特許第6198004号(P6198004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6198004III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198004
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20170911BHJP
   H01L 33/06 20100101ALI20170911BHJP
【FI】
   H01L33/32
   H01L33/06
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-29974(P2014-29974)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-156409(P2015-156409A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮
(72)【発明者】
【氏名】向野 美郷
【審査官】 佐藤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−065271(JP,A)
【文献】 特開2010−080619(JP,A)
【文献】 特開2013−065630(JP,A)
【文献】 特表2002−527890(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/042832(WO,A1)
【文献】 Hongping Zhao 他,"Analysis of Internal Quantum Efficiency andCurrent Injection Efficiency in III-NitrideLight-Emitting Diodes",JOURNAL OF DISPLAY TECHNOLOGY,米国,2013年 3月12日,VOL.9, NO.4,p.212-225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InGaNからなる井戸層、保護層、AlGaNからなる障壁層を順に積層した構造を単位として、その単位構造を繰り返し積層したMQW構造の発光層を有するIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
前記保護層の形成工程は、
前記井戸層上に、前記井戸層の成長温度と同一の温度で、GaNからなる第2保護層を形成する工程と、
前記第2保護層上に、前記井戸層の成長温度と同一の温度で、バンドギャップが前記井戸層よりも大きく、かつ、In組成比が1.5%以上3.5%以下であるAlGaInNからなる第1保護層を、前記第2保護層のピットを埋めるようにして形成する工程と、からなり、
前記井戸層の成長温度は、700〜850℃であり、
前記障壁層の成長温度は、765〜985℃であって前記井戸層の成長温度よりも高い温度である
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1保護層の厚さは、0.2nm以上1.8nm以下、前記第2保護層の厚さは0.2nm以上1.8nm以下である、ことを特徴とする請求項1記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法
【請求項3】
記第1保護層のAl組成比は、前記障壁層のAl組成比の4〜5倍であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法
【請求項4】
前記第1保護層表面のピット密度は、5×108 /cm2 未満である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層の構造に特徴を有したIII 族窒化物半導体発光素子に関する。特に、発光層が、井戸層、保護層、障壁層を順に積層させた構造を単位としてそれを複数回繰り返し積層させたMQW構造であって、保護層に特徴を有したものに関する。また、そのIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体発光素子の発光層として、InGaNからなる井戸層とAlGaNからなる障壁層とを順に繰り返し積層させたMQW構造が広く用いられている。障壁層はAlGaNであるため、結晶性良く成長させるためには井戸層よりも成長温度を高くする必要がある。そのため、井戸層の形成後に昇温し、その後障壁層を成長させる必要がある。しかし、昇温によって井戸層のInが蒸発してしまい、発光効率の低下や発光波長の変動が生じてしまう。そこで、井戸層と障壁層の間に、井戸層と同じ温度で成長させる保護層を設け、Inの蒸発を防止している。
【0003】
保護層の材料としては、特許文献1にAlGaN単層を用いること、およびGaNとAlGaNの積層を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−80619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、AlGaNからなる保護層を井戸層と同温で成長させると、結晶品質の低い層となってしまい、キャリアの閉じ込め効果が低くなってしまったり、保護層でキャリアが捕獲されてしまう。その結果、発光効率の低下を引き起こす。
【0006】
そこで本発明の目的は、MQW構造の発光層を有したIII 族窒化物半導体発光素子の発光効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、InGaNからなる井戸層、保護層、AlGaNからなる障壁層を順に積層した構造を単位として、その単位構造を繰り返し積層したMQW構造の発光層を有するIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、保護層の形成工程は、井戸層上に、井戸層の成長温度と同一の温度で、GaNからなる第2保護層を形成する工程と、第2保護層上に、井戸層の成長温度と同一の温度で、バンドギャップが井戸層よりも大きく、かつ、In組成比が1.5%以上3.5%以下であるAlGaInNからなる第1保護層を、第2保護層のピットを埋めるようにして形成する工程と、からなり、井戸層の成長温度は、700〜850℃であり、障壁層の成長温度は、765〜985℃であって井戸層の成長温度よりも高い温度である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0008】
In組成比は、III 族窒化物半導体を構成するIII 族金属全体のうちInが占める割合(mol%)である。第1保護層のIn組成比は、1.5%以上3.5%以下とすることがより望ましく、2%以上3%以下とすることがさらに望ましい。
【0009】
保護層は、井戸層上に位置し、GaNからなる第2保護層と、第2保護層上に接して位置する第1保護層と、によって構成された積層構造としてもよい。この場合、第1保護層の厚さは、0.2〜1.8nmとすることが望ましく、第2保護層の厚さは、0.2〜1.8nmとすることが望ましい。第1、2保護層の厚さをこのような範囲とすることで、保護層でのキャリアの再結合やトラップが低減され、発光効率を向上させることができる。またこの場合において、障壁層をAlGaNとし、第1保護層のAl組成比を障壁層のAl組成比の4〜5倍とすることが望ましい。井戸層へのキャリアの閉じ込め効果を向上させることができ、これにより発光効率を向上させることができる。
【0010】
また、保護層は、第1保護層のみからなる単層としてもよい。この場合、第1保護層の厚さは、0.2〜1.8nmとすることが望ましい。保護層でのキャリアの再結合やトラップが低減され、発光効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、保護層はバンドギャップが井戸層よりも大きくIn組成比が0%より大きく4%以下であるAlGaInNからなる第1保護層を有している。保護層をこのような構成とすると、Inのサーファクタントとしての作用により保護層のピットが減少し、結晶性が改善するため発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の構成を示した図。
図2】発光層12の構成を示した図。
図3】In組成比と相対光出力との関係を示したグラフ。
図4】In組成比とピット密度および新たな欠陥の密度との関係を示したグラフ。
図5】実施例2のIII 族窒化物半導体発光素子の発光層の構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
[素子構造]
図1は、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の構成を示した図である。図1のように、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板10と、サファイア基板10上に位置するn型層11と、n型層11上に位置する発光層12と、発光層12上に位置するp型層13と、p型層13上の一部領域に位置する透明電極14と、p電極15と、n電極16と、によって構成されたフェイスアップ型の素子である。
【0015】
サファイア基板10は、その主面上にIII 族窒化物半導体を結晶成長させるための成長基板である。主面は、たとえばa面やc面である。サファイア基板10の表面には光取り出し率を向上させるためにドット状、ストライプ状などの凹凸加工が施されていてもよい。サファイア基板10以外にも、GaN、SiC、ZnO、Siなどの材料の基板を用いてもよい。
【0016】
n型層11は、サファイア基板10の凹凸加工側の表面上にAlNからなるバッファ層(図示しない)を介して位置している。また、n型層11は、サファイア基板10側から順に、nコンタクト層、ESD層、nクラッド層が積層された構造である。nコンタクト層は、たとえばSi濃度が1×1018/cm3 以上のn−GaNからなる。nコンタクト層はSi濃度の異なる複数の層で構成してもよい。ESD層は、たとえばノンドープGaNとn−GaNを積層した層であり、静電耐圧を高めるための層である。nクラッド層は、たとえばInGaNとn−GaNを交互に繰り返し積層した超格子構造の層である。
【0017】
発光層12は、図2に示すように、井戸層12a、保護層12b、障壁層12cがこの順に積層された構造を単位として、その単位構造が繰り返し積層されたMQW構造である。繰り返し回数は3〜10回であり、n型層11と接する層およびp型層13と接する層は障壁層12cとする。発光層12全体としての厚さは500〜700nmである。発光層12の構成の詳細は後述する。
【0018】
p型層13は、発光層12側から順にpクラッド層とpコンタクト層が積層された構造である。pクラッド層には、p−InGaNとp−AlGaNが交互に繰り返し積層された超格子構造を用いることができる。p−InGaNのIn組成比は5〜12%であり、厚さは2nmである。また、p−AlGaNのAl組成比は25〜40%であり、厚さは2.5nmである。また、pコンタクト層はMg濃度が1×1019/cm3 以上で厚さが80nmのp−GaNである。pコンタクト層はMg濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0019】
透明電極14はITOからなり、p型層13表面のほぼ全面に形成されている。透明電極14の材料にはITO以外にも、IZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)、ICO(セリウムドープの酸化インジウム)などを用いることができる。
【0020】
p電極15は透明電極14上に位置している。n電極16は、溝の底面に露出したn型層11のnコンタクト層上に位置している。溝は、半導体層(n型層11、発光層12、p型層13)の一部に設けられたものであり、p型層13表面からn型層11のnコンタクト層に達する深さである。p電極15、n電極16は、ワイヤと接続するパッド部と、パッド部に連続して線状に伸びる配線状部とを有している。
【0021】
次に、発光層12の構成の詳細について、図2を参照に説明する。
【0022】
井戸層12aは、InGaNからなる。そのIn組成比は、たとえば発光波長が380〜460nmとなるような範囲である。また、井戸層12aの厚さは1〜5nmの範囲である。
【0023】
保護層12bは、井戸層12a上に接して位置する第2保護層12b−2と、第2保護層12b−2上に接して位置する第1保護層12b−1と、によって構成された積層構造である。保護層12bは、井戸層12aの形成後、障壁層12cを形成するための昇温時に、井戸層12aのInが蒸発してしまうのを防止するために設ける層である。
【0024】
第2保護層12b−2はGaNからなり、厚さは0.2〜1.8nmである。第2保護層12b−2の厚さをこのような範囲とすることで、第2保護層12b−2でトラップされたり再結合するキャリアを低減し、発光効率を向上させている。より望ましい厚さの範囲は0.5〜1.6nmであり、さらに望ましいのは0.5〜1.1nmである。第1保護層12b−1と井戸層12aとの間に、井戸層12aに格子定数の近い第2保護層12b−2を設けることで、保護層12bの結晶性を改善し、発光効率の向上を図っている。
【0025】
第1保護層12b−1はAlGaInNからなる。また、第1保護層12b−1のバンドギャップは、井戸層12aのバンドギャップよりも大きい。さらに、第1保護層12b−1のIn組成比は0%よりも大きく4%以下である。III 族窒化物半導体にInをドープすると、Inは縦方向(膜厚方向)への成長を抑制して横方向(主面方向)の成長を促進するサーファクタントとして作用する。そのため、第2保護層12b−2に存在しているピットは、Inを含む第1保護層12b−1の形成により多くは埋められる。その結果、保護層12bのピットを減少させることができ、保護層12bの結晶性を改善できるため発光効率を向上させることができる。ただし、Inをドープすると新たな欠陥(ピットとは異なる欠陥)が発生し、発光効率を低下させてしまう。In組成比が4%を越えると、Inドープによる発光効率の向上効果を、新たな欠陥の増加による発光効率の低下が上回ってしまう。そこで第1保護層12b−1のIn組成比は0%よりも大きく4%以下の範囲としている。
【0026】
なお、実際の第1保護層12b−1の作製にあたっては、第1保護層12b−1のIn濃度を1×1016/cm3 以下とすることは困難であるため、「In組成比が0%よりも大きく」とは実質的にはIn濃度が1×1016/cm3 以上となるIn組成比を意味する。
【0027】
第1保護層12b−1のIn組成比のより望ましい範囲は、1.5%以上3.5%以下であり、さらに望ましい範囲は、2%以上3%以下である。
【0028】
また、第1保護層12b−1のAl組成比は、第1保護層12b−1のバンドギャップが井戸層12aのバンドギャップよりも大きくなる範囲で任意である。たとえば、Al組成比は障壁層12cのAl組成比の4〜5倍とすることができる。
【0029】
第1保護層12b−1の厚さは、0.2〜1.8nmである。厚さをこのような範囲とすることで、第1保護層12b−1でトラップされたり再結合するキャリアを低減し、発光効率を向上させている。より望ましい厚さの範囲は0.5〜1.6nmであり、さらに望ましいのは0.5〜1.1nmである。
【0030】
障壁層12cは、AlGaNからなる。Al組成比は3〜10%であり、厚さは1〜10nmである。障壁層12cはAlGaN単層に限らず、複数の層で構成してもよい。たとえば、Al組成比の異なる複数の層とすることができる。
【0031】
以上のように、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子は、発光層12の保護層12bとして、GaNからなる第2保護層12b−2、AlGaInNからなる第1保護層12b−1を順に積層させた構造を用い、第1保護層12b−1のIn組成比を0%よりも大きく4%以下としているため、保護層12bの形成による光出力の低下が抑制され、光出力を向上させることができる。
【0032】
[製造工程]
次に、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の製造工程について説明する。
【0033】
まず、サファイア基板10を用意し、水素雰囲気で加熱して表面のクリーニングを行う。次に、サファイア基板10上に、MOCVD法によって、AlNからなるバッファ層、n型層11、発光層12、p型層13を順に積層させる。MOCVD法において用いる原料ガスは、窒素源として、アンモニア(NH3 )、Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 3 )、In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 3 )、Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH3 3 )、n型ドーピングガスとして、シラン(SiH4 )、p型ドーピングガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C2 5 2 )、キャリアガスとしてH2 、N2 である。
【0034】
ここで、発光層12の形成方法についてより詳細に説明する。
【0035】
発光層12は、井戸層12a、第2保護層12b−2、第1保護層12b−1、障壁層12cをこの順に積層し、この積層構造を単位として繰り返し積層することによって形成する。
【0036】
井戸層12aは、温度700〜850℃で形成する。第2保護層12b−2は、井戸層12a上に井戸層12aの成長温度と同温で形成する。第1保護層12b−1は、第2保護層12b−2上に井戸層12aの成長温度と同温で形成する。障壁層12cは、第1保護層12b−1上に温度765〜985℃の範囲であって第1保護層12b−1の成長温度よりも高い温度で形成する。第1保護層12b−1よりも高い温度で成長させることで障壁層12cを結晶性良く成長させることができ、発光効率の向上を図ることができる。ここで、障壁層12cを形成する際に昇温が必要となるが、その昇温時において、井戸層12aは保護層12bに覆われているため、井戸層12aからInが蒸発することはなく、発光効率が低下してしまうことが抑制されている。
【0037】
このようにして井戸層12a、保護層12b、障壁層12cを順に繰り返し積層することでMQW構造の発光層12を形成する。
【0038】
次に、p型層13上の所定領域にITOからなる透明電極14を形成する。そして、p型層13の所定の領域をドライエッチングして、p型層13表面からn型層11のnコンタクト層に達する深さの溝を形成する。次に、透明電極14上にp電極15、溝底面に露出したnコンタクト層表面にn電極16を形成する。以上によって、図1に示す実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子が製造される。
【0039】
[実験例1]
図3は、第1保護層12b−1のIn組成比と、相対光出力との関係を示したグラフである。相対光出力はIn組成比が0%のとき、つまりAlGaNである場合を基準とした。
【0040】
図3のように、相対光出力は、In組成比の変化に対してIn組成比3%付近をピークとする山型に変化していることがわかった。つまり、In組成比が3%までの範囲では、In組成比の増加に伴い相対光出力は単調に増加することがわかった。また、In組成比が3%を越えると、In組成比の増加とともに相対光出力は単調に減少していくことがわかった。また、In組成比が4%を越えると相対光出力は1.00未満となり、In組成比が0%の場合よりも光出力が低下してしまうことがわかった。
【0041】
以上のことから、In組成比を0%よりも大きく4%以下とすることで、Inをドープしない場合に比べて光出力を向上できるとわかった。特にIn組成比を1.5%以上3.5%以下とすることで、より光出力を向上させることができ、Inをドープしない場合に比べて光出力を0.2%以上向上させることができた。また、In組成比を2%以上3%以下とすることで、さらに光出力を向上させることができ、Inをドープしない場合に比べて光出力を0.4%以上向上させることができた。
【0042】
[実験例2]
図4は、第1保護層12b−1のIn組成比と、第1保護層12b−1表面のピット密度および新たな欠陥の密度との関係を示したグラフである。ここでピットは転位などの結晶欠陥に基づいて結晶中に発生する孔である。また、新たな欠陥は、ピットとは発生原因の異なる欠陥であり、Inをドープしない場合には見られない欠陥である。
【0043】
図4のように、Inをドープしない場合は5×108 /cm2 であったピット密度は、In組成比の増加とともに単調に減少していくことがわかった。一方、新たな欠陥はIn組成比が0のときには見られないが、Inがドープされると新たな欠陥が発生し、In組成比が増加していくと新たな欠陥は単調に増加していくことがわかった。
【0044】
この図4の結果から、In組成比の変化に対して相対光出力が図3のようにIn組成比3%付近にピークを有した山型に変化するのは、次のように説明できる。すなわち、In組成比が増加すると、Inのサーファクタントとしての作用によりピットが埋められて減少する。そのため、保護層12b−1の結晶性が次第に改善し、発光効率の向上に寄与する。一方、In組成比が増加すると、新たな欠陥が増加していくため、保護層12b−1の結晶性は悪化し発光効率の低下に寄与する。
【0045】
In組成比が3%以下では、ピットの減少による発光効率の向上効果が、新たな欠陥の増加による発光効率の低下効果よりも支配的である。そのため、In組成比が3%までは次第に相対光出力が増加していく。しかし、In組成比が3%を越えると、新たな欠陥の増加による発光効率の低下効果よりも、ピットの減少による発光効率の向上効果が支配的となり、次第に相対光出力は低下していく。そしてIn組成比が4%を越えると、新たな欠陥の増加による発光効率の低下効果が、ピットの減少による発光効率の向上効果を上回り、全体としての発光効率はInをドープしない場合よりも低下してしまう。
【0046】
以上のように、ピットの減少と新たな欠陥の増加とのバランスによって、図4のようにIn組成比の増加に対して相対光出力が3%付近にピークを有した山型に変化したものと考えられる。
【実施例2】
【0047】
実施例2のIII 族窒化物半導体発光素子は、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の発光層12の保護層12bを、保護層22bに置き替えた発光層22を有するものである。他の構成は実施例1と同様である。
【0048】
図5は、実施例2のIII 族窒化物半導体発光素子の発光層22の構成を示した図である。発光層22は、図6のように、井戸層12a、保護層22b、障壁層12cがこの順に積層された構造を単位として、その単位構造が3〜10回繰り返し積層されたMQW構造である。ただし、n型層11に接する層は障壁層12cとしている。
【0049】
保護層22bは、AlGaInNからなる単層である。また、保護層22bのバンドギャップは、井戸層12aのバンドギャップよりも大きい。さらに、保護層22bのIn組成比は0%よりも大きく4%以下である。In組成比をこのような範囲とすることで、実施例1と同様に発光効率を向上させることができる。In組成比のより望ましい範囲は、1.5%以上3.5%以下であり、さらに望ましい範囲は、2%以上3%以下である。
【0050】
保護層22bの厚さは、0.2〜1.8nmである。厚さをこのような範囲とすることで、保護層22bでトラップされたり再結合するキャリアを低減し、発光効率を向上させている。より望ましい厚さの範囲は0.5〜1.6nmであり、さらに望ましい範囲は0.5〜1.1nmである。
【0051】
また、保護層22bのAl組成比は、保護層22bのバンドギャップが井戸層12aのバンドギャップよりも大きい範囲で任意である。たとえば、Al組成比は障壁層12cのAl組成比の4〜5倍とすることができる。
【0052】
この実施例2のIII 族窒化物半導体発光素子もまた、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子と同様の効果を得ることができる。すなわち、保護層22bがAlGaInNからなり、In組成比が0%よりも大きく4%以下であるため、保護層22bを設けることによる発光効率の低下が抑制され、発光効率が向上されている。
【0053】
なお、本発明は実施例1、2に示した構成のIII 族窒化物半導体発光素子に限るものではなく、MQW構造の発光層を有した任意の構成のIII 族窒化物半導体発光素子に対して適用することができる。たとえば、フリップチップ型の発光素子や、成長基板として導電性の材料のものを用いたり、基板をリフトオフするなどして縦方向に導通をとる構造とした発光素子などにも本発明は適用することができる。
【0054】
また、実施例1、2では、井戸層12aとしてInGaNを用いているが、本発明はこれに限るものではなく、Inを含むIII 族窒化物半導体であればよく、Siなどのn型不純物がドープされていてもよい。たとえば、AlGaInNを用いることもできる。また、実施例1、2では障壁層12cとしてAlGaNを用いているが、本発明はこれに限るものではなく、Alを含むIII 族窒化物半導体であって、井戸層12aよりもバンドギャップの大きい材料であればよい。たとえばAlGaInNなどを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のIII 族窒化物半導体発光素子は、照明装置や表示装置などの光源として利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10:サファイア基板
11:n型層
12、22:発光層
12a:井戸層
12b、22b:保護層
12b−1:第1保護層
12b−2:第2保護層
12c:障壁層
13:p型層
14:透明電極
15:p電極
16:n電極
図1
図2
図3
図4
図5