特許第6198162号(P6198162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198162
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】マグネシウム合金コイル材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 45/02 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   B21B45/02 330
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-154596(P2016-154596)
(22)【出願日】2016年8月5日
(62)【分割の表示】特願2012-111780(P2012-111780)の分割
【原出願日】2012年5月15日
(65)【公開番号】特開2017-1098(P2017-1098A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 龍一
(72)【発明者】
【氏名】大石 幸広
(72)【発明者】
【氏名】森 信之
(72)【発明者】
【氏名】北村 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】河部 望
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄太
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−115834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/22, 3/00,27/06,28/04,
45/02
B21C 47/26,47/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金に圧延ロールによって圧延を施し、得られた圧延板をリールに巻き取って、前記圧延板が渦巻き状に巻き取られてなるマグネシウム合金コイル材を製造するマグネシウム合金コイル材の製造方法であって、
前記マグネシウム合金は、Alを8.3質量%以上9.5質量%以下、Znを0.5質量%以上1.5質量%以下含有するMg−Al系合金であり、
前記圧延ロールから前記リールまでの間で、上側ピンチロールと下側ピンチロールを有する少なくとも一対の保温用のピンチロールで前記圧延板を上下から挟み、
前記ピンチロールのうち、少なくとも前記圧延ロールに最も近い位置に配置された直近の上側ピンチロールの表面に付着した圧延屑を除去するマグネシウム合金コイル材の製造方法。
【請求項2】
更に、前記圧延ロールから前記直近の上側ピンチロールまでの間に存在する圧延板の上面及び下面の少なくとも一方に付着した圧延屑を除去する請求項に記載のマグネシウム合金コイル材の製造方法。
【請求項3】
前記圧延屑の除去は、前記直近の上側ピンチロールにフェルトを接触させて前記フェルトによって前記圧延屑を絡め取ることで行う請求項又は請求項に記載のマグネシウム合金コイル材の製造方法。
【請求項4】
前記圧延屑の除去は、前記圧延板にフェルトを接触させて前記フェルトによって前記圧延屑を絡め取ることで行う請求項に記載のマグネシウム合金コイル材の製造方法。
【請求項5】
前記圧延屑の除去は、板状スクレイパ又はワイピングロールを用いて行う請求項から請求項のいずれか1項に記載のマグネシウム合金コイル材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工といった塑性加工が施されてなるマグネシウム合金部材の素材に適したマグネシウム合金コイル材及びその製造方法に関するものである。特に、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量で比強度、比剛性に優れるマグネシウム合金が、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯用電気・電子機器類の筐体や、自動車部品などの各種の部材の構成材料に利用されてきている。
【0003】
マグネシウム合金の結晶構造は、稠密六方であることから、室温といった低温でのすべり面が底面のみである。そのため、マグネシウム合金に圧延やプレス加工などの種々の塑性加工を行う場合、一般に200℃以上の温度に加熱した状態(代表的には温間)で行う。特に、Alの含有量が多い合金種(例えば、ASTM規格におけるAZ91合金)は、Alの含有量が少ない合金種(例えば、ASTM規格におけるAZ31合金やAZ61合金)に比較して塑性加工性に劣り、圧延やプレス加工などの塑性加工を行うにあたり、素材を加熱する。特許文献1は、ASTM規格におけるAZ91合金からなる素材に特定の温度制御を行って圧延を施すことで、プレス加工性に優れるマグネシウム合金板が得られることを開示している。
【0004】
一方、冷間加工が可能な鋼や銅及びその合金、アルミニウム及びその合金では、冷間圧延を行う場合、潤滑性を高めるために潤滑剤(圧延油)を大量に使用し、圧延後、余剰分を除去することが行われている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−131274号公報
【特許文献2】特開2000−263123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレス加工などの塑性加工を施してマグネシウム合金部材(塑性加工部材)を製造する場合、素材として、連続した長尺な板や、更に広幅である長尺な板を利用すると、所定の長さに切断したシート板を利用する場合と比較して、歩留まりを改善でき、生産性を高められると期待される。従って、長尺な圧延板や更には広幅な圧延板を巻き取ったマグネシウム合金コイル材は、マグネシウム合金部材を量産する場合に好適な素材といえる。
【0007】
上記マグネシウム合金コイル材を塑性加工部材の素材に利用するにあたり、表面性状に優れるものが望まれる。
【0008】
特許文献1に記載されるように、圧延板に研磨を施すことで、金属光沢を有するなど、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材が得られる。また、金属光沢を出す程度の研磨量は、圧延板の表裏の合計でせいぜい100μm程度であり、材料歩留の観点から、大抵は30μm以下である。このような研磨量が少なく軽い研磨であることから、この研磨量を見込んだ厚さの圧延板を製造する。
【0009】
しかし、圧延時に大きな疵(凹み)が生じた場合、特に深い疵が生じた場合、このような疵を無くすためには、研磨量を多くする必要がある。すると、材料の廃棄量が増加する上に、研磨時間が長くなるなどして、生産性の低下を招く。また、疵の箇所のみに研磨を施すと、コイル材を構成する圧延板の長手方向や幅方向における厚さがばらつくため、コイル材を構成する圧延板の全長及び全幅に亘って研磨量が多い研磨を施す必要がある。すると、疵がない健常な箇所も多量に研磨することになり、歩留まりが悪く、生産性の低下を招く。更に、研磨によって除去が困難な疵が存在する場合には、この疵の箇所を切断除去するしかなく、長尺なマグネシウム合金コイル材が得られない。
【0010】
以上から、圧延後、研磨量が少ない軽い研磨によって除去可能な程度の疵しかないこと、好ましくは疵が全く無いマグネシウム合金コイル材、及びこのような表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材の製造方法の開発が望まれる。
【0011】
そこで、本発明の目的の一つは、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材を製造可能なマグネシウム合金コイル材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
マグネシウム合金、特に、Alを7.2質量%超含有し、Alの含有量が多いマグネシウム合金では、圧延時、圧延板の縁部が中央部に比較して割れ易い(特許文献1参照)。そして、この縁部の割れによって圧延板本体から脱落した屑(以下、圧延屑と呼ぶ)が生じ易い。特許文献1に記載されるように、特定の温度調整を行うことで、上述の縁部の割れをある程度低減できるものの、圧延屑が生じ得る。そして、この圧延屑が、圧延板の表面に付着していることがある。ここで、マグネシウム合金を圧延する場合にも、潤滑剤を利用することで圧延性を高められる(特許文献1参照)。そこで、マグネシウム合金の圧延にあたり、素材の温度を低下させない程度の量(冷間圧延を行う金属に比較して少量)の潤滑剤を利用することがある。この場合、圧延板に潤滑剤が残存することで、上記圧延屑が付着し易く、かつ圧延板表面から脱落し難くなっている、と考えられる。
【0013】
一方、圧延ロールによって圧延を施した板材をリールによって巻き取ってコイル材を製造する場合に、上記圧延板に種々の作用を施すロール(以下、作業ロールと呼ぶ)を圧延ロールよりもリール側寄りに配置することがある。作業ロールは、圧延ロールを経た板材(圧延板)に接触させて利用される(詳細は後述)。本発明者らが調べた結果、上述の圧延屑が付着している圧延板にこれらの作業ロールが接触することで、作業ロールに圧延屑が付着し、更に、圧延屑が付着した作業ロールが、圧延ロールを経た圧延板に次々に接触して圧延屑を押し付けることで、圧延屑に応じた圧痕が圧延板に生じ得る、との知見を得た。この圧痕は、作業ロールに付着した圧延屑が自然に脱落するまで繰り返される。そのため、作業ロールの周長に応じたピッチで、圧痕が継続的に形成される。その結果、巻き取られたマグネシウム合金コイル材の全長に亘って、断続的に、又は連続的に圧痕が存在するコイル材が製造され得る、との知見を得た。また、この圧痕は、圧延屑の大きさに応じた大きさであり、比較的大きい(最大径が0.5mm以上)、との知見を得た。
【0014】
例えば、鋼などを冷間加工する場合のように大量の圧延油を用いれば、この圧延油によって圧延屑を流し落とすことができる。しかし、マグネシウム合金では、上述のように温間加工を行うため、大量に潤滑剤を用いると、潤滑剤によって素材が冷却されて圧延性を低下させることなどから、大量の潤滑剤によって圧延屑を流し落とすことは実質的にできない。
【0015】
上記知見に基づき、本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法では、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材を製造するにあたり、作業ロールに付着した圧延屑を積極的に除去することを提案する。
【0016】
本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、マグネシウム合金に圧延ロールによって圧延を施し、得られた圧延板をリールに巻き取って、上記圧延板が渦巻き状に巻き取られてなるマグネシウム合金コイル材を製造する方法にかかるものである。上記圧延板を構成するマグネシウム合金は、Alを7.2質量%超含有するものとする。そして、本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法では、上記圧延ロールから上記リールまでの間に、上記圧延ロールを通過した圧延板に接触して上記圧延板に所定の作用を施す作業ロールが少なくとも一つ存在し、上記作業ロールのうち、上記圧延ロールに最も近い位置に配置されて直近作業ロールの表面に付着した圧延屑を除去する。
【0017】
本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、圧延屑が生じ、更に、この圧延屑が圧延ロールの近くに配置された直近作業ロールの表面に付着した場合でも、直近作業ロールから圧延屑を除去するため、直近作業ロールによって圧延屑を圧延板に押し付けて大きな圧痕が生じることを効果的に低減できる。従って、本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、大きな疵(圧痕)がなく、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材(代表的には、後述の本発明のマグネシウム合金コイル材)を製造できる。圧延屑の除去は、例えば、直近作業ロールや後述する一形態では圧延板に、柱状の部材を摺接させて、この部材によって圧延屑を絡め取ったり堰き止めたりして、圧延屑がある程度溜まったら、圧延屑を適宜取り除く(捨てる)ことで行うことが挙げられる。また、本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法によって得られたマグネシウム合金コイル材は、(1)軽い研磨によって疵を十分に除去できる、(2)疵の箇所を切断除去する必要がなく、十分に長い圧延板とすることができる、(3)切断による材料の廃棄量や研磨量も低減できる。これらの点から、本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、表面性状に優れ、長尺なマグネシウム合金コイル材を生産性よく製造できる。更に、得られたマグネシウム合金コイル材に金属光沢を出す程度の軽い研磨を施すことで、表面性状により優れるマグネシウム合金コイル材を製造できる。
【0018】
本発明のマグネシウム合金コイル材は、マグネシウム合金からなる板材が渦巻き状に巻き取られてなり、上記マグネシウム合金はAlを7.2質量%超含有し、上記板材は、最大径が0.5mm以上である圧痕の存在量が5個/m以下である。
【0019】
本発明のマグネシウム合金コイル材は、大きな疵(圧痕)が少なく、疵があっても小さなものであり、表面性状に優れる。また、本発明のマグネシウム合金コイル材は、表面性状に優れることで疵箇所の切断除去や研磨量の多い研磨が不要であり、生産性にも優れる上に長尺である。このような本発明のマグネシウム合金コイル材や、上述の本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法によって得られたマグネシウム合金コイル材(以下、まとめて本発明のコイル材等と呼ぶ)は、プレス加工などの塑性加工(2次加工)が施されるマグネシウム合金部材(塑性加工部材)の素材に好適に利用できる。また、本発明のコイル材等は、長尺な板材(圧延板)から構成されることから、上記マグネシウム合金部材の量産に寄与することができると期待される。更に、得られたマグネシウム合金部材も表面性状に優れると期待される。
【0020】
本発明の一形態として、上記マグネシウム合金がAlを8.3質量%以上9.5質量%以下含有する形態が挙げられる。
【0021】
上述の特定の範囲でAlを含有するマグネシウム合金は、機械的特性(特に強度)や耐食性に優れる。従って、上記形態のマグネシウム合金コイル材は、表面性状に優れる上に、強度や耐食性にも優れる。上記形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、表面性状に優れる上に、強度や耐食性にも優れるマグネシウム合金コイル材を製造できる。
【0022】
本発明のマグネシウム合金コイル材の一形態として、上記マグネシウム合金からなる板材の引張強さが270MPa以上450MPa以下、0.2%耐力が220MPa以上350MPa以下である形態が挙げられる。
【0023】
上記板材は、強度に優れるため、マグネシウム合金部材(塑性加工部材)の素材に好適に利用できる。引張強さ及び0.2%耐力が上述の特定の範囲を満たす上記板材は、例えば、圧延板が挙げられる。
【0024】
本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法の一形態として、更に、上記圧延ロールから上記直近作業ロールまでの間に存在する圧延板の上面及び下面の少なくとも一方に付着した圧延屑を除去する形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、圧延板の走行によって圧延板に付着した圧延屑が直近作業ロールに搬送される前に、圧延屑を除去する。従って、上記形態は、直近作業ロールに付着する圧延屑自体を低減できるため、圧延屑による圧痕の発生を効果的に低減でき、表面性状により優れるマグネシウム合金コイル材を製造できる。
【0026】
本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法の一形態として、上記直近作業ロールが、上記圧延板を保温するためのピンチロール、上記圧延板の巻き取り角度を調整するデフレクタロール、及び上記圧延板に加わる張力分布を測定するテンションメータロールのいずれか一つである形態が挙げられる。
【0027】
圧延ロールから巻き取り用のリールまでの間に配置する作業ロールは、種々のものがあり得る。また、作業ロールの配置順序や利用個数なども適宜選択し得る。マグネシウム合金コイル材の製造にあたり、上記ピンチロールを利用すると、圧延ローラを通過後巻き取り前までの素材の温度をある程度高い状態に保持し易い。そのため、温間での巻き取りが可能であり、巻き取り時の割れの発生などを抑制できる。マグネシウム合金コイル材の製造にあたり、デフレクタロールを利用すると、圧延板を渦巻き状に多層に巻き取るにあたり、リールに巻き取った厚さに応じて、圧延板におけるリールへの巻き取り角度を調整できる。そのため、巻き取り前の圧延板に過度な曲げなどが加わることを抑制できる。マグネシウム合金コイル材の製造にあたり、テンションメータロールを利用すると、圧延板の平坦度の異常(平坦度のばらつき)に伴う張力の板幅方向の分布を確実に把握できる。測定した分布に基づき、ロールベンダーなどの機構を用いて、圧延時に圧延板の平坦度を調整でき、平坦度の優れたコイル材が得られる。直近作業ロールが上述のいずれの場合であっても、上記形態は、割れや変形などが少なく、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材を製造できる。
【0028】
本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法の一形態として、上記直近作業ロールに付着した圧延屑の除去は、前記直近作業ロールにフェルトを接触させて上記フェルトによって上記圧延屑を絡め取ることで行う形態が挙げられる。
【0029】
上記形態は、フェルトといった柔らかい材質からなるものを圧延屑の除去部材に用いることで、圧延屑を十分に絡め取れる上に、上記除去部材によって直近作業ロールに実質的に疵を付けることなく、圧延屑を除去できる。
【0030】
本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法の一形態として、上記圧延板に付着した圧延屑の除去は、上記圧延板にフェルトを接触させて上記フェルトによって上記圧延屑を絡め取ることで行う形態が挙げられる。
【0031】
上記形態は、圧延屑の除去部材を圧延板に直接接触させる構成である。上記形態は、この除去部材の材質をフェルトといった柔らかい材質とすることで、除去部材自体によって圧延板を実質的に疵付けることがない上に、絡め取った圧延屑を圧延板に押し付けて疵を付けることもなく、圧延屑を除去できる。
【0032】
本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法の一形態として、上記圧延屑の除去は、板状スクレイパ又はワイピングロールを用いて行う形態が挙げられる。
【0033】
特許文献2に記載されるように、板状スクレイパやワイピングロールは、圧延油の除去に利用されており、圧延屑の除去にも利用できると期待される。特に、樹脂といったフェルトよりも硬い材質からなる板状スクレイパやワイピングロールを用いると、圧延屑を堰き止め易いと期待される。なお、硬い材質からなる板状スクレイパによって圧延板に疵がつく恐れがあるが、この疵は軽い研磨によって十分に除去可能な程度の浅いものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明のマグネシウム合金コイル材は、表面性状に優れる。本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材を生産性よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施形態1に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法に用いる製造装置の概略構成図である。
図2】(A)は、実施形態2に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法に用いる製造装置の概略構成図、(B)は、この製造装置に具える板側除去部材を圧延板に配置した状態を説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の具体的な形態を説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0037】
[実施形態1]
図1を参照して、実施形態1に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法を説明する。この製造方法は、マグネシウム合金からなる素材板1bに圧延ロール10u,10dによって圧延を施し、得られた板材1(圧延板)をリール17によって渦巻き状に巻き取ってマグネシウム合金コイル材を製造するものである。実施形態1の製造方法では、圧延ロール10u,10dの直近に配置された作業ロール(ここではピンチロール13)の表面に付着した圧延屑を除去することを最大の特徴とする。この製造方法の実施には、図1に示すマグネシウム合金コイル材の製造装置100Aを好適に利用することができる。
【0038】
以下、圧延に供される素材板1bをまず説明し、次に製造装置100A、その後、製造するマグネシウム合金コイル材を詳しく説明する。
【0039】
(素材)
素材板1bを構成するマグネシウム合金は、Alを7.2質量%超含有するMg−Al系合金とする。このマグネシウム合金は、Alの含有量が多いことで、耐食性に優れる上に、強度、硬度(剛性)といった機械的特性にも優れる。Alの含有量は、多いほど耐食性や機械的特性に優れる傾向にあるものの、12質量%を超えると塑性加工性の低下を招くことから、12質量%以下、更に11質量%以下が好ましい。その他の添加元素は、Zn,Mn,Si,Be,Ca,Sr,Y,Cu,Ag,Sn,Li,Zr,Ce,Ni,Au及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択された1種以上の元素が挙げられる。各元素の含有量は、例えば、0.01質量%以上10質量%以下、更に0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。特に、Si,Sn,Y,Ce,Ca及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有するマグネシウム合金は、耐熱性や難燃性に優れる。マグネシウム合金中の不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。
【0040】
Mg−Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg−Al−Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg−Al−Mn系合金、Mn:0.15質量%〜0.5質量%)、AS系合金(Mg−Al−Si系合金、Si:0.2質量%〜6.0質量%)、AX系合金(Mg−Al−Ca系合金、Ca:0.2質量%〜6.0質量%)、AJ系合金(Mg−Al−Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)などが挙げられる。その他、Mg−Al−RE系合金(RE:希土類元素、RE:0.001質量%〜5質量%、好ましくは0.1質量%以上)などが挙げられる。
【0041】
Mg−Al系合金のうち、Alを8.3質量%以上9.5質量%以下、Znを0.5質量%以上1.5質量%以下含有するMg−Al系合金は、耐食性及び機械的特性に優れて好ましい。代表的にはAZ91合金やAZ91合金相当のAl及びZnを含むマグネシウム合金(例えば、AZX911など)が挙げられる。
【0042】
上述のマグネシウム合金からなる素材板1bに圧延を施して得られた板材1(圧延板)は、素材板1bの組成を実質的に維持する。
【0043】
圧延に供する素材板1bには、上述のマグネシウム合金からなる長尺な鋳造板を巻き取った鋳造コイル材が好適に利用できる。鋳造コイル材は、例えば、上述のマグネシウム合金を双ロール鋳造法といった連続鋳造法によって長尺な鋳造板を作製し、この鋳造板を渦巻き状に巻き取ることで得られる。
【0044】
急冷凝固が可能な連続鋳造法を利用することで、酸化物や偏析などを低減できる上に、10μm超といった粗大な晶析出物の生成を抑制できる。特に、双ロール連続鋳造法は、剛性及び熱伝導性に優れ、偏析が少なく、圧延性に優れる鋳造板を形成し易い(特許文献1参照)。
【0045】
上記鋳造板の厚さ、幅、及び長さは、適宜選択することができる。例えば、厚さが10mm以下、更に7mm以下、特に5mm以下であると、偏析などが存在し難く、強度に優れる。例えば、長さが30m以上、更に50m以上、とりわけ100m以上といった長尺な鋳造板や、幅が100mm以上、更に200mm以上、とりわけ250mm以上といった広幅な鋳造板を素材板1bとすると、長尺な圧延板や広幅な圧延板を作製できる。
【0046】
又は、素材板1bは、上記鋳造コイル材に、更に溶体化処理といった熱処理を施した熱処理コイル材とすることができる。熱処理条件は、例えば、加熱温度:350℃〜420℃、保持時間:1時間〜40時間が挙げられる。この熱処理によって、析出物を固溶させて機械的特性や圧延性の向上などを図ることができる(特許文献1参照)。又は、複数パスの圧延を行う場合には、素材板1bは、圧延板とすることができる。
【0047】
(製造装置)
製造装置100Aは、素材板1bに圧延を施す圧延ロール10u,10dを具える圧延機10と、圧延が施された板材1(圧延板)を巻き取るリール17と、圧延機10からリール17までの間に配置されて、板材1に接触して板材1に所定の作用を施す作業ロール(図1ではピンチロール13、デフレクタロール15)とを具える。この製造装置100Aは、素材コイル材(素材板1bを巻き取ったもの)を巻き戻して、長尺な素材板1bを走行させ、圧延機10を経て素材板1bに圧延を施して長尺な板材1を製造し、最終的に板材1を巻き取って、コイル材を製造する装置である。そして、製造装置100Aは、作業ロールのうち、圧延機10に直近の作業ロール(ここではピンチローラ13)の表面に接触した圧延屑を除去するロール側除去部材20を具えることを最大の特徴とする。ロール側除去部材20は、作業ロールの表面に摺接するように配置されて、作業ロールの表面に付着した圧延屑を絡め取ったり、堰き止めたりすることで、上記表面から圧延屑を除去する。
【0048】
<圧延機>
圧延機10は、マグネシウム合金を圧延可能な適宜なものを利用できる。図1に示す圧延機10は、対向配置された一対の圧延ロール10u,10dを具える例を示すが、複数組の圧延ロール対を具えて、多段圧延が可能な構成とすることができる。また、圧延ロール10u,10dは、加熱可能な構成であると、素材板1bの温度が十分に高い状態で素材板1bに圧延を施すことができる。その結果、圧延時に割れの発生を低減し、圧延屑の発生量を低減でき、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材を製造し易い。圧延ロール10u,10dは、ロール駆動部(図示せず)により動力の付与及び動作の制御がなされる。ロール駆動部は、モータといった動力源と、回転動作のON/OFFや回転数(回転速度)、圧延ロール10u,10d間のギャップ距離などを制御するロール制御部とを具えるものが挙げられる。
【0049】
<リール>
繰出し用のリール(図示せず)や巻き取り用のリール17はいずれも、板が巻き付けられる巻胴と、巻胴の表面よりも突出する鍔部とを具える。これらのリールは、リール駆動部(図示せず)によって動力の付与及び動作の制御がなされる。リール駆動部は、モータといった動力源と、回転動作のON/OFFや回転数(回転速度)、回転方向などを制御するリール制御部とを具えるものが挙げられる。繰出し用のリールに素材コイル材を配置して素材板1bを繰り出し、圧延機10を経た板材1(圧延板)を巻き取り用のリール17によって巻き取ることで、つまり、二つのリール間に素材板1bを掛け渡し、リールを同方向に回転させることで、素材板1bとそれに続く圧延後の板材1とを走行させることができる。複数パスの圧延を行う場合、いわゆるリバース圧延を行うことができる。リバース圧延とは、上述の二つのリールによる繰出しと巻き取りとを交互に切り替えて、各リールの回転方向を反転し、両リール間に掛け渡された板の走行方向を反転して、上記板が両リール間を往復走行する途中に圧延を施す手法である。リバース圧延は、圧延方向を反転させることで複数パスの圧延を連続して行え、コイル材の生産性に優れる。
【0050】
<作業ロール>
製造装置100Aにおいて、圧延機10よりも板材1の進行方向前方(巻き取り用のリール17側)に配置される作業ロールは、圧延板の保温(特許文献1参照)や張力調整に利用されるピンチロール13、圧延板の巻き取り角度を変更するデフレクタロール15、板材1に加わる張力分布を測定するテンションメータロール(図示せず)などが挙げられる。
【0051】
保温用のピンチロール13は、ヒータなどの加熱手段や、加熱された流体が流通される循環機構などを内蔵して所定の温度に加熱される。この加熱状態のピンチロール13を板材1に接触させることで、板材1を加熱、又は、板材1の温度の低下を抑制すること(板材1の温度を維持すること)ができる。図1に示す例では、対向配置された一対のピンチロール13u,13dを具えており、板材1の上面及び下面がピンチロール13u,13dによって挟まれる。この構成により、板材1の上面及び下面を加熱可能、又は温度低下を抑制可能である。また、ピンチロール13u,13dによって板材1を挟持するときの圧力を調整することで、板材1に加わる張力も調整できる。ピンチロール13を用いて、圧延が施された板材1の温度をある程度高い温度(例えば、室温超250℃以下程度。好ましくは100℃〜200℃程度)とすると、板材1を温間で巻き取れて巻き取り易い上に、割れ難い。
【0052】
板材1が厚い場合や板材1を十分に保温する場合、巻き取りまでの距離が長い場合などでは、板材1の進行方向に並ぶように複数のピンチロール13を配置する形態とすることができる。ピンチロール13による加熱が不要な場合には、ピンチロールを張力調整のみに利用する。加熱及び張力調整が不要な場合、ピンチロール13を取り外す、又は省略できる。
【0053】
デフレクタロール15は、板材1に所定の曲げ(デフレクタロール15の曲げ半径に沿った曲げ)を加えて板材1の角度を変更し、リール17によって板材1を滑らかに巻き取れるように板材1の角度の調整を行う。図1に示す例では、板材1の上面に接するようにデフレクタロール15を配置しているが、板材1の下面に接するようにデフレクタロール15を配置する形態とすることができる。デフレクタロール15は、リール17の位置や巻き取り時の角度に応じて配置する。巻き取り時の角度の調整が不要な場合、デフレクタロール15を取り外す、又は省略できる。
【0054】
テンションメータロール(図示せず)は、板材1に加わる張力分布の測定に利用される。代表的には、テンションメータロール内部にセンサ(例えば、複数のロードセルなど)を取り付け、板材1の張力分布に応じた荷重分布を上記センサによって検出し、この検出信号を用いて張力分布を測定する。測定した張力分布に応じて、ロールベンダーなどによって板材1の張力分布を適正化することで、圧延中のコイル材の平坦度を制御できる。張力分布の測定が不要な場合、テンションメータロールは、省略できる。
【0055】
上述の作業ロールの構成材料は、マグネシウム合金と反応せず、温間圧延時の熱で変形などし難いものが挙げられる。代表的には、工具鋼などの鋼が挙げられる。
【0056】
<ロール側除去部材>
上述の作業ロールの表面に付着した圧延屑(図示せず)を除去するロール側除去部材20は、作業ロールに摺接するように配置される堰部21と、堰部21を支持する支持部23とを具える。
【0057】
堰部21の構成材料は、種々のものが利用できる。特に、作業ロールと接触する箇所の構成材料は、天然繊維や合成繊維からなるフェルトが好ましい。フェルトは、上述の工具鋼などに比較して柔らかいことから、作業ロールに接触しても疵を付け難い、又は実質的に疵を付けないと期待される。また、繊維状であることから圧延屑を絡め取ることで圧延屑を除去できる。また、ある程度、圧延屑を堰き止められることでも圧延屑を除去できると期待される。作業ロールと接触する箇所の構成材料は、フェルト以外の(工業的)不織布、織布などの柔らかいものが挙げられる。また、堰部21の構成材料は、樹脂(例えば、PTFEなどのフッ素樹脂など)が挙げられる。
【0058】
堰部21の具体的な形態は、例えば、角柱、円柱といった柱状材(柱状ワイパ)が挙げられる(図1では、角柱状ワイパを示す)。柱状ワイパの幅(作業ロールの軸方向に沿った長さ)は、作業ロールの軸方向の長さと同等、又は作業ロールの軸方向の長さよりも大きくすることができる。特に、フェルト製の柱状ワイパは、上述のように圧延屑の除去、疵発生の防止を行える上に、製造し易く好ましい。
【0059】
又は、堰部21は、板状スクレイパやワイピングロールが挙げられる。特に、板状スクレイパやワイピングロールは、上述の樹脂からなるものであると、上述のフェルトよりも剛性が高いことから、圧延屑を堰き止めることで圧延屑を除去できると期待される。板状スクレイパは、(1)作業ロールとの接触箇所のみ、上述のフェルトで形成して、それ以外の箇所を樹脂製としたもの、(2)ステンレス鋼などの鋼からなる芯材の表面をシリコーン樹脂で覆った複合材からなるもの、(3)シリコーンゴムなどの弾性体で構成されたもの、などとすることができる。勿論、フェルト製の板状スクレイパやワイピングロールとすることができる。なお、ブラシ(特に回転ブラシ)では、硬い毛材や太い毛材が、毛材間に保持された圧延屑を板材1に押し付けたり、保持している圧延屑によって板材1に疵を付けられる程度に圧延屑を強固に保持したりする恐れがあり、好ましくないと考えられる。
【0060】
支持部23は、作業ロールの周面に摺接するように堰部21を支持可能な構成を適宜利用できる。例えば、支持部23は、金属片などで構成され、堰部21の配置位置を変動不可能に固定可能な構成が挙げられる。この場合、支持部23は、単純な構成にできる。又は、支持部23は、圧縮ばねなどの弾性体、空気圧シリンダや油圧シリンダなどを具えて、堰部21の配置位置を変動可能に堰部21を支持する構成とすることができる。この場合、作業ロールに対する堰部21の負荷(押圧力)を調整可能となり、堰部21の接触によって作業ロールの表面を疵付け難い。又は、支持部23は、棒状の金属部材などで構成され、堰部21を吊り下げて、堰部21の自重によって堰部21が作業ロールに接触するように支持する構成も、作業ロールの表面を疵付け難い。
【0061】
一つの作業ロールに対するロール側除去部材20の配置位置は、圧延屑を絡め取ったり、堰き止めたりすることができる適宜な箇所を選択できる。代表的には、作業ロールにおいて板材1から遠ざかる側に位置する半円弧領域(図1に示す上側のピンチロール13uでは上半分の円弧領域)から選択される箇所が挙げられる。図1に示す例では、板材1の上面に接するように配置された上側のピンチロール13uに対して、二つのロール側除去部材200,201を配置している。両ロール側除去部材200,201はいずれも、上述の上半分の円弧領域に配置され、板材1の上面に対する垂線を中心として対称位置に配置されており、ピンチロール13uの中心(図示せず)を中心として、両部材200,201のなす角が90°程度である。上記なす角は、適宜変更可能である。また、両部材200,201は、非対称な位置に配置されていてもよい。
【0062】
一つの作業ロールに対して配置するロール側除去部材20の個数及び配置位置、製造装置100Aに具えるロール側除去部材20の総合計数は、適宜選択することができる。例えば、下側のピンチロール13dに対してロール側除去部材210,211を配置してもよいし、両ピンチロール13d,13uの双方にそれぞれロール側除去部材200,201,210,211を配置してもよい。また、上側のピンチロール13uに二つのロール側除去部材200,201、下側のピンチロール13dに一つのロール側除去部材20を配置してもよい。つまり、上下のピンチロール13d,13uに配置するロール側除去部材20の個数が異なっていてもよい。ここで、板材1の下面に付着した圧延屑は、その自重によって落下する可能性がある。一方、板材1の上面に付着された圧延屑は、積極的に取り除く以外無くなることはない。そのため、上側のピンチロール13uに対して配置するロール側除去部材20の個数を多くすると、板材1の表面に付着した圧延屑を効果的に除去できると期待される。
【0063】
ピンチロール13を有していない場合や作業ローラの配置順序が異なる場合などで、圧延機10の直近に配置される作業ロールが、例えば、デフレクタロール15である場合、ピンチロール13uに対して配置した場合と同様に、デフレクタロール15に対してロール側除去部材220,221を配置するとよい。ピンチロール13とデフレクタロール15との双方を具える場合、ピンチロール13に加えて、デフレクタロール15に対してもロール側除去部材20を配置することができる。板材1の進行方向に沿って複数の作業ロールが存在する場合、圧延機10の直近に配置される作業ロールに加えて、その他の作業ロール、つまり、板材1の進行方向前方(巻き取り用のリール17側)に配置された作業ロールに対しても、ロール側除去部材20を配置すると、直近の作業ロールで取りこぼした圧延屑を除去できる。従って、板材1において圧延屑による圧痕が形成される領域を低減できることから、大きな疵が少なく、表面性状に優れる板材1をより長く製造できると期待される。圧延機10の直近に配置される作業ロールがテンションメータロール(図示せず)である場合も、上述のデフレクタロール15の場合に述べた事項を適用できる。
【0064】
<その他>
製造装置100Aは、素材板1bが巻き取られたリールを収納し、素材板1bを所望の温度に加熱可能なヒートボックス(図示せず)や、走行する板材1の温度を保持するための保温カバーなどを具えることができる。ヒートボックスや保温カバーなどを具えることで、板材1の温度低下を抑制でき、圧延性や巻き取り時の容易性を高められる。
【0065】
(コイル材の製造手順)
上記構成を具える製造装置100Aを用いて、マグネシウム合金コイル材を製造するには、以下のように行う。素材板1bを巻き取っている素材コイル材は、上述のようにヒートボックスや別途用意した加熱手段によって予め所定の温度に加熱しておく。
【0066】
繰出し用のリールに素材コイル材を取り付けて、素材コイル材を巻き戻し、素材板1bの一端をそのまま巻き取り用のリール17で巻き取り(この端部は、圧延が施されない。)、素材板1b及び圧延が施された板材1が両リール間を走行できるようにする。そして、素材板1bを順次圧延機10に導入して、圧延ロール10u,10dによる圧延を開始する。両リールが回転して、素材板1bが走行することで、素材板1bは順次圧延が施されて圧延板(板材1)となる。圧延機10を経た板材1は、途中、ピンチロール13によって適宜張力調整や保温がなされ、デフレクタロール15によって適切な角度に曲げられて最終的にリール17に巻き取られる。
【0067】
圧延時、板材1の縁部が割れて圧延屑が生じ、更に、この圧延屑が板材1の表面(特に上面)に付着し、付着したままピンチロール13に送られて、ついにはピンチロール13の表面に圧延屑が付着することがある。しかし、製造装置100Aでは、付着した圧延屑がピンチロール13の回転によってロール側除去部材20に接触して絡め取られたり堰き止められたりする。この絡め取りや堰き止めによる圧延屑の除去によって、ピンチロール13は、板材1に対して圧延屑が付着していない領域が接触できる。そのため、ピンチロール13が圧延屑を板材1に押し付けて、板材1の表面に大きな圧痕を形成することを低減できる。上側のピンチロール13uに加えて、下側のピンチロール13dにもロール側除去部材20を具える場合には、板材1の上下面の双方に対して、大きな圧痕の形成を低減できる。更に、デフレクタロール15やテンションメータロールにもロール側除去部材20を具える場合には、板材1の表面に形成され得る大きな圧痕数をより低減できる。
【0068】
上述の巻き取りによって、長尺な圧延板(板材1)が巻き取られたマグネシウム合金コイル材が得られる。
【0069】
ロール側除去部材20によって除去した(絡め取った又は堰き止めた)圧延屑は、適宜なときに取り除く。例えば、1パスの圧延が終わった後に取り除くと、取り除く際に圧延屑が板材1に再付着することを防止し易い。
【0070】
(圧延条件)
圧延機10による圧延は、少なくとも1パスの圧延を温間圧延とする。温間圧延の条件は、圧延ロール10u,10dに供される直前の素材板1bの温度:150℃以上400℃以下(好ましくは350℃以下、更に300℃以下、とりわけ280℃以下)、1パスあたりの圧下率:5%〜40%が挙げられる。上述の特定の温度範囲とすることで、(1)素材板1bの塑性加工性を高めて、縁部の割れを低減し、圧延屑の発生を低減できる、(2)1パスあたりの圧下率を大きくでき(例えば、10%〜30%程度)、コイル材の生産性を高められる、(3)焼付きなどによる表面性状の劣化を抑制できる、(4)圧延ロールの熱劣化を抑制できる、といった効果を奏する。また、素材板1bだけでなく圧延ロール10u,10dも加熱すると、素材板1bの温度低下を抑制したり、縁部の割れをより低減したりし易い。その他、公知の圧延条件を利用して、温間圧延を行うことができる。なお、仕上げ圧延などで圧下率が小さい圧延を行う場合には、製造装置100Aを用いて、冷間圧延を行うこともできる。
【0071】
圧延にあたり、潤滑剤を利用すると、素材板1bと圧延ロール10u,10dとの摩擦を低減して、圧延を良好に行える。潤滑剤は、例えば、刷毛やワイパなどを用いて、圧延ロール10u,10dに塗布することが挙げられる。
【0072】
複数パスの圧延を行うと、圧延板の厚さを薄くしたり、圧延板を構成する組織の平均結晶粒径を小さくしたり(例えば、10μm以下、好ましくは5μm以下)、プレス加工といった塑性加工性を高めたりすることができる。所望の厚さの板材1(圧延板)が得られるように、パス数、各パスの圧下率、及び総圧下率を適宜選択することができる。
【0073】
上述の手順では、温間圧延を1パス行う場合を説明した。複数パスの温間圧延を行う場合は、例えば、上述したヒートボックスを利用すると共に、上述の二つのリールを反転させてリバース圧延を行うと、生産性よくコイル材を製造できる。
【0074】
(マグネシウム合金コイル材)
上述の手順を経て得られたマグネシウム合金コイル材は、渦巻き状に巻き取られた板材1(圧延板)によって構成される。板材1の厚さ、幅、及び長さは、圧延条件を調整することによって、所望の値にすることができる。特に、このコイル材をプレス加工部材といった塑性加工部材の素材に利用する場合、厚さが0.1mm以上2.0mm以下、特に、0.3mm以上1.2mm以下であると薄い塑性加工部材が得られる。板材1の長さが50m以上、更に100m以上、200m以上、400m以上といった長尺板から構成されるコイル材は、上述の塑性加工部材の素材に利用すると、この素材を塑性加工装置に連続供給でき、塑性加工部材を量産できる。板材1の幅が100mm以上、更に200mm以上、特に250mm以上といった広幅板から構成されるコイル材は、上述の塑性加工部材の素材に利用すると、携帯用機器の部品といった小型なものから、輸送機器の部品といった大型なものまで、種々の大きさの塑性加工部材を製造できる。マグネシウム合金コイル材の重さが100kg以上、更に200kg以上である大重量のコイル材は、板材1の幅や厚さにもよるが、厚さが薄いほど(例えば、1mm以下)、長尺な板(例えば、全長が200m以上、更に400m以上)や広幅な板(例えば、幅が100mm以上、更に200mm以上)から構成されたコイル材になる。このようなコイル材を上述の塑性加工部材の素材に利用すると、上述のように種々の大きさの塑性加工部材を製造できたり、塑性加工部材の量産に寄与したりすることができる。その他、コイル材の巻き取り径(内径)も適宜選択することができる。
【0075】
上記マグネシウム合金コイル材を構成する板材1は、圧延が施されていることで、同じ組成のマグネシウム合金からなる鋳造板や、Alの含有量が少ないマグネシウム合金(例えば、AZ31合金やAZ61合金)からなる圧延板と比較して、機械的特性にも優れる。例えば、マグネシウム合金コイル材を構成する板材1は、引張強さ:270MPa以上450MPa以下、0.2%耐力:220MPa以上350MPa以下を満たす形態が挙げられる。更に伸び:1%以上15%以下を満たす形態が挙げられる。
【0076】
そして、上記マグネシウム合金コイル材を構成する板材1は、大きな圧痕を有していない。具体的には、最大径が0.5mm以上である圧痕の存在量が5個/m以下である。つまり、板材1は、圧痕が存在しても、その多くは、高々最大径が0.5mm未満の小さな圧痕である。そのため、金属光沢を出すための研磨といった軽い研磨(研磨量が少ない研磨)などで十分に圧痕を無くすことができる。板材1に存在する圧痕の最大径は、小さいほど好ましく、2mm以下、更に1mm以下が好ましい。また、最大径が0.5mm以上である圧痕は、少ないほど好ましく、存在しないことが最も好ましい。圧痕の最大径及び存在量の測定方法は、後述する。
【0077】
(効果)
実施形態1の本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、マグネシウム合金に圧延(代表的には温間圧延)を施して得られた板材(圧延板)を巻き取ってマグネシウム合金コイル材を製造するにあたり、圧延時に圧延屑が生じて作業ロールの表面に付着した場合でも、ロール側除去部材20によって圧延屑を作業ロールから除去する。従って、本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、圧延が施された板材1に、圧延屑が作業ロールによって押し付けられて圧痕が形成されることを効果的に低減できる。そのため、得られたマグネシウム合金コイル材やこのコイル材を所定の長さに切断したマグネシウム合金板は、大きな圧痕が少なく、又は実質的に存在せず、表面性状に優れる。また、大きな圧痕が少ない又は実質的に存在しないことで、疵を無くすために多大な研磨を施したり、疵の箇所を切断除去したりしなくてよいため、歩留まりを改善できる。従って、本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法を用いることで、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材やマグネシウム合金板を生産性よく製造できる。そして、このマグネシウム合金コイル材やマグネシウム合金板は、プレス加工といった塑性加工が施される素材に好適に利用できる上に、表面性状に優れるマグネシウム合金部材が得られる。
【0078】
[実施形態2]
実施形態1では、作業ロールに付着した圧延屑を除去するロール側除去部材20のみを具える形態を説明した。実施形態2の製造方法は、ロール側除去部材20に加えて、図2に示すように板側除去部材30を具える製造装置100Bを用いて、板材1に付着した圧延屑も除去する形態である。以下、板側除去部材30に関する構成及び効果を詳細に説明し、実施形態1と重複する構成及び効果は詳細な説明を省略する。
【0079】
<板側除去部材>
板側除去部材30は、圧延機10(圧延ロール10u,10d)から直近作業ロール(ここではピンチロール13)までの間に存在する板材1(圧延板)において、その表面に存在する圧延屑を除去する部材である。板側除去部材30の基本的構成は、ロール側除去部材20と同様であり、板材1の表面に摺接するように配置される堰部31と、堰部31を支持する支持部33とを具える。
【0080】
堰部31の構成材料は、ロール側除去部材20に具える堰部21と同様に、フェルトや樹脂の成形体などが挙げられる。堰部31の形態は、柱状ワイパ、板状スクレイパ、ワイピングロールなどが挙げられる(図2では、角柱状ワイパを示す)。特に、板側除去部材30に具える堰部31は、板材1に直接接触することから、板材1に接触する箇所は少なくとも、フェルトといった柔らかい材質から構成されていることが好ましい。堰部31がフェルトなどの柔らかい材質から構成されている場合、堰部31が絡め取った圧延屑を板材1に押し付けることが実質的になく、板材1に疵を付け難い。
【0081】
堰部31を柱状ワイパとする場合、一般的な角柱や円柱などの一直線的な形状が好ましいと考えられる。例えば、柱状ワイパを平面視V型や弓型などとし、V字の凸側や弓の凸側を走行する板材1の下流側(進行方向前方)に向けると、圧延屑を堰部31の一部分に集約して溜められる。しかし、板材1の一部分に過度に圧延屑が集中すると、溜まった圧延屑によって板材1に疵を付ける恐れがある。なお、堰部31を板状スクレイパとする場合、樹脂などで構成すると共に、平面視V型や弓型などとし、V字の凸側や弓の凸側を板材1の進行方向後方に向けると、凸状面に当接した圧延屑を板材1の外部に落下できると期待される。この場合、板状スクレイパの幅W30(後述)は、圧延屑を落下し易いようにある程度大きめにすることができる。この形態においてリバース圧延を行う場合には、板材1の進行方向が変わるごとに、V字などの凸側の向きを反転させる。
【0082】
堰部31の幅W30は、板材1の幅Wよりも短いことが好ましい。幅とは、作業ロールの軸方向に沿った長さ(図2(B)では上下方向の長さ)をいう。上述のように圧延機10を経た板材1の縁部は、割れによって圧延屑が存在し得る。そのため、板材1の全幅に亘って堰部31を配置すると、つまり、堰部31の幅W30を板材1の幅Wと同等以上とすると、絡め取ったり、堰き止めたりする圧延屑の量が多過ぎて、溜まった圧延屑によって板材1に疵を付けたり、圧延屑を周囲に飛散させたりする可能性がある。また、圧延後、板材1の縁部をトリミングして除去する場合、縁部に疵があることはある程度許容できる。従って、堰部31の縁部に集中的に圧延屑が付着することを防止するために、堰部31の幅W30は、板材1の幅Wよりも短くし、かつこの短い堰部31が、板材1の縁部を含まず、板材1の中央部にのみ位置するように配置することが好ましい(図2(B)参照)。この場合、板材1において堰部31が配置されない領域:縁部の幅Wは、3mm〜20mm程度が挙げられる。
【0083】
支持部33は、ロール側除去部材20に具える支持部23と同様に、堰部31の配置位置を変動不可能に固定する構成、圧縮ばねやシリンダなどを具えて、板材1に対する堰部31の押圧力を調整可能な構成、自重で吊るす構成などとすることができる。上述のように堰部31は、板材1に直接接触することから、後者の押圧力が調整可能な構成とすると、板材1への押圧力が過度に大きくならないようにできる。そのため、板側除去部材30(堰部31)によって板材1に疵を付けることを抑制できて好ましい。
【0084】
板側除去部材30の配置位置は、圧延機10から直近作業ローラまでの間の任意の箇所を選択できる。板側除去部材30の個数は図2に示すように一つでもよいが、複数配置することができる。例えば、板材1の進行方向に沿って前後に並ぶように、板側除去部材300,301を並列させることができる。この場合、例えば、一方(板材1の進行方向において上流側)の板側除去部材300によって絡め取られた又は堰き止められた圧延屑を取り除くときに、他方(同下流側)の板側除去部材301によって圧延屑を絡め取れる又は堰き止められる。また、一方の板側除去部材300によって絡め取られた又は堰き止められた圧延屑を取り除くときに、他方の板側除去部材301を配置してもよい。即ち、板側除去部材30の交換時などの特定の時期にのみ複数の板側除去部材30を配置してもよい。又は、図2(A)に示す例では、板材1の上面にのみ板側除去部材300を配置しているが、板材1の下面に対して板側除去部材310を配置してもよいし、板材1の両面にそれぞれ板側除去部材300,310を配置してもよい。また、ロール側除去部材20と同様の理由によって、板材1の上下面に配置する板側除去部材30の個数が異なっていてもよい。更に、板材1の両面にそれぞれ板側除去部材30を配置する場合に、板側除去部材30によって板材1を挟持すると、板材1に過度の押圧力が作用する恐れがあるときには、板材1の上面に配置する板側除去部材30の配置位置と、板材1の下面に配置する板側除去部材30の配置位置とをそれぞれ、板材1の進行方向に沿ってずらすことが好ましい。
【0085】
(コイル材の製造手順)
ロール側除去部材20及び板側除去部材30の双方を具える製造装置100Bを用いてマグネシウム合金コイル材を製造する手順は、実施形態1と同様である。但し、圧延時、ロール側除去部材20による作業ロールに対する圧延屑の除去に加えて、板側除去部材30による板材1に対する圧延屑の除去を行う。ロール側除去部材20及び板側除去部材30によって除去した(絡め取った又は堰き止めた)圧延屑は、上述のように、例えば、1パスごとに取り除くとよい。
【0086】
(効果)
実施形態2の本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、マグネシウム合金に圧延(代表的には温間圧延)を施して得られた板材(圧延板)を巻き取ってマグネシウム合金コイル材を製造するにあたり、圧延時に圧延屑が生じて板材1の表面や作業ロールの表面に付着した場合でも、板側除去部材30によって板材1から圧延屑を除去すると共に、ロール側除去部材20によって作業ロールから圧延屑を除去する、という多段の除去構造としている。板側除去部材30によって、作業ロール側に搬送され得る圧延屑を除去できることから、この製造方法は、ロール側除去部材20自体に付着し得る圧延屑を低減できる。そのため、この製造方法では、圧延が施された板材1に圧延屑が作業ロールによって押し付けられて圧痕が形成されることをより効果的に低減できる。この製造方法によって得られたマグネシウム合金コイル材やマグネシウム合金板は、大きな圧痕がより少なく、又は実質的に存在せず、表面性状により優れる。また、この製造方法を用いることで、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材やマグネシウム合金板をより生産性よく製造できる。そして、このマグネシウム合金コイル材やマグネシウム合金板も、塑性加工部材の素材に好適に利用できる上に、表面性状により優れるマグネシウム合金部材が得られる。
【0087】
[試験例]
上述した実施形態1,2のマグネシウム合金コイル材の製造方法に基づいて、マグネシウム合金コイル材を製造し、表面性状を調べた。
【0088】
この試験では、AZ91合金相当の組成(Mg−8.7%Al−0.65%Zn、全て質量%)のマグネシウム合金の溶湯を用意して、双ロール鋳造機により、厚さ4mmの鋳造板を連続して作製して巻き取り、鋳造コイル材を作製した。この鋳造コイル材をバッチ炉に装入して400℃×24時間の溶体化処理を施した。得られた固溶コイル材を素材コイル材とし、この素材コイル材を巻き戻した素材板に以下の条件で複数パスの温間圧延を施して得られた板材を巻き取った。上記工程によって、厚さ0.6mm、幅250mm、長さ760mの圧延板からなる圧延コイル材を作製した(200kg)。この試験では、作業ローラの一つとして、保温用のピンチローラ(圧延板を挟むように配置される一対の組)を用意した。そして、このピンチローラを、圧延ローラから巻き取り用のリールまでの間に配置する作業ローラのうち、圧延ローラに最も近い位置に配置した。つまり、このピンチローラが直近作業ローラである。
【0089】
(圧延条件)
圧下率:5%/パス〜40%/パス
素材板の加熱温度:250℃〜280℃
圧延ロールの温度:100℃〜250℃
【0090】
実施形態1の製造方法を利用する試料No.1では、市販の柱状のフェルトを用意した。この柱状のフェルト(柱状ワイパ)からなる堰部を具えるロール側除去部材を用意した。そして、上側の直近作業ローラ(ここではピンチローラ)の表面に上記堰部が摺接するようにロール側除去部材を配置して、上述の複数パスの圧延を行った。また、パスごとに堰部によって絡め取られた圧延屑を取り除いた。
【0091】
実施形態2の製造方法を利用する試料No.2では、試料No.1と同様のフェルト製の柱状ワイパを具えるロール側除去部材を用意した。また、市販の柱状のフェルトを用意し、この柱状のフェルト(柱状ワイパ)からなる堰部を具える板側除去部材も用意した。そして、試料No.2では、試料No.1と同様に、上側の直近作業ローラ(ここではピンチローラ)の表面に堰部が摺接するようにロール側除去部材を配置し、圧延機と直近作業ローラとの間に存在する圧延板の上面に堰部が摺接するように板側除去部材を配置して、上述の複数パスの圧延を行った。板側除去部材に具える堰部の幅W30は、板材(圧延板)の幅Wよりも小さくし、板材の縁部に堰部が接触しないように板側除去部材を配置した。また、パスごとに各除去部材の堰部によって絡め取られた圧延屑を取り除いた。
【0092】
試料No.100では、ロール側除去部材及び板側除去部材の双方を配置せずに、上述の複数パスの圧延を行った。
【0093】
作製した各試料のマグネシウム合金コイル材について、以下のようにして表面性状を調べた。圧延後のコイル材を巻き戻して、コイル材の外周から、長さ300mmの板片を切り出していく。95枚の板片を切り出す毎に次の5枚の板片を評価用サンプルとして抜き取る、という作業を繰り返し行った。そして、評価用サンプルに対して、最大径が0.5mm以上である圧痕(以下、粗大圧痕と呼ぶ)の数を数えた。ここでは、各評価用サンプルの両面について圧痕を調べた。なお、圧痕の形状は不規則な形状であることから、各圧痕における最も大きな長さを最大径とした。そして、100枚以上の評価用サンプル(ここでは125枚)を用いて、1mあたりの粗大圧痕の数を求めた。その結果、試料No.100は、最大径が0.5mm以上である圧痕の存在量が20個/mであるのに対し、試料No.1,No.2はいずれも、最大径が0.5mm以上である圧痕の存在量が5個/m以下であり、大きな疵が少なかった。特に、作業ロール及び圧延板の双方に対して圧延屑の除去を行った試料No.2は、最大径が0.5mm以上である圧痕の存在量が3個/mであり、試料No.1(5個/m)よりも大きな疵が低減されていた。なお、試料No.1,No.2について、市販の引張試験装置によって引張強さ(室温)、0.2%耐力(室温)を調べた。その結果、試料No.1は、引張強さ282MPa,0.2%耐力:226MPa、試料No.2は、引張強さ:278MPa,0.2%耐力:221MPaであり、いずれも優れた機械的特性を有していた。
【0094】
なお、上述の圧痕の最大径、及び粗大圧痕の測定には、画像処理機能を有する探傷装置などの評価設備を利用することができる。この場合、測定対象であるコイル材を連続的に、かつ全長に対して、圧痕の最大径の測定や粗大圧痕の抽出を容易に行える。
【0095】
試料No.1において、更に、下側のピンチロールに対してロール側除去部材を追加した場合、試料No.2において、更に、圧延板の下面に対して板側除去部材を追加した場合についてそれぞれ、表面性状を調べた。その結果、巻き取られた圧延板の上下面の双方において大きな疵が少なく、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材が得られた。
【0096】
上記試験結果から、マグネシウム合金に1パス以上の温間圧延を施して、マグネシウム合金コイル材を製造する場合に、圧延ローラに最も近い位置に配置された作業ローラに付着し得る圧延屑を除去することで、大きな疵を低減でき、表面性状に優れるマグネシウム合金コイル材が得られることが確認された。また、作業ローラに対する圧延屑の除去に加えて、圧延板に対しても圧延屑を除去することで、大きな疵を更に低減でき、表面性状に優れて高品位なマグネシウム合金コイル材が得られることが確認された。
【0097】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、ロール側除去部材や板側除去部材の材質、配置位置、個数、マグネシウム合金コイル材を構成する板材の厚さ、幅、長さなどを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のマグネシウム合金コイル材は、プレス加工や鍛造、曲げ加工、据え込みといった種々の塑性加工が施されてなるマグネシウム合金部材、例えば、各種の電気・電子機器類の構成部材(より具体的には、携帯用や小型な電気・電子機器類の筐体や補強材など)、自動車や航空機といった輸送機器の構成部材、各種の筐体やカバーなどの外装部材、骨格部材、カバンなどの素材に好適に利用することができる。本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、上記本発明のマグネシウム合金コイル材の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 板材 1b 素材板 100A,100B マグネシウム合金コイル材の製造装置
10 圧延機 10u,10d 圧延ロール 13,13u,13d ピンチロール
15 デフレクタロール 17 リール
20,200,201,210,211,220,221 ロール側除去部材
21,31 堰部 23,33 支持部 30,300,301,310 板側除去部材
図1
図2