(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197958
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】切削インサートおよび刃先交換式切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20170911BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20170911BHJP
B23C 9/00 20060101ALN20170911BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
!B23C9/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-542282(P2016-542282)
(86)(22)【出願日】2016年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2016061051
(87)【国際公開番号】WO2016163341
(87)【国際公開日】20161013
【審査請求日】2016年6月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-77361(P2015-77361)
(32)【優先日】2015年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐治 龍一
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋介
【審査官】
青山 純
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2002/0189414(US,A1)
【文献】
特開2010−149234(JP,A)
【文献】
特開2011−025407(JP,A)
【文献】
特表2002−518192(JP,A)
【文献】
特開2011−016225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00 − 9/00
B23B 27/00 − 29/34
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1の端面および第2の端面と、該第1の端面と該第2の端面とを接続する周側面と、前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部に形成される第1切れ刃と、前記第2の端面と前記周側面との交差稜線部に形成される第2切れ刃と、該周側面に形成され一方端が前記第1の端面に達し、他方端が前記第2の端面に達する少なくとも1つの溝部とを備える切削インサートであって、
前記少なくとも1つの溝部のうちの所定溝部は、前記第1切れ刃を分割しかつ前記第2切れ刃を分割し、前記第1の端面での開口幅が前記第2の端面での開口幅と異なるように形成され、
前記所定溝部は、一定の幅で延びる直線状溝部と、該直線状溝部につながり幅が変化する幅変化部とを含む、
切削インサート。
【請求項2】
前記幅変化部は、前記直線状溝部と平行に延びる第1縁部と、幅が変化するように該第1縁部と非平行に延びる第2縁部とを有する、
請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記直線状溝部は前記第1の端面に開口し、
前記幅変化部は前記直線状溝部と異なる幅を有し、かつ前記第2の端面に開口する第2直線状溝部にさらにつながる、
請求項1または2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記第1の端面は、略多角形形状であり、
前記第1切れ刃は、第1コーナ部に形成されたコーナ切れ刃と、該コーナ切れ刃につながり該第1コーナ部の隣にある第2コーナ部に向けて延びる主切れ刃とを備え、
前記周側面に対向する方向から前記切削インサートをみたとき、前記主切れ刃は、前記第2の端面に向って凹に湾曲し、最も該第2の端面に近付く箇所が前記第1コーナ部と前記第2コーナ部とのほぼ中央にあるように形づくられている、
請求項1または2に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部に複数の第1切れ刃を備え、
前記第2の端面と前記周側面との交差稜線部に複数の第2切れ刃を備え、
前記第1の端面と前記第2の端面とを貫通するように延びる第1軸線を定めるとき、
前記第1の端面に関する前記複数の第1切れ刃および前記第2の端面に関する前記複数の第2切れ刃は該第1軸線に関して回転対称である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記第1の端面の端面視と前記第2の端面の端面視とを重ねたとき、
前記第1の端面の前記溝部の開口部は、前記第2の端面の前記溝部の開口部と重ならない、
請求項1から5のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の切削インサートと、各々に該切削インサートが着脱自在に取り付けられる少なくとも2つのインサート取付部を備えるボデーと、を備え、
前記少なくとも2つのインサート取付部のうちの第1インサート取付部には、前記切削インサートが前記第1切れ刃が作用切れ刃となるように固定され、
前記少なくとも2つのインサート取付部のうちの第2インサート取付部には、前記第2切れ刃が作用切れ刃となるように前記切削インサートが固定される、
刃先交換式切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削加工に用いられる切削インサートおよび刃先交換式切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削インサートには、切れ刃を分断するように延びる溝部(いわゆる「ニック」)を備えるものがある。例えば、特許文献1は、対向する上面及び下面と、これらの間に延在する周側面と、上下面を貫通するように延びる貫通孔と、上面と周側面との交差稜線部に形成された切れ刃とを備える切削インサートを開示する。この切削インサートでは、各主切れ刃に対して、該主切れ刃を4つの部分に分割するように3つの溝部が設けられている。各溝部は周側面の逃げ面において貫通孔の軸線に平行に延びている。これらの溝部によって複数の部分に主切れ刃を分断することにより、生成される切りくずを細かくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−238342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のニックが形成された上記切削インサートでは、ニックが形成されていないものに比べて、切削時に加わる切削抵抗が小さくなり、それにより、びびりの抑制効果は高まっている。近年、生産性のさらなる向上のため、より切削条件が厳しくなり、それにより、より一層のびびり抑制効果に対する要望が高まっている。
【0005】
本発明は、びびり抑制効果に優れた切削インサートおよび刃先交換式切削工具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる切削インサートは、対向する第1の端面および第2の端面と、該第1の端面と該第2の端面とを接続する周側面と、前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部に形成される第1切れ刃と、前記第2の端面と前記周側面との交差稜線部に形成される第2切れ刃と、該周側面に形成され一方端が前記第1の端面に達し、他方端が前記第2の端面に達する少なくとも1つの溝部とを備える切削インサートであって、前記少なくとも1つの溝部のうちの所定溝部は、前記第1切れ刃を分割しかつ前記第2切れ刃を分割し、前記第1の端面での開口幅が前記第2の端面での開口幅と異なるように形成されている。
【0007】
本発明の切削インサートの所定溝部は、一定の幅で延びる直線状溝部と、該直線状溝部につながり幅が変化する幅変化部とを含むと好ましい。
【0008】
本発明の切削インサートの幅変化部は、前記直線状溝部と平行に延びる第1縁部と、幅が変化するように該第1縁部と非平行に延びる第2縁部とを有すると好ましい。
【0009】
本発明の切削インサートの直線状溝部は前記第1の端面に開口し、前記幅変化部が前記直線状溝部と異なる幅を有し、かつ前記第2の端面に開口する第2直線状溝部にさらにつながると好ましい。
【0010】
本発明の切削インサートは前記第1の端面が略多角形形状であり、前記第1切れ刃が、第1コーナ部に形成されたコーナ切れ刃と、該コーナ切れ刃につながり該第1コーナの隣にある第2コーナ部に向けて延びる主切れ刃とを備え、前記周側面に対向する方向から前記切削インサートをみたとき、前記主切れ刃が前記第2の端面に向って凹に湾曲し、最も該第2の端面に近付く箇所が前記第1コーナ部と前記第2コーナ部とのほぼ中央にあるように形づくられていると好ましい。
【0011】
本発明の切削インサートは、前記第1の端面と前記周側面との交差稜線部に複数の第1切れ刃を備え、前記第2の端面と前記周側面との交差稜線部に複数の第2切れ刃を備え、前記第1の端面と前記第2の端面とを貫通するように延びる第1軸線を定めるとき、前記第1の端面に関する前記複数の第1切れ刃および前記第2切れ刃が該第1軸線に関して回転対称である、と好ましい。
【0012】
本発明の切削インサートは、前記第1の端面の端面視と前記第2の端面の端面視とを重ねたとき、前記第1の端面の前記溝部の開口部は、前記第2の端面の前記溝部の開口部と重ならないと好ましい。
【0013】
本発明の刃先交換式切削工具は、本発明の切削インサートと、各々に該切削インサートが着脱自在に取り付けられる少なくとも2つのインサート取付部を備えるボデーと、を備え、前記少なくとも2つのインサート取付部のうちの第1インサート取付部には、前記切削インサートが前記第1切れ刃が作用切れ刃となるように固定され、前記少なくとも2つのインサート取付部のうちの第2インサート取付部には、第2切れ刃が作用切れ刃となるように前記切削インサートが固定される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明の第1実施形態に係る切削インサートの斜視図である。
【
図2】
図2は
図1の切削インサートを別の角度から見た斜視図である。
【
図6】
図6は
図1の切削インサートの正面図であって、ニックの各部位における幅について説明する図である。
【
図7】
図7は上面の外形形状と下面の外形形状とを重ねた状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は
図1の切削インサートを装着した、本発明の第1実施形態に係る刃先交換式切削工具の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を用いて説明する。本発明の実施形態に係る切削インサート10は
図1から
図5に示される。切削インサート10は、直角肩削り用に形成されている。切削インサート10は、2つの対向する端面20、30と、これら2つの端面20、30をつなぐ周側面40とを備える。説明をわかりやすくするため、以降では、便宜的に一方の端面20を上面20と、他方の端面30を下面30と呼ぶ。なお、2つの端面20、30のうちのいずれか一方が本発明の第1の端面に相当し、残りの端面が本発明の第2の端面に相当する。また、以下の説明では「上」や「下」といったような物体間または部分間の相対的な位置関係を示す文言が使用されることがあるが、それらは参照する図面の中での位置関係を示すだけのものであり、絶対的な位置関係を説明するものではない。
【0016】
切削インサート10は、上面20と下面30とに開く貫通孔50を備える。周側面40が貫通孔50の中心軸線A1に略平行に延びるように形成されている。つまり切削インサート10は、いわゆるネガティブタイプの切削インサートである。
【0017】
上面20に対向する方向から切削インサート10をみたとき(つまり
図3において)、上面20は三角形に近似した形状を有する。したがって、上面20に3つのコーナ部28がある。上面20は貫通孔50の中心軸線A1に対して120°回転対称な形状になっている。
下面30も上面20と同じく、下面30に対向する方向から切削インサート10をみたとき(つまり
図4において)、三角形に近似した形状を有し、3つのコーナ部38を有する。後述するように、周側面40に溝部41が形成されているため、上面20の辺稜部の形状と、下面30の辺稜部の形状とは異なるが、溝部41が形成されていない場合の上面20の外形形状と、溝部41が形成されていない場合の下面30の外形形状とは一致する。したがって、溝部41が形成されていないと仮定すると、中心軸線A1に直交すると共に周側面40を貫通するように定められる軸線A2周りに、上面20は下面30と180°回転対称である。下面30は貫通孔50の中心軸線A1に対して120°回転対称な形状になっている。なお、
図3で示した軸線A2は一例であることに留意されたい。
上面20が3つのコーナ部28を備えることに対応して、上面20と周側面40との交差稜線部には3つの切れ刃(以下、上切れ刃)21が形成されている。同様に、下面30が3つのコーナ部38を備えることに対応して、下面30と周側面40との交差稜線部には3つの切れ刃(以下、下切れ刃)31が形成されている。
上切れ刃21は、コーナ切れ刃22aと、主切れ刃22bとを有する。コーナ切れ刃22aは、コーナ部28に延在する。主切れ刃22bは、隣り合う2つのコーナ部28の間の辺稜部に延在する。直角肩削り用の切削インサート10あるので、
図3に示すように、上面から見たとき、主切れ刃22bは切削インサート10の外方に凸状に湾曲するように形成されている。このことにより、より直角度の高い壁を加工できるようになる。
下切れ刃31も、上切れ刃21と同様の構成を有する。下切れ刃31は、コーナ切れ刃32aと、主切れ刃32bと、を有する。コーナ切れ刃32aは、コーナ部38に延在する。主切れ刃32bは、隣り合う2つのコーナ部38の間の辺稜部に延在する。下切れ刃31の主切れ刃32bも上切れ刃21の主切れ刃22bと同様に切削インサート10の外方に凸状に湾曲するように形成されている。
周側面40には上下面20、30のそれぞれにまで達する複数の溝部41が形成されている。これらの溝部41は、周側面40のうちの、上下面20、30の中心軸線A1方向に並ぶ対応する主切れ刃22b、32b間に延在する側面部分40aに形成されている。
切削インサート10では、3つの側面部分40aがあり、各側面部分40aに3つの溝部41が形成されている。したがって、上面20の各辺稜部(つまり各主切れ刃22b)には3つの切り欠き部が形成されていて、下面30の各辺稜部(つまり各主切れ刃32b)には3つの切り欠き部が形成されている。
【0018】
上で述べたように、溝部41に関する構成を除いて、上面20は下面30と軸線A2に対して回転対称であるので、以下の説明では上面20を中心に説明する。下面30については上面20と共通する部分の説明を割愛し、上面20との相違点のみ説明する。また、溝部41は所謂「ニック」であるので、以下の説明では「ニック」と称される。
【0019】
切削インサート10は、上面20側に3つの上切れ刃21を備え、下面30側に3つの下切れ刃31を備える。したがって、切削インサート10は、6つの切れ刃を備え、少なくとも6回の使用が可能である。上切れ刃21および下切れ刃31のうちいずれか1つの切れ刃を作用切れ刃とするように後述する工具ボデーに切削インサート10が取り付けられるとき、上面20または下面30の一部がすくい面として機能し、周側面40の一部が逃げ面として機能する。
【0020】
図5に示すように、切削インサート10を側面視するとき、特に側面部分40aに対向する方向から見るとき、上切れ刃21は上面20側から下面30側に向かって傾斜する第1傾斜部21aと、第1傾斜部21aとは逆に下面30側から上面20側に向かって傾斜する第2傾斜部21bと、を備える。そのため、切れ刃21およびニック41の底部と上面20との交差稜線部を全体として滑らかな連続した1つの仮想稜線部として見るとき、その仮想稜線部は下面30側に向かって凹むように湾曲している。切削インサート10では、その仮想稜線部の中で最も下面30側に位置する箇所P(最下点)は、隣り合う2つのコーナ部28a、28bの中央付近にある。
【0021】
周側面40に設けられた複数のニック41は、上下面20、30のそれぞれに開口する。各ニック41は、中心軸線A1に概ね平行に延在する。
図5に示すように、1つの主切れ刃22bに関する3つのニック41のうちの中央のニック41aは、最下点Pを含む範囲に位置付けられている。より具体的には、仮想稜線の最下点Pはニック41aの底部と上面20との交差部にある。
【0022】
側面視したとき(つまり
図5において)、ニック41は2つのコーナ部28a、28bの中央に対して左右対称に配置されていない。つまり、1つの上切れ刃21に関する3つのニック41は、全体的に
図5において左側のコーナ部28a寄りに形成される。
図7は上面20の
図3の外形形状を示す模式図と、下面30の
図4の外形形状を示す模式図とを、それぞれのコーナ部どうしが重なるように配置した図である。
図7に示すように、ニック41が上述したように一方のコーナ部へ偏って形成されることで、上面20側から見たニック41の位置と下面30側から見たニック41の位置とは、互いに対して重なることなく、ずれる。したがって、切削インサート10をボデーに装着して被加工物を加工した際に、削り残しが生じない。
【0023】
図5、
図6に示すように、1つの上切れ刃21に着目すると、コーナ部28aの最も近くに位置するニック(所定溝部)41bは、それ以外のニック41とは異なる形状を有する。例えば、3つのニックのうちの中央のニック41aは、中心軸線A1方向においてその断面形状が変わらないように構成されている。これに対して、ニック41bは、上面20側から下面30側にいたる途中で拡幅するように、その断面形状が途中で変化する特殊な形状になっている。より具体的には、ニック41bは、溝幅W1の第1の直線状溝部42aと、上面20側から下面30側に向かうにしたがい拡幅する幅変化部42bと、溝幅W2の第2の直線状溝部42cとを備える。第1の直線状溝部42aは、上端が上面20に達し、一定の溝幅W1を保ったまま切削インサート10の厚み方向つまり中心軸線A1に平行に延びる。幅変化部42bは、第1の直線状溝部42aと第2の直線状溝部42cとに接続する。この幅変化部42bにおいて、一方の縁部42bA(コーナ部28aから遠い側の縁部)は前述の中心軸線A1に沿って延び、他方の縁部42bB(コーナ部28aに近い側の縁部)は上面20側から下面30側に向かうにしたがい拡幅する方向に傾斜する。第2の直線状溝部42cは、幅変化部42bの下端における溝幅W2を保ったまま中心軸線A1に平行に延びる。ニック41bの下面30における開口部の溝幅W2は、上面20における開口部の溝幅W1よりも広く、ほぼ2倍になっている。なお、ニックに関してここでいう「平行」とは厳密な意味での平行ではなく、軸線A1に対して±1°程度の傾斜を許容する概念である。なお、ニック41b以外のニック(ニック41aを含む)は、概ね、溝幅W1を有するように形成されている。
【0024】
次に、上述した切削インサート10を装着する刃先交換式切削工具100について説明する。
図8および
図9に示すように、切削工具100は、上述した切削インサート10と、略円筒状のボデー110と、を備える。ボデー110は、先端側から基端側に延びる回転軸線を有し、この回転軸線周りに被加工物に対して相対的に回転されて用いられるように構成されている。ボデー110の先端部(先端側の部分)の外周には、切削インサート10を取り付けるためのインサート取付部が四つ形成されている。四つのインサート取付部に載置される四つの切削インサート10のうちの2つの切削インサート10aは上面20がすくい面となるように載置され、残りの2つの切削インサート10bは下面30がすくい面となるように載置される。切削インサート10aと切削インサート10bとは交互に配置される。このようにすることで、
図7に示したように、上面20に形成された上切れ刃21の回転軌跡と、下面30に形成された下切れ刃31の回転軌跡とがずれて重なる。つまり、作用上切れ刃21での切削時にニック41によって切削されない箇所を作用下切れ刃31で切削することができる。同様に、作用下切れ刃31での切削時にニック41によって切削されない箇所を作用上切れ刃21で切削することができる。刃先交換式切削工具100の回転軸線を中心とした径方向について、切削インサート10は刃先交換式切削工具100の中心に向かうにつれ、回転方向前方側に傾斜して装着される。このように装着されることで、切削インサート10の周側面40が被加工物の表面と接触することを防ぐことができる。
【0025】
次に、本実施形態の切削インサート10および切削インサート10が取り付けられた刃先交換式切削工具100が奏する作用と効果について説明する。切削インサート10は上下面のそれぞれの辺稜部を切れ刃として使用できる、いわゆるネガティブタイプの切削インサートであるため、上下面に3つずつ上切れ刃21、下切れ刃31が形成されている。そのため、切削インサート10は合計で6回の使用が可能で、経済的である。
【0026】
上切れ刃21のコーナ切れ刃22aに最も近くに配置されたニック41bは一定の幅で延びる部分(第1の直線状溝部42a、第2の直線状溝部42c)と、拡幅する部分(幅変化部42b)とを有する形状であるため、上面20に開口するその開口部の溝幅W1が、下面30に開口するその開口部の溝幅W2と異なっていて溝幅W2よりも狭い。言い換えると、ニック41bは、上面20に形成された上切れ刃21と下面30に形成された下切れ刃31とを、それぞれ異なる大きさで切り欠いているため、上面20の上切れ刃21の長さが下面30の下切れ刃31の長さと異なっていて下切れ刃31の長さよりも長くなる。このことにより、上面20がすくい面となるように置かれた切削インサート10に加わる切削抵抗の大きさと、下面がすくい面となるように置かれた切削インサート10に加わる切削抵抗の大きさとに差が生じる。つまり、上切れ刃21を作用切れ刃とする一方の切削インサート10aに加わる切削抵抗が、下切れ刃31を作用切れ刃とする他方の切削インサート10bに加わる切削抵抗よりも大きくなる。切削加工中に大きさの異なる切削抵抗が断続的に刃先交換式切削工具100に加わることで、刃先交換式切削工具100の固有振動数と共振するような周期的な振動が生じるのを防ぐことができる。その結果、このような共振に起因するびびりが惹起されるのを防止することができる。
【0027】
図5に示す切削インサート10の側面視において、上切れ刃21と、上面20とニック41との交差稜線部とで構成される仮想稜線部は、全体として上面20側から下面30側へと向かって凹んだ形状をしている。なおかつ、仮想稜線部の最下点Pが側面視したときの2つのコーナ部28a,28b間の中央付近にある。このような形状の場合、上切れ刃21のうちの第1傾斜部21aから流出する切りくずの流出方向および上切れ刃21のうちの第2傾斜部21bから流出する切りくずの流出方向は第1傾斜部21aおよび第2傾斜部21bにそれぞれ直角な方向(
図3の上面図における軸線A2と平行な方向)ではなく、若干上切れ刃21の中央側に傾いた方向を向く。つまり、上切れ刃21で切削加工すると、切りくずの左右両側の部分がそれぞれ切削インサート10の中央側に向かう方向に流出しようとする。そのため、本来的には切りくずが切削インサート10の中央部に密集して切りくずの円滑な流出が阻害され、切削抵抗の増加等引き起こす。しかしながら、ニック41が形成されることによって切りくずは細分化されるので、第1傾斜部21aから流出する切りくずと、第2傾斜部21bから流出する切りくずと、が互いの流出を妨げることがほぼなくなる。また、最下点Pがニック41aの底部と上面20との交差稜線部に含まれているので、切削加工中に最も応力が集中しやすい最下点Pの周辺が切削に関与することがなく、そこに大きな応力が生じることがなくなる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の形態に限定されず、種々の変更が可能である。つまり、上下面に切れ刃が形成され、なおかつ1つのニックにおける上面側の開口部の幅と下面側の開口部の幅とが異なる切削インサートであれば、その他の部分は上記実施形態と異なる形状であって構わない。例えば、上述した切削インサート10のニック41は第2の直線状溝部42cを有していたが、第2の直線状溝部42cを形成せずに幅変化部42bが下面30まで延びる形状であっても構わない。また、第1の直線状溝部42aが軸線A1に対して傾斜した方向に延びて形成されても構わない。
【0029】
上述した実施形態では上面20および下面30の基本形状は三角形であったが、四角形等の別の多角形であってもよい。切削インサート10のように上下面の基本形状が三角形や四角形の場合、切削インサートは、上述のごとく、切りくずの排出が重要になる直角肩削り加工に適するように設計され得る。その場合には上記効果が一層有効に機能する。
前述した実施形態およびその変形例等では本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明については、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。
【符号の説明】
【0030】
10…切削インサート
20…上面
21…上面の切れ刃
30…下面
31…下面の切れ刃
40…周側面
41…ニック
42a…第1の直線状溝部
42b…幅変化部
42c…第2の直線状溝部
42bA…縁部
42bB…縁部
50…取付孔
100…刃先交換式切削工具