特許第6197956号(P6197956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6197956-車両の制御装置、及びその制御方法 図000002
  • 特許6197956-車両の制御装置、及びその制御方法 図000003
  • 特許6197956-車両の制御装置、及びその制御方法 図000004
  • 特許6197956-車両の制御装置、及びその制御方法 図000005
  • 特許6197956-車両の制御装置、及びその制御方法 図000006
  • 特許6197956-車両の制御装置、及びその制御方法 図000007
  • 特許6197956-車両の制御装置、及びその制御方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197956
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】車両の制御装置、及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20170911BHJP
   B60W 10/101 20120101ALI20170911BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20170911BHJP
   B60W 10/107 20120101ALI20170911BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20170911BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20170911BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20170911BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20170911BHJP
   F16H 59/38 20060101ALI20170911BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   B60W10/00 114
   B60W10/06
   B60W10/107
   F16H61/66
   F16H61/04
   F16H59/18
   F16H59/74
   F16H59/38
   B60W10/08
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-535621(P2016-535621)
(86)(22)【出願日】2014年7月25日
(86)【国際出願番号】JP2014069756
(87)【国際公開番号】WO2016013124
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2017年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅司
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−007749(JP,A)
【文献】 特開2011−190872(JP,A)
【文献】 特開2006−170055(JP,A)
【文献】 特開2011−214453(JP,A)
【文献】 特開2000−220732(JP,A)
【文献】 特開平10−257610(JP,A)
【文献】 特開2005−170143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/101
B60W 10/107
F16H 59/18
F16H 59/38
F16H 59/74
F16H 61/04
F16H 61/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状態に応じて目標駆動力を設定し、前記目標駆動力を実現するよう駆動源の出力と無段変速機の変速比とを制御する駆動力制御を行う車両の制御装置であって、
前記駆動源により駆動可能な発電機を備え、
通常変速モードのとき、前記発電機の発電状態に基づいて前記駆動力制御を補正し、前記駆動源の回転速度変化を優先するリニア変速モードのとき、前記駆動力制御の補正を行わない、
車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記リニア変速モードは、運転者の加速要求に基づいて実行するかどうか切り替えられる、
車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御装置であって、
前記リニア変速モードの場合には、前記発電状態に基づく前記駆動力制御の補正をキャンセルする補正を行う、
車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御装置であって、
前記リニア変速モードの場合に、アクセル開度に基づいてアップシフト回転速度を設定し、アップシフト回転速度に基づいてアップシフト出力を設定し、前記発電状態に基づく前記駆動力制御の補正をキャンセルする補正を前記アップシフト出力に行う、
車両の制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車両の制御装置であって、
前記目標駆動力は、前記リニア変速モードで前記無段変速機をアップシフトする時に、前記補正されたアップシフト出力に基づいてステップ的に低減するように設定される、
車両の制御装置。
【請求項6】
運転状態に応じて目標駆動力を設定し、前記目標駆動力を実現するよう駆動源の出力と無段変速機の変速比とを制御する駆動力制御を行う車両の制御方法であって、
通常変速モードのとき、前記駆動源により駆動可能な発電機の発電状態に基づいて前記駆動力制御を補正し、
前記駆動源の回転速度変化を優先するリニア変速モードのとき、前記駆動力制御の補正を行わない、
車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置、及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無段変速機を制御する制御装置において、通常変速モードに加えて、有段変速機のような変速を無段変速機で行うリニア変速モードを有するものが、JP2010−7749Aに開示されている。リニア変速モードでは、エンジン回転速度がアップシフト判定回転速度となるとアップシフトが行われる。
【発明の概要】
【0003】
上記技術では、リニア変速モードのアップシフトでは、アップシフト先のエンジン回転速度が設定されており、エンジン回転速度がアップシフト判定回転速度となると、エンジン回転速度がアップシフト先のエンジン回転速度となるようにエンジンが制御される。
【0004】
また、無段変速機を有する車両において、車両の運転状態に応じて目標駆動力を設定し、目標駆動力に基づいて目標エンジン回転速度、および目標エンジントルクを設定する制御装置が知られている。このような車両では、目標エンジン回転速度に対応した目標入力回転速度となるように無段変速機が制御され、目標エンジントルクとなるようにエンジンが制御される。
【0005】
このような車両において、リニア変速モードでアップシフトを実現する際には、アップシフト先のエンジン回転速度が一旦設定され、設定されたエンジン回転速度を実現する目標駆動力が設定される。そして、この目標駆動力に基づいて、目標エンジン回転速度、および目標エンジントルクを設定し、無段変速機、及びエンジンを制御することで、無段変速機において有段変速機のような変速を行う。
【0006】
車両は、エンジンによって駆動可能な発電機を有し、発電機によって発電した電力を蓄電池に充電可能となっている。エンジンによって発電機を駆動し、発電を行う場合、蓄電池の蓄電状態に応じて目標エンジン回転速度が変更される。
【0007】
リニア変速モードを実行可能な制御装置を搭載した車両において、蓄電池の蓄電状態に応じて目標エンジン回転速度が変更されると、エンジン回転速度が、リニア変速モードにおけるアップシフト先のエンジン回転速度からずれるおそれがある。つまり、リニア変速モードでアップシフトを行う場合に、蓄電池の蓄電状態に応じてエンジン回転速度がアップシフト先のエンジン回転速度からずれ、このずれが運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、リニア変速モードでアップシフトを行う場合に、蓄電池の蓄電状態に応じてエンジン回転速度が変化することを抑制することを目的とする。
【0009】
本発明のある態様に係る車両の制御装置は、運転状態に応じて目標駆動力を設定し、目標駆動力を実現するように駆動源の出力と無段変速機の変速比とを制御する駆動力制御を行う車両の制御装置であって、駆動源により駆動可能な発電機を備え、通常変速モードのとき、発電機の発電状態に基づいて駆動力制御を補正し、駆動源の回転速度変化を優先するリニア変速モードのとき、駆動力制御の補正を行わない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本実施形態の車両の概略構成図である。
図2図2は本実施形態の目標変速比、目標エンジントルクの設定方法を説明する制御ブロック図である。
図3図3はSOCとSOC補正量との関係を示すマップである。
図4図4は最適燃費線を示すマップである。
図5図5は目標駆動力設定部を示す制御ブロック図である。
図6図6はアップシフト出力部を示す制御ブロック図である。
図7図7はリニア変速モードにおけるエンジン回転速度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1を参照すると、車両のエンジン1の出力はトルクコンバータ11を介して無段変速機12に入力される。無段変速機12はプライマリプーリ13とセカンダリプーリ14と、これらに掛け回されたVベルト15とを備える。プライマリプーリ13は油圧Ppriに応じて溝幅を変化させることで、Vベルト15との接触半径を変化させる。セカンダリプーリ14は油圧Psecに応じて溝幅を変化させることで、Vベルト15との接触半径を変化させる。結果として、無段変速機12は油圧Ppriと油圧Psecの制御に応じて、入力回転速度と出力回転速度の比、すなわち変速比を無段階に変化させる。油圧Ppriと油圧Psecは油圧供給装置16により生成される。
【0013】
セカンダリプーリ14はファイナルギア18とディファレンシャル19を介して駆動輪に結合する。
【0014】
エンジン1は吸気量を調整する吸気スロットル装置3を備える。吸気スロットル装置3は、エンジン1の吸気通路2に設けた吸気スロットル4と、吸気スロットル4の開度を入力信号に応じて変化させる電動モータ5を備える。
【0015】
エンジン1には、クラッチなどを用いて発電機8が断接可能となっている。蓄電池9の蓄電状態(以下、SOC(State Of Charge)と言う。)が少なくなるとクラッチが締結され、エンジン1によって発電機8が駆動され、発電機8は発電する。SOCは、蓄電池9の蓄電量、または蓄電池9の蓄電率である。発電機8によって生じた電力は、蓄電池9に充電される。蓄電池9は、電動モータ5などに電力を供給する。
【0016】
油圧供給装置16と吸気スロットル装置3はコントローラ21が出力する指令信号に応じて作動する。
【0017】
コントローラ21は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)および入出力インタフェース(I/O インタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ21を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0018】
コントローラ21には吸気スロットル4のスロットル開度を検出するスロットル開度センサ6、車両が備えるアクセルペダル7のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ22、エンジン1の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ23、プライマリプーリ回転速度を検出するプライマリプーリ回転速度センサ24、車両の走行速度を検出する車速センサ26、及び蓄電池9のSOCを検出する電流センサ27からの検出信号が入力される。
【0019】
コントローラ21はこれらの検出信号に応じて、吸気スロットル4の開度制御と、油圧供給装置16を介した無段変速機12の変速制御とを行うことで、車両の駆動力を制御する。
【0020】
コントローラ21は、運転者の加速要求に応じて、通常変速モードと、リニア変速モードとを切り替えてエンジン1、及び無段変速機12を制御する。通常変速モードは、運転者の加速要求がない場合、または加速要求が小さい場合に実行される制御モードである。リニア変速モードは、運転者の加速要求が大きい場合に実行される制御モードであり、エンジン1の回転速度変化を優先する制御モードである。リニア変速モードでは、エンジン回転速度の漸増、及び急減が繰り返し行われながら、車速が増大するように無段変速機12の変速比が段階的に変更され、無段変速機12において疑似有段変速が実行される。
【0021】
次に本実施形態の目標変速比、目標エンジントルクの設定方法について図2の制御ブロック図を用いて説明する。以下で説明する制御は、コントローラ21によって実行される。
【0022】
目標駆動力設定部30は、詳しくは後述するが、車速、アクセル開度、目標エンジン回転速度に基づいて目標駆動力を設定する。
【0023】
目標出力設定部31は、目標駆動力と、車速センサ26によって検出した現在の車速とに基づいて目標出力を設定する。
【0024】
第1補正部32は、目標出力をSOC補正量によって補正し、最終目標出力を設定する。具体的には、第1補正部32は、目標出力にSOC補正量を加算する。SOC補正量は、発電機8の発電状態に基づいて算出され、具体的には、電流センサ27からの信号に基づいて算出されるSOCに基づいて、図3に示すマップから算出される。図3は、SOCとSOC補正量との関係を示すマップであり、SOCが低くなるとSOC補正量は大きくなる。なお、第1補正部32において、目標出力がSOC補正量によって補正されることで、後述する目標エンジン回転速度も補正される。
【0025】
目標エンジン回転速度設定部33は、目標出力に基づいてマップから目標エンジン回転速度を設定する。ここで使用されるマップは、図4の最適燃費線を示すマップに基づいて作成されており、目標出力に基づいてエンジン1の燃費が良い目標エンジン回転速度が設定される。
【0026】
目標出力回転速度演算部34は、車速センサ26によって検出した車速に基づいてセカンダリプーリ回転速度を算出する。
【0027】
目標変速比設定部35は、目標エンジン回転速度をセカンダリプーリ回転速度で除算することで、目標変速比を設定する。
【0028】
目標エンジントルク設定部36は、目標駆動力と駆動輪の半径とを乗算し、乗算した値を目標変速比とファイナルギア比とで除算することで目標エンジントルクを設定する。
【0029】
このようにして設定された目標変速比、目標エンジントルクに基づいて無段変速機12の変速比、及びエンジン1の出力が制御される。
【0030】
次に、目標駆動力設定部30について図5を用いて詳しく説明する。図5は、目標駆動力設定部30の制御ブロック図である。
【0031】
アップシフト判定部40は、目標エンジン回転速度と、予め設定されたアップシフト判定値とに基づいてアップシフト判定フラグを出力する。アップシフト判定部40は、目標エンジン回転速度がアップシフト判定値になった時に、アップシフト判定フラグとして「1」を出力し、それ以外の場合にはアップシフト判定フラグとして「0」を出力する。アップシフト判定値は、予め設定されており、図4に示す最適燃費線に沿って、燃費の良い領域でアップシフトが行われ、車両が走行するように設定されている。例えば、最適燃費線の中でも、特に燃費の良い領域を選択し、選択した領域を使用して車両が走行するようにアップシフト判定値を設定することで、エンジン1を燃費の良い領域で使用することができる。目標エンジン回転速度がアップシフト判定値となる度にアップシフト判定フラグは、「1」となり、その後は再び「0」となる。なお、アップシフト判定値はアクセル開度に基づいて設定されている。これにより、アクセル開度に応じてアップシフトが行われるタイミングを設定することができる。
【0032】
車速更新判定部41は、アップシフト判定部40によって出力されたアップシフト判定フラグを反転させて車速更新判定フラグを出力する。車速更新判定フラグは、アップシフト判定フラグが「0」の場合には「1」であり、アップシフト判定フラグが「1」の場合には「0」である。
【0033】
加速要求判定部42は、アクセル開度センサ22によって検出されたアクセル開度に基づいて運転者による加速要求を判定する。具体的には、加速要求判定部42は、単位時間あたりのアクセル開度の増加量が第1所定増加量以上の場合には加速要求がされていると判定し、加速要求判定フラグとして「1」を出力する。加速要求判定部42は、単位時間あたりのアクセル開度の増加量が第1所定増加量よりも小さい場合には加速要求がされていないと判定し、加速要求判定フラグとして「0」を出力する。加速要求判定部42は、加速要求フラグを「1」とした後は、単位時間あたりのアクセル開度の増加量が、第2所定増加量よりも小さくなった場合に加速要求フラグを「0」に変更する。第2所定増加量は、第1所定増加量よりも小さい値であり、例えば負の値である。
【0034】
加速要求判定フラグが「0」の場合には、リニア変速モードではない通常変速モードが選択され、加速要求判定フラグが「1」の場合には、リニア変速モードが選択される。
【0035】
車速選択部43は、加速要求判定フラグと車速更新判定フラグとに基づいて車速を選択する。車速選択部43は、加速要求判定フラグが「0」から「1」に変更された時には、加速要求判定フラグが変更された時に車速センサ26によって検出された車速を選択する。その後、車速選択部43は、加速要求判定フラグが「1」であり、車速更新判定フラグが「1」の場合には、加速要求判定フラグが変更された時の車速を保持する。
【0036】
車速選択部43は、加速要求判定フラグが「1」であり、車速更新判定フラグが「1」から「0」に変更された時に、保持している車速を、車速更新判定フラグが変更された時に車速センサ26によって検出された車速に更新する。その後、車速選択部43は、加速要求判定フラグが「1」であり、車速更新判定フラグが「1」の場合には、更新された車速を保持する。このように、車速選択部43は、加速要求判定フラグが「1」である場合には、車速更新判定フラグが「1」から「0」に変更される度に、車速を更新し、その後は更新した車速を保持する。
【0037】
車速選択部43は、加速要求判定フラグが「0」の場合には、車速センサ26によって検出された現在の車速を選択する。
【0038】
アクセル開度補正部44は、アクセル開度センサ22によって検出されたアクセル開度をマップに基づいて補正する。補正されたアクセル開度は、補正される前のアクセル開度よりも小さくなる。
【0039】
アクセル開度選択部45は、加速要求判定フラグに基づいてアクセル開度を選択する。アクセル開度選択部45は、加速要求判定フラグが「0」から「1」に変更されてから車速更新判定フラグが初めて「1」から「0」に変更されるまでは、補正されたアクセル開度を選択し、これ以外の場合にはアクセル開度センサ22によって検出され、補正されていないアクセル開度を選択する。
【0040】
第1目標駆動力設定部46は、車速選択部43によって選択した車速と、アクセル開度選択部45によって選択したアクセル開度とに基づいて、マップから第1目標駆動力を設定する。
【0041】
加速要求判定フラグが「0」から「1」に変更されてから初めて車速更新判定フラグが「1」から「0」に変更されるまでは、アクセル開度選択部45によって選択されるアクセル開度は補正されたアクセル開度である。そのため、補正されていないアクセル開度基づいて設定される第1目標駆動力よりも第1目標駆動力が小さくなる。第1目標駆動力と車速とを乗算した目標出力に基づいて算出される目標エンジン回転速度がアップシフト判定値となると、アップシフト判定フラグが「0」から「1」に変更され、加速要求がされてから最初のアップシフトが行われる。この最初のアップシフトが行われるまでは、補正されたアクセル開度を用いて第1目標駆動力を設定することで、補正されていないアクセル開度を用いた場合と比較して、目標エンジン回転速度が低くなり、最初のアップシフトが行われるタイミングを遅らせることができ、最初のアップシフトが行われるまでの加速感を演出することができる。
【0042】
最終アップシフト出力設定部47について、図6を用いて詳しく説明する。図6は最終アップシフト出力設定部47の制御ブロック図である。
【0043】
アップシフトエンジン回転速度設定部60は、アクセル開度センサ22によって検出されたアクセル開度に基づいてマップからリニア変速モードにおけるアップシフト先のエンジン回転速度であるアップシフトエンジン回転速度を設定する。アクセル開度が大きくなると、アップシフトエンジン回転速度は高くなる。
【0044】
アップシフト出力設定部61は、アップシフトエンジン回転速度に基づいてマップからアップシフト出力を設定する。アップシフト出力は、図4の最適燃費線に沿って、燃費の良い領域でアップシフトが行われ、車両が走行するように設定されている。例えば、最適燃費線の中でも、特に燃費の良い領域を選択し、選択した領域を使用して車両が走行するようにアップシフト出力を設定することで、エンジン1を燃費の良い領域で使用することができる。アップシフトエンジン回転速度が高くなると、アップシフト出力は大きくなる。
【0045】
第2補正部62は、アップシフト出力をSOC補正量によって補正し、最終アップシフト出力を設定する。具体的には、第2補正部62は、アップシフト出力からSOC補正量を減算する。SOC補正量は、第1補正部32によって目標出力を補正するSOC補正量と同じである。つまり、第2補正部62では、第1補正部32による補正をキャンセルするようにアップシフト出力を補正する。これにより、第1補正部32によって補正が行われても、実質的にはSOCによる基づく補正が行われないことになる。
【0046】
図5に戻り、第2目標駆動力設定部48は、最終アップシフト出力を車速選択部43によって選択された車速で除算することで、第2目標駆動力を設定する。加速要求判定フラグが「1」であり、車速更新判定フラグが「1」の場合には、車速が保持されているので、第2目標駆動力は、保持された車速と最終アップシフト出力とに基づいて設定される。また、加速要求判定フラグが「1」であり、車速更新判定フラグが「1」から「0」に変更された時に、車速が更新されるので、第2目標駆動力は、更新された車速と最終アップシフト出力とに基づいて設定され、車速の更新前後でステップ的に減少する。
【0047】
加速要求反転部49は、加速要求判定フラグを反転して出力する。加速要求反転部49は、加速要求判定部42から出力された加速要求判定フラグが「0」の場合には、加速要求判定フラグを「1」にし、加速要求判定部42から出力された加速要求フラグが「1」の場合には、加速要求判定フラグを「0」にする。
【0048】
第1目標駆動力切替フラグ出力部50は、アップシフト判定フラグと、加速要求反転部49によって反転した加速要求判定フラグとに基づいて切替フラグを出力する。第1目標駆動力切替フラグ出力部50は、加速要求判定フラグが「0」(反転後は「1」)の場合には切替フラグとして「0」を出力する。第1目標駆動力切替フラグ出力部50は、加速要求判定フラグが「0」(反転後は「1」)から「1」(反転後は「0」)に変更された場合であっても、加速要求判定フラグが「1」(反転後は「0」)に変更されてからアップシフト判定フラグが初めて「0」から「1」に変更されるまでは、切替フラグとして「0」を出力する。第1目標駆動力切替フラグ出力部50は、加速要求判定フラグが「1」(反転後は「0」)の場合に、アップシフト判定フラグが「0」から「1」に変更されると、変更の度に切替フラグとして「1」を出力する。第1目標駆動力切替フラグ出力部50は、加速要求判定フラグが「1」(反転後は「0」)から「0」(反転後は「1」)に変更されると、切替フラグを「1」から「0」に変更する。
【0049】
第2目標駆動力切替フラグ出力部51は、加速要求判定フラグと切替フラグとに基づいて駆動力選択フラグを出力する。第2目標駆動力切替フラグ出力部51は、加速要求判定フラグが「0」の場合には、駆動力選択フラグとして「1」を出力する。第2目標駆動力切替フラグ出力部51は、加速要求判定フラグが「1」の場合には、切替フラグが「0」から「1」に変更された時に駆動力選択フラグとして「0」を出力し、これ以外の場合は駆動力選択フラグとして「1」を出力する。
【0050】
目標駆動力選択部52は、駆動力選択フラグに基づいて、目標駆動力基準値を選択する。目標駆動力選択部52は、駆動力選択フラグが「1」の場合には、第1目標駆動力設定部46によって設定された第1目標駆動力を目標駆動力基準値として選択する。目標駆動力選択部52は、駆動力選択フラグが「0」の場合には、第2目標駆動力設定部48によって設定された第2目標駆動力を目標駆動力基準値として選択する。
【0051】
目標駆動力選択部52は、加速要求判定フラグが「1」の場合に、アップシフト判定フラグが「1」に変更された時に、第2目標駆動力を駆動力基準値として設定する。目標駆動力選択部52は、加速要求判定フラグが「1」の場合であっても、アップシフト判定フラグが「1」に変更された時以外は、第1目標駆動力を目標駆動力基準値として設定する。
【0052】
目標駆動力補正値設定部53は、車速センサ26によって検出された車速と、アクセル開度とに基づいてマップから目標駆動力補正値を設定する。目標駆動力補正値は、車速が高くなると大きくなり、アクセル開度が大きくなると大きくなる。目標駆動力補正値は、車両の走行抵抗が大きくなると、大きくなるように設定されている。そのため、走行抵抗が大きくなる運転状態においても、補正値で目標駆動力基準値を補正することで十分な加速性を得ることができる。
【0053】
目標駆動力補正選択部54は、加速要求判定フラグに基づいて最終目標駆動力補正値を選択する。目標駆動力補正選択部54は、加速要求判定フラグが「0」の場合には、ゼロを最終目標駆動力補正値として選択する。目標駆動力補正選択部54は、加速要求判定フラグが「1」の場合には、目標駆動力補正値を最終目標駆動力補正値として選択する。
【0054】
最終目標駆動力設定部55は、目標駆動力基準値と最終目標駆動力補正値とを加算して目標駆動力を設定する。加速要求判定フラグが「0」の場合には、最終目標駆動力補正値はゼロなので、目標駆動力基準値が目標駆動力となる。
【0055】
以上のようにして目標駆動力設定部30は目標駆動力を設定する。
【0056】
本実施形態では、加速要求判定フラグが「0」の場合には、通常変速モードが選択され、車速選択部43によって現在の車速が選択され、現在の車速に基づいた第1目標駆動力が基準目標駆動力として選択される。そして、第1補正部32によってSOCに基づく補正が行われた最終目標出力が設定され、最終目標出力に基づいて目標変速比、及び目標エンジントルクが設定され、無段変速機12、及びエンジン1が制御される。そのため、エンジン1によって発電機8を駆動させた場合でも、車両を目標駆動力に応じた駆動力で走行させることができる。
【0057】
一方、加速要求判定フラグが「1」の場合には、リニア変速モードが選択され、アップシフト判定フラグが「1」(車速更新判定フラグが「0」)となるまでは、車速選択部43によって保持された車速が選択され、保持された車速に基づいた第1目標駆動力が目標駆動力基準値として選択される。そして、アップシフト判定フラグが「1」になった時に、車速選択部43によって保持された車速が更新されるとともに、更新された車速に基づいた第2目標駆動力が目標駆動力基準値として選択される。第2目標駆動力は、第1補正部32による補正をキャンセルする補正が第2補正部62によって行われて設定されている。そのため、その後、第1補正部32によってSOCに基づく補正が行われても、結果的にSOCに基づく補正が行われないことになる。従って、リニア変速モードのアップシフト時には、SOCに関係なく最終目標出力が設定され、最終目標出力に基づいて目標変速比、及び目標エンジントルクが設定され、エンジン1、及び無段変速機12が制御される。これにより、リニア変速モードにおいて疑似有段変速が実行され、アップシフト時のエンジン回転速度がアップシフトエンジン回転速度に一致する。
【0058】
リニア変速モードのアップシフト時に第2補正部62によって第1補正部32による補正をキャンセルする補正を行わない場合には、図7に示すように、第1補正部32による補正が行われることでエンジン回転速度が、アップシフトエンジン回転速度からずれる場合がある。図7では、第2補正部62によって第1補正部32による補正をキャンセルした場合を実線で示し、第2補正部62によって第1補正部32による補正をキャンセルしない場合を破線、及び一点鎖線で示す。図7では、第1補正部32におけるSOC補正量が正の場合を破線で示し、SOC補正量が負の場合を一点鎖線で示す。第2補正部62によって第1補正部32による補正をキャンセルしない場合には、リニア変速モードのアップシフト時のエンジン回転速度がSOC補正量に応じて変更される。本実施形態では、第2補正部62によって第1補正部32による補正をキャンセルすることで、リニア変速モードのアップシフト時のエンジン回転速度はSOCによらず一定となる。
【0059】
次に本実施形態の効果について説明する。
【0060】
リニア変速モードでは、エンジン回転速度の増加と、アップシフトとが繰り返し行われることで、リズム感のよい加速を実現している。そのため、アップシフト時に所定のエンジン回転速度の変化からずれた変化が生じると、加速不足や、リズム感が崩れ、運転者に違和感を与える。
【0061】
本実施形態では、通常変速モードの場合には、SOCに基づいて目標エンジン回転速度を補正し、リニア変速モードの場合には、SOCに基づいて目標エンジン回転速度を補正しない。これにより、リニア変速モードのアップシフト時のエンジン回転速度はSOCによって変更されず、リニア変速モードのアップシフト時のエンジン回転速度の変化も一定となる。従って、運転者に違和感を与えることを抑制することができる。
【0062】
リニア変速モードと通常変速モードとを運転者の加速要求に応じて切り替えられる。運転者の加速要求がない、または小さい通常変速モードでは、SOCによらず車両に発生する駆動力は目標駆動力となる。また、運転者の加速要求が大きいリニア変速モードでは、リズム感のよい加速を実現することができる。
【0063】
リニア変速モードのアップシフト時にアップシフトエンジン回転速度を設定し、アップシフトエンジン回転速度に基づいてアップシフト出力を設定する。また、SOCに基づく補正をキャンセルする補正をアップシフト出力に行う。これにより、その後、SOCに基づく補正が行われても、目標エンジン回転速度がアップシフトエンジン回転速度からずれることがない。そのため、リニア変速モードのアップシフト時に運転者に違和感を与えることを抑制することができる。
【0064】
リニア変速モードにおいて、ステップ的に目標駆動力を低減する際に、SOCに基づく補正をキャンセルする補正を行ったアップシフト出力に基づいて、目標駆動力を設定する。これにより、特に運転者に違和感を与えやすいアップシフト時において、運転者に違和感を与えることを抑制することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0066】
上記した無段変速機12はハイブリッド車両に搭載してもよく、モータが駆動源として機能しても良い。
【0067】
上記実施形態では、第1補正部32において目標出力に対して補正を行い、第2補正部62においてアップシフト出力に対して第1補正部32における補正をキャンセルする補正を行ったが、これに限られることはない。通常変速モードにおいてSOCに基づいて目標エンジン回転速度を補正し、リニア変速モードにおいてSOCに基づいて目標エンジン回転速度が補正されないようにできればよい。
【0068】
また、第1目標駆動力切替フラグ出力部50において、切替フラグとして「1」を出力した後は、加速要求判定フラグが「1」(反転後は「0」)から「0」(反転後は「1」)に切り替えられるまで切替フラグを「1」とし、加速要求判定フラグが「1」(反転後は「0」)から「0」(反転後は「1」)に切り替えられた時に、切替フラグを「1」から「0」に変更してもよい。また、加速要求判定フラグに基づいて第1補正部32による補正を行うかどうか選択する選択部を設け、加速要求判定フラグが「0」の場合に第1補正部32による補正を行い、加速要求判定フラグが「1」の場合に第1補正部32による補正を行わないようにしてもよい。これらによっても、リニア変速モード時にSOCに基づく補正が行われないようにすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7