(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る構造体の製造方法について説明する。
【0023】
本発明の第1の態様に係る構造体の製造方法は、熱可塑性樹脂と強化繊維と空隙と
を有する構造体の製造方法であって、熱可塑性樹脂と強化繊維と
を有する構造体前駆体を表面温度が80℃以下の金型に配置する第1の工程と、構造体前駆体の貯蔵弾性率(G’)が1.2×10
8Pa未満となる温度まで金型の表面温度を上昇させる第2の工程と、構造体前駆体の貯蔵弾性率(G’)が1.2×10
8Pa以上となる温度まで前記金型の表面温度を下降させる第3の工程と、第3の工程終了後に得られた構造体を金型から脱型する第4の工程と、を含む。
【0024】
このような製造方法によれば、第1の工程において、低い温度の金型に作業者が手で容易にプリフォーミングが可能なため、複雑な形状を形成することが可能となるので、軽量性及び力学特性に優れる構造体を製造できる。また、表面温度は50℃以下であることがより好ましい。表面温度が50℃以下であれば製造工程中において、簡易な保護具のみで第1の工程を行うことが可能となり、より細かな形状に対しても構造体前駆体をプリフォーミング可能なため好ましい。言い換えると、作業効率が飛躍的に向上する。また、第1の工程において、構造体前駆体を配置する時間が長くなったとしても作業者が低温やけど等を起こす可能性が低減する観点からも好ましい。
【0025】
第2の工程において、構造体前駆体の貯蔵弾性率(G’)が1.2×10
8Pa未満となる温度まで金型の表面温度を上昇させることが必要である。具体的には、構造体前駆体のガラス転移温度や結晶化温度以上の温度とすることで上記範囲となりうるが、構造体前駆体の融点又は軟化点に対し10℃以上高く、且つ、構造体前駆体の熱分解温度以下の温度を付与することで達成可能となる。また、第2の工程において、構造体前駆体の貯蔵弾性率(G’)が1.2×10
8Pa以上であると、金型内への賦型(形状の形成)が困難となることがある。
【0026】
第3の工程において、構造体前駆体の貯蔵弾性率(G’)が1.2×10
8Pa以上となる温度まで金型の表面温度を下降させる必要がある。第3の工程の後、第4の工程において金型から脱型する観点から、構造体前駆体の貯蔵弾性率が高い方が好ましく、具体的には、構造体前駆体の融点又は軟化点に対し、30℃以上低いことが好ましく、50℃以上低いことが成形サイクルを短縮する観点から好ましい。
【0027】
本発明の第2の態様に係る構造体の製造方法は、熱硬化性樹脂と強化繊維と空隙と
を有する構造体の製造方法であって、硬化前の前記熱硬化性樹脂と前記強化繊維と
を有する前記構造体前駆体を表面温度が80℃以下の金型に配置する第1の工程と、前記構造体前駆体の硬化度が10%以上、90%以下となる温度まで前記金型の表面温度を上昇させる第2の工程と、前記構造体前駆体の硬化度が90%より高くなる状態まで形状を保持する第3の工程と、前記第3の工程終了後に得られた構造体を前記金型から脱型する第4の工程と、を含むことを特徴とする構造体の製造方法である。
【0028】
第2の工程において、構造体前駆体の硬化度が10%以上、90%以下の範囲であることが必要である。第2工程における構造体前駆体の硬化度は、成形後の構造体の表面品位や得られる力学特性の観点から、好ましくは30%以上、より好ましくは、60%以上である。なお、硬化度が90%を超えると、形状追随性に劣ることがある。構造体前駆体の硬化度の測定方法は、ガラス転移温度(以下、Tgと省略する)から確認する方法で測定される。具体的には、飽和したTgから最低のTgを予め測定し、飽和したTgから最低のTgの差分を百分率表示する。次に、硬化前の熱硬化性樹脂を加熱して、加熱温度と加熱時間とTgの相関関係を得て、成形条件からTgを内挿することができる。
【0029】
更には、構造体前駆体のDSCで測定される発熱量からも硬化状態を確認する方法も例示できる。例えば、構造体前駆体の発熱量を予め測定しておき、加熱後の構造体前駆体の発熱量の割合から残存反応率を求めることができる。なお、Tgは既知のDSC(示差走査熱量計)にて測定できる。また、第3の工程における構造体前駆体の硬化度も同様にして測定することが可能である。
【0030】
構造体前駆体の金型内における充填率は金型のキャビティの10%以上、80%以下の範囲内にあることが望ましい。中でも20%以上、70%以下がより望ましく、30%以上、60%以下がさらに望ましい。充填率が10%未満である場合、構造体前駆体を配置した際に偏りが生じ、求める形状を得ることが困難となるので望ましくない。一方、充填率が80%より大きい場合には、構造体の製造は可能ではあるが、軽量性の観点から望ましくない。
【0031】
第2の工程及び第3の工程における金型に対する加圧力は0MPa以上、5MPa以下の範囲内にあることが望ましい。中でも、3MPa以下であることより望ましい。加圧力が5MPaより大きい場合、プレス機等の大型設備を必要とするため、多くのコストを要してしまうため望ましくない。特に好ましくは、第2の工程及び第3の工程における金型に対する加圧力が0MPaの態様であり、このようにすることで、低いコストで効率的に生産できる。加圧力を0MPaとする方法としては、金属等の塊から切削加工によりキャビティが形成された継ぎ目のない金型を用いて成形する方法が挙げられる。また、第4の工程における脱型を容易にする観点から、2つ又はそれ以上に分割可能な金型を用い、ボルト等によって予め固定した金型を用いて成形する方法が挙げられる。
【0032】
金型のキャビティの大きさは成形の前後で変化しないことが望ましい。金型のキャビティの大きさが成形の前後で変化するということは、金型を稼動させる機構が必要となるため、多くのコストを要してしまうため望ましくない。金型のキャビティの大きさが成形の前後で変化しない金型としては、金属等の塊から切削加工によりキャビティが形成された継ぎ目のない金型を用いることが好ましい。第4の工程における脱型を容易にする観点から、2つ又はそれ以上に分割可能な金型を用いることが可能であり、ボルト等によって固定可能な金型であってもよい。
【0033】
熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物、及び熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の少なくとも一方が構造体の表面に配置されていることが望ましい。例えば、強化繊維が一方向に並んだ一方向強化樹脂組成物を表面に配置した場合、構造体の力学特性を向上させることが可能である。一方、顔料や粒子を添加した樹脂組成物からなる樹脂シートを表面に配置した場合には、構造体の意匠性や質感を改善することが可能である。
【0034】
金型の重量は30kg以下であることが望ましい。金型の重量が30kgより大きい場合には、人の手で運搬することが困難となるので望ましくない。金型の重量は、25kg以下であることがより望ましく、20kg以下であることがさらに望ましい。このような軽量な金型を用いることは、第1の工程から第2の工程へ移行する際及び第2の工程から第3の工程へ移行する際に、ロボット等の自動機や複数人での作業の必要がなく、容易に場所を変更することが可能な点でよい。金型の重量において、下限値は特に限定されないが、本発明に係る構造体の製造方法において、第1の工程で構造体前駆体を配置した際や第2の工程から第3の工程における温度変化、第4の工程の脱型作業において、金型が変形して数回の製造で目的の形状が得られなくなるような金型であると生産性の観点から好ましくない。
【0035】
構造体前駆体には発泡剤が含まれていることが望ましい。これにより、構造体をより容易に発泡させることが可能となるため、軽量化の観点から望ましい。また、より細かい金型形状に対して高い賦型性を発現することができる。発泡剤としては、圧縮ガスの放圧や気体等の物理的変化によって発泡させる物理発泡剤と熱分解や化学反応によってガスを発生させる化学発泡剤とがある。これらの中で、熱分解によって窒素ガスや炭酸ガスを発生させる化学発泡剤を熱分解型化学発泡剤という。熱分解型化学発泡剤とは、常温において液体又は固体の化合物であり、加熱された時に分解又は気化する化合物である。また、熱分解型化学発泡剤は、本発明に係る構造体の製造方法に用いる構造体前駆体を製造する過程を実質的に妨害しないものであることが好ましく、熱分解型化学発泡剤の分解温度は180〜250℃の範囲内にあることが好ましい。このような熱分解型化学発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸金属塩、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N、N-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4、4-オキシビス、ビステトラゾール・ジアンモニウム等を例示できる。
【0036】
構造体前駆体が強化繊維
を有するマットと熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂のどちらか一方からなるマトリックス樹脂
とを有し、強化繊維
を有するマットに予め樹脂が含浸されていることが望ましい。このような構造体前駆体を用いることで、第1の工程において、容易に金型に配置することが可能であり、複雑な形状に対しても容易にプリフォーミングすることが可能である。強化繊維
を有するマットは、湿式抄紙法、乾式抄紙法、エアレイド法、及び製織法のうちのいずれかの方法で製造された不織布状であることが望ましい。強化繊維が不織布状の形態をとることが、強化繊維への樹脂の含浸の容易さの観点から望ましい。さらに、強化繊維が不織布状の形態を有していることにより、不織布自体のハンドリング性の容易さに加え、一般的に高粘度とされる熱可塑性樹脂の場合においても含浸を容易なものとできるため望ましい。また、このような不織布状を用いた構造体前駆体を用いることにより、軽量で力学特性に優れた構造体を容易に得ることが可能となる。また、本発明においては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とがブレンドされていてもよく、その場合は、樹脂を構成する成分のうち、50質量%を超える量を占める成分を樹脂の名称とする。
【0037】
構造体前駆体を構成するマトリックス樹脂がフィルム、粒子、繊維、及び液体のうちのいずれかの形態で付与されることが望ましい。これにより、強化繊維
を有するマットに樹脂を容易に含浸させることができる。
【0038】
第1の工程は、構造体前駆体を短冊状又は巻き状体として金型に配置する工程を含むことが望ましい。構造体前駆体を短冊状とすることで、細かな形状の金型にも容易に構造体前駆体を配置することができる。また、構造体前駆体を巻き状体とすることで、構造体の等方性を高めることができる。
【0039】
金型の形状が、円柱状、多角柱状、又は、これらの筒状であることが望ましい。これにより、これまでプリフォーミングに時間を費やす必要があり、副資材も多く必要であった形状を容易に形成することができる。
【0040】
本発明の製造方法に用いる構造体の構造体前駆体は、樹脂と強化繊維
とを有している。本発明における1つの形態において、樹脂は、少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂を含むことが望ましい。熱可塑性樹脂としては、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」等の結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」等の非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、及びアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体及び変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂を例示できる。中でも、得られる構造体の軽量性の観点からはポリオレフィンが望ましく、強度の観点からはポリアミドが望ましく、表面外観の観点からはポリカーボネートやスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が望ましく、耐熱性の観点からはポリアリーレンスルフィドが望ましく、連続使用温度の観点からはポリエーテルエーテルケトンが望ましく、さらに耐薬品性の観点からはフッ素系樹脂が望ましく用いられる。
【0041】
本発明における1つの形態において、樹脂は、少なくとも1種類以上の熱硬化性樹脂を含むことが望ましい。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド、これらの共重合体、変性体、及びこれらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂を例示できる。また、前記樹脂に対して、本発明の目的を損なわない範囲で、本発明に係る構造体又は構造体前駆体は、エラストマー又はゴム成分等の耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有してもよい。充填材や添加剤の例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、又は、カップリング剤を例示できる。
【0042】
強化繊維としては、アルミニウム、黄銅、ステンレス等の金属繊維、PAN系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス等の絶縁性繊維、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリエチレン等の有機繊維、シリコンカーバイト、シリコンナイトライド等の無機繊維を例示できる。また、これらの繊維に表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、導電体として金属の被着処理の他に、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理等がある。また、これらの繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、軽量化効果の観点から、比強度、比剛性に優れるPAN系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が望ましく用いられる。また、得られる構造体の経済性を高める観点からは、ガラス繊維が望ましく用いられ、とりわけ力学特性と経済性とのバランスから炭素繊維とガラス繊維とを併用することが望ましい。さらに、得られる構造体の衝撃吸収性や賦形性を高める観点からは、アラミド繊維が望ましく用いられ、とりわけ力学特性と衝撃吸収性とのバランスから炭素繊維とアラミド繊維とを併用することが望ましい。また、得られる構造体の導電性を高める観点からは、ニッケルや銅やイッテルビウム等の金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。これらの中で、強度と弾性率等の力学的特性に優れるPAN系の炭素繊維をより望ましく用いることができる。
【0043】
強化繊維が、不連続であり、略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散していることが望ましい。強化繊維をかかる態様とすることで、シート状の構造体の構造体前駆体ないし構造体を、外力を加えて成形する場合に、複雑形状への賦型が容易となる。また、強化繊維をかかる態様とすることで、強化繊維によって形成された空隙が緻密化し、構造体中における強化繊維の繊維束端における弱部が極小化できるため、優れた補強効率及び信頼性に加えて、等方性も付与される。ここで、略モノフィラメントとは、強化繊維単糸が500本未満の細繊度ストランドにて存在することを指す。さらに望ましくは、モノフィラメント状に分散していることである。
【0044】
ここで、略モノフィラメント状、又は、モノフィラメント状に分散しているとは、構造体中にて任意に選択した強化繊維について、その二次元接触角が1°以上である単繊維の割合(以下、繊維分散率とも称す)が80%以上であることを指し、言い換えれば、構造体中において単繊維の2本以上が接触して平行した束が20%未満であることをいう。従って、ここでは、少なくとも強化繊維におけるフィラメント数100本以下の繊維束の質量分率が100%に該当するものが特に好ましい。
【0045】
二次元接触角とは、不連続な強化繊維の場合、単繊維とこの単繊維が接触する単繊維とで形成される角度のことであり、接触する単繊維同士が形成する角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。この二次元接触角について、図面を用いてさらに説明する。
図1は、面方向(
図1(a))及び厚み方向(
図1(b))から観察した時の強化繊維マットにおける強化繊維の分散状態の一例を示す模式図である。単繊維1aを基準とすると、単繊維1aは
図1(a)では単繊維1b〜1fと交わって観察されるが、
図1(b)では単繊維1aは単繊維1e,1fとは接触していない。この場合、基準となる単繊維1aについて、二次元接触角の評価対象となるのは単繊維1b〜1dであり、接触する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0°以上90°以下の範囲内にある鋭角側の角度Aである。
【0046】
二次元接触角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば構造体の表面から強化繊維の配向を観察する方法を例示できる。この場合、構造体の表面を研磨して強化繊維を露出させることで、強化繊維をより観察しやすくなる。また、X線CT透過観察を行って強化繊維の配向画像を撮影する方法も例示できる。X線透過性の高い強化繊維の場合には、強化繊維にトレーサ用の繊維を混合しておく、又は、強化繊維にトレーサ用の薬剤を塗布しておくと、強化繊維を観察しやすくなるため望ましい。また、上記方法で測定が困難な場合には、加熱炉等により構造体を高温下において樹脂成分を焼失させた後、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて取り出した強化繊維から強化繊維の配向を観察する方法を例示できる。
【0047】
上述した観察方法に基づいて繊維分散率は次の手順で測定する。すなわち、無作為に選択した単繊維(
図1における単繊維1a)に対して接触している全ての単繊維(
図1における単繊維1b〜1d)との二次元接触角を測定する。これを100本の単繊維について行い、二次元接触角を測定した全ての単繊維の総本数と二次元接触角が1°以上である単繊維の本数との比率から割合を算出する。
【0048】
さらに、強化繊維はランダムに分散していることが、とりわけ望ましい。ここで、強化繊維がランダムに分散しているとは、構造体における任意に選択した強化繊維の二次元配向角の算術平均値が30°以上、60°以下の範囲内にあることをいう。かかる二次元配向角とは、強化繊維の単繊維とこの単繊維と交差する単繊維とで形成される角度のことであり、交差する単繊維同士が形成する角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。
【0049】
この二次元配向角について、図面を用いてさらに説明する。
図1(a),(b)において、単繊維1aを基準とすると、単繊維1aは他の単繊維1b〜1fと交差している。ここで、交差とは、観察する二次元平面において、基準とする単繊維が他の単繊維と交わって観察される状態のことを意味し、単繊維1aと単繊維1b〜1fとが必ずしも接触している必要はなく、投影して見た場合に交わって観察される状態についても例外ではない。つまり、基準となる単繊維1aについて見た場合、単繊維1b〜1fの全てが二次元配向角の評価対象であり、
図1(a)中において二次元配向角は交差する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度Aである。
【0050】
二次元配向角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば、構成要素の表面から強化繊維の配向を観察する方法を例示でき、上述した二次元接触角の測定方法と同様の手段を取ることができる。二次元配向角の平均値は、次の手順で測定する。すなわち、無作為に選択した単繊維(
図1における単繊維1a)に対して交差している全ての単繊維(
図1における単繊維1b〜1f)との二次元配向角の平均値を測定する。例えば、ある単繊維に交差する別の単繊維が多数の場合には、交差する別の単繊維を無作為に20本選び測定した算術平均値を代用してもよい。この測定を別の単繊維を基準として合計5回繰り返し、その算術平均値を二次元配向角の算術平均値として算出する。
【0051】
強化繊維が略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散していることで、上述した略モノフィラメント状に分散した強化繊維により与えられる性能を最大限まで高めることができる。また、構造体において力学特性に等方性を付与できる。かかる観点から、強化繊維の繊維分散率は90%以上であることが望ましく、100%に近づくほどより望ましい。また、強化繊維の二次元配向角の算術平均値は、40°以上、50°以下の範囲内にあることが望ましく、理想的な角度である45°に近づくほど望ましい。
【0052】
一方、強化繊維が不織布の形態をとらない例としては、強化繊維が一方向に配列されてなるシート基材、織物基材、及びノンクリンプ基材等がある。これらの形態は、強化繊維が規則的に密に配置されるため、構造体中の空隙が少なくなってしまい、樹脂の含浸が極めて困難となり、未含浸部を形成したり、含浸手段や樹脂種の選択肢を大きく制限したりする場合がある。
【0053】
強化繊維の形態としては、構造体と同程度の長さの連続性強化繊維、又は、所定長に切断された有限長の不連続性強化繊維のいずれであってもよいが、樹脂を容易に含浸させたり、その量を容易に調整できたりする観点からは、不連続性強化繊維であることが望ましい。
【0054】
強化繊維の質量平均繊維長が1mm以上、15mm以下の範囲内にあることが望ましい。これにより、強化繊維の補強効率を高めることができ、構造体に優れた力学特性を与えられる。強化繊維の質量平均繊維長が1mm未満である場合、構造体中の空隙を効率よく形成できないため、比重が高くなる場合があり、言い換えれば、同一質量でありながら所望する厚さの構造体を得ることが困難となるので望ましくない。一方、強化繊維の質量平均繊維長が15mmより長い場合には、構造体中で強化繊維が、自重により屈曲しやすくなり、力学特性の発現を阻害する要因となるので望ましくない。質量平均繊維長は、構造体の樹脂成分を焼失や溶出等の方法により取り除き、残った強化繊維から無作為に400本を選択し、その長さを10μm単位まで測定し、それらの平均長さとして算出できる。構造体前駆体における強化繊維の体積含有率は、5体積%以上、90体積%以下の範囲内にあることが望ましく、10体積%以上、80体積%以下の範囲にあることがさらに望ましい。このような組成の構造体前駆体を用いることにより、本発明の製造方法により高い力学特性を発現し、且つ、軽量性に優れた構造体を得ることができる。
【0055】
本発明における空隙とは、樹脂により被覆された強化繊維が柱状の支持体となり、それが重なり合い、または、交叉することにより形成された空間のことを指す。例えば強化繊維に樹脂が予め含浸された構造体前駆体を加熱して構造体を得る場合、加熱に伴う樹脂の溶融ないしは軟化により、強化繊維が起毛することで空隙が形成される。これは、構造体構造体前駆体において、加圧により圧縮状態とされていた内部の強化繊維が、その弾性率に由来する起毛力によって起毛する性質に基づく。また、構造体中における空隙の含有率は、10体積%以上、99体積%以下の範囲内にある。空隙の含有率が10体積%未満である場合、構造体の比重が高くなるため軽量性を満足できないため望ましくない。一方、空隙の含有率が99体積%より大きい場合には、言い換えれば、強化繊維の周囲に被覆された樹脂の厚みが薄くなるため、構造体中における強化繊維同士の補強が十分に行われないために、力学特性が低くなるので望ましくない。空隙の含有率の上限値は97体積%であることが望ましい。本発明において、体積含有率は構造体を構成する樹脂と強化繊維と空隙のそれぞれの体積含有率の合計を100体積%とする。
【0056】
本発明の製造方法によって得られる構造体の曲げ弾性率をEc、構造体の比重をρとしたとき、Ec
1/3・ρ
−1として表される構造体の比曲げ弾性率は3以上、20以下の範囲内にある。構造体の比曲げ弾性率が3未満である場合、曲げ弾性率が高くとも、比重も高い状態であり、所望する軽量化効果が得られないので望ましくない。一方、構造体の比曲げ弾性率が20より大きい場合には、軽量化効果は十分であるものの、曲げ弾性率が低いことを指し示しており、構造体として所望される形状を保持することが困難であることや、構造体自身の曲げ弾性率が劣ることから望ましくない。一般的に鋼材やアルミニウムの比曲げ弾性率は1.5以下であり、これらの金属材料よりも極めて優れた比曲げ弾性率の領域となる。さらには、軽量化効果に着目される炭素繊維強化樹脂複合材料の一般的な比曲げ弾性率である2.3を超える3以上であること、さらに望ましくは5以上である。
【0057】
構造体の曲げ弾性率Ecは、3GPa以上、望ましくは6GPa以上であるとよい。構造体の曲げ弾性率Ecが3GPa未満である場合、構造体として使用する範囲に制限が生じるため望ましくない。また、構造体の設計を容易にするために、曲げ弾性率は等方性を有していることが望ましい。曲げ弾性率の上限については制限を設けないが、一般的に強化繊維と樹脂と
を有する構造体では、その構成成分である強化繊維及び樹脂それぞれの弾性率から算出される値が上限となり得る。本発明に係る構造体においては、構造体を単独で使用する場合においても、他の部材とあわせて使用する場合おいても、構造体自身の曲げ弾性率を用いて部材の設計を行い、実用に供するためには50GPaもあれば十分である。
【0058】
構造体の比重ρは0.9g/cm
3以下であることが望ましい。構造体の比重ρが0.9g/cm
3より大きい場合、構造体とした場合の質量が増すことを意味し、結果、製品とした場合の質量の増加を招くこととなるので望ましくない。比重の下限については制限を設けないが、一般的に強化繊維と樹脂と
を有する構造体では、その構成成分である強化繊維、樹脂、及び空隙それぞれの体積割合から算出される値が下限となり得る。本発明に係る構造体においては、構造体を単独で使用する場合においても、他の部材とあわせて使用する場合おいても、構造体自身の比重は、使用する強化繊維や樹脂により異なるが、構造体の力学特性を保持するという観点から、0.03g/cm
3以上であることが望ましい。
【0059】
構造体の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分における空隙率が0体積%以上、10体積%未満の範囲内にあり、残りの部分の空隙率が10体積%以上、99体積%以下の範囲内にあることが望ましい。かかる空隙率は小さいほど力学特性に優れ、また、大きいほど軽量性に優れる。構造体に言い換えれば、構造体が同一構成の材料
の場合、構造体の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分における空隙率が0体積%以上、10体積%未満であることにより、構造体の力学特性を担保し、残りの部分の空隙率が10体積%以上、99体積%以下の範囲内にあることにより軽量特性を満足させることができるため望ましい。
【0060】
本発明において構造体の厚みは、厚みを求めたい表面上の1点とその裏側の表面とを結ぶ最短の距離から求めることができる。厚み方向の中点とは構造体の厚みの中間点を意味する。構造体の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分とは、構造体の表面とその厚み方向の中点までの距離を100%とした際に、構造体の表面から30%の距離までを含めた部分のことを意味する。ここでの残りの部分とは、構造体から構造体の一方の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分及び構造体の他方の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分を除いた残りの部分を意味する。構造体の表面から厚み方向の中点位置までの30%以内の部分及び残りの部分は、構造体の厚み方向の異なる位置に存在してもよいし、面方向の異なる位置に存在してもよい。
【0061】
本発明における強化繊維は不織布状の形態をとることが、強化繊維への樹脂の含浸の容易さの観点から望ましい。さらに、強化繊維が、不織布状の形態を有していることにより、不織布自体のハンドリング性の容易さに加え、一般的に高粘度とされる熱可塑性樹脂の場合においても含浸を容易なものとできるため望ましい。ここで、不織布状の形態とは、強化繊維のストランド及び/又はモノフィラメントが規則性なく面状に分散した形態を指し、チョップドストランドマット、コンティニュアンスストランドマット、抄紙マット、カーディングマット、エアレイドマット等を例示できる(以下、これらをまとめて強化繊維マットと称す)。
【0062】
構造体を構成する強化繊維マットの製造方法としては、例えば強化繊維を予めストランド及び/又は略モノフィラメント状に分散して強化繊維マットを製造する方法がある。強化繊維マットの製造方法としては、強化繊維を空気流にて分散シート化するエアレイド法や、強化繊維を機械的に櫛削りながら形状を整えシート化するカーディング法等の乾式プロセス、強化繊維を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスを公知技術として挙げることができる。強化繊維をよりモノフィラメント状に近づける手段としては、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目をファインにする方法や、カードの回転速度を調整する方法等を例示できる。湿式プロセスにおいては、強化繊維の攪拌条件を調整する方法、分散液の強化繊維濃度を希薄化する方法、分散液の粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法等を例示できる。特に、強化繊維マットは湿式法で製造することが望ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したりすることで強化繊維マットの強化繊維の割合を容易に調整できる。例えば、分散液の流速に対してメッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる強化繊維マット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い強化繊維マットを製造可能である。強化繊維マットは、強化繊維単体から構成されていてもよく、強化繊維が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていたり、強化繊維が有機化合物や無機化合物と混合されていたり、強化繊維同士が樹脂成分で目留めされていてもよい。
【0063】
さらに、強化繊維マットには予め樹脂を含浸させておき、構造体前駆体としておくことが望ましい。例えば粒子や繊維であれば、強化繊維
を有するマットを製造する際に強化繊維と同時に樹脂を混合させ、不織布状に形成させることができる。また、液状であれば、強化繊維
を有するマットを液中に浸漬させることや液を注ぐことで強化繊維に樹脂を含浸させることができる。また、フィルムであれば、フィルムの上に強化繊維
を有するマットを積層することや両側から挟むように配置することで、取り扱い性を向上させることができる。本発明に係る構造体前駆体を製造する方法としては、強化繊維マットに樹脂を溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、強化繊維マットに含浸させる方法を用いることが、製造の容易さの観点から望ましい。具体的には、強化繊維マットの厚み方向の両側から樹脂を配置した積層物を溶融含浸させる方法が望ましく例示できる。
【0064】
上記各方法を実現するための設備としては、圧縮成形機やダブルベルトプレスを好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるので連続生産性に優れる。
【0065】
強化繊維マットが不織布の形態をとらない例としては、強化繊維が一方向に配列されてなるシート基材、織物基材、及びノンクリンプ基材等がある。これらの形態は、強化繊維が規則的に密に配置されるため、強化繊維マット中の空隙部が少なく、熱可塑性樹脂が十分なアンカリング構造を形成しないため、それをコア形成層にすると接合能力が低下する。また、樹脂が熱可塑性樹脂の場合、含浸が極めて困難となり、未含浸部を形成したり、含浸手段や樹脂種の選択肢を大きく制限したりする。
【0066】
本発明の製造方法において得られる構造体の表面に配置されている熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物、及び熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物において、構造体に付与する機能としては、着色ならびにパール感やメタリック感をはじめとした意匠性や、電磁波シールド性、通電性、難燃性、耐候性、高剛性等が挙げられる。例えば高剛性を目的とする場合、連続した強化繊維に樹脂を含浸せしめたシート状中間基材を表面に配置することもできる。ここで、連続した強化繊維とは、少なくとも一方向に100mm以上の長さで連続したものであり、その多数本が一方向に配列した集合体、いわゆる強化繊維束は、構造体の全長にわたり連続している。連続した強化繊維からなるシート状中間基材の形態としては、多数本の連続した強化繊維からなる強化繊維束から構成されたクロス、多数本の連続した強化繊維が一方向に配列された強化繊維束(一方向性繊維束)、この一方向性繊維束から構成された一方向性クロス等である。強化繊維は、同一の形態の複数本の繊維束から構成されていても、又は、異なる形態の複数本の繊維束から構成されていてもよい。一つの強化繊維束を構成する強化繊維数は、通常、300〜48,000本であるが、プリプレグの製造やクロスの製造を考慮すると、望ましくは300〜24,000本であり、より望ましくは1,000〜12,000本である。
【0067】
意匠性を付与する場合、樹脂に固体状の添加物として顔料やガラスビーズ等を混練したものが挙げられる。固形状の添加物としては、アゾ顔料、フタロシアニンブルー等の有機顔料、アルミニウム、真鍮等の金属粉末からなる金属顔料、酸化クロム、コバルトブルー等の無機顔料が挙げられる。中でも、耐熱性の観点から金属顔料、無機顔料が好ましい。また、強化繊維が炭素繊維やアラミド繊維等のように濃色である場合には、屈折率が異なる構造を2層以上有する顔料が好ましく用いられる。例えば、酸化チタンや酸化鉄で被覆した天然マイカ、人工マイカ、アルミナフレーク、シリカフレーク、ガラスフレークである。かかる層構造とすることにより、可視光領域の光の干渉、回折、散乱といった光学現象によって発色させることができる。光の干渉、回折、散乱といった光学現象を利用すると、特定波長の光の反射によって発色できるため、濃色の強化繊維を用いた場合に好ましく用いられる。電磁波シールド性や通電性を付与する固体状の添加物としては、銀、銅、ニッケル等の金属粉やフェライト、カーボンブラック等を例示できる。難燃性を付与する固体状の添加物としては、リン化合物、アンチモン化合物、金属水酸化物、亜鉛化合物、メラミンシアヌレート等を例示できる。耐候性を付与する固体状の添加物としては、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定剤等を例示できる。
【0068】
<構造体>
本発明の製造法によって得られた構造体の樹脂の体積含有率は、2.5体積%以上、85体積%以下の範囲内にある。樹脂の体積含有率が2.5体積%未満である場合、構造体中の強化繊維同士を結着し、強化繊維の補強効果を十分なものとすることができず、構造体の力学特性、とりわけ曲げ特性を満足できなくなるので望ましくない。一方、樹脂の体積含有率が85体積%より大きい場合には、樹脂量が多すぎることから、空隙構造をとることが困難となるので望ましくない。
【0069】
本発明の製造方法によって得られた構造体において、強化繊維の体積含有率は、0.5体積%以上、55体積%以下の範囲内となることが望ましい。強化繊維の体積含有率が0.5体積%未満である場合、強化繊維に由来する補強効果を十分なものとすることができないので望ましくない。一方、強化繊維の体積含有率が55体積%より大きい場合には、強化繊維に対する樹脂の体積含有率が相対的に少なくなるため、構造体中の強化繊維同士を結着し、強化繊維の補強効果を十分なものとすることができず、構造体の力学特性、とりわけ曲げ特性を満足できなくなるので望ましくない。
【0070】
また、強化繊維は樹脂に被覆されており、樹脂の厚みが1μm以上、15μm以下の範囲内にあることが望ましい。樹脂に被覆された強化繊維の被覆状態は、少なくとも構造体を構成する強化繊維の単繊維同士の交差する点が被覆されていれば、構造体の形状安定性や、厚み制御の容易さ及び自由度の観点から十分であるが、さらに望ましい態様とすれば、樹脂は、強化繊維の周囲に、上述の厚みで被覆された状態であることが望ましい。この状態は、強化繊維の表面が樹脂によって露出していない、言い換えれば、強化繊維が樹脂により電線状の皮膜を形成していることを意味する。このことにより、構造体は、さらに、形状の安定性を有すると共に、力学特性の発現を十分なものとする。また、樹脂に被覆された強化繊維の被覆状態は、その強化繊維の全てにおいて被覆されている必要は無く、本発明に係る構造体の形状安定性や、曲げ弾性率、曲げ強度を損なわない範囲内であればよい。
【0071】
本発明の製造方法によって得られた構造体は、例えば、「パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、PDA(電子手帳等の携帯情報端末)、ビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品等の筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、またはそのケース」等の電気、電子機器部品、「各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム」、「フード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジ等の外板、又は、ボディー部品」、「バンパー、バンパービーム、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツ等の外装部品」、「インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュール等の内装部品」、又は、「モーター部品、CNGタンク、ガソリンタンク」等の自動車、二輪車用構造部品、「バッテリートレイ、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、プロテクター、ランプリフレクター、ランプハウジング、ノイズシールド、スペアタイヤカバー」等の自動車、二輪車用部品、「遮音壁、防音壁等の壁内部材」等の建材、「ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ、シート」等の航空機用部品が挙げられる。力学特性の観点からは、自動車内外装、電気・電子機器筐体、自転車、スポーツ用品用構造材、航空機内装材、輸送用箱体、建材に望ましく用いられる。なかでも、とりわけ複数の部品から構成されるモジュール部材に好適である。また、本発明の製造方法によって得られた円柱状、多角柱状、これらの筒状である構造体は、例えば、自動車のピラー、自転車のフレーム、各種スポーツ競技用のラケットフレームやシャフト、建築物の柱や梁等に用いることが可能である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
<評価・測定方法>
(1)構造体の比重ρ
構造体から試験片を切り出し、JIS K7222(2005)を参考にして構造体の見かけ比重を測定した。試験片は、縦100mm、横100mmを切り出した。試験片の縦、横、厚みをマイクロメーターで測定し、得られた値より試験片の体積Vを算出した。また、切り出した試験片の質量Mを電子天秤で測定した。得られた質量M及び体積V、次式より見かけ比重ρを算出した。
【0074】
ρ[g/cm
3]=10
3×M[g]/V[mm
3]
【0075】
(2)曲げ試験
試験片として、実施例及び比較例で得られる構造体と同様の組成となる平板をISO178法(1993)に記載の厚みとなるように平板を作製した。作製した平板より、試験片を切り出し、ISO178法(1993)に従い曲げ弾性率を測定した。試験片は、任意の方向を0°方向とした場合に+45°、−45°、90°方向の4方向について切り出した試験片を作製し、それぞれの方向について測定数はn=5とし、算術平均値を曲げ弾性率Ecとした。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。得られた結果から次式により成形品の比曲げ弾性率を算出した。
【0076】
比曲げ弾性率=Ec
1/3/ρ
【0077】
(3)構造体前駆体の貯蔵弾性率(G’)
構造体前駆体の測定サンプル(厚さ0.5mm、幅10mm)とし、動的粘弾性解析(DMA)によって、昇温速度を5℃/分、ねじり振動周波数0.5Hz、歪み量0.1%の条件下、昇温してDMAにより評価した。この評価条件において、各成形条件における構造体前駆体の到達温度における貯蔵弾性率(G’)を求めた。ここでは、測定装置として、TAインスツルメンツ社製、ARESを用いた。
【0078】
(4)構造体前駆体のガラス転移温度(Tg)
JIS K7121(1987)に記載の方法に基づき、Pyris 1DSC(パーキンエルマー・インスツルメント社製示差走査熱量計)を用いて、昇温速度10℃/分として行った。得られたDSC曲線が階段状変化を示す部分の中間点を、ガラス転移温度とした。この測定において、得られた樹脂組成物の初期のガラス転移温度(Tg)と、飽和したガラス転移温度(Tg)より、硬化度の指標とした。次に、実施例で行う加熱温度と加熱時間の条件において構造体前駆体を予め成形し、得られた成形品についてガラス転移温度を測定した。得られたガラス転移温度と指標としたガラス転移温度の範囲より、構造体前駆体の硬化度とした。
【0079】
<使用した材料>
評価に用いた材料を以下に示す。
【0080】
[材料1]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維である強化繊維1の特性は次に示す通りであった。
【0081】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:1.6g/m
比重:1.8
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa
【0082】
得られた強化繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1質量%の分散液を作製し、この分散液と上記チョップド炭素繊維とを用いて
図2に示す抄紙基材の製造装置を用いて、抄紙基材を製造した。製造装置は、分散槽としての容器下部に開口コックを有する直径1000mmの円筒形状の容器、分散槽と抄紙槽とを接続する直線状の輸送部(傾斜角30°)を備えている。分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属し、開口部からチョップド炭素繊維及び分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽が、底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備える槽である点、及び炭素繊維基材(抄紙基材)を運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は分散液中の炭素繊維濃度を0.05質量%としておこなった。抄紙した炭素繊維基材は200℃の乾燥炉で30分間乾燥した。得られた炭素繊維基材の幅は500mm、長さは500mm、目付は100g/m
2であった。
【0083】
樹脂として、未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”J105G)80重量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”QB510)20重量%とからなる目付100g/m
2のシートを作製した。得られた炭素繊維基材と樹脂シートを樹脂シート/炭素繊維基材/樹脂シートとなるように積層して積層体を得た。得られた積層体を2枚の金属板の間に挟み、熱盤温度が230℃のプレス機において面圧3MPaで金属板と共に加圧・加熱を行った。5分後、プレス機の加圧を止め、熱盤温度が100℃のプレス機において面圧3MPaで加圧・冷却を行った。5分後、プレス機の加圧を止め、構造体前駆体となる表1に示す材料1を得た。前記測定方法で測定した構造体前駆体の貯蔵弾性率(G’)は、1.5×10
6Paであった。
【0084】
[材料2]
樹脂の目付けを135g/m
2とすること以外は、材料1と同様にして樹脂シートを得た。得られた炭素繊維基材と樹脂シートを用い、樹脂シート/炭素繊維基材/樹脂シート/炭素繊維基材/樹脂シートとなるように積層し、積層体を得た。得られた積層体を用いたこと以外は、材料1と同様にして構造体前駆体となる表1に示す材料2を得た。
【0085】
[材料3]
樹脂として、“jER”(登録商標)1007(三菱化学(株)製)を40質量部、“jER”(登録商標)630を20質量部、“エピクロン”(登録商標)830(DIC(株)製)を40質量部、硬化剤としてDICY7(三菱化学(株)製)を全エポキシ樹脂成分のエポキシ基に対し、活性水素基が0.9当量となる量、硬化促進剤としてDCMU99(保土谷化学工業(株)製)を2質量部用いて、樹脂(b)を調製した。調合した樹脂とリバースロールコーターを使用して離型紙上に塗布し、単位面積当たりの質量が125g/m
2のフィルム状の樹脂を作製した。得られたフィルム状の樹脂と炭素繊維基材を、樹脂フィルム/炭素繊維基材/樹脂フィルムとなるように積層し、70℃に温調したプレス機において、面圧0.1MPaの加圧下で1.5時間加熱し、構造体前駆体となる表1に示す材料3を得た。前記測定方法で測定した構造体前駆体の硬化度は、60%であった。
【0086】
[材料4]
東レ(株)製、“トレカ”プリプレグ P3252S−12を材料4とした(表1参照)。
【0087】
[材料5]
材料1で用いたチョップド炭素繊維とポリプロピレン樹脂を用い、シリンダ温度を230℃に設定した二軸押出機でポリプロピレン樹脂を溶融混練させた後、押出機のサイドフィーダーからチョップド炭素繊維を投入し、さらに混練した。混練された樹脂をガット状に引き出し、冷却させた後、長さ6mmのペレットに加工し、構造体前駆体となる表1に示す材料5を得た。
【0088】
(実施例1)
実施例1−(A):
構造体前駆体として材料1から所定の大きさを有するシートを切り出した。切り出した構造体前駆体を
図3に示すように巻き状体にして金型内に配置した。
図3において、符号2は構造体前駆体、符号3は金型、符号4はキャビティを示す。このときの材料や金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については、表2に示す。
【0089】
実施例1−(B):
構造体前駆体を配置した金型、雰囲気温度を230℃に設定した熱風乾燥機内に入れ、樹脂を溶融状態とした。このときの成形時間と金型温度は表2に示す。
【0090】
実施例1−(C):
樹脂が溶融状態となったことを確認した後、金型を乾燥機から取り出し、冷却を行った。このときの成形時間と金型温度は表2に示す。
【0091】
実施例1−(D):
樹脂が固化したことを確認した後、金型から成形品を脱型し、構造体1を得た。
【0092】
(実施例2)
実施例2−(A):
図4に示すように、金型3のキャビティ4の形状を四角形状とし、この金型3内に巻き状体とした構造体前駆体を配置した。このときの材料や、金型3のキャビティ4に対する構造体前駆体の充填率については表2に示す。
【0093】
実施例2−(B)〜(D):
表2に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例1と同様にして構造体2を得た。
【0094】
(実施例3)
実施例3−(A):
実施例1と同様にして、金型内に構造体前駆体を配置した後、
図5に示すようにキャビティ4内に芯材5を配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表2に示す。
【0095】
実施例3−(B)〜(D):
表2に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例1と同様にして構造体3を得た。
【0096】
(実施例4)
実施例4−(A):
実施例2と同様にして、金型内に構造体前駆体を配置した後、
図6に示すようにキャビティ4内に芯材5を配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表2に示す。
【0097】
実施例4−(B)〜(D):
表2に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例1と同様にして構造体4を得た。
【0098】
(実施例5)
実施例5−(A):
表2に示す構造体前駆体を用いること以外は実施例3と同様にして、金型内に構造体前駆体を配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表2に示す。
【0099】
実施例5−(B)〜(D):
表2に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例3と同様にして構造体5を得た。
【0100】
(実施例6)
実施例6−(A):
材料1より、縦300mm、横10mmとなる短冊状の構造体前駆体を60枚準備した。これらの短冊状の構造体前駆体を
図7に示すように金型3内のキャビティ4に配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表2に示す。
【0101】
実施例6−(B)〜(D):
表2に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例3と同様にして構造体6を得た。
【0102】
(実施例7)
実施例7−(A):
図8に示すように構造体前駆体2を配置することと横10mmとなる短冊状の構造体前駆体を75枚用いること以外は実施例6と同様にして金型内に配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表3に示す。
【0103】
実施例7−(B)〜(D):
表3に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例3と同様にして構造体7を得た。
【0104】
(実施例8)
実施例8−(A):
材料2より、縦300mm、横3mmとなる短冊状の構造体前駆体を100枚準備した。これらの短冊状の構造体前駆体を用いること以外は実施例6と同様にして金型内に配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表3に示す。
【0105】
実施例8−(B)〜(D):
表3に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例3と同様にして構造体8を得た。
【0106】
(実施例9)
実施例9−(A):
図9(a)に示すように構造体前駆体2の端から100mmの位置から10mm間隔の切込み6を入れたこと以外は実施例3と同様にして、金型内に構造体前駆体を配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表3に示す。
【0107】
実施例9−(B)〜(D):
表3に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例3と同様にして構造体9を得た。
【0108】
(実施例10)
実施例10−(A):
表3に示す構造体前駆体及び金型を用いること以外は実施例3と同様にして、金型内に構造体前駆体を配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表3に示す。
【0109】
実施例10−(B)〜(D):
表3に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例3と同様にして構造体10を得た。
【0110】
(実施例11)
実施例11−(A):
表3に示す材料5を用いること以外は実施例3と同様にして、金型内に構造体前駆体を配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表3に示す。
【0111】
実施例11−(B)〜(D):
表3に記載の成形温度や時間とすること以外は実施例3と同様にして構造体11を得た。
【0112】
(実施例12)
補強層として材料4を金型内に配置した後、構造体前駆体を金型内に配置したこと以外は、実施例3と同様にして金型内に配置した。このときの材料や、金型のキャビティに対する構造体前駆体の充填率については表3に示す。
【0113】
(比較例1)
実施例1と同じ形状を有した金型と射出成形機を準備し、シリンダ温度230℃、金型温度60℃となるように設定して射出成形を行い、材料5を用いて構造体51を得た。このとき、金型の型締力は150トンとした。
【0114】
(比較例2)
芯材に伸縮性を有する筒状のフィルムを巻き、その上から材料3を巻き付け、プリフォームを作製した。筒状フィルムの一端の口を結び空気が漏れないように処置した後に芯材を抜き、もう一端の口を圧縮空気供給装置に接続し、プリフォームを金型内に配置した。金型を熱盤温度が150℃となるように設定したプレス機内に配置し、面圧が1.0MPaとなるように加圧した。その後、0.5MPaの圧縮空気を供給して、筒状のフィルム内を圧縮空気で満たした。30分後、圧縮空気の供給を停止し、金型をプレス機から取り出した。その後、金型から成形品を取り出し、構造体52を得た。
【0115】
(比較例3)
加熱装置7によって樹脂を溶融状態とした材料1(構造体前駆体)(符号8)を
図10(a)に示す金型を固定したプレス機9に配置し、
図10(b)に示すように面圧が5.0MPaとなるように加圧した。このときの金型表面温度は100℃であり、5分後に加圧を停止し、成形品を脱型し、構造体10aを得た(
図10(c)参照)。同様にして、構造体10bも得た。得られた構造体10a及び構造体10bの接合面に接着剤11を塗布し、重ね合わせて円筒状の構造体12を得た(
図10(d)参照)。
【0116】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0117】
上記の実施例1〜12において、複雑な形状を容易に形成し、軽量性及び力学特性に優れた構造体を得ることができた。また、副資材やプレス成形機を用いないため、多くのコストを要することなく構造体を得ることができた。また、実施例3〜12において、筒状の形状も柱状体と同様に容易に得ることができた。実施例5において、より軽量性が向上した構造体を得ることができた。実施例6〜8において、短冊状の構造体前駆体を用いることにより、プリフォーミングに費やす時間を短縮することができた。実施例9において、構造体前駆体に切込みを入れることにより、構造体前駆体の変形がさらに容易となりプリフォーミングが容易となった。実施例10において、直径の小さな形状の構造体を得ることができた。実施例11において、樹脂に熱硬化性樹脂を用いた構造体を得ることができた。実施例12において、構造体の表層に補強層を形成した構造体を得ることができ、より力学特性に優れた構造体を得ることができた。
【0118】
一方、比較例1においては、射出成形機が必要であり、高い型締め力も必要とするため、複雑な形状を形成することは可能であるが、多くのコストを要した。比較例2においては、プリフォーミングに多くの時間を費やす必要があり生産性にかけた。比較例3では、プレス成形機が必要であり、また円筒を一度の成形で得ることが不可能であった。このため、接着剤で接合する必要があり、接着剤によって重量が増加し、また接合部が虚弱部となり得るために力学特性に優れた構造体とは言えない。
本発明に係る構造体の製造方法は、樹脂と強化繊維と空隙とからなる構造体の製造方法であって、樹脂と強化繊維とからなる構造体前駆体を表面温度が80℃以下の金型に配置する第1の工程と、構造体前駆体が流動可能となる温度まで金型の表面温度を上昇させる第2の工程と、構造体前駆体が流動不可能となる温度まで金型の表面温度を下降させる第3の工程と、第3の工程終了後に得られた構造体を前記金型から脱型する第4の工程と、を含むことを特徴とする。