【文献】
J. Cell Biol.,2009年,Vol.187, No.5,pp.669-83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(平行線維性結合組織の製造方法)
本発明は、PRELPと接触させた状態で間葉系幹細胞を培養すること、及び培養物から線維組織を単離することを含む、平行線維性結合組織の製造方法を提供する。
【0013】
Proline/arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)は、生体内において結合組織細胞外マトリクスに含まれる公知のポリペプチドである。
【0014】
本明細書中、PRELPは通常、哺乳動物由来のものを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。PRELPは、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
【0015】
本明細書中、ポリペプチドやポリヌクレオチド等の因子について、「生物X由来」とは、該ポリペプチド又はポリヌクレオチドが、生物Xにおいて天然に発現しているポリペプチド又はポリヌクレオチドと同一又は実質的に同一のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列を含むことを意味する。「実質的に同一」とは、着目したアミノ酸配列又は核酸配列が、生物Xにおいて天然に発現している因子のアミノ酸配列又は核酸配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上)の同一性を有しており、且つ当該タンパク質の活性が維持されていることを意味する。
【0016】
PRELPのヌクレオチド配列やアミノ酸配列は公知である。ヒトPRELP及びマウスPRELPの代表的なアミノ酸配列及びそれをコードするポリヌクレオチド配列(cDNA配列)は以下の通りである。尚、かっこ内は、NCBIが提供するGENBANKのアクセッション番号を示す。
[ヒトPRELP アミノ酸配列]
配列番号2(NP_002716):配列番号1(NM_002725 REGION: 201..1349)のポリヌクレオチドによりコード
配列番号4(NP_958505):配列番号3(NM_201348 REGION: 191..1339)のポリヌクレオチドによりコード
配列番号6(配列番号2からシグナル配列(1−20)を削除した(成熟型)):配列番号5(配列番号1からシグナル配列コード領域を削除)のポリヌクレオチドによりコード
配列番号8(配列番号4からシグナル配列(1−20)を削除した(成熟型)):配列番号7(配列番号3からシグナル配列コード領域を削除)のポリヌクレオチドによりコード
[マウスPRELP アミノ酸配列]
配列番号10(NP_473418):配列番号9(NM_054077 REGION: 164..1300)のポリヌクレオチドによりコード
配列番号12(配列番号10からシグナル配列(1−21)を削除した(成熟型)):配列番号11(配列番号9からシグナル配列コード領域を削除)のポリヌクレオチドによりコード
【0017】
本明細書中、PRELPの活性とは、間葉系幹細胞へ接触させた状態で該細胞を培養することにより、平行線維性結合組織の形成を誘導する活性を意味する。
【0018】
本明細書中、「間葉系幹細胞」とは、未分化の状態で増殖し、骨細胞、軟骨細胞及び脂肪細胞の全て又はいくつかへの分化が可能な幹細胞又はその前駆細胞の集団を広義に意味する。
【0019】
本明細書中、間葉系幹細胞は、通常、哺乳動物由来のものを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。間葉系幹細胞は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
【0020】
生体においては、間葉系幹細胞は骨髄、末梢血、臍帯血、脂肪組織等の組織中に低頻度で存在する。間葉系幹細胞は、これらの組織から公知の方法で単離することが出来る。例えば、間葉系幹細胞は、パーコールグラディエント法により骨髄液から単離することができる(Hum. Cell, vol.10, p.45-50, 1997)。或いは、骨髄穿刺後の造血幹細胞等の培養、継代により間葉系幹細胞を単離することができる(Journal of Autoimmunity, 30 (2008) 163e171)。ヒト滑膜、半月板、関節内靭帯、筋肉、脂肪組織、及び骨髄からセルソーターで間葉系幹細胞を単離する方法が報告されている(Journal of Orthopaedic Research, 27:435-441, 2009)。また、市販された間葉系幹細胞を用いてもよい。
【0021】
本発明において用いられる間葉系幹細胞は、好ましくは単離されている。「単離」とは、天然に存在する状態とは異なる状態に人為的に置かれること、例えば、天然に存在する状態から、目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。
【0022】
単離された間葉系幹細胞の純度(総細胞数に占める間葉系幹細胞の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは実質的に100%である。
【0023】
間葉系幹細胞を採取するソースとなる個体は特に制限されないが、得られる線維組織が移植医療に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者自身又はMHCの型が同一もしくは実質的に同一の他個体から間葉系幹細胞を採取することが好ましい。ここでMHCの型が「実質的に同一」とは、免疫抑制剤等の使用により、該間葉系幹細胞から得られた線維組織を患者に移植した場合に移植した線維組織中に含まれる細胞が生着可能な程度にMHCの型が一致していることをいう。
【0024】
また、製造する平行線維性結合組織の機能の強化という観点から、強靭な平行線維性結合組織を形成する遺伝的なバックグラウンドを有する同種異系の間葉系幹細胞(例えば、ヒトの場合、黒人の間葉系幹細胞)を用いることも、また好ましい。
【0025】
間葉系幹細胞は、その培養に適した自体公知の培地で前培養することができる。そのような培地としては、例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Basal Medium Eagle、RPMI1640培地、199培地、F12培地等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0026】
本発明において、PRELPと接触させた状態での間葉系幹細胞の培養方法は、特に限定されることはなく、線維組織の形成を誘導可能であればいかなる方法であってもよい。例えば、(A)PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞を培養する方法、(B)線維組織の形成を誘導するのに十分な量のPRELP(好ましくは、単離されたPRELP)を含有する培地中で間葉系幹細胞を培養する方法等を採用することができる。(A)においては、導入された発現ベクターから発現したPRELPが間葉系幹細胞の微小環境中や培地中に放出され、これが間葉系幹細胞へ接触する。好ましくは、PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞を培養する。
【0027】
PRELP発現ベクターは、プロモーター及びPRELPをコードするポリヌクレオチドを含み、当該プロモーターは作動可能に当該ポリヌクレオチドに連結されている。当該プロモーターは、宿主である間葉系幹細胞内で転写を開始可能なものであれば特に限定されない。
【0028】
発現ベクターとしては、特に限定されないが、例えば、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シルビスウイルス、ラブドウイルス、パラミクソウイルス、オルソミクソウイルス等のウイルスベクター;YAC(Yeast artificial chromosome)ベクター、BAC(Bacterial artificial chromosome)ベクター、PAC(P1−derived artificial chromosome)ベクター等の人工染色体ベクター;プラスミドベクター;宿主細胞内で自律複製可能なエピゾーマルベクター等が挙げられる。該ベクターを間葉系幹細胞に導入する場合は、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等の方法を用いることができる。
【0029】
また、発現ベクターとしてウイルスベクターを用いる場合は、パッケージング細胞を利用することもできる。パッケージング細胞とは、ウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子を導入した細胞であって、この細胞に目的遺伝子を組み込んだ組換えウイルスDNAを導入すると、該組換えウイルス粒子を産生するものをいう。それゆえパッケージング細胞としては、ウイルス粒子の構成に必要なタンパク質を組換えウイルスベクターに対して補給する細胞であればいかなるものも用いることができ、例えば、ヒト腎臓由来のHEK293細胞やマウス線維芽細胞由来のNIH3T3細胞をベースにしたパッケージング細胞;Ecotropic virus由来エンベロープ糖タンパク質を発現するよう設計されているPlat−E細胞、Amphotropic virus由来エンベロープ糖タンパク質を発現するよう設計されているPlat−A細胞、及び水疱性口内炎ウイルス由来エンベロープ糖タンパク質を発現するよう設計されているPlat−GP細胞等を用いることができる(Plat−E細胞、Plat−A細胞及びPlat−GP細胞は、CELL BIOLABS社より購入することができる)。該パッケージング細胞へのウイルスベクターの導入方法としては、特に限定されるものではなく、リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム法等の従来公知の方法を利用することができる。
【0030】
また、発現ベクターを用いて遺伝子を導入する場合は、該遺伝子の導入を確認するため同時にマーカー遺伝子を利用することもできる。マーカー遺伝子とは、該マーカー遺伝子を細胞に導入することにより、細胞の選別や選択を可能とするような遺伝子全般をいい、例えば、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子等が挙げられる。薬剤耐性遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等が挙げられ、蛍光タンパク質遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、黄色蛍光タンパク質(YFP)遺伝子、赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子等が挙げられる。また、発光酵素遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子等が挙げられ、発色酵素遺伝子としては、βガラクトシターゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子等が挙げられる。これらのマーカー遺伝子については一種又は二種以上を組み合わせて用いることができ、また、ネオマイシン耐性遺伝子とβガラクトシダーゼ遺伝子との融合遺伝子であるβgeo遺伝子等のような、二種以上のマーカー遺伝子を含む融合遺伝子も用いることができる。
【0031】
発現ベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。
【0032】
本発明は、このようにして得られたPRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞をも提供する。当該間葉系幹細胞においては、導入された発現ベクターがゲノム内に組み込まれていてもよい。このような間葉系幹細胞は、ゲノム構造において、もとの間葉系幹細胞や、天然の哺乳動物から単離された間葉系幹細胞と明確に区別され得る。また、染色体外で自律複製可能なエピゾーマルベクターを用いた場合、ゲノム上には組み込まれないが、PRELPは遺伝的に安定に間葉系幹細胞内に存在し、発現され得るので、このようなベクターを用いて得られる間葉系幹細胞もまた、本発明の範囲に包含される。
【0033】
間葉系幹細胞の培養に用いられる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地等、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0034】
また、該培地は、血清含有培地又は無血清培地とすることができる。無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地や血清代替試薬(例えば、KSR(Invitrogen社)等)が添加されている培地などは無血清培地に該当するものとする。
【0035】
一態様において、間葉系幹細胞の培養に用いられる培地はTNF−αを含む。TNF−αの存在下で、PRELPと接触させた状態で間葉系幹細胞を培養することにより、平行線維性結合組織の形成が促進されることが期待される。例えば、TNF−αの存在下で、PRELPと接触させた状態で間葉系幹細胞を培養することにより、平行線維性結合組織の形成が促進され、TNF−αの非存在下条件と比較して、平行線維性結合組織がより短時間で形成されることが期待される。一態様において、TNF−αの存在下で、PRELPと接触させた状態で間葉系幹細胞を少なくとも24時間培養することにより、平行線維性結合組織が形成される。
【0036】
本明細書中、TNF−αは通常、哺乳動物由来のものを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。PRELPは、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
【0037】
TNF−αのヌクレオチド配列やアミノ酸配列は公知である。ヒトTNF−α及びマウスTNF−αの代表的なアミノ酸配列及びそれをコードするポリヌクレオチド配列(cDNA配列)は以下の通りである。尚、かっこ内は、NCBIが提供するGENBANKのアクセッション番号を示す。
[ヒトTNF−α アミノ酸配列]
配列番号14(NP_000585.2):配列番号13(NM_000594.3 REGION: 176..877)のポリヌクレオチドによりコード
[マウスPRELP アミノ酸配列]
配列番号16(NP_038721.1):配列番号15(NM_013693.2 REGION: 157..864)のポリヌクレオチドによりコード
【0038】
培地中のTNF−α濃度は、平行線維性結合組織の形成を促進する範囲で、当業者であれば適宜設定することが可能であるが、通常0.5〜500ng/mL、好ましくは1〜100ng/mL程度である。
【0039】
TNF−αは、好ましくは単離されている。単離されたTNF−αの純度(総タンパク質重量に占めるTNF−αの重量の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは100%である。
【0040】
一態様において、間葉系幹細胞の培養に用いられる培地は亜鉛イオン(Zn
2+)を含む。Zn
2+の存在下で、PRELPと接触させた状態で間葉系幹細胞を培養することにより、平行線維性結合組織の形成が促進されることが期待される。
【0041】
培地中のZn
2+濃度は、平行線維性結合組織の形成を促進する範囲で、当業者であれば適宜設定することが可能であるが、通常1〜100μM、好ましくは10〜50μM程度である。
【0042】
一態様において、間葉系幹細胞の培養に用いられる培地は、TNF−α及び亜鉛イオンを含む、TNF−α及び亜鉛イオンの存在下で、PRELPと接触させた状態で間葉系幹細胞を培養することにより、平行線維性結合組織の形成が強力に促進されることが期待される。
【0043】
TNF−α及び亜鉛イオンを併用する際の各因子の濃度は、平行線維性結合組織の形成を促進する範囲で、当業者であれば適宜設定することが可能であるが、上述の濃度範囲を例示することができる。
【0044】
該培地は、自体公知の添加物を含むことができる。添加物としては、特に限定されないが、例えば増殖因子(例えばインスリン等)、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、抗酸化剤、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d−ビオチン等)、脂肪酸又は脂質、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)、無機塩類等が挙げられる。当該添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。
【0045】
一態様において、間葉系幹細胞は、シャーレ、プレート、ボトル等の培養容器中で、接着培養される。
【0046】
好ましい態様において、間葉系幹細胞の培養は、3次元培養により行われる。3次元培養を行うことにより、平面での接着培養と比較して平行線維性結合組織の形成が促進される。本発明で「3次元培養」とは、ゾル−ゲル転移温度を有し、該転移温度より低い温度で可逆的にゾル状態を示すような高分子化合物を培養用の担体として使用し、必要に応じて、当該培養用担体に、細胞培養用生理活性物質を配合せしめて培養用の組成物として、それを用いて、当該培養用担体又は培養用組成物中の該高分子化合物をゲル状態にした培地中で、該ゲル物質に培養されるべき細胞及び/又は組織が包埋された状態で培養することを意味する。
【0047】
3次元培養用の担体として使用する高分子化合物としては、例えば、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドのブロック共重合体などに代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのエーテル化セルロース;キトサン誘導体(K. R. Holme. et al. Macromolecules, 24, 3828(1991));プルラン誘導体(出口茂ら、Polymer Preprints. Japan. 19, 936(1990))などの変性多糖類;ポリN-置換(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリビニルメチルエーテルなどに代表される温度感応性高分子と水溶性高分子化合物との結合体(例えば松田武久ら、Polymer Preprints. Japan. 39(8), 2559(1990))、生理的な条件下で自己重合し、微小な線維構造を有するハイドロゲルを形成するペプチドなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。PuraMatrix等の市販品を適宜使用することができる。
【0048】
本発明においては、線維組織を形成するのに十分な期間(通常1日以上、好ましくは2日以上)、PRELPと接触させた状態で間葉系幹細胞が培養される。
【0049】
本発明の工程(b)における培養条件は、通常の動物細胞の培養条件に準じ適宜設定することができる。例えば、培養温度は、通常約30〜40℃、好ましくは約37℃である。CO
2濃度は、通常、約1〜10%、好ましくは約2〜5%である。
【0050】
培養の結果、培養物中に平行線維性結合組織が形成される。本明細書中、「平行線維性結合組織」とは、膠原線維が一方向に並列配列した密性結合組織をいう。密性結合組織とは、膠原線維が線維束を作って密に配列することにより形成された結合組織をいう。膠原線維は、通常I型コラーゲンを含有する。平行線維性結合組織は靭帯組織であり得る。
【0051】
培養物とは、細胞を培養することにより得られる結果物をいい、細胞、培地、細胞分泌性成分等が含まれる。
【0052】
肉眼観察や顕微鏡観察等によって、平行線維性結合組織の形成を確認した後、培養物から平行線維性結合組織を単離することにより、平行線維性結合組織を得ることができる。
【0053】
こうして得られる平行線維性結合組織は、人工靱帯として、スポーツ選手などの靭帯断裂による運動障害などの治療に有用である。本発明は、上記本発明の方法により製造された平行線維性結合組織をも提供する。本発明の方法により製造された平行線維性結合組織は、骨癒合活性を有しているため、靭帯損傷の治療に好適に用いられる。
【0054】
(組み合わせ物、キット)
また、本発明は、PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞、及び3次元培養用の担体を含む組み合わせ物(組み合わせ物I)を提供する。
【0055】
更に、本発明は、
(1)PRELP、又はその発現ベクター;及び
(2)間葉系幹細胞
を含む組み合わせ物(組み合わせ物II)を提供する。
【0056】
組み合わせ物IIは、更に3次元培養用の担体を含むことができる。
【0057】
PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞、組み合わせ物I及びIIを用いれば、上記本発明の製造方法により容易に平行線維性結合組織を製造することができる。従って、PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞、組み合わせ物I及びIIのそれぞれを、平行線維性結合組織製造用キットとすることもできる。
【0058】
本発明のキットに含まれる各構成要素は、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBSなど)中に適当な濃度となるように溶解又は懸濁し、約−20℃〜4℃で保存することができる。
【0059】
本発明のキットには、上記本発明の製造方法に用いた種々の試薬(培地、遺伝子導入用試薬等)、培養容器、試験プロトコールを記載した指示書等を含めることができる。
【0060】
本発明の組み合わせ物及びキットに関する各用語の定義は、上述の「平行線維性結合組織の製造方法」の項における各用語の定義と同一である。
【0061】
(靭帯損傷の治療剤I)
上記本発明の製造方法により製造された平行線維性結合組織を、靭帯損傷を罹患したレシピエント哺乳動物の生体内に移植すると、該平行線維性結合組織がレシピエントの靭帯損傷部位に生着し、該部位において靭帯が再生され、靭帯損傷が治療される。また、PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞を、靭帯損傷を罹患したレシピエント哺乳動物の生体内に移植すると、該間葉系幹細胞がレシピエントの靭帯損傷部位に生着し、該部位において平行線維性結合組織を生産することにより該部位において靭帯が再生され、靭帯損傷が治療される。従って、本発明は、上記本発明の製造方法により製造された平行線維性結合組織、又はPRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞を含む、靭帯損傷治療剤を提供するものである(本発明の靭帯損傷の治療剤I)。
【0062】
靭帯損傷とは、靭帯が外力や感染等によって損傷を受けた状態を意味する。靭帯損傷としては、関節の靭帯損傷(例えば、膝靭帯損傷(外側側副靭帯損傷、内側側副靭帯損傷、前十字靭帯損傷、後十字靭帯損傷など);足首、足の甲、肘、指等における靭帯損傷など)、歯周靭帯の損傷;眼球を支える靭帯等の体内の臓器をその場所にとどめる強靭な結合組織(ゴムバンド)の損傷などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0063】
レシピエントの哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。PRELPは、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
【0064】
拒絶反応が起こらないという観点から、患者自身又はMHCの型が同一もしくは実質的に同一の他個体から採取された間葉系幹細胞を用いて、本発明の方法により製造された平行線維性結合組織、又は、当該間葉系幹細胞にPRELP発現ベクターを導入することにより得られる細胞が、移植に好適に用いられる。
【0065】
また、形成される靭帯の機能の強化という観点から、強靭な靭帯を形成する遺伝的なバックグラウンドを有する同種異系の間葉系幹細胞(例えば、ヒトの場合、黒人の間葉系幹細胞)を用いて、本発明の方法により製造された平行線維性結合組織、又は、当該間葉系幹細胞にPRELP発現ベクターを導入することにより得られる細胞を移植に用いることも、また好ましい。
【0066】
上記平行線維性結合組織や、PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞を移植する方法としては、該平行線維性結合組織や間葉系幹細胞がレシピエントの靭帯損傷部位に生着し、該部位において靭帯が再生され、靭帯損傷が治療される限り、特に限定されないが、好ましくは、該平行線維性結合組織や間葉系幹細胞は、レシピエントの靭帯損傷部位に直接移植される。平行線維性結合組織の移植は、例えば、上記本発明の製造方法により得られた平行線維性結合組織のシートを、靭帯損傷部位に貼り付けることにより実施することができる。PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞の移植は、例えば、当該間葉系幹細胞を生体適合性のゲル等の担体に包埋し、これを靭帯損傷部位に移植することにより実施することが出来る。
【0067】
例えば、一部が断裂した関節における靭帯の断裂部位;靭帯断裂治療のための縫合手術部位;歯科手術、感染、加齢等により、損傷や退縮した歯周ポケット等に、上記平行線維性結合組織や、PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞が移植される。
【0068】
上記平行線維性結合組織や、PRELP発現ベクターが導入された間葉系幹細胞の投与量は、靭帯損傷の程度、部位等に基づき、適宜設定することができる。
【0069】
本発明の靭帯損傷の治療剤Iに関する各用語の定義は、上述の「平行線維性結合組織の製造方法」、「組み合わせ物、キット」の項における各用語の定義と同一である。
【0070】
(靭帯損傷の治療剤II)
後述の実施例に示すように、生体内においてPRELPを過剰発現させることにより、インビトロのみならず、生体内においても靭帯の形成が促進される。従って、本発明は、PRELPまたはその発現ベクターを含む、靭帯損傷の治療剤(本発明の靭帯損傷の治療剤II)を提供するものである。本発明の靭帯損傷の治療剤IIは、生体内における平行線維性結合組織の形成促進剤としても有用である。
【0071】
本発明の靭帯損傷の治療剤IIは、PRELPまたはその発現ベクターに加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0072】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0073】
有効成分として、PRELPの発現ベクターを用いる場合、核酸の細胞内への導入を促進するために、本発明の靭帯損傷の治療剤IIは更に核酸導入用試薬を含むことができる。また、核酸導入試薬としては、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、リポフェクタミンRNAiMAX(LipofectamineRNAiMAX)、インビボフェクタミン(Invivofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。また、発現ベクターとしてレトロウイルスを用いる場合には、導入試薬としてレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。
【0074】
本発明の靭帯損傷の治療剤IIの投与単位形態としては、液剤、錠剤、丸剤、飲用液剤、散剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、エキス剤、細粒剤、シロップ剤、浸剤、煎剤、点眼剤、トローチ剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、眼軟膏剤、硬膏剤、カプセル剤、坐剤、浣腸剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、貼付剤、軟膏剤、ゼリー剤、パスタ剤、吸入剤、クリーム剤、スプレー剤、点鼻剤、エアゾール剤などが例示される。
【0075】
治療剤(医薬組成物)中のPRELPまたはその発現ベクターの含有量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、例えば、医薬組成物全体の約0.01ないし100重量%である。
【0076】
本発明の靭帯損傷の治療剤IIは、その使用に際し各種形態に応じた方法で投与される。例えば、注射剤の場合には、靭帯損傷部位、関節腔内、静脈内、筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、外用剤の場合には、皮膚ないしは粘膜などの所要部位に直接噴霧、貼付または塗布され、錠剤、丸剤、飲用液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の場合には経口投与され、坐剤の場合には直腸内投与される。
【0077】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約2.0gである。
【0078】
本発明の靭帯損傷の治療剤IIは、通常、PRELPまたはその発現ベクターが、靭帯損傷部位(好ましくは、靭帯損傷部位に存在する間葉系幹細胞)に送達されるように、哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サル、ヒト)に対して安全に投与される。
【0079】
本発明の靭帯損傷の治療剤IIを投与すると、PRELPが靭帯損傷部位の間葉系幹細胞へ作用することにより、該靭帯損傷部位における平行線維性結合組織(例えば、靭帯)の形成が促進され、靭帯損傷治癒反応及び靭帯の再構築が促進される。
【0080】
本発明の靭帯損傷の治療剤IIに関する各用語の定義は、上述の「平行線維性結合組織の製造方法」、「組み合わせ物、キット」、「靭帯損傷の治療剤I」の項における各用語の定義と同一である。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0082】
[実施例1]
ヒトPRELP cDNAをクローニングした。クローニングしたPRELP cDNAをXhol処理し、pCAGGS発現ベクターのXholサイトに挿入した。発現ベクターがデザイン通りに構築されているか確認するために、構築後のベクターを制限酵素で消化し、電気泳動パターンを確認した。その結果、予想されたパターンの泳動図が確認された。また、挿入されたcDNA領域のシーケンス解析を行ったところ、目的とする配列(GENBANKアクセッション番号:EAW91481.1)と一致することを確認した。
【0083】
C3H/10T1/2−clone8マウス間葉系幹細胞(JCRB0003)を10%FBS含むBasal Medium Eagle(Wako)にて培養後、0.25% Trypsin and 0.02% EDTAにて剥離することを繰り返すことにより、継代増殖培養をおこなった。C3H/10T1/2−clone8マウス間葉系幹細胞を3.5mmシャーレ(BD)に70%コンフルエントとなるまで培養後、培養液を500μLに調整した。20mMTris−HCL(pH7.4)バッファー(DAKO)100μLに、pCAGGS−PRELPベクター2.0μgを加え、Multi Fectam(Promega)50.0μLを添加、混合後、室温にて30分間静置させ、Opti−MEM培養液(invitrogen)50μLを加え、混合後、室温にて5分静置させた。3.5mmウェル1枚に200μLのMulti Fectam、pCAGGS−PRELPプラスミドDNA複合体を加え、均一となるようにプレートを揺らし、37℃、5%CO
2にて4時間培養した。培地を、新しい培養液(10%FBS含むBasal Medium Eagle)に交換し、更に96時間培養後、上清中にPRELPタンパク質が発現していることをウエスタンブロットにて確認した(
図1)。2日に1度の頻度で、培養液を交換した。PuraMatrix培養開始前のpCAGGS−PRELPトランスフェクションしたC3H/10T1/2−clone8マウス間葉系幹細胞を
図2に示す。
【0084】
1週間後、シャーレに張り付いたC3H/10T1/2−clone8マウス間葉系幹細胞を0.25% Trypsin and 0.02% EDTAにて剥離し、遠心回収し、細胞ペレットを5.0×10
4個に調整し、20%スクロース溶液1mLにて洗浄し、超音波処理したPuraMatrix(BD)1mLを加え、素早く混合し、新たなウェル中で培養した。
【0085】
PuraMatrix中で培養を開始してから1日後において、線維状の形態を示した(
図3)。PuraMatrix中で培養を開始してから2日後には、ウェル全体が線維状の形態を示した(
図4)。
【0086】
顕微鏡観察の結果、膠原線維が一方向に並列配列した構造が確認された(
図3及び4)。電子顕微鏡下での観察でも同じ構造が確認された(
図5)。形成された線維組織をI型コラーゲンに対する抗体を用いて免疫組織染色した結果、I型コラーゲンの発現が確認された。以上の結果から、得られた線維状の組織は、靭帯等の平行線維性結合組織であることが示唆された。
【0087】
[実施例2]
実施例1と同様に、C3H/10T1/2マウス間葉系幹細胞に、pCAGGS−PRELPベクターをトランスフェクトした。得られたトランスフェクタントをAlexa Fluor 488標識抗I型コラーゲン抗体、Alexa Fluor 568ファロイジン、及びDAPIを用いた免疫染色に付した(
図6)。
【0088】
また、培養の結果、培養ディッシュから浮いた細胞において、線維状の形態が観察された(
図7)。靭帯様組織の厚さは15μm、細胞の厚さは30μmであった。Alexa Fluor 488標識抗PRELP抗体及びDAPIにより染色した。
【0089】
また、透過型電子顕微鏡により観察した結果、コラーゲン線維構造の存在が確認された(
図8)。
【0090】
[参考例1]
ヒト前十字靭帯(ACL)、ヒト後十字靭帯(PCL)、ヒトOPLL組織及びヒト腱におけるPRELPの発現を、リアルタイムPCR及びウェスタンブロッティングによりPRELPの発現を調べた。CBB染色をコントロールとして用いた。ACL、PCL及びOPLLにおいてPRELPの高発現が観察されなかったが、腱においてはPRELPの発現は低かった(
図9)。
【0091】
[実施例3]
実施例1と同様に、ヒト間葉系幹細胞及びマウス間葉系幹細胞にpCAGGS−PRELPベクターを導入し、培養することにより、靭帯様組織を形成させた。ELISA及びリアルタイムPCRによりI型コラーゲンの発現を調べた。
ELISAは、I型コラーゲン中の分解されたアテロペプチドからのアテロコラーゲンを測定できるEC1−E205を用いた。
リアルタイムPCRは、StepOnePlus real-time PCR systemを用いたTaqMan Gene Expression Assay kitにより実施した。TaqMan PCRに用いた配列は次の通り(sequences from mouse collagen, type I, alpha 1Col1a1: Mm00801666_g1; human collagen, type I, alpha 2: Hs00164099_m1; mouse 18S ribosomal RNA, hypothetical LOC790964: Mm03928990_g1; human eukaryotic 18S rRNA: Hs99999901_s1)。それぞれのサンプルについて、Mouse 18S ribosomal RNA及びhuman eukaryotic 18S rRNA mRNAをスタンダードとして用いて、マウスCol1a1(n=21)及びヒトCol1a1(n=24)を定量した。
その結果、いずれの方法においても、間葉系幹細胞よりも、誘導された靭帯様組織においてI型コラーゲンの発現が高いことが示された(
図10及び11)。
【0092】
[実施例4]
pCAGGS−PRELPベクターを導入したマウス間葉系幹細胞におけるPDGF及びMMP−13の発現に対する、PRELPを標的とするshRNAの効果を調べた。
PRELPを標的とするshRNAのために、4つの遺伝子断片をpRNAi/LV-RNAiベクター(Biosettia, Inc)にクローニングし、PRELP発現の抑制を確認した後、上清中のコラーゲン及びPDGF受容体発現を抑制した
sh-NM_054077 5′- AAAAGGATTAGGCGTAAACCCAATTGGATCCAATTGGGTTTACGCCTAATCC-3′(配列番号17)
を用いた。
shRNA-lacZ, AAAAGCAGTTATCTGGAAGATCAGGTTGGATCCAACCTGATCTTCCAGATAACTGC(配列番号18)、及び
sh-scramble, AAAAGCTACACTATCGAGCAATTTTGGATCCAAAATTGCTCGATAGTGTAGC(配列番号19)
をコントロールとして作った。トランスフェクションについては、過剰発現のためにLipofectamine 2000 (Life Technology)を製造者のプロトコールに従い用い、shRNAのためにGene Porter (Genlantis)を用いた。ベクターが均一に分散するようにプレートをゆすり、4時間、37℃、5% CO
2にて培養した。培養液を新鮮な培地に交換し、混合物をさらに96時間培養した。培養上清中のPRELP発現をウェスタンブロッティングにより確認し、培養液中の産物の分泌を2日毎に確認した。培養液は2日毎に交換した。7日後、細胞は靭帯線維様構造へと変換していた。
トランスフェクトした細胞はPuraMatrix Peptide Hydrogel中で培養し、24時間後にBioStation ID (GE Healthcare)で得た画像から、細胞が靭帯線維様構造に変換したことが確認された。
ELISAは、PDGF−AA(R&D systems)、MMP−13(GE Healthcare) 及びI型コラーゲン(ACEL, Japan)について行った。
その結果、PRELPを標的とするshRNA(shRNA−PRELP)の導入により、PDGF−AA、MMP−13及びI型コラーゲンの発現が抑制された(
図12及び13)。
【0093】
[実施例5]
実施例1と同様に、pCAGGS−PRELPベクターをヒト間葉系幹細胞へ導入することにより作成した靭帯様組織におけるI型コラーゲンの発現を、ウェスタンブロッティングにより、ヒトPCL組織、ヒトOPLL組織及びヒトACL組織と比較した。
PCL、OPLL、ACLと同様に、靭帯様組織はI型コラーゲンを発現していた(
図14)。
【0094】
[実施例6]
実施例1と同様にして作成した、マウス間葉系幹細胞由来の靭帯様組織におけるI型コラーゲン及び幹細胞マーカー(CD34)の発現を、マウス間葉系幹細胞と比較した。マウス間葉系幹細胞はCD34を高発現したが、pCAGGS−PRELPベクターを導入し、靭帯様組織に転換した後は、その発現は低下した。一方、I型コラーゲンの発現は、靭帯様組織に転換した後の方が高かった(
図15)。
【0095】
[実施例7]
PRELPトランスジェニックマウスの製造及びゲノタイピング
PRELP遺伝子(3.4kb)をpCAGGSのXhoIサイトにライゲートし、マイクロキャピラリー及び倒立顕微鏡を用いて、C57BL/6の受精卵の前核中に注入した。得られた新生マウスの尾組織から抽出したDNAをPCR増幅し、ゲノタイピングを行うことによりトランスジェニックマウスが製造されたことを確認した。
【0096】
PRELP遺伝子は、ホスホロアミダイト法を用いて合成し、pCAGGS−XhoIのXhoIサイトにライゲートした。発現ベクターをXho−Iで消化し、電気泳動パターンを確認した。挿入されたcDNA領域の配列が、意図した配列(GenBank accession number: EAW91481.1)と一致することを確認した。得られた20匹の新生マウスから尾組織の切片を切り出し、DNA Mini Kit (Qiagen)により、DNAを抽出した。以下のプライマーセットを用いて、PCRを行い、試料が外来遺伝子を含むか否か決定した。
R5′-GTCGAGGGATCTCCATAAGAGAAGAGGGACA-3′(配列番号20)
F5′-GTCGACATTGATTATTGACTAGTTATTAATAGTAATC-3′(配列番号21)
以下のPCR条件を用いた:94℃を2分間、98℃を10秒、及び68℃を4分間を30サイクル。
【0097】
骨格サンプル
トランスジェニックマウス及び野生型の同腹仔を70%エタノールで固定し、皮膚及び内組織を分離した。マウスを更に2日間70%エタノールで固定した。99.5%エタノール中で2日間脱水を行った。マウスを、アルシアンブルーを0.05%の最終濃度で含む染色溶液である、alcian blue 8GX (JANSSEN、40%酢酸及び60%エタノール 容量比)中で37℃にて55時間インキュベートした。マウスを、99.5%エタノール中に、室温にて2日間、浸漬し、次に2%水酸化カリウム中に、室温にて24時間、透明になるまで浸漬した。アリザリンレッドを0.005%の最終濃度で含む染色溶液であるalizarin red S (Kodak, C1051) 1% KOH中で、室温にて4時間インキュベートし、次に脱色液(1% KOH、20% グリセロール)中に、室温にて一晩浸漬した。マウスは保存液(50%エタノール及び50%グリセロール)中で保存した。エタノール、酢酸、グリセロール、及び水酸化カリウムの高級試薬は岸田化学から購入した。
【0098】
アルシアンブルー及びアリザリンレッドで染色した4週齢マウスの骨格標本を
図16A(野生型)及びB(PRELP Tg)に示す。
【0099】
三次元計算断層撮影骨密度解析
トランスジェニックマウスを吸入麻酔している間に、骨密度及び骨ミネラル密度計測を、3D微計算断層撮影(Rigaku)を用いて行い、RATOCソフトウェア(RATOC System Engineering)により解析した。ファントム(S/N: 1101-52)を、コントロールとして用いた。骨密度解析を大腿骨の3D−CTを行うことにより実施したが、野生型マウスとPRELPトランスジェニックマウスとの間に、BMD、BMC及びTVの差は認められなかった。トランスジェニックマウスからの骨格サンプルについては、骨組織の変化は観察されなかった(
図17)。
【0100】
靭帯組織の解析
本発明者らは、PRELP遺伝子トランスジェニックマウスを作出した(n=4)。脊髄靭帯、膝靭帯、歯周靭帯、及び皮膚組織の画像から、PRELP遺伝子トランスジェニックマウスにおいては、対応する野生型マウスからの組織よりも、より完全な靭帯であることが明らかとなった(
図18)。ウサギ抗PRELP抗体(Sigma Aldrich; SAB1100370)を一次抗体、Alexa Fluor 488標識ヤギ抗ウサギIgG抗体を二次抗体として用いた免疫組織染色を行った。DAPIを核染色に用いた。染色後、組織をCSLM(Olympus FluoView FV 1000-D)下で観察した。
【0101】
靭帯ストレッチング解析
トランスジェニックマウス及び野生型マウスからの脊髄靭帯組織をSTB-CH-10ストレッチングシステム(Strex Inc)を用いて、固定負荷条件下で伸ばし、三分の一、二分の一、及び完全に靭帯断裂するまでの時間を計測した。靭帯断裂までの時間は、野生型マウスの靭帯線維よりも、トランスジェニックの方が長く、トランスジェニックマウスの靭帯組織の方がより強かった(
図19)。
【0102】
トランスジェニックマウス及び野生型マウスの血中及び尿中I型コラーゲン及びMMP−13
血液及び尿解析の結果、血液中のI型コラーゲンの量はトランスジェニックマウスと野生型マウスとで同等であることが判明した。しかしながら、トランスジェニックマウスの尿においてアテロコラーゲン濃度が高かった(
図20)。この結果から、PRELPの過剰発現により、I型コラーゲンの高発現が生じ、尿への排泄が増えたことが示唆された。また、MMP−13の濃度は、血中及び尿中とも、トランスジェニックマウスの方が高かった(
図20)。
【0103】
[実施例8]
骨性癒着及び靭帯再構築
靭帯は骨組織と連結し、骨−骨連結を形成するので、実施例1と同様の方法により製造されたマウス間葉系幹細胞由来靭帯様組織をヒト骨芽細胞と組み合わせることにより、PRELP由来靭帯様組織の骨癒合を調べた。染色体蛍光染色により、ヒト染色体(ロダミン)とマウス染色体(FITC)との融合が示された(
図21)。核型分析により、マウス間葉系幹細胞由来靭帯組織がヒト骨芽細胞と融合したことが確認された。プローブとしては、ヒトCot-1 DNA(ジゴキシゲニン、ロダミンスペクトラムオレンジ標識)及びマウスCot-1 DNA(ビオチン、FITCスペクトラムグリーン標識)を用いた。セルサイクルの静止期(A)及び分裂中期(B)を示す(
図21)。
【0104】
ニワトリの靭帯と骨組織との間の癒着領域における、PRELP及びII型コラーゲンの発現を調べた。PRELP(Alexa Fluor 488)及びII型コラーゲン(Alexa Fluor 555)の蛍光染色により、PRELP発現は靭帯組織においてのみ生じ、靭帯組織と骨との間にII型コラーゲンが明確に発現することが示された(
図22)。
【0105】
ニワトリから前十字靭帯を摘出し、多数に切断した。pPyCAG-cHA-IpacflexEGFP-PRELPを含む培養液中で培養した後に、破壊された靭帯組織を元に戻した。修復された組織におけるGFP発現を蛍光顕微鏡により確認した(
図23)。1週間後、コラーゲン線維の連結が、アザン染色により観察された。修復後の新たな靭帯組織のGFP蛍光から、幹細胞がpPyCAG-cHA-IpacflexEGFP-PRELPを保持していることが明らかとなった(
図23左)。
【0106】
[参考例2]
アレイ−CGH
RNAをAllPrep DNA/RNA mini kit (Qiagen)を用いて抽出し、RNAの完全性を解析した(Agilent 2100 Bioanalyzer)。9.0以上の値の完全性を有するRNAをSuperscript VILO cDNA synthesis kit(Life Technologies)を用いて逆転写し、Agilent Human Genome Microarray Kit 244 K (Agilent Technologies)を用いてアレイ−CGHを実施した。アレイ−CGHプラットフォームは、それぞれ、メジアン長が7.4kb及び16.5kbのコーディング及びノンコーディングゲノム配列に及ぶ約244400個のプローブを含む、高解像度60merオリゴヌクレオチドベースのマイクロアレイである。標識化及びハイブリダイゼーションは、Agilentにより提供されたプロトコール(Protocol v4.0, June 2006)に従って実施した。アレイは、Agilent DNA microarray scannerを用いて解析した。マウス間葉系幹細胞、野生型マウスの靭帯組織、PRELPトランスジェニックマウスの靭帯組織、及びマウス間葉系幹細胞にPRELPを導入することにより調製した(実施例1)幹細胞由来靭帯組織について遺伝子発現を解析した。
【0107】
全ての遺伝子の解析結果から、細胞外マトリクスからの幹細胞と比較した場合の遺伝子発現の変化は、野生型マウスの靭帯組織、PRELPトランスジェニックマウスの靭帯組織、及び幹細胞由来靭帯組織との間で一致していることが示された(
図24及び25)。
【0108】
[参考例3]
PRELPタンパク質及び遺伝子相互作用
IPAソフトウェアを用いてRNA遺伝子発現及びPRELPタンパク質相互作用に基づき、新たなパスウェイの解析を行った。これらのネットワークは機能的及び遺伝子的関連を明らかにする。IPAツールは、公知の生物学的パスウェイとのつながりを示さなかった。この試験から、PRELPと有意に関連する新たなネットワークの可能性が明らかとなった(
図26)。
【0109】
[実施例9]
PRELPの発現ルート
マウス間葉系幹細胞をZnCl
2で処理すると、高いNF-κB-p65発現を示したが、LY294002の影響はほとんど無かった。*P < 0.001, n = 4(
図27A)。PRELP遺伝子を導入したマウス間葉系幹細胞に10 ng/mLのTNF−αを加えると、24時間後に靭帯様組織が現れた。10 ng/mLのTNF−α及びLY294002を加えても、同様に靭帯様組織への転換が生じた(
図27B)。NFκB(Alexa Fluor 555)及びPRELP(Alexa Fluor 350)について、免疫蛍光組織染色を実施した。TNF-αを加えて3時間後、細胞内ERの境界が画定し(
図27C)、6時間後、PRELPタンパク質発現が、ER内で確認され(
図27D)、12時間後に、線維状への転換が生じ、PRELP発現が確認された(
図27E)。NfκB発現があるので、PRELPは30 μm/mL ZnCl
2により影響される核内転写因子として機能することが示唆された。PRELP遺伝子を導入したマウス間葉系幹細胞に、10 μM, 30 μM, 及び50 μMのZnCl
2を加えたときのNFκB p65(Alexa Fluor 488)及びDAPI蛍光イメージを
図27F、G及びHに示す。PRELP遺伝子を導入したマウス間葉系幹細胞に10 ng/mL TNF-αを加えて12時間後に靭帯様組織が現れ(I)、30 μMのZnCl
2を加えた場合にも、同様の靭帯様組織への転換が生じた(J)。
【0110】
[参考例4]
pCAGGS−PRELPを導入したヒト間葉系幹細胞に由来する靭帯様組織におけるNF-kBIA、MEKK3、TAK-1及びTRAF6遺伝子発現をリアルタイムPCRにより解析した。これらの遺伝子の発現は、30 μM ZnCl
2、TNF-αにより上昇した(
図28)。
【0111】
ヒト間葉系幹細胞にPRELPを導入後、ZnCl
2及びLY294002(PI3 キナーゼ阻害剤)を加え、ELISAによりNF-κB-p65、-p52、-p50、及びc-Relを測定した。シグナル伝達経路研究のためNfκB family Transcription factor assay kit (Active Motif, Inc., USA)を用い、抗PRELP抗体及び抗NF-κB-p65抗体によるウェスタンブロッティングを用いた。CBB染色をコントロールとして用いた。ZnCl
2により上昇したNF-κB-p65、-p52、-p50、及びc-Relの発現は、LY294002によりキャンセルされなかった(
図29)。
【0112】
TNF-αによりPRELPを発現したヒト間葉系幹細胞におけるTAK1、TRAF6、MEKK3、及びNFκB p65発現を、ウェスタンブロッティングにより解析した。PRELPを導入し、TNF−αで処理した幹細胞はTRAF6、MEKK3及びNFκB p65を発現した。PRELPのウェスタンブロッティングにより、コントロールsh-Lac Z及びsh-scrambleで処理した細胞にはPRELPタンパク質が存在し、shRNA-PRELPにより速やかにPRELPがノックダウンされることが確認された(
図30)。
【0113】
[実施例10]
実施例1と同様に、PRELPを導入したマウス間葉系幹細胞から靭帯様組織を製造した。これを破壊された歯周ポケットに移植すると、歯周ポケットが再建された(
図31)。