特許第6198083号(P6198083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198083
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/08 20160101AFI20170911BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   H02P6/08
   B25F5/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-18060(P2016-18060)
(22)【出願日】2016年2月2日
(62)【分割の表示】特願2011-60932(P2011-60932)の分割
【原出願日】2011年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-86639(P2016-86639A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094983
【弁理士】
【氏名又は名称】北澤 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095946
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100099829
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 朗子
(72)【発明者】
【氏名】岩田 和隆
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−173042(JP,A)
【文献】 特開2003−284387(JP,A)
【文献】 特開平08−196076(JP,A)
【文献】 特開平10−150795(JP,A)
【文献】 特開2008−271687(JP,A)
【文献】 特開2008−043012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/08
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の固定子巻線を有するステータと、前記ステータに対し回転可能なロータとを有し、前記ロータが回転すると誘起起電圧が発生するブラシレスモータと、
交流電圧を整流する整流回路と、
前記整流された交流電圧を、リプルを含む電圧である脈動電圧とする平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサの端子間電圧を前記固定子巻線に順次出力して通電される前記固定子巻線を順次切り替えるスイッチング動作を行うインバータ回路と、
ユーザにより前記ブラシレスモータの駆動指示が入力される入力部と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、を備え、
前記整流された交流電圧の変動に伴って前記平滑コンデンサの端子間電圧が前記誘起起電圧よりも高い領域で変動して前記ブラシレスモータに電流が流れる第1の区間と、前記端子間電圧が前記誘起起電圧と均衡して前記ブラシレスモータに電流が流れなくなる第2の区間と、が交互に生じるように、前記平滑コンデンサの容量は設定され
記整流回路及び前記平滑コンデンサは、工具本体に設けられていることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
複数の固定子巻線を有するステータと、前記ステータに対し回転可能なロータとを有し、前記ロータが回転すると誘起起電圧が発生するブラシレスモータと、
交流電圧を整流する整流回路と、
前記整流された交流電圧を、リプルを含む電圧である脈動電圧とする平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサの端子間電圧を前記固定子巻線に順次出力して通電される前記固定子巻線を順次切り替えるスイッチング動作を行うインバータ回路と、
ユーザにより前記ブラシレスモータの駆動指示が入力される入力部と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、を備え、
前記整流された交流電圧の上昇下降に伴って前記平滑コンデンサの端子間電圧が前記誘起起電圧よりも高い領域で上昇下降して前記ブラシレスモータに電流が流れる第1の区間と、前記端子間電圧が前記誘起起電圧と均衡して前記ブラシレスモータに電流が流れなくなる第2の区間と、が交互に生じるように、前記平滑コンデンサの容量は設定され
記整流回路及び前記平滑コンデンサは、工具本体に設けられていることを特徴とする電動工具。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2の区間において前記インバータ回路が前記スイッチング動作を停止させるよう前記インバータ回路を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記平滑コンデンサから前記インバータ回路へと至る回路に制御回路電圧供給回路を接続し、前記平滑コンデンサから前記インバータ回路に至る回路に生じた電圧が前記制御回路電圧供給回路により降圧され前記制御部に供給されるよう構成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記平滑コンデンサから前記インバータ回路へと至る回路に整流電圧検出回路を接続し、前記平滑コンデンサから前記インバータ回路に至る回路に生じた電圧を前記整流電圧検出回路が検出して前記制御部に出力するよう構成したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電圧を整流する整流回路と、整流された交流電圧を直流電圧に平滑する平滑コンデンサと、スイッチング動作を行うことにより、平滑された直流電圧をブラシレスモータの複数の固定子巻線に順次出力するインバータ回路と、を備えた電動工具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4487836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の電動工具では、平滑コンデンサとして大容量のものを用いていたため、交流電力の力率が悪くなっていた。
【0005】
また、力率を改善するために、電動工具に力率改善回路を備える構成も考えられるが、このような構成にすると、電動工具のサイズが大きくなったり、コストが増加してしまう。
【0006】
発明は、力率を改善することのできる電動工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明は、複数の固定子巻線を有するステータと、前記ステータに対し回転可能なロータとを有し、前記ロータが回転すると誘起起電圧が発生するブラシレスモータと、交流電圧を整流する整流回路と、前記整流された交流電圧を、リプルを含む電圧である脈動電圧とする平滑コンデンサと、前記平滑コンデンサの端子間電圧を前記固定子巻線に順次出力して通電される前記固定子巻線を順次切り替えるスイッチング動作を行うインバータ回路と、ユーザにより前記ブラシレスモータの駆動指示が入力される入力部と、前記インバータ回路を制御する制御部と、を備え、前記整流された交流電圧の変動に伴って前記平滑コンデンサの端子間電圧が前記誘起起電圧よりも高い領域で変動して前記ブラシレスモータに電流が流れる第1の区間と、前記端子間電圧が前記誘起起電圧と均衡して前記ブラシレスモータに電流が流れなくなる第2の区間と、が交互に生じるように、前記平滑コンデンサの容量は設定され、前記整流回路及び前記平滑コンデンサは、工具本体に設けられていることを特徴とする電動工具を提供している。このような構成によれば、交流電力の力率を改善することが可能となる。
【0008】
発明はさらに、複数の固定子巻線を有するステータと、前記ステータに対し回転可能なロータとを有し、前記ロータが回転すると誘起起電圧が発生するブラシレスモータと、交流電圧を整流する整流回路と、前記整流された交流電圧を、リプルを含む電圧である脈動電圧とする平滑コンデンサと、前記平滑コンデンサの端子間電圧を前記固定子巻線に順次出力して通電される前記固定子巻線を順次切り替えるスイッチング動作を行うインバータ回路と、ユーザにより前記ブラシレスモータの駆動指示が入力される入力部と、前記インバータ回路を制御する制御部と、を備え、前記整流された交流電圧の上昇下降に伴って前記平滑コンデンサの端子間電圧が前記誘起起電圧よりも高い領域で上昇下降して前記ブラシレスモータに電流が流れる第1の区間と、前記端子間電圧が前記誘起起電圧と均衡して前記ブラシレスモータに電流が流れなくなる第2の区間と、が交互に生じるように、前記平滑コンデンサの容量は設定され、前記整流回路及び前記平滑コンデンサは、工具本体に設けられていることを特徴とする電動工具を提供している。このような構成によれば、交流電力の力率を改善することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電動工具によれば、力率を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態による電動工具の回路図
図2】リプルを含んだ電圧波形について比較する図
図3】正常時に平滑コンデンサから出力される電圧及びモータに流れる電流について説明する図
図4】インバータ回路の動作に応じた電流経路について比較する図
図5】異常時に平滑コンデンサから出力される電圧及びモータに流れる電流について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態による電動工具1について、図1図5を参照して説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態による電動工具1の回路図である。図1に示すように、電動工具1は、トリガスイッチ(入力部)3と、制御回路電圧供給回路4と、モータ5と、回転子位置検出素子6と、制御回路7と、インバータ回路8と、ノーマルモードフィルタ9と、整流回路10と、平滑コンデンサ11と、を備えており、トリガスイッチ3が操作されると、商用電源2から出力された交流電圧が整流回路10及び平滑コンデンサ11によって整流・平滑され、インバータ回路8を介してモータ5に供給されるものである。また、トリガスイッチ3が操作されると、制御回路電圧供給回路4により商用電源2からの交流電圧が降圧され、制御回路用駆動電圧として制御回路7に供給される。
【0018】
モータ5は、3相のブラシレスDCモータであり、複数組(本実施の形態では2組)のN極とS極を含む永久磁石からなるロータ5Aと、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wからなるステータ5Bと、を備えている。モータ5(ロータ5A)は、電流が流れる固定子巻線U、V、Wが順次切り替わることにより回転する。固定子巻線U、V、Wの切り替えについては後述する。
【0019】
回転子位置検出素子6は、ロータ5Aの永久磁石に対向する位置に、ロータ5Aの周方向に所定の間隔毎(例えば角度60°毎)に配置されており、回転子(ロータ6A)の回転位置に応じた信号を出力する。
【0020】
制御回路7は、モータ電流検出回路71と、整流電圧検出回路72と、制御回路電圧検出回路73と、スイッチ操作検出回路74と、印加電圧設定回路75と、回転子位置検出回路76と、モータ回転数検出回路77と、演算部78と、制御信号出力回路79と、AC入力電圧検出回路80と、を備えている。
【0021】
AC入力電圧検出回路80は、商用電源2から出力された交流電圧のピーク値を検出し、演算部78に出力する。なお、本実施の形態では、実際のピーク値と十分に近似した値を検出することができるようなサンプリング期間で交流電圧を検出するものとする。
【0022】
モータ電流検出回路71は、モータ5に供給される電流を検出し、演算部78に出力する。整流電圧検出回路72は、整流回路10及び平滑コンデンサ11から出力された電圧を検出し、演算部78に出力する。制御回路電圧検出回路73は、制御回路電圧供給回路4から供給された制御回路用駆動電圧を検出し、演算部78に出力する。スイッチ操作検出回路74は、トリガスイッチ3の操作の有無を検出し、演算部78に出力する。印加電圧設定回路75は、トリガスイッチ3の操作量を検出し、演算部78に出力する。
【0023】
回転子位置検出回路76は、回転子位置検出素子6からの信号に基づき回転子(ロータ6A)の回転位置を検出し、モータ回転数検出回路77及び演算部78に出力する。モータ回転数検出回路77は、回転子位置検出回路76からの信号に基づき回転子(ロータ6A)の回転数を検出し、演算部78へ出力する。
【0024】
演算部78は、回転子位置検出回路76とモータ回転数検出回路77からの信号に基づき、切替信号H1−H6を生成し、制御信号出力回路79に出力する。また、演算部78は、印加電圧設定回路75からの信号に基づき、切替信号H4−H6をパルス幅変調信号(PWM信号)として調整し、制御信号出力回路79に出力する。切替信号H1−H6は、制御信号出力回路79を介してインバータ回路8に出力される。なお、切替信号H1−H3をPWM信号として調整する構成であってもよい。
【0025】
インバータ回路8は、スイッチング素子Q1−Q6から構成されている。各スイッチング素子Q1−Q6のゲートは、制御信号出力回路79に接続され、各スイッチング素子Q1−Q6のドレイン又はソースは、ステータ5Bの固定子巻線U、V、Wに接続されている。
【0026】
各スイッチング素子Q1−Q6は、制御信号出力回路79から入力される切替信号H1−H6に基づきスイッチング動作を行い、インバータ回路8に印加される電池パック2の直流電圧を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
【0027】
詳細には、スイッチング素子Q1−Q6には切替信号H1−H6がそれぞれ入力され、これにより、通電される固定子巻線U、V、W、すなわち、ロータ5Aの回転方向が制御される。また、その際、PWM信号でもあるH4−H6によって、固定子巻線U、V、Wへの電力供給量が制御される。
【0028】
以上の構成により、電動工具1は、トリガスイッチ3の操作量に応じた駆動電圧をモータ5に供給することが可能となる。
【0029】
ところで、従来の電動工具では、平滑コンデンサ11として大容量のものを用いていたため、交流電力の力率が悪くなっていた。また、力率を改善するために、電動工具に力率改善回路を備える構成も考えられるが、このような構成にすると、電動工具のサイズが大きくなったり、コストが増加してしまう。
【0030】
そこで、本実施の形態では、力率を改善するために、平滑コンデンサ11として小容量のものを用いる。平滑コンデンサ11として小容量のものを用いた場合には、整流回路10から出力された交流電圧は完全には平滑されず、リプルを含む脈動電圧が平滑コンデンサ11から出力されることとなる。本実施の形態では、特に、平滑コンデンサ11として、整流回路10から出力された交流電圧を、モータ5に発生する誘起起電圧よりも小さな最小値を有する脈動波形に平滑するような容量のものを用いる。
【0031】
図2は、(a)リプルが100%のときの電圧波形、(b)リプルが50%のときの電圧波形、及び、(c)リプルが0%のときの電圧波形、示したものであり、リプルの割合は、平滑コンデンサ11の容量が大きくなるに連れて減少する。従って、本実施の形態による平滑コンデンサ11の容量は、このような関係と、モータ5に発生する誘起起電圧と、に基づき決定することができる。以降では、仮に、リプルが100%の脈動電圧が平滑コンデンサ11から出力された場合について説明を行う。
【0032】
ところで、モータ5を駆動させるためには、モータ5に発生する誘起起電圧よりも大きな電圧がモータ5に供給される必要があるところ、モータ5に脈動電圧が供給された場合には、脈動電圧の大きさが誘起起電圧未満の区間Y(図3)では、モータ5を駆動させることができない。すなわち、図4(a)に示すように、脈動電圧の大きさが誘起起電圧以上の区間Xでは、電流が電動工具1内を流れるが、図4(b)に示すように、脈動電圧の大きさが誘起起電圧未満の区間Yでは、電流が電動工具1内を流れないこととなる。
【0033】
しかしながら、モータ5は、区間Xで一旦駆動されたため、区間Yでも慣性により回転しており、区間Xで周期的に駆動されていれば回転を継続することが可能である。従って、本実施の形態による電動工具1では、平滑コンデンサ11として、モータ5に発生する誘起起電圧よりも小さな最小値を有する脈動波形を出力可能な容量のものを用いることにより、力率改善回路を備えずに力率を改善することが可能となる。
【0034】
ところで、脈動電圧の大きさが誘起起電圧未満の区間Yでは、省エネのためにインバータ回路8の動作を停止させるという制御も考えられる。
【0035】
しかしながら、区間Yでインバータ回路8を停止させたとすると、インバータ回路8を停止させた直後の区間Z(図5)では、モータ5の固定子巻線U、V、Wに蓄積されたエネルギーが平滑コンデンサ11に向けて逆流する(図4(c))。その結果、平滑コンデンサ11の電圧が急上昇し、コンデンサ11の破損や品質の低下が防止される。
【0036】
そこで、本実施の形態では、脈動電圧が誘起起電圧未満の電圧の区間Yでも、インバータ回路8の動作を停止させないように制御する。これにより、モータ5の固定子巻線U、V、Wに蓄積されたエネルギーが平滑コンデンサ11に向けて逆流して平滑コンデンサ11の電圧が急上昇し、コンデンサ11の破損や品質の低下が防止される。
【0037】
尚、本発明の電動工具は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0038】
例えば、上記実施の形態では、脈動電圧の大きさが誘起起電圧未満の区間Yでもインバータ回路8の動作を停止させないように制御したが、モータ電流検出回路71により検出された電流が過電流閾値を超えていた場合には、インバータ回路8を停止させるように制御してもよい。
【0039】
また、上記実施の形態では、平滑コンデンサ11を備えた状態でインバータ回路8の動作を停止させないようにしたが、他の構成においても本発明の効果を奏することができる。例えば、平滑コンデンサ11を備えていない状態でインバータ回路8の動作を停止させなければ、モータ5の固定子巻線U、V、Wに蓄積されたエネルギーが平滑コンデンサ11に向けて逆流してコンデンサ11の電圧が急上昇することが抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 電動工具
3 トリガスイッチ
3 モータ
7 制御回路
8 インバータ回路
10 整流回路
11 平滑コンデンサ
78 演算部
図1
図2
図3
図4
図5