特許第6197861号(P6197861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197861
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20170911BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20170911BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20170911BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20170911BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20170911BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170911BHJP
【FI】
   H01M4/90 M
   H01M4/92
   H01M4/86 M
   B01J23/89 M
   B01J37/16
   B01J35/08 B
   B01J37/04 102
   H01M4/86 B
   H01M4/88 K
   !H01M8/10
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-501366(P2015-501366)
(86)(22)【出願日】2014年1月22日
(86)【国際出願番号】JP2014051199
(87)【国際公開番号】WO2014129253
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2015年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-34297(P2013-34297)
(32)【優先日】2013年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】在原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕行
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−108380(JP,A)
【文献】 特表2010−501344(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/108162(WO,A1)
【文献】 特開2005−251455(JP,A)
【文献】 特開2008−153192(JP,A)
【文献】 特開2012−041581(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0062929(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/92
H01M 8/10
B01J 23/89
B01J 35/08
B01J 37/04
B01J 37/16
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属以外の金属、及び貴金属以外の金属と貴金属との合金のいずれか一方からなり、平均粒子径が2nm〜5.5nmの金属粒子と、
前記金属粒子の表面に設けられ、白金からなり、厚さが1nm〜3.2nmであり、貴金属の単原子層が複数積層した層状構造を形成している貴金属層と、
を備え、
前記貴金属層は前記金属粒子の表面の少なくとも60%以上を被覆しており、
(前記貴金属層の平均厚さ)/(前記金属粒子の平均直径)が0.36〜0.6の範囲内にあることを特徴とする燃料電池用触媒粒子。
【請求項2】
前記金属粒子における貴金属は、白金、パラジウム、金、イリジウム、ルテニウム及び銀からなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記金属粒子における貴金属以外の金属は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン及びタンタルからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒粒子。
【請求項3】
前記金属粒子における貴金属以外の金属は、ニッケルであることを特徴とする請求項に記載の燃料電池用触媒粒子。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒粒子と、
前記燃料電池用触媒粒子を担持する導電性担体と、
を備えることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
貴金属以外の金属の塩又は貴金属以外の金属の錯体を溶媒中に分散させることにより、前記貴金属以外の金属の濃度が2.5mM以下の前駆体溶液を調製した後、前記前駆体溶液に還元剤を添加することにより、金属粒子分散液を調製する工程と、
前記金属粒子分散液に、貴金属塩又は貴金属錯体を添加することにより、金属粒子の表面に貴金属層を形成する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用触媒粒子の製造方法。
【請求項6】
前記貴金属層を形成する工程で前記金属粒子分散液に添加される前記貴金属塩又は貴金属錯体は、白金、パラジウム、金、イリジウム、ルテニウム及び銀からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項に記載の燃料電池用触媒粒子の製造方法。
【請求項7】
前記貴金属層を形成する工程で前記金属粒子分散液に添加される前記貴金属塩又は貴金属錯体は、前記貴金属塩又は貴金属錯体を構成する貴金属元素が白金からなることを特徴とする請求項に記載の燃料電池用触媒粒子の製造方法。
【請求項8】
前記金属粒子分散液を調製する工程で溶媒中に分散される前記貴金属以外の金属の塩又は貴金属以外の金属の錯体は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン及びタンタルからなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項乃至のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒粒子の製造方法。
【請求項9】
前記金属粒子分散液中の、貴金属のモル数に対する貴金属以外の金属のモル数の比率([貴金属以外の金属のモル数]/[貴金属のモル数])が3.2〜11であることを特徴とする請求項乃至のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒粒子及びその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、優れた発電性能を実現し得る燃料電池用触媒粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、発電機能を発揮する複数の単セルが積層された構造を有する。当該単セルは、通常、高分子電解質膜及びこれを挟持する一対の電極触媒層を含む膜電極接合体を備えている。そして、個々の単セルにおける膜電極接合体は、セパレータを介して隣接する他の単セルの膜電極接合体と電気的に接続される。このようにして単セルが積層され、接続されることにより燃料電池スタックが構成される。そして、この燃料電池スタックは、種々の用途に使用可能な発電手段として機能することができる。
【0003】
固体高分子形燃料電池の発電メカニズムを簡単に説明する。固体高分子形燃料電池の運転時には、単セルのアノード側に燃料ガス(例えば水素ガス)が供給され、カソード側に酸化剤ガス(例えば大気、酸素)が供給される。その結果、アノード及びカソードのそれぞれにおいて、下記反応式(I)及び(II)で表される電気化学反応が進行し、電気が生み出される。
【0004】
→2H+2e …(I)
2H+2e+(1/2)O→HO …(II)
【0005】
ここで、発電性能を向上させるためには、電極触媒層における触媒活性の向上が特に重要となる。従来、電極触媒層における触媒として、粒子状の下地層と当該下地層上に形成された白金層とを有し、白金層の厚みが0.4nm以上1nm未満である触媒が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−45583号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、本発明者等が検討した結果、特許文献1に記載の触媒では触媒活性が依然として不十分だという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、貴金属量を低減した場合であっても、触媒活性に優れた燃料電池用触媒粒子及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の第1の態様に係る燃料電池用触媒粒子は、貴金属以外の金属、及び貴金属以外の金属と貴金属との合金のいずれか一方からなり、平均粒子径が2nm〜5.5nmの金属粒子と、前記金属粒子の表面に設けられ、白金からなり、厚さが1nm〜3.2nmであり、貴金属の単原子層が複数積層した層状構造を形成している貴金属層と、を備え、前記貴金属層は前記金属粒子の表面の少なくとも60%以上を被覆しており、(前記貴金属層の平均厚さ)/(前記金属粒子の平均直径)が0.36〜0.6の範囲内にある。
【0010】
本発明の第2の態様に係る燃料電池用触媒粒子の製造方法は、貴金属以外の金属の塩又は貴金属以外の金属の錯体を溶媒中に分散させることにより、前記貴金属以外の金属の濃度が2.5mM以下の前駆体溶液を調製した後、前記前駆体溶液に還元剤を添加することにより、金属粒子分散液を調製する工程と、前記金属粒子分散液に、貴金属塩又は貴金属錯体を添加することにより、金属粒子の表面に貴金属層を形成する工程と、を有する。

【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池用触媒粒子を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池のスタックの概略を示す斜視図である。
図3図3は、上記燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。
図4図4は、実施例1における、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDX)のライン分析結果を示す図である。
図5図5は、質量比活性の測定方法を説明するためのグラフである。
図6図6は、実施例における、貴金属層の厚さと質量比活性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る燃料電池用触媒粒子及びその製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
[燃料電池用触媒粒子]
本発明の実施形態に係る燃料電池用触媒粒子1(以下、単に触媒粒子ともいう。)は、図1に示すように、金属粒子2と、金属粒子2の表面に設けられる貴金属層3とを備えている。そして、触媒粒子1は、貴金属層3の厚さが1〜3.2nmであることを特徴とする。
【0014】
本実施形態の触媒粒子1は、従来と比較し、貴金属層3が厚く形成されている。つまり、貴金属層3の表面では、上記反応式(I)及び(II)で表される電気化学反応が進行するため、貴金属層3の厚さを上述の範囲に最適化することにより、触媒粒子の単位貴金属質量当たりの活性(質量比活性)を向上させることが可能となる。
【0015】
貴金属層3は、上記電気化学反応を促進する観点から、少なくとも貴金属を含有している必要がある。具体的には、貴金属層3は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、及び銀(Ag)からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有していることが好ましい。また、貴金属層3は、少なくとも白金(Pt)を含有していることがより好ましい。白金は、酸性媒体中でも溶解しにくく、しかも触媒活性に優れているため、貴金属層3の材料として特に好ましい。
【0016】
貴金属層3は、上記貴金属を主成分とすることが好ましい。つまり、貴金属層3における貴金属の含有量は50mol%以上であることが好ましい。ただ、貴金属層3の表面における触媒活性を向上させる観点から、貴金属以外の元素を含有しても構わない。具体的には、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びタンタル(Ta)からなる群から選ばれる少なくとも一つが含まれていてもよい。なお、貴金属層3における貴金属の含有量は80mol%以上がより好ましく、90mol%以上がさらに好ましく、100mol%が特に好ましい。
【0017】
なお、貴金属層3の厚さは、1nm〜3.2nmである必要がある。この範囲であることにより、後述する実施例で示すように、触媒活性に優れた触媒粒子を得ることが可能となる。また、貴金属層3の厚さは、1.9nm〜2.4nmであることが特に好ましい。この範囲であることにより、貴金属量を低減しつつも触媒活性が特に優れた触媒粒子を得ることが可能となる。なお、貴金属層3の厚さ及び後述する金属粒子2の粒子径は、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDX)のライン分析により算出することが可能である。
【0018】
貴金属層3は、貴金属の単原子層が複数積層した層状構造を形成していることが好ましい。このような層状構造を有していることにより、貴金属層の最表面構造が最適化され、質量比活性をより向上させることが可能となる。
【0019】
金属粒子2は、貴金属以外の金属、及び貴金属以外の金属と貴金属との合金のいずれか一方からなることを特徴とする。触媒粒子のコアを形成する金属粒子がこのような貴金属以外の金属を含有することにより、貴金属使用量を低減しつつも、反応ガスに対する高い触媒活性を維持することが可能となる。
【0020】
金属粒子2において、貴金属以外の金属としては遷移金属を用いることが好ましい。具体的には、金属粒子2は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びタンタル(Ta)からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することが好ましい。金属粒子2としてこのような金属を用いることにより、貴金属使用量を低減しつつも質量比活性をより向上させることができる。また、このような金属を使用することにより、面積比活性と活性維持率を両立することが可能となる。
【0021】
このように、金属粒子としては、貴金属以外の金属からなる粒子を使用することができるが、貴金属以外の金属と貴金属との合金も使用することができる。金属粒子2としてこのような合金を用いることにより、触媒粒子の単位面積当たりの活性(面積比活性)を高い状態に維持することができる。さらに、触媒粒子の活性維持率(触媒粒子を用いた燃料電池を初めて駆動させたときの触媒活性に対する、一定時間の経過後における触媒活性の比)も高い状態に維持することができる。
【0022】
合金を形成するための貴金属以外の金属としては、遷移金属を用いることが好ましい。具体的には、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びタンタル(Ta)からなる群から選ばれる少なくとも一つを使用することが好ましい。また、合金を形成するための貴金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及び銀(Ag)からなる群から選ばれる少なくとも一つを使用することが好ましい。
【0023】
なお、金属粒子2は、上述の貴金属以外の金属を主成分とすることが好ましい。つまり、金属粒子2における貴金属以外の金属の含有量は50mol%以上であることが好ましい。なお、金属粒子2における貴金属以外の金属の含有量は80mol%以上がより好ましく、90mol%以上がさらに好ましい。
【0024】
金属粒子2の粒子径は、2nm〜5.5nmであることが好ましい。触媒粒子のコアとしてこのような微細な粒子を用いることにより、周囲を被覆する貴金属層3の比表面積が増加し、質量比活性を向上させることが可能となる。
【0025】
貴金属層3は、金属粒子2の表面の全体を覆っていることが最も好ましい。ただ、貴金属層3の表面積を増やし、三相界面(電解質−触媒粒子−反応ガス)を増大させる観点から、貴金属層3は金属粒子2の表面の少なくとも60%以上を被覆していることが好ましい。また、貴金属層3は、金属粒子2の表面の80%以上を被覆していることがより好ましく、90%以上を被覆していることがさらに好ましい。
【0026】
このように、本実施形態の触媒粒子は、貴金属以外の金属を含有する金属粒子と、金属粒子の表面に設けられ、厚さが1nm〜3.2nmである貴金属層とを備えている。このような構成により、貴金属層の最表面構造が最適化され、貴金属使用量を低減しつつも質量比活性をより向上させることが可能となる。なお、本実施形態の触媒粒子を燃料電池の電極触媒層に使用する場合には、導電性担体に担持させることが好ましい。
【0027】
[燃料電池用触媒粒子の製造方法]
次に、本実施形態の燃料電池用触媒粒子の製造方法について説明する。
【0028】
本実施形態の燃料電池用触媒粒子の製造方法は、まず、貴金属以外の金属の塩又は貴金属以外の金属の錯体を溶媒中に分散させることにより、前駆体溶液を調製した後、前駆体溶液に還元剤を添加することにより、金属粒子分散液を調製する。次に、金属粒子分散液に、貴金属塩又は貴金属錯体を添加することにより、金属粒子の表面に貴金属層を形成する。これにより、上述の触媒粒子を得ることが可能となる。
【0029】
具体的には、まず、金属粒子2を構成する貴金属以外の金属の塩又は錯体を溶媒中に分散させ、貴金属以外の金属が溶解した前駆体溶液を作成する。なお、貴金属以外の金属の塩又は貴金属以外の金属の錯体は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びタンタル(Ta)からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0030】
ここで、貴金属以外の金属の塩又は錯体としては、貴金属以外の金属の硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、臭化物及び塩化物などのハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸などの無機塩類、スルファミン酸塩、ギ酸塩などのカルボン酸塩、水酸化物、アルコキサイド、酸化物、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを用いることができる。つまり、貴金属以外の金属が、純水などの溶媒中で金属イオンになれる化合物が好ましく挙げられる。これらのうち、貴金属以外の金属の塩又は錯体としては、ハロゲン化物(特に塩化物)や硫酸塩、硝酸塩がより好ましい。なお、溶媒としては、純水を使用することができる。
【0031】
次に、貴金属以外の金属が溶解した前駆体溶液に還元剤を添加し、貴金属以外の金属を析出させることにより、微細な金属粒子が分散した金属粒子分散液を調製する。還元剤としては、エタノール、メタノール、プロパノール、ギ酸、ギ酸ナトリウムやギ酸カリウムなどのギ酸塩、ホルムアルデヒド、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)及びヒドラジン(N)などが使用できる。この際、還元剤の添加量は、当該金属を十分還元して微細な金属粒子を調製できる量であれば特に制限されないが、例えば、貴金属以外の金属のモル数に対し、1〜200倍モルの還元剤を投入することが好ましい。
【0032】
なお、上記前駆体溶液における貴金属以外の金属の濃度は、2.5mM以下であることが好ましい。金属の濃度を2.5mM以下にすることにより、金属粒子分散液中で微細な金属粒子の凝集を抑制することが可能となる。
【0033】
次に、金属粒子分散液に、貴金属塩又は貴金属錯体を添加することにより、金属粒子の表面に貴金属層を形成する。つまり、金属粒子分散液に貴金属塩を添加することにより、分散液に貴金属塩が溶解し、生成した貴金属イオンが分散液中の金属粒子から電子を受け取る。その結果、金属粒子の表面で貴金属イオンが還元され、貴金属層が析出する。
【0034】
なお、貴金属塩又は貴金属錯体は、白金、パラジウム、金、イリジウム、ルテニウム及び銀からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することが好ましい。また、上述のように、貴金属層は少なくとも白金を含有していることが好ましいことから、貴金属塩又は貴金属錯体は、少なくとも白金を含有することが好ましい。
【0035】
このような貴金属塩又は貴金属錯体としては、貴金属の硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、臭化物及び塩化物などのハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸などの無機塩類、スルファミン酸塩、ギ酸塩などのカルボン酸塩、水酸化物、アルコキサイド、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを使用することができる。これらのうち、貴金属の塩または錯体としては、アンミン錯体やハロゲノ錯体がより好ましい。
【0036】
なお、金属粒子分散液に貴金属錯体を添加した場合には、金属粒子の金属と貴金属錯体の貴金属イオンの置換反応が進行する。その結果、金属粒子中に貴金属イオンが侵入し、金属粒子として、貴金属以外の金属と貴金属との合金からなる粒子が生成する。また、上記置換反応と同時に、金属粒子の表面で貴金属イオンの還元反応が進行し、貴金属層が析出する。これにより、貴金属以外の金属と貴金属との合金からなる金属粒子の表面に貴金属層を備えた触媒粒子を得ることができる。
【0037】
触媒粒子を調製する際、貴金属のモル数に対する貴金属以外の金属のモル数の比率([貴金属以外の金属のモル数]/[貴金属のモル数])が3.2〜11となるように、貴金属以外の金属及び貴金属の原料を混合することが好ましい。このような混合比とすることにより、貴金属層の膜厚を1nm〜3.2nmに容易に制御することが可能となる。
【0038】
上述のようにして得られた触媒粒子を単離する場合には、触媒粒子を濾過し、乾燥すればよい。また、得られた触媒粒子を後述する導電性担体に担持する場合には、まず、触媒粒子の分散液中に導電性担体を投入し、攪拌することにより、導電性担体上に触媒粒子を吸着させる。その後、触媒粒子が吸着した導電性担体を濾過及び乾燥させることにより、導電性担体に触媒粒子が分散した電極触媒を得ることができる。なお、触媒粒子及び電極触媒の乾燥は、空気中で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば室温(25℃)〜100℃程度の範囲で行うことができる。
【0039】
[燃料電池]
次に、本実施形態に係る燃料電池用触媒粒子を用いた燃料電池について説明する。図2では、本発明の実施形態に係る燃料電池の代表例である固体高分子形燃料電池のスタックの概略を示している。また、図3は、当該固体高分子形燃料電池の基本構成を模式的に示している。
【0040】
図2に示すように、本実施形態において、燃料電池100は、膜電極接合体10と、膜電極接合体10を挟持する一対のガス拡散層(GDL)20とを有する。さらに、燃料電池100は、膜電極接合体10及びガス拡散層20を挟持する一対のセパレータ30を有する。
【0041】
燃料電池において、膜電極接合体は発電機能を発揮し、ガス拡散層は供給ガスを分散させる。そして、セパレータは、アノード及びカソードに供給される燃料ガス及び酸化剤ガスを分離すると共に、隣接する膜電極接合体同士を電気的に接続する。このようにして膜電極接合体が積層及び接続されることにより、燃料電池が構成される。
【0042】
なお、燃料電池では、その周囲であって、セパレータと後述する固体高分子電解質膜との間や、膜電極接合体とこれと隣接する他の膜電極接合体との間にガスシール部材が配置される。しかし、図2図3では、ガスシール部材の記載を省略する。また、燃料電池では、スタックを形成した際に各セルを連結するための連結手段として機能するマニホールド部材が配置される。しかし、図2では、マニホールド部材の記載を省略する。
【0043】
図3に示すように、本実施形態において、膜電極接合体10は、高分子電解質膜11と、これを挟持する一対の電極触媒層13(アノード電極触媒層13a、カソード電極触媒層13c)とを有する。また、膜電極接合体10は、一対のガス拡散層20(アノードガス拡散層20a、カソードガス拡散層20c)で挟持されている。さらに、膜電極接合体10及びガス拡散層20は、一対のセパレータ30(アノードセパレータ30a、カソードセパレータ30c)で挟持されている。
【0044】
セパレータ30は、図3に示すような凹凸状の形状を有する。アノードセパレータ30a及びカソードセパレータ30cの膜電極接合体10側から見た凸部はガス拡散層20と接触している。これにより、膜電極接合体10との電気的な接続が確保される。さらに、アノードセパレータ30a及びカソードセパレータ30cを膜電極接合体10側から見た場合、セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータ30とガス拡散層20との間の空間として凹部が形成されている。そして、この凹部は、燃料電池100の運転時にガスを流通させるためのガス流路(GPa、GPc)として機能する。
【0045】
具体的には、アノードセパレータ30aのガス流路GPaには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ30cのガス流路GPcには酸化剤ガス(例えば、酸素、空気など)を流通させる。一方、アノードセパレータ30a及びカソードセパレータ30cの膜電極接合体10側とは反対の側から見た凹部は、燃料電池100の運転時に燃料電池を冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路CPとして機能する。なお、本実施形態において、上記電極触媒層のみからなるものや、上記ガス拡散層上に電極触媒層を形成してなるものを燃料電池用電極と称する。
【0046】
<高分子電解質膜>
高分子電解質膜11は、燃料電池100の運転時にアノード電極触媒層13aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード電極触媒層13cへと選択的に透過させる機能を有する。また、高分子電解質膜11は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0047】
高分子電解質膜11は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、NAFION(登録商標、デュポン株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成ケミカルズ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー;パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー;トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー;エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー;エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体;ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。特に好ましくは、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
【0048】
また、炭化水素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、且つ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料に限定されるものではなく、その他の材料を用いることもできる。
【0049】
高分子電解質膜の厚みは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。高分子電解質膜の厚みは、通常は5〜300μmである。高分子電解質膜の厚みがこのような数値範囲内であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスを適切に制御することができる。
【0050】
<電極触媒層>
電極触媒層(アノード電極触媒層13a、カソード電極触媒層13c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード電極触媒層13aでは水素の酸化反応が進行し、カソード電極触媒層13cでは酸素の還元反応が進行する。そして、本実施形態の電極触媒層は少なくとも上述の燃料電池用触媒粒子を含有し、さらに上記燃料電池用触媒粒子は担体に担持されている。また、電極触媒層は、プロトン伝導性を向上させるために、プロトン伝導材を含有している。
【0051】
(触媒粒子)
本実施形態に係るアノード電極触媒層13a及びカソード電極触媒層13cの少なくとも一方は、上述の燃料電池用触媒粒子を担体に担持させてなる燃料電池用電極触媒を含有している。ただ、アノード電極触媒層13aに関し、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば、従来公知の他の触媒粒子を含有してもよい。同様に、カソード電極触媒層13cに関し、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば、従来公知の他の触媒粒子を含有してもよい。
【0052】
他の触媒粒子の具体例としては、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、これらの任意の組み合わせに係る混合物や合金などを挙げることができる。なお、アノード電極触媒層及びカソード電極触媒層に含有される他の触媒粒子は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択することができる。
【0053】
他の触媒粒子の大きさは、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒と同様の大きさを採用することができる。この際、他の触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜20nmである。他の触媒粒子の平均粒子径がこのような範囲内であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスを適切に制御することができる。なお、他の触媒粒子の平均粒子径は、X線回折における触媒粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒粒子の粒子径の平均値とすることができる。
【0054】
(担体)
上記触媒粒子を担持するための担体は、導電性担体であることが好ましい。つまり、担体は、触媒粒子と他の部材との間における、電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能するものであることが好ましい。また、触媒粒子を導電性の担体上に担持することで、厚みのある電極触媒層を形成することが可能となり、さらに高電流密度での利用が可能となる。
【0055】
導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、十分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、アセチレンブラック、チャンネルブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック(例えば、バルカン)、ランプブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック;ブラックパール;黒鉛化アセチレンブラック;黒鉛化チャンネルブラック;黒鉛化オイルファーネスブラック;黒鉛化ガスファーネスブラック;黒鉛化ランプブラック;黒鉛化サーマルブラック;黒鉛化ケッチェンブラック;黒鉛化ブラックパール;カーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;カーボンナノホーン;カーボンフィブリル;活性炭;コークス;天然黒鉛;人造黒鉛などを挙げることができる。また、導電性担体として、ナノサイズの帯状グラフェンが3次元状に規則的に連結した構造を有するゼオライト鋳型炭素(ZTC)も挙げることができる。
【0056】
なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。また、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%以下の不純物の混入が許容され得ることを意味する。
【0057】
導電性担体のBET比表面積は、触媒粒子を高分散担持させるのに十分な比表面積であることが好ましく、好ましくは10〜5000m/gである。導電性担体の比表面積がこのような数値範囲内であると、導電性担体での触媒の分散性と触媒の有効利用率とのバランスを適切に制御することができる。なお、導電性担体として、1次空孔を有するものや1次空孔を有しないものを適宜用いることができる。
【0058】
導電性担体のサイズについても特に限定されるものではない。ただ、担持の簡便さ、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nmとするとよい。
【0059】
導電性担体における、本実施形態の燃料電池用触媒粒子の担持濃度は、電極触媒の全量に対して、好ましくは2〜70質量%である。触媒粒子の担持量がこのような数値範囲内であると、導電性担体上での触媒粒子の分散度と触媒性能とのバランスを適切に制御することができる。さらに、電極触媒層の厚さの増加を抑制することができる。なお、導電性担体における触媒粒子の担持濃度は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定することができる。
【0060】
(プロトン伝導材)
プロトン伝導材としては、例えば、プロトン供与性基を有する高分子電解質材料を挙げることができる。そして、高分子電解質材料は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質材料と炭化水素系高分子電解質材料とに大別される。
【0061】
フッ素系高分子電解質材料を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、NAFION、アシプレックス、フレミオン等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー;パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー;トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー;エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー;エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体;ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質材料が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーが用いられる。
【0062】
また、炭化水素系高分子電解質材料を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES);スルホン化ポリアリールエーテルケトン;スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル;ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル;スルホン化ポリスチレン;スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK);スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、且つ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質材料が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料に限定されるものではなく、その他の材料を用いることもできる。
【0063】
<ガス拡散層>
ガス拡散層(アノードガス拡散層20a、カソードガス拡散層20c)は、セパレータのガス流路(GPa、GPc)を介して供給されたガス(燃料ガス又は酸化剤ガス)を電極触媒層(13a、13c)へ拡散させる機能を有する。また、ガス拡散層は、電子伝導パスとしての機能を有する。
【0064】
ガス拡散層の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照される。例えば、炭素製の織布や不織布、紙状抄紙体、金網や金属メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタルといった導電性及び多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚みは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚みがこのような範囲内の値であれば、機械的強度とガス及び水などの拡散性とのバランスが適切に制御され得る。
【0065】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されるものではないが、フッ素系の高分子材料やオレフィン系の高分子材料が挙げられる。フッ素系の高分子材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(TFE−HFP)などが挙げられる。また、オレフィン系の高分子材料としては、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などが挙げられる。
【0066】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL)を基材の電極触媒層側に有するものであってもよい。
【0067】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されるものではなく、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料を適宜採用することができる。中でも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られると共に、電極触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0068】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。中でも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料を用いることが好ましい。
【0069】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性及び電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚みについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0070】
<セパレータ>
セパレータ30は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことによって図2に示すような凹凸形状に成形することにより得られるが、このような形態に限定されない。すなわち、例えば平板状の金属板(金属基材)に対して切削処理を施すことにより、ガス流路や冷媒流路を構成する凹凸形状を形成してもよい。
【0071】
セパレータを構成する材料については特に限定されるものではなく、従来公知の材料を適用することができる。供給されるガスが透過し難い材料であることが好ましく、電池反応で取り出された電流が流れやすい材料であることが好ましい。具体的には、鉄、チタン、アルミニウム、これらの合金などの金属材料;炭素材料などの被膜を形成することにより耐食性を向上させた金属材料;金属材料や炭素材料などで電導性を付与した高分子材料(導電性プラスチック)などが挙げられる。なお、鉄合金にはステンレスが含まれる。これらは、一層であっても二層以上の積層構造を有するものであってもよい。
【0072】
このように、本実施形態の触媒粒子は、固体高分子形燃料電池などの電気化学デバイスに用いることが好適である。また、本実施形態の触媒粒子は、りん酸形燃料電池などの電気化学デバイスにも用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実施例1]
まず、塩化ニッケル(II)(NiCl)を超純水に溶解し、濃度が0.105Mのニッケル水溶液を調製した。さらに、超純水100mLにクエン酸三ナトリウム二水和物1.2gと水素化ホウ素ナトリウム0.40gを混合し、還元剤水溶液を調製した。また、超純水100mLにケッチェンブラック0.2gを混合したケッチェンブラック分散液を調製した。
【0075】
次に、超純水1000mLに上記ニッケル水溶液21.9mLを混合した後、上記還元剤水溶液を添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、ニッケルからなる金属粒子の分散液を調製した。
【0076】
さらに、上記金属粒子分散液に、濃度が1.16Mの塩化白金酸水溶液を0.41mL添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、金属粒子の周囲に貴金属層を形成した触媒粒子を調製した。
【0077】
そして、触媒粒子の分散液に上記ケッチェンブラック分散液を混合し、室温(25℃)で48時間攪拌することにより、ケッチェンブラックに触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子を担持したケッチェンブラックを濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で12時間以上乾燥することにより、本実施例の電極触媒を調製した。
【0078】
[実施例2]
超純水100mLにクエン酸三ナトリウム二水和物1.5gと水素化ホウ素ナトリウム0.40gを混合した還元剤水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、本実施例の電極触媒を調製した。
【0079】
[実施例3]
まず、超純水100mLにクエン酸三ナトリウム二水和物0.78gと水素化ホウ素ナトリウム0.20gを混合し、還元剤水溶液を調製した。
【0080】
次に、超純水1000mLに実施例1のニッケル水溶液14.3mLを混合した後、上記還元剤水溶液を添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、ニッケルからなる金属粒子の分散液を調製した。
【0081】
さらに、上記金属粒子分散液に、濃度が1.16Mの塩化白金酸水溶液を0.27mL添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、金属粒子の周囲に貴金属層を形成した触媒粒子を調製した。
【0082】
そして、触媒粒子の分散液に実施例1のケッチェンブラック分散液を混合し、室温(25℃)で48時間攪拌することにより、ケッチェンブラックに触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子を担持したケッチェンブラックを濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で12時間以上乾燥することにより、本実施例の電極触媒を調製した。
【0083】
[実施例4]
まず、スルファミン酸ニッケル(II)四水和物を超純水に溶解し、濃度が0.105Mのニッケル水溶液を調製した。さらに、超純水100mLにクエン酸三ナトリウム二水和物0.78gと水素化ホウ素ナトリウム0.26gを混合し、還元剤水溶液を調製した。
【0084】
次に、超純水1000mLに上記ニッケル水溶液19.4mLを混合した後、上記還元剤水溶液を添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、ニッケルからなる金属粒子の分散液を調製した。
【0085】
さらに、上記金属粒子分散液に、濃度が0.51Mのジニトロジアミン白金硝酸塩水溶液を1.22mL添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、金属粒子の周囲に貴金属層を形成した触媒粒子を調製した。
【0086】
そして、触媒粒子の分散液に実施例1のケッチェンブラック分散液を混合し、室温(25℃)で48時間攪拌することにより、ケッチェンブラックに触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子を担持したケッチェンブラックを濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で12時間以上乾燥することにより、本実施例の電極触媒を調製した。
【0087】
[実施例5]
まず、硫酸ニッケル(II)(NiSO)を超純水に溶解し、濃度が0.105Mのニッケル水溶液を調製した。さらに、超純水100mLにクエン酸三ナトリウム二水和物1.2gと水素化ホウ素ナトリウム0.30gを混合し、還元剤水溶液を調製した。
【0088】
次に、超純水1000mLに上記ニッケル水溶液24.2mLを混合した後、上記還元剤水溶液を添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、ニッケルからなる金属粒子の分散液を調製した。
【0089】
さらに、上記金属粒子分散液に、濃度が0.51Mのジニトロジアミン白金硝酸塩水溶液を0.47mL添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、金属粒子の周囲に貴金属層を形成した触媒粒子を調製した。
【0090】
そして、触媒粒子の分散液に実施例1のケッチェンブラック分散液を混合し、室温(25℃)で48時間攪拌することにより、ケッチェンブラックに触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子を担持したケッチェンブラックを濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で12時間以上乾燥することにより、本実施例の電極触媒を調製した。
【0091】
[比較例1]
まず、スルファミン酸ニッケル(II)四水和物を超純水に溶解し、濃度が0.105Mのニッケル水溶液を調製した。さらに、超純水100mLにクエン酸三ナトリウム二水和物1.57gと水素化ホウ素ナトリウム0.39gを混合し、還元剤水溶液を調製した。
【0092】
次に、超純水1000mLに上記ニッケル水溶液38.9mLを混合した後、上記還元剤水溶液を添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、ニッケルからなる金属粒子の分散液を調製した。
【0093】
さらに、上記金属粒子分散液に、濃度が1.16Mの塩化白金酸水溶液を0.53mL添加し、室温(25℃)で30分間攪拌することにより、金属粒子の周囲に貴金属層を形成した触媒粒子を調製した。
【0094】
そして、触媒粒子の分散液に実施例1のケッチェンブラック分散液を混合し、室温(25℃)で48時間攪拌することにより、ケッチェンブラックに触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子を担持したケッチェンブラックを濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で12時間以上乾燥することにより、本比較例の電極触媒を調製した。
【0095】
[貴金属層の厚さ及び金属粒子の直径の測定]
TEM−EDXのライン分析により、各実施例及び比較例の貴金属層の厚さ及び金属粒子の直径を測定した。触媒粒子のライン分析結果の代表例を図4に示す。また、得られた各実施例及び比較例の貴金属層の平均厚さ及び金属粒子の平均直径の結果を表1に示す。
【0096】
[質量比活性評価]
Electrochemistry Vol.79, No.2, p.116-121 (2011) (対流ボルタモグラム(1)酸素還元(RRDE))の「4 Pt/C触媒上での酸素還元反応の解析」に記載の方法に準じて、各実施例及び比較例の電極触媒の質量比活性を測定した。
【0097】
具体的には、各実施例及び比較例の電極触媒をグラッシーカーボン電極上に規定量塗布し、各実施例及び比較例に係る触媒層を調製した。次に、得られた触媒層を酸素が飽和した0.1Mの過塩素酸に浸漬し、酸素還元に伴う電流を計測した。具体的には、電気化学計測装置を用い、図5に示すように、0.2Vから1.2Vまで速度10mV/sで電位走査を行った。そして、電位走査によりに得られた電流から、物質移動(酸素拡散)の影響をKoutecky-Levich式を用いて補正した上で、0.9Vでの電流値を抽出した。これを担持した触媒中の白金量(g)で除算することで、質量比活性を算出した。各実施例及び比較例の電極触媒の質量比活性を表1に併記する。
【0098】
【表1】
【0099】
図6は、各実施例及び比較例の電極触媒の質量比活性と貴金属層の厚さとの関係を示すグラフである。図6に示すように、貴金属層の厚さが1nm〜3.2nmの場合は質量比活性が高く、1.9nm〜2.4nmの場合は質量比活性が特に優れていることが確認できる。
【0100】
特願2013−034297号(出願日:2013年2月25日)の全内容は、ここに援用される。
【0101】
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の燃料電池用触媒粒子は、金属粒子の表面に、厚さが1nm〜3.2nmである貴金属層が設けられている。そのため、貴金属層の厚さを最適化することにより、貴金属層の表面では、上記反応式(I)及び(II)で表される電気化学反応が進行することから、当該触媒粒子は、貴金属量を低減しつつも触媒活性を向上させることができる。さらに、本発明の製造方法は、上記燃料電池用触媒粒子を容易に調製することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 燃料電池用触媒粒子
2 金属粒子
3 貴金属層
図1
図2
図3
図4
図5
図6