(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の周波数特性を有する第1の駆動信号と、第2の周波数特性を有する第2の駆動信号との加算駆動信号を形成し、該加算駆動信号を超音波信号に変換し、該超音波信号を被測定媒体内に向けて送信し、上記被測定媒体内に、上記加算駆動信号の第1の駆動信号成分によって発生する第1の超音波信号、及び該加算駆動信号の第2の駆動信号成分によって発生する第2の超音波信号の伝搬とともに周波数が100kHz程度のパラメトリック超音波信号を発生させて伝搬させる超音波送信手段と、
多孔質ポリプロピレン樹脂によって形成された膜状又は薄板状の圧電振動子を含み、上記被測定媒体内を伝搬するパラメトリック超音波信号を受信し、パラメトリック受信信号に変換する超音波受信手段と、
上記パラメトリック受信信号から基本波成分を除去する基本波成分除去手段と、
上記基本波成分が除去されたパラメトリック受信信号の超音波伝搬方向の空間分解能を改善させる空間分解能改善手段と、
上記空間分解能が改善されたパラメトリック受信信号に基づいて超音波画像を形成する信号処理手段とを備える超音波診断装置。
上記超音波受信手段は、上記膜状圧電振動子による電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプ手段と、該チャージアンプ手段からの電圧信号からノイズを除去するフィルタ手段とを有することを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
上記空間分解能改善手段は、参照信号を生成する参照信号生成手段と、上記パラメトリック受信信号と該参照信号とを演算する演算手段とを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
上記位相検出手段は、上記パラメトリック受信信号に、該パラメトリック受信信号と同じ周波数を有する参照信号を乗算する乗算器と、該乗算された信号の位相を検波する位相検波手段と、該位相検波手段から出力された信号を処理する低域通過フィルタ手段とを含むことを特徴とした請求項7記載の超音波診断装置。
上記基本波成分除去手段は、上記第1の駆動信号及び第2の駆動信号を加算することにより形成された第1の加算駆動信号と、該第1の加算駆動信号の位相を反転した第2の加算駆動信号とを、上記超音波送信手段によって順次送信し、上記被測定媒体を介して順次受信された、該第1の加算駆動信号に対応した第1のパラメトリック受信信号と、該第2の加算駆動信号に対応した第2のパラメトリック受信信号とを同位相で加算することによって、基本波成分を除去することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
第1の周波数特性を有する第1の駆動信号と、第2の周波数特性を有する第2の駆動信号との加算駆動信号を形成し、該加算駆動信号を超音波信号に変換し、該超音波信号を被測定媒体内に向けて送信し、上記被測定媒体内に、上記加算駆動信号の第1の駆動信号成分によって発生する第1の超音波信号、及び該加算駆動信号の第2の駆動信号成分によって発生する第2の超音波信号の伝搬とともに周波数が100kHz程度のパラメトリック超音波信号を発生させて伝搬させる超音波送信手段と、
多孔質ポリプロピレン樹脂によって形成された膜状又は薄板状の圧電振動子を含み、上記被測定媒体内を伝搬するパラメトリック超音波信号を受信し、パラメトリック受信信号に変換する超音波受信手段と、
上記受信されたパラメトリック受信信号を無線信号に変換し送信する無線送信インタフェース手段と、該送信された無線信号を受信し有線受信信号に変換する無線受信通信インタフェース手段とを有する無線通信インタフェース手段と、
上記変換されたパラメトリック受信信号から基本波成分を除去する基本波成分除去手段と、
上記基本波成分が除去されたパラメトリック受信信号の超音波伝搬方向の空間分解能を改善させる空間分解能改善手段と、
上記空間分解能が改善されたパラメトリック受信信号に基づいて超音波画像を形成する信号処理手段とを備える超音波診断装置。
上記無線インタフェースは、上記超音波受信手段に接続され、所定の周波数によって該超音波受信手段から出力される信号で発振する発振回路と、該発振回路の出力信号を送信する送信アンテナと、該送信アンテナから送信されてきた信号を受信する受信アンテナと、該受信アンテナから伝送される受信信号を復調して上記空間分解能改善手段に供給する復調回路とを含むことを特徴とする請求項11記載の超音波診断装置。
上記超音波受信手段は、静電容量型超音波振動子であり、該静電容量型超音波振動子が有する静電容量と直流抵抗又は共振コイルとで決まる周波数の発振信号を生成する発振回路と、該発振回路で生成される信号を無線信号として送信するアンテナ回路と、該発振回路及びアンテナ回路に電力を供給する電源端子とを有することを特徴とする請求項11記載の超音波診断装置。
上記無線通信インタフェースは、上記パラメトリック受信信号を、アナログ−デジタル変換するA/D変換手段と、該A/D変換手段によってデジタル化されたパラメトリック受信信号を無線送信する送信アンテナと、該送信アンテナによって送信された信号を受信する受信アンテナと、該受信アンテナによって受信されたデジタル符号化された該パラメトリック受信信号をアナログ信号に変換する復号手段とを含むことを特徴とする請求項11記載の超音波診断装置。
音波送信手段が、第1の周波数特性を有する第1の駆動信号と、第2の周波数特性を有する第2の駆動信号との加算駆動信号を形成し、該加算駆動信号を超音波信号に変換し、該超音波信号を被測定媒体内に向けて送信するステップと、
多孔質ポリプロピレン樹脂によって形成された膜状又は薄板状の圧電振動子を含む超音波受信手段が、上記加算駆動信号の第1の駆動信号成分によって発生する第1の超音波信号、及び該加算駆動信号の第2の駆動信号成分によって発生する第2の超音波信号の伝搬とともに上記被測定媒体内に発生して伝搬する周波数が100kHz程度のパラメトリック超音波信号を受信し、パラメトリック受信信号に変換するステップと、
基本波成分除去手段が、上記パラメトリック受信信号から基本波成分を除去するステップと、
空間分解能改善手段が、上記基本波成分が除去されたパラメトリック受信信号の超音波伝搬方向の空間分解能を改善させるステップと、
信号処理手段が、上記空間分解能が改善されたパラメトリック受信信号に基づいて超音波画像を形成するステップとを有する超音波診断装置の作動方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は、以下の順序で説明する。
【0021】
1.第1の実施の形態における超音波診断装置の構成例
1−1.超音波診断装置の構成例
1−2.超音波トランスデューサの構成例
1−3.超音波受信用の圧電振動子
1−4.受信回路の構成例
1−5.信号処理回路の構成例
2.超音波診断装置の動作原理及び動作
2−1.パラメトリック超音波信号の特長
2−2.超音波診断装置の動作
2−3.パルス圧縮技術
3.第2の実施の形態における超音波診断装置の構成例
4.第3の実施の形態における超音波診断装置の構成例
5.第4の実施の形態における超音波診断装置の構成例
【0022】
1.第1の実施の形態における超音波診断装置の構成例
1−1.超音波診断装置の構成例
本発明が適用された超音波診断装置101Aは、
図1に示すように、超音波を発生する信号発生回路3と、生成された超音波を生体組織5内に送信するリング状圧電振動子2と、生体組織5内の異常組織6等からの超音波の反射を受信する円板状圧電振動子7とを備える。また、超音波診断装置101Aは、円板状圧電振動子7で受信した超音波信号の受信処理をする受信回路9と、受信回路9によって受信処理された超音波信号の基本波成分を除去する信号処理回路12と、参照信号発生回路11により生成された参照信号と信号処理回路12から出力される信号との相互相関処理を行う乗算回路10とを備える。また、超音波診断装置101Aは、生体組織5内に送信する超音波の位置を特定するために、超音波トランスデューサ1の位置を特定し、その位置特定信号を生成する位置特定センサ30と、位置特定センサ30の位置情報データ及び乗算回路10の演算結果データを処理して超音波画像を構成する画像信号を生成する画像処理回路13とを備える。好ましくは、画像処理回路13の画像信号データを入力して画像を表示するディスプレイ14を備える。
【0023】
リング状圧電振動子2と円板状圧電振動子7とは、好ましくは、同一ハウジング内に一体化されて超音波トランスデューサ1を構成し、超音波トランスデューサ1は、より好ましくは、受信回路9と一体とされてプローブの主要部をなす。
【0024】
信号発生回路3は、第1の周波数f
1の第1の超音波信号S
1を生成する第1の超音波信号発生部3Aと、第2の周波数f
2の第2の超音波信号S
2を生成する第2の超音波信号発生部3Bと、第1及び第2の超音波信号S
1,S
2の加算信号を生成する加算器3Cとを有する。第1及び第2の超音波信号S
1,S
2は、後述するように、好ましくは、所定のインタバル周期を有し、開始周波数及び終了周波数とも周波数が相違するチャープ信号である。また、信号発生回路3は、駆動回路において、第1及び第2の超音波S
1,S
2を加算器3Cによって加算して、加算信号S
+=S
1+S
2を生成し、加算信号S
+とは位相が180°異なる反転信号S
−=−(S
1+S
2)を生成して、駆動回路3Dによって、それぞれ所定の電圧増幅を行った後、送信用の圧電振動子であるリング状圧電振動子2を駆動する。
【0025】
受信回路9は、生体組織内を伝搬してきたパラメトリック超音波信号を受信する円板状圧電振動子7により変換された圧電信号を、インピーダンス変換し、増幅して後段回路に渡す。
【0026】
信号処理回路12は、受信回路9によって受信され受信処理されたパラメトリック超音波信号のうち基本波成分を除去し、差周波数成分のみを抽出する。
【0027】
乗算回路10は、参照信号発生回路11とともに、基本波成分が除去されたパラメトリック超音波信号の相互相関処理を行うことによって、パルス圧縮を行い、超音波伝搬方向の分解能を改善させる。
【0028】
位置特定センサ30は、超音波トランスデューサ1が含まれるプローブ内に配設され、超音波トランスデューサ1の生体組織5上の位置を特定する情報を取得し、位置特定情報データを画像処理回路13に送る。位置特定センサ30は、たとえば磁気センサを用いて構成される。
【0029】
画像処理回路13は、伝搬方向の空間分解能が改善された超音波信号データと、位置特定センサ30によって生成された位置情報信号データとを入力して、画像表示するための画像信号を生成し、この画像信号にしたがって超音波画像データを生成する。画像処理回路13は、たとえば、スキャンコンバータにより実現される。なお、画像処理回路13から出力される超音波画像データを、上述のように、ディスプレイ14で動画、静止画として表示してもよいが、データを加工し、あるいはそのまま他の媒体、たとえば外部記憶装置に記憶させたり、プリンタで印刷出力するようにしてもよいし、音や振動の五感に訴える信号に変換して人に対して呈示することでも良いのは言うまでもない。
【0030】
1−2.超音波トランスデューサの構成例
超音波トランスデューサは、超音波送信用トランスデューサと超音波受信用トランスデューサとを別々に準備して構成してもよいが、利用の簡便さと性能の向上のためにこれらを一体として構成することが好ましい。
【0031】
図2に示すように、超音波トランスデューサ1は、送信用トランスデューサとしてのリング状圧電振動子2と、受信用トランスデューサとしての円板状圧電振動子7とを一体として備えている。
図2(A)は、一体型の超音波トランスデューサの側断面図であり、
図2(B)は、接地電極17を超音波トランスデューサ1のほぼ全面を覆うように成形した場合(全面電極共通型)の正面図であり、
図2(C)は、接地電極を、リング状圧電振動子2の接地電極27と、円板状圧電振動子7の接地電極28とに分離して形成し、超音波トランスデューサ組立時に、接続導通配線4A,4B,4Cにより接続した場合(電極分割型)の正面図である。
【0032】
図2(A)に示すように、超音波トランスデューサ1は、リング状圧電振動子2と円板状圧電振動子7とを有しており、リング状圧電振動子2のリング内部に、間隙29を設けて円板状圧電振動子7が配設される。リング状圧電振動子2及び円板状圧電振動子7の一方の面は、それぞれ接地電極17に接続され、金属製のハウジング15に内部接地配線23及び外部接地配線26を介して、回路の接地電位に接続される。
【0033】
円板状圧電振動子7には、後述するように、100kHz程度の比較的低い周波数領域でも薄型化、軽量化をはかることが可能な多孔質ポリプロピレン(以下、「セルラーPP」ともいう。)を用いるが、セルラーPPは、PZT等の圧電振動子に比べると、弾性率が格段に低いので、バッキング層として金属を用いることが好ましい。そこで、円板状圧電振動子7の接地電極17に接続された面とは反対側の面に、間隙29を設けて金属バッキング板16を配設する。金属バッキング板16は、円板状圧電振動子7を所定の位置に安定して固定する押圧部材の役割も兼ねる。
【0034】
円板状圧電振動子7は、金属バッキング板16の円板状圧電振動子7が接続された面とは反対側の面から接続内部配線25及び外部回路接続用のコネクタ20を介して外部回路に接続される。リング状圧電振動子2は、リング状圧電振動子2の接地電極17が接続された面とは反対型の面に接続用電極18が接続され、接続内部配線24及びコネクタ19を介して外部回路に接続される。
【0035】
上述のように構成された圧電振動子は、外部環境からの保護のためにハウジング15に収納される。このような一体とされた超音波トランスデューサ1によって小型かつ軽量化されたプローブを実現することができる。なお、超音波トランスデューサ1の正面形状は、
図2(B)及び
図2(C)に示すように、円形状であることが、超音波の放射効率等の観点から好ましいが、円形状に限らず、楕円形状や、方形状、あるいは他の形状であってもよい。
【0036】
1−3.超音波受信用の圧電振動子
本発明が適用された超音波診断装置で用いられるパラメトリック超音波の周波数は、100kHz程度なので、円板状圧電振動子7にコンポジットタイプの圧電体を用いても、厚さが非常に厚くなり、小型化、軽量化が困難である。そこで、低周波でも薄型化が可能な圧電振動子が必要となる。このような薄型化が可能な圧電材料として、多孔質ポリプロピレン(セルラーPP)がある。
【0037】
セルラーPPは、
図3(A)に示すように、ポリプロピレン樹脂34を基材とする発泡性樹脂材料である。ポリプロピレン樹脂34の内部には、多数のセル35(気泡、気孔)が形成されている。このような厚さtの膜状あるいは薄板状のポリプロピレン樹脂34の両面に金属電極32,33を形成し、電極面に対して垂直方向に振動を与えると、
図3(B)及び
図3(C)に示すように、セルの表面に電荷が誘起される。金属電極32,33に外部回路を接続することによって、振動による変位に応じた電位変動が発生するので、セルラーPPは、圧電振動子として機能させることができる。
【0038】
このようなセルラーPPは、既存の圧電材料に対して有利な特性を有する。たとえば、
図4に示すように、一般的なピエゾ振動子PZT−5では、電圧出力定数g
33が0.011Vm/N、強誘電性ポリマPVDF(ポリフッ化ビニリデン、PolyVinylidene DiFluoride)でも0.2Vm/Nであるのに対して、セルラーPPでは、60〜180Vm/Nと桁違いに大きい。また、圧電歪係数d
33も、PZT−5では、171pC/N、PVDFでは、20pC/Nであるのに対し、セルラーPPでは、400〜1200pC/Nと格段に大きい。したがって、セルラーPPは、より効率よく圧電出力を生成することができる。また、セルラーPPは、樹脂であるため軟らかく、弾性率の大きい他の圧電材料に比べて、同じ厚さの場合には、より低い共振周波数を有する。よって、本発明の超音波診断装置に用いられる比較的低周波のパラメトリック超音波を受信するのに適しているといえる。さらに100kHz付近で共振するように厚さを適切に選定することによって、他の周波数成分を除外するフィルタ効果を期待することもできる。セルラーPPは、発泡性の樹脂であるため、密度が他の圧電性材料に比べて低く(ρ=330kg/m
3、PZT−5では7500kg/m
3等)、小型化とともに、軽量化にも資することができる。なお、本発明の超音波診断装置においては、上述のような圧電振動子に限らず、PZT、PVDF等バルクタイプの圧電素子を用いることができるのは言うまでもない。
【0039】
1−4.受信回路の構成
円板状圧電振動子7によって受信されたパラメトリック超音波は、受信回路9に入力される。以下に限るものではないが、受信回路9は、
図5に示すように、円板状圧電振動子7の出力に電気的に接続されるチャージアンプ回路9Aと、チャージアンプ回路9Aの出力に接続されるフィルタ回路9Bとを有する。
【0040】
チャージアンプ回路9Aは、その入力が外部接続配線22及びコネクタ20を介して円板状圧電振動子7に電気的に接続される。圧電振動子の出力インピーダンスは非常に高いので、高入力インピーダンス増幅器を用いてインピーダンス変換を行う必要がある。そこで、インピーダンス変換機能も併せ持つチャージアンプ回路9Aを、受信回路9のフロントエンドに用いるのが好ましい。チャージアンプ回路9Aを用いることによって、電荷信号を電圧信号変換されたパラメトリック超音波信号を得ることができる。ここで、パラメトリック超音波信号には、圧電振動子の機械的寄生振動等による不要なノイズが重畳しており、精密な測定の妨げになるためノイズ除去用にフィルタ回路9Bを用いるのが好ましい。不要なノイズが除去された電圧信号に変換されたパラメトリック超音波信号は、チャージアンプ回路9Aの増幅機能によって増幅され、安定した信号を後段の信号処理回路12に送ることができるようになる。
【0041】
受信回路9は、回路機能ブロックとして、他の信号処理回路等と同一筐体に搭載するようにしてもよいが、上述したように、受信されて出力される超音波信号は、微小かつ外来ノイズ等に弱いため、超音波トランスデューサ1のハウジングに実装してプローブとして一体として構成するのが好ましい。
【0042】
1−5.信号処理回路の構成
円板状圧電振動子7によって受信されたパラメトリック超音波は、受信回路9において上述の受信処理がされた後、信号処理回路12に入力される。後述するように、受信されるパラメトリック超音波の非線形周波数成分は、基本波成分に比べて、40dB以上も音圧レベルが低いので、非線形周波数成分を抽出するために基本波成分を除去する必要がある。そこで、信号処理回路12は、受信され受信処理されたパラメトリック受信信号の基本波成分及び不要な高次の高調波成分を除去するために用いられる。
【0043】
信号処理回路12は、
図6に示すように、受信回路9の出力に接続される記憶回路12Aと、記憶回路12Aの出力に接続される帯域通過フィルタ12Bとを有する。記憶回路12Aに入力されるパルス信号を検出するようにダブルパルス検出回路12Cが接続され、ダブルパルス検出回路12Cは、ダブルパルスを検出してリセット信号を発生し、記憶回路12Aにリセット信号を入力する。第1及び第2の超音波信号S
1,S
2の加算信号S
+に対する受信加算信号R
+と、S
+とは位相が180°異なるS
+から一定の遅延時間をもって生成される反転信号S
−に対する受信反転信号R
−が記憶回路12Aに入力される。R
+に続いて、R
−が記憶回路12Aに入力されると、ダブルパルス検出回路12Cは、ダブルパルスを検出し、リセット信号を発生する。
【0044】
たとえば、ダブルパルス検出回路12Cは、受信回路9から出力され信号処理回路12に入力される信号を包絡線検波する機能を備えており、この機能によって得られた信号波形が、2つの包絡線パルスからなるダブルパルスの場合に、記憶回路12Aにリセット信号を返し、記憶回路12Aの記憶情報がリセットされる。一方、記憶回路12Aは、A/D変換の機能と、2つの受信パルスのうち、1つめの受信パルスR
+を入力した時にはR
+波形を記憶し、2つめの受信パルスR
−を入力した時には記憶したR
+を読み出し、これらの位相をそろえて加算する。
【0045】
図7は、パラメトリック受信信号の基本波成分を除去する信号処理回路12の機能ブロックを含めた信号の流れを示すシグナルフロー図である。信号処理回路12は、信号発生回路3によって生成された、第1の周波数f
1(=ω
1/2π)の第1の超音波信号S
1と、第2の周波数f
2(=ω
2/2π)の第2の超音波信号S
2との加算信号S
+=S
1+S
2、及びこの加算信号の反転信号S
−=−(S
1+S
2)が生体組織5内を伝搬し、異常組織6等で反射された超音波信号を受信し、受信回路9によって受信処理されたパラメトリック超音波の受信信号R
+,R
−が入力される。反転信号S
−は、加算信号S
+から、一定の遅延時間だけ遅れて送信される。したがって、R
−もR
+から同じ遅延時間t
DLYだけ遅れて受信される。ここで、加算信号S
+に基づく受信信号R
+、反転信号S
−に基づく受信信号R
−は、それぞれ以下のように表わされる。
【0046】
R
+=S
++αS
+2,R
−=S
−+αS
−2
【0047】
このように、生体組織5内を伝搬する超音波には、非線形成分S
+2,S
−2が含まれる。そこで、上述のようにしてR
+とR
−とを加算すると、基本波成分S
+,S
−が打ち消されて非線形項αS
+2,αS
−2のみを残すことができる。なお、S
+とS
−とは互いに位相が反転しているだけの信号であり、2乗することによって、S
+2=S
−2の関係になり、加算することによって、振幅が2倍になることは言うまでもない。
【0048】
信号処理回路12から出力されるパラメトリック受信信号R=R
++R
−は、
図7に示すように、
【0049】
R
++R
−=2α+2αCOS(ω
1−ω
2)t
2
−α{cos(2ω
1)t+cos(2ω
2)t+2cos(ω
1+ω
2)t
2
+・・・}
【0050】
となり、基本波成分ω
1(=2π・f
1)、ω
2(=2π・f
2)を有した信号が除去される。
【0051】
帯域通過フィルタ12Bの中心周波数は、「差音」成分2αCOS(ω
1−ω
2)t
2を抽出できる周波数に設定されている。よって、帯域通過フィルタ12Bを通過した超音波信号は、基本波成分の高調波や非線形成分の高調波等も除去され、「差音」の周波数成分のみの信号を取り出すことができる。
【0052】
2.超音波診断装置の動作原理及び動作
2−1.パラメトリック超音波信号の特長
図8(A)及び
図8(B)は、水中を伝搬する超音波の音圧レベルと伝搬方向に沿った伝搬距離(以下、伝搬軸方向距離という。)との関係をシミュレーションによって計算したグラフである。超音波の伝搬媒体を水中としたのは、超音波診断装置において測定対象とする生体組織5と伝搬特性が類似するからである。
図8(A)は、0.95MHz(黒丸、実線)と1.05MHz(白丸、破線)の基本周波数を有する超音波を水中で伝搬させた場合をそれぞれ計算してプロットしたグラフである。これより、伝搬軸方向距離が長くなるにしたがって、音圧レベルが減衰することが示される。
図8(B)は、100kHzの周波数を有するパラメトリック超音波を水中に伝搬させた場合を計算してプロットしたグラフである。これより、伝搬軸方向距離が長くなっても、音圧レベルがほとんど減衰しないことが示される。
【0053】
図8(C)及び
図8(D)は、超音波の伝搬方向に垂直な方向、すなわち超音波ビームの幅方向の距離(以下、ビーム幅方向距離という。)に対する超音波音圧レベルをシミュレーションによって計算したグラフである。
図8(C)に示すように、基本周波数0.95MHz、1.05MHzの超音波の基本波を水中で伝搬させた場合には、中心のピークに近接するサイドローブが発生しており、コントラスト分解能に関与するスペックルノイズが多くなることが示唆される。これに対して、
図8(D)に示すように、100kHzのパラメトリック超音波を水中に伝搬させた場合には、サイドローブの発生がなく、かつ、横方向分解能に寄与するビーム幅が、
図8(D)の一点鎖線で示した100kHzの基本波の超音波を水中に伝搬させた場合に比較してはるかに小さくなることを示している。
【0054】
このように、100kHz程度のパラメトリック超音波を用いることによって、超音波伝搬軸方向に沿って、すなわち生体組織内の深さ方向に対して超音波信号の分解能を上げて測定をすることができ、また同時に、コントラスト分解能に関係するサイドローブレベルが小さく、横方向分解能に影響するビーム幅も同じ周波数の基本波に比べはるかに良好であり、その結果、空間分解能と、コントラスト分解能に優れた超音波画像が得られることが示される。
【0055】
2−2.超音波診断装置の動作
上述のようなパラメトリック超音波を生成するために、
図9(A)及び
図9(B)に示すように、信号発生回路3によって2つの超音波信号S
1,S
2を発生する。2つの超音波信号S
1,S
2は、第1の周波数f
1を開始周波数とし、f
1+Δf
1を終了周波数とする第1のチャープ信号S
1と、第2の周波数f
2を開始周波数とし、f
2+Δf
2を終了周波数とする第2のチャープ信号S
2である。なお、これらのチャープ波は、図示されるように、所定のパルス幅Tと特定の周期をもって反復される。
【0056】
信号発生回路3によって、生成された第1及び第2のチャープ信号S
1,S
2は、加算され、増幅されてリング状圧電振動子2を駆動する。リング状圧電振動子2によって送信された第1及び第2のチャープ信号S
1,S
2の加算信号S
+は、生体組織5内をパラメトリック超音波として伝搬し、異常組織6等で反射される。なお、基本波成分除去動作のために、上述したように、加算信号S
+とは180°位相の異なる反転信号S
−を生成して、S
+との加算をする処理を行う必要があるが、簡単のために以下の説明では、加算信号S
+に基づく信号処理の部分のみを取り出して説明することにする。
【0057】
図9(C)は、上述した信号処理回路12によって基本波成分等が除去され、差周波数成分が抽出されたパラメトリック受信信号R
paraの概略波形を示す。
図9(C)に示すように、受信され、波形処理されたパラメトリック受信信号R
paraは、開始周波数|f
1−f
2|、終了周波数|f
1−f
2|+|Δf
1−Δf
2|の周波数成分を有する。概略的に示されているように、パラメトリック受信信号は、メインピーク値に対してサブピーク値、すなわち時間軸サイドローブレベルが大きく、時間分解能、すなわち超音波伝搬軸方向分解能が低いので、これを改善させる必要がある。
【0058】
図9(D)は、参照信号発生回路11によって生成され出力される参照信号S
refの波形である。パラメトリック受信信号R
paraと参照信号S
refとの相互相関処理を行うことによって、
図9(E)に示すようなメインピーク値V
m1に対してサブピーク値V
si(iは正の整数)を持つSinc関数波形形状のパルス圧縮波形が得られる。このパルス圧縮波形は小さな半値幅のメインピークV
m1とその両側に、時間軸サイドローブV
s2、V
s3等を伴っている。もし、この時間軸サイドローブV
s2、V
s3等のピークレベルが、メインピークV
m1のピーク値の1/10以下であれば、この圧縮パルスのパルス幅はメインピークV
m1の半値幅τ
paraに等しくなり、この半値幅τ
paraを狭めることによって超音波伝搬軸方向分解能を改善させる。パルス圧縮技術の詳細については、後述するが、パラメトリック受信信号R
paraの周波数と一致した周波数を有する参照信号S
refと、パラメトリック受信信号R
paraを乗算回路10によって乗算することによって相互相関をとり、パルス圧縮を行う。パルス圧縮によって、
図9(E)に概略的に示すように、パルス圧縮信号R
compの波形は、片側の極性において鋭いピークを有し、他方の側の極性において丸みを帯びた非線形信号独特の形状を呈する。実際には、メインピーク波V
m1に相当する波形を有効に抽出するために、パラメトリック超音波を受信した段階で、あるいは、乗算回路10で相互相関をとった後に、不要な周波数成分を除去する回路を挿入することが好ましい。
【0059】
2−3.パルス圧縮技術
図1及び
図9に示すように、パラメトリック受信信号R
paraと、参照信号S
refとの相互相関をとることによって、パルス幅(あるいは半値幅)τ
comp(=τ
para)がより狭く、ピーク電圧Vpが高い信号波形を生成することを、パルス圧縮技術という。十分パルス圧縮された信号波形が得られれば、より高い分解能を有する超音波画像信号データが得られる。
【0060】
以下、
図1の構成にしたがって、パルス圧縮技術の原理について説明する。
【0061】
信号発生回路3から出力される駆動信号D(t)(=A
t・V
trans(t)、A
tは、リング状圧電振動子2を駆動するための高電圧出力アンプである駆動回路3Dの電圧増幅率)、乗算回路10に入力される参照信号をS
ref(t)とする。
【0062】
生体組織5内を伝搬する送信超音波4のパルス信号S
TX(t)を、以下便宜的にT(t)と表し、その周波数特性をT(ω)とし、また同様にして受信超音波パルス信号S
RX(t)を、以下R(t−τ)と表し、その周波数特性をR(ω)と表す。なお、周波数特性T(ω)及びR(ω)は、それぞれ時間特性T(t)及びR(t−τ)をフーリエ変換(FFT処理)した関係にあるものとする。
【0063】
この場合、受信超音波8のパルス信号S
RX(t)の周波数特性R(ω)は、以下の(1)式のように表わされる。
【0064】
R(ω)=T(ω)・F(ω)・H
r(ω) (1)
【0065】
ここで、F(ω)は、生体組織5の伝達関数、H
r(ω)は、受信用の円板状圧電振動子7の伝達関数である。
【0066】
さらに、送信超音波4のパルス信号S
TX(t)の周波数特性T(ω)は、以下の(2)式のように表わされる。
【0067】
T(ω)=D(ω)・H
t(ω) (2)
【0068】
ここで、D(ω)は、駆動信号D(t)の周波数特性、H
t(ω)は、送信用のリング状圧電振動子2の伝達関数である。
【0069】
受信超音波8のパルス信号S
RX(t)を円板状圧電振動子7で受信することにより受信回路9で得られる受信パルス信号R
para(t−τ)は、超音波受信のための円板状圧電振動子7により受信した受信超音波8のパルス信号S
RX(t−τ)の周波数特性R(ω)として、以下の(3)式のように表わすことができる。
【0070】
R
para(ω)=R(ω)・A
r(ω) (3)
【0071】
受信回路9から出力される受信パルス信号R
para(t−τ)は、乗算回路10に供給されて、駆動信号D(t)と以下の関係のある参照信号S
ref(t)との間で相互相関処理が行われる。
【0072】
なお、(3)式におけるA
r(ω)は、受信回路9の電圧増幅率の周波数特性であり、ここでは、高調波成分を含む周波数帯域において一定であるものとする。また、R
para(ω)は、R
para(t−τ)の周波数特性である。
【0073】
また、(2)式におけるD(ω)は下式(4)で表される。
【0074】
D(ω)=S
+(ω)・A
t(ω) (4)
【0075】
ここで、A
t(ω)は、信号発生回路3に備えられた駆動回路3Dの電圧増幅率の周波数特性であり、ここでは、第1及び第2の超音波信号発生器3A,3Bより生成される加算信号S
+(t)の周波数特性S
+(ω)の帯域内において一定であるものとする。以上より、以下の(5)式を得る。
【0076】
R
para(ω)=H
t(ω)・D(ω)・F(ω)・H
r(ω)・A
r(ω)(5)
【0077】
ここで、加算信号S
+(t)の周波数特性S
+(ω)は、以下の(6)式のように表わすことができる。
【0080】
次に、相互相関関数R
xy(j)を考える。相互相関関数R
xy(j)は、信号x(t),y(t)の離散データをx(i)(i=0,1,2,・・・,N−1),y(i)(i=0,1,2,・・・,N−1)とすると、以下の(7)式にて定義される。
【0082】
ここで、x(i)=S
ref(t)、y(i+j)=R
para(t−τ)と置くと、R
xy(j)=R
xy(τ)となる。なお、S
+(t)、R
para(t−τ)は、S
+(ω)、R
para(ω)をフーリエ逆変換して求めたものである。
【0083】
(7)式を参照することにより、R
xy(τ)は、S
ref(t)とR
para(t−τ)間の類似度が上がるほど、位相τにおける値が1に近づいていき、同時に位相τにおけるメインピークの半値幅Δtが狭くなることを示す。したがって、位相τの値の精度が高まることになる。なお、S
ref(t)とR(t)の波形の類似度はS
ref(ω)とR
para(ω)の類似度、すなわち相互相関対象の信号の周波数特性の類似度と考えてもよい。
【0084】
さらに、送信パルス信号D(t)をチャープ波とする。チャープ波送信パルス信号p(t)は、振幅P
0として、以下の(8)式で表すことができる。
【0086】
ここで、ω
s(=2πf
s)は初期角周波数(f
sは初期周波数)、Tは掃引時間、μは角周波数掃引率である。また、f
eを最終周波数、2πΔfを掃引角周波数とすると、μ=Δω/T=2π(f
e−f
s)/Tの関係にある。チャープ波のパルス圧縮比はTΔfで与えられ、Δfを大きくするほどパルス幅は狭くなり、さらに伝搬軸方向分解能を高めることができる。
【0087】
なお、パルス圧縮の効果があるのは、周波数変調信号であるチャープ波の他、位相変調信号、すなわち符号化系列信号であるバーカー(Barker)系列信号、相補系列信号、M系列信号などでも同様の効果があるが、チャープ波を用いた場合に、最もSN比を高くすることができ好ましい。
【0088】
3.第2の実施の形態における超音波診断装置の構成例
次に本発明が適用された超音波診断装置の第2の実施の形態について説明する。この実施の形態による超音波診断装置は、パラメトリック超音波信号の超音波伝搬方向の空間分解能を改善するためのもう1つの物理量である位相シフト量を使って、超音波診断イメージを得るものである。
【0089】
図10には、超音波診断装置101Bの構成例のブロック図を示す。第1の実施の形態の超音波診断装置(
図1)と同一の構成要素については、同一の名称及び符号を付す。
【0090】
本発明が適用された超音波診断装置101Bは、
図10に示すように、超音波を発生する信号発生回路3Eと、生成された超音波を生体組織5内に送信するリング状圧電振動子2と、生体組織5内の異常組織6等からの超音波の反射を受信する円板状圧電振動子7とを備える。また、超音波診断装置101Bは、円板状圧電振動子7で受信した超音波信号の信号処理をする受信回路9と、受信回路9によって受信処理された超音波信号の基本波成分を除去する第1の信号処理回路12Dと、参照信号発生回路11によって生成された参照信号S
refと、第1の信号処理回路12Dから出力される信号r(t)との積を計算する乗算回路10と、乗算回路10の出力から位相情報を抽出する第2の信号処理回路12Eとを備える。また、超音波診断装置101Bは、生体組織5内に送信する超音波の位置を特定し、位置特定信号を生成する位置特定センサ30と、位置特定センサ30の位置情報データ及び乗算回路10の演算結果データを処理して画像信号を生成する画像処理回路13とを備える。好ましくは、画像処理回路13の画像信号データを入力して画像を表示するディスプレイ14を備える。
【0091】
リング状圧電振動子2と円板状圧電振動子7とは、第1の実施の形態と同様に、好ましくは、一体化されて超音波トランスデューサ1を構成し、超音波トランスデューサ1は、より好ましくは、受信回路9と一体化されて探触子(プローブ)の主要部をなす。
【0092】
信号発生回路3Eは、第1の中心周波数f
1を有する第1の超音波信号S
1を生成する第1の信号発生部3Fと、第2の中心周波数f
2を有する第2の超音波信号S
2を生成する第2の信号発生部3Gと、第1及び第2の超音波信号S
1,S
2を加算する加算器3Hとを有する。第1及び第2の超音波信号S
1,S
2は、それぞれ同一の位相δsを有する。信号発生回路3Eは、第1及び第2の超音波信号S
1,S
2を加算器3Hにより加算して、加算信号S
+=S
1+S
2を生成し、それぞれ所定の電圧増幅を行った後、送信用の振動子であるリング状圧電振動子2を駆動する。さらに、信号発生回路3Eは、第1及び第2の超音波信号S
1,S
2を参照信号発生回路11に供給する。供給された信号に基づいて参照信号発生回路11は、差周波数|f
1−f
2|の周波数成分と、位相δ
Sとを有する参照信号S
ref=sin{(ω
1−ω
2)(t−δs)}を生成する。
【0093】
受信回路9は、生体組織内を伝搬してきた超音波信号を受信する円板状圧電振動子7により変換された圧電信号をインピーダンス変換し、増幅して後段回路に渡す。好ましい構成は、第1の実施の形態の1−4項において説明したものと同様である。
【0094】
第1の信号処理回路12Dは、受信されたパラメトリック超音波信号のうち基本波成分を除去し、差周波数成分のみを抽出する。第1の信号処理回路12Dの構成は、第1の実施の形態において説明した記憶回路12A等に加えて、以下に限るものではないが、
図11に示すような構成としてもよい。第1の信号処理回路12Dは、パラメトリック信号以外の信号を除去するために受信回路9の出力に接続された帯域通過フィルタ91と、超音波の深達距離による音圧レベルの減衰を補う対数増幅回路92と、距離減衰を補正し、特定の距離範囲の輝度を増減させる調整をするSTC(Sensitivity Time Control)回路94とを縦続に接続して含むのが好ましい。
【0095】
第2の信号処理回路12Eは、
図11に示すように、乗算回路10からの出力信号の位相情報を抽出する位相検波回路63と、位相検波回路63の出力から周波数特性を有する部分を除去する低域通過フィルタ64とを有する。
【0096】
位置特定センサ30は、たとえば磁気センサやエンコーダを用いて構成され、超音波トランスデューサ1の物理的位置を特定し、位置特定情報データを生成して画像処理回路13に送る。
【0097】
画像処理回路13は、伝搬方向の空間分解能が改善された超音波信号データと、位置特定センサ30によって生成された位置情報信号データとを入力して、画像表示するための画像信号を生成し、この画像信号にしたがって超音波画像データを生成する。画像処理回路13は、たとえば、スキャンコンバータ65により実現される。なお、画像処理回路13から出力される超音波画像データを、上述のように、ディスプレイ14で動画、静止画として表示してもよいが、データを加工し、あるいはそのまま他の媒体、たとえば外部記憶装置に記憶させたり、プリンタで印刷出力するようにしてもよいのは第1の実施の形態と同様である。
【0098】
図12にしたがって、第2の実施の形態に係る超音波診断装置101Bの動作について説明する。
図12は、超音波診断装置101Bの各機能ブロックによって生成、加工等された信号の流れを示すシグナルフローチャートである。なお、基本波成分除去動作のために、加算信号S
+とは180°位相の異なる反転信号S
−を生成して、S
+との加算をする処理を第1の信号処理回路12Dを用いて行う必要があるが、簡単のために以下の説明では、加算信号S
+に基づく信号処理の部分のみを取り出して説明することにする。
【0099】
信号発生回路3E内の第1の信号発生回路3Fによって、第1の中心周波数f
1(=ω
1/2π)の第1の超音波信号S
1が生成され、第2の信号発生回路3Gによって、第2の中心周波数f
2(=ω
2/2π)の第2の超音波信号S
2が生成され、これらを加算器3Hによって加算し、加算信号S
+=S
1+S
2が生成される。この加算信号S
+は、所定の電圧に電圧増幅された送信信号s(t)として送受信一体型の超音波トランスデューサ1のリング状圧電振動子2に印加され、生体組織5内に送信される。
【0100】
s(t)=A
S・sin(ω
St−δ
S)
【0101】
ここで、A
Sは、電圧振幅を表わし、本実施の形態の周波数領域においては、一定値であるものとする。δ
Sは、第1及び第2の超音波信号S
1,S
2の初期位相を表わす。
【0102】
異常組織6の境界で反射されたパラメトリック超音波信号は、受信用の円板状圧電振動子7によって受信され、電気信号に変換され、第1の信号処理回路12D等で、基本波成分が除去される。この受信処理されたパラメトリック超音波のr(t)は、以下のように表わされる。
【0103】
r(t)=A
r・sin{ω
S(t−τ)−δ
S}
=A
r・sin{ω
St−δ
S−φ(z)},
ω
S=ω
2−ω
1
【0104】
ここで、τは超音波伝搬時間、φ(z)は位置zにおける位相である。なお、A
rは、受信回路の電圧増幅率であり、本実施の形態の周波数帯域において一定値であるものとする。φ(z)は、音速の異なる組織を通過するごとに変化する。したがって、φ(z)の値で位置情報に基づいてマッピングすることによって、超音波診断像を構築することができる。
【0105】
そして、受信信号r(t)に、参照信号S
ref=A
1・sin(ω
St−δ
S)を、乗算回路10によって乗算することによって、以下の形式の信号を得る。
【0106】
A
rA
1[sin{2(ω
St−δ
S)−φ(t)}+sinφ(z)]
【0107】
さらに、この信号を低域通過フィルタに通すことによって周波数に依存しないsinφ(z)なる成分を抽出することができる。すなわち、生体組織5の情報であるsinφ(z)と超音波振動子の位置情報とから画像処理回路13によって画像処理し、生成された画像信号によってディスプレイ14に画像表示して、超音波診断像が得られる。
【0108】
以上のように、パラメトリック受信信号の位相情報を用いて超音波画像構築する方法は、1サイクル内の位相が周波数に関係なく0°〜360°変化するものであり、100kHz程度の低い周波数でもMHzオーダの分解能を実現できるとの考え方に基づくものである。第2の実施の形態では、第1の実施の形態の構成例よりも、より簡易な構成で、超音波伝搬軸方向の空間分解能を改善させることができる。
【0109】
4.第3の実施の形態における超音波診断装置の構成例
本発明が適用された超音波診断装置は、上述のように受信したパラメトリック超音波信号を有線で信号処理回路等に伝送し、画像信号処理等することに限らず、パラメトリック信号が比較的低い周波数であることを活かして、無線通信インタフェースに対する負担の少ない無線信号伝送を行うことができる。
【0110】
図13は、本発明が適用された超音波診断装置の第3の実施の形態の構成例のブロック図である。超音波受信信号を無線で遠隔地に伝送したり、病院内において同時に複数の医師が超音波像をその医師の好みに応じて超音波イメージを構築し、超音波診断することができる。
【0111】
本発明が適用された超音波診断装置101Cは、
図13に示すように、上述した第1の実施の形態における、リング状圧電振動子2及び円板状圧電振動子7を含む超音波トランスデューサ1と、信号発生回路3と、受信回路9と、位置特定センサ30とを備える。第1の実施の形態と相違するのは、受信回路9によって受信処理されたパラメトリック受信信号をデジタル信号に変換する第1のA/D変換器71と、位置特定センサによって生成された超音波トランスデューサ1の位置特定情報をデジタル信号に変換する第2のA/D変換器72と、第1及び第2のA/D変換器71,72によって、パラメトリック受信信号をデジタル信号に変換し、その変換信号でキャリア信号を適切に変調し、符号化し、無線送信する送信用無線通信インタフェース73と、無線送信されたデジタルパラメトリック信号を無線受信し、有線信号に変換する受信用無線通信インタフェース74を備える。無線伝送されたデジタルパラメトリック受信信号は、第1の実施の形態において詳細に説明した信号処理回路12と、参照信号発生回路11と、乗算回路10と、画像処理回路13とによって超音波画像データを形成し、ディスプレイ14によって超音波画像を表示する。
【0112】
本実施の形態であつかうパラメトリック超音波信号は100kHz程度であり、オーバサンプリングを含めたサンプリング周波数は、1MHz程度である。1データを12ビットで表す場合には、必要な無線伝送速度は12Mbpsあれば実現することができる。近年実用が進んでいるBluetooth(登録商標)、Zigbee(登録商標)、WiFi(WiFi)等の無線方式では、これらの伝送速度を満たすので、本発明の超音波診断装置に無線通信インタフェースとして用いることによって、小型、低消費電力の無線通信を実現することができる。
【0113】
なお、上述では、第1の実施の形態の構成、すなわち、パルス圧縮技術を用いた超音波伝搬軸方向分解能改善手法の構成に、無線通信インタフェースを適用した例について説明したが、第2の実施の形態の構成、すなわち位相検波技術を用いた超音波診断装置に無線通信インタフェースを適用してもよいのはもちろんである。
【0114】
また、上述では図式を簡明にするために、受信側の通信インタフェース74を1つだけ用意する場合について説明をしたが、受信側の通信インタフェースを複数用いることによって、複数の医師が、それぞれ複数のディスプレイを用いて所望の超音波画像処理を行いながら超音波診断を行うことができる。
【0115】
5.第4の実施の形態における超音波診断装置の構成例
本発明の超音波診断装置では、上述した無線通信インタフェースとして、アナログ方式の無線通信インタフェースを用いることができ、この場合について、以下に説明する。
【0116】
本発明が適用された第4の実施の形態では、超音波受信信号を、アナログ信号、たとえばFM信号として送信、受信、復調し、この復調信号を用いて最終的に超音波診断イメージを構築することができる。特に、以下に詳述するように、受信用の圧電振動子に、静電容量型、たとえばcMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer、静電容量型マイクロマシンプロセスを用いて製造した超音波トランスデューサ)を用いることによって、自らの容量が受信超音波の信号強度に対応した静電容量変化することを利用して、非常に簡単な構成で周波数変調回路を構成することができる。
【0117】
図14に示すように、本発明の超音波診断装置101Dは、発振部75A及び発振部75Aに接続された共振コイル75Bを有する発振回路75と、無線通信インタフェース76,78と、復調回路79とを備える。
【0118】
超音波診断装置101Dでは、超音波トランスデューサ1の少なくとも受信用に用いる円板状圧電振動子7が静電容量型であり、静電容量型の超音波振動子では超音波受信が無い場合に、静電容量C
0を有している。静電容量型の超音波振動子の静電容量C
0は、発振部75Aに接続された共振コイル75Bとともに、発振回路75を構成し、発振回路75は、周波数f
0=(1/2π)・(L・C
0)
−1/2で発振する。この発振信号がFM信号のキャリア信号となる。
【0119】
超音波受信時は静電容量C
0がC
0±ΔC
0に変化するので、発振回路75は、静電容量C
0の変化に応じてf
0±Δf
0の周波数で発振する。すなわち、周波数f
0のキャリア信号に対しΔf
0の周波数変調(FM)がかかったことになる。
【0120】
このようにして、このFM信号をアナログ信号のまま、無線通信インタフェース76,78に含まれる送信及び受信アンテナ回路で無線伝送することができる。さらに、無線伝送された信号は、復調回路79によってパラメトリック受信信号に復調され上述したように、信号処理回路12等によって信号処理され、信号処理された信号r(t)と、参照信号S
refとの間で乗算回路10によって相互相関処理を受信側で行い、パルス圧縮信号を生成する。一方、超音波トランスデューサ1の位置特定信号も、上述の無線通信インタフェース76,78によって、位置信号が変調、復調され、パルス圧縮信号と位置特定信号とを用いて画像処理する。増幅回路と送信アンテナと受信アンテナと増幅回路を含む無線通信インタフェースによってデータ伝送を行う。最後にディスプレイ14等によって画像表示等される。
【0121】
なお、変調回路をRC発振回路によって構成した場合には、共振コイル75Bの代わりに直流抵抗Rを用いるようにすればよい。
【0122】
上述したFM変調を利用するほか、他のアナログ方式の無線伝送方式、たとえばAM変調としてもよく、位相変調方式も用いることができるのは言うまでもない。
【0123】
また、空間分解能を改善させる機能を実現するのに、パルス圧縮技術に限らず、第2の実施の形態において説明した位相検波技術を用いてもよいのはもちろんである。