(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、上記のように、主ロープが共振しない階床(非共振階床)までかごを移動させるようにしている。主ロープには、かご側に垂下する部分と、釣合い錘側に垂下する部分があり、夫々に関する計算をして非共振階床を決定する必要がある。しかしながら、建物等に応じて主ロープの長さや本数、線密度が異なり、かごと釣合い錘の重量によって張力も異なるから、主ロープの固有振動数を一義的に決定することは困難である。特に、かごの重量は、かご内の積載物の重量によって変動する。
【0007】
特許文献2では、かごと釣合い錘の両方に拘束装置を設置している。従って、夫々に拘束装置を制御するための配線が必要となり、エレベータ装置の複雑化、重量増及びコスト増を招く。さらには、かごと釣合い錘の鉛直方向の変位を夫々拘束して、主ロープの弛みを低減することで、かご側の垂下部分と釣合い錘側の垂下部分夫々で主ロープ自体の共振発生による大きな振れは抑えることができるが、共振発生自体を防ぐものではない。
【0008】
本発明の目的は、地震や強風などによる建物の揺れによって発生する主ロープの共振をより効果的に抑制することができるエレベータ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のエレベータ装置は、
建物に設けられたシャフトの内部に、かごと釣合い錘とを主ロープによって連結してなり、前記主ロープを巻上機によって駆動するエレベータ装置であって、
建物の揺れを検出する揺れ検出装置と、
前記かごに設置され、前記かごの鉛直方向の運動に抵抗を与える制振装置と、
前記揺れ検出装置が予め設定された揺れ以上の揺れを検出すると、前記巻上機を制御して、前記釣合い錘側の主ロープが共振しない位置まで前記かごを移動させた後、前記制振装置を作動させて前記かごの鉛直方向の運動に抵抗を与える制御装置と、
を具える。
【0010】
また、本発明に係るエレベータ装置は、
建物に設けられたシャフトの内部に、かごと釣合い錘とを主ロープによって連結してなり、前記主ロープを巻上機によって駆動するエレベータ装置であって、
建物の揺れを検出する揺れ検出装置と、
前記釣合い錘に設置され、前記釣合い錘の鉛直方向の運動に抵抗を与える制振装置と、
前記揺れ検出装置が予め設定された揺れ以上の揺れを検出すると、前記巻上機を制御して、前記かご側の主ロープが共振しない位置まで前記釣合い錘を移動させた後、前記制振装置を作動させて前記釣合い錘の鉛直方向の運動に抵抗を与える制御装置と、
を具える。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエレベータ装置によれば、かごと釣合い錘のうちの一方だけに制振装置を設置すればよく、また、その配線も一方だけで済むので、エレベータ装置の簡素化を図ることができ、重量及びコストの低減も達成できる。
【0012】
また、主ロープの共振は、釣合い錘側とかご側の両方ではなく、制振装置の搭載されていない釣合い錘側又はかご側のみを考慮すればよく、演算や制御等を簡便にすることができる。
【0013】
本発明のエレベータ装置によれば、地震や強風などによる建物の揺れによって発生する主ロープの共振を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明を適用することのできるエレベータ装置10の概略構成について、
図1を用いて説明する。
【0016】
図1に示すように、エレベータ装置10は、建物に設けられたシャフト12の内部に、人員等が乗り込むかご30と、かご30との重量バランスを調整する釣合い錘40を主ロープ50によって連結して構成される。なお、図では、エレベータ装置10は1基のみであるが、エレベータ装置は、複数基設置することもできる。
【0017】
主ロープ50は、
図1に示すようにシャフト12の頂部に設けられた機械室13内の巻上機14とそらせ車15に巻き掛けられており、巻上機14の駆動によって互いに逆向きに走行可能となっている。なお、以下では必要に応じて、主ロープ50は、かご30側の垂下部分を「かご側主ロープ51」、釣合い錘40側の垂下部分を「釣合い錘側主ロープ52」と称する。
【0018】
図示省略するが、かご30と釣合い錘40を、主ロープ50の重量移動を相殺する釣合い用のコンペンセーションロープにより連繋することができる。コンペンセーションロープは、シャフト12の下部に配置されたコンペンセーションシーブに巻き掛けることができる。
【0019】
シャフト12には、かご30と釣合い錘40の走行移行路に沿って鉛直方向に夫々かご用ガイドレール16と釣合い錘用ガイドレール19が立設されている。そして、かご30及び釣合い錘40には、夫々のガイドレール16,19上を転動するガイドローラ31,41が配備されている。
【0020】
かご30の運行を含むエレベータ装置10の制御は、制御装置20により行なわれる。図示の実施形態では、制御装置20は、機械室13に配置している。制御装置20は、エレベータ装置10の運行制御に関する一連の処理を種々のプログラムやアルゴリズムからなるソフトウェアやハードウェアから構成することができる。たとえば、制御装置20は、図示省略する乗り場に設置された乗場呼び操作盤や、かご30内に設置されたかご呼び操作盤の操作などにより、巻上機14を制御してかご30を目的階床まで昇降移動させる。また、後述する本発明に係る揺れ検知時の管制運転処理を実行する。
なお、エレベータ装置10が複数基設置されている場合には、制御装置20は群管理制御を実行するものが採用される。
【0021】
かご30と制御装置20は、通信や給電のためのテールコード21により電気的に接続される。図示の実施形態では、テールコード21は、一端がシャフト12の高さ方向略中間位置からシャフト12内に吊り下げられており、他端がかご30の下面に連繋されている。
【0022】
かご30には、テールコード21に接続され、前述の制御装置20と通信可能なかご側制御装置23が配置されている。かご側制御装置23は、たとえば、かご30が着床したときに戸開閉を行なったり、かご30内の照明、空調等を制御する。
【0023】
そして、本発明では、エレベータ装置10には、建物の揺れを検出する揺れ検出装置25を具えると共に、かご30又は釣合い錘40に制振装置60が設置される。
【0024】
揺れ検出装置25は、建物の長周期揺れ等の揺れを検出し、制御装置20に送信する手段であり、たとえば、加速度センサ、光センサなどから構成したり、GPSを利用したものを例示することができる。図示の実施形態では、揺れ検出装置25は、機械室13に設置された制御装置20の近傍に配置している。
【0025】
制振装置60は、揺れ検出装置25が予め設定された揺れ以上の揺れを検知したときに、その設置されたかご30又は釣合い錘40の鉛直方向の運動に抵抗を与える手段であって、かご30又は釣合い錘40の何れか一方に設置される。以下では、制振装置60をかご30に設置した実施形態について説明する。
【0026】
制振装置60は、制御装置20又はかご側制御装置23からの指令を受けて作動し、かご30をかご用ガイドレール16やシャフト12内の構造物などを把持又はこれらに対して出没等することで、かご30の鉛直方向の運動に抵抗を与える。
【0027】
制振装置60を制御装置20からの指令により作動する構成とした場合には、かご側制御装置23と同様、テールコード21を用いて電気的に接続される。また、制振装置60をかご側制御装置23からの指令により作動する構成とした場合には、制振装置60は、制御装置20からの指令を受けて作動するかご側制御装置23と電気的に接続される。
【0028】
図1では、制振装置60は、かご30の天面に設置している。具体的実施形態として、たとえば
図2に示すように、かご用ガイドレール16が、シャフト12の内壁への固定用のブラケット部17と、ブラケット部17から突設され、ガイドローラ31(
図1参照)が転動するレール部18とを有する形状である場合、制振装置60は、レール部18を把持して、かご30の鉛直方向の運動に抵抗を与える構成とすることができる。
【0029】
図2の制振装置60は、一対のアーム61を揺動可能に軸支65し、アーム61どうしの一端を伸縮可能なアクチュエータ67で連繋し、アーム61の他端に夫々内向きに対向する把持部62を配置したものである。
【0030】
制振装置60は、把持部62,62がレール部18との間にクリアランスを存した状態で対向するよう配置される。アクチュエータ67を伸長させることで、制振装置60は、把持部62,62どうしの間隔が狭まり、レール部18を両側から挟み込んで把持する。これにより、かご30は、鉛直方向の運動に抵抗を与えられる。また、アクチュエータ67を縮小させることでかご30が鉛直方向の運動に抵抗を与えられている状態を解除することができる。
【0031】
なお、制振装置60は、上記実施形態に限定されるものではなく、電磁式のもの等、種々の機構や構成を採用できる。
【0032】
把持部62の対向面には、ゴムやウレタンなど弾性部材からなる緩衝部材63を装着することが望ましい。緩衝部材63を装着することで、制振装置60とレール部18が当接する際の衝撃を吸収して、これらの損傷や異音の発生を低減できる。また、緩衝部材63を装着することで、制振装置60によりレール部18を把持したときに、かご30がかご用ガイドレール16に完全には固定されず、若干の滑りが許容されることとなる。制振装置60が作動するのは、エレベータ装置10に揺れが生じている場合であるから、かご30とかご用ガイドレール16との間に滑りを許容することで、かご30とかご用ガイドレール16との間で伝達される揺れを緩衝部材63によって低減したり緩和することができ、さらにはこれらの力を摩擦熱に変換して速やかに減衰させることができる。
【0033】
然して、本発明では、上記制振装置60をかご30に配置し、管制運転の際には、制振装置60が搭載されていない釣合い錘40側の主ロープが共振しない位置までかご30を移動させ、この状態で制振装置60を作動させるよう制御する(本実施形態)。あるいは逆に、上記制振装置60を釣合い錘40に配置し、管制運転の際には、制振装置60が搭載されていないかご30側の主ロープが共振しない位置まで釣合い錘40を移動させ、この状態で制振装置60を作動させるよう制御する。なお、かご30を移動させると表現する場合、かご30と釣合い錘40は相対的な昇降移動を行なうため、同時に釣合い錘40も移動するが、ことさらに表現していない。逆に釣合い錘40を移動させると表現する場合、同時にかご30も移動するが、ことさらに表現していない。
【0034】
ここで、説明を判り易くするために、
図1におけるエレベータ装置10において、制振装置が搭載されるかご30の鉛直方向の移動可能域をW1とし、この領域W1中で、釣合い錘側主ロープ52が共振する共振域をW2、釣合い錘側主ロープ52が共振しない非共振域をW3とする。もちろん、共振域W2及び非共振域W3は、図示の範囲に限られず、また、共振域W2や非共振域W3は、夫々領域W1の複数箇所に出現することもある。
【0035】
たとえば、この共振域W2、非共振域W3について一例を挙げる。
建物の高さHを100mとすると、建物固有周波数fhは、一般的な式から、
fh=1/(0.025・H)=0.4Hz
程度となる。但し、建物によっては、
fh=1/(0.02・H)=0.5Hz
の場合もある。
【0036】
そして、かご30の積載重量又は釣合い錘40の重量を主ロープ50の本数で割ることで、主ロープ50の1本当りの張力Tを求めることができ、例えば2000〜3000N、ここでは2500Nとする。また、主ロープ50の単位長さ当りの質量ρを、φ12mmのロープの場合で、0.494kg/mとし、主ロープ50の長さL、すなわちかご30が最下階床又は最上階床付近に位置する状態での巻上機14やそらせ車15からの長さを85mとすると、ロープの固有周波数frは、弦振動の式から、
fr=(T/ρ)
0.5/(2・L)=0.4185Hz
となる。
【0037】
すると、ロープ振幅が加振振幅の2倍以上となる範囲の下限値である共振幅下限fr1及び上限値である共振幅上限fr2は、それぞれ、
fr1=fr・0.86=0.3599Hz
fr2=fr・1.12=0.4687Hz
となり、そのような共振状態となる主ロープ50の長さの範囲の下限値であるロープ長下限L1及び上限値であるロープ長上限L2は、それぞれ、
L1=(T/ρ)
0.5/(2・fr1)=98.8372m
L2=(T/ρ)
0.5/(2・fr2)=75.8929m
となって、共振ゾーンの幅は、22.9443mとなる。
【0038】
したがって、
図1で示すように、建物の上側約20%の範囲に在る状態が釣合い錘40側の主ロープ52の共振域W2となる。
【0039】
共振域及び非共振域は、積載物の重量変化の可能性があるかご30では一義的に決定することは難しいが、釣合い錘40は、重量変化がないため、予め演算により決定することができる。これら領域は、制御装置20に登録しておくことができる。
【0040】
上記構成のエレベータ装置10において、所定以上の揺れが生じた場合の管制運転処理について、具体的な制御フローを説明する。
【0041】
エレベータ装置10の通常の運行プログラム等と平行して、制御装置20は、
図3に示す管制運転処理の制御フローを実行する。建物に揺れがない又は揺れが予め設定された値未満である場合には(ステップS1のNo)、通常の運行プログラム等が実行される。
【0042】
地震等により、建物に揺れが生じたことを揺れ検出装置25が検出し、その揺れが予め設定された値以上であると判断すると(ステップS1のYes)、制御装置20は、まず、かご30の運行状況を取得する(ステップS2)。
【0043】
このとき、かご30が何れかの階床にて停止中であれば(ステップS2のYes)、制御装置20は、かご側制御装置23に戸開(既に戸開状態であれば、その状態を保持)を指令し(ステップS3)、所定時間戸開状態を保持して、乗員にかご30からの退出を求める。たとえば、乗員の退出を速やかに行なうために、かご30内にアナウンス等をすることが望ましい。そして、所定時間経過後に戸閉を行なう(ステップS3)。
【0044】
ステップS2において、かご30が何れかの階床に停止していない、即ち、昇降中である場合には(ステップS2のNo)、制御装置20は、そのままかご30の昇降を続け、かご30を最寄階床まで移動させて停止させるよう巻上機14を制御する(ステップS4)。そして、かご30を最寄階床で停止させた後、上記と同様、ステップS3の戸開、戸閉動作を行なう。
【0045】
戸閉の後、制御装置20は、釣合い錘側主ロープ52の共振を抑制するために、かご30の位置を取得する(ステップS5)。そして、かご30が共振域W2と非共振域W3の何れに滞在しているかを判定し、かご30が非共振域W3に滞在している場合には、後述するステップS7に進む(ステップS5のYes)。
【0046】
一方、かご30が非共振域W3に滞在していない、すなわち、共振域W2に滞在している場合には(ステップS5のNo)、巻上機14を作動させて、かご30を非共振域W3まで移動させ、停止させる(ステップS6)。
【0047】
かご30が非共振域W3に滞在(ステップS5のNo)又は非共振域W3まで移動して停止すると(ステップS6)、制御装置20は、制振装置60を作動させる(ステップS7)。これにより、かご30の鉛直方向の運動は抵抗を与えられ、管制運転処理の制御フローは終了する。
【0048】
以上のようにかご30が制振装置60によって鉛直方向の運動に抵抗を与えられることで、かご側主ロープ51の水平方向の運動も抵抗を受けるから、かご側主ロープ51の振れは抑えられる。従って、たとえ、かご30が、かご側主ロープ51の共振域に滞在していたとしても、かご側主ロープ51の共振による大きな振れは抑制される。
【0049】
また、釣合い錘40は、鉛直方向の運動に抵抗を与えられてはいないが、かご30が、釣合い錘側主ロープ52側の共振域W2を外れた非共振域W3に滞在しているので、釣合い錘側主ロープ52が共振により大きく振れることも抑制される。
【0050】
本発明のエレベータ装置10によれば、主ロープ50の共振を抑制するために、かご30と釣合い錘40の一方にのみに制振装置60を搭載し、必要な配線を敷設すれば済む。従って、かご30と釣合い錘40の両方に制振装置を設置する場合に比べて、部品点数を削減でき、重量及びコストを軽減することが可能になる。また、制振装置60の搭載されていない釣合い錘40側の主ロープが共振しないような位置にかご30を移動させるか、又は、制振装置60の搭載されていないかご30側の主ロープが共振しないような位置に釣合い錘40を移動させるかすれば済む。従って、非共振域への移動についても、制振装置の搭載されていない側の主ロープのみに着目すればよいので、釣合い錘40側及びかご30側の両方の主ロープ51,52の共振域を避ける場合に比して、移動領域を広げることができ、速やかに管制運転を完了できる。
【0051】
本実施形態においては、かご30に制振装置60を搭載し、かご30を非共振域へ移動させて釣合い錘側主ロープ52が共振しないようにしている。これは、重量変化のない釣合い錘40については、その側の主ロープ52の共振域W2と非共振域W3を一度演算しておけば、都度演算する必要がないためである。一方、積載物の重量によって重量変化の可能性が高いかご30については、その側の主ロープ52に対して、管制運転の度に積載物の重量に基づいて非共振域を演算する必要がある。このため、望ましくは、かご30に制振装置60を搭載し、かご30を非共振域へ移動させる。
【0052】
また、制振装置60は、制御装置20と電気的に接続される必要があるが、かご30には、かご側制御装置23等のためのテールコード21が予め敷設されているから、このテールコード21に制振装置60の制御等に必要なケーブルを追加するだけで済む。一方、制振装置を釣合い錘40に搭載した場合には、新規に釣合い錘40にケーブルを敷設する必要がある。このため、制振装置60は、かご30に搭載することが望ましい。
【0053】
なお、コンペンセーションロープを具えた構成である場合、共振域W2と非共振域W3は、コンペンセーションロープの共振、非共振も考慮に入れて決定することが好適である。
【0054】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0055】
たとえば、かご30の鉛直方向の位置が非共振域W3内にある場合であっても、釣合い錘側主ロープ52の振れ幅は、かご30の鉛直方向の位置に応じて変化する。このことを考慮に入れて、制御装置20は、かご30の移動位置を、非共振域W3の中でも、最も釣合い錘側主ロープ52の振れ幅が最も小さくなる位置となるよう制御することが望ましい。