具体的には、自然放熱ブロック430は、自然放熱ゲインKaと、自然放熱のべき数αと、温度PVとを用いて表現する。
【0065】
自然放熱をモデル化するにあたって、以下のような課題がある。すなわち、自然放熱量は、周辺温度によって変化するため、従来手法では、同定温度の付近に限って放熱特性を再現できるが、制御対象の温度(シリンダ236の温度)が変化すると実際との乖離が大きくなるという問題がある。そのため、自然放熱をモデル化するためには、幅広い温度帯域で各温度にみあった自然放熱量を出力するようなモデル式(関数)を採用しなければならない。そこで、本実施の形態においては、自然放熱ブロック430をフィードバック型で追加することで、シリンダ236の温度に応じた自然放熱量を再現する。
【0066】
シリンダブロック440は、実制御対象230の熱容量に対応し、加熱要素(加熱ブロック410)の出力および放熱要素(自然放熱ブロック430)の出力が入力されることで観測量を出力する熱容量要素に相当する。より具体的には、シリンダブロック440は、シリンダ236の熱容量に相当し、シリンダ時定数Tbを用いて1次遅れで近似する。
【0067】
後述の説明においては、制御対象モデル400を構成する各ブロックの詳細および必要なパラメータの決定方法の一例について説明する。
【0068】
[D.装置構成]
制御対象モデル400の詳細な内容の説明に先立って、本実施の形態に係るフィードバック制御系1の装置構成について説明する。
【0069】
《d1:調節器100》
再度
図3を参照して、調節器100は、制御対象プロセス200から測定された温度(観測量:Process Value;以下「PV」とも記す。)が、入力された目標値(設定値:Setting Value;以下「SV」とも記す。)と一致するように、操作量(Manipulated Value;以下「MV」とも記す。)を出力する。調節器100は、この操作量として、加熱に係る加熱信号および冷却に係る冷却信号を出力する。
【0070】
調節器100を含むフィードバック制御系1は、PID制御系を含む。本明細書において、「PID制御系」は、比例動作(Proportional Operation:P動作)を行う比例要素、積分動作(Integral Operation:I動作)を行う積分要素、および微分動作(Derivative Operation:D動作)を行う微分要素のうち、少なくとも一つの要素を含む制御系を意味する。すなわち、本明細書において、PID制御系は、比例要素、積分要素および微分要素のいずれをも含む制御系に加えて、一部の制御要素、例えば比例要素および積分要素のみを含む制御系(PI制御系)なども包含する概念である。
【0071】
具体的には、調節器100は、制御部110と、アナログ・デジタル(A/D)変換部からなる入力部120と、2つのデジタル・アナログ(D/A)変換部からなる出力部130と、通信インターフェイス140と、表示部150とを含む。
【0072】
制御部110は、通常のPID制御機能およびオートチューニング機能などを実現するための演算主体であり、CPU(Central Processing Unit)112と、プログラムモジュール118を不揮発的に格納するFlashROM(Read Only Memory)114と、RAM(Random Access Memory)116とを含む。CPU112は、FlashROM114に格納されたプログラムモジュール118を実行することで、後述するような処理を実現する。この際、読み出されたプログラムモジュール118の実行に必要なデータ(PVおよびSVなど)は、RAM116に一次的に格納される。CPU112に代えて、デジタル信号処理に向けられたDSP(Digital Signal Processor)を用いて構成してもよい。プログラムモジュール118については、各種の記録媒体を介して、アップデータできるように構成されてよい。そのため、プログラムモジュール118自体も本発明の技術的範囲に含まれ得る。また、制御部110の全体をFPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いて実現してもよい。
【0073】
入力部120は、後述する温度センサからの測定信号を受信し、その値を示す信号を制御部110へ出力する。例えば、温度センサが熱電対である場合には、入力部120は、その両端に発生する熱起電力を検出する回路を含む。あるいは、温度センサが抵抗測温体である場合には、入力部120は、当該抵抗測温体に生じる抵抗値を検出する回路を含む。さらに、入力部120は、高周波成分を除去するためのフィルタ回路を含んでいてもよい。
【0074】
出力部130は、制御部110で算出される操作量に従って、加熱信号または冷却信号を選択的に出力する。具体的には、デジタル・アナログ変換部を含む加熱側出力部132は、制御部110で算出された操作量を示すデジタル信号をアナログ信号に変換し、加熱信号として出力する。一方、デジタル・アナログ変換部を含む冷却側出力部134は、制御部110で算出された操作量を示すデジタル信号をアナログ信号に変換し、冷却信号として出力する。
【0075】
通信インターフェイス140は、情報処理装置300とデータ通信可能に接続され、調節器100で収集されたデータや情報処理装置300からの指令を遣り取りする。通信インターフェイス140は、典型的には、イーサネット(登録商標)やUSB(Universal Serial Bus)などの規格に従うインターフェイスが用いられる。
【0076】
表示部150は、ディスプレイやインジケータなどを含み、制御部110における処理の状態などを示す情報をユーザへ通知する。表示部150には、さらにユーザの操作を受け付けるボタンやスイッチなどの設定部が含まれていてもよい。設定部は、受け付けたユーザ操作を示す情報を制御部110へ出力する。
【0077】
《d2:情報処理装置300》
図3に示す情報処理装置300は、典型的には、
図5に示す制御対象モデル400を構成する。より具体的には、情報処理装置300は、後述するような手順に従って、調節器100から取得した情報などに基づいて、制御対象モデル400を構成する各ブロックのパラメータなどを決定する。また、情報処理装置300は、構成した制御対象モデル400を用いて、各種のシミュレーションを行うこともできる。情報処理装置300は、必ずしも調節器100と接続されている必要はない。但し、調節器100と接続されると、情報処理装置300は、シミュレーション結果などに基づいて、調節器100のPID制御系に必要な制御パラメータ(以下、「PIDパラメータ」とも記す。)を最適化することもできる。
【0078】
図6は、本実施の形態に係るフィードバック制御系1を構成する情報処理装置300のハードウェア構成を示す模式図である。
図6を参照して、情報処理装置300は、典型的には、汎用的なコンピュータアーキテクチャに従う構造を有しており、予めインストールされたプログラムをプロセッサが実行することで、後述するような各種処理を実現する。
【0079】
より具体的には、情報処理装置300は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)などのプロセッサ302と、メモリ304と、ディスプレイ306と、入力部308と、通信インターフェイス310と、ハードディスク320とを含む。これらの各部は、バス312を介して互いにデータ通信可能に構成される。
【0080】
プロセッサ302は、ハードディスク320などに格納されているプログラムを実行する処理主体である。すなわち、情報処理装置300では、プロセッサ302がプログラムを実行することで、目的の機能が実現される。
【0081】
メモリ304は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性の記憶装置であり、ハードディスク320から読み出された各種プログラムや、プロセッサ302でのプログラムの実行に必要なワークデータなどを保持する。
【0082】
ディスプレイ306は、プロセッサ302などでの演算結果に応じた映像信号を受け、その内容を表示する。すなわち、ディスプレイ306は、各種情報を視覚的にユーザへ通知する。
【0083】
入力部308は、典型的には、キーボード、マウス、タッチパネルなどであり、ユーザからの指示や操作を受付け、その内容をプロセッサ302へ出力する。
【0084】
通信インターフェイス310は、調節器100とデータ通信可能に接続され、調節器100からデータを収集したり、調節器100へ指令を与えたりする。通信インターフェイス310は、典型的には、イーサネット(登録商標)やUSB(Universal Serial Bus)などの規格に従うインターフェイスが用いられる。
【0085】
ハードディスク320は、典型的には、不揮発性の磁気記憶装置であり、プロセッサ302で実行される、制御対象モデル構成プログラム322やシミュレーションプログラム324などを保持する。ハードディスク320にインストールされる制御対象モデル構成プログラム322やシミュレーションプログラム324などは、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置やDVD−RAM(Digital Versatile Disk Random Access Memory)などの光学記憶装置などに格納された状態で流通する。但し、配信サーバなどからダウンロードしたプログラムをハードディスク320にインストールするようにしてもよい。
【0086】
上述のような汎用的なコンピュータアーキテクチャに従う構造を有するコンピュータを利用する場合には、本実施の形態に係る機能を提供するためのアプリケーションに加えて、コンピュータの基本的な機能を提供するためのOS(Operating System)がインストールされていてもよい。この場合には、本実施の形態に係るプログラムは、OSの一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の順序および/またはタイミングで呼び出して処理を実行するものであってもよい。
【0087】
さらに、本実施の形態に係るプログラムは、他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には、上記のような組み合わせられる他のプログラムに含まれるモジュールを含んでおらず、当該他のプログラムと協働して処理が実行される。すなわち、本実施の形態に係るプログラムとしては、このような他のプログラムに組込まれた形態であってもよい。
【0088】
なお、代替的に、プログラムの実行により提供される機能の一部もしくは全部を専用のハードウェア回路として実装してもよい。
【0089】
[E.パラメータ決定方法(その1):ステップ応答波形の利用]
次に、本実施の形態に係る制御対象モデル400のパラメータを決定する方法の一例について説明する。パラメータ決定方法(その1)では、制御対象プロセス200に対する加熱および冷却のステップ応答波形を用いて、制御対象モデル400のパラメータを同定する。加熱ブロック410、自然放熱ブロック430、シリンダブロック440については、加熱時のステップ応答波形を用いる一方で、冷却ブロック420については、冷却時のステップ応答波形を用いる。つまり、情報処理装置300などのコンピュータが、第1の操作量(加熱側の操作量)を時間的に変化させることで実制御対象230に生じた観測量の時間的変化を取得する工程と、観測量の時間的変化に基づいて、第1および第2のゲイン(加熱定常ゲインKhおよび自然放熱ゲインKa)、べき数(べき数α)、ならびに時定数(シリンダ時定数Tb)決定する。以下、各ブロックのパラメータ同定手順について詳述する。
【0090】
《e1:加熱ブロック410》
加熱要素である加熱ブロック410は、第1の操作量第1の操作量(加熱側の操作量MVh)と観測量を上昇させる作用量との関係を示す第1のゲイン(加熱定常ゲインKh)を含む。加熱ブロック410の加熱定常ゲインKhは、複数の設定温度におけるそれぞれの定常ゲインから決定できる。設定温度SVにおける定常ゲインK
h_SVは、次の(1)式に従って算出できる。
【0091】
K
h_SV=(SV−Tha)/MV
h_SV ・・・(1)
但し、
SV:設定温度(整定温度)[℃]
Tha:周辺温度[℃]
MV
h_SV:設定温度SVにおける整定操作量(0≦MV
h_SV≦1)
図7は、
図1に示す制御対象プロセス200における定常ゲインK
h_SVと温度差(設定温度SVと周辺温度Thaとの差)との関係を示すグラフである。
図7を参照して、温度差が大きくなるほど定常ゲインK
h_SVが低下していることがわかる。このような温度差の増加に伴う加熱定常ゲインの低下は、自然放熱による放熱量が増大していることを意味する。そこで、定常ゲインK
h_SVと温度差との関係を線形近似して推定(外挿)することで、自然放熱が生じない状況(つまり、温度差がゼロ)における定常ゲインを算出する。そして、この算出した定常ゲインを加熱定常ゲインKhとして決定する。
【0092】
本パラメータ決定方法においては、自然放熱の影響を放熱量で表現する。この放熱量を推定する方法は、自然放熱ブロック430のパラメータを決定する方法に関する記述において説明する。
【0093】
また、加熱ブロック410のむだ時間Lhは、加熱時のステップ応答波形に現れるむだ時間を算出し、この算出したむだ時間をむだ時間Lhとして決定する。
【0094】
このように、加熱ブロック410に関するパラメータの決定においては、観測量についての設定温度と実制御対象の周辺温度との差、および、対応する設定温度の整定操作量に基づいて、設定温度の別に定常ゲインを算出する工程と、設定温度の別に算出されるそれぞれの定常ゲインと、対応する観測量についての設定温度と実制御対象の周辺温度との差との、関係を推定することで、第1のゲイン(加熱定常ゲインKh)を決定する工程とを含む。
【0095】
《e2:シリンダブロック440》
熱容量要素に相当するシリンダブロック440は、実制御対象230の熱容量(シリンダ236の熱容量)を示す時定数(シリンダ時定数Tb)を含む。シリンダブロック440は、シリンダ時定数Tbを用いて1次遅れで近似する。シリンダ時定数Tbは、加熱ブロック410のパラメータを決定する際に使用した加熱定常ゲインKhと、操作量100%としたときの立上げ時の応答波形の最大傾きRhとを用いて、次の(2)式に従って算出できる。
【0096】
Tb=Kh/Rh ・・・(2)
但し、
Kh:加熱定常ゲイン
Rh:立上げ時の応答波形の最大傾き
このように、加熱時のステップ応答波形から1次遅れの時定数であるシリンダ時定数Tbの値を決定する。すなわち、シリンダ時定数Tbは、第1の操作量(加熱側の操作量)が一定値に保持されている期間に生じる、観測量の時間的変化量に基づいて決定される。
【0097】
《e3:自然放熱ブロック430》
放熱要素である自然放熱ブロック430は、実制御対象230の温度と実制御対象230の周辺温度との差と、観測量を低下させる作用量との関係を示す第2のゲイン(自然放熱ゲインKa)およびべき数(べき数α)を含む。自然放熱ブロック430は、シリンダ236の温度に応じて自然放熱量を算出し、その熱量をシリンダ236の温度に反映する。放熱要素である自然放熱ブロック430は、実制御対象230の周辺温度(周辺温度Tha)と実制御対象230の温度との差に応じて、観測量を低下させる作用量を決定する。より具体的には、自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する。
【0098】
図8は、
図1に示す制御対象プロセス200における温度差(設定温度SVと周辺温度Thaとの差)と自然放熱量との関係を示すグラフである。
図8に示すように、自然放熱量は温度差のα乗に比例する。
【0099】
一方、定常状態における設定温度SVでの自然放熱量Q
a_SVは、次の(3)式に従って定義できる。
【0100】
Q
a_SV=(Kh−K
h_SV)MV
h_SV ・・・(3)
但し、
Kh:加熱定常ゲイン
K
h_SV:設定温度SVにおける定常ゲイン
MV
h_SV:設定温度SVにおける整定操作量(0≦MV
h_SV≦1)
算出した自然放熱量と温度差との関係を、次の(4)式に従って定式化する。
【0101】
Qa(PV)=Ka(PV’−Tha)
α ・・・(4)
但し、
Qa(PV):温度PVでの自然放熱の影響(自然放熱量)
Ka:自然放熱ゲイン
PV’:熱伝達補正したPV値[℃]
Tha:周辺温度[℃]
ここで、PV’は、熱伝達の遅れを反映した値であり、むだ時間および温度勾配を利用し、温度センサ240が設置されている温度計測点の位置に基づいて推定する。そして、フィッティング法(典型的には、最小二乗法)を用いて自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する。つまり、
図8に示すように、変数xについての近似曲線を定義し、この近似曲線に対して最もフィットするような自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する。
【0102】
なお、自然放熱のべき数αについては、理論値では1〜4乗の間に収まると考えられる。そのため、例えば、α=2.0〜2.5に制限することができる。
【0103】
このように、自然放熱ブロック430のパラメータを決定する工程は、観測量についての設定温度(設定温度SV)と実制御対象270の周辺温度(周辺温度Tha)との差、および、第1の操作量(加熱側の操作量)に基づいて、設定温度の別に定常ゲイン(定常ゲインK
h_SV)を算出する工程と、設定温度の別に算出されるそれぞれの定常ゲイン(定常ゲインK
h_SV)、および、観測量についての設定温度(設定温度SV)と実制御対象270の周辺温度(周辺温度Tha)との差に基づいて、設定温度の別に整定操作量(整定操作量MV
h_SV)を算出する工程と、第1のゲイン(加熱定常ゲインKh)と設定温度の別に算出される定常ゲイン(定常ゲインK
h_SV)との差、および、設定温度(設定温度SV)の別に算出される整定操作量(整定操作量MV
h_SV)に基づいて、設定温度の別に放熱量(自然放熱量Qa(PV))を算出する工程と、実制御対象270の温度と実制御対象の周辺温度との差と、設定温度の別に算出される放熱量との、関係を推定することで、第2のゲイン(自然放熱ゲインKa)およびべき数(べき数α)を決定する工程とを含む。
【0104】
《e4:冷却ブロック420》
冷却ブロック420は、冷却要素に相当し、第2の操作量(冷却側の操作量)と観測量を低下させる作用量との関係を示す、第2の操作量に依存した第3のゲイン(冷却ゲイン(Kc(PV)))を含む。より具体的には、冷却ブロック420は、冷却ゲイン(Kc(PV))と(純粋)むだ時間(Lc)とを用いて表現する。
【0105】
図3に示す制御対象プロセス200では、水などの気化する液体を冷却媒体として用いているため、冷却特性は、気化熱の影響を受けて非線形特性になる。また、この冷却特性の非線形特性に加えて、冷却制御の有無にかかわらず、自然放熱の影響を受けて室温で安定しようとするため、定式化が容易ではない。
【0106】
ここで、
図3に示す制御対象プロセス200では、冷却装置220が定常状態になるまで冷却し続けるような制御は行われない。冷却装置220が作動するのは、制御対象プロセス200から測定された生産時の温度が設定温度を上回ったときに、冷却配管222に比較的少量の冷却媒体を流してシリンダ236を冷却するという場合である。そこで、冷却時の過渡応答波形(温度降下の傾き)に基づいて、冷却ブロック420のパラメータを決定することになる。
【0107】
本実施の形態においては、冷却側の操作量および温度の条件別に、冷却開始後の温度降下の傾きの最大値と、加熱と同じ熱伝搬対象であるシリンダ236のシリンダ時定数とを取得し、冷却側の操作量が一定であり、周辺温度の影響を受けない状態での仮想的な整定値を決定する。この決定される仮想的な整定値は、冷却によって実際に到達する温度ではないため、以下「仮想整定値」とも称す。この仮想整定値は、冷却能力を示す値であり、シリンダブロック440に入力することで、冷却時の過渡応答を再現できる。この仮想整定値は、以下の(1)〜(4)の手順に従って決定される。
【0108】
(1)任意の温度で整定し、冷却側の操作量をステップ的に出力する。
(2)冷却時の過渡応答波形から温度降下の最大傾きRcおよびむだ時間を取得する。
【0109】
(3)最大傾きRcおよびシリンダ時定数Tbから、自然放熱の影響を取り除いた仮想整定値Scの値を決定する。
【0110】
(4)(1)〜(3)を複数の温度および操作量について繰返し実行する。
図9は、
図1に示す制御対象プロセス200における冷却時の過渡応答波形を示すグラフである。
図9には、冷却側の操作量を0%,5%,10%,20%,40%,80%とそれぞれ異ならせたときに生じる温度の時間的変化を示す。この過渡応答波形から、次の(5)式に従って、自然放熱の影響を取り除いた仮想整定値Scの値を決定する。
【0111】
Sc(MVc)=(Rc(MVc)−Rc(0%))Tb ・・・(5)
但し、
Sc(MVc):冷却側の操作量MVc[%]における仮想整定値[℃]
Rc(MVc):冷却側の操作量MVc[%]における温度降下の最大傾きRc[℃/s]
Tb:シリンダ時定数[s]
図10は、
図9に示す冷却時の過渡応答波形に基づいて算出した仮想整定値を示すグラフである。
図10には、低温(◆)、中温(■)、高温(▲)のそれぞれについて算出された仮想整定値が示される。
図10によれば、冷却側の操作量が0−10%の範囲と、冷却側の操作量が10−100%の範囲との間では、冷却側の操作量MVcに対する仮想整定値の変化量が大きく異なっていることがわかる。
【0112】
前者の範囲(0−10%)における変化は、投入された比較的少量の冷却媒体(典型的には、水)がすべて気化することにより生じる吸熱(気化熱)の影響によるものと考えられる。後者の範囲(10−100%)における変化は、投入される冷却媒体の増加に伴って、気化する比率が減少するため、冷却媒体の熱伝搬による吸熱が主体的になったことによるものと考えられる。すなわち、気化熱は、水流による吸熱量に比較して数倍の能力があるため、前者の範囲(0−10%)では後者(10−100%)の範囲より変化量が急になっている。
【0113】
そこで、本実施の形態においては、2種類の特性を気化熱の有無に応じて適宜組み合わせることで、冷却特性を近似する。より具体的には、冷却側の操作量に対する仮想整定値の傾きが大きく変化する点を非線形点Xcと定義する。そして、非線形点Xc未満の範囲と非線形点Xc以上の範囲について、仮想整定値と冷却側の操作量との関係を近似直線L1およびL2でそれぞれ近似する。ここで、近似直線L1は、主として気化熱による冷却特性を示し、近似直線L2は、主として水流による吸熱による冷却特性を示す。つまり、2つの冷却特性(近似直線L1およびL2)は、第2の操作量(冷却側の操作量)と冷却能力との関係として定義される。
【0114】
図11は、
図10に示す冷却側の操作量に対する仮想整定値の特性を2種類の近似直線で示す一例を示すグラフである。
図11に示す近似直線L1およびL2は、次の(6)式および(7)式に従って、それぞれ近似できる。
【0115】
Sc(PV,MVc)=Kc1(PV)×MVc(MVc<Xc)・・・ (6)
Sc(PV,MVc)=Kc2×MVc+B2(PV)(MVc≧Xc)・・・ (7)
但し、
Sc(PV,MVc):温度PV[℃]および冷却側の操作量MVc[%]における仮想整定値[℃]
Kc1:近似直線L1の傾き
Kc2:近似直線L2の傾き
B2(PV):温度PV[℃]における近似直線L2の切片
シリンダ236の温度が高くなるほど、冷却媒体との温度差が大きくなり、気化熱および水流による吸熱量はいずれも増大する。すなわち、近似直線L1およびL2は、いずれもシリンダ236の温度によって変化する。ここで、近似直線L2は、水流による吸熱量に依存することから、シリンダ236の温度および冷却側の操作量に対して、吸熱量は線形的に変化するとみなす。各温度における近似直線L2の傾きを一定とし、シリンダ236の温度と近似直線L2の切片との関係を、次の(8)式で表す。
【0116】
B2(PV)=A(PV−100)+B0 ・・・(8)
但し、
A:近似直線L2の切片の変化量
B0:100℃における近似直線L2の切片
また、近似直線L1の傾きKc1は、非線形点Xcを用いて、近似直線L2の式から決定する。すなわち、近似直線L1の傾きKc1は、次の(9)式に従って算出できる。
【0117】
Kc1(PV)=Kc2+B2(PV)/Xc ・・・(9)
図11には、(8)式および(9)式に従って推定したパラメータを用いて決定された近似直線L1およびL2を示す。
【0118】
このように、冷却ブロック420のパラメータを決定する工程は、観測量を低下させる作用量の特性が変化する第2の操作量(冷却側の操作量)の大きさを示す非線形点を決定する工程と、第2の操作量が非線形点よりゼロに近い領域について第1の冷却特性(近似直線L1)を決定するとともに、それ以外の領域について第2の冷却特性(近似直線L2)を決定する工程と、第1および第2の冷却特性に基づいて、第3のゲイン(冷却ゲイン(Kc(PV)))を決定する工程とを含む。
【0119】
冷却特性を表す近似直線L2は、冷却操作量に対して冷却能力が比例的に変化する特性を示し、冷却特性を表す近似直線L1は、非線形点に応じて、冷却操作量に対する冷却能力の変化度合いが変化する。
【0120】
《e5:評価》
上述のような手順に従って、パラメータを決定した制御対象モデル400について、実機との間で応答特性を比較して、その再現性を評価した。実機は、押出成形機の模擬実験機を使用した。立上げ時の応答波形および外乱応答波形について比較し、それぞれにおけるオーバーシュート量(OVS)および整定時間を評価した。実験内容および結果を以下の表に示す。
【0122】
上表において、「OVS」は、ピーク温度と設定温度との差を示し、「R
OVS」は、設定温度に対するOVS量の割合[%]を示す。また、「整定時間」は、実験開始から設定温度の±1%[℃]以内の範囲に応答が収束するまでに要する時間を示す。上表に示す実験内容および結果によれば、制御対象モデル400を用いたシミュレーション結果と実機から観測された結果とは、オーバーシュート量および整定時間のいずれもほぼ一致しているといえる。すなわち、オーバーシュート量についての誤差は0.23%以下に、整定時間についての誤差は約10%以下にそれぞれ抑えられており、本実施の形態に係る制御対象モデル400は実機の挙動を正確に再現しているといえる。
【0123】
また、設定温度の違いによる立上げ応答波形の違いについて比較するとともに、冷却水出力時の応答波形を比較するためにステップ的な外乱を与えてその挙動を観測した。
【0124】
図12は、シミュレーション結果と実機の応答波形との比較例を示す図である。
図12(a)は、設定温度SVを135℃にしたときの立上げ時の応答波形および対応する操作量を示し、
図12(b)は、設定温度SVを215℃にしたときの立上げ時の応答波形および対応する操作量を示す。
図12(c)は、設定温度SVを135℃にしたときの外乱応答波形および対応する操作量を示す。
【0125】
図12に示すシミュレーション結果と実行の応答波形との比較例のそれぞれによれば、立上げ時の応答波形に加えて、何らかの外乱が与えられた際の応答についても、シミュレーションにより再現できることがわかる。そのため、本実施の形態に係る制御対象モデルを用いたシミュレーションによって、外乱が与えられたときに何らかの振動が発生するか否かといった評価も行えることがわかる。すなわち、幅広い温度帯域において高精度なシミュレーションを実現できるといえる。
【0126】
《e6:処理手順》
次に、上述した制御対象モデル400のパラメータを決定する方法の処理手順について説明する。本決定方法においては、制御対象モデル400のパラメータは、制御対象プロセス200に対する加熱および冷却の実際のステップ応答波形を用いて決定される。典型的な実装形態としては、調節器100が制御対象プロセス200の実機を制御することで、応答波形を収集し、情報処理装置300が調節器100によって収集された応答波形を用いて、制御対象モデル400のパラメータを同定する。但し、応答波形の収集については、調節器100とは別に設けられたロギング装置が行ってもよい。また、調節器100が応答波形の収集に加えて、制御対象モデル400のパラメータの同定についても行うように構成してもよい。
【0127】
説明の便宜上、以下のフローチャートを用いた説明では、情報処理装置300が制御対象モデル400のパラメータを同定する場合の処理手順を例示する。
【0128】
図13は、本実施の形態に係る制御対象モデル400のパラメータを決定する方法(その1)の処理手順を示すフローチャートである。
図13に示す各ステップは、典型的には、情報処理装置300のプロセッサ302が制御対象モデル構成プログラム322(
図6)を実行することで実現される。
【0129】
図13を参照して、情報処理装置300のプロセッサ302は、調節器100に収集されている実制御での応答波形を取得する(ステップS100)。続いて、プロセッサ302は、取得した応答波形のうち、制御対象モデル400のパラメータを決定するのに必要な応答波形を抽出する(ステップS102)。ここでは、任意の制御期間における立上げ時の応答波形、対応する気温、冷却動作が開始されたときの応答波形などが抽出される。
【0130】
次に、プロセッサ302は、加熱ブロック410の加熱定常ゲインKhおよびむだ時間Lhの値を決定する(ステップS104)。より具体的には、プロセッサ302は、周辺温度Thaおよび/または設定温度SVが異なる複数の立上げ時の応答波形から、定常ゲインK
h_SVと温度差との関係を求め、この関係から加熱定常ゲインKhを推定する。また、プロセッサ302は、応答波形に現れるむだ時間からむだ時間Lhを推定する。
【0131】
続いて、プロセッサ302は、シリンダブロック440のシリンダ時定数Tbの値を決定する(ステップS106)。より具体的には、プロセッサ302は、加熱側の操作量100%としたときの立上げ時の応答波形の最大傾きRhを算出し、先に決定した加熱定常ゲインKhと最大傾きRhとを用いて、シリンダ時定数Tbを推定する。
【0132】
続いて、プロセッサ302は、自然放熱ブロック430の自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する(ステップS108)。より具体的には、プロセッサ302は、周辺温度Thaおよび/または設定温度SVが異なる複数の立上げ時の応答波形から自然放熱量と温度差との関係を求め、この関係に最もフィットするように、自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する。
【0133】
最終的に、プロセッサ302は、冷却ブロック420の冷却ゲインKc(PV)およびむだ時間Lcの値を決定する(ステップS110)。より具体的には、プロセッサ302は、冷却側の操作量を複数に異ならせた場合のそれぞれの過渡応答波形から仮想整定値Scを求め、複数の整定温度についての仮想整定値の関係から非線形点Xcを求め、2種類の近似直線(主として気化熱による冷却特性を示す近似直線、および、主として水流による吸熱による冷却特性を示す近似直線)を求める。この求めた2種類の近似直線から冷却ブロック420の冷却ゲインKc(PV)およびむだ時間Lcの値を決定する。
【0134】
以上のような処理手順によって、制御対象モデル400の構成に必要なパラメータが決定される。
【0135】
[F.パラメータ決定方法(その2):オートチューニング結果の利用]
次に、本実施の形態に係る制御対象モデル400のパラメータを決定する方法の別の例について説明する。パラメータ決定方法(その2)では、調節器100が実行するオートチューニングにより得られる結果を利用する方法について説明する。
【0136】
本方法においても、情報処理装置300などのコンピュータが、実制御対象230に与えられる第1の操作量(加熱側の操作量)を時間的に変化させることで実制御対象230に生じた観測量の時間的変化を取得する工程と、観測量の時間的変化に基づいて、第1および第2のゲイン(加熱定常ゲインKhおよび自然放熱ゲインKa)、べき数(べき数α)、ならびに時定数(シリンダ時定数Tb)決定する。
【0137】
オートチューニング機能は、調節器100がPID制御系に必要な制御パラメータ(以下、「PIDパラメータ」とも記す。)を最適化する処理である。オートチューニング機能として、調節器100は、第1の操作量(冷却側の操作量)および第2の操作量(加熱側の操作量)を観測量に応じて交互に出力し、当該交互出力によって取得された応答特性からPIDパラメータを決定する。調節器100は、冷却側の操作量と加熱側の操作量とを交互に出力してリミットサイクルを発生させ、この発生したリミットサイクルの応答特性に基づいて、PIDパラメータが決定される。
【0138】
図14は、一般的なオートチューニングの実行時における制御対象の温度(観測量)および操作量の時間変化の一例を示す図である。
図14には、リミットサイクル法を用いたオートチューニング結果の一例を示す。通常のリミットサイクル法を適用した場合には、加熱側の操作量および冷却側の操作量をいずれも最大値(つまり、100%および−100%)として、交互にこれらの操作量を制御対象へ与える。このようにして発生した応答特性に基づいて、制御対象に応じたPIDパラメータが決定される。
【0139】
但し、オートチューニングの方法としては、リミットサイクル法を用いた場合に限られず、他の方法を用いてもよい。例えば、ステップ応答法を用いて、パラメータを決定することができる。このように、本実施の形態において、観測量の時間的変化は、リミットサイクル法またはステップ応答法に従って、第1の操作量(加熱側の操作量)および/または第2の操作量(冷却側の操作量)を時間的に変化させることで取得される。
【0140】
調節器100のPIDパラメータを決定するにあたって、オートチューニングが実行されることが多いので、このPIDパラメータの決定のためのオートチューニング結果を利用して、制御対象モデル400のパラメータを決定することがより簡便であり、有益である。
【0141】
以下、
図3に示すようなフィードバック制御系1において、調節器100が実行したオートチューニングにより得られる応答波形を用いて、制御対象モデル400のパラメータを同定する。以下、各ブロックのパラメータ同定手順について詳述する。
【0142】
《f1:シリンダブロック440》
上述したように、シリンダブロック440は、シリンダ236の熱容量に相当し、シリンダ時定数Tbを用いて1次遅れで近似する。シリンダ時定数Tbは、設定温度SVにおける定常ゲインK
h_SVおよび昇温時の最大傾きRhとを用いて、次の(10)式に従って算出できる。
【0143】
Tb=K
h_SV/Rh ・・・(10)
但し、
K
h_SV:設定温度SVにおける加熱定常ゲイン[℃/単位操作量]
Rh:昇温時の最大傾き[℃/sec]
図15は、本実施の形態に係る調節器100によるオートチューニング開始直後からの時間波形を示すグラフである。
図15(a)は、設定温度SVに対する温度センサ240で検出された温度PVの時間変化を示し、
図15(b)は、冷却側の操作量MVcおよび加熱側の操作量MVhの時間変化を示す。
【0144】
上述の(10)式の昇温時の最大傾きRhは、
図15(a)に示す温度PVの時間波形から決定される。最大傾きRhは、昇温時の傾きの最大値に相当する。典型的には、リミットサイクル法における設定温度付近の最大傾きが採用される。
【0145】
また、(10)式の設定温度SVにおける定常ゲインK
h_SVは、次の(11)式に従って算出できる。
【0146】
K
h_SV=(SV−Tha)/MV
h_SV ・・・(11)
但し、
SV:設定温度(整定温度)[℃]
Tha:周辺温度[℃]
MV
h_SV:設定温度SVにおける整定操作量(0≦MV
h_SV≦1)
周辺温度Thaは、
図15(a)に示すオートチューニング開始時における温度PV(初期温度)から決定できる。すなわち、オートチューニング開始時においては、シリンダ236は周辺の環境と均一化しているとみなすことででき、オートチューニング開始時のPV値(初期温度)を周辺温度Thaとして決定することができる。
【0147】
また、整定操作量MV
h_SVは、オートチューニングの実行により、シリンダ236の温度PVが設定温度SVに一致した(整定された)ときの加熱側の操作量MVhの値を採用することができる。
【0148】
このように、シリンダブロック440のパラメータは、
図15に示すようなオートチューニング結果などを用いて同定できる。つまり、シリンダ時定数Tbは、第1の操作量(加熱側の操作量)が一定値に保持されている期間に生じる、観測量の時間的変化量に基づいて決定される。
【0149】
《f2:加熱ブロック410》
加熱要素である加熱ブロック410は、第1の操作量第1の操作量(加熱側の操作量MVh)と観測量を上昇させる作用量との関係を示す第1のゲイン(加熱定常ゲインKh)を含む。加熱ブロック410の加熱定常ゲインKhおよびむだ時間Lhについても、以下に説明するように、オートチューニング結果などを用いて同定できる。
【0150】
上述したように、加熱定常ゲインKhは、自然放熱による放熱量に依存して変化する。そのため、自然放熱の影響を取り除いた加熱定常ゲインKhの値を決定する必要がある。
【0151】
図16は、本実施の形態に係る制御対象モデル400の加熱ブロック410の加熱定常ゲインKhの決定方法を説明するための図である。複数の設定温度SVnのそれぞれにおける定常ゲインK
h_SVをそれぞれ求め、それらをシリンダ温度と周辺温度Thaとの差を横軸としてプロットすると、
図16に示すような線形関係が得られる。ここで、シリンダ温度と周辺温度Thaとが一致していれば、自然放熱は発生しないと考えられるので、
図16に示す線形関係を推定(外挿)することで、加熱定常ゲインKhの値を決定する。
【0152】
図16に示す、設定温度SVnにおける定常ゲインK’
h_SVnは、次の(12)式に従って算出できる。なお、(12)式のシリンダ時定数Tbは、上述したような手順で決定される。
【0153】
K’
h_SVn=R
h_SVn×Tb ・・・(12)
但し、
R
h_SV:設定温度SVnにおける最大傾き
Tb:シリンダ時定数
図17は、本実施の形態に係る調節器100によるオートチューニング開始直後からの時間波形を示すグラフである。設定温度SVnにおけるそれぞれの定常ゲインK’
h_SVnは、
図17に示す温度PVの時間波形から決定される。より具体的には、温度PVの上昇過程における複数の温度を抽出するとともに、各抽出した温度に対応する傾きを算出する。
図17には、温度PVの上昇過程における3つの温度Th1,Th2,Th3を抽出する例を示す。例えば、温度Th1は、昇温直後の温度であり、温度Th3は、設定温度SV付近の温度であり、温度Th2は、温度Th1と温度Th3との中間の温度である。温度Th1,Th2,Th3のそれぞれに対応する最大傾きを、最大傾きR
h_SV1,R
h_SV2,R
h_SV3として決定する。
【0154】
このような手順によって決定された温度と対応する最大傾きの組(Th1,R
h_SV1),(Th2,R
h_SV2),(Th3,R
h_SV3)について、それぞれ定常ゲインK’
h_SVnの値を決定するとともに、対応する定常ゲインK’
h_SVnをそれぞれ決定する。ここで、周辺温度Thaは、
図17に示すオートチューニング開始時における温度PV(初期温度)から決定できる。すなわち、オートチューニング開始時においては、シリンダ236は周辺の環境と均一化しているとみなすことででき、オートチューニング開始時のPV値を周辺温度Thaとして決定することができる。
【0155】
なお、温度Th3に対応する定常ゲインK
h_SV3は、シリンダブロック440のシリンダ時定数Tbの値を決定する際に用いた、設定温度SVにおける定常ゲインK
h_SVで代用してもよい。
【0156】
そして、それぞれ決定された定常ゲインK’
h_SVnをシリンダ温度と周辺温度Thaとの差を横軸としてプロットし、これらのプロット点を線形近似して推定(外挿)することで、自然放熱が生じない状況(つまり、温度差がゼロ)における加熱定常ゲインKhの値を決定する。
【0157】
このように、加熱ブロック410に関するパラメータの決定においては、第1の操作量(加熱側の操作量)が一定値に保持されている期間において、観測量が異なる状態での観測量の時間的変化量を複数取得する工程と、複数取得された観測量の時間的変化量と、対応する実制御対象の周辺温度と実制御対象の温度との差との、関係を推定することで、第1のゲイン(加熱定常ゲインKh)を決定する工程とを含む。
【0158】
次に、加熱ブロック410のむだ時間Lhについても、オートチューニング結果などを用いて同定できる。
【0159】
図18は、本実施の形態に係る調節器100によるオートチューニング結果から加熱ブロック410のむだ時間Lhの値を決定する方法を説明するための図である。
図18には、1つのオートチューニング結果から3種類のむだ時間Lhの値を決定する例を示す。1つのオートチューニング波形から複数のむだ時間を決定できた場合には、いずれか1つのむだ時間のみを採用してもよいし、複数のむだ時間に対する統計処理によって代表値を決定してもよい。この統計処理としては、複数のむだ時間の平均値を算出する方法や、複数のむだ時間の中間値を算出する方法などが考えられる。基本的には、任意の方法を用いて、加熱ブロック410のむだ時間Lhを決定できる。
【0160】
むだ時間は、操作量が変化しなければならない条件が入力されてから、実際に操作量に変化が生じるまでの遅延時間を意味する。そのため、
図18に示すむだ時間L2およびL3は、冷却動作によって温度PVが設定温度SVを下回ってから、温度PVが増加に転じるまでに要した時間に相当する。すなわち、温度PVが設定温度SVを下回ると、加熱側の操作量の出力が開始されるが、実際にシリンダ236の温度の情報が開始されるまでにはいくらかの遅延時間があり、この遅延時間がむだ時間に相当する。
【0161】
すなわち、加熱要素である加熱ブロック410は、第1の操作量(加熱側の操作量)と観測量を上昇させる作用量との間に生じる第1のむだ時間(むだ時間Lh)を含む。この第1のむだ時間を決定する工程は、第1の操作量が変化したタイミングと、観測量の挙動が変化したタイミングとに基づいて、第1のむだ時間を決定する工程を含む。
【0162】
一方、むだ時間L1については、シリンダブロック440が1次遅れとして定義できるので、むだ時間がなければ温度PVは、所定の時定数(シリンダ時定数Tb)をもって増加するはずである。そこで、温度PVに生じる最大傾きRhの延長線がオートチューニング開始時における温度PV(初期温度)と交差する点を決定し、この交差する点における経過時間をむだ時間L1として決定できる。
【0163】
すなわち、この第1のむだ時間を決定する工程は、第1の操作量の実制御対象への入力開始後に生じる観測量の挙動に基づいて、第1のむだ時間を決定する工程を含む。
【0164】
以上のような手順に従って、加熱ブロック410のパラメータである加熱定常ゲインKhおよびむだ時間Lhが決定される。
【0165】
《f3:自然放熱ブロック430》
上述したように、自然放熱ブロック430は、シリンダ236の温度に応じて自然放熱量を算出し、その熱量をシリンダ236の温度に反映する。つまり、放熱要素である自然放熱ブロック430は、実制御対象230の温度と実制御対象230の周辺温度との差と、観測量を低下させる作用量との関係を示す第2のゲイン(自然放熱ゲインKa)およびべき数(べき数α)を含む。自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値が決定される。
【0166】
まず、自然放熱量は、シリンダ温度と周辺温度との温度差に依存する。
図19は、シリンダ温度と周辺温度との温度差についての自然放熱量の関係を示すグラフである。
図19に示すように、自然放熱量は、シリンダ温度と周辺温度との温度差のα乗に比例することになる。すなわち、自然放熱量は、次の(13)式に従って定義できる。
【0167】
Qa=Ka・x
α ・・・(13)
但し、
Qa:自然放熱の影響(自然放熱量)
Ka:自然放熱ゲイン
x:シリンダ温度と周辺温度Thaとの差[℃]
本実施の形態においては、複数の自然放熱量(Qa1,Qa2,Qa3,・・・)を決定し、これらの自然放熱量が(13)式と適合するように、フィッティング法(典型的には、最小二乗法)を用いて自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する。
【0168】
まず、設定温度SVnにおける自然放熱量Q
a_SVnは、次の(14)式に従って算出できる。
【0169】
Q
a_SVn=(Kh−K’
h_SVn)×MV’n ・・・(14)
但し、
Kh:加熱定常ゲイン
K’
h_SVn:設定温度SVnにおける定常ゲイン
MV’n:整定操作量
図20は、加熱定常ゲインKhを用いた自然放熱量の決定方法を説明するための図である。上述の加熱ブロック410の加熱定常ゲインKhの値を決定する際に用いた、温度PVの上昇過程における3つの温度Th1,Th2,Th3と、これらの温度にそれぞれ対応する定常ゲインK’
h_SV1,K’
h_SV2,K’
h_SV3とを取得するとともに、それらをシリンダ温度と周辺温度Thaとの差を横軸としてプロットすると、
図20に示すような線形関係が得られる。
【0170】
次に、整定操作量MV’nは、次の(15)式に従って算出できる。
MV’n=(Thn−Tha)/K’
h_SVn ・・・(15)
なお、MV’3としては、オートチューニングの実行により、シリンダ236の温度PVが設定温度SVに一致した(整定された)ときの加熱側の操作量MVhの値を採用してもよい。温度PVが設定温度SVに一致した状態では、加熱側からの入熱量と自然放熱量とが一致しているとみなすことができるからである。
【0171】
そして、(15)式によって算出された整定操作量MV’nを用いて、(14)式から各温度における自然放熱量を算出する。そして、この算出された複数の自然放熱量と適合するように、フィッティング法(典型的には、最小二乗法)を用いて自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する。
【0172】
このように、自然放熱ブロック430のパラメータは、
図15に示すようなオートチューニング結果などを用いて同定できる。つまり、自然放熱ブロック430のパラメータを決定する工程は、観測量についての設定温度(設定温度SV)と実制御対象270の周辺温度(周辺温度Tha)との差、および、第1の操作量(加熱側の操作量)に基づいて、設定温度の別に定常ゲイン(定常ゲインK
h_SV)を算出する工程と、設定温度の別に算出されるそれぞれの定常ゲイン(定常ゲインK
h_SV)、および、対応する実制御対象270の周辺温度(周辺温度Tha)と実制御対象270の温度との差に基づいて、設定温度(設定温度SV)の別に整定操作量(整定操作量MV
h_SV)を算出する工程と、観測量についての設定温度と実制御対象の周辺温度との差、および、対応する整定操作量に基づいて、設定温度の別に放熱量を算出する工程と、実制御対象の温度と実制御対象の周辺温度との差と、設定温度の別に算出される放熱量との、関係を推定することで、第2のゲイン(自然放熱ゲインKa)およびべき数(べき数α)を決定する工程とを含む。
【0173】
《f4:冷却ブロック420》
上述したように、冷却ブロック420は、冷却ゲイン(Kc(PV))と(純粋)むだ時間(Lc)とを用いて表現する。上述した「パラメータ決定方法(その1)」において説明したように、冷却装置220の冷却特性は、気化熱の影響により非線形特性になる。そこで、冷却側の操作量に対する仮想整定値の傾きが大きく変化する点を非線形点Xcと定義し、非線形点Xcを境界として2種類の冷却特性を用いて、冷却装置220の冷却特性を近似する。すなわち、冷却側の操作量が非線形点Xcより小さい領域では、仮想整定値と冷却側の操作量との関係を近似直線L1で近似し、冷却側の操作量が非線形点Xcより大きい領域では、仮想整定値と冷却側の操作量との関係を近似直線L2で近似する。つまり、2つの冷却特性(近似直線L1およびL2)は、第2の操作量(冷却側の操作量)と冷却能力との関係として定義される。
【0174】
図21は、本実施の形態に係る制御対象モデル400の冷却ブロック420のパラメータを決定する概略手順を示す図である。
図21(a)には、冷却特性を決定する一つの方法を示し、
図21(b)には、冷却特性を決定する別の方法を示す。
図21(a)に示す方法と
図21(b)に示す方法との間では、非線形点Xcおよび近似直線L2の決定方法が異なっている。その他の手順については、同様である。
【0175】
本実施の形態に係る調節器100は、冷却特性の非線形特性を考慮したオートチューニングを実行する。この調節器100によるオートチューニングが完了すると、非線形特性を考慮して、ある操作量xにおいて最適化されたPIDパラメータが決定される(ステップSA)。このとき、近似直線L1についても同時に決定できる。この非線形特性を考慮したオートチューニングの詳細については後述する。
【0176】
続いて、
図21(a)に示す方法では、気化熱による吸熱と水流による吸熱との比率に基づいて、近似直線L1から近似直線L2が決定される(ステップSB)。このとき、近似直線L1と近似直線L2との交点から非線形点が決定される。一方、
図21(b)に示す方法では、まず非線形点が推定される(ステップSB’)。この推定された非線形点から近似直線L2が決定される。
【0177】
ステップSBまたはSB’の実行後、オートチューニングが実行された設定温度SVにおける冷却特性が決定される(ステップSC)。この決定される冷却特性は、非線形特性を有する。すなわち、制御対象の観測量についての設定温度SVに関して、第1および第2の冷却特性(近似直線L1およびL2)が決定される。
【0178】
その後、設定温度SVの近傍にある複数の設定温度の冷却特性がそれぞれ決定される(ステップSD)。このように決定される冷却特性を用いて、冷却ブロック420の冷却ゲイン(Kc(PV))が決定される。
【0179】
また、冷却ブロック420のむだ時間Lcについては、加熱ブロック410のむだ時間Lhと同様に、調節器100によるオートチューニング結果から決定される。
【0180】
(f4−1:非線形特性を考慮したオートチューニング)
まず、本実施の形態に係る非線形特性を考慮したオートチューニングについて説明する。
【0181】
図22は、
図3に示す制御対象プロセス200における操作量と加熱能力および冷却能力との特性例を示す図である。ここで、「加熱能力」および「冷却能力」は、以下のように定義される。
【0182】
加熱能力=任意操作量での加熱温度[℃/s]/最大加熱温度[℃/s]×100%
冷却能力=任意操作量での冷却温度[℃/s]/最大冷却温度[℃/s]×100%
まず、加熱特性(加熱の操作量に対する加熱能力の関係)については、
図22に示すように、ほぼリニアである。つまり線形特性を有しているといえる。これは、加熱装置210として電熱ヒータ214が用いられており、操作量に比例する電流(電力)を供給することで、発熱量をリニアに制御できるからである。
【0183】
これに対して、冷却特性(冷却の操作量に対する冷却能力の関係)は、冷却装置220を構成する冷却配管222を流れる冷却媒体に応じて、異なる特性を有する。例えば、冷却媒体として油を用いた場合には、相変化がなく安定しているので、冷却の操作量に対する冷却能力はほぼリニアになる。つまり線形特性を有しているといえる。これに対して、冷却媒体として水を用いた場合や、空気を用いた場合(空冷方式)には、冷却の操作量に対する冷却能力は非線形特性となる。
【0184】
特に、水を用いた水冷方式では、液相から気相に変化する際の気化熱が相対的に大きく、このような気化熱が生じるような領域では冷却能力が非常に大きくなる。そのため、水を用いた冷却方式(水冷方式)では、この気化熱が大きく影響し、非線形特性が強くなる。このような水冷方式について、その能力の特性を事前に把握することは容易ではない。
【0185】
このような非線形特性の強いフィードバック制御系に対して、一般的なオートチューニングを実行してPIDパラメータを決定すると、制御性能が悪化し得る。このような制御性能が悪化する理由について以下説明する。
【0186】
オートチューニングによって決定されたPIDパラメータを用いてフィードバック制御を行うにあたって、実際に使用される操作量がオートチューニングの実行時と乖離している場合には、制御対象となる特性が意図したものとは異なるため、制御性能が悪化する。
【0187】
図23は、一般的なオートチューニングの実行時によって決定されたPIDパラメータを用いてフィードバック制御を行った場合の制御対象の温度(観測量)および操作量の時間変化の一例を示す図である。
【0188】
例えば、一般的なオートチューニングによって、
図23(a)の破線に示すような特性が推定される。その推定された特性に応じたPIDパラメータが決定される。しかしながら、実際の特性は、推定された特性とは乖離している領域もあり、
図23(b)に示すように、操作量が相対的に小さい領域でフィードバック制御を行う場合には、推定された特性に対して、実際の特性は大きく乖離することになる。そのため、相対的に小さい操作量を用いて実制御対象230を制御すると、一般的なオートチューニングによって設定されたPIDパラメータが前提とする冷却能力より現実の冷却能力が高くなり、実制御対象230を冷し過ぎるという事態が生じる。
【0189】
本実施の形態に係るオートチューニングでは、使用する操作量を段階的に変更しつつ、最も好ましい操作量の大きさを探索する。そして、最も好ましい操作量における応答特性に基づいてPIDパラメータを決定する。
【0190】
より具体的には、調節器100は、そのオートチューニング機能として、第1の操作量(冷却側の操作量)および第2の操作量(加熱側の操作量)の交互出力において、出力の切替毎に第1の操作量(冷却側の操作量)の大きさを順次変更するとともに、第1の操作量(冷却側の操作量)に対する制御量の第1の変化が線形性を有していると判断されたときに取得された応答特性からPIDパラメータを決定する。すなわち、調節器100は、冷却側の操作量を段階的に変更しつつ、リミットサイクルを複数回実行する。そして、各リミットサイクルの結果が予め定められた条件を満たすと判断されると、調節器100は、そのときの冷却特性(応答特性)から、冷却側のPIDパラメータを算出する。なお、加熱特性(応答特性)から、加熱側のPIDパラメータも算出される。
【0191】
図24は、本実施の形態に係る調節器100によるオートチューニングの実行時の波形例を示す図である。
図25は、本実施の形態に係る調節器100によるオートチューニングの実行時の操作量の冷却能力の特性上における変化を示す図である。
【0192】
図24を参照して、調節器100は、オートチューニングの各サイクルにおいて、冷却側の操作量の大きさを順次変更していく。なお、加熱能力に非線形性が存在する制御系であれば、加熱側の操作量の大きさについても順次変更していけばよい。
【0193】
より具体的には、1回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVc1を100%と設定し、2回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVc2を1回目の操作量MVc1をρ_1倍した値に設定し、3回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVc3を2回目の操作量MVc2をρ_2倍した値に設定する。以下同様にして、冷却側の操作量MVcをリミットサイクル毎に変更する。このように冷却側の操作量MVcを順次変更することで、オートチューニングにおいて考慮される冷却能力の大きさは、
図25に示すように順次変化する。
【0194】
ここで、冷却側の操作量MVcの変更係数ρ_i(0<ρ_i<1)については、予め定められた一定値を採用してもよいが、直前の交互出力によって取得された応答特性から、新たな交互出力における冷却側の操作量MVcの値を決定することが好ましい。このような直前の交互出力の応答特性を利用する一例として、本実施の形態においては、加熱と冷却とのシステムゲイン比(能力比)を表す以下の比を用いる。
【0195】
変更係数ρ_i=冷却出力時間Toff_i−1/加熱出力時間Ton_i−1
但し、冷却出力時間Toff_i−1は、(i−1)回目(前回)のリミットサイクルにおいて冷却側の操作量MVcが0に維持される時間の長さを示し、加熱出力時間Ton_i−1は、(i−1)回目(前回)のリミットサイクルにおいて冷却側の操作量MVcが出力される時間の長さを示す(
図25参照)。
【0196】
このとき、冷却出力時間Toff_i−1と加熱出力時間Ton_i−1との大きさの関係によっては、上述の式において、変更係数ρ_iが1を超える場合もあるので、算出される変更係数ρ_iが変更係数上限値ρ_max以下になるように制限することが好ましい。
【0197】
このように、調節器100は、そのオートチューニング機能として、直前の交互出力において第1の操作量(冷却側の操作量)が出力された期間(冷却出力時間Toff)の長さと第2の操作量(加熱側の操作量)が出力された期間(加熱出力時間Ton)の長さとに応じて、当該直前の交互出力における第1の操作量の大きさを補正することで、新たな交互出力における第1の操作量の大きさを決定する。
【0198】
次に、上述のような、冷却側の操作量MVcを順次変更した探索を終了する条件としては、冷却特性(冷却の操作量に対する冷却能力の関係)上において、線形性を有している領域の操作量であると判断されたことを採用してもよい。ここで、調節器100は、そのオートチューニング機能として、順次変更される第1の操作量(冷却側の操作量)の大きさの別に、第1の操作量に対応する制御量の変化速度との関係を評価することで、第1の操作量に対する制御量の第1の変化が線形性を有しているか否かを判断する。
【0199】
より具体的には、この冷却特性上における線形性については、以下に説明するような誤差を用いて評価できる。すなわち、リミットサイクルの終了条件は、算出される誤差が予め設定したしきい値以下になったことを含む。
【0200】
最終のリミットサイクルにおいて観測された冷却特性および加熱特性(応答特性)に基づいて、ZiegleおよびNicholsの限界感度法などを用いて、PIDパラメータが算出される。なお、PIDパラメータの算出方法については、公知の任意の方法を採用できる。
【0201】
但し、制御系の特性によっては、算出される誤差が予め設定したしきい値以下にならない場合も想定されるため、発生したリミットサイクルの数が上限値(N回)に到達すれば、リミットサイクルを終了させてもよい。すなわち、調節器100は、そのオートチューニング機能として、第1の操作量(冷却側の操作量)に対する制御量の第1の変化が線形性を有していると判断されなくとも、第1の操作量および第2の操作量の交互出力が予め定められた回数実行されると、最終の交互出力において取得された応答特性からPIDパラメータを決定する。
【0202】
このようなオートチューニング方法を採用することで、制御対象が線形性を有している場合であっても、非線形性を有している場合であっても、適切なPIDパラメータを算出できる。例えば、
図1に示す制御系においては、冷却媒体の種類(水や油)などに応じて、オートチューニングの手順などを変更する必要がない。
【0203】
次に、線形性を有している領域の操作量であるか否かを判断するための誤差について説明する。
図26は、本実施の形態に係る調節器100によるオートチューニングにおける誤差の評価方法を説明するための図である。
図26に示すように、本実施の形態における「誤差」は、冷却特性(冷却の操作量に対する冷却能力の関係)において、前回のリミットサイクルで用いた操作量に対応する冷却能力で定義される直線に対して、今回のリミットサイクルで用いた操作量に対応する冷却能力がどの程度離れているかという度合いを示す値に相当する。
【0204】
具体的には、
図26に示すように、原点をP0とし、リミットサイクルi回目の冷却能力点をPi(Pi.x,Pi.y)と定義する。ここで、Pi.xは、冷却側操作量を示し、Pi.yは、冷却能力を示す。また、冷却能力Pi.yは、リミットサイクル1回目における温度低下時の傾き(変化速度)R1に対する、リミットサイクルi回目における温度低下時の傾きRiの比から算出される(つまり、Pi.y=Ri/R1)。そして、リミットサイクルi回目の各々において、冷却能力Piと原点P0とを結ぶ直線Liが設定される。誤差hiは、直線L(i−1)とi回目の冷却能力Pi(Pi.x,Pi.y)との距離として算出される。すなわち、この距離は、リミットサイクルi回目における線形判定の指標である誤差hiとして算出される。
図26には、2回目のリミットサイクルについての誤差h2の算出例を示す。
【0205】
(f4−2:冷却特性を決定する方法(その1))
次に、冷却特性を決定する方法として、気化熱による吸熱と水流による吸熱との比率に基づいて、近似直線L1から近似直線L2の値を決定する処理(
図21(a)のステップSB)を説明する。上述したように、近似直線L1は、主として気化熱による冷却特性を示し、近似直線L2は、主として水流による吸熱による冷却特性を示す。
【0206】
図27は、気化熱による吸熱と水流による吸熱との比率に基づいて冷却特性を決定する処理手順を示すフローチャートである。
図28は、
図27に示す処理手順による冷却特性の決定処理を模式的に説明するための図である。なお、
図28に示す冷却側の操作量は、負値と定義されることが一般的であるが、説明の便宜上、その値を反転して示す。
【0207】
図27および
図28を参照して、まず、近似直線L1の傾きが決定される(ステップS300)。具体的には、近似直線L1の傾きK
c1_SVは、次の(16)式に従って算出できる。
【0208】
K
cn_SV=Scn/MVcn ・・・(16)
但し、
MVcn:n回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVcn[%]
Scn:n回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVcnにおける仮想整定値[℃]
ここで、Scnは、次の(17)式に従って算出される。
【0209】
Scn=|Rn|×Tb ・・・(17)
但し、
Rn:n回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVcnに対応する傾き
Tb:シリンダ時定数
図28(a)には、オートチューニングにおいて2回のリミットサイクルを実行した例を示す。つまり、1回目のリミットサイクルでは、冷却側の操作量MVc1が出力されて仮想整定値Sc1が決定され、2回目のリミットサイクルでは、冷却側の操作量MVc2が出力されて仮想整定値Sc2が決定されたとする。この例では、上述の(16)式および(17)式は、それぞれ以下のようになる。
【0210】
K
c1_SV=Sc2/MVc2 ・・・(16’)
Sc2=|R2|×Tb ・・・(17’)
次に、水流による吸熱と気化熱による吸熱との比率βが決定される(ステップS302)。具体的には、比率βは、次の(18)式に従って算出できる。
【0211】
β=(水流による吸熱)/(気化による吸熱)=1/6〜1/3 ・・・(18)
なお、比率βは、冷却媒体の温度に応じて動的に変化させてもよいし、予め定められた固定値を用いてもよい。冷却媒体が水であれば、水温が10〜20℃の範囲では、比率βは1/3程度になり、水温が50〜60℃の範囲では、βは1/6程度になる。
【0212】
決定された比率βを用いて、近似直線L2の傾きK
c2_SVおよび切片B2が決定される(ステップS304)。すなわち、
図28(a)に示すように、近似直線L1の傾きK
c1_SVをβ倍することで、近似直線L2の傾きK
c2_SVを決定できる。
【0213】
より具体的には、近似直線L2の傾きK
c2_SVは、次の(19)式に従って算出できる。また、近似直線L1が座標(MVc1,Sc1)を通過することから、近似直線L1の切片B2は、次の(20)式に従って算出できる。ここで、1回目のリミットサイクルにおける仮想整定値Sc1は、当該リミットサイクルにおける冷却側の操作量MVc1に対応する傾きR1と、シリンダ時定数Tbとを用いて、次の(21)式に従って算出できる。
【0214】
K
C2_SV=K
c1_SV×β ・・・(19)
B2=Sc1−K
C2_SV×MVc1 ・・・(20)
Sc1=R1×Tb ・・・(21)
以上のような手順によって、近似直線L1およびL2を決定できる。
図28(b)に示すように、これらの決定された近似直線L1と近似直線L2との交点が非線形点Xcとして決定される。この決定されたXcを用いて、後述するような手順に従って、冷却ブロック420のパラメータが決定される。
【0215】
(f4−3:冷却特性を決定する方法(その2))
次に、冷却特性を決定する別の方法として、非線形点を推定した上で、近似直線L1から近似直線L2の値を決定する処理(
図21(a)のステップSB’)を説明する。
【0216】
図29は、非線形点を推定することで冷却特性を決定する処理手順を示すフローチャートである。
図30は、
図29に示す処理手順による冷却特性の決定処理を模式的に説明するための図である。なお、
図30に示す冷却側の操作量は、負値と定義されることが一般的であるが、説明の便宜上、その値を反転して示す。
【0217】
図29および
図30を参照して、まず、近似直線L1の傾きが決定される(ステップS320)。具体的には、近似直線L1の傾きK
c1_SVは、(その1)の方法と同様に、上述の(16)式に従って算出できる。
【0218】
次に、非線形点Xcが決定される(ステップS312)。具体的には、非線形点Xcは、次の(22)式に従って算出できる。
【0219】
Xc=MVc2 ・・・(
22)
すなわち、
図30(a)に示すように、非線形点Xcは、2回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVc2であるとみなされる。言い換えれば、操作量MVc2より小さい領域については、非線形領域であるとみなす。続いて、非線形点Xcにおける仮想整定値Sxcの値を決定する(ステップS314)。具体的には、仮想整定値Sxcは、近似直線L1の傾きK
c1_SVを用いて、次の(23)式に従って算出できる。
【0220】
Sxc=K
c1_SV×Xc ・・・(
23)
最終的に、近似直線L2の傾きK
c2_SVおよび切片B2が決定される(ステップS316)。具体的には、近似直線L2の傾きK
c2_SVは、次の(
24)式に従って算出でき、近似直線L2の切片B2は、次の(
25)式に従って算出できる。
【0221】
K
c2_SV=(Sc1−Sxc)/(MVc1−Xc) ・・・(
24)
B2=Sxc−K
c2_SV×MVc1 ・・・(
25)
すなわち、
図30(b)に示すように、非線形点Xcを通るように、近似直線L2が決定される。
【0222】
以上のような手順によって、近似直線L1およびL2を決定できる。これらの決定された近似直線L1およびL2を用いて、後述するような手順に従って、冷却ブロック420のパラメータが決定される。
【0223】
(f4−4:設定温度SV近傍の温度における冷却特性を決定する方法)
上述の手順によって決定された近似直線L1およびL2は、設定温度SVにおける冷却特性である。次に、設定温度SV近傍の温度における冷却特性を決定する処理について説明する。
図31および
図32は、設定温度近傍の温度における冷却特性を決定する処理を説明するための図である。
【0224】
図31(a)を参照して、設定温度近傍の温度における冷却特性を決定するために、オートチューニング中に生じるオーバーシュートまたはアンダーシュートを利用して、設定温度から可能な限り離れた温度における、応答波形の傾きRnを求める。それぞれ求めた傾きRを用いて、次の(25)式に従って、n回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVcnにおける仮想整定値Scnを求める。
【0225】
Scn=Rn×Tb ・・・(25)
図31に示す例では、1回目のリミットサイクル(冷却側の操作量=100%)において、設定温度SVより高温側における応答波形の傾きがR11であり、設定温度SVより低温側における応答波形の傾きがR12であるとする。また、2回目のリミットサイクル(冷却側の操作量=x%(<100%))において、設定温度SVより高温側における応答波形の傾きがR21であり、設定温度SVより低温側における応答波形の傾きがR22であるとする。
【0226】
図32には、仮想整定値Sc1と冷却側の操作量との関係(近似直線L1およびL2でそれぞれ近似された基準モデル)から、仮想整定値Sc11およびSc12について、冷却側の操作量との関係を推定した結果を示す。仮想整定値Sc11およびSc12についてのモデルは、それぞれ、傾きR11およびR12から求められる。
【0227】
設定温度近傍において、近似直線L2の傾きK
c2_SVは、いずれの仮想整定値についても同一の値(傾きK
c2_SV)であるとする。非線形点Xcについても基準モデルの非線形点Xcと同一であるとする。一方、上述の(8)式に関して説明したように、非線形点Xcにおける切片の大きさは、それぞれの傾きRを求めた温度と基準モデルの温度との温度差に対して比例的に変化する。
【0228】
これらの関係を利用して、
図32に示すような、仮想整定値Sc11およびSc12についてのモデルを推定することができる。また、(8)式に示す近似直線L2の切片の変化量Aおよび近似直線L2の切片B0については、
図32に示す複数の特性に対して、フィッティング法(典型的には、最小二乗法)を適用することで、決定する。
【0229】
なお、応答波形のオーバーシュートまたはアンダーシュートにおいて求められた傾きRのうち、利用することができないことが明らかである場合には、そのような傾きRについては、除外することが好ましい。例えば、設定温度SVより高温側における応答波形の傾きR11に対応する仮想整定値Sc11が、基準モデルの仮想整定値Sc1を下回っているような場合には、誤差などの混入により論理的に正しくない結果であると判断できる。つまり、仮想整定値Sc11は、仮想整定値Sc1を下回ることはないので、このような情報は除外される。
【0230】
以上のように、設定温度SVとは異なる冷却特性を決定する工程においては、第2の操作量(冷却側の操作量)を時間的に変化させることで実制御対象230に生じた観測量の時間的変化に基づいて、設定温度SVとは異なる観測量における観測量の時間的変化の傾き(応答波形の傾きR11,R12,R21,R22など)を算出する工程と、観測量が設定温度SVと一致したときの観測量の時間的変化の傾きである基準傾き(応答波形の傾きR1)と、設定温度SVとは異なる観測量における観測量の時間的変化の傾き(応答波形の傾きR11,R12,R21,R22など)とに応じて、設定温度SVについての第2の冷却特性(近似直線L2)を冷却能力(仮想整定値)の方向についてシフトすることで、設定温度SVとは異なる観測量についての第2の冷却特性(仮想整定値Sc11,SC12についての近似直線L2)を決定する工程と、非線形点(Xc)において、設定温度とは異なる観測量についての第2の冷却特性と連続するように、設定温度とは異なる観測量についての第1の冷却特性(仮想整定値Sc11,Sc12についての近似直線L1)を決定する工程とが実行される。
【0231】
以上のような処理手順に従って、近似直線L1およびL2を用いた冷却特性が推定される。つまり、冷却ブロック420のパラメータである冷却ゲイン(Kc(PV))を決定するための冷却特性が決定するためのパラメータが決定される。より具体的には、近似直線L2の傾きKc2、近似直線L2の切片の変化量A、基準温度(典型的には、100℃)における近似直線L2の切片B0が決定される。これらのパラメータを用いて、シミュレーション実行時には、(6)〜(8)式に従って、温度PVに応じた冷却特性が決定されるとともに、操作量MVに応じた冷却ゲインKc(PV)が逐次決定される。この詳細については後述する。
【0232】
(f4−5:むだ時間(Lc)の決定)
冷却ブロック420のむだ時間Lcについても、オートチューニング結果から決定される。
【0233】
図33は、本実施の形態に係る調節器100によるオートチューニング結果から冷却ブロック420のむだ時間Lcの値を決定する方法を説明するための図である。
図33には、1つのオートチューニング結果から2種類のむだ時間Lhの値を決定する例を示す。1つのオートチューニング波形から複数のむだ時間を決定できた場合には、いずれか1つのむだ時間のみを採用してもよいし、複数のむだ時間に対する統計処理によって代表値を決定してもよい。この統計処理としては、複数のむだ時間の平均値を算出する方法や、複数のむだ時間の中間値を算出する方法などが考えられる。基本的には、任意の方法を用いて、加熱ブロック410のむだ時間Lhを決定できる。
【0234】
むだ時間は、操作量が変化しなければならない条件が入力されてから、実際に操作量に変化が生じるまでの遅延時間を意味する。そのため、
図33に示すむだ時間L4およびL5は、加熱動作によって温度PVが設定温度SVを上回ってから、温度PVが減少に転じるまでに要した時間に相当する。すなわち、温度PVが設定温度SVを下回ると、冷却側の操作量の出力が開始されるが、実際にシリンダ236の温度の情報が開始されるまでにはいくらかの遅延時間があり、この遅延時間がむだ時間Lhに相当する。
【0235】
《f5:パラメータ決定の処理手順》
次に、上述した制御対象モデル400のパラメータを決定する方法の処理手順について説明する。本決定方法においては、調節器100が実行するオートチューニングにより得られる結果を用いて決定される。典型的な実装形態としては、調節器100がオートチューニングを実行するとともに、そのオートチューニング中の応答波形を収集する。情報処理装置300は、調節器100によって収集されたオートチューニング中の応答波形を用いて、制御対象モデル400のパラメータを決定する。但し、応答波形の収集については、調節器100とは別に設けられたロギング装置が行ってもよい。また、調節器100が応答波形の収集に加えて、制御対象モデル400のパラメータの同定についても行うように構成してもよい。
【0236】
説明の便宜上、以下のフローチャートを用いた説明では、情報処理装置300が制御対象モデル400のパラメータを同定する場合の処理手順を例示する。
【0237】
図34は、本実施の形態に係る制御対象モデル400のパラメータを決定する方法(その2)の処理手順を示すフローチャートである。
図34に示す各ステップは、典型的には、情報処理装置300のプロセッサ302が制御対象モデル構成プログラム322(
図6)を実行することで実現される。
【0238】
図34を参照して、情報処理装置300のプロセッサ302は、調節器100に対してオートチューニングの実行を指示する(ステップS200)。この指示に従って、調節器100は、オートチューニングの実行を開始する。調節器100によるオートチューニングの処理手順については、
図35を参照して後述する。そして、プロセッサ302は、調節器100からオートチューニング結果(応答波形)を取得する(ステップS202)。
【0239】
なお、調節器100が既にオートチューニングを実行している場合には、改めてオートチューニングを実行させる必要はなく、プロセッサ302は、当該実行済のオートチューニング結果を取得する。
【0240】
次に、プロセッサ302は、シリンダブロック440のシリンダ時定数Tbの値を決定する(ステップS204)。より具体的には、プロセッサ302は、オートチューニング開始後の温度PVについての昇温時の最大傾きRhを求めるとともに、オートチューニング完了後の整定操作量MV
h_SVと、オートチューニング開始時における温度PV(周辺温度Thaに相当)と用いて、シリンダ時定数Tbを推定する。
【0241】
続いて、プロセッサ302は、加熱ブロック410の加熱定常ゲインKhおよびむだ時間Lhの値を決定する(ステップS206)。より具体的には、プロセッサ302は、オートチューニング開始後の温度PVの上昇過程における複数の温度を抽出するとともに、抽出した各温度に対応する最大傾きを求める。そして、プロセッサ302は、抽出された温度と対応する最大傾きとの組を利用して、それぞれ定常ゲインを求めるとともに、これらの求めた定常ゲインから加熱定常ゲインKhの値を決定する。併せて、プロセッサ302は、オートチューニング波形からむだ時間Lhの値を決定する。
【0242】
続いて、プロセッサ302は、自然放熱ブロック430の自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する(ステップS208)。より具体的には、プロセッサ302は、加熱ブロック410のパラメータを決定する際に用いた温度別の定常ゲインを用いて、各温度における整定操作量を求める。そして、プロセッサ302は、これらの整定操作量から各温度における自然放熱量を算出し、フィッティング法により自然放熱ゲインKaおよび自然放熱のべき数αの値を決定する。
【0243】
最終的に、プロセッサ302は、冷却ブロック420の冷却ゲインKc(PV)およびむだ時間Lcの値を決定する(ステップS210)。より具体的には、プロセッサ302は、オートチューニングの実行により推定された非線形点を用いて、2種類の近似直線(主として気化熱による冷却特性を示す近似直線、および、主として水流による吸熱による冷却特性を示す近似直線)を求める。この求めた2種類の近似直線から冷却ブロック420の冷却ゲインKc(PV)の値を決定する。併せて、プロセッサ302は、オートチューニング波形からむだ時間Lcの値を決定する。
【0244】
以上のような処理手順によって、制御対象モデル400の構成に必要なパラメータが決定される。
【0245】
《f6:オートチューニングの処理手順》
次に、本実施の形態に係る調節器100において実行されるオートチューニングの処理手順について説明する。
【0246】
図35は、本実施の形態に係る調節器100において実行されるオートチューニングの処理手順を示すフローチャートである。
図35に示す各ステップは、典型的には、調節器100のCPU112がFlashROM114に格納されたプログラムモジュール118に含まれる命令コードを実行することで実現される。
図35に示す処理手順は、オートチューニングの開始を指示すると、予め定められた演算周期(例えば、100msec毎)に繰返し実行される。
【0247】
図35を参照して、CPU112は、加熱側の操作量として100%を出力し(ステップS400)、制御対象プロセス200から測定された温度(制御対象の温度)PVが設定された目標値(設定温度)SVに到達したか否かを判断する(ステップS402)。制御対象の温度PVが設定温度SVに到達していなければ(ステップS402においてNOの場合)、ステップS400以下の処理が繰返される。
【0248】
制御対象の温度PVが設定温度SVに到達していれば(ステップS402においてYESの場合)、ステップS404以下の処理が実行される。このステップS400およびS102の処理は、オートチューニングに係るリミットサイクルを発生させるための前処理である。
【0249】
CPU112は、カウンタiに「1」をセットし(ステップS404)、1回目のリミットサイクルの発生を指示する(ステップS406)。このカウンタiは、リミットサイクル回数を示す。1回目のリミットサイクルにおける冷却側および加熱側の操作量はいずれも100%とする。リミットサイクルの発生指示は、制御対象の温度PVが設定温度SVと一致するまで冷却側の操作量(この場合は、100%)を出力し、制御対象の温度PVが設定温度SVと一致すると、加熱側の操作量(この場合は、100%)を出力するという一連の処理を含む。
【0250】
1回分のリミットサイクルの発生が完了すると、CPU112は、カウンタiを1だけインクリメントする(ステップS408)。そして、CPU112は、前回のリミットサイクルにおける冷却側の操作量についての冷却出力時間Toff_i−1および加熱出力時間Ton_i−1を用いて、変更係数ρ_i(=Toff_i−1/Ton_i−1)を算出するとともに、算出した変更係数ρ_iを用いて今回の冷却側の操作量MVc_i(=MVc_i−1×ρ_i)を算出する(ステップS410)。
【0251】
続いて、CPU112は、i回目のリミットサイクルの発生を指示する(ステップS412)。i回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量はMVc_i%とし、加熱側の操作量は100%とする。リミットサイクルの発生指示は、制御対象の温度PVが設定温度SVと一致するまで冷却側の操作量(この場合は、MVc_i%)を出力し、制御対象の温度PVが設定温度SVと一致すると、加熱側の操作量(この場合は、100%)を出力するという一連の処理を含む。そして、CPU112は、今回の冷却特性(応答特性)と前回の冷却特性(応答特性)とから誤差hiを算出する(ステップS414)。
【0252】
その後、CPU112は、算出した誤差hiがしきい値γ以下であるか否かを判断する(ステップS416)。算出した誤差hiがしきい値γを超えていれば(ステップS416においてNOの場合)には、CPU112は、現在のカウンタiの値がリミットサイクルの最大値Nに到達しているか否かを判断する(ステップS418)。
【0253】
現在のカウンタiの値がリミットサイクルの最大値Nに到達していなければ(ステップS418においてNOの場合)には、CPU112は、ステップS408以下の処理を実行する。
【0254】
これに対して、算出した誤差hiがしきい値γ以下の場合(ステップS416においてYESの場合)、または、現在のカウンタiの値がリミットサイクルの最大値Nに到達している場合(ステップS418においてYESの場合)には、CPU112は、i回目のリミットサイクルにおける応答特性から、PIDパラメータを算出する(ステップS420)。そして、処理は終了する。
【0255】
このような処理手順によって、調節器100のPIDパラメータが決定される。
[G.システムアプリケーション]
次に、調節器100および情報処理装置300からなるシステムによって実現されるアプリケーションの一例について説明する。
【0256】
《g1:システム構成》
まず、調節器100および情報処理装置300からなるシステムの構成について説明する。
図36は、本実施の形態に係る調節器100および情報処理装置300からなるシステムの機能構成例を示す模式図である。
図36に示すシステムは、加熱装置210を含む実制御対象270を制御するためのものである。つまり、調節器100は、実制御対象270の観測量を取得するとともに、当該観測量が設定値と一致するように、加熱装置210の発熱量を制御するための操作量を決定する制御手段に相当する。情報処理装置300は、制御手段に接続され、実制御対象を示す制御対象モデルを保持するシミュレーション手段に相当する。
【0257】
図36(a)に示すシステム構成では、情報処理装置300が調節器100に対して指令を与えることでオートチューニングを実行させるとともに、そのオートチューニングの実行により得られるロギングデータを取得して、必要なパラメータを決定して制御対象モデル400を構成する。
【0258】
つまり、シミュレーション手段として機能する情報処理装置300は、制御手段として機能する調節器100に対して指令を与えることで、調節器100から実制御対象270に与えられる操作量を時間的に変化させるとともに、実制御対象270に生じた観測量の時間的変化を制御手段から取得する手段と、制御手段から取得した観測量の時間的変化に基づいて、制御対象モデル400に用いられるパラメータを決定する手段とを含む。
【0259】
なお、オートチューニングにより得られるロギングデータ(応答波形)に代えて、あるいは、それに加えて、特徴量データのみを取得してもよい。この特徴量データとしては、n回目のリミットサイクルにおける冷却側の操作量MVcnにおける仮想整定値Scnや、むだ時間Lh,Lcなどを含む。
【0260】
また、情報処理装置300は、構成した制御対象モデルを用いてシミュレーションを行うこともできる。このシミュレーションの一例として、情報処理装置300は、調節器100から設定されているPIDパラメータを取得し、当該取得したPIDパラメータの適否などを判断する。さらに、情報処理装置300は、制御対象モデルを用いたシミュレーションによって最適化されたPIDパラメータを調節器100へ与えることも可能である。
【0261】
より具体的には、調節器100は、その機能構成として、オートチューニング機能190と、PID制御機能192と、ロギング機能194とを含む。オートチューニング機能190は、上述したオートチューニングを実現する。PID制御機能192は、それぞれPIDパラメータ176および178に従って、PID制御を実現する。ロギング機能194は、オートチューニングの実行中および/または通常のPID制御中において、各種データ(応答波形データ196)を周期的またはイベント毎に収集する。
【0262】
一方、情報処理装置300は、その機能構成として、パラメータ同定機能390と、シミュレーション機能396とを含む。パラメータ同定機能390は、調節器100に対してオートチューニングを実行させるための指令を与えるとともに、オートチューニングの実行により得られるロギングデータから制御対象モデルに必要なパラメータを決定する。このパラメータの決定によって、制御対象モデル392が構成される。パラメータ同定機能390の詳細な処理については、上述したので、ここではその説明は繰返さない。
【0263】
シミュレーション機能396は、構成された制御対象モデル392を用いてシミュレーションを実行する。このとき、シミュレーション機能396は、調節器100に設定されているPIDパラメータを取得し、調節器モデル394を構成することもできる。
【0264】
図36(b)に示すシステム構成では、制御対象モデルに必要なパラメータを決定するパラメータ同定機能198が調節器100に実装されている。パラメータ同定機能198の主たる機能は、
図36(a)に示すパラメータ同定機能390と同様である。
【0265】
このシステムにおいては、調節器100は、何らかの条件が成立すると、オートチューニングを実行するとともに、そのオートチューニングの実行により得られるロギングデータから制御対象モデルのパラメータを決定する。情報処理装置300は、調節器100から制御対象モデルのパラメータを取得して、制御対象モデルを構成する。また、情報処理装置300は、構成した制御対象モデルを用いてシミュレーションを行うこともできる。
【0266】
図36(a)に示すシステムと
図36(b)に示すシステムとの間では、制御対象モデルに必要なパラメータを決定する主体が異なっているが、システム全体としては、同様の機能が実装されている。このように、それぞれの機能は、調節器100、情報処理装置300、および図示しない別の主体に適宜実装される。この実装形態は、ユーザ要求や装置スペックなどに応じて適宜最適化されるが、いずれの構成であっても、本発明の趣旨から逸脱するものではない。
【0267】
説明の便宜上、
図36(a)に示すシステム構成を主体として、機能や構成などについて詳述するが、上述したように、各機能の実行主体などは、適宜変更することができる。
【0268】
《g2:調節器100の制御構成》
次に、本実施の形態に係る調節器100の制御構成について説明する。
図37は、本実施の形態に係る調節器100の制御構成を示す模式図である。
【0269】
図37を参照して、調節器100は、通信インターフェイス140に加えて、その制御構成として、センサ出力受付部162と、ユーザ設定受付部164と、加熱側PID演算部166と、冷却側PID演算部168と、出力選択部170と、PIDパラメータ算出部172と、オートチューニング制御部174と、スイッチ180と、ログ収集部182とを含む。
【0270】
センサ出力受付部162は、温度センサ240からの出力信号(温度PV)を受付け、所定のレンジ調整などを行った上で、制御対象の温度PVを出力する。ユーザ設定受付部164は、ユーザ操作に従って設定温度SVの設定を受け付ける。なお、外部装置(例えば、PLC(Programmable Logic Control)など)から設定温度SVが設定されることもある。
【0271】
加熱側PID演算部166および冷却側PID演算部168は、通常のPID制御を実行するための部位であり、それぞれPIDパラメータ176および178に従って、制御対象の温度PVと設定温度SVとから、操作量MVhおよびMVcをそれぞれ算出および出力する。PIDパラメータ176および178は、ユーザが直接的に入力してもよいが、後述するPIDパラメータ算出部172がオートチューニング後に最適値を設定する。さらに、上述したように、通信インターフェイス140を介して情報処理装置300からPIDパラメータが設定されることもある。
【0272】
出力選択部170は、加熱側PID演算部166および冷却側PID演算部168からそれぞれ出力される操作量MVhおよびMVcを状況に応じて切替え出力する。
図3に示すフィードバック制御系1では、加熱側PID演算部166および冷却側PID演算部168の両方がアクティブになる必要はないので、操作量を直接的に切替え方式に代えて、加熱側PID演算部166および冷却側PID演算部168の一方のみを選択的にアクティブ化するような構成を採用してもよい。
【0273】
PIDパラメータ算出部172およびオートチューニング制御部174は、オートチューニングを実行するための部位である。オートチューニング制御部174は、上述したようなリミットサイクルを発生させるための操作量(操作量MVhおよびMVc)を発生する。PIDパラメータ算出部172は、最終のリミットサイクルにおいて観測された加熱特性および冷却特性(応答特性)に基づいて、PIDパラメータ176および178を決定する。
【0274】
スイッチ180は、通常の制御時とオートチューニングの実行時との間で、操作量の出力元を切り換える。すなわち、通常の制御時には、出力選択部170からの操作量が制御対象プロセス200へ出力され、オートチューニングの実行時には、オートチューニング制御部174からの操作量が制御対象プロセス200へ出力される。
【0275】
ログ収集部182は、オートチューニングの実行中および/または通常のPID制御中において、温度センサ240からの出力信号(温度PV)や調節器100から出力される操作量などの情報(応答波形データ196)を時系列に格納する。ログ収集部182によって収集された応答波形データは、通信インターフェイス140を介して情報処理装置300へ送信される。
【0276】
図36(a)に示すオートチューニング機能190は、主として、PIDパラメータ算出部172およびオートチューニング制御部174に相当し、ロギング機能194は、ログ収集部182に相当する。
【0277】
《g3:シミュレーション機能》
次に、本実施の形態に係るシミュレーション機能について説明する。シミュレーション機能は、典型的には、情報処理装置300に実装される(
図36のシミュレーション機能396)が、調節器100に実装されてもよいし、さらに別の制御主体に(例えば、ネットワーク上のクラウドサービスとして)実装されてもよい。
【0278】
図38は、本実施に形態に係るシミュレーション機能により実行されるシミュレーション例を示す模式図である。
図38に示すシミュレーション例では、調節器100が制御対象プロセス200を制御する状態が模擬されている。すなわち、調節器100の特性を示す調節器モデル394と、制御対象プロセス200の特性を示す制御対象モデル400とが連係されている。シミュレーションの実行を制御する主体として、評価・最適化部398も配置されている。
【0279】
より具体的には、調節器モデル394は、設定温度SVと制御対象モデル400から出力された温度PVとの差分を出力する減算部3942と、切換部3944と、加熱側PID演算部166(
図37)を模擬する加熱側PIDモデル3946と、冷却側PID演算部168(
図37)を模擬する冷却側PIDモデル3948とを含む。
【0280】
加熱側PIDモデル3946および冷却側PIDモデル3948は、典型的には、調節器100に設定されているPIDパラメータ176および178(
図37)に基づいて構成される。あるいは、評価・最適化部398からPIDパラメータが設定されることもある。
【0281】
制御対象モデル400は、加熱ブロック410と、冷却ブロック420と、自然放熱ブロック430と、シリンダブロック440とを含む。各ブロックのパラメータは、上述したような手順に従って決定される。
【0282】
制御対象モデル400には、加熱側PIDモデル3946および冷却側PIDモデル3948の一方から操作量が与えられる。与えられた操作量に基づいて、制御対象モデル400の出力値が算出され、温度PVとして調節器モデル394へ戻される。調節器モデル394は、設定温度SVと入力された温度PVとに基づいて、操作量を逐次算出する。このよに、調節器モデル394および制御対象モデル400の間は、それぞれの入力および出力が互いに関連付けられており、所定の時間周期で逐次演算を行うことで、時間的な特性を算出できる。
【0283】
このように、情報処理装置300などのコンピュータは、第1の操作量(加熱側の操作量)を入力とし、実制御対象270の観測量を出力とする、実制御対象を示す制御対象モデル400を構成する工程と、制御対象モデル400の入力として第1の時間的特性(加熱側の操作量および/または冷却側の操作量)を取得するとともに、第1の時間的特性の入力に対する制御対象モデルの出力を第2の時間的特性として算出する工程とを含む。
【0284】
評価・最適化部398は、制御対象モデル400から出力される温度PVの過渡特性などを観測し、調節器モデル394による制御特性、すなわち設定されているPIDパラメータによる制御性能を評価する。このような評価に用いるパラメータとしては、オーバーシュート量、アンダーシュート量、収束時間、ハンチングの発生有無などを用いることができる。また、評価・最適化部398は、予め複数のパラメータセット3982を保持しており、当該保持している複数のパラメータセット3982のうち1セットずつ、加熱側PIDモデル3946および冷却側PIDモデル3948へセットし、シミュレーションを実行することで、各パラメータセットを評価する。
【0285】
すなわち、シミュレーション手段として機能する情報処理装置300は、制御手段として機能する調節器100から操作量の決定に係る制御パラメータ(PIDパラメータ)を取得する手段と、調節器100から取得した制御パラメータに基づいて、調節器100の挙動を示す調節器モデル394を構成する手段と、調節器モデルと制御対象モデルとを連係させることで、調節器100による実制御対象230に対する制御特性をシミュレーションする手段とを含む。
【0286】
そして、シミュレーション手段として機能する情報処理装置300は、調節器100の挙動を示す調節器モデル394と制御対象モデル400とを連係させてシミュレーションすることで、各調節器モデル394の実制御対象270に対する制御特性を評価する手段を含む。さらに、シミュレーション手段として機能する情報処理装置300は、最適化された制御パラメータを制御手段に送信する手段を含む。
【0287】
図38に示す冷却ブロック420は、温度PVに依存する冷却ゲイン(Kc(PV))を含む。そのため、シミュレーションの各周期(ステップ)において、冷却ゲインの値が都度決定される。以下の、この冷却ゲインを動的に決定する手順についてう以下説明する。
【0288】
図39は、本実施の形態に係るシミュレーションにおいて冷却ゲインを決定するための処理を説明するための図である。
図39(a)には、冷却特性(冷却側の操作量に対する仮想整定値)を動的に決定する処理を示し、
図39(b)には、
図39(a)に示される冷却特性から冷却ゲインを決定する処理を示す。
【0289】
各周期において、
図39(a)に示すような、操作量と仮想整定値(つまり、冷却能力)との関係として定義される冷却特性が決定される。そして、直前に出力された観測量に応じて、冷却特性から冷却ゲインが決定される。上述したように、本実施の形態に従う冷却特性は、操作量が非線形点Xcよりゼロに近い領域についての第1の冷却特性(傾きKc1(PV))と、それ以外の領域についての第2の冷却特性(傾きKc2)とを含む。
【0290】
この冷却特性を決定する工程としては、まず、基準温度PV0に関する冷却特性である近似直線(傾きKc2)を、直前(前回の周期)に出力された観測量(温度PV)と基準観測量(基準温度PV0)との差に応じて、冷却能力の方向にシフトする。このとき、傾きKc2は同じ値に維持される。続いて、非線形点Xcにおいて、シフト後の第2の冷却特性と連続するように、第1の冷却特性を決定する。つまり、非線形点Xcで連続するように、傾きKc1(PV)が決定される。
【0291】
そして、直前(すなわち現在出力中)の冷却側の操作量に対応する冷却特性の点と原点とを結ぶ直線(
図39(a)において一点鎖線で示される)の傾きが冷却ゲインKc(PV)として決定される。そして、この決定される冷却ゲインKc(PV)を用いて、冷却ブロック420から出力される作用量が算出される。
【0292】
なお、
図39(a)に示す冷却特性は、上述の(6)〜(9)式などに従って算出される。そのため、基準温度PV0に関する冷却特性を現実にシフトさせなくとも、冷却ゲインKc(PV)を決定することはでき、このような場合であっても、本願発明の範囲に包含される。
【0293】
ある温度PVにおける冷却ゲインKc(PV)は、冷却側の操作量MVcに応じて、
図39(b)のように変化する。すなわち、冷却側の操作量MVcが非線形点Xc以下であれば、冷却ゲインKc(PV)は一定値をとるが、冷却側の操作量MVcが非線形点Xcを超えると、冷却ゲインKc(PV)は徐々に低下することになる。
【0294】
このような処理によって、シミュレーションのサイクル毎に、より適切な冷却ゲインKc(PV)が逐次決定される。
【0295】
図40は、本実施の形態に係るシミュレーションによる結果の一例を示す図である。
図41は、本実施の形態に係るシミュレーションによるPIDパラメータの最適化処理を説明するための図である。
【0296】
図40には、2つのパラメータセットを用いてそれぞれ調節器モデル394を構成するとともに、各調節器モデル394を用いて、制御対象モデル400を制御した場合の応答波形をプロットしたものである。このシミュレーション例では、パラメータセット1を用いた場合の応答波形のオーバーシュート量がパラメータセット2を用いた場合に比較して大きくなっている。そのため、
図40に示す例においては、パラメータセット2を用いることがより好ましいと判断できる。
【0297】
図41(a)に示すように、評価・最適化部398は、複数のパラメータセット3982を保持しており、各パラメータセットに従って構成された調節器100の制御性能を評価する。
図41(b)には、各パラメータセットについての評価結果の一例を示す。この評価結果では、オーバーシュート量およびアンダーシュート量がそれぞれ算出されている。この評価結果においては、パラメータセット1〜6のうち、パラメータセット4のオーバーシュート量およびアンダーシュート量が他に比較して小さいので、評価・最適化部398は、このパラメータセット4が最適であると判断し、最終的なPIDパラメータとして決定する。
【0298】
《g4:派生例》
上述の説明においては、加熱装置210に対応する加熱ブロック410を含む制御対象モデルを用いる例について説明したが、加熱ブロック410を含まず、冷却装置220に対応する冷却ブロック420を含む制御対象モデルを用いることもできる。例えば、対象のプロセスが発熱反応を含むものであり、加熱装置210が不要であるプロセスなどが想定される。
【0299】
このような場合には、主として、操作量に従って冷却量を変化させる冷却装置220を含む実制御対象の特性をシミュレーションすることになる。この場合には、操作量を入力とし、実制御対象の観測量を出力とする、実制御対象を示す制御対象モデルに関して、第1の時間的特性(冷却側の操作量)の入力に対する制御対象モデルの出力を第2の時間的特性として算出する工程が実行される。
【0300】
このような制御対象モデルのパラメータ(冷却ブロック420のゲインなど)についても、操作量を時間的に変化させることで実制御対象に生じた観測量の時間的変化から決定される。このような制御対象モデルのパラメータの決定方法については、上述した方法を用いることができる。
【0301】
[H.変形例]
上述の説明においては、調節器100から操作量を与えることで得られる応答波形に基づいて、制御対象モデル400のパラメータを同定する方法について説明した。この調節器100から出力される操作量を与える構成に代えて、調節器100と同じ動作をするコンピュータプログラム(例えば、調節器100のシミュレータ)を実行することで算出される操作量を与えるようにしてよい。あるいは、ステップ入力などの予め設定されたパターンを操作量として与えてもよい。さらに、ユーザが設定した時間波形を操作量として与えてもよい。
【0302】
このような操作量の時間波形は、制御対象モデル400のパラメータを同定するために適したものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、設定温度を段階的または階段状に変化させるようなものが想定される。例えば、最初の10分間は、設定温度100℃とし、次の10分間は、設定温度400℃に変化させて、調節器100から出力される操作量を与えるといった具合である。
【0303】
[I.利点]
本実施の形態に係る制御対象モデルは、自然放熱ブロック430を独立したブロックとして構成することで、自然放熱量をより適切に再現(推定)することができる。これによって、幅広い温度帯に亘って高精度なシミュレーションができる。
【0304】
また、本実施の形態に係る制御対象モデルでは、非線形点の前後で冷却能力(主体となる冷却原理)が異なると定義するとともに、これらを2つの近似直線を用いて、冷却特性を定義する。さらに、シリンダ温度と冷却能力との線形性を利用することで、幅広い温度帯に亘って、特性を表現できる。
【0305】
本実施の形態に係る制御対象モデルを用いたシミュレーションを行うことで、各種の検証をより容易に行うことができる。例えば、設計値を変更(一例として、電熱ヒータ214の発熱量を変更)したときの応答特性を事前に評価できる。
【0306】
また、本実施の形態に係る制御対象モデルを用いたシミュレーションを行うことで、設計を効率化できる。例えば、オートチューニングにより決定されたPIDパラメータでは、制御性能が不十分であると判断された場合には、本実施の形態に係る制御対象モデルを用いて机上でのシミュレーションによって、パラメータを微調整することができる。これによって、制御性能が不十分であることによる、不良品などの発生を防止することができる。
【0307】
従来は、比較的応答時間の長い温度制御モデルとしては、むだ時間、時定数、および定常ゲインを用いたモデルが一般的に用いられてきた。しかしながら、このような従来のモデルでは、低次の遅れおよびむだ時間のみで特性を単純化しているため、対象の設定温度によって定常ゲインが変化するなど、シミュレーションでの応答確認可能な条件が限定的となっていた。これに対して、本実施の形態に係る制御対象モデルでは、幅広い温度帯に亘って単一のモデルを用いて、特性をシミュレーションできるようになった。
【0308】
すなわち、本実施の形態に係る制御対象モデルでは、周辺温度との差による放熱モデルを追加し、制御対象の加熱および冷却の各ゲイン、ならびに、システム時定数、むだ時間を適用温度の範囲に亘って定数とすることができる。また、気化する液体を冷却媒体とする場合、気化熱による非線形性を表現可能な冷却モデルを採用している。このように、制御対象モデルに、自然放熱要素を組込むことで、温度変化による加熱、および、冷却の定常ゲインの変更を不要にした。
【0309】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。