特許第6198158号(P6198158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6198158-センタ付工具ホルダ及び加工方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6198158
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】センタ付工具ホルダ及び加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/12 20060101AFI20170911BHJP
   B23B 35/00 20060101ALI20170911BHJP
   B23Q 3/18 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   B23Q3/12 A
   B23B35/00
   B23Q3/18 C
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-85120(P2016-85120)
(22)【出願日】2016年4月21日
【審査請求日】2016年4月21日
【審判番号】不服2017-727(P2017-727/J1)
【審判請求日】2017年1月18日
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508033029
【氏名又は名称】金松 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111682
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 峯和
(72)【発明者】
【氏名】金松 実
【合議体】
【審判長】 平岩 正一
【審判官】 栗田 雅弘
【審判官】 渡邊 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−111706(JP,A)
【文献】 特開2005−319553(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/077713(WO,A1)
【文献】 特開平4−88655(JP,A)
【文献】 実公平7−5964(JP,Y2)
【文献】 実開昭48−23382(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q1/76
B23Q3/12-3/18
B23B49/00
B25H7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具のシャンクをホルダ部に挿入して、前記工具を取り付ける構成の工具ホルダであって、前記ホルダ部に円錐面を有するセンタを固定して取り付け、前記工具ホルダを把捉した主軸をその軸方向に移動させる力により、前記円錐面が工作物との接触部を押し、前記工作物を移動させるようにしたことを特徴とするセンタ付工具ホルダ。
【請求項2】
次の工程で行う加工の中心となる位置にその中心を有する円形の穴を次加工中心穴とし、予め次加工中心穴を設けた工作物に対して、次の加工工程を行う前に行うセンタリング方法であって、
次の加工工程で使用する工具を取り付けた、請求項1記載のセンタ付工具ホルダをマシニングセンタの主軸に把捉させる工程と、前記次加工中心穴に前記センタ付工具ホルダを挿入する工程と、前記次加工中心穴の中心と前記主軸の軸心とが一致して前記主軸の移動が止まり、前記主軸を軸方向に移動させるサーボモータ(以下「主軸サーボ」という)の電流値が上昇したときに、前記主軸サーボの電流値の上昇をチェックする工程と、前記電流値の上昇を確認して、前記主軸サーボを停止させ前記工作物をクランプする工程、とからなるセンタリング方法を行った後に、
センタリングを完了したときの主軸の位置を中心として、その回りの所定の位置に対して、前記工具を取り換えることなく、直ちに次の加工工程を行う加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次の工程で行う加工の中心となる位置にその中心を有する円形の穴(以下「次加工中心穴」という)を設けた工作物を、クランプ機構によって把捉し、マシニングセンタの主軸に切削工具や研削工具などの工具を取り付けて加工する場合に、工作物をセンタリングしてこれをクランプし、直ちに次の加工工程を行うことを可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工作物を傾きが生じることなく把捉するために、端部に円錐形のセンタ孔を設けた工作物を、円錐台形状の先端を有するセンタピンに合わせ、作動部材が工作物を把持する移動について、これを工作物を引き込む方向への移動に変換し、センタ孔とセンタピンとを嵌合させて、工作物のセンタリングを行うチャック装置の発明があった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記発明には、フライスやエンドミルなどの工具を主軸に取り付けて、工作物を加工することができない問題があった。また、肉厚の薄い工作物をセンタリングして、これを把捉することができない問題と、作動部材が工作物の外周を把持する移動に伴って工作物を引き込む構成であるため、その外形が円形でない工作物をセンタリングすることができない問題があった。
【0004】
以上の問題を解決するために、円錐台形状のセンタを有するセンタリング治具を工具ホルダに取り付け、これをマシニングセンタの主軸に把捉させ、工作物の次加工中心穴に挿入する実験を行った。その結果、次加工中心穴の中心と主軸の軸心(以下「穴・主軸両心」という)がずれていた場合には、主軸の軸方向への移動と共に円錐面が工作物を押し、穴・主軸両心が一致した状態で主軸の軸方向への移動が止まることを確認した。
【0005】
センタリング治具の円錐面と次加工中心穴との接触が、点でなく円周になった状態が、穴・主軸両心が一致した状態であり、このとき、主軸を軸方向に移動させるサーボモータ(以下「主軸サーボ」という)の電流値が急に上昇することを確認した。この実験の結果、主軸サーボの電流値の上昇をチェックすることにより、穴・主軸両心の一致を知ることが可能になった。
【0006】
しかし、センタリング治具を工具ホルダに取り付ける構成には、工具マガジンに収納する工具の種類又は数について、センタリング治具を取り付けた工具ホルダの分だけ減らす必要が生じる問題があった。また、工作物のセンタリングを行う工程の後に、センタリング治具を取り付けた工具ホルダを工具マガジンに収納し、次の工程で使用する工具を取り付けた工具ホルダを主軸に把捉させる工程が必要となり、作業工程の単純化及び作業時間の短縮化の面でさらなる工夫を行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−24862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
工具マガジンに収納する工具の種類や数を減らすことなく、工作物のセンタリングを行うことが可能なマシニングセンタを得ることにある。さらに、工作物のセンタリングを行った後に、センタリングを完了したときの主軸の位置を中心として、その回りの所定の位置に対して、工具を取り換えることなく、直ちに次の加工工程を行うことを可能にすることにより、作業工程の単純化及び作業時間の短縮化を図ったマシニングセンタを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ホルダ部に円錐面を有するセンタを固定して取り付けたセンタ付工具ホルダとする。また、次の工程で使用する工具を取り付けたセンタ付工具ホルダを主軸に把捉させ、次加工中心穴にセンタ付工具ホルダを挿入し、円錐面が工作物に接触したときに、主軸をその軸方向に移動させる力により、円錐面が工作物との接触部を押し、工作物を移動させるようにする。そして、穴・主軸両心が一致したことを、主軸サーボの電流値の上昇をチェックすることによって確認し、主軸サーボを停止させて工作物をクランプするセンタリング方法を行った後に、直ちに次の加工工程を行う加工方法とする。
【発明の効果】
【0010】
主軸に工具を取り付けて工作物を加工すること、肉厚の薄い工作物をセンタリングしてこれを把捉すること、その外形が円形でない工作物をセンタリングすること、のいずれもが可能になった。また、工具マガジンに収納する工具の種類や数について、センタリング治具を取り付けた工具ホルダの分だけ減らす必要がなくなった。さらに、センタリングを行った後に、センタリングを完了したときの主軸の位置を中心として、その回りの所定の位置に対して、直ちに次の加工工程を開始することが可能になり、作業工程の単純化及び作業時間の短縮化を図ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】穴・主軸両心が一致した状態の、センタ付工具ホルダの正面図及び工作物の断面図である。
図2】次の加工工程を行っている状態の、センタ付工具ホルダの正面図及び工作物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
工具のシャンクをホルダ部に挿入し、工具の刃部を突き出すことが可能なナットを使用して、工具を取り付ける構成の工具ホルダとする。また、マシニングセンタの主軸にそのテーパー部を挿入して、主軸が工具ホルダを把捉する構成とする。さらに、交換アームによってそのフランジ部を保持して、主軸と工具マガジンとの間の工具ホルダの交換を行う構成とする。
【0013】
そして、ホルダ部に円錐面を有するセンタを固定して取り付け、これをセンタ付工具ホルダとする。センタ付工具ホルダの中心軸と円錐面との間の角度(以下「円錐角度」という)については、円錐面が工作物に接触したときに、主軸をその軸方向に移動させる力により、円錐面が工作物との接触部を押し、主軸の軸方向への移動につれて、穴・主軸両心が一致する方向に工作物を押すことが可能であれば、特にこだわるものではないが、実験の結果によると円錐角度を10〜30度とすることが好ましかった。
【0014】
さらに、予め次加工中心穴を設けた工作物に対して、次の加工工程を行う前に行うセンタリング方法であって、次の工程で使用する工具を取り付けたセンタ付工具ホルダを主軸に把捉させる工程と、センタ付工具ホルダを次加工中心穴に挿入する工程と、穴・主軸両心が一致して主軸の移動が止まり、主軸サーボの電流値が上昇したときに、主軸サーボの電流値の上昇をチェックする工程と、主軸サーボの電流値の上昇を確認して、主軸サーボを停止させ工作物をクランプする工程とからなるセンタリング方法を行った後に、センタリングを完了したときの主軸の位置を中心として、その回りの所定の位置に対して、工具を取り換えることなく、直ちに次の加工工程を行う加工方法とする。
【0015】
ここで、次加工中心穴は、センタの円錐面の最小部直径より大きく、かつ、最大部直径より小さな直径を有するものとする。穴・主軸両心が互いにずれている場合には、主軸の軸方向への移動につれて円錐面が工作物を押し、穴・主軸両心は一致する。いずれの場合も、穴・主軸両心が一致した状態で主軸の移動は止まる。このとき、主軸サーボの電流値が上昇するので、この電流値をチェックして、主軸サーボを停止させて工作物をクランプする。
【実施例1】
【0016】
センタ付工具ホルダ1の実施例1を図1、2に示し説明する。工具ホルダはテーパー部1a、フランジ部1b及びホルダ部1cを有するものとした。そして、工具3のシャンクをホルダ部1cの中に挿入し、工具3の刃部を突き出すことが可能なナット2を使用して、工具3をホルダ部1cに固定する構成の工具ホルダとした。
【0017】
さらに、ホルダ部1cの外周に円錐面1eを有するセンタ1dを固定して取り付け、これをセンタ付工具ホルダ1とした。センタ1dの円錐面1eの最小部直径Bは工作物5の次加工中心穴5aの直径Dより小さくし、円錐面1eの最大部直径Cは次加工中心穴5aの直径Dより大きくした。また、円錐角度Aについては15度とした。
【実施例2】
【0018】
実施例2は、マシニングセンタの主軸に取り付けた切削工具3によって、次加工中心穴5aを中心として、その周りの所定の位置に複数の穴を明ける前に行うセンタリング方法である。マシニングセンタの工具マガジンは多数の工具ホルダを収納しており、交換アームによってフランジ部1bを保持し、主軸と工具マガジンとの間で工具ホルダの交換を行う構成とした。
【0019】
工具マガジンには、センタ付工具ホルダ1とセンタのない工具ホルダの両方を収納している。実施例2では、予め次の工程で使用する工具3をセンタ付工具ホルダ1に取り付け、主軸のスピンドルにテーパー部1aを挿入し、テーパー部1aの先端に取り付けたプルスタッド(図示せず)を引っ張ることにより、テーパー部1aがスピンドルの穴に密着するようにして、センタ付工具ホルダ1を主軸に把捉させる。
【0020】
次に、工作物5の次加工中心穴5aにセンタ付工具ホルダ1を挿入する。数値制御することによりX軸とY軸方向に主軸を移動させ、工作物5の次加工中心穴5aの中心に主軸の軸心を近づける。次加工中心穴5aの直径Dはセンタ1dの円錐面1eの最小部直径Bより大きい。このため、穴・主軸両心は(D−B)/2より小さい範囲内でずれていても構わない。
【0021】
続いて、主軸サーボを駆動し主軸をZ軸方向に移動させて、次加工中心穴5aにセンタ付工具ホルダ1を挿入する。穴・主軸両心がずれている場合は、円錐面1eと次加工中心穴5aの一部だけが接触し、主軸がZ軸方向へ移動するにつれて、主軸サーボが主軸をZ軸方向に移動させる力により、円錐面1eが次加工中心穴5aとの接触部を押し、工作物5は穴・主軸両心が一致する方向に移動する。そして、いずれの場合も、センタリング治具の円錐面1eと次加工中心穴5aとの接触が、点でなく円周になったときに主軸の移動は止まる。
【0022】
センタリング治具1dの円錐面1eと次加工中心穴5aとの接触が、点でなく円周になったときは、穴・主軸両心が一致した状態である。このとき主軸のZ軸方向への移動は止まり、主軸サーボの電流値が上昇する。そこで、主軸サーボの電流値をチェックしその上昇を確認して、主軸サーボを停止して工作物5をクランプする。このようにすれば、工作物5のセンタリングが完了した状態で、工作物5をクランプすることができる。
【0023】
センタリングを行って工作物5をクランプした後は、センタ付工具ホルダ1を取り替えることなく、そのまま工具3による穴明け加工を行う。センタリングを完了したときの主軸の中心位置は、次加工中心穴5aの中心位置でもあるので、数値制御を行うことにより、次加工中心穴5aを中心として、その周りの所定の位置に穴を明けることは容易である。
【0024】
本実施例では、主軸に切削工具3を取り付けたが、研削工具など他の工具を取り付けて加工することもできる。本発明によれば、肉厚の薄い工作物でも、外形が円形でない工作物でもセンタリングすることが可能であり、工具マガジンに収納する工具の種類や数を減らす必要がなくなった。さらに、センタリングを行った後に直ちに次の加工工程を開始することが可能になり、作業工程の単純化及び作業時間の短縮化を図ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は工具ホルダを製造販売する産業だけでなく、工作機械を製造販売する産業や機械加工品を製造販売する産業においても利用される。
【符号の説明】
【0026】
1 :センタ付工具ホルダ 1a:テーパー部 1b:フランジ部
1c:ホルダ部 1d:センタ 1e:円錐面
2 :ナット 3 :工具 5 :工作物
5a:次加工中心穴
【要約】
【課題】工作物のセンタリングを行った後に、直ちに次の加工工程を行うことを可能にしたマシニングセンタを得ることを解決課題とする。
【解決手段】ホルダ部1cに円錐面1eを有するセンタ1dを設けたセンタ付工具ホルダ1とする。また、次の工程で使用する工具3を取り付けたセンタ付工具ホルダ1を主軸に把捉させ、次加工中心穴5aにセンタ付工具ホルダ1を挿入し、円錐面1eと次加工中心穴5aの一部だけが接触したときに、主軸がZ軸方向へ移動するにつれて、円錐面1eが次加工中心穴5aを押すようにし、円錐面1eが次加工中心穴5aの全周に接触し、センタリングが完了して主軸の移動が止まったことを、主軸サーボの電流値をチェックして確認し、主軸サーボを停止させて工作物5をクランプする。
【選択図】図1
図1
図2