特許第6197605号(P6197605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197605
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】ラジアルニードル軸受用保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20170911BHJP
   F16C 19/46 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C19/46
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-242212(P2013-242212)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-102137(P2015-102137A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 豊
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−242947(JP,A)
【文献】 特開2013−087833(JP,A)
【文献】 特開2013−087844(JP,A)
【文献】 実開昭63−069819(JP,U)
【文献】 特開2008−008333(JP,A)
【文献】 特開平02−089814(JP,A)
【文献】 特開2000−320558(JP,A)
【文献】 特開2009−024742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/30−33/66
F16C 19/00−19/56
B29C 45/00−45/24
B29C 45/46−45/63
B29C 45/70−45/72
B29C 45/74−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に間隔をあけて互いに同心に設けられた1対の円環状のリム部と、
これら両リム部同士の間に掛け渡される状態で円周方向に関し互いに間隔をあけて設けられた複数本の柱部とから成り、
前記両リム部と円周方向に隣り合う1対の柱部とにより四周を囲まれる部分を、それぞれ転動体であるニードルを保持する為のポケットとしたラジアルニードル軸受用保持器に於いて、
前記両リム部のうちの一方のリム部の外周面のうちで、円周方向に関する位相が前記各ポケットと一致する部分に、円周方向に関する幅がこれら各ポケットと同じである外周面側凹部が設けられ、これら各外周面側凹部の底面に、それぞれが軸方向外方に向かう程外径が小さくなる方向に傾斜した軸方向内側外周傾斜面部と軸方向外側外周傾斜面部とが、軸方向に関し互いに隣接する状態で設けられており、前記ラジアルニードル軸受用保持器の中心軸に対する前記軸方向外側外周傾斜面部の傾斜角度を0度以上で、且つ、前記軸方向内側外周傾斜面部の傾斜角度よりも小さくしており、
前記両リム部のうちの他方のリム部の内周面のうちで、円周方向に関する位相が前記各ポケットと一致する部分に、円周方向に関する幅がこれら各ポケットと同じである内周面側凹部が設けられ、これら各内周面側凹部の底面に、それぞれが軸方向外方に向かう程内径が大きくなる方向に傾斜した軸方向内側内周傾斜面部と軸方向外側内周傾斜面部とが、軸方向に関し互いに隣接する状態で設けられており、前記ラジアルニードル軸受用保持器の中心軸に対する前記軸方向外側内周傾斜面部の傾斜角度を0度以上で、且つ、前記軸方向内側内周傾斜面部の傾斜角度よりも小さくしている事を特徴とするラジアルニードル軸受用保持器。
【請求項2】
前記一方のリム部に於ける前記各外周面側凹部同士の間の外周面のうちの軸方向外側部が、前記軸方向外側外周傾斜面部と同一面上にあり、
前記他方のリム部に於ける前記各内周面側凹部同士の間の内周面のうちの軸方向外側部が、前記軸方向外側内周傾斜面部と同一面上にある、請求項1に記載したラジアルニードル軸受用保持器。
【請求項3】
前記一方のリム部の軸方向外端面のうち、前記各外周面側凹部同士の間に、軸方向内方に向かう程外径が大きくなる方向に傾斜した外径側テーパ面部を設けており、
前記他方のリム部の軸方向外端面のうち、前記各内周面側凹部同士の間に、軸方向内方に向かう程内径が小さくなる方向に傾斜した内径側テーパ面部を設けている、請求項1に記載したラジアルニードル軸受用保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用変速機等の各種機械装置を構成する歯車を動力伝達軸の周囲に回転自在に支持するラジアルニードル軸受を構成する為の、ラジアルニードル軸受用保持器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機械装置の回転支持部のうち、大きなラジアル荷重が加わる部分には、例えば特許文献1に記載されている如く、図11図12に示す様なラジアルニードル軸受1が組み込まれている。このラジアルニードル軸受1は、使用時にも回転しないハウジング(又は使用時に回転する歯車やローラ)等の外径側部材2の内周面に設けた円筒面状の外輪軌道3と、回転軸(又は支持軸)の如き軸等の内径側部材4の外周面に設けた円筒面状の内輪軌道5との間に、複数のニードル6を、保持器7により保持した状態で転動自在に設けて成る。
【0003】
このうちの保持器7は、合成樹脂材料により、全体を円筒状に構成している。この様な保持器7は、軸方向に間隔をあけて互いに同心に配置された、それぞれが円環状である1対のリム部8、8と、円周方向に亙って円周方向に間隔をあけた状態で設けられ、それぞれの両端部をこれら両リム部8、8に連結した複数本の柱部9、9とを備える。そして、これら両リム部8、8と円周方向に隣り合う2本ずつの柱部9、9とにより四周を囲まれる部分を、それぞれ前記各ニードル6を転動自在に保持する為のポケット10、10としている。この様な保持器7は、これら各ポケット10、10内に前記各ニードル6を転動自在に保持した状態で、前記外径側部材2の内周面である外輪軌道3と前記内径側部材4の外周面である内輪軌道5との間に、これら外径側部材2及び内径側部材4に対する相対回転を自在に設けられている。そして、前記保持器7は、前記各ニードル6の公転運動に伴って、前記外径側部材2及び前記内径側部材4に対し回転する。
【0004】
上述の様な保持器7は、ポリアミド樹脂(PA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアセタール樹脂(POM)等の、必要とされる強度、剛性、弾性、耐油性を有し、摩擦係数が低い熱可塑性の合成樹脂を、加熱溶融状態で金型装置のキャビティ内に送り込み、このキャビティ内で冷却固化させる、射出成形により一体に造る。前記金型装置は、互いに遠近動する複数の金型を組み合わせて成り、これら各金型を最も近づけた状態で、これら各金型の内面同士の間に形成される前記キャビティ内に、加熱して溶融した合成樹脂を送り込む。そして、この合成樹脂が冷却し、固化した後、前記各金型同士を離して前記キャビティを開き、このキャビティから、完成後の前記保持器7を取り出す。
【0005】
この様にして合成樹脂製保持器を射出成形により一体に造る方法として従来から、径方向に分割される複数の金型を組み合わせた金型装置を使用するラジアルドロー成形と、軸方向に2分割される1対の金型を組み合わせた金型装置を使用するアキシアルドロー成形とが知られている。このうちのラジアルドロー成形によれば、それぞれが保持器7の内外両周面同士を連通させる、前記各ポケット10、10を形成し易い。但し、前記ラジアルドロー成形の場合には、前記金型装置の構造が複雑に、しかも要求される精度が高くなるだけでなく、この金型装置のキャビティの開閉に要する時間を短縮し難く、前記保持器7の製造能率を向上させ難い等により、この保持器7の製造コストが嵩む。
【0006】
これに対して、前記アキシアルドロー成形によれば、上述の様なラジアルドロー成形と比較して、金型装置の構造が簡単で済む為、製造コストを低く抑えられる。前記アキシアルドロー成形に使用する金型装置は、前記保持器7の外周面及び前記各ポケット10、10の径方向外半部に整合する内面(内周面)形状を有する外径側金型と、前記保持器7の内周面形状及び前記各ポケット10、10の径方向内半部に整合する内面(外周面)形状を有する内径側金型とを組み合わせて成る。そして、これら外径側、内径側両金型同士を最も近づけた状態で、これら両金型同士の間に形成される前記キャビティ内に、加熱して溶融した合成樹脂を送り込み、この合成樹脂が冷却し、固化した後、前記両金型同士を軸方向に関して互いに離隔して前記キャビティを開き、このキャビティから、完成後の前記保持器7を取り出す。
【0007】
ところで、1対のリム部8、8のうちの一方のリム部8の外周面のうちで、円周方向に関する位相が前記各ポケット10、10と一致する部分には、円周方向に関する幅がこれら各ポケット10、10と同じで、径方向に関する深さがこれら各ポケット10、10の1/2程度である外径側凹部が形成される。これら各外径側凹部は、前記外径側金型のうちでこれら各ポケット10、10を形成すべく設けられた柱状の外径側突片を軸方向に通過可能とする為のものである。同様に、前記両リム部8、8のうちの他方のリム部8の内周面のうちで、円周方向に関する位相が前記各ポケット10、10と一致する部分には、前記内径側金型のうちでこれら各ポケット10、10を形成すべく設けられた柱状の内径側突片を軸方向に通過可能とする為の内径側凹部が形成される。即ち、前記保持器7をアキシアルドロー成形により造った場合、前記外径側、内径側各凹部が形成された部分の前記両リム部8、8の径方向に関する厚さが薄くなり、前記保持器7をラジアルドロー成形により造った場合と比較して、前記両リム部8、8の強度及び剛性を確保する面から不利になる。前記各ニードル6の直径(外径)が大きく、前記両リム部8、8の径方向厚さを十分に確保できる場合には、問題を生じ難いが、前記各ニードル6の直径が小さく、前記両リム部8、8の径方向厚さが薄い場合、上述の様な問題が顕著になり易い。
【0008】
これら両リム部8、8の強度及び剛性を確保する為に、前記外径側、内径側両突片の先端面を部分円筒面(前記保持器7の中心軸に対する傾斜角度を0度)とする事が考えられる。但し、この場合、前記外径側、内径側両金型に高い形状精度が要求され、これら両金型の製造コストが増大する。仮に、これら両金型の形状精度が十分でない場合、これら両金型同士を軸方向に変位させる際に、これら両金型同士が干渉したり(これら両金型の先端面同士が強く擦れ合ったり)、合成樹脂を射出成形した際に、これら両金型の先端面同士の間にバリが発生する可能性がある。
【0009】
尚、特許文献2には、アキシアルドロー成形により一体に造れる合成樹脂製のラジアルニードル軸受用保持器の構造に就いて記載されているが、1対のリム部の強度及び剛性を確保する為の構造に就いては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−8333号公報
【特許文献2】特開平2−89814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、製造コストを抑えるべく、アキシアルドロー成形により一体に造る事ができるラジアルニードル軸受用保持器に於いて、1対のリム部の強度及び剛性を十分に確保できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のラジアルニードル軸受用保持器は、従来から知られている合成樹脂製のラジアルニードル軸受用保持器と同様に、1対のリム部と、複数本の柱部とを備える。
このうちの1対のリム部は、それぞれが円環状で、軸方向に間隔をあけて互いに同心に設けられている。
又、前記各柱部は、前記両リム部同士の間に掛け渡される状態で円周方向に関し間隔をあけて設けられている。
そして、前記両リム部と円周方向に隣り合う1対の柱部とにより四周を囲まれる部分を、それぞれ転動体であるニードルを保持する為のポケットとしている。
【0013】
特に、本発明のラジアルニードル軸受用保持器に於いては、前記両リム部のうちの一方のリム部の外周面のうちで、円周方向に関する位相が前記各ポケットと一致する部分に、円周方向に関する幅がこれら各ポケットと同じである外周面側凹部を設けている。これら各外周面側凹部の底面には、それぞれが軸方向外方に向かう程外径が小さくなる方向に傾斜した軸方向内側外周傾斜面部と軸方向外側外周傾斜面部とを、軸方向に関し互いに隣接した状態で設けている。そして、前記ラジアルニードル軸受用保持器の中心軸に対するこの軸方向外側外周傾斜面部の傾斜角度を0度以上で、且つ、前記軸方向内側外周傾斜面部の傾斜角度よりも小さくしている。
又、前記両リム部のうちの他方のリム部の内周面のうちで、円周方向に関する位相が前記各ポケットと一致する部分に、円周方向に関する幅がこれら各ポケットと同じである内周面側凹部を設けている。これら各内周面側凹部の底面には、それぞれが軸方向外方に向かう程内径が大きくなる方向に傾斜した軸方向内側内周傾斜面部と軸方向外側内周傾斜面部とを、軸方向に関し互いに隣接した状態で設けている。そして、前記ラジアルニードル軸受用保持器の中心軸に対するこの軸方向外側内周傾斜面部の傾斜角度を0度以上で、且つ、前記軸方向内側内周傾斜面部の傾斜角度よりも小さくしている。
【0014】
上述の様な本発明のラジアルニードル軸受用保持器を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記一方のリム部に於ける前記各外周面側凹部同士の間の外周面のうちの軸方向外側部が、前記軸方向外側外周傾斜面部と同一面上にある様にする。又、前記他方のリム部に於ける前記各内周面側凹部同士の間の内周面のうちの軸方向外側部が、前記軸方向外側内周傾斜面部と同一面上にある様にする。
或いは、請求項3に記載した発明の様に、前記一方のリム部の軸方向外端面のうち、前記各外周面側凹部同士の間に、軸方向内方に向かう程外径が大きくなる方向に傾斜した外径側テーパ面部を設ける。又、前記他方のリム部の軸方向外端面のうち、前記各内周面側凹部同士の間に、軸方向内方に向かう程内径が小さくなる方向に傾斜した内径側テーパ面部を設ける。
【発明の効果】
【0015】
上述の様に構成する本発明のラジアルニードル軸受用保持器によれば、製造コストを抑えるべく、アキシアルドロー成形により一体に造る事ができるラジアルニードル軸受用保持器に於いて、1対のリム部の強度及び剛性を十分に確保できる。
即ち、本発明の場合、前記ラジアルニードル軸受用保持器の中心軸に対する、前記両リム部のうちの一方のリム部の外周面に設けた外周面側凹部の底面のうちの軸方向外側外周傾斜面部の傾斜角度を、軸方向内側外周傾斜面部の傾斜角度よりも小さくしている。同様に、他方のリム部の内周面に設けた内周面側凹部の底面のうちの軸方向外側内周傾斜面部の傾斜角度を、軸方向内側内周傾斜面部の傾斜角度よりも小さくしている。この為、前記両リム部の軸方向外側部の径方向に関する厚さが過度に小さくなるのを防止できる。この結果、前記両リム部の強度及び剛性を十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態の第1例のラジアルニードル軸受用保持器を軸方向一端側の径方向外方から見た斜視図(A)と、軸方向他端側の径方向外方から見た斜視図(B)。
図2図1の(A)のa部拡大図(A)と、図1の(B)のb部拡大図(B)。
図3図1の(A)の矢印c方向から見た、ラジアルニードル軸受用保持器の端面図(A)と、(A)の上部拡大図(B)。
図4図3のd−d断面図。
図5図4の拡大e−e断面図。
図6】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
図7図6の(A)のf部拡大図(A)と、図6の(B)のg部拡大図(B)。
図8】本発明の実施の形態の第3例を示す、図1と同様の図。
図9図8の(A)のh部拡大図(A)と、図8の(B)のi部拡大図(B)。
図10】本発明の実施の形態の第3例を示す、図3と同様の図。
図11】本発明の対象となる保持器を組み込んだラジアルニードル軸受の1例を示す部分断面図。
図12】このラジアルニードル軸受に組み込まれている保持器の一部を径方向から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態の第1例]
図1図5は、請求項1〜2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のラジアルニードル軸受用の保持器11は、従来から知られている、ラジアルニードル軸受用として広く知られている籠型の保持器と同様に、1対のリム部8a、8bと、複数本の柱部9a、9aとを備える。このうちの1対のリム部8a、8bは、それぞれが円環状で、軸方向に間隔をあけて互いに同心に設けられている。又、前記各柱部9a、9aは、円周方向に間隔をあけた状態で設けられ、それぞれの軸方向両端部を前記両リム部8a、8bに連結しており、前記両リム部8a、8bと、円周方向に隣り合う2本ずつの柱部9a、9aとにより四周を囲まれる部分を、ニードル6(図11参照)を保持する為のポケット10a、10aとしている。
【0018】
本例の場合、この様な構成を有する前記保持器11は、図示しない1対の金型(割型)を近づけた状態で、これら両金型同士の間に形成されるキャビティ内に、例えばPA、PPS、POM等の熱可塑性の合成樹脂、或いはこれらの樹脂にガラス繊維等の強化繊維を混入した強化プラスチック等、一般的な合成樹脂製の保持器と同様の合成樹脂を射出成形した後、前記両金型を軸方向に互いに離隔させる、所謂アキシアルドロー成形により造っている。
【0019】
この為に、前記両リム部8a、8bのうちの一方{図1の(A)、図4の左方、図1の(B)の右方}のリム部8aの外周面のうちで、円周方向に関する位相が前記各ポケット10a、10aと一致する部分に、径方向内方に凹んだ外周面側凹部である、凹部12a、12aを設けている。これら各凹部12a、12aの円周方向に関する幅寸法は、前記各ポケット10a、10aの円周方向に関する幅方向寸法と同じである。そして、前記各凹部12a、12aの底面(外周面)のうちの軸方向内側部に軸方向内側外周傾斜面部13、13を、同じく軸方向外側部に軸方向外側外周傾斜面部14、14を、それぞれ設けている。これら各軸方向内側外周傾斜面部13、13及び軸方向外側外周傾斜面部14、14は何れも、軸方向内方に向かう程外径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい面状の傾斜面であり、前記保持器11の中心軸に対する前記各軸方向外側外周傾斜面部14、14の傾斜角度を、同じく軸方向内側外周傾斜面部13、13の傾斜角度よりも小さくしている。前記各軸方向内側外周傾斜面部13、13及び軸方向外側外周傾斜面部14、14同士の交点(交線)の軸方向に関する位置は、前記両金型同士を軸方向に互いに離隔させる際の抜き勾配を確保できる限り、軸方向内側とする事が、前記一方のリム部8aの強度及び剛性を確保する面からは好ましい。又、この一方のリム部8aの強度及び剛性を確保する面から、これら各軸方向外側外周傾斜面部14、14の傾斜角度は、0度とする(前記保持器7の中心軸と平行にする)事が好ましい。但し、前記各軸方向内側外周傾斜面部13、13及び軸方向外側外周傾斜面部14、14の傾斜角度は、前記両金型同士を軸方向に円滑に相対変位可能にすべく、設計的に定める。
又、本例の場合、前記各凹部12a、12a同士の間のリム部外周面15aの軸方向外側部を、前記軸方向外側外周傾斜面部14、14と同一の部分円すい面上に位置させている。この様な構造により、前記一方のリム部8aの外径寄り部分の軸方向外端面を、この一方のリム部8aの内径寄り部分の軸方向外端面よりも軸方向内方に位置させている。
【0020】
これに対し、前記両リム部8a、8bのうちの他方{図1の(A)、4の右方、図1の(B)の左方}のリム部8bに関しては、前記一方のリム部8aと径方向及び軸方向に関して対称な形状としている。即ち、前記他方のリム部8bの内周面のうちで、円周方向に関する位相が前記各ポケット10a、10aと一致する部分に、径方向外方に凹んだ凹部12b、12bを設けている。そして、これら各凹部12b、12bの底面(内周面)のうちの軸方向内側部に軸方向内側内周傾斜面部16、16を、同じく軸方向外側部に軸方向外側内周傾斜面部17、17を、それぞれ設けている。これら内側、外側各傾斜凹面部16、17は何れも、軸方向内方に向かう程内径が小さくなる方向に傾斜した部分円すい状の傾斜面であり、前記保持器11の中心軸に対する前記各軸方向外側内周傾斜面部17、17の傾斜角度を、同じく軸方向内側内周傾斜面部16、16の傾斜角度よりも小さくしている。
又、前記各凹部12b、12b同士の間のリム部内周面15bの軸方向外側部を、前記軸方向外側内周傾斜面部17、17と同一の部分円すい面上に位置させている。この様な構造により、前記他方のリム部8bの外径寄り部分の軸方向外端面を、この他方のリム部8bの外径寄り部分の軸方向外端面よりも軸方向内方に位置させている。
【0021】
上述の様な本例のラジアルニードル軸受用保持器によれば、アキシアルドロー成形により一体に造る事ができ、且つ、1対のリム部8a、8bの強度及び剛性を十分に確保できる。
【0022】
即ち、本例の場合、前記保持器11の中心軸に対する前記各軸方向外側外周傾斜面部14、14の傾斜角度を、同じく前記各軸方向内側外周傾斜面部13、13の傾斜角度よりも小さくし、前記各軸方向外側内周傾斜面部17、17の傾斜角度を、前記各軸方向内側内周傾斜面部16、16の傾斜角度よりも小さくしている。従って、前記保持器11をアキシアルドロー成形により造る為、前記両リム部8a、8bに、抜き勾配として機能する、前記各軸方向内側外周傾斜面部13、13及び軸方向外側外周傾斜面部14、14並びに前記各軸方向内側内周傾斜面部16、16及び軸方向外側内周傾斜面部17、17を、それぞれ設けた場合であっても、前記両リム部8a、8bの軸方向外側部の径方向に関する厚さが過度に小さくなるのを防止できる。即ち、本例の場合には、前記一方のリム部8aの軸方向外寄り部分の径方向に関する厚さを、この一方のリム部8aの外周面を軸方向全体に亙って軸方向内方に向かう程外径が大きくなる方向に傾斜した傾斜面とした場合と比較して、図5の(A)に梨地で示した部分の分だけ大きく(断面積を広く)できる。この結果、これら両リム部8a、8bの強度及び剛性を十分に確保でき、前記保持器11を組み込んだラジアルニードル軸受1(図11参照)の運転時に発生する振動や騒音を抑えられる。前記各軸方向内側外周傾斜面部13、13及び軸方向外側外周傾斜面部14、14同士の交点及び前記各軸方向内側内周傾斜面部16、16及び軸方向外側内周傾斜面部17、17同士の交点の軸方向位置は、前記両リム部8a、8bの強度及び剛性を考慮して、設計的に定める。但し、前記各軸方向内側外周傾斜面部13、13及び軸方向外側外周傾斜面部14、14同士の交点及び前記各軸方向内側内周傾斜面部16、16及び軸方向外側内周傾斜面部17、17同士の交点の軸方向位置は、前記両リム部8a、8bの強度及び剛性を確保でき、且つ、金型部品同士が接触しない範囲でできる限り軸方向内方にする事が、抜き勾配を確保して射出成形直後に前記両金型の軸方向変位を円滑に行わせる面からは望ましい。
【0023】
又、本例の場合、前記各凹部12a、12a同士の間のリム部外周面15aの軸方向外側部を、前記軸方向外側外周傾斜面部14、14と同一の部分円すい面上に位置させている。同様に、前記各凹部12b、12b同士の間のリム部内周面15b軸方向外側部を、前記軸方向外側内周傾斜面部17、17と同一の部分円すい面上に位置させている。この為、前記各軸方向外側外周傾斜面部14、14及び軸方向外側内周傾斜面部17、17部分の型抜きを容易化できると共に、前記保持器11を組み込んだ前記ラジアルニードル軸受1の運転中にこの保持器11の中心軸が、このラジアルニードル軸受1の回転中心に対して傾いた場合にも、前記一方のリム部8aの外径寄り部分の軸方向外端面或いは他方のリム部8bの内径寄り部分の軸方向外端面が、これら両リム部8a、8bの軸方向外端面に対向する相手面と干渉する(前記各凹部12a、12a同士の間部分又は前記各凹部12b、12b同士の間部分が相手面に引っ掛かる)のを防止できる。
【0024】
[実施の形態の第2例]
図6図7は、請求項1、3に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の保持器11aも、上述した実施の形態の第1例の保持器11と同様に、1対のリム部8c、8dのうちの一方のリム部8cの外周面のうち、円周方向に関する位相がポケット10a、10aと一致する部分に、凹部12c、12cを設けている。本例の場合、前記一方のリム部8cの軸方向外端面のうち、これら各凹部12c、12同士の間部分を、径方向外方に向かう程軸方向内方に向かう方向に傾斜したテーパ面部18a、18aとしている。
これに対し、前記両リム部8c、8dのうちの他方のリム部8dの内周面のうち、円周方向に関する位相が前記各ポケット10a、10aと一致する部分に、凹部12d、12dを設けている。そして、前記他方のリム部8dの軸方向外端面のうち、これら各凹部12d、12d同士の間部分を、径方向内方に向かう程軸方向内方に向かう方向に傾斜したテーパ面部18b、18bとしている。
【0025】
この様な本例の保持器11aによれば、前記実施の形態の第1例に係る保持器11と同様に、軸方向外側外周傾斜面部14、14(軸方向外側内周傾斜面部17、17)部分の型抜きが容易化できる。又、前記保持器11aを組み込んだラジアルニードル軸受1(図11参照)の運転中にこの保持器11aの中心軸が、このラジアルニードル軸受1の回転中心に対して傾いた場合にも、前記一方のリム部8cの外径寄り部分の軸方向外端面或いは他方のリム部8dの内径寄り部分の軸方向外端面が、これら両リム部8c、8dの軸方向外端面に対向する相手面と干渉する(前記各凹部12c、12c同士の間部分又は前記各凹部12d、12d同士の間部分が相手面に引っ掛かる)のを防止できる。
その他の部分の構成及び作用・効果に就いては、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0026】
[実施の形態の第3例]
図8図10は、請求項1に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の保持器11cも、前述した実施の形態の第1例の保持器11と同様に、1対のリム部8e、8fのうちの一方のリム部8eの外周面のうち、円周方向に関する位相がポケット10a、10aと一致する部分に、凹部12e、12eを設けている。本例の場合、前記一方のリム部8eの軸方向外端面のうち、これら各凹部12e、12e同士の間部分を、この一方のリム部8eの径方向内寄り部分の軸方向外端面と同一平面上に位置させている。
これに対し、前記両リム部8e、8fのうちの他方のリム部8fの外周面のうち、円周方向に関する位相が前記各ポケット10a、10aと一致する部分に、凹部12f、12fを設け、前記他方のリム部8fの軸方向外端面のうち、これら各凹部12f、12f同士の間部分を、この他方のリム部8fの径方向外寄り部分の軸方向外端面と同一平面上に位置させている。
【0027】
この様な本例の保持器11cの場合も、前記実施の形態の第1例に係る保持器11と同様に、前記両リム部8e、8fの強度及び剛性を高くする事ができる。
その他の部分の構成及び作用・効果に就いては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【符号の説明】
【0028】
1 ラジアルニードル軸受
2 外径側部材
3 外輪軌道
4 内径側部材
5 内輪軌道
6 ニードル
7 保持器
8、8a〜8f リム部
9、9a 柱部
10、10a ポケット
11、11a 保持器
12a〜12f 凹部
13 軸方向内側外周傾斜面部
14 軸方向外側外周傾斜面部
15a リム部外周面
15b リム部内周面
16 軸方向内側内周傾斜面部
17 軸方向外側内周傾斜面部
18a、18b テーパ面部
図1
図2
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図4
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図12