【文献】
竹島 健飛,リング型共振素子を用いたリフレクトアレーにおける広帯域化,電子情報通信学会2016年通信ソサイエティ大会講演論文集1,2016年 9月,B-1-70
【文献】
D.M. Pozar,Wideband reflectarrays using artificial impedance surfaces,ELECTRONICS LETTERS,2007年 2月 1日,Vol. 43 No. 3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
人工衛星搭載用のアンテナとして、一次放射器として用いられるホーンアンテナと、放物曲面状の反射板とが対向しているパラボラアンテナが知られている。
人工衛星に搭載されるパラボラアンテナの反射板は、折り畳まれた状態で宇宙空間に打ち上げられ、宇宙空間で展開されることが一般的である。したがって、一般的な人工衛星搭載用のパラボラアンテナは、反射板を展開するための機構を含む複雑な構造を必要とするため、無線通信時の動作信頼性が低い。
【0003】
そこで、放物曲面状の反射板に代えて、平板状の反射板を用いるリフレクトアレーアンテナが開発されている。
リフレクトアレーアンテナでは、平板状の反射板が用いられているため、その構造が簡単である。したがって、リフレクトアレーアンテナを用いる場合、放物曲面状の反射板を備えたパラボラアンテナを用いた場合と比べて、コストが削減され、かつ、信頼性が向上する。
【0004】
リフレクトアレーアンテナの反射板は、以下の(1)〜(3)を備えている。
(1)平板状の誘電体基板
(2)誘電体基板の表面に配列されている複数の共振素子
(3)誘電体基板の裏面に設けられている金属板
【0005】
リフレクトアレーアンテナに入射される電磁波は、所定の方向に反射される。リフレクトアレーアンテナにより反射された後の電磁波(以下、「反射波」と称する)には、共振素子によって反射された電磁波(以下、「反射成分」と称する)と、共振素子を透過して誘電体基板内に進入し、その後、金属板によって反射されて、誘電体基板の外部に出射された電磁波(以下、「透過成分」と称する)とが含まれている。
反射成分と透過成分とを含む反射波の位相を調整することで、反射波を所望の方向に向けることができる。この場合の反射波の位相は、共振素子の形状によって決定される。
以下の非特許文献1には、リフレクトアレーアンテナの周波数帯域を広げることが可能な共振素子の形状に関する技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための形態について、添付の図面にしたがって説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるリフレクトアレーアンテナを示す構成図である。
図2は
図1のリフレクトアレーアンテナの原理を示す説明図であり、
図3は
図1のリフレクトアレーアンテナで発生する高次モードを示す説明図である。
図1、
図2及び
図3において、誘電体基板1は誘電体で形成されている平板状の基板である。
表面1aは誘電体基板1における第1の表面であり、電磁波が入射される側の面である。
裏面1bは誘電体基板1における第2の表面であり、電磁波が入射されない側の面である。
【0014】
共振素子2は誘電体基板1の表面1aに設けられている。
図1の例では、共振素子2として、輪形状の銅箔が、誘電体基板1の表面1aに設けられている。
実際のリフレクトアレーアンテナでは、数百〜数千個の共振素子2が誘電体基板1の表面1aに配列されるが、
図1では、図面の簡単化のために、dの素子間隔で、12個(=4×3個)の共振素子2が誘電体基板1の表面1aに配列されている例を示している。
金属板3は誘電体基板1の裏面1bに設けられている。
この実施の形態1では、
図4に示すように、一次放射器4から出射された電磁波が誘電体基板1の表面1aに入射される場合を想定する。
図4は一次放射器4から出射された電磁波を反射するリフレクトアレーアンテナを示す構成図である。
図4において、5は一次放射器4の位相中心である。
【0015】
次に動作について説明する。
一次放射器4から出射された電磁波は、入射角θ
iの入射波として、リフレクトアレーアンテナに入射され、リフレクトアレーアンテナによって所定の方向に反射される。
リフレクトアレーアンテナにより反射された後の電磁波(以下、「反射波」と称する)には、
図2に示すように、共振素子2によって、θ
rの反射角で反射された電磁波(以下、「反射成分」と称する)と、共振素子2を透過して誘電体基板1内に進入し、その後、金属板3によって反射されて、誘電体基板1の外部に出射された電磁波(以下、「透過成分」と称する)とが含まれている。
【0016】
入射角θ
iの入射波が共振素子2に入射される際、
図3に示すように、共振素子2において高次モードが発生する。
共振素子2において発生する高次モードは、素子間隔dを適正な値に設定すれば、誘電体基板1の内部の伝搬距離に対して指数関数で減衰するモードであるエバネッセントモードのみとなる。このエバネッセントモードは、いずれ消滅するため、リフレクトアレーアンテナの特性に影響を与えない。
しかし、共振素子2において発生した高次モードが金属板3によって反射された後、十分に減衰しないまま、再び共振素子2に再入射されると、入射波の基本モード(以下、「第1の基本モード」と称する)が有する伝搬定数とは異なる伝搬定数を有する基本モード(以下、「第2の基本モード」と称する)が発生し、第1の基本モードと第2の基本モードとが互いに干渉する。
第1の基本モードと第2の基本モードは、それぞれ異なる伝搬定数を有するため、第1の基本モードと第2の基本モードとの位相関係が周波数特性を有することになる。したがって、第2の基本モードの発生量が多い場合、リフレクトアレーアンテナの周波数帯域が狭帯域な特性となる。
この実施の形態1では、第2の基本モードの発生量を抑える工夫を施している。
具体的には、以下の通りである。
【0017】
共振素子2において発生する高次モードは、誘電体基板1の内部を伝搬する際に減衰する。
共振素子2において発生する複数の高次モードのうち、最も減衰定数が小さい最低次の高次モードの減衰定数αは、以下の式(1)のように表される。
式(1)は、2次元のフロケ(Floquet)モードから導出されており、フロケモードでは、最低次の高次モードは、例えば、m=−1,n=0のモードが該当する。
式(1)において、λは使用周波数帯域における自由空間波長である。この実施の形態1では、使用周波数帯域の中で、最も高い周波数の自由空間波長を想定している。
ε
rは誘電体基板1の比誘電率、λ
gは自由空間波長λの誘電体基板内波長、kは誘電体基板1を伝搬する電磁波の波数である。
【0018】
このとき、共振素子2で発生した高次モードが、再度、共振素子2に入射されるまでに減衰される量がL[dB]であるとすると、その高次モードの減衰量Lは、以下の式(3)のように表される。
したがって、高次モードの減衰量Lは、誘電体基板1の基板厚tと、複数の共振素子2の素子間隔dとの関数として表される。
高次モードの減衰量Lが十分に大きい場合、高次モードが、再度、共振素子2に入射されることで発生する第2の基本モードの発生量が抑えられる。その結果、第1の基本モードと第2の基本モードとの干渉が少なくなり、リフレクトアレーアンテナの周波数帯域を広げることができる。
【0019】
式(3)より、誘電体基板1の基板厚tや、複数の共振素子2の素子間隔dが変わると、高次モードの減衰量Lが変化する。例えば、複数の共振素子2の素子間隔d、誘電体基板1の比誘電率ε
r及び入射角θ
iが事前に設定されている場合、誘電体基板1の基板厚tが、以下の式(4)に示す条件式を満たす値であれば、高次モードの減衰量Lに対する設計値L
desを実現できる。式(4)は、式(3)をtについて解くことで導出することができる。
高次モードの減衰量Lに対する設計値L
desとしては、例えば、6[dB]や10[dB]などが考えられる。
例えば、設計周波数が12.2[GHz]、誘電体基板1の比誘電率ε
rが2.65、複数の共振素子2の素子間隔dが9.50[mm]、入射角θ
iが50°、高次モードの減衰量Lに対する設計値L
desが6[dB]である場合、式(4)より、誘電体基板1の基板厚tに対する条件が、t≧1.64[mm]となる。
ここで、設計周波数は、自由空間波長λに対応する周波数である。このため、この実施の形態1では、設計周波数は、使用周波数帯域の中で、最も高い周波数であるとしている。
入射角θ
iは、電磁波が入射される誘電体基板1の位置によって異なるが、t≧1.64[mm]の導出に用いているθ
i=50°は、
図4に示すように、最も角度が大きくなる位置での入射角θ
iである。
【0020】
また、誘電体基板1の基板厚tが事前に設定されている場合、複数の共振素子2の素子間隔dが、以下の式(5)に示す条件式を満たす値であれば、高次モードの減衰量Lに対する設計値L
desを実現できる。式(5)は、式(3)をdについて解くことで導出することができる。
例えば、設計周波数が12.2[GHz]、誘電体基板1の比誘電率ε
rが2.65、誘電体基板1の基板厚tが1.6[mm]、入射角θ
iが50°、高次モードの減衰量Lに対する設計値L
desが6[dB]である場合、式(5)より、複数の共振素子2の素子間隔dに対する条件が、d≦9.60[mm]となる。
【0021】
ここで、高次モードの減衰量Lに対する設計値L
desは、所望の周波数帯域幅によって決定される。
図5は高次モードの減衰量LがL=5,L=7.5,L=10,L=12.5である場合の周波数[GHz]と、設計周波数で規格化されている利得低下量[dB]との関係を示す説明図である。
図5の横軸は周波数、
図5の縦軸は利得低下量を示している。
図5における周波数[GHz]と利得低下量[dB]との関係は数値シミュレーションによって求めている。
図5の例では、設計周波数を12.0[GHz]、誘電体基板1の比誘電率ε
rを2.65、複数の共振素子2の素子間隔dを9.15[mm]、入射角θ
iを50°として計算している。
なお、高次モードの減衰量LがL=5のときは、誘電体基板1の基板厚tがt=1.6、高次モードの減衰量LがL=7.5のときは、誘電体基板1の基板厚tがt=2.4、高次モードの減衰量LがL=10のときは、誘電体基板1の基板厚tがt=3.2、高次モードの減衰量LがL=12.5のときは、誘電体基板1の基板厚tがt=4.0としている。
図5から明らかなように、高次モードの減衰量Lが大きいほど、リフレクトアレーアンテナの周波数帯域が広がることが分かる。
【0022】
図6は誘電体基板1の基板厚tと周波数帯域BWとの関係を示す説明図である。
図6では、誘電体基板1の基板厚tがt=1.6[mm],t=3.2[mm]である場合のリフレクトアレーアンテナの特性を示している。
図6の横軸は周波数、
図6の縦軸は指向性利得であり、
図6には、アンテナ効率が50[%]、60[%]、70[%]になる周波数帯域を明示している。
図6では、複数の共振素子2の素子配列が公知の正三角配列であるとして、周波数と指向性利得との関係を数値シミュレーションによって求めている。
誘電体基板1の基板厚tがt=1.6[mm]である場合、以下の式(6)に示すように、アンテナ効率が50[%]以上を満たす周波数帯域BW
1は、リフレクトアレーアンテナの周波数帯域における中心周波数fcの大きさの11.5[%]となる。
図6では、fc=12.2[GHz]としている。
誘電体基板1の基板厚tをt=1.6[mm]からt=3.2[mm]に変更すると、以下の式(7)に示すように、アンテナ効率が50[%]以上を満たす周波数帯域BW
2は、中心周波数fcの大きさの18[%]になり、リフレクトアレーアンテナの周波数帯域が広がることが分かる。
BW
1=((fa
2−fa
1)/fc)×100
=((12.9−11.5)/12.2 )×100
=11.5[%] (6)
BW
2=((fb
2−fa
1)/fc)×100
=((13.3−11.1)/12.2 )×100
=18.0[%] (7)
【0023】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、誘電体基板1の基板厚t及び複数の共振素子2の素子間隔dが、電磁波が誘電体基板1に入射される際に、共振素子2で発生する高次モードが誘電体基板1の伝搬中に減衰する減衰量Lに対する設計値L
desに従って決定されているように構成したので、入射される電磁波の基本モードが有する伝搬定数とは異なる伝搬定数を有する基本モードの発生を抑えることができる効果を奏する。その結果、共振素子2の形状を工夫するだけの場合よりも、リフレクトアレーアンテナの周波数帯域を広げることができる。
【0024】
この実施の形態1では、一次放射器4から出射された電磁波が誘電体基板1の表面1aに入射される場合が想定されていたが、
図7に示すように、一次放射器4から出射された電磁波ではなく、到来してきた電磁波が誘電体基板1の表面1aに入射される場合であってもよい。
図7は到来してきた電磁波を反射するリフレクトアレーアンテナを示す構成図である。
【0025】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
誘電体基板(1)の基板厚t及び複数の共振素子(2)の素子間隔dが、電磁波が誘電体基板(1)に入射される際に、共振素子(2)で発生する高次モードが誘電体基板(1)の伝搬中に減衰する減衰量Lに対する設計値L
に従って決定されているように構成する。これにより、入射される電磁波の基本モードが有する伝搬定数とは異なる伝搬定数を有する基本モードの発生を抑えることができる。その結果、共振素子(2)の形状を工夫するだけの場合よりも、リフレクトアレーアンテナの周波数帯域を広げることができる。