特許第6197835号(P6197835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6197835PTFEを主成分とする混合粉末および成形用材料、ならびに多孔膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197835
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】PTFEを主成分とする混合粉末および成形用材料、ならびに多孔膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/36 20060101AFI20170911BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20170911BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20170911BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20170911BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20170911BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20170911BHJP
   C08L 27/20 20060101ALI20170911BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170911BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20170911BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   B01D71/36
   B01D71/32
   B01D71/52
   B01D63/08
   B01D69/06
   C08L27/18
   C08L27/20
   C08L101/00
   C08K3/00
   C08J9/00 ACEW
【請求項の数】3
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-144014(P2015-144014)
(22)【出願日】2015年7月21日
(62)【分割の表示】特願2014-511267(P2014-511267)の分割
【原出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2016-817(P2016-817A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-96510(P2012-96510)
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-75534(P2013-75534)
(32)【優先日】2013年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】茶圓 伸一
(72)【発明者】
【氏名】清谷 秀之
(72)【発明者】
【氏名】乾 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓
(72)【発明者】
【氏名】包 理
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 吉之
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】笠井 俊二
(72)【発明者】
【氏名】新沼 仁
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−143922(JP,A)
【文献】 特開平03−017136(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/158717(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/18
C08L 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリルと、前記フィブリルによって相互に接続された結節部と、を有し、延伸されている延伸多孔体であって、前記結節部が融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分によって固められた延伸多孔体の製造に用いられる混合粉末であって、
前記延伸多孔体は、流体中の微粒子を捕集するフィルタ用濾材に用いられる多孔膜であり、
延伸によって繊維化するポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、前記融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、を含み、前記融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分を、全体の0.1〜20重量%未満含むことを特徴とするポリテトラフルオロエチレンを主成分とする混合粉末。
【請求項2】
フィブリルと、前記フィブリルによって相互に接続された結節部と、を有し、延伸されている延伸多孔体であって、前記結節部が融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分によって固められた延伸多孔体の製造に用いられる成形用材料であって、
前記延伸多孔体は、流体中の微粒子を捕集するフィルタ用濾材に用いられる多孔膜であり、
延伸によって繊維化するポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、前記融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、を含み、前記融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分を、全体の0.1〜20重量%未満含むことを特徴とするポリテトラフルオロエチレンを主成分とする成形用材料。
【請求項3】
流体中の微粒子を捕集するフィルタ用濾材に用いられる多孔膜であって、
前記多孔膜は、フィブリルと、前記フィブリルによって相互に接続された結節部と、を有し、延伸されており、前記結節部が融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分によって固められ、
延伸によって繊維化するポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、前記融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、を含み、前記融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分を、全体の0.1〜20重量%未満含むことを特徴とする多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTFEを主成分とする混合粉末および成形用材料、ならびに多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置の製造は、高清浄空間において行われる。この高清浄空間を作るために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる多孔膜(以下、PTFE多孔膜ともいう)が、微粒子を捕集するフィルタとして用いられている。PTFE多孔膜は、ガラス繊維製濾材と比べて同じ圧力損失で比較したときの微粒子の捕集効率が高いことから、特に、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルタ(Ultra low Penetration Air Filter)に好適に用いられている。
従来、HEPAフィルタとしてはガラス繊維で構成される濾材が使われてきた。しかし、これは圧力損失が高いという問題があった。一方、PTFE多孔膜を濾材に適用することで従来より低い圧力損失を実現したフィルタも市販されている。しかし、PTFE多孔膜の密な構造により表面濾過が起き圧力損失が上昇しやすく、ガラス繊維フィルタと比べて寿命が半分以下になるという問題があった。
この寿命を長くするためにPTFE多孔膜の上流側にMB(Melt Blown)不織布を貼り付けた濾材も提案されている。しかし、MB不織布を貼り付けると濾材厚みが厚くなり、エアフィルタユニットに組み込んだ状態での濾材折込み面積が少なくなる、また、濾材価格が高くなるなどの問題があった。
【0003】
従来のPTFE多孔膜として、製造時に、延伸によって繊維化するPTFEに、延伸によって繊維化しないPTFEを添加することで得られた、通気性の高いものが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。これらのPTFE多孔膜は、フィブリルと、フィブリルによって相互に接続された結節部とを有しているが、結節部の強度が弱いため、通気性支持材の積層等の後工程で圧縮力等を受けることで、膜構造が変化して、圧力損失、PF値、濾過寿命等のフィルタ性能が低下する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−505378号公報
【特許文献2】特許2814574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来PTFEの成形体は、機械的強度が低く、多孔膜に加工された後、外力の影響を受けやすかった。特に低充填率(例えば1〜20%)の成形体が用いられる用途では、その影響が顕著であり、多孔体(例えば、上記多孔膜、クッション材に用いられるシート、パッキンなど)に加工された直後は、目標とする性能を発揮できても、その後、後加工等において外力を受けることでその低充填率の構造が損なわれ、成形体の性能が低下してしまうことが多かった。
本発明は、比較的大きく固い結節部を有する延伸多孔体を製造することのできる組成物、混合粉末、成形用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、延伸時に繊維化するPTFE、及び、繊維化しない低分子量PTFEなど繊維化しない非熱溶融加工性成分、に加え、繊維化しない熱溶融加工可能な成分をさらに配合した組成物を用いて、例えば多孔膜を作製しエアフィルタに適用した場合に、PTFE多孔膜の構造を改良し、これにより低圧力損失、長寿命の両方を満足させられることを見出し、また、結節部の強度が強化され、通気性支持材の積層等の後工程で圧縮力等を受けてもフィルタ性能の低下が抑えられることを見出した。
【0008】
本発明は、フィブリルと、前記フィブリルによって相互に接続された結節部と、を有し、延伸されている延伸多孔体であって、前記結節部が融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分によって固められた延伸多孔体の製造に用いられる組成物、混合粉末、および成形用材料であって、
延伸によって繊維化るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、前記融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、を含み、前記融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、を含み、全体の0.1〜20重量%未満含有することを特徴とする組成物、混合粉末、および成形用材料を提供する。
【0009】
また、本発明は、流体中の微粒子を捕集するフィルタ用濾材に用いられる多孔膜であって、
繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンからなるフィブリルと、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンを含む結節部と、を有し、前記結節部は、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、をさらに含み、前記繊維化しない熱溶融加工可能な成分を、多孔膜を成形する成分全体の0.1〜20重量%未満含有することを特徴とする、多孔膜を提供する。
【0010】
また、本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記のエアフィルタ用濾材によれば、高い捕集性能を有しつつ、保塵量が大幅に向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320度未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、からなる1又は複数の多孔膜と、前記多孔膜を支持し、少なくとも最外層に配される複数の通気性支持材と、を備えたエアフィルタ用濾材であって、
空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が200Pa未満であり、
粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの下記式で示されるPF値が17以上であり、
個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa上昇したときの、ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が20g/m以上であり、
1枚の前記多孔膜の膜厚が30μm以上であることを特徴とするエアフィルタ用濾材を提供する。
PF値=−log(透過率(%)/100)/圧力損失(Pa)×1000
ここで、透過率=100−捕集効率(%)
【0012】
また、本発明は、上述のエアフィルタ用濾材と、
前記エアフィルタ用濾材を保持する枠体と、を備えるエアフィルタユニットを提供する。
【0013】
さらに、本発明は、流体中の微粒子を捕集するフィルタ用濾材に用いられる多孔膜の製造方法であって、
a)繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンの水性分散体と、繊維化しない非熱溶融加工性成分の水性分散体と、に加えて、前記多孔膜を成形する成分全体の0.1〜20重量%未満含有されるように、融点320度未満の繊維化しない熱溶融性加工可能な成分の水性分散体を混合し、共凝析を行うステップと、
b)前記ステップa)で得られた材料をTダイを用いてシート形状にペースト押出しするステップと、
c)前記ステップb)で得られた押出物を圧延するステップと、
d)前記ステップc)で得られた圧延シートを、前記融点320度未満の繊維化しない熱溶融下降可能な成分の融点以上、前記多孔膜を成形する各成分の分解温度以下の温度で、前記圧延シートの長手方向に4倍以上10倍未満に延伸して一軸延伸物を得、次いで、前記一軸延伸物の長手方向と直交する幅方向に10倍を超え25倍未満に延伸し、伸長面積倍率で40倍以上150倍未満になるように延伸するステップと、を含むことを特徴とする多孔膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の組成物等によれば、比較的大きく固い結節部を有する延伸多孔体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態の組成物等を用いて作成される多孔膜を示す模式図である。
図2】第1の実施形態の組成物等を用いて作成される多孔膜の構造を説明する図である。
図3図1の多孔膜を利用したフィルタ用濾材を示す図である。
図4図3のフィルタ用濾材を利用したエアフィルタユニットを示す図である。
図5】第2の実施形態の5層構造のエアフィルタ用濾材の断面を示す図である。
図6】第2の実施形態の変形例によるエアフィルタ用濾材の断面を示す図である。
図7】第2の実施形態の変形例によるエアフィルタユニットの外観を示す図である。
図8】第2の実施形態の多孔膜の製造方法を含むエアフィルタ用濾材の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る組成物、混合粉末、成形用材料(これら3つを纏めて組成物等ともいう)、多孔膜、フィルタ用濾材、エアフィルタユニット、多孔膜の製造方法について説明する。組成物等は、多孔膜の製造方法の説明と併せて説明する。
図1は、多孔膜を示す模式図である。図2は、多孔膜の構造を説明する図である。多孔膜1は、流体中の塵を捕集する濾材に用いられ、フィブリル3と、フィブリル3によって相互に接続された結節部5とを有する。
【0018】
(フィブリル)
(a)繊維化し得るポリテトラフルオロエチレン
フィブリル3は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンからなる。繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンは、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)の乳化重合、または懸濁重合から得られた高分子量のPTFEである。ここでいう高分子量とは、多孔膜作成時の延伸の際に繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られるものであって、標準比重(SSG)が、2.130〜2.230であり、溶融粘度が高いため実質的に溶融流動しないものをいう。繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、繊維化し得るPTFEのSSGは2.130〜2.190が好ましく、2.140〜2.170が更に好ましい。SSGが高すぎると、多孔膜1の原料である、繊維化し得るPTFE、後述する、繊維化しない非熱溶融加工成分、繊維化しない熱溶融加工可能な成分、の混合物の延伸性が悪化するおそれがあり、SSGが低すぎると、圧延性が悪化して、多孔膜の均質性が悪化し、多孔膜の圧力損失が高くなるおそれがある。また、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、乳化重合で得られたPTFEが好ましい。なお、標準比重(SSG)は、ASTM D 4895に準拠して測定される。
【0019】
繊維化性の有無、すなわち、繊維化し得るか否かは、TFEの重合体から作られた高分子量PTFE粉末を成形する代表的な方法であるペースト押出しが可能か否かによって判断できる。通常、ペースト押出しが可能であるのは、高分子量のPTFEが繊維化性を有するからである。ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがない場合、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れるような場合は繊維化性がないとみなすことができる。
高分子量PTFEは、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、変性PTFEという)であってもよいし、ホモポリテトラフルオロエチレン(以下、ホモPTFEという)であってもよいし、変性PTFEとホモPTFEの混合物であってもよい。ホモPTFEは、特に限定されず、特開昭53−60979号公報、特開昭57−135号公報、特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭62−190206号公報、特開昭63−137906号公報、特開2000−143727号公報、特開2002−201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2009/001894号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているホモPTFEなら好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭57−135号公報、特開昭63−137906号公報、特開2000−143727号公報、特開2002−201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット等で開示されているホモPTFEが好ましい。
【0020】
変性PTFEは、TFEと、TFE以外のモノマー(以下、変性モノマーという)とからなる。変性PTFEは、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期に変性されたもの、重合反応の終期に変性されたものなどが一般的であるが、特に限定されない。変性PTFEは、例えば、特開昭60−42446号公報、特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭62−190206号公報、特開昭64−1711号公報、特開平2−261810号公報、特開平11−240917、特開平11−240918、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されている変性PTFEなら好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭61−16907号公報、特開昭62−104816号公報、特開昭64−1711号公報、特開平11−240917、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット等で開示されている変性PTFEが好ましい。
変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。変性PTFEは、変性モノマー単位が全単量体単位の0.001〜0.500重量%含まれることが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.30重量%含まれる。本明細書において、変性モノマー単位は、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分である。全単量体単位は、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分である。
【0021】
変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)、エチレン等が挙げられる。また、用いられる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
パーフルオロビニルエーテルは、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF=CF−ORf(1)
式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。
で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、パーフルオロ有機基は、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基である。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0022】
パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜5である。PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。PAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0023】
パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)は、特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン(PFHE)等が挙げられる。
変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
特に、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、ホモPTFEは、繊維化し得るPTFEの50重量%を超えて含有されていることが好ましい。
【0024】
繊維化し得るPTFEは、多孔膜1の繊維構造を維持する観点から、多孔膜1の50重量%を超えて含有されているのが好ましい。
【0025】
(結節部)
結節部5は、フィブリル3によって相互に接続された部分であり、繊維化し得るPTFEと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、を含む。このような結節部5は、多孔膜1中で比較的大きく形成され、これにより従来よりも厚みの厚い多孔膜1が成形される。また、このような結節部5は、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含むことで比較的固く、多孔膜1を厚み方向に支える柱のような役割を果たすため、多孔膜1が通気性支持材13の積層などの後工程において圧縮力等を受けてフィルタ性能が低下するのを抑えることができる。結節部5に含まれる繊維化し得るPTFEは、上述した、フィブリル3に用いられる繊維化し得るPTFEと同様である。
【0026】
(b)繊維化しない非熱溶融加工性成分
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、主に結節部5において非繊維状の粒子として偏在し、繊維化し得るPTFEが繊維化されるのを抑制する働きをする。繊維化しない非熱溶融加工性成分としては、例えば、低分子量PTFE等の熱可塑性を有する成分、熱硬化性樹脂、無機フィラーが挙げられる。繊維化しない非熱溶融加工性成分が熱可塑性を有する成分である場合は、融点が320℃以上であり、溶融粘度が高い方が好ましい。例えば低分子量PTFEは溶融粘度が高いため,融点以上の温度で加工しても結節部に留まることができる。本明細書において、低分子量PTFEとは、数平均分子量が60万以下であり、融点が320〜335℃であり、380℃での溶融粘度は100〜7.0×10Pa・sのPTFEである(特開平10−147617号公報参照)。低分子量PTFEの製造方法としては、TFEの懸濁重合から得られる高分子量PTFE粉末(モールディングパウダー)またはTFEの乳化重合から得られる高分子量PTFE粉末(ファインパウダー)と特定のフッ化物とを高温下で接触反応させて熱分解する方法や(特開昭61−162503号公報参照)、上記高分子量PTFE粉末や成形体に電離性放射線を照射する方法(特開昭48−78252号公報参照)、また連鎖移動剤とともにTFEを直接重合させる方法(国際公開第2004/050727号パンフレット,国際公開第2009/020187号パンフレット,国際公開第2010/114033号パンフレット等参照)等が知られている。低分子量PTFEは、繊維化し得るPTFEと同様、ホモPTFEであってもよく、前述の変性モノマーが含まれる変性PTFEでもよい。
【0027】
低分子量PTFEは繊維化性が無い。繊維化性の有無は、上述した方法で判断できる。低分子量PTFEは、ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがなく、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れる。
本発明で用いられる低分子量PTFEは、特に限定されないが、380℃での溶融粘度が1000Pa・s以上であることが好ましく、5000Pa・s以上であることがより好ましく、10000Pa・s以上であることがさらに好ましい。このように、溶融粘度が高いと、多孔膜の製造時に、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が溶融しても、繊維化しない非熱溶融加工性成分は結節部5に留まることができ、繊維化を抑えることができる。
【0028】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ、シリコーン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、フェノール等の各樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、共凝析の作業性の観点から、未硬化状態で水分散された樹脂が望ましく用いられる。これら熱硬化性樹脂は、いずれも市販品として入手できる。
【0029】
無機フィラーとしては、タルク、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等が用いられる。中でも、PTFEとの親和性および比重の点から、タルクが好ましく用いられる。無機フィラーは、多孔膜1の製造時に安定な分散体を形成できる観点から、粒径3〜20μmのものが好ましく用いられる。これら無機フィラーは、いずれも市販品として入手できる。
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、多孔膜1の1〜50重量%含有されることが好ましい。繊維化しない非熱溶融加工性成分の含有量が50重量%以下であることで、多孔膜1の繊維構造を維持できる。繊維化しない非熱溶融加工性成分は、好ましくは20〜40重量%含有され、より好ましくは30重量%含有される。20〜40重量%含有されることで、繊維化し得るPTFEの繊維化をより有効に抑えることができる。
【0030】
(c)融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分
融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以下、繊維化しない熱溶融加工可能な成分ともいう)は、溶融時に流動性を有することにより、多孔膜1の製造時(延伸時)に溶融して結節部5において固まることができ、多孔膜1全体の強度を高めて、後工程で圧縮等されてもフィルタ性能の劣化を抑えることができる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分は,380℃において10000Pa・s未満の溶融粘度を示すことが好ましい。なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の融点は、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度10℃/分で融点以上まで昇温して一度完全に溶融させ、10℃/分で融点以下まで冷却した後、10℃/分で再び昇温したときに得られる融解熱曲線のピークトップとする。
【0031】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分としては、熱溶融可能なフルオロポリマー、シリコーン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル,ポリアミド等、あるいはこれらの混合物であり、多孔膜1の製造時の延伸温度における溶融性、流動性を十分に発揮しうるものが挙げられる。中でも、多孔膜1製造時の延伸温度での耐熱性に優れ、耐薬品性に優れる点から、熱溶融可能なフルオロポリマーが好ましい。熱溶融可能なフルオロポリマーは、下記一般式(2)
RCF=CR・・・(2)
(式中、Rはそれぞれ独立して、H、F、Cl、炭素原子1〜8個のアルキル、炭素原子6〜8個のアリール、炭素原子3〜10個の環状アルキル、炭素原子1〜8個のパーフルオロアルキルから選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2つのRが同じで残る1つのRがこれらと異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。)で示される少なくとも1種のフッ素化エチレン性不飽和モノマー、好ましくは2種以上のモノマー、から誘導される共重合単位を含むフルオロポリマーが挙げられる。
【0032】
一般式(2)で表される化合物の有用な例としては、限定されないが、フルオロエチレン、VDF、トリフルオロエチレン、TFE、HFP等のパーフルオロオレフィン、CTFE、ジクロロジフルオロエチレン等のクロロフルオロオレフィン、PFBE、PFHE等の(パーフルオロアルキル)エチレン、パーフルオロ−1,3−ジオキソールおよびその混合物等が挙げられる。
【0033】
また、フルオロポリマーは、少なくとも1種類の上記一般式(2)で示されるモノマーと、
上記一般式(1)および/または下記一般式(3)
C=CR・・・(3)
(式中、Rは、それぞれ独立して、H、Cl、炭素原子1〜8個のアルキル基、炭素原子6〜8個のアリール基、炭素原子3〜10個の環状アルキル基から選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2以上のRが同じでこれら2以上のRと残る他のRとが異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。前記他のRは、複数ある場合は互いに異なってよい。)で示される少なくとも1種の共重合性コモノマーとの共重合から誘導されるコポリマーも含み得る。
【0034】
一般式(1)で表される化合物の有用な例としては、PAVEであり、好ましくはPPVE、PMVE等が挙げられる。
【0035】
一般式(3)で表される化合物の有用な例としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0036】
フルオロポリマーのより具体的な例としては、フルオロエチレンの重合から誘導されるポリフルオロエチレン、VDFの重合から誘導されるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、CTFEの重合から誘導されるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、2種以上の異なる上記一般式(2)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマー、少なくとも1種の上記一般式(2)のモノマーと、少なくとも1種の上記一般式(1)および/または少なくとも1種の上記一般式(3)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマーが挙げられる。
かかるポリマーの例は、VDFおよびHFPから誘導される共重合体単位を有するポリマー、TFEおよびTFE以外の少なくとも1種の共重合性コモノマー(少なくとも3重量%)から誘導されるポリマーである。後者の種類のフルオロポリマーとしては、TFE/PAVE共重合体(PFA)、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/エチレン共重合体(ETFE)、TFE/HFP/エチレン共重合体(EFEP)、TFE/VDF共重合体、TFE/VDF/HFP共重合体、TFE/VDF/CTFE共重合体等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0037】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜1における含有量は、0.1〜20重量%未満である。20重量%以上であると、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が多孔膜1中の結節部5以外の部分にも分散することで、多孔膜1を、特に後述するエアフィルタ用濾材に用いた場合に、圧力損失が高くなってしまう。また、後述する伸長面積倍率が40倍以上の高倍率で延伸を行うことが難しくなり、多孔膜1の製造に支障をきたす。また、0.1重量%より少ないと、後工程での圧縮力等による多孔膜のフィルタ性能の劣化を十分に抑えることができない。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜1における含有量は、15重量%以下であるのが好ましく、10重量%以下であるのがより好ましい。また、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜1における含有量は、多孔膜1の強度を確保する観点から、0.5重量%以上であるのが好ましい。中でも、5重量%程度であるのが特に好ましい。
【0038】
多孔膜1をエアフィルタ用濾材として用いる場合は、伸長面積倍率40〜800倍での延伸を良好に行うために、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の含有率は、10重量%以下であるのが好ましい。
多孔膜1は、次式に従って求まる充填率が1〜20%であることが好ましく、2〜10%であることがより好ましい。
充填率(%)={1−(多孔膜中の空隙体積/多孔膜の体積)}×100
このような充填率の多孔膜1は、圧力6.4kPaを作用させた場合の後述する膜厚減少速度が1.5μm/s以下である。
【0039】
多孔膜1は、例えば、後述する多孔膜の製造方法に従って得ることができる。また、多孔膜1は、例えば、後述する組成物、混合粉末、成形用材料を用いて作成することができる。
多孔膜1は、エアフィルタ用濾材や、液フィルタに用いることができる。多孔膜1は、エアフィルタ用濾材として好ましく用いられ、膜厚が150μm以下であり、好ましくは7〜120μmである。また、多孔膜1を構成する繊維の平均繊維径は、例えば50nm〜200nmである。好ましくは、80nm〜200nmである。
【0040】
(エアフィルタ用濾材)
次に、上述の多孔膜1を用いた濾材9について説明する。
図3は、濾材9を示す模式図である。濾材9は、気体中の塵を捕集するものであって、上述の多孔膜1と、多孔膜1の両側に積層された通気性支持材13とを備える。通気性支持材13の材質及び構造は、特に限定されないが、例えば、不織布、織布、金属メッシュ、樹脂ネットなどが用いられる。中でも、強度、捕集性、柔軟性、作業性の点からは熱融着性を有する不織布が好ましい。さらに、不織布は、これを構成する一部または全部の繊維が芯/鞘構造である不織布、又は、低融点材料及び高融点材料の2層からなる2層不織布であってよい。不織布の材質は、特に制限されず、ポリオレフィン(PE、PP等)、ポリアミド、ポリエステル(PET等)、芳香族ポリアミド、またはこれらの複合材などを用いることができる。芯/鞘構造の不織布は、芯成分が鞘成分よりも融点が高いものが好ましい。例えば、芯/鞘の各材料の組み合わせとしては、例えば、PET/PE、高融点ポリエステル/低融点ポリエステルが挙げられる。通気性支持材13は、多孔膜1に、加熱による通気性支持材13の一部溶融により、或いはホットメルト樹脂の溶融により、アンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等の接着を利用して、接合することができる。
【0041】
通気性支持材13の目付及び厚みは、特に制限されず、多孔膜1の両側において同一又は異なってよい。また、多孔膜1は、単層又は複数枚が重ねられた複層であってもよい。この場合、複数枚の多孔膜は、同種のものであってよく、間に通気性支持材13が挟まれていてもよい。なお、通気性支持材13は、他の実施形態において、多孔膜1の片側にのみ積層されてもよい。
濾材9は、長寿命化のために、片側(通常、濾材を通過する気流の上流側)の通気性支持材13に、図示しないプレ捕集層がさらに積層されてもよい。プレ捕集層としては、例えば、メルトブローン法により得られたものが用いられる。プレ捕集層の材質は、例えば、ポリエチレン(PE)の他、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)等が挙げられる。プレ捕集層は、多孔膜1に、例えばホットメルト樹脂を用いた熱ラミネートにより接合することができる。このようなプレ捕集層を備えた濾材9は、HEPAフィルタとして好ましく用いられる。この場合、通気性支持材13は、多孔膜1の両側において、厚みが異なり、目付が同じものが用いられる。なお、濾材をULPAフィルタとして用いる場合は、ここで説明したようなプレ捕集層は不要である。また、濾材9は、通気性支持材13に代えて、多孔膜1に直接プレ捕集層を積層したものであってもよい。
【0042】
以上の濾材9では、上述のように、結節部5が繊維化しない熱溶融加工な成分によって固くなっていることで、多孔膜1の強度が向上している。このため、多孔膜1に通気性支持材13を積層させる時に圧縮力等が作用しても、多孔膜1の膜構造が潰れて圧力損失、PF値、濾過寿命などのフィルタ性能が劣化することが抑えられる。
また、濾材9に用いられる多孔膜1は、繊維化し得るPTFEから主としてなることで、低充填率で高通気度の多孔膜とすることができる。このような多孔膜1を用いることで、低圧力損失の濾材が得られるばかりでなく、上述のように多孔膜1の強度が向上しているため、濾過寿命も大幅に改善しガラス繊維フィルタ並の寿命を達成できる。ここで、低充填率とは、上述した式により計算される充填率が1〜20%であることをいう。高通気度とは、低圧力損失であることをいう。低圧力損失とは、後述する方法で測定される圧力損失が200Pa未満であることをいう。濾過寿命は、後述する方法で測定される。
【0043】
濾材9は、例えば次のような用途に用いられる。
ULPAフィルタ(半導体製造用)、HEPAフィルタ(病院、半導体製造用)、円筒カートリッジフィルタ(産業用)、バグフィルタ(産業用)、耐熱バグフィルタ(排ガス処理用)、耐熱プリーツフィルタ(排ガス処理用)、SINBRAN(登録商標)フィルタ(産業用)、触媒フィルタ(排ガス処理用)、吸着剤付フィルタ(HDD(Hard Disk Drive)組込み用)、吸着剤付ベントフィルタ(HDD組込み用)、ベントフィルタ(HDD組込み用等)、掃除機用フィルタ(掃除機用)、汎用複層フェルト材、GT(Gire-Tournois)用カートリッジフィルタ(GT向け互換品用)、クーリングフィルタ(電子機器筐体用)等の分野;
凍結乾燥用の容器等の凍結乾燥用材料、電子回路やランプ向けの自動車用換気材料、容器キャップ向け等の容器用途、電子機器向け等の保護換気用途、医療用換気用途等の換気/内圧調整分野;
半導体液ろ過フィルタ(半導体製造用)、親水性PTFEフィルタ(半導体製造用)、化学薬品向けフィルタ(薬液処理用)、純水製造ライン用フィルタ(純水製造用)、逆洗型液ろ過フィルタ(産業排水処理用)等の液濾過分野。
【0044】
(エアフィルタユニット)
次に、上述の濾材を用いたエアフィルタユニットについて説明する。
図4は、エアフィルタユニット20を示す斜視図である。エアフィルタユニット20は、加工済み濾材21と、セパレータ22と、枠体24と、を備える。加工済み濾材21は、シート状の上記濾材9をプリーツ加工して山部、谷部ができるように山折り、谷折りを行ったジグザグ形状の濾材である。セパレータ22は、加工済み濾材21のジグザグ形状を保持するためのもので、薄板をコルゲート加工することによって波形状となっており、谷部に挿入される。枠体24は、板材を組み合わせて作られ、セパレータ22が挿入された加工済み濾材21をセパレータ22ごと内側に収納する。なお、図4において、加工済み濾材21、セパレータ22、枠体24は一部切り欠いて示す。
【0045】
このようなエアフィルタユニットは、加工済み濾材21に用いられる多孔膜の強度が、上述のように、向上しているため、濾材をジグザグ形状に加工する時に圧縮力等が作用しても、多孔膜の膜構造が潰れて圧力損失、PF値、濾過寿命などのフィルタ機能が劣化することが抑えられる。また、従来のガラス繊維の濾材を用いたエアフィルタユニットより圧力損失が低いにもかかわらず、これと同程度の濾過寿命が得られる。
なお、エアフィルタユニットは、他の実施形態では、上述の濾材を用いて、例えば、特開2012−020274号公報の図3に示すようなミニプリーツタイプのエアフィルタユニットとして作成されてもよい。
(多孔膜の製造方法)
第1の実施形態において、多孔膜の製造方法は、
a)繊維化し得るポリテトラフルオロエチレン(以下、A成分ともいう)の水性分散体と、繊維化しない非熱溶融加工性成分(以下、B成分ともいう)の水性分散体と、に加えて、前記多孔膜を成形する成分全体の0.1〜20重量%未満含有されるように、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以下、C成分ともいう)の水性分散体を混合し、共凝析を行うステップと、
b)ステップa)で得られた材料をペースト押し出しするステップと、
c)ステップc)で得られた押出物を圧延するステップと、
d)ステップc)で得られた圧延物を、前記多孔膜を形成する各成分の分解温度以下の温度で延伸するステップと、を含む。
なお、他の実施形態では、上記ステップa)において、3つの成分の水性分散体の共凝析を行う代わりに、他の方法で3つの成分が混合してもよい。3つの成分を均一に混合できる観点からは、上記のように共凝析法により3つの成分を混合することが好ましい。
【0046】
ここで、本実施形態の組成物、混合粉末、成形用材料について説明する。
組成物、混合粉末、成形用材料はいずれも、上記した、A成分、B成分、C成分を含み、C成分を、全体の0.1〜20重量%未満含有する。A成分、B成分、C成分はそれぞれ、多孔膜1について上述した、繊維化し得るPTFE、繊維化しない非熱溶融加工性成分、繊維化しない熱熔融加工可能な成分と同様である。
成形用材料は、例えば、流体中の微粒子を捕集するフィルタ用ろ材に用いられる多孔膜を成形するための多孔膜成形用材料である。
【0047】
本発明の組成物は、後述する混合粉末であってもよく、粉末でない混合物であってもよい。混合粉末としては、例えば、後述する実施例で用いられる共凝析によって得られるファインパウダーや、3種の原料のうち2種を共凝析で混合し、もう1種の成分を混合機を用いて混合した粉体、3種の原料を混合機で混合した粉体などが挙げられる。粉末でない混合物としては、例えば、多孔体等の成形体、3種の成分を含む水性分散体が挙げられる。なお、第1の実施形態で説明する多孔膜は、多孔体に含まれる。
成形用材料は、組成物を成形するために、加工のための調整を行ったものをいい、例えば、加工助剤等を添加したもの、粒度を調整したもの、予備的な成形を行ったものである。成形用材料は、例えば、上記3種の成分に加え、公知の添加剤等を含んでもよい。公知の添加剤としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の炭素材料、顔料、光触媒、活性炭、抗菌剤、吸着剤、防臭剤等が挙げられる。
本発明の組成物は、種々の方法により製造することができ、例えば、組成物が混合粉末である場合、A成分の粉末、B成分の粉末、およびC成分の粉末を一般的な混合機等で混合する方法、A成分、B成分、およびC成分をそれぞれ含む3つの水性分散液を共凝析すること(上記ステップa))によって共凝析粉末を得る方法、A成分、B成分、C成分のいずれか2成分を含む水性分散液を予め共凝析することにより得られた混合粉末を残る1成分の粉末とを一般的な混合機等で混合する方法、等により製造できる。このような方法であれば、いずれの製法であっても、好適な延伸材料を得ることができる。中でも、3種の異なる成分を均一に分散し易い点で、本発明の組成物は、A成分、B成分、およびC成分をそれぞれ含む3つの水性分散液を共凝析することにより得られるものであることが好ましい。
共凝析によって得られる混合粉末のサイズは、特に制限されず、例えば、平均粒径が100〜1000μmである。好ましくは300〜800μmである。この場合、平均粒径は、JIS K6891に準拠して測定される。共凝析によって得られる混合粉末の見掛密度は、特に制限されず、例えば、0.40〜0.60g/mlであり、好ましくは0.45〜0.55g/mlである。見掛密度は、JIS K6892に準拠して測定される。
【0048】
本発明の組成物、混合粉末、成形用材料を用いて成形される成形体は、上記した各種フィルタの分野、換気/内圧調整分野、液濾過分野において好ましく用いられるほか、例えば次のような分野でも用いられる。
誘電材料プリプレグ、EMI(Electro Magnetic Interference)遮蔽材料、伝熱材料等、より詳細には、プリント配線基板、電磁遮蔽シールド材、絶縁伝熱材料、絶縁材料、食塩等の電解装置や、電池に用いられる導電性ポリマー膜の補強材等のエレクトロケミカル分野;
ガスケット、パッキン、ポンプダイアフラム、ポンプチューブ、航空機用シール材等の空気濾過シール材の分野;
衣類(民生衣類向け)、ケーブルガイド(バイク向け可動ワイヤ)、バイク用衣服(民生衣服向け)、キャストライナー(医療サポータ)、掃除機フィルタ、バグパイプ(楽器)、ケーブル(ギター用信号ケーブル等)、弦(弦楽器用)等の一般消費材分野;
PTFE繊維(繊維材料)、ミシン糸(テキスタイル)、織糸(テキスタイル)、ロープ等の繊維分野;
体内埋設物(延伸品)、人工血管、カテーテル、一般手術(組織補強材料)、頭頸部製品(硬膜代替)、口内健康(組織再生医療)、整形外科(包帯)等の医療分野。
【0049】
多孔膜の製造方法の説明に戻り、上記共凝析の方法としては、例えば、
(i)A成分の水性分散液、B成分の水性分散液、およびC成分の水性分散液を混合した後に凝析する方法、
(ii)A成分、B成分、C成分のうちいずれか1つの成分の水性分散液に、残る2成分の粉末を添加した後に凝析する方法、
(iii)A成分、B成分、C成分のうちいずれか1つの成分の粉末を、残る2成分の水性分散液を混合した混合水性分散液に添加した後に凝析する方法、
(iv)予めA成分、B成分、C成分のうちいずれか2つの成分の各水性分散液とを混合した後に凝析させて得られた2成分の混合粉末を、残る1成分の水性分散液に添加した後に凝析する方法、
が挙げられる。
上記共凝析の方法としては、3種の成分を均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0050】
上記(i)〜(iv)の方法による共凝析では、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等の酸;塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の金属塩;アセトン、メタノール等の有機溶剤、のいずれかを添加して凝析させることが好ましい。
【0051】
上記A成分の混合前の形態は、特に限定されないが、上述の繊維化し得るPTFEの水性分散体であってもよいし、粉体であってもよい。繊維化し得るPTFEの粉末(特に、上述のファインパウダー)としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン6−J」(以下テフロンは登録商標)、「テフロン6C−J」、「テフロン62−J」等、ダイキン工業社製「ポリフロンF106」、「ポリフロンF104」、「ポリフロンF201」、「ポリフロンF302」等、旭硝子社製「フルオンCD123」、「フルオンCD1」、「フルオンCD141」、「フルオンCD145」等、デュポン社製「Teflon60」、「Teflon60 X」、「Teflon601A」、「Teflon601 X」、「Teflon613A」、「Teflon613A X」、「Teflon605XT X」、「Teflon669 X」等が挙げられる。
ファインパウダーは、TFEの乳化重合から得られる繊維化し得るPTFEの水性分散液(重合上がりの水性分散液)を凝析、乾燥することで得ることができる。繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、上述の重合上がりの水性分散液であってもよいし、市販品の水性分散液であってもよい。重合上がりの繊維化し得るPTFE水性分散液の好ましい作製方法としては、ホモPTFEを開示するものとして列挙した上記公報等に開示されている作製方法が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、ダイキン工業社製「ポリフロンD−110」、「ポリフロンD−210」、「ポリフロンD−210C」、「ポリフロンD−310」等、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン31−JR」、「テフロン34−JR」等、旭硝子社製「フルオンAD911L」、「フルオンAD912L」、「AD938L」等の水性分散液が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液はいずれも、安定性を保つために、水性分散液中のPTFE 100重量部に対して、非イオン性界面活性剤等を2〜10重量部添加しているため、共凝析によって得られる混合粉末に非イオン性界面活性剤が残留しやすく、多孔体が着色する等の問題を起こすおそれがある。このため、繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、重合上がりの水性分散液が好ましい。
【0052】
B成分の混合前の形態は、特に限定されないが、B成分が低分子量PTFEである場合、混合前の形態は特に限定されないが水性分散体であってもよいし、粉体(一般的にPTFEマイクロパウダー、またはマイクロパウダーと呼ばれる)であってもよい。低分子量PTFEの粉体としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「MP1300−J」等、ダイキン工業社製「ルブロンL−5」、「ルブロンL−5F」等、旭硝子社製「フルオンL169J」、「フルオンL170J」、「フルオンL172J」等、喜多村社製「KTL−F」、「KTL−500F」等が挙げられる。
低分子量PTFEの水性分散液としては、上述のTFEの乳化重合から得られた重合上がりの水性分散液であってもよいし、市販品の水性分散液であってもよい。また、マイクロパウダーを界面活性剤を使うなどして水分中に分散したものも使用できる。重合上がりの繊維化し得るPTFE水性分散液の好ましい作製方法としては、特開平7−165828号公報、特開平10−147617号公報、特開2006−063140号公報、特開2009−1745号公報、国際公開第2009/020187号パンフレット等に開示されている作製方法が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、ダイキン工業社製「ルブロンLDW−410」等の水性分散液が挙げられる。市販品の低分子量PTFEの水性分散液は安定性を保つために、水性分散液中のPTFE 100重量部に対して、非イオン性界面活性剤等を2〜10重量部添加しているため、共凝析によって得られる混合粉末に非イオン性界面活性剤が残留しやすく、多孔体が着色する等の問題を起こすおそれがある。このため、低分子量PTFEの水性分散液としては、重合上がりの水性分散液が好ましい。
また、B成分として無機フィラーを用いる場合も混合前の形態は特に限定されないが水性分散体が好ましい。無機フィラーとしては、日本タルク株式会社製「タルクP2」、富士タルク工業社製「LMR−100」等が挙げられる。これらは適宜シランカップリング剤などによる表面処理等を施し水中に粉体を分散して用いられる。中でも、水への分散性の理由から、ジェットミルによる2次粉砕品(「タルクP2」など)が好ましく用いられる。
【0053】
C成分としては、例えば、FEP,PFAなどのフッ素樹脂の他,未硬化のシリコーン樹脂,アクリル,ウレタン,PET等の各樹脂が挙げられる。混合前の形態は特に限定されないが水性分散体が好ましい。水性分散体は、乳化重合によって得られる樹脂の場合は、その重合上がり分散体をそのまま使えるほか,樹脂粉を界面活性剤などを使い、水分中に分散した物も使用できる。C成分は、多孔膜において0.1〜20重量%未満含有されるよう、所定量が水中に分散されて水性分散体が調製される。
【0054】
共凝析の方法は、特に制限されないが、3つの水性分散体を混合したのち機械的な撹拌力を作用させるのが好ましい。
共凝析後は、脱水、乾燥を行なって、押出助剤(液状潤滑剤)を混合し、押出を行う。液状潤滑剤としては、PTFEの粉末の表面を濡らすことが可能であり、共凝析により得られた混合物をフィルム状に成形した後に除去可能な物質であるものであれば、特に限定されない。例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどの炭化水素油、のアルコール類、ケトン類、エステル類などが挙げられる。
【0055】
液状潤滑剤の使用量は、液状潤滑剤の種類等によって異なるが、通常、PTFEの粉末100重量部に対して、5〜50重量部である。液状潤滑剤の使用量を大きくすることにより、圧力損失を小さくすることができる。
共凝析により得られた混合物は、液体潤滑剤と混合された後、従来公知の方法で押出、圧延されることにより、フィルム状物に成形される。押出は、ペースト押出、ラム押出等により行えるが、好ましくはペースト押出により行われる。ペースト押出により押し出された棒状の押出物は、加熱下、例えば40℃〜80℃の温度条件の下、カレンダーロール等を用いて圧延される。得られるフィルム状の圧延物の厚さは、目的の多孔膜の厚さに基づいて設定され、通常100〜400μmである。
次いで、圧延物である未焼成フィルムから液体潤滑剤が除去される。液体潤滑剤の除去は、加熱法により又は抽出法により、或いはこれらの組み合わせにより行われる。加熱法による場合の加熱温度は、繊維化しない熱溶融加工性成分の融点より低ければ特に制限されず、例えば、100〜250℃である。
【0056】
液体潤滑剤が除去された圧延物は、繊維化しない熱溶融加工性成分の融点以上かつ繊維化しない非熱溶融加工性成分の分解温度以下の温度下で延伸される。この過程で繊維化しない熱溶融加工性成分が溶融し、後に結節部5において固まることで、多孔膜1の厚み方向の強度が強化される。この時の延伸温度は、延伸を行う炉の温度、又は圧延物を搬送する加熱ローラの温度によって設定されてもよく、或いは、これらの設定を組み合わせることで実現されても良い。
延伸は、第1の方向への延伸と、好ましくは、第1の方向と直交する第2の方向への延伸とを含む。多孔膜1をエアフィルタ用濾材に用いる場合は、第2の方向への延伸も行うのが好ましい。本実施形態では、第1の方向は、圧延物の長手方向(縦方向)であり、第2の方向は、圧延物の幅方向(横方向)である。
【0057】
前記圧延物は40〜800倍の伸長面積倍率で延伸される。第1の方向への延伸速度は、好ましくは10〜600%/秒であり、より好ましくは10〜150%/秒である。延伸時の温度は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは280〜310℃である。
第2の方向への延伸速度は、好ましくは10〜600%/秒である。延伸時の温度は、好ましくは200〜400℃、より好ましくは250〜350℃である。第2の方向への延伸は、第1の方向への延伸と同時又は別に行なってよい。
前記圧延物(PTFE未焼成物ともいう)の延伸に関して、延伸時の温度、延伸倍率、延伸速度が延伸物の物性に影響を与えることが知られている。PTFE未焼成物のS−Sカーブ(引張張力と伸びの関係を示すグラフ)は、他の樹脂とは異なる特異な特性を示す。通常、樹脂材料は伸びに伴って引張張力も上昇する。弾性領域の範囲、破断点などは、材料、評価条件によって異なる一方で、引張張力は、伸び量に伴って上昇傾向を示すのが極めて一般的である。これに対してPTFE未焼成物は、引張張力は、ある伸び量においてピークを示したあと、緩やかな減少傾向を示す。このことは、PTFE未焼成物には、「延伸された部位よりも延伸されていない部位の方が弱くなる領域」が存在することを示している。
このことを延伸時の挙動に置き換えると、一般的な樹脂の場合、延伸時は、延伸面内で最も弱い部分が伸び始めるが、延伸された部分の方が延伸されていない部分より強くなるため、次に弱い未延伸部が延伸されていくことで、延伸された領域が広がって、全体的に延伸される。一方、PTFE未焼成物の場合、伸び始める部分が、上記「延伸された部位よりも延伸されていない部位の方が弱くなる領域」に差し掛かると、既に伸びた部分が更に延伸され、この結果、延伸されなかった部分がノード(結節部、未延伸部)として残る。延伸速度が遅くなると、この現象は顕著になり、より大きいノード(結節部、未延伸部)が残る。このような現象を延伸時に利用することにより、種々の用途に応じて延伸体の物性調整が行われている。
本実施形態では、より低密度の延伸体を得ることが好ましく、低延伸速度を特に第1の延伸に適用することが有効である。本発明の目的に合う物性の成形体を得るために、大きいノード(結節部、未延伸部)を残し、低充填率の成形体を得ようとする場合、従来のPTFEのみを原料とした場合は、第1の延伸の延伸速度を150%/秒以下、好ましくは80%/秒以下とし、第2の方向への延伸を500%/秒以下とする必要がある。しかし、このようにして得られた成形体の低充填率構造は外力によって容易に損なわれる。
本実施形態では、繊維化しない非熱溶融加工性成分が存在することにより、低延伸速度による上記現象がより顕著になる。この結果、適用できる延伸速度の範囲として、第1の延伸の延伸速度を600%/秒以下、好ましくは150%/秒以下、第2の方向への延伸を600%/秒以下まで拡げることができた。また、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が存在することで、その構造を後加工の後も維持できるようになった。
【0058】
こうして得られた多孔膜1は、強度アップや寸法安定性を得るために、好ましくは熱固定される。熱固定の際の温度は、PTFEの融点以上又は未満であってよく、好ましくは250〜400℃である。
【0059】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態に係るエアフィルタ用濾材、エアフィルタユニット、多孔膜の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態のエアフィルタ用濾材9の厚み方向断面を示す図である。図5は、本実施形態のエアフィルタ用濾材10の厚み方向断面を示す図である。図5は、5層構造の濾材を示す。
エアフィルタ用濾材10は、PTFEを主成分とする1又は複数の多孔膜1と、多孔膜1を支持し、少なくとも最外層に配される複数の通気性支持材13と、を備えたエアフィルタ用濾材であって、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が200Pa未満であり、粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの下記式で示されるPF値が17以上であり、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa上昇したときの、ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が20g/m以上であり、1枚の前記多孔膜の膜厚が30μm以上である。
PF値=−log(透過率(%)/100)/圧力損失(Pa)×1000
ここで、透過率=100−捕集効率(%)
ここでいう圧力損失は、初期圧力損失をいう。初期とは、例えば、エアフィルタ用濾材を枠体に保持させてエアフィルタユニットとした後、所定の場所に設置して使用可能な状態になった時点をいう。
エアフィルタ用濾材9あるいは10は、上記のように、1又は複数の多孔膜1と、複数の通気性支持材13と、を備えている。図3に示す濾材9は、1枚の多孔膜1と、この多孔膜1を両側から挟む2枚の通気性支持材13との3層構造を有する。図5に示す濾材10は、2枚の多孔膜1と、3枚の通気性支持材13とが交互に積層されてなる5層構造を有する。
【0060】
(多孔膜)
図2は、濾材9あるいは10の多孔膜1の構造を説明する図である。多孔膜1は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320度未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、からなる。これらの成分はそれぞれ、第1の実施形態で説明した、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレン、繊維化しない非熱溶融加工性成分、融点320度未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分、と同様である。
【0061】
多孔膜1をエアフィルタ用濾材として用いる場合は、伸長面積倍率40倍以上150倍未満での延伸を良好に行うために、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の含有率は、10重量%以下であるのが好ましい。
多孔膜1は、次式に従って算出される充填率が1〜20%であることが好ましく、2〜10%であることがより好ましい。
充填率(%)=(多孔膜の比重)/(原料の比重)×100
多孔膜の比重=(多孔膜の重量)/(多孔膜の膜厚×多孔膜の面積)
なお、原料の比重は、複数の成分からなる混合原料である場合は、各成分の比重に各成分の重量比を乗じたものの和を重量比の和で除した値で表される。
【0062】
多孔膜1の膜厚は、30μm以上である。ここでいう膜厚は、1枚の多孔膜1の膜厚であり、濾材が複数の多孔膜1を備える場合は、各層の厚みである。多孔膜1の膜厚は、好ましくは35μm以上であり、より好ましくは40μm以上である。膜厚は、濾材の圧力損失を200Pa未満にする観点から好ましくは250μm以下であり、より好ましくは200μm以下である。膜厚は、膜厚計を用いて測定される。膜厚が上記範囲の上限値以下であることにより、濾材の圧力損失が高くなることが抑えられる。多孔膜1は、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を所定量含有することで、この成分が結節部5で固まることによって結節部5が固くなり、後工程において膜厚方向に圧縮力等がかかっても潰れにくく、膜厚を保つことができる。多孔膜1は、上記のように繊維径の細い繊維の発生が抑えられることによって、繊維同士の重なりが減った空隙の多い構造をなしている。このような構造によって、圧力損失は低く保たれるが、同じ膜厚で比較した場合の捕集効率は、繊維化しない非熱溶融加工性成分を含まない従来のPTFE多孔膜と比べて低下している。しかし、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が含有されることによって、多孔膜1の厚み方向の強度が高められたことで、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含まない従来のPTFE多孔膜と比べ、上記した膜厚の範囲の如く嵩高くすることができる。これにより、多孔膜1は、厚み方向に繊維量が増え、捕集効率への悪影響を抑えるとともに、空隙の多い膜構造によって、圧力損失の上昇を防ぎつつ、保塵量を大幅に増やすことができている。
また、PTFE多孔膜は圧力損失を低くするために高倍率で薄く延伸されると、同じ濾材における異なる領域の間で、発生した細い繊維の粗密の差が大きくなり、圧力損失のバラつきが大きくなる。ここでいう圧力損失のバラつきは、同じ濾材における異なる領域の間での圧力損失のバラつきである。
圧力損失の低い領域には風が集中的に流れ、捕集効率が低下してしまうため、圧力損失のバラつきが大きいと、濾材中に部分的に捕集効率が低い箇所が存在してしまうことの問題が顕著となる。
本発明によれば、繊維化しない非熱溶融加工性成分を含まない従来のPTFE多孔膜と比べ、低倍率で延伸して圧力損失を低く保って嵩高くすることができ、保塵量を大幅に増やしつつ圧力損失のバラつきも低く保つことができる。また、繊維化しない熱溶融加工性成分を含むことで、その嵩高い構造を、外力を受けても維持することができる。
【0063】
このような多孔膜1の構造によって保塵量を増やせた理由として、次のことが考えられる。従来のPTFE多孔膜は、繊維径の細い微細なフィブリルを多く含むために、繊維あたりの表面積が大きく、繊維1本あたりの捕集効率が非常に高い反面、膜厚が薄く、繊維同士の重なりが多いために、多くの微粒子を保塵することができず、繊維1本あたりの捕集効率の高さが有効に発揮されていない。これに対し、本実施形態の多孔膜1では、膜厚を増やせることによって、細い繊維径の繊維の量は敢えて少なくして、比較的太い繊維の量と、このような太い繊維によって多孔膜1中に形成される空隙の量と、を増やすことによって、圧力損失の上昇や捕集効率の低下を抑えつつ、保塵量を増やせる繊維構造が得られている。
繊維径のバラつきが大きい構造を有する濾材には、繊維径が細く繊維の量が多い領域と、繊維径が太く繊維の量の少ない領域とが混在していることから、部分的には保塵量が改善された領域が存在する。このような濾材を、例えばユニットに組むなどした場合、濾材の広い面積での平均的な保塵量は、細い繊維が多く保塵量の小さい領域が与える影響が大きいことから、十分に改善されないと推定される。また、繊維径のバラつきが大きい構造を有する濾材では、繊維径が細く繊維の量が少ない領域では圧力損失も低くなり、圧力損失の低い領域には風が集中的に流れ、捕集効率が低下してしまう。このように、圧力損失のバラつきが大きくなり、濾材中に部分的に捕集効率の低い領域が生じてしまうことが問題となる。
圧力損失のバラつきを小さくするためには、押出時に適切な形状のTダイを用いてシート状に押出しを行うことが好ましい。
押出された形状が例えば丸棒状である場合は、圧延時にシート状に加工される際に、丸棒状からシート状へ大きく形状変化し、このとき、丸棒状の断面のうち中央部に近い部分であるほど押出物は大きく潰され、他の部分とは異なる挙動(圧延挙動)をとった部分がシート状物に含まれる。一方、押出された形状がシート状であれば、押出時の形状変化も少なく、押出物は圧延時に全体的に潰される。
【0064】
多孔膜1は、エアフィルタ用濾材9から11において、前述のように、単層又は複層含まれてよい。また、多孔膜1が複層含まれる場合に、多孔膜1同士は、互いに直接積層されてもよく、通気性支持材13を介して積層されてもよい。この場合、通気性支持材13は、単層、又は複数枚が重ねられた複層であってもよい。また、多孔膜1が複層含まれ、隣接する2つの多孔膜1の間に通気性支持材13が介在する場合は、当該通気性支持材13は、エアフィルタ用濾材10の最外層に配される通気性支持材13と、同種又は異種のものであってよい。
【0065】
(通気性支持材)
通気性支持材13は、第1の実施形態で説明した通気性支持材と同様である。
【0066】
通気性支持材13は、エアフィルタ用濾材10において、最外層のほかに、さらに1層以上含まれてもよい。エアフィルタ用濾材10に含まれる通気性支持材13同士は、同種又は異種のものであってよい。
通気性支持材13は、多孔膜1に対し、加熱による通気性支持材13の一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融、によるアンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等を用いた接着を利用して、接合することができる。
【0067】
濾材の層構造は、JIS Z8122によるHEPAフィルタ、すなわち、定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタとしての捕集性能が実現されるよう、定めることができる。濾材の層構造は、例えば、図3に示す濾材9のごとく3層構造であってもよく、図5に示す濾材10のごとく5層構造であってもよく、図6に示す濾材11のごとく4層構造であってもよく、また、6層以上の層構造であってもよい。なお、図6は、本実施形態の変形例による濾材の厚み方向断面を示す図である。
【0068】
図5に示す5層構造の濾材10では、多孔膜1はそれぞれ、例えば、平均繊維径が0.10〜0.12μmであり、膜厚が35〜60μm、充填率が3〜5%、濾材10は、例えば、膜厚が400〜500μmである。
図6に示す4層構造の濾材11は、互いに直接積層した2枚の多孔膜1の外側に2枚の通気性支持材13が配されてなる。図6は、本実施形態の変形例による濾材の厚み方向断面を示す図である。図6に示す濾材11において、多孔膜1はそれぞれ、例えば、平均繊維径が0.10〜0.12μmであり、膜厚が35〜60μm、充填率が3〜5%、平均孔径が0.8〜1.6μmである。濾材11は、例えば、膜厚が400〜500μmである。
【0069】
なお、HEPAフィルタとしての捕集性能をもつ濾材は、図1図3および図6に示す層構造のものに限定されない。層構造の層数の上限値は、HEPAフィルタとしての圧力損失が損なわれない範囲で定められる。また、本実施形態の濾材は、HEPAフィルタとしての捕集性能を有していればよく、例えば、JIS Z8122によるULPAフィルタ、すなわち、定格風量で粒径が0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタであってもよい。
【0070】
本実施形態の濾材は、上述のように圧力損失が200Pa未満である。上述のように、多孔膜1の構造が、繊維径の細い繊維の発生が抑えられ、空隙の多い構造をなしていることで、多孔膜1の圧力損失が低く保たれ、この結果、濾材としての圧力損失が200Pa未満に保たれている。
【0071】
本実施形態の濾材は、上述のようにPF値が17以上である。上述のように、多孔膜1の構造が、空隙の多い構造でありながら膜厚の大きい嵩高い構造であることで、多孔膜1の捕集効率の低下が抑えられ、この結果、濾材としての捕集効率が高く、圧力損失が低くなっている。これにより、PF値が17以上になっている。
【0072】
本実施形態の濾材は、上述のように保塵量が20g/m以上である。上述のように多孔膜1の保塵量を増やせた結果、濾材としての保塵量が20g/m以上になっている。保塵量は、後述するPAO粒子透過時の圧力損失上昇試験により評価される。PAO粒子は、NaCl等の固体粒子と比べ広く使用されている点で、試験粒子として好ましく用いられる。
【0073】
本実施形態の濾材は、JIS B9927の附属書のクリーンルーム用エアフィルタ用濾材性能試験方法で規定される試験用粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの捕集効率が99.97%以上であることが好ましい。上述のように、多孔膜1の構造が、空隙の多い構造でありながら膜厚の大きい嵩高い構造であることで、多孔膜1の捕集効率の低下が抑えられ、この結果、濾材としての捕集効率が99.97%以上に保たれている。
【0074】
本実施形態の濾材は、圧力損失分布の標準偏差を平均値で除してなる変動係数CVが5%以下であることが好ましい。変動係数CVの下限値は、例えば1%である。濾材の圧力損失分布は、例えば、濾材を格子状に100個に分割し、各格子内の直径100mmの領域の圧力損失を測定することにより得られる。圧力損失の測定は、例えば、濾材表面に接近した状態で濾材10の両面の測定を行うマノメータを備える測定装置を用いて、当該マノメータが各領域の下流側の表面上を定められた経路に沿って移動するよう操作させることにより行うことができる。そして、測定した各領域の圧力損失からなる圧力損失分布から標準偏差を算出し、これを、測定した全ての領域の圧力損失の平均値で割ることにより、変動係数CV(%)を求めることができる。なお、本発明において、エアフィルタ用濾材は、特に断りのない限り、複数のエアフィルタユニットに用いるために複数に切り出せる程度の面積を有するものであり、通常、長手方向に長い長尺物である。濾材の大きさは、特に制限されないが、例えば、長手方向長さが100〜1000m、幅方向長さが600〜2000mmである。
【0075】
本実施形態の濾材の圧力損失の変動係数CVは、ホモPTFEからなる従来のPTFE多孔膜での変動係数が10%程度であるに対し、5%以下であり、圧力損失のバラつきが抑えられている。この理由は、次のように考えられる。従来のPTFE多孔膜は、製造時の延伸倍率が高いために膜厚が薄く、延伸ムラによって圧力損失の低い部位が生じ、このような圧力損失の低い部位が存在することによって捕集効率が低下してしまう。これを改善する方法として、多孔膜の製造時の延伸倍率を小さくすることが考えられるが、単に延伸倍率を小さくしただけでは、圧力損失が高くなるという別の問題が生じる。このような状況で、繊維化し得るPTFEに加え、繊維化しない非熱溶融加工性成分および繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含有する多孔膜の原料を用いると、平均繊維径が大きく、空隙の多い繊維構造で膜厚の厚い多孔膜が得られることが見出された。このような多孔膜を備えることによって、本実施形態の濾材は、圧力損失が200Pa未満に低く抑えられ、かつ、圧力損失のバラつきが小さいとともに、保塵量が大きくなっている。
上記したように、同じ濾材の領域同士であっても、上述したような繊維構造のバラつきに起因して保塵量の大きい領域と小さい領域とが存在しうる。この場合、濾材全体としての保塵量は、保塵量の大きい領域と小さい領域との平均とはならずに、保塵量の小さい領域の値に支配されて小さくなると考えられる。したがって、局部的に保塵量の大きい濾材の領域があるとしても、濾材全体としては保塵量が小さくなる可能性があり、濾材の領域によってこのようなバラつきが大きいことは好ましくない。この点からも、上記圧力損失の変動係数CVは、5%以内であることが好ましい。
【0076】
本実施形態の濾材は、上述のように、PTFEを主成分とする多孔膜1と通気性支持材13とを備え、HEPAフィルタとしての捕集性能を有するエアフィルタ用濾材であって、保塵量が20g/m以上であり、多孔膜1の膜厚が30μm以上である。従来のPTFE多孔膜は、初期捕集効率は高いが、繊維径の細い繊維を多数有する繊維構造であるために保塵量が小さいという欠点があった。しかし、本実施形態の濾材の多孔膜1は、従来のPTFE多孔膜と比べ平均繊維径が大きく、繊維間の隙間の大きい繊維構造を有するとともに、膜厚が大きいことによって、太い繊維径の繊維の量が増え、かつ、空隙の多い(低充填率の)繊維構造を有している。このような多孔膜を備えることによって、本実施形態の濾材は、平均繊維径が大きくなったことによる初期捕集効率への悪影響を抑えつつ、圧力損失を低く保つことにより、HEPAフィルタとしての捕集性能を満たしつつ、ガラス繊維からなる濾材並みに優れた保塵量を有している。このような性能および繊維構造は、ホモPTFEからなる従来のPTFE多孔膜を用いた濾材では得られなかったものである。
また、このように保塵量が大きいため、本実施形態の濾材によれば、メルトブローン不織布等からなるプレ捕集層を設ける必要がない。従来のエアフィルタ用濾材では、PTFE多孔膜が薄く延伸されており、液体粒子の保塵量が小さいため、液体粒子の保塵量を大きくするために、PTFE多孔膜の上流側に、ポリプロピレン(PP)等からなる300μm程度の厚みのメルトブローン(MB)不織布を貼り付けてなる濾材が提案されている。しかし、この種の濾材は、メルトブローン不織布から不純物を発して、透過する気流を汚染しやすい。さらに、この種の濾材は、濾材厚みが厚くなっているため、枠体に保持させてエアフィルタユニットとした場合の濾材折込み面積が少なくなる。しかし、本実施形態の濾材は、上述のように保塵量が大きいため、プレ捕集層から発生していた不純物を発することがない。さらに、プレ捕集層を設ける必要がないことから、エアフィルタユニットを製造する際の枠体への濾材折込み面積を確保できる。
【0077】
本実施形態の濾材は、例えば、第1の実施形態で説明したのと同様の用途、分野のうち液濾過分野を除く用途、分野で用いられる。
【0078】
(エアフィルタユニット)
次に、上述の濾材を用いたエアフィルタユニットについて説明する。
エアフィルタユニットは、例えば、第1実施形態で説明した、図4に示すエアフィルタユニットと同様である。加工済み濾材21には、例えば、上述の濾材9、濾材10又は濾材11が用いられる。
【0079】
また、濾材9〜11のいずれかを用いたエアフィルタユニットは、図4に示すエアフィルタユニット20に限定されず、図7に示すVバンク型(ダブルプリーツ型ともいう)のエアフィルタユニット30等の他のタイプのものであってもよい。図7は、Vバンク型のエアフィルタユニット30を一部切り欠いて示す外観図である。エアフィルタユニット30は、濾材31と、パック受け37,39と、枠体34と、を備える。濾材31には、例えば、上述の濾材9,濾材10又は濾材11が用いられる。濾材31は、シート状のものにプリーツ加工を施してジグザグ形状に加工され、任意に、ホットメルト樹脂等からなるスペーサが設けられることでフィルタパックに加工されている。複数のフィルタパックは、複数のV字形状が一方向に並んで見えるように枠体34内に配され、気流の流入側の端部はパック受け37で支持され、流出側の端部はパック受け39で支持される。
なお、エアフィルタユニットは、他の実施形態では、上述の濾材9〜11のいずれかを用いて、例えば、上述のミニプリーツタイプのエアフィルタユニットとして作成されてもよい。
【0080】
以上のエアフィルタユニット20,30は、濾材21,31として上述の濾材9〜11のいずれかを備えることで、保塵量がガラス繊維からなる濾材並みに大きいにも関わらず、捕集性能の低下が抑えられている。また、このように保塵量が大きいことによって、プレ捕集層を設ける必要がないため、従来、プレ捕集層から発生していた不純物を発生させることがなく、枠体内への濾材折込み面積を確保できる。
【0081】
(エアフィルタ用濾材の製造方法)
次に、エアフィルタ用濾材の製造方法について説明する。
図8に、本実施形態の多孔膜の製造方法を含むエアフィルタ用濾材の製造方法のフローチャートを示す。エアフィルタ用濾材の製造方法は、共凝析を行うステップ(ST10)、ペースト押出を行うステップ(ST20)、圧延を行うステップ(ST30)、延伸を行うステップ(ST40)、および、積層を行うステップ(ST50)、を含む。このうち、共凝析を行うステップ(ST10)から延伸を行うステップ(ST40)は、本実施形態の多孔膜の製造方法の一例であり、これによって、多孔膜が製造される。共凝析を行うステップ(ST10)では、多孔膜の原料である成形用材料が製造される。
【0082】
ここで、共凝析を行うステップ(ST10)で行われる成形用材料の製造方法を含め、成形用材料の製造方法について説明する。ここでは、繊維化し得るPTFEをA成分、繊維化しない非熱溶融加工性成分をB成分、繊維化しない熱溶融加工可能な成分をC成分として説明する。なお、B成分が、低分子量PTFE等の熱可塑性を有する成分である場合を例に説明する。
成形用材料は、混合粉末等の組成物として作られてよく、共凝析を行うステップ(ST10)を含む、種々の方法により製造することができる。例えば、組成物が混合粉末である場合、A成分、B成分、およびC成分の各粉末を一般的な混合機等で混合する方法、A成分、B成分、およびC成分を含む各水性分散液を共凝析することによって共凝析粉末を得る方法(共凝析を行うステップ(ST10))、A成分、B成分、C成分のうちいずれか2成分の各水性分散液を予め共凝析して得られた混合粉末を、残る1成分の粉末と一般的な混合機等で混合する方法、等が挙げられる。これらのいずれの方法によっても、延伸を行う上で好ましい材料を得ることができる。中でも、3種の異なる成分を均一に分散し易い点で、A成分、B成分、およびC成分を含む各水性分散液を共凝析すること、すなわち、共凝析を行うステップ(ST10)により得ることが好ましい。
【0083】
共凝析を行うステップ(ST10)を含め、共凝析の方法としては、第1の実施形態で説明した(i)〜(iv)の方法が挙げられる。中でも、3種の成分を均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0084】
上記(i)〜(iv)の共凝析の方法では、例えば、第1の実施形態で説明したのと同様に酸、金属塩、有機溶媒を添加して凝析させることが好ましい。
【0085】
A成分の混合前の形態は、特に限定されないが、例えば、上述の高分子量PTFEの水性分散体であることが好ましい。高分子量PTFEとしては、例えば、第1の実施形態で列挙した高分子量PTFEの市販品等の水性分散体が挙げられる。
【0086】
B成分の混合前の形態は、特に限定されないが、B成分が低分子量PTFEである場合は水性分散体が好ましい。水性分散体は、乳化重合で得られる水性分散体の他、界面活性剤を使うなどして、モールディングパウダー、ファインパウダーを水分中に分散したものであってもよい。中でも、水成分散体の安定性の面から、乳化重合で得られる水性分散体が好ましく用いられる。低分子量PTFEとしては、例えば、第1の実施形態で列挙した低分子量PTFEの市販品等が挙げられる。
また、B成分の混合前の形態は、B成分が無機フィラーである場合も、水性分散体が好ましい。無機フィラーとしては、例えば、第1の実施形態で列挙した無機フィラーの市販品等が挙げられる。これらは、適宜シランカップリング剤などによる表面処理等を施して水中に分散して用いられる。中でも、水への分散性の理由から、ジェットミルによる2次粉砕品(上記「タルクP2」など)が好ましく用いられる。
【0087】
C成分としては、例えば、FEP、PFAなどのフッ素樹脂の他、未硬化のシリコーン樹脂、アクリル、ウレタン、PET等の各樹脂が挙げられる。混合前の形態は、特に限定されないが水性分散体が好ましい。水性分散体は、乳化重合によって得られる樹脂の場合は、その重合上がり分散体をそのまま使えるほか、界面活性剤などを使って、樹脂粉を水分中に分散したものも使用できる。繊維化しない熱溶融加工性成分は、多孔膜において0.1〜20重量%未満含有されるよう、所定量が水中に分散されて水性分散体が調製される。
【0088】
共凝析の方法では、3つの水性分散体を混合したのち機械的な撹拌力を作用させるのが好ましい。その際、上述の酸、金属塩、有機溶剤等を凝析剤として併用することができる。
共凝析後は、脱水、乾燥を行なって、押出助剤(液状潤滑剤)を混合し、押出を行う。液状潤滑剤の種類、使用量は、第1の実施形態で説明したのと同様である。
共凝析により得られた混合物は、液体潤滑剤と混合された後、従来公知の方法で押出、圧延されることにより、フィルム状物に成形される。押出は、ペースト押出(ST20)、ラム押出等により行えるが、好ましくはペースト押出により行われる。ペースト押出により押し出された棒状の押出物は、加熱下、例えば40℃〜80℃の温度条件の下、カレンダーロール等を用いて圧延される(ST30)。圧延により得られるフィルム状の圧延物の厚さは、目的の多孔膜の厚さに基づいて設定され、通常100〜400μmである。
【0089】
ここで、ペースト押出(ST20)について説明する。
棒状には、シート形状、円柱状(丸棒状ともいう)等、一方向に伸びる形状が挙げられる。棒状の押出物は、シート状であることが好ましい。シート状であると、未焼成フィルム(生テープともいう)に圧延加工したときの形状変化が少なく、均質な生テープを容易に得ることができる。その結果、多孔膜(延伸膜ともいう)に加工した後の物性が均質になり、エアフィルタ用濾材に用いた場合に圧力損失のバラつきの少ない多孔膜を得ることができる。シート形状の押出物は、例えば、ペースト押出装置の先端部に取り付けられたシートダイ(Tダイ)から押し出されることで形成される。ペースト押出装置には、先端部に、内部空間と接続する円形の孔が設けられている。シートダイには、押出口が形成され、押出物が押し出される方向から見て、矩形状に形成されている。例えば、長手方向長さが100〜250mm、短手方向長さが1〜8mmの寸法の押出口を有している。このような形状の押出口から押し出されることにより、押出物は、シート形状になって押し出される。なお、シートダイをペースト押出装置から取り外せば、押出物は、円柱状になって押し出される。
【0090】
圧延を行うステップ(ST30)に戻り、圧延物である未焼成フィルムからは、液体潤滑剤が除去される。液体潤滑剤の除去は、第1の実施形態で説明したのと同様にして行われる。
【0091】
液体潤滑剤が除去された圧延物は、繊維化しない熱溶融加工性成分の融点以上かつ繊維化しない非熱溶融加工性成分の分解温度以下の温度下で延伸される(ST40)。この過程でC成分が溶融し、後に結節部において固まることで、多孔膜の厚み方向の強度が強化される。この時の延伸温度は、延伸を行う炉の温度、又は圧延物を搬送する加熱ローラの温度によって設定されてもよく、或いは、これらの設定を組み合わせることで実現されても良い。長手方向への延伸は、例えば、特開2012−020274号公報の図5に示す装置によって行うことができる。また、幅方向への延伸は、例えば、特開2012−020274号公報の図6に示す装置のうち左半分の部分(テンター)によって行うことができる。
【0092】
延伸は、圧延物の長手方向(MD方向)への延伸と、好ましくは、長手方向と直交する圧延物の幅方向(TD方向)への延伸とを含む。多孔膜をエアフィルタ用濾材に用いる場合は、幅方向への延伸も行うのが好ましい。
前記圧延物は40倍以上150倍未満の伸長面積倍率で延伸される。
長手方向への延伸倍率は、4倍以上10倍未満である。長手方向への延伸速度、延伸温度はそれぞれ、第1の実施形態で説明したのと同じ条件で行われる。
幅方向への延伸倍率は、10倍を超え25倍未満である。幅方向への延伸倍率が10倍以下であると、延伸を良好に行うことができず、均一な多孔膜を得るのが難しくなる。幅方向への延伸速度、延伸温度はそれぞれ、第1の実施形態で説明したのと同じ条件で行われる。幅方向への延伸は、長手方向への延伸と同時又は別に行なってよい。
【0093】
こうして得られた多孔膜は、強度アップや寸法安定性を得るために、好ましくは熱固定される。熱固定の際の温度は、PTFEの融点以上又は未満であってよく、好ましくは250〜400℃である。
【0094】
積層を行うステップ(ST50)では、得られた多孔膜に通気性支持材を積層する。通気性支持材は、上述した不織布、織布、金属メッシュ、樹脂ネット等を用いることができる。積層は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、通気性支持材として不織布等を用いる場合は、通気性支持材13を、多孔膜1に対し、加熱による通気性支持材13の一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融によるアンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等を用いた接着を利用して、接合することができる。このような積層は、例えば、特開2012−020274号公報の図6に示す装置のうち右半分の部分の装置(熱ラミネート装置)によって行うことができる。また、多孔膜同士の積層は、PTFEの融点付近まで加熱して後述する実験16のようにして行われる。
以上のようにしてエアフィルタ用濾材が得られる。
【0095】
上記したエアフィルタ用濾材の製造方法によれば、保塵量が大きく、捕集性能の低下が抑えられた、不純物を発生させないエアフィルタ用濾材が得られる。従来、空気取り込み用HEPAフィルタに利用されるエアフィルタ用濾材の圧力損失としては、80〜140Pa程度の低い値のものが求められていた。しかし、ホモPTFEからなる従来のPTFE多孔膜では、捕集効率は高いものの、膜厚が薄いため、例えば図3に示すような5層構造の濾材を作成しても、保塵量が十分でなかった。そこで、多孔膜の原料として、上述のように、繊維化しない非熱溶融加工性成分(B成分)および繊維化しない熱溶融加工可能な成分(C成分)を含有する成形用材料を用いたことによって、平均繊維径が大きく、膜厚の厚い、従来のPTFE多孔膜とは繊維構造の異なる多孔膜が得られた。しかし、多孔膜の製造時の延伸倍率が高いと、膜厚が薄くなって性能が落ちることが明らかになるとともに、単層の多孔膜では、捕集効率が低いことが分かった。そこで、延伸倍率を小さくするとともに、任意に、多孔膜を複数含む層構造とすることで、性能を低下させることなく低圧力損失でありつつ、保塵量が大幅に向上した、従来にないエアフィルタ用濾材が得られた。
【実施例】
【0096】
以下、実験例を示して、第1の実施形態を具体的に説明する。
実験例1)
国際公開第2005/061567号パンフレットの比較例3に記載の方法に準拠して作製されたSSGが2.160のPTFE水性分散体(PTFE−A)66.5重量%(ポリマー換算)、国際公開第2009/020187号パンフレット記載の方法に準拠して作製された380℃におけるフローテスター法を用いて測定される溶融粘度が、20000Pa・sの低分子量PTFE水性分散体(PTFE−B)28.5重量%(ポリマー換算)、及び特開2010−235667号公報に記載の方法に準拠して作製された融点が215℃のFEP水性分散体5重量%(ポリマー換算)を混合し、凝析剤として1%硝酸アルミニウム水溶液500mlを添加し、攪拌することにより共凝析を行った。そして、生成した粉をふるいを用いて水切りをした後、さらに、熱風乾燥炉で135℃で18時間乾燥し、上記3成分の混合粉末を得た。
【0097】
次いで、混合物100重量部当たり押出液状潤滑剤として炭化水素油(出光興産株式会社製「IPソルベント2028」)を20℃において25重量部を加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出して丸棒形状の成形体を得た。この丸棒形状の成型体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形しPTFEフィルムを得た。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ200μm、平均幅150mmの帯状の未焼成PTFEフィルムを得た。次に、未焼成PTFEフィルムを長手方向に延伸倍率5倍、延伸速度38%/秒で延伸した。延伸温度は300℃であった。次に、延伸した未焼成フィルムを連続クリップできるテンターを用いて幅方向に延伸倍率13.5倍、延伸速度330%/秒で延伸し、熱固定を行った。このときの延伸温度は290℃、熱固定温度は390℃であった。これにより、多孔膜(充填率4.2%)、平均繊維径0.150μm、厚さ38.6μm)を得た。
【0098】
次いで、通気性支持材として、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径24μm、目付40g/m2、厚さ0.2mm)を、得られた多孔膜1の両面に、ラミネート装置を用いて熱融着により接合して、濾材を得た。こうして得られた多孔膜及び濾材の圧力損失、PF値、濾過寿命、膜厚減少速度、粉塵保持容量等の性能を算出した。
【0099】
実験例2)
実験例1において、380℃におけるフローテスター法を用いて測定される溶融粘度が,20000Pa・s(PTFE−B)のPTFE水性分散体に代えて無機フィラー(日本タルク社製「タルクP2」)を用い、また、液体潤滑剤を29重量部用い、幅方向の延伸倍率を20倍に変えた点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0100】
実験
実験例1においてSSGが2.160のPTFE水性分散体(PTFE−A)を用い、繊維化しない非熱溶融加工性成分及び繊維化しない熱溶融加工可能な成分を用いず、液体潤滑材を30重量部用い、幅方向の延伸倍率を24倍に変えた点を除き、実験例1と同様にして、多孔膜及び濾材を得、フィルタ性能を算出した。
【0101】
実験
実験例1において、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を用いず、繊維化し得るPTFE及び繊維化しない非熱溶融加工性成分の配合比を変え(繊維化し得るPTFE70重量%、繊維化しない非熱溶融加工性成分30重量%)、幅方向の延伸倍率を20倍に変えた点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0102】
実験
実験例1において、繊維化しない非熱溶融加工性成分を用いず、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレン及び繊維化しない熱溶融加工可能な成分の配合比率を変え(繊維化し得るPTFE90重量%、繊維化しない熱溶融加工可能な成分10重量%)、幅方向の延伸倍率を20倍に変えた点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0103】
実験
実験例1において、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の含有率が23重量%となるよう各成分の配合比率を変えた点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0104】
実験
実験例1において、延伸温度を繊維化しない熱溶融加工可能な成分の融点以下に変えた点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0105】
実験
実験例1において、繊維化しない熱溶融加工可能な成分として、融点315℃のPFAを用いた点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0106】
実験
実験例1において、繊維化しない熱溶融加工可能な成分として、シリコーン樹脂(ガンマーケミカル社製「G−600」)を用いた点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
以上、実験例1〜についての測定結果を、表1〜2に示す。
【0107】
表1〜表3に示す各種性能は下記要領で測定ないし算出した。
(圧力損失)
1.多孔膜及び濾材の圧力損失
多孔膜1から有効面積を100cm2とした円形状の試験サンプルを取り出し、円筒形状のフィルタ濾材ホルダに試験サンプルをセットし、コンプレッサーで入口側を加圧し、空気の濾材通過速度が5.3cm/秒になるように空気の流れを調整し、試験サンプルの上流側及び下流側でマノメータを用いて圧力を測定し、上下流間の圧力の差を多孔膜1の圧力損失として得た。同様に、同じ多孔膜を用いて作成した濾材を用いて、圧力損失を求めた。
また、多孔膜と濾材との間での圧力損失の変化率(%)を、次式に従って算出した。
変化率(%)=(濾材の圧力損失(Pa)−多孔膜の圧力損失(Pa))/多孔膜の圧力損失(Pa)×100
2.エアフィルタユニットの圧力損失
エアフィルタユニット20を試験用矩形ダクトにセットし、風量を56m/分となるように空気の流れを調整し、エアフィルタユニット20の上流側および下流側でマノメータを用いて圧力を測定し、上下流間の圧力の差をエアフィルタユニット20の圧力損失として得た。なお、エアフィルタユニット20には、610mm(縦) ×610mm(横) ×2
90mm(奥行き)のセパレータ型のものを用いた。
【0108】
(捕集効率)
アトマイザーを用いてNaCl粒子を発生させ、静電分級器(TSI社製)で、0.3μmに分級し、アメリシウム241を用いて粒子帯電を中和した後、透過する流量を5.3cm/秒に調整し、パーティクルカウンター(TSI社製、CNC)を用いて多孔膜1の前後での粒子数を求め、次式により捕集効率を算出した。
捕集効率(%)=(CO/CI)×100
CO=多孔膜1が捕集したNaCl0.3μmの粒子数
CI=多孔膜1に供給されたNaCl0.3μmの粒子数
同じ多孔膜を用いて作成した濾材を用いて、同様に捕集効率を算出した。
【0109】
(PF値)
粒径0.3μmのNaCl粒子を用いて、多孔膜の圧力損失及び捕集効率(NaCl0.3μm)とから、次式に従いPF値を求めた。
PF値=−log(透過率(%)/100)/圧力損失(Pa)×1000
ここで、透過率=100−捕集効率(%)
また、多孔膜と濾材との間でのPF値の変化率(%)を、次式に従って算出した。
変化率(%)=(濾材のPF値−多孔膜のPF値)/多孔膜のPF値×100
同じ多孔膜を用いて作成した濾材を用いて、同様にPF値を求めた。
【0110】
(濾過寿命)
1.多孔膜及び濾材の濾過寿命
多孔膜1にNaCl粒子を連続的に供給して、多孔膜の圧力損失が100Pa増加するまでに供給したNaCl粒子の量(g/m)を測定し、これを多孔膜の寿命とした。用いた多孔膜の有効濾過面積は50cm2であった。圧力損失は上述のようにして測定した。NaCl粒子の量は、本試験により100Pa増加後のサンプル濾材質量から当初の質量を引くことによって求めた。
また、多孔膜と濾材との間での濾過寿命の変化率(%)を、次式に従って算出した。
変化率(%)=(濾材の濾過寿命(g/m)−多孔膜の濾過寿命(g/m))/多孔膜の濾過寿命(g/m)×100
同様に、同じ多孔膜を用いて作成した濾材を用いて、濾過寿命(g/m)を求めた。
2.エアフィルタユニットの濾過寿命
610mm(縦) ×610mm(横) ×290mm(奥行き)のセパレータ型フィルターユニット20を作製し,試験ダクトに装着した。濾材には、プリーツ加工を施し、折込み面積24mのものを用いた。初期の圧力損失が250Pa上昇するまでに捕集した捕集塵埃量(g/m)を、次式に従って算出し、濾過寿命とした。
捕集塵埃量(g/m)=フィルタ重量増加分(g/台)/濾材面積(m/台)
【0111】
(膜厚減少速度)
デジタルリニアゲージ(ミツトヨ社製、LGK−0510)に直径10mm(底面積78.5mm×2)のフラット測定子(パーツNo.101117)を取り付けた測定器を用いて、膜表面に対し垂直方向に圧力6.4kPaを加えた時における膜厚み変化をデータロガーを用いて連続的(0.1Hz)に記録した。記録データから測定子が膜に触れてから0.5秒間の膜厚減少量を測定して、膜厚減少速度(μm/秒)を算出した。
【0112】
(電気使用量、省エネ効果)
下記式に従って、通風に伴う電気使用量として消費電量(kWh)を算出した。圧力損失は、当初の圧力損失の値を用いた。
消費電力(kWh)=風量(m/分) ×圧力損失(Pa) ×通風時間(h)/ファン効率(-)×1000
ここで、ファン効率=0.7
【0113】
また、エアフィルタユニット20を用いた場合の、ガラス繊維の濾材を用いたエアフィルタユニットを用いた場合と比較した省エネ効果(千円/年)を、下記要領に従って算出した。
(a)例えば、圧力損失275Paのガラス繊維のろ材を用いたHEPAフィルタ(セパレータ型)を用いた場合の消費電力は、下記式のように算出する。
消費電力(KWh)=56/60(m/秒) ×275(Pa) ×8760(h)/(0.7(−) ×1000)≒3250KWh
(b)例えば、圧力損失150Paの本発明品(セパレータ型)を用いた場合の消費電力は、下記式のように算出する。
消費電力(KWh)=56/60(m/秒) ×150(Pa) ×8760(h)/(0.7(−)×1000)≒1800KWh
そして、以上より、電気代を14円/KWhと仮定した場合、省エネ効果は、(3250−1800)×14≒20300円/年に相当する、と評価することができる。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
表1及び2から明らかなように、繊維化しない非熱溶融加工性成分及び繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含有しない実験では、通気性支持材のラミネートによって、圧力損失、PF値、濾過寿命がいずれも大きく低下し、フィルタ性能が劣化した。また、膜厚減少速度も大きく、多孔膜の強度は十分ではなかった。
また、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含有しない実験、及び繊維化しない非熱溶融加工性成分を含有しない実験は、実験例1と同程度の充填率の多孔膜を作製できたが、実験と同様に、圧力損失等が大きく低下し、フィルタ性能が劣化した。また、膜厚減少速度も大きく、多孔膜の強度は十分ではなかった。
【0117】
さらに、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の含有率が20重量%以上である実験では、多孔膜を作成できなかった。
【0118】
これに対し、実験例1,2,8,9では、圧力損失、PF値、濾過寿命の変化は小さく、フィルタ性能の劣化は抑えられていた。また、膜厚減少速度も小さく、多孔膜の強度は大きく改善されていた。
【0119】
実験10〜12
実験例1で作製した濾材を用いてセパレータ型エアフィルタユニットを作製し(実験10),従来の濾材を用いて作成したエアフィルタユニット(実験11及び12)と圧力損失、寿命を比較した。
実験10のエアフィルタユニットは、各濾材を、ロータリ式折り機で長手方向に260mmごとに山折り、谷折りになるようにプリーツ加工を行い、ジグザグ形状の加工済み濾材を作った。そして、アルミニウム板をコルゲート加工したセパレータを濾材の谷部に挿入し、縦590mm×横590mmのフィルタパックを得た。プリーツ数は160(80山)であった。得られたフィルタパックを外寸610mm(縦) ×610mm(横) ×290mm(奥行き)のアルミニウム製の枠体に固定した。フィルタパックの周囲をウレタン接着剤で枠体と接着し、エアフィルタユニットの圧力損失、濾過寿命、電気使用量、省エネ効果を算出した。
【0120】
実験11では、濾材およびセパレータに代えてガラス繊維からなるHEPAフィルタ濾材を枠体の内側に収容した点を除き、実験10と同様にして、加工し評価した。ガラス繊維の平均繊維径は約0.5μmであった。
実験12では、濾材として、通常のPTFEのHEPAフィルタろ材(平均繊維径約70nm)の上流側に、メルトブローン法により得られたポリプロピレンからなるプレ捕集層を積層したHEPAフィルタを用いた点を除き、実験10と同様にして、加工し評価した。このプレ捕集層の平均繊維径は約1.1μmであった。
以上、実験10〜12についての測定結果を、表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
表3から明らかな様に本発明に従って作製した濾材は,ガラス濾材に比べて圧力損失が低いばかりでなく,従来のPTFE濾材の課題であったダスト保持量(濾過寿命)でも大幅に改善しガラス濾材とほぼ同等となり,低圧損で長寿命なフィルタを作製できた。その結果従来の濾材(実験11及び12)に比べて大幅な省エネを達成できた。
【0123】
次に、実験例を示して、第2の実施形態を具体的に説明する。
実験例1
SSGが2.160のPTFE水性分散体(PTFE−A)66.5重量%(ポリマー換算)、380℃におけるフローテスター法を用いて測定される溶融粘度が20000Pa・sの低分子量PTFE水性分散体(PTFE−B)28.5重量%(ポリマー換算)、及び融点が215℃のFEP水性分散体5重量%(ポリマー換算)、を混合し、凝析剤として1%硝酸アルミニウム水溶液500mlを添加し、攪拌することにより共凝析を行った。そして、生成した粉をふるいを用いて水切りをした後、さらに、熱風乾燥炉で135℃で18時間乾燥し、上記3成分の混合粉末を得た。
【0124】
次いで、混合粉末100重量部あたり、押出液状潤滑剤として炭化水素油(出光興産社製「IPソルベント2028」)を20℃において32重量部を加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出してシート形状の成形体を得た。ペースト押出装置の先端部には、短手方向長さ2mm×長手方向長さ150mmの矩形状の押出口が形成されたシートダイを取り付けた。このシート形状の成形体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形しPTFEフィルムを得た。このフィルムを200℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ300μm、平均幅150mmの帯状の未焼成PTFEフィルムを得た。次に、未焼成PTFEフィルムを長手方向に延伸倍率5倍、延伸速度40%/秒で延伸した。延伸温度は300℃であった。次に、延伸した未焼成フィルムを、連続クリップできるテンターを用いて幅方向に延伸倍率13.5倍、延伸速度162%/秒で延伸し、熱固定を行った。このときの延伸温度は290℃、熱固定温度は390℃であった。これにより、多孔膜(充填率4.0%)、平均繊維径0.105μm、厚さ55.0μm)を得た。
【0125】
次いで、通気性支持材として、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(ユニチカ社製「エルベスS0303WDO」(平均繊維径24μm、目付30g/m2、厚さ0.15mm)を用い、得られた多孔膜1の2層と、上記不織布の3層と、を交互にラミネート装置を用いて熱融着により積層して図5に示すのと同様の5層構造の濾材を得た。こうして得られた濾材の圧力損失、捕集効率、保塵量を測定した。また、液体粒子負荷時の捕集効率の変化も測定した。濾材の保塵量(PAO)は24.0g/m、保塵量(NaCl)は4.5g/mであった。
【0126】
実験例1
テンターを用いて幅方向に延伸倍率15倍、延伸速度180%/秒で延伸した点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0127】
実験例1
未焼成フィルムを長手方向に延伸倍率7.5倍、延伸速度125%/秒で延伸し、テンターを用いて幅方向に延伸倍率15倍、延伸速度180%/秒で延伸した点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0128】
実験例1
実験例1の未焼成フィルムと同様にして作成した未焼成PTFEフィルムを2層に重ねて、長手方向に延伸倍率7.5倍、延伸速度125%/秒で延伸した。延伸温度は300℃であった。次に、延伸した未焼成フィルムを、連続クリップできるテンターを用いて幅方向に延伸倍率15倍、延伸速度180%/秒で延伸し、熱固定を行った。このときの延伸温度は290℃、熱固定温度は390℃であった。そして、得られた2層の多孔膜の両側(外層側)に、実験例1で用いた通気性支持材をラミネート装置を用いて熱融着により接合して、図6に示す4層構造の濾材を得た。得られた濾材につき、実験例1と同様にして評価した。
【0129】
実験例1
テンターを用いて幅方向に延伸倍率28倍、延伸速度347%/秒で延伸した点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0130】
実験例1
実験例1においてSSGが2.160のPTFE水性分散体(PTFE−A)を用い、繊維化しない熱溶融加工可能な成分及び繊維化しない非熱溶融加工性成分を用いず、押出液状潤滑剤32重量部を加えて混合し、テンターを用いて幅方向に延伸倍率24倍、延伸速度298%/秒で延伸した点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0131】
実験例1
実験例1において、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を用いず、繊維化し得るPTFE及び繊維化しない非熱溶融加工性成分の配合比を変え(SSGが2.160のPTFE水性分散体(PTFE−A)70重量%(ポリマー換算)、380℃におけるフローテスター法を用いて測定される溶融粘度が20000Pa・sの低分子量PTFE水性分散体(PTFE−B)30重量%(ポリマー換算))、テンターを用いて幅方向に延伸倍率20倍、延伸速度248%/秒で延伸した点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0132】
実験20
実験例1において、繊維化しない非熱溶融加工性成分を用いず、繊維化し得るPTFE及び繊維化しない熱溶融加工可能な成分の配合比を変え(SSGが2.160のPTFE水性分散体(PTFE−A)90重量%(ポリマー換算)、融点が215℃のFEP水性分散体10重量%(ポリマー換算))、テンターを用いて幅方向に延伸倍率20倍、延伸速度248%/秒で延伸した点を除き、実験例1と同様にして、加工し評価した。
【0133】
実験21
濾材として、HEPA用ガラス濾材(H&V社製「HB−7633」)を用い、性能を評価した。濾材の保塵量(PAO)25.0g/m、保塵量(NaCl)5.3g/mであった。なお、表4において、実験21の原料成分、作成条件、多孔膜の欄は記載を省略する。
以上、実験例121についての測定結果を、表4および表5に示す。
【0134】
なお、表4および表5に示す各種性能は下記要領で測定ないし算出した。
【0135】
(充填率)
次式に従って、多孔膜の充填率を求めた。
充填率(%)=(多孔膜の比重)/(原料の比重)×100
多孔膜の比重=(多孔膜の重量)/(多孔膜の膜厚×多孔膜の面積)
なお、原料の比重は、複数の成分からなる混合原料である場合は、各成分の比重に各成分の重量比を乗じたものの和を重量比の和で除した値とした。
【0136】
(平均繊維経)
多孔膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影し、得られた写真から10ヶ所以上の繊維径を測定して、その測定値の平均を算出することにより求めた。
【0137】
(平均孔径)
ASTM F316−86の記載に準じて測定される平均孔径(mean flow pore size)を多孔膜の平均孔径とした。実際の測定は、コールターポロメータ(Coulter Porometer)[コールター・エレクトロニクス(Coulter Electronics)社(英国)製]で測定を行った。
【0138】
(膜厚)
膜厚計(1D−110MH型、ミツトヨ社製)を使用し、多孔膜を5枚重ねて全体の膜圧を測定し、その値を5で割った数値を多孔膜1枚の膜厚とした。この膜厚は、1枚の多孔膜全体についての膜厚(平均膜厚)である。
【0139】
(圧力損失)
濾材の測定サンプルを、直径100mmのフィルタホルダにセットし、コンプレッサで入口側を加圧し、流速計で空気の透過する流量を5.3cm/秒に調整した。そして、この時の圧力損失をマノメータで測定した。
【0140】
(捕集効率(粒径0.3μmのNaCl粒子))
JIS B9928 附属書5(規定)NaClエアロゾルの発生方法(加圧噴霧法)記載の方法に準じて、アトマイザーで発生させたNaCl粒子を、静電分級器(TSI社製)で、粒径0.3μmに分級し、アメリシウム241を用いて粒子帯電を中和した後、透過する流量を5.3cm/秒に調整し、パーティクルカウンター(TSI社製、CNC)を用いて、測定試料である濾材の前後での粒子数を求め、次式により捕集効率を算出した。
捕集効率(%)=(CO/CI)×100
CO=測定試料が捕集したNaCl 0.3μmの粒子数
CI=測定試料に供給されたNaCl 0.3μmの粒子数
【0141】
(捕集効率(粒径0.1μmのNaCl粒子))
粒径0.3μmのNaCl粒子に代えて、粒径0.1μmのNaCl粒子を用いた点を除き、上記の粒径0.3μmのNaCl粒子による捕集効率を算出するのと同様にして、捕集効率を算出した。
【0142】
(PF値(粒径0.3μmのNaCl粒子))
上記濾材の圧力損失及び捕集効率(NaCl 0.3μm)を、次式に代入することによりPF値を求めた。
PF値(粒径0.3μmのNaCl粒子)=−log(透過率(%)/100)/圧力損失(Pa)×1000
ここで、透過率=100−捕集効率(%)
【0143】
(PF値(粒径0.1μmのNaCl粒子))
捕集効率(粒径0.3μmのNaCl粒子)に代えて、上記の捕集効率(粒径0.1μmのNaCl粒子)を用いた点を除き、PF値(粒径0.3μmのNaCl粒子)を求めるのと同様にしてPF値を求めた。
【0144】
(保塵量 ポリアルファオレフィン(PAO)(液体粒子))
PAO粒子透過時の圧力損失上昇試験で評価した。即ち、PAO粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したときの圧力損失を差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失が250Pa上昇したときに、濾材に保持されているPAO粒子の濾材の単位面積当たりの重量である保塵量(g/m2)を求めた。なお、PAO粒子は、ラスキンノズルで発生させたPAO粒子(個数中位径0.25μm)を用い、PAO粒子の濃度は、約100万〜600万個/cm3とした。
HEPA濾材に関して、保塵量の定義がないが、フィルタの初期圧力損失は一般的にHEPAユニットでは約250Pa以下とされており、フィルタの交換時期としては、一般的にフィルタの初期圧力損失の2倍を超えた時点が推奨されている。また、標準的なHEPA用ガラス濾材の初期圧力損失は約250〜300Paである。そのため、濾材の保塵量評価のための上記試験の終点を、圧力損失が250Pa上昇した時点とした。
【0145】
(保塵量 NaCl(固体粒子))
NaCl粒子透過時の圧力損失上昇試験で評価した。即ち、NaCl粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したときの圧力損失を差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失が250Pa上昇したときに、濾材に保持されているNaCl粒子の濾材の単位面積当たりの重量である保塵量(g/m2)を求めた。なお、NaCl粒子は、ラスキンノズルで発生させたNaCl粒子(個数中位径0.05μm)を用い、NaCl粒子の濃度は、約100万〜300万個/cm3とした。
【0146】
(変動係数)
ロール状に巻き取られた長尺の濾材(幅方向長さ650mm)から、先端部を含む5m程度の部分を引き出し、濾材の長手方向に200mmごとに25個に分割しかつ幅方向に両端部を除き130mmごとに4個に分割してなる格子状の100箇所について直径100mmのフィルタホルダを用いて圧力損失を測定した。ここでの圧力損失の測定は、濾材の幅方向に5個以上のフィルタホルダを備える測定装置を用いて、上記濾材を長手方向に移動させて複数の格子状の箇所について連続して測定することにより行った。次いで、これら測定した圧力損失からなる圧力損失分布から標準偏差を求め、求めた標準偏差を、測定した全ての箇所の圧力損失の平均値で割ることにより、変動係数(%)を求めた。
【0147】
(延伸速度(%/秒))
延伸前の延伸方向の長さL0、延伸後の延伸方向の長さL1としたときに、次式に従って算出される延伸倍率(%)を、その延伸に要した時間T(秒)で除して求めた。
延伸倍率(%)=L1/L0×100
延伸速度(%/秒)=延伸倍率(%)/延伸するに要した時間T(秒)
【0148】
なお、表4および表5において、「原料」は多孔膜の原料であり、「共凝析品」は、上述の繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320度未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、からなる成形用材料を表し、「ホモPTFE」は、上記従来のPTFE多孔膜を作製するためのホモPTFEを表す。
「長手延伸倍率」の欄の倍率を示す数値の後に「×2」の表記がある場合は、長手方向延伸時に未焼成フィルムを2枚重ねて当該延伸倍率で延伸したことを表す。
「層構造」の欄に示す数字は、層数を表し、層数が5の場合に、「長手延伸倍率」の欄の数値が一つだけの場合、同じ延伸倍率の多孔膜が2枚用いられていることを表す。
「測定限界」との表記は、測定できる上限値を超えていたことを表す。
【0149】
【表4】
【0150】
【表5】
【0151】
表4および5から分かるように、実験17では、幅方向の延伸倍率が25倍を超え大きく、延伸速度が速かったため、多孔膜が薄すぎ、繊維径が小さいため、PAOでの保塵量が低かった。
実験18のホモPTFEを原料とした濾材では、細い繊維の発生が抑制されず圧力損失が高かった。また、膜厚が薄く、保塵量も低かった。
実験19の繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含有しない原料を用いた濾材では、保塵量が低かった。これは、熱溶融加工可能な成分が無いことにより、後工程で膜が圧縮され、濾材での保塵量が低下していると考えられる。
実験20の繊維化しない非熱溶融加工性成分を含有しない原料を用いた濾材では、保塵量が低かった。これは、繊維化しない非熱溶融加工性成分が無いことにより、細い繊維の発生の抑制が十分でなく、濾材での保塵量が低下していると考えられる。
【0153】
以上、本発明の組成物、混合粉末、および成形材料について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0154】
1 多孔膜
3 フィブリル
5 結節部
9,10,11 エアフィルタ用濾材
13 通気性支持材
20,30 エアフィルタユニット
24,34 枠体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8