【実施例】
【0026】
本発明の優れた利点を次の実験例で説明する。
液体クロマトグラフ・質量分析計による水溶性有機化合物の定量、水溶性有機化合物の定量から侵入水量を求めることの可否を確認するため、以下の分析、定量を行った。
【0027】
<液体クロマトグラフ・質量分析計の分析条件>
(1)分析機器・分析条件
液体クロマトグラフ装置:アジレントテクノロジー社製 1260 Infinity Series
質量分析装置:アジレントテクノロジー社製 6430 Triple Quad LS/MS
カラム:SB−C18 ZORBAX(φ1.8μm,2.1×50mm)
移動相:0.1%ギ酸、流速0.4ml/min
フラグメンター電圧:75V
乾燥ガス:窒素ガス(350℃)
乾燥ガス流量:12l/min
ネブライザー圧:60psig
キャピラリー電圧:3500V
オーブン温度:40℃
注入量:5μl
イオン化法:ESI(選択イオンモニタリング法(m/z191.1))
測定:Negative検出モード
測定時間:1分間
(2)クエン酸検量線の作成
和光純薬工業社製クエン酸試薬(特級、純度>98%)を用いて10ppmの標準溶液を作成し、段階的に希釈を行い、0.1ppm,0.25ppm,0.5ppm,1.0ppmのクエン酸水溶液を作成した。その後、0.45μmメンブランフィルタでろ過後、測定に供した。測定から得られたクエン酸由来シグナル(m/z191.1)の積分値から、検量線を作成した。
(3)水溶性化合物の定量からの侵入水量算出方法
充填水量をXml、水溶性化合物の濃度をYw/v%、液体クロマトグラフ・質量分析計による水溶性化合物の検出量をZppmとした時、下記計算式により侵入水量(μl)を算出できる。
<計算式>
侵入水量(μl)=Z/10000Y*1000X
例えば、容器の充填水量が250mlであり、20w/v%クエン酸水溶液を用いて後述する方法で試験を行った場合、クエン酸の検出量が1ppmであった場合の侵入水量(μl)は、1/(10000*20)*1000*250=1.25となる。
【0028】
<実験1>
満注容積268mlのPETボトルに3.3℃の純水を250ml充填し、38φポリエチレン樹脂製キャップをボトル口部にゼロ位置で嵌合し、所定角度365度巻締めて密封した各種サンプルボトルを作成した。
その後、各種サンプルボトルをナイロン/ポリエチレンの多層フィルムから成るパウチに挿入し、20w/v%濃度のクエン酸水溶液(検出液)を、ヘッドスペースを形成せずに充填してパウチの開口部をヒートシールし、これらのパウチを水温3.3℃、600MPa、2分の高圧加工処理を行った。
【0029】
上記の高圧処理後、ボトルをパウチから取り出し、ボトル表面にクエン酸溶液が残存しないように水道水で洗浄、乾燥後、半田ごてで胴部に孔を空け、ピペットにてボトル内の純水を汚染が無いようにPSスクリュー管瓶に2ml採取した。
この採取した純水を、液体クロマトグラフ・質量分析計を用いて分析し、上述した予め分析して求めた検量線からクエン酸濃度を定量し、このクエン酸濃度から侵入水量を求めたところ、定量限界のクエン酸濃度0.1ppm以下、侵入水量0.125μl以下であった。
なお、1ppmのクエン酸標準溶液の測定データからS/N(信号/ノイズ)比を求め、その3倍を検出限界として算出した結果、上述した分析機器と分析方法を用いた試験法での検出限界は0.1ppm以下であった。即ち、充填水量が250mlであり、20w/v%濃度のクエン酸水溶液が使用された場合においては、計算により、侵入水量は0.125μl以下となる。ただし、上述した検出限界については、分析機器の検出感度に依存するため、高感度な装置を用いた場合の検出限界は上述の限りではなく、更に低い濃度を検出限界としても良い。
【0030】
一方、上記キャップの所定角度を180度まで10度ずつ緩めて巻締めたサンプルを作成し、同様にクエン酸濃度を定量し、このクエン酸濃度から侵入水量を求めた結果、所定角度が250度でクエン酸濃度56ppm、侵入水量0.07ml、所定角度が200度でクエン酸濃度240ppm、侵入水量0.3mlとなることが判明した。
【0031】
<実験2>
それぞれγ線で殺菌した満注容積268mlのPETボトルと38φポリエチレン樹脂製キャップとを用意した。
上記のPETボトルに、殺菌済み加糖ブイヨン培地250mlを無菌的に充填し、前記実験1の液体クロマトグラフ・質量分析計で求めた侵入水量の0.07mlとなるように、上記のキャップを、所定角度250度で巻締めて無菌的に密封したサンプルボトルを100本作成した。
これらのサンプルボトルを、Bacillus subtillis芽胞10
5cell/ml液が充填されたナイロン/ポリエチレンの多層フィルムから成るパウチに挿入して、ヘッドスペースを形成せずにヒートシールし、水温3.3℃、600Mpa、2分の高圧加工処理を行った。
この結果、サンプルボトル100本全て変敗が生じなかった。
【0032】
<実験3>
実験2において、前記実験1の液体クロマトグラフ・質量分析計で求めた侵入水量の0.3mlになるように、キャップを所定角度200度で巻締めた以外は、同様にサンプルボトルを100本作成して高圧加工処理を行った。
この結果、サンプルボトル100本中、11本の変敗が観察された。
【0033】
<実験4>
それぞれ、γ線で殺菌した満注容積268mlの耐熱PETボトルと38φポリエチレン樹脂製キャップとを用意した。
次いで、120℃で殺菌済みの加糖ブイヨン培地250mlを88℃で、上記の耐熱PETボトルに充填し、前記実験1の液体クロマトグラフ・質量分析計で求めた侵入水量の0.07mlになるように、上記のキャップを、所定角度250度で巻締めて密封したサンプルボトルを100本作成した。
これらのサンプルボトルを、Lactobacillus brevis 10
5cell/ml液を注入したバケツにそれぞれ入れて3.3℃に冷却した。
この結果、サンプルボトル100本全て変敗が生じなかった。
【0034】
<実験5>
実験4において、前記実験1の液体クロマトグラフ・質量分析計で求めた侵入水量の0.3mlになるように、キャップを所定角度200度で巻締めた以外は、同様にサンプルボトルを100本作成して冷却を行った。
この結果、サンプルボトル100本中、20本の変敗が観察された。
【0035】
尚、上記の実験において、侵入水量と変敗の関係については、J.Gilchurstらの金属缶内への水侵入量と変敗の関係を求める研究(Lactbacillusを用いたバイオテスト)での水侵入量が0.069mlで変敗がなく、0.265mlで膨張変敗が発生したとの報告を基準とした。
【0036】
<考察>
上記実験1乃至5によれば、水溶性有機化合物を用いた液体クロマトグラフ・質量分析計によって水溶性有機化合物を定量し、この水溶性有機化合物濃度から侵入水量を求めることにより、ボトルとキャップの巻締めの所定角度と、水溶性有機化合物濃度、侵入水量の関連付けが極めて容易に行われる。その結果、ボトル詰め飲料の製造等のボトルとキャップの密封性の確認に適用することにより、その密封性の確認を高精度、迅速に行えることが判る。
【0037】
また、上記実験2、3によれば、例えば、10℃以下の低温条件下で調製された非炭酸系飲料をボトルに充填・密封し、前記飲料が充填されたボトルを高圧加工処理するボトル詰め飲料の製造において、上述した実験1の関連付けを適用することにより、高圧加工処理時のマイクロリークと処理水の汚染等による飲料の変敗を防止するボトルとキャップの密封性の確認方法として、高精度、迅速に行えることが判る。
さらに、上記実験4、5によれば、例えば、熱間充填される飲料をボトルに充填するボトル詰め飲料の製造において、上述した実験1の関連付けを適用することにより、冷却後の負圧吸い込みによる飲料の変敗を防止するボトルとキャップの密封性の確認方法として、高精度、迅速に行えることが判る。