特許第6197993号(P6197993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6197993
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/24 20060101AFI20170911BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20170911BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20170911BHJP
   F01N 3/025 20060101ALI20170911BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   F01N3/24 U
   F01N3/24 E
   F01N3/08 A
   F01N3/28 301J
   F01N3/28 301A
   F01N3/025 101
   F02D41/02 305
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-156850(P2013-156850)
(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-25434(P2015-25434A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】岩知道 均一
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−013462(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/108062(WO,A1)
【文献】 特開2012−219732(JP,A)
【文献】 特開平11−200853(JP,A)
【文献】 特開平11−210524(JP,A)
【文献】 特開2002−153733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38
F02D 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配設され、触媒層の温度が第1所定温度未満のときにHCを吸着し、前記第1所定温度以上のときにHCを脱離する第1触媒と、
前記排気通路に配設され、触媒層の温度が第2所定温度未満のときにNOxを吸着する第2触媒と、
前記第1触媒及び前記第2触媒の下流の前記排気通路に配設され、触媒層の温度が前記第2所定温度以上で活性状態となる三元触媒機能を有する第3触媒と、
前記内燃機関の空燃比を制御する空燃比制御手段と、を備え、
前記空燃比制御手段は、前記第1触媒の温度が前記第2所定温度に達するまでは前記空燃比を理論空燃比よりもリーンとすることで、前記第3触媒はHCを浄化することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記第2触媒は、触媒層の温度が前記第2所定温度以上であるときに、吸着したNOxを脱離する触媒であり、
前記空燃比制御手段は、前記第2触媒の温度が前記第2所定温度以上であるときに、前記空燃比を理論空燃比よりもややリッチな空燃比であるスライトリッチとすることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記内燃機関の前記排気通路に、前記内燃機関から排出される微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、
前記パティキュレートフィルタに捕集された前記微粒子状物質の堆積量を検出する堆積量検出手段と、を備え、
前記空燃比制御手段は、前記パティキュレートフィルタの温度を制御する機能を有し、前記堆積量検出手段にて検出される前記堆積量が閾値以上であると、該パティキュレートフィルタの温度を前記微粒子状物質が燃焼される温度であるPM燃焼温度以上とすることを特徴する、請求項1或いは2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関し、特に空燃比の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、理論空燃比付近で運転するガソリンエンジンでは、理論空燃比付近でのエンジン運転領域にて、排気中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)等を浄化することのできる三元触媒が備えられている。
一方で、ガソリンエンジンには、燃費向上を目的して空燃比をリーン空燃比としたガソリンリーンバーンエンジンが開発されている。
【0003】
そして、このような主な運転領域がリーン空燃比で制御されるガソリンリーンバーンエンジンでは、三元触媒で排気中のNOxを十分に浄化することが困難である。これは、リーン空燃比において、三元触媒のNOx浄化能力が乏しいためである。
そこで、特許文献1では、上流側三元触媒と下流側三元触媒とを設け、更に上流側三元触媒と下流側三元触媒との間に、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属とゼオライトとを含む下層とアルカリ金属又はアルカリ土類金属と貴金属とを含む上層とからなる排気浄化用触媒を備え、ガソリンリーンバーンエンジンのリーン空燃比でのエンジン運転において排出されるHC、CO及びNOxを浄化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−273232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、上記特許文献1の排気浄化用触媒では、HC及びNOxをトラップするための排気浄化用触媒を上流側三元触媒と下流側三元触媒との間に設けることで、ガソリンリーンバーンエンジンの排気を浄化している。
しかしながら、上記特許文献1の排気浄化用触媒では、エンジンの始動直後等で触媒温度が上昇していないような場合には、排気を十分に浄化できない虞があり好ましいことではない。
【0006】
本発明は、主に理論空燃比付近で運転するガソリンエンジンにおいて、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、触媒の温度が低温であっても確実に排気を浄化することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の内燃機関の排気浄化装置では、内燃機関の排気通路に配設され、触媒層の温度が第1所定温度未満のときにHCを吸着し、前記第1所定温度以上のときにHCを脱離する第1触媒と、前記排気通路に配設され、触媒層の温度が第2所定温度未満のときにNOxを吸着する第2触媒と、前記第1触媒及び前記第2触媒の下流の前記排気通路に配設され、触媒層の温度が前記第2所定温度以上で活性状態となる三元触媒機能を有する第3触媒と、前記内燃機関の空燃比を制御する空燃比制御手段と、を備え、前記空燃比制御手段は、前記第1触媒の温度が前記第2所定温度に達するまでは前記空燃比を理論空燃比よりもリーンとすることで、前記第3触媒はHCを浄化することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の内燃機関の排気浄化装置では、請求項1において、前記第2触媒は、触媒層の温度が前記第2所定温度以上であるときに、吸着したNOxを脱離する触媒であり、前記空燃比制御手段は、前記第2触媒の温度が前記第2所定温度以上であるときに、前記空燃比を理論空燃比よりもややリッチな空燃比であるスライトリッチとすることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3の内燃機関の排気浄化装置では、請求項1或いは2において、前記内燃機関の前記排気通路に、前記内燃機関から排出される微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、前記パティキュレートフィルタに捕集された前記微粒子状物質の堆積量を検出する堆積量検出手段と、を備え、前記空燃比制御手段は、前記パティキュレートフィルタの温度を制御する機能を有し、前記堆積量検出手段にて検出される前記堆積量が閾値以上であると、該パティキュレートフィルタの温度を前記微粒子状物質が燃焼される温度であるPM燃焼温度以上とすることを特徴する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、触媒層の温度が第1所定温度に達するまでは、内燃機関から排出された排気中の炭化水素(HC)と窒素酸化物(NOx)は、それぞれの第1触媒と第2触媒とで吸着される。さらに、第1触媒の触媒層の温度が第2所定温度に達するまでは、空燃比を理論空燃比よりもリーンとすることで、第1触媒から脱離するHCを第1触媒よりも下流に備えられた三元触媒機能を有する第3触媒にて、より高い効率で浄化することができる。また、第2触媒は、触媒層の温度が第2所定温度未満であればNOxを吸着できるため、空燃比がリーンに制御されても、NOxの排出を抑制することができる。
【0011】
したがって、各触媒の温度が三元触媒の機能を十分に発揮できない低温(200℃未満)であっても排気の浄化効率を向上することができる。
また、請求項2の発明によれば、第2触媒で吸着したNOxが脱離しても、空燃比をNOxの還元反応が進行しやすいスライトリッチとすることで、第2触媒の下流に備えられた三元触媒機能を有する第3触媒にてNOxを効率よく浄化することができる。
【0012】
したがって、三元触媒機能を有する第3触媒の温度がNOxを浄化することのできない第2所定温度未満にあるときには、NOxを第2触媒に吸着させ、三元触媒機能を有する第3触媒にてNOxの浄化が可能となる第2所定温度以上にあるときには、三元触媒機能を有する第3触媒にてNOxを浄化させることで、各触媒の温度が低温であっても確実に排気を浄化することができる。
【0013】
また、請求項3の発明によれば、排気通路にパティキュレートフィルタを備え、当該パティキュレートフィルタに捕集された微粒子状物質(PM)の堆積量が閾値以上となると、当該パティキュレートフィルタの温度をPM燃焼温度以上としており、内燃機関より排出されるPMを捕集し、燃焼させることで確実に排気を浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
図2】多機能触媒の概略の構成を示す図である。
図3】エンジンの運転状態と多機能触媒の温度と各触媒層の状態の一例を時系列で示す図である。
図4】スライトリッチ運転における空燃比制御の詳細を時系列で示す図である。
図5】電子コントロールユニットが実行する多機能触媒の空燃比及び温度制御のフローチャートの一部である。
図6】電子コントロールユニットが実行する多機能触媒の空燃比及び温度制御のフローチャートの残部である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置が適用されたエンジンの概略構成図である。図2は、多機能触媒の概略の構成を示す図である。図2中の矢印は、排気の流れ方向を示している。また、図3は、エンジンの運転状態と多機能触媒の温度と各触媒層の状態の一例を時系列で示す図である。図3の縦軸は、上段より、空燃比、三元触媒及び多機能触媒でのHC、CO、NOxの浄化範囲、多機能触媒の各触媒の状態、多機能触媒温度Tmを示している。なお、図3中の三元触媒及び多機能触媒でのHC、CO、NOxの浄化範囲と多機能触媒の各触媒の状態は、三元触媒の温度、或いは多機能触媒温度Tmにおける三元触媒及び多機能触媒でのHC、CO、NOxの浄化可能範囲と多機能触媒の各触媒層の状態を示すものである。図4は、スライトリッチ運転での空燃比制御の詳細を時系列で示す図である。図4中の縦軸は、空燃比を示している。なお、本実施例では、低温HCトラップ触媒(本発明の第1触媒に相当)27と、低温NOx吸着触媒(本発明の第2触媒に相当)28と、三元触媒機能を有するPM燃焼触媒(本発明の第3触媒に相当)29とを、多機能触媒26のケーシング26a内に一体で構成していることから、多機能触媒温度Tmをそれぞれの触媒に担持される触媒層の温度としている。
【0016】
図1に示すように、エンジン(内燃機関)1は、シリンダヘッド3とピストン6とで形成される燃焼室10に臨むようにシリンダヘッド3に配設された筒内噴射用インジェクタ(空燃比制御手段)21より燃焼室10内へ燃料を直接噴射する筒内噴射を行う4サイクル直列4気筒型ガソリンエンジンである。
図1にはエンジン1の1つの気筒についての縦断面が示されている。なお、他の気筒についても同様の構成をしているものとして図示及び説明を省略する。
【0017】
図1に示すように、エンジン1は、シリンダブロック2にシリンダヘッド3が載置されて構成されている。
シリンダブロック2には、エンジン1を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサ4が設けられている。また、シリンダブロック2に形成されているシリンダ5内には上下摺動可能にピストン6が設けられている。当該ピストン6は、コンロッド7を介してクランクシャフト8に連結されている。また、シリンダブロック2には、当該エンジン1の回転速度及びクランクシャフト8の位相を検出するクランク角センサ9が設けられている。そして、燃焼室10は、シリンダヘッド3とシリンダ5とピストン6とで形成されている。
【0018】
シリンダヘッド3には、燃焼室10に臨むようにして点火プラグ11が設けられている。また、シリンダヘッド3には、燃焼室10からシリンダヘッド3の一側面に向かって吸気ポート12が形成されており、燃焼室10からシリンダヘッド3の他側面に向かって排気ポート13が形成されている。そして、シリンダヘッド3には、燃焼室10と吸気ポート12との連通及び遮断を行う吸気バルブ14と、燃焼室10と排気ポート13との連通及び遮断を行う排気バルブ15が設けられている。また、シリンダヘッド3の上部には吸気バルブ14を駆動する吸気カム16を有した吸気カムシャフト18と、排気バルブ15を駆動する排気カム17を有した排気カムシャフト19とがそれぞれ設けられている。また、シリンダヘッド3の一側面には吸気ポート12と連通するように吸気マニホールド20が接続されている。更にシリンダヘッド3の吸気マニホールド20が接続された側面には、燃焼室10内に臨むように筒内噴射用インジェクタ21が設けられている。一方、シリンダヘッド3の吸気マニホールド20が接続された側面とは反対側の側面には、排気ポート13と連通するように排気マニホールド23が接続されている。
【0019】
筒内噴射用インジェクタ21には、図示しない燃料配管を介して燃料の供給圧力を可変可能であって、高圧の燃料を供給する高圧ポンプと、高圧ポンプに燃料タンク内の燃料を供給するフィードポンプが接続されている。そして、筒内噴射用インジェクタ21は、燃焼室10内に高圧の燃料を噴射するものである。
吸気マニホールド20の吸気上流端には、図示しない吸気管、吸入空気流量を調節する図示しない電子制御スロットルバルブが設けられている。そして、電子制御スロットルバルブには、スロットルバルブの開き度合を検出する図示しないスロットルポジションセンサが備えられている。また、電子制御スロットルバルブの上流側の吸気管には、吸入空気流量を検出する図示しないエアフローセンサが設けられているとともに、吸気管の吸気上流端には、図示しないエアクリーナが設けられている。
【0020】
また、排気マニホールド23の排気下流端には、排気管(排気通路)24を介して、上流側より三元触媒25と多機能触媒26とが備えられている。そして、多機能触媒26の上流側の排気管24には、多機能触媒26の上流の排気の圧力を検出する排気圧センサ(堆積量検出手段)30と、排気の空燃比を検出する空燃比センサ31とが設けられている。更に多機能触媒26の下流側の排気管24には、多機能触媒26の下流の排気の圧力を検出する排気圧センサ(堆積量検出手段)32と、排気の温度を検出する排気温センサ33とが設けられている。
【0021】
三元触媒25は、担体に貴金属触媒として白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属を有し、空燃比がストイキ近傍にあり、触媒が活性状態であるときに炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を除去する機能を有するものである。なお、本発明では、三元触媒が約300℃〜約400℃であるときに、三元触媒が実用上有効な排気浄化性能を得られる活性開始状態であるとし、上記温度を活性温度と呼ぶ。
【0022】
図2に示すように、多機能触媒26は、筒状のケーシング26a内に低温HCトラップ触媒27と、低温NOx吸着触媒28と、三元触媒機能を有するPM燃焼触媒29とを備えて形成されている。
低温HCトラップ触媒27は、ガソリンパティキュレートフィルタ(パティキュレートフィルタ)27aに、低温HCトラップ触媒層27dが担持されて形成されている。
【0023】
ガソリンパティキュレートフィルタ27aは、多孔質の壁27cにて形成される排気が通過する通路27bの上流側及び下流側を交互にプラグで閉鎖されたハニカム担体、所謂ウォールフローフィルタである。そして、ガソリンパティキュレートフィルタ27aは、排気中の微粒子状物質(PM)を捕集する機能を有している。
低温HCトラップ触媒層27dは、第1所定温度(約200℃)未満の低温でHCをトラップすることのできるゼオライト等のHCトラップ剤を含む触媒層である。なお、ゼオライトは、遷移金属(鉄(Fe)、銀(Ag)など)で修飾した材料であってもよい。低温HCトラップ触媒層27dは、触媒層にHCトラップ剤としてのゼオライトを含んでおり、図3に示すように、低温HCトラップ触媒27の温度、即ち多機能触媒26の温度である多機能触媒温度Tmが第1所定温度(約200℃)未満の低温である時に排気中のHCをトラップし、低温HCトラップ触媒27の温度が第1所定温度以上で、且つ三元触媒の活性温度以下の第2所定温度(約300℃)未満であるときに、トラップしたHCを脱離する機能を有している。
【0024】
低温NOx吸着触媒28は、ガソリンパティキュレートフィルタ(パティキュレートフィルタ)28aに、低温NOx吸着触媒層28dが担持されて形成されている。
ガソリンパティキュレートフィルタ28aは、ガソリンパティキュレートフィルタ27aと同一の構成であり、同一の機能であるので詳細な説明を省略する。
低温NOx吸着触媒層28dは、アルミナ(Al23)等の母材に、第2所定温度(約300℃)未満の低温でNOxを吸着することのできる遷移金属である鉄(Fe)或いは銀(Ag)等のNOx吸着剤と、酸化セリウム(CeO2)や酸化チタン(TiO2)等の助触媒とを含む触媒層である。低温NOx吸着触媒層28dは、触媒層にNOx吸着剤としてのFe或いはAgなどの遷移金属を含んでおり、図3に示すように、低温NOx吸着触媒28の温度、即ち多機能触媒26の温度である多機能触媒温度Tmが第2所定温度(約300℃)未満の低温である時に排気中のNOxを吸着し、低温NOx吸着触媒28の温度が第2所定温度以上で第3所定温度(約400℃)未満であるときに、即ち三元触媒においてNOx浄化性能が得られる温度で、吸着したNOxを脱離する機能を有している。
【0025】
三元触媒機能を有するPM燃焼触媒29は、ガソリンパティキュレートフィルタ(パティキュレートフィルタ)29aに、PM燃焼触媒層29dが担持されて形成されている。
ガソリンパティキュレートフィルタ29aは、ガソリンパティキュレートフィルタ27a,28aと同一の構成であり、同一の機能であるので詳細な説明を省略する。
PM燃焼触媒層29dは、アルミナ(Al23)等の母材に、ロジウム(Rh)等の貴金属と、酸化セリウム(CeO2)やジルコニア(ZrO2)等の助触媒とを含む触媒層である。PM燃焼触媒層29dは、触媒層に貴金属を含んでいる。即ち、三元触媒としての機能を有しており、上記三元触媒25と同様に、空燃比がストイキ近傍にあり、触媒が活性状態であるときに炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を除去する機能を有する。さらに、図3に示すように、PM燃焼触媒層29dの温度、即ち多機能触媒26の温度である多機能触媒温度Tmが活性温度に達していない場合でも(第2所定温度未満であるとき)、空燃比をストイキよりもリーンとすることで低温HCトラップ触媒27より脱離したHCを浄化する機能を有している。また、PM燃焼触媒層29dは、低温HCトラップ触媒27、低温NOx吸着触媒28及びPM燃焼触媒29の温度、即ち多機能触媒26の温度である多機能触媒温度Tmを三元触媒のPM燃焼が短時間に進行しやすい第5所定温度(約650℃)とし、低温HCトラップ触媒27、低温NOx吸着触媒28及びPM燃焼触媒29のガソリンパティキュレートフィルタ27a,28a,29aにて捕集され堆積したPMを燃焼するときに発生するCO等の浄化する機能も有している。
【0026】
そして、上記水温センサ4、クランク角センサ9、排気圧センサ30、空燃比センサ31、排気圧センサ32、排気温センサ33、吸気圧センサ、スロットルポジションセンサ、エアフローセンサ及び車両の車速を検出する図示しない車速センサ等の各種センサ類は、車両に搭載されている電子コントロールユニット(空燃比制御手段、堆積量検出手段)40の入力側に電気的に接続されており、これらセンサ類からの検出情報が電子コントロールユニット40に入力される。
【0027】
一方、電子コントロールユニット40の出力側には、上記点火プラグ11、筒内噴射用インジェクタ21、電子制御スロットルバルブ等の各種装置が電気的に接続されており、これら各種装置には各種センサ類からの検出情報に基づき演算された点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等がそれぞれ出力される。
電子コントロールユニット40は、排気温センサ33にて検出される排気温より多機能触媒26内の温度である多機能触媒温度(本発明の各触媒層の温度に相当)Tmを算出する。そして、電子コントロールユニット40は、多機能触媒温度Tmに基づいて、所望の多機能触媒温度Tm及び所望の空燃比となるように筒内噴射用インジェクタ21からの燃料噴射量を制御する多機能触媒26の空燃比及び温度制御を行う。詳しくは、電子コントロールユニット40は、多機能触媒温度Tmが第2所定温度未満であると、空燃比がリーンとなるように筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御する(図3のリーン運転)。また、多機能触媒温度Tmが第2所定温度以上で第3所定温度未満であると、空燃比がスライトリッチとなるように筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御する(図3のスライトリッチ運転)。図3のスライトリッチ運転では、図4に示すように、空燃比の平均値がスライトリッチとなるように、所定時間(例えば、約1sec)内に空燃比をリッチとリーンとに変化させるサイクルを複数回実施して、平均空燃比をスライトリッチ(例えば、平均空燃比が理論空燃比よりも0.3%〜3.0%リッチ)とする。ここで、平均空燃比を過度のリッチ設定(理論空燃比より3.0%を上回るリッチ設定)にすると、NOxの還元性能は高まるが、HCやCOの酸化性能が低下するため、好ましくない。また、平均空燃比を過少のリッチ設定(理論空燃比より0.3%を下回るリッチ設定)にすると、NOxの還元性能が低下するため、好ましくない。さらに、平均空燃比をスライトリッチにしたうえで、空燃比をリッチとリーンとに交互に変動させることで、NOxの還元性能だけでなく、HCやCOの酸化性能の低下も抑制できる。そして、多機能触媒温度Tmが、第3所定温度以上であるときには、空燃比センサ31にて検出される空燃比がストイキとなるように、筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御する(図3のストイキフィードバック運転)。
【0028】
また、電子コントロールユニット40は、排気圧センサ30にて検出される多機能触媒26の上流側の排気圧力と、排気圧センサ32にて検出される多機能触媒26の下流側の排気圧力との差に基づき、多機能触媒26内のPM堆積量を推定する。そして、PM堆積量が閾値を越えると、多機能触媒温度Tmが第4所定温度(約500℃)以上で、第5所定温度(約650℃)未満であれば、多機能触媒温度Tmが第5所定温度以上となるように、筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御する(図3の触媒昇温運転)。また、多機能触媒温度Tmが第5所定温度以上であれば、多機能触媒26内のPMが燃焼するように筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御する(図3のPM燃焼運転)。
【0029】
次に電子コントロールユニット40での多機能触媒26の空燃比及び温度制御について説明する。
図5は、電子コントロールユニット40が実行する多機能触媒26の空燃比及び温度制御のフローチャートの一部であり、図6は、電子コントロールユニット40が実行する多機能触媒26の空燃比及び温度制御のフローチャートの残部である。
【0030】
図5及び図6に示すように、ステップS10では、エンジン1の運転条件を検出する。詳しくは、クランク角センサ9、吸気圧センサ、スロットルポジションセンサ、エアフローセンサ及び車速センサ等の各種センサ類での検出結果より、エンジン1の運転条件を検出する。そして、ステップS12に進む。
ステップS12では、エンジン水温Tcを検出する。詳しくは、水温センサ4にてエンジン1の冷却水の温度であるエンジン水温Tcを検出する。そして、ステップS14に進む。
【0031】
ステップS14では、エンジン水温Tcが0℃以上であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン水温Tcが0℃以上であれば、ステップS16に進む。また、判別結果が否(No)でエンジン水温Tcが0℃以上でなければ、本ルーチンをリターンする。
ステップS16では、多機能触媒温度Tmを検出する。詳しくは、排気温センサ33にて検出される多機能触媒26の下流側の排気温度より、多機能触媒26の温度である多機能触媒温度Tmを算出する。そして、ステップS18に進む。
【0032】
ステップS18では、多機能触媒温度Tmが第2所定温度未満か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で多機能触媒温度Tmが第2所定温度未満であれば、ステップS20に進む。また、判別結果が否(No)で多機能触媒温度Tmが第2所定温度未満でなければ、ステップS22に進む。
ステップS20では、リーン運転を実施する。詳しくは、空燃比がリーン空燃比となるように筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御するリーン運転を実施する(図3のリーン運転)。そして、本ルーチンをリターンする。
【0033】
一方、ステップS22では、多機能触媒温度Tmが第3所定温度未満か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で多機能触媒温度Tmが第3所定温度未満であれば、ステップS24に進む。また、判別結果が否(No)で多機能触媒温度Tmが第3所定温度未満でなければ、ステップS26に進む。
ステップS24では、スライトリッチ運転を実施する。詳しくは、空燃比がスライトリッチとなるように筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御するスライトリッチ運転を実施する(図3のスライトリッチ運転)。スライトリッチ運転では、図4に示すように、空燃比の平均値がスライトリッチとなるように、所定時間(約1sec)内に空燃比をリッチとリーンとに変化させるサイクルを複数回実施して、空燃比をスライトリッチとする。そして、本ルーチンをリターンする。
【0034】
一方、ステップS26では、ストイキフィードバック運転を実施する。詳しくは、空燃比センサ31にて検出される空燃比がストイキとなるように、筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御するストイキフィードバック運転を実施する(図3のストイキフィードバック運転)。そして、ステップS28に進む。
ステップS28では、PM堆積量を推定する。詳しくは、排気圧センサ30にて検出される多機能触媒26の上流側の排気圧力と、排気圧センサ32にて検出される多機能触媒26の下流側の排気圧力との差に基づいて、PM堆積量を推定する。そして、ステップS30に進む。
【0035】
ステップS30では、PM再生条件が成立したか、否かを判別する。詳しくは、PM堆積量が閾値以上、且つ、ステップS10にて検出されるエンジン運転条件が所定条件となるPM再生条件が成立したか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でPM堆積量が閾値を越え、エンジン運転条件が所定条件を満たしていれば、PM再生条件が成立したと判別し、ステップS32に進む。また、判別結果が否(No)でPM堆積量及びエンジン運転条件のいずれかが条件を満たしていなければ、PM再生条件が成立していないと判別し、本ルーチンをリターンする。
【0036】
ステップS32では、多機能触媒温度Tmが第4所定温度以上であって、第5所定温度未満であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で多機能触媒温度Tmが第4所定温度以上であって、第5所定温度未満であれば、ステップS34に進む。また、判別結果が否(No)で多機能触媒温度Tmが第4所定温度以上であって、第5所定温度未満でなければ、ステップS38に進む。
【0037】
ステップS34では、昇温条件が成立しているか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で昇温条件が成立していれば、ステップS36に進む。また、判別結果が否(No)で昇温条件が成立していなければ、本ルーチンをリターンする。
ステップS36では、触媒昇温運転を実施する。詳しくは、多機能触媒温度Tmが第5所定温度以上となるように、筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御する触媒昇温運転を実施する(図3の触媒昇温運転)。そして、本ルーチンをリターンする。
【0038】
一方、ステップS38では、多機能触媒温度Tmが第5所定温度以上であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で多機能触媒温度Tmが第5所定温度以上であれば、ステップS40に進む。また、判別結果が否(No)で多機能触媒温度Tmが第5所定温度以上でなければ、本ルーチンをリターンする。
ステップS40では、PM燃焼運転を実施する。詳しくは、多機能触媒26に堆積したPMが燃焼するように、筒内噴射用インジェクタ21の作動を制御するPM燃焼運転を実施する(図3のPM燃焼運転)。そして、本ルーチンをリターンする。
【0039】
このように本発明に係る内燃機関の排気浄化装置では、図3に示すように、エンジン1の始動時等で多機能触媒温度Tmが第2所定温度(約300℃)に達するまで、低温NOx吸着触媒28の低温NOx吸着触媒層28dは、エンジン1より排出されるNOxを吸着する。その後、多機能触媒温度Tmが第2所定温度となると、低温NOx吸着触媒28の低温NOx吸着触媒層28dからのNOxの脱離が開始し、第3所定温度(約400℃)となるまでにNOxの脱離が終了する。このとき、空燃比をスライトリッチとすることで、三元触媒機能を有するPM燃焼触媒29のPM燃焼触媒層29dにてNOxをより高い効率で浄化することができる。また、多機能触媒温度Tmが第1所定温度(約200℃)に達するまで、低温HCトラップ触媒27の低温HCトラップ触媒層27dは、エンジン1から排出される炭化水素(HC)をトラップする。その後、多機能触媒温度Tmが第1所定温度となると、低温HCトラップ触媒27の低温HCトラップ触媒層27dからのHCの脱離が開始し、第2所定温度となるとHCの脱離が終了する。上記の通り、三元触媒は、第2所定温度以上で活性状態となるため、第2所定温度に達するまでは空燃比が酸素濃度の比較的少ないストイキであるとHCを十分に浄化することができない。そこで、空燃比をリーンとし、排気中の酸素濃度を高くすることで、三元触媒の活性が比較的低い状態であってもPM燃焼触媒29のPM燃焼触媒層29dにてHCを完全ではないものの、実用上効果が得られるレベルで浄化することができる。また、各々のガソリンパティキュレートフィルタ27a,28a,29aは、エンジン1より排出される微粒子状物質(PM)を捕集する。そして、多機能触媒温度Tmを第5所定温度以上に昇温させて、ガソリンパティキュレートフィルタ27a,28a,29aに堆積したPMを燃焼、浄化することができる。
【0040】
したがって、三元触媒25及びPM燃焼触媒29の温度がHC或いはNOxを浄化することのできない低温、即ち活性温度となっていなくても確実にHC、NOx及びPMを浄化することができる。
以上で発明の実施形態の説明を終えるが、発明の形態は本実施形態に限定されるものではない。
【0041】
本実施形態では、多機能触媒26のケーシング26a内に低温HCトラップ触媒27と、低温NOx吸着触媒28と、PM燃焼触媒29とを備えているが、これに限定されるものではなく、例えば、各々の触媒を別々のケーシング内に収納し、排気管24に備えるようにしてもよい。
また、低温HCトラップ触媒層27dと低温NOx吸着触媒層28dとを別々のガソリンパティキュレートフィルタ27a,28aに担持して、それぞれの触媒を形成しているが、これに限定されるものではなく、例えば、単一のガソリンパティキュレートフィルタ上に積層するように担持して、一体で形成するようにしてもよい。この場合には、低温HCトラップ触媒層27dと低温NOx吸着触媒層28dのいずれが上層であってもよい。
【0042】
また、低温HCトラップ触媒層27dと、低温NOx吸着触媒層28dと、PM燃焼触媒層29dをガソリンパティキュレートフィルタ27a,28a,29aに担持しているが、これに限定されるものではなく、例えば、PMの排出量が少なく、PMの除去が不要なエンジンでは、オープンフローハニカムに担持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 エンジン(内燃機関)
21 筒内噴射用インジェクタ(空燃比制御手段)
24 排気管(排気通路)
26 多機能触媒
27 低温HCトラップ触媒(第1触媒)
28 低温NOx吸着触媒(第2触媒)
29 PM燃焼触媒(第3触媒)
30 排気圧センサ(堆積量検出手段)
32 排気圧センサ(堆積量検出手段)
40 電子コントロールユニット(空燃比制御手段、堆積量検出手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6