特許第6197923号(P6197923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6197923
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】制御システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   G05B13/02 T
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-126129(P2016-126129)
(22)【出願日】2016年6月27日
【審査請求日】2017年3月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】只野 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌克
【審査官】 影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5088414(JP,B2)
【文献】 国際公開第2015/136626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/00−13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令値と、制御対象システムの検出値と、制御対象システムの位相情報と、に基づいて、制御対象システムの操作量を決定するフィードバック制御器を備えた制御システムであって、
前記フィードバック制御器は、
前記検出値と前記位相情報とに基づいて、周期外乱補償信号を出力する周期外乱抑制制御器と、
前記指令値と前記周期外乱補償信号とを加算した補正指令値と、前記検出値と、に基づいて、前記操作量を算出する共振・外乱抑制制御器と、を有し、
前記周期外乱抑制制御器は一般化周期外乱オブザーバを用い、
前記共振・外乱抑制制御器は、
前記指令値がμ設計制御器の前記指令値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、前記検出値がμ設計制御器の前記検出値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、を加算して、前記操作量を出力するμ設計制御器を有し、
前記周期外乱抑制制御器は、
前記位相情報に抑制対象次数nを乗じたn次回転位相を用いて、前記検出値から周波数成分を抽出し、dnn回転座標に変換した周期外乱のn次周波数成分ベクトルを出力する周波数成分抽出器と、
前記n次回転位相を微分してn次回転周波数を算出する速度変換器と、
前記周期外乱のn次周波数成分ベクトルに、前記n次回転周波数に同期した単一の周波数ベクトルが適用された逆モデルを乗じて、操作量推定値のn次周波数成分ベクトルを求める逆モデル乗算部と、
前記操作量推定値のn次周波数成分ベクトルから、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルが低域通過フィルタを介した値を減算して周期外乱推定値のn次周波数成分ベクトルを出力する第1減算器と、
周期外乱指令値のn次周波数成分ベクトルから、前記周期外乱推定値のn次周波数成分ベクトルを減算して、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを出力する第2減算器と、
前記周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを、前記n次回転位相に基づいて、周期外乱に同期したdnn回転座標系から元の時間波形に復元し、前記周期外乱補償信号を出力する補償信号合成部と、
を備えたことを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記周波数成分抽出器に使用する前記検出値は、高域通過フィルタを通過させた値であることを特徴とする請求項1記載の制御システム。
【請求項3】
指令値と、制御対象システムの検出値と、制御対象システムの位相情報と、に基づいて、制御対象システムの操作量を決定するフィードバック制御器を備えた制御システムであって、
前記フィードバック制御器は、
前記検出値と前記位相情報とに基づいて、周期外乱補償信号を出力する周期外乱抑制制御器と、
前記指令値と前記周期外乱補償信号とを加算した補正指令値と、前記検出値と、に基づいて、前記操作量を算出する共振・外乱抑制制御器と、を有し、
前記周期外乱抑制制御器は一般化周期外乱オブザーバを用い、
前記共振・外乱抑制制御器は、
前記指令値がμ設計制御器の前記指令値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、前記検出値が設計制御器の前記検出値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、を加算して、前記操作量を出力するμ設計制御器を有し、
前記周期外乱抑制制御器は、
前記位相情報に抑制対象次数nを乗じたn次回転位相を用いて、前記指令値から前記検出値を減算した偏差から周波数成分を抽出し、dnn回転座標に変換した周期外乱のn次周波数成分ベクトルを出力する周波数成分抽出器と、
前記n次回転位相を微分してn次回転周波数を算出する速度変換器と、
周期外乱のn次周波数成分ベクトルに、前記n次回転周波数に同期した単一の周波数ベクトルが適用された逆モデルを乗じて、操作量推定値のn次周波数成分ベクトルを求める逆モデル乗算部と、
前記操作量推定値のn次周波数成分ベクトルと、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルが低域通過フィルタを介した値と、を加算して周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを出力する加算器と、
前記周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを、前記n次回転位相に基づいて、周期外乱に同期したdnn回転座標系から元の時間波形に復元し、前記周期外乱補償信号を出力する補償信号合成部と、
を備えたことを特徴とする制御システム。
【請求項4】
指令値と、制御対象システムの検出値と、制御対象システムの位相情報と、に基づいて、制御対象システムの操作量を決定するフィードバック制御器を備えた制御システムであって、
前記フィードバック制御器は、
前記検出値と前記位相情報とに基づいて、周期外乱補償信号を出力する周期外乱抑制制御器と、
前記指令値と前記周期外乱補償信号とを加算した補正指令値と、前記検出値と、に基づいて、前記操作量を算出する共振・外乱抑制制御器と、を有し、
前記周期外乱抑制制御器は一般化周期外乱オブザーバを用い、
前記共振・外乱抑制制御器は、
前記指令値がμ設計制御器の前記指令値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、前記検出値がμ設計制御器の前記検出値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、を加算して、前記操作量を出力するμ設計制御器を有し、
前記周期外乱抑制制御器は、
前記位相情報に抑制対象次数nを乗じたn次回転位相を用いて、前記指令値から前記検出値を減算した偏差を、dnn回転座標に変換した周期外乱のn次周波数成分ベクトルを出力する周波数成分変換器と、
前記n次回転位相を微分してn次回転周波数を算出する速度変換器と、
前記周期外乱のn次周波数成分ベクトルに、前記n次回転周波数に同期した単一の周波数ベクトルが適用された逆モデルを乗じて、操作量推定値のn次周波数成分ベクトルを求める逆モデル乗算部と、
前記操作量推定値のn次周波数成分ベクトルを積分し、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを出力する積分器と、
前記周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを、前記n次回転位相に基づいて、周期外乱に同期したdnn回転座標系から元の時間波形に復元し、前記周期外乱補償信号を出力する補償信号合成部と、
を備えたことを特徴とする制御システム。
【請求項5】
前記指令値と前記検出値に基づいて、直流トルク成分指令値を出力する低域トルク制御器を有し、
前記直流トルク成分指令値と前記周期外乱補償信号を加算した値を前記補正指令値とし、
前記低域トルク制御器は、
PI制御器と、低域通過フィルタと、を備えたことを特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項に記載の制御システム。
【請求項6】
抑制対象次数の異なる前記周期外乱抑制制御器を複数台有し、各々の前記周期外乱抑制制御器の出力を合算した値を周期外乱補償信号とすることを特徴とする請求項1〜5のうち何れか1項に記載の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システムの共振・外乱を抑制しながら、周期的な外乱も同時に抑制する制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、周期的な外乱を抑制する制御方式に関するものである。この特許文献1では、「周期外乱オブザーバ方式」によって、周期外乱である電動機のトルクリプルを抑制する手法が開示されている。
【0003】
特許文献2,3は、μ設計法によるロバスト制御で、共振や外乱を抑制し、制御の安定化・高速化を実現するものである。特に、ダイナモメータ(エンジンベンチシステム)の動力計測装置の構成について記載されている。
【0004】
本願発明は、システムの共振抑制と周期的な外乱抑制を同時に実現するものである。以下からは、ダイナモメータシステムのような多慣性系のモータドライブシステムを事例に挙げて説明するが、用途例はこれに限るものではない。例えば、電力系統システムならば、系統共振抑制と高調波抑制を同時に実現するなども該当する。
【0005】
制御システムにおいて発生する共振や外乱は、制御性能を劣化させるのみでなく、システムを不安定化させる要因となる。構造・仕様・コスト等の制約があるため、システム共振や外乱を構造的対策によって十分に低減できない場合、共振抑制制御や外乱抑制制御が古くから行われている。
【0006】
外乱には、ホワイトノイズのように全周波数帯域で発生する「非周期外乱」と、特定の周波数成分で周期的に発生する「周期外乱」がある。例えば、モータであればトルクリプル、電力系統であれば高調波などが周期外乱に相当する。特に、周期外乱については特定周波数成分で繰り返し発生するため、システムの共振周波数と一致した場合、非常に大きな外乱として増幅され、システムの故障や不安定化に多大な影響を与える。
【0007】
外乱を抑制する一般的な手法として、外乱オブザーバが広く用いられている。外乱オブザーバは、指令値および制御対象モデルの逆特性から外乱を推定し、その推定外乱を指令値から差し引くことで外乱を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許5088414号
【特許文献2】特開2003−121308号公報
【特許文献3】特開2003−149085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、制御対象モデルの逆特性は一般に微分要素を持つため、高周波帯域のゲイン増幅を防止して擬似微分とするためのローパスフィルタが用いられる。このローパスフィルタが存在するために、周波数帯域の外乱を推定・除去することができない問題を有する。
【0010】
例えば、3相モータのトルクリプルは、回転数に同期して発生する周期外乱であり、主に回転数の6×n倍で発生することが知られている。回転数が高くなるほどトルクリプルの周波数成分は高くなり、外乱オブザーバでは十分に抑制できない制御帯域となる。さらには、高周波数帯域にシステムの共振周波数がある場合は周期外乱が増幅し、非常に大きな振動・騒音が発生する。
【0011】
特許文献1では、周期外乱の周期性に着目し、トルクリプル周波数に同期した回転座標系で外乱オブザーバを一般化した「周期外乱オブザーバ方式」が開示されている。
【0012】
この方式は、特定周波数成分の周期外乱のみに寄与する制御系であり、制御対象の逆特性に微分特性を含まないため、高周波数帯域であっても周期外乱を抑制することができる。しかしながら、特定周波数成分以外の非周期外乱を抑制することはできない。したがって、例えばシステムの共振周波数と一致する非周期外乱が存在する場合は、その影響を除去できないため、非周期外乱を抑制する別の方策を併用する必要がある。
【0013】
特許文献2,3では、共振/外乱抑制手法の一例として、μ設計法によるロバスト制御が用いられている。こうしたロバスト制御においては、システムの共振や外乱を包括的に抑制し、所望の指令値応答や外乱応答を実現するコントローラの設計を行う。
【0014】
しかし、広範な周波数帯域で各種パラメータの摂動を考慮した場合、保守的な設計となりやすい。また、ボードの定理に従い、指令値応答や外乱応答の速応性と共振抑圧性能にはトレードオフがある。そのため、共振周波数付近の外乱応答特性が0dBを超えてしまい、そこに大きな周期外乱が含まれると十分に共振を抑制できないことがある。
【0015】
以上示したように、制御システムにおいて、システムの制御性能を高度化するために、共振,非周期外乱,周期外乱をすべて抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、指令値と、制御対象システムの検出値と、制御対象システムの位相情報と、に基づいて、制御対象システムの操作量を決定するフィードバック制御器を備えた制御システムであって、前記フィードバック制御器は、前記検出値と前記位相情報とに基づいて、周期外乱補償信号を出力する周期外乱抑制制御器と、前記指令値と前記周期外乱補償信号とを加算した補正指令値と、前記検出値と、に基づいて、前記操作量を算出する共振・外乱抑制制御器と、を有し、前記周期外乱抑制制御器は一般化周期外乱オブザーバを用いることを特徴とする。
【0017】
また、その一態様として、前記共振・外乱抑制制御器は、前記指令値がμ設計制御器の前記指令値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、前記検出値がμ設計制御器の前記検出値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、を加算して、前記操作量を出力するμ設計制御器を有し、前記周期外乱抑制制御器は、前記位相情報に抑制対象次数nを乗じたn次回転位相を用いて、前記検出値から周波数成分を抽出し、dnn回転座標に変換した周期外乱のn次周波数成分ベクトルを出力する周波数成分抽出器と、前記n次回転位相を微分してn次回転周波数を算出する速度変換器と、前記周期外乱のn次周波数成分ベクトルに、前記n次回転周波数に同期した単一の周波数ベクトルが適用された逆モデルを乗じて、操作量推定値のn次周波数成分ベクトルを求める逆モデル乗算部と、前記操作量推定値のn次周波数成分ベクトルから、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルが低域通過フィルタを介した値を減算して周期外乱推定値のn次周波数成分ベクトルを出力する第1減算器と、周期外乱指令値のn次周波数成分ベクトルから、前記周期外乱推定値のn次周波数成分ベクトルを減算して、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを出力する第2減算器と、前記周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを、前記n次回転位相に基づいて、周期外乱に同期したdnn回転座標系から元の時間波形に復元し、前記周期外乱補償信号を出力する補償信号合成部と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、その一態様として、前記周波数成分抽出器に使用する前記検出値は、高域通過フィルタを通過させた値であることを特徴とする。
【0019】
また、その一態様として、前記共振・外乱抑制制御器は、前記指令値がμ設計制御器の前記指令値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、前記検出値が設計制御器の前記検出値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、を加算して、前記操作量を出力するμ設計制御器を有し、前記周期外乱抑制制御器は、前記位相情報に抑制対象次数nを乗じたn次回転位相を用いて、前記指令値から前記検出値を減算した偏差から周波数成分を抽出し、dnn回転座標に変換した周期外乱のn次周波数成分ベクトルを出力する周波数成分抽出器と、前記n次回転位相を微分してn次回転周波数を算出する速度変換器と、周期外乱のn次周波数成分ベクトルに、前記n次回転周波数に同期した単一の周波数ベクトルが適用された逆モデルを乗じて、操作量推定値のn次周波数成分ベクトルを求める逆モデル乗算部と、前記操作量推定値のn次周波数成分ベクトルと、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルが低域通過フィルタを介した値と、を加算して周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを出力する加算器と、前記周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを、前記n次回転位相に基づいて、周期外乱に同期したdnn回転座標系から元の時間波形に復元し、前記周期外乱補償信号を出力する補償信号合成部と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、その一態様として、前記共振・外乱抑制制御器は、前記指令値がμ設計制御器の前記指令値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、前記検出値がμ設計制御器の前記検出値から前記操作量までの伝達特性を介した出力と、を加算して、前記操作量を出力するμ設計制御器を有し、前記周期外乱抑制制御器は、前記位相情報に抑制対象次数nを乗じたn次回転位相を用いて、前記指令値から前記検出値を減算した偏差を、dnn回転座標に変換した周期外乱のn次周波数成分ベクトルを出力する周波数成分変換器と、前記n次回転位相を微分してn次回転周波数を算出する速度変換器と、前記周期外乱のn次周波数成分ベクトルに、前記n次回転周波数に同期した単一の周波数ベクトルが適用された逆モデルを乗じて、操作量推定値のn次周波数成分ベクトルを求める逆モデル乗算部と、前記操作量推定値のn次周波数成分ベクトルを積分し、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを出力する積分器と、前記周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルを、前記n次回転位相に基づいて、周期外乱に同期したdnn回転座標系から元の時間波形に復元し、前記周期外乱補償信号を出力する補償信号合成部と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
また、その一態様として、前記指令値と前記検出値に基づいて、直流トルク成分指令値を出力する低域トルク制御器を有し、前記直流トルク成分指令値と前記周期外乱補償信号を加算した値を前記補正指令値とし、前記低域トルク制御器は、PI制御器と、低域通過フィルタと、を備えたことを特徴とする。
【0022】
また、その一態様として、抑制対象次数の異なる前記周期外乱抑制制御器を複数台有し、各々の前記周期外乱抑制制御器の出力を合算した値を周期外乱補償信号とすることを特徴とする。
【0023】
また、他の態様として、トルク指令値と、トルク検出値と、インバータによって駆動されるモータの位相情報と、に基づいて、前記インバータのインバータトルク指令値を演算するトルク制御器を備えた制御システムであって、前記トルク制御器は、前記トルク検出値と前記位相情報とに基づいて、周期外乱補償信号を出力する周期外乱抑制制御器と、前記トルク指令値と前記周期外乱補償信号とを加算した補正トルク指令値と、前記トルク検出値と、に基づいて、前記インバータトルク指令値を算出する共振・外乱抑制制御器と、を有し、前記周期外乱抑制制御器は一般化周期外乱オブザーバを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、制御システムにおいて、システムの制御性能を高度化するために、共振,非周期外乱,周期外乱をすべて抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】フィードバック制御システムの基本構成図。
図2】フィードバック制御器の基本構成図。
図3】一般化周期外乱オブザーバを示す図。
図4】特定周波数成分の複素ベクトル表現。
図5】トルクフィードバック制御システム一例を示す構成図。
図6】システム伝達特性の例を示す図(トルク制御なし)。
図7】トルク波形の一例を示す図(トルクフィードバック制御なし)。
図8】トルク制御器の構成例を示す図。
図9】一般化プラントの構成例を示す図。
図10】μ設計コントローラの特性を示す図。
図11】μ設計制御器の構成例を示す図。
図12】共振および非周期外乱抑制制御のみを機能させた場合の閉ループ伝達特性を示す図。
図13】共振および非周期外乱抑制制御のみを機能させた場合のトルク波形を示す図。
図14】周期外乱抑制制御器の構成図。
図15】トルク波形を示す図(共振・非周期外乱・周期外乱を同時に抑制した場合)
図16】周期外乱抑制制御器の構成図(ハイパスフィルタ利用)。
図17】トルク偏差に対して周期外乱抑制制御器を用いる場合の構成図。
図18】トルク偏差に対する一般化周期外乱オブザーバの構成図。
図19】1次ローパスフィルタ適用時の等価な制御構成図。
図20】実施形態5のフィードバック制御器を示す図。
図21】低減トルク制御器の構成例を示す図。
図22】実施形態5の一般化プラントを示す図。
図23】周期外乱オブザーバから見たマイナーループの閉ループ伝達特性を示す図。
図24】実施形態5のトルク波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書では、H∞的制御やμ設計法のように共振と非周期外乱を抑制する手法と、周期外乱オブザーバを用いた周期外乱抑制手法を併用する手段を説明する。
【0027】
本明細書では、共振抑制制御手法の一例としてμ設計法を用いて説明するが、共振比制御・H∞制御など、共振抑制手法を限定するものではなく、共振抑制後の閉ループ伝達特性が把握できれば、どのような方式にも対応できるものである。
【0028】
本願発明は、さまざまなシステムに適用可能な制御方式であるため、図1に示す一般的なフィードバック制御システムが基本構成図となる。指令値r*、検出値y、および、システムで問題となっている周期外乱を制御するために位相情報θをフィードバック制御器1に入力する。フィードバック制御器1で演算された操作量uは、制御対象システム2に入力される。
【0029】
実際の制御対象システム2では共振特性を有する場合があり、操作量uや検出値yには外乱が含まれる。また、外乱の中でもシステム特性に起因して周期的に発生する周期外乱は、制御性能や安定性に影響を与えやすい。
【0030】
こうした周期外乱は、制御対象システム2の動作に伴って周期的に発生するものであるから、その周期性を検出するための位相情報θをフィードバック制御器1に返す。
【0031】
図2は、フィードバック制御器1の構成例である。共振・外乱抑制制御器3では後述する補正指令値rと検出値yに基づいてフィードバック制御を実施する。本願発明では、制御対象システム2に共振特性が含まれている場合を考慮し、共振抑制制御や外乱抑制制御も実施する。
【0032】
例えば、PID制御器に外乱オブザーバ等を組み合わせたもの,共振比制御,H∞制御やμ設計等のロバスト制御などを想定しているが、これら共振抑制手法は限定されず、共振・外乱を抑制する任意の手法を用いれば良い。本願発明で重要となるのは、共振抑制した結果得られる指令値から検出値までの閉ループの周波数伝達特性となる。
【0033】
この共振抑制された閉ループ伝達特性を、後述する一般化周期外乱オブザーバのモデルに適用することが本願発明の主たる目的となる。
【0034】
周期外乱抑制制御器4では、位相情報θを用いて検出値yに含まれる周期外乱を抽出し、その周期外乱を抑制するように周波数成分毎に制御する。その手法として、特許文献1等で提案されている一般化周期外乱オブザーバを用いる。仮に、特許文献1の手法のみを共振系システムに適用した場合、周期外乱は抑制できるが共振抑制や非周期的な外乱の抑制はできない。
【0035】
したがって、本願発明では共振抑制制御・非周期外乱抑制制御・周期外乱抑制制御を同時に実現する。周期外乱抑制制御器4で得られた周期外乱補償信号rpd*は、指令値r*に加算し、補正指令値rとして共振・外乱抑制制御器3に入力する。
【0036】
ここで、一般化周期外乱オブザーバについて簡単に説明する。図3は、一般化周期外乱オブザーバの基本構成例である。
【0037】
周期外乱は特定の周波数で発生する外乱であるため、その周波数成分を抽出して抑制制御系を構築する。ここで、n次周波数の周期外乱に同期したdnn回転座標系を定義すると、図4に示すように、システム伝達特性Pnの入力信号(操作量)un、出力信号(検出値)ynとその間のシステム伝達特性Pnは1次元複素ベクトルで表現できる。(実部をdn軸,虚部をqn軸とする。)
システム伝達特性Pnは(1)式で示され、操作量uから検出値yまでのn次周波数成分の伝達特性を示している。したがって、例えばアクチュエータや負荷,センサ,無駄時間等の伝達特性をすべて包含した周波数伝達特性となり、n次周波数成分に限定すればシステム伝達特性Pnは1次元複素ベクトルで一般化できることを意味する。
【0038】
【数1】
【0039】
このように、特定周波数成分で一般化されたシステム上で制御を行うために、検出値yからdnn回転座標系に同期した成分を抽出する。検出値yが単相信号の場合は、(2)式に基づいて抽出し、三相信号の場合は(3)式に基づいて抽出する。
【0040】
【数2】
【0041】
【数3】
【0042】
F(s)は、(2)式または(3)式でdnn回転座標変換した後に、dn軸・qn軸成分を直流値として抽出するための低域通過フィルタであり、実部・虚部すなわちdn軸とqn軸それぞれに寄与する。例えば、フィルタ次数を1とした場合は、(4)式となる。
【0043】
【数4】
【0044】
ωf:ローパスフィルタのカットオフ周波数
こうして抽出された検出値ynに対し、(5)式に示すシステムの伝達特性Pnの逆モデルQn^を用いて、(6)式のように操作量unの操作量推定値un^を推定する。
【0045】
【数5】
【0046】
【数6】
【0047】
実際のシステムに入力される操作量unは、周期外乱dnを含んでいるため、(7)式に示すとおり(6)式の操作量推定値un^から低域通過フィルタGF(s)を介した操作量指令値un*を差し引くことで、周期外乱推定値dn^を推定する。
【0048】
【数7】
【0049】
周期外乱指令値dn*(周期外乱を抑制する場合は0)から(7)式の周期外乱推定値dn^を差し引くことで、周期外乱dnを打ち消すことができる。以上、図3に基づいて一般化周期外乱オブザーバの動作を説明した。
【0050】
ところで、(5)式で示した逆モデルQn^は、特定周波数についての単一の逆モデルであるため、複数の周波数成分で動作させる場合は、それぞれの周波数における逆モデルを用意しておく必要がある。例えば、動作周波数が可変なシステムでは、周期外乱の周波数も動作周波数のn倍で発生するため、抽出すべき周波数成分も可変となる。このような場合は、動作周波数の変化に応じて適用する逆モデルも変える必要がある。
【0051】
例えば、周期外乱が取り得る周波数範囲を1〜1000Hzと設定し、1Hz毎に逆モデルQn^を用意する場合は、Qdn,Qqnをそれぞれ1000個実装しておき、動作周波数のn倍に同期した周波数成分を読み出すことで、変化する動作周波数にも対応できる。
【0052】
しかしながら、システム伝達特性Pnが共振系システムの場合は、逆モデルQn^も共振特性を含むため、動作周波数の変化に対して急峻なモデルの変化を引き起こす。特に、共振周波数が交差する際は、その位相特性が反転する場合がある。直ちに正確な逆モデルQn^を読み出すことができれば問題とはならないが、実際のコントローラはデジタル制御に伴う演算無駄時間や位相検出遅れがある。
【0053】
また、一般化周期外乱オブザーバは低域通過フィルタGF(s)によって決定づけられる閉ループ特性による応答遅れが生じ、モデル化誤差によって共振周波数のズレがあると最悪の場合、逆位相で補償する状態に陥り、制御が不安定となる恐れがある。したがって、周波数変化に対して逆モデルが急峻な特性変化を持つ場合は、不安定化を防止する対策が必須である。
【0054】
本願発明では、この逆モデルQn^の急峻な変化を抑えるために、共振抑制制御をマイナーループで実施した上で、共振抑制制御特性を含んだシステムの閉ループ伝達特性で逆モデルQn^を生成し、それを一般化周期外乱オブザーバに適用するものである。さらには、共振と非周期的な外乱をも抑制した上で、周期的な外乱を抑制するため、特許文献1〜3にはなかった「共振」,「非周期外乱」,「周期外乱」のすべての課題を同時に改善することが可能となる。
【0055】
以下、実施形態のひとつとして、モータドライブ用途の2慣性共振系システムにおけるトルクフィードバック制御を例に挙げて説明する。
【0056】
なお、3慣性系以上の多慣性系や、モータドライブシステム以外の共振系システムの用途であっても、本願発明の手法が適用可能である。また、トルク制御以外(例えば、速度制御,位置制御,加速度制御,電流制御など)であっても同様の制御構成で実現可能であり、フィードバック制御システムにおける指令値と検出値の種目を限定するものではない。
【0057】
図5に、本願発明の効果を説明するための代表例として、2慣性共振系のモータドライブシステムでトルク制御を実現するための構成図を示す。
【0058】
装置構成の一例として、モータMと負荷Lによる2慣性系システムを想定する。結合軸にはトルクメータ6を設置し、トルク検出値τdetをトルク制御器5にフィードバックする。モータMを駆動するインバータINVでは,回転位置センサ21あるいはセンサレス制御等で得られたモータMの位相情報θないし回転速度情報などを取得し、トルク制御器5にその情報を渡す。
【0059】
トルク制御器5はトルク指令値τ*,位相情報θ,トルク検出値τdetに基づいて、インバータトルク指令値τinv*を演算する。インバータINVはインバータトルク指令値τinv*に基づいて所望の電圧をモータMへ印加することでモータMを制御し、モータMは負荷Lを駆動する。
【0060】
位相情報θや回転速度情報は、後述する周期外乱抑制制御(本例ではトルクリプル抑制制御に相当)のために用いられる。
【0061】
トルク検出値τdetを、速度検出・位置検出・電流検出などに置き換えて、各々に合わせて指令値を変更しても、同様のフィードバック制御システムが成り立つ。
【0062】
また、本願発明を説明するにあたり、数値例として本構成のシステム伝達特性を図6に示す。図6は、トルク制御を実施しない場合のシステムの開ループ伝達特性であり、インバータトルク指令値τinv*からトルク検出値τdetまでの周波数特性を示している。低周波数帯域ではトルク誤差(指令値から検出値のゲイン(振幅)特性が0dBとならない)があり、高域では2慣性共振系による共振点が存在する。また、図6の周波数特性は外乱を含んでいないが、実際のトルク検出値τdetには、例えばトルクリプルのような周期外乱や、ホワイトノイズ等の非周期外乱が含まれることにも留意する。こうした外乱は,特に図6に示した共振点で増幅し、トルク検出値τdetに顕著にその影響が現れる。
【0063】
図7は、図6の特性においてトルクフィードバック制御を行わない場合の回転数とトルクの波形例である。図7では、0.5seconds以降のトルク指令値τ*は一定値(5[Nm])である。
【0064】
図7に示すように、トルク誤差や外乱が発生しており、回転数上昇中にトルクリプル周波数とシステムの共振周波数が一致したとき、特に大きな共振現象が発生していることが分かる。
【0065】
本願発明は、図6における低域のゲイン特性を0dBとしてトルク誤差をなくし、かつ、高域の共振を抑制して非周期外乱と周期外乱をも同時に抑制することを目的とする。
【0066】
[実施形態1]
図8に本実施形態1の制御システムとしてトルク制御器を示す。
【0067】
〔第1の機能:共振および非周期外乱抑制制御器7〕
共振および非周期外乱抑制制御器7は図2の共振・外乱抑制制御器3に対応する。
【0068】
本実施形態1では、構造化特異値μを用いたμ設計による共振抑制および非周期外乱抑制を実装する例で説明する。H∞制御,共振比制御など,そのほかの共振抑制手法を用いても同様に実現できることを示唆しておく。
【0069】
図9は、μ設計で用いる一般化プラントの構成例である。機械系パラメータ等の摂動を個別に考慮しても良いが、実用上は物理モデル(バネ・マス要素)を明示的に同定することを省略し、トルク入出力の周波数伝達特性から簡易的に同定することが多い。したがって、ここではインバータから入力される定常トルク誤差(トルク偏差)Δτを摂動項として見積もり、ロバスト制御性能を担保する手法を用いる。
【0070】
図9の符号は以下の通りである。
J1:モータの慣性モーメント,J2:負荷の慣性モーメント,K12:軸ねじれ剛性,s:ラプラス演算子,Δτ:定常トルク誤差(トルク偏差),Gtm(s):トルクメータ等の検出応答伝達関数,Ginv:インバータ応答伝達関数,d1:外乱(周期外乱を含む),d2およびr:μ設計制御器入力,d3:トルク検出ノイズ,z:定常トルク誤差の評価出力,w:定常トルク誤差による外乱入力,u:μ設計制御器出力(操作量),y:観測出力(検出値),e1:インバータトルク指令の評価出力,e2:トルク偏差の評価出力,Wn(s):外乱d1に対する重み関数,Wu(s):インバータトルク指令に対する重み関数,We(s):トルク偏差に対する重み関数。
【0071】
トルク偏差に対する重み関数We(s)は、低域の定常偏差をなくすように重みづけをしている。インバータトルク指令に対する重み関数Wu(s)は、インバータトルクの高周波特性を低減するように設定している。外乱d1に対する重み関数Wn(s)は、周期外乱や非周期的外乱の抑圧性能を向上するように重み付けしている。
【0072】
図9のように構成した一般化プラントにおいて、D−Kイテレーションを実施して得られたμ設計制御器の特性を図10に示す。上段はゲイン線図,下段は位相線図を示している。左側はμ設計制御器の指令値rから操作量uの伝達特性Cref(s),右側はμ設計制御器の検出値yから操作量uの伝達特性Ctm(s)を示している。
【0073】
上記で設計された伝達特性Cref(s)と伝達特性Ctm(s)を持つμ設計制御器は、図8の共振および非周期外乱抑制制御器7に実装され、図11に示すように構成される。補正トルク指令値τr*が伝達特性Cref(s)を介した出力と、トルク検出値τdetが伝達特性Ctm(s)を介した出力と、を加算してインバータトルク指令値τinv*を生成する。
【0074】
共振および非周期外乱抑制制御器7のみを機能させた場合の閉ループ伝達特性を図12に示す。また、そのときのトルク波形例を図13に示す。図12の上段はゲイン線図,下段は位相線図を示している。左側はトルク指令値τ*からトルク検出値τdetまでの閉ループ特性(指令値応答),右側は外乱d1からトルク検出値τdetまでの閉ループ特性(外乱応答)を示している。
【0075】
図7の制御なしの場合のトルク波形と比較すると、図13のトルク波形は共振および非周期外乱抑制制御器7の効果により、共振現象を大幅に低減できていることが分かる。しかしながら、図12の外乱特性を見て分かるように、共振周波数付近の外乱に対する閉ループ伝達特性は0dBを超えているため、周期的な外乱に対してはリプルが残留し、十分に除去できているとは言えない。本実施形態1で用いたμ設計手法に関わらず、全周波数帯域で制御設計するコントローラは、ボードの定理に従って、どこかの周波数帯域を低減すれば、そのほかの周波数帯域が増幅される。
【0076】
したがって、設計の善し悪しに関わらず、指令値応答と外乱抑圧に関する速応性と抑圧振幅にはトレードオフが発生する。
【0077】
そこで、本実施形態1では、上述のような共振および非周期外乱抑制制御器7に加えて、第2の機能として特定の周波数成分のみに寄与する周期外乱オブザーバによる周期外乱抑制制御器8を組み合わせる。
【0078】
〔第2の機能:周期外乱抑制制御器8〕
図14は、図8の周期外乱抑制制御器8の構成図である。図3で前述した一般化周期外乱オブザーバを用いている。図14の符号は以下の通りである。
n:周期外乱(トルクリプル)のn次周波数成分ベクトル,Un^:操作量推定値のn次周波数成分ベクトル(周期外乱を含む推定値),Dn*:周期外乱指令値のn次周波数成分ベクトル(抑制する場合は通常ゼロ),Dn^:周期外乱推定値のn次周波数成分ベクトル,TPDn*:周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトル。
【0079】
まず、周波数成分抽出器9では、位相情報θに対して周期外乱(トルクリプル)の抑制対象次数nを乗じたn次回転位相nθを用いて、トルク検出値τdetから周波数成分を抽出し、トルクリプルに同期したdnn回転座標系の周期外乱(トルクリプル)のn次周波数成分ベクトルTnに変換する。周期外乱のn次周波数成分ベクトルTnの変換式は(2)式に基づき以下の(8)式となる。
【0080】
【数8】
【0081】
速度変換器10では、n次回転位相nθを微分してn次回転周波数n・ωmを算出する。次に、逆モデル乗算部15において、(8)式で算出した周期外乱のn次周波数成分ベクトルTnに、逆モデルQn^を乗じて操作量推定値のn次周波数成分ベクトルUn^を求める。なお、(5)式に逆モデルQn^の算出式がある。この際、逆モデルQn^にはn次回転周波数n・ωmに同期した単一の周波数成分ベクトルが適用される。前述したとおり、逆モデルQn^には、第1の機能である「共振および非周期外乱抑制制御器7」の閉ループ伝達特性(すなわち、図12の指令値応答:トルク指令値からトルク検出までの周波数伝達特性)をマイナーループ特性として適用するため、図6のような共振特性は含まれず、動作周波数の変化、すなわち可変速運転に対して比較的ロバストな制御系を構築することができる。
【0082】
操作量推定値のn次周波数成分ベクトルUn^には周期外乱が含まれているため、操作量推定値のn次周波数成分ベクトルUn^から、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルTpDn*が低域通過フィルタGF(s)を通った値を差し引き、周期外乱推定値のn次周波数成分ベクトルDn^を推定する。なお、低域通過フィルタGF(s)を介するのは、周波数成分抽出器9に含まれる低域通過フィルタGF(s)の応答と合わせるためである。周期外乱指令値のn次周波数成分ベクトルDn*から推定した周期外乱推定値のn次周波数成分ベクトルDn^を減算し、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルTpDn*を算出することで、周期外乱を抑制できる。なお、フィルタ次数を1とした場合の低域通過フィルタGF(s)は(4)式となる。
【0083】
こうして生成した周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルTpDn*は、補償信号合成部11において、(9)式に基づいて周期外乱に同期したdnn回転座標系から元の時間波形に復元する。なお、nに複数の次数を設定して並列に構成することも可能であり、これら各次数の周波数成分を合算することにより、周期外乱補償信号τpd*が合成できる。
【0084】
【数9】
【0085】
以上より周期外乱抑制制御器4を構成し、その出力である周期外乱補償信号τpd*図8におけるトルク指令値τ*に加算することで、共振および非周期外乱抑制制御器7の新たな入力となる補正トルク指令値τr*を生成する。これにより、第1の機能である共振および非周期外乱抑制制御に加え、周期外乱抑制を同時に実現することができる。
【0086】
図15に、図8の構成で共振・非周期外乱・周期外乱を同時に抑制した場合のトルク波形例を示す。
【0087】
共振と非周期外乱のみを抑制した場合の図13と比較し、残留していた周期外乱の影響も除去され、トルクリプルや共振現象がさらに低減できていることが分かる。したがって、数値演算からも本実施形態1の効果が確認できる。
【0088】
本実施形態1では、共振と非周期外乱と周期外乱を同時に抑制することができる。また本制御方法をモータドライブシステムのトルク制御に適用した場合、トルク制御の精度を向上させることができる。
【0089】
[実施形態2]
実施形態1において(8)式によってトルク検出値τdetから周期外乱成分を抽出する際、トルク検出値τdetに含まれるTdncosnq+Tqnsinnqに着目すると、その周波数成分においては(10)式のように展開される。
【0090】
【数10】
【0091】
(10)式におけるTdncos2nθ+Tqnsin2nθ、Tqncos2nθ+Tdnsin2nθで発生している2n倍の周波数成分を、低域通過フィルタGF(s)によって除去することにより、dnn回転座標系で使用するn次周波数成分のTdnおよびTqnを抽出できる。
【0092】
一方、トルク検出値τdetに直流トルク成分Tdcが含まれる場合は、以下の(11)式のように展開される。
【0093】
【数11】
【0094】
(11)式のTdncos2nθ+Tqnsin2nθ+2Tdccosnθ、Tqncos2nθ+Tdnsin2nθ+2Tdcsinnθを(10)式と比較すると、(10)式で発生していた2n倍周波数成分に加えて、直流トルク成分Tdcに関する1n倍成分が発生することが分かる。同様に、低域通過フィルタGF(s)で除去しても良いが、2n倍成分のみの場合に比べて、1n倍成分は低周波数となり、低域通過フィルタGF(s)で除去するためにはカットオフ周波数をより低く設計する必要がある。
【0095】
低域通過フィルタGF(s)のカットオフ周波数は、周期外乱オブザーバの過渡応答性に直結するため、カットオフ周波数を可能な限り高くすることが望ましいが、前述のTdncos2nθ+Tqnsin2nθ+2Tdccosnθ、Tqncos2nθ+Tdnsin2nθ+2Tdcsinnθの影響を十分に除去することとのトレードオフの関係にある。
【0096】
カットオフ周波数が高すぎると、他の周波数成分の影響がdnn回転座標系に現れ、周期外乱オブザーバの安定性を損なう。一方で、カットオフ周波数が低すぎると、周期外乱オブザーバの安定性は向上するが、周期外乱抑圧の速応性が劣化し、可変速運転等の用途では特に問題となる。
【0097】
(10)式では、2n倍成分と直流成分を切り分けるカットオフ周波数を設定すれば良いが、直流トルク成分Tdcに重畳された周期外乱を抽出する(11)式の場合は1n倍成分も発生するため、1n倍成分と直流トルク成分Tdcを切り分ける必要がある。
【0098】
そのため、直流トルク成分Tdcが含まれない(10)式と比べて、カットオフ周波数の設定範囲が厳しくなり、速応性と安定性の両面で性能が劣化する可能性がある。
【0099】
そこで、本実施形態2では、図16に示すように、直流トルク成分Tdcを含むトルク検出値τdetに対して、高域通過フィルタ(ハイパスフィルタ)12を介した後に、周波数成分抽出器9に入力し、(10)式と等価の変換を行う。このハイパスフィルタ12は、直流トルク成分Tdcを除去し、2n倍には影響しない程度のカットオフ周波数に設定すれば良い。
【0100】
以上示したように、本実施形態2によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。直流トルク成分Tdcに重畳された周期外乱成分を一般化周期外乱オブザーバで抑制する際に、速応性と安定性の劣化を防止することができる。
【0101】
[実施形態3]
本実施形態3では、指令値と検出値の偏差に対して一般化周期外乱オブザーバを適用し、偏差に含まれる周期外乱を抑制する手法を説明する。図17は、トルク誤差に対して周期外乱抑制制御を実施する場合の制御構成図である。
【0102】
なお、このときの周期外乱抑制制御器8は、図14のトルク検出値τdetをトルク偏差Δτに置き換えて用いれば良い。また、周期外乱指令値のn次周波数成分ベクトルDn*は、トルク偏差をなくすことが目的であるから、ゼロに設定する。
【0103】
したがって、図14の制御ブロックを等価変換すると、周期外乱抑制制御器8は図18のように構成できる。図18に示すように、図16の減算器16,17が省略され、操作量推定値のn次周波数成分ベクトルUn^と周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルTpDn*を低域通過フィルタGF(s)に通した値と、を加算する加算器19が設けられている。また、加算器19の出力が周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルTpDn*となる。
【0104】
図18の周期外乱のn次周波数成分ベクトルTnは、(8)式のトルク検出値τdetにΔτを代入して求める。
【0105】
以上示したように、本実施形態3によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、実施形態2で説明したように、直流トルク成分Tdcに周期外乱が重畳された場合であっても、トルク偏差Δτを用いることで直流トルク成分Tdcが予め除去された状態で周期外乱オブザーバを動作させることが可能となる。
【0106】
すなわち、実施形態2で構成したようなハイパスフィルタは不要でありながら、実施形態2と同等の効果が得られ、図18のように、より簡素化された制御構成で実現できる利点がある。
【0107】
[実施形態4]
実施形態3の図18の構成において、一般化周期外乱オブザーバの周波数成分抽出に用いる低域通過フィルタGF(s)を(12)式に示す1次のローパスフィルタに設定した場合、図18図19のように制御ブロック図に等価変換できる。
【0108】
【数12】
【0109】
図19は、図18の周波数成分抽出器9を周波数成分変換器20に変更し、低域通過フィルタGF(s)を積分器13に変更している。すなわち、図18の周波数成分抽出器9の内部にある低域通過フィルタGF(s)を外に出す。そして、積分器13は、周波数成分抽出器9の内部にある低域通過フィルタGF(s)と後段の低域通過フィルタGF(s)と合成した結果で得られ、カットオフ周波数ωfと逆モデルをゲインとした単純な積分器13となる。このように図18図19に等価変換できる。ただし、図19の周波数成分変換器20は、(8)式の代わりに以下の(13)式を用いる。
【0110】
【数13】
【0111】
(13)式には低域通過フィルタGF(s)がないため、トルク偏差Δτに含まれる周期外乱の周波数成分を明示的に抽出することをせずに、直接、周期外乱補償値のn次周波数成分ベクトルTpDn*を生成することになる。
【0112】
以上より、本実施形態4によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、低域通過フィルタGF(s)を1次に限定した場合、トルク偏差Δτに対する一般化周期外乱オブザーバは、ゲインと積分器という非常に簡単な構成で実現できるため、制御に係る演算量を低減できる。
【0113】
[実施形態5]
これまでの実施形態1〜4では、共振および非周期外乱抑制制御器7において、定常トルクを含む低周波数域のトルク制御も実施するコントローラを設計していた。つまり、高周波数域にある共振抑制も含めて、全周波数帯域でのコントローラとなるが、一般にμ設計等のロバスト制御で全周波数帯域をカバーする制御器を設計した場合、制御性能が保守的になったり、コントローラの次数が高くなる傾向がある。
【0114】
そこで、本実施形態5では、図20に示すように共振および非周期外乱抑制制御器7において、高周波数領域にある共振抑制と非周期外乱抑制に注力し、定常トルク制御を含む低域トルク制御器14により一般的なPI制御器で実現し、それらをマイナーループに含んだ周期外乱抑制制御器8を付加する手法を説明する。
【0115】
図21は、トルク制御の例における制御の基本構成図となる。なお、本実施形態5における周期外乱抑制制御器8は、実施形態3のトルク偏差に対する一般化周期外乱オブザーバの構成を基に説明するが、もちろん実施形態1やそのほかの構成を採っても良い。
【0116】
まず、低域トルク制御器14の機能について説明する。
【0117】
2慣性共振系において、機械系の定常トルク(直流トルク)の特性はモータと負荷の慣性モーメントの比で決定づけられる。モータの慣性モーメントをJ1,負荷の慣性モーメントJ2とした場合、定常トルクτdet(dc)は(14)式で示される。なお、(dc)は直流成分を意味する。
【0118】
【数14】
【0119】
このように、簡易的に慣性比が分かれば、予めそのトルク誤差をある程度補正することも可能であるが、実際にはインバータのトルク誤差や慣性モーメントの設計値からの誤差,粘性摩擦損失等も含まれるため、トルクフィードバック制御によって定常トルクを制御する必要がある。
【0120】
一方で、図6に示したように高周波数領域では2慣性系によるシステム共振点があるため、一般的なPID制御等の構成で全周波数帯域に亘るトルクフィードバック制御を実施した場合、制御が不安定となりやすく、周波数領域での共振抑制を実施することは難しい。
【0121】
そこで、本実施形態5では、定常トルクを含む低周波数領域のトルク誤差をなくすためだけに寄与するPI制御器を構成する。一例として、図21に低域トルク制御器14の構成例を示す。
【0122】
図21では、一例として比例先行型I−P制御器を基本とし、その出力に低域通過フィルタGF(s)を介して直流トルク成分指令値τdc*を出力する構成を用いている。低域通過フィルタGF(s)は、高域にあるシステム共振特性の影響を除去するためのフィルタであり、このフィルタの通過帯域、すなわち、低周波数領域においてPI制御器が機能する構造を持つ。これにより、高周波帯域でPI制御器が不安定とならないように設計している。低域通過フィルタGF(s)の設計は任意であるが、例えば二項係数標凖形の2次ローパスフィルタで共振周波数の0.1倍程度のカットオフ周波数に設計する。
【0123】
低域通過フィルタGF(s)を用いることにより、本制御器が制御対象とするシステム特性は等価的に2次系ローパスフィルタ特性に近似されるため、本制御器の閉ループ特性は3次系となる。3次系の閉ループ特性を例えば二項係数標準形の参照モデルにマッチングさせることにより、(15)式のようにKp,Kiが求められる。
【0124】
ここで、ωcは、所望する任意の閉ループ応答周波数である。ωlpfは2次ローパスフィルタのカットオフ周波数、kは2次ローパスフィルタの係数(二項係数標準型は2,バターワース型は1.4など、フィルタ形式に従って指定する係数),a2およびa1は3次系参照モデルの係数(二項係数標準形ならばa1=a2=3,バターワース型ならばa1=a2=2など)である。
【0125】
【数15】
【0126】
この低域トルク制御器14によって、定常トルクを含む低周波領域のトルク誤差をなくし、安定的に制御することができる。ただし、低域トルク制御器14のみでは高周波数領域の共振を抑制することはできないので、前述の共振および非周期外乱抑制制御器7を用いて抑制する。
【0127】
低周波数領域のトルク追従制御は低域トルク制御器14で実現するため、高周波数領域の共振および非周期外乱抑制制御器7では、低周波数領域におけるコントローラゲインを低くした設計を行う。例えば、μ設計制御器を用いる場合、一般化プラントを図22のように構成し、μ設計制御器入力(補正指令値)rからμ設計制御器出力(操作量)uのゲインに対して、重み関数We(s)を介してμ設計制御器ゲインの評価出力を設定する。We(s)では、前述の低域トルク制御器14との制御干渉を防ぐために、低域に対する重み付けをする。図22の符号は以下の通りである。
J1:モータの慣性モーメント,J2:負荷の慣性モーメント,K12:軸ねじれ剛性,s:ラプラス演算子,Δτ:定常トルク誤差,Gtm(s):トルクメータ等の検出応答伝達関数,Ginv(s):インバータ応答伝達関数,d1:外乱(周期外乱を含む),d2およびr:μ設計制御器入力,d3:トルク検出ノイズ
z:定常トルク誤差の評価出力,w:定常トルク誤差による外乱入力,u:μ設計制御器出力(操作量),y:観測出力(検出値),e1:トルク検出値の評価出力,e2:インバータトルク指令の評価出力,e3:μ設計制御器ゲインの評価出力,Wn(s):外乱d1に対する重み関数,Wu(s):インバータトルク指令Uに対する重み関数,We(s):μ設計制御器ゲインに対する重み関数。
【0128】
実施形態1と同様に、伝達特性Cref(s)と伝達特性Ctm(s)をもつμ設計制御器を設計し、図11に示す構成で、図20の共振および非周期外乱抑制制御器7の部分に実装する。さらに、低域トルク制御器14が出力する直流トルク成分指令値τdc*と周期外乱抑制制御器8が出力する周期外乱抑制制御器出力τpd*を加算して、補正トルク指令値τr*を生成して共振および非周期外乱抑制制御器7に入力する。
【0129】
上述で得られた共振および非周期外乱抑制制御器7および低域トルク制御器14を実装し、周期外乱抑制制御器8のみは動作させない状態において、周期外乱抑制制御器出力τpd*からトルク検出値τdetまでの閉ループ周波数伝達特性を図23に示す。この周波数伝達特性を利用し、一般化周期外乱オブザーバの逆モデルQn^を設定する。このようにして、周期外乱抑制制御器8から見たマイナーループのモデルを設定し、周期外乱オブザーバを安定に動作させるとともに、共振・非周期外乱・周期外乱を同時に抑制する。
【0130】
本実施形態5によるトルク制御の結果を図24に示す。共振・非周期外乱・周期外乱を良好に抑制できていることが確認できる。
【0131】
本実施形態5によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、以下の効果が期待できる。
【0132】
低域と高域の制御器を分離することで、低域ではPID制御等の従来的手法で制御調整が容易となる。
【0133】
また、高域の共振抑制制御を実施するμ設計等のロバスト制御器では、低域のトルク追従性能を考慮する必要がなくなるため、共振抑圧性能や即応性向上を目指した設計が容易となる。
【0134】
[実施形態6]
実施形態1〜5に関わる「一般化周期外乱オブザーバ」は、特定周波数成分のみに寄与する周期外乱抑制制御器ではあるが、本実施形態6では、抑制したい次数を別個指定し、それらの一般化周期外乱オブザーバを並列化し、補償信号合成部において、並列化した周期外乱補償値を合算することで、複数の周波数成分の周期外乱を同時に抑制することができる。
【0135】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0136】
1…フィードバック制御器
2…制御対象システム
3…共振・外乱抑制制御器
4…周期外乱抑制制御器
5…トルク制御器
6…トルクメータ
7…共振および非周期外乱抑制制御器
8…周期外乱抑制制御器
9…周波数成分抽出器
10…速度変換器
11…補償信号合成部
12…高域通過フィルタ
13…積分器
14…低域トルク制御器
15…逆モデル乗算器
20…周波数成分変換器
【要約】
【課題】制御システムにおいて、システムの制御性能を高度化するために、共振,非周期外乱,周期外乱をすべて抑制する。
【解決手段】指令値r*と、制御対象システムの検出値yと、制御対象システムの位相情報θと、に基づいて、制御対象システムの操作量uを決定するフィードバック制御器1を備えた制御システムであって、フィードバック制御器1は、検出値yと位相情報θとに基づいて、周期外乱補償信号rpd*を出力する周期外乱抑制制御器4と、指令値r*と周期外乱補償信号rpd*とを加算した補正指令値rと、検出値yと、に基づいて、操作量uを算出する共振・外乱抑制制御器3と、を有する。周期外乱抑制制御器4は一般化周期外乱オブザーバを用いる。
【選択図】図2
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