特許第6197948号(P6197948)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許6197948-酸化バナジウムおよびその製造方法 図000008
  • 特許6197948-酸化バナジウムおよびその製造方法 図000009
  • 特許6197948-酸化バナジウムおよびその製造方法 図000010
  • 特許6197948-酸化バナジウムおよびその製造方法 図000011
  • 特許6197948-酸化バナジウムおよびその製造方法 図000012
  • 特許6197948-酸化バナジウムおよびその製造方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197948
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】酸化バナジウムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/02 20060101AFI20170911BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20170911BHJP
   C09K 5/02 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C01G31/02
   C01G41/00 A
   C09K5/02
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-511326(P2016-511326)
(86)(22)【出願日】2014年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2014083706
(87)【国際公開番号】WO2015151353
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-72530(P2014-72530)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 左京
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−187720(JP,A)
【文献】 Y. ZHANG et al.,Facile synthesis, phase transition, optical switching and oxidation resistance properties of belt-like VO2(A) and VO2(M) with a rectangular cross section,Materials Research Bulletin,2012年 4月16日,Vol.47, No.8,p.1978-1986
【文献】 J. QI et al.,Synthesis, characterization, and thermodynamic parameters of vanadium dioxide,Materials Research Bulletin,2007年 8月10日,Vol.43, No.8-9,p.2300-2307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化開始温度が450℃以上であり、4価のバナジウム(V4+)の酸化物を主成分とする酸化バナジウム。
【請求項2】
VおよびM(ここに、Mは、W、Ta、MoおよびNbから選択される少なくとも一種である)を含み、VとMの合計を100モル部としたときのMの含有モル部が0モル部以上モル部以下である酸化物を含むことを特徴とする、請求項に記載の酸化バナジウム。
【請求項3】
式: V1−x
(式中、Mは、W、Ta、MoまたはNbであり、xは、0以上0.05以下である)
で表される1種またはそれ以上の酸化物を含む、請求項1または2に記載の酸化バナジウム。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の酸化バナジウムを含む材料。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の酸化バナジウムの製造方法であって:
(1)(a)少なくとも1種の2価〜5価のバナジウムの酸化物、または
(b)少なくとも1種の2価〜5価のバナジウムの酸化物、および少なくとも1種のM(ここに、Mは、W、Ta、MoおよびNbから選択される)の酸化物
を含む原料を、850℃以上1200℃以下の温度にまで加熱する昇温工程;と
(2)昇温後の温度で保持する高温保持工程と
(3)降温工程と
を含み、昇温工程において、800℃での酸素分圧が、1×10−11MPa以下であり、高温保持工程の少なくとも一部期間において、酸素分圧が、1×10−7〜1×10−10MPaであり、降温工程において、800℃での酸素分圧が、1×10−13MPa以上、1×10−10MPa以下である、方法。
【請求項6】
原料がVを含む、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化バナジウムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウムの酸化物として、V、VO、V等の種々のものが存在することが知られている。中でもVOは、電子相転移する物質として知られており、この電子相転移に伴う潜熱を利用して、蓄熱材としての使用が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−163510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、上記のように蓄熱材として用いられている酸化バナジウムを、電子機器の冷却に利用できることを見出した。効率良い冷却のために、潜熱の大きい高純度のVOが必要になるが、酸化バナジウムには、酸素含有量、バナジウム価数の異なる相が存在する為、このような高純度のVOは、小規模では製造可能であっても、多量に安定して製造することは困難であった。
【0005】
さらに、本発明者は、高純度かつ粉末X線回折測定において、同程度の優れた結晶性を示すVOであっても、吸熱量が大きく異なること、即ち、同じ単相のVOであっても、吸熱量に差があることを見出した。特に、市販のVOは、一般的にNHVOを、4価のバナジウムが安定となる雰囲気下で熱処理することにより製造されているが、単にこのような雰囲気下で加熱することにより得られたVOは、冷却デバイスに用いるには吸熱量が小さいことが判った。
【0006】
さらに、本発明者は、酸化バナジウムの吸熱性は、粉砕工程を経ることにより、低下するという問題があることも見出した。
【0007】
従って、本発明の目的は、吸熱量が大きな酸化バナジウム、およびこのような酸化バナジウムを多量に安定して製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記問題を解消すべく鋭意検討した結果、安価で安定な原料であるVの融点(約800℃)が低く、VO合成時にこれが溶融し、原料の内部への酸素の出入りを阻害し、雰囲気が不均一化されることが、VOの純度の低下(つまり異相の生成)の原因であることに気づいた。そして、本発明者は、この問題を、合成時の酸素分圧を調整し、昇温過程において適切な還元雰囲気とすることにより解決できることを見出した。
【0009】
さらに、本発明者は、酸化バナジウムの吸熱性が、粉末X線回折では検出できない程度の結晶性の違い(例えば、酸素欠陥の違い)により影響を受けることを見出した。そして、この結晶性の違いが、示唆熱−熱重量測定(TG−DTA)により定量的に評価可能であることを見出し、TG−DTAにより導かれる酸化バナジウムの酸化開始温度(下記に詳しく説明する)が、400℃以上である場合に、優れた吸熱性を示すことを見出した。
【0010】
本発明の第1の要旨によれば、酸化開始温度が400℃以上であり、4価のバナジウム(V4+)の酸化物を主成分とする酸化バナジウムが提供される。
【0011】
本発明の第2の要旨によれば、上記の酸化バナジウムを含む材料が提供される。
【0012】
本発明の第3の要旨によれば、上記の酸化バナジウムの製造方法であって:
(1)少なくとも1種の2価〜5価のバナジウムの酸化物、および所望により少なくとも1種のM(ここに、Mは、W、Ta、MoおよびNbから選択される)の酸化物を含む原料を、850℃以上1200℃以下の温度にまで加熱する昇温工程;と
(2)昇温後の温度で保持する高温保持工程と
を含み、昇温工程において、800℃での酸素分圧が、1×10−11MPa以下であり、高温保持工程の少なくとも一部期間において、酸素分圧が、1×10−7〜1×10−10MPaである方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高純度かつ吸熱量の大きい酸化バナジウムを、大量に安定して合成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例で用いた「さや」の概略斜視図である。
図2図2は、実施例における表面部、中央部および底面部を説明する、VOを充填した図1のさやの概略断面図である。
図3図3は、試料番号2のVO、試料番号28のVO、および試料番号29のVOの粉末X線回折測定の結果を示す。
図4図4は、試料番号2のVO、試料番号28のVO、および試料番号29のVOの示唆熱−熱重量測定の結果を示す。
図5図5は、試料番号28〜57の吸熱量とロットの異なる未熱処理のDalian BNM社製VOの酸化開始温度の関係を示すグラフである。
図6図6は、酸化開始温度の定義を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の酸化バナジウムは、4価のバナジウム(V4+)の酸化物、即ちVOを主成分とする。
【0016】
ここで、主成分とは、酸化バナジウム中に90質量%以上含まれる成分を意味し、特に95質量%以上、好ましくは98質量%以上、より好ましくは98質量%以上、例えば98.0〜99.8質量%または実質的に100質量%含むことを意味する。また、主成分とは、酸化バナジウムが実質的にその成分からなることも含む。その他の成分としては、4価以外のバナジウムの酸化物、具体的には、限定するものではないが、VO、V、V、V、V、V、V11、およびV13等が挙げられる。
【0017】
一の態様において、本発明の酸化バナジウムは、他の原子、例えば、W、Ta、MoおよびNbから成る群から選択される1種またはそれ以上の原子を含んでいてもよい。このような原子を含ませる(ドープする)ことにより、酸化バナジウムが相転移する温度を調節することができる。
【0018】
好ましくは、本発明の酸化バナジウムは、VおよびM(ここに、Mは、W、Ta、MoおよびNbから選択される少なくとも一種である)を含み、VとMの合計を100モル部としたときのMの含有モル部が0モル部以上約5モル部以下である酸化物を含む。なお、Mは必須成分ではなく、Mの含有モル部は0であってもよい。
【0019】
別の好ましい態様において、本発明の酸化バナジウムは、式: V1−x
(式中、Mは、W、Ta、MoまたはNbであり、xは、0以上0.05以下である)
で表される1種またはそれ以上の酸化物を含む。
【0020】
本発明の酸化バナジウムは、酸化開始温度が400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃、さらに好ましくは550℃である。酸化開始温度が400℃以上である酸化バナジウムは、吸熱量が大きく、酸化開始温度が高くなるに伴い、より吸熱量が大きくなる(図5参照)。
【0021】
本明細書において、「酸化開始温度」とは、示唆熱−熱重量測定(TG−DTA:Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis)による200℃における重量を基準とした、重量増加率(%)−温度(℃)グラフにおいて、重量増加率が4%である点と2%である点を結んだ直線が温度軸と交わる温度と定義される(図6参照)。重量増加率は、下記式:
重量増加率(%)=W/W×100
(式中、Wは、基準重量であり、200℃における重量を意味し、Wは、温度Tにおける重量増加を意味する。)
から算出される。ここで200℃である理由は吸着した水などによる重量変化の影響を除去するためである。
【0022】
本発明の酸化バナジウムは、実質的にVOからなる場合、好ましくは50J/g以上、より好ましくは60J/g以上の吸熱量を有し得る。他の元素、例えばWがドープされている場合は、吸熱量は変化し得、例えば、好ましくは40J/g以上、より好ましくは50J/g以上の吸熱量を有し得る。
【0023】
吸熱量は、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)により測定することができる。
【0024】
一の要旨において、本発明は、上記の酸化バナジウムを含む材料を提供する。かかる材料は、特に限定されないが、電子機器の冷却デバイス、蓄熱材などに用いることができる。
【0025】
一の要旨において、本発明は、上記の酸化バナジウムの製造方法を提供する。
【0026】
本発明の方法は、(1)昇温工程と(2)高温保持工程を含む。
【0027】
以下、昇温工程について説明する。
【0028】
まず、2価〜5価のバナジウムの酸化物および単体のバナジウムからなる群から選択される少なくとも1種、および所望により少なくとも1種のM(ここに、Mは、W、Ta、MoおよびNbから選択される)の酸化物を含む原料を準備する。この原料は、粉末であることが好ましい。
【0029】
上記原料は、種々の酸化バナジウムを含んでいてもよく、例えば、VO、V、V、V、V、V、V11、およびV13等を含んでいてもよい。また、VO、特に酸化開始温度が400℃未満であるVOも原料として用いることができる。
【0030】
さらに、上記原料は、他の元素、例えばW、Ta、MoおよびNbから選択される1種またはそれ以上の元素を含んでいてもよい。これらの元素は、好ましくは、酸化物として、例えばWO、Ta、MoO、Nbとして含まれ得る。
【0031】
好ましい態様において、原料中に含まれるVとOのモル比は、約1:2である。このような比とすることにより、VOへの変化を促すことができる。
【0032】
次に、上記原料を、還元雰囲気下で徐々に昇温(加熱)する。
【0033】
昇温は、原料の温度が、850℃以上1200℃以下の温度、好ましくは900℃以上1100℃以下に達するまで行われる。
【0034】
昇温工程は、特に限定されないが、例えば、1〜10時間、好ましくは3〜6時間で行われる。
【0035】
昇温工程は、より強い還元雰囲気下で行われ、酸素分圧は、高温保持工程より昇温工程の方が低い。好ましくは、昇温工程における800℃での酸素分圧は、1×10−11MPa以下であり、より好ましくは1×10−12MPa以下である。このような酸素分圧とすることにより、融点の低いV(約800℃)が、より融点の高い価数の小さい酸化バナジウム、例えばVOやV等になりやすくなるので、昇温工程における原料の溶融等を防止することができる。その結果、原料粒子同士のネッキング等が防止され、また、反応系における酸素濃度がより均一に保たれ、純度の高い酸化バナジウムを得ることができる。
【0036】
従って、一の態様において、原料は、Vを含む。
【0037】
昇温工程における酸素濃度は、高温保持工程の酸素濃度より低く、その時点の温度でバナジウムが4価よりも還元される酸素濃度であってもよく、必ずしも一定である必要はない。例えば、より低温時には、比較的低い酸素濃度とし、高温になるに従って、徐々に酸素濃度を高くしてもよく、その逆でもよい。
【0038】
以下、高温保持工程について説明する。
【0039】
上記昇温工程にて加温した原料を、昇温後の温度、即ち850℃〜1200℃で保持する。
【0040】
保持時間は、昇温工程にて還元された原料が、十分にVOに酸化される時間であれば特に限定されず、例えば、1時間以上、好ましくは2〜6時間である。
【0041】
高温保持工程は、その保持工程の少なくとも一部の期間、バナジウムが4価で安定となりやすい雰囲気下、例えば1×10−7〜1×10−10MPaの酸素分圧下で行われる。
【0042】
高温保持工程の間、好ましくは、バナジウムが5価となるような酸化雰囲気下とならないように酸素濃度を制御する。このように制御することにより、バナジウムが5価となり、融点が低下することを防止することができる。
【0043】
本発明の方法によれば、高純度かつ吸熱量の大きい酸化バナジウムを、大量に安定して合成することが可能になる。いかなる理論によっても拘束されないが、本発明の方法により、吸熱量の大きい酸化バナジウムが得られる理由は以下のように考えられる。まず。高温保持工程より強い還元雰囲気下で酸化バナジウムの原料を昇温することにより、バナジウムが還元されやすくなり5価のバナジウム量が少なくなる。つまり工程において、融点の低い(約800℃)のVが還元され、原料の酸化バナジウムの融点が高くなる(具体的には800℃よりも高くなる)。融点が高くなることにより、高温保持工程において、酸化バナジウムの溶融による、雰囲気の不均一化が防止される。さらに、バナジウムは、酸素を失う反応(即ち、還元反応)よりも、酸素を獲得する反応(即ち、酸化反応)の方が進みやすいので、一旦目的の4価よりも還元し、それから4価まで酸化することにより、より均一なVOが得られると考えられる。
【0044】
好ましい態様において、本発明の方法は、酸素濃度が制御された降温工程を含んでもよい。
【0045】
降温工程における800℃での酸素分圧は、降温保持工程で得られたVOが酸化されないように、好ましくは、1×10−10MPa以下であり、より好ましくは1×10−11MPa以下である。また、再度還元されないように、800℃での酸素分圧は、好ましくは1×10−13MPa以上、好ましくは1×10−12MPa以上である。
【0046】
降温工程は、特に限定されないが、例えば、1〜10時間、好ましくは3〜6時間で行われる。
【0047】
好ましい態様において、本発明の酸化バナジウムの製造方法は、粉砕工程を含まないか、あるいは、粉砕工程を含む場合、粉砕時間は12時間以下、好ましくは6時間以下である。
【0048】
上記のように粉砕時間を制御することにより、粉砕による結晶性の低下、酸素欠陥の導入を抑制することができ、吸熱量の低下を防止することができる。粉砕時間等の最適化は、上記した酸化開始温度の指標を用いることにより行うことができる。
【実施例】
【0049】
・VおよびVからのVOの製造
出発原料として、純度99.8%の三酸化バナジウム(V)および純度99.9%の五酸化バナジウム(V)を準備した。これを、V/V=25/25の混合比で、出発原料を、総重量120gになるように秤量し、ポリポット容器に部分安定化ジルコニア(PSZ:Partial Stabilized Zirconia)ボール、純水、分散剤(サンノプコ製:SN5468)とともに入れて、16時間湿式粉砕を行った。その後、混合スラリーを乾燥し、整粒して、図1に示す100×100×50mm(内容積90×90×40mm)のムライト製のさやに入れて蓋をして、水/水素/窒素雰囲気中で、熱処理した。
【0050】
熱処理は、表1に示すように、昇温工程における800℃での酸素分圧、高温保持工程の温度および酸素分圧、ならびに降温工程における800℃での酸素分圧を変更して、試料番号1〜23(*を付した番号は比較例である)について行った。なお、昇温工程における開始温度は、室温であり、所定の温度まで、3.5時間で昇温した。高温保持工程は、4時間であった。降温工程は、室温になるまで静置して冷却した。
【0051】
熱処理中、酸素分圧は、150℃以上の区間では水蒸気量と窒素量を一定とし、酸素分圧をモニターし、水素量を調節することにより制御した。酸素分圧は、炉内のガスをサンプリングしてジルコニア式酸素分圧計で測定することによりモニターした。
【0052】
【表1】
【0053】
・VおよびVからのV0.9950.005の製造
出発原料として、上記した三酸化バナジウム(V)および五酸化バナジウム(V)に加え、酸化タングステン(WO)を準備した。これを、WO/V/V=0.5/25/24.75の混合比で、出発原料を、総重量120gになるように秤量した。その他の工程は、VOの製造と同様にして、試料番号24〜27(*を付した番号は比較例である)について、熱処理を行った。処理条件は、下記表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
・特性試験
(粉末X線回折測定)
上記で作成した試料番号1〜27について、粉末X線回折(XRD:X-ray Diffraction)測定を行い、結晶性を評価した。XRD測定では、図2に示すように、さやの表面部、中央部、そして底面部から、試料をサンプリングして測定を行った。結果を下記表3に示す。
【0056】
(示差走査熱量測定)
上記で作成した試料番号1〜27について、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)を行い、吸熱量(潜熱量)を評価した。結果を下記表3に併せて示す。
【0057】
【表3】
※表3において異相生成とはXRDの回折強度から主成分であるVOに対して、他の酸化バナジウムが20%以上存在していたことを示す。
【0058】
表3の結果から、本発明の製造方法によれば、単相で、かつ、吸熱量の高い酸化バナジウム(VO)を得ることができることが確認された。一方、昇温工程の800℃時点での酸素分圧が、本発明の範囲よりも高い試料番号1(1.0×10−8MPa)、試料番号7(1.0×10−9MPa)、試料番号13(2.2×10−10MPa)、試料番号14(1.0×10−8MPa)および試料番号17(1.0×10−8MPa)、高温保持工程の温度が、本発明の範囲外である、試料番号20(850℃)および試料番号21(1250℃)、ならびに、高温保持工程での酸素分圧が、本発明の範囲よりも高い試料番号5(1.0×10−6MPa)は、異相が生成し、吸熱量も小さくなった。また、データは示していないが、本発明のVOは、ロットによる吸熱量のばらつきがないことも確認された。
【0059】
これは、昇温工程の800℃時点での酸素分圧が、本発明の範囲よりも高い場合には、800℃時点で原料中にVが存在し、これが溶融し、異相を生成するためと考えられる。また、高温保持工程の温度が低い場合には、昇温工程で還元されたバナジウムが、4価まで十分に酸化されないためと考えられる。さらに、高温保持工程の温度が高い場合、および酸素分圧が高い場合には、バナジウムが4価以上に酸化されて、異相が生成するためと考えられる。
【0060】
・市販のVOと本発明のVOとの比較
2種の市販のVO(試料番号28および29)について、上記と同様に、DSC測定を行った。結果を、表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4から明らかなように、同じVOであっても、本発明の酸化バナジウム(試料番号30)と比較して、市販のVOは吸熱量が小さいことが確認された。また、ここでは示さないが、市販のVOは、ロットによって吸熱量がばらついており、ロットによっては50J/gを超える吸熱量を示すロットもあることを確認した。
【0063】
・従来の製法で製造したVOからの本発明のVOの製造
三酸化バナジウム(V)および五酸化バナジウム(V)の代わりに、試料番号28のVOを用いること以外は、試料番号1〜27と同様にして、試料番号31〜53のVOおよび試料番号54〜57のV0.9950.005を製造した。得られた試料について、上記と同様に、粉末X線回折測定および示差走査熱量測定を行った。結果を下記表6に示す(*を付した番号は比較例である)。
【0064】
【表5】
※表5において異相生成とはXRDの回折強度から主成分であるVOに対して、他の酸化バナジウムが20%以上存在していたことを示す。
【0065】
表5から明らかなように、吸熱量が低いVOであっても、本発明の方法に付すことにより、吸熱量が向上することが確認された。
【0066】
・吸熱量と酸化開始温度の関係
従来の製法により製造されたVOと本発明のVOの吸熱量を違いの原因を確認するため、試料番号2(試料番号30)、試料番号28および試料番号29について、粉末X線回折測定および示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)を行った。結果を、それぞれ、図3および図4に示す。
【0067】
図3から明らかなように、3つの試料間には、粉末X線回折測定で観測可能な結晶性の違いは見られなかった。しかしながら、図4から、TG−DTAでは、3つの試料は、明らかに重量増加の開始温度が異なっていることが確認された。VOは大気中で高温に熱処理すると、4価のVOからより高価数の5価のVへ酸化する。この酸化反応は、VO中に含まれる欠陥量に大きく影響されると考えられ、例えば酸素欠陥量が多ければより低温で酸化して重量が増加し、また、結晶性が低い場合も同様に低温で酸化されて重量が増加すると考えられる。したがって、これらの結果から、酸化バナジウム(VO)の吸熱量は、粉末X線回折では検出できない程度の僅かな結晶性の違い、特に酸素欠陥に起因するものであると考えられる。
【0068】
上記の吸熱量と酸化開始温度の関係を確認するため、試料番号31〜57についても、TG−DTA測定を行った。TG−DTA測定による200℃における重量を基準とした、重量増加率(%)−温度(℃)グラフにおいて、重量増加率が4%である点と2%である点を結んだ直線が温度軸と交わる温度を、「酸化開始温度」と定義し(図6参照)、各試料について酸化開始温度を求めた。結果を、吸熱量(J/g)−酸化開始温度(℃)のグラフにプロットした(図5)。
【0069】
図5から、酸化開始温度と吸熱量は強い相間を示し、酸化開始温度が高くなるに従い、吸熱量が向上することが確認された。このように、酸化開始温度は、吸熱量の指標として用いることができる。なお、本実施例では主にバナジウム酸化物を用いた結果を示したが、酸化開始温度と吸熱量の関係は原料としてバナジウム酸化物を利用したVOに限るものではなく、たとえばNHVOなどの塩を酸化して製造したVOにも適用される。
【0070】
・吸熱量と粉砕時間の関係
次に、試料番号2(試料番号30)の試料を用いて、粉砕による影響を調査した。
粉砕は100gの試料番号2のVO粉末と5φのPSZメディア(600g)と水(100g)を秤量し、500mlのポットにて、6、12、24および48時間粉砕し、それぞれの時間粉砕して得られたスラリーを乾燥させることにより試料を調製した。得られた試料番号58〜61の試料について、DCSおよびTG−DTA測定を行い、吸熱量と酸化開始温度の評価を行った。DCSの結果を下記表6、TG−DTAの結果を、図5に併せて示す。
【0071】
【表6】
【0072】
表6から明らかなように、粉砕により吸熱量の顕著な低下がみられた。これは粉砕により欠陥が導入されるためであると考えられる。実際、TG−DTA測定から求める酸化開始温度が、粉砕時間が長くなるに従い低下し、48時間粉砕した試料では酸化開始温度が400℃より低くなり、吸熱量も40J/g以下となった。したがって、優れた冷却能を有するVOを製造するためには、VOの熱処理条件の最適化に加え、粉砕など欠陥を誘起するプロセスにも細心の注意を払う必要があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の酸化バナジウムは、高い潜熱を有するため、電子機器の冷却デバイス等、種々の用途に好適に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6