特許第6198035号(P6198035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6198035ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198035
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/08 20060101AFI20170911BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20170911BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170911BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20170911BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C08L83/08
   C08G81/00
   C08K3/04
   C08L67/04
   C08L101/16
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-531738(P2012-531738)
(86)(22)【出願日】2011年7月15日
(86)【国際出願番号】JP2011066215
(87)【国際公開番号】WO2012029421
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年6月6日
【審判番号】不服2015-16803(P2015-16803/J1)
【審判請求日】2015年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2010-198357(P2010-198357)
(32)【優先日】2010年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】曽山 誠
(72)【発明者】
【氏名】木内 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】森下 直樹
(72)【発明者】
【氏名】位地 正年
【合議体】
【審判長】 小野寺 務
【審判官】 藤原 浩子
【審判官】 橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−235193(JP,A)
【文献】 特開2006−176731(JP,A)
【文献】 特開平6−107933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C08L 67/00- 67/04
C08L 101/16
C08G 81/00- 81/02
C08K 3/00- 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物と、溶融状態のポリ乳酸系化合物と、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物とを同時に混合撹拌するか、または、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と前記溶融状態のポリ乳酸化合物とを先行して混合撹拌により反応させ、その後、さらに前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物を反応させる工程Aと、
さらに、膨張性黒鉛を混合撹拌する工程Bとを有し、
前記工程Aにおいて、さらに含フッ素ポリマーを混合攪拌し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であり、
前記膨張性黒鉛の配合量が、製造される組成物全体に対し10質量%〜15質量%の範囲であり、
前記含フッ素ポリマーの配合量が、製造される組成物全体に対し、0.05質量%〜5質量%の範囲であり、かつ、
ポリカーボネートおよび表面処理ポリリン酸アンモニウムを配合しないことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
製造される前記樹脂組成物が、厚み3.2mmの試験片においてUL94試験に基づく難燃性評価の結果がV−1またはV−0であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物が、下記式(1)で表される化合物および下記式(2)で表される化合物の少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物の製造方法。
【化1】
【化2】
前記式(1)および(2)において、
〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は同一でも異なっていてもよく、
、R15およびR16は、それぞれ、2価の有機基を表し、R、R15およびR16は同一でも異なっていてもよく、
d’およびh’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
eおよびiは、それぞれ、1以上の整数を表す。
【請求項4】
前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物が、下記式(12)、下記式(19)、下記式(20)および下記式(21)でそれぞれ表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み、前記式(19)および(21)で表される化合物のエポキシ基含有量が、2質量%未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
前記式(12)、(19)、(20)および(21)において、
、RおよびR18〜R21は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R、R、R18〜R21は同一でも異なっていてもよく、
は、2価の有機基を表し、
l’およびn’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
mは、1以上の整数を表す。
【請求項5】
さらに、リン系難燃化剤を配合し、
前記リン系難燃化剤の配合量が、製造される前記樹脂組成物に対し、0.5質量%〜20質量%の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
さらに、アルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下である金属水和物を配合し、
前記金属水和物の配合量が、製造される前記樹脂組成物に対し、0.05質量%〜40質量%の範囲であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
さらに、可塑剤を配合し、
前記可塑剤の配合量が、製造される前記樹脂組成物に対し、0.05質量%〜20質量%の範囲であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸をはじめとするポリヒドロキシカルボン酸は、比較的優れた成形加工性、靱性、剛性等を有する。中でも、ポリ乳酸は、トウモロコシ等の天然原料から合成することが可能で、優れた成形加工性、生分解性等を有することから環境調和型樹脂として、種々の分野において開発が進められている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は、一般的に燃えやすく、例えば、家電製品、OA機器のハウジング、自動車部品等のように、高度な難燃性を要求される用途に使用する場合には、難燃化対策が必要である。例えば、電気製品の筐体にポリ乳酸樹脂を使用する場合には、米国のUL規格等の難燃規格を満足する必要がある。
【0004】
さらに、ポリ乳酸は、優れた物性を有する一方で、ABS樹脂等の石油を原料とする樹脂に比べ、耐衝撃性、破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性に劣るため、高度な耐衝撃性が要求される電気・電子機器用の外装材等に使用することは難しい。
【0005】
耐衝撃性、難燃性等の改善を目的として、ポリ乳酸とシリコーン・乳酸共重合体とを含有する生分解性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、この生分解性樹脂組成物は、シリコーン・乳酸共重合体の作製工程が煩雑である。また、この生分解性樹脂組成物は、難燃性は良好であるものの、従来の電子・電気機器用途で使用されてきた樹脂に比べると耐衝撃性が不充分であり、実用品に適用するには不利である。
【0006】
また、難燃性、耐衝撃性の改善を目的として、ポリ乳酸樹脂、乳酸樹脂以外の熱可塑性樹脂、ホスホニトリル酸フェニルエステル、および膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。しかし、この樹脂組成物は、湿熱試験前の初期のアイゾット衝撃強度が低く、家電製品、OA機器のハウジング、自動車部品等の大きな靭性(耐衝撃性)が要求される用途では実用レベルに至らない場合がある。
【0007】
また、耐熱性、機械的強度、耐加水分解性、環境親和性の改善を目的として、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂およびアミン基含有鎖拡張剤を含む樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。この樹脂組成物では、ポリ乳酸樹脂をアミノ基含有鎖拡張剤で粘度上昇させ、ポリカーボネート樹脂とのモルフォロジーを制御することで目的の物性を達成するとされている。しかし、この樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂の特徴である高流動性を阻害しており、薄肉成形に適さない。さらに、この樹脂組成物は、石油由来のポリカーボネート樹脂が必須成分であることから、環境調和性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−277575号公報
【特許文献2】特開2008−274224号公報
【特許文献3】特開2009−293031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、高度な難燃性を有し、さらに優れた耐衝撃性および柔軟性を有するポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、
ポリ乳酸樹脂と膨張性黒鉛とを含み、
前記ポリ乳酸樹脂が、
ポリ乳酸化合物のセグメントと、
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントとを有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とする。
【0011】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法は、
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物と、溶融状態のポリ乳酸化合物とを混合撹拌し、さらに、膨張性黒鉛を混合撹拌する工程を有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、高度な難燃性を有し、さらに優れた耐衝撃性および柔軟性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、ポリ乳酸樹脂の難燃性、耐衝撃性、破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性の改良について鋭意検討した。その結果、ポリ乳酸化合物と、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物とを反応させて得られるポリ乳酸樹脂が、優れた耐衝撃性、良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性を有することを見出した。また、前記ポリ乳酸樹脂に膨張性黒鉛を配合することにより、優れた耐衝撃性、良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性を維持しつつ、優れた難燃性が得られることを見出した。
【0014】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物が、特に優れた耐衝撃性等の機械的特性を示す理由としては、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントと、前記ポリ乳酸化合物のセグメントとの結合により、ポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体が形成されているためと考えられる。このポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体の存在により、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物を用いた成形品に、優れた耐衝撃性や、良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性を付与することができると考えられる。なお、前記ポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体は、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、前記ポリ乳酸化合物のエステル基との反応により生成すると考えられる。また、膨張性黒鉛は、表面の極性が低いため、極性の高いポリ乳酸化合物とは馴染みにくいが、ポリシロキサン化合物とは非常に馴染み易い。このため、前記ポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体によって膨張性黒鉛の分散が促進され、相分離や界面強度の低下による強度の低下を抑制し、優れた耐衝撃性、破断曲げ歪、引張破断歪を維持しつつ、優れた難燃性を有するものとなると考えられる。さらに、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、耐ブリード性にも優れる。本来、ポリ乳酸化合物とポリシロキサン化合物は相溶性に乏しく、分散性不良やブリードを起こしやすいが、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物では、特定量のアミノ基を有するポリシロキサン化合物とポリ乳酸化合物との重合反応により、ポリ乳酸化合物に特定量のポリシロキサン化合物が導入されたポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体が形成されている。このポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体は、ポリ乳酸樹脂中に良好に分散し、且つ、ポリ乳酸樹脂界面に良好に結合するシリコーンエラストマー粒子を形成する。このため、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物を用いた成形品に、耐ブリード性を付与することができると考えられる。ただし、これらのメカニズムは推定であり、本発明を何ら限定しない。
【0015】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントにおいて、アミノ基は、ポリシロキサン化合物の側鎖に結合している。側鎖にアミノ基を有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物は、アミノ基の濃度調整が簡便であり、前記ポリ乳酸化合物のセグメントとの反応を調整しやすい。また、特にアミノ基がジアミノ基であれば、モノアミノ基よりポリ乳酸化合物との反応性が高く、好ましい。
【0016】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量は、前記ポリ乳酸化合物のセグメントとの反応性を維持しつつ、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の分子量を高くし、製造時において前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の揮発を抑制可能な範囲とすることが必要である。かかる前記アミノ基の含有量は、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、好ましくは、0.01質量%〜1.0質量%の範囲である。前記アミノ基の含有量が0.01質量%以上であれば、前記ポリ乳酸化合物のセグメントとアミド結合を充分に形成し、効率よく製造することができ、成形品においてポリシロキサンセグメントの分離によるブリードアウトを抑制することができる。前記アミノ基の含有量が2.5質量%以下であれば、製造時における前記ポリ乳酸化合物の加水分解を抑制すると共に、凝集を抑制し、機械的強度が高く、均一な組成を有する成形品が得られる。
【0017】
前記アミノ基の含有量は、下記数式(I)により求めることができる。
【数1】
【0018】
また、前記ポリ乳酸化合物に対する前記アミノ基の配合量は、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であり、好ましくは、50質量ppm〜300質量ppmの範囲である。前記アミノ基の配合量が3質量ppm以上であれば、成形品において前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントに起因する耐衝撃性の向上を図ることができる。前記アミノ基の配合量が300質量ppm以下であれば、製造時において、前記ポリ乳酸化合物と前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の分散が容易であり、前記ポリ乳酸樹脂の分子量が著しく低下するのを抑制し、衝撃強度等の機械的強度に優れた成形品を得ることができる。
【0019】
前記アミノ基の配合量は、下記数式(II)により求めることができる。
【数2】
【0020】
このようなセグメントを構成する前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物としては、特別な手段を用いず、穏やかな条件下で前記ポリ乳酸化合物のセグメントに容易に結合するものが好ましい。かかるアミノ基含有ポリシロキサン化合物としては、例えば、下記式(1)および下記式(2)で表されるものを挙げることができる。
【化1】
【化2】
前記式(1)および(2)において、
〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は同一でも異なっていてもよく、
、R15およびR16は、それぞれ、2価の有機基を表し、R、R15およびR16は同一でも異なっていてもよく、
d’およびh’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
eおよびiは、それぞれ、1以上の整数を表す。
【0021】
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基等が好ましい。前記アルケニル基としては、ビニル基が好ましい。前記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が好ましい。前記アルキルアリール基としては、ベンジル基等を挙げることができる。前記ハロゲン原子としては、塩素、フッ素、臭素等が挙げられる。かかるハロゲン置換基を有するものとしては、具体的には、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロメチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基等を挙げることができる。R〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は、特にメチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0022】
前記フェニル基は、ポリシロキサン化合物のセグメントの透明性を向上させる機能を有する。前記フェニル基の含有量を調整することにより、前記ポリ乳酸樹脂の屈折率を調整することができる。前記ポリシロキサン化合物のセグメントの屈折率を前記ポリ乳酸化合物のセグメントの屈折率と一致させることにより、成形品において均一な屈折率とすることができ、また、成形品に所望の透明度を付与することができる。
【0023】
前記2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基等のアルキルアリーレン基、−(CH−CH−O)−(bは、1〜50の整数)、−〔CH−CH(CH)−O〕−(cは、1〜50の整数)等のオキシアルキレン基またはポリオキシアルキレン基、−(CH−NHCO−(dは、1〜8の整数)等を挙げることができる。これらのうち、特に、R16がエチレン基、RおよびR15がプロピレン基であることが好ましい。
【0024】
d’、h’、eおよびiは、ポリシロキサン化合物の数平均分子量が後述する範囲となる値であることが好ましい。d’およびh’は、それぞれ、1〜15000の整数であることが好ましく、より好ましくは、1〜400の整数、さらに好ましくは、1〜100の整数である。eおよびiは、それぞれ、1〜15000の範囲であることが好ましく、前記数式(I)で求められるアミノ基含有ポリシロキサン化合物に対するアミノ基の含有量が0.01質量%〜2.5質量%の範囲を満たす整数であることが必要である。
【0025】
前記式(1)および(2)に示すアミノ基含有ポリシロキサン化合物においては、繰返し単位数d’、h’、eおよびiによってそれぞれ繰り返される繰返し単位は、同種の繰返し単位が連続して接続されても、交互に接続されても、また、ランダムに接続されていてもよい。
【0026】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の数平均分子量は、900〜120000の範囲であることが好ましい。前記数平均分子量が900以上であれば、前記ポリ乳酸樹脂の製造時において、溶融したポリ乳酸化合物との混練時の揮発による喪失を抑制することができる。前記数平均分子量が120000以下であれば、分散性がよく均一な成形品を得ることができる。前記数平均分子量は、より好ましくは、900〜20000の範囲であり、さらに好ましくは、900〜8000の範囲である。
【0027】
前記数平均分子量は、例えば、試料のクロロホルム0.1%溶液のGPC(ポリスチレン標準試料で較正)分析により測定した測定値を採用することができる。
【0028】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物において、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントが、エポキシ基を有するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物で構成されるセグメントを含むことが好ましい。これにより、より優れた耐衝撃性、良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性を有し、耐ブリード性にも優れたポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。これは、前記ポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体中に、より強力なシリコーンエラストマー粒子が形成され、可塑性が付与されるためと考えられる。ただし、このメカニズムは推定であり、本発明を何ら限定しない。かかるセグメントを構成するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物としては、具体的には、下記式(12)、下記式(19)、下記式(20)および下記式(21)で表される化合物が好ましい。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
前記式(12)、(19)、(20)および(21)において、
、RおよびR18〜R21は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R、RおよびR18〜R21は同一でも異なっていてもよく、
は、2価の有機基を表し、
l’およびn’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
mは、1以上の整数を表す。
【0029】
前記アルキル基、前記アルケニル基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルキルアリール基、および−(CHα−NH−Cは、前記式(1)におけるR等が表すものと同義のものを挙げることができ、前記2価の有機基は、前記式(1)におけるR等が表すものと同義のものを挙げることができる。
【0030】
さらに、前記式(19)および前記式(21)で表されるエポキシ基含有ポリシロキサン化合物のエポキシ基含有量は、2質量%未満であることが好ましい。前記エポキシ基含有量を2質量%未満とすることにより、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物との反応を制御することができ、適度に架橋したエラストマーを形成することにより、機械的特性が改善された成形品を得ることができる。
【0031】
前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物の数平均分子量は、900〜120000の範囲であることが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の場合と同様の製造上の理由から、好ましい。
【0032】
前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物のエポキシ基含有量は、下記数式(III)により求めることができる。
【数3】
【0033】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントを構成するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物の含有量は、前記ポリ乳酸化合物のセグメントに対し、0質量%〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.5質量%〜5質量%の範囲であることがより好ましい。前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物の含有量が10質量%以下であれば、アミノ基と反応せずに残留するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物が成形品からブリードアウトするのを抑制することができる。
【0034】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントとしては、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の機能を阻害しない範囲において、アミノ基を主鎖の末端に有するポリシロキサン化合物のセグメントを含んでいてもよく、さらに、アミノ基を含有しないポリシロキサン化合物等のセグメントを含んでいてもよい。前記アミノ基を主鎖の末端に有するポリシロキサン化合物および前記アミノ基を含有しないポリシロキサン化合物の含有量は、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物中、0質量%〜5質量%の範囲であることが好ましい。前記アミノ基を主鎖の末端に有するポリシロキサン化合物および前記アミノ基を含有しないポリシロキサン化合物の数平均分子量は、900〜120000の範囲であることが好ましい。
【0035】
前記ポリ乳酸化合物のセグメントとしては、バイオマス原料から得られるポリ乳酸化合物の抽出物やこれらの誘導体若しくは変性体、または、バイオマス原料から得られる乳酸化合物のモノマ−、オリゴマーや、これらの誘導体若しくは変性体を用いて合成される縮重合物の他、バイオマス原料以外を原料として合成されるポリ乳酸化合物のセグメントを挙げることができる。かかるセグメントを構成するポリ乳酸化合物としては、例えば、下記式(27)で表される化合物を挙げることができる。
【化7】
前記式(27)において、
17は、炭素数18以下のアルキル基を表し、
aおよびcは、1以上の整数を表し、
b’は、0以上の整数を表す。
【0036】
aは、500〜13000の整数であることが好ましく、より好ましくは、1500〜4000の整数である。b’は、0〜5000の整数であることが好ましい。cは、1〜50の整数であることが好ましい。前記式(27)で表されるポリ乳酸化合物においては、繰返し単位数aおよびb’によってそれぞれ繰り返される繰返し単位は、同種の繰返し単位が連続して接続されていても、交互に繰り返されていてもよい。前記式(27)で表されるポリ乳酸化合物としては、具体的には、L−乳酸、D−乳酸およびこれらの誘導体の重合体、さらに、これらを主成分とする共重合体を挙げることができる。かかる共重合体としては、L−乳酸、D−乳酸およびこれらの誘導体と、例えば、グリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリヒドロキシアルカノエート等の1種または2種以上とから得られる共重合体を挙げることができる。これらのうち、石油資源節約という観点からは、植物由来のものを原料とするものが好ましく、耐熱性、成形性の面から、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)やこれらの共重合体が、特に好ましい。また、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸は、D−乳酸成分の比率によってその融点が異なるが、成形品の機械的特性や耐熱性を考慮すると、160℃以上の融点を有するものが好ましい。
【0037】
前記ポリ乳酸化合物の重量平均分子量は、3万〜100万の範囲であることが好ましく、より好ましくは、10万〜30万の範囲である。
【0038】
前記膨張性黒鉛としては、天然リンペン状黒鉛を無機酸と強酸化剤とで処理して黒鉛層間化合物を形成したものに、さらに、アンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和処理したものを用いることが好ましい。なお、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、膨張性黒鉛の機能を妨げない範囲で他の成分を含有してもよい。
【0039】
商業的に入手可能な前記膨張性黒鉛の具体例としては、例えば、東ソー(株)製の「GREP−EG」、エア・ウォーター社製の「モエヘンZ」シリーズ等が挙げられる。前記膨張性黒鉛には、表面処理を施してもよい。前記膨張性黒鉛の層間には硫酸化合物が存在しており、前記ポリ乳酸樹脂、および、その他の添加剤と溶融混練する際に、黒鉛の破壊が生じ、前記硫酸化合物が表面に露出することによって前記ポリ乳酸樹脂の分解が生じることがある。この結果、例えば、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物の機械物性の低下が生じることがある。これに対し、前記膨張性黒鉛に表面処理を施すことにより、前記硫酸化合物の表面への露出を抑制し、前記ポリ乳酸樹脂の分解を最小限に留めることができる。
【0040】
前記膨張性黒鉛の表面処理としては、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の高級脂肪酸、エポキシシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン、アミノシラン、アルコキシシラン、イソシアネートシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ゾル−ゲルコーティング、シリコーンポリマーコーティング、樹脂コーティング等の表面処理が挙げられる。
【0041】
表面処理剤を用いて前記表面処理を行う場合には、乾式法、湿式法、スプレー方式、インテグラルブレンド方式等の一般的な方法を用いることができる。具体的には、Vブレンダー等を用いて前記膨張性黒鉛を攪拌しながら、表面処理剤を乾燥空気や窒素ガスで噴射させて処理する乾式法、前記膨張性黒鉛を水に分散させてスラリー状態になったところで、表面処理剤を添加し処理する湿式法、前記膨張性黒鉛を高温の炉内で加熱した後、表面処理剤を噴霧して処理するスプレー方式、前記膨張性黒鉛、その他の樹脂材料および表面処理剤を同時に押出機に投入して処理するインテグラルブレンド方式等を用いることができる。
【0042】
なお、乾式法、湿式法、スプレー方式において使用される表面処理剤としては、表面処理剤をそのままの状態で使用してもよいし、表面処理剤を有機溶剤(若しくは水)で希釈して溶液として使用してもよい。
【0043】
前記膨張性黒鉛の配合量としては、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物に対して、前記膨張性黒鉛を1質量%〜50質量%の範囲で配合することが好ましく、5質量%〜30質量%の範囲で配合することがより好ましい。前記膨張性黒鉛の配合量が1質量%以上であれば、充分な難燃性付与効果を得ることができる。前記膨張性黒鉛の配合量が50質量%以下であれば、機械物性の低下を防止できる。
【0044】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、さらに、難燃化剤を含んでもよい。前記難燃化剤としては公知のものが使用できるが、リン系難燃化剤が好ましく、ホスファゼン誘導体および芳香族縮合型リン酸エステルが難燃効果に優れるのでより好ましい。前記ホスファゼン誘導体としては、例えば、下記式で表される環状シクロホスファゼン化合物が挙げられる。
【化8】
【0045】
nは、3以上の整数を表し、3〜25の範囲であることが好ましく、3〜5の範囲であることがより好ましい。nが3であれば、P(リン元素)とN(窒素元素)とで6員環が形成されており、nが4であれば、PとNとで8員環が形成されており、nが5以上であっても同様である。R19およびR20は、それぞれ、有機基を表し、例えば、置換若しくは無置換のフェノキシ基、置換若しくは無置換のナフトキシ基(例えば、β−ナフトキシ基)である。
【0046】
前記ホスファゼン誘導体としては、例えば、フェノキシ基を有するシクロホスファゼン化合物、シアノフェノキシ基を有するシクロホスファゼン化合物、アミノフェノキシ基を有するシクロホスファゼン化合物、置換若しくは無置換のナフトキシ基を有するシクロホスファゼン化合物等も挙げられる。これらのシクロホスファゼン化合物の中でも、置換若しくは無置換のフェノキシ基または置換若しくは無置換のナフトキシ基を有する、シクロトリホスファゼン、シクロテトラホスファゼンまたはシクロペンタホスファゼンが好ましく、置換若しくは無置換のフェノキシ基を有するシクロトリホスファゼンが特に好ましい。具体的には、例えば、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(フェノキシ基は、置換基を有していてもよい)が挙げられる。前記シクロホスファゼン化合物は、酸化により着色の原因となるキノン構造を形成しやすいため、フェノール性水酸基を有しないことが好ましい。前記ホスファゼン誘導体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
前記芳香族縮合型リン酸エステルとしては、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールA、ビスジフェニルホスフェート、レゾルシノール−ビス−2,6−キシレニルホスフェート、レゾルシノール−ビス−2,6−ビスジフェニルホスフェート、ビフェノール−ビスフェニルホスフェート、4,4’−ビス(ジフェニルホスホリル)−1,1’−ビフェニル等が挙げられる。
【0048】
前記難燃化剤の含有量は、効果を確認しながら決めることが好ましいが、難燃性、曲げ破断歪、耐衝撃性、耐熱性、および耐ブリード性の観点から、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物に対し、0.5質量%〜20質量%の範囲が好ましく、1質量%〜15質量%の範囲がより好ましい。
【0049】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、さらに、金属水和物を含んでもよい。前記金属水和物においては、前記ポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制する観点から、金属水和物中のアルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下であることが好ましい。前記アルカリ金属系物質とは、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属の酸化物または塩化物を指す。前記アルカリ金属系物質の含有量は、例えば、原子吸光法、ICP発光分光分析法等により測定できる。
【0050】
前記金属水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム、水和石膏、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ砂、カオリンクレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが好ましく、水酸化アルミニウムがより好ましい。
【0051】
また、前記金属水和物は、平均粒径10μm以下の粒状体からなるものが好ましく、平均粒径0.1μm〜5μmの粒状体からなるものがより好ましい。なお、前記金属水和物の平均粒径は、例えば、回折・散乱法によって体積基準のメジアン径を測定することにより求めることができる。前記平均粒径を測定可能な市販の装置としては、例えば、コールター社製レーザー回折・光散乱法粒度測定装置LS230等が挙げられる。
【0052】
前記金属水和物には、シランカップリング剤によって表面処理を施してもよい。シランカップリング剤によって表面処理された金属水和物を得る方法は、特に限定されず、例えば、シランカップリング剤を、アセトン、酢酸エチル、トルエン等の溶媒に溶解させた溶液を、アルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下の金属水和物の表面に噴霧または塗工した後、乾燥して溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0053】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、さらに、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成する含フッ素ポリマーを含むことが好ましい。前記含フッ素ポリマーを配合することにより、燃焼時のドリップ現象を防止することが可能となる。
【0054】
前記含フッ素ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、部分フッ素化ポリマー等が挙げられる。また、前記含フッ素ポリマーとして、ファインパウダー状のフルオロポリマー、フルオロポリマーの水性ディスパージョン、粉体状のフルオロポリマー・アクリロニトリル・スチレン共重合混合物、粉体状のフルオロポリマー・ポリメチルメタクリレート混合物等の様々な形態のフルオロポリマーを用いることもできる。
【0055】
前記含フッ素ポリマーの配合量の下限値は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物に対し、好ましくは、0.05質量%以上、より好ましくは、0.1質量%以上である。また、前記含フッ素ポリマーの配合量の上限値は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物に対し、好ましくは、5質量%以下、より好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.8質量%以下である。前記含フッ素ポリマーの配合量が0.05質量%以上であると、燃焼時のドリッピング防止効果が安定して得られる。前記含フッ素ポリマーの配合量が0.1質量%以上であると、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物の難燃性が一層良好となる。前記含フッ素ポリマーの配合量が5質量%以下であると、樹脂中に分散しやすいため、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物と均一に混合することが容易となり、難燃性を有する樹脂組成物の安定生産が可能となる。前記含フッ素ポリマーの配合量が1質量%以下であると、難燃性が一層良好となる。前記含フッ素ポリマーの配合量が0.8質量%以下であると、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物の難燃性がより一層良好となる。
【0056】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、その機能を阻害しない範囲において、各種の結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色剤、蛍光増白剤、充填材、離型剤、軟化材、帯電防止剤等の添加剤、耐衝撃性改良剤、金属水酸化物やホウ酸塩等の吸熱剤、メラミン類等の窒素化合物、ハロゲン系難燃剤等を含んでもよい。
【0057】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物が結晶性樹脂を含有する場合、成形品の成形において、流動開始温度が低い非晶質分の結晶化をより促進させるために、結晶核剤を使用することが好ましい。前記結晶核剤は、成形品の成形時にそれ自身が結晶核となり、樹脂の構成分子を規則的な三次元構造に配列させるように作用し、成形品の成形性、成形時間の短縮、機械的強度、耐熱性の向上を図ることができる。さらに、前記結晶核剤は、非晶質分の結晶化が促進されることにより、成形時の金型温度が高い場合であっても成形品の変形が抑制され、成形後の離型を容易にする。金型温度が樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも高い場合であっても同様の効果が得られる。
【0058】
前記結晶核剤としては、無機系の結晶核剤および有機系の結晶核剤が挙げられる。前記無機系の結晶核剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、窒化硼素、合成珪酸、珪酸塩、シリカ、カオリン、カーボンブラック、亜鉛華、モンモリロナイト、粘土鉱物、塩基性炭酸マグネシウム、石英粉、ガラスファイバー、ガラス粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素等を使用することができる。前記有機系の結晶核剤としては、例えば、
(1)有機カルボン酸類:オクチル酸、トルイル酸、ヘプタン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、テレフタル酸、テレフタル酸モノメチルエステル、イソフタル酸、イソフタル酸モノメチルエステル、ロジン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、コール酸等、
(2)有機カルボン酸アルカリ金属塩および有機カルボン酸アルカリ土類金属塩:前記有機カルボン酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩等、
(3)カルボキシル基の金属塩を有する高分子有機化合物:ポリエチレンの酸化によって得られるカルボキシル基含有ポリエチレン、ポリプロピレンの酸化によって得られるカルボキシル基含有ポリプロピレン、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のオレフィン類とアクリル酸またはメタクリル酸との共重合体、スチレンとアクリル酸またはメタクリル酸との共重合体、オレフィン類と無水マレイン酸との共重合体、スチレンと無水マレイン酸との共重合体等の金属塩等、
(4)脂肪族カルボン酸アミド:オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、N−オレイルパルミトアミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N,N’−エチレンビス(ステアロアミド)、N,N’−メチレンビス(ステアロアミド)、メチロール・ステアロアミド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ブチレンビスステアリン酸アマイド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ブチル−N’−ステアリル尿素、N−プロピル−N’−ステアリル尿素、N−アリル−N’−ステアリル尿素、N−フェニル−N’−ステアリル尿素、N−ステアリル−N’−ステアリル尿素、ジメチトール油アマイド、ジメチルラウリン酸アマイド、ジメチルステアリン酸アマイド、N,N’−シクロヘキサンビス(ステアロアミド)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ブチルアミド等、
(5)高分子有機化合物:3,3−ジメチルブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、3−メチルヘキセン−1、3,5,5−トリメチルヘキセン−1等の炭素数5以上の3位分岐α−オレフィン、並びにビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等のビニルシクロアルカンの重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリグリコール酸、セルロース、セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート等、
(6)リン酸または亜リン酸の有機化合物およびそれらの金属塩:リン酸ジフェニル、亜リン酸ジフェニル、リン酸ビス(4−tert−ブチルフェニル)ナトリウム、リン酸メチレン(2,4−tert−ブチルフェニル)ナトリウム等、
(7)ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール等のソルビトール誘導体、
(8)コレステリルステアレート、コレステリロキシステアラミド等のコレステロール誘導体、
(9)無水チオグリコール酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸アミドおよびそれらの金属塩等、
(10)フェニルホスホン酸およびその金属塩等を挙げることができる。
【0059】
これらのうち、ポリエステルの加水分解を促進しない中性物質からなる結晶核剤が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物が加水分解を受けて分子量が低下するのを抑制できるため、好ましい。また、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物のエステル交換反応による低分子量化を抑制するため、カルボキシ基を有する結晶核剤よりもその誘導体であるエステルやアミド化合物の方が好ましく、同様に、ヒドロキシ基を有する結晶核剤よりもその誘導体であるエステルやエーテル化合物の方が好ましい。
【0060】
前記無機系の結晶核剤については、射出成形等において高温溶融状態で樹脂と相溶あるいは微分散し、金型内での成形冷却段階で析出あるいは相分離し、結晶核として作用する、タルク等の層状化合物が好ましい。前記結晶核剤としては、無機系の結晶核剤と有機系の結晶核剤を併用してもよく、複数種を組み合わせて使用することもできる。前記結晶核剤の含有量は、組成物中、0.1質量%〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0061】
熱安定剤および酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、ビタミンE等を挙げることができる。これらは、前記ポリ乳酸樹脂に対して、0.5質量%以下の範囲で用いることが好ましい。
【0062】
充填材としては、例えば、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルク粉、クレー粉、マイカ、ワラストナイト粉、シリカ粉等を挙げることができる。
【0063】
耐衝撃性改良材としては、柔軟成分を使用することができる。前記柔軟成分としては、例えば、ポリエステルセグメント、ポリエーテルセグメント、ポリヒドロキシカルボン酸セグメント等のポリマーブロック(共重合体)、ポリ乳酸セグメント、芳香族ポリエステルセグメントおよびポリアルキレンエーテルセグメントが互いに結合されてなるブロック共重合物、ポリ乳酸セグメントとポリカプロラクトンセグメントからなるブロック共重合物、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を主成分とする重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ポリグリセリン酢酸エステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化亜麻仁油脂肪酸ブチル、アジピン酸系脂肪族ポリエステル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルリシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アジピン酸ジアルキルエステル、アルキルフタリルアルキルグリコレート等の可塑剤等を挙げることができる。
【0064】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、さらに、必要に応じて他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートこれらのアロイ等を含んでもよい。結晶性を有する熱可性樹脂、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、これらの前記ポリ乳酸樹脂とのアロイ等を使用することが好ましい。
【0065】
また、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、さらに、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、熱硬化型ポリアミド、スチリルピリジン樹脂、ニトリル末端型樹脂、付加硬化型キノキサリン、付加硬化型ポリキノキサリン樹脂等の熱硬化性樹脂や、リグニン、ヘミセルロース、セルロース等の植物原料を使用した熱硬化性樹脂を含んでもよい。前記熱硬化性樹脂を使用する場合、硬化反応に必要な硬化剤や硬化促進剤を使用することが好ましい。
【0066】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、前記ポリ乳酸樹脂と、前記膨張性黒鉛および必要に応じて他の添加成分とを混合攪拌する。この混合攪拌には、後述のポリ乳酸樹脂の製造において剪断力を付与する装置と同様の装置を用いることができる。前記膨張性黒鉛を、サイドフィード等から供給すれば、前記膨張性黒鉛の破断や粉砕を抑制できる。
【0067】
前記ポリ乳酸樹脂は、例えば、予め製造した前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、前記ポリ乳酸化合物とを、前記アミノ基が所定の割合となるような割合で配合し、溶融状態で剪断力を加えつつ混合攪拌して得ることができる。なお、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物で構成される場合は、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物、前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物および前記ポリ乳酸化合物を同時に配合して混合攪拌してもよいが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と前記ポリ乳酸化合物との反応を先行して行い、その後、前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物の反応を行うことが好ましい。溶融したポリ乳酸化合物とアミノ基含有ポリシロキサン化合物に剪断力を与えるには、例えば、ロール、押出機、ニーダ、還流装置のある回分式混練機等の装置を用いることができる。前記押出機としては、単軸、または多軸でベント付きのものを採用することが、原料の供給、製品の取り出しが容易である点から好ましい。剪断時の温度は、原料のポリ乳酸化合物の溶融流動温度以上、好ましくは、前記溶融流動温度より10℃以上高く、分解温度以下の温度とすることが好ましい。溶融剪断時間は、例えば、0.1分〜30分の範囲が好ましく、より好ましくは、0.5分〜10分の範囲である。前記溶融剪断時間が0.1分以上であれば、前記ポリ乳酸化合物と前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物との反応が充分に行われる。前記溶融剪断時間が30分以下であれば、得られるポリ乳酸樹脂の分解を抑制することができる。
【0068】
前記ポリ乳酸化合物は、溶融重合法、または、溶融重合法および固相重合法を併用して製造することができる。これらの方法において、前記ポリ乳酸化合物のメルトフローレートを所定の範囲に調節する方法として、前記メルトフローレートが過大の場合は、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法を使用することができる。また、前記メルトフローレートが過小の場合は、前記メルトフローレートの大きな生分解性ポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法を使用することができる。
【0069】
前記ポリ乳酸樹脂としては、例えば、下記式(3)〜(5)、下記式(8)、下記式(11)および下記式(13)〜(18)で表されるものを挙げることができる。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
前記式(3)〜(5)、(8)、(11)および(13)〜(18)において、
、R、R〜R、R4’10〜R14およびR10’は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R、R、R〜R、R4’10〜R14およびR10’は同一でも異なっていてもよく、
、R、R15およびR16は、それぞれ、2価の有機基を表し、R、R、R15およびR16は同一でも異なっていてもよく、
17は、炭素数18以下のアルキル基を表し、
d’、e’、h’、i’、n’およびb’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
f、g、j、k、aおよびcは、それぞれ、1以上の整数を表し、
XおよびWは、それぞれ、下記式(6)で示される基を表す。
【化20】
前記式(6)において、
17は、炭素数18以下のアルキル基を表し、
b’は、0以上の整数を表し、
aおよびcは、それぞれ、1以上の整数を表す。
【0070】
これらの式に示すポリ乳酸樹脂においては、繰返し単位数a、b’、d’、e’、f、g、h’、i’、jおよびkによってそれぞれ繰り返される繰返し単位は、同種の繰返し単位が連続して接続されても、交互に繰り返されてもよい。また、前記式(6)におけるアルキル基としては、メチル基が特に好ましい。
【0071】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、未反応の前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物や、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物を含んでもよい。本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、未反応の前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物や、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物との親和性が高いため、成形品においてポリシロキサン化合物がブリードせずに、耐衝撃性、柔軟性を向上させることができる。
【0072】
本発明によれば、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて成形された成形品を得ることができる。前記成形品の成形方法としては、例えば、射出成形、射出・圧縮成形、押出成形、金型成形を使用することができる。製造工程中、または、成形後、結晶化を促進することが、耐衝撃性、機械的強度に優れた成形品が得られることから好ましい。結晶化を促進する方法としては、前記結晶核剤を前記範囲で使用する方法を挙げることができる。
【0073】
このような成形品は、高度な難燃性を有し、耐衝撃性に優れ、機械的強度に優れると共に、ブリードによる変質が抑制され、各種、電気、電子、自動車等の部品に好適である。
【実施例】
【0074】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例により限定および制限されない。本発明の実施例および比較例に使用した各原料の詳細は、下記のとおりである。
【0075】
1.ポリ乳酸化合物(PLA−1):ユニチカ(株)製のテラマックTE−4000N(融点170℃)
【0076】
2.アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C)
アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C)として使用した側鎖ジアミノ型ポリシロキサン化合物(C1−4)を、表1に示す。なお、アミノ基含有ポリシロキサン化合物は、例えば、シリコーンハンドブック(日刊工業新聞社発行p.165)等の記載に従って製造でき、例えば、アミノアルキルメチルジメトキシシランの加水分解により得られたシロキサンオリゴマ−と環状シロキサンおよび塩基性触媒を用いて合成する。
【表1】
【0077】
3.エポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D)
エポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D)として使用した両末端エポキシ型ポリシロキサン化合物(D1)を、表2に示す。なお、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物は、例えば、シリコーンハンドブック(日刊工業新聞社発行p.164)等の記載に従って製造でき、例えば、Si−H基を有するジメチルポリシロキサンとアリルグリジシルエーテル等の不飽和エポキシ化合物を白金触媒下で付加反応する。
【表2】
【0078】
4.有機系の結晶核剤(E)
有機系の結晶核剤(E)としては、下記2つを用いた。
E−1:伊藤製油(株)製のITOHWAX J−530(N.N’−エチレンビス12ヒドロキシステアリルアミド)
E−2:日産化学工業(株)製のエコプロモート(フェニルホスホン酸亜鉛)
【0079】
5.膨張性黒鉛(G)
膨張性黒鉛(G)としては、下記2つを用いた。
G−1:東ソー(株)製の「GREP−EG」
(粒度 48mesh≧65%(300μm目開き))
G−2:エア・ウォーター社製の「モエヘンZ」MZ−600
(粒度 80mesh≧80%(180μm目開き))
【0080】
6.リン系難燃化剤(H)
リン系難燃化剤(H)としては、下記を用いた。
H:大塚化学(株)製の環状フェノキシホスファゼン(SPS−100)
【0081】
7.金属水和物(I)
金属水和物(I)としては、下記を用いた。
I:昭和電工(株)製のイソシアネートシランカップリング剤1%処理水酸化アルミニウム(HP−350−ICN*、平均粒子径:3.1μm、組成:Al(OH)(99.94%)、SiO(0.01%)、Fe(0.01%)、NaO(0.04%、アルカリ金属系物質))
【0082】
8.含フッ素ポリマー(J)
含フッ素ポリマー(J)としては、下記を用いた。
J:ダイキン社製のポリテトラフルオロエチレン(ポリフロンFA−500)
【0083】
9.結晶核剤(K)
結晶核剤(K)としては、下記を用いた。
K:ラインケミー(株)製のポリジイソプロピルフェニルカルボジイミド(スタバクゾールP)
【0084】
10.ガラス繊維(L)
ガラス繊維(L)としては、下記を用いた。
L:オーウェンス コーニング ジャパン(株)製の03JA FT592
【0085】
11.可塑剤(M)
可塑剤(M)としては、下記を用いた。
M:大八化学工業(株)製のアジピン酸エステル(DAIFATTY−101)
【0086】
[実施例1〜4および比較例1〜6]
ポリ乳酸化合物と、必要に応じて有機系の結晶核剤(E)、リン系難燃化剤(H)、金属水和物(I)および含フッ素ポリマー(J)とを表4および表5に示す配合でドライブレンドした混合物を、シリンダー温度が190℃に設定された連続混練押出機(ベルストルフ製のZE40A×40D、L/D=40、スクリュー径φ40)のホッパー口から供給し、さらに、アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C1−4)およびエポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D1)を表4および表5に示す配合で、ベント口から別々に投入し、さらに膨張性黒鉛(G)、ガラス繊維(L)、可塑剤(M)をサイドフィード口から、1時間当たりの供給量の合計が15〜20kgとなるように供給した。スクリューを150rpmで回転させ溶融剪断下において混合撹拌した後、押出機のダイス口からストランド状に押出し、それを水中で冷却した後、ペレット状に切断し、ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物のペレットを得た。
【0087】
得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械製のEC20P−0.4A、成形温度:190℃、金型温度:25℃)を用いて試験片(125mm×13mm×1.6mmまたは125mm×13mm×3.2mm)を成形し、下記の方法により難燃性評価、アイゾット衝撃強度および曲げ歪の評価を行った。その結果を、表4および表5に示す。
【0088】
(難燃性評価)
難燃性評価は、射出成形により得た難燃性評価用の試験片(125mm×13mm×1.6mmまたは125mm×13mm×3.2mm)を温度23℃、湿度50%の恒温室中に48時間放置した後、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠して行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間およびドリップ性等から難燃性を評価する方法であり、下記表3に示すクラスに分けられる。
【表3】
【0089】
なお、上記分類以外の燃焼形態をとる場合は、notV−2と分類した。評価結果を、難燃性が良好な方から並べると、V−0、V−1、(V−2またはnotV−2)となる。
【0090】
上記残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さであり、t1は、1回目の接炎後の前記残炎時間、t2は、2回目の接炎後の前記残炎時間、t3は、2回目の接炎後のアフターグロー(無炎燃焼)時間である。2回目の接炎は、1回目の接炎後、炎が消えた後、直ちに試験片にバーナーの炎を10秒間接炎することで行なう。また、上記ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。なお、試料片が燃え尽きてしまう等して、残炎時間が計測できない場合、表4および表5中には「−」と示した。
【0091】
(アイゾット衝撃強度および曲げ歪の評価)
試験片を110℃の恒温室の中で2時間放置し、結晶化させた後、室温まで戻し、アイゾット衝撃強度および曲げ特性を評価した。アイゾット衝撃強度の測定は、JIS K7110に準拠し、試験片のノッチ付けおよび衝撃強度の測定を行った。曲げ特性は、ASTM D790に基づいて万能試験機(インストロン製の5567)を用いて評価した。
【0092】
【表4】
【0093】
前記表4に示すとおり、実施例1の結果から、アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C1−4)に、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D1)と膨張性黒鉛(G−1)とを配合したポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、V−1以上の高度な難燃性を持ちつつ、衝撃強度および破断曲げ歪に優れることが分かった。一方、アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C1−4)を含まない比較例1、2および4、並びに膨張性黒鉛(G−1)を含まない比較例3では、難燃性が低下し、さらに良好な衝撃強度および破断曲げ歪を示さないことが分かった。
【表5】
【0094】
前記表5に示すとおり、実施例2〜6の結果から、アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C1−4)に、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D1)および膨張性黒鉛(G−2)、さらに必要に応じて、リン系難燃化剤(H)、金属水和物(I)を配合したポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、高度な難燃性とともに、良好な衝撃強度および破断曲げ歪を有することが分かった。一方、比較例5の結果から、アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C1−4)およびエポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D1)を用いていないポリ乳酸樹脂組成物においては、難燃性が低下し、さらに良好な衝撃強度および破断曲げ歪を示さないことが分かった。さらに、実施例6の結果から、可塑剤としてアジピン酸エステルを併用するとさらに靭性(衝撃強度)が改善することが分かった。
【0095】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0096】
この出願は、2010年9月3日に出願された日本出願特願2010−198357を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上のように、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、高度な難燃性を有し、さらに優れた耐衝撃性および柔軟性を有するものである。本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物の用途は、特に限定されず、例えば、家電製品、OA機器のハウジング、自動車部品等に広く適用可能である。
【0098】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載しうるが、以下には限定されない。
【0099】
(付記1)ポリ乳酸樹脂と膨張性黒鉛とを含み、
前記ポリ乳酸樹脂が、
ポリ乳酸化合物のセグメントと、
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントとを有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とするポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0100】
(付記2)前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物が、前記式(1)で表される化合物および前記式(2)で表される化合物の少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする付記1に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0101】
(付記3)前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、エポキシ基を有するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物で構成されるセグメントを含むことを特徴とする付記1または付記2に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0102】
(付記4)前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物が、前記式(12)、前記式(19)、前記式(20)および前記式(21)でそれぞれ表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み、前記式(19)および(21)で表される化合物のエポキシ基含有量が、2質量%未満であることを特徴とする付記3に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0103】
(付記5)前記ポリ乳酸樹脂が、前記式(3)〜(5)、前記式(8)、前記式(11)および前記式(13)〜(18)でそれぞれ表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする付記1から4のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0104】
(付記6)前記式(6)において、R17がメチル基であることを特徴とする付記5に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0105】
(付記7)さらに、リン系難燃化剤を含み、前記リン系難燃化剤の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物に対し、0.5質量%〜20質量%の範囲であることを特徴とする付記1から6のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0106】
(付記8)さらに、アルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下である金属水和物を含み、前記金属水和物の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物に対し、0.05質量%〜40質量%の範囲であることを特徴とする付記1から7のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0107】
(付記9)さらに、含フッ素ポリマーを含み、前記含フッ素ポリマーの含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物に対し、0.05質量%〜5質量%の範囲であることを特徴とする付記1から8のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0108】
(付記10)さらに、可塑剤を含み、前記可塑剤の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物に対し、0.05質量%〜20質量%の範囲であることを特徴とする付記1から9のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【0109】
(付記11)付記1から10のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物で成形されたことを特徴とする成形品。
【0110】
(付記12)射出成形、射出・圧縮成形、押出成形および金型成形からなる群から選択される少なくとも一つの成形方法によって成形されることを特徴とする付記11記載の成形品。
【0111】
(付記13)アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物と、溶融状態のポリ乳酸化合物とを混合撹拌し、さらに、膨張性黒鉛を混合撹拌する工程を有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とするポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【0112】
(付記14)付記13に記載の製造方法により製造されることを特徴とするポリシロキサン変性ポリ乳酸樹脂組成物。