(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施の形態(以下に示す、基本形態及び付加的形態1から4)を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施の形態は、本発明を限定するものではない。また、上記実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、上記実施の形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
【0011】
[基本形態]
以下に、本発明に係る空気入りタイヤについて、その基本形態を説明する。以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤの回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、上記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。さらに、タイヤ幅方向とは、上記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CL(タイヤ赤道線)に向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CL(タイヤ赤道線)から離れる側をいう。なお、タイヤ赤道面CL(タイヤ赤道線)とは、空気入りタイヤの回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤのタイヤ幅の中心を通る平面(線)である。
【0012】
また、本実施の形態において言及される諸規定(例えば、リムサイズ、規定空気圧、負荷荷重)は、国際標準化機構で策定された国際規格(ISO)の規定に準拠した規定とする。ただし、ISOに規定がない場合は日本工業規格(JIS)の規定に準拠した規定とする。また、ISOに規定があっても、ISOの規定範囲以外にJISの規定範囲が存在する場合には、ISOの規定とJISの規定とのいずれかに準拠した規定とする。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤの、トレッド部からサイドウォール部に至る領域を示すタイヤ子午断面図である。即ち、同図に示す空気入りタイヤ1の領域は、トレッド部Aと、トレッド部Aのタイヤ幅方向外側かつタイヤ径方向内側に延在する一対のショルダー部B、Bと、両ショルダー部B、Bのタイヤ径方向内側にそれぞれ延在する一対のサイドウォール部(但し、
図1ではそのタイヤ径方向外側部のみを示す)C、Cとを含む領域である。そして、
図1に示す領域は、サイドウォール部C、Cから、さらにタイヤ径方向内側に延在する(図示しない)一対のビード部に、それぞれ連なっている。
【0014】
本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤは、上記各部構成により、タイヤ子午断面視で、トレッド部を中心に、一対の、ショルダー部、サイドウォール部及びビード部が連続的に形成されている。そして、トレッド部からビード部までがそれぞれタイヤ周方向に連続的に延在し、空気入りタイヤ全体としてトロイダル状をなしている。
【0015】
図1に示す、トレッド部Aからショルダー部Bを介してサイドウォール部Cに至る領域には、カーカス層12、ベルト層14、ベルトカバー層16、トレッドゴム18、一対のサイドウォールゴム20、20及びインナーライナ22が配設されている。
【0016】
カーカス層12は、図示しないタイヤ幅方向両側のビードコア間に、図示する各部C、B、Aを介して架け渡され、タイヤの骨格を形成する部材である。なお、
図1に示すカーカス層12は、一層のカーカスから構成されているが、本実施の形態はこれに限られず、カーカス層12は複数枚のカーカスから構成されていてもよい。
【0017】
ベルト層14は、カーカス層12のタイヤ径方向外側に位置し、カーカス層12を強く締め付け、トレッド部Aの剛性を高める部材である。ベルト層14は、タイヤ径方向内側から外側に向けて順に形成された複数枚の、
図1に示す例では2枚のベルト14a、14bから構成されている。ベルト14a、14bは、ベルトコードが互いに交差する構造を有する。
【0018】
ベルトカバー層16は、ベルト層14のタイヤ径方向外側に位置し、高速走行時のベルト層14のタイヤ幅方向両端部の遠心力による浮き上がりを抑制する部材である。ベルトカバー層16は、タイヤ径方向内側から外側に向けて順に形成された複数枚の、
図1に示す例では2枚のベルトカバー16a、16bから構成されている。これにより、主にベルト層14の端部の剥離故障を防止して高速耐久性を向上させることができる。
【0019】
トレッドゴム18は、トレッド部Aにおいて、主に、カーカス層12及びベルト層14摩耗や外傷を防止するタイヤの外皮部材である。
【0020】
サイドウォールゴム20は、トレッドゴム18のタイヤ幅方向外側に位置し、ショルダー部Bからサイドウォール部Cにかけての領域において、カーカス層12のタイヤ径方向外側又はタイヤ幅方向外側に位置するタイヤの外皮部材である。サイドウォールゴム20は、タイヤ走行時に繰り返しの屈曲変形に耐え、カーカス層12を外力から保護し、その外傷を防止する。なお、
図1中、トレッドゴム18とサイドウォールゴム20との境界は、点線で示している。なお、
図1において、トレッドゴム18とサイドウォールゴム20との境界線は点線で示している。
【0021】
インナーライナ22は、タイヤ内周面に位置し、カーカス層12を覆う帯状のゴムシート部材であり、カーカス層12の露出による酸化を防止するとともに、タイヤに充填された空気の洩れを防止する部材である。
【0022】
上述した各構成要素12、14、16、18、20、22を備える空気入りタイヤ1は、車両装着方向が指定されており、空気入りタイヤ1には、
図1に示すトレッド部Aの表面(トレッド表面)に、主溝が設けられている。本実施の形態における主溝とは、トレッド表面に形成される様々なトレッドパターンを規定する、いかなる方向に延在する主溝も含む。即ち、上記主溝は、タイヤ周方向に延在する主溝(以下、「周方向主溝」と称する場合がある)であってもよいし、或いは、タイヤ周方向に対して傾斜する主溝(タイヤ幅方向に延在する主溝を含み、以下、「傾斜主溝」と称する場合がある)であってもよい。また、主溝が傾斜主溝である場合には、その少なくとも一端が周方向主溝に連通している主溝は勿論、連通していない主溝も含まれる。なお、
図1には、これらの主溝のうち、4本の主溝24a、24b、24c、24dが示されている。
【0023】
なお、本実施の形態においては、主溝とは、溝幅が3mm以上であって、溝深さが2.5mm以上である溝をいう。
【0024】
以上のような前提の下、本実施形態においては、総幅SW、外径OD、接地幅W、車両装着内側領域AI、内側溝深さGi、車両装着外側領域AO、外側溝深さGo、及びトレッド溝深さGaが、以下のように定義される。
【0025】
即ち、総幅SW(
図1参照)とは、空気入りタイヤ1をリム組みし、規定空気圧を充填した無負荷状態における、タイヤ幅方向最大寸法であり、サイドウォール部Cの外側面上に形成されたデザイン部分を含む寸法である。外径OD(
図1に示さない)とは、
図1に示す空気入りタイヤ1をリム組みした状態における、タイヤ径方向最大寸法である。接地幅W(
図1参照)とは、JIS D 4202−1994に記載されている計算式により算出された負荷荷重の80%の荷重を負荷した状態における、トレッド表面の接地領域におけるタイヤ幅方向最大寸法である。
【0026】
車両装着内側領域AI(
図1参照)とは、タイヤ赤道線CLから車両装着時に車両側となる接地端Eまでの幅を有する領域である。内側溝深さGi(
図1参照)とは、車両装着内側領域AIに設けられた主溝の最大溝深さであり、換言すれば、車両装着内側領域AIに設けられた主溝のうち最大溝深さを有する主溝の深さである。車両装着外側領域AO(
図1参照)とは、タイヤ赤道線CLから車両装着時に車両側とならない接地端Eまでの幅を有する領域である。外側溝深さGo(
図1参照)とは、車両装着外側領域AOに設けられた主溝の最大溝深さであり、換言すれば、車両装着外側領域AOに設けられた主溝のうち最大溝深さを有する主溝の深さである。トレッド溝深さGa(
図1に示さない)とは、内側溝深さGiと外側溝深さGoとの平均値である。
【0027】
ここで、上記主溝が、車両装着内側領域AIに設けられた主溝であるのか、車両装着外側領域AOに設けられた主溝であるのかについては、以下のように決定するものとする。
図2は、本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤのトレッド表面に設けられた主溝の複数例を示す平面模式図であり、(a)から(d)には主溝G1からG4がそれぞれ異なる態様で設けられている。
【0028】
図2(a)に示すように、主溝G1(周方向主溝)が車両装着内側領域AI及び車両装着外側領域AOのいずれかの領域でのみ延在している場合(同図に示す例は、車両装着内側領域AIでのみ延在する場合)は、その延在する領域(同図においては車両装着内側領域領域AI)に設けられた主溝とする。また、
図2(b)及び
図2(c)に示すように、主溝G2、G3(いずれも傾斜主溝)が少なくとも1回、車両装着内側領域AIと車両装着外側領域AOとの境界線(タイヤ赤道線)CLを跨いで延在している場合には、主溝G2、G3の存在する面積が多い領域(これらの図においては、いずれも、車両装着外側領域AO)に設けられた主溝とする。さらに、
図2(d)に示すように、主溝G4(周方向主溝)が上記境界線CL上で延在する場合には、主溝G4は、便宜的に車両装着内側領域AIに設けられた主溝とする。
【0029】
これらの定義に基づいて、本実施の形態に係る空気入りタイヤ1においては、
総幅SWと外径ODとが、
SW/OD≦0.3 ・・・・・(式1)
の関係を満すとともに、
トレッド溝深さGaと総幅SWとが、
2.5+SW×0.01≦Ga≦2.5+SW×0.02 ・・・・・(式2)
の関係を満たし、さらに
内側溝深さGiと外側溝深さGoとが、
Gi>Go ・・・・・(式3)
の関係を満たす。
なお、以下では、2つの不等号を含む不等式において、不等号を挟む数式全体にあたる対象を、左から順に、左辺、中辺、及び右辺と称する。
【0030】
(作用等)
本実施の形態においては、上記(式1)に示すように、総幅SWと外径ODとの比SW/ODを0.3以下としている。これにより、外径ODに対して総幅SWを十分に狭くして、タイヤの前面投影面積を小さくすることができ、その結果、タイヤの空気抵抗を低減して、燃費性能を向上させることができる。
【0031】
しかしながら、通常、上記(式1)に示すように外径ODに対して総幅SWを狭くした場合には、接地面のタイヤ幅方向寸法が小さくなるため、コーナリングパワーが十分に得られず、優れた操縦安定性能を実現することができない。そこで、本実施の形態においては、上記(式2)の(中辺≦右辺)に示すように、トレッド溝深さGaを総幅SWとの関係において十分に小さくしている。これにより、トレッド表面に設けられた主溝全体に対して浅溝化が図られることから、陸部の剛性を十分に確保することができ、その結果、操縦安定性能を改善することができる。
【0032】
但し、あまりにも浅溝化が進むと、主溝全体の容積が不十分となって排水性能が低下する。このため、本実施の形態においては、上記(式2)の(左辺≦中辺)に示すように、トレッド溝深さGaを総幅SWとの関係においてある程度確保し、主溝全体としてその容積を過度に小さくすることなく、排水性能の低下を抑制している。
【0033】
また、上記(式2)の(左辺≦中辺≦右辺)に示すように、車両装着両側AI、AOについて溝深さの範囲が定まっている場合であっても、操縦安定性能と排水性能をとさらにバランス良く向上させることが有利である。その一つの手法として、車両装着内側領域AIと車両装着外側領域AOとの各々に、操縦安定性能と排水性能とのいずれかを向上させる役割を個別に担わせる手法が考えられる。一般に、溝深さを大きく(小さく)すると操縦安定性能は低下(向上)するが、排水性能は向上(低下)する。また、操縦安定性能の向上には、車両装着内側領域AIの陸部の剛性を高めるよりも、車両装着外側領域AOの陸部剛性を高める方が、効率的である。
【0034】
従って、まず、車両装着外側領域AOでは、さらに浅溝化を図って陸部の剛性を高め、コーナリングパワーを増大させて、操縦安定性能を高めることが考えられる。そして、車両装着内側領域AIでは、車両装着外側領域AOでさらなる浅溝化を図ったことによる排水性能の低下をタイヤ全体で帳消しにするよう、主溝の深さを大きくして、主溝の容積を十分に確保し、上記の排水性能の低下を補填することが考えられる。
【0035】
このような知見に鑑み、本実施の形態においては、上記(式3)に示すように、内側溝深さGiを外側溝深さGoよりも大きくしている。これにより、まず、車両装着外側領域AOにおいては、浅溝化がさらに進んで、陸部の剛性がより高まり、コーナリングパワーのさらなる増大により操縦安定性能をさらに高めることができる。また、車両装着内側領域AIにおいては、車両装着外側領域AOでのさらなる浅溝化による排水性能の低下をタイヤ全体で帳消しにすべく、主溝の深さを比較的大きくして排水性能を高め、上記の排水性能の低下を補填することができる。
【0036】
以上に示すように、本実施の形態に係る空気入りタイヤによれば、総幅SW、外径OD、トレッド溝深さGa、内側溝深さGi及び外側溝深さGoを適宜制御することにより、特に、燃費性能と、操縦安定性能と、排水性能と、をバランス良く改善することができる。
【0037】
なお、以上に示す、本実施の形態の空気入りタイヤは、通常の各製造工程、即ち、タイヤ材料の混合工程、タイヤ材料の加工工程、グリーンタイヤの成型工程、加硫工程及び加硫後の検査工程等を経て得られるものである。本実施の形態の空気入りタイヤを製造する場合には、加硫後の検査工程を経て完成したタイヤにて、リム組み状態で規定空気圧を付与した際に上記(式1)から(式3)の関係を満たすように、グリーンタイヤの成型及び加硫を行う。
【0038】
[付加的形態]
次に、本発明に係る空気入りタイヤの上記基本形態に対して、任意選択的に実施可能な、付加的形態1から4を説明する。
【0039】
(付加的形態1)
基本形態においては、上記内側溝深さGiと上記外側溝深さGoとが、
1.05≦Gi/Go≦1.75 ・・・・・(式4)
の関係を満たすこと(付加的形態1)が好ましい。
【0040】
Gi/Goを1.05以上とすることで、外側溝深さGoを内側溝深さGiに対して過度に近づけることなく、操縦安定性能に影響を及ぼし易い車両装着外側領域AOにおける陸部の剛性を、車両装着内側領域AIにおける陸部の剛性に対して十分に大きくし、タイヤ全体として操縦安定性能をさらに効率的に高めることができる。
【0041】
また、Gi/Goを1.75以下とすることで、外側溝深さGoを内側溝深さGiに対して過度に小さくすることなく、特に、車両装着外側領域AOでの主溝の容積を十分に確保して、タイヤ全体として排水性能の低下を防止することができる。
【0042】
なお、Gi/Goを1.1以上1.4以下とすることで、上記の各種効果をより高いレベルで奏することができる。
【0043】
(付加的形態2)
基本形態及び基本形態に付加的形態1を組み合わせた形態においては、各主溝の、車両装着外側領域の溝壁角度αと車両装着内側の溝壁角度βとの平均値を溝壁角度θとした場合に、
車両装着内側領域AIの全ての主溝についての平均溝壁角度θiが、
3°≦θi≦10° ・・・・・(式5)
の範囲であり、
車両装着外側領域AOの全ての主溝についての平均溝壁角度θoが、
10°<θo≦30° ・・・・・(式6)
の範囲であること(付加的形態2)が好ましい。
【0044】
ここで、本実施の形態においては、各主溝としては、タイヤ幅方向に延在する主溝は除くものとする。即ち、本実施の形態においては、傾斜主溝のうち、タイヤ幅方向に延在する主溝は除くものとする。
【0045】
図3は、本実施の形態の対象となる主溝(例えば、
図1に示すところでは主溝24a)についての、車両装着外側の溝壁角度αと車両装着内側の溝壁角度βとを示すタイヤ子午断面図である。本実施の形態において、平均溝壁角度θiと、平均溝壁角度θoとは、それぞれ、以下のように決定する。
【0046】
図3に示すように、各開口端EO、EIにおいて、主溝24aがなかったとした場合におけるトレッド表面のプロファイルラインに対する垂線を、それぞれ、直線LO、LIとする。また、溝底P0(タイヤ径方向位置Z0)から、各開口端EO、EI(タイヤ径方向位置Z100)まで、のタイヤ径方向寸法を100とする。この場合に、車両装着外側において、溝底P0からのタイヤ径方向寸法が20の位置P1(タイヤ径方向位置Z20)と溝底P0からのタイヤ径方向寸法が80の位置P2(タイヤ径方向位置Z80)とを結ぶ直線を、直線L1(図示せず)とする。同様に、車両装着内側において、溝底P0からのタイヤ径方向寸法が20の位置P3(タイヤ径方向位置Z20)と溝底P0からのタイヤ径方向寸法が80の位置P4(タイヤ径方向位置Z80)とを結ぶ直線を、直線L2(図示せず)とする。
【0047】
そして、直線LOと直線L1とのなす角を、車両装着外側領域AOにおける溝壁角度αとするとともに、直線LIと直線L2とのなす角を、車両装着内側領域AIにおける溝壁角度βとする。
【0048】
なお、
図3においては、点P1、P2、P3、P4をそれぞれ点P1´、P2´、P3´、P4´に平行移動し、点P1´と点P2´とを結ぶ直線をL1´とするとともに、点P3´と点P4´とを結ぶ直線をL2´としている。このため、
図3においては、溝壁角度αは、直線LOと直線L1´とのなす角として示されており、溝壁角度βは、直線LIと直線L2´とのなす角として示されている。
【0049】
このようにして決定された溝壁角度α、βを基に、本実施の形態においては、各主溝における溝壁角度αと溝壁角度βとの平均値を溝壁角度θとする。そして、車両装着内側領域AIの全ての主溝の溝壁角度θの平均値を平均溝壁角度θiとするとともに、車両装着外側領域AOの全ての主溝の溝壁角度θの平均値を平均溝壁角度θoとする。
【0050】
以上のように決定された、平均溝壁角度θiと、平均溝壁角度θoとについて、本実施の形態においては、まず、上記(式5)に示すように、平均溝壁角度θiを比較的小さくし(3°以上10°以下)、上記(式6)に示すように、平均溝壁角度θoを比較的大きく(10°超30°以下)設定している。
【0051】
これは、基本形態の(式3)の設定理由と同様に、車両装着外側領域AOでは陸部剛性を高めて操縦安定性能を向上させる一方、車両装着内側領域AIでは車両装着外側領域AOでの排水性能の低下を補填することが効率的であるとの知見に基づく。
【0052】
即ち、本実施の形態においては、平均溝壁角度θoを比較的大きくすることで、車両装着外側領域AOにおける陸部のタイヤ幅方向剛性を高めて、操縦安定性能をさらに高めることができる。
【0053】
また、平均溝壁角度θiを比較的小さくして車両装着内側領域AIにおいて主溝の容積を大きくすることで、車両装着外側領域AOにおいて平均溝壁角度θoを比較的小さくしたことに起因して生じる排水性能の低下を、タイヤ全体として帳消しとし、排水性能の低下を補填することができる。
【0054】
次に、このような平均溝壁角度θiと平均溝壁角度θoとの大小関係を前提に、上記(式5)、(式6)にそれぞれ示すように、これらの平均溝壁角度θi(θo)は、3°以上(10°超え)とすることで、主溝の容積を十分に確保することで、排水性能をさらに高めることができる。
【0055】
また、上記(式5)、(式6)にそれぞれ示すように、これらの平均溝壁角度θi(θo)は、10°以下(30°以下)とすることで、陸部のタイヤ幅方向剛性を高めて、操縦安定性能をさらに高めることができる。
【0056】
なお、
図3に示す例のように、開口端付近の面取り部が円弧の場合(
図3に示す例では、開口端EO付近)には、当該面取り部の円弧半径は3mm以上10mm以下とすることが好ましい。この円弧半径を3mm以上とすることで、開口端付近の接地圧を均一に近い状態とすることができる。また、この円弧半径を10mm以下とすることで、陸部の接地領域を過度に小さくすることなく、特に旋回性能を高めで、操縦安定性能をさらに高めることができる。
【0057】
(付加的形態3)
基本形態に少なくとも付加的形態2を組み合わせた形態においては、上記車両装着外側領域AOにおいて、上記車両装着外側の溝壁角度αと上記車両装着内側の溝壁角度βとが、
α−β≧3° ・・・・・(式7)
の関係を満たすこと(付加的形態3)が好ましい。
【0058】
上述のとおり、車両装着外側領域AOにおいては、車両装着内側領域AIに比べて、効率的に、陸部の剛性を高めて操縦安定性能を向上させることができる。このような観点から、本実施の形態においては、車両装着外側領域AOにおいて、陸部の剛性を効率的に高めることを意図している。
【0059】
また、一般に、タイヤ子午断面視で、主溝のタイヤ幅方向両側に車両装着外側の陸部と車両装着内側の陸部が存在する場合には、車両装着外側の陸部の方が、車両装着内側の陸部に比べてタイヤ幅方向に変形し易い。このことは、
図1(
図3)における車両装着外側領域AOの主溝24aについても当てはまり、主溝24aについても、車両装着外側の陸部A1の方が車両装着内の陸部A2よりもタイヤ幅方向に変形し易い。
【0060】
このような知見に鑑み、本実施の形態においては、車両装着外側領域AOにおいて、上記(式7)に示すように、溝壁角度αを溝壁角度βよりも3°以上大きくして、陸部A1の剛性を特に大きくして、タイヤ幅方向剛性を効率的に高めている。これにより、特に、車両旋回時における陸部のタイヤ幅方向への倒れ込みを抑制することができ、その結果、操縦安定性能をさらに高めることができる。
【0061】
(付加的形態4)
基本形態及び基本形態に付加的形態1、2の少なくともいずれかを組み合わせた形態においては、上記車両装着内側領域AIの溝面積比率IRと、上記車両装着内側領域AOの溝面積比率ORとが、
IR>OR ・・・・・(式8)
の関係を満たすこと(付加的形態4)が好ましい。
【0062】
ここで、車両装着内側領域AIの溝面積比率IRとは、車両装着内側領域AIにおける、接地領域内の陸部面積と溝面積との総和(=接地面積)に対する溝面積の比率である。同様に、車両装着外側領域AOの溝面積比率ORとは、車両装着内側領域AOにおける、接地領域内の陸部面積と溝面積との総和(=接地面積)に対する溝面積の比率である。
【0063】
上記(式8)に示すように、溝面積比IRと、溝面積比ORとの関係を、IR>ORとすることで、車両装着外側領域AOにおいては、溝面積比率IRを比較的小さくして、陸部の剛性をより高め、コーナリングパワーのさらなる増大により操縦安定性能をさらに高めることができる。また、車両装着内側領域AIにおいては、車両装着外側領域AOでのさらなる溝の容積の低減による排水性能の低下をタイヤ全体で帳消しにすべく、溝面積比IRを比較的大きくして排水性能を高め、上記の排水性能の低下を補填することができる。
【0064】
なお、上記(式8)は、溝面積比IRを、溝面積比ORよりも大きくしているが、溝面積比IRと溝面積比ORとの差は5%未満とすることが好ましい。溝面積比IRと溝面積比ORとの差を5%未満とすることで、車両装着内側領域AIと車両装着外側領域AOとにおける陸部の剛性差を小さくして、これらの領域AI、AO間における、優れた耐偏摩耗性能を実現することができる。
【実施例】
【0065】
図1のタイヤ子午断面を有するとともに、表1に示す諸条件(総幅SW、外径OD、トレッド溝深さGa、内側溝深さGi、外側溝深さGo、平均溝壁角度θi、平均溝壁角度θo、溝壁角度αと溝壁角度βとの差(α−β)、溝面積比率IR及び溝面積比率OR)に従い、実施例1から実施例8及び従来例の空気入りタイヤを作製した。
【0066】
このよう作製した、実施例1から実施例8及び従来例の各試験タイヤについて、燃費性能と、操縦安定性能と、排水性能とについての評価を行った。それらの結果を表1に併記する。
【0067】
(燃費性能)
各試験タイヤをリム組みして、排気量1800ccの前輪駆動車に装着し、1周2kmのテストコースを時速100km/hで50周走行し、燃料消費率を算出した。そして、従来例の燃料消費率を基準(100)とした場合の、各実施例における燃費改善率を算出した。この評価は、数値が大きいほど燃費性能が高いことを示す。
【0068】
(操縦安定性能)
各試験タイヤをリム組みして、排気量1800ccの前輪駆動車に装着し、1周2kmのテストコースをレーンチェンジしながら3周走行した際の、ドライバー3名による官能性評価を実施し、評価値の平均値を算出した。そして、この算出結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価を行った。この評価は、指数が大きいほど操縦安定性能が高いことを示す。
【0069】
(排水性能)
各試験タイヤをリム組みして、排気量1800ccの前輪駆動車に装着し、水深10mmのプールに所定速度で進入し、そのときの空気入りタイヤのスリップ率を測定した。そして、所定速度を徐々に上げて上記測定を繰り返し、このスリップ率が10%となったときの速度を、ハイドロプレーニング発生速度とした。そして、この算出結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価を行った。この評価は、指数が大きいほど排水性能が高いことを示す。
【0070】
【表1】
【0071】
なお、表1中、○印は所定の条件を満たす場合であり、×印は所定の条件を満たさない場合を意味する。
【0072】
表1によれば、本発明の技術的範囲に属する((式1)、(式2)及び(式3))を満たす、実施例1から実施例8の空気入りタイヤについては、いずれも、本発明の技術的範囲に属さない、従来例の空気入りタイヤよりも、燃費性能と、操縦安定性能と、排水性能と、がバランス良く改善されていることが判る。
【0073】
本発明は以下の態様を包含する。
【0074】
(1)車両装着方向が指定され、トレッド部に主溝が設けられている空気入りタイヤにおいて、総幅SWと外径ODとが、SW/OD≦0.3の関係を満たし、車両装着内側領域に設けられた主溝の最大溝深さを内側溝深さGiとするとともに、車両装着外側領域に設けられた主溝の最大溝深さを外側溝深さGoとし、さらに上記内側溝深さGiと上記外側溝深さGoとの平均値をトレッド溝深さGaとした場合に、上記トレッド溝深さGaと上記総幅SWとが、2.5+SW×0.01≦Ga≦2.5+SW×0.02の関係を満たし、上記内側溝深さGiと上記外側溝深さGoとが、Gi>Goの関係を満たす、空気入りタイヤ。
【0075】
(2)上記内側溝深さGiと前記外側溝深さGoとが、1.05≦Gi/Go≦1.75の関係を満たす、上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
【0076】
(3)各主溝の、車両装着外側の溝壁角度αと車両装着内側の溝壁角度βとの平均値を溝壁角度θとした場合に、車両装着内側領域の全ての主溝についての平均溝壁角度θiが、3°≦θi≦10°の範囲であり、車両装着外側領域の全ての主溝についての平均溝壁角度θoが、10°<θo≦30°の範囲である、上記(1)又は(2)に記載の空気入りタイヤ。
【0077】
(4)上記車両装着外側領域において、上記車両装着外側の溝壁角度αと上記車両装着内側の溝壁角度βとが、α−β≧3°の関係を満たす、上記(3)に記載の空気入りタイヤ。
【0078】
(5)上記車両装着内側領域の溝面積比率IRと、上記車両装着外側領域の溝面積比率ORとが、IR>ORの関係を満たす、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。